平成5(行ウ)43 所得税更正処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成9年3月21日 東京地方裁判所 租税
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判決文本文16,222 文字)

○ 主文一原告の請求を棄却する。 二訴訟費用は原告の負担とする。 ○ 事実第一当事者の求めた裁判一請求の趣旨 1 江戸川税務署長が平成元年七月七日付けでした原告の昭和六一年分所得税の更正のうち、分離短期譲渡所得金額〇円、分離長期譲渡所得金額四七五三万六四四一円、納付すべき税額一〇一七万八八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 二請求の趣旨に対する答弁主文と同旨第二当事者の主張一請求原因 1 原告は、昭和六一年分所得税につき、別表一の「確定申告」及び「修正申告」欄各記載のとおり、確定申告(以下「本件確定申告」という。)及び修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。 2 江戸川税務署長は、平成元年七月七日、原告の昭和六一年分所得税につき、別表一の「更正・賦課決定」欄記載のとおり、更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定」といい、本件更正と併せて「本件各処分」という。)をした。 3 原告は、本件各処分を不服として、平成元年八月一四日、江戸川税務署長に対し異議申立てをしたが、同年一一月七日付けで棄却されたため、同年一二月一日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、これも平成四年一二月八日付けで棄却された。 4 平成七年大蔵省令第四九号による大蔵省組織規程別表第一〇表の改正により、平成七年七月一〇日付けで原告の住所地を所轄する税務署長が江戸川税務署長から江戸川南税務署長となり、同税務署長が江戸川税務署長の権限を承継した(以下、江戸川税務署長も単に「被告」という。)。 5 しかし、本件更正は、所得税法(以下「法」という。)六四条二項による保証債務の特例(以下「本件特例」という。)の適用を否認し、原告の所得金額を過大に認定した違法な 署長も単に「被告」という。)。 5 しかし、本件更正は、所得税法(以下「法」という。)六四条二項による保証債務の特例(以下「本件特例」という。)の適用を否認し、原告の所得金額を過大に認定した違法なものであり、本件更正を前提とする本件決定も違法であるから、原告は、本件各処分の取消しを求める。 二請求原因に対する認否請求原因1ないし4の事実は認めるが、同5は争う。 三抗弁(課税処分の根拠) 1 総所得金額三三六万二八五三円 2 分離課税の短期譲渡所得の金額二九四七万六三九八円右金額は、原告が、別紙物件目録三記載の建物の共有持分九分の七(以下「本件建物」という。 )を譲渡したことによる所得であり、次の(一)の金額から、(二)、(三)の金額を控除した額である。 (一) 総収入金額五五四九万三九四四円右金額は、本件建物(居住用部分と事業用部分)の譲渡価額八〇二六万六六六〇円から租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三七条一項の事業用資産の買換えの特例に基づく買換資産の取得価額二四七七万二七一六円を控除した額である。 (二) 取得費(譲渡費用はない。) 二〇六六万四〇六三円(三) 特別控除額五三五万三四八三円右金額は、措置法三五条一項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)所定の額である。 3 分離課税の長期譲渡所得の金額八七三八万三八六八円右金額は、原告が、別紙物件目録一記載の土地の共有持分三分の一 (以下「本件土地」という。)を譲渡したことによる所得であり、次の(一)の金額から、(二)、(三)の金額を控除した額である。 (一) 総収入金額一億 土地の共有持分三分の一 (以下「本件土地」という。)を譲渡したことによる所得であり、次の(一)の金額から、(二)、(三)の金額を控除した額である。 (一) 総収入金額一億一七九二万六七二〇円右金額は、本件土地(居住用部分と事業用部分)の譲渡価額一億七八五八万二九八〇円から措置法三七条一項の事業用資産の買換えの特例に基づく買換資産の取得価額六〇六五万六二六〇円を控除した額である。 (二) 取得費(譲渡費用はない。) 五八九万六三三五円(三) 特別控除額二四六四万六五一七円右金額は、措置法三五条一項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)所定の額である。 4 納付すべき税額右1ないし3の各所得金額に基づいて算出される納付すべき税額は三五八〇万〇二〇〇円となるところ、本件更正における納付すべき税額は三二二八万四九〇〇円で、その範囲内であるから、本件更正は適法である。 5 過少申告加算税本件更正により新たに納付すべきこととなった税額二二一〇万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満切捨て)に、国税通則法六五条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)に基づき一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額と、同条二項の規定に基づき、本件更正により新たに納付すべきこととなった税額二二一〇万円のうち、期限内申告税額一〇二三万六九〇〇円(一〇〇六万四八〇〇円に源泉徴収税額五万八一〇〇円及び予定納税額一一万四〇〇〇円を加算したもの)を超える部分に相当する金額一一八六万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満切捨て)に、一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額を加算した金額一六九万八〇〇〇円が過少申告加算税額となるから、本件決定は適法に算出された税額を賦課するものである。 四抗弁に対する り一万円未満切捨て)に、一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額を加算した金額一六九万八〇〇〇円が過少申告加算税額となるから、本件決定は適法に算出された税額を賦課するものである。 四抗弁に対する認否 1 抗弁1の事実は認める。 2 同2のうち、(二)、(三)の事実は認める。(一)については、本件特例の適用がないとすれば、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、本件特例を適用して総収入金額を計算すべきである。 3 同3のうち、(二)、(三)の事実は認める。(一)については、本件特例の適用がないとすれば、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、本件特例を適用して総収入金額を計算すべきである。 4 同4及び5は争う。 五原告の主張(本件特例の適用) 1 (一)原告、A、B及び合資会社C(以下「本件会社」という。)は、昭和六〇年一二月一二日、日本橋建物株式会社に対し、別紙物件目録一ないし三記載の資産(以下「本件各資産」という。)を、代金九億五六七〇万七〇〇〇円(以下「本件譲渡代金」という。)で譲渡すること(以下「本件譲渡」という。)を約した。 原告、A、B及び本件会社のそれぞれが譲渡した本件各資産の譲渡価額は、別表二記載のとおりである。 (二) 原告は本件会社の無限責任社員であり、本件会社は、本件譲渡当時あるいは本件各資産の引渡時(昭和六一年八月三〇日)当時、いずれも債務超過の状態にあり、昭和六一年八月三一日に解散した。 (三) 本件譲渡の後、解散による清算を結了するまでに弁済された本件会社の債務は、別表三及び四記載の合計四億六九一五万五一五一円である(以下「本件債務」という。)。 なお、別表四のうち原告、A、B、原告の妻D(以下「原告妻」という。)及びBの妻E(以下「B妻」という。)を各支払先とする退職金の の合計四億六九一五万五一五一円である(以下「本件債務」という。)。 なお、別表四のうち原告、A、B、原告の妻D(以下「原告妻」という。)及びBの妻E(以下「B妻」という。)を各支払先とする退職金の支払額(別表四の二枚目一二段目から一六段目)は、原告及びAは各四〇〇〇万円、Bは三〇〇〇万円、原告妻及びB妻各二〇〇〇万円の各退職金(合計一億五〇〇〇万円・以下「本件退職金」という。)から、各源泉徴収税額を控除し、さらに原告への支払額については、本件会社の原告に対する二九八一万二七五六円の貸付金(以下「本件貸付金」という。)と相殺した後の残額である。 (四) 本件債務の弁済に充てることのできた本件会社の財産は次の(1)ないし(3)の合計額三億三一七七万九一八一円しかなく、本件債務(ただし、原告に対する退職金支払額三六七万二四九四円を控除したもの)の弁済に不足した一億三三七〇万三四七六円は、原告及びAが本件譲渡により得た収入が充てられ、原告は、本件譲渡による収入から六八一六万二〇三二円を本件債務の弁済に充てたものである。 (1) 譲渡代金持分三億〇九七七万五三五一円右金額は、本件譲渡代金のうち本件会社に帰属すべき三億一七七五万八〇六〇円から、別表三記載の債務を支払うため本件譲渡代金を原資とする定期預金を担保に本件会社が借り入れた借入金の利息七八九万五八九〇円と、本件各資産の固定資産税の売主負担分のうち本件会社が負担すべき八万六八一九円とを差し引いたものである。 (2) 譲渡代金預金利息持分三六〇万四七一八円右金額は、昭和六〇年一二月一二日に支払われた本件譲渡代金の一部四億四九〇〇万円を原資とする定期預金に係る利息のうち本件会社の取得分である。 (3) 解散後の本件会社の当座預金への入金額一八三九万九 金額は、昭和六〇年一二月一二日に支払われた本件譲渡代金の一部四億四九〇〇万円を原資とする定期預金に係る利息のうち本件会社の取得分である。 (3) 解散後の本件会社の当座預金への入金額一八三九万九一一二円右金額は、解散後の売掛金回収額一二九六万一〇三三円、東京証券からの入金額三五一万五一六八円、その他の入金額一九二万二九一一円の合計額である。 (五) 原告は、本件会社の無限責任社員として、前記(四)のとおり、本件譲渡による収入から、本件債務のうち六八一六万二〇三二円を代位弁済し、これにより本件会社に対し同額の求償権を取得したが、右求償権は、本件会社の清算が結了した昭和六二年八月三一日をもって行使することができないことに確定したから、右金額については、本件特例の適用が認められるべきである。 2 (一)右のとおり、原告が求償権を行使できないことが確定したのは、昭和六二年八月三一日であるから、法一五二条によれば、同年一〇月三一日が更正の請求の期限となるところ、原告の本件土地・建物に係る譲渡所得については、措置法三七条四項、一項に基づく事業用資産の買換えの特例が適用され(買換資産の取得予定年月日は昭和六二年一二月三一日である。)、原告は、同法三七条の二第二項に規定する修正申告を行う必要があったから、右更正の請求の期限は、右修正申告の期限である昭和六三年四月三〇日まで延長されるものと解すべきである。 原告は、右修正申告の期限までに、修正申告書に本件特例を適用する旨を記載して本件修正申告を行ったのであるから、右申告をもって、法一五二条所定の本件特例の適用についての更正の請求がされたものとみるべきである。 (二) また、被告は、原告が本件特例を適用する旨を記載した本件修正申告書を提出した後、本件特例の手続要件が欠けていることに言及することなく本件特例の いての更正の請求がされたものとみるべきである。 (二) また、被告は、原告が本件特例を適用する旨を記載した本件修正申告書を提出した後、本件特例の手続要件が欠けていることに言及することなく本件特例の実体要件の存否を検討したうえで本件更正を行い、異議決定及び審査請求手続においても、実体要件の存否を論じてきたのであるから、被告は、事実上又は黙示的に、原告が、本件確定申告に際し、確定申告書に本件特例を受ける旨の記載をしなかったことにつき「やむを得ない事情がある」(法六四条四項)と認めていたのであって、被告が、本件訴訟において手続要件の不充足を主張することは、禁反言の法理又は信義誠実の原則に反して許されないというべきである。 六原告の主張に対する被告の認否及び反論(認否) 1 (一)原告の主張1(一)の事実は認める。 (二) 同(二)のうち、原告が本件会社の無限責任社員であること、本件会社が昭和六一年八月三一日に解散したことは認めるが、その余の事実は否認する。 (三) 同(三)のうち、別表三は不知、別表四の二枚目一二段目から一六段目記載の事実は否認し、同表のその余の支払先と支払金額は認め、その債務内容は不知。本件貸付金の存在及び本件会社が右貸付金債権を原告に対する退職金債務と相殺したことは認める。 (四) 同(四)のうち、譲渡代金預金利息持分、東京証券からの入金額、その他の入金額についての原告の主張額を認め、その余は争う。 (五) 同(五)は争う。 2 原告の主張2(一)のうち、原告が、修正申告書に本件特例を適用する旨を記載して本件修正申告をしたことは認め、その余は争う。 同(二)は争う。 (反論) 1 本件特例の手続要件について(一) 本件会社は、原告、A、Bとともに昭和六一年八月三〇日に本件譲渡代金の完済を受け、同月三一日に解散しているのであるか その余は争う。 同(二)は争う。 (反論) 1 本件特例の手続要件について(一) 本件会社は、原告、A、Bとともに昭和六一年八月三〇日に本件譲渡代金の完済を受け、同月三一日に解散しているのであるから、仮に原告が求償権を行使できないことになったとすれば、その事実が生じた日は昭和六一年八月三一日というべきであって、原告が、本件特例の適用を求めるならば、本件確定申告に際し、本件特例の適用を受ける旨を確定申告書に記載すべきであったのであり(法六四条三項)、これを欠いている以上、本件特例の適用はない。 仮に、原告が求償権を行使することができなくなったのが昭和六二年八月三一日であったとしても、原告はその日から二か月以内に法一五二条による更正の請求をしていない。また、措置法三七条の二第二項に規定する修正申告まで本件特例の適用ができないものではないから、右更正の請求の期限が右修正申告の期限まで延長されるということはできない。 (二) 被告は、本件確定申告書に本件特例の適用を受ける旨の記載がないことについてやむを得ない事情があると認めたことはないし、本件修正申告書に本件特例の適用を受ける旨の記載があることをもって、手続要件を具備したものと認めたこともない。また、仮に、原告が、被告職員の言動により本件特例の適用があると期待したとしても、原告は、右期待によって本件特例の適用を求める機会を失ったのではないから、信義則ないし禁反言の法理を主張すること自体失当である。 2 本件特例の実体要件について(一) 本件債務のうち、原告、A、B、原告妻及びB妻に対する退職金名目による支払額(別表四の二枚目一二段目から一六段目)と右退職金に係る源泉所得税は、次のとおり本件会社の履行すべき債務ではないから、これを除いた原告主張の会社債務は、三億四八九六万七九〇七円となり、別表五 る支払額(別表四の二枚目一二段目から一六段目)と右退職金に係る源泉所得税は、次のとおり本件会社の履行すべき債務ではないから、これを除いた原告主張の会社債務は、三億四八九六万七九〇七円となり、別表五のとおり、本件会社の財産によって十分弁済が可能であった。 すなわち、原告、A及びBが、本件譲渡代金の持分額を超える額に相当する個人的な資産の取得をしていること、本件退職金は、各受給者ごとの受給額に見合う資産の取得等に充てられていないこと、本件退職金は極めて高額であり、しかも本件会社の解散後に本件会社と実体の変わらない株式会社山源が設立されていることなどからすると、本件退職金名目で支払われた金員は、退職金を仮装した本件譲渡代金の分配であるということができるから、本件退職金名目での支払及びこれに係る源泉所得税は、会社が履行すべき債務から除外すべきである。 したがって、本件会社は債務超過でなかつなのであるから、本件特例の適用はない。 (二) 仮に、本件退職金が真実の退職金として認められるべきものとしても、本件会社には退職金支給規定がなく、解散に際して、会社は債務超過に陥ってまで退職金を支払う義務はないというべきであるから、原告が、A及びBとともに、本件退職金の支払を決定したことは、本件会社に対する求償権を放棄したものというベきであり、本件特例の適用はない。 七原告の再反論本件会社が経営不振で解散したという場合に、無限責任社員である原告に退職金を支給することが問題であるとしても、有限責任社員にすぎないAやB、単なる従業員である原告妻やB妻について退職金を支払うことには何ら問題がない筈であり、また、本件退職金が過大であるとすれば、当該過大部分のみについて本件会社の債務であることを否定すれば足りるのであるから、本件退職金の支払の全てを本件譲渡代金の分配 うことには何ら問題がない筈であり、また、本件退職金が過大であるとすれば、当該過大部分のみについて本件会社の債務であることを否定すれば足りるのであるから、本件退職金の支払の全てを本件譲渡代金の分配であるとする被告の主張は失当である。 第三証拠(省略)○ 理由第一課税処分の経緯等について請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。 第二本件各処分の適法性について一抗弁1、2(二)、(三)、3(二)、(三)の各事実は当事者間に争いがない。 二本件特例の手続要件について 1 本件特例は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その保証債務の履行に伴い取得した求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき、その行使することができないこととなった金額を所得金額の計算上なかったものとみなす所得計算の特例であり、法一五二条による更正の請求をする場合を除き、確定申告書に右特例の適用を受ける旨その他大蔵省令で定める事項の記載がある場合に限りで適用されるものである(法六四条三項)。また、右更正の請求は、求償権を行使することができなくなった事実が生じた日の翌日から二か月以内に行わなければならないとされている(法一五二条)。 2 本件の場合、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告は、昭和六二年三月一四日、昭和六一年分所得税の確定申告にあたり、措置法三五条一項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)及び同法三七条一項(事業用資産の買換えの特例)を適用して、本件譲渡に係る分離課税の長期譲渡所得の金額を四三八九万四八五一円と算出し、右各規定の適用を受けようとする旨記載した確定申告書を提出しているが、本件特例の適用を受ける旨の記載はなく、本件特例を適用した所得金額の算出もされていないことが明らかである。 もっとも、原告は、確定申 各規定の適用を受けようとする旨記載した確定申告書を提出しているが、本件特例の適用を受ける旨の記載はなく、本件特例を適用した所得金額の算出もされていないことが明らかである。 もっとも、原告は、確定申告後の昭和六二年八月三一日になって、原告が無限責任社員として本件債務の一部を弁済したことによる求償権を行使できなくなった事実が確定した旨主張しているから、仮にそうだとすれば、原告が本件特例の適用を受けるためには、法一五二条による更正の請求によるべきこととなるのであるが、前記のとおり、右更正の請求は求償権を行使できなくなった事実が生じた日の翌日から二か月後である昭和六二年一〇月三一日までに行わなければならないところ、原告がそれまでに右更正の請求をしたとの事実の主張立証はない。 したがって、いずれにせよ、原告は、本件特例の適用を受けるための手続要件を具備しておらず、昭和六一年分所得税の所得計算につき、本件特例を適用することはできないといわなければならない。 3 原告は、本件譲渡については、措置法三七条四項により事業用資産の買換えの特例が適用され、同条の二第二項による修正申告を行う必要があったから、更正の請求の期限は、右修正申告の期限である昭和六三年四月三〇日まで延長されると解すべきであり、原告は、右期限までに、本件特例を適用する旨の本件修正申告を行ったから、これにより法一五二条による更正の請求をしたものとみるべきである旨主張する。 しかし、本件特例は、保証債務を履行するために資産を譲渡し、その収入により保証債務の履行をする場合の課税の特例であり、譲渡収入を保証債務の履行に充てることを要件とするものであるところ、事業用資産の買換えの特例の適用を受けるというのであれば、その買換資産の取得のために充てられるべき譲渡収入は、もはや保証債務の履行に充てられる 証債務の履行に充てることを要件とするものであるところ、事業用資産の買換えの特例の適用を受けるというのであれば、その買換資産の取得のために充てられるべき譲渡収入は、もはや保証債務の履行に充てられる余地がないことになるのであるから、その場合には、買換えの特例の適用後の所得金額について本件特例を適用する余地があるにすぎないのであって、所得税基本通達六四-三の二が、買換えの特例と本件特例の適用を受ける場合には、まず買換えの特例を適用し、次に本件特例を適用することに留意するよう定めているのも、右の趣旨によるものである。このことは、買換資産の取得価額の見積額を基礎に買換えの特例を適用して譲渡所得の計算を行い(措置法三七条四項)、買換資産の取得後、取得価額の見積額と実際の取得価額との開差について、一定期間内に修正申告又は更正の請求を行うことにより、右開差に係る税額を清算する(措置法三七条の二第二項)場合であっても、何ら異なるものではないのであり、右買換えの特例の適用を受ける場合でも、譲渡収入のうちに、保証債務の履行に充てられその求償権の行使ができないこととなったものがあれば、右見積額を基礎に計算された譲渡所得の金額を前提に、本件特例を適用して所得金額の計算を行うことができるのであって、確定申告書に本件特例の適用を受ける旨記載することは十分可能であるし、また、確定申告後に、保証債務の履行による求償権の行使ができないこととなったときは、右と同じように本件特例を適用して所得金額を計算し、二か月以内に更正の請求をすればよいのであって、買換資産の取得価額が未定のため、譲渡所得の金額が確定していないとしても、そのことは、本件特例の適用を受けることの障害になるものでないというべきである。けだし、譲渡収入のうち買換資産の取得見積額に相当する部分は、もともと保証債 め、譲渡所得の金額が確定していないとしても、そのことは、本件特例の適用を受けることの障害になるものでないというべきである。けだし、譲渡収入のうち買換資産の取得見積額に相当する部分は、もともと保証債務の履行に充てられることが予定されていないものであり、その後、買換資産の取得価額が右見積額を下回ることが確定し、買換えの特例の適用後の譲渡収入に余剰が生じたとしても、その分について本件特例の適用を認める余地はないのであるから、措置法三七条の二第二項による修正申告が行われるまで本件特例の適用を受けるための更正の請求ができないとする必要も実益もないといえるからである。 したがって、本件において、原告も、その主張のように昭和六二年八月三一日に求償権を行使できないことが確定したというのであれば、それから二か月以内に本件特例を適用して更正の請求をすることに何らの支障もなかったのであり、措置法三七条の二第二項による修正申告が行われるまで、法一五二条による更正の請求の期限が延長されるとする原告の主張は失当である(そうすると、仮に本件修正申告をもって法一五二条による更正の請求とみたとしても、それは、同条所定の期限を徒過してされたものであるから、これをもって本件特例の適用を受けるための手続要件を具備したということにはならない。)。 4 また、原告は、被告が本件訴訟において手続要件の不充足を主張することは、禁反言の法理又は信義誠実の原則に反して許されない旨主張する。 しかし、原告の主張によっても、被告が原告に対し、本件特例の手続要件が充足されているとの見解を表示したというのではなく、被告は本件特例の適用を一貫して争っているというのであって、単に更正前の調査や、不服申立手続において、本件特例の実体要件の存否のみが問題とされていたということをもって、被告が本訴において ではなく、被告は本件特例の適用を一貫して争っているというのであって、単に更正前の調査や、不服申立手続において、本件特例の実体要件の存否のみが問題とされていたということをもって、被告が本訴において手続要件の不充足を主張することが、信義則ないし禁反言の法理に反し許されないものということはできず、原告の主張は失当といわねばならない。 なお、原告は、被告が本件確定申告書に本件特例の適用を受ける旨の記載がなかったことについて「やむを得ない事情がある」(法六四条四項)ことを認めていた旨主張するようでもあるが、原告は、本件確定申告後の昭和六二年八月三一日に原告が求償権を行使できなくなった事実が確定した旨主張しているのであるから、原告が、本件特例の適用を受けるためには、法一五二条による更正の請求をすることになるのであって、原告の右主張を前提とする限り、法六四条四項の適用を問題とする余地はなく、原告の右主張は失当といわざるを得ない。 5 したがって、原告の昭和六一年分所得税については、本件特例を適用するための手続要件が具備されておらず、その適用がないことは明らかであるが、念のため、以下、実体要件の有無についても検討しておくこととする。 三本件特例の実体要件について 1 法六四条二項は、直接には「保証債務を履行するため」に資産の譲渡があった場合の所得計算の特例を規定したものであるが、合資会社の無限責任社員が会社の債務を履行した場合も、債務の履行を余儀なくされ、その結果、求償権を取得するということでは、保証人が保証債務を履行した場合と同様であるから、本件特例の適用があると解すべきところ、合資会社の無限責任社員が会社の債務を弁済すべき責任は、会社が債務超過の状態にあり、会社債務の完済が不能であるときに初めて生ずるものであるから(商法一四七条、八〇条)、合資会社 あると解すべきところ、合資会社の無限責任社員が会社の債務を弁済すべき責任は、会社が債務超過の状態にあり、会社債務の完済が不能であるときに初めて生ずるものであるから(商法一四七条、八〇条)、合資会社の無限責任社員が本件特例の適用を受けるためには、資産の譲渡時に会社が債務超過となっているか、あるいは債務超過になることが確実に予想されることのほかに、無限責任社員が会社の債務を履行した時点においても、当該会社が債務超過であったことを要するものと解するのが相当である。 これを本件についてみるに、仮に本件債務のうち、本件退職金(合計一億五〇〇〇万円)が本件会社の負担すべき債務でないとすれば、原告の退職金債権との相殺に供された本件貸付金二九八一万二七五六円(本件貸付金の存在とこれが右相殺に供されたことは当事者間に争いがない。)も消滅することなく本件会社の財産として存続することになるから、本件貸付金以外に本件会社の財産が原告主張のとおり合計三億三一七七万九一八一円しかないとしても、債務の弁済に充てることができた本件会社の財産は、合計三億六一五九万一九三七円となり、本件退職金名目での支払額一億〇二一〇万〇二四四円及びこれに係る源泉所得税一八〇八万七〇〇〇円を本件債務から除外した三億四八九六万七九〇七円を上回ることになる。したがって、仮に本件退職金が本件会社の負担すべき債務でないとすれば、本件会社は、本件債務の支払がされた当時、債務超過であったとはいえず、その無限責任社員である原告に(原告が無限責任社員であることは当事者間に争いがない。)、本件会社の債務を履行すべき責任は生じていなかったことになるから、その余の点について判断するまでもなく、本件特例の適用はないということになる。 そこで、本件退職金が本件会社の負担すべき債務といえるかどうかについて検討する べき責任は生じていなかったことになるから、その余の点について判断するまでもなく、本件特例の適用はないということになる。 そこで、本件退職金が本件会社の負担すべき債務といえるかどうかについて検討する。 2 当事者間に争いのない原告の主張1(一)の事実に、原告本人尋問の結果により成立の真正を認める甲第二六号証、成立に争いのない乙第一五号証、第一七号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (一) 本件会社は、昭和一〇年六月に設立された陶磁器の卸販売等を営む合資会社であり、昭和六〇年当時は、無限責任社員である原告、有限責任社員である母A及び弟Bの三名の社員のほかに、原告妻、B妻その他五人程度の従業員が同会社の業務に従事していた。本件会社は、別紙物件目録三記載の四階建て建物の一階(事務所、ショールーム、倉庫)、二階(倉庫)と三階の一部(倉庫)を使用し、三階の残部はB夫婦が、四階はAと原告夫婦及びその子供らが、それぞれ居住用として使用していたが、原告、B及びAは、昭和六〇年九月ころ、本件各資産を売却し、その収入で本件会社の債務を返済して会社を解散することにした。しかし、原告は、このころ、本件各資産のうち本件会社が所有する部分の売却益を含めても、会社財産によって会社の債務を完済することは難しいのではないかと考えていた。 (二) 原告、B、A及び本件会社は、昭和六〇年一二月一二日、本件各資産につき、日本橋建物株式会社との間で本件譲渡の合意をしたが、原告らそれぞれが譲渡した本件各資産の譲渡価額は、別表二記載のとおりである。本件譲渡代金のうち、手付金及び中間金の一部である四億四九〇〇万円は、昭和六〇年一二月一二日に原告名義の普通預金口座に入金された後、定期預金の設定、解約などを経ているものの、金員の実質的な流れとしては、そ 代金のうち、手付金及び中間金の一部である四億四九〇〇万円は、昭和六〇年一二月一二日に原告名義の普通預金口座に入金された後、定期預金の設定、解約などを経ているものの、金員の実質的な流れとしては、そのうち二億五〇〇〇万円と三〇〇万円が本件会社名義の当座預金口座に入金され、その余の金額は原告、Bらの個人資産の取得等に充てられた。また、昭和六一年八月三〇日に支払われた本件譲渡代金の残金四億九八五四万九七一二円も、いったん原告名義の普通預金口座に入金されたが、最終的には、右金額のうち合計一億八五〇八万七二四四円が本件会社名義の当座預金口座に入金され、その余の金額は、原告、Bらの個人資産の取得等に充てられた。 したがって、本件譲渡代金のうち、四億三八〇八万七二四四円が本件会社に支払われたことになる。 (三) 本件会社は、昭和六一年八月三一日、総社員(原告、A及びB)の同意により解散し(本件会社が昭和六一年八月三一日解散したことは当事者間に争いがない。)、原告が清算人となって清算が開始された(同年九月二日付けで解散の登記がされた。)。本件会社では、従業員に退職金を支給することやその支給基準が定められていたわけではなかったが、原告は、本件会社の解散にあたり、その従業員に退職金を支払うこととし、従業員のF(勤続四一年)には五〇〇万円、G(勤続三八年)、H (勤続三二年)、I(勤続三〇年)にはそれぞれ七〇〇万円、J(勤続五年)には七五万円の退職金を支給することにし、本件会社からこれらの金額が支払われた。さらに、原告は、原告及びAにそれぞれ四〇〇〇万円、Bに三〇〇〇万円、原告妻、B妻にそれぞれ二〇〇〇万円を退職金として本件会社から支払うことを決めたが(合計一億五〇〇〇万円)、その額の算定については、給与の補填分を加算したなどというものの、その計算理由は定か 〇万円、原告妻、B妻にそれぞれ二〇〇〇万円を退職金として本件会社から支払うことを決めたが(合計一億五〇〇〇万円)、その額の算定については、給与の補填分を加算したなどというものの、その計算理由は定かでなく、原告として、この程度は残してやりたいと思って決めたというもので、必ずしも合理的な計算根拠があったというわけではない。 (四) 本件退職金は、昭和六一年九月八日、原告名義の普通預金口座から一億二〇一八万七二四四円が本件会社名義の当座預金口座に振替入金され、本件会社の右口座から、原告の普通預金口座に三六七万二四九四円及び一七九五万八〇〇〇円が、Aの普通預金口座に三六七一万一五〇〇円が、Bの普通預金口座に二五八〇万〇二五〇円及び一七九五万八〇〇〇円が、各別の小切手により入金される方法で行われ、原告妻及びB妻の各預金口座には入金されておらず、その後も、右両名は、それぞれに支払われた筈の金額(一七九五万八〇〇〇円)に見合う資産の取得等をしていない(本件会社の当座預金口座に入金された一億二〇一八万七二四四円と右小切手による出金額一億〇二一〇万〇二四四円との差額一八〇八万七〇〇〇円は本件退職金の源泉徴収額と符合する。)。 しかも、右退職金が入金されたA、Bの各預金通帳や印鑑は、原告が全部預かっており、原告としては、いずれはそれらの金員も会社の清算のため使わなければならないかもしれないと考えていたが、その後、原告及びAに退職金名目で支払われた金員から合計一五〇〇万円が、本件会社の当来預金口来に入金されているほかは、結局、それらの金員が本件会社の債務の支払に充てられることはなかった。 (五) ところで、本件会社が解散した三日後の昭和六一年九月三日には、株式会社山源が設立されており(資本金二〇〇〇万円)、同社は、本件会社と同様に、陶磁器の卸販売等を営み、本 られることはなかった。 (五) ところで、本件会社が解散した三日後の昭和六一年九月三日には、株式会社山源が設立されており(資本金二〇〇〇万円)、同社は、本件会社と同様に、陶磁器の卸販売等を営み、本件会社の仕入先等を引き継ぎ、本件会社の従業員だった者のうち一人を除く全員を再雇用して営業を開始したもので、Bが代表取締役に、Aが取締役に、原告が監査役に就任している。 3 右に認定したとおり、本件退職金は、一応各人に支払われた形を整えてはいるものの、実際には、本件各資産の譲渡人である原告、A及びBの預金口座に入金され、原告妻及びB妻の手には直接渡っていないし、しかも、本件会社の清算のために使うことになるかもしれないとして、原告がその通帳等を預かっていたというのであり、真実、退職金として支払われたにしては不自然であること、もともと原告は、本件譲渡当時、会社財産によって会社の債務を完済することは難しいのではないかと考えていたのであり、そのような状況の下で、退職金支給の定めがあったというわけでもないのに、会社経営の責任を負うべき原告、A、Bら社員に退職金を支払うというのは疑問であること、原告妻及びB妻に対する退職金も、前記のとおり、実際には原告及びBの口座に入金されているのであり、また、会社と同じ建物に住んでいる原告妻及びB妻が、一般の従業員と同じように労務指揮を受け、勤務に従事していたかどうか定かでなく、これらの者に高額な退職金が支給されるというのは通常考えにくいこと、本件退職金の支払の原資は、本件譲渡代金の一部であるが、本件退職金の支払さえなければ、本件譲渡による代金取得分など会社財産でもって会社債務を完済できたのであって、実質的にみれば、本件退職金は、本件譲渡代金の一部を本件会社を経由して分配したのと同じことであること、本件会社の解散後、時を 譲渡による代金取得分など会社財産でもって会社債務を完済できたのであって、実質的にみれば、本件退職金は、本件譲渡代金の一部を本件会社を経由して分配したのと同じことであること、本件会社の解散後、時をおかずして、実体を同じくする株式会社山源が設立され、原告、A及びBらがその経営に関わっていることなどからすると、本件退職金は、形式的には原告、A、B、原告妻及びB妻に対する退職金という名目で支払われてはいるが、実質的には、本件会社に帰属すべき本件譲渡代金の額(三億一七七五万八〇六〇円)を超えて本件会社名義の当座預金口座に振り込まれた本件譲渡代金を、本件各資産の譲渡人である原告、A及びBに分配したものとみるのが相当であって、これを本件会社が負担すべき退職金債務の支払ということはできないというべきである。 4 原告は、本件会社が経営不振で解散したという場合に、無限責任社員である原告に退職金を支給することが問題であるとしても、有限責任社員にすぎないAやB、単なる従業員である原告妻やB妻について退職金を支払うことには何らの問題はない旨主張する。 しかし、本件会社の経営は、いわば野村家の事業であり、AやBらが、支払能力のない会社からその解散に伴って退職金の支払を受けるいわれはないし、また、本件退職金は原告妻やB妻の手に直接渡っておらず、実質的には、原告あるいはBに対して支払われているとみられることに加え、そもそも本件退職金の支払が退職金の名目をもってされた本件譲渡代金の分配とみるべきであることは前記のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。 5 以上のとおりであって、別表四記載の債務のうち、本件退職金名目の支払額一億〇二一〇万〇二四四円及びこれに係る源泉所得税一八〇八万七〇〇〇円は本件会社の債務の支払とはいえないから、これを本件債務から除外すれば、本 であって、別表四記載の債務のうち、本件退職金名目の支払額一億〇二一〇万〇二四四円及びこれに係る源泉所得税一八〇八万七〇〇〇円は本件会社の債務の支払とはいえないから、これを本件債務から除外すれば、本件会社の債務は三億四八九六万七九〇七円となり、前記のとおり本件会社の財産三億六一五九万一九三七円(本件貸付金を含む。)を下回ることになる。したがって、本件会社は、本件債務の支払がされた当時、債務超過であったとはいえず、原告にその債務を履行すべき責任は生じていなかったというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件特例の適用を求める原告の主張は理由がないことに帰する。 四そうすると、抗弁1、2(二)、(三)、3(二)、(三)の各事実が当事者間に争いがないことは前記のとおりであり、本件特例の適用が認められない場合の総収入金額が同2(一)、3(一)のとおりであることは当事者間に争いがないから、分離課税の短期譲渡所得金額、分離課税の長期譲渡所得金額はいずれも被告主張のとおりであって、所得税法等に従って算出された納付すべき税額は、三五八〇万〇二〇〇円となる。 したがって、本件更正は適法であり、また、本件決定は、本件更正によって新たに納付すべきこととなる税額に基づき、当時施行の国税通則法に従って適法に算出された過少申告加算税を賦課するもので適法ということができる。 第三よって、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。 (裁判官佐藤久夫岸日出夫徳岡治)別紙物件目録、別表三、四(省略) 日出夫徳岡治 別紙物件目録、別表三、四(省略)

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