平成14(ワ)12633 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成16年3月31日 東京地方裁判所
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判決文本文15,761 文字)

平成16年3月31日判決言渡平成14年(ワ)第12633号損害賠償請求事件判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金500万円及びこれに対する平成14年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,被告の開設するA病院(以下「被告病院」という。)において,狭心症及び陳旧性心筋梗塞の治療のためPTCA(経皮経管的冠動脈形成術)及びCAG(冠動脈造影)を受けたところ,その後,右側背胸部に放射線皮膚炎を発症したが,これは,被告病院の医師らが過量のエックス線の照射をした過失によるものであるとして,被告に対し,使用者責任に基づき,損害額合計1967万4689円の内金500万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成14年6月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めているのに対し,被告が争っている事案である。 1 争いのない事実等(1) 原告は,昭和21年10月6日生まれの男性であって,平成11年9月当時は52歳であった(甲A1,2,乙A1)。 被告病院は,被告が開設する病院であって,日本における基礎医学及び臨床医学の最高水準にある総合病院の一つである(争いのない事実,証人B)。 (2)ア原告は,平成6年11月14日,歩行時に生じた胸痛が1時間以上続き,意識不明確になったため,C病院に搬送され,下壁急性心筋梗塞の診断で入院し,CAG る(争いのない事実,証人B)。 (2)ア原告は,平成6年11月14日,歩行時に生じた胸痛が1時間以上続き,意識不明確になったため,C病院に搬送され,下壁急性心筋梗塞の診断で入院し,CAGを施行され,右冠動脈に50%の狭窄が認められ,薬物療法で治療することになり退院したが,その後も胸痛発作が出現し,ニトログリセリンの服用により軽快することを繰り返していた(争いのない事実,甲B1,乙A1,7)。 イ原告は,平成10年6月5日,胸痛が生じたため,再度C病院に入院し,同月8日,CAGが施行され,右肝動脈の完全閉塞,左前下行枝50%の狭窄等が認められたため,同月18日,右冠動脈の閉塞部位にPTCAが試みられたが,血管穿孔を起こしたため,治療が断念され,未治療のまま退院した。原告は,その後も胸痛発作を2,3回起こしていた(争いのない事実,甲A2,B1,乙A1,7)。 (3)ア原告は,同年7月16日,被告病院循環器内科を受診し,胸痛が続いたため,同年9月11日,被告病院に精査目的で入院した(争いのない事実,甲A1,乙A1,7)。 イ被告病院循環器内科の担当医師ら(以下単に「担当医師ら」という。)は,原告に対し,同月16日,CAGを施行した(以下「第1回CAG」という。)。その結果,原告の右冠動脈は閉塞部位が長く,その支配領域の心筋の多くは壊死していると判断されたことなどから,担当医師らは,原告についてPTCAの適用とは考えにくいと判断し,生活指導や薬物療法で治療することとし,原告は,同月17日,被告病院を退院した(争いのない事実,甲A1,B1,乙A1,7)。 (4)ア原告は,その後も被告病院に通院を続けたが,週に1,2回の胸痛がみられ,その頻度が増加するとともに,持続時間が延長し,疼痛も悪化したため いのない事実,甲A1,B1,乙A1,7)。 (4)ア原告は,その後も被告病院に通院を続けたが,週に1,2回の胸痛がみられ,その頻度が増加するとともに,持続時間が延長し,疼痛も悪化したため,担当医師らは,原告の胸部症状が心筋虚血に伴う狭心症状である可能性が否定できないことから,閉塞の解除により症状の軽減が得られる可能性を考え,平成11年4月6日にPTCAの施行を予定していた(争いのない事実,甲A1,B1,乙A2,7)。 イ原告は,同年3月26日,胸痛,冷汗の症状が出現し,ニトログリセリン噴霧によっても改善がみられないため,被告病院に緊急入院した。原告は,ニトロールの静脈注射により胸痛は消失したが,上記PTCAの予定があったため,入院を継続し,同年4月6日にPTCAを受けた(以下「第1回PTCA」という。)。原告には,右冠動脈に血栓による約6センチメートルの完全閉塞部位が認められ,ステント3個を留置し,後下行枝までの閉塞の解除に成功したが,房室枝の狭窄の解除は困難であった。原告は,同月9日,被告病院を退院した(争いのない事実,甲A1,B1,乙A2,3,7)。 ウ原告は,その後しばらく症状は改善していたが,同月17日午後,上腹部から前胸部にかけて広範囲にわたって痛みを覚え,被告病院救急外来を受診したほか,その後も,週1回程度,風呂上がりや階段昇降時に胸痛が出現したが,ニトログリセリンによって軽快していた(乙A3,7)。 エ原告は,被告病院に,同年8月24日から26日まで,PTCA4箇月後の再検査目的で入院し,担当医師らは,原告に対し,同月25日,CAG(以下「第2回CAG」という。)を施行した。その結果,原告には,前回のPTCAの際のステント留置部位について再閉塞が認められたので,担当医師ら で入院し,担当医師らは,原告に対し,同月25日,CAG(以下「第2回CAG」という。)を施行した。その結果,原告には,前回のPTCAの際のステント留置部位について再閉塞が認められたので,担当医師らは,原告に対し,再度PTCAを行うこととし,原告は,同年9月27日に被告病院に入院し,翌28日PTCAを受けた(以下「第2回PTCA」という。)が,閉塞部をガイドワイヤーが通過できなかったため,閉塞の解除は断念された(争いのない事実,甲B1,乙A3,4,7)。 (5)ア原告は,同年10月上旬ころから右側背胸部に疼痛が出現し,次第に悪化して,水疱形成も認められたため,同年11月3日,被告病院皮膚科を受診したところ,右側背胸部に5×10センチメートルの色素沈着及び脱失,毛細血管拡張,皮膚萎縮を伴う紅褐色局面が認められ,その中央部には径6センチメートルのびらん及び径1センチメートルの潰瘍形成が認められ,同月4日,心臓カテーテルの際のエックス線照射による放射線皮膚炎と診断された(争いのない事実,甲A6,B1,2,乙A5,7)。 イ原告は,その後,保存的治療を受けていたが,中心部の上皮化が生じなかったため,平成12年12月13日,被告病院皮膚科に入院し,右側背胸部潰瘍中心部の組織を摘出する右側背胸部潰瘍部デブリドマン術を施行された。原告は,さらにその後も中心部が上皮化しなかったため,平成13年4月16日,被告病院皮膚科に入院し,同月18日,皮膚炎部の皮膚及び皮下の後背筋の一部を切除し,大腿部から皮膚移植を行う,右側背胸部潰瘍部デブリドマン,後背筋弁形成,分層植皮術を施行された(争いのない事実,甲B1,乙A5ないし7)。 (6) なお,担当医師らは,本件について,平成12年11月15日発行の学会誌「呼吸と循環」第48巻第11 ,後背筋弁形成,分層植皮術を施行された(争いのない事実,甲B1,乙A5ないし7)。 (6) なお,担当医師らは,本件について,平成12年11月15日発行の学会誌「呼吸と循環」第48巻第11号に「カテーテル治療における放射線皮膚炎」と題する症例報告(以下「本件症例報告」という。)を発表している(争いのない事実,甲B1,乙A7,B2,証人B)。 2 争点(1) 担当医師らに,被告病院において原告に対して施行されたPTCA及びCAG(以下併せて「本件各施術」という。)に伴うエックス線照射によって放射線皮膚炎が生じる危険を予見し,かつ,これを避けるべき義務に違反した過失があったか否か。 (2) 本件各施術に先立って,これに伴う被曝線量を調査し,撮影時間,透視時間に一般的基準を設けた上で,原告に対して本件各施術を行うべき義務があったか否か。 (3) 損害及び因果関係(判断の必要がなかった。)。 3 争点についての当事者の主張(1) 争点(1)(担当医師らに,本件各施術に伴うエックス線照射によって放射線皮膚炎が生じる危険を予見し,かつ,これを避けるべき義務に違反した過失があったか否か)について(原告の主張)ア被告病院は,日本における基礎医学及び臨床医学における最高権威であり,国家予算で運営されている国立大学医学部附属病院であるし,担当医師らはPTCA及びCAGの専門家である。かかる被告病院の担当医師らにおいては,常に現状の医療水準を向上させ,患者に対し最善の医療を受けさせるべくより安全,より効果のある治療方法を研究し実践していくべきである。 イ放射線が人体に照射されると,人体に生物学的変化を起こし,細胞の分裂阻害,突然変異,死滅,組織の破壊等の現象を生じ,種々の放 ,より効果のある治療方法を研究し実践していくべきである。 イ放射線が人体に照射されると,人体に生物学的変化を起こし,細胞の分裂阻害,突然変異,死滅,組織の破壊等の現象を生じ,種々の放射能障害が発生することは古くから知られている。 さらに,被曝線量の程度と障害については,人は約10Gyのエックス線を全身に照射されると数日で死亡するとされており,10Gyの半分程度のエックス線を全身照射されると,50%以上は死亡すると考えられるのであって,局部照射であっても合計7Gyを被照射部位に照射すれば少なくとも50%以上の確率で重大な放射線障害が生じると考えられるところ,本件各施術による原告に対する放射線量は,本件症例報告によっても,合計7.28284Gyとされており,第2回PTCAだけでも4.3584Gyの局部照射であったのであるから,原告に少なくとも50%以上の確率で重大な放射線障害が生じることは,通常人であっても当然に予見できたはずである。 ウしかも,PTCAに際して行われるエックス線照射による放射線皮膚炎の発症例は,本件各施術に先立つ平成8年に既に4件報告されていた。 エしかるに,担当医師らは,原告に対し,第2回PTCAにおいて,少なくとも3時間もほとんど同一方向からエックス線を照射して透視を続けた。文献によれば,平成5年当時のPTCAにおける平均透視時間は,18.7分にすぎなかったところ,担当医師らは,第2回PTCAにおいて,上記平均透視時間の約10倍もの時間をかけて,原告に対してエックス線を照射した。 オ以上によれば,担当医師らは,本件各施術によって,原告に対し,放射線皮膚炎を発症させ,健康に有害な結果がもたらされることを当然予見できたのであって,それにもかかわらず,担当 射した。 オ以上によれば,担当医師らは,本件各施術によって,原告に対し,放射線皮膚炎を発症させ,健康に有害な結果がもたらされることを当然予見できたのであって,それにもかかわらず,担当医師らが原告の放射線皮膚炎発症を回避するための措置を何ら講じなかったことには,過失がある。 (被告の主張)ア本件各施術当時においては,CAG及びPTCAによる放射線皮膚障害については,医療関係者においてほとんど知られていなかった。CAG及びPTCAは,昭和45年ころから広く普及し,現在では年間数万件が実施されているが,本件症例報告に際して調査したところ,放射線皮膚障害の報告は,平成8年の4件が最初であり,その後も平成12年ころまでに20例足らずが報告されているにすぎなかった。それは,バルーンやガイドワイヤーの改良によって,末梢の複雑病変や慢性完全閉塞病変に対してもPTCAが実施される手技が確立したのは,平成10年ころのことであり,それ以降,時間をかけることで上記病変に対しPTCAが施行可能になってきたことから,放射線照射期間が長くなり,それによって放射線皮膚障害例が出てきたためであると考えられる。被告病院においてもCAG,PTCAによる放射線皮膚障害が生じたのは,本件が初めてであり,珍しいものであったことから,今後の注意を喚起するためにも本件症例報告を行ったものである。 イ被曝線量は,エックス線照射装置によっても,照射時間,照射部位,照射角度等によっても異なるものであって,放射線量を測定するには,施術時に被曝線量を測定するしかないが,本件各施術当時はもちろんのこと現在においても,被告病院に被曝線量を測定する装置はないし,透視時間や撮影時間によって被曝線量を算定するデータもない。本件症例報告において,本件各施 測定するしかないが,本件各施術当時はもちろんのこと現在においても,被告病院に被曝線量を測定する装置はないし,透視時間や撮影時間によって被曝線量を算定するデータもない。本件症例報告において,本件各施術の推定被曝線量を算出するに当たっては,実験的に,本件各施術と同じ装置を用い,施術当時と同様に人形のようなものを置き,線量計を挟んで,透視時及び撮影時の線量を測定し,その値に,撮影フィルムから算定した撮影時間及び撮影時間から推定される透視時間を乗じて算出したもので,事後的に,実験的な推定を行ったにすぎない。 ウ原告は,被告病院受診前にも,C病院において,CAGを2回,PTCAを1回受けており,被告病院において,C病院を含めて原告にかかる被曝線量を把握することは不可能であった。 エ原告は,第2回PTCAにおける透視時間が3時間であったと主張するが,第2回PTCAにおける推定透視時間は30分弱程度であるし,また,原告に対する被曝線量が把握できない以上,平均透視時間の何倍であったからといって,担当医師らにおいて,原告に放射線皮膚障害が発生することを予見することが可能であったとはいえない。 オ原告の主張するエックス線照射による致死率等は,いずれも,全身に,短時間で照射した場合を前提とするものであるのに対し,本件は,透視及び撮影の際の部分照射において長期にわたって被曝線量が加算されたケースであって,事案を異にするし,原告の主張は,吸収線量(Gy)と照射線量(r)を混同しており,原告の引用する文献の記載からも,10Gyの半分程度のエックス線を全身照射すれば,50%以上は死亡するとの推論ができるものではない。 カ担当医師らは,本件各施術において,放射線障害の抽象的な可能性は認識した上で,エックス線照射を必 程度のエックス線を全身照射すれば,50%以上は死亡するとの推論ができるものではない。 カ担当医師らは,本件各施術において,放射線障害の抽象的な可能性は認識した上で,エックス線照射を必要最小限にとどめるなどの工夫を行っていた。 キしたがって,本件各施術当時,PTCA及びCAGによる放射線皮膚障害については,医療関係者において,ほとんど知られておらず,原告の被曝線量を正確に把握することも不可能であったから,担当医師らにおいて,原告に放射線皮膚炎が発症する具体的危険を予見することは不可能であったのであり,また,担当医師らは,本件各施術に当たっても,エックス線照射を最小限にとどめるなど一般に必要とされる措置をとっていたのであって,担当医師らには過失はない。 (2) 争点(2)(本件各施術に先立って,これに伴う被曝線量を調査して,撮影時間,透視時間に一般的基準を設けた上で,原告に対して本件各施術を行うべき義務があったか否か)について(原告の主張)ア前記(1)原告の主張アのとおり,被告病院の担当医師らにおいては,常に現状の医療水準を向上させ,患者に対し最善の医療を受けさせるべくより安全,より効果のある治療方法を研究し実践していくべきである。 イ本件各施術は,単に撮影だけではなく,透視のためにもエックス線を人体に照射して行うものであるから,患者の被曝線量が相当なものとなることは,容易に認識し得ることであり,放射線の人体に対する影響の重大性は公知のことであるのだから,本件各施術を実施する担当医師らは,医療及び医療外の被曝症例について国の内外を問わず広く資料を収集,検討し,本件各施術に伴う被曝線量について調査をし,許容される透視時間,撮影時間等についての一般的基準を設け,さらには個別 医師らは,医療及び医療外の被曝症例について国の内外を問わず広く資料を収集,検討し,本件各施術に伴う被曝線量について調査をし,許容される透視時間,撮影時間等についての一般的基準を設け,さらには個別的に患者の過去の治療過程をも考慮し,あるいは術前に線量計を用いて患者に対する被曝線量を推計して,当該患者に対するPTCA及びCAGを実施すべきか否かを検討した上で,これらを実施する義務があるというべきである。 しかしながら,担当医師らは,事前に十分な調査をしてこれらの基準を設けることも,原告について個別的な検討をすることも,線量計を用いて原告に対する被曝線量を推計しておくことも怠って,原告に対し本件各施術を実施したものであって,担当医師らには過失がある。 (被告の主張)上記(1)(被告の主張)のとおり,担当医師らを含め,被告病院においては,本件各施術当時,PTCA等によって放射線皮膚炎等の症状が発症する具体的危険を予見することが不可能であったから,被曝線量を調査して,撮影時間,透視時間に一般的基準を設けるべき義務はなかったし,担当医師らは,本件各施術に当たってエックス線照射を最小限にとどめるなど一般に必要とされる措置をとっていたのであるから,担当医師らに過失はない。 (3) 争点(3)(損害額及び因果関係)について(原告の主張)ア原告は,本件各施術の結果,当初から患部に激しい痛みを感じ,平成11年11月から平成13年4月ころまで被告病院皮膚科に週2回程度,特に痛みのひどいときには1日に2,3回も,通院し,塗り薬の塗布を受けていた。 また,原告は,同月18日には被告病院形成外科において右側背胸部潰瘍部デブリドメント等の施術を受けたが,その後,原告の患部の痛みはさらに 2,3回も,通院し,塗り薬の塗布を受けていた。 また,原告は,同月18日には被告病院形成外科において右側背胸部潰瘍部デブリドメント等の施術を受けたが,その後,原告の患部の痛みはさらに激しくなり,同年5月ころからは被告病院循環器内科で週1回程度,特に痛みがひどいときは緊急病棟でペンタジンという痛み止め注射を打つなどの治療を受けるとともに,被告病院皮膚科にも月1回程度通院した。原告は,平成14年4月からは,被告病院麻酔科痛みセンターで週1回程度痛み止めの治療を受けている。 さらに,原告は,呼吸器等にも異常を感じ,被告病院呼吸器内科及び消化器内科でも検査を受けている。 加えて,原告は,同年8月には右上肢を使えなくなり,同月22日,右上肢機能障害(4級)との身体障害者診断を受けた。この間,原告の放射性皮膚炎の患部は拡大を続けている。 イ担当医師らの過失による原告の損害は,以下のとおりである。 (ア) 通院慰謝料 190万円(イ) 放射線皮膚炎が難治性の障害であり,将来皮膚癌を発症する可能性があるなど,生命を危険にさらされることとなったことによる精神的苦痛に対する慰謝料  1500万円(ウ) 逸失利益  277万4689円原告は,本件の放射線皮膚炎発症により,従前からの心臓病による労働能力の低減を考慮しても,少なくとも5%の労働能力を喪失した。 (計算式)560万6000円(平成12年男子労働者学歴計全年齢平均賃金)×5%(労働能力喪失率)×9.899(発症時の53歳から67歳までの就労可能年数14年に相当するライプニッツ係数)=277万4689円(エ) 合計 子労働者学歴計全年齢平均賃金)×5%(労働能力喪失率)×9.899(発症時の53歳から67歳までの就労可能年数14年に相当するライプニッツ係数)=277万4689円(エ) 合計 1967万4689円ウ一部請求原告は,上記損害のうち金500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年6月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)争う。 ア原告は,平成13年4月18日の皮膚移植手術後,移植片は生着し,創部も徐々に肉芽化し経過は順調であったが,同年5月13日,原告が創部をぶつけたことから,広範囲に出血,びらんが生じたものの,同年7月4日,完全に上皮化し,同月10日に退院となった。その後,原告の放射性皮膚炎部分にはびらんは認められていないし,原告への植皮は完全に生着しており,放射線皮膚炎は悪化していない。なお,一般に植皮手術においては,術後,収縮していた植皮が伸張することがあり,これは病変の進行を意味するものではない。 イ原告は,被告病院呼吸器内科及び消化器内科を受診しているが,これらの受診は,本件の放射線皮膚炎によるものではない。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)について(1) 証拠(甲B1,乙A7,B1,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,CAG及びPTCAについて以下の事実が認められる。 ア CAGとは,通常,足の付け根あるいは腕の動脈からカテーテルを挿入し,カテーテルの先端が冠動脈の入り口に達したら,造影剤をカテーテルを通じて注入し,冠動脈に造影剤が広がる様子をエックス線透視によって観察することで冠動脈の走行を見るという検査である。カテーテルを冠動脈 カテーテルの先端が冠動脈の入り口に達したら,造影剤をカテーテルを通じて注入し,冠動脈に造影剤が広がる様子をエックス線透視によって観察することで冠動脈の走行を見るという検査である。カテーテルを冠動脈まで挿入する際には,正しく進行しているかをエックス線透視によって確認しながらカテーテルを進行させていき,造影剤を注入する時点から造影剤が流れ去るまで,長くて1回に10秒間程度,通常は左右の冠動脈をそれぞれ角度を変えて2方向ずつ撮影を行うものである。エックス線は,患者の背中側から当て,胸の側にある装置(イメージインテンシファイヤー)で像を映し出す仕組みになっており,右冠動脈を透視,撮影する場合には,背中の右斜め下から胸の左側に向けてエックス線を照射することになる。 イ PTCAは,CAGと同様の装置の下で,ガイドワイヤーを冠動脈の狭窄部,閉塞部に通し,ガイドワイヤーを芯にして,先端に風船が仕込まれたカテーテルを入れていき,狭窄部ないし閉塞部にカテーテルの先端が達したら,空気を入れて風船を膨らませ,血管の壁を押し広げ,風船の空気を抜くと血管が収縮するときには,ステントというステンレスの金網様のものを留置するという術である。その後,造影剤を注入し,狭窄部ないし閉塞部が開通しているか確認する。 PTCAを行うに当たっては,ガイドワイヤー及びカテーテルの挿入の際に,CAGと同様に正しく進行しているかをエックス線透視によって確認し,風船を膨らませるとき及び開通しているかを確認するときなど要所要所において撮影を行う。 ウなお,全国的に,CAG及びPTCAを実施するのは,循環器科ないし内科の医師であって,放射線科の医師がかかわることはほとんどない。 (2) 証拠(甲B1,乙A7,証人B)によれば,本件各施術当時ま ,全国的に,CAG及びPTCAを実施するのは,循環器科ないし内科の医師であって,放射線科の医師がかかわることはほとんどない。 (2) 証拠(甲B1,乙A7,証人B)によれば,本件各施術当時までのCAG及びPTCA(これらを併せて「心臓カテーテル術」ということもある。)による放射線皮膚炎の症例及び知見並びにこれらについての担当医師らの認識について,以下の各事実が認められる。 ア心臓カテーテル術は,昭和45年ころから広く普及し,被告病院においては,CAGは同年から,PTCAは昭和60年から施行されている。 イ CAG及びPTCAの導入当初には,心臓カテーテル術における放射線照射による副作用についての議論はあまりされていなかったが,心臓カテーテル術は,エックス線を用いた診断方法としては最も被曝線量が高いものであり,心臓カテーテル術に伴う被曝線量は,計算法によりばらつきがみられるが,平成5年の2つの報告によれば,CAGは,1回当たり0.6ないし1.4Gy,PTCAは,1回当たり1.2ないし3.7Gyとされており,また,平成5年の報告によれば,被爆線量が10ないし12Gyを超えると慢性放射線皮膚障害が起こるとされている。 ウ現在では,年間2,3万例のPTCAが実施され,これと同数かそれ以上のCAGが実施されているのに対し,心臓カテーテル術による放射線皮膚炎は,平成8年に海外で初めて4例が報告され,その後も,平成10年に日本で2例が初めて報告されたのであって,平成11年までに報告されたのはこれらを併せて合計6報告17例にすぎない。 心臓カテーテル術に伴う慢性放射線皮膚障害は,複数回のCAG,PTCAを繰り返した後に生じる場合が多く,少量の線量を長期間にわたり被曝して生じたものであると考え 告17例にすぎない。 心臓カテーテル術に伴う慢性放射線皮膚障害は,複数回のCAG,PTCAを繰り返した後に生じる場合が多く,少量の線量を長期間にわたり被曝して生じたものであると考えられるが,平成8年以降,心臓カテーテル術による放射線皮膚炎が報告され始めたのは,CAGの場合は,多方向からの透視,撮影が行われるのに対し,PTCAでは特定の方向からの長時間の照射が行われることが多く,また,近年ではバルーンやガイドワイヤーの改良によって,末梢の複雑病変や慢性完全閉塞病変に対してもPTCAが試みられるケースが多くなり,その結果,放射線照射期間が長くなったためであると考えられる。 エ上記各報告のうち,平成8年の報告は,海外の皮膚科専門医が皮膚科の雑誌「アーカイブス・デルマトロジー」に発表したものであり,平成9年にされた報告も同誌に掲載されたものである。平成10年に日本で初めて報告された1例は,D大学の医師らによって,皮膚科の雑誌である「皮膚臨床」に発表されたものであり,平成11年にはE医大の医師らによって,皮膚科の雑誌である「ブリテイッシュ・ジャーナル・デルマトロジー」に3例が報告されている。 これに対し,循環器関係の雑誌には,「心血管インターベンション」に,平成10年に1例が報告され,「Heart」に2例が報告されたが,前者はいわゆる商業誌であって,学会等が発行する権威ある雑誌ではないし,後者が本件各施術以前に担当医師らの下に届く状態にあったかは不明である。 オ本件各施術時までに,心臓カテーテル術の放射線照射による副作用について認識していた日本の大学ないし病院は,D大学医学部等上記エにおいて報告を行ったところに限られていた。 本件各施術時までに,心臓カテーテル術の放射線照 術の放射線照射による副作用について認識していた日本の大学ないし病院は,D大学医学部等上記エにおいて報告を行ったところに限られていた。 本件各施術時までに,心臓カテーテル術の放射線照射による副作用については,放射線関係及び皮膚科の学会ないし研究会において議論されたことはあったが,循環器関係の学会においては議論されたことはなかったし,循環器学会その他の学会において,本件症例報告後今日まで,心臓カテーテル術の放射線照射による副作用についてのガイドラインや統一的見解はまとめられていない。 カ担当医師らは,心臓カテーテル術における放射線の照射量が通常のエックス線撮影と比べて多いこと,一般的に放射線照射によって障害が起こる可能性があることは認識していたし,被曝線量が10ないし12Gyを超えると放射線皮膚障害を生じる可能性があるとの認識もあったが,原告に放射線皮膚炎が発症するまで,心臓カテーテル術による放射線皮膚障害発症の報告について全く認識していなかった。 (3) 証拠(乙A7,B1,証人B)によれば,CAGないしPTCAを実施する際の被曝線量の測定方法等について,以下の各事実が認められる。 ア本件各施術当時,被曝線量を測定する装置は,日本国内には存在しなかった。CAGないしPTCAにおける患者の被曝線量は,エックス線照射装置によっても,照射時間,照射部位,照射角度,照射距離によっても異なるし,エックス線照射装置が,一定の明るさが得られるよう,患者の体格によって,電圧,電流,照射時間を自動調節する上に,実際の照射量について装置に表示されているわけではなく,さらにエックス線の照射量が判明したからといって,直ちに被曝線量が判明するものではない。 イ本件症例報告に当たって行われた線量計による の照射量について装置に表示されているわけではなく,さらにエックス線の照射量が判明したからといって,直ちに被曝線量が判明するものではない。 イ本件症例報告に当たって行われた線量計による被曝線量の測定は,プラスチックの人形に線量計を張り付けて実験的に行ったものであるが,CAGないしPTCAを実施する際には,患者の体に線量計を張り付けると画像を見る妨げになるので行うことができない。 ウしたがって,患者の被曝線量の正確な把握は,極めて困難である。 (4) 証拠(甲B1,乙A1ないし4,7,B2,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,本件各施術における検査ないし施術時間,術後に概算した推定透視時間,推定撮影時間及び推定被曝線量は以下のとおりであり,本件各施術の合計推定被曝線量は,7.28284Gyである。 ア第1回CAG検査時間55分間,推定透視時間16.4分,推定撮影時間36.7秒,推定被曝線量0.72571Gyイ第1回PTCA施術時間4時間25分,推定透視時間66.9分,推定撮影時間378.9秒,推定被曝線量4.35843Gyウ第2回CAG検査時間30分間,推定透視時間22.2分,推定撮影時間44.0秒,推定被曝線量0.94772Gyエ第2回PTCA施術時間2時間30分,推定透視時間29.2分,推定撮影時間58. 6秒,推定被曝線量1.25098Gyなお,証拠(乙A2,7,証人B)によれば,上記イの第1回PTCAが多くの時間を要したのは,血管の閉塞部分が長かった上に,閉塞してから約1年半が経過しており,血栓が固くなっており,また,C病院でPTCAの最中にガイドワイ 証人B)によれば,上記イの第1回PTCAが多くの時間を要したのは,血管の閉塞部分が長かった上に,閉塞してから約1年半が経過しており,血栓が固くなっており,また,C病院でPTCAの最中にガイドワイヤーによって血管穿孔を起こしたことがあったことから慎重に手技を進めたためであると認められ,その他本件各施術において,担当医師らが不必要に長い時間をかけたと認めるに足りる証拠はなく,かえって,証拠(証人B)によれば,透視,撮影時間を可能な限り限定して本件各施術が行われたものと認められる。 以上に対して,本件各施術に先立ちC病院で実施された2回のCAG及び1回のPTCAについては,そもそもそのデータが被告病院へ伝えられておらず,担当医師らも本件各施術当時,C病院でのデータを認識していなかったし,現在も不明である。 (5) 原告の放射線皮膚炎発症の機序について,証拠(甲B1,乙A7,証人B)によれば,以下のとおり認められる。 ア原告に対しては,本症例では,C病院及び被告病院を合わせてCAG4回,PTCA3回が施行されており,被告病院で行われた本件各施術における推定被曝線量は7.2Gyであるが,前医であるC病院での被曝も含めれば,合計は10Gyを超えていたものと推定される。 イまた,C病院を含め3回のPTCAは,すべて右冠動脈の慢性完全閉塞病変に対するものであり,特定方向からの透視,撮影が長時間に及んだものと考えられる。 ウ上記(2)認定のとおり,心臓カテーテル術に伴う慢性放射線皮膚障害は,複数回のCAG,PTCAを繰り返した後に生じる場合が多く,少量の線量を長期間にわたり被曝して生じたものであると考えられるのであって,原告の放射線皮膚炎発症も,C病院及び被告病院における合計7回のCAG及び CAG,PTCAを繰り返した後に生じる場合が多く,少量の線量を長期間にわたり被曝して生じたものであると考えられるのであって,原告の放射線皮膚炎発症も,C病院及び被告病院における合計7回のCAG及びPTCAで被曝した放射線の総計が,閾値を超えたために発症したものと考えられる。 (6) 以上の各事実を前提に,担当医師らは原告の放射線皮膚炎発症を予見できたか否かについて検討する。 ア上記(2)に認定したとおり,心臓カテーテル術による放射線皮膚障害は,平成8年以降初めて報告され,その数も,CAGないしPTCAの実施件数と比較すると極めてわずかであったこと,その多くが皮膚科の専門雑誌に発表されたにすぎないこと,循環器関係の雑誌には,必ずしも権威があるとはいえない商業誌に1例が,本件各施術当時担当医師らの下に届く状態にあったか不明の雑誌に1例が,それぞれ掲載されていたにすぎないこと,心臓カテーテル術を扱う医師が参加している循環器関係の学会においては,本件症例報告まで,全くこの点について議論されていなかったことからすれば,被告病院が,日本における基礎医学及び臨床医学における最高権威の一つであることを考え併せても,被告病院ないし担当医師らにおいて,心臓カテーテル術による放射線皮膚炎発症を具体的に予見できたとはいい難い。 イさらに,上記(3)ないし(5)認定のとおり,心臓カテーテル術における具体的な被曝線量の算定は極めて困難である上,本件においては,原告は,前医であるC病院における3回の心臓カテーテル術を受けており,その際の放射線被曝も,原告の放射線皮膚炎発症に影響していると考えられるところ,C病院における被曝線量は被告病院には全く不明であったのであり,この点からも,被告病院ないし担当医師らにおいて,原告の放射線皮膚炎 線被曝も,原告の放射線皮膚炎発症に影響していると考えられるところ,C病院における被曝線量は被告病院には全く不明であったのであり,この点からも,被告病院ないし担当医師らにおいて,原告の放射線皮膚炎発症を予見できたとは認められない。 ウしたがって,担当医師らにおいて,原告の放射線皮膚炎発症を具体的に予見することができたとは認められないし,担当医師らは,透視,撮影時間を可能な限り限定して本件各施術を行ったものと認められるから,担当医師らに過失を認めることはできない。 エ以上に対し,甲B6の1には,「人は約10Gyのエックス線を全身照射すると数日で死亡する」との記載があり,甲B8には,急性放射能症について,「人体が全身に短時間内にγ線,中性子などを150r(rは放射線の単位-レントゲンと呼ぶ)受けると50%のものが病状を起こし,225rでは100%のものが病状を起こして苦しむ。全身照射250rに及ぶと5%のものが死亡し,400rだと50%死亡,600rだと100%死亡すると理解されている」との記載があるが,これらは,いずれも全身に短時間内に放射線を受けた場合の急性放射能症についての記載であって,慢性放射線皮膚炎を発症した本件において妥当するか否か明らかではないし,照射量と被曝線量との関係も明らかではなく,かかる記載があるからといって,原告が主張するように,10Gyの半分程度のエックス線を全身照射すれば,50%以上は死亡するとか,局部照射であっても合計7Gyを被照射部位に照射すれば少なくとも50%以上の確率で重大な放射線障害が生じるなどという推論をすることはできないのであって,上記認定を左右するものではないし,その他原告の主張は単なる漠然とした危惧感があったことをもって予見可能性を論じるものであっていずれも採用でき が生じるなどという推論をすることはできないのであって,上記認定を左右するものではないし,その他原告の主張は単なる漠然とした危惧感があったことをもって予見可能性を論じるものであっていずれも採用できない。 2 争点(2)について(1) 上記1において判示したとおり,被告病院ないし担当医師らにおいて,心臓カテーテル術によって放射線皮膚障害が生ずるとの事例を知らなかったし,放射線皮膚障害の発症を具体的に予見できたとはいい難い。 この点,被告病院は,日本における基礎医学及び臨床医学における最高権威の一つであり,国家予算で運営されている国立大学医学部の附属病院であって,かかる被告病院においては,常に現状の医療水準を向上させ,患者に対し最善の医療を受けさせるべくより安全,より効果のある治療方法を研究し実践していくことが要請されていることは,原告主張のとおりであるけれども,だからといって,すべての医学文献上の情報を収集することやそれまでに医学上問題とされていなかった事項について具体的症例を認識していないのにこれを問題視して対策を立てる法的義務までを負担させることはできないのであって,担当医師らにおいて,上記各症例を認識していなかったことを過失と評価することはできないし,具体的な症例報告を認識していないのに,心臓カテーテル術に伴う被曝線量について調査をし,許容される透視時間,撮影時間等についての一般的基準を設け,個別的に患者の過去の治療過程をも考慮し,あるいは術前に線量計を用いて患者に対する被曝線量を推計して,当該患者に対する心臓カテーテル術を実施すべきか否かを検討した上で,これを実施する義務があったとは到底いえない。 (2) したがって,かかる点についても担当医師らには過失がない。 3 以上によれば,その余の点に テーテル術を実施すべきか否かを検討した上で,これを実施する義務があったとは到底いえない。 (2) したがって,かかる点についても担当医師らには過失がない。 3 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官前田順司 裁判官池町知佐子 裁判官増尾崇・

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