- 1 - 主文 1 第1審判決を次のとおり変更する。 処分行政庁が控訴人に対し平成29年6月15日付けでした同年5月12日受付の控訴人からの開示請求に係る別紙記載の保有個人情報の開示をしない旨の決定の取消しを求める控訴人の訴えを却下する。 被控訴人は,控訴人に対し,33万円及びこれに対する平成29年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,第1審,差戻し前の控訴審,上告審及び差戻し後の第2次控訴審を通じてこれを10分し,その4を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の 負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴の趣旨第1審判決を取り消す。 処分行政庁が控訴人に対し平成29年6月15日付けでした同年5月12日受付の控訴人からの開示請求に係る別紙記載の保有個人情報の開示をしない旨の決定を取り消す。 被控訴人は,控訴人に対し,160万円及びこれに対する平成29年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 控訴の趣旨に対する答弁第1審判決のうち上記1の決定の取消請求を棄却した部分を取り消す。 主文第1項のと同旨(本案前の答弁)控訴人のその余の控訴を棄却する。 第2 事案の概要 1⑴ 本件は,東京拘置所に未決拘禁者として収容されていた控訴人が,行政機- 2 - 関の保有する個人情報の保護に関する法律(令和3年法律第37号による廃止前のもの。以下「行政機関個人情報保護法」という。)に基づき,処分行政庁である東京矯正管区長に対し,控訴人が収容中に受けた診療に関する別紙記載の保有個人情報(以下「本件情報」という。) 号による廃止前のもの。以下「行政機関個人情報保護法」という。)に基づき,処分行政庁である東京矯正管区長に対し,控訴人が収容中に受けた診療に関する別紙記載の保有個人情報(以下「本件情報」という。)の開示を請求したところ,同法45条1項所定の保有個人情報に当たり,開示請求の対象から除外 されているとして,本件情報の全部を開示しない旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けたことから,本件決定が違法であると主張してその取消しを求めるとともに,本件決定により精神的苦痛を受けた等として,国家賠償法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用相当額の合計160万円及びこれに対する違法行為の日よりも後の日である平成29年6月16日から支 払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 ⑵ 第1審は,被収容者の医療情報である本件情報は,開示等に係る規定の適用除外となる行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たるとし,これを開示しない旨の本件決定は適法であるとして,控訴人の請求 をいずれも棄却したところ,控訴人は控訴した。 ⑶ 差戻し前の控訴審も,第1審判決と同旨の理由から控訴人の請求はいずれも棄却すべきものであるとして,控訴を棄却した。 ⑷ 控訴人が上告及び上告受理申立てをしたところ,最高裁判所は控訴人の上告については棄却する決定をし,上告受理申立てについては上告審として受 理した。 上告審は,被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は,行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらないと解するのが相当であるとし,本件情報は上記保有個人情報に当たらないから,同法12条1項の規定による開示請求の対象となるとし,これと異 行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらないと解するのが相当であるとし,本件情報は上記保有個人情報に当たらないから,同法12条1項の規定による開示請求の対象となるとし,これと異なる差戻し前の 控訴審判決は破棄を免れないとし,更に審理を尽くさせるため,本件を原審- 3 - に差し戻すとの判決をした。 ⑸ 処分行政庁である東京矯正管区長は,令和3年8月27日付けで本件開示請求に対し,行政機関個人情報保護法18条1項に基づき,同法14条5号及び7号柱書き所定の不開示情報に該当する部分を除いて開示するとの部分開示決定を行った(乙13)ため,被控訴人は,当審において,本件訴えの うち本件決定の取消しに係る部分の訴えの利益は消滅したから同部分に係る訴えは不適法であるとして却下を求めた。控訴人も本件決定の取消しに係る部分の訴えの利益が消滅したことについて争っていない。 2 関係法令の定め及び前提事実は,第1審判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1及び2(第1審判決2頁11行目から3頁16行目まで)に記載 のとおりであるから,これを引用する。ただし,第1審判決の3頁16行目の末尾に行を改め以下のとおり加える。 「東京矯正管区長は,令和3年8月27日付けで本件決定を取り消し,本件開示請求に対し,行政機関個人情報保護法18条1項に基づき,同法14条5号及び7号柱書き所定の不開示情報に該当する部分を除いて開示する内容 の部分開示決定(以下「本件部分開示決定」という。)を行った。」 3 当審における争点等について第1審及び差戻し前の控訴審における争点は,本件情報が行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たるか否か並びに国家賠償請求の成否及び損害額であったが,前記のとお 争点等について第1審及び差戻し前の控訴審における争点は,本件情報が行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たるか否か並びに国家賠償請求の成否及び損害額であったが,前記のとおり上告審判決後に本件部分開示決定が行 われ,本件決定の取消しに係る部分の訴えの利益が消滅していることにつき当事者間に争いがない。したがって,当審における争点は国家賠償請求の成否及び損害額である。 4 争点(国家賠償請求の成否及び損害額)についての当事者の主張 控訴人の主張 ア国家賠償請求の成否(法務省の責任)について- 4 - 刑事施設における診療情報が行政機関個人情報保護法45条1項の適用範囲に含まれるかという問題は,わが国におけるインフォームド・コンセントやカルテの開示の重要性に関する意識の高まり及び国際社会においても開示すべきことが国際規準ないし国際常識となっていたことからしても慎重に検討する必要のあった事項であって,行政機関個人情報保護法の制 定過程の当時から刑事施設における医療は社会一般のものと同様であるとの理解がなされており,行刑改革会議においてもこれを前提としてカルテを原則開示すべきとの意見が出されていた。 しかしながら,法務省矯正局の担当者は,刑事施設における診療録の開示についての真摯な検討や内閣法制局に対し同法45条1項の解釈の確認 を怠り,同項の趣旨や立法過程に関する誤った理解の下,同法の制定当初から本件に至るまで一貫して被収容者の診療録は同法45条1項の適用除外規定に該当するとの解釈を採用し続けてきた。このような経緯からすれば,法務省の担当者は故意に違法な解釈を堅持してきたというべきであり,仮に故意がないとしても,通常の行政官として払うべき注意を払えば,刑 事施設 解釈を採用し続けてきた。このような経緯からすれば,法務省の担当者は故意に違法な解釈を堅持してきたというべきであり,仮に故意がないとしても,通常の行政官として払うべき注意を払えば,刑 事施設における診療録も開示の対象となるべきことを認識しえたはずであり法務省矯正局の担当者には過失がある。 そして,法務省の本省がこのような解釈を採る以上,その出先機関にすぎない矯正管区の長において,これと異なる解釈に基づく処分を行うことは期待できず,本省の担当者が誤った解釈を採用してきたことと違法な本 件決定との間に相当因果関係があることは明らかである。 イ損害について 慰謝料控訴人は,東京拘置所において十分な歯科診療を受けることができなかったことから,控訴人が受けた診療の内容を確認し,適正な診療を求 めるために本件開示請求をしたものであり,自らの医療情報の提供を受- 5 - けるという社会的に認識された患者の権利を全うされず,さらに本件訴訟を提起せざるを得なくなったこと等により精神的苦痛を被った。そして,本件訴訟の提起に至る経緯や訴訟の経過,上告審判決により法務省の取扱いが改められるまでの期間,その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると,慰謝料は100万円が相当である。 弁護士費用本件訴訟は法解釈が争われるものであり,訴訟を追行するには弁護士に委任せざるを得ないものであるから,その弁護士費用もまた相当な範囲において,上記法務省の違法行為と相当因果関係を有するものである。 そして,本件は事案の難易度としては比較的高い部類に入ること,弁護 士が費やした労力や時間及び本件の争点の公益性が小さくないこと等を考慮すると,相当な弁護士費用としては300万円を下回らな 。 そして,本件は事案の難易度としては比較的高い部類に入ること,弁護 士が費やした労力や時間及び本件の争点の公益性が小さくないこと等を考慮すると,相当な弁護士費用としては300万円を下回らないというべきであり,控訴人はその一部である60万円を請求する。 ⑵ 被控訴人の主張東京矯正管区長は,収容診療情報が,開示請求等の規定の適用が除外され る行政機関個人情報保護法45条1項の保有個人情報に当たるとの解釈に基づき本件決定を行ったところ,複数の裁判例や答申例において上記解釈を是とする判断が示されていたのであるから,東京矯正管区長がかかる法解釈に依拠して本件決定を行ったことについて相当な根拠及び理由があるというべきであり,本件処分について東京矯正管区長が通常尽くすべき注意義務を尽 くさなかったということはできず,国家賠償法1条1項の違法があったとの評価を受けるものではないから,本件決定により同項の責任は生じない。 控訴人は,法務大臣ないし法務省矯正局職員において収容診療情報が行政機関個人情報保護法45条1項で規定する適用除外に当たるという解釈を採用するに当たって,内閣法制局の解釈を確認しなかったことを問題にしてい るが,収容診療情報は処遇の一環として行われること自体は否定できない以- 6 - 上,同項所定の刑の執行等に係る保有個人情報に該当すると解することには,その文言解釈上も相応の合理性があったのであり,解釈に疑義があるから内閣法制局に対してその解釈を確認すべき法的義務をいう控訴人の主張はその前提からして与することはできない。しかも本件情報の開示を受けられなかったことは,東京矯正管区長が本件情報を全部不開示とする本件決定を行う ことにより帰結された結果であり,控訴人が主張する行為と本件 からして与することはできない。しかも本件情報の開示を受けられなかったことは,東京矯正管区長が本件情報を全部不開示とする本件決定を行う ことにより帰結された結果であり,控訴人が主張する行為と本件処分との間には相当因果関係自体を肯定できない。 したがって,本件決定により国家賠償法1条1項の責任が生じることはない。 第3 当裁判所の判断 1 本案前の主張(本件訴えのうち本件決定の取消しに係る部分の訴えの利益)について前記引用にかかる第1審判決の認定した前提事実(ただし前記第2の2で改めたもの)及び乙第13号証によれば,処分行政庁は,本件開示請求の対象である保有個人情報について,行政機関個人情報保護法18条1項に基づき,同 法14条5号及び7号柱書き所定の不開示情報に該当する部分(特定矯正施設で勤務する職員の氏名及び印影等の情報が記録されている部分)を除いて開示する内容の本件部分開示決定を行ったことが認められ,これにより,本件情報を開示しない旨の本件決定の法的効果は消滅したといえる。そうすると,本件訴えのうち本件決定の取消しに係る部分の訴えは,訴えの利益を欠くに至った ものであるから,同訴えは不適法であり却下すべきである。 2 争点(国家賠償請求の成否)に対する判断 本件決定の背景について法務大臣及び法務省矯正局の担当者(以下「法務省の担当者等」という。)は,行政機関個人情報保護法の制定当初から本件決定に至るまで,被収容者 に対する処遇に係る保有個人情報について,被収容者に対する医療は被収容- 7 - 者の処遇の一環として行われるものであるから,これに関する情報についても別段の定めがない以上,同法45条1項所定の刑事事件に係る裁判等に係る保有個人情報に当たるとすべきと は被収容- 7 - 者の処遇の一環として行われるものであるから,これに関する情報についても別段の定めがない以上,同法45条1項所定の刑事事件に係る裁判等に係る保有個人情報に当たるとすべきとの解釈を採用し,法務省が組織として同解釈を周知していたものであり,同解釈に従って,法務大臣及び法務省矯正局の事務を分掌する全国の矯正管区長において被収容者の医療記録に関する 開示の可否が判断されてきたものであって,本件においても同解釈の下,法務大臣から処分権限の委任を受けている東京矯正管区長において控訴人の診療録を不開示とする本件決定をしたことが認められる(甲2,84(枝番を含む。),109,乙14,弁論の全趣旨)。 本件決定の行政機関個人情報保護法における違法性について ア行政機関個人情報保護法45条1項は,平成15年法律第58号による行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律(以下「旧法」という。)の全部改正(以下「平成15年改正」という。)によって新たに設けられた規定である。旧法は,何人も,個人情報ファイルを保有する行政機関の長に対し,自己を本人とする処理情報(個人 情報ファイルに記録されている個人情報をいう。以下同じ。)の開示を請求することができる旨を規定しつつ(13条1項本文),刑事事件に係る裁判若しくは検察官,検察事務官若しくは司法警察職員が行う処分又は刑の執行に関する事項(以下「刑事裁判等関係事項」という。)を記録する個人情報ファイルについてはこの限りでない旨を規定していた(同項 ただし書)。これは,刑事裁判等関係事項に係る個人情報には個人の前科,収容歴等の情報が含まれており,これが開示請求の対象となると,就職の際に開示請求の結果を提出させるなどの方法で第三者に 項 ただし書)。これは,刑事裁判等関係事項に係る個人情報には個人の前科,収容歴等の情報が含まれており,これが開示請求の対象となると,就職の際に開示請求の結果を提出させるなどの方法で第三者による前科等の審査に用いられ,本人の社会復帰を妨げるなどの弊害が生ずるおそれがあるため,これを防止するという趣旨に基づくものであったと解される。 また,旧法は,個人情報ファイル簿に掲載されていない個人情報ファイ- 8 - ルに係る処理情報について,開示請求をすることができるものから除く旨を規定し(13条1項本文),勾留の執行,矯正又は更生保護に関する事務(7条3項3号)等に使用される個人情報ファイルについて,その保有目的に係る事務の適正な遂行を著しく阻害するおそれがあると認めるときは,個人情報ファイル簿に掲載しないことができる旨を規定して いた(同項柱書き)。 他方,旧法13条1項ただし書は,刑事裁判等関係事項とは別に,病院,診療所又は助産所における診療に関する事項(以下「診療関係事項」という。)を記録する個人情報ファイルに係る処理情報を開示請求の対象から除外する旨を規定していた。これは,診療関係事項に係る個人情報 の開示については,当面,診療の当事者相互の信頼関係に基づく医療上の判断に委ねるのが適当であるとの考えに基づくものであったと解される。 ところで,拘置所を含む刑事施設においては,これに収容されている者(以下「被収容者」という。)の健康等を保持するため,社会一般の保 健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとされ(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律56条),刑事施設の長は,被収容者が負傷し,若しくは疾病にかかっているとき,又はこれらの疑いがあるとき等には, 生上及び医療上の措置を講ずるものとされ(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律56条),刑事施設の長は,被収容者が負傷し,若しくは疾病にかかっているとき,又はこれらの疑いがあるとき等には,速やかに,刑事施設の職員である医師等(医師又は歯科医師をいう。以下同じ。)による診療を行い, その他必要な医療上の措置を執るなどとされている(同法62条1項等)。 そして,刑事施設の中に設けられた病院又は診療所にも原則として医療法の規定が適用され(同法30条の2,医療法施行令3条2項参照),これらの病院又は診療所において診療に当たる医師等も医師法又は歯科医師法の規定に従って診療行為を行うこととなる。そうすると,被収容者 が収容中に受ける診療の性質は,社会一般において提供される診療と異- 9 - なるものではないというべきである。このことは,旧法が制定された当時の監獄法等の下においても同様であったということができる。 以上に照らすと,旧法において,被収容者が収容中に受けた診療に関する事項を記録する個人情報ファイルに係る処理情報は,その性質上,13条1項ただし書の診療関係事項として開示請求の対象から除外され ていたと解するのが自然であり,これを刑事裁判等関係事項又は7条3項3号所定の事務に係る事項に関するものとして開示請求の対象から除外することは想定されていなかったものと解される。 イ平成15年改正によって新たに設けられた行政機関個人情報保護法45条1項は,その文理等に照らすと,旧法13条1項ただし書の刑事裁判等 関係事項に係る規定と同様の趣旨から,刑事裁判等関係事項のほか,旧法においては事務の適正な遂行の阻害防止の観点から一定の場合に限り処理情報の開示請求をすることができないものとされていた旧法7条3項3号所 項に係る規定と同様の趣旨から,刑事裁判等関係事項のほか,旧法においては事務の適正な遂行の阻害防止の観点から一定の場合に限り処理情報の開示請求をすることができないものとされていた旧法7条3項3号所定の事務に係る事項であって上記趣旨にかなうものを含む保有個人情報について,第4章の規定を適用しないこととして,開示請求等の対象から 除外する規定であると解される。 他方,行政機関個人情報保護法には,診療関係事項に係る保有個人情報を開示請求の対象から除外する旨の規定は設けられなかった。その趣旨は,行政機関が保有する個人情報の開示を受ける国民の利益の重要性に鑑み,開示の範囲を可能な限り広げる観点から,医療行為に関するインフォーム ド・コンセントの理念等の浸透を背景とする国民の意見,要望等を踏まえ,診療関係事項に係る保有個人情報一般を開示請求の対象とすることにあると解される。そして,同法45条1項を新たに設けるに当たっては,社会一般において提供される診療と性質の異なるものではない被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について,同法第4章の規定を適用 しないものとすることが具体的に検討されたことはうかがわれず,その他,- 10 - これが同項所定の保有個人情報に含まれると解すべき根拠は見当たらない。 以上によれば,被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は,行政機関個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらないと解するのが相当である。 ウそうすると,本件情報は,行政機関個人情報保護法45条1項所定の保 有個人情報に当たらないから,同法12条1項の規定による開示請求の対象となる。 そして,行政機関の長は,開示請求に係る保有個人情報に同法14条各号所定の不開示情報が含まれている場合を除き, 有個人情報に当たらないから,同法12条1項の規定による開示請求の対象となる。 そして,行政機関の長は,開示請求に係る保有個人情報に同法14条各号所定の不開示情報が含まれている場合を除き,当該保有個人情報を開示しなければならないところ(同法14条本文),本件情報につき同法14条 各号所定の不開示情報が含まれているとは認められないから,本件開示請求を受けた法務大臣(同人から権限の委任を受けた東京矯正管区長)は本件情報を開示しなければならなかったにもかかわらずこれを怠ったのであり,本件決定は行政機関個人情報保護法に反し違法である。 国家賠償請求の成否について 国家賠償法1条1項は,国又は地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して国民に損害を加えたときに,国又は地方公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,公権力の行使に当たる公務員の行為に国家賠償法1条1項にいう違法があるというためには,公務員が,当該行為によっ て損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁等参照)。そして,そ の職務上の法的義務に違反するか否かを判断するにあたっては,行政処分の- 11 - 法的充足性の有無のほか,被侵害利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,損害の程度等の諸般の事情を総合的に考慮すべきものである。 これを本件についてみると,本件決定によ の- 11 - 法的充足性の有無のほか,被侵害利益の種類,性質,侵害行為の態様及びその原因,損害の程度等の諸般の事情を総合的に考慮すべきものである。 これを本件についてみると,本件決定により医療記録の開示を受けられないことにより,人の生命及び健康の維持という最も重要な人格的利益が侵害されるといえ,同利益が侵害されることによる精神的苦痛は看過できないも のであり,また,医療上の措置に関する情報は,本来的に医療を受けた個人が知るべきであって,本人が望めば開示することが相当な性質の情報であることは明らかであるから,被収容者の診療記録の開示の可否については,相当程度に慎重に検討すべき職務上の義務が存在するというべきである。 そして,本件決定がされた原因は,上記のとおり法務省の担当者等が行政 機関個人情報保護法45条1項につき誤った解釈を採用してきたことにあるところ,同項の規定の文言からは,直ちに刑事施設内の医療記録が同項に規定する刑事事件に係る裁判等に係る保有個人情報に該当すると読み取ることはできない。そして,被収容者が収容中に受ける診療の性質は,社会一般において提供される診療と異なるものではなく,旧法において,被収容者が収 容中に受けた診療に関する事項を記録する個人情報ファイルに係る処理情報は13条1項ただし書の診療関係事項として開示請求の対象から除外されていたと解するのが自然であるところ,行政機関個人情報保護法においては,診療関係事項に係る保有個人情報一般についてインフォームド・コンセントの理念等を背景とする国民のニーズ等を踏まえて開示請求の対象から除外す る規定は設けられていないこと,他方で同法45条1項を新たに設けるに当たっては,被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について,同法第4章の規 等を踏まえて開示請求の対象から除外す る規定は設けられていないこと,他方で同法45条1項を新たに設けるに当たっては,被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について,同法第4章の規定を適用しないものとすることが具体的に検討されたことはうかがわれないことなどからすれば,被収容者が収容中に受けた診療記録が同項所定の保有個人情報に含まれると解すべき相応な根拠が見当たらないこ とは上記で説示したとおりである。このような行政機関個人情報保護法4- 12 - 5条1項の文言並びに旧法における被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報の位置付け及び旧法の全部改正の経緯,加えて上記法改正は,行政機関が保有する情報の開示範囲を可能な限り広げる観点でなされていることに照らせば,同項の適用除外の対象に被収容者の診療記録は含まれないとする結論が導かれるというべきである。 以上のことを考慮すると,法務省の担当者等において,その職務上尽くすべき注意義務を尽くしていれば,被収容者の診療記録は同項の適用除外の対象には含まれないとの解釈を採用すべきものと認識できたにもかかわらず,法務省の担当者等は,行政機関個人情報保護法制定当初から本件決定に至るまで,被収容者が収容中に受けた診療に係る保有個人情報は同法45条1項 所定の保有個人情報に該当するとの誤った解釈を採用してこれを維持してきたものであるから,上記法務省の担当者等は職務上の注意義務に反したものというべきである。 そして,本件決定自体は処分行政庁である東京矯正管区長の名義で行われたものであるが,上記誤った解釈は法務省としての組織的解釈となっており, 上記解釈を法務省の担当者等が採用し維持してきたことと同解釈を根拠として本件決定が行われたことは一体的に捉えるこ 行われたものであるが,上記誤った解釈は法務省としての組織的解釈となっており, 上記解釈を法務省の担当者等が採用し維持してきたことと同解釈を根拠として本件決定が行われたことは一体的に捉えることが実態に沿うことからすれば,同法務省の担当者等の上記注意義務違反をもって,本件決定は国家賠償法1条1項の適用上も違法と評価することが相当でありかつ同法務省の担当者等には過失があったというべきである。 損害について控訴人は,本件決定により,自己の生命及び健康の維持に不可欠である自らの診療記録について,適時に適正な開示を受けるという人格的な利益を侵害され,軽視できない精神的苦痛を被ったものと認められる。他方で,控訴人は,本件開示請求の契機となった歯科に係る診療記録等について,平成2 9年11月10日に証拠保全の決定に基づき検証が実施されたことにより上- 13 - 記記録等については開示を受けられたこと(甲96,乙6),その他本件において認められる一切の事情に鑑みれば,控訴人の精神的苦痛を慰謝するには30万円が相当というべきである。 そして,本件事案の内容及び認容額等を考慮すると,本件訴訟に係る弁護士費用相当額の損害として3万円を認めるのが相当である。 3 以上によれば,控訴人の請求のうち,本件決定の取消しに係る部分の訴えは訴えの利益を欠き不適法であるから却下し,国家賠償請求については33万円及びこれに対する本件決定の日の後である平成29年6月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとする。 よって,第1審判決を主文のとおり変更することとし,訴訟費用の負担については,本件審理の経過等に鑑み,行政事件訴 あるからこの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとする。 よって、第1審判決を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担については、本件審理の経過等に鑑み、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法62条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第21民事部 裁判長裁判官 定塚誠 裁判官 菅野正二朗 裁判官 神野律子 (別紙)東京拘置所在監中に控訴人が受けた診療に関する診療録全部以上
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