平成13(ワ)1763 配当異議事件

裁判年月日・裁判所
平成15年2月24日 神戸地方裁判所
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判決文本文30,387 文字)

主文 1 神戸地方裁判所が,同庁平成12年(ケ)第714号船舶競売事件及び同第772号船舶競売事件について作成した,平成13年8月13日付別紙配当表のうち,(1) 被告トキヤ興産株式会社に対する配当実施額3591万5775円を,3493万9275円に変更する。 (2) 被告昌永産業株式会社に対する配当実施額元本419万2976円及び遅延損害金21万4196円全額を取り消す。 (3) 被告東洋コーポレーション株式会社に対する配当実施額元本645万6587円及び遅延損害金17万2297円を,元本55万8317円及び同元本に対する遅延損害金2万5331円に変更する。 2 原告の被告トキヤ興産株式会社及び被告東洋コーポレーション株式会社に対するその余の請求を棄却する。 3 原告の被告株式会社りゅうせき,被告筑豊砿産株式会社,被告株式会社上組,被告A,被告B,被告C,被告D,被告E,被告F及び被告Gに対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,原告に生じた費用については,その15分の1を被告昌永産業株式会社及び被告東洋コーポレーション株式会社の負担とし,その余は原告の負担とし,被告昌永産業に生じた費用については同被告の負担とし,被告株式会社東洋コーポレーション株式会社に生じた費用については同被告の負担とし,その余の被告らについて生じた費用はすべて原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求神戸地方裁判所が,同庁平成12年(ケ)第714号船舶競売事件(以下「714号事件」という。)及び同第772号船舶競売事件(以下「772号事件」という。)について作成した,平成13年8月13日付別紙配当表(以下「本件配当表」という。)のう 14号船舶競売事件(以下「714号事件」という。)及び同第772号船舶競売事件(以下「772号事件」という。)について作成した,平成13年8月13日付別紙配当表(以下「本件配当表」という。)のうち, 1 被告株式会社りゅうせき(以下「被告りゅうせき」という。)に対する配当実施額元本998万2000円及び遅延損害金62万1892円全額を取り消す。 2 被告トキヤ興産株式会社(以下「被告トキヤ」という。)に対する配当実施額3591万5775円全額を取り消す。 3 被告筑豊砿産株式会社(以下「被告筑豊砿産」という。)に対する配当実施額7642万8240円全額を取り消す。 4 被告昌永産業株式会社(以下「被告昌永産業」という。)に対する配当実施額元本419万2976円及び遅延損害金21万4196円全額を取り消す。 5 被告東洋コーポレーション株式会社(以下「被告東洋コーポレーション」という。)に対する配当実施額元本645万6587円及び遅延損害金17万2297円全額を取り消す。 6 被告株式会社上組(以下「被告上組」という。)に対する配当実施額595万5064円を,9万0352円に変更する。 7 被告Aに対する配当実施額428万3559円を,216万1859円に変更する。 8 被告Bに対する配当実施額215万7979円を,145万5979円に変更する。 9 被告Cに対する配当実施額190万9985円を,140万9795円に変更する。 10 被告Dに対する配当実施額230万3455円を,91万8855円に変更する。 11 被告Eに対する配当実施額335万8109円を,199万0589円に変更する。 12 被告Fに対する配当実施額272万2948円を,163万 円を,91万8855円に変更する。 11 被告Eに対する配当実施額335万8109円を,199万0589円に変更する。 12 被告Fに対する配当実施額272万2948円を,163万8878円に変更する。 13 被告Gに対する配当実施額242万6699円を,100万2569円に変更する。 第1 事案の概要本件は,汽船「ぎおん丸」(以下「本件船舶」という。)の共有者である原告が,本件船舶の船舶競売事件(714号事件及び772号事件。以下「本件競売事件」という。)の配当期日において,被告らに対する配当につき,配当異議を申し立てた事案である。 1 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のないものは,当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア原告原告は,運輸施設整備事業団法に基づき平成9年10月に設立された特殊法人であり,海運事業者等に協力することにより適正かつ円滑な海上運送等の確保に資することを目的の一つとしている。原告の主要業務の一つに,海運事業者と費用を分担して船舶建造を行い,竣工後は当該船舶を海運事業者と共有した上で海運事業者に使用管理させ,共有期間の間,海運事業者から当該船舶使用の対価として船舶使用料を徴収するという共有建造業務がある。 原告は,上記共有建造業務の一環として,内航海上運送事業等を業とする海運事業者である訴外増井海運株式会社(以下「増井海運」という。)と共同建造し,共有している下記本件船舶(原告持分100分の80,増井海運持分100分の20)について,増井海運との間で,平成6年6月15日,貨物船共有契約を締結し,本件船舶を増井海運に使用管理させ,船舶使用料を徴収していた。 (船舶の表示) 分の20)について,増井海運との間で,平成6年6月15日,貨物船共有契約を締結し,本件船舶を増井海運に使用管理させ,船舶使用料を徴収していた。 (船舶の表示)①船種船名汽船ぎおん丸②船籍港大分県佐伯市③船質鋼④総トン数 1565トン⑤機関の種類及び数発動機 1個⑥推進器の種類及び数螺旋推進器 1個⑦進水年月平成6年3月イ被告ら被告りゅうせきは,石油類の製造,精製,混合及び売買並びに石油化学製品の製造,販売等を業とする会社である。 被告トキヤは,石油製品の販売等を業とする会社である。 被告筑豊砿産は,石油製品類販売業,エル・ピーガス販売業等を業とする会社である。 被告昌永産業は,船舶・機器等の売買業務,船舶及び陸舶用機器・部品の輸出入業務等を業とする会社である。 被告東洋コーポレーションは,船舶内燃機関,軸系推進器,補機,配管用金物及びこれらの部品・附属品の販売,修理工事等を業とする会社である。 被告上組は,港湾運送事業,倉庫業,海運代理店業,船舶貸渡業,梱包業,倉庫工場荷役請負業等を業とする会社である。 被告A,同B,同C,同D,同E,同F及び同Gら7名(以下,上記7名を「被告Aら7名」という。)は,増井海運に雇用され,本件船舶に乗り組み,船長,甲板手,機関長,航海士等として勤務していたが,いずれも,平成12年12月10日に解雇された者である(乙G~M8)。 (2) 船舶競売申立て及び配当要求 され,本件船舶に乗り組み,船長,甲板手,機関長,航海士等として勤務していたが,いずれも,平成12年12月10日に解雇された者である(乙G~M8)。 (2) 船舶競売申立て及び配当要求被告りゅうせきは,同社が増井海運に対して有する平成12年6月4日から同月28日までの間本件船舶に給油した重油等の代金債権及びその約定遅延損害金の弁済に充てるため,船舶先取特権に基づき,本件船舶の増井海運の持分につき競売を申し立て(714号事件),同申立てを受けた神戸地方裁判所は,平成12年11月2日,船舶競売開始決定をした。 また,被告トキヤは,同社が増井海運に対して有する平成12年7月31日から同年10月20日までの間本件船舶に給油した重油等の代金債権の弁済に充てるため,船舶先取特権に基づき,原告持分を含む本件船舶について競売を申し立て(772号事件),同申立てを受けた神戸地方裁判所は,平成12年11月24日,船舶競売開始決定をした。 被告筑豊砿産は,同社が増井海運に対して有する重油等の代金債権の弁済に充てるため,平成12年12月14日及び同月15日,本件競売事件について配当要求をした。 被告昌永産業は,同社が増井海運に対して有する物品の代金債権の弁済に充てるため,平成12年12月20日,772号事件について配当要求をした。 被告東洋コーポレーションは,同社の増井海運に対して有する物品の代金債権の弁済に充てるため,船舶先取特権に基づき,本件船舶の原告持分について競売を申し立て(神戸地方裁判所平成13年(ケ)第28号船舶競売事件),同申立てを受けた神戸地方裁判所は,平成13年4月23日,船舶競売開始決定をした。 被告上組は,同社が増井海運に対して有する網取放料 戸地方裁判所平成13年(ケ)第28号船舶競売事件),同申立てを受けた神戸地方裁判所は,平成13年4月23日,船舶競売開始決定をした。 被告上組は,同社が増井海運に対して有する網取放料,入港料,岸壁使用料,給水料及び廃油処理料の立替代金債権の弁済に充てるため,平成12年12月21日,本件競売事件について配当要求をした。 被告Aら7名は,同被告らが増井海運に対して有する未払賃金及び退職金の弁済に充てるため,平成12年12月21日,本件競売事件について配当要求をした。 (3) 配当表の存在及び配当期日における原告の異議神戸地方裁判所は,本件競売事件に基づき,本件船舶の売却を行い,その売却代金につき,本件配当表を作成した。 原告は,平成13年8月13日午前11時の本件競売事件の配当期日において,以下のとおり,被告らの配当実施額について,異議を申し立てた。 ア被告りゅうせきに対する配当実施額1060万3892円全部(元本998万2000円及び遅延損害金62万1892円の合計)イ被告トキヤに対する配当実施額3591万5775円全部ウ被告筑豊砿産に対する配当実施額7642万8240円全部エ被告昌永産業に対する配当実施額440万7172円全部(元本419万2976円及び遅延損害金21万4196円の合計)オ被告東洋コーポレーションに対する配当実施額662万8884円全部(元本645万6587円及び遅延損害金17万2297円の合計)カ被告上組に対する配当実施額595万5064円のうち,9万0352円を超える部分キ被告Aに対する配当実施額428万3559円のうち,277万6701円 計)カ被告上組に対する配当実施額595万5064円のうち,9万0352円を超える部分キ被告Aに対する配当実施額428万3559円のうち,277万6701円ク被告Bに対する配当実施額215万7979円のうち,127万2721円ケ被告Cに対する配当実施額190万9985円のうち,104万6257円コ被告Dに対する配当実施額230万3455円のうち,170万8235円サ被告Eに対する配当実施額335万8109円のうち,203万9121円シ被告Fに対する配当実施額272万2948円のうち,171万6778円ス被告Gに対する配当実施額242万6699円のうち,215万5533円 2 争点本件の争点は,被告らが船舶先取特権に基づく優先配当受領権を有するかどうかである。 (1) 被告りゅうせき,同トキヤ,同上組,同筑豊砿産,同昌永産業及び同東洋コーポレーション(以下,「被告りゅうせきら6社」という。)は,各々が増井海運に対して有すると主張する下記各債権につき,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」として,船舶先取特権を有するかどうか。 ア被告りゅうせき被告りゅうせきが,平成12年6月4日から同月28日までの間,那覇港において本件船舶に供給したA重油,C重油及び潤滑油の代金債権合計998万2000円及び遅延損害金62万1892円イ被告トキヤ被告トキヤが,平成12年7月31日から同年10月20日までの間,神戸港,大阪南港,大阪港及び広島県因島市所在の三和ドックにおいて本件船舶に対し供給したA重油,C重油,灯油及び潤滑 被告トキヤが,平成12年7月31日から同年10月20日までの間,神戸港,大阪南港,大阪港及び広島県因島市所在の三和ドックにおいて本件船舶に対し供給したA重油,C重油,灯油及び潤滑油の代金債権合計3591万5775円ウ被告上組被告上組が,平成12年4月から10月までの間,神戸港,大阪港,名古屋港及び博多港において同被告が立て替え払いした本件船舶の網取放料,入港料,岸壁使用料,給水料及び廃油処理料の立替金債権合計595万5064円のうち,神戸港,大阪港及び博多港において発生した立替金代金債権合計586万4712円エ被告筑豊砿産被告筑豊砿産が,平成12年1月8日から同年5月27日までの間,博多港及び神戸港において本件船舶に対し供給したA重油,C重油,灯油及び潤滑油の代金債権合計7642万8240円オ被告昌永産業被告昌永産業が,平成12年9月6日から同月12日までの間に三和ドックで行われた本件船舶の中間検査のために供給した物品の代金債権合計419万2976円及び遅延損害金21万4196円カ被告東洋コーポレーション被告東洋コーポレーションが,平成12年7月1日から同年10月14日までの間,博多港及び三和ドックで本件船舶に供給したワイヤーロープ,塗料,ジンク,粉石鹸,皮手袋,ノート等の物品の代金債権合計645万6587円及び遅延損害金17万2297円(2) 被告Aら7名は,各々が増井海運に対して有すると主張する各退職金債権(被告A212万1700円,同B70万2000円,同C50万0190円,同D138万4600円,同E136万7520円,同F108万4070円,同G 井海運に対して有すると主張する各退職金債権(被告A212万1700円,同B70万2000円,同C50万0190円,同D138万4600円,同E136万7520円,同F108万4070円,同G142万4130円)につき,商法842条7号の「雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」として,同号の船舶先取特権を有するかどうか。 3 原告の主張(被告りゅうせきら6社関係)(1) 商法842条6号「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」の範囲ア商法842条6号の解釈の在り方同号の船舶先取特権が認められた趣旨は,同号の債権は,いわゆる担保の原因をなすことから認められたものであるとするのが一般的であるものの,これのみでなく,航海継続債権の債権者は船主の陸産に対して執行することが困難であるから,先取特権を与えて保護することにより,航海途上における航海継続に必要な費用の調達を容易・円滑ならしめるという意味も含まれた複合的なものである。 しかし,①船舶先取特権は公示方法なくして船舶抵当権にも優先する担保権であるから,その範囲を広く認めると船舶抵当権者の利益を害し,ひいては船舶所有者が金融を得ることを困難にしかねないこと,他方で,②今日のように通信制度・送金制度及び代理店制度が発達している状況の下では,航海途中で船長が外国の商人と直接契約を締結して燃料油や食料等の補給を受けなくとも,船長から連絡を受けた船舶所有者が,代金決済の方法を講じた上,外国の商人または我が国の商人と契約を締結して船舶に燃料や食料等の補給をすることができるところ,その場合に船舶所有者がする契約は陸上における通常の契約と異なるところはないから,その限度においては,商法842条6号の先取特権を認めて債権者を保護す 舶に燃料や食料等の補給をすることができるところ,その場合に船舶所有者がする契約は陸上における通常の契約と異なるところはないから,その限度においては,商法842条6号の先取特権を認めて債権者を保護する必要性は減少していることから,同号は立法論的には不要の規定であるとの見解や,解釈論としてもなるべく制限的に解釈される必要性が指摘されている。したがって,本件においても,同号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」の範囲を厳格に解釈すべきである。 イ 「継続」の意義商法842条6号の「継続」の意義は,新しい航海開始の必要によって生じた債権を除外し,すでに開始された航海の継続に必要な債権に限定することにあると解されており,判例・学説上も争いがない。 また,航海「継続」のための必要により生ずる債権が,問題となった船舶の船籍港において発生した場合,このような船籍港の債権者としては,債権担保のために担保を徴求する等の他の法的手段がいくらも存在し,同号の立法趣旨が妥当しないことから,学説上,船籍港(船籍港が当該船舶の所有者等の海上企業体としての本拠地と異なる場合にはその本拠港)において発生した債権には船舶先取特権は否定すべきことが主張されており,かかる解釈は,同号の船舶先取特権の成立する範囲を厳格に解釈すべきであるという判例及び学説の立場に合致する合理的解釈である。 ウ 「航海」の意義商法842条6号「航海」の意義については,従来の判例・学説によれば,船籍港(船籍港が当該船舶の本拠港と異なる場合には本拠港)を出て船籍港(本拠港)に復帰するまでの全航海をいうものと解されてきた。しかし,そもそも,船舶の行動は定期船か不定期船か,遠洋漁業船か内航船かによって全く異なるのであ 本拠港と異なる場合には本拠港)を出て船籍港(本拠港)に復帰するまでの全航海をいうものと解されてきた。しかし,そもそも,船舶の行動は定期船か不定期船か,遠洋漁業船か内航船かによって全く異なるのであるから,一般的・画一的に同号の「航海」の意義を定めることは適当でない。 エ内航定期巡回船における「航海」の意義本件船舶は,日本国内の神戸港,大阪港,博多港及び那覇港を定期的に巡回して貨物運送に従事していたものであるから,このような内航定期巡回船における「航海」の意義について,別途検討する必要がある。 この点,かかる内航定期巡回船については,各巡回港に当該船主又は用船者の営業拠点又は代理店があることが多く,かかる代理店等を通じて,またそのような代理店がない場合には当該船主が直接に,燃料,食料,修繕,荷役等の調達を手配することになる。そして,そのような手配に関しては長期の取引として,船主との間で事前に基本契約が締結されるのが通常であり,現代の通信設備及び決済制度の発達に鑑みれば,船主側にも,債権者側にもかかる契約を締結する時間的余裕は十分にある。とすれば,債権者は契約締結過程において船主の陸上の財産又は船舶につき約定担保を要求することが可能であって,かかる債権者に法定担保権である商法842条6号の船舶先取特権を認めて保護しなければならない必要性は極めて低い。このように債権者の要保護性の観点からは,内航定期巡回船については,特定した各巡回港が実質的に当該船舶の船籍港又は本拠港と評価することが可能である。 以上から,内航定期巡回船に関しては,商法842条6号の「航海」は,当該船舶が定期的に巡回している各巡回港間のそれぞれの運航を指すものというべきである。したがって,上記の意義での 以上から,内航定期巡回船に関しては,商法842条6号の「航海」は,当該船舶が定期的に巡回している各巡回港間のそれぞれの運航を指すものというべきである。したがって,上記の意義での「航海」の継続に必要な費用,すなわち,事故や天候不良によって通常の定期運航航路から外れて,緊急に当該航海の継続のために必要となった費用のみが,同号によって船舶先取特権が認められると解すべきである。 (2) 本件船舶へのあてはめア本件船舶は,内航定期巡回船で,①定期的に博多港,那覇港,大阪港及び神戸港を運航し,積荷の集荷を行っている貨物船であること,②これらの定期的に寄港する各港には,増井海運の営業所及び代理店が存在しており,これらの営業所及び代理店は,主に積荷の集配という貨物船の運航にとって重要な機能を営んでいること,③増井海運の神戸営業所は,本件船舶の運航スケジュールの作成その他航行中の本件船舶に対して運航指示を出す等,増井海運本社に代わって本件船舶運航の中心的機能を果たしていたこと,④本件船舶には通信設備が搭載されており,航行中であっても増井海運本社,営業所及び代理店と適宜連絡を取り合うことにより常に航行に必要な情報のやり取りをすることができたこと,⑤上記各営業所及び代理店の存在及び連絡先は,増井海運の取引先にとっては公知の事実であったこと,が挙げられる。 以上の事実に鑑みると,本件船舶の運航において各港が果たす機能面からは,本件船舶は,これらの増井海運本社,各定期巡回港の営業所及び代理店とが有機的に一体となって初めて船舶航行を行うことができていたのであり,博多港,那覇港,大阪港及び神戸港すべてが一体となって本件船舶による営業のための機能を果たしていたということができる。すなわち,これらの定期巡回 となって初めて船舶航行を行うことができていたのであり,博多港,那覇港,大阪港及び神戸港すべてが一体となって本件船舶による営業のための機能を果たしていたということができる。すなわち,これらの定期巡回港は,本件船舶にとっては,単なる通過するだけの港の意味を超えた,営業上の本拠港としての実態を有していたといえる。 そうすると,本件船舶にとっての一航海とは,本件船舶の定期巡回港である上記各港のいずれか一つの港から他の港まで,すなわち,博多港から那覇港,那覇港から大阪港,大阪港から神戸港,神戸港から博多港のそれぞれが一つの航海となるといえる。 したがって,これら定期巡回港のいずれかの港で発生した債権はすべて新しい航海の開始の必要によって生じた債権に該当するから,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には含まれないこととなる。 イ上記アのように解することが認められないとすれば,本件船舶の本拠港は,神戸港であるというべきであり(本件船舶の船籍港は増井海運の本店所在地である大分県佐伯市であるが,本件船舶が運航中に船籍港に寄港することはなく,また,そもそも佐伯市には本件船舶が接岸する場所もないのであって,船籍港は船舶登記上のものに過ぎず,本件船舶運航の本拠といえないことは明らかである。),仮にこれが認められない場合には,博多港が本拠港となるというべきであるから,神戸港を出て神戸港に復帰するまで,または,博多港を出て博多港に復帰するまでを一つの航海とみるべきである。 すなわち,前記アで述べたとおり,増井海運の神戸営業所は,本件船舶の運航スケジュールの作成の外,航行中の本件船舶に対して運航指示を出す等,増井海運本社に代わって本件船舶運航の中心的機能を果たしていたのであり ,前記アで述べたとおり,増井海運の神戸営業所は,本件船舶の運航スケジュールの作成の外,航行中の本件船舶に対して運航指示を出す等,増井海運本社に代わって本件船舶運航の中心的機能を果たしていたのであり,本件船舶を運航する増井海運の海上企業体としての本拠港は神戸港であるというべきである。また,仮にこれが認められないとすれば,本件船舶の乗組員の雇い止め及び雇い入れは博多港で行われていること,航海日誌は博多港を基点として航海番号が付されていること及び増井海運が本件船舶の自社による運航を開始した当初は,博多港・那覇港間を運航していたもので,その後になって関西方面への運航が加わったものであること等からして,本件船舶の本拠港は博多港というべきである。 したがって,神戸港が本拠港と認められる場合には,神戸港で発生した債権は,新しい航海の開始の必要によって生じた債権ということとなり,博多港が本拠港と認められる場合には,博多港で発生した債権は新しい航海の開始の必要によって生じた債権ということとなるので,それら本拠港と認められた港で発生した債権は,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には含まれないこととなる。 (3) 各債権についての個別の検討ア被告りゅうせきの債権(ア) 被告りゅうせきの債権は,すべて本件定期巡回港の一つである那覇港において発生したものであるから,上記(2)アに記載したとおり,すべて新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には該当しない。 (イ) 上記主張が認められず,神戸港もしくは博多港が本件船舶の本拠港とされ,神戸港もしくは博多港から出て神戸港もしくは博多港に復帰するまでを一つの航海とし ル債権」には該当しない。 (イ) 上記主張が認められず,神戸港もしくは博多港が本件船舶の本拠港とされ,神戸港もしくは博多港から出て神戸港もしくは博多港に復帰するまでを一つの航海とした場合でも,本件船舶は,上記一航海に要する以上の燃料油を補給していた。すなわち,当該一航海で消費される重油の合計は平均7万5171リットルであるところ(A重油の平均は5801リットル,C重油の平均は6万9370リットル),本件船舶の重油補給前の残重油量の合計は平均6万1697リットルであった(A重油の平均は1万0844リットル,C重油の平均は5万0853リットル)。したがって,本件船舶への燃料補給時に当該航海を継続するために真実必要であった燃料量は両者の差である1万3474リットルを超えることはないから,被告りゅうせきの債権のうち,1万3474リットルを超えて供給された燃料についての債権は,すでに開始された航海の継続に必要な債権とはいえず,商法842条6号の船舶先取特権は成立しない。 イ被告トキヤの債権(ア) 被告トキヤの債権は,三和ドックで発生した潤滑油代97万6500円(消費税込み。)以外は,すべて本件船舶の定期巡回港である神戸港及び大阪港又はその近隣の大阪南港において発生したものであるから,それらは,上記(2)アに記載したとおり,新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には該当しない。 なお,上記が認められず,神戸港が本拠港と認められる場合には,上記(2)イに記載したとおり,神戸港において発生した債権2364万7785円(消費税込み。)は,新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタ 合には,上記(2)イに記載したとおり,神戸港において発生した債権2364万7785円(消費税込み。)は,新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には該当しない。 (イ) 被告トキヤの債権のうち,1万3474リットルを超えて供給された燃料についての債権は,すでに開始された航海の継続に必要な債権とはいえず,商法842条6号の船舶先取特権の成立しないことは,上記(3)ア(イ)において被告りゅうせきの債権に関して述べたとおりである。 ウ被告上組の債権(ア) 被告上組の債権586万4712円は,すべて本件船舶の定期巡回港である神戸港,大阪港及び博多港において発生したものであるから,上記(2)アに記載したとおり,すべて新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には該当しない。 また,上記が認められず,神戸港が本拠港と認められる場合には,上記(2)イに記載したとおり,神戸港において発生した債権256万2108円は,新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には該当しない。また,博多港が本拠港と認められる場合には,博多港において発生した債権253万2906円について,同号の船舶先取特権が否定されることとなる。 (イ) のみならず,被告上組の債権のうち,岸壁使用料は,出入港に必然的に伴う費用というより,通船料などと類似した碇泊中の費用と考えられること,廃油処理料は,燃料や給水などとは性質を異にし,航行に不可欠の費用ということはできないことから,いずれも同号の航海継続の必要性を充たさない。 と類似した碇泊中の費用と考えられること,廃油処理料は,燃料や給水などとは性質を異にし,航行に不可欠の費用ということはできないことから,いずれも同号の航海継続の必要性を充たさない。 したがって,岸壁使用料合計161万9891円及び廃油処理料合計45万8766円については,商法842条6号の船舶先取特権は成立しない。 エ被告筑豊砿産の債権(ア) 被告筑豊砿産の債権は,すべて本件船舶の定期巡回港である神戸港及び博多港において発生したものであるから,上記(2)アに記載したとおり,すべて新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には該当しない。 また,上記が認められず,神戸港が本拠港と認められる場合には,上記(2)イに記載したとおり,神戸港において発生した債権は,新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には該当しない。また,博多港が本拠港と認められる場合には,博多港において発生した債権について,同号の船舶先取特権が否定されることとなる。 (イ) 被告筑豊砿産の債権のうち,1万3474リットルを超えて供給された燃料についての債権は,すでに開始された航海の継続に必要な債権とはいえず,船舶先取特権の成立しないことは,上記(3)ア(イ)において被告りゅうせきの債権に関して述べたとおりである。 オ被告昌永産業の債権商法842条6号の船舶先取特権が成立するには,その債権は航海中に生じたものであることが必要であるところ,被告昌永産業の債権は,本件船舶の中間検査のために部品を供給したことにより発生したものであり,航海中に生じたも の船舶先取特権が成立するには,その債権は航海中に生じたものであることが必要であるところ,被告昌永産業の債権は,本件船舶の中間検査のために部品を供給したことにより発生したものであり,航海中に生じたものではないことが明らかであるから,被告昌永産業の債権につき商法842条6号の船舶先取特権は成立しない。 カ被告東洋コーポレーションの債権(ア) 被告東洋コーポレーションの債権は,博多港及び三和ドックにおいて発生したものであるから,上記(2)アに記載したとおり,博多港において発生した債権55万8317円は新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には該当しない。 また,上記が認められず,博多港が本拠港と認められる場合でも,上記(2)イに記載したとおり,博多港において発生した債権55万8317円は,新たな航海のための費用に関する債権であり,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」には該当しない。 (イ) 被告東洋コーポレーションの債権のうち,三和ドックにおいて発生した589万8270円は,中間検査等に要した物品の代金債権であるから,被告昌永産業の債権に関して述べたのと同様の理由から,商法842条6号の船舶先取特権は成立しない。 また,本件船舶への納入物品についてみると,ロープ類については,本件船舶の運航そのものというより,クレーンの操作等積荷の積み卸しのために必要とされるものであること,塗料やシンナーも本件船舶のさび止めや部品の洗浄という意味で船舶の状態を維持するためには有用であっても必ずしも出入港や航行自体に直接不可欠とは考えられないこと,その他の粉石鹸や革手袋等は船員の日常生活のた ンナーも本件船舶のさび止めや部品の洗浄という意味で船舶の状態を維持するためには有用であっても必ずしも出入港や航行自体に直接不可欠とは考えられないこと,その他の粉石鹸や革手袋等は船員の日常生活のために有用なもの,又は積荷作業の関係で必要なものであり,船舶の航行に直接的に不可欠ではないことは明らかであるから,いずれも商法842条6号の航海継続に「必要」ということはできない。特に,上記積荷の積み卸しに使用されるロープ類は,一種の荷役に伴う費用であり,これが同号の債権に含まれないことは明らかである。 (被告Aら7名関係)(1) 被告Aら7名が主張する退職金債権は,商法842条7号の「雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」には該当せず,船舶先取特権は生じない。 (2) 商法842条7号の「雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」には広く雇用契約上の債権が含まれるとしても,①その債権は,その対象在籍期間に対する当該船舶への乗組期間の割合に応じた限度で認められ,かつ,②この債権の基礎となる乗組期間は,過去1年内に雇い止めとなった乗組みに限られるものと解すべきである。具体的には,退職金債権の場合には,当該船員の退職金債権総額のうち,当該船員の勤務年数中に占める過去1年間の当該船舶乗組期間の割合に応じた金額についてのみ船舶先取特権が認められるべきである。 被告Aら7名の退職金額は必ずしも定かではないが,増井海運作成にかかる「増井海運従業員別除権付債権」と題する書面(乙G~M2)によれば,被告Aら7名の過去1年間に相当する退職金債権額は,被告Aが21万6500円,被告Bが17万5500円,被告Cが16万6730円,被告Dが16万1000円,被告Eが18万4800円,被告Fが17万4850円,被告Gが19 間に相当する退職金債権額は,被告Aが21万6500円,被告Bが17万5500円,被告Cが16万6730円,被告Dが16万1000円,被告Eが18万4800円,被告Fが17万4850円,被告Gが19万2450円とのことである。したがって,商法842条7号の船舶先取特権が認められるとしても上記の範囲に限られ,それを超える部分については,同号の船舶先取特権は成立しない。 4 被告らの主張(1) 被告りゅうせき,同トキヤ及び同上組の主張ア本件船舶の運航サイクル本件船舶は,平成11年3月ころから,博多―那覇,博多―那覇―大阪―神戸―博多間を定期的に巡航していたものであり,また,平成11年12月以降は,博多―那覇―神戸―博多―那覇―博多のサイクルで航行を繰り返していた。そして,上記各港においては,積荷であるコンテナの積み卸し並びに燃料,水及び食料等航海に必要な物資の積み込みが終われば直ちに出港しており,上記各港はそのための入出港であって,特定の港で船主からの指示を受けたり,待機するということもなく,中間検査,修理等のドック入りを除いては常時航行の態勢にあった。また,上記各港における増井海運の従業員には本件船舶の航行に関する指揮命令権はなく,航行に必要な物品等の購入契約の締結・変更をする権限も有していなかった。したがって,各港における物品等の供給業者は,大分県佐伯市の増井海運本社もしくは本件船舶の船長との交渉・契約によらなければ,物品等の供給ができない状態であった。神戸港においても,増井海運は,被告上組の事務所を借りて従業員を2名置き,輸送貨物の集配の手配をしていたにすぎず,本件船舶の運航の指示,管理あるいは燃料・水・食料等航行必需品の入手手配,乗組員の上下船の指示など一切していなかった。なお,本件 所を借りて従業員を2名置き,輸送貨物の集配の手配をしていたにすぎず,本件船舶の運航の指示,管理あるいは燃料・水・食料等航行必需品の入手手配,乗組員の上下船の指示など一切していなかった。なお,本件船舶の航海日誌(乙A~M9)は,博多港の入出港を機会として航海番号(VoyageNo.)を取っているが,これは,前記のとおり,博多―那覇,博多―那覇―大阪―神戸―博多間の2サイクルがあったために,事務連絡その他内部的に航行を特定するため便宜的に博多港入出港をもって番号を付け替えているに過ぎず,博多港において一旦航海が終了し,次に新しい航海が始まることを示すものでも,同港が増井海運の海上企業体の活動拠点としての実体を有していたことを示すものでもない。 イ本件船舶の本拠港本件船舶が定期的に寄港していた上記各港は,上記のとおりいずれも本件船舶の本拠港といえるような実体は備えておらず,本件船舶の本拠港は,佐伯港である。すなわち,増井海運は,本件船舶の船籍港である大分県佐伯市に本社を置き,代表者以下会社運営者の大部分は同地で活動を行っており,会社運営上の指示・命令及び本件船舶に対する運航指示・業務命令等も同地から発されていたものであり,増井海運の海上企業体としての活動拠点は大分県佐伯市であった。本件船舶の本拠港は佐伯港であったのである。 ウ以上のような本件船舶の運航実態等からすれば,そのドック入りからドック入りまでの間,間断なくなされていた営業航海全部を一つの航海とみるべきである。原告のように,本件船舶の航海を分断して,定期航路として寄港していた博多港,那覇港,神戸港,大阪港の各港間の航行が一つの航海であり,各港から発航するときは新たな航海であるとか,神戸港又は博多港が本拠港であり,神戸港を出て神戸港に 断して,定期航路として寄港していた博多港,那覇港,神戸港,大阪港の各港間の航行が一つの航海であり,各港から発航するときは新たな航海であるとか,神戸港又は博多港が本拠港であり,神戸港を出て神戸港に戻るまで,又は,博多港を出て博多港に戻るまでが一つの航海であるとするのは,その運航実態に合わず,不相当である。 したがって,被告りゅうせき,同トキヤ及び同上組主張の各債権は,いずれも商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」にあたり,同被告らは,同号の船舶先取特権を有する。 エなお,原告は,本件船舶には航海継続のために真実必要な燃料でない予備燃料が補給されていたとして,被告りゅうせき及び同トキヤの重油代金債権のうち,1万3474リットルを超えて供給した部分については船舶先取特権が成立しないと主張する。 しかし,上記原告の主張は,船舶航行の実務を知らない暴論である。船舶は一旦港を離れると天候その他の理由で予定変更があり得るから,入港不能・給油不能の状態を想定し,予備燃料として,常時7万リットルは搭載しておく必要があり,これが航海継続に必要な燃料であることは明らかである。 オさらに,原告は,被告上組の債権のうち,岸壁使用料及び廃油処理料は,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」に該当しないと主張するが,岸壁使用料は,船舶が接岸した場合,港湾管理者に支払わなければならないもので,出入港に必然的に伴う費用であり,廃油処理料は,船舶が機関を運転中に生じる燃料油・潤滑油等の油分が混じった汚水(ビルジ)が船底に溜まるので,これを排出処理しなければ船舶の航行ができないもので(海洋投棄は禁止されている。),海上航行に不可欠な費用である。 (2) 被告筑豊砿産の 等の油分が混じった汚水(ビルジ)が船底に溜まるので,これを排出処理しなければ船舶の航行ができないもので(海洋投棄は禁止されている。),海上航行に不可欠な費用である。 (2) 被告筑豊砿産の主張ア本件船舶は,大分県佐伯市を船籍港としているところ,本件船舶の共有者で実質的な運用者である増井海運の本店も佐伯市にあり,現実にもそこが増井海運の本拠地となっていた。本件船舶の運用も増井海運の本店の指示に従い,神戸港,博多港,那覇港,大阪港間を航行して貨物運輸にあたっていたものであり,乗組員の雇い入れ・雇い止め,燃料油等の手配等も主として増井海運の本店でなされていた。 すなわち,本件船舶の船籍港は,本件船舶を運用する海運会社の本店があって,本件船舶運用の指示,乗組員の雇い入れ・雇い止め,燃料油等の手配を主としてする場所であり,その意味では拠点性を有しているが,営業運航の関係では本件船舶が立ち寄る港ではなく,本件船舶はある特定の港を拠点として営業航海していたのではなかった。この意味では,本件船舶の運航上,本拠港というべきものはない。しかし,本件船舶は,内航貨物船として,上記一連の港を一体的に途切れることなく巡航していたところ,それ全体がひとまとまりの営業航海であることからすれば,その全体が商法842条6号の「航海」に当たると解するのが相当である。 したがって,被告筑豊砿産主張の債権は,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」にあたり,同被告は,同号の船舶先取特権を有する。 なお,上記のように解しても,約定担保権者もほとんどの場合,当該船舶の海上企業の用具としての運航によって究極的にその債権が担保されているのであり,このような航海を支えた債権を一定の範囲内 なお,上記のように解しても,約定担保権者もほとんどの場合,当該船舶の海上企業の用具としての運航によって究極的にその債権が担保されているのであり,このような航海を支えた債権を一定の範囲内で優先的に保護しても,それは総債権者の共同利益に適うものであるから不当ではない。また,商法842条6号の債権は,当該船舶を海上企業の用具として機能させることにより利益を稼ぎ出させて,究極的に約定担保権者を始め当該船舶所有者に対する総債権者の共同利益に資するだけでなく,それと同時並行的に,当該船舶を航行させ,船内発電をさせ,船の安全に従事する乗組員の食料となることによって,日々継続的に積み重なって担保の目的たる当該船舶の交換価値の維持ないし保存に役立っているのであるから,被告筑豊砿産の債権に先取特権が認められて原告の本件船舶における共有持分権に優先したとしても何ら不当ではない。また,原告の言う,船舶先取特権は公示性を欠き,あまり広く認めると約定担保権者に不測の損害を与えるとの懸念については,現行商法842条8号の債権を除き船舶先取特権の存続期間を1年間に限定していることで立法的に解決されている。 イ原告は,本件船舶は燃料油の1回の補給で大阪・神戸・博多・那覇間を一周する以上の燃料油を補給しているところ,一周に必要な燃料油を超える燃料油代金は航海継続に必要な債権に該らないとも主張するが,本件船舶は内航貨物船として,上記一連の港を一体的に途切れることなく巡航していたものであり,また,不必要な燃料油を積載すれば,資金効率も船舶の燃費も悪くなるだけであるから,敢えて不必要な予備燃料を積むはずはないのであって,それら燃料油に関する債権が航海継続に必要な債権であることは明らかである。 (3) 被告昌永産業の主張ア原告は, であるから,敢えて不必要な予備燃料を積むはずはないのであって,それら燃料油に関する債権が航海継続に必要な債権であることは明らかである。 (3) 被告昌永産業の主張ア原告は,被告昌永産業の債権が,中間検査のために供給した部品代金債権であることを理由として航海中に生じたものではないと主張するが,中間検査のための費用であるから,航海中に生じたものでないと結論づけるのは誤りである。 中間検査のための費用が船舶所有者の債権者の共同の利益に寄与する債権であることは疑いがないのであるからこれが航海継続中に発生したものといえるかどうかの点が,商法842条6号の趣旨から判断されなければならない。 イ本件船舶の平成12年9月の運航スケジュールは,中間検査(船舶安全法5条1項2号参照)を想定しないまま決定されていたが,平成12年9月1日に中間検査のため突如スケジュールが変更され,しかも,変更スケジュールで予定されていた博多港でのドック入りでなく,因島でドック入りがなされた。そして,被告昌永産業は,増井海運の注文により,平成12年9月6日から同月12日までの間に,本件船舶の中間検査のために部品を供給したものである。 ところで,定期又は中間検査のための修繕などが先取特権の対象とならないとされるのは,それらが予定されたものである故その予定に従って運航スケジュールが立てられることを前提としているのであって,その場合には,ドック入りの前に航海が終了するという議論も成り立つ余地がある。 しかし,本件船舶については,予め立てられた1か月間の運行計画が一つの航海と考えられる上,上記のとおり,そのドック入りは,当初の運航スケジュールにはなかったばかりか,変更後の運航スケジュールにさえ予定されていない因 ついては,予め立てられた1か月間の運行計画が一つの航海と考えられる上,上記のとおり,そのドック入りは,当初の運航スケジュールにはなかったばかりか,変更後の運航スケジュールにさえ予定されていない因島に立ち寄ってなされているのであるから,本件船舶の航海継続中になされたものであったことは明白である。 ウしたがって,被告昌永産業が供給した部品は,本件船舶の航海継続のために必要な中間検査の際に要したものであり,その代金債権は,商法842条6号の船舶先取特権にあたる。 (4) 被告東洋コーポレーションの主張ア被告東洋コーポレーションが,本件船舶の船長又は機関長の指示を受けて納入したワイヤーロープ,塗料,ジンク,粉石鹸,皮手袋,ノート等はいずれも航海中,船舶の保守,管理及び乗組員の日常生活に必要な物品であって,航海継続のために必要なものであることはいうまでもない。 イ本件船舶は,大阪,神戸,博多,那覇を1週間で巡航する定期航路の貨物船であるところ,定期船の場合一航海の基準については議論があるが,本件では,増井海運が1か月毎に運行スケジュール表を荷主その他関係者に配布し公表していることにも鑑みると,運行スケジュール表に記載の航海をもって一航海とすべきであり,その途中での中間検査のための入港は,中間港への入港であることが明らかである。 ウ以上のとおりで,被告東洋コーポレーションが三和ドック及び博多港で納入した物品の代金債権は,すべて航海継続のために生じた費用であり,船舶先取特権が成立する。 (5) 被告Aら7名の主張被告Aら7名の各退職金債権は,被告らと増井海運との間の雇用契約により予め定められた計算方法により算出された金額について,被告らが解雇され,退職した平成 (5) 被告Aら7名の主張被告Aら7名の各退職金債権は,被告らと増井海運との間の雇用契約により予め定められた計算方法により算出された金額について,被告らが解雇され,退職した平成12年12月10日に発生したものであるから,全額につき商法842条7号の債権に該当する。 すなわち,退職金は,雇用関係が終了した際に初めて請求権が発生するものであり,雇用関係終了以前にこれを請求する方法はないのであるから,船長その他の船員が先取特権を行使する時点より過去1年以内に退職した場合,退職金全額につき船舶先取特権を行使できることは,商法847条1項の文理解釈から当然である。 第3 当裁判所の判断 1 被告ら主張の債権について証拠(甲A3,A4,A6,A7,乙A1~3,乙B1,B6,B7の1~16,B8の1~4,乙C1の1~23,C2の1~5,C3,乙D1の1・2,D2,D3の1・2,乙E5の1~3,E6の1~4,E7の1~3,E8の1・2,E9の1・2,E10の1・2,乙G~M1~8,被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告りゅうせきら6社は,前記第2の2(1)のア~ケに記載のとおりの各債権を有していること,被告Aら7名は,前記第2の2の(2)に記載のとおりの各退職金債権を有していること(ただし,被告Bの主張額は70万2000円であるが,その退職金債権はこれを超える87万7500円であることが認められる。)が,それぞれ認められる。 2 被告りゅうせきら6社の船舶先取特権に基づく優先配当受領権の有無について(1) 本件船舶の運航実態等前記争いのない事実等,証拠(甲A2,A9,A10,乙A・B・F~M9~11,乙B2の1,乙C5~7,乙D1の1,D2,D3の1・2,乙E1~ て(1) 本件船舶の運航実態等前記争いのない事実等,証拠(甲A2,A9,A10,乙A・B・F~M9~11,乙B2の1,乙C5~7,乙D1の1,D2,D3の1・2,乙E1~4,被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。 ア本件船舶の運行実態等増井海運は,本件船舶が新造された平成6年6月から平成10年末ころまでは,本件船舶を海運会社であるハルミ汽船にチャーターしていたが,その後,平成11年2月ころから,自社運航による本件船舶の営業運航を始めた。 増井海運は,本件船舶の自社運航開始当初は,博多・那覇間を,博多(火曜日出港)-那覇(水曜日入港)-博多(土曜日出港)-那覇(月曜日入港)-博多(火曜日出港)というように,1週間に博多・那覇間を2往復するサイクルで本件船舶を運航していた。 増井海運は,神戸港に入る外航コンテナ貨物の博多港への内航フィーダーサービスを行い,また,陸運業者と提携して効率的な複合一貫輸送サービスを提供するため,被告上組と提携し,その結果,平成11年5月ころからは,神戸港にも本件船舶を寄港させることとした。具体的な運航ルートとしては,博多(火曜日出港)-那覇(水曜日入港,同日出港)-神戸(金曜日入港,同日出港)-博多(土曜日入港,同日出港)-那覇(日曜日入港,翌月曜日出港)-博多(火曜日入港,同日出港)というようなサイクルで各港を巡回し,これを繰り返す形で運航を継続していた。 さらに,本件船舶は,平成12年5月中旬ころからは,大阪にも立ち寄るようになり,同年12月ころまで,博多(火曜日出港)-那覇(水曜日入港,同日出港)-大阪(金曜日入港,同日出港)-神戸(金曜日入港,同日出港)-博多( 平成12年5月中旬ころからは,大阪にも立ち寄るようになり,同年12月ころまで,博多(火曜日出港)-那覇(水曜日入港,同日出港)-大阪(金曜日入港,同日出港)-神戸(金曜日入港,同日出港)-博多(土曜日入港,同日出港)-那覇(日曜日入港,翌月曜日出港)-博多(火曜日入港,同日出港)というようなサイクルでの運航を繰り返していた。 上記運航のスケジュールは,増井海運の神戸営業所の従業員が,陸上の荷動きに従って1か月毎にスケジュール表を作成し,月初めに本件船舶,増井海運本社及び得意先にファクシミリ送信等で交付していたが,具体的な荷動きによっては適宜入港先が変更されることもあり,名古屋及び横浜に本件船舶が寄港することもあった。なお,上記スケジュール表には,各港への入港及び出港時間,並びに各港の増井海運の営業所及び支店並びに増井海運の代理店である被告上組外1社の支店等の連絡先が明記されていた。 増井海運が自社による運航を開始して以降の本件船舶は,上記のとおり,博多,那覇,神戸,大阪の各港を,スケジュール表に従って一定のサイクルで間断なく巡回し,営業航海を続けていたもので,本件船舶が長期に碇泊するのは,正月,ゴールデンウイーク及びお盆の休日期間中の碇泊と法令で定められている船舶の定期検査,中間検査のためのドック入り期間ぐらいであった。 ちなみに,平成12年1月ころから同年12月までについてみると,本件船舶は,平成11年12月31日から平成12年1月6日までの年末年始の期間,同年5月2日から同月5日までのゴールデンウイーク期間,同年8月15日から同月17日までのお盆期間については,いずれも博多港須崎5岸に,また,同年9月6日から同月12日までは,中間検査のため広島県因島市の三和ドックに,それぞ のゴールデンウイーク期間,同年8月15日から同月17日までのお盆期間については,いずれも博多港須崎5岸に,また,同年9月6日から同月12日までは,中間検査のため広島県因島市の三和ドックに,それぞれ碇泊したことを除けば,間断なく航海を継続していた。 なお,本件船舶は,大分県佐伯市を船舶登記上の船籍港としているが,大分県佐伯港には接岸する場所がないため,同港には一度も入港したことがない。 イ燃料等の補給,積荷の状況等について本件船舶の平成11年5月以降の通常の運航サイクルは,上記のとおりであり,本件船舶は,那覇で1泊(日曜日入港,翌月曜日出航)することがあるだけで,それ以外は,博多,那覇,神戸,大阪の各定期巡回港に,積荷の積み卸し,燃料油,食料等の補給など必要な作業を行うだけの時間碇泊するのみで,その営業運航を続けていた。 乗組員は3か月間乗船した後下船して1か月間休むというシフトであり,最寄りの寄港地で1人ずつ交替していたが,本件船舶の乗組員は九州管内の者が多かったため,博多港で乗下船し,雇い入れ・雇い止めも博多港において行われていた。 食料等の補給は,被告Aが博多港において船用金で購入し,船用金が不足した場合は増井海運本社に送金の依頼をしていた。 燃料の補給は,本件船舶の機関長から必要な燃料量の連絡を受けた増井海運が,被告りゅうせきらの燃料販売業者に購入を申込み,指定された港で補充し,代金については増井海運が直接支払っていた。 本件船舶の積荷は,コンテナ(実入り及び空),車両が主であった。 また,本件船舶は,碇泊する各港で荷物の積み卸しを行っていたが,神戸で積み込む荷物は博多,那覇に向けた荷 本件船舶の積荷は,コンテナ(実入り及び空),車両が主であった。 また,本件船舶は,碇泊する各港で荷物の積み卸しを行っていたが,神戸で積み込む荷物は博多,那覇に向けた荷物であり,大阪及び博多で積み込む荷物はほとんどが那覇に向けた荷物であり,那覇で積み込む荷物はほとんどが博多と神戸に向けた荷物であった。 各港で積み込む荷物に関する情報の指示ないし連絡は,本件船舶が入港する約1ないし2時間前に,神戸港においては被告上組の営業所が,博多港においては増井海運又は被告上組の事務所が,ファクシミリないし電話によってこれをしていた。増井海運本社が本件船舶に,積荷についての指示ないし連絡を取ることはなかった。 ウ増井海運の組織等増井海運は,大分県佐伯市に本店を有し,また,神戸営業所,大阪支店,福岡支店を有していた。神戸営業所には従業員が2名おり,荷物の集配,航海のスケジュール表の作成を担当していた。大阪支店には従業員が1名,博多支店には従業員と事務員が1名ずつおり,荷物の集配を行っていた。 増井海運は,各定期巡回港に代理店を有していた。神戸,福岡,大阪の代理店は被告上組,沖縄の代理店は訴外ブルーエキスプレス株式会社であった。なお,被告Aは,被告上組の代理店は大阪にはなかったと供述するが,本件船舶の運航スケジュール表には,被告上組の大阪支店が代理店として明記されていること(乙C7,乙E1~4)に照らし,これを信用することができない。 エ中間検査本件船舶には,船舶安全法に基づき,船舶の安全性を維持確保するために,船舶所有者に対し,法定検査(5年毎の定期検査及び定期検査と定期検査の間に行われる中間検査)が義務づけられている。 本件船舶には,船舶安全法に基づき,船舶の安全性を維持確保するために,船舶所有者に対し,法定検査(5年毎の定期検査及び定期検査と定期検査の間に行われる中間検査)が義務づけられている。 本件船舶の中間検査は,本来平成12年6月に実施の予定であったが,増井海運の延長願により実施が延長され,同年9月6日から同月12日まで広島県因島市の三和ドックにおいて行われた。 もっとも,増井海運神戸営業所が同年7月13日ころに作成した同年9月の本件船舶の運航スケジュール表には,中間検査のためのドック入りの予定は組み込まれておらず,同年9月1日ころの同運航スケジュール表の変更の時点でようやく同年9月5日から同月13日まで中間検査のため博多港にドック入りすることが予定に組み込まれたものであった。しかも,実際には,上記中間検査の予定の組み込みが突然のことであったことから,本件船舶は,博多港へのドック入りができず,同月6日に,前記各港を巡回する通常のルートを外れて,広島県因島市所在の三和ドックにドック入りし,同月12日まで中間検査を受けたものであった。 (2) 上記事実を前提として,被告りゅうせきら6社の各債権について,船舶先取特権が成立するかにつき,以下,検討する。 ア商法842条6号所定の債権に先取特権が認められた趣旨は,航海継続債権の債権者は船主の陸産に対して執行することは困難であるため,航海途上における航海継続に必要な費用の調達を円滑・容易ならしめることに加え,同債権の発生原因である燃料油や食料等の補給が船舶所有者の総債権者の担保である船舶の維持ないしは保存に役立つものであることにもあると解される(最判昭和59年3月27日第3小法廷判決判例時報1116号133頁参照。)。 料等の補給が船舶所有者の総債権者の担保である船舶の維持ないしは保存に役立つものであることにもあると解される(最判昭和59年3月27日第3小法廷判決判例時報1116号133頁参照。)。 このような立法趣旨に鑑みれば,同号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」とは,既に開始された航海の途上において当該航海を継続するために必要な債権をいい,新たな航海開始の必要により生じた債権は除外されると解され,また,当該船舶の船籍港が当該船舶の所有者の海上企業体としての本拠たりうる場合には船籍港若しくはこれが実質的には船籍港と異なる他の港である場合にはその港(本拠港)において発生した債権は除外すべきであると解される。 イそこで,まず,本件船舶について,その所有者たる増井海運の営業上の本拠となる本拠港について,検討する。 (ア) 本件船舶の船籍港である大分県佐伯市についてみると,前記(1)に認定のとおり,同港には接岸する場所がないため,本件船舶は一度も入港したことがないこと,同市には増井海運の本社が所在するものの,本件船舶の運航スケジュールの作成及び指示については,増井海運本社が直接関与することはなかったことが認められ,これらによれば,本件船舶にとって,佐伯港は単なる船舶登記上の港にとどまり,運航の本拠としての意味を有していなかったといえるから,大分県佐伯市が本件船舶にとっての本拠港であるとは認められない。 (イ) 次に,神戸港,大阪港,博多港及び那覇港のすべての定期巡回港が本拠港であるという原告の主張についてみると,確かに,増井海運が,各定期巡回港に営業所ないし支店を有し,神戸港には従業員2名,大阪港には従業員1名,博多港には従業員1名及び事務員1名を常駐させていたこと,各定期巡回港に代理店 についてみると,確かに,増井海運が,各定期巡回港に営業所ないし支店を有し,神戸港には従業員2名,大阪港には従業員1名,博多港には従業員1名及び事務員1名を常駐させていたこと,各定期巡回港に代理店を有していたこと等が認められることは前記認定のとおりである。しかし,本件船舶の各港での碇泊時間は那覇港では1泊することがあるものの,それ以外は,いずれの定期巡回港においても数時間で,荷物の積み卸しと燃料等の補給を行うだけであったこと,そして,その荷物の積み卸しも,ある港で積み込まれた荷物は,必ずしも次に碇泊する港で降ろされるものではなく,その後に碇泊する他の港へ運ぶべき荷物も積載されており,また,その港でも新たな荷物が積載されるという形で,間断なく航海が継続されている本件船舶の運航実態にも照らすと,それら各定期巡回港は,いずれも中間的な寄港地と言うほうがふさわしく,それら各港を本拠港とみるのは困難である。また,その各港間の航海それぞれが一航海をなすものとみるのも,前記運航実態に照らし無理がある。 また,神戸港又は博多港が本件船舶の本拠港であるとも原告は主張するので,この点についても検討するに,なるほど,本件船舶の運航スケジュールの作成を行っているのは増井海運の神戸営業所であることは前記認定のとおりであるが,本件船舶の運航実態からみる限りは,神戸港は,他の定期巡回港と何ら変わりがなく,荷物の積み卸しと燃料等の補給を行うために数時間碇泊するだけであることからすれば,神戸港をもって本件船舶の本拠港と認めるのは困難といわざるを得ない。博多港に関しても,本件船舶が自社運航を開始した当初は博多港・那覇港を行き来していたこと,船員らは九州管内の者が多かったため,正月ないしゴールデンウイーク等の際には博多港で碇泊することがほとんどであっ 多港に関しても,本件船舶が自社運航を開始した当初は博多港・那覇港を行き来していたこと,船員らは九州管内の者が多かったため,正月ないしゴールデンウイーク等の際には博多港で碇泊することがほとんどであったこと,船員の雇い入れ及び雇い止めは博多港においてなされていたことが,それぞれ認められるものの,これら事実を除けば,博多港は他の定期巡回港と変わるところはなく,これら事実のみをもって直ちに博多港が本件船舶の本拠港であるとは認めがたい。 (ウ) 以上のとおりで,本件船舶の船籍港である大分県佐伯市は,船舶登記上のものにすぎず,本拠港とはいえないし,本件船舶が定期的に巡回している神戸港,大阪港,博多港,那覇港のいずれも,その運航実態からすると,それら全部の港,あるいは,そのいずれかの港を本拠港として航海が行われているとみるのは困難といわざるを得ない。 ウこのように,本拠港によって航海の範囲を画するのが困難である場合,当該船舶の運航態様を具体的に検討することにより,商法842条6号の「航海」の範囲を判断するほかないというべきである。 そして,前記(1)に認定のとおり,増井海運は,平成11年2月に本件船舶の自社による運航を開始して以降,本件船舶を,1か月ごとに作成されるスケジュール表に従って,博多,那覇,神戸,大阪の各港を一定のサイクルで間断なく巡回させて営業航海を続けていたものであり,かつ,そのサイクルの一巡によって,貨物運送が完結するわけではなく,また,積み荷の内容によっては,名古屋や横浜に寄港することもあるところ,これらも,その営業航海の一貫であると考えられることからすれば,それら営業航海をそのサイクル毎に分断するのも相当でなく,その営業航海全体を一つの航海と捉えるのが相当と認められる。 ころ,これらも,その営業航海の一貫であると考えられることからすれば,それら営業航海をそのサイクル毎に分断するのも相当でなく,その営業航海全体を一つの航海と捉えるのが相当と認められる。 ところで,本件船舶は,中間検査のため,平成12年9月6日から同月12日まで広島県因島市の三和ドックに入渠しているところ,同ドックへの入渠は,前記認定したとおり,本来の営業航海の間を縫って,急遽組み入れられ,その終了後は,また,直ちに同様のサイクルの営業航海が続けられてきたものではある。しかし,定期検査及び中間検査は,法令によって一定期間毎に受けることを義務づけられた検査であり,そのドック入りのための航海は,本来の営業航海とは異質なものというほかないし,ドックでの碇泊も,営業航海途中の単なる一時碇泊とは位置づけがたい。結局,本件船舶は,それまで間断なく継続してきた営業航海を,中間検査受検のため,一旦終了させてドック入りしたものと認めることができる。 したがって,本件船舶の内航貨物船としての運航実態に即して,その営業航海全体を一つの航海とみるべきではあるとしても,上記したところからすれば,中間検査の受検により,その営業航海は一旦終了したものであり,三和ドックに碇泊中の期間は航海中であったとは認められず,また,その終了後は新たな航海が開始されたものと認められる(なお,本件船舶は,正月やゴールデンウイーク等の休日期間中は,これに合わせて主に博多港において碇泊し,運航自体は休止しているが,これは,休日期間に合わせた碇泊であって,営業航海途中の一時的碇泊にすぎず,その前後によって,航海が別個のものとして分断されるものではない。)。 エそうすると,被告りゅうせきら6社の債権のうち,三和ドック以外の神戸港,大阪港,大 海途中の一時的碇泊にすぎず,その前後によって,航海が別個のものとして分断されるものではない。)。 エそうすると,被告りゅうせきら6社の債権のうち,三和ドック以外の神戸港,大阪港,大阪南港,博多港及び那覇港で各発生した債権は,いずれも航海継続中に発生した債権ということができ,商法842条6号の船舶先取特権が成立し得るが,三和ドックにおいて発生した債権は,航海継続中に発生した債権とは認められないから,商法842条6号の船舶先取特権は成立しないこととなる。 これを個別に見ると,被告昌永産業の債権は,すべてが,三和ドックにおいて発生した中間検査のための部品の代金債権であり,本件船舶の航海中に発生した債権ではないから,同債権は,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」に該当せず,船舶先取特権は生じない。 また,前記1で認定の事実,証拠(甲A3,A6,乙B1,B2の1,B6,B7の1~16,B8の1~4,乙D1の1・2,D2,D3の1・2,乙E5の1~3,E6の1~4,E7の1~3,E8の1・2,E9の1・2,E10の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,被告トキヤの債権中には,三和ドックにおいて生じた潤滑油代97万6500円(消費税込み。)が,また,被告東洋コーポレーションの債権中には,三和ドックにおいて生じた物品の代金債権元本589万8270円及びこれに対する遅延損害金があるところ,これらは,本件船舶の航海に必要な費用であると認められるとしても,三和ドックでの中間検査後に開始された新たな航海のための費用と認められるから,同債権部分については,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」に該当せず,船舶先取特権は生じない。 したがって,被告トキヤの債 航海のための費用と認められるから,同債権部分については,商法842条6号の「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」に該当せず,船舶先取特権は生じない。 したがって,被告トキヤの債権のうち,船舶先取特権が成立し得る債権は,上記97万6500円を控除した3493万9275円ということとなり,被告東洋コーポレーションの債権のうち,船舶先取特権が成立し得る債権は,上記589万8270円を控除した代金債権元本55万8317円(いずれも博多港で発生した債権である。)及び同元本に対する遅延損害金2万5331円(平成12年11月11日から平成13年8月13日までの年6分の割合による遅延損害金。甲A3,A6,弁論の全趣旨)ということとなる。 オそこで,被告りゅうせきら6社の債権のうち,船舶先取特権が成立し得ると考えられる上記各債権につき,それら債権が航海継続のために「必要」な債権であるかどうかを,さらに検討する。 (ア) 被告りゅうせき及び同トキヤの債権被告りゅうせきの債権及び同トキヤの債権(三和ドックでの発生分は除く)は,いずれも本件船舶の燃料油である重油,潤滑油及び灯油の代金債権であり,本件船舶の航海継続に必要な債権と認められる。 もっとも,原告は,被告りゅうせき及び同トキヤの債権のうち,燃料油の代金債権について,本件船舶が各定期巡回港を一周する以上の予備燃料を搭載していたから,それを超えて供給された燃料分について先取特権が成立しないと主張する。 しかし,前記のとおり,本件船舶の航海は,各定期巡回港を一巡したことによって終わるものではないのであるから,各定期巡回港を一巡するための燃料油を超える燃料の搭載が,必要以上の燃料搭載とは言えな しかし,前記のとおり,本件船舶の航海は,各定期巡回港を一巡したことによって終わるものではないのであるから,各定期巡回港を一巡するための燃料油を超える燃料の搭載が,必要以上の燃料搭載とは言えないことは明らかであり,原告の主張は理由がない。 (イ) 被告上組の債権被告上組の債権は,本件船舶の網取放料,入港料,岸壁使用料,給水料及び廃油処理料の立替金債権であり,いずれも本件船舶の航海継続に必要な債権と認められる(被告A本人,弁論の全趣旨)。 これに対し原告は,岸壁使用料及び廃油処理料は,出入港及び海上航行に不可欠なものといえないと主張するが,証拠(被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,岸壁使用料は,船舶が接岸した際,接岸した時間の使用料として各港湾管理者に支払わなければならないものであること,廃油処理料は,船舶の運航により必然的に船底に溜まるビルジ(燃料油・潤滑油等の油分が混じった汚水であり,海洋投棄が禁止されている。)の処理料であることが認められるから,岸壁使用料は出入港に必然的に伴う費用,廃油処理料は海上航行に不可欠な費用であって,いずれも航海継続に必要なものと認められる。 よって,上記原告の主張は理由がない。 (ウ) 被告東洋コーポレーションの債権被告東洋コーポレーションの債権(博多港で発生した債権)は,いずれも塗料,粉石鹸,革手袋,接着剤,ノート等の物品の代金債権であり(乙E5の1~3,E6の1~4,E7の1~3,E10の1・2),いずれも本件船舶の乗組員が航海継続中の作業等に使用するための物品の代金債権と推認できるから,いずれも本件船舶の航海継続に必要な債権と認められる。 カ以上によれば, ,E10の1・2),いずれも本件船舶の乗組員が航海継続中の作業等に使用するための物品の代金債権と推認できるから,いずれも本件船舶の航海継続に必要な債権と認められる。 カ以上によれば,被告りゅうせきら6社の債権のうち,広島県因島市の三和ドックで発生した債権については,商法842条6号の船舶先取特権は生じないが,その余の債権については,いずれも,「航海継続ノ必要ニ因リテ生シタル債権」として,商法842条6号の船舶先取特権が発生し,同被告らは,本件競売事件の配当において優先配当受領権を有するものと認められる。 (3) よって,原告の配当異議のうち,被告りゅうせきら6社関係では,被告昌永産業に関する部分は全部理由があるので,同被告に対する配当実施額は全額これを取り消すべきであり,被告トキヤ及び被告東洋コーポレーションに関する部分は,三和ドックにおいて発生した債権に関する限度で理由があるので,その理由がある限度で,同被告らに対する配当実施額を変更すべきであり,その余の被告りゅうせき,被告筑豊砿産及び被告上組に関する部分は理由がないので,それら被告に対する配当異議は棄却すべきである。 3 被告Aら7名の船舶先取特権に基づく優先配当受領権の有無について原告は,退職金債権は,商法842条7号の「雇用契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」に当たらないと主張するが,退職金債権が雇用契約上の債権であること明らかであり,原告のこの点の主張は理由がない。 次に原告は,商法842条7号の「雇傭契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」には広く雇用契約上の債権が含まれるとしても,①その債権は,その対象在籍期間に対する当該船舶への乗組期間の割合に応じた限度で認められ,かつ,②この債権の基礎となる乗組期間は,過去1年内 船員ノ債権」には広く雇用契約上の債権が含まれるとしても,①その債権は,その対象在籍期間に対する当該船舶への乗組期間の割合に応じた限度で認められ,かつ,②この債権の基礎となる乗組期間は,過去1年内に雇い止めとなった乗組みに限られるべきであるとして,退職金債権の場合には,当該船員の退職金債権総額のうち,当該船員の勤務年数中に占める過去1年間の当該船舶乗組期間の割合に応じた金額についてのみ船舶先取特権が認められると主張する。 そこで,検討するに,商法842条7号は,当該船舶の保存・維持は,船舶に乗り組んだ船長その他船員の労務によるところが極めて大きいことや,危険な乗船労務によってのみ生計を維持する船員の家族の保護という社会政策的見地から認められたものであると解されるところ,同号は,同条2,3及び8号のように被担保債権の発生上の限定をしていないこと,原告が退職金債権の範囲を過去1年間の乗組期間の割合に応じた金額に限定する根拠としている商法847条1項は,既に発生した先取特権の時的限界を画することにより被担保債権の累増を防止するために設けられたものであって,先取特権の被担保債権の発生そのものを限定するための解釈手段として用いることはできないと考えられることからすれば,船長その他の船員らにつき雇用契約によって生じた債権はすべて被担保債権になると解すべきである。 そして,退職金債権は,雇用主との間の雇用契約の終了により初めて発生するものであるところ,既に認定のとおり,被告Aら7名はいずれも平成12年12月10日に増井海運を解雇され,これによって,同被告らの退職金債権が発生したものであるから,その全額が「雇用契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」に当たり,被告Aら7名は,商法842条7号の船舶先取特権を有するものと認めら これによって,同被告らの退職金債権が発生したものであるから,その全額が「雇用契約ニ因リテ生シタル船長其他ノ船員ノ債権」に当たり,被告Aら7名は,商法842条7号の船舶先取特権を有するものと認められる。 以上によれば,被告Aら7名に対する原告の配当異議は理由がないから,同被告らに対する原告の請求はこれを棄却すべきである。 3 まとめ以上の次第で,原告の配当異議は,被告昌永産業に対しては理由があり,被告トキヤ及び被告東洋コーポレーションに対しては一部理由があり,その余の被告らに対しては理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 裁判長裁判官上田昭典裁判官太田敬司裁判官島田環

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