平成18(わ)748 虚偽有印公文書作成,同行使,地方公務員法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年12月6日 広島地方裁判所
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判決文本文5,668 文字)

平成18年(わ)第748号,第922号判決主文被告人Aを懲役1年6月に,被告人B及び被告人Cをそれぞれ懲役1年に処する。 この裁判が確定した日から被告人Aに対し4年間,被告人Bに対し3年間,被告人Cに対し2年間,それぞれの刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)第1呉市消防局長である被告人A,同局次長である被告人B,同局総務課長である被告人Cは,いずれも,平成17年度呉市消防吏員採用試験(以下「本件試験」)の試験委員として,本件試験の施行及びその成績に関する文書作成等の職務に従事していたものであるが,被告人3名は,呉市消防吏員の任命承認を専決する権限を有していた呉市助役D及び同E並びに被告人3名の上記職務を補助し,本件試験の施行及びその成績に関する文書を作成するなどの権限を有していた消防局総務課課長補佐Fと共謀の上,本件試験の第一次試験合格者決定に当たって, 平成17年10月3日ころから同月13日ころまでの間,行使の目的で,広島県呉市中央3丁目1番34号呉市消防局において,Fが,「別添のとおりとりまとめてよろしいですか」と記載した書面に「F」と刻した印鑑を押捺し,さらに,真実は,受験者中の13名の得点がそれぞれ別表1(省略)の各「真実の得点」欄のとおりであったのに,パーソナルコンピュータ等を用い,上記13名について,「一般教養」,「消防適正」,「筆記試験得点」,「体力検査」,「総得点」及び「総合順位」の各欄に,別表1の「虚偽の記載」欄のとおりの虚偽の記載をした「平成17年度呉市消防吏員採用試験結果一覧表(一次試験)」と題する一覧表を上記書面に添付し,よって,上記13名の本件試験の第一次試験の成績がその一覧表記載のとおりである旨のF作成名義の文書を作成し,もって, その職務に関して,公務員の印章のある内容 」と題する一覧表を上記書面に添付し,よって,上記13名の本件試験の第一次試験の成績がその一覧表記載のとおりである旨のF作成名義の文書を作成し,もって, その職務に関して,公務員の印章のある内容虚偽の公文書を作成した上,同月13日ころ,これを内容の真実な文書として,消防局総務課内に備え付けて行使した(平成18年7月28日付け公訴事実第1)。 平成17年10月4日ころから同月13日ころまでの間,行使の目的で,呉市消防局において,被告人Cが,「平成17年度呉市消防吏員採用試験(第一次試験)の結果通知について(伺い)」と題した書面に「C」と刻した印鑑を押捺し,さらに,真実は,受験者中の13名の得点等がそれぞれ別表2(省略)の「真実の得点」欄のとおりであったのに,Fが,パーソナルコンピュータ等を用い,上記13名について,「一般教養」,「消防適正」,「筆記試験得点」,「体力検査」,「総得点」及び「総合順位」の各欄に,別表2の「虚偽の記載」欄のとおりの虚偽の記載をした「平成17年度呉市消防吏員採用試験受験者一覧表(一次試験)」と題する一覧表を添付し,よって,上記13名の本件試験の第一次試験の成績がその一覧表記載のとおりである旨の被告人C作成名義の文書を作成し,もって,その職務に関して,公務員の印章のある内容虚偽の公文書を作成した上,同月18日ころ,これを内容の真実な文書として,消防局総務課内に備え付けて行使した(平成18年7月28日付け公訴事実第2)。 第2被告人Aは,平成17年4月1日から平成18年3月31日まで消防長である呉市消防局長として呉市消防吏員を任用する権限を有していたものであるが,いずれも消防吏員の任命承認を専決する権限を有していた呉市助役D及び同Eと共謀の上,消防吏員の採用は競争試験の受験成績に基づいて行わなければならなか 消防吏員を任用する権限を有していたものであるが,いずれも消防吏員の任命承認を専決する権限を有していた呉市助役D及び同Eと共謀の上,消防吏員の採用は競争試験の受験成績に基づいて行わなければならなかったのに,平成17年9月18日から同年10月29日までの間に消防局が実施した本件試験の合格者を決定して消防吏員を採用するに当たり,同月6日ころから同年11月9日ころまでの間,広島県呉市中央3丁目1番34号呉市消防局及び呉市中央4丁目1番6号呉市役所において,受験番号○○及び○○の受験者2名を本件試験の受験成績に基づかずに合格者とし,同年12月16日ころ,上記2名を平成18年度呉市消防吏員採用予定者名簿に登載して平成18年4月1日付けで消防吏員に任命するべきことを決定するなどして,能力の実証に基づかない職 員の任用を企てた(平成18年9月19日付け公訴事実)。 (証拠の標目)略(法令の適用) 被告人Aについて判示第1の1及び2の各所為のうち各虚偽有印公文書作成の点は刑法60条,156条,155条1項に,その各行使の点は同法60条,158条1項,156条,155条1項に,判示第2の所為は同法60条,地方公務員法62条,61条2号,15条にそれぞれ該当するが,判示第1の1及び2の各虚偽有印公文書作成とその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により各虚偽有印公文書作成とその行使とをそれぞれ1罪として犯情の重い各虚偽有印公文書行使罪の刑で処断することとし,判示第2について所定刑中懲役刑を選択し,判示第1の1及び2並びに判示第2の罪は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人Aを懲役1年6月に処し,情状により同法 びに判示第2の罪は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人Aを懲役1年6月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予することとする。 被告人B及び被告人Cについて被告人両名の判示第1の1及び2の各所為のうち各虚偽有印公文書作成の点は刑法60条,156条,155条1項に,その各行使の点は同法60条,158条1項,156条,155条1項にそれぞれ該当するが,判示第1の1及び2の各虚偽有印公文書作成とその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により各虚偽公文書作成とその行使とをそれぞれ1罪として犯情の重い各虚偽有印公文書行使罪の刑で処断することとし,以上の判示第1の1及び2の罪は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第1の2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人両名を懲役1年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から,被告人Bに対し3年間,被告人Cに対し2年間,それぞれの刑の執行を猶予することとする。 (量刑の理由) 本件は,呉市消防局幹部で本件試験の試験委員であった被告人3名が,助役2名及び消防局総務課課長補佐と共謀の上,得点・順位等を改ざんした試験成績に関する文書2通(試験合格者の決定に関する文書及び合否について受験者に通知すること等に関する文書)を作成し,その各文書をそれぞれ採用事務に供するため,同局総務課内に備え付けて行使したという2件の虚偽有印公文書作成・同行使の事案(判示第1の1及び2)と,呉市消防局長として消防吏員の任用権限を有していた被告人Aが,助役2名と共謀の上,本 するため,同局総務課内に備え付けて行使したという2件の虚偽有印公文書作成・同行使の事案(判示第1の1及び2)と,呉市消防局長として消防吏員の任用権限を有していた被告人Aが,助役2名と共謀の上,本件試験の結果に基づかず,不合格となるはずであった受験者2名を最終合格させて消防吏員として採用するべきことを決定するなどし,能力の実証に基づかない職員の任用を企てたという地方公務員法違反の事案(判示第2)である。 被告人3名の判示第1の各犯行について被告人3名は呉市消防局のトップないし幹部の地位にあり,消防職員の採否に関する試験委員の重責を担っていながら,呉市助役らから,呉市の住所の記載のある者を重視したり,特定の受験者を第一次試験の合格者とするなど数次にわたって求められ,それに応じるためにあえて公文書に虚偽の内容を記載した。その行為は,呉市消防局における公文書に対する信頼や作成された公文書の確実さを前提して遂行される呉市の公務自体に対する一般の信頼を裏切るものである。第一次試験で十分な成績を得ながらそれが正しく文書に登載されなかった受験者を生じさせている点も見過ごすことができない。 (1)被告人Aについて呉市消防局長である被告人Aは,呉市消防局の最高責任者として,呉市消防局で処理されるべき文書の公正さを体現するべき立場にありながら,上記の虚偽公文書作成・同行使に及んでおり,その職責をなげうったに等しいとの非難を免れない。呉市助役らの求めを他の共犯者である消防局次長や総務課長に伝え,助役からの求めであるからやむを得ないなどの態度を示して次長らに犯行を促すなど本件犯行において要となる重要な役割を果たしている。 被告人Aの弁護人は,職務の性質上上命下服を重んじる消防職員の意識を指 摘するなどして期待可能性が低かったなどと主張し,被告人Aは, 行を促すなど本件犯行において要となる重要な役割を果たしている。 被告人Aの弁護人は,職務の性質上上命下服を重んじる消防職員の意識を指 摘するなどして期待可能性が低かったなどと主張し,被告人Aは,消防局に対して種々の権限を有する助役らの意向に逆らえば消防局に対して様々な不利益があるかもしれないなどと考えて犯行に及んだと述べるが,上司からの命によっても違法な行為に加担することは到底正当化できるものではない上,上記の被告人の消防局における立場を考えれば,自らの属する組織の権益を守ることも一般の信頼を裏切る理由にならないのは当然のことである。 (2)被告人Bについて呉市消防局次長である被告人Bは,消防局長の不在の際には,市役所の担当者から指摘された成績に関する一覧表の問題点の是正を総務課長に指示するなど,犯行に対して積極的に関与した面も見られる。Bは,消防局ナンバー2として高い自覚と責任感を求められる地位にありながら,助役らの不興を買うことで消防局の人事や予算,自己の将来等に影響が及ぶことを懸念し,犯行に加担したものであり,その職責に対する自覚に欠いていたといわざるを得ない。 被告人Bの弁護人は,起訴便宜主義の精神を考慮するべきとか,期待可能性の低い事案であったなどと主張し,被告人Bも,上命下服の体制下における上司の命があったことを強調するが,被告人Bの責任に鑑みると,本件起訴に問題があるとは考えられないし,上司の命に従うことが正当化の理由とならないことは上記のとおりである。 (3)被告人Cについて被告人Cは,判示第1の2の文書の作成名義人であり,課長補佐である共犯者に具体的に改ざんを指示したり,本件文書の決裁を得るべく努力するなど,重要な役割を果たしている。Cは,市役所から消防局に出向中,自分が消防局内において部外者的な立場にあるこ り,課長補佐である共犯者に具体的に改ざんを指示したり,本件文書の決裁を得るべく努力するなど,重要な役割を果たしている。Cは,市役所から消防局に出向中,自分が消防局内において部外者的な立場にあることを慮って,消防職員任用に関する権限を有する助役ら上司の指示に逆らうことで採用事務が滞ることなどを懸念し,本件に加担したものであるが,やはり幹部職員としての責任感が足りなかったといわざるを得ない。 被告人Aの判示第2の犯行について 本件犯行は,被告人Aが助役らの求めに応じて加担したものであるが,地方公務員採用制度に対する一般の信頼を損なうものであり,能力の実証に基づいて任用されるべき職員に生命,身体及び財産の保護を委ねる呉市民の期待を裏切るものである。試験において十分な成績をあげながら呉市消防吏員となるべきとの決定を得る機会を奪われた受験者がいることをも考えると,その影響を軽視することは許されない。消防局の不利益を懸念したことが犯行を正当化し得ないことも上記1と同様である。被告人Aは,消防吏員の任命権限を有する消防長である呉市消防局長をしていたのであるから,犯行に必要不可欠な役割を果たしているといわなければならない。 以上によれば,被告人3名の刑事責任は決して軽くない。 しかし,被告人3名について,いずれも,上位にある助役らから具体的な求めがあったことを受けて犯行に加担することとなり,直接自らの利益を図ろうとしたものではないこと,事実を素直に認め反省の情を示していること,これまで公務員として実直に勤務し呉市民のために尽くしてきていることなど配慮すべき事情がある。 また,被告人B及びCについては,本件のため懲戒免職となり,退職金受給権を失うなど制裁ないし不利益を受けていることなども考慮すべきである。 そこで,以上の諸事情を総合考慮の ど配慮すべき事情がある。 また,被告人B及びCについては,本件のため懲戒免職となり,退職金受給権を失うなど制裁ないし不利益を受けていることなども考慮すべきである。 そこで,以上の諸事情を総合考慮の上,被告人3名の刑の執行をいずれも猶予することが相当と判断した。 (求刑-被告人Aにつき懲役1年6月,同B及び同Cにつきそれぞれ懲役1年)平成18年12月20日広島地方裁判所刑事第一部裁判長裁判官細田啓介裁判官飯畑正一郎 裁判官稲田康史

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