平成13特(わ)3836 公職選挙法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成13年12月19日 東京地方裁判所
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判決文本文21,286 文字)

主文 被告人を懲役2年に処する。 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成13年6月24日施行の東京都議会議員選挙に際し,同月15日文京区選挙区から立候補した公職の候補者であり,同月27日当選人として告示された者であるが,いわゆる選挙運動員であるA,B及びCと共謀の上,別紙一覧表記載のとおり,同月17日ころから同年7月8日ころまでの間,前後44回にわたり,東京都文京区ab丁目c番d号所在のDビル2階ほか1か所において,選挙運動者であるEほか27名に対し,Eらが被告人を当選させるための電話による投票依頼の選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって,現金合計77万2500円を供与したものである。 (有罪認定の理由)第1 争点前掲関係各証拠によると,被告人が,平成13年6月24日に施行された東京都議会議員選挙(以下「本件都議選」という。)に際し,選挙告示日である同月15日文京区選挙区から立候補し公職の候補者となり,同月27日当選人として告示された者であること,被告人の選挙運動員であるA,B及びCが,共謀の上,別紙一覧表記載のとおり,同月17日ころから同年7月8日ころまでの間,東京都文京区ab丁目c番d号所在のDビル(以下「Dビル」という。)2階ほか1か所において,被告人の選挙運動者であるEほか27名に対し,Eらが被告人を当選させるための電話による投票依頼の選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって,現金合計77万2500円を供与したことは,優に認定することができ,当事者間にも争いがない。 しかしながら,更に進んで,被告人において,Cら共犯者が,電話による投票依頼の選挙運動に従事した選挙運動者に対し,報酬を支払うことを認識・認容し,本件につき共犯者らと共謀を遂げたか否かに い。 しかしながら,更に進んで,被告人において,Cら共犯者が,電話による投票依頼の選挙運動に従事した選挙運動者に対し,報酬を支払うことを認識・認容し,本件につき共犯者らと共謀を遂げたか否かについては,弁護人及び被告人は,これらを否定して無罪である旨主張している。 そこで,以下に,「本件都議選の準備状況,電話作戦実施の決定等」,「A,C及びB供述の信用性」,「弁護人の無罪主張に対する判断」,「被告人供述の信用性」及び「結論」という項を設けて,まず,最終的に認定した事実を確定し,次いで,その事実認定に主として用いたA,C及びB供述の信憑性について触れ,さらに,弁護人の無罪主張に対する反論を展開し,最後に,事実に基づき法的な評価を加えるという論述の順序で,被告人につき共謀を認定した理由を説明することとする。 第2 本件都議選の準備状況,電話作戦実施の決定等前掲関係各証拠,とりわけ,A,C及びBの各供述の信用できる部分を総合すると,本件都議選の準備状況,電話作戦実施の決定等として,以下の事実が認められる。 1 被告人とA,B及びCとの関係等(1) 被告人は,昭和58年の東京都文京区議会議員選挙に初当選を果たして以降,4期連続当選し,平成9年の都議会議員選挙(以下「平成9年都議選」という。)でも当選し,本件都議選に立候補し,同月27日当選人として告示された。 (2) Aは,かねてから文京区議会議員選挙における被告人の選挙運動を支援し,平成7年の同選挙の際には選挙事務所の責任者を務めたが,平成9年都議選の際は,選挙運動を手伝わなかった。Aは,平成12年9月ころから,東京都文京区ef丁目g番h号の被告人の後援会事務所(以下「甲事務所」という。)に電話を設置し,自己の事業の連絡用に使用させてもらっていた。その後,Aは,平成1 かった。Aは,平成12年9月ころから,東京都文京区ef丁目g番h号の被告人の後援会事務所(以下「甲事務所」という。)に電話を設置し,自己の事業の連絡用に使用させてもらっていた。その後,Aは,平成13年3月上旬ころ,被告人から,本件都議選において選挙事務所の責任者となるよう依頼され,これを了承した。 (3) Bは,被告人が文京区議会議員であったころから,被告人を支援し,平成9年都議選に際しては,ウグイス嬢の手配や演説会場の設営など,選挙運動全般にわたって仕切った。被告人は,平成13年1月ころ,Bに対し,本件都議選に際して被告人のために様々な取りまとめをするよう依頼し,同人もこれを了承した。 (4) Cは,被告人の平成9年都議選において,多数の有権者に電話をかけて投票依頼の選挙運動を行う,いわゆる「電話作戦」に際し,電話かけを担当するアルバイトの女性集め(以下「アルバイト動員」という。)などを担当した。 2 電話作戦実施の決定(1) 被告人は,平成13年2月19日(以下に記載される月日は,特記されない限り,平成13年を指す。),選挙対策本部を立ち上げ,4月26日,Fセンターで開かれた都政報告会において,本件都議選に文京区選挙区からG党公認候補として立候補する旨を正式に表明した。 (2) 被告人は,4月下旬ころ,東京都文京区ij丁目k番l号所在のHビルを選挙事務所(以下「乙事務所」という。)に決め,選挙対策事務局長I区議(以下「I区議」という。),A,Bらと相談して,同ビル1階は選挙事務所,2階は選対本部事務室等,3階は電話作戦室等として使用することを決定した。 (3) ところが,乙事務所の修祓式(開所式)を行った翌日である5月17日ころ,I区議から,B及びAに対し,Cにアルバイト動員を依頼した電話作戦を乙事務所で実施 等として使用することを決定した。 (3) ところが,乙事務所の修祓式(開所式)を行った翌日である5月17日ころ,I区議から,B及びAに対し,Cにアルバイト動員を依頼した電話作戦を乙事務所で実施するのは中止するよう勧告があったが,Bは,選挙情勢を考え,Cに頼んで電話作戦を実施しようと決意し,被告人及びAにもその旨伝えた。 3 「J」におけるCとの会合(1) Bは,5月22日,Cに電話をかけ,アルバイト動員を依頼するとともに,東京都文京区mn丁目o番p号所在のKビル5階及び6階にあるカラオケルーム&居酒屋「J」で会う約束をした。一方,Bは,被告人にも,「J」に同道し,Cに挨拶するよう頼んだ。 (2) 被告人,B及びCの3名は,5月22日午後2時ころ,「J」で会い,その際,被告人がCに対して,相談した結果,Cにお願いするしかないということになったので,今回もバイトのお嬢さんたちをお願いする旨アルバイト動員を依頼し,Cもこれを承諾した。その際,Cは,被告人に対して,「アルバイトは時給1000円で,今回は,1日3時間働いてくれたら交通費を1000円出すということで,よろしいですか。」と確認したところ,被告人及びBも了承した。 4 「L」におけるCとの会合(1) その後,Aは,Bから,Cがアルバイト動員を引き受けたことの報告を受けたが,被告人が直接Cと会したことを聞かされなかったため,被告人自身から正式にCに依頼した方がよいと考え,5月26日ころ,C,被告人の双方に連絡を取った上,同日午後5時,Fセンターのレストランで会うことにした。 (2) そのレストランが休業だったため,被告人,A及びCの3名は,5月26日午後5時すぎから,東京都文京区qr丁目s番t号所在のMプラザ1階の喫茶店「L」内において会った。 (3) その (2) そのレストランが休業だったため,被告人,A及びCの3名は,5月26日午後5時すぎから,東京都文京区qr丁目s番t号所在のMプラザ1階の喫茶店「L」内において会った。 (3) その席上,被告人がCに対し,「今回電話作戦を引き受けてもらってありがとうございます。Cさん以外にお願いできる人がおりませんので,よろしくお願いします。」などと懇願すると,Cも「アルバイトは,ローテーションもありますので,20人くらい必要ですが,ちょっと遅くなりましたので,どれだけ集められるか分かりません。できるだけやらせてもらいます。アルバイト代は,約束どおり時給1000円でいいですね。」などと答えた。すると,被告人は,「Cさんにお任せします。」と述べて,これを了解した。 (4) 別の会合に出席予定の被告人が,5分くらいで退席した後,Aは,Cと電話作戦の詳細を話し合ったが,その際,Cから,時給は1000円であるが,1日3時間以上働いた人には交通費を一律1000円出すよう言われ,これを承諾した。その翌日,Aが,乙事務所において,被告人に対し,具体的なアルバイト代の内容を報告すると,被告人は,「それでいいから,Aさん,頼むよ。」などと言った。 5 電話作戦事務所の決定(1) Bは,5月下旬ころ,Dビル2階を借り受け,同月31日には,電話回線15本のレンタルを申し込んだ。また,Bは,6月8日,Dビル2階事務所を開設し,レンタルした電話機14台のほか,ファックス付き電話機1台も同事務所に設置した。 (2) Aは,6月四,五日ころ,Bから,電話機等を準備したことのほか,電話作戦の事務所をDビル2階に変更したことを聞いた。さらに,Bは,6月10日夕方ころ,被告人から,「電話は,どこでやるの。」と問われ,Dビルで行う旨答えたところ,被告人は,「I 備したことのほか,電話作戦の事務所をDビル2階に変更したことを聞いた。さらに,Bは,6月10日夕方ころ,被告人から,「電話は,どこでやるの。」と問われ,Dビルで行う旨答えたところ,被告人は,「I対策だな。」と苦笑いをした。 6 アルバイト代の準備等(1) 6月上旬ころ,Aは,Cから,アルバイトは,20名くらい集まる,アルバイトの顔合わせを6月10日の日曜日にやりたいが,その際来てくれた人には,一人1000円の足代を出してもらいたいなどと言われ,それを被告人に伝えた。 (2) Aは,6月8日ころ,乙事務所で,被告人から,電話作戦事務所の準備は大丈夫かと尋ねられ,準備はできていると答えた。また,Aは,その翌日,すなわち6月9日ころの夜,被告人から呼ばれて甲事務所に赴いた際,「事務所経費は1000万円用意するけど,電話のバイト代は200万円で足りるかな。」と聞かれ,「電話作戦の事務所の経費を入れても,200万円もあれば足りるでしょう。」と答えた。さらに,被告人は「選挙事務所の経費と電話のバイト代は,後でAさんの方に届けます。事務所の経理はNさんに頼みますが,Nさんは足が悪いので,銀行の手続は手伝ってやってください。」などと説明した。 (3) 一方,被告人は,6月7日,選挙費用に充てるため,丙信用金庫(以下「丙信金」という。)本店窓口において,自己の定期預金約1000万円を解約し,それを同信用金庫の自己名義の普通預金口座に入金した後,更に手持ちの現金を預け入れて,同口座の残高を約1200万円とした。 (4) 被告人は,6月11日,同口座の預金残高約1200万円から200万円を引き出し,そのうち156万円を丁銀行O支店の被告人名義の普通預金口座に入金して同口座の預金残高を約200万円とし,本件選挙における電話作戦のアルバイト代に の預金残高約1200万円から200万円を引き出し,そのうち156万円を丁銀行O支店の被告人名義の普通預金口座に入金して同口座の預金残高を約200万円とし,本件選挙における電話作戦のアルバイト代に充てるために準備した。 (5) 被告人は,6月12日か13日ころ,甲事務所において,Aに対し,丙信金の通帳及びキャッシュカード,丁銀行のキャッシュカード(以下「丁銀カード」という。)を渡し,その際,被告人は,「丙信金の方には1000万円入っていますから,これは選挙事務所の費用に使ってください。Aさんに任せますから,必要な分は出金してください。丁銀行の方には200万円入っています。電話の経費ですから,Cさんに渡してください。」と説明した上,各口座の暗証番号をAに教えた。 (6) Aは,告示日である6月15日午前9時30分ころ,丙信金P支店(以下「P支店」という。)に赴き,被告人から渡された丙信金のキャッシュカードを利用し,当面の乙事務所の経費として現金40万円を引き出した上,Bに対し,「これ,経費」と言って,20万円を渡し,残りの20万円を必要経費として自己の財布に入れた。 (7) さらに,Aは,6月18日午前9時30分ころ,P支店において,6月15日の出陣式で集めたいわゆる陣中見舞を入金した後,乙事務所の経費に充てるため,50万円を出金し,Bに20万円,甲事務所の事務員Qに10万円それぞれ渡し,残余の20万円をAが入手した。 7 電話作戦の実施(1) A,Cらは,電話作戦事務所の変更をアルバイトに連絡することは,日程的に困難であったため,6月10日午前,アルバイト女性20名くらいを一旦乙事務所に集めた上,Dビルに車でアルバイトを運び,同所で説明会が実施された。その際,Cは,Aから受け取った交通費各1000円をアルバイトに渡した め,6月10日午前,アルバイト女性20名くらいを一旦乙事務所に集めた上,Dビルに車でアルバイトを運び,同所で説明会が実施された。その際,Cは,Aから受け取った交通費各1000円をアルバイトに渡した。 (2) 被告人は,乙事務所に一旦集合したアルバイトに対し,「R(被告人)です。よろしくお願いします。」と挨拶をした上,車で移動するアルバイトを乙事務所の前で見送った。 (3) その後,6月13日から同月26日までの間,Dビル2階において電話作戦が実施された。 8 アルバイト代の支払等(1) 6月18日午後4時30分すぎころ,Aは,被告人から預かった丁銀カードを使い,丁銀行O支店において150万円の現金を下ろした。その後,Aは,Dビルに赴き,Cに対し,100万円在中の封筒と50万円在中の封筒を渡し,雑費もこれで賄うこと,不足したら連絡することなどを告げた。 (2) Cは,その後,アルバイト28名に対して,150万円の中から順次アルバイト代や交通費を支給した。もっとも,アルバイトの中には,既にCから,アルバイト代を立て替えてもらった者がいたが,Cは,この分については,150万円の中から精算した。 (3) Cは,6月26日ころ,150万円の残金を,当初返還しようと考えていたAと連絡が取れなかったため,代わりにBに対してアルバイトから徴した領収書等とともに返還した。 9 選挙終了後の被告人らの対応(1) 被告人は,投票日の翌日である6月25日ころ,Bから,電話作戦の女の子が警察に尾行されているらしい,何か分かったら,その都度連絡する旨聞き,一抹の不安を感じたが,この時点では,アルバイト代が既に支払われていることを知らなかったため,大した問題にはならないだろうと高をくくっていた。しかし,追い打ちを掛けるように,6月27日こ る旨聞き,一抹の不安を感じたが,この時点では,アルバイト代が既に支払われていることを知らなかったため,大した問題にはならないだろうと高をくくっていた。しかし,追い打ちを掛けるように,6月27日ころ,Bから,アルバイト代は既に支払済みである旨の告白を聞き,被告人は,茫然となった。 (2) 一方,A及びCは,Bを中心として,警察での取調べに当たっては,電話作戦にはアルバイトとボランティアを半々の割合で使用したこと,アルバイトに支給した報酬は合計60万円であったこと,アルバイト代はBがAに支給した現金から支給したことなどにする旨口裏合わせをした。さらに,Cの逮捕後,AとBは,AがCに渡した150万円は,被告人からではなく,BがAに渡したことにしようと口裏合わせをした。 第3 A,C及びB供述の信用性 1 弁護人が無罪主張の論拠とするA,C及びB供述の主要な問題点については,第4の「弁護人の無罪主張に対する判断」において,詳述することとし,ここでは,前記第2の「本件都議選の準備状況,電話作戦実施の決定等」において確定した事実の認定に,主として用いたA,C及びB供述の一般的信用性について検討しておくこととする。 2 A供述の信用性(1) Aは,捜査段階おいては,前記第2に記載した,電話作戦実施の決定,「L」におけるCとの会合,電話作戦事務所の決定,アルバイト代の準備,電話作戦の実施及びアルバイト代の支払等の項目において,認定した事実に沿う供述をしていたが,公判段階においては,①5月23日焼肉店「K」において,A,B及びCの3名が電話作戦の条件等を協議した旨新たな事実の存在を主張するとともに,②「L」におけるCとの会合内容とその被告人への報告,③6月9日の被告人との電話作戦事務所における費用の協議,④被告人から丁銀カードを交付された趣 件等を協議した旨新たな事実の存在を主張するとともに,②「L」におけるCとの会合内容とその被告人への報告,③6月9日の被告人との電話作戦事務所における費用の協議,④被告人から丁銀カードを交付された趣旨などについて,その供述を,被告人に有利な方向に変遷又は後退させており,弁護人も,Aの公判供述に乗り,あるいは,その曖昧さを突いてAの捜査段階における供述の信用性を論難する。 (2) 弁護人指摘の①ないし④の諸点については,前述したように,第4の「弁護人の無罪主張に対する判断」において言及するので,ここでは,A供述の一般的信用性について考えておく。まず,Aの捜査段階における供述は,本件都議選の電話作戦実施の決定からアルバイト代の支払までの出来事を述べたものとして,前後のつながりがあり,首尾一貫している上,Cの供述はむろんのこと,被告人の本件への関与をある程度認めたB及び被告人の捜査段階における供述調書の一部とも良く符合している。また,A供述のうち,丙信金及び丁銀行からの金員の出し入れや後述する知人女性への貸金の原資としてSを挙げている点について,各金融機関の照会結果がこれを裏付けている(甲63号証,65号証,67号証及び99号証)。しかも,従前から被告人の選挙運動に協力してきたAが,本件都議選に当選を果たした被告人を罪に陥れるような虚偽の供述をするとは考え難く,他に,本件全証拠によっても,虚偽供述の動機は見当たらない。むしろ,「R(被告人)さんは,Cさんと直接会ってアルバイトの人集めをした上,報酬等に充てる資金を出したのですから,R(被告人)さんに最終的な責任があることは間違いなく,大勢に迷惑を掛けたことの償いはすべきだと思うのです。R(被告人)さんには,潔く責任を取ってもらいたいと思います。」(甲47号証)と考えて,被告人の関与を率直 に最終的な責任があることは間違いなく,大勢に迷惑を掛けたことの償いはすべきだと思うのです。R(被告人)さんには,潔く責任を取ってもらいたいと思います。」(甲47号証)と考えて,被告人の関与を率直に認めたAの供述調書にこそ,信を措くべきである。 (3) これに対し,Aは,公判段階において,6月十二,三日ころ,甲事務所に行った際,被告人から丙信金の通帳,カード及び丁銀カードを渡されたこと,その際,被告人から,丙信金に入金してある1000万円は乙事務所の費用であり,丁銀行に入金してある200万円は電話事務所の経費であると告げられたこと,6月18日午後4時30分すぎころ,丁銀カードを用いて丁銀行O支店において,150万円を下ろし,その足でCがいるDビルに赴き,Cに渡したことなどアルバイト代の流れについては,捜査段階とほぼ同様の供述を維持しているが,その余の部分,とりわけ,被告人の本件への関与に関し,争われている点について,捜査段階における供述を全面的に変更することはない一方,微妙にニュアンスを変えており,それも,検察官と弁護人の質問で,その内容を変遷させている。このような供述経緯は,被告人や傍聴する支援者に気兼ねした供述態度であると容易に推測でき,Aの公判供述には,信用できない面がある。 3 C供述の信用性(1) Cは,捜査公判を通じて,一貫して,前記第2に記載した,「J」におけるCとの会合,「L」におけるCとの会合,電話作戦の実施及びアルバイト代の支払等の項目において,認定した事実に沿う供述をしているところ,このC供述の内容自体,事の流れとして自然であり,具体性にも富んだものである。また,Aの捜査段階における供述と良く符合しており,B及び被告人の信用できる供述部分とも一致している。さらに,Cも従前から被告人の選挙を支援した間柄であ として自然であり,具体性にも富んだものである。また,Aの捜査段階における供述と良く符合しており,B及び被告人の信用できる供述部分とも一致している。さらに,Cも従前から被告人の選挙を支援した間柄であって,虚偽の供述をして,被告人を罪に陥れる動機もない。以上の諸事情に照らせば,C供述は信用性が高いというべきである。 (2) ところで,弁護人は,以下の諸点を指摘して,C供述の信用性を論難するので,検討する。 アまず,弁護人は,Cがアルバイトの人員につき28名と述べているが,関係各証拠によると,真実は少なくとも33名であることが明らかであるところ,何故Cが真実に反する供述を行ったか合理的な説明がないという。 しかしながら,捜査経過報告書(甲88号証)によると,Cの供述調書に登場しない5名については,C自身が,いずれもボランティアであるとか,今回は手伝ってもらわなかったと本件への関与を否定し,相手方からも関与を裏付ける供述は得られなかったために,捜査側で立件を見合わせたという事情があり,決して,Cが,捜査段階において,真実に反する供述をしたわけではない。 イ次に,弁護人は,Cにおいて,6月26日にBに150万円の残金を返還した状況につき,捜査段階において,「残ったお金は20万円くらいあったように思いますが,6月26日ころ,電話作戦に使った名簿などと一緒に紙袋に入れ,Bさんに渡しました。」などと供述していたところ,公判段階では,「残額について検事に20万円と言ったのは,大体そのくらいじゃないかなと思って勘で言いました。」などと供述していることを指摘する。しかしながら,Cは,公判段階においても,「数えてないので残金はちょっと記憶にあんまりないんですが,とにかくお金が少し残っていたことは間違いないです。少なくとも1万円札はあったが いることを指摘する。しかしながら,Cは,公判段階においても,「数えてないので残金はちょっと記憶にあんまりないんですが,とにかくお金が少し残っていたことは間違いないです。少なくとも1万円札はあったが,2万か3万か,それはちょっと自信がないです。」とも供述しており,もし仮に,公判段階で明らかになったアルバイト代を含め,合計147万3000円のアルバイト代が150万円の中から支払われていたとしても,なお2万7000円の残金が認められるのであり,C証言及び供述には自己矛盾は存しない。 ところで,弁1号証の(2)には,電話作戦事務所の経費として3万5021円が支出され,アルバイト代と合わせれば150万円を超過するかのような記載があるが,そもそも,同書証の基となるアルバイト代以外の雑費の領収証は一切残存しておらず,弁1号証の(1)及び(2)が発見された経過としてBが供述する内容自体が不自然,不合理であることからすると,当該書証の記載内容には信用性がないといわざるを得ない。現に,C自身,電話作戦事務所の経費としては上記金額ほどは支出していない旨証言している。 4 B供述の信用性(1) Bは,捜査段階で概略以下のように供述している。すなわち,Bは,5月17日ごろ,選対本部の事務局長であったI区議から,電話作戦従事者の動員をCに頼むのはいいが,アルバイトが入るとまずい,アルバイトが入るなら乙事務所でやるのは止めるよう注意を受けた。いわゆる小泉人気の追い風の中で被告人の当選に危機感を感じていたBは,I区議の反対を押し切って,アルバイトを使った電話作戦を実施することを決めた。Bは,このころ,被告人に対し,「I区議から,Cさんに頼むなら電話作戦は選挙事務所ではやらないでくれと言われたんで,何とか俺がやってみる。」などと伝えた。 た電話作戦を実施することを決めた。Bは,このころ,被告人に対し,「I区議から,Cさんに頼むなら電話作戦は選挙事務所ではやらないでくれと言われたんで,何とか俺がやってみる。」などと伝えた。 5月21日ころ,Bは被告人から,「Cさんから電話があったけど,電話の件は大丈夫なの。」と聞かれ,「Cさんにお願いしょうと思っているんだけど。」と答えると,被告人は「それじゃ,大丈夫だね。」と返答した。翌22日ころ,Bが,Cに電話をかけ,ボランティアが集まらないので,アルバイトの人集めをお願いする旨伝えるとともに,会う約束をした。その後,Bは,被告人に対して,Cと会うので,一緒に行って挨拶するよう頼んだ。 当日午後2時ころ,「J」において,C,B及び被告人の3名が会した。 その席で,BがCに対し,「今回お願いするのが遅れたのは,I区議から待つように言われたからで,Cさんにお願いするしかないので,よろしくお願いします。」と言い,被告人も続いて「ひとつ,よろしくお願いします。」と頭を下げたところ,Cは,改めて電話作戦の人集めを承諾した。 6月10日夕方ころ,Bは被告人から「電話は,どこでやるの。」と聞かれ,Dビルで行う旨答えたところ,被告人は「I対策だな。」と言って苦笑いをしていた。 (2) このBの捜査段階における供述は,電話作戦のアルバイト員に支払われたアルバイト代金の出所に関して,CやAの供述と大きく齟齬し,Bが逮捕前に様々な罪証隠滅行為に及んでいたことなどからすれば,そもそも同人の供述は全体として信用性が乏しいといわざるを得ないが,反面,かかるBが,上記(1)に摘記した限度であれ,被告人との共謀状況を供述していたのであるから,当該部分については,信用性が認められる。ところが,Bは,公判段階に至り,Cにアルバ わざるを得ないが,反面,かかるBが,上記(1)に摘記した限度であれ,被告人との共謀状況を供述していたのであるから,当該部分については,信用性が認められる。ところが,Bは,公判段階に至り,Cにアルバイト動員を依頼することに関し,被告人とは,一切の関わりがなかった旨述べ,この点についての捜査段階の供述を一転させたが,その変遷の理由に付き合理的な説明がなされておらず,信用できない。 第4 弁護人の無罪主張に対する判断弁護人は,①焼肉店「K」において,A,B及びCの3名が,会合して電話作戦の条件等を協議した旨のA及びBの公判供述(以下「K供述」という。)は,信用性があり,その会合が開かれたのは,「J」での会合日とされている5月22日である,②「J」における会合があったのは,5月13日以前であり,その際,Cに対し,被告人は選挙への一般的協力を依頼し,Bは電話作戦について後日連絡する旨約束したのみであった,③5月26日「L」においても,被告人は,Cに対し,単に挨拶をしただけであり,後日,Aからその会談内容につき報告を受けていない,④6月9日前後に,被告人は,Aとの間で電話作戦事務所の経費について協議したことはない,⑤6月十二,三日,被告人は,丁銀カードをAに交付しているが,これは,被告人が,支援者TからAの窮状を聞いたことなどから,私的な支出を含めて,Aが自由に管理できる資金として,Aに渡したものであるなどと主張し,被告人の無罪主張の論拠としている。そこで,以下に,弁護人主張の諸点について,判断を示すことにする。 1 焼肉店「K」における会合の存否(1) 弁護人主張のとおり,A及びBは,公判段階において,最終的には,一致して,5月23日にCと焼肉店「K」で電話作戦の条件等を協議した旨供述しているが,相方であったCが,一貫してこれを否 否(1) 弁護人主張のとおり,A及びBは,公判段階において,最終的には,一致して,5月23日にCと焼肉店「K」で電話作戦の条件等を協議した旨供述しているが,相方であったCが,一貫してこれを否定しているばかりか,当のB自身も捜査段階の調書で,この会合について何ら触れていない。 Bは,捜査段階でこの会合の存在を肯定しなかった理由につき,逮捕される以前,AとCと「K」で会わなかったことにしようと口裏合わせをした(第3回公判),あるいは,Aが乙事務所の責任者ということなので,連座制を恐れて,同人が関与したこの会合がなかったように,3名で口裏合わせをした(第7回公判)旨述べているが,一方で,Bは,捜査段階において,自らが電話作戦のアルバイト代をAに渡した旨Aの本件への関与を明らかにしているのみならず,5月22日の「J」において,被告人自身が,Cにアルバイト動員を依頼した旨供述しており,捜査当時連座制を気に掛けていたとは見られず,Bの挙げる前記の理由は,採用し難い。また,裏付捜査報告書(甲77号証)によると,警察が「K」の従業員に裏付捜査をしたところ,5月中旬ころから下旬ころにかけて,営業時間の内外を問わず,Cが「K」を3名で利用したことはないことが明らかになっている。 そうすると,Aの「K」における会合が開かれた時期に関する供述が,5月二十二,三日ころ,5月26日の「L」の会合の1週間くらい前ころ(第2回及び第4回公判),あるいは5月23日(第4回及び第11回公判)と変遷している点や,公判中に発見した「2001都議選対」と題するA作成のノート(弁9号証)に「5/22 C様打合せ電話OK」と記載されていることを根拠に,5月23日であったとする供述(第11回公判)につき,何故当該記載が根拠足り得るのか十分な説明が 題するA作成のノート(弁9号証)に「5/22 C様打合せ電話OK」と記載されていることを根拠に,5月23日であったとする供述(第11回公判)につき,何故当該記載が根拠足り得るのか十分な説明がなされていない点などの不自然さを指摘するまでもなく,A及びBのK供述は,信用できないというべきである。 (2) ところで,弁護人は,Cの手帳(甲78号証)及びBの手帳(甲79号証)の5月22日の欄に,前者においては「2時K」と,後者においては「7FKC様APOPM2:00」とそれぞれ記載がある点を捉えて,これらの記載は,5月22日の「J」における会合を示すものではなく,同日「K」において会合が持たれたことの証左であると主張するが,「J」は,既に認定したように,Jビルの5階,6階に存在するのであるから,同日の「J」における会合の存在と矛盾するものではない。現に,手帳に記載したB自身も5月22日であったと明言して弁護人の推論を採用しておらず,裏付捜査報告書(甲77号証)によると,捜査官が,5月22日「K」でC等と会したと説明するBに対し,店内の図面を書かせたところ,「J」のカラオケルームのそれを引いたことが認められ,弁護人の推論が誤りであることを物語っている。 2 「J」における会合(1) 弁護人は,①Bが,「J」における会合に先立ち,Cから,被告人がU愛好会に顔を出していないと苦情を言われた上,「J」における会合でも,Cが被告人に対し,U愛好会で話をして欲しい旨依頼したと公判段階で供述しているところ(第7回公判),前掲Cの手帳及びU愛好会会長名義の領収書(弁10号証)によると,同会の総会が5月13日に開かれたことは明らかであるから,「J」における会合は,5月13日以前であった,②ところが,この時点では,Cにアルバイト動員を依頼す 会長名義の領収書(弁10号証)によると,同会の総会が5月13日に開かれたことは明らかであるから,「J」における会合は,5月13日以前であった,②ところが,この時点では,Cにアルバイト動員を依頼することは,未だ決定していなかったのであるから,この会合で,被告人はむろんのこと,B自身も,アルバイト動員を依頼するはずがなく,単に,被告人は選挙への一般的協力を依頼し,Bは電話作戦について後日連絡する旨約束したのみであると主張する。 (2) なるほど,Bは,第7回公判において,弁護側の質問に答えて,「J」における会合は,U愛好会等に被告人が顔を出さないとCが立腹していたため,なだめることが主目的であり,席上でも被告人に同会での挨拶の依頼があった旨供述をしているが,それに先立つ第3回公判においては,検察官の主尋問に対し,電話作戦の件で連絡しなかったため,Cが立腹している感じがあったので,会合を設定したと述べており,不自然な変遷が見られ,到底採用し難い。また,被告人は,確かに,第14回公判において,弁護側から,前記U愛好会会長名義の領収書を示されるなどして,Bの第7回公判での供述と同趣旨を述べているが,第5回公判においては,選挙情勢の話に終始し,Cが怒っているとは感じなかったとまで述べ,U愛好会については,一切言及していない。さらに,弁護人が指摘するCの手帳やU愛好会名義の領収書は,同会が5月13日に開催されたことを示す証拠となり得ても,B及び被告人の上記公判供述の不自然性を覆すほどのものではない。 (3) これに比して,Cは,捜査及び公判段階で,一貫して,被告人及びBから,「J」の会合において,アルバイト動員の依頼を受けた旨供述し,B(甲58,60号証)及び被告人(乙4,13号証等)の捜査段階における各供述もこれを裏付けており,信用性に富 貫して,被告人及びBから,「J」の会合において,アルバイト動員の依頼を受けた旨供述し,B(甲58,60号証)及び被告人(乙4,13号証等)の捜査段階における各供述もこれを裏付けており,信用性に富んだものである。なお,Bの捜査段階における供述につき,弁護人は,Bが前記の「K」における会合を秘匿した故に,事実に反するものであるというが,同会合については,存在自体認められないことは前述したとおりである。 3 「L」における会合(1) 弁護人は,この会合内容についても,「K」における会合が存在したことを前提として論述を組み立てているが,採用できないことは,既に述べたとおりである。 (2) ところで,Aは,公判段階において,被告人の同席している間,アルバイト代の話は出なかったと供述しているが(第1回公判),そのニュアンスも,出なかったと明言するものから,その話が出るか出ないかのときに被告人が席を立った,そういう話が出そうな雰囲気のときに被告人は退席したという極めて曖昧な内容のものであり,後日被告人に会談内容を報告した状況についても,アルバイト代のことを報告したのであり,6月10日の顔合せ会の交通費の話はしていない旨述べたか思うと(第1回公判),むしろ,交通費のことを被告人に報告したのであり,アルバイト代のことは言っていない(第4回公判)などと,正反対の供述をしており,不自然,不合理で信用できない。 (3) これに対し,Aの捜査段階における供述は,Cが,電話作戦のアルバイトの条件を確認し,被告人及びAがこれを了承した旨のCの供述とほぼ一致しており,信用性が高いものである。なお,弁護人は,被告人及びBが,5月22日「J」において,既にアルバイト動員をCに依頼していたとすると,被告人及びAが,「L」で重ねて依頼する意味がないという。 しており,信用性が高いものである。なお,弁護人は,被告人及びBが,5月22日「J」において,既にアルバイト動員をCに依頼していたとすると,被告人及びAが,「L」で重ねて依頼する意味がないという。しかしながら,Aは,Bから,Cがアルバイト動員を了解したことを報告されたが,被告人もその席に同席していたことを知らされていなかったため,改めて,被告人とともに,Cに依頼をしたと納得できる理由を挙げており(甲44号証),そこに不合理さはない。 4 6月9日甲事務所での協議(1) 弁護人は,仮に,被告人とAが,6月9日午後9時ころ,甲事務所において,電話作戦事務所の経費について,協議した旨のA供述が真実であるとすると,その協議の日にちは,被告人が丙信金に78万円を入金した6月8日から,問題の200万円を丙信金から丁銀行に移し替えた6月11日までの間,すなわち,6月8日ないし6月10日の午後9時ころということになるが,弁護側申請のV等の証人尋問の結果,その時間帯には,少なくともAは甲事務所にはいなかったのであるから,前記のA供述は信用性がないと主張する。 (2) そこで,A供述の内容と供述経過を仔細に検討することとする。まず,Aは,捜査段階において(甲44,100号証),「6月9日は,知人の女性と会った後,午後7時ころ,乙事務所に戻った。すると,Wさんから,帰りに甲事務所に寄るようにとの被告人の伝言を聞き,午後9時ころ,甲事務所に行った。そこで,被告人から,『事務所経費は1000万円用意するけど,電話のアルバイト代は200万円で足りるかな。』と聞かれたので,『電話事務所の経費を入れても,200万円もあれば足りるでしょう。』と答えると,被告人は,『選挙事務所の経費に1000万円と,電話作戦のバイト代は200万円用意して,後でAさんの方に預 かれたので,『電話事務所の経費を入れても,200万円もあれば足りるでしょう。』と答えると,被告人は,『選挙事務所の経費に1000万円と,電話作戦のバイト代は200万円用意して,後でAさんの方に預けます。選挙事務所の経理はNさんに頼むので,Nさんは足が悪いから銀行の手続は手伝ってやって下さい。』と言っていた。」と供述し,公判段階では,被告人の発言内容につき,「アルバイト代」(電話事務所の経費と言われたという。)という部分と「後でAさんの方に預けます」との部分は否定するものの,その余の事実は,第11回公判における検察官の主尋問まで維持していた(第1回,第2回,第4回及び第11回公判)。ところが,第11回公判の反対尋問において,前掲「2001都議選対」と題するA作成のノート(弁9号証)の6月9日の欄の「かるた取り乙事務所 3Fに移動」という記載を示されて,最終的には,被告人との協議の存在自体を否定するに至った。 しかしながら,Aは,既に第11回公判の主尋問の段階において,前記ノートの記載内容を了知していたことを自認しているところ,仮に,問題の被告人との協議が事実と異なるのであれば,その時点で,同協議に関する自己の従前の供述が誤りであったことを認めるべきであって,それどころか却って,検察官に対し,従前の公判と同様の供述をするとともに,協議の際の状況を詳細に描写している。 この供述経過に,既に述べた,Aの捜査段階における供述が全体的に信用性に富んでいること,公判供述が被告人や支援者に気兼ねをして,徐々に後退する傾向を有することを併せ考えると,6月9日夜の被告人との協議に関するAの捜査段階における供述に信を措くべきと考える。 (3) ところで,6月9日,アルバイト代につき協議がなされたとのAの捜査段階の供述に対し,Aが当日甲事務 と,6月9日夜の被告人との協議に関するAの捜査段階における供述に信を措くべきと考える。 (3) ところで,6月9日,アルバイト代につき協議がなされたとのAの捜査段階の供述に対し,Aが当日甲事務所で被告人と面談したとした午後9時ころには,被告人あるいはAは,同事務所にはいなかった旨の複数の証言(X,V及びYの各証言)が存するものの,これらの証人は,いずれも被告人の支援者であるとともに,被告人の主張内容を公判傍聴等を通じて知悉している者らであって,これらの証言内容にたやすく与することはできない。 5 丁銀カード交付の趣旨(1) 弁護人は,被告人の公判供述のとおり,丁銀カード交付の趣旨は,被告人が,TからAの窮状を聞くなどしたことから,Aにおいて,私的な支出を含めて,自由に使用できる資金として,200万円の管理を任せたものと理解するのが,自然且つ合理的であると主張する。 (2) しかしながら,丁銀カード交付の趣旨について,被告人は,第5回公判で,Aに個人的に負担を掛けているし,半年にわたって手伝ってくれたので,活動費のようなものを渡したと説明していたが,第12回公判では,従前からAが経済的に余裕がないことを知っていた上に,TからAが女性問題で困っていると聞いたためであるとその説明を変遷させ,第5回公判ではどのように説明したかと問われて,女性問題に言及したと思わず発言する一方で,あらためて同公判における自己の説明を読み聞かされると,実は,プライバシーの問題であるから,自分の口からは言えなかったと場当たり的な供述態度に終始している。 また,確かに,Aは,6月1日か2日ころ,Tに対し,知人の女性からの手紙を見せて,文面から自殺の恐れを感じるか否かを相談してはいるが,女性問題に絡んだ金銭的な話をしていない。また,Aは,6月 また,確かに,Aは,6月1日か2日ころ,Tに対し,知人の女性からの手紙を見せて,文面から自殺の恐れを感じるか否かを相談してはいるが,女性問題に絡んだ金銭的な話をしていない。また,Aは,6月9日,その知人の女性に50万円を融資しているが,その原資は,前日8日に消費者金融Zから借りたものである旨一貫して供述しており,この供述は,捜査関係事項照会回答書(甲99号証)によって裏付けられている。そうすると,TからAの女性問題を聞くなどしたため,丁銀カードを交付した旨の被告人の公判供述は,たやすく措信し難い。 (3) それに対し,被告人から,丁銀カードなどを交付された上,「丁銀行の方には200万円入っています。電話の経費ですから,Cさんに渡してください。」と説明を受け,その後そのカードを利用して丁銀行O支店で150万円引き下ろし,Cに渡したというAの捜査段階における供述は,事の摂理として自然な流れに基づくものである。また,この供述は,Aから150万円交付されたというCの供述や丁銀行O支店作成の捜査関係事項照会回答書(甲65号証)が裏付けている。 (4) ところで,Aは,公判段階において,被告人から,丁銀カードは,電話作戦事務所の経費であると告げられたとの部分は維持しつつ,Cに渡すよう言われたとの部分については,これを否定しているが,その理由につき,納得できる説明ができず,採用できない。 また,Bは,捜査及び公判を通じて,5月下旬ころ,Aに対して,いずれ指示するので,その際,指示した相手に届けるよう申し向けて,200万円の現金を渡した上,6月14日には,そのうち,150万円をCに届けるよう指示したと供述しているが,Aが管理下においた当該200万円は,丁銀行O支店の被告人名義の普通預金口座に入っていたものであることは,Aのみ した上,6月14日には,そのうち,150万円をCに届けるよう指示したと供述しているが,Aが管理下においた当該200万円は,丁銀行O支店の被告人名義の普通預金口座に入っていたものであることは,Aのみならず,被告人の供述によっても明白であって,被告人を庇い,資金の流れにおいて被告人の関与を否定する虚偽の供述をしているといわざるを得ない。現に,Aは,Cが逮捕された後,AがCに渡した150万円は,被告人からではなく,Bから受領したことにしようと口裏合わせをした旨告白している(甲47号証)。 第5 被告人供述の信用性 1 被告人の供述内容被告人は,捜査段階で,①電話作戦のスタッフについては,BがCに人集めを依頼することで準備中であったが,I区議から,Cの集めるスタッフは,アルバイト運動員が多いので,依頼するのを止めるように横やりが入ったこと,②被告人自身が,5月22日に「J」で,Cに対し,アルバイト動員を依頼したこと,③5月26日の「L」の会合の後,Aからアルバイト代の内容につき報告を受けたこと,④6月10日,乙事務所に集合した電話作戦のスタッフに対し,「R(被告人)です。よろしくお願いします。」と挨拶したが,その後,これらのスタッフが別の場所に移動した際,乙事務所の前で見送ったこと,⑤6月十二,三日ころ,丁銀カード等をAに渡したこと,⑥電話作戦は,当初から実行するつもりであったが,アルバイト代は,選挙終了後,Cに支払うつもりであったこと,⑦平成9年都議選の際にも,アルバイトによる電話作戦を実施し,報酬は,被告人が負担したことなどを認めているが,被告人が本件へ関与したことを裏付けるその他の点については,否認をしている。 一方,公判廷では,上記①ないし⑦のうち,丁銀カードをAに渡した点以外は,これを否定し,捜査段階の自分の供述調 ,被告人が本件へ関与したことを裏付けるその他の点については,否認をしている。 一方,公判廷では,上記①ないし⑦のうち,丁銀カードをAに渡した点以外は,これを否定し,捜査段階の自分の供述調書には,Cに対して電話作戦におけるアルバイト動員を依頼した旨の記載があるが,それは理詰めで追及されたこともあり,後に全体の中で明らかにすると言われたこともあって引き下がってしまい,調書にサインをしてしまったなどと述べている。 2 信用性の検討以上の被告人の公判供述には,以下に述べるような不自然,不合理な点があり,信用することはできないというべきである。すなわち,第1に,前述したように,被告人は,5月22日に「J」でCと会った理由について,第5回公判における供述を第13回公判で変遷させているが,その合理的理由を明らかにし得ない。 第2に,被告人は,アルバイト動員をCに依頼することに関し,I区議からクレームが付いたことや,そのため電話作戦事務所が変更を余儀なくされたことについて,選挙終了まで知ることはなかった旨供述するが,被告人は,6月10日にCが電話作戦のアルバイトスタッフの女性を乙事務所に集めていた状況を認識しつつも,既に2月の時点で実施することが決定していた電話作戦について,その具体的な実行状況を何ら確認せず,把握もしなかったというのも不自然,不合理である。 第3に,Bは,捜査公判を通じて,5月22日「J」において,I区議からクレームが出た状況をCに説明した上,6月10日に被告人に対して,電話作戦をDビルで行うことを伝え,その際,被告人が「I対策だな。」と言って苦笑いした旨を供述しているところ,この供述からすれば,被告人自身,少なくとも5月22日の時点において,アルバイト動員をCに依頼することについてI区議からクレームが出たことを I対策だな。」と言って苦笑いした旨を供述しているところ,この供述からすれば,被告人自身,少なくとも5月22日の時点において,アルバイト動員をCに依頼することについてI区議からクレームが出たことを当然に認識を有していたものと認められる。 このような不自然さをはらむ被告人の公判供述に比して,その捜査段階における供述は,ほぼ一貫してCに対しアルバイト動員を依頼した点を自認している点など,他の共犯者の供述と一致するものであり,その限りにおいて,信用性があるというべきである。被告人は,捜査段階における供述調書に任意性を欠くかの如き主張をするが,その理由について,納得できる説明はなく,却って,不自然さを露呈するようなものであって,採用できない。 第6 結論以上縷々検討してきたように,前記第2において,当裁判所が認定した事実を覆すに足りる証拠はないし,また,弁護人の無罪主張の論拠も採用できないといわなければならない。そこで,認定事実を前提として考えてみると,5月26日に,「L」で被告人,A及びCが会合した時点において,Bを含めた4者間における,本件選挙において電話作戦のアルバイトを集めた上,当該アルバイトに対して電話作戦の報酬として金員を供与する旨の共謀が完遂したというべきである。 (量刑の理由)本件は,本件都議選に文京区選挙区から立候補して当選した被告人が,選挙運動員であった共犯者3名と共謀の上,20日余りの間に28名の選挙運動者に対し,前後44回にわたり,被告人を当選させるための電話による投票依頼の選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって,現金合計77万2500円を供与したという事案である。 被告人は,本件都議選における選挙情勢が必ずしも芳しくなかったこともあって,2期目の都議会議員に当選を果たすべく,本件犯行を決意したも もって,現金合計77万2500円を供与したという事案である。 被告人は,本件都議選における選挙情勢が必ずしも芳しくなかったこともあって,2期目の都議会議員に当選を果たすべく,本件犯行を決意したもので,犯行動機において,酌量の余地はない。被告人は,選挙事務所の責任者等の共犯者2名と相談の上,他の共犯者に対し,自ら,時給1000円などという報酬の支払を約してアルバイト動員を依頼し,自己の定期預金を崩した中から,その原資を共犯者に預けており,本件に深く関与している。被告人は,都議会議員という公職の候補者として,自己の選挙運動全般にわたって責任をとるべき指導的立場にあり,しかも,アルバイトを用いたいわゆる電話作戦が,公職選挙法に反した違法行為であることを知悉しながら,犯行に及んだもので,規範意識の低さは強く非難されるべきである。また,受供与者は28名と多数に及んでいる上,供与額も合計で77万円余りと多額である。さらに,本件犯行が,本件都議選の公正を害したばかりか,長年公職にあり,本件都議選においても候補者であった被告人が,主体的に関与したという点において,民主主義を標榜する社会に与えた影響も大きい。のみならず,被告人は,捜査段階では,曲がりなりにも自己の関与を認めていたものの,公判段階に至り,共謀の事実やアルバイト代の原資を自ら供給したことを木に竹を接ぐかの如き弁解を弄して否認したり,あたかも共犯者にその責任を押し付けるような供述態度に出ており,公的人物として誠に見苦しい限りである。以上の諸事情に鑑みると,いわば本件における最終責任者である被告人の刑事責任には,重いものがあり,実刑判決も考慮に入れるべきとも考えられる。 しかしながら,被告人は昭和58年から文京区議会議員,区議会議長を務め,平成9年には,都議会議員となるなど長年にわたり公職 刑事責任には,重いものがあり,実刑判決も考慮に入れるべきとも考えられる。 しかしながら,被告人は昭和58年から文京区議会議員,区議会議長を務め,平成9年には,都議会議員となるなど長年にわたり公職にあって,社会的貢献をしてきたこと,自分に投票してくれた2万1000人の有権者に対して申し訳なく,迷惑をかけたスタッフらにも詫びたい旨不十分ながらも反省の弁を述べたこと,前科・前歴がないことなどの被告人にとって有利に斟酌すべき事情のほか,本判決の確定により,長期間公民権が停止され,政治活動の続行を希望している被告人にとっては,大きな打撃であること,共犯者との刑の権衡,家庭の状況などを考慮すると,被告人を直ちに実刑に処するのはいささか酷であるから,5年間という長期の執行猶予期間を設定した上,刑の執行を猶予するのが妥当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役2年)平成13年12月19日東京地方裁判所刑事第6部裁判長裁判官山崎学 裁判官吉川奈奈裁判官後藤有己・

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