平成16年10月5日判決言渡平成15年(ワ)第2836号立替金等請求事件平成16年8月24日口頭弁論終結判決 主文 1 被告は,原告に対し,金3098万7846円及びこれに対する平成15年2月19日から支払済みまで年14.6パーセント(日歩4銭)の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,訴外A(以下「訴外A」という。)名義の信用取引口座を開設していた原告が,その口座は被告の借名口座であり,その口座での取引は被告の借名取引であるから,その取引によって生じた損失は被告が負担すべきであるなどと主張して,被告に対し,債務不履行または不法行為に基づき,立替金(損害)の支払を請求している事案である。 1 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠によって容易に認定することができる事実である。)(1) 当事者等ア被告は,労働大臣を務めたことがある元衆議院議員であるが,業務上横領,詐欺,背任などを公訴事実として起訴された。東京高等裁判所(控訴審)は,被告に懲役3年6月の実刑判決を宣告し,被告は,現在上告中である。なお,被告の妻はB(以下「訴外B」という。)である(甲14号証,弁論の全趣旨)。 イ株式会社ケイエス企画(以下「ケイエス企画」という。)は,有価証券の運用売買等を業とする会社であり,その事務所は,東京都中央区日本橋三丁目2番2号八重洲ヤマガタビル3階にあったが,平成14年9月から同年12月までの間に同区日本橋三丁目1番16号共同ビル6階に移転した。ケイエス企画の中には,ホームトレード研究会という株式取引を行うための組織があった(甲11号証の7ないし12, 成14年9月から同年12月までの間に同区日本橋三丁目1番16号共同ビル6階に移転した。ケイエス企画の中には,ホームトレード研究会という株式取引を行うための組織があった(甲11号証の7ないし12,28,44,45,弁論の全趣旨)。 ウ被告の運転手である訴外A名義の口座が原告本店投資顧問部において開設されたが,その際の担当者は,原告の歩合外務員であるC(以下「訴外C」という。)であった。なお,訴外Cは,平成14年12月以前に原告を退社した。D(以下「訴外D」という。)は,訴外Cの上司であった(甲12,13号証,C証言,弁論の全趣旨)。 エ E(以下「訴外E」という。)は,被告と知り合いであり,結婚式場や葬祭場を経営するなどしている(甲11号証の5,6,甲15号証,弁論の全趣旨)。 オ F(以下「訴外F」という。)は,平成12年10月からのぞみ証券株式会社(以下「のぞみ証券」という。また,以下,証券会社については,「株式会社」との商号を省略することとする。)に勤務しており,訴外Bや訴外Aら名義の口座における取引を担当していた。訴外Fは,平成15年1月にのぞみ証券を退社し,現在は他の証券会社に勤務している。なお,訴外Fの上司はG(以下「訴外G」という。)で,同人ものぞみ証券を退社している。訴外Gは,訴外Cが三洋証券に勤務していた時の先輩であった(甲13,乙1号証,F証言)。 (2) 事実関係ア株式会社東京理化工業所(以下「東京理化工業所」という。)は,訴外Hら同族の経営による会社であり,同社の株式は,東京証券取引所二部上場銘柄である。平成12年から平成14年ころの同社の発行済み株式数は,約1100万株であった(甲5,11号証の2ないし4,6ないし45)。 イ東京理化工業所の株式は,平成9年ころ1株300円 場銘柄である。平成12年から平成14年ころの同社の発行済み株式数は,約1100万株であった(甲5,11号証の2ないし4,6ないし45)。 イ東京理化工業所の株式は,平成9年ころ1株300円以上の株価をつけたこともあったが,平成12年ころは1株100円前後であったところ,同年10月中旬ころから急激に出来高が急増するとともに,株価も急騰し始めた。ちょうどそのころから,ケイエス企画や訴外Eや同人が経営する会社名義で,東京理化工業所の株式が購入,処分され始めた。なお,ケイエス企画名義での購入資金の一部を訴外Bが貸し付けた(甲5,10,11号証の5ないし12,28,44,45)。 ウ訴外Bを含むケイエス企画の関係者(個人)や有限会社ビック・パーシモン(以下「ビック・パーシモン」という。)ら名義でも,ケイエス企画と同様の取引がなされ,関東財務局長への報告(証券取引法27条の23第1項または同条の25第1項に基づくもの。以下同じ。)によれば,それらの個人・会社とケイエス企画が,東京理化工業所の株式を共同保有しているものとされ,ケイエス企画が大量保有報告書提出の代理人となっていた。それだけでなく,購入資金を訴外Bが貸し付けた場合もあった(甲11号証の13ないし27,29ないし45)。 エ以上のような経緯を経て,東京理化工業所の株価は,平成13年3月には,一時800円台をつけるまでになったが,その後は,平成14年11月下旬まで,概ね400円から600円台で推移していた(甲5,10号証)。 オ訴外Eは,平成13年11月21日,原告に取引口座を開設し,代用有価証券を東京理化工業所の株式とする信用取引を開始した(甲13号証)。 カ訴外Aは,同年12月10日,証券総合口座申込書及び信用取引口座設定約諾書に署名押印し,原告に提出 口座を開設し,代用有価証券を東京理化工業所の株式とする信用取引を開始した(甲13号証)。 カ訴外Aは,同年12月10日,証券総合口座申込書及び信用取引口座設定約諾書に署名押印し,原告に提出した。訴外Aは,証券総合口座申込書に,勤務先はビッグ・パーシモンで,役職は顧問である,投資経験があり,主たる資金の性格は余裕資産である,資産は1000万未満である,投資目的はキャピタルゲイン重視であるなどと記入した。訴外Dは,訴外C同席の上で,訴外Aと面談し,同日,原告本店投資顧問部に訴外A名義の取引口座及び信用取引口座(以下「本件口座」という。)が開設された。なお,信用取引口座設定約諾書13条及び甲16号証によれば,信用取引に関して原告に対する債務の履行を怠ったときは,原告に対して履行期日の翌日より履行の日まで,日歩4銭の割合による遅延損害金を支払うものとされている(甲1,2,6,12,13,16号証,C証言)。 キ同月11日,信用取引の担保として本件口座に現金300万円が入金され,同月13日から,本件口座で信用取引が開始されたが,本件口座での取引の内容は東京理化工業所の株式の信用売買だけであり,その担当者は訴外Cであった。本件口座で最後に信用買付けがなされたのは平成14年8月1日であり,その時点で,担保として現金合計2029万9213円,代用有価証券として東京理化工業所の株式が合計1万7000株差し入れられていた(甲3,4,13号証,C証言)。 ク同年9月5日,訴外A名義で大量保有報告書が関東財務局長に提出されており,それには次のような記載がなされている。なお,その報告書は,ケイエス企画が訴外Aの代理人として提出した(甲11号証の44)。 (ア) 勤務先はホームトレード研究会であり,職業は会社役員である。 れには次のような記載がなされている。なお,その報告書は,ケイエス企画が訴外Aの代理人として提出した(甲11号証の44)。 (ア) 勤務先はホームトレード研究会であり,職業は会社役員である。 (イ) 東京理化工業所の株式を63万5000株(発行済み株式総数の5.44パーセント)保有している。なお,直前の報告書に記載された保有割合は6.94パーセントである。 (ウ) ゲット証券において12万9000株,明和証券において17万9000株,日本アジア証券において1万1000株,原告において12万5000株を信用買建てしている。 (エ) 株式取得資金額は2億4476万7000円であり,そのうち自己資金が2億3073万4000円,借入金が1403万3000円である。また,訴外Iを相手方として15万1000株について消費貸借契約に基づく担保契約を締結し,訴外Bを相手方として2万8000株について同様の契約を締結している。なお,訴外Iは,ケイエス企画の関係者である。 (オ) 保有目的は純投資である。 ケ同年11月下旬,東京理化工業所の株価が400円台に下落し,同年12月4日には130円台まで下落した。そのため,本件口座で信用買建てしていた平成14年6月13日約定5万1000株(買付単価535円),同月19日約定4万株(買付単価543円)及び同年8月1日約定3万4000株(買付単価591円)について,同年11月28日受渡日で担保不足が生じ,その後追加担保の提供がなかったので,原告は同年12月4日(約定日)に受託契約準則に則って強制処分を行った。なお,処分時の単価は130円であった。その結果,取引上の損金が合計5386万7861円発生し,信用取引保証金2071万6094円及び担保株券(東京理化工業所1万7000株 則って強制処分を行った。なお,処分時の単価は130円であった。その結果,取引上の損金が合計5386万7861円発生し,信用取引保証金2071万6094円及び担保株券(東京理化工業所1万7000株)処分代金216万3921円を前記損金に充当した残額3098万7846円の立替金が発生した(甲3,4,10号証,弁論の全趣旨)。 コ同年12月3日にも,訴外A名義で大量保有報告書が関東財務局長に提出されており,それには次のような記載がなされている(甲11号証の45)。 (ア) 東京理化工業所の株式を59万8000株(発行済み株式総数の5.12パーセント)保有している。 (イ) ゲット証券において23万9000株,明和証券において14万4000株,原告において12万5000株を信用買建てしている。 (ウ) 株式取得資金額は2億8486万7000円であり,そのうち自己資金が2億4563万8000円,借入金が3922万9000円である。また,訴外Iを相手方として9万株について消費貸借契約に基づく担保契約を締結している。 サ訴外Dは,同月5日午前6時過ぎころ,本件口座において発生した立替金について話し合うため,訴外Aの自宅(都営アパート)を訪れ,同人と面談して,その内容を録音テープに録音した(甲9,12号証)。 シ同月27日にも,訴外A名義で大量保有報告書が関東財務局長に提出されており,それには次のような記載がなされている。なお,同日提出されたケイエス企画の報告書には,同月に共同保有者の合意が解消されたと記載されている(甲11号証の45)。 (ア) 東京理化工業所の株式を45万4000株(発行済み株式総数の3.89パーセント)保有している。 (イ) ゲット証券において23万9000株,明和証券において1 1号証の45)。 (ア) 東京理化工業所の株式を45万4000株(発行済み株式総数の3.89パーセント)保有している。 (イ) ゲット証券において23万9000株,明和証券において14万4000株を信用買建てしている。 (ウ) 株式取得資金額は2億2791万3000円であり,そのうち自己資金が1億8868万4000円,借入金が3922万9000円である。また,訴外Iを相手方として7万1000株について消費貸借契約に基づく担保契約を締結している。 ス原告は,被告とともに,訴外Aも相手方として本件訴訟を提起したが,訴外Aは,平成15年11月19日,原告の請求を認諾した(弁論の全趣旨)。 2 争点及び当事者の主張(1) 争点1(被告は原告に対して契約責任を負うか)(原告の主張)ア被告は,平成12年10月ころ,東京理化工業所の現物株式を1株100円台で大量に取得し,その株式を自己が主宰する投資クラブであるケイエス企画名義,または政治家時代に後援者として付き合いのあったJ株式会社(代表取締役は訴外Eである。)名義で保有していた。その後,被告は,10社以上の証券会社において,ケイエス企画の職員や訴外B名義で東京理化工業所の株式の信用買付注文を大量に出すようになり,その結果,同社の株価が急騰した。被告は,その過程で,保有していた同社の株式を高値で順次売却して利益を獲得した。被告は,自己が保有する大量の東京理化工業所の現物株式の高値売抜けを企図して,株価吊上げ及び買支えの意図の下に,決済資金支払の意思も能力もなく,実際には反対売買による決済を予定しないで,大量の信用買付注文を出して多額の利益を獲得していたものである。 イ被告は,のぞみ証券の妻名義の口座等で東京理化工業所の株式を信用買付けしてい なく,実際には反対売買による決済を予定しないで,大量の信用買付注文を出して多額の利益を獲得していたものである。 イ被告は,のぞみ証券の妻名義の口座等で東京理化工業所の株式を信用買付けしていたが,同社では買付限度枠があり,その枠以上に買付けをすることができなかった。そこで,被告は,自己の投資アドバイザーである訴外Fに他社の紹介を依頼し,訴外G及び同Fは,被告に対して,訴外Cを紹介した。訴外Cは,訴外Fから被告の借名口座開設の依頼を受け,また,平成13年12月上旬には,ケイエス企画の事務所において,被告から訴外A名義での口座開設を依頼された。訴外Cは,明白な借名取引であると証券会社として受注できないことから,形式的に口座名義人である訴外Aと連絡をとって受注することを条件として,上記依頼に応諾した。そして,訴外Cは,本件口座開設後,被告に東京理化工業所の株式のバイカイ・手口(どこの証券会社からどの位の単位で売買注文が出ているか)等の情報を逐次報告して,被告から直接又は訴外Aを介して東京理化工業所の株式の信用買付注文を受けていた。訴外Aが注文を出す場合もあったが,訴外Cとの間で具体的なやり取りがあるわけではなく,本件口座での東京理化工業所の株式の信用買付取引(以下「本件取引」という。)において訴外Aの投資判断が介在していないことは明らかである。 ウ訴外Cは,原告の営業担当者として原告の営業行為に関する代理権を有しており(証券取引法64条の3第1項),訴外Cとしても,本件口座が被告の借名口座であり,被告がその口座における取引の主体であると認識していた。本件口座開設は,被告の意思に基づいて行われたものであり,訴外Aとしては,自己の名義を被告に貸しているというだけで,多額の立替金が発生した場合に自らが責任を負う意思まで有していたとは 認識していた。本件口座開設は,被告の意思に基づいて行われたものであり,訴外Aとしては,自己の名義を被告に貸しているというだけで,多額の立替金が発生した場合に自らが責任を負う意思まで有していたとは考えられない。訴外Aは,本件訴訟提起前に,本件口座において取引をする意思も能力も有しておらず,被告の形式作りを手伝ったことを明確に認めている。したがって,契約当事者の合理的意思解釈によっても,本件の立替金の債務者は被告である。 エしたがって,本件取引は被告の借名取引であり,被告がこの取引当事者にほかならないから,この取引によって発生した立替金について被告は支払義務を負う。 (被告の主張)ア契約(取引)は,当事者双方の意思が合致したときに成立するのであり,当該契約につき自己が当事者となることを承認した者は,内心においても表示のとおりの意思を有しており,契約は不成立でも無効でもない。契約当事者が表示どおりの効果を欲して契約した場合,意思と表示とは合致しており,動機や事情と関わりなく,そのとおりの契約効果が発生する。 イ訴外Aは,本件訴訟において,本件口座が自己の口座であり,その口座での取引が自己の取引であったことを明確に認めており,本件口座での取引は,原告と訴外Aとの間に成立した。したがって,訴外Aが取引の責任を負うのであり,契約上の責任が被告に帰属することはあり得ない。 ウ株の取引においては自己責任が強調され,証券会社が信用取引に応じる際には,顧客の追証不可能,立替金の回収不能のリスク負担が当然の前提となる。原告は,本件口座開設以来,担保処分実行に至るまで,終始一貫,訴外Aを取引主体として認識し,扱ってきたのであって,訴外Aについて信用力を判断した上で,取引に応じたはずである。 エ訴外Fは,訴外Cに対して,借名取引をもちかけた 保処分実行に至るまで,終始一貫,訴外Aを取引主体として認識し,扱ってきたのであって,訴外Aについて信用力を判断した上で,取引に応じたはずである。 エ訴外Fは,訴外Cに対して,借名取引をもちかけたことはない。訴外Cは,原告本社において訴外Aと面談の上で本件口座を開設し,注文も同人から受けたものである。訴外Cの認識としても取引主体は訴外Aで,本件口座での取引は名実ともに訴外Aの取引であり,立替金は訴外Aに請求すべきものである。 オ原告のその余の主張は,すべて否認ないし争う。 (2) 争点2(被告は原告に対して不法行為責任を負うか)(原告の主張)ア本件口座での取引の主体が訴外Aであるとの前提に立った場合でも,東京理化工業所の株式の買上げ・買支えを計画・実行したのは被告であり,かつ被告は当時から刑事事件で保釈中の身分であり,株式取引において自己の名を表に出すことができず,買上げ・買支えに失敗した場合には,訴外Aの責任とする意図の下,本件取引行為を指示・実行したものである。被告が指示・実行したスキームは,証券市場を混乱に陥らせる行為であり,私法上も社会的相当性を逸脱しており,不法行為責任を発生させる。 イ訴外Aは無資力であるため,原告は訴外Aから立替金を回収することが不能となっており,原告には立替金相当額の損害が発生している。したがって,被告は,不法行為に基づきその賠償責任を負う。 (被告の主張)ア原告は,本件口座を開設し,取引を開始して以来,終始一貫,訴外Aを取引主体と認識していたのであるから,資力の有無等取引適格性の判断対象としていたのは訴外Aである。つまり,取引時点におけるリスクの判断,信用力の調査,判定の対象は訴外Aであり,原告自身が訴外Aを取引相手と認識して取引をしたものである。したがって,不法行為 の判断対象としていたのは訴外Aである。つまり,取引時点におけるリスクの判断,信用力の調査,判定の対象は訴外Aであり,原告自身が訴外Aを取引相手と認識して取引をしたものである。したがって,不法行為を根拠に被告に帰責すべき何らの事情も行為も存在せず,原告の主張は,それ自体失当である。 イ証券取引に関する公法上の規制と証券会社の個別取引に関する回収の問題は,全く別物である。株取引は,当然自己責任によるものであり,証券取引のプロである原告は,自らの責任と判断のもとに,訴外Aの口座開設を承認し,同人からの注文に応じてきたものであって,このような取引において立替金の発生は当然予想されるものであるから,原告がその危険や損失を負担すべきものである。 ウ原告のその余の主張は,すべて否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告は原告に対して契約責任を負うか)に対する判断(1) 原告が本件で請求している立替金は,本件口座における東京理化工業所の株式の信用買付取引によって発生したものであるから,立替金の支払義務を負う者は,その信用買付取引の取引主体であることはいうまでもない。 この点,被告は,本件口座の名義人が訴外Aで,訴外Aが口座開設の手続をとったことから,本件口座での取引主体は訴外Aであると主張している。確かに,口座の開設手続をとったのが誰かということは,その口座での取引の主体を確定するにあたって考慮すべき事実ではあるが,本件においては,本件口座での取引が借名取引か否かが争われているのであるから,口座開設手続をとったのが誰かということや口座の名義人が誰かということだけでなく,本件口座開設に至る経緯やその後の取引の状況などを検討し,これらの事実を踏まえた上で,本件口座での取引の主体を確定する必要がある。以下, のが誰かということや口座の名義人が誰かということだけでなく,本件口座開設に至る経緯やその後の取引の状況などを検討し,これらの事実を踏まえた上で,本件口座での取引の主体を確定する必要がある。以下,このような観点から検討する。 (2) 本件口座開設に至る経緯やその後の取引の状況については,訴外Cが証言しているが,被告はこの証言の信用性を争っている。そこで,訴外Cの証言の信用性の有無について検討しておく。 ア本件口座開設に至る経緯について,訴外Cは,訴外Fから被告の借名口座として訴外A名義の口座を開設してほしい旨の話をされたと証言しているのに対し,訴外Fはこれを否定する証言をしている。 そこで,両者の証言の信用性について検討すると,訴外Fは,訴外Cに対して訴外Aという名を出さずに原告での信用取引口座開設の可否を聞いたということであるが,原告が信用取引口座開設の可否を判断するにあたり,口座開設者が誰かということは重要なことであるから,訴外Aの名を出さずに信用取引口座開設の可否を聞いたという証言は採用し難い。そればかりでなく,訴外Aが本件訴訟提起前に,訴外Dに対し,「のぞみのFさん(女性)」が株式に関するコンサルタントとして被告に情報提供していた,株式の売買は被告の指示でやっていたなどと訴外Cの証言に沿うこと述べていること(甲9,12号証)からすると,本件口座開設に至る経緯については,訴外Cの証言がより信用することができる。 これに対し,被告は,訴外Aの本件訴訟提起前の発言の信用性を争っている。また,弁論の全趣旨によれば,本件訴訟において,訴外Aは,訴外Dとの面談の際,東京理化工業所の株価が急落し,多額の損金が発生してパニック状態となってしまったため,ある事,ない事を種々話してウサ晴らしをしてしまった 趣旨によれば,本件訴訟において,訴外Aは,訴外Dとの面談の際,東京理化工業所の株価が急落し,多額の損金が発生してパニック状態となってしまったため,ある事,ない事を種々話してウサ晴らしをしてしまった旨を記した書簡(丙1号証として提出されたもの)を提出して,一転して本件取引は自己の取引であったと主張していることが認められる。しかし,パニック状態にあり,ウサ晴らししてしまったなどという供述を変遷させた経緯についての説明は合理的とは言い難い。また,被告の運転手という立場にあった訴外Aがあえて虚偽の内容を述べてまで被告に責任を転嫁するとは考え難い。むしろ,上記発言は,事実をありのままに述べて自分は名義を貸した立場に過ぎないことを訴外Dに説明しようという動機に出たものであったところ,その後,被告の立場に配慮して一転して自己の取引であったと供述を転換したものと解する方が事実経過として自然に受け入れられる。さらに,そこでの会話全体から,聞き手である訴外Dが,当時,本件取引を被告の借名取引とは考えていなかったことがうかがわれ,訴外Aの発言を誘導したとも認められないし,その内容自体,前提事実で認定した客観的事実と整合性を有することに照らせば,訴外Aが本件訴訟提起前に述べていたことは信用することができるというべきであり,訴外Aの本件訴訟における主張によって,上記判断が左右されることはない。 イまた,訴外Fは,訴外E名義の口座が仮名取引ではなく,本件口座だけが仮名取引であることが理解できないと陳述書に記載し,被告も同様の主張をしているが,訴外Eは会社の経営者で,ケイエス企画に大量保有報告書の提出を委任しておらず(甲11号証参照),原告においては東京理化工業所の株式を買い付けていない(C証言,弁論の全趣旨)など,訴外E名義の口座と訴外A名義の本 経営者で,ケイエス企画に大量保有報告書の提出を委任しておらず(甲11号証参照),原告においては東京理化工業所の株式を買い付けていない(C証言,弁論の全趣旨)など,訴外E名義の口座と訴外A名義の本件口座とは名義人の属性や取引内容等が異なるから,訴外F指摘の点は当たらないというべきである。 ウなお,訴外Fは,被告と訴外Cとの間の話の内容や,本件口座における取引の詳細については知らないのであるから,被告とのやり取りの内容や本件口座開設後の状況に関しては,訴外Fの証言は反証たり得ない。したがって,訴外Fの証言をもって,本件口座開設後の取引状況に関する訴外Cの証言の信用性が減殺されることはない。 エさらに,訴外Bや同Eや同Aは被告の関係者であり,本件訴訟において,その者らの名義で東京理化工業所の株式取引がなされたことが問題となっているにもかかわらず,被告は積極的な主張や反論をすることなく,被告自身を含めこれら関係者の陳述書さえ提出しておらず,積極的な反証活動をしていない。 オ以上の事情を総合すれば,訴外Cの証言は信用することができる。 (3) 前提事実,甲1ないし4,6号証,訴外Cの証言,同人の陳述書(甲13号証)及び訴外Aの本件訴訟提起前の供述(甲9号証)によれば,以下の事実を認めることができる。 ア訴外Fは,平成13年12月上旬ころ,東京都中央区日本橋茅場町にあるビジネスホテル「ユニバース」の喫茶店で訴外Cと会い,被告が東京理化工業所の株式を手掛けているが,のぞみ証券では買付限度枠が一杯で買付けができないので,原告で買い付けることができないかという話をした。その際,訴外Fは,被告の名は出せないので,被告の運転手である訴外Aの名義で口座を開設してほしいという話もした。これに対し,訴外Cは,東京理化工業所の株式を担保に同社 とができないかという話をした。その際,訴外Fは,被告の名は出せないので,被告の運転手である訴外Aの名義で口座を開設してほしいという話もした。これに対し,訴外Cは,東京理化工業所の株式を担保に同社の株式を購入することはできないことや,発注等を訴外A自身からもらえれば注文を受けることができるということを言った。 イ訴外Cは,その後,同年12月10日までの間に,ケイエス企画の事務所を訪れて被告と面談したが,その際,被告は,迷惑をかけないから注文を受けてほしいなどと,訴外A名義で取引口座を開設することや東京理化工業所の株式の注文を受けることなどを依頼した。そして,被告は,訴外Cに対し,自己及び訴外Aの連絡先を伝えた。 ウ訴外Fは,同月10日,訴外Cに対し,訴外Aが当日に原告本社に行く旨を事前に連絡した。訴外Aは,同日,原告本社を訪れ,前記第2,1(2)カのとおり,本件口座開設の手続をとった。この日,訴外Dが訴外C立会いのもと,訴外Aと面談したが,訴外Cは,訴外Dに対し,自己と訴外Aとの関係等に関して前に在職していた証券会社の客であるなどと虚偽の事実を申し向ける一方,被告と訴外Aとの関係については何も言わなかった。結局,この日,本件口座が開設されたが,訴外Cは,訴外Aが本件口座において証券取引をするのではなく,被告がその口座において取引をするものと認識していた。 エ訴外Cは,同月11日,訴外Fから本件口座における取引の担保として現金で300万円を受け取った。同月13日,本件口座において,東京理化工業所の株式の信用買付けがなされたところ,21万円の担保不足を生じた。そこで,訴外Cは,これを被告に連絡したところ,被告は,訴外Bに伝えておくから取りに行ってくれと述べた。訴外Cは,同月17日,ケイエス企画の事務所を訪問し,訴外Bから現金で21万円 保不足を生じた。そこで,訴外Cは,これを被告に連絡したところ,被告は,訴外Bに伝えておくから取りに行ってくれと述べた。訴外Cは,同月17日,ケイエス企画の事務所を訪問し,訴外Bから現金で21万円を受け取った。その後,訴外Cは,いずれも本件口座における信用取引の担保として,同月19日に現金560万円及び東京理化工業所の株式5000株,同月27日に同株式1万株を受け入れているが,これらも被告の指示により,訴外Bから受け取った。 オ被告は,本件口座開設後,訴外Cの携帯電話に電話をかけてきて,東京理化工業所の株式の値動きや売買注文の状況等を聞き,訴外Cが値動き等を伝えると,その際に自ら同社の株式の売買注文を出すことがあった。訴外Aから電話で東京理化工業所の株式の信用売買の注文がなされることもあったが,それは被告の指示によるものであり,本件口座での取引の大半は直接被告本人からの注文によるものであった。 カ原告は,訴外Aの自宅に取引報告書を送付していた。しかし,訴外Aは,訴外Bに通帳や印鑑を預けていた。これらは,ケイエス企画の事務所に保管されており,取引に必要な事務手続は,ケイエス企画においてなされていた。ケイエス企画の事務所には,被告や訴外Bが出入りしていた。 (4) 以上認定の事実によれば,本件口座は,被告が東京理化工業所の株式の信用売買をするために開設したものであり,前記第3,1(3)オのとおり,本件口座での取引の注文の大半を被告が自らし,訴外Aが注文行為を行った場合があるといっても,訴外Aは被告の運転手であり,他の大半の取引は被告が自ら注文していることからすれば,訴外Aが被告に無断で,自らの意思によって取引の注文をしたということは考え難い。また,訴外Aが原告に対して自ら申告した資産状況(前記第2,1(2)カ)や前提事実で認定したよ していることからすれば,訴外Aが被告に無断で,自らの意思によって取引の注文をしたということは考え難い。また,訴外Aが原告に対して自ら申告した資産状況(前記第2,1(2)カ)や前提事実で認定したような当時の訴外Aの生活状況等からみて訴外Aに2000万円以上の現金等の担保(前記第2,1(2)キ)を差し入れるだけの資力があったのか疑問があることや,前記第3,1(3)エの現金等の担保の受取りの状況,さらには,被告は本件訴訟において原告主張の事実関係に対する実質的な反論をせず,陳述書さえも提出しようとしなかったことを考え合わせると,本件口座での取引に際して差し入れられた担保は,訴外Aではなく,被告またはその関係者が支出したと認めるのが相当である。 以上の事情を総合すれば,本件口座における取引の意思決定は,被告によってなされ,その取引主体は被告であると認めるのが相当である。 (5) この点,被告は,訴外Aが取引主体であると解すべき根拠として種々の裁判例を挙げているが,被告が挙げる裁判例は,いずれも本件とは事案を異にするものである。なお,被告が度々引用する東京高等裁判所昭和27年5月24日判決は,「自ら資力ある者がその法律上の責任を回避するため無資力の名義人を立て若しくは仮設人の名義をもってする場合」には,自己の名において当事者となった者は契約上の責任を負わないことを前提にしていると解されるから,被告にとって有利な裁判例とは解されない。 (6) 本件口座での東京理化工業所の株式の取引主体は被告であるから,被告は契約上の責任を負い,本件で請求されている立替金の債務者は被告である。 2 したがって,原告の被告に対する本件請求は理由がある。なお,平成15年2月19日は,本件訴状送達日の翌日である(弁論の全趣旨)。 第4 結論以上によ れている立替金の債務者は被告である。 2 したがって,原告の被告に対する本件請求は理由がある。なお,平成15年2月19日は,本件訴状送達日の翌日である(弁論の全趣旨)。 第4 結論以上により,原告の被告に対する本件請求を認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第48部裁判長裁判官水野邦夫裁判官槐智子裁判官野上誠一
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