令和4(わ)213 公職選挙法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年1月20日 広島地方裁判所
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判決文本文4,913 文字)

主文 被告人を罰金25万円に処する。 その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 被告人から金50万円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙に際し、広島県選出議員選挙の選挙人であり、かつ、同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者であるが、同人に当選を得しめる目的をもって、同人への投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら第1 平成31年3月27日頃、広島県山県郡B町CD番地E被告人後援会事務所において、前記Aの配偶者であるFから、現金30万円の供与を受けた。 第2 令和元年5月24日頃、B町GH番地IB町商工会において、同人から現金20万円の供与を受けた。 (証拠の標目)省略(事実認定に関する補足説明) 1 被告人は、判示の各日時場所で、Fから判示第1の30万円及び判示第2の20万円(以下、それぞれ「本件30万円」、「本件20万円」といい、併せて「本件現金」ともいう。)を受領したことは間違いないが、これらがAを当選させるための選挙運動に対する報酬の趣旨で交付されたものであるとは認識していなかったと弁解する。そこで、判示各事 実を認定した理由を補足して説明する。 2 証拠から認められる事実⑴ 被告人は、平成4年12月に実施された広島県議会議員補欠選挙で初当選した後4期連続で当選し、平成19年の選挙では落選したものの、平成27年4月の広島県議会議員一般選挙で再選し、任期満了後の平成31年3月29日告示の同選挙(以下、単に「県議会選挙」という。)にも立候補し、同年4月7日、当選し 19年の選挙では落選したものの、平成27年4月の広島県議会議員一般選挙で再選し、任期満了後の平成31年3月29日告示の同選挙(以下、単に「県議会選挙」という。)にも立候補し、同年4月7日、当選した。被告人は、平成31年当時、J党に所属し、J党広島県支部連合会(以下「県連」という。)の総務会副会長の立場にあった。被告人には、関係する政治団体としてJ党広島県地域活性化支部及び被告人後援会があった。 ⑵ 平成30年11月頃には、J党本部は、令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)で、定数2名の広島選挙区において、既に公認を得ていた現職の候補者に加えて、2人目の候補者を擁立することを検討しており、平成30年12月には、その旨の報道もされた。県連は、一貫してこれに反対していたが、平成31年3月13日、J党本部は、県連の反対を押し切ってAを公認し、同月20日、Aも立候補を表明した。このような経緯から、Aは、県連の支援を受けることができない状態で本件選挙に臨むことになった。被告人も、報道等により、同月27日までには、このような状況にあることを把握していた。 ⑶ 被告人は、平成31年3月27日頃、判示第1の後援会事務所で、Aの夫であり、当時、J党に所属する現職の衆議院議員であったFと面会し、同人から封筒に入った現金30万円を受け取った。なお、平成31年4月から令和元年5月にかけて提出された3通の県議会選挙の収支報告書(対象期間:平成31年2月3日から令和元年5月27日まで)にも、令和2年3月に提出された被告人の関連2団体の各収 支報告書(令和元年分)にも、F又は同人の政治団体(J党広島第三選挙区支部)からの寄付等により30万円の収入があったとの記載はされていない。 ⑷ 被告人は、令和元年5月2 連2団体の各収 支報告書(令和元年分)にも、F又は同人の政治団体(J党広島第三選挙区支部)からの寄付等により30万円の収入があったとの記載はされていない。 ⑷ 被告人は、令和元年5月24日頃、B町商工会の会議室で、Fと2人きりで面会した際、同人から封筒に入った現金20万円を手渡された。被告人は、本件選挙が近づいていたため、「時期が悪い。」と述べて受取りを拒否しようとしたが、Fが「いつものやつだから。」と言いながら執ように差し出してきたため、Fとの関係性を壊したくないと考え、これを受領した。なお、被告人の関連2団体の各収支報告書(令和元年分)には、F又は同人の政治団体からの寄付等により20万円の収入があったとの記載はされていない。 ⑸ 被告人は、平成27年に再選した後、Fから、毎年夏及び年末の時期に、いわゆる氷代・餅代名目でそれぞれ現金10万円の交付を受けていた。当初は、領収証の提出を求められていなかったが、平成29年以降、F側から、領収証が同封されて領収証の提出を求められるようになったため、被告人が関係する前記地域活性化支部の収支報告書にFの政治団体から供与された交付金に係る収入として記載するようになった。平成27年以降、被告人がその他の機会にFから現金等を受け取ったことはなかった。 ⑹ 被告人は、本件現金をそれぞれの封筒に入れたまま、自宅のクローゼット内に保管していたが、親戚の祝い事等新札が必要になった際には、これらの封筒から一万円札を一部抜き取って使用するとともに、手持ちの一万円札を同封筒に戻して総額が変わらないようにしていた。 3 検討⑴ 被買収の故意について前記のとおり、Aの選挙情勢が厳しい状況の中で、Aの夫であり、 J党所属の現職衆議院議員であるFが、広島県議会議員としての支持基盤を有 ていた。 3 検討⑴ 被買収の故意について前記のとおり、Aの選挙情勢が厳しい状況の中で、Aの夫であり、 J党所属の現職衆議院議員であるFが、広島県議会議員としての支持基盤を有する被告人の事務所をわざわざ訪れ、従前の氷代・餅代名目の現金とは時期や金額等の異なる本件30万円を渡してきたのであるから、県議会選挙の直前の時期であったことを踏まえても、Fが本件選挙でAを当選させるために選挙運動等の協力を依頼する報酬の趣旨を含んだものとして交付しているのではないかという程度のことは、被告人にも当然思い浮かんだものと強く推認できる。被告人がこのような認識を有していたことは、前記のとおり、例年の氷代・餅代名目の交付金を収支報告書に記載していたのに、本件30万円を受け取ったことを同じ収支報告書には記載せず、また、県議会選挙の収支報告書に計上していないことにも表れている。その後、本件選挙を約2か月後に控えた時期に、Fから2人きりで面会を求められ、本件20万円を手渡された際には、被告人も、本件選挙が近いことから「時期が悪い。」と述べて受け取りを拒否しようとしたのであるから、このときには、より強くAを当選させるための選挙運動等に対する報酬であろうと認識していたものと推認できる。このような認識があったと述べる被告人の起訴前の供述の信用性を肯定することができるから、被告人には、本件現金の受領について被買収の故意があったと認められる。 ⑵ これに対し、被告人は、公判では、要するに、本件30万円を受け取った状況に関する詳細な記憶はないが、時期からして、県議会選挙に関する費用としての寄付、すなわち陣中見舞いと思っていたはずであり、本件20万円については、例年の氷代・餅代であると思っていたなどと供述する。しかし、前記のとおり、県議会選挙の収 して、県議会選挙に関する費用としての寄付、すなわち陣中見舞いと思っていたはずであり、本件20万円については、例年の氷代・餅代であると思っていたなどと供述する。しかし、前記のとおり、県議会選挙の収支報告書に本件30万円を計上していないのは、陣中見舞いであることと全く整合しない。また、本件現金がいずれもFの政治団体からの交付金で あったとすると、例年の取扱いと異なり、被告人の関連2団体の各収支報告書にそれらが記載されていないことの説明がつかない。この点について、被告人は、本件現金がF個人からのものであるのか、その政治団体からのものであるのかが分からなかったから記載しないままにしていたところ、日が経つにつれ、本件現金を受領したこと自体を失念してしまったなどと供述する。しかし、政治活動に関して収支報告書の提出が求められている趣旨を熟知しているはずの現職の県議会議員である被告人が、このような現金の受領を失念するとはおよそ考え難い。また、被告人が述べるような理由で当初記載しなかったのであれば、Fから手渡された現金がそのいずれの立場によるものかを早急に確定するために照会するなどし、Fの回答によって領収証の発行やいずれの収支報告書に記載すべきか等を検討する必要があるのに、被告人はこのような処理を一切行っていない。被告人の公判供述は、不自然・不合理であり、前記認定を左右するような証拠価値を持たない。 ⑶ 以上の次第であり、判示各事実を認定した。 (法令の適用)罰条いずれも公職選挙法221条1 項4号、1号刑種の選択いずれも罰金刑を選択併合罪の加重刑法45条前段、48条2項(各罪所定の罰金の多額を合計。)労役場留置刑法18条追徴公職選挙法224条後段 いずれも罰金刑を選択併合罪の加重刑法45条前段、48条2項(各罪所定の罰金の多額を合計。)労役場留置刑法18条追徴公職選挙法224条後段(追徴に関する補足説明)本件現金が他の金銭と区別された形で特定されていることが明らかな場合には、これを供与を受けた利益として没収するべきである。しかし、 前記認定のとおり、本件現金の入った各封筒内で被告人の所持金と混同している上、被告人が検察官に任意提出した各封筒に入った合計50万円も既に被告人に還付されているから、本件現金が特定されていることが明らかな場合であるとはいえず、没収することができないので、同額の50万円を追徴する。被告人がFの事務所に50万円を現金書留で郵送したことは認められるが、供与を受けた50万円とは別に被告人が自己資金で準備したものであり、本件で供与を受けた利益そのものが移転したとみることはできないから、前記追徴の判断には影響しない。 (量刑の理由)本件は、現職の県議会議員であった被告人が、国政選挙に当たり、買収金の供与を受けたというものであり、選挙の公正を直接侵害し、議会制民主主義の根幹を危うくする犯行であって、選挙犯罪の中では悪質で重い類型である。本件現金の供与者が広島選挙区選出の現職の衆議院議員であって、受領を断りづらい関係にあり、実際にも受動的な態度で受領していること等の事情があるとはいえ、被告人は、県議会議員として、選挙の公正を強く意識すべき立場にあったのに、2回も買収金の供与を受けたのであるから、その意思決定は相応の非難に値する。 以上の犯情は決して軽視できるものではないが、前記態様のほか、検察審査会による起訴相当議決後に被告人が県議会議員を辞職していること等も考慮すると、被告人に対して の意思決定は相応の非難に値する。 以上の犯情は決して軽視できるものではないが、前記態様のほか、検察審査会による起訴相当議決後に被告人が県議会議員を辞職していること等も考慮すると、被告人に対しては、懲役刑ではなく、主文の罰金刑にとどめるのが相当であると判断した。 なお、弁護人は、公民権停止期間を短縮するのが相当であるとして、被告人の地元への貢献等の事情を主張する。しかし、Fから供与を受け、略式命令が確定している他の地方議会議員等に対する処分との均衡も踏まえると、これらの単なる一般情状を前記犯情等と合わせ考慮しても、被告人に対する公民権停止期間を短縮するのが相当であると評価できるほど の事情があるとはいえない。よって、主文のとおり判決する。 (検察官の求刑罰金25万円、追徴50万円)令和5年1月24日広島地方裁判所刑事第1部 裁判長裁判官石井寛 裁判官藤丸貴久 裁判官髙田優

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