令和6年9月27日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和4年(ワ)第15760号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和6年7月3日判決●(省略)● 原告 A´こと A同訴訟代理人弁護士大熊裕司●(省略)●被告 B´こと B同訴訟代理人弁護士藤田剛紀 同訴訟復代理人弁護士原 孝志主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和4年7月12日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告は、別紙謝罪文目録記載1の謝罪文を、同記載2の条件により、被告のXアカウント(https://以下省略)に掲載せよ。 第2 事案の概要本件は、原告が、演芸家として活動する被告に対し、原告が制作して被告に提供した小道具に関して、原告と被告との間で、原告が小道具の制作者である旨を公表する旨の合意をしたと主張して、債務不履行(履行遅滞)に基づく損害賠償金500万円及び遅延損害金の支払を求めるとともに、被告が著作者名 を表示しなかったことが著作者人格権(氏名表示権)侵害に当たると主張して、 不法行為に基づく慰謝料500万円及び遅延損害金の支払並びに著作権法115条に基づく名誉回復措置として謝罪文の掲載を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。)⑴ 原告は、吉本興業株式会社(以下「吉本興業」という。)に所属し、 「A´」という芸名で活動する演芸家である(甲1)。 ⑵ 被告は、吉 に証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。)⑴ 原告は、吉本興業株式会社(以下「吉本興業」という。)に所属し、 「A´」という芸名で活動する演芸家である(甲1)。 ⑵ 被告は、吉本興業に所属し、「B´」という芸名で活動する演芸家である。 被告は、吉本興業では、原告の先輩に当たる。 被告は、かねてから、段ボールで立体的に作られた小道具(以下、本件で「小道具」という場合、このような小道具を指す。)を使用して単独でコン トや演劇等をするお笑いの演芸(以下「被告演芸」という。)を披露していた。(甲2、4、5)⑶ 原告は、平成22年3月頃から令和3年2月までの間、別紙原告作品目録(以下「本件目録」という。)記載の小道具(同目録記載の各番号の小道具の外観は、別紙主張一覧表(以下、単に「一覧表」という。)の各番号の画 像のとおり。以下、本件目録記載の番号に従い「本件小道具1」などといい、本件目録記載の小道具を「本件各小道具」と総称する。)を制作した。 ⑷ 被告は、平成26年8月までに、原告に対し、被告演芸で使用するための小道具の提供を依頼した。原告はこれに応じ、同月以降、被告が、劇場やテレビ番組において披露する被告演芸に使用するため、本件各小道具を提供し た。このうち一部の小道具は、被告が小道具の制作から依頼したものであり、一部は、原告が、他の用途で制作したものを被告に提供したものである。 被告は、劇場やテレビ番組において、本件各小道具(ただし、本件小道具56、64及び98を除く。)を使用して被告演芸を披露した。 2 争点 ⑴ 不法行為に基づく損害賠償請求及び名誉回復措置請求に関する争点 ア著作物性(争点1)イ著作者性(争点2)ウ氏名表示権侵害の成否(争点3)エ損害の発生及 2 争点 ⑴ 不法行為に基づく損害賠償請求及び名誉回復措置請求に関する争点 ア著作物性(争点1)イ著作者性(争点2)ウ氏名表示権侵害の成否(争点3)エ損害の発生及びその額(争点4)オ名誉回復措置の必要性(争点5) ⑵ 債務不履行に基づく損害賠償請求に関する争点ア本件各小道具の制作者が原告であると公表する合意の成否(争点6)イ損害の発生及びその額(争点7) 3 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(著作物性)について (原告の主張)ア本件各小道具は、美術の著作物である。原告が一つずつ手作りで制作しており、応用美術品には当たらない。 イ原告は、演芸家としての経験を踏まえ、演芸で使用されることを念頭に強度や持ち運びの観点も考慮して、手作業で段ボールから立体的に作られ た小道具であるから、ありふれた物をモチーフとしていても、表現の選択の幅は広く、原告の個性が表れている。本件各小道具は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであるといえる。 ウ本件各小道具の創作性に関する主張は一覧表の「創作性:原告の主張」欄記載のとおりである。 (被告の主張)ア本件各小道具は、身の回りのありふれた物をモチーフとして、演芸で使用するという目的にかなうように制作され、演芸の小道具という美術鑑賞とは異なる実用目的の機能を果たすものであるから、応用美術品である。 イ本件各小道具について、実用目的の機能を分離して観察した場合に、な お純粋美術と同視できる程度の美的特性を備えていると評価することはで きないから、著作物性を有するとはいえない。 ウ本件各小道具の創作性に関する主張は一覧表の「創作性:被告の主張」欄記載のとおりである。 ⑵ 争点2(著作者性) 備えていると評価することはで きないから、著作物性を有するとはいえない。 ウ本件各小道具の創作性に関する主張は一覧表の「創作性:被告の主張」欄記載のとおりである。 ⑵ 争点2(著作者性)について(原告の主張) ア本件各小道具のうち創作性が認められる部分については原告が作業をしたのであり、原告が著作者である。 イ被告は「法人その他使用者」(著作権法15条1項)に当たらず、本件各小道具は職務著作には当たらない。 ウ本件各小道具の著作者性に関する主張は一覧表の「著作者性:原告の主 張」欄記載のとおりである。 (被告の主張)ア本件各小道具のうち被告が原告に制作を依頼した小道具(本件小道具1ないし5、17、52ないし56、64及び76を除く本件各小道具)については、被告は、小道具のテーマ、寸法、構造等を図面に記載し、これ を原告に交付して、段ボール等を使用した立体化の作業を委託した。また、被告は、原告の作業が終了した後、イラスト描写や色塗り等を行うこともあった。 したがって、被告が原告に制作を依頼した小道具については、被告が、美的特性を備える部分を制作した。 イ原告は、被告から有償で業務委託を受け、被告の具体的指示に基づいて職務上制作作業を行ったものであり、本件各小道具は職務著作に当たる。 ウ本件各小道具の著作者性に関する主張は一覧表の「著作者性:被告の主張」欄記載のとおりである。 ⑶ 争点3(氏名表示権侵害の成否)について (原告の主張) ア被告は、本件各小道具を被告演芸に使用して、公衆に提示した。 イ原告は、本件各小道具の著作者であるから、著作者名として原告の変名である「A´」を表示する権利があるところ、被告が、被告演芸後も長期にわたり、本件各小道具の制 演芸に使用して、公衆に提示した。 イ原告は、本件各小道具の著作者であるから、著作者名として原告の変名である「A´」を表示する権利があるところ、被告が、被告演芸後も長期にわたり、本件各小道具の制作者が原告であることを表示しなかったことは、原告の氏名表示権侵害に当たる。原告と被告との間で、ゴーストライ ター契約は成立していないし、氏名表示権を行使しないことの合意も成立していない。 (被告の主張)ア本件小道具56、64及び98は、被告演芸で使用しておらず、公衆への提示がされていない。 イ原告は、被告に本件各小道具を提供するに当たり、公衆への提示に際し、原告の氏名を表示しないことに同意していたから、氏名表示権を侵害していない。また、原告と被告は、平成26年8月頃、原告が、被告による本件各小道具について、被告の制作物として使用し、原告の氏名表示権を行使しないことを合意した。 ⑷ 争点4(損害の発生及びその額)(原告の主張)原告は、著作者として氏名が表示される機会を失ったために精神的苦痛を被ったのであり、慰謝料は500万円を下らない。 (被告の主張) 争う。 ⑸ 争点5(名誉回復措置の必要性)(原告の主張)原告の氏名表示権が侵害されたことにより、原告に対する誹謗中傷が続いており、別紙謝罪文目録記載のとおりの名誉回復措置を執る必要がある。 (被告の主張) 原告は、既に、週刊誌上で小道具の制作者が原告である旨を公表したから、名誉回復の必要性はない。 ⑹ 争点6(本件各小道具の制作者が原告であると公表する合意の成否)について(原告の主張) ア原告が、平成26年7月か8月頃、「ちなみに今後の作品は、公表してくれるんですよね」と言ったところ、被告は、「もちろ の制作者が原告であると公表する合意の成否)について(原告の主張) ア原告が、平成26年7月か8月頃、「ちなみに今後の作品は、公表してくれるんですよね」と言ったところ、被告は、「もちろんだよ。ただ、今すぐには、A´の方から作ったとは言わないでほしい。」と答え、これにより、原告と被告との間で、被告が、小道具の制作者が原告であることを公表することを合意した。公表の時期の定めはなく、公表の方法は、被告 のツイッター(後に「X」に名称が変更されたが変更の前後を問わず「ツイッター」という。)に告知する方法であった。 イ原告は、平成28年3月、被告に対し、原告が制作者であることを公表するよう催告した。 さらに、原告は、令和3年2月26日、「先日にお願いした、「B´さ んの作品を今回はA´が作らせていただきました」と発表する件、今回から許可いただけますでしょうか。」というメッセージを送信し、再び催告した。 (被告の主張)ア被告は、小道具の制作者として原告の氏名を公表できないことを口頭で 説明した上で、小道具の制作・提供を依頼したのであり、原告の主張する合意は成立していない。 イ催告については否認ないし争う。 ⑺ 争点7(損害の発生及びその額)について(原告の主張) ①被告が、本件小道具を被告が自作したと述べたり、あたかも被告が制作 者であるかのようにふるまったりしたため、原告がオーディションに参加しても、被告の二番煎じにすぎないなどと審査員から指摘されることもあり、芸能活動に多大な支障が生じていること、②被告が本件各小道具の制作者が原告であると公表しなかった期間が長期間にわたること、③本件各小道具が複数回使用されていること、④被告は、現在でも、本件各小道具の制作者が 原告であ じていること、②被告が本件各小道具の制作者が原告であると公表しなかった期間が長期間にわたること、③本件各小道具が複数回使用されていること、④被告は、現在でも、本件各小道具の制作者が 原告であると公表することを拒んでいること、⑤原告は、被告が本件各小道具の制作者が原告であることを公表することを期待し、利益を度外視して小道具の制作を続けてきたことなどの事情を考慮すると、原告に生じた経済的損害は500万円を下らない(民事訴訟法248条参照)。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実、証拠(後掲するもののほか、原告本人、被告本人、甲186及び乙152)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができ る。 ⑴ 被告は、平成26年7月までに、被告演芸等において原告が制作した小道具を使用したことがあったところ、遅くとも同年8月、原告に対し、毎月の単独ライブで披露する被告演芸に使用するために、小道具を制作して欲しいと依頼した。原告は、上記依頼に応じ、同月21日、本件小道具6ないし8 を引き渡した。 原告は、その後も、被告から、テーマとするモチーフや大きさなどについての指示を受け、原告が新たに制作した小道具や過去に制作した小道具を引き渡した。被告は、原告に対し、小道具の制作・提供の対価として小道具1個につき5000円から1万円程度の金銭を支払った。 ⑵ 被告は、平成26年9月から、被告演芸において、上記依頼に基づいて原 告が提供した小道具を使用した。被告演芸においては、このほかに、ライブのスタッフ等の依頼に基づき制作会社が制作した小道具も多数使用していたが、被告が、被告演芸の中で、小道具の制作者名ないし著作者名に言及することはなく、被告演芸が披 演芸においては、このほかに、ライブのスタッフ等の依頼に基づき制作会社が制作した小道具も多数使用していたが、被告が、被告演芸の中で、小道具の制作者名ないし著作者名に言及することはなく、被告演芸が披露された劇場内又はテレビ番組放映中に、小道具の制作者名ないし著作者名についてのアナウンス、テロップ、掲示等の表示 はなく、プログラムにも言及はなかった。 原告が、被告に本件各小道具を提供するにあたって、被告演芸の中で、あるいは、劇場及びテレビ番組放映中並びにプログラムにおいて、本件各小道具の制作者名ないし著作者名に言及しないことは、当然の前提とされていた。 ⑶ 原告は、平成29年3月15日、被告に対し、「PVとかコンサートとか お話しいただいたら、是非是非受けてください。B´さんデザイナー、でA´がパタンナーでいつでも参加します」とのLINEメッセージ(以下、単に「メッセージ」という。)を送信した。 原告は、被告の依頼に応じ、令和2年5月頃までの間に、本件各小道具1ないし5、9ないし102の小道具を引き渡した。(乙6) ⑷ 原告は、令和2年10月24日、被告が小道具を作っているように受け取られているのが良くないと思う旨、何度か被告のプロデュース、原告製作で展開させることを提案したが、展開がなく、被告の構想の中では原告はゴーストライターに徹するようである旨、原告が新たに小道具の会社を立ち上げたところ、アドバイザーから権利関係について厳しく言われているので、原 告が作っていない話になる小道具の製作を控えたい旨を記載したメッセージを送信した。(乙6)⑸ 原告は、令和2年6月以降、被告に対し小道具を提供していなかったが、被告は、令和3年2月15日、原告に対し、被告演芸に使用する小道具の制作を依頼するメッセージを送 ージを送信した。(乙6)⑸ 原告は、令和2年6月以降、被告に対し小道具を提供していなかったが、被告は、令和3年2月15日、原告に対し、被告演芸に使用する小道具の制作を依頼するメッセージを送信した。原告は、これに応じ、本件小道具10 3を制作した。 原告は、同月24日、「あと、のちのち何もかも起動〔判決注:原文のとおり。〕にのってから、ゴーストライター疑惑が出ないように、早めにパタンナー採用をしれっと発表する作戦をとられる方がいいのかなと思ってます。」とのメッセージを送信し、被告は、「お言葉分かるから、きちんと踏まえて考えさせてください」と返信した。原告は、同日、被告に、本件小道 具103を引き渡したが、その際、被告は、本件小道具103の制作者として原告の名前を出すことはできないことを告げた。 さらに、原告は、同月26日、「先日お願いした、『B´さんの作品を今回はA´が作らせていただきました』と発表する件、今回から許可いただけますでしょうか?」と送信し、被告は、「今回は、少し見送らせていただき、 もう一度ご相談させてほしいです」と返信した。 原告は、同月27日、本件小道具103を使用した被告演芸のライブ配信後、被告に対し、今回は最後のコラボだと思って配信ライブを観たこと、次回から次回からといえる時期は過ぎてしまったこと、制作会社の社員であればまだいいかもしれないが、個人で、小道具を作る人とかの裏方はしんどい こと、今回の作品(跳び箱)で対応してもらえないようなら、今後は被告の小道具は作らず、弁護士か記者にこれまでのことについて相談するつもりであることなどを記載したメッセージを送信した。被告はこれに対し、「わかりました。」「跳び箱の件、載せたりさせてください」などと返信した。 (乙6) 記者にこれまでのことについて相談するつもりであることなどを記載したメッセージを送信した。被告はこれに対し、「わかりました。」「跳び箱の件、載せたりさせてください」などと返信した。 (乙6) ⑹ 被告は、令和3年2月27日、被告のツイッター上で、同月26日に行われた被告演芸の単独ライブで使用した本件小道具103(跳び箱)は原告に依頼して制作してもらったものである旨の告知をした(以下「本件告知」という。)。(甲109) 2 争点3(氏名表示権侵害の成否)及び争点6(本件各小道具の制作者が原告 であると公表する合意の成否)について 事案に鑑み、氏名表示権侵害の成否(争点3)及び本件各小道具の制作者が原告であると公表する合意の成否(争点6)について判断する。 ⑴ 原告は、原告と被告との間で、平成26年7月か8月頃、その後に提供する小道具の制作者が原告であることを被告のツイッター上で告知して公表する合意(以下「本件合意」という。)が成立したことを主張するのに対し、 被告は、原告が、本件各小道具の公衆への提示に際し、原告の氏名を表示しないことに同意していたと主張する。 この点について、原告本人は、平成26年7月から同年8月頃、原告が「ちなみに今後の作品は、公表してくれるんですよね。」と言ったのに対し、被告が、「もちろんだよ。」と答えて本件合意が成立したこと、公表の時期 について、被告は、「ただ、今すぐには、A´の方から作ったとは言わないでほしい。」とし、その理由として、被告はいじられキャラだから、先輩から、後輩に小道具作らせてるみたいなふうに言われるのが嫌だからであると述べたこと、原告は、この返答を聞いて、公表の時期は、被告が、先輩から、後輩に小道具を作らせててもええやんと言ってもらえるぐらいになる時期 に小道具作らせてるみたいなふうに言われるのが嫌だからであると述べたこと、原告は、この返答を聞いて、公表の時期は、被告が、先輩から、後輩に小道具を作らせててもええやんと言ってもらえるぐらいになる時期で あり、半年か1年ぐらい後と思っていたこと、公表の方法について、被告のツイッター上での告知であると思っていたが、その旨明示的な話はしていないことを供述する。 他方、被告本人は、被告が、平成26年8月、原告に対し、小道具の提供を依頼した際に、後輩に小道具を作らせていると言われると困るから、小道 具の制作者として原告の名前は出せないと告げたこと、その後も、数回、被告が新たな小道具の提供を依頼する際に、原告から、小道具の制作者として原告の名前を出せるかと聞かれたが、被告は、原告の名前を出せないと告げたことを供述する。 そこで検討するに、原告本人の供述は、前記認定事実のとおり、原告が、 本件合意において想定される公表の時期(平成26年8月から半年ないし1 年)が経過した後も、令和3年2月まで長期間にわたり、本件合意の履行がされていないにもかかわらず、被告に新たな小道具を提供し続けたことに照らして、不自然である感を否めない。かえって、原告が、平成29年3月から、被告に対し、これからは、原告がパタンナーという役割で関与したいという、本件合意とは異なる内容の提案をしていること(前記1⑶)、また、 令和3年2月26日に、その日に使用される本件小道具103について、今回から原告が制作したことを公表する許可をもらえるかとのメッセージを送信し、被告がこれを断ったこと(同⑸)からも、同時点までに、原告と被告との間で、本件合意が成立していなかったことがうかがわれる。 これに対し、前記1⑶ないし⑸のとおりの原告と被告との間のメッ を送信し、被告がこれを断ったこと(同⑸)からも、同時点までに、原告と被告との間で、本件合意が成立していなかったことがうかがわれる。 これに対し、前記1⑶ないし⑸のとおりの原告と被告との間のメッセージ からは、原告が、これから提供する小道具について、原告が制作に関与したと公表したいという趣旨の申し入れをし、被告が、今回は難しいという趣旨の返答をしたこと、原告が最後に提供した本件小道具103の使用についても、被告が、原告の名前を出すことができないとの意向を明らかにしたことを読み取ることができ、これは、被告本人の上記供述に沿うものといえる。 以上によれば、本件合意が成立したとの原告本人の供述を採用することはできず、被告本人の上記供述は採用することができる。 ⑵ 氏名表示権侵害の成否(争点3)について前記⑴に説示したところに照らせば、被告が、平成26年8月、原告に小道具の提供を依頼した際に、後輩に小道具を作らせていると言われると困る から、小道具の制作者として原告の名前は出せないと告げたこと、その後も、数回、被告が新たな小道具の提供を依頼する際に、原告から、小道具の制作者として原告の名前を出せるかと聞かれたが、原告の名前を出せないと告げたことを認めることができる。そして、前記認定事実によれば、原告も、被告演芸の中で、あるいは、劇場及びテレビ番組放映中並びに舞台のプログラ ムにおいて、小道具の制作者として原告の氏名(変名を含む。)に言及しな いことは当然の前提としていたこと、実際に、被告演芸の中、劇場及びテレビ番組放映中並びに舞台のプログラムにおいて、本件各小道具の制作者として原告の氏名に言及されたことはなく、そのほかの機会に、本件各小道具の制作者として原告の氏名に言及されることもなかったこと、それ ビ番組放映中並びに舞台のプログラムにおいて、本件各小道具の制作者として原告の氏名に言及されたことはなく、そのほかの機会に、本件各小道具の制作者として原告の氏名に言及されることもなかったこと、それにもかかわらず、原告は、令和3年2月までの間、被告に新たな小道具を提供し続けた ことが認められ、これによれば、原告は、被告演芸における本件各小道具の使用に際して、原告の氏名が表示されないことを認識しながら、本件各小道具を提供したものというべきである。 以上によれば、原告は、本件各小道具を被告に提供するに先立って、被告が被告演芸に本件各小道具を使用して公衆に提示するに際して原告の氏名を 表示しないことに同意したものと認めるのが相当である。 よって、被告は、原告の選択に従い、本件各小道具を公衆に提示するに際して原告の氏名を表示しなかったものといえるから、仮に、本件各小道具が著作物であり、その著作者が原告であったとしても、本件各小道具に係る原告の氏名表示権を侵害したものということはできない。 以上に対し、原告は、被告が、被告演芸後、長期にわたり、本件各小道具の著作者が原告であると表示しなかったことが氏名表示権侵害に当たると主張するが、原告が、本件各小道具を公衆に提示するに際して原告の氏名を表示しないことに同意したといえることは上記において説示したとおりであり、事後的に原告の氏名を表示しなかったからといって、原告の氏名表示権を侵 害したということにはならない。 したがって、その余の点を判断するまでもなく、氏名表示権侵害に基づく損害賠償請求及び名誉回復措置請求は理由がない。 ⑶ 本件合意の成否(争点6)について本件合意が成立したとの原告本人の供述を採用することができないのは、 前記⑴に説示したとおりであり づく損害賠償請求及び名誉回復措置請求は理由がない。 主文 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 理由 本件合意の成否(争点6)について本件合意が成立したとの原告本人の供述を採用することができないのは、前記⑴に説示したとおりであり、ほかに本件合意が成立したことを認めるに足りる証拠は見当たらない。したがって、その余の点を判断するまでもなく、債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がない。 第4 結語 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官髙橋彩 裁判官杉田時基 裁判官吉川慶 (別紙)謝罪文目録(記載省略) (別紙)原告作品目録(記載省略) (別表)主張整理一覧表(記載省略)
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