【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理 由 本件控訴の趣意は、弁護人新谷啓次郎作成の控訴趣意書及び同追加書記載のとお りであるから、これを引
主文 原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は、弁護人新谷啓次郎作成の控訴趣意書及び同追加書記載のとおりであるから、これを引用する。 論旨は、原判決の事実誤認を主張し、いわゆる「信頼の原則」からみて、被告人には原判決認定のような過失はない、というのである。 案ずるに、原判決挙示の証拠および当審における事実取調の結果によれば、本件事故現場の道路は、国道a号線上の市街地を東西に通ずる歩車道の区別のない、アスフアルト舗装された見とおしのよい直線道路で、その幅員は約九・七メートル(道路の両側の幅員約〇・七メートルのコンクリート蓋のある側溝部分を含めると約一一・一メートル)で、その中央にはセンターラインが引かれ、同ラインから両側へ約四メートルのところに白色の外側線が引かれていて、当時右外側線から外側、側溝上を含めての外側端が事実上歩道(現行法の路側帯)とされていたものである。そして被告人は昭和四五年六月一九日午後一時五分頃、軽四輪貨物自動車を運転して本件道路を東進し、原判示の本件事故発生現場より一〇〇数十メートル西方の通称b交差点西詰で赤信号に従い一時停止したのち、青信号に従い被告人の車が先頭になつてセンターラインから約四、五〇センチメートルのあたりを時速約三〇キロメートル(制限時速五〇キロメートル)で東進し、本件事故発生現場より約二一・九メートル手前にある横断歩道上を進行していた際、左斜め前方約一七・三メートルの道路左側端部分を同方向に歩行中のA(当六六年)の後姿を認め、同人が道路左側端部分を歩きながら一旦右後方を振り返つたが道路中央に向つて出てくる気配もなく、そのまま歩いて行くのを見てそのまま前進するものと思い、被告人は同一速度のままで進行した。右Aは、道路左側端部分 道路左側端部分を歩きながら一旦右後方を振り返つたが道路中央に向つて出てくる気配もなく、そのまま歩いて行くのを見てそのまま前進するものと思い、被告人は同一速度のままで進行した。右Aは、道路左側端部分を歩いていたが、進路前方に左側端ほぼ一杯に車体を寄せ、その車体右側を外側線から道路中央に向つて約二、三〇センチメートルはみ出して駐車していた軽自動車(その後部は前記横断歩道の東端線から約二三メートルの地点)の右斜め後方約一・三メートルの地点(当審検証調書添付見取図の「タイ」点)に出て、そこから右駐車車両の右側にそつて通行することなく、突然、被告人の方に後姿を見せながら小走りで、Bの検察官に対する供述調書中の表現をかりれば「かにの横ばい」のような状況で、南へ向けやや斜めに横断をし始めたところ、東進して来た被告人の車の左側面前部(前部から約五、六〇センチメートルの部位)に衝突して路上に転倒し、頭蓋骨折、脳挫傷の傷害を負い、約二時間五〇分後に原判示のC病院において死亡したこと及び前記駐車車両の右側面とセンターラインとの間は約三・七メートルないし三・八メートルあり、車幅一・二九メートルの被告人の車がセンーターライン寄りに通行しても被告人の車の左側面と右駐車車両との間はなお二メートル有余の間隔があつて歩行者が右駐車車両の右側を通行するには十分な余裕があつたことが認められる。そして、当審証人Bの証言及び当審検証調書によれば、被告人の車の約一〇メートル後方を自動車を運転して後続していたBは、左斜め前方約一五・九メートルの前記「タイ」点にいるAを認めたというのであり、これによればその際の被告人と「タイ」点との距離は約五・九メートルであることとなり、また、右検証調書によれば「タイ」点と衝突地点との間は約二・一メートルであるから、これから右Aの小走りの速度を算 、これによればその際の被告人と「タイ」点との距離は約五・九メートルであることとなり、また、右検証調書によれば「タイ」点と衝突地点との間は約二・一メートルであるから、これから右Aの小走りの速度を算定すると秒速三・二メートル(時速一一・七キロメートル)と算定されるが、右の数値は老令である同人の速度としては早過ぎると考えられ、かえつて両者の速度から距離を逆算するに、六六歳のAの小走りの速度を少なくとも秒速二メートルとすると、Aが二・一メートル進行する間に時速三〇キロメートル(秒速八・三三メートル)の被告人の車は八・七五メートル進行することとなるから、自動車の接触部位が車の前部から約五、六〇センチメートルであることをも考慮に入れると、被告人と前記「タイ」点との距離は八・一五ないし八・二五メートルであることが算定され、Aが「タイ」点にいたときの被告人の位置関係は大体後者のような関係にあつたとみるのが相当である。ところで、被告人は原審及び当審において前記駐車車両がいたかどうかは記憶にない旨供述するが、被告人の車は先頭になつて進行しており、かつ右駐車車両を認めるに妨害となるべき物は何ら存在しなかつたのであるから、当然被告人の視野に入つていた筈であり、ただ右車両は道路左側端に駐車し、かつ同車とセンターラインとの間は約三・七メートルないし三・八メートルもあつて被告人の車の進行に全く危険を感じさせるものがなかつたところから、駐車車両を認めてはいたが、特に記憶に残つていないというものではないかと考えられる。また、原判決は、被告人が左斜め前方約一七メートルの道路左側端を同方向に歩行しているAを発見したのち、同人と接触するに至るまでの被告人及びAの動静等につき、Aが衝突前被告人車両の方を振りむいたとの被告人の供述はたやすく信用しがたく、被告人がこの点について 端を同方向に歩行しているAを発見したのち、同人と接触するに至るまでの被告人及びAの動静等につき、Aが衝突前被告人車両の方を振りむいたとの被告人の供述はたやすく信用しがたく、被告人がこの点について明確な供述をなし得なかつたのは所詮被告人はこれに注意を払つていなかつたと説示するのに対し、所論はAが衝突直前、被告人の数メートル前で被告人車両の方を振りむいたとの被告人の供述は信用できるというのである。なるほど、被告人が本件事故当日の昭和四五年六月一九日付司法警察員に対する供述調書においては、「衝突前数メートル手前でAが被告人の方を見たように思う」旨供述したが、その後の司法警察員及び検察官に対する供述調書においては、「最初左斜め約一七・三メートル前方を同方向に歩いて行くAの姿を発見したあと同人はそのまま左側を歩いて行くものとばかり思つていたので衝突時まで同人の動きに全然注意していなかつた」旨供述し、次いで原審第一回公判においては「事故現場から四、五メートル手前に接近したとき被害者は振り返つたと思うが、横断するような素振りは見受けられず、大丈夫だと思つていた、前方は注視していたが被害者にばかり気をとられては前方不注意になるのでそのようにしなかつた」旨供述し、原審第五回公判においては「最初Aを発見した際、同人は一旦右後方を振りむいてそのまま前の方へ歩いて行き、横断する気配はなかつた。同人の右後方二、三メートルのところまで、ちよいちょい同人の動静に注意を払つていた。」旨供述していて、Aが後を振り返つたかどうか、被告人がAを見てからのち同人に注意を払つていたかどうかについて供述に変遷があるが、原審及び当審における検証の際には、被告人はAが後を振り返つた地点としていずれも被告人から一〇数メートル左斜め前方の道路左側端部分を指示しており、その他にAから かどうかについて供述に変遷があるが、原審及び当審における検証の際には、被告人はAが後を振り返つた地点としていずれも被告人から一〇数メートル左斜め前方の道路左側端部分を指示しており、その他にAから二、三メートルあるいは数メートル手前で同人を認めたという地点については何ら指示をしておらず、以上の各供述及び右検証の結果並びに実況見分の結果を総合すると、さきに認定した如く被告人は左斜め前方約一七・三メートルの道路左側端部分を同方向に歩行中の右Aの後姿を認め同人が同部分を歩行中に一旦右後方を振り返つてまたそのまま歩いて行くのを認めたが、被告人は同人がそのまま前方に歩いて行くものと信じ、前方には注意をしていたが、その後の同人の動静については十分の注意をしていなかつたものと認めるのが相当である。したがつて、原判決の前記説示および弁護人の所論はそれぞれその一部においては相当であるが、他の一部においては不相当といわなければならない。以上要するに、被告人は前記の如く道路左側端部分を歩行していたAが一旦右後方を振り返るのを認めるとともに、同人の進路前方に車両が駐車しているのを認めたが、同人が被告人の車両に気づいたかどうかは判明しないとはいえ、同人がそのまま前方に歩くのを見て、同人がそのまま前方に歩いて行く、すなわち、道路左側端を進み右駐車車両の右斜め後方に出て同車の右側を通行して行くものと考え、前方には注意しながらも特にAのその後の動静には十分の注意をしないで自車を走らせたところ、衝突地点の約八メートル余手前に進行した際、駐車車両の右斜め後方約一・三メートルの「タイ」点(当審検証調書によれば、駐車車両の右側面を延長した線との間隔は約〇・五メートル)のAが駐車車両の右側にそつて通行することなく、突然、小走りで道路南側へ横断し始めたことが認められるのである。 イ」点(当審検証調書によれば、駐車車両の右側面を延長した線との間隔は約〇・五メートル)のAが駐車車両の右側にそつて通行することなく、突然、小走りで道路南側へ横断し始めたことが認められるのである。ところで、原判決は、本件事故の発生につき「このような場合、自動車運転者としては、Aの右側方を通過することになることから、同人の動静に深甚の注意を払い、同人が進路変更等の挙に出た際には、これに応じて回避停車等の適宜の措置をとり、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、同人がそのまま直進するものと軽信して以後同人の動静に注意を払わず、漫然前記速度で進行を続けた過失により、……」と判示して、被告人<要旨>の過失を認めているので、この判断の当否について考えてみるに、自動車運転者に安全運転義務があることは</要旨>道路交通法七〇条に規定するところであるが、右義務といえども、当時の客観状況から合理的に予測できない突発事態にまで対処できるよう万全の注意を要求するものとは解せられない。 すなわち、自動車運転者が車両の往来が比較的に少ないとはいえ、地方の幹線道路で幅員の比較的に広い国道を通行する場合、進路の道路左側端付近の路側帯上を自車と同方向に歩く歩行者を認めても、その横を通過する際の間隔がある程度離れていて通常危険を感じさせるものでないと認められるときは、その歩行者がいかなる行動に出るか予測の困難な幼児などであれば格別、然らざる限り、その者が自衛本能から自ら自動車と衝突するような危険を避けるため適切な行動をとるであろうと信頼して運転すれば足り、横断歩道またはその直近でない箇所において被告人の車の進行を無視し、突然しかもその側面に飛び出すようなことがあることまで予測して事故防止を講じなければならない注意義務を負うものとは解せら すれば足り、横断歩道またはその直近でない箇所において被告人の車の進行を無視し、突然しかもその側面に飛び出すようなことがあることまで予測して事故防止を講じなければならない注意義務を負うものとは解せられないのである。本件において、本件道路は車両の交通が比較的に少ないとはいえ一時間に約四〇〇台の車両の通行がある幅員の比較的広い国道で、車幅一・二九メートルの被告人の車がセンターラインの四、五〇センチメートルのところを進行しても道路左端を歩いているAの右横を通過するときの間隔は二・二ないし二・三メートル、前記「タイ」点から駐車車両の右横をAが通つたとしてもその際の同人との間隔はなお約二メートル近くあつたもので、被告人が道路左側端(路側帯)を歩行中のAが右後方を振り返つて前方に進んで行くのを見て、同人がそのまま前方に歩いて行くものと信じたのは、その段階では当然のことであり、その後のAの動静については十分の注意を払つてはいないが、同人が駐車車両の右斜め後方の前記「タイ」点に出て来たのを認めていたとしても、同人は東向いて被告人の方には後姿を見せていたのであるから、何人が見ても同人が駐車車両の右横を通行して行くものと信じるのは当然であり、かつ、被告人の車が「タイ」点の横を通過しても、なお約二メートルの間隔があつて危険を感じさぜるものはなかつたのであるから、被告人が前方には注意しながらもAののちの動静について十分の注意を払わなかつたとしても、被告人がそのままの速度で進行したことにつき不注意があつたということはできない。しかも、被告人が本件衝突地点より約八メートル余手前において、前記「タイ」点に出て来たAの後姿を認めたとしても、同人が突然被告人に後姿を見せつつ小走りに斜め横断を開始するのを見て、直ちに急制動の措置をとつても同人との接触を回避することはでき 余手前において、前記「タイ」点に出て来たAの後姿を認めたとしても、同人が突然被告人に後姿を見せつつ小走りに斜め横断を開始するのを見て、直ちに急制動の措置をとつても同人との接触を回避することはできなかつたと認められるのである。なお本件のような状況のもとにあつては、被告人に警笛吹鳴の注意義務はないものと解するのが相当であつて、被告人が警笛を吹鳴しなかつたことをもつて過失とはいえず、ことに「タイ」点から飛び出して来るAを見て急拠警笛を吹鳴したとしても、同人との接触を回避することはできなかつたと考えられる。原判決は、本件のような一般に動作の機敏性に乏しく、かつ、交通道徳に関する認識水準もさして高くない老令のAに対し危険を避けるため適切な行動をとるであろうことを信頼することはできない。すなわち本件の場合いわゆる「信頼の原則」は適用されないというが、単に老令であるという理由だけではこれに対し必ずしも適切な行動に出ることを期待し得ないものとはいいがたく、Aは当時六六歳とはいえ、被告人と同年輩であり、妻Dの検察官に対する供述調書によれば、Aは兄と共同で鉄工所を経営し、平素元気で耳も目もよく、足腰も達者であつて、いつも自宅と本件道路を距てて近くにある鉄工所との間を往き来し、道路横断についての注意をわきまえていたことが認められるので、同人に対し適切な行動に出ることを期待し得ないものではないと考えられるから、右原判決の見解は採用しがたい。 結局のところ、本件衝突事故の発生については被告人に過失はないから、被告人の過失を認めた原判決は事実を誤認した違法があるものというべきであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。 よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条 いうべきであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。 よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従いさらに判決することとする。 本件公訴事実は、「被告人は、自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和四五年六月一九日午後一時五分頃軽四輪貨物自動車を運転し、時速約三〇キロメートルで西牟婁郡c町de番地付近国道を東進するに際し、前方左右を注視して事故を防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、斜左前方約一七メートル道路左側を同方向に歩行するA(当六六年)を認めながら、同人がそのまま直進するものと軽信して同人の動静に対する注視を全く欠いたまま漫然同速度で進行を続けた過失により、おりから斜め横断して来た同人に自車の左側前部を衝突させて同人を路上に転倒させ、よつて同人に頭蓋骨折脳挫傷の傷害を負わせたうえ、同人をして同日午後三時五五分頃同町df番地C病院において右傷害により死亡するに至らせたものである。」というのであるが、さきに説示したところから明らかな如く、右公訴事実については犯罪の証明がないから、刑事訴訟法四〇四条、三三六条により主文二項のとおり無罪の言渡をする。 (裁判長裁判官田中勇雄裁判官尾鼻輝次裁判官小洞巌)別紙<記載内容は末尾1添付>
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