主文 1 本件訴えのうち,名古屋市選挙管理委員会を処分行政庁とする処分の取消しを求める訴えを却下する。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 請求の趣旨(1) 処分行政庁名古屋市α区選挙管理委員会が,原告に対し平成22年12月9日付けでした,名古屋市議会解散請求者署名簿の効力に関する異議申出を棄却する旨の決定を取り消す。 (2) 処分行政庁名古屋市選挙管理委員会が,Aほか9名の名古屋市議会解散請求代表者に対し平成22年6月2日にした,別紙1の様式の署名簿を使用することによって署名を無効とすることはできないとの処分を取り消す。 2 被告の答弁(1) 本案前の答弁主文第1項と同旨(2) 本案の答弁原告の請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要 1 本件は,名古屋市議会の解散を請求する署名簿の署名の証明に関し,名古屋市議会議員である原告が,処分行政庁名古屋市α区選挙管理委員会(以下「α区選挙管理委員会」という。)に対し異議の申出をしたところ,これを棄却する旨の決定(以下「本件棄却決定」という。)を受けたので,その取消しを求めるとともに,処分行政庁名古屋市選挙管理委員会(以下「市選挙管理委員会」という。)が上記解散請求の署名収集に先立ち,その請求代表者らに対し,別紙1の様式の署名簿を使用するこ とによって署名を無効とすることはできないとの処分をしたと主張して,その取消しを求める事案である。 2 関係法令の定め(1) 地方自治法(以下「法」という。)76条1項によれば,普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者(以下 処分をしたと主張して,その取消しを求める事案である。 2 関係法令の定め(1) 地方自治法(以下「法」という。)76条1項によれば,普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者(以下「選挙権者」という。)は,政令の定めるところにより,その総数の3分の1(選挙権者の総数が40万を超える場合にあっては,その超える数に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもって,その代表者から,当該普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し,その議会の解散請求をすることができるものとされている。政令指定都市における市議会の解散請求の具体的な手続の概要は,別紙2のとおりである。 (2) 地方自治法施行令(以下「令」という。)100条で準用する令91条ないし93条,98条の4によれば,市議会の解散請求をする場合には,命令で定める様式により調製した解散請求書,解散請求代表者証明書,解散請求者署名簿等を使用しなければならないところ,これらの様式については,地方自治法施行規則(以下「規則」という。)で,次のとおり定めている。 第9条普通地方公共団体及び特別区の条例制定又は改廃請求書,条例制定又は改廃請求代表者証明書,条例制定又は改廃請求者署名簿,条例制定又は改廃請求署名収集委任状,条例制定又は改廃請求のための署名収集委任届出書,条例制定又は改廃請求署名審査録及び条例制定又は改廃請求署名収集証明書は,別記様式のとおりとする。 (第2項は省略)第11条普通地方公共団体及び特別区の議会の解散請求書,解散請求代表者証明書,解散請求者署名簿,解散請求署名収集委任状,解散請求のための署名収集委任届出書,解散請求署名審査録及び解散請求署名収集証明書は,第9条第1項の別記様式の例によるものとする。 表者証明書,解散請求者署名簿,解散請求署名収集委任状,解散請求のための署名収集委任届出書,解散請求署名審査録及び解散請求署名収集証明書は,第9条第1項の別記様式の例によるものとする。 (第2項は省略)規則9条1項の別記様式のうち,条例制定(改廃)請求者署名簿の様式は,別紙3のとおりである。 3 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いのない事実及び後掲の証拠から容易に認定できる事実である。)(1) 当事者等原告は,名古屋市議会議員である。 被告は,市選挙管理委員会及びα区選挙管理委員会を含む合計16の区選挙管理委員会(以下総称して「各区選挙管理委員会」という。)が属する地方公共団体である。 各区選挙管理委員会は,法76条4項,74条の2第1項,令100条,98条の3第1項により,署名簿の署名の効力を決定し,その旨を証明する権限を有する機関である。 市選挙管理委員会は,各区選挙管理委員会を指揮監督する権限を有する機関である(令174条の48第1項)。 (2) 本件の解散請求の概要ア名古屋市議会の解散請求の請求代表者ら(以下「請求代表者ら」という。)は,平成22年8月27日(以下「平成22年」の記載は省略する。),名古屋市議会解散請求の請求代表者証明書の交付を受け,市選挙管理委員会は,同日,請求代表者証明書の交付の告示をした(乙16)。令100条,92条4項により,請求代表者らが署名を収集することができる期間は,同日から9月27日までである(以下,この期間を「署名収集期間」といい,署名収集期間中に署名を集める活動を「本件署名収集活動」という。)。 イ市選挙管理委員会は,署名収集期間の開始前に,後の本件署名収集活動の事務局となる者から,署名簿の様式に関し,1枚のA3判用紙の両面を利用し,その1 める活動を「本件署名収集活動」という。)。 イ市選挙管理委員会は,署名収集期間の開始前に,後の本件署名収集活動の事務局となる者から,署名簿の様式に関し,1枚のA3判用紙の両面を利用し,その1面に署名簿表紙,解散請求書又はその写し,請求代表者証明書又はその写し,委任状の様式,裏面に署名用紙を印刷した様式により署名簿を作成し,それを使用して署名収 集を行うことの可否について,相談を受けた。市選挙管理委員会は,その際,奈良県生駒市における市議会議員解職請求で,上記様式と同じように1枚の紙の両面を使用した署名簿が使用されたことを聞いたので,生駒市選挙管理委員会及び奈良県選挙管理委員会に確認したところ,その様式を使用したことのみをもって無効としていないとの回答を得た。また,市選挙管理委員会は,愛知県選挙管理委員会を通じて,直接請求を所管する愛知県総務部の担当部署にも照会したところ,同様の見解を得た。そこで,市選挙管理委員会は,上記様式による署名簿は,法令の定める必要書類が付されており,署名簿がこの様式であることのみをもって署名を無効とすることはできないと判断し,6月2日,その旨の見解を,上記事務局になる者に伝えた(以下,この見解を伝えたことを「本件表明」という。以上につき,乙1,弁論の全趣旨)。 ウ本件署名活動に用いられた署名簿(以下「本件署名簿」という。)の様式は,別紙1のとおりである。すなわち,本件署名簿は,A3判用紙の片面に「名古屋市議会解散請求者署名簿」の表題等を記載した表紙に相当するもののほか,請求代表者らの名古屋市議会解散請求書及び請求代表者証明書を縮小コピーしたもの並びに委任状の様式が印刷されており,その裏面に「署名年月日」,「署名者住所」,「署名者氏名・印」及び「生年月日」欄から成る署名欄並びに「有効・無効の 散請求書及び請求代表者証明書を縮小コピーしたもの並びに委任状の様式が印刷されており,その裏面に「署名年月日」,「署名者住所」,「署名者氏名・印」及び「生年月日」欄から成る署名欄並びに「有効・無効の印」,「番号」,「代書をした場合の記入」及び「備考」の各欄が印刷されている。 本件署名収集活動においては,請求代表者らが署名を集める場合も,受任者が署名を集める場合も,本件署名簿が用いられた。 エ署名収集期間中,市選挙管理委員会に対し,本件署名収集活動について,対面でない方法によって署名が収集されているなどといった署名の収集方法の問題点を指摘する情報が寄せられた。そこで,市選挙管理委員会の委員長は,8月31日,署名の仕方や署名収集の方法については,法に厳格な定めがあり,これに基づかない署名は無効となること,及び署名が無効となる主な事例を委員長談話として発表し,その内容は報道された。その後も,市選挙管理委員会には違法な署名の収集についての情報が伝えられたので,市選挙管理委員会は,本件署名収集活動の推進母体であるB事 務局宛てに,情報が寄せられた問題となる署名収集の具体的な事例を知らせるとともに是正を促した(甲19ないし22,乙12,13の1ないし3)。 オ請求代表者らは,10月4日,各区選挙管理委員会に対し署名簿を提出し,署名簿に署名し印を押した者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を求めた。 各区選挙管理委員会に提出された署名簿の冊数(別紙1の様式の本件署名簿1枚を1冊と数える。以下同じ。)は合計6万5190冊,署名は合計46万5602筆であった(乙19)。 カ各区選挙管理委員会は,請求代表者らからの署名簿の提出を受けて,審査を開始した。提出された署名簿には,委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所の記載がある署名 5602筆であった(乙19)。 カ各区選挙管理委員会は,請求代表者らからの署名簿の提出を受けて,審査を開始した。提出された署名簿には,委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所の記載がある署名簿と,これらの記載のない署名簿が混在していた。委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所が記載されていない署名簿の数は,合計2万0768冊(全体の31.86%),署名の数は,合計11万4805筆(全体の24.66%)に上った(乙20)。 キ市選挙管理委員会は,委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所の記載のない署名簿に記載された署名について,全数調査を実施する必要があると判断して,10月21日に開催された市選挙管理委員会及び各区選挙管理委員会の合同会議において,審査期間を1か月程度延長し,委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所の記載のない署名簿の署名者全員に対し,調査票を送付して,署名を求められた状況の調査を行う方針を確認した(乙6,弁論の全趣旨)。 ク各区選挙管理委員会は,調査票の作成及び発送のための準備を進め,11月5日から9日にかけて,同月17日を回答期限とする調査票の発送を開始した(以下,この調査を「本件調査」という。乙21の1,2,弁論の全趣旨)。 調査票の質問内容は,①自身で署名をしたか否か,②どのように署名を求められたか,③誰から署名を求められたかの3点であり,これらの質問についてあらかじめ設定した選択肢の中から選んで回答する方法により調査を行った。設定した選択肢は,質問①に対しては「1 署名しました(質問②へ)」「2 署名していません(質問 終わり)」の2肢,質問②に対しては「1 街頭で対面により求められた(質問③へ)」「2 自宅,職場等で対面により求められた(質問③へ)」「3 回覧板など対面でない方法で求められた 質問 終わり)」の2肢,質問②に対しては「1 街頭で対面により求められた(質問③へ)」「2 自宅,職場等で対面により求められた(質問③へ)」「3 回覧板など対面でない方法で求められた(質問終わり)」「4 郵便等で署名簿が送られてきたので,署名して返した(質問終わり)」の4肢,質問③に対しては「1 請求代表者」「2 受任者」「3 請求代表者か受任者かわからない」「4 請求代表者でも受任者でもない方」の4肢とした。 市選挙管理委員会が決定した判定基準は,質問①で「2 署名していません」と回答のあった署名,質問②で「3 回覧板など対面でない方法で求められた」又は「4郵便等で署名簿が送られてきたので,署名して返した」と回答のあった署名,質問③で「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答のあった署名については無効とし,その他の回答(質問③で「1 請求代表者」又は「3 請求代表者か受任者かわからない」と回答)のあった署名については有効とするものであった(以上につき,乙4,7,8,21の1ないし3)。 ケ市選挙管理委員会は,11月17日,回答が返送されなかった場合における署名の効力の判定基準について,有効とすることを公表した(乙23の1,2)。 コ本件調査において,全市で9万9873件の調査票を発送したところ,回答の最終的な返送件数は,7万7080件であり,返送率は約77%であった。そのうち,回答に不備のなかったもの7万1788件の回答の内訳は,次のとおりであった(乙22)。 ① 質問①「1 署名しました(質問②へ)」 7万0866件「2 署名していません(質問終わり)」 922件② 質問②「1 街頭で対面により求められた(質問③へ)」 5万04 へ)」 7万0866件「2 署名していません(質問終わり)」 922件② 質問②「1 街頭で対面により求められた(質問③へ)」 5万0461件「2 自宅,職場等で対面により求められた(質問③へ)」 1万8911件「3 回覧板など対面でない方法で求められた(質問終わり)」 862件 「4 郵便等で署名簿が送られてきたので署名して返した(質問終わり)」632件③ 質問③「1 請求代表者」 9345件「2 受任者」 2万1942件「3 請求代表者か受任者かわからない」 3万5886件「4 請求代表者でも受任者でもない方」 2199件サ各区選挙管理委員会は,11月24日,請求代表者らから提出された署名簿の署名の効力を決定し,その旨を証明した。全市において有効と決定された署名数は,35万3791筆,無効と決定された署名数は11万1811筆であった。また,α区において有効と決定された署名数は1万5069筆,無効と決定された署名数は5166筆であった(甲40,乙24)。これらの署名の効力の決定において,各区選挙管理委員会は,本件調査の調査票の質問③で「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答のあった署名については,当該署名のみを無効とし,その署名が記載されていた署名簿の全部の署名を無効とすることはしなかった(弁論の全趣旨)。 なお,同日の時点における名古屋市の選挙人名簿登録者数(9月2日現在)は179万4766人であり,これを基に算出した法76条1項に規定する法定署名数は36万5795筆であった(乙25,弁論の全趣 なお,同日の時点における名古屋市の選挙人名簿登録者数(9月2日現在)は179万4766人であり,これを基に算出した法76条1項に規定する法定署名数は36万5795筆であった(乙25,弁論の全趣旨)。 シ各区選挙管理委員会は,11月25日から12月1日まで署名簿を縦覧に供した。各区選挙管理委員会は,縦覧期間中にされた異議の申出に対して,12月15日までに決定を行った結果,全市における有効署名数は36万9008筆,無効署名数は9万6594筆となり,有効署名数が前記法定署名数を上回った。なお,α区においては,有効署名数は1万6468筆,無効署名数は3767筆となった(乙28)。 ス請求代表者らは,12月20日,市選挙管理委員会に対して名古屋市議会解散請求を行い,市選挙管理委員会は,これを受理し,同日,その旨を告示した(乙2 9)。 セ市選挙管理委員会は,12月21日,名古屋市議会の解散投票の投票期日を平成23年2月6日とし,投票期日の告示日を同年1月23日とすることを決定した(乙30)。 (3) 原告の異議の申出等ア原告は,α区選挙管理委員会に対し,12月1日,名古屋市議会解散請求の署名簿の証明について異議を申し出た。その要旨は,次のようなものであった(甲1,乙26)。 (ア) 本件署名簿の様式自体に瑕疵があるので,全ての署名を無効とすべきである。 (イ) 仮に,本件署名簿の様式に瑕疵がないとしても,委任状の受任者欄が空白の署名簿は,瑕疵ある署名簿として無効とすべきである。 (ウ) 本件調査の調査票の質問③で「受任者」と回答した署名者が掲載されている署名簿は,無効とすべきである。 (エ) 請求代表者でも受任者でもない者が収集を行った署名等の違法な収集による署名は,調査の上,無効とすべきである。 イ α区選 」と回答した署名者が掲載されている署名簿は,無効とすべきである。 (エ) 請求代表者でも受任者でもない者が収集を行った署名等の違法な収集による署名は,調査の上,無効とすべきである。 イ α区選挙管理委員会は,12月9日,次の理由により,原告の異議の申出を棄却する本件棄却決定をした(甲2,乙27)。 (ア) 上記ア(ア)ないし(ウ)については,請求代表者らと市選挙管理委員会との事前協議において,市選挙管理委員会は当該様式の署名簿を使用することによって無効とすることはできないとしているが,α区選挙管理委員会においても,同様の見解である。 (イ) 上記ア(エ)については,現時点で署名収集方法が違法であったことを確認・立証することは困難であり,無効とすることはできない。 ウ原告は,12月22日,本件訴えを提起した。 4 争点及び当事者の主張本件の争点のうち本案前の争点は,市選挙管理委員会のした本件表明が取消訴訟の対象となる行政処分に当たるか否か,本案の争点は,α区選挙管理委員会のした本件 棄却決定の適法性であり,具体的には,① 本件署名簿は令及び規則に違反するものであるか否か,② 請求代表者らが提出した署名簿のうち,受任者欄が空白のものは,瑕疵ある署名簿に当たるか否か,③ 本件調査において,署名者が本件調査の調査票の質問③について「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答した署名のみを無効とした措置の当否,及び ④ α区選挙管理委員会の行った審査の方法又はその判断基準の相当性であり,これらに関する当事者の主張は,次のとおりである。 (1) 本案前の争点について(被告の主張)行政事件訴訟法3条2項所定の処分の取消しの訴えの対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力 は,次のとおりである。 (1) 本案前の争点について(被告の主張)行政事件訴訟法3条2項所定の処分の取消しの訴えの対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が法令の規定に基づき行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。 しかしながら,市議会解散請求において,選挙管理委員会が請求代表者らに対して事前に署名簿の効力に関して説明することは,法令上何ら求められておらず,本件において市選挙管理委員会がした本件表明は,後に署名収集の事務局となった者らから署名簿の様式に関して事前に任意に相談があったため,それに対する見解を任意に伝えたものにすぎない。また,この行為によって名古屋市民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものでもない。 したがって,本件表明は,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たらないことは明らかであるから,その取消しを求める原告の訴えは不適法である。 (原告の主張)市選挙管理委員会が,事前協議において行った本件表明は,本件署名簿のような1枚の用紙から成る署名用紙を有効な署名簿とするという効果を生じさせるものであり,これにより,本件署名収集活動では,本件署名簿が成規の署名簿として通用することになった。また,本件表明は,各区選挙管理委員会が署名の効力を決定するに当たり, 本件署名簿を有効な署名簿として扱わなければならないよう,その判断を拘束した。 このように,本件表明は,単なる見解の表明にとどまらない重大な意味を持つ。その上,α区選挙管理委員会は,本件表明を援用して本件棄却決定を行っており,本件表明は,本件棄却決定の決定的理由となったのであり,その後,選挙 表明は,単なる見解の表明にとどまらない重大な意味を持つ。その上,α区選挙管理委員会は,本件表明を援用して本件棄却決定を行っており,本件表明は,本件棄却決定の決定的理由となったのであり,その後,選挙人の投票により名古屋市議会の解散が決まれば,原告は名古屋市議会議員の身分を失うという不利益な法律効果が発生するのである。 したがって,本件表明は,原告の現在の地位に影響を及ぼすものであるから,取消訴訟の対象となる行政処分に当たることは明らかである。 (2) 本案の争点について(被告の主張)ア ①について本件署名簿は,令100条で準用する令92条で定められた必要な書類が全て付されているものであり,直接請求署名簿として一般的な冊子状のものでないからといって,署名簿自体が無効となるような瑕疵があるとはいえない。 そもそも,令及び規則において,「表紙」「請求書(写)」「代表者証明書(写)」「委任状」を「付す」あるいは「つづり込む」ものとされている趣旨は,請求代表者あるいは受任者が署名を求める際に署名者が「請求の要旨」を理解した上で署名できるようにするとともに,署名者に対して署名収集者が収集する資格を有する者であることを示すことができるようにすることにより,適正な署名収集を確保することにあると考えられる。この点から考えれば,署名簿が冊子状のものでなくても,「表紙」「請求書(写)」「代表者証明書(写)」が付され,さらに受任者が収集する場合は「委任状」が付されていれば,令及び規則が求める趣旨に合致するものであり,署名簿の様式が冊子状であるか否かは,本質的な差異ではない。 イ ②について署名簿は,政令指定都市における解散請求の場合は区ごとに作製しなければならないとされているが,請求代表者及び受任者が署名を収集する場合に,必ず署名簿 かは,本質的な差異ではない。 イ ②について署名簿は,政令指定都市における解散請求の場合は区ごとに作製しなければならないとされているが,請求代表者及び受任者が署名を収集する場合に,必ず署名簿を分 冊しなければならないものではない。すなわち,請求代表者及び複数の受任者が,区ごとに共通の署名簿を使用して収集することもできるものであり,請求代表者が,受任者に対して交付された有効な委任状が付された署名簿を用いて署名を収集することもできるものである。 本件署名簿の様式は,全ての署名簿に委任状の様式が付されている。ただし,付されている委任状の様式は,署名収集の委任行為がなされ受任者に対して交付されたときに,初めて委任状としての効果をもつものである。したがって,本件署名簿に付された委任状は,委任行為がなされ,委任状の交付を受けた受任者が署名収集を行う際には委任状としての効果をもつものであるが,請求代表者が署名収集を行う場合には,そこには委任行為は存在しないため,署名簿に付されている委任状は委任状としての効果をもつものとはいえない。すなわち,請求代表者が収集する際の本件署名簿に委任状の様式が付されていることは,ただ単に余分なものが添付されているものにすぎず,これが付されていることにより本件署名簿自体が無効となるものではない。 ウ ③について本件調査は,本件署名簿の記載上,請求代表者が収集したこととなっている署名簿に記載された署名者に対して行ったものであるため,「1 請求代表者」と回答した者の署名は有効とし,「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答した者の署名は,法令の定める成規の手続によらない署名として無効とした。 「3 請求代表者か受任者かわからない」と回答した者の署名については,請求代表者以外 請求代表者でも受任者でもない方」と回答した者の署名は,法令の定める成規の手続によらない署名として無効とした。 「3 請求代表者か受任者かわからない」と回答した者の署名については,請求代表者以外の者が収集したと確認できないため,有効としたものである。 署名の効力判定に当たっては,同一の署名簿の中に一人でも「2 受任者」あるいは「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答した者がいた場合でも,そのことにより当該署名簿を全て無効とはせず,個々の回答により,個々の署名の効力について判定を行った。 この点について,数名の受任者が1冊の署名簿で署名を収集した場合,その中の一人が無資格者であったときの署名の効力について,無資格者が収集したと認められる 署名のみ無効とし,署名の効力について個々に判断を行うものとした行政実例がある。 そこで,本件においても,本件署名簿にそれ自体が無効となるような瑕疵がなかったため,署名の効力を個々の署名ごとに判断したのである。 エ ④について署名は,成規の手続によらないものは無効となる(法76条4項,74条の3第1項1号)。本件署名収集活動に関しては,市選挙管理委員会に対して,違法と思われる方法により署名収集を行っているとの情報が多数寄せられたこともあり,委任状の様式に受任者の住所及び氏名の記載がない署名簿に記載された署名者に対して調査(本件調査)を行った。この調査において,「自身で署名していない」「郵便や回覧の方法により署名をした」等の違法な方法により収集されたことが判明した署名については,α区選挙管理委員会を含めた各区選挙管理委員会において,無効と決定している。 署名審査において,選挙管理委員会は,署名簿を外形的,形式的に審査するだけではなく,署名の効力を判断するために必要な調査をす 挙管理委員会を含めた各区選挙管理委員会において,無効と決定している。 署名審査において,選挙管理委員会は,署名簿を外形的,形式的に審査するだけではなく,署名の効力を判断するために必要な調査をする権限を有している。また,一定の限られた審査期間内にどのような調査をどの範囲で行うかについては,選挙管理委員会の合理的な裁量に委ねられていると解されている。今回の署名者に対する調査は,調査が必要であると判断した署名について,必要かつ合理的な方法により裁量の範囲内で調査を行ったものであり,この調査は何ら違法なものではない。 (原告の主張)ア ①について令100条,98条の4,規則11条,9条によれば,解散請求に係る署名簿には,表紙の次に,「請求書又はその写し」及び「請求代表者証明書又はその写し」を「請求者署名簿ごとにつづり込むもの」とされ,受任者が署名を収集する場合の署名簿には,「請求署名収集委任状はこれを表紙の次につづり込むもの」とされている。そして,ここでいう署名簿とは,その文言からして数枚の用紙を綴じたものと解釈されている。直接請求署名は,住民意思が適正に反映されなければならず,一定の署名数が 集まった場合に重大な法律的効果を生ずるものであって,それに応じた厳格な形式が要求されるから,法令の定める様式に従わない署名簿による署名は無効である。 本件署名収集活動に使用された本件署名簿は,1枚の紙の片方の一面に,「請求書」や委任状までもが一式印刷されており(ただし,委任者の押印を除く。),「委任状の交付」の余地がなく,法令が求める必要書類を「つづり込むもの」となっていない。そしてもう一方の片面に署名欄を印刷したものにすぎない。この様式は,上記法令の定める「署名簿」というに値しない。この瑕疵は,軽微なものということはで める必要書類を「つづり込むもの」となっていない。そしてもう一方の片面に署名欄を印刷したものにすぎない。この様式は,上記法令の定める「署名簿」というに値しない。この瑕疵は,軽微なものということはできず,本件署名簿は違法であり,本件署名簿を使用して収集した署名は,無効である。 被告は,「『つづり込む』ものとされている趣旨を,署名を集める際に署名者が『請求の趣旨』を理解した上で署名できるようにするとともに署名者に対して署名収集者が収集する資格を有するものであることを示すことができるようにすることにより,適正な署名収集を確保することにあると考えられる」としている。そして,署名簿が冊子状のものでなくても必要書類が付されていれば「令,規則が求める趣旨に合致し,本質的な差異ではない」と主張するが,本件署名収集活動では,多くの場合,署名欄のみを提示して署名を求めており,その裏側となる請求の趣旨,請求代表者証明,委任状等は,署名者に対して内容に関してはもちろん存在自体さえ示されていないのが実情であった。このように署名用紙を裏返して署名欄だけ示すという使われ方が可能となった署名用紙だからこそ,受任者欄空白のまま収集され,署名収集者が不明等の事態が起こったのであり,被告の主張は,令,規則が厳重な形式を求めた趣旨を省みないものであり,失当である。 イ ②について令100条,92条1項では,請求代表者が署名を収集する場合の署名簿の様式を規定した上で,同条2項で受任者が収集する場合について,さらに「委任状」を付すことを規定している。すなわち,請求代表者用と受任者用とは署名簿の様式が異なるものとして峻別されている。このように,請求代表者又は受任者が,それと分かる様式をもって,署名候補者と対面することによって,署名を収集しなければならないと す とは署名簿の様式が異なるものとして峻別されている。このように,請求代表者又は受任者が,それと分かる様式をもって,署名候補者と対面することによって,署名を収集しなければならないと するのが法令の求めであるから,請求代表者が用いる署名簿と受任者が用いる署名簿とは明確に区別されなければならない。 本件署名簿には委任状が付されているから,この受任者欄に受任者の氏名が記入され,これを用いて当該受任者が署名を収集すべきものと予定されているものである。 これに対して,上記の法令の趣旨に照らせば,請求代表者が行う署名収集には委任状を要せず,請求代表者が用いるべき署名簿には委任状が綴り込まれないことになる。 したがって,委任状が付け加えられている署名簿は,受任者による署名収集が予定されたものというほかないのであって,本件署名簿で受任者欄が空白の署名簿については,署名収集受任者が不明と判断せざるを得ないのであるから,瑕疵ある署名簿として,同署名簿の署名は全て無効と認定されなければならない。 本件においては,市選挙管理委員会は,本件署名簿の受任者欄が空白のものを請求代表者用の署名用紙として流用することを容認したが,これは,重大な法律解釈の誤りといわねばならない。 ウ ③について署名を集めることができるのは請求代表者と受任者に限られているから,同一の署名簿につき「受任者」が収集したと答えた者がいる場合には,当該署名簿は受任者が集めたものと推定されるべきである。また,「どちらでもない」と1人でも回答のあった署名簿についても,請求代表者でも受任者でもない者が収集したものとも推定されるべきである。「わからない」と答えた者の署名は,請求代表者において集めたものだと判断してよい根拠はいかさかも存しない。 同一署名簿内において各署名者の回答内容が錯 ない者が収集したものとも推定されるべきである。「わからない」と答えた者の署名は,請求代表者において集めたものだと判断してよい根拠はいかさかも存しない。 同一署名簿内において各署名者の回答内容が錯綜した場合,結局誰が当該署名簿を利用して署名を収集したのか判明しないのであるから,その署名簿の署名は全て無効とされなければならない。それにもかかわらず,α区選挙管理委員会は,「わからない」とした回答者について,請求代表者が収集したものとみなし,この署名を有効としており,違法であるエ ④について 街頭で,請求代表者でもなく受任者でもない者が署名用紙を16区分用意して署名収集を行っていた,という情報も市選挙管理委員会等に通報されていた。市選挙管理委員会自身,受任者欄白紙の署名簿に対して違法署名が行われた可能性を疑って本件調査を行ったのである。これらを考え合わせれば,各区選挙管理委員会は違法な収集による署名であることを承知の上で,本件棄却決定を行ったものとの批判を甘受せざるをえない。α区選挙管理委員会の審査と判断は,厳格に判断されるべき署名の効力について甚だしい誤りを犯したもので,違法である。 第3 当裁判所の判断 1 本案前の争点について請求の趣旨第2項に係る訴えは,市選挙管理委員会による本件表明が行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たるとして,その取消しを求めるものである。 しかしながら,同項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解するのが相当である。本件表明は,後の本件署名収集活動の事務局となる者らか 体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解するのが相当である。本件表明は,後の本件署名収集活動の事務局となる者らから署名簿の様式について事前に相談を受けた市選挙管理委員会が,その相談者らに対し,当該署名簿により集められた署名の効力に関して一定の見解を任意に示したものであって,全くの事実上の行為にすぎず,これにより,国民の権利義務を直接形成し又はその範囲を確定するものでないことは明らかである。 原告は,本件表明は,本件署名簿のような1枚の用紙から成る署名用紙を有効な署名簿とするという効果を生じさせるものであると主張するが,そのような効果は本件表明の法的効果として生ずるものではない。また,原告は,本件表明は,各区選挙管理委員会が署名の効力を決定するに当たり,本件署名簿を有効な署名簿として扱わなければならないようその判断を拘束した旨主張するが,本件表明は,市選挙管理委員会が相談者に対して任意に一定の見解を表明したものにすぎず,各区選挙管理委員会 の判断を法的に拘束する効力を持つものではない。本件表明が取消訴訟の対象となる行政処分に当たるとする原告の主張は,独自の見解というほかなく,採用することができないよって,請求の趣旨第2項に係る訴えは,不適法な訴えというべきである。 2 本案の争点について(1) ①(本件署名簿は令及び規則に違反するものであるか否か)についてア令100条により準用される令92条1項,2項によれば,議会の解散請求代表者は,解散請求書又はその写し及び請求代表者証明書又はその写しを付して選挙権者に署名を求めなければならず,受任者が署名を収集する場合には,上記各書面に加えて請求代表者の委任状(原本)を付した署名簿を用 は,解散請求書又はその写し及び請求代表者証明書又はその写しを付して選挙権者に署名を求めなければならず,受任者が署名を収集する場合には,上記各書面に加えて請求代表者の委任状(原本)を付した署名簿を用いなければならないものとされている。解散請求の署名の収集について,これらの書面を付することが求められているのは,解散請求に関して署名をしようとする者が,署名をする際に,解散請求書に記載されている請求の趣旨を確認することによりその主張内容を理解した上で署名ができるようにするとともに,請求代表者証明書等によって署名の収集者がその資格を有する者であることを確認することができるようにするためであると解される。 そして,令100条により準用される令98条の4により,議会の解散請求の署名簿は,命令で定める様式で調整しなければならないとされ,この規定を受けて定められた規則11条1項,9条1項によれば,解散請求書又はその写し及び請求代表者証明書又はその写し及び委任状は,署名簿の表紙の次につづり込むものとされている(別紙3の規則の別記様式備考2項)。規則において,このように解散請求書等を署名簿の表紙の次につづり込むという様式が定められたのは,前示の解散請求書等を署名簿に付する趣旨,すなわち,解散請求に関して署名をしようとする者が,署名をする際に,解散請求書に記載されている請求の趣旨を確認することによりその主張内容を理解した上で署名ができるようにするとともに,請求代表者証明書等によって署名の収集者がその資格を有する者であることを確認することができるようにするという趣旨にかなうものと考えられ,また,「つづり込む」という様式を採用することによ って,解散請求書等と署名欄部分が分離されて署名の収集活動が行われることを防ごうとしたものと解される。 イ本 かなうものと考えられ,また,「つづり込む」という様式を採用することによ って,解散請求書等と署名欄部分が分離されて署名の収集活動が行われることを防ごうとしたものと解される。 イ本件署名簿の様式は,別紙1のとおり,A3判用紙の片面に「名古屋市議会解散請求者署名簿」との表題等を記載した表紙に相当するもののほか,請求代表者らの名古屋市議会解散請求書及び請求代表者証明書を縮小コピーしたもの並びに委任状の様式が印刷され,その裏面に規則の別記様式で定める署名欄等が印刷されているものであるから,表紙の次に解散請求書等をつづり込むという様式にはなっていない。しかしながら,本件署名簿の上記のとおりの様式は,その一覧性にかんがみ,令が解散請求書等を署名簿に付することとした前示の趣旨にかなうという点では,表紙の次に解散請求書等をつづり込むという様式に何ら劣るものではなく,また,解散請求書等と署名欄部分の一体性が確保されているから,これらが分離されて署名収集活動が行われる危険性もないものである。 こうした点にかんがみると,本件署名簿について,表紙の次に解散請求書等をつづり込むという様式にはなっていないという点のみから,令及び規則の規定に違反するものと解するのは相当でなく,本件署名簿によって収集された署名をもって,法令の定める成規の手続によらない署名であるということはできないというべきである。 本件署名簿の様式の不備をいう原告の主張は,以上の説示に照らし,採用することができない。 (2) ②(請求代表者らが提出した署名簿のうち,受任者欄が空白のものは,瑕疵ある署名簿に当たるか否か)について解散請求のための署名収集活動は,請求代表者として適式に申請し証明を受けた者及びその者から適式に委任を受けた者(受任者)のみが行い得るものであり,解散 は,瑕疵ある署名簿に当たるか否か)について解散請求のための署名収集活動は,請求代表者として適式に申請し証明を受けた者及びその者から適式に委任を受けた者(受任者)のみが行い得るものであり,解散請求者署名簿に請求代表者証明書や委任状を付して署名収集活動を行うことを義務付けた趣旨は,前示のとおり,これらの書面によって,署名の収集者がその資格を有する者であることを確認することができるようにするためである。 ところで,令100条,92条2項によれば,受任者は,委任状等を付した解散請 求者署名簿を用いなければならないが,請求代表者が行う署名収集活動につき,委任状を付した署名簿の使用を禁止する規定は存しない。そして,解散請求者名簿に請求代表者証明書や委任状を付して署名収集活動を行うことの趣旨を上記のとおり解するならば,受任者が行う場合には,署名簿に付した委任状により受任者が署名収集活動をしていることを明示する必要はあるが,請求代表者が行う場合には,請求代表者証明書により,請求代表者が当該署名活動をしていることが明らかにされていれば,解散請求のための署名簿を受任者が行う場合と区別する必要はないというべきであり,したがって,請求代表者の使用する署名簿に委任状が付してあったとしても,これにより,請求代表者の収集した署名が無効となると解することはできない。 原告は,令92条により請求代表者が使用する署名簿と受任者が使用する署名簿は峻別されるべきであると主張するが,請求代表者が委任状の付された署名簿によって署名収集活動を行うことが禁止されると解する根拠はない。 本件署名簿は,請求代表者らが使用するものであっても委任状の様式が付されているが,上記判示によれば,本件署名簿は,請求代表者らが署名収集活動を行うために用いるものとして瑕疵がある る根拠はない。 本件署名簿は,請求代表者らが使用するものであっても委任状の様式が付されているが,上記判示によれば,本件署名簿は,請求代表者らが署名収集活動を行うために用いるものとして瑕疵があるものということはできない。 (3) ③(本件調査において,署名者が本件調査の調査票の質問③に対し「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答した署名のみを無効とした措置の当否)について前記前提事実のとおり,α区選挙管理委員会を含む各区選挙管理委員会は,請求代表者らが提出した署名簿のうち,委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所の記載のない署名簿の署名者全員に対し調査票を送付して本件調査を行い,その調査票の質問③(誰から署名を求められたかを尋ねるもの)に対し,「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答のあった署名については,当該署名を無効としたが,その署名が記載された署名簿の全部の署名を無効とすることはせず,また,上記の質問に対し,「請求代表者か受任者かわからない」と回答のあった署名については有効としたものである。 この取扱いに関し,原告は,① 同一署名簿内において各署名者の回答内容が錯綜した場合,結局,誰が当該署名簿を利用して署名を収集したのか判明しないのであるから,その署名簿の署名は全て無効とされなければならない,② 「請求代表者か受任者かわからない」と回答のあった署名を請求代表者が収集したものと判断してよい根拠はないとして,その判断に誤りがある旨主張する。 しかしながら,上記①の点については,同一の署名簿に記載された署名であっても,必ずしも同一人が連続して収集したものとは限られないのであり,1冊の署名簿の中に請求代表者らによって収集された署名とその他の者によって収集された署名が混在 は,同一の署名簿に記載された署名であっても,必ずしも同一人が連続して収集したものとは限られないのであり,1冊の署名簿の中に請求代表者らによって収集された署名とその他の者によって収集された署名が混在することがあり得るのであるから,本件調査の調査票の質問③(誰から署名を求められたかを尋ねるもの)に対し,「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答のあった署名が記載された署名簿の署名全部を一律に無効としなかったとしても,そのような取扱いが直ちに誤りであるということはできない。もとより,上記のような回答があった場合,関係人の出頭及び証言を求めて(法76条4項,74条の3第3項),署名の状況について更に詳しく調査することも可能であるが,そのような調査をするかどうかは当該選挙管理委員会の裁量に委ねられた事柄である。 法が署名簿の署名の審査期間を20日と定めて迅速な審査を求めていること(法76条4項,74条の2第1項)や更なる調査による関係人の負担等を考慮すれば,α区選挙管理委員会において,上記のような更に詳しい調査をすることなく,「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答のあった署名に限って無効とし,その署名が記載された署名簿の全部の署名を無効としなかったことは,署名審査の判断として相当性を欠くものということはできない。 また,②の点については,請求代表者らが真実収集した署名であっても,当該署名者においてその相手方が請求代表者らであることを明確に認識しているとは限られないのであるから,α区選挙管理委員会において,本件調査の調査票の質問③に対し,「請求代表者か受任者かわからない」と回答のあった署名について,法定の無効事由は認められないものとして,有効と判断したことに誤りはないというべきである。 査の調査票の質問③に対し,「請求代表者か受任者かわからない」と回答のあった署名について,法定の無効事由は認められないものとして,有効と判断したことに誤りはないというべきである。 本件調査に係る署名審査の判断の誤りをいう原告の主張は,いずれも採用することができない。 (4) ④(α区選挙管理委員会の行った審査の方法又はその基準の相当性)について原告は,本件署名収集活動において請求代表者でも受任者でもない無資格者により集められた署名が多数あり,α区選挙管理委員会はこの事実を見落として署名の審査をした旨主張する。原告の主張は,個別の署名を特定してその無効事由を主張するものではないから,結局のところ,α区選挙管理委員会が行った審査の方法又はその判断基準が不当であるという主張に帰するものである。 ところで,市選挙管理委員会及び各区選挙管理委員会は,前記前提事実(2)エ記載の本件署名収集活動の違法を指摘する情報を踏まえ,本件調査を行ったものと認められ,各区選挙管理委員会は,前記前提事実(2)サ記載のとおり,本件調査において調査票の質問③(誰から署名を求められたかを尋ねるもの)に対し「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答した者の署名を無効としたものである。そして,本件調査に係る判断に誤りがあるとはいえないことは,前示のとおりである。 原告の上記主張を踏まえても,α区選挙管理委員会が行った署名の審査の方法又はその判断基準にこれを違法とすべき誤りがあるとは認められない。 (5) まとめ以上によれば,原告の異議の申出を棄却した本件棄却決定は適法と認められる。 3 結論よって,本件訴えのうち,市選挙管理委員会のした本件表明の取消しを求める訴えは不適法であるからこれを却下し,その余の請求は理由がな 異議の申出を棄却した本件棄却決定は適法と認められる。 3 結論よって,本件訴えのうち,市選挙管理委員会のした本件表明の取消しを求める訴えは不適法であるからこれを却下し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官増田稔 裁判官鳥居俊一 裁判官杉浦一輝 別紙2 政令指定都市における市議会解散請求の手続の概要 (1) 解散請求をしようとする代表者(以下「請求代表者」という。)は,その請求の要旨その他必要な事項を記載した解散請求書を添えて,市選挙管理委員会に対し,文書により「解散請求代表者証明書」(以下「請求代表者証明書」という。)の交付を申請する(令100条,91条1項)。市選挙管理委員会は,請求代表者が選挙人名簿に登録された者であると確認した場合は,請求代表者に対し,上記証明書を交付するとともに,その旨を告示する(令100条,91条2項)。 (2) 請求代表者は,選挙権者の連署を求めるために,区ごとに市議会解散請求者署名簿(以下「署名簿」という。)を作成する(令100条,93条)。請求代表者は,解散請求書又はその写し及び請求代表者証明書又はその写しを付して,選挙権者に対し署名押印を求めなければならない(令100条,92条1項)。また,次の(3)のとおり,署名の収集を他の選挙権者(後記,受任者)に委任する場合には,上記のものに加え,後記の委任状(原本)を付した署名簿を用いなければならない(令100条,92条2項)。 (3) 請求代表者は,署名の収集を選挙権者に委任することがで 受任者)に委任する場合には,上記のものに加え,後記の委任状(原本)を付した署名簿を用いなければならない(令100条,92条2項)。 (3) 請求代表者は,署名の収集を選挙権者に委任することができる(令100条,92条2項)。請求代表者からの署名収集の委任は,規則11条1項,9条1項所定の様式を備えた署名収集委任状(以下「委任状」という。)を受任者に交付することより行い,請求代表者がこの委任を行ったときは,直ちに,市選挙管理委員会及び受任者の属する区の区選挙管理委員会に文書をもって届け出なければならない(令100条,92条3項,98条の3)。 なお,受任者が署名を収集できる範囲は,当該受任者が属する区の区域に限られるが,請求代表者には,この制限はない(令100条,92条2項,98条の3)。 (4) 署名収集の期間は,原則として,請求代表者証明書交付の告示があった日から1か月である(令100条,92条4項)。 (5) 署名者は,署名簿に,氏名を自署し(一定の場合には,代筆が認められている 〔法76条4項,74条7項,8項〕。),押印し,その他の所定事項を記載することが必要である(令100条,92条1項,2項)。 (6) 請求代表者は,署名収集を終えたときは,署名収集期間満了の日の翌日から起算して5日以内に,署名簿に署名し印を押した者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を求めるため,署名簿を区選挙管理委員会に提出しなければならない(法76条4項,74条の2第1項,令100条,94条1項,98条の3)。 (7) 署名簿の提出を受けた区選挙管理委員会は,提出の日から20日以内に審査を行い,署名の効力を決定し,その旨を証明しなければならない(法76条4項,74条の2第1項,令98条の3)。 (8) 収集された署 の提出を受けた区選挙管理委員会は,提出の日から20日以内に審査を行い,署名の効力を決定し,その旨を証明しなければならない(法76条4項,74条の2第1項,令98条の3)。 (8) 収集された署名のうち,法令の定める成規の手続によらない署名及び何人であるかを確認し難い署名は,無効となる(法76条4項,74条の3第1項)。 (9) 区選挙管理委員会は,署名の効力を決定するに当たり,必要があると認めるときは,関係人の出頭及び証言を求めることができ,その場合には,法に特別の規定がある場合を除き,民事訴訟法の証人尋問に関する規定が準用される(76条4項,74条の3第3項,4項,100条2項,3項,7項,8項,令98条の3)。 (10) 区選挙管理委員会は,署名簿の審査が終了したときは,個々の署名ごとに署名簿の有効,無効の欄に印を押す方法により,署名の効力の証明を行う(令100条,94条2項,98条の3)。 (11) 区選挙管理委員会は,署名簿の審査,効力の決定,証明が終了したときは,直ちに署名簿に署名し印を押した者の総数及び有効署名の総数を告示し,かつ,公衆の見やすい方法により掲示する(令100条,95条の2,98条の3)。 (12) 区選挙管理委員会は,署名簿の署名の証明が終了したときは,その日から7日間,指定した場所において署名簿を関係人の縦覧に供する。区選挙管理委員会は,予め,署名簿の縦覧の期間及び場所を公示し,かつ,公衆の見やすい方法によりこれを公表しなければならない(法76条4項,74条の2第2項,3項,令98条の3)。 (13) 署名簿の署名に関し異議がある関係人は,上記(12)の縦覧期間内に区選挙管理委員会に異議を申し出ることができる。区選挙管理委員会は,その異議の申出を受けた日から14日以内に決 (13) 署名簿の署名に関し異議がある関係人は,上記(12)の縦覧期間内に区選挙管理委員会に異議を申し出ることができる。区選挙管理委員会は,その異議の申出を受けた日から14日以内に決定をしなければならない。なお,区選挙管理委員会が14日以内に決定をしないときは,申出を退ける決定があったものとみなされる(法76条4項,74条の2第4項,5項,257条2項,令98条の3)。 (14) 区選挙管理委員会は,上記(13)による全ての異議についての決定をしたときは,その旨及び有効署名の総数を告示するとともに,署名簿を請求代表者に返付しなければならない(法76条4項,74条の2第6項)。 (15) 上記(13)の決定に不服のある者は,その決定のあった日から14日以内に地方裁判所に出訴することができる(法76条4項,74条の2第8項前段)。 (16) 請求代表者は,上記(13)の決定に関し不服がないときは,署名簿の返付を受けた日から5日以内に,解散請求書に有効署名があることを証明する書面及び解散請求の署名簿を添えて,市選挙管理委員会に解散の請求をすることができる(法76条1項,令100条,96条1項)。 (17) 市選挙管理委員会は,上記(16)の請求を受理したときは,直ちにその旨を請求代表者に通知するとともに,請求の要旨等を告示・公表し,20日以内に市議会から弁明書を徴する(法76条2項,令100条,98条1項,104条1項)。 そして,受理の告示から60日以内に選挙人の投票に付されることになる(令100条の2第1項)。
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