平成17(行ウ)6 三菱元徴用工・被爆者健康手帳申請却下処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年9月26日 広島地方裁判所 その他
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判決文本文20,027 文字)

- 1 -主文 原告Aの,広島県知事がした被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消しを求める訴え(後記請求1の請求に基づく訴え)は,これを却下する。 原告Aのその余の請求及び原告Bの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの連帯負担とする。 事実 及び理由第1請求 広島県知事が原告Aに対してした平成17年1月13日付け被爆者健康手帳交付申請却下処分を取り消す。 被告国及び被告広島県は,原告Aに対し,各自35万円及びこれに対する平成17年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告国及び被告広島市は,原告Bに対し,各自35万円及びこれに対する平成17年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要原告Aは,広島県知事が原告Aからの被爆者健康手帳交付申請を却下する処分(請求第1項の処分。以下「本件処分(1)」という。)をしたのは違法であるとして,同処分の取消しを求めるとともに,厚生労働大臣等が海外からの手帳交付申請を可能とする措置を講じなかったこと,このような取扱いに従い広島県知事が当該処分を行ったことは国家賠償法1条1項の違法行為に当たるとして(共同不法行為),被告国及び被告広島県(以下「被告県」という。)に対し,損害賠償金及びこれに対する違法行為の日である平成17年1月13日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各自支払を求めた。 原告Bは,厚生労働大臣等が海外からの健康管理手当認定申請を可能とする措置を取らなかったこと,このような取扱いに従い広島市長が原告Bの被相続人Cからの健康管理手当認定申請を却下する処分(以下「本件処分(2)」という。)をしたことは国家賠償法1条1項の違法行為に当たるとして(共同不法- 2 -行為),被告国及び被告 長が原告Bの被相続人Cからの健康管理手当認定申請を却下する処分(以下「本件処分(2)」という。)をしたことは国家賠償法1条1項の違法行為に当たるとして(共同不法- 2 -行為),被告国及び被告広島市(以下「被告市」という。)に対し,損害賠償金及びこれに対する違法行為の日である平成17年3月23日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各自支払を求めた。 関連法規の規定(1)被爆者及び健康管理手帳の交付原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「法」又は「被爆者援護法」という。)1条は,原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者等であって,被爆者健康手帳の交付を受けたものを「被爆者」とする旨定める(以下,これに当たる者を「被爆者」という。)。 法2条1項は,「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事に申請しなければならない。」と定め,同条2項は,「都道府県知事は,前項の規定による申請に基づいて審査し,申請者が前条各号のいずれかに該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付するものとする。」旨定める。 (2)健康管理手当ア法27条1項は,「都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,健康管理手当を支給する。」と定め,同条2項は,「前項に規定する者は,健康管理手当の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない。」旨定める。 イ原子爆弾被爆者に対する援護 ,「前項に規定する者は,健康管理手当の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない。」旨定める。 イ原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(平成17年厚生労働省令第168号改正前)(以下「施行規則」という。)52条1項は,「法27条2項の認定の申請は,健康管理手当認定申請書に,所定の障害- 3 -を伴う疾病についての法19条1項の規定による指定を受けた病院又は診療所の医師の診断書を添えて,これを居住地の都道府県知事に提出することによって行わなければならない。」旨定め,同条2項は,「都道府県知事は,前項の場合において,同項に規定する診断書を添えることができないことについてやむを得ない理由があると認めるときは,法19条1項の規定による指定を受けていない病院又は診療所の医師の診断書をもってこれに代えさせることができる。」旨定める。 なお,平成17年の改正により,同条3項が追加され,日本国内に居住地及び現住地を有しない被爆者が健康管理手当の認定申請を行う場合の手続が整備された。 (3)広島市及び長崎市以上の各規定中「都道府県知事」又は「都道府県」とあるのは,広島市又は長崎市について,「市長」又は「市」と読み替えるものとされている(法49条)。 (4)立法委任法52条は,「この法律に特別の規定があるものを除くほか,この法律の実施のための手続その他その執行について必要な細則は,厚生労働省令で定める。」旨定める。 争いのない事実(ただし,(2)ウの事実を除く。)(1)原告Aについてア被爆確認証の交付原告Aは,長崎市長から,平成16年3月9日ころ,郵送により,被爆確認証の交付を受けた。同被爆確認証には,原告Aの居住地,連絡先,氏名,生年月日が記載され, )原告Aについてア被爆確認証の交付原告Aは,長崎市長から,平成16年3月9日ころ,郵送により,被爆確認証の交付を受けた。同被爆確認証には,原告Aの居住地,連絡先,氏名,生年月日が記載され,「被爆時の年齢満22歳」,「被爆の状況直接被爆被爆場所広島市α3.5km」とあり,「上記のとおり,被爆の状況を確認します。」と記載されていた。また,その裏面には「この確- 4 -認証は,あなたが将来,日本に渡航した際に,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号)第2条に基づく被爆者健康手帳の円滑な交付に役立てるためのものですので,大切に保管してください。」と記載されていた。 イ被爆者健康手帳の交付申請と却下決定原告Aは,本件処分(1)当時,大韓民国に居住していた。 原告Aは,平成16年11月16日,原告ら代理人D,同Eを代理人として,広島県知事に対し,被爆者健康手帳交付申請書に被爆者確認証を添付して提出し,被爆者健康手帳の交付を申請した。 広島県知事は,平成17年1月13日付けで,原告Aの被爆者健康手帳交付申請の却下処分(本件処分(1))を行い,その旨を記載した通知書を原告Aに送付してこれを通知した。この通知書には「あなたは,現在,大韓民国京畿道平澤市β××-7に居住しておられ,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第2条第1項の規定に該当しません。」と記載されていた。 ウ原告Aは,長崎市を訪れ,平成17年9月27日,長崎市長に対し,被爆者健康手帳の交付申請を行い,同日,同手帳の交付を受けた。 (2)Cについてア被爆者健康手帳の交付Cは,昭和20年8月6日,広島で被爆した。Cは,平成3年と平成4年に来日し広島を訪れ,その際,被爆者健康手帳の交付を受けた。 イ健康管理手当認定申請と却下通知Cは,本件処 被爆者健康手帳の交付Cは,昭和20年8月6日,広島で被爆した。Cは,平成3年と平成4年に来日し広島を訪れ,その際,被爆者健康手帳の交付を受けた。 イ健康管理手当認定申請と却下通知Cは,本件処分(2)当時,大韓民国に居住していた。 Cは,平成17年3月11日,原告ら代理人Eを通じて,広島市長に対し,健康管理手当認定申請を行い,申請書類は同日広島市長に受理された。 広島市は,同月23日付けで,Cの健康管理手当認定申請の却下処分- 5 -(本件処分(2))を行い,その旨を記載した通知書をCに送付してこれを通知した。この通知書には「健康管理手当認定申請書は居住地の都道府県知事(広島市,長崎市にあっては当該市の長)に提出することになっている(原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(平成7年厚生省令第33号)第52条第1項)が,申請者の居住地は広島市でないため,認定できません。」と記載されていた。 ウCは,平成▲年▲月▲日,死亡し,同人の相続人全員は,原告Bが本件訴訟に係るCの被告国及び被告市に対する損害賠償請求権を取得する旨合意した。(弁論の全趣旨) 本案前の争点本件処分(1)の取消訴訟について訴えの利益の有無 本案前の争点に関する当事者の主張(1)被告の主張原告Aは,平成17年9月27日,来日の際に長崎市長に対し被爆者健康手帳の交付を申請し,同日,同市長から被爆者健康手帳の交付を受けた。 そして,被爆者健康手帳の交付については,被爆者援護法24条4項,25条4項,26条4項,27条5項,28条5項のような,申請日によって影響を受けるような法的効果は発生しない。 したがって,本件処分(1)の取消しを求める訴えの利益は失われたというべきである。 (2)原告Aの主張争う。 本案の争点(1)本件処分(1)の適法性 を受けるような法的効果は発生しない。 したがって,本件処分(1)の取消しを求める訴えの利益は失われたというべきである。 (2)原告Aの主張争う。 本案の争点(1)本件処分(1)の適法性(2)本件処分(1)に関する厚生労働大臣等及び広島県知事の違法行為の成否,故意・過失の有無- 6 -(3)本件処分(2)に関する厚生労働大臣等及び広島市長の違法行為の成否,故意・過失の有無 争点(1)(本件処分(1)の適法性)に関する当事者の主張(1)被告県の主張ア被爆者健康手帳の交付申請については,被爆者援護法2条1項において明文で「その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事」に申請しなければならないこととしており,被爆者援護法は,申請者が日本国内に居住又は現在することを前提とし,国外からの申請を認めていないことは明らかである。 この点,原告らは,被爆者援護法2条1項について,現に日本国内に居住している被爆者に対する管轄を定めるという手続的・技術的観点から定められたものと解され,被爆者の実体要件を満たしている者の被爆者としての権利を制限ないし剥奪するものではなく,また,これをそのような意味を有するものと解釈してはならないと主張している。 しかし,被爆者健康手帳の交付申請先について,被爆者援護法2条1項は上記のとおり一義的に明確な文言で規定しており,原告らのいうような解釈を許容する余地はない。実質的に見ても,被爆者援護法2条1項が被爆者健康手帳の交付申請先を「居住地(現在地)の都道府県知事」と規定し,国外からの申請を認めていないのは,申請者の本人確認や法1条各号該当性の審査に当たって,申請者が日本国内に居住又は現在することによって必要な手続や審査を適正,円滑に行うことができるという実質的な理由に基 らの申請を認めていないのは,申請者の本人確認や法1条各号該当性の審査に当たって,申請者が日本国内に居住又は現在することによって必要な手続や審査を適正,円滑に行うことができるという実質的な理由に基づくものであり,このような法の定めに合理性があることは明白である。 イ広島県知事は,原告Aが,韓国在住のまま,代理人を通じ,被爆者健康手帳の交付申請を広島県知事に対し行ったものであったことから,被爆者援護法2条1項の規定に基づき,原告Aに対し被爆者健康手帳の交付をす- 7 -ることはできないとして申請を却下したものであり,このような本件処分(1)は,法の規定に従った適法なものである。 (2)原告Aの主張ア被爆者援護法1条は,各号で「被爆者」となるための実体要件について規定しており,さらに「被爆者」として同法の援護を受けるためには,被爆者健康手帳の交付を受けることが必要であるとしている(同条柱書後段)。そして,被爆者援護法2条1項は,その交付手続について,「居住地(居住地を有しないときは,その現住地とする。)の都道府県知事に申請しなければならない。」と規定している。 そもそも被爆者援護事務は国が責任主体・実施主体であり,都道府県知事は健康管理や手当等の支給事務の担当者であることからすれば,法2条は,現に日本国内に居住している被爆者に対する管轄を定めるという手続的・技術的な観点から定められた都道府県知事と厚生労働大臣との間における事務分配にすぎず,「被爆者」としての実体要件を満たしている者の「被爆者」としての権利を制限ないし剥奪するものではない。 また,法は,社会保障の趣旨からだけでなく,国家補償の趣旨からも原爆による健康被害に苦しむ被爆者を広く救済することを目的としている。 そうだとすれば,法が,日本国内に居住している被爆者だけを救済・援 また,法は,社会保障の趣旨からだけでなく,国家補償の趣旨からも原爆による健康被害に苦しむ被爆者を広く救済することを目的としている。 そうだとすれば,法が,日本国内に居住している被爆者だけを救済・援護の対象とし,国外に居住する被爆者をその対象から除外していると解することは,同法の趣旨・目的からみて,到底受け入れがたい。 したがって,被爆者援護法2条について,日本国外からの被爆者健康手帳交付申請はなしえないという意味を有するものと解釈してはならない。 イところが,厚生労働省は,在外被爆者に対し,日本に来日しない限り被爆者健康手帳の交付申請をなしえないとする運用を継続して行い,広島県知事も上記運用に従って本件処分(1)を行い,そのため,本来的に「被爆者」として実体的に援護の対象である原告Aが,日本に居住し,または,- 8 -日本に渡航可能な在外被爆者と比較して,日本に渡航できないという理由のみによって,被爆者援護法1条の「被爆者」となるために必要な被爆者健康手帳の交付が受けられないという不合理な差別を受ける結果となった。 これは,憲法14条1項が禁じる不合理な差別的取扱いであるから,上記のような,被爆者援護法2条1項について日本国外からの被爆者健康手帳交付申請をなしえないとする解釈を前提とした本件処分(1)は違憲無効であり,かつ,被爆者援護法の趣旨に反する違法な処分というべきであり,取消しを免れない。 争点(2)(本件処分(1)に関する厚生労働大臣等及び広島県知事の違法行為の成否,故意・過失の有無)に関する当事者の主張(1)原告Aの主張ア違法行為の成否(ア)厚生労働大臣や厚生労働省の担当職員(以下「厚生労働大臣等」という。)の違法行為在外被爆者による被爆者健康手帳の交付申請を却下することは,6の(2)で述べたとおり,違憲・ 違法行為の成否(ア)厚生労働大臣や厚生労働省の担当職員(以下「厚生労働大臣等」という。)の違法行為在外被爆者による被爆者健康手帳の交付申請を却下することは,6の(2)で述べたとおり,違憲・違法である。 Fが被爆者たる地位の確認及び外国からの健康管理手当の給付を求めた案件について言い渡された大阪高裁平成14年12月5日判決は,被告国及び被告大阪府が上告を断念し,確定した。これを機に,平成15年3月1日,「原爆特別措置法は日本国内に居住関係を有する被爆者に対し適用されるもので,日本国の領域を超えて居住地を移した被爆者には適用されない。」としていた衛発402号公衆衛生局長通知(以下402号通達」という。)に基づく解釈運用が改められ,被爆者援護法施行令及び同法施行規則が改正され(政令14号,厚生労働省令16号),被爆者健康手帳はこれを所持する被爆者が国外に居住していても有効であり,また手当受給権は出国して国外に居住することになっても消滅し- 9 -ないことを前提とする諸条項が規定された。 厚生労働大臣等は,これを受けて,被爆者健康手帳の交付申請についても「日本における居住又は現住」を要件とすることを改め,日本国外からの交付申請を受け付けるように政令・省令において明確に整備すべきであった。ところが,厚生労働大臣等は,被爆者健康手帳の交付については,あくまで「日本における居住又は現在」を要件とするとの姿勢を改めず,広島県知事に対し,上記見解に基づく措置を指示した。 (イ)広島県知事の違法行為広島県知事は,被爆者健康手帳の交付申請について「日本における居住」を要件とすることを改め,日本国外からの交付申請に対しては被爆者援護法2条を適用しないこととして,原告Aに対して被爆者健康手帳を交付すべきであった。ところが,広島県知事は,厚生労働大 における居住」を要件とすることを改め,日本国外からの交付申請に対しては被爆者援護法2条を適用しないこととして,原告Aに対して被爆者健康手帳を交付すべきであった。ところが,広島県知事は,厚生労働大臣等の上記指示を受けて,原告Aの被爆者健康手帳の交付申請に対して,これを却下する本件処分(1)を行った。 (ウ)法律上保護された利益の侵害原告Aは,健康上の問題から,長年にわたって被爆者健康手帳の取得のために日本を訪れることができず,国外からの交付申請も認められていなかったため,手帳の交付を受けることができず,そのために病魔に苦しんできた。平成15年3月1日,被爆者健康手帳はこれを所持する被爆者が国外に居住していても有効であり,また手当受給権は出国して国外に居住することになっても消滅しないこととなった後も,国外からの被爆者健康手帳の交付申請については従前の扱いが継続され,何らの改善も図られず,本件処分(1)が行われた。原告Aはやむなく本件訴訟の提起に踏み切ったが,それでも日本政府の対応は改められず,従前の見解を改めようとしなかった。そこで,原告Aは無理を承知で這うようにして来日し,ようやく手帳の取得に至ったのである。このような事実経- 10 -過において,原告Aは,多大な精神的苦痛を被ったのであり,法律上保護された利益が侵害されたことは明らかというべきである。 (エ)このように,厚生労働大臣等が,平成15年3月1日以降,国外からの被爆者健康手帳の交付申請を受理するよう政令・省令において明確に整備すべきであったのにこれを怠り,また,広島県知事が違法な本件処分(1)を行い,原告Aに精神的損害を与えたことは,国家賠償法上の違法行為に当たる。 イ故意・過失の有無当該行政の事務が,法の趣旨に反して不当に権利侵害の結果を招来した場合,当該行 違法な本件処分(1)を行い,原告Aに精神的損害を与えたことは,国家賠償法上の違法行為に当たる。 イ故意・過失の有無当該行政の事務が,法の趣旨に反して不当に権利侵害の結果を招来した場合,当該行政事務を行った機関には,これについて故意又は過失があるというべきである。そうでなければ,戦後日本国憲法の下で国家賠償法が制定された意味は没却されてしまう。 したがって,本件でも,厚生労働大臣等及び広島県知事の違法行為によって原告Aに精神的損害が生じたのであるから,これについて厚生労働大臣等及び広島県知事には少なくとも過失があるというべきである。 (2)被告国及び被告県の主張ア違法行為の成否(ア)適法であること①厚生労働大臣等の行為について被爆者健康手帳の交付申請先については,法2条1項は,「その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事」として,一義的に明確な文言をもって規定している。この文言からすれば,原告Aが主張するような国外からの被爆者健康手帳の交付申請ができるとの解釈を許容する余地はない。 また,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(以下,これらを合わせて「旧原爆二- 11 -法」という。)が一本化されて被爆者援護法が制定されたという立法経緯等に照らすと,同法においては,旧原爆二法と同様に,国外からの被爆者健康手帳交付申請は認められないとする立法者意思が存在するといえる。 さらに,法2条1項が,被爆者健康手帳の交付申請先を「居住地(現在地)の都道府県知事」と規定し,国外からの申請を認めていないのは,申請者の本人確認や同法1条各号該当性の審査に当たって,申請者が日本国内に居住又は現在することによって必要な手続や審査を適正,円滑に行うことができるという実質 し,国外からの申請を認めていないのは,申請者の本人確認や同法1条各号該当性の審査に当たって,申請者が日本国内に居住又は現在することによって必要な手続や審査を適正,円滑に行うことができるという実質的な理由に基づくものであり,このような法の定めに合理性があることは明白であるから,同法2条1項は憲法14条1項に反するものではない。 したがって,厚生労働大臣等が被爆者援護法2条1項の規定に従って行政実務を行うことが適法であることは明らかであり,厚生労働大臣等が同条項に基づいた指示等を行ったことに関して義務違反があるということはできない。 ②広島県知事の行為について広島県知事が本件処分(1)を行ったのは,被爆者援護法2条1項が明確に「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事に申請しなければならない。」として,国内に居住も現在も有しない者からの被爆者健康手帳の交付申請を認めていないことに基づくものである。 また,被爆者健康手帳交付事務は,第1号法定受託事務であり,全国統一的な処理が必要とされているところ,本件処分(1)当時(平成17年1月13日),国外からの被爆者健康手帳交付申請が直接問題となった訴訟事案は存在しなかった。 したがって,広島県知事が,このような法の定めに基づいて本件処- 12 -分(1)を行ったことは適法であり,職務上の義務違反はない。 (イ)法律上保護された利益の侵害がないこと法律上保護された利益の侵害がなければ,国家賠償法上の違法行為は成立しないと解されるところ,本件においては法律上保護された利益の侵害はないというべきである。原告Aは,本件処分(1)によって精神的損害を被ったとして慰謝料を請求しているが,本件処分(1)による回復し得ないような法的 ところ,本件においては法律上保護された利益の侵害はないというべきである。原告Aは,本件処分(1)によって精神的損害を被ったとして慰謝料を請求しているが,本件処分(1)による回復し得ないような法的利益の侵害はなく,国家賠償法上保護された利益は存在しないというべきである。 イ故意・過失の有無(ア)厚生労働大臣等に故意・過失がないこと法2条1項が,被爆者健康手帳の交付申請先について,一義的に明確な文言をもって「その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事」と規定していることや,本件処分(1)当時,国外からの被爆者健康手帳の交付申請が直接問題となった訴訟事案は存在しなかったこと,前記被爆者援護法の立法経緯等の諸事情に照らせば,被爆者健康手帳の交付につき,日本国に居住又は現在しない被爆者からの申請を認めないとの実務には相当の根拠があったというべきであり,厚生労働大臣等につき,国家賠償法上の故意又は過失が認められないことは明らかである。 (イ)広島県知事に故意・過失がないこと上記で述べたことからすれば,広島県知事が,第1号法定受託事務として全国統一的な処理が必要とされていた被爆者健康手帳交付事務において,法2条1項に基づいて本件処分を行ったことについて,国家賠償法上の故意又は過失が認められないことは明らかである。 争点(3)(本件処分(2)に関する厚生労働大臣等及び広島市長の違法行為の成否,故意・過失の有無)に関する当事者の主張- 13 -(1)原告Bの主張ア違法行為の成否(ア)厚生労働大臣等の違法行為厚生労働省が国外からの健康管理手当の申請を認めないとの解釈を取っていたのは,被爆者援護法が,健康管理手当の申請手続の定めを下位の法令(同法施行令,同法施行規則)に委任しているところ,これを定め 厚生労働省が国外からの健康管理手当の申請を認めないとの解釈を取っていたのは,被爆者援護法が,健康管理手当の申請手続の定めを下位の法令(同法施行令,同法施行規則)に委任しているところ,これを定めた同法施行規則は,申請書を被爆者の居住地の都道府県知事に提出しなければならない(施行規則52条)としており,これを限定列挙とみて,被爆者が日本国外に居住しているときには,その居住地の都道府県知事は存在しないから,日本国外からの申請権は認められないことを根拠としている。 しかし,Cは,被爆者健康手帳の交付を受けた被爆者であり,かつ,健康管理手当の支給対象となる疾病に罹患し,健康状態を管理する必要のあることは,大韓民国の医師が診断した結果を記載した診断書によっても明白であった。このことによって,健康管理手当支給請求権は実体的に発生するのであり,健康管理手当認定申請書の提出行為は,その請求権の実現のための手続行為にすぎない。 法27条は,健康管理手当の支給義務を負う者を単に「都道府県知事」とのみ規定し,「居住地の」との限定をしていない。そして,健康管理手当の支給義務を負う者が同支給認定申請を受ける者と見るのが当然であるにもかかわらず,前述のように,施行規則52条は,被爆者が日本国内に居住していない限り,健康管理手当の支給を受けられないかのように規定している。法律上は「居住地の」という限定がないことにかんがみれば,施行規則52条のような規定をおくことは,法律の委任の趣旨に反するものであって違法である。 本来であれば,厚生労働大臣等は,402号通達の改定に伴う政令,- 14 -省令の改正を行う際に,施行規則52条において,「居住地の都道府県知事」に申請書を提出するとしている部分は,被爆者健康手帳の発給を管理する被爆者台帳に当該申請者を記載している都 政令,- 14 -省令の改正を行う際に,施行規則52条において,「居住地の都道府県知事」に申請書を提出するとしている部分は,被爆者健康手帳の発給を管理する被爆者台帳に当該申請者を記載している都道府県知事に提出するように改める必要があった。ところが,厚生労働大臣等は,そうした措置を全く執ることなく,広島市長に対し,国外に居住している「被爆者」からの健康管理手当支給申請を却下する扱いを継続するよう指示した。 (イ)広島市長の違法行為広島市長は,健康管理手当の支給申請について,申請書を居住地の都道府県知事(広島市内の場合は広島市長)に提出することを要件とすることを改め,日本国外からの支給申請に対してもこれを受け付けることとして,原告Aに対して健康管理手当を支給すべきであった。ところが,広島県知事は,厚生労働大臣等の上記指示を受けて,Cの健康管理手当の支給申請に対して,これを却下する本件処分(2)を行った。 (ウ)法律上保護された利益の侵害健康管理手当に関しては,長崎地裁平成16年9月28日判決,同地裁平成17年3月8日判決により,日本政府の対応の違法性が裁判所において明確にされていた。しかし,被告国は,その後も従前の取扱いを変更しなかった。そのため,Cはやむなく本件訴訟を提起したが,訴訟継続中の平成▲年▲月▲日に死亡した。このような事実経過において,Cは,多大な精神的苦痛を被ったのであり,法律上保護された利益が侵害されたことは明らかというべきである。 (エ)このように,厚生労働大臣等が,平成15年3月1日以降,国外からの健康管理手当の支給申請を受理するよう政令・省令において明確に整備すべきであったのにこれを怠り,また,広島市長が違法な本件処分(2)を行い,Cに精神的損害を与えたことは,国家賠償法上違法である。 - 15 -イ 支給申請を受理するよう政令・省令において明確に整備すべきであったのにこれを怠り,また,広島市長が違法な本件処分(2)を行い,Cに精神的損害を与えたことは,国家賠償法上違法である。 - 15 -イ故意・過失の有無当該行政の事務が,法の趣旨に反して不当に権利侵害の結果を招来した場合,当該行政事務を行った機関には,これについて故意又は過失があるというべきである。そうでなければ,戦後日本国憲法の下で国家賠償法が制定された意味は没却されてしまう。 したがって,本件でも,厚生労働大臣等及び広島市長の違法行為によってCに精神的損害が生じたのであるから,これについて厚生労働大臣等及び広島市長には少なくとも過失があるというべきである。 (2)被告国及び被告市の主張ア違法行為の成否(ア)適法であること①厚生労働大臣等の行為について被告らは,法が,健康管理手当の支給を行う「都道府県知事」として「被爆者の居住地又は現在地の都道府県知事」を予定し,かつ,日本国外を居住地又は現在地とする被爆者からの健康管理手当の申請を予定していないと解釈してきた。しかし,これと異なる法27条の解釈により,施行規則52条(平成17年厚生労働省令第168号改正前。以下同じ。)が法27条に反すると解釈されるとしても,以下に述べるとおり,同条についての当時の被告らの前記解釈は相当の根拠を有しているというべきである。 まず,法は,平成6年,旧原爆二法を一本化して制定されたものであるところ,旧原爆二法は,被爆者健康手帳や健康管理手当について,国外からの申請を一切認めていなかったから,旧原爆二法を一本化して制定された被爆者援護法も,国外からの申請を予定しておらず,被爆者健康手帳や各手当の申請先はその居住地又は現在地の都道府県知事でなければならないと解釈することは,相当の根 ら,旧原爆二法を一本化して制定された被爆者援護法も,国外からの申請を予定しておらず,被爆者健康手帳や各手当の申請先はその居住地又は現在地の都道府県知事でなければならないと解釈することは,相当の根拠があるというべ- 16 -きである。 また,被爆者援護法立法当時の国会の審議において,特段「国外からの申請を認める」旨の審議がされずに,旧原爆二法と同様の規定を有する被爆者援護法が可決成立している。このような審議経過からみても,被爆者援護法において,旧原爆二法と同様に国外からの申請は認められないとする立法者意思が存在すると解することについて相当の根拠があるというべきである。 さらに,本件処分(2)当時(平成17年3月23日),健康管理手当の認定申請却下処分の適法性が争われた長崎地裁における健康管理手当認定申請却下処分取消請求事件(長崎地裁平成16年9月28日判決。なお,福岡高裁平成17年9月26日判決により控訴棄却,確定)は一審被告長崎市長が控訴し,係争中であったし,広島地裁における同種事件(なお,同地裁平成17年5月10日判決により請求認容)も係争中であった。 被爆者援護法に定める援護を受けるための前提となる被爆者健康手帳の交付申請については,法2条1項において,「交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事に申請しなければならない。」とされている。 この規定によれば,申請者は日本国内に居住又は現在することが前提とされ,国外からの申請を想定していない。そして,被爆者援護法は,このような「被爆者」に関し,「被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉の向上を図るため,(中略)被爆者に対する援護を総合的に実施するものとする。」(法6条)とし,そのために,都道府県知事が,健康管理のための健康診断 者」に関し,「被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉の向上を図るため,(中略)被爆者に対する援護を総合的に実施するものとする。」(法6条)とし,そのために,都道府県知事が,健康管理のための健康診断等(法第三章第二節),各種手当等の支給(同第四節),福祉事業(同第五節)を行うものとしている。このように,居住地又は現在地の都道府県知事から被爆者健康手帳の交付を- 17 -受けた被爆者に対し,都道府県知事によって同法所定の各種援護措置が実施されるのであり,その申請を受けるものも「都道府県知事」とされているのであるから,当該都道府県知事が各種援護措置を実施する範囲は,当該都道府県に居住又は現在する住民であると解するのが自然である。換言すれば,健康管理手当の支給申請を受けるものである法27条の「都道府県知事」は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事と解するのが自然であり,そのように解することには相当の根拠があるといえる。 以上,被爆者援護法の立法経緯や法構造等に照らすと,施行規則52条の規定には相当の根拠があり,それらの規定に従って行政実務を取り扱うことにも相当な根拠があったというべきである。したがって,厚生労働大臣等が施行規則52条を改めることなく同条に基づいた指示等を行ったことに関して義務違反があるということはできない。 ②広島市長の行為について広島市長の行った本件処分(2)は,国家賠償法上の違法はないというべきである。 すなわち,国家賠償法上の「違法」とは,公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該行為を行うことをいうところ,広島市長による本件処分(2)の取扱いは,施行規則52条に従うものであったし,同規定が法27条の合理的な解釈として是認できないなどと 担する職務上の法的義務に違反して当該行為を行うことをいうところ,広島市長による本件処分(2)の取扱いは,施行規則52条に従うものであったし,同規定が法27条の合理的な解釈として是認できないなどとする確定した裁判例は,本件処分(2)が行われた時点ではなかった。 また,健康管理手当認定事務は,第1号法定受託事務であり,全国統一的な処理が必要とされているところ,本件処分(2)当時(平成17年3月23日),前記長崎地裁における健康管理手当認定申請却下処分取消請求事件や,広島地裁における同種事件は,いまだ係争中であ- 18 -った。 このような状況下で,広島市長は,本件処分(2)を行ったのであるから,広島市長は,本件処分(2)に当たり,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたとはいえず,職務上の義務違反はない。したがって,国家賠償法上の違法は認められない。 (イ)法律上保護された利益の侵害がないこと法律上保護された利益の侵害がなければ,不法行為は成立しないと解されるところ,本件においては法律上保護された利益の侵害もないというべきである。原告Bは,本件処分(2)によってCが精神的損害を被ったとして慰謝料を請求しているが,本件処分(2)による回復し得ないような法的利益の侵害はなく,国家賠償法上保護された利益は存在しないというべきである。 イ故意・過失の有無(ア)厚生労働大臣等に故意・過失がないこと仮に施行規則52条が違法であるとの判断を前提としても,厚生労働大臣等が同条を改めることなく同条に基づいた指示等を行ったことに関して,国家賠償法上の故意又は過失は認められない。 すなわち,ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に,公務 して,国家賠償法上の故意又は過失は認められない。 すなわち,ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に,公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を執行したときは,後にその執行が違法と評価されたからといって,直ちに前記公務員に故意又は過失があったものとすることは相当でない。 健康管理手当の認定申請先については,法27条には単に「都道府県知事」とあるが,本件処分(2)当時(平成17年3月23日),実務上「居住地又は現在地の都道府県知事」と解され,施行規則52条もそのように規定されていた。このような解釈を否定する裁判例が現れたのは,- 19 -前記長崎地裁平成16年9月28日判決が初めてであった。本件処分(2)の後には広島地裁平成17年5月10日判決もあったが,このような判断を示した判決が確定したのは平成17年10月12日(上記長崎地裁判決の控訴審判決である福岡高裁平成17年9月26日判決(公刊物未登載)が確定した日)であった(なお,これら先行した訴訟においては,いずれも取消訴訟において健康管理手当認定申請却下処分の違法性が争われたのみであり,国家賠償法上の請求は訴訟の対象になっていない。)。 このように,施行規則52条の規定の効力を否定する確定した裁判例もなかったことや,法の立法経緯等にかんがみれば,同規定には相当の根拠があったというべきである。したがって,厚生労働大臣等に国家賠償法上の故意又は過失が認められないことは明らかである。 (イ)広島市長に故意・過失がないこと本件処分(2)が違法であると判断されることを前提としても,広島市長が,施行規則52条に立脚して本件処分(2)を行ったことには相当の根拠が認められるというべきである。した 市長に故意・過失がないこと本件処分(2)が違法であると判断されることを前提としても,広島市長が,施行規則52条に立脚して本件処分(2)を行ったことには相当の根拠が認められるというべきである。したがって,広島市長に,国家賠償法上の故意又は過失は認められない。 第3当裁判所の判断 本案前の争点について前記のとおり,原告Aは,平成17年9月27日,長崎市長に対し,被爆者健康手帳の交付を申請し,同日,同手帳の交付を受けた。そして,同手帳の交付については,被爆者援護法24条4項,25条4項,26条4項,27条5項,28条5項のような,交付の申請をした日によって影響を受けるような法的効果は発生しない。したがって,仮に本件処分(1)が判決によって取り消され,広島県知事が原告Aに対し改めて被爆者健康手帳を交付したとしても,原告Aが既に長崎市長から被爆者健康手帳の交付を受けた以上に新たな法的利益を得- 20 -られることはない。そうすると,原告Aの本件処分(1)の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠くから,不適法なものとして却下を免れない。 もっとも,原告Aが被爆者健康手帳の交付を申請する際に併せて健康管理手当の認定申請をしていた場合(このような被爆者健康手帳の交付を停止条件とする健康管理手当の認定申請は,法令上許容されるべきものと解される。)には,本件処分(1)が取り消されることで,原告Aが改めて被爆者健康手帳の交付を受け,かつ,申請時からの健康管理手当の支給を受けられることもあり得るから,このような場合には本件処分(1)の取消しを求める訴えの利益はあるといえるが,本件はこれに当たらない。 以上の次第であるから,本案の争点(1)(本件処分(1)の適法性)については,判断をしないこととする。 争点(2)(本件処分(1)に関する厚生労働大臣等 あるといえるが,本件はこれに当たらない。 以上の次第であるから,本案の争点(1)(本件処分(1)の適法性)については,判断をしないこととする。 争点(2)(本件処分(1)に関する厚生労働大臣等及び広島県知事の違法行為の成否,故意・過失の有無)について上記争点に関する原告の主張は,前記のとおりであり,要するに,法2条1項は現に国内に居住する被爆者に対する管轄を定めるという手続的・技術的観点から定められた事務分配規定にすぎず,被爆者を広く救済するという被爆者援護法の趣旨からすれば,厚生労働大臣等及び広島県知事が,在外被爆者に対し,同条項を根拠として,来日しない限り被爆者健康手帳の交付申請を受理しないのは違法であるというものと解される。そして,旧原爆二法は,社会保障法の性格を有するとともに,原子爆弾による障害という特殊な戦争被害について戦争遂行主体であった国が自己の責任として救済を図るという国家補償的配慮を根底としているものである(原爆医療法に関する最高裁判所昭和53年3月30日第一小法廷判決参照)ことからすれば,被爆者援護法もまた,社会保障の趣旨からだけでなく,国家補償の趣旨からも,原爆による健康被害に苦しむ被爆者を広く救済することを目的としているものと解され,その解釈に当たっては,このような法の趣旨を十分に尊重しなければならないことは言うまで- 21 -もない。 しかし,法2条1項は,「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地とする。)の都道府県知事に申請しなければならない。」と規定し,同条2項は,「都道府県知事は,前項の規定による申請に基づいて審査し,申請者が前条各号のいずれかに該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付する。」旨規定し,健康管理手当や葬祭料の支給を申 条2項は,「都道府県知事は,前項の規定による申請に基づいて審査し,申請者が前条各号のいずれかに該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付する。」旨規定し,健康管理手当や葬祭料の支給を申請する場合の規定とは異なった規定の仕方をしており,在外被爆者を例外とする規定もない。また,過去に被爆者健康手帳の不正取得が多発し,これを防止するために,被爆者健康手帳の交付申請手続は,本人申請及び本人への直接面接を原則としたという経緯があったこと(乙7),被爆者健康手帳の交付が,健康管理手当等の支給の前提となる重要な手続であることからすれば,被爆者健康手帳の交付申請について,健康管理手当の支給申請等と異なり,日本国内に居住又は現在することを要件とすることには一定の合理性があるといえる。以上の各点を総合勘案すると,上記のような法の趣旨を考慮しても,被爆者健康手帳の交付を申請する者は,日本国内に居住又は現在する必要があると解せられ,原告Aの上記主張にある解釈は採り得ない。 そうすると,本件処分(1)当時原告Aは日本国内に居住せず,現在もしなかったから,本件処分(1)に関する厚生労働大臣等の行為及びそれに従って広島県知事がした本件処分(1)は,いずれも適法であるといえるから,これを違法であるとする原告Aの主張は採用できない。 争点(3)(本件処分(2)に関する厚生労働大臣等及び広島市長の違法行為の成否,故意・過失の有無)について(1)厚生労働大臣等についてこの点に関する原告Bの主張は,前記のとおりであり,同主張のとおり,改正前の施行規則52条は,被爆者が健康管理手当の認定申請をするには日本国内に居住又は現在することを要する旨定めていた点で,法の文言や法の- 22 -趣旨に照らし,法の委任の範囲を逸脱した違法無効なものであったと解せられる。 者が健康管理手当の認定申請をするには日本国内に居住又は現在することを要する旨定めていた点で,法の文言や法の- 22 -趣旨に照らし,法の委任の範囲を逸脱した違法無効なものであったと解せられる。 そして,弁論の全趣旨によれば,被告国は,平成14年12月5日,大阪高裁判決の言渡し(被爆者たる地位は当該被爆者が日本に居住も現在もしなくなることにより当然に失われるものではないとして,在外被爆者への健康管理手当の支給を命じたもの)を受け,本件処分(2)前の平成16年9月28日には,上記規則が違法であるとする長崎地裁判決の言渡しを受けたことが認められ,この事実からすれば,厚生労働大臣等は,遅くとも本件処分(2)当時には,在外被爆者も在外のまま健康管理手当の認定を申請できるように上記規則を改正するなどして,その認定の事務に当たる都道府県知事(ただし,広島市長及び長崎市長を含む。)に対しその旨の運用を行うよう指導すべき義務を負っていたというべきであり,それにもかかわらず同義務を履行しなかった点で違法行為があったといえる。 しかし,証拠(乙3,4)及び弁論の全趣旨(ただし,法令については裁判所に顕著な事実である。)によれば,旧原爆二法は,被爆者健康手帳の交付申請については,日本国内に居住又は現在することを要件とする旨明文で規定していた(原子爆弾被爆者の医療等に関する法律3条)が,健康管理手当の認定申請については,これを要件とすることを明文で規定していなかった(原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律5条)ものの,同法律施行規則は,健康管理手当の認定申請は居住地の都道府県知事にしなければならないと規定していた(同規則24条)のであり,運用としても健康管理手当について国外からの認定申請を受理していなかったこと,被爆者援護法は,旧原爆二法を一本化して 居住地の都道府県知事にしなければならないと規定していた(同規則24条)のであり,運用としても健康管理手当について国外からの認定申請を受理していなかったこと,被爆者援護法は,旧原爆二法を一本化して制定されたものであること,被爆者援護法立法当時の国会審議において,在外被爆者が被爆者援護法の対象か否かについて,平成6年12月6日参議院厚生委員会会議において竹村泰子議員が質問をし,G政府委員が国内に居住する者を対象とする立場であると答弁し,平成6年- 23 -12月1日衆議院厚生委員会会議において岩佐恵美議員が在外被爆者も対象とすべきであると述べたのに対し,G政府委員が国内に居住する被爆者を対象として手当を支給すると考えている旨答弁したこと,これらの質問や答弁のほかには特に審議されないまま旧原爆二法と同様の規定を有する被爆者援護法が成立したこと,また,同法成立と同時に施行規則が制定され,以降これに従った運用がなされてきたこと,上記大阪高裁判決においても,健康管理手当の認定申請については,日本に居住又は現在することを要する旨判示していたこと,本件処分(2)当時,上記のような解釈を否定した裁判例は平成16年9月28日長崎地裁判決のみであり,これについても控訴審で審理中であったことが認められる。 上記のような事実にかんがみれば,厚生労働大臣等が,本件処分(2)当時,施行規則52条が適法であると認識し,これを改正する等の上記義務を履行しなかったことには,当時の状況下において,無理からぬ面があったといえるから,これについて厚生労働大臣等に過失があったとまではいえない(平成17年4月19日最高裁第三小法廷判決参照)。 (2)広島市長について広島市長は,法定受託事務として,健康管理手当の支給事務を行うものであったから,上記行政事務の準拠法令である施 はいえない(平成17年4月19日最高裁第三小法廷判決参照)。 (2)広島市長について広島市長は,法定受託事務として,健康管理手当の支給事務を行うものであったから,上記行政事務の準拠法令である施行規則52条に従って同事務を行わなければならず,これに反して在外被爆者からの認定申請を受理することは,法令上許されないことであった。したがって,施行規則52条が違法であったとしても,このことから直ちに本件処分(2)を行った広島市長に過失があったということはできない。 なお,一般に,行政庁が行政事務を行うに当たって準拠すべき規則が明らかに法律に違反すると判断できる等の特段の事情が認められる場合には,当該規則に従った行政事務であっても,その行為は国家賠償法上の過失に基づく違法行為に当たるといえる場合があると解せられるけれども,上記(1)に判- 24 -示した点,特に被爆者援護法制定の経過に照らせば,広島市長が,本件処分(2)当時,施行規則52条が被爆者援護法に明らかに違反するもので違法無効であると判断できたとまではいえない。したがって,本件処分(2)を行ったことについて広島市長に過失があったとする原告Bの主張は採用できない。 結論 よって,原告Aの本件処分(1)の取消しを求める訴えは,訴えの利益がなく不適法であるから,これを却下することとし,原告Aのその余の請求及び原告Bの請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第3部能勢顯男裁判長裁判官早田久子裁判官數間薫裁判官

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