平成14(ワ)19234 不法利得返還請求

裁判年月日・裁判所
平成17年4月11日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-5495.txt

判決文本文33,957 文字)

判決 主文 1 被告株式会社A銀行は,原告Bに対し,金1502万2840円及びこれに対する平成14年9月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 原告Bの被告株式会社A銀行に対するその余の請求を棄却する。 3 原告Bの被告株式会社C銀行に対する請求を棄却する。 4 原告Dの請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用中,原告Bに生じた分については,これを2分し,その1を原告Bの,その余を被告株式会社A銀行の,被告株式会社A銀行に生じた分については被告株式会社A銀行の,被告株式会社C銀行に生じた分については原告Bの各負担とし,原告Dに生じた分及び被告株式会社E銀行に生じた分については,いずれも原告Dの負担とする。 6 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告株式会社A銀行は,原告Bに対し,金1502万2840円及びこれに対する平成14年8月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告株式会社C銀行は,原告Bに対し,金2200万0840円及びこれに対する平成14年8月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 3 被告株式会社E銀行は,原告Dに対し,金700万円及びこれに対する平成14年9月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告らが被告らに対して預金の返還を求めたのに対し,被告らが当該預金は,原告らの預金通帳を提示した者に対して既に有効に払戻しがなされたとして争われた事案である。 1 前提事実(証拠を掲げない事実については,当事者間では争いがない。)(1) 当事者ア原告ら原告Bは,昭和10年4月1日生まれの男性で,住所地に居住し,下記(2)のとおり,被告株式会社A銀行及び被告株式会社C銀行に対して預金債権を有し 当事者間では争いがない。)(1) 当事者ア原告ら原告Bは,昭和10年4月1日生まれの男性で,住所地に居住し,下記(2)のとおり,被告株式会社A銀行及び被告株式会社C銀行に対して預金債権を有していた者である。 原告Dは,昭和48年10月18日生まれの女性で,住所地に居住し,下記(2)のとおり,被告株式会社E銀行に対して預金債権を有していた者である。 イ被告ら被告株式会社A銀行は,住所地に本店を有するほか,各地に支店を設置して銀行業務を営む信託銀行である。 株式会社F銀行は,東京都千代田区大手町1丁目1番2号に本店を有し,各地に支店を設置して銀行業務を営んでいたが,平成15年3月3日,被告株式会社C銀行を分割し,同月4日,株式会社G銀行と吸収合併し,株式会社G銀行が存続会社となり,商号を被告株式会社E銀行に変更した(以下,被告株式会社C銀行及び被告株式会社E銀行を「被告旧F銀行」などという。)。 (2) 原告らの被告らに対する預金ア原告B原告Bは,従前より,被告株式会社A銀行大宮支店及び被告旧F銀行日進支店において取引口座を有し,平成14年5月31日の取引開始時点において,少なくとも以下の各預金を有していた。 (ア) 被告株式会社A銀行大宮支店(以下「原告B大宮支店口座」という。)【お取引番号××】大口定期預金金1500万円(ただし,元本額)(満期日平成15年7月25日)(イ) 被告旧F銀行日進支店(以下「原告B日進支店口座」という。)【口座番号××】スーパー定期金400万円(ただし,元本額)(満期日平成14年7月7日)満期F定期金529万9814円(ただし,元本額)(満期日平成19年1月22日)【口座番号××】満期F定期金800万円(ただし,元本額)(満期日平成19年5月13 4年7月7日)満期F定期金529万9814円(ただし,元本額)(満期日平成19年1月22日)【口座番号××】満期F定期金800万円(ただし,元本額)(満期日平成19年5月13日)満期F定期金700万円(ただし,元本額)(満期日平成19年5月13日)イ原告D(ア) 原告Dは,平成11年9月27日,旧F銀行高円寺支店において,普通預金口座を開設し(口座番号××。以下「原告D口座」という。),平成14年3月5日の払戻請求時点において,同口座の預金残高は金746万7535円であった。 (3) 原告らの盗難被害及び預金の払戻しア(ア) 原告Bは,平成14年5月31日以前,何者かによって自宅にて保管していた原告B大宮支店口座及び原告B日進支店口座を含む預金通帳を何者かによって盗難された。ただし,原告Bの銀行届出印は盗難被害に遭わず,引き続き同原告が所持していた。ところが,以下のとおり,被告株式会社A銀行及び被告旧F銀行の支店において,偽造印影を用いた払戻請求により,預金から金員を引き出された。 (イ) 被告株式会社A銀行大宮支店被告株式会社A銀行大宮支店は,平成14年5月31日午後12時06分ころ,原告B大宮支店口座の定期預金を解約の上,利息を含めた金1502万2315円を払い戻した(なお,銀行振出小切手の発行手数料として525円が被告株式会社A銀行に支払われた。)。 (ウ) 被告旧F銀行日進支店被告旧F銀行日進支店は,平成14年6月5日午後1時53ないし58分ころ,原告B日進支店口座の定期預金を解約し(合計2445万7356円),うち金245万6516円を口座番号××の定期預金として再入金した上,金2200万を第三者の口座に振込送金する方法により払い戻した(なお,振込手数料として840円が被告 合計2445万7356円),うち金245万6516円を口座番号××の定期預金として再入金した上,金2200万を第三者の口座に振込送金する方法により払い戻した(なお,振込手数料として840円が被告旧F銀行に支払われた。)。 イ(ア) 原告Dは,平成14年3月5日以前に何者かによって自宅にて保管していた原告D口座の預金通帳を何者かによって盗難された。ただし,原告Bの銀行届出印は盗難被害に遭わず,引き続き同原告が所持していた。ところが,以下のとおり,被告旧F銀行の各支店において,偽造印影を用いた払戻請求により,無権限者である何者かによって,本件D口座から預金を引き出された。 (イ) 被告旧F銀行高円寺支店被告旧F銀行高円寺支店は,平成14年3月5日午前10時56分ころ,金500万円を払い戻した。 (ウ) 被告旧F銀行市ヶ谷支店被告旧F銀行市ヶ谷支店は,平成14年3月11日午後2時32分ころ,金200万円を払い戻した。 (4) 本件口座の預金取引に適用される約款の規定(免責条項)被告らの約款には,「払戻請求書,諸届その他書類に使用された印影を届出の印鑑と相当の注意をもって照合し,相違ないものと認めて取扱いましたうえは,それらの書類につき偽造,変造その他の事故があってもそのために生じた損害については当社は責任を負いません。」との定めがある。 (5) ピッキング窃盗及び偽造印鑑による過誤払いの状況等ア平成10年12月ころから,会社等の事務所に侵入して預金通帳や印鑑等を窃取した上,翌朝銀行の窓口において多額の預金を引き出す事案が多発していたため,警視庁は,平成11年9月6日,被告旧F銀行を含む都市銀行9行に対し,「盗難通帳等使用による預金引出し事案の防止について(依頼)」と題する注意喚起の書面を交付した(甲6の1ないし9)。 さらに,警視 警視庁は,平成11年9月6日,被告旧F銀行を含む都市銀行9行に対し,「盗難通帳等使用による預金引出し事案の防止について(依頼)」と題する注意喚起の書面を交付した(甲6の1ないし9)。 さらに,警視庁は,同年11月24日,金融機関防犯連絡会会議において,被告株式会社A銀行が加盟する社団法人信託協会及び被告旧F銀行が加盟する社団法人東京銀行協会の担当者に対し,上記都市銀行9行に交付した注意喚起の書面の控えを参考資料として交付し,口頭で協力を要請した(甲10の1ないし4)。 イピッキングや偽造印鑑ないし偽造印影による不正払戻しについての新聞報道平成12年5月に,新聞紙上において,ピッキング(特殊加工した2本の細い金属棒を鍵穴に差し込んで,鍵を開ける手口)による空き巣や事務所荒らし等の被害が平成11年から激増し,平成12年の被害が平成11年を上回るペースで多発していることが報道された(甲3の1・2)。 また,平成12年5月,7月,9月に,新聞紙上において,盗んだ預金通帳の副印鑑をパソコンのスキャナー等で複製し,銀行窓口で現金を引き出す事件が急増していることが相次いで報道された(甲4の2ないし4)。 ウ全国銀行協会による盗難通帳による払戻しについてのアンケート結果全国銀行協会は,平成15年9月16日,正会員135行を対象としたアンケートを実施した結果について,平成12年度から平成14年度までの盗難通帳による払出し件数及びその金額が次のとおりであることを発表した(甲40)。 平成12年度 987件  20億2100万円平成13年度 775件  16億2700万円平成14年度  1231件  37億3800万円エ副印鑑制度廃止の流れ東京三菱銀行は,電子技術の発達によって届出印の印鑑に酷似した印鑑を偽造することが可能となっている状況を受 6億2700万円平成14年度  1231件  37億3800万円エ副印鑑制度廃止の流れ東京三菱銀行は,電子技術の発達によって届出印の印鑑に酷似した印鑑を偽造することが可能となっている状況を受けて,平成11年10月,印鑑照合システムを導入して副印鑑制度を廃止した。 また,平成12年から平成13年にかけて,複数の地方銀行においても,印鑑照合システムを導入して副印鑑制度を廃止するようになった。 オ暗証番号の確認による本人確認制度についての新聞報道等平成15年8月16日,UFJ銀行が窓口における個人名義の普通預金の支払と解約を対象に希望者について暗証番号による本人確認を平成15年度中にも実施する方針である旨の新聞報道がなされた(甲41)。 同年9月13日には,みずほ銀行,東京三菱銀行,被告株式会社E銀行及び三井住友銀行が,一部の窓口取引について暗証番号による本人確認を実施することを検討している旨の新聞報道がされた(甲42)。 (6) 原告は,平成14年7月31日,被告らに対し,預金の存在を認めるよう申入れをしたが,被告らは,免責条項ないし民法478条による免責を主張してこれに応じない。 2 争点被告らが本件各払戻しに当たって印影を照合するにあたり必要な注意義務を尽くしたかどうか。 3 当事者の主張(1) 被告らの主張ア注意義務の内容我が国においては,預金者本人以外の者による払戻しが日常的になされ,銀行は本店・支店のいずれにおいてもそれに対応し,しかも,限られた時間内に大量の顧客から持ち込まれる各種請求を円滑かつ迅速に処理しなければならない。かかる預金者の利便性と大量の事務を円滑に処理する必要性から,払戻請求書に押捺された印影(以下「請求印影」という。)と銀行届出印の印影ないし副印鑑(以下「届出印影」という。)とを対比し ばならない。かかる預金者の利便性と大量の事務を円滑に処理する必要性から,払戻請求書に押捺された印影(以下「請求印影」という。)と銀行届出印の印影ないし副印鑑(以下「届出印影」という。)とを対比して確認することにより,払戻請求者等の権限を確認することとされている。 したがって,このような,銀行実務を前提とすれば,銀行の印鑑照合を担当する者が請求印影と届出印影の照合を肉眼によって平面照合し,同一の印影であると判断すれば,払戻しの請求をした者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑しめる特段の事情のない限り,折り重ねによる照合や拡大鏡による照合までの必要はなく,本人確認の必要もないというべきである。そして,印鑑照合手続における過失の有無は,同一の印鑑によって顕出された印影であっても,朱肉の材質,付き具合,押捺したときの力の入れ具合,印鑑の摩耗,欠損の程度,印影が顕出される紙の状態,性状,紙が置かれる面の状態等によって微妙な相違が生じることは避けられないから,その事務に習熟した担当者が,迅速性が要求される限られた時間の中で,肉眼をもって請求印影と届出印影又は副印鑑とを慎重に熟視して平面照合し,別異の印鑑による印影であることが発見し得るのに,そのような印影の相違を看過したかどうかによって判断されるべきである。 イ被告株式会社A銀行大宮支店での払戻し次に述べるとおり,原告B大宮支店口座の預金払戻しに関しては,印鑑照合事務についても,その他の事情についても,被告株式会社A銀行には法的責任を肯定するに足る落ち度はなく過失はない。 (ア) 印鑑照合原告Bの被告株式会社A銀行における払戻手続については,後述するとおり,払戻権限がないのではないかと強く疑わせる事情もなく,印鑑照合の方法としては,原則どおり,拡大を要せず,肉眼での平面照合で足りる 原告Bの被告株式会社A銀行における払戻手続については,後述するとおり,払戻権限がないのではないかと強く疑わせる事情もなく,印鑑照合の方法としては,原則どおり,拡大を要せず,肉眼での平面照合で足りる。 本件解約払戻手続において,窓口で払戻しを担当したHが平面照合及び残影照合の方法により印鑑照合を行っており,同じく被告株式会社A銀行のIにおいても,平面照合及び残影照合の方法により印鑑照合を行っており,同一の印影と判断している。 原告は,届出印影と請求印影の相違を主張するが原告Bの主張する点は,いずれも,印影の太さを問題視にするものに過ぎず,朱肉の材質,付き具合,押捺した時の力の入れ具合,印影の摩耗,欠損の程度,印影が顕出される紙の状態,性状,紙が置かれる面の状況等によって生じた相違の範囲内にあるというべきものであり,被告株式会社A銀行の印鑑照合に過失はない。 (イ) その他の事情定期預金の満期前解約は,銀行実務において何ら異例の取引ではなく,取引自体に異常性があるわけではないし,本件預金のような自動継続型の定期預金は,むしろ満期支払となることのほうが稀であるから正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情とはならない。 また,原告は払戻金額が預金残高全額の払戻しである旨,払戻金額が多額である旨主張するが定期預金を中途解約すれば,全額の払戻しになるのは当然であって,また,過失の判断は金額の多寡によって結論を異にするものではなく正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情とはならない。 さらに,家族が払戻手続を行うことも異例なことではないから,払戻請求者が息子と称したことは,正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情とはならない。 したがって,被告株式会社A銀行大宮支店での払戻しにおいては,払戻権限を疑わせる特段の事 いから,払戻請求者が息子と称したことは,正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情とはならない。 したがって,被告株式会社A銀行大宮支店での払戻しにおいては,払戻権限を疑わせる特段の事情は認められない。 ウ被告旧F銀行日進支店での払戻し次に述べるとおり,原告B日進支店口座の預金払戻しに関しては,印鑑照合事務についても,その他の事情についても,被告旧F銀行には法的責任を肯定するに足る落ち度はなく過失はない。 (ア) 印鑑照合原告Bの被告旧F銀行日進支店における払戻手続については,後述のとおり,払戻権限がないのではないかと強く疑わせる事情もなく,印鑑照合の方法としては,原則どおり,拡大を要せず,肉眼での平面照合で足りる。 そこで,請求印影と届出印影を左右に並べ肉眼で両者を一字ずつ比較すると,その大きさ及び形状が同一である上,字体,配字関係も同一であり,両者の相違点は,僅かなものばかりであり,印鑑の使い込み方による摩耗等の印鑑の変化,朱肉の種類及び状態,朱肉の付き具合,押捺の仕方,押捺の角度,押捺するときの力の入れ具合及びその強弱,押捺時のズレ,付着したほこり,異物の混入,汚れ,紙質の違い,紙の状態,にじみ等によって,同一印鑑によっても生ずることのあり得る相違と見る余地がある範囲に留まっている。 したがって,印鑑照合事務に関して,被告旧F銀行に法的責任を問うに足る落ち度はない。 (イ) その他の事情原告B日進支店口座の払戻しにおいては,払戻権限に強い疑念を抱かせるような特段の事情はなく,この点でも,被告旧F銀行に法的責任を問うに足る落ち度はない。 また,被告旧F銀行日進支店における払戻しの際,同支店のJは自動車運転免許証で本人確認を行っているところ,自動車運転免許証は写真付き身分証明書の典型であり,広く一般に受け入れられ 足る落ち度はない。 また,被告旧F銀行日進支店における払戻しの際,同支店のJは自動車運転免許証で本人確認を行っているところ,自動車運転免許証は写真付き身分証明書の典型であり,広く一般に受け入れられている本人確認の有力な方法である。本件では,顔写真,氏名,住所,生年月日とも合致しており,偽造とは容易には判別できない。加えて,免許証による確認だけではなく,行員が,手続を行った人物と面談して会話も行っており,その間の会話の内容やその態度に不自然な点はなかった。 したがって,いずれにしても被告旧F銀行に法的責任を問うに足る落ち度はない。 オ被告旧F銀行高円寺支店での払戻し次に述べるとおり,原告D口座の預金払戻しに関しては,印鑑照合事務についても,その他の事情についても,被告旧F銀行に法的責任を肯定するに足る落ち度はなく過失はない。 (ア) 印鑑照合請求印影と請求印影は,極めて酷似している。従って,印鑑照合事務に関し,被告旧F銀行に落ち度がないことは明白である。 (イ) その他事情被告旧F銀行高円寺支店での払戻しにおいては,払戻権限に強い疑念を抱かせるような特段の事情もなく,この点でも,被告旧F銀行に法的責任を認めるに足る落ち度はない。 なお,この点に関し,原告らは,氏名の記載について,「場」の「日」の下の横線がないとか,「美」の下部分が「大」でなく「人」となっていると指摘する。しかし,これ自体僅かな違いであり,また,別の文字が記載されている訳ではなく,丁寧に書かないと誤記しがちな部分とも考えられる。 したがって,印鑑照合事務に関して,被告旧F銀行に法的責任を問うに足る落ち度はない。 カ被告旧F銀行市ヶ谷支店での払戻し次に述べるとおり,原告D口座の預金払戻しに関しては,印鑑照合事務についても,その他の事情についても,被告旧F銀行に法的責 に法的責任を問うに足る落ち度はない。 カ被告旧F銀行市ヶ谷支店での払戻し次に述べるとおり,原告D口座の預金払戻しに関しては,印鑑照合事務についても,その他の事情についても,被告旧F銀行に法的責任を肯定するに足る落ち度はなく過失はない。 (ア) 印鑑照合請求印影と届出印影は,拡大して重ね合わせてもほぼ合致しており,原告らも具体的相違点を指摘できず,両者は極めて酷似しており,印鑑照合事務に落ち度のないことは明らかである。 (イ) その他の事情被告旧F銀行市ヶ谷支店での払戻しにおいては払戻権限に強い疑念を抱かせるような特段の事情もなく,この点でも,被告旧F銀行に法的責任を問うに足る落ち度はない。 また,被告旧F銀行市ヶ谷支店における払戻しの際,同支店のKは自動車運転免許証で本人確認を行っているところ,自動車運転免許証は写真付き身分証明書の典型であり,広く一般に受け入れられている本人確認の有力な方法である。本件では,顔写真,氏名,住所,生年月日とも合致しており,偽造とは容易には判別できない。加えて,免許証による確認だけではなく,行員が,手続を行った人物と面談して会話も行っており,その間の会話の内容やその態度に不自然な点はなかった。 (2) 原告の主張ア注意義務の内容被告らの主張は争う。 (ア) 従前の基準の不合理性①  最高裁昭和46年6月10日第一小法廷判決・民集25巻4号492頁は,手形・小切手の支払に際して印鑑照合を行う場合の銀行の注意義務に関し,特段の事情のない限り平面照合の方法で足りるとしているが,その一方で,照合事務担当者に対し,社会通念上一般に期待されている相当の注意をもって慎重に事を行うことを要求し,銀行実務の実情が必ずしも是認されるわけではないとしている。したがって,従前の取扱いあるいは慣行に従っていれば責任を し,社会通念上一般に期待されている相当の注意をもって慎重に事を行うことを要求し,銀行実務の実情が必ずしも是認されるわけではないとしている。したがって,従前の取扱いあるいは慣行に従っていれば責任を免除されるというものではなく,銀行の過失の有無を判断するには,社会通念上一般に期待されている業務上相当の注意をもって印鑑照合に当たったといい得るか否かが検討されなければならない。 ② そして,①平成10年ころからピッキングによる侵入窃盗事件が激増したこと,スキャナー等の高性能化により印影の偽造が極めて容易になったことから,預金の過誤払いの被害が多発していたこと,②平成11年9月6日,警視庁は,被告旧F銀行及び被告旧F銀行を含む各都市銀行に対して過誤払い被害の多発とこれを防止する策を講ずるよう要請する文書を交付し,また,同年11月24日,金融機関防犯連絡会会議の席上において,被告株式会社A銀行が加盟する社団法人信託協会及び被告旧F銀行及び被告旧F銀行が加盟する社団法人東京銀行協会の担当者に対して同様の要請を行ったのであるから,被告らは当然盗難通帳による払戻しの事実を認識しており,本件払戻しがなされた平成14年3月ないし6月までの間に,上記要請に基づく具体的な対策を講ずることは十分可能であったこと,③ATMによる払戻しにおいては,払戻額の上限が設けられ,暗証番号の確認の手続が採られており,ATMでの払戻手続よりも,高額の取引が行われる窓口での払戻手続の方が,預金の安全性確保の面で劣るのは不合理であること,④郵便貯金の払戻しの場合には郵便貯金法26条が適用され,払戻請求者の受領権限の正当性を確認することが必要とされ,一定の場合には払戻請求者に対して証明資料の提示を求めることが類型的に定められているため,印影の同一性を確認しただけで正当な払渡しにな され,払戻請求者の受領権限の正当性を確認することが必要とされ,一定の場合には払戻請求者に対して証明資料の提示を求めることが類型的に定められているため,印影の同一性を確認しただけで正当な払渡しになるわけではないのであるが銀行と郵便局で差を設ける合理的理由はないことなどの社会的事実を考慮すると預金払戻しの際の権限確認に関して,「特段の事情のない限り,印影の平面照合で足りる」とする従来の基準は,明らかに社会的相当性を欠くものとなっている。 (イ) 銀行の注意義務の内容そこで,預金払戻しの際の受領権限確認に当たっては,郵便貯金法26条を類推適用し若しくは権限確認の注意義務を厳格に解することにより,無権限者による払戻請求である可能性の高さ及び被害の重大性という側面に着目し,過誤払いの危険性が高い類型的取引の場合すなわち定期預金,定期積立の解約及びこれらを担保とした貸付けの場合,一定金額(50万円)以上の高額払戻しの場合,払戻請求額が預金残高のほぼ全額又は過去の払戻履歴から見て突出した金額である場合等の特異な取引の場合には,印鑑照合以外に筆跡照合,払戻請求者にキャッシュカードの暗証番号を確認する,預金者が法人等の団体の場合には電話による確認を行う,個人の場合には写真付き身分証明書の提示を求め,かつ透かしによる偽造チェックを行う,払戻請求者が本人か代理人であるかを尋ね,本人であれば,住所,生年月日,電話番号などの個人情報を尋ね,代理人であればこれに加え具体的な本人との関係や身分を確認するための個人情報を尋ねるなどの方法により,払戻請求者が正当な受領権限を有するかどうかを確認すべきである。 また,これらに該当しなくとも,何らかの契機により,銀行の窓口で預金の払戻請求をしている者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在した場合に を有するかどうかを確認すべきである。 また,これらに該当しなくとも,何らかの契機により,銀行の窓口で預金の払戻請求をしている者が正当な受領権限を有しないのではないかと疑わしめる事情が存在した場合には,同様の確認を行う注意義務がある。 さらに,印鑑照合に当たっては,盗難通帳及び偽造印影による不正払戻請求の可能性を考慮し書く文字について慎重な照合を行うべき注意義務があり,朱肉の色がロビー備付けの朱肉の色と異なっていないか,印鑑を押捺した凹凸があるか(印影が印刷されたものではないか),印影の文字が太く,スタンプのように見えないか,といった点に注意する義務を負うというべきである。 イ被告株式会社A銀行の注意義務違反(ア) 印鑑照合上の義務違反被告株式会社A銀行大宮支店における原告B大宮支店口座の払戻請求書(乙2)上の印影と,同口座の印鑑届(乙3)上の印影を肉眼により比較すると,両者の間には以下のとおり多くの相違点が認められ,同一性は認められない。 ① 届出印影では,「田」の右上角と枠線との間に明らかに空間があるのに,請求印影では接着している。 ② 届出印影では,「田」の左上角が先鋭で頂点部分が軽く枠線と接しているだけであるのに対し,請求印影では同部分が太く,枠線との接着面が広い。 ③ 「沼」の「さんずい」の各点の形が異なる。特に,一番下の点(はね)が極端に太い。 ④ 届出印影では,「沼」の「口」部分と枠線との間に明らかに空間があるのに,請求印影では接着している。 (イ) 権限確認を尽くすべき義務の違反仮に,被告株式会社A銀行に上記印鑑照合上の過失が認められないとしても,以下に述べるとおり,被告株式会社A銀行には,払戻請求者の受領権限の確認を尽くすべき義務に違反した過失がある。 ① 被告株式会社A銀行大宮支店における原告B大宮支店口座の払戻 が認められないとしても,以下に述べるとおり,被告株式会社A銀行には,払戻請求者の受領権限の確認を尽くすべき義務に違反した過失がある。 ① 被告株式会社A銀行大宮支店における原告B大宮支店口座の払戻しは,定期預金の中途解約であり,払戻請求額も1500万円と高額である上,預金残高全額の払戻しであり,しかも何ら事前連絡がなかった。 ② また,被告株式会社A銀行大宮支店の払戻請求者は,原告Bの息子を自称しているところ,定期預金の満期前解約のような重要な取引が代理人ないし使者によって行われること自体,不自然である。 ③ このような払戻請求の態様は,払戻請求者の受領権限を強く疑わしめる事情といえ,本件払戻しは,極めて厳格な権限確認が要求される事案であるといえる。したがって,被告株式会社A銀行には,払戻請求者に身分証明書の提示を求めるなどしてその身分を確認することはもちろん,代理人による払戻しを行う理由を詳しく聴取する,委任状の提出を求める,電話等で本人の意思を確認する,などの方法により払戻請求者が正当な受領権限を有することを確認すべき義務があった。 ④ それにもかかわらず,被告株式会社A銀行は,払戻請求者の氏名すら確認しておらず,その受領権限の有無について何の確認も行っていないのであるから,その過失は明らかである。 ウ被告旧F銀行の注意義務違反(日進支店)(ア) 印鑑照合上の義務違反被告旧F銀行日進支店における原告B日進支店口座の払戻請求書(丙15及び16)上の印影と,同口座の印鑑届(丙2)上の印影を肉眼により比較すると,両者の間には以下のとおり多くの相違点が認められ,同一性は認められない。 ① 届出印影では,「田」の右上角と枠線との間に明らかに空間があるのに,請求印影(丙15及び丙16)接着している。 ② 届出印影では,「田」の左上角が先 くの相違点が認められ,同一性は認められない。 ① 届出印影では,「田」の右上角と枠線との間に明らかに空間があるのに,請求印影(丙15及び丙16)接着している。 ② 届出印影では,「田」の左上角が先鋭で頂点部分が軽く枠線と接しているだけであるのに対し,請求印影(丙15及び丙16)では同部分が太く,枠線との接着面が広い。 ③ 届出印影と比較して,請求印影(丙15)では,「沼」の右下の「口」の部分が不自然に太く,中央の空間がつぶれかかっている。 ④ 届出印影では,「沼」の「口」部分と枠線との間に明らかに空間があるのに,請求印影(丙15及び丙16)では接着している。 ⑤ 届出印影と比較して,請求印影(丙15及び丙16)では枠線が明らかに太い。この枠線の太さの違いは,届出印影と請求印影の文字部分の太さの違いと比較して明らかに顕著であり,朱肉の付き方の相違というだけでは説明できない。 ⑥ 届出印影と請求印影(丙16)を比べると「沼」の「さんずい」の各点の形が異なる。 ⑦ 「沼」の「刀」部分左下のはらいの部分の先端が,届出印影では太く,「さんずい」と接着しているのに対し,請求印影(丙16)では先鋭で「さんずい」と軽く接着しているだけである。 (イ) 権限確認を尽くすべき義務の違反仮に,被告旧F銀行に上記印鑑照合上の過失が認められないとしても,以下に述べるとおり,被告旧F銀行には,払戻請求者の受領権限の確認を尽くすべき義務に違反した過失がある。 ① 被告旧F銀行日進支店における原告B日進支店口座の払戻しは,定期預金の中途解約であり,しかも,口座番号××定期預金は,本件払戻し(平成14年6月5日)のわずか3週間前である平成14年5月13日に更新手続を行ったばかりであった。そして,実質上の払戻請求額(振込依頼額)も合計2200万円と極めて高額であり,預 金は,本件払戻し(平成14年6月5日)のわずか3週間前である平成14年5月13日に更新手続を行ったばかりであった。そして,実質上の払戻請求額(振込依頼額)も合計2200万円と極めて高額であり,預金残高(24,299,814円)の9割に及んでいる。 ② 生年月日の誤記本件払戻請求者は,被告旧F銀行日進支店に対する払戻請求書2通とも,生年月日を「昭和23年5月31日」と誤記した後,「昭和10年4月1日」に訂正している(丙15,16)。これは,2通の払戻請求書で,年,月,日のすべてを,同じように間違えているのであるから,単なる書き損じではなく,誤って別の生年月日を書いてしまったものであることが明らかである。本件払戻請求者は原告B本人を称していたものであるが,本人が自らの生年月日を完全に誤記することは通常考えられないのであって,かかる誤記は払戻請求者の本人性に極めて強い疑いを抱かせる事情といえる。 ③ 氏名の記入が不自然であること本件払戻請求者は,解約した定期預金の残高と振込依頼額との差額を普通預金に入金することとし,窓口で入金票に口座番号と氏名を記入しているところ,氏名の記入に不自然に時間がかかっている上,各払戻請求書,入金票及び振込依頼書における氏名の字形は一定していない。さらに,丙15号証における「睦」の文字は,右下部分に不要な縦棒があり,誤字となっている。 ④ 住所の誤記丙15号証の払戻請求書においては,住所が「大宮市」と誤記されており,その上に小さく「さいたまし」と書き加えられている。 本件払戻しがなされた平成14年6月5日の時点で,大宮市が合併によりさいたま市となった平成13年5月1日から1年以上を経過しており,住所を書き慣れている本人であれば,「大宮市」という誤記をするのは不自然である。 ⑤ したがって,被告旧F銀行は, ,大宮市が合併によりさいたま市となった平成13年5月1日から1年以上を経過しており,住所を書き慣れている本人であれば,「大宮市」という誤記をするのは不自然である。 ⑤ したがって,被告旧F銀行は,現状において最も容易かつ確実な本人確認手段である暗証番号の確認,口座開設時の情報との照合である筆跡照合,あるいは原告Bと面識のある行員による確認,のいずれかの方法により本人確認をすべきであった。 それにもかかわらず,被告旧F銀行はこれらの方法をいずれも行っていないのであるから,その過失は明らかである。 ⑥ なお,被告旧F銀行は,本件払戻請求者の運転免許証を確認したとするが,偽造免許証については,偽造印影と同様にその被害が多発しており,かかる状況の下では,運転免許証による本人確認の意義は薄くなっている。被告旧F銀行自身,偽造運転免許証による被害に度々遭遇し,その危険性を認識し得たのであるから,単に運転免許証の写真と払戻請求者の同一性を確認するのみでは過失責任は免れないというべきである。 エ被告株式会社E銀行の注意義務違反(高円寺支店)(ア) 被告旧F銀行高円寺支店における原告D口座の本件払戻しは,払戻請求額が500万円と高額である。 また,被告旧F銀行高円寺支店での払戻しについては,払戻請求書に氏名に誤字がある。すなわち,丙12号証の払戻請求書の氏名の記載では,「D」という氏名のうち,「場」には右側の「日」の部分の下の横線がない。また,「美」の下部分は本来「大」であるが,横棒のない「人」の形となっている。 さらに,本件口座は,平成12年1月に一度なされた以外に窓口による払戻実績がない。 (イ) したがって,被告旧F銀行は,現状において最も容易かつ確実な本人確認手段である暗証番号の確認,口座開設時の情報との照合である筆跡照合,あるいは原告 なされた以外に窓口による払戻実績がない。 (イ) したがって,被告旧F銀行は,現状において最も容易かつ確実な本人確認手段である暗証番号の確認,口座開設時の情報との照合である筆跡照合,あるいは原告Dと面識のある行員による確認のいずれかの方法により本人確認をすべきであった。 それにもかかわらず,被告旧F銀行はこれらの方法をいずれも行っていないのであるから,その過失は明らかである。 オ被告旧F銀行の注意義務違反(市ヶ谷支店)(ア) 被告旧F銀行市ヶ谷支店における原告D口座の払戻しも,払戻請求額が200万円と高額である。しかも,過去には取扱店(高円寺支店)以外の支店での現金払戻しの実績が見受けられなかった。 また,丙13の払戻請求書においては,「おなまえ」欄記載の「場」の右上の「日」の部分の中央の横棒が左右に突き抜けている。このような字体が使用されるのは稀であり,誤字であるとも疑われる。 さらに,丙13号証の払戻請求書の住所の記載においてマンション名の「ベラドンナ」が「ベルバウム」と誤記されている。 (イ) 以上の諸事情に照らせば,被告旧F銀行市ヶ谷支店における本件払戻しにおいても,被告旧F銀行には,マンション名の誤記の理由の調査を含め徹底した本人確認をなすべき義務があるというべきである。そして特に,払戻請求書(丙13)の「場」の字をはじめとする氏名の字体は極めて特徴的であり,誤字の疑いもあったのであって,印鑑届記載の筆跡と照合すれば本人確認の重要な資料となりうることが予想されるのであるから,かかる筆跡照合を行うことが不可欠であったというべきである。 しかるに,被告旧F銀行市ヶ谷支店の本件払戻担当者は,上記マンション名の誤記を看過し,また筆跡照合も行うことなく払戻しに応じているのであって,その過失は明らかである。 第3 当裁判所の判断 る。 しかるに,被告旧F銀行市ヶ谷支店の本件払戻担当者は,上記マンション名の誤記を看過し,また筆跡照合も行うことなく払戻しに応じているのであって,その過失は明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 預金払戻しに当たって銀行が尽くすべき注意義務銀行の印鑑照合を担当する者が,払戻請求書の印影と届出印とを照合するにあたっては,特段の事情のない限り,折り重ねによる照合や拡大鏡等による照合をするまでの必要はなく,肉眼による平面照合の方法をもってすれば足りると解される。この場合,担当者は,銀行の印影照合担当者として,社会通念上一般に期待されている業務上相当の注意をもって慎重に照合を行うことが要求され,上記事務に習熟している銀行員が上記のような注意を払って熟視するなら,肉眼で発見しうるような印影の相違が発見しうるのに,そのような印影の相違を看過した場合には,銀行には過失があるというべきである。 さらに,印影照合においてそれが同一と判断される場合であっても,払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情がある場合は,金融機関の払戻担当者がその状況に応じて社会通念上期待される確認措置を取るべきであり,これを怠った場合には,なお過失があるといわなければならない。 2 被告株式会社A銀行大宮支店の払戻しについて(1) 被告株式会社A銀行大宮支店での払戻しの経緯証拠(証人H,乙2,3,4,6)及び弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実が認められる。 ア平成14年5月31日午前11時半ころ,30代半ばとみられる男性(以下「大宮支店払戻請求者」という。)が被告株式会社A銀行大宮支店の窓口を訪れた。大宮支店払戻請求者は,同支店の窓口担当者であるHに対し,原告B名義の定期預金通帳を示し定期預金を解約し,1500万円を現金で用意するように依頼した。 イ Hは, 会社A銀行大宮支店の窓口を訪れた。大宮支店払戻請求者は,同支店の窓口担当者であるHに対し,原告B名義の定期預金通帳を示し定期預金を解約し,1500万円を現金で用意するように依頼した。 イ Hは,平成14年4月に同支店に入社し,同支店の営業課に配属された後,2週間程度の研修を受け,同年4月の下旬ころから同支店の窓口業務を行っていた。 Hは,預金通帳の氏名及び「お客様番号」を確認し,その「お客様番号」を基にディスプレイに原告Bの登録内容を表示させた。そこには,登録者の氏名,住所及び生年月日並びに取引がある家族の名前,生年月日及び取引商品,被告株式会社A銀行大宮支店の担当者名などが表示される仕組みになっていた。 Hは,ディスプレイに表示された原告Bの生年月日を確認し,大宮支店払戻請求者が原告Bの実年齢よりも若く見えたため,大宮支店払戻請求者に対し原告Bとの関係を尋ねた。大宮支店払戻請求者は,原告Bの息子である旨答えた。 Hは,ディスプレイに原告Bの家族として原告Bの息子と思われる30代半ばの年齢の人物が表示され,大宮支店払戻請求者が原告Bの息子であることの確認ができたと考えたことから,大宮支店払戻請求者に氏名や生年月日等それ以上の確認をしなかった。なお,Hは,大宮支店払戻請求者に対し,原告Bが来店しない理由について確認しなかった。 ウ Hは,定期預金の満期が未到来であったので,大宮支店払戻請求者に対し,解約で良いかどうか尋ねたところ,大宮支店払戻請求者は,「はい。どうしても現金が必要で。」と答えた。また,Hは,現金での解約や払戻しが続くと支店内の現金が不足し営業に支障を来すことがあるため事前に連絡のない払戻しの場合は上司に現金による払戻しに応じて良いか確認することになっていたことから,大宮支店払戻請求者に対し,事前連絡をしたかどうかを の現金が不足し営業に支障を来すことがあるため事前に連絡のない払戻しの場合は上司に現金による払戻しに応じて良いか確認することになっていたことから,大宮支店払戻請求者に対し,事前連絡をしたかどうかを確認したところ,事前の連絡をしていないとのことであった。Hは,上司であるLに指示を仰いだ。Lは,Hに対し,解約払戻しをする場合には本人口座への振込か線引小切手での払戻しで対応するようにとの指示をした。 Hは,大宮支店払戻請求者に対し,本人口座への振込みか,線引小切手での払戻しによることを依頼した。これに対し,大宮支店払戻請求者は,「じゃあ,小切手でお願いします。」と答えた。 エ Hは,自由金利型定期預金払戻請求書(以下「本件払戻請求書」という。)を渡し,大宮支店払戻請求者に対し,必要事項の記入を依頼した。大宮支店払戻請求者は,本件払戻請求書の契約番号欄に「2」,日付欄に「14 5 31」,お名前欄に「B」,金額欄に「¥15000000」,お手続内容欄の解約の箇所に「レ」と記入した。 また,Hが,大宮支店払戻請求者に対し,届出住所の記入を求めると,大宮支店払戻請求者は,メモなどを見ることなく,本件払戻請求書の届出欄に「さいたま市○○町○○」と記入した。さらに,Hは,大宮支店払戻請求者に対し,解約理由の記入を依頼した。大宮支店払戻請求者は,土地の購入である旨答え,本件払戻請求書の理由欄に「土地」と記入した。 オ Hは,大宮支店払戻請求者に対し,銀行振出小切手申込書を渡し,太枠内の記入を依頼した。大宮支店払戻請求者は,銀行振出小切手申込書のお名前欄,金額欄,小切手金額欄,枚数及び線引欄にそれぞれ必要事項を記入した。 Hは,大宮支店払戻請求者から,本件払戻請求書,銀行振出小切手申込書及び印鑑を受け取った。 Hは,本件払戻請求書のお届印欄に受け取った印 欄,小切手金額欄,枚数及び線引欄にそれぞれ必要事項を記入した。 Hは,大宮支店払戻請求者から,本件払戻請求書,銀行振出小切手申込書及び印鑑を受け取った。 Hは,本件払戻請求書のお届印欄に受け取った印鑑を押捺したが,印影が不鮮明であったため,その不鮮明な印影を抹消する趣旨でずらして重ねて押捺し,再び,本件払戻請求書のお届印欄に押捺し大宮支店払戻請求者に対し,印鑑を返却した。 カ Hは,通帳の副印鑑の印影と本件払戻請求書の印影を照合しようとしたが,通帳の副印鑑の印影がにじんでいたため,印鑑届と照合することとした。Hは,印鑑届を取り出し,本件払戻請求書の印影と印鑑届の印影を平面照合(双方の印影を横に並べて見比べて確認する方法)と,残影照合(印鑑票の印影の上に払戻請求書の印影を重ね合わせ,素早くめくったり重ねたりを繰り返す方法)の方法により確認した。Hは,本件払戻請求書の印影が印鑑届のそれと比べて全体的に太いことに気が付いたが,朱肉の付き方の違いであると考え,同一であると判断した。 キ Hは,本件払戻請求書に記入された住所とディスプレイに表示された原告Bの届出住所とが一致することを確認し,店内事務のための受付票を作成し,後方担当者であるIに対し,預金通帳,本件払戻請求書,銀行振出小切手申込書及び印鑑届とともに回付した。Iは,本件払戻請求書の印影と印鑑届の印影を平面照合及び残影照合の方法で照合し,それらの印影が一致することを確認し,線引小切手の作成手続を始めた。 ク大宮支店払戻請求者は,窓口に来て,Hに対し,「今,不動産業者と電話で話をして,本日中に決済用の資金が500万円どうしても必要だ」と言い,500万円を現金で用意することを依頼した。これに対し,Hは,L及び出納役に確認し了承を得たことから,大宮支店払戻請求者に対し,銀行振出小切手申込書( 済用の資金が500万円どうしても必要だ」と言い,500万円を現金で用意することを依頼した。これに対し,Hは,L及び出納役に確認し了承を得たことから,大宮支店払戻請求者に対し,銀行振出小切手申込書(乙4)に必要事項の記入を受け,Iに変更を依頼した。Iが必要な手続を終えた後,Hは,大宮支店払戻請求者に対し,預金通帳,小切手金額1002万2315円の小切手及び現金500万円を渡した。 大宮支店払戻請求者は,預金通帳,小切手及び現金を受け取り,本件支店から退店した。 (2) 被告株式会社A銀行大宮支店の過失の有無そこで,被告株式会社A銀行大宮支店が払戻しにあたって注意義務を尽くしたか否かについて検討する。 ア印影の対照(ア) 原告B大宮支店口座の払戻請求書(乙2)上の印影(以下「大宮支店請求印影」という。)と,同口座の印鑑届(乙3)上の印影(以下「大宮支店届出印影」という。)を肉眼により比較すると,円周の大きさ及び形状がほぼ同一であり,文字の配列や各文字の字体も極めて類似している。 (イ) 一方,両者を仔細に比較すると以下のとおりの相違が認められる。 ① 大宮支店請求印影は大宮支店届出印影と比べ全体的に太い。 ② 大宮支店届出印影では,「田」の右上の円周部分との間に空間があるのに,大宮支店請求印影では接着している。 ③ 大宮支店届出印影では「田」の左上角が先鋭で頂点部分が軽く枠線と接しているだけであるのに対し,大宮支店請求印影では同部分が太く,枠線との接着面が広い。 ④ 大宮支店請求印影は大宮支店届出印影と比べて「沼」の「さんずい」の各点の形が異なる。特に,一番下の点(はね)が極端に太い。 ⑤ 大宮支店届出印影では,「沼」の「口」部分と枠線との間に明らかに空間があるのに,大宮支店請求印影では接着している。 (ウ) そこで,大宮支店請求印影と大 る。特に,一番下の点(はね)が極端に太い。 ⑤ 大宮支店届出印影では,「沼」の「口」部分と枠線との間に明らかに空間があるのに,大宮支店請求印影では接着している。 (ウ) そこで,大宮支店請求印影と大宮支店届出印影の違いが朱肉の材質,付き具合,押捺したときの力の入れ具合,印鑑の摩擦,欠損の程度,印影が顕出される紙の状態,性状及び紙が置かれている面の状態などによって生じた相違なのか否かについて証拠に基づきさらに検討する。 大宮支店請求印影と大宮支店届出印影の違いのうち,肉眼で見た場合の違いで最も特徴的な部分は,上記(イ)に認定した違いのうち,大宮支店届出印影では,「田」の右上の円周部分との間に空間があるのに対し,大宮支店請求印影では接着している点であり,上記(イ)で認定したその余の部分については,肉眼で直ちに違いが判明するとは認定しがたい。 そこで,「田」の右上の円周部分との接着という特徴に着目して,真正な印鑑による印影が印鑑の押捺の際の条件で上記のような違いが生じるかどうかについて各証拠を検討すると,① 原告Bの真正な印鑑を用いて顕出したと認められる乙8(信託契約印鑑届)を見ると,4つある「B」の印影のうち一つは「田」の右上が円周部分に接着し,他の3つは,「田」の右上と円周部分との間に空間が存在していることが認められる。 ② 原告Bは,原告Bの真正な銀行登録印を5回にわたり押捺した印影を提出しているが(甲73),いずれも「田」の右上と円周部分との間に空間が存在していることが認められる。 ③ さらに,本件第13回口頭弁論期日において,原告Bが持参した真正な銀行登録印を,被告代理人らの手によって,3種類の朱肉別に,被告らの用意した払戻請求書用紙に各5回押捺した結果(乙10から乙12,丙29から31)によると,印影30個のうち29個に「田」 した真正な銀行登録印を,被告代理人らの手によって,3種類の朱肉別に,被告らの用意した払戻請求書用紙に各5回押捺した結果(乙10から乙12,丙29から31)によると,印影30個のうち29個に「田」の右上と円周部分との間に空間が生じ,1個(丙30の左から2番目)に「田」の右上と円周部分の接着をみたことが認められる。 (エ) そうすると,真正な印鑑によって押捺した場合,大部分は「田」の右上に空間が生ずるが,朱肉の付き具合によってはこれが接着する場合もあり得ると認められる。したがって,「田」の右上と円周部分に接着の有無という違いがあるとはいえ,大宮支店の担当者が,大宮支店請求印影と大宮支店届出印影が同一であると判断したとしても,直ちにこれが誤りであると結論づけることはできない。 (ただし,同一性の判断が微妙な場合には,銀行員としては,さらに押捺を求めるか,身分証明書など払戻権限を証明する書類の提示を求めるなどしてより慎重に判断を行うべきである。)イ特段の事情の有無そこで次に,払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情があるか否かについて検討する。本件では,(ア) 預金者本人ではない者が払戻請求を行っており,窓口担当者のHも払戻請求を行っている者が預金者本人でないことを知っていたこと(イ) 原告B大宮支店口座は流動性が低い定期預金であり,しかも満期前の全額の払戻請求であることといった事情が認められる。たしかに,我が国において,本人ではなく,家族が預金を払い戻すことは稀ではないのであるが,払戻請求者が預金者本人ではないことが明らかとなっている以上,払戻請求者が家族であるのか第三者であるのかは外見だけでは判明しないのであるから,上記各事実は払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情と認められる。 ウ被告株式会社A銀行 っている以上,払戻請求者が家族であるのか第三者であるのかは外見だけでは判明しないのであるから,上記各事実は払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情と認められる。 ウ被告株式会社A銀行の過失の有無そうすると,上記特段の事情が認められる以上,被告株式会社A銀行としては,単に大宮支店払戻請求者が「息子である」と名乗った事実を鵜呑みにせず,同人に預金者本人が来ることができない理由を尋ね,大宮支店払戻請求者の住所,生年月日等を確認し,身分証明書を提示させるなどしてその受領権限についてさらに調査をすべきであったのであり,これを怠って漫然と払戻しを行った被告株式会社A銀行には注意義務違反があるというべきである。 エよって,被告株式会社A銀行は免責約款及び民法478条の準占有者に対する弁済の規定により免責されることはなく,被告株式会社A銀行に対する原告Bの請求には理由がある。 (3) なお,被告株式会社A銀行は,①平成14年7月29日付け(同月31日受領)の原告らの内容証明郵便は支払催告を内容とするものではない,②原告B大宮支店口座の満期は平成15年7月25日であったから,平成14年8月1日には弁済期は経過していない旨主張する。 たしかに,平成14年7月29日付け通知書(甲2の1)には,明確に返済を催告する旨の表現がなく,これをもって支払催告と認めることはできない。しかしながら,原告らは,本件訴状により明確に返済を求める意思を表明しているのであるから,被告株式会社A銀行は本訴状の送達により原告B大宮支店口座に対する解約申入れの意思表示が行われたものと認めることができる。なお,被告株式会社A銀行は,原告B大宮支店口座の満期が平成15年7月25日である旨主張するが,被告株式会社A銀行は,平成14年5月31日付けの払戻請求に対し既に全額の れたものと認めることができる。なお,被告株式会社A銀行は,原告B大宮支店口座の満期が平成15年7月25日である旨主張するが,被告株式会社A銀行は,平成14年5月31日付けの払戻請求に対し既に全額の払戻しに応じているのであるから,上記定期預金の満期が未了であることをもって原告らの支払請求を拒絶するのは信義則に反し許されない。 よって,被告株式会社A銀行は,原告Bに対し,1502万2840円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年9月21日から完済まで年6分の割合による金員を支払う義務を負う。 3 被告旧F銀行日進支店の払戻しについて(1) 被告旧F銀行日進支店での払戻しの経緯証拠(証人J,乙2,3,4)及び弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実が認められる。 ア平成14年6月5日午後1時過ぎころ,2名の男性が,被告旧F銀行日進支店に来店した。この内の1人は,原告B本人を名乗る人物であり,身長約160センチメートル,多少痩せ型の体格をした年齢60代位の者で,黒色のポロシャツに,青色のズボンを身につけ,白色の野球帽をかぶり,茶色のセカンドバックを携帯していた(以下,「日進支店払戻請求者本人」という。)。もう一人は,原告Bの息子を名乗る人物で,身長約170センチメートル,がっちりとした体格に,パーマのかかった髪をした年齢40代位の者で,くすんだ緑色基調のシャツに,濃紺のズボンを身につけ,黒色のセカンドバックを携帯していた(以下,「日進支店払戻請求者息子」という。)。 イ日進支店払戻請求者らは,被告旧F銀行日進支店に来店すると,まず,同支店のロビー内に設置してある記帳台に向かい,この記帳台の所で,同支店のロビーレディーとして顧客案内の業務に就いていたMに対し,定期預金通帳を示し,預金を振込送金する方法を質問した。Mは ,まず,同支店のロビー内に設置してある記帳台に向かい,この記帳台の所で,同支店のロビーレディーとして顧客案内の業務に就いていたMに対し,定期預金通帳を示し,預金を振込送金する方法を質問した。Mは,それに必要な払戻請求書と振込依頼書の用紙を渡し,これらの書類に必要事項を記載するようにとの説明を行った。 ウ日進支店払戻請求者らは記帳台で,必要書類への記載及び印鑑押捺等の作業を行っていた。Mは,日進支店払戻請求者息子から,誤記をしたと告げられたため,日進支店払戻請求者らに近づいたところ,日進支店払戻請求者息子が日進支店払戻請求者本人に対し,誰の生年月日を記載しているのかと言って日進支店払戻請求者本人を責めていた。Mは,生年月日を誤記したと告げられたため,訂正印を押捺して訂正するようにとの説明を行った。この説明を受けて,日進支店払戻請求者らは,生年月日の訂正を行った。また,Mは,押捺された印影が不鮮明であったことからその旨日進支店払戻請求者らに指摘した。日進支店払戻請求者らは,払戻請求書に印鑑を再度押捺した。 エ日進支店払戻請求者らは,被告旧F銀行日進支店の窓口を訪れ,同支店の事務パートとして窓口業務に就いていたJに対し,原告Bの定期預金通帳2冊,払戻請求書2枚,振込依頼書1枚を提示した。日進支店払戻請求者息子は,Jに対し,定期預金から2200万円だけを振込送金するために必要な払戻請求書の記載の方法について質問した。Jは,日進支店払戻請求者らに対し,定期預金を解約することが必要であることを説明し,その処理に必要な記載を行うよう要請した。日進支店払戻請求者本人は,その場で払戻請求書に必要な記載を追加した。 オ Jは,払戻額が高額であったことから,同支店の課長で事務管理全般の業務を担当しているNに,上記の概要を説明して相談した。 日進支店払戻請求者本人は,その場で払戻請求書に必要な記載を追加した。 オ Jは,払戻額が高額であったことから,同支店の課長で事務管理全般の業務を担当しているNに,上記の概要を説明して相談した。Nは,Jに対してより一層の本人確認を行うよう指示した。 カ Jは,Nと共に,日進支店払戻請求者らの受領権限を確認することとし,日進支店払戻請求者らに定期預金の解約の理由について質問した。これに対し,日進支店払戻請求者らは,マンション購入代金を一時立て替えてもらった個人に送金するものであると説明した。 次に,Jが本人確認できる資料の提示を求めたところ,日進支店払戻請求者本人は,自動車運転免許証を提示した。Jは,その自動車運転免許証を受け取り,顔写真,住所,氏名,生年月日を日進支店払戻請求者の顔及び払戻請求書の住所,氏名,生年月日と対照し一致していることを確認した。Nは,日進支店払戻請求者本人に対し自動車運転免許証のコピーをとることの了解を求め,その承諾が得られたことから,コピーをとった。 また,Nは振込依頼書の書き損じの訂正箇所に訂正印がないことに気が付き,Jに訂正印の追加を指示した。Jは日進支店払戻請求者らに対し,訂正印を要請した。日進支店払戻請求者本人は,訂正印を押捺した。 日進支店払戻請求者らは,Jから解約した定期預金の残額を改めて定期預金に入金することを勧められたため,残額を定期預金に入金することとした。日進支店払戻請求者本人は,Jから定期預金への入金伝票の記載方法の説明を受け,入金伝票の必要部分への記載をした。 Jが処理に20分程度かかると告げたところ,日進支店払戻請求者息子は,自分は外で手続があるので出ていく旨を告げ,被告旧F銀行日進支店を後にした。 日進支店払戻請求者本人は,同支店のロビーのソ Jが処理に20分程度かかると告げたところ,日進支店払戻請求者息子は,自分は外で手続があるので出ていく旨を告げ,被告旧F銀行日進支店を後にした。 日進支店払戻請求者本人は,同支店のロビーのソファに着席して,しばらく処理の完了を待っていた。 キ他方,印鑑照合に関しては,被告旧F銀行日進支店の事務行員であるOが,印鑑照合システムによる印鑑照合画面を使用して照合確認し,同一であると判断した。 クこうして必要手続は完了し,この処理のためのコンピューターのオペレーションも終了した。 日進支店払戻請求者本人は,一旦,被告旧F銀行日進支店の外に出て行ったが,同支店に再び来店した。Jは,定期預金通帳2冊,振込金受取書1枚その他の書類を,日進支店払戻請求者本人に手渡した。 ケ原告Bは,平成14年6月8日,被告旧F銀行に,預金通帳の盗難に遭ったらしいとの連絡をし,同月10日,原告B及びその妻が,同行日進支店に来店し,盗難の説明をし,預金通帳の喪失届が提出された。 (2) 被告株式会社C銀行の過失の有無そこで,被告旧F銀行が払戻しにあたって注意義務を尽くしたか否かについて検討する。 ア印影の対照(ア) 原告B日進支店口座の払戻請求書(丙15,16)上の印影(以下,丙15,16を「日進支店請求印影)と,同口座の印鑑届(丙1,2)上の印影(以下,丙1,2を「日進支店届出印影」という。)を肉眼により比較すると,円周の大きさ及び形状,文字の配列や各文字の字体も極めて類似しているが一方で下記のような違いが認められる。 (イ)① 日進支店請求印影は,日進支店届出印影と比べ全体的に太い。 ② 日進支店届出印影では,「田」の右上の部分と円周部分との間に空間があるのに,日進支店請求印影ではその部分が接着している。 ③ 日進支店届出印影では,「田」 ,日進支店届出印影と比べ全体的に太い。 ② 日進支店届出印影では,「田」の右上の部分と円周部分との間に空間があるのに,日進支店請求印影ではその部分が接着している。 ③ 日進支店届出印影では,「田」の左上の角の部分が鋭くなっており,その先端の部分のみが枠線と接しているのみであるのに対し,日進支店請求印影では同部分がつぶれるように太く枠線との接着面が広い。 ④ 日進支店請求印影は日進支店届出印影と比べて「沼」の「さんずい」の各点の形が異なる。特に,一番下の点が太い。 ⑤ 日進支店届出印影では,「沼」の「口」部分と枠線との間に明らかに空間があるのに,日進支店請求印影では接着している。 (ウ) そこで,日進支店請求印影と日進支店届出印影の違いが朱肉の材質,付き具合,押捺したときの力の入れ具合,印鑑の摩擦,欠損の程度,印影が顕出される紙の状態,性状及び紙が置かれている面の状態などによって生じ得る相違なのか否かについて証拠に基づきさらに検討する。 日進支店請求印影と日進支店届出印影を肉眼で見た場合の違いで最も特徴的な部分は,上記(イ)に認定した違いのうち,全体的に太い点と日進支店届出印影では,「田」の右上の円周部分との間に空間があるのに対し,日進支店請求印影では接着している点である。上記(イ)で認定したその余の部分については,肉眼で直ちに違いが判明するとは認定しがたい。 そこで,円周部分の太さと「田」の右上の円周部分との接着という特徴に着目して,真正な印鑑による印影が印鑑の押捺の際の条件で上記のような違いが生じるかどうかについて各証拠を検討すると,① 原告Bの真正な印鑑を用いて顕出したと認められる乙8(信託契約印鑑届)をみると,4つある「B」の印影のうち一つは「田」の右上が円周部分に接着し,他の3つは,「田」の右上と円周部分との間に空間が存在して 告Bの真正な印鑑を用いて顕出したと認められる乙8(信託契約印鑑届)をみると,4つある「B」の印影のうち一つは「田」の右上が円周部分に接着し,他の3つは,「田」の右上と円周部分との間に空間が存在していることが認められる(前記2(2)ア(ウ)①(25頁)のとおり)。 ② 原告Bは,原告Bの真正な銀行登録印を5回にわたり押捺した印影を提出しているが(甲73),いずれも「田」の右上と円周部分との間に空間が存在していることが認められる(上記2(2)ア(ウ)②(24頁)のとおり)。 ③ さらに,本件第13回口頭弁論期日において,原告Bが持参した真正な銀行登録印を,被告代理人らの手によって,3種類の朱肉別に,被告らの用意した払戻請求書用紙に各5回押捺した結果(乙10から乙12,丙29から31)によると,印影30個のうち29個に「田」の右上と円周部分との間に空間が生じ,1個(丙30の左から2番目)に「田」の右上と円周部分の接着をみたことが認められる(上記2(2)ア(ウ)③(24頁)のとおり)。 ④ また,上記乙10から乙12,丙29から丙31によると,印影30個のうち5個(丙29の一番右,丙30の左から2番目,丙31の左2個及び一番右)については,円周部分の太さを含め全体に太く顕出されていることが認められる。 (エ) そうすると,真正な印鑑によって押捺した場合,大部分は「田」の右上に空間が生ずるが,朱肉の付き具合によってはこれが接着する場合もあり得,また,全体が太く表示される場合もあると認められる。したがって,全体の太さ,「田」の右上と円周部分の接着の有無という違いがあるとはいえ,日進支店の担当者が,日進支店請求印影と日進支店届出印影が同一であると判断したとしても,直ちにこれが誤りであると結論づけることはできない。 イ特段の事情の有無(ア) 上記のとお いがあるとはいえ,日進支店の担当者が,日進支店請求印影と日進支店届出印影が同一であると判断したとしても,直ちにこれが誤りであると結論づけることはできない。 イ特段の事情の有無(ア) 上記のとおり,日進支店請求印影と日進支店届出印影を比較対照すると上記ア(イ)のとおりの相違が認められるとしても,これが押捺時における状況の違いによる差異であって,両者が同一の印鑑によるものと判断したとしても直ちに誤りとはいえないところである。 (イ) しかしながら,印影が同一の印鑑によるものと判断されたとしても,払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情がある場合にはなお銀行側に過失がある場合もあり得るのであるから,上記特段の事情の有無について検討する。たしかに,被告旧F銀行日進支店での払戻しにおいては,① 定期預金の中途解約であり,しかも,口座番号××の定期預金は,本件払戻し(平成14年6月5日)のわずか3週間前である平成14年5月13日に更新手続を行ったばかりであった。そして,実質上の払戻請求額(振込依頼額)も合計2200万円と極めて高額であり,預金残高(24,299,814円)の9割に及んでいること② 日進支店払戻請求者らは,被告旧F銀行日進支店に対する払戻請求書2通とも,生年月日を「昭和23年5月31日」と誤記した後,「昭和10年4月1日」に訂正していること(丙15,16)③ 丙15号証の払戻請求書においては,住所が「大宮市」と誤記されており,その上に小さく「さいたまし」と書き加えられていることといった事実が認められる。これらは,特段の事情の存在を認める方向に作用する事実である。 (ウ) しかしながら,他方,日進支店の払戻しにおいては,① 預金者本人と称する者が出頭して払戻しを請求しており,窓口で対応した銀行員も日進支店払戻請求者 の存在を認める方向に作用する事実である。 (ウ) しかしながら,他方,日進支店の払戻しにおいては,① 預金者本人と称する者が出頭して払戻しを請求しており,窓口で対応した銀行員も日進支店払戻請求者本人を預金者本人であると考えて応対していたこと② 日進支店払戻請求者本人は,性別,外見上の年齢も原告Bと一致していること③ J及びNは,受領権限の調査として,預金通帳の真正,払戻請求書の印影と届出印影の同一性の調査に加え,日進支店払戻請求者本人に対して自動車運転免許証の提示を要求し,顔写真,生年月日及び住所の確認を行っていること(自動車運転免許証は,写真付きの,しかも,地方公共団体の公安委員会が発行するものであるから,本人確認の最も有効な手段の一つであり,同免許証が真正であることを疑わしめるような事情が認められない限り本人確認の義務は尽くしたと評価することができる。本件について免許証が真正であることを疑わしめるような事情も認められない。なお,原告は,免許証の番号及び透かしの有無から,運転免許証が偽造であることが見破れたはずであり,盗難通帳による払戻しの際,偽造免許証が用いられる事案も多発していたのであるから,免許証の番号や透かしの有無を確認すべきであった旨主張するが,偽造免許証を用いた事案が多発し出したのは平成13年末から平成14年前半であって,被告旧F銀行日進支店において払戻しがされた平成14年6月5日の段階の銀行員の窓口業務において免許証の番号及び透かしの有無を確認する義務まで認めることはできず,原告の主張は採用することができない。)④ 払戻請求書に生年月日を誤記したとはいえ,窓口に来た段階では誤記部分は訂正され,正しい生年月日が記入されていること⑤ さいたま市を大宮市と書き誤るのもあり得る間違いであること⑥ 定期預金を解約する 払戻請求書に生年月日を誤記したとはいえ,窓口に来た段階では誤記部分は訂正され,正しい生年月日が記入されていること⑤ さいたま市を大宮市と書き誤るのもあり得る間違いであること⑥ 定期預金を解約する理由についても日進支店払戻請求者息子及び日進支店払戻請求者本人が具体的に述べていることといった事実が認められるのであるから,上記(イ)の事実が存在するとしてもなお,日進支店払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情があると認めることはできない。 (エ) したがって,被告旧F銀行日進支店における預金払戻しに当たって,被告旧F銀行は,必要な注意義務を尽くしたものと認められる。 (3) よって,被告株式会社C銀行は免責約款及び民法478条の準占有者に対する弁済の規定により免責され,その余の点を検討するまでもなく,原告の被告株式会社C銀行に対する請求には理由がない。 4 被告旧F銀行高円寺支店の払戻しについて(1) 被告旧F銀行高円寺支店での払戻しの経緯証拠(証人P,丙11,丙12)及び弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実が認められる。 ア平成14年3月5日午前11時半過ぎころ,原告Dを名乗る,身長約160センチメートル,パーマのかかった黒色の髪をした年齢30代ないし40代位に見える女性が,被告旧F銀行高円寺支店に来店した。(以下,「高円寺支店払戻請求者」という。)。 イ高円寺支店払戻請求者は,同支店の事務行員で営業係として窓口のテラー業務を担当していたPに対し,普通預金通帳と払戻請求書を提出し,普通預金口座から現金で金500万円の払戻しを請求した。払戻請求書には,氏名,口座番号,金額が記載され,印鑑も押捺されていた。なお,払戻請求書の氏名欄を注意して見ると,「場」のつくりの横棒が一本足りず「易」のようになり,「美」という字 払戻しを請求した。払戻請求書には,氏名,口座番号,金額が記載され,印鑑も押捺されていた。なお,払戻請求書の氏名欄を注意して見ると,「場」のつくりの横棒が一本足りず「易」のようになり,「美」という字の横棒が1本足りず,「大」が「人」のようになっている。 ウ Pは,預金通帳の見返しに押捺されている副印鑑と払戻請求書に押捺されている印影との印鑑照合を行った。 エ Pは,被告F銀行の役職との面談を要するか否かの内規であるチェックシートの各項目についてチェックし,それに該当しなかったことから,現金を払い戻すこととしたが,払戻請求額が500万円であり,窓口限りで処理できる所定の金額より多額であったため,所定の手続を経て,被告旧F銀行高円寺支店の事務行員で営業係であったQが高円寺支店払戻請求者にこの現金を渡した。 この現金を受け取った高円寺支店払戻請求者は,被告旧F銀行高円寺支店から出ていった。 オ高円寺支店払戻請求者の挙動には特に異常は見られなかった。 (2) 被告旧F銀行高円寺支店の過失の有無ア印影の対照(ア) 原告D口座の払戻請求書(丙12)上の印影(以下,丙12を「高円寺支店請求印影」という。)と,同口座の印鑑届(丙11)上の印影(以下「高円寺支店届出印影」という。)を肉眼により比較すると,円周の大きさ及び形状,文字の配列や各文字の字体も酷似している一方,以下のような相違を認めることができる。 (イ)① 高円寺支店請求印影は,高円寺支店届出印影と比べ全体的に微妙に太く顕出されている。 ② 高円寺支店請求印影の「馬」の上から2番目の横棒が高円寺支店届出印影のそれと比べて微妙に長い。 ③ 高円寺支店届出印影の「馬」の一番左の点が高円寺支店請求印影のそれと比べて微妙に外側に反った形になっている。 (ウ) 高円寺 」の上から2番目の横棒が高円寺支店届出印影のそれと比べて微妙に長い。 ③ 高円寺支店届出印影の「馬」の一番左の点が高円寺支店請求印影のそれと比べて微妙に外側に反った形になっている。 (ウ) 高円寺支店請求印影と高円寺支店届出印影を比較対照すると,上記(イ)のとおりの相違が認められるが,これらの相違はいずれも極わずかであり,押捺時の条件の違いで簡単に生じうる程度のものであると認められ,両者を同一の印鑑による印影と判断したとしても不自然な点はみられない。 イ特段の事情の有無(ア) 上記のとおり,高円寺支店請求印影と高円寺支店届出印影とは,被告旧F銀行高円寺支店担当者が両者を同一の印鑑による印影と判断したとしても不自然ではない。 (イ) そこで次に払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情の有無について検討すると,たしかに,被告旧F銀行高円寺支店での払戻しにおいては① 被告旧F銀行高円寺支店における原告D口座の本件払戻しは,払戻請求額が500万円と高額であること② 丙12号証の払戻請求書の氏名の記載では,「D」という氏名のうち,「場」には右側の「日」の部分の下の横線がなく,また,「美」の下部分は本来「大」であるが,横棒のない「人」の形となっていること③ さらに,原告D口座は,平成12年1月に一度なされた以外に窓口による払戻実績がないことといった事実が認められ,これらは,特段の事情の存在を認める方向に作用する事実である。 (ウ) しかしながら,他方,高円寺支店の払戻しにおいては,① 高円寺支店払戻請求者は預金者本人として払戻請求を行っており,性別,外見上の年齢も預金者本人と一致していること② 原告D口座は流動性の高い普通預金であること③ 払戻請求書の氏名の記載のうち「場」「美」の字については,書き手の癖と認め 払戻請求を行っており,性別,外見上の年齢も預金者本人と一致していること② 原告D口座は流動性の高い普通預金であること③ 払戻請求書の氏名の記載のうち「場」「美」の字については,書き手の癖と認められる範囲であり,誤字とまではいえないこと④ 高円寺支店払戻請求者の挙動には特に異常は見られなかったことが認められるのであるから,上記(イ)の事実が存在するとしてもなお,高円寺支店払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情があると認めることはできない。 (3) よって,被告旧F銀行高円寺支店の預金払戻しには,過失がなく,被告株式会社E銀行は,免責約款及び民法478条の準占有者に対する弁済の規定により免責され,被告株式会社E銀行に対する原告Dのこの点の請求には理由がない。 5 被告旧F銀行市ヶ谷支店の払戻しについて(1) 被告旧F銀行市ヶ谷支店の払戻しの経緯について証拠(証人K,丙11,丙13)及び弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実が認められる。 ア平成14年3月11日午後2時半前頃,原告D本人を名乗る,身長150センチメートル台程,髪は長くも短くもなく軽くウェーブし,ピンク色の服を着た,年齢30代ないし40代位と思われる女性が被告旧F銀行市ヶ谷支店に来店した(以下,「市ヶ谷支店払戻請求者」という。)。 イ市ヶ谷支店払戻請求者は,同支店の事務行員で窓口業務を担当していたRに対し,原告Dの預金通帳と払戻請求書を提出し,原告D口座から現金で金200万円を払い戻すよう依頼した。 ウ Rは,預金通帳の見返し頁にある印影(副印鑑)と払戻請求書にある印影とを平面照合及び残影照合の方法で印鑑照合を行った。 Rは,市ヶ谷支店払戻請求者の請求が,取扱店以外の支店での50万円以上の預金払戻請求であり,そのことが,被告旧F銀行のチェックリ にある印影とを平面照合及び残影照合の方法で印鑑照合を行った。 Rは,市ヶ谷支店払戻請求者の請求が,取扱店以外の支店での50万円以上の預金払戻請求であり,そのことが,被告旧F銀行のチェックリストの項目に該当したことから,市ヶ谷支店払戻請求者に対し,本人であるか確認するための一つの手段として,払戻請求書に,市ヶ谷支店払戻請求者の住所を記載するよう依頼した。市ヶ谷支店払戻請求者は,払戻請求書の振替入金口座欄に「○○区○○ベルバウム3B」と記載した。 Rは,提示を受けた預金通帳で確認したところ,過去に取扱店以外の支店での現金払戻しの実績がなく,被告旧F銀行のチェックリストの項目に該当したため,同支店の支店長代理で当時預金業務に就いていたKという。)に,面談による本人確認を依頼した。 エ Kは,念のために,平面照合及び残影照合の方法で印鑑照合を行い,請求印影と届出印影(副印鑑)が同一であると判断した。 Kは,Rから受け取ったチェックリストの裏面の原告Dの氏名,住所,勤務先及び預金の取引の種類が記載された照会表を基に,市ヶ谷支店払戻請求者の面談を開始した。Kは,市ヶ谷支店払戻請求者に対し,盗難通帳による事故が発生していること,面談が必要なことを説明して協力を求めたところ,市ヶ谷支店払戻請求者は,銀行も大変ですねなどと述べた。Kは,市ヶ谷支店払戻請求者に対し,市ヶ谷支店に来店した理由を質問したところ,市ヶ谷支店払戻請求者は,勤務先に近いこと,自宅が中央線沿線で四谷支店に行こうとしたところ廃店になっていたことをその理由として挙げた。Kは,キャッシュカードによる払戻しではなく店頭窓口での払戻しにした理由を質問したところ,市ヶ谷支店払戻請求者は額が大きいからである旨答えた。 Kは,市ヶ谷支店払戻請求者に対し,本人確認の資 Kは,キャッシュカードによる払戻しではなく店頭窓口での払戻しにした理由を質問したところ,市ヶ谷支店払戻請求者は額が大きいからである旨答えた。 Kは,市ヶ谷支店払戻請求者に対し,本人確認の資料の提示を求めたところ,市ヶ谷支店払戻請求者は,自動車運転免許証をKに渡した。 Kは,自動車運転免許証を受け取り,顔写真と名前と住所を確認し,本人であることの確認ができたものと考え,同免許証をコピーを取らずに市ヶ谷支店払戻請求者に返還した。なお,Kは,払戻し当時,偽造免許証が使用される危険性があることについては認識していたが,運転免許証に透かしが入っているということについての認識はなく,体裁上,不自然な点がないことを確認したに留まった。 また,Kは,払戻請求書の住所欄のマンション名が違っていることに気づかなかった。 Kが,資金使途について質問したところ,市ヶ谷支店払戻請求者は,母親の入院費として使う予定であり,手元にある程度の現金を置いておきたいからである,銀行はそんなことまで聞くのかなどと答えた。 オ Kは,上記の面談の結果,本人であることの確認ができたと考え,その後,出納係を経由して,現金200万円を払い戻した。その結果,原告Dの口座の残高は,46万7535円となった。 カ原告Dは,平成14年4月19日,被告旧F銀行に対し,電話で,預金通帳を喪失した旨連絡し,同日,原告Dが,高円寺支店に来店して,預金通帳の喪失届が提出された。 (2) 被告旧F銀行市ヶ谷支店の過失の有無ア印影の対照(ア) 原告D口座の払戻請求書(丙13)上の印影(以下,丙を「市ヶ谷支店請求印影」という。)と,同口座の印鑑届(丙11)上の印影(以下「市ヶ谷支店届出印影」という。)を肉眼により比較すると,円周の大きさ及び形状,文字の配列や各 (丙13)上の印影(以下,丙を「市ヶ谷支店請求印影」という。)と,同口座の印鑑届(丙11)上の印影(以下「市ヶ谷支店届出印影」という。)を肉眼により比較すると,円周の大きさ及び形状,文字の配列や各文字の字体も酷似している一方,以下のような相違を認めることができる。 (イ)① 市ヶ谷支店請求印影は,市ヶ谷支店届出印影と比べ全体的に極わずかに太く顕出されている。 ② 市ヶ谷支店請求印影の「馬」の上から2番目の横棒が市ヶ谷支店届出印影のそれと比べて微妙に長い。 ③ 市ヶ谷支店請求印影の「馬」の一番左の点が市ヶ谷支店届出印影のそれと比べて微妙に外側に反った形になっている。 (ウ) 市ヶ谷支店請求印影と市ヶ谷支店届出印影を比較対照すると,上記(イ)のとおりの相違が認められるが,これらの相違はいずれも極わずかであり,押捺時の条件の違いで簡単に生じうる程度のものと認められる。 イ特段の事情の有無(ア) 上記のとおり,市ヶ谷支店請求印影と市ヶ谷支店届出印影とは,被告旧F銀行市ヶ谷支店担当者が両者を同一の印鑑による印影と判断したとしても不自然ではない。 (イ) そこで,印影照合においてそれが同一と判断される場合であっても,払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情があるか否かについて検討する。たしかに,① 被告旧F銀行市ヶ谷支店における原告D口座の払戻しも,払戻請求額が200万円と高額であること② しかも,過去には取扱店(高円寺支店)以外の支店での現金払戻の実績が見受けられなかったこと③ 丙13の払戻請求書においては,「おなまえ」欄記載の「場」の右上の「日」の部分の中央の横棒が左右に突き抜けていること④ 丙13号証の払戻請求書の住所の記載においてマンション名の「ベラドンナ」が「ベルバウム」と誤記されていることといった 」欄記載の「場」の右上の「日」の部分の中央の横棒が左右に突き抜けていること④ 丙13号証の払戻請求書の住所の記載においてマンション名の「ベラドンナ」が「ベルバウム」と誤記されていることといった事実が認められ,これらは,特段の事情の存在を認める方向に作用する事実である。 (ウ) しかしながら,他方,市ヶ谷支店の払戻しにおいては,① 市ヶ谷支店払戻請求者は預金者本人として払戻請求を行っており,性別,外見上の年齢も預金者本人と一致していること② 市ヶ谷支店で本人確認を行ったKは,市ヶ谷支店払戻請求者に対し自動車運転免許証の提示を求め,運転免許証により本人を確認していること(なお,原告Dは運転免許証を所持していないことから,市ヶ谷支店払戻請求者が提示した上記運転免許証が偽造であったことは明らかであるが,偽造免許証を用いた事案が多発し出したのは平成13年末から平成14年前半であって,被告旧F銀行市ヶ谷支店において払戻しがされた平成14年3月11日の段階の銀行員の窓口業務において運転免許証偽造を疑い,番号及び透かしの有無を確認するまでのことを期待することはできないこと,といった事実が認められ,これらの事実に,印影照合において市ヶ谷支店請求印影と市ヶ谷支店届出印影が同一と判断されることを合わせて考慮すると,市ヶ谷支店払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情があったと認めることはできない。)③ 原告D口座は流動性の高い普通預金であること④ 払戻請求書の氏名の記載のうち「場」の字については,書き手の癖と認められる範囲であり,誤字とまではいえないこと⑤ 市ヶ谷支店払戻請求者は,市ヶ谷支店を利用した理由について,勤務先に近いこと,自宅が中央線沿線で四谷支店に行こうとしたところ廃店になっていた,といった理由を具体的に説明していること⑥ ないこと⑤ 市ヶ谷支店払戻請求者は,市ヶ谷支店を利用した理由について,勤務先に近いこと,自宅が中央線沿線で四谷支店に行こうとしたところ廃店になっていた,といった理由を具体的に説明していること⑥ 市ヶ谷支店払戻請求者は終始落ち着いて市ヶ谷支店による本人確認手続に応対しており,挙動に不審な点は見受けられなかったことが認められるのであるから,上記(イ)の事実が存在するとしてもなお,市ヶ谷支店払戻請求者が正当な権限者ではないと疑うべき特段の事情があると認めることはできない。 (3) よって,被告旧F銀行市ヶ谷支店の預金払戻しには,過失がなく,被告株式会社E銀行は,免責約款及び民法478条の準占有者に対する弁済の規定により免責され,被告株式会社E銀行に対する原告Dのこの点の請求には理由がない。 第4 結論以上の検討のとおり,原告Bの被告株式会社A銀行に対する請求については1502万2840円及びこれに対する平成14年9月21日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからその部分について認容し,原告Bの被告株式会社A銀行に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却し,原告Bの被告株式会社C銀行に対する請求及び原告Dの請求についてはいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第17部 裁判長裁判官鬼澤友直裁判官長谷川秀治裁判官細矢郁は転補につき署名捺印できない。 裁判長裁判官鬼澤友直 鬼澤友直

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る