令和7年4月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(ワ)第12720号不正競争行為差止等請求事件口頭弁論終結日令和7年2月13日判決 原告株式会社コーヨークリエイト 訴訟代理人弁護士加藤真朗同太井徹同佐野千誉 同金子真大同川岡倫子同川上修平 被告株式会社リコネクト (以下「被告会社」) 被告A (以下「被告A」) 被告ら訴訟代理人弁護士河原秀樹 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは、別紙データ目録記載の電子データ及び同電子データが記録された文書、磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体並びに同各記録媒体に記録された各情報を使用し、又は第三者に開示若しくは使用させてはならない。 2 被告らは、前項の電子データ及び同電子データが記録された記録媒体を廃棄せよ。 3 被告らは、第1項の電子データ及び同電子データが記録された記録媒体を使用して設計又は製造した製品及び半製品を廃棄せよ。 4 被告らは、建築工事事業に係る営業活動、及び建築資材に、別紙商品等表示目録記載の各表示を使用してはならない。 5 被告Aは、原告に対し、604万円及びこれに対する令和5年4月29日から 支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 6 被告らは、連帯して、1434万7038円及びこれに対する令和5年3月31日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 7 (被告Aに対する5項、6項の予備的請求)被告Aは、原告に対 は、連帯して、1434万7038円及びこれに対する令和5年3月31日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 7 (被告Aに対する5項、6項の予備的請求)被告Aは、原告に対し、1908万2762円及び内金604万円に対する令 和5年4月29日から、内金1304万2762円に対する令和6年1月14日から、各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本判決で用いる用語・原告製品 :原告が製造販売する建築部材(名称「KFRAME 耐震鋼 構造・K型フレーム」)(甲2)・原告製品情報 :原告製品に関する別紙データ目録記載の電子データ(次の「K型フレーム設計図情報」、「治具設計図情報」、「金物設計図情報」の総称)・ K型フレーム設計図情報: 同目録番号1ないし154の電子データ・治具設計図情報:同目録番号155の電子データ ・金物設計図情報:同目録番号156ないし162の電子データ ・原告取引情報:「受注実績・予定表」(甲16)記載の情報・原告原価情報:原告製品の原価情報・原告表示1、原告表示2:別紙「商品等表示目録」記載1の「K型フレーム」との表示、同2記載の「Kフレーム」との表示(総称して「原告各表示」)・本件誓約:の令和4年8月29日付け誓約書(甲5)においてされた原告と 被告A間の秘密保持に係る合意・本件業務委託契約:原告と被告Aとの同日付け業務委託契約(甲6)・本件顧問契約:原告と被告Aとの同年10月25日付け顧問契約(甲7)・本件支給金:原告が被告Aに対して退職慰労金名目又は退職慰労金の趣旨で支払った合計604万円 ・被告製品被告会社が製造販売する建築部材・不競法:不 25日付け顧問契約(甲7)・本件支給金:原告が被告Aに対して退職慰労金名目又は退職慰労金の趣旨で支払った合計604万円 ・被告製品被告会社が製造販売する建築部材・不競法:不正競争防止法・人物の略称B原告の従業員BC原告の従業員(後に被告の従業員となる。)CD同上DE同上EF株式会社パパマハロの代表取締役FG原告の前代表取締役G 2 原告の請求(訴訟物)(1) 請求の趣旨第1ないし3項 被告らによる原告製品情報の取得・使用・開示が不正競争(不競法2条1項4号)に当たることを前提とする、原告の被告らに対する、①不競法3条1項に基づく原告製品情報の使用差止請求権(請求の趣旨第1項)、及び、②同条2項に基づく廃棄請求権(同第2、3項) (2) 請求の趣旨第4項原告各表示が「商品等表示」(不競法2条1項1号又は2号)に当たることを前提とする、原告の被告らに対する、不競法3条1項に基づく原告各表示の使用差止請求権(3) 請求の趣旨第5項 被告Aによる原告の従業員の勧誘・引抜、原告の秘密情報の取得・使用等の行為が本件誓約に基づく義務(勧誘避止義務、秘密保持義務)に違反したことを前提とする、原告の被告Aに対する、本件誓約の返金合意に基づく本件支給金の返還請求権(4) 請求の趣旨第6項 被告Aによる(3)掲記の行為が、被告らの共同不法行為であること、又は被告らによる原告の営業秘密の取得・使用・開示が不正競争(不競法2条1項4号)であることを前提とする、原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権(5) 請求の趣旨第7項(被告Aに対する請求の趣旨5 る原告の営業秘密の取得・使用・開示が不正競争(不競法2条1項4号)であることを前提とする、原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権(5) 請求の趣旨第7項(被告Aに対する請求の趣旨5、6項の予備的請求) 被告Aによる(3)掲記の各行為が本件誓約書及び本件顧問契約等に基づく義務(勧誘避止義務、秘密保持義務)に違反することを前提とする、原告の被告Aに対する債務不履行に基づく損害賠償請求権 3 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1) 当事者等 ア原告は、土木建築総合請負等を目的とする株式会社である。 イ被告会社は、土木工事、建築工事の設計、施工、請負及び監理等を目的とする株式会社である。 ウ被告Aは、平成30年9月1日に原告の取締役に就任し、令和4年8月29日に任期満了により同取締役を退任した。 被告Aは、令和4年12月22日に被告会社を設立し、被告会社の代表取 締役に就任した。 (2) 原告の主たる事業及び組織原告は、建築請負を業としてきたが、原告製品の製造販売を行うようになり、原告製品の製造、販売及び建方工事を専業とするようになった。原告は、国内に本社と関東出張所のほか、2つの工場(岬工場及び千葉工場)を有し、各工 場で原告製品を製造していた。(甲53)(3) 被告Aの退任時の経緯ア本件誓約被告Aは、令和4年8月29日、原告の取締役を退任するにあたって、本件誓約に係る誓約書(甲5)を原告に差し入れた。 本件誓約の内容は、被告Aが原告在籍中に従事した業務において知り得た原告(子会社、関係会社を含む。以下、同じ。)の技術上・営業上その他の一切の情報について、退職後においても、これを第三者に開示・漏洩し、自ら の内容は、被告Aが原告在籍中に従事した業務において知り得た原告(子会社、関係会社を含む。以下、同じ。)の技術上・営業上その他の一切の情報について、退職後においても、これを第三者に開示・漏洩し、自ら使用しないこと、秘密情報に係るデータ・書類等は、退職時にすべて返還し、一切保有していないこと、原告の役員及び従業員に退職の勧誘・引抜き行為 等を一切しないこと、原告に係る風説の流布、誹謗中傷、その他原告の名誉・信用を毀損させるあらゆる行為を、その方法の如何を問わず、一切行わないこと、本誓約に違反して原告に損害を与えた場合は、退職慰労金及び退職慰労金の趣旨で交付を受けた金員の全額を返還すると共に、責任をもって賠償にあたることを誓約するものであった。 イ本件業務委託契約の締結原告と被告Aは、令和4年8月29日、期間を同年9月30日までとし、被告Aの取締役退任に伴う引継業務の委託を目的とする本件業務委託契約を締結した。同契約では、被告Aが、本契約の有効期間中か否かにかかわらず、従業員若しくは取締役として原告に在籍中、又は本件業務の遂行中に知 り得た原告に関する営業上、技術上その他の一切の情報を複製し、又は第三 者に開示・漏洩してはならないとされていた。(甲6)ウ退職慰労金の支給決定原告は、令和4年8月29日の臨時株主総会において、被告Aに対し、役員退職慰労金として400万円を贈呈する旨の決議をした(甲8)。 (4) 本件顧問契約の締結 原告と被告Aは、令和4年10月25日、期間を同年11月1日から令和8年10月31日までとして、被告Aが原告の従業員及び原告の業務の請負人等に対して、原告の製品を製造、納品し、又は原告の製品を利用した建築物を建築するにあたって必要となる指導業務を行 月1日から令和8年10月31日までとして、被告Aが原告の従業員及び原告の業務の請負人等に対して、原告の製品を製造、納品し、又は原告の製品を利用した建築物を建築するにあたって必要となる指導業務を行うことを目的として、顧問料月額34万円(消費税込)を支払う旨を内容とする顧問契約を締結した。 同契約では、秘密保持に関し、被告Aが、本契約の有効期間中か否かにかかわらず、本業務の遂行中に知り得た原告に関する営業上、技術上その他の一切の情報を使用し、複製し、又は第三者に開示・漏洩してはならないものとされた。(甲7)(5) 被告Aに対する本件支給金の支払 原告は、被告Aに対し、令和4年9月9日付けで退職慰労金400万円を、同年10月分から令和5年3月分までの顧問料名目(実質は退職慰労金の趣旨)で合計204万円をそれぞれ支払った。 (6) 原告による警告原告は、令和5年4月27日付け通知書(同月28日到着)により、被告ら に対し、被告Aによる原告従業員の引抜行為等が債務不履行、不正競争又は不法行為に当たり、原告製品と同一又は類似する製品の製造等が不正競争(不競法2条1項1号)に当たるなどとして、本件支給金の返還や引抜行為の禁止、原告表示1を使用した製品の廃棄などを求めた。(甲11の1及び2、12の1及び2) 4 争点 (1) 本件支給金の返還請求について被告Aに本件誓約に定める本件支給金の返還事由があったか(争点1・請求原因)(2) 不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求についてア被告らの一般不法行為が成立するか(争点2-1・主位的・選択的請求原 因)イ被告らの不正競争(不競法2条1項4号)が成立するか(争点2-2・主位的・選択的請求原因)ウ被告Aの ア被告らの一般不法行為が成立するか(争点2-1・主位的・選択的請求原 因)イ被告らの不正競争(不競法2条1項4号)が成立するか(争点2-2・主位的・選択的請求原因)ウ被告Aの債務不履行があったか(争点2-3・予備的請求原因)エ原告の被った損害額(争点2-4・請求原因) (3) 原告製品情報の使用差止等請求について被告らの不正競争(不競法2条1項4号)が成立するか(争点3・請求原因)(4) 原告各表示の使用差止請求について原告各表示が「商品等表示」(不競法2条1項1号又は2号)に当たるか(争点4・請求原因) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告Aに本件誓約に定める本件支給金の返還事由があったか)について【原告の主張】(1) 勧誘避止義務違反があったこと 被告Aは、本件誓約に基づき勧誘避止義務違反を負っていた。 しかし、被告Aは、原告の取締役在任中から、被告らの事業に従事させる目的で、自ら、原告の従業員であったBやCを勧誘し、自ら又はBらをして、原告の従業員であったD及びEを勧誘して被告会社に引き抜き、引抜従業員らを原告在職中及び原告退職後に被告らの事業に従事させた。 被告Aのこのような勧誘・引抜行為は、本件誓約上の勧誘避止義務に違反す る行為である。 (2) 秘密保持義務違反があったこと被告Aは、本件誓約に基づく秘密保持義務を負っていた。 しかし、被告Aは、被告らの事業に使用する目的で、令和4年9月5日から令和5年6月27日までの間、Bらをして、原告製品情報、原告取引情報、原 告原価情報及びその他の営業上の秘密情報を取得した。また、被告Aは、原告製品と同一又は類似する製品の製造や工事を受注する目的で、 年6月27日までの間、Bらをして、原告製品情報、原告取引情報、原 告原価情報及びその他の営業上の秘密情報を取得した。また、被告Aは、原告製品と同一又は類似する製品の製造や工事を受注する目的で、取得した上記情報を使用し、他社(株式会社庄治工業及び有限会社レフス)に原告製品情報を提供して原告製品と同一又は類似する製品の試作品を製造させ、原告の取引先(株式会社パパマハロ)にも上記情報を提供して同社から工事を受注した。さ らに、被告Aは、被告らの事業に使用するために原告製品と金物を取得しようと計画し、令和4年11月から同年12月にかけて、Bをして、原告製品を利用した建築工法において使用する柱用ゲージに係る設計図情報を使用して試作用ゲージを製造させ、同月25日頃、これを他社(有限会社レフス)に提供させた。 被告Aによる原告製品情報を含む原告の秘密情報の取得、使用、開示は、本件誓約にいう秘密保持義務に違反する行為である。 (3) 違約の場合の返還合意原告と被告Aは、本件誓約による義務を順守することを条件として退職慰労金の趣旨の金員を交付し、上記義務違反があった場合には、退職慰労金の趣旨 で交付した金員を返還することを合意した。 被告Aは、上記のとおり、本件誓約による勧誘避止義務及び秘密保持義務に違反したから、本件支給金の返還事由がある。 よって、原告は、被告Aに対し、本件支給金の返還を求める。 【被告Aの主張】 (1) 勧誘・引抜行為について 被告Aは、原告の従業員であったC、D及びEを勧誘したことはなく、同人らを被告らの事業に従事させたこともない。また、被告Aは、原告に不満を抱いていたBから、原告の取締役退任前から独立してやろうと言われ、退任時にも一緒に辞めるなどと D及びEを勧誘したことはなく、同人らを被告らの事業に従事させたこともない。また、被告Aは、原告に不満を抱いていたBから、原告の取締役退任前から独立してやろうと言われ、退任時にも一緒に辞めるなどと言われたため、退任後も連絡を取り合っていたのであり、積極的に同人を勧誘又は引抜いたことはない。その後も同人からの連絡に対応 していたのみであり、同人を積極的に勧誘したことはなかった。 (2) 秘密情報の使用等について被告Aが、原告の主張するような原告取引情報や原告製品情報等を取得、使用又は開示した事実はない。また、後記3【被告らの主張】のとおり、被告Aが取得したと原告が主張する情報は、いずれも不競法にいう営業秘密に当たら ず、原告の秘密情報に当たらない。 (3) 返還義務の不存在本件誓約は、会社法、不競法や信義則に基づいて退任取締役に当然課される義務を確認した内容にすぎない。原告と被告Aとの間では、別途、本件業務委託契約及び本件顧問契約が締結され、被告Aには経済活動の自由があることを 踏まえると、被告Aに退職慰労金の趣旨の金員である本件支給金の返還が認められるのは、被告Aに従前の勤続功を抹消又は減殺するほどの著しい背信行為が認められる必要があるというべきであり、被告Aにはそのような背信行為はないから、本件支給金を返還すべき理由はない。 2 争点2-1(被告らの一般不法行為が成立するか)について 【原告の主張】(1) 勧誘・引抜行為について上記1【原告の主張】(1)のとおり、被告Aは、原告の取締役在任中から複数の原告の従業員を勧誘して被告会社に引き抜き、被告らの事業に従事させた。 そして、被告Aが引き抜いた原告の従業員は、いずれも原告の業務の枢要部を 担うキーパーソンであり、同人らの一斉退職 ら複数の原告の従業員を勧誘して被告会社に引き抜き、被告らの事業に従事させた。 そして、被告Aが引き抜いた原告の従業員は、いずれも原告の業務の枢要部を 担うキーパーソンであり、同人らの一斉退職が原告の事業に与える影響は看過 し難いものであった。また、被告Aは、原告の従業員が職務専念義務を負うことを認識しながら、原告の就業時間中に被告らの事業に従事させた。 このような被告Aの勧誘・引抜行為は、社会的相当性を欠いた違法性の高い行為であるから、被告らに不法行為が成立する。 (2) 秘密情報取得・開示行為について 上記1【原告の主張】(2)のとおり、被告Aは、引抜従業員らをして原告の秘密情報を取得・使用し、第三者に開示し、これらの行為は被告会社のためにされたものでもある。したがって、当該行為は、本件誓約における秘密保持義務に違反する行為である上、後記3【原告の主張】のとおり、不正競争(不競法2条1項4号の営業秘密侵害行為)に当たる。 したがって、被告らには、秘密情報の取得等につき不法行為が成立する。 (3) 原告の取引の妨害行為について原告は、平成30年11月頃から、原告製品を利用した建築工法による建方工事を一取引先(パパマハロ)から一手に受注し、同社は原告にとって極めて重要な取引先であった。しかし、被告らは、上記1【原告の主張】(2)のとおり、 原告の秘密情報を取得・使用して同社に接触し、同社が原告に発注していた工事を被告会社に受注させ、原告の取引を妨害した。原告は、被告らの取引妨害行為の後、令和5年3月17日の受注をもって、同社との取引が終了した。 このような被告らの取引妨害行為及び取引先の奪取行為は、社会的相当性を欠いた違法性の高い行為であるから、不法行為が成立する。 後、令和5年3月17日の受注をもって、同社との取引が終了した。 このような被告らの取引妨害行為及び取引先の奪取行為は、社会的相当性を欠いた違法性の高い行為であるから、不法行為が成立する。 (4) 原告各表示の使用行為について被告らは、自己の業務の取引資料等に原告各表示と同一又は類似の表示を付して営業活動を行った。後記7【原告の主張】のとおり、原告各表示は「商品等表示」(不競法2条1項1号又は2号)に当たるから、これと同一又は類似する表示を使用する被告らには、不法行為が成立する。 【被告らの主張】 否認ないし争う。 (1) 勧誘・引抜行為について上記1【被告Aの主張】(1)のとおり、被告Aが、原告の従業員であった者を勧誘又は引き抜いたことはなく、同人らをその就業時間中に被告らの業務に従事させたこともない。 (2) 秘密情報取得・開示行為について上記1【被告Aの主張】(2)のとおり、被告Aが、原告の取引情報や原告製品の情報を取得、使用又は開示したことはない。また、原告の指摘する情報は、後記3【被告らの主張】のとおり、不競法の営業秘密に該当する情報でもない。 (3) 原告の取引の妨害行為について 被告らが原告の取引を妨害した事実はない。被告がパハマハロから受注した工事について、同社が事前に原告に見積書を送付していたにすぎず、正式に原告に工事を発注したわけではない。 (4) 原告各表示の使用行為について後記7【被告らの主張】のとおり、原告各表示は、不競法上の「商品等表示」 (同法2条1項1号及び2号)に当たらない。 3 争点2-2(被告らの不正競争(不競法2条1項4号)が成立するか)について【原告の主張】(1) 営業秘密に当 法上の「商品等表示」 (同法2条1項1号及び2号)に当たらない。 3 争点2-2(被告らの不正競争(不競法2条1項4号)が成立するか)について【原告の主張】(1) 営業秘密に当たること ア秘密管理性があること原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報は、いずれも外部から接続不可能な状態で、原告の社内サーバ内の異なるフォルダに保存されていた。 また、原告の従業員数(数十名)のうち、これらの情報に接することができるのは、業務上日常的に情報に接する必要性があり、原告からパソコンの貸 与を受けた者に限られていた。また、秘密管理性の判断は、従業員等の認識 可能性が確保されているか否かが重要なメルクマールとなるところ、原告は、従業員に対し、原告事業の核心情報である上記各情報を外部に開示しないようにするための教育を徹底し、原告の就業規則13条に「製品技術・設計、企画、開発に関する事項」及び「製品販売・顧客情報に関する事項」、すなわち、これらに該当する上記各情報が「秘密情報」であると定め、外部への開 示、漏洩を禁止していた。さらに、原告は、内部通報制度を導入して情報の流出を阻止する情報管理体制を整え、被告Aや原告の従業員に周知していた。 加えて、上記各情報が原告の事業の核心の情報であり、被告Aが、原告の取締役退任にあたって秘密保持義務を負う旨の契約等を締結(本件誓約、本件業務委託契約、本件顧問契約)していたことを踏まえると、被告Aは、上記 各情報が外部に漏洩することの許さない情報であると認識していたことは明らかである。 以上によれば、上記各情報について、秘密管理性がある。 イ非公知性があること上記各情報は、原告社外のみならず原告社内においても、原告からパソコ いたことは明らかである。 以上によれば、上記各情報について、秘密管理性がある。 イ非公知性があること上記各情報は、原告社外のみならず原告社内においても、原告からパソコ ンを貸与された一部の従業員のみしか知り得ない非公知の情報である。また、次のような各情報の個別の性質等を踏まえると、いずれも非公知性がある。 (ア) K型フレーム設計図情報及び金物設計図情報原告は、K型フレーム建方工事に利用される原告製品及び金型を全て自社工場で製造しているが、そのままの状態で第三者に譲渡してはおらず、 製造した原告製品や金型を用いてK型フレーム建方工事を完成させた状態、すなわち、原告製品及び金物と他の建築部材が接合・密着し、建前の一部として取り込まれた状態で引渡している。そして、上記工事完成後は、他の施工業者によって建前に対して、屋根工事、外壁工事、床・壁・サッシ取付け工事などが次々と施工され、最終的に原告製品や金型が外部から 一切視認できない状態の建物として施主に引き渡される。このように、原 告製品及び金型の譲受人は、完成した建物や建前を取り壊さなければ原告製品や金物自体を確認することはできない。原告製品及び金型の性質、引渡し時の状態に照らせば、原告製品及び金型を第三者に譲渡したとしても、上記情報が公知になるわけではない。また、原告は、原告製品の工事の受注にあたって、口頭又は書面で取引業者に設計図等の情報について秘密保 持義務を課しているから、設計図等が取引業者に開示されたとしても、非公知性は失われない。 (イ) 治具設計図情報治具とは、建築部材の加工や組み立ての際に、部品や工具の作業位置を指示・誘導するために用いる器具の総称であり、そもそも第三者に譲渡す る性質のもので われない。 (イ) 治具設計図情報治具とは、建築部材の加工や組み立ての際に、部品や工具の作業位置を指示・誘導するために用いる器具の総称であり、そもそも第三者に譲渡す る性質のものではなく、専らこれを用いて建築部材を製造する製造業者の内部においてのみ利用される性質の道具である。原告製品の治具も、原告の工場内で原告製品を加工・組み立てる際にのみ利用され、治具設計図情報が第三者に譲渡されたことはない。 (ウ) 原告取引情報 原告取引情報の化体した表(甲16)には、「物件名」や「依頼先」、「状況」、「受注金額」が整理された上での各月毎の受注金額総額が記載されており、これにより原告の各月毎の営業成績や年間を通した受注傾向が分析可能な原告の内部資料である。また、上記表には、「受注金額」や「状況」の情報など、性質上、明らかに受注した当事者しか知ることができない情 報が含まれている。 ウ有用性があること原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報は、その情報の性質から明らかなように、原告の事業活動において極めて有用な情報で、特に原告製品情報は原告事業の根幹を支える重要な情報である。 したがって、上記各情報について、有用性がある。 (2) 被告らが情報を取得・使用・開示したこと上記1【原告の主張】(2)のとおり、被告Aは、Bらをして原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報を取得し、被告らの事業のために使用し、第三者に開示した。 (3) 以上から、被告らの上記情報の取得等の行為は、不正競争(不競法2条1項 4号)に当たる。 【被告らの主張】(1) 営業秘密に当たらないことア秘密管理性がないこと秘密管理性は、営業秘密を保有する事業者が特定の情報に対して 、不正競争(不競法2条1項 4号)に当たる。 【被告らの主張】(1) 営業秘密に当たらないことア秘密管理性がないこと秘密管理性は、営業秘密を保有する事業者が特定の情報に対して客観的な 秘密管理措置により当該事業者の秘密管理意思が従業員等に対して明示され、当該秘密管理認識可能性が確保される必要がある。 しかし、原告取引情報は、原告のウェブサイト上で公開されており、原告原価情報や原告製品情報は、原告の従業員であれば閲覧可能な共有フォルダに保存され、パスワード管理や閲覧制限の措置もとられていなかった。 また、被告Aは、原告の取締役の退任にあたり、原告から特定の秘密情報について原告の秘密管理意思を明示されたことはない。なお、情報に接する従業員が一部に限定されていたとしても、業務上の必要性による措置であり、情報が社内サーバで管理されていたとしても、当該サーバに保存されていた他の情報とは異なって原告製品情報や原告取引情報及び原告原価情報のみ に秘密管理意思が明示されていたことはなく、被告の就業規則や内部通報制度をもって、特定の秘密情報に対する原告の秘密管理意思が明示されていたともいえない。したがって、原告の指摘する措置の存在をもって、これらの情報(特定の情報)に対する原告の秘密管理意思が明示され、被告Aや原告の従業員の秘密管理認識可能性があったとはいえない。 以上から、これらの情報について、秘密管理性は認められない。 イ非公知性がないこと原告製品情報は、建築関係者であれば自由に閲覧可能な設計図書の構造図に明記されている情報や、極めて構造上単純なものであって容易に想到することができる情報であるから、原告製品や金型の現物を見ることによって得られる情報であり、原 あれば自由に閲覧可能な設計図書の構造図に明記されている情報や、極めて構造上単純なものであって容易に想到することができる情報であるから、原告製品や金型の現物を見ることによって得られる情報であり、原告製品や金型の現物を見る機会は十分にある。原告製 品の建築工法は一般的な軸組ブレース構造にすぎず、同形状の軸組工法は同業者でも広く用いられている。 なお、原告は、工事の取引業者に対して設計図について秘密保持義務を課しているとするが、あくまで一般的な義務にすぎない。 また、原告取引情報の化体した表(甲16)であると指摘する表は、原告 の従業員(C)が個人的に作成したものであって、原告の内部資料ではないから、非公知性を肯定する事情にはならない。 ウ小括以上から、原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報について、秘密管理性は認められない。 (2) 被告らは情報を取得・使用・開示していないこと上記1【被告Aの主張】(2)のとおり、被告Aは、Bらをして原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報を取得したことはなく、被告らの事業のために使用し、第三者に開示したことはない。 (3) 以上から、被告らに不正競争(不競法2条1項4号)は成立しない。 4 争点2-3(被告Aの債務不履行があったか)について【原告の主張】被告Aは、令和4年8月29日及び同年10月25日、原告に対し、原告在職中に自ら知り得た原告保有の一切の情報を第三者に開示、漏洩し、又は自ら当該情報を使用しない旨約するとともに、原告の役員及び従業員に対して、勧誘・引 抜行為を行わない旨を約し、秘密保持義務等を負った。 しかし、被告Aは、上記1【原告の主張】のとおり、自らは又はBらをして、原告が保有する営業秘 従業員に対して、勧誘・引 抜行為を行わない旨を約し、秘密保持義務等を負った。 しかし、被告Aは、上記1【原告の主張】のとおり、自らは又はBらをして、原告が保有する営業秘密情報を取得するなどし、当該情報を第三者に開示、漏洩し、又は自ら使用し、引抜従業員に対して勧誘引抜行為を行い、上記秘密保持義務等に違反した。 よって、被告Aには債務不履行があった。 【被告Aの主張】否認ないし争う。 上記1【被告Aの主張】のとおり、被告Aが、原告の従業員を勧誘・引抜をしたことはなく、原告の秘密情報を不正に取得、開示又は使用した事実はない。 5 争点2-4(原告の被った損害額)について 【原告の主張】(1) 逸失利益原告は、被告らの不法行為又は不正競争行為(主位的)若しくは被告Aの債務不履行(予備的)により、パパマハロからの工事の受注が白紙となったのであり、当該工事を受注できていたならば得られたであろう利益相当額1304 万2762円は、上記不法行為又は不正競争行若しくは債務不履行と相当因果関係のある損害である。 (2) 弁護士費用相当額上記(1)の1割に相当する130万4276円が弁護士費用の損害である。 【被告らの主張】 否認ないし争う。 6 争点3(被告らの不正競争(不競法2条1項4号)が成立するか)について【原告の主張】上記3【原告の主張】のとおり。 【被告らの主張】 否認ないし争う。上記3【被告らの主張】のとおり。 7 争点4(原告各表示が「商品等表示」に当たるか)について【原告の主張】(1) 原告を示す表示であること「K型フレーム」は、建設業界において一般名称である「K型ブレース」とは異な 7 争点4(原告各表示が「商品等表示」に当たるか)について【原告の主張】(1) 原告を示す表示であること「K型フレーム」は、建設業界において一般名称である「K型ブレース」とは異なる概念として用いられ、原告製品や原告製品を利用した建築構造体等を 示す原告の代名詞として使用されている表示であり、一般名称ではない。 (2) 著名性又は周知性があること原告は、平成11年に原告各表示を付した原告製品の販売を開始した後、強力な宣伝広告を伴って、永年独占的に、原告製品の名称として原告各表示を継続使用していた。例えば、原告の第27期事業年度に投下した原告製品の宣伝 広告費用は8692万8500円にも上る。また、原告各表示は、日刊工業新聞やテレビCMなど各種メディアにも取り上げられていた。 以上によれば、原告各表示は、原告製品や原告の事業を示す表示として、需要者である建築業界において全国的に広く認知されていたといえ、著名性を獲得していることは明らかであり、仮に、著名性が認められないとしても、少な くとも被告会社が行う事業の地理的範囲(関東圏、関西圏)においては、周知性を獲得していた。 (3) したがって、原告各表示は、不競法2条1項1号又は2号の「商品等表示」に当たる。 【被告らの主張】 (1) 自他識別機能を有しないこと「K型フレーム」とは、K型の骨組(フレーム)を指すものであり、一般名称である「K型ブレース」(K型の筋交い(ブレース))と類似する表示であるから、自他識別機能を有するものではない。実際、「K型フレーム」に関する商標登録出願は拒絶査定を受けている。 (2) 著名性及び周知性がないこと 原告の指摘する事情をもって、原告各表示が著名性又は周知 い。実際、「K型フレーム」に関する商標登録出願は拒絶査定を受けている。 (2) 著名性及び周知性がないこと 原告の指摘する事情をもって、原告各表示が著名性又は周知性を獲得しているとはいえない。例えば、インターネットの検索エンジンで「K型フレーム」を検索すると、原告と無関係の建築事務所や建築士、会社のウェブサイトなどが掲載されている。 (3) 以上から、原告各表示は、不競法3条1項1号及び2号の「商品等表示」に 当たらない。なお、そもそも、被告らは、営業活動において「K型フレーム」という表示をそもそも使用したことはない。 第4 判断事案に鑑み、争点3、同4、同1、同2の順に判断する。 1 争点3(被告らの不正競争(不競法2条1項4号)が成立するか)について (1) 営業秘密該当性に係る認定事実証拠(甲17、53、原告代表者本人)によれば、次の事実が認められる。 ア原告の令和4年9月1日時点の従業員数は50名(本社9名、関東出張所7名、岬工場20名、千葉工場14名)であった。 本社及び関東出張所の従業員16名は、構造計算・設計・見積書作成、経 理・事務、窓口等を、各工場の事務所に所属する従業員9名は、設計・発注、窓口等を担当しており、これら25名に原告からパソコンが貸与されていた。 イ原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報は、外部から接続ができない原告社内のサーバのフォルダ内に格納されており、上記パソコン貸与者において当該パソコンから上記フォルダにアクセスすることができた。なお、 上記各情報は、手間の煩わしさからパスワード付されずに格納されていた。 ウ原告の就業規則(令和2年4月1日適用)には、従業員の秘密義務として、① 製品技術・設計、企画、開発 できた。なお、 上記各情報は、手間の煩わしさからパスワード付されずに格納されていた。 ウ原告の就業規則(令和2年4月1日適用)には、従業員の秘密義務として、① 製品技術・設計、企画、開発に関する事項、② 製品販売・顧客情報に関する事項、③ 財務・経営に関する事項、④ 人事管理に関する事項、⑤他社との業務提携に関する事項等について従業員は、在職中及び退職後にお いて、以下の秘密情報につき、厳に秘密として保持し、会社の事前の許可な く、いかなる方法をもってしても、開示、漏えい又は使用してはならない旨が定められていた。(甲17)(2) 判断ア不競法2条6項の「秘密として管理されている」といえるためには、当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるよう な措置が講じられ、当該情報にアクセスできる者が限定されているなど、当該情報に接した者が、これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理していることを要する。 イこれを本件についてみると、原告は就業規則において従業員に秘密保持義務を課し、上記各情報については外部から接続できない社内サーバで管理し、 貸与したパソコンに限ってアクセスできる措置を講じている。しかし、具体的な秘密管理措置についてみると、上記各情報(データ)には、円滑な業務遂行を優先して手間の煩わしさを解消する目的でパスワードが付されておらず、これらに「部外秘」「秘密情報である」などと付記されていた事情もうかがわれない。また、情報へのアクセスが貸与されたパソコンに制限されて いるとしても、貸与されたパソコンの使用者の担当業務は様々であって、全ての貸与者において、業務の遂行上これらの情報すべてが必要な情報であるとは解し難く、業務上必要性 れたパソコンに制限されて いるとしても、貸与されたパソコンの使用者の担当業務は様々であって、全ての貸与者において、業務の遂行上これらの情報すべてが必要な情報であるとは解し難く、業務上必要性のない情報であるにもかかわらずアクセスできた者も存在したといえる。さらに、就業規則には、秘密保持の対象となる事項が列挙されているが、本件で問題となっている原告製品情報、原告取引情 報及び原告原価情報がこれに該当するか否かを明示的に記載しているものではなく、別途、原告がこれらの情報が秘密情報に当たる旨を明示的に表示した事情もうかがわれない。 以上によれば、原告においてこれらの情報を秘密として管理する意思があったとしても、被告Aや原告の従業員においてこれを十分認識し得る程度に 秘密として管理する体制が講じられていたと認めることはできない。 したがって、秘密管理性は認められない。 ウ以上から、その余の要件(非公知性及び有用性)について検討するまでもなく(なお、原告製品情報については、これらによる製品が一般の建築に供される建築資材であることや、原告自身も当該資材それ自体を秘密と扱っていないこと(甲2)からすると、原告主張の事実が仮にあったとしても、非 公知性を認めることも困難である。)、原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報は、不競法2条6項所定の「営業秘密」に当たらない。 これに対し、原告は、従業員に対してこれらの情報が秘密情報に当たるので漏洩等しないように都度指導していたことや内部通報制度を設けたことなどをもって、上記必要な措置を講じており、従業員らの上記認識可能性は あった旨主張するが、都度指導していたことを裏付ける証拠はなく、また、内部通報制度の導入が直ちに上記認識可能性の存在を裏付 などをもって、上記必要な措置を講じており、従業員らの上記認識可能性は あった旨主張するが、都度指導していたことを裏付ける証拠はなく、また、内部通報制度の導入が直ちに上記認識可能性の存在を裏付けるものとはいえないから、原告の主張は採用できない。 (3) 小括よって、被告らには、不競法2条1項4号所定の不正競争は成立しない。 2 争点4(原告各表示が「商品等表示」に当たるか)について(1) 不競法2条1項1号及び2号は、「商品等表示」とは「人の業務に係る氏名、照合、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。」と定義していることからすれば、「商品等表示」とは、商品又は営業を示すものとして出所表示機能を有するものに限られると解するのが相 当である。 これを本件についてみると、原告各表示は、原告が製造販売する原告製品の商品名として使用されているが(争いなし)、「K型」又は「K」と「フレーム」という形状ないし用途を示すありふれた用語から構成されており、特段顕著な特徴を有する用語は用いられていないから、これに接する需要者においては、 アルファベットの「K」の形状を有する「フレーム」であること、又は、一般 的な軸組工法である「K型フレーム」又は「Kフレーム」(原告代表者本人、被告A本人)であるとことを端的に示すものと解するといえる。また、実際に、原告以外の第三者も、原告製品と同じ製品分野である建築部材として原告表示1を使用している(甲43の1ないし3、44の2、乙3の1及び2)。 以上によれば、原告各表示は、いずれも商品等の出所を表示するものとは到 底いえないから、不競法2条1項1号又は2号の「商品等表示」に当たる余地はない。したがって、仮に、被告らが 及び2)。 以上によれば、原告各表示は、いずれも商品等の出所を表示するものとは到 底いえないから、不競法2条1項1号又は2号の「商品等表示」に当たる余地はない。したがって、仮に、被告らが原告各表示と同一又は類似する表示の使用をしていたとしても、不競法2条1項1号及び2号所定の不正競争に該当しない。 (2) これに対し、原告は、原告各表示は一般的な建築工法を示す普通名称たる「K 型ブレース」と異なること、建築業界において永年独占的に原告各表示を付した原告製品が販売されていることなどから、原告各表示は出所表示機能を有する旨主張するが、前判示に照らし、採用の限りでない。 3 争点1(被告Aに本件誓約に定める本件支給金の返還事由があったか)について (1) 認定事実前提事実に加えて、証拠(後掲のほか、甲53、54、乙6、7、証人B、証人F、原告代表者本人、被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ア原告の経営体制等 原告は、Gにより設立された。Gは、原告設立当初から代表取締役を務めていたが、高齢を理由に令和4年6月17日に辞任して会長と称され、同人の妻が代表取締役に就任した。平成30年9月1日、被告Aを含むGが信頼する3名が、原告の取締役に就任した。被告Aには、月額100万円の役員報酬が支払われていた。 イ被告Aの取締役退任に至る経緯 被告Aは、令和4年8月に取締役の任期を迎える予定であったが、原告において再任しないことが決定され、同月29日の任期満了をもって原告の取締役を退任した。 原告は、被告Aに対する役員退職慰労金として2000万円を支給することを決め、税法上の理由から一括金として支払うのではなく、役員退職慰労 金として4 満了をもって原告の取締役を退任した。 原告は、被告Aに対する役員退職慰労金として2000万円を支給することを決め、税法上の理由から一括金として支払うのではなく、役員退職慰労 金として400万円を支払い、別途顧問料として残額を分割して支払うこととし、被告Aとの間で、本件顧問契約を締結した。 ウ取締役退任後の被告AとBとのやりとり等(甲9)被告Aは、被告Aが原告の取締役を退任するとの報に接したBが、被告Aが被告会社を立ち上げて行う事業に参画することを前提に、令和4年9月か ら同年11月までの間、Bとの間で、メッセージアプリ(LINE)を通じて被告会社の事業内容や事業展開、取引先等について協議していた。 その過程で、被告Aは、被告会社の事務所となる候補の物件を話題にし、賃借に当たっての保証人をCに依頼するなどしたほか、被告会社に協力、就労が期待できる原告従業員(C、D及びE)が話題になり、被告Aは、同人 らが被告会社において就業してほしい旨の希望を述べた(もっとも、被告Aは、Bに、軽々に原告従業員に声をかけることを止めるよう求めていた。)。 被告AがBに被告会社が製造を予定する商品の設計等に関する情報の提供(原告製品情報や原告原価情報も含まれることがあった。)を依頼し、これらがBから被告Aに提供された。また、同年10月5日には、被告Aは、B 及びCと共に、被告会社にとっての取引先の候補となる山大興行において打合せを行ったことがあった。 エ原告の従業員の退職等(甲13ないし15)Dは、令和5年2月28日に原告を退職し、同年3月1日付けで被告会社に雇用された。 Eは、令和5年5月20日に原告を退職し、令和6年1月21日付けで被 告会社に正社員として雇用された。 8日に原告を退職し、同年3月1日付けで被告会社に雇用された。 Eは、令和5年5月20日に原告を退職し、令和6年1月21日付けで被 告会社に正社員として雇用された。 Cは、退職合意書に署名して令和5年7年31日付けで原告を退職し、同年8月1日に被告会社に雇用された。上記退職合意書には、原告の勤務時間中に被告らの業務に従事したこと及び受注実績表を被告らに開示・漏洩したことを認めて謝罪する旨の条項(第1項)がある。なお、Cは、被告会社の 事務所の賃借にあたり、保証人となっていた。 他方、Bは、原告にとどまることとし、特に被告Aに協力したこと等に関し、特段の処分は受けなかった。 (2) 勧誘・引抜行為について原告は、被告Aが原告の従業員を勧誘、引き抜き、本件誓約における勧誘避 止義務に違反した旨主張する。 この点、上記認定事実のとおり、被告Aは、原告の取締役退任後の令和4年9月から同年11月頃までの間、Bと被告会社の立上げ等に関する相談を行い、同人やCに被告会社の事務所候補の物件や取引予定業者との打合せに立会ってもらい、同人らやD及びEらが被告会社に来ることを希望する旨の発言をす るなどしており、最終的に、Bを除く上記3名が、後に原告を退職して被告会社に雇用されている。しかし、被告AとBとの前記協議においてを踏まえても、被告Aが、Bら上記4名やその他の原告の従業員を積極的に被告会社に転職するように勧誘し又は引き抜くような発言をした事実や、具体的に被告AがC、D及びEに被告会社に就職するよう勧誘したような事実は見当たらず、本件記 録上、他に、被告Aによる勧誘及び引抜を認めるに足りる証拠はない。 したがって、被告Aに違法な勧誘又は引抜きの事実は認められない。なお、原告 るよう勧誘したような事実は見当たらず、本件記 録上、他に、被告Aによる勧誘及び引抜を認めるに足りる証拠はない。 したがって、被告Aに違法な勧誘又は引抜きの事実は認められない。なお、原告は、被告Aが、原告の取締役退任前からパワハラ行為や金員の不正受給をしていたために退任となったことが勧誘及び引抜きの動機である旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はなく、また、そのような非違行為 をした者に対して多額の役員退職慰労金を支給することも不自然であって原 告の上記主張は、採用することはできない。 (3) 秘密情報の取得について原告は、被告Aが、原告の取締役退任後、自ら又はBをして、原告の秘密情報を取得して被告らの業務のために使用し、第三者に開示した旨主張する。 しかし、本件誓約において開示・漏洩及び使用が禁止される秘密情報は、被告 Aが原告の「在籍中に従事した業務において知り得た」原告の「技術上・営業その他一切の情報」であるから、仮に、取締役退任後に原告の技術上・営業上の情報を取得したとしても、本件誓約にいう情報に当たらない以上、これに違反すると解する余地はない。 この点を措いても、一般に、役員ないし従業員が会社を退職した後に利用が 制約される在職中に得た情報とは、実質的に保護に値する、特定かつ具体的なものと解すべきところ、前記のとおり、原告の問題とする情報は、要保護性に欠けるのであって、この観点からも、被告Aが、本件誓約に反したものとは認められない。 (4) まとめ 以上のとおり、被告Aには、本件支給金の返還事由があると認めることはできない(また、付言すると、本件誓約には、原告に損害を与えた場合に本件支給金を返還する旨が定められているところ、仮に、本件誓約に違反 上のとおり、被告Aには、本件支給金の返還事由があると認めることはできない(また、付言すると、本件誓約には、原告に損害を与えた場合に本件支給金を返還する旨が定められているところ、仮に、本件誓約に違反する行為があったとしても、原告に損害が与えたことについて、何ら主張立証はなく、また、本件記録上、当該損害の発生を認めるに足りる証拠もない。)。 したがって、この点にかかる原告の主張は、理由がない。 4 争点2-1(被告らの一般不法行為が成立するか)について(1) 勧誘・引抜行為について上記3(2)のとおり、被告Aによる原告の従業員の勧誘及び引抜の事実は認められない以上、この点について被告らの一般不法行為は成立しない。 (2) 秘密情報取得・開示行為について 上記3の認定事実によれば、被告Aは、Bに対し、一定の情報の提供を依頼しているが、具体的なデータの内容や受領状況は明らかではなく、当該データが原告製品情報であることを認めるに足りる証拠もない。また、被告Aは、Bから原告製品の原価の記載のある明細書や原告の見積書の送信を受けているが(11月15日、同月22日)、前後のやりとりを踏まえると、同人が被告A から具体的に求められることなく送信したものにすぎない。加えて、上記1で検討したところ、原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報は不競法の「営業秘密」に当たらない。このような事情に照らせば、被告Aが、原告の営業に関する情報を取得したとしても、当該情報は要保護性を欠き、その他当該情報を保護すべき法益もなく、取得方法が社会的相当性を欠くともいえないから、 不法行為は成立しない。 また、本件証拠上、被告Aや被告会社が、原告の営業に関する情報を使用又は開示したと認めるに足りる き法益もなく、取得方法が社会的相当性を欠くともいえないから、 不法行為は成立しない。 また、本件証拠上、被告Aや被告会社が、原告の営業に関する情報を使用又は開示したと認めるに足りる証拠はない。 以上から、被告らには、情報の取得等について不法行為は成立しない。 (3) 原告の取引の妨害行為について 原告は、原告が受注していたパパマハロからの工事を被告会社が受注し、以後、同社との取引が減少しなくなったから、取引を妨害された旨主張する。 証拠(甲3、9、乙6、7、証人F、被告A)によれば、①被告Aが、原告の取締役退任のあいさつの際、在任中に関係のあった原告の取引先であるパパマハロの会長であるFから会社の立上げの有無を聞かれて立上げる旨を回答 したこと、②被告会社の設立後、遅くとも令和5年2月2日までに、パパマハロから工事を受注したこと、③Fが原告との取引において受注額に不満を抱く一方、被告Aに対する信頼を寄せていたこと、が認められる。 そして、本件証拠上、当該工事について原告が同社から正式に受注を受けていた事実を認めるに足りる証拠はない。 以上によれば、被告会社とパパマハロとの取引は、自由競争の範囲内でのパ パマハロの選択の結果にすぎず、被告らに原告の取引又は営業の妨害があったと認めることはできない。 (4) 原告各表示の使用行為について上記2のとおり、原告各表示は不競法2条1項1号及び2号の「商品等表示」に当たらないから、仮に、被告が原告各表示と同一又は類似する表示を使用し たとしても、当該使用について不法行為は成立しない。 (5) 以上から、被告らの一般不法行為は成立しない。 5 争点2-3(被告Aの債務不履行があったか)について上記4のとおり、被告 し たとしても、当該使用について不法行為は成立しない。 以上から、被告らの一般不法行為は成立しない。 争点2-3(被告Aの債務不履行があったか)について上記4のとおり、被告Aによる勧誘・引抜はないから本件誓約上の勧誘避止義務違反はない。また、本件誓約は取締役在任中に取得した情報を、本件業務委託契約及び本件顧問契約は各契約に基づく業務等の履行中に知り得た保護に値する情報を対象とするところ、原告の指摘する秘密取得行為のうち証拠上認められる部分についても、かかる情報ではないから、秘密保持義務違反が認められる余地はない。よって、被告Aに債務不履行はない。 結論 以上のとおり、原告の請求はその余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 島田美喜子 裁判官 西尾太一
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