平成20(受)2065 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成22年4月20日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 名古屋高等裁判所 平成20(ネ)101
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判決文本文4,331 文字)

- 1 -主文原判決を破棄する。 本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人大矢和徳の上告受理申立て理由第1点について 本件は,上告人が,他の共有者3名(以下,上告人と併せて「本件共有者」という。)と共に,その共有に係る都市計画施設の区域内の第1審判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を被上告人に売却するに当たり,被上告人の担当職員から,本件土地の売却に係る長期譲渡所得につき租税特別措置法(平成13年法律第7号による改正前のもの。以下「措置法」という。)33条の4第1項1号所定の特別控除額の特例(以下「本件特例」という。)の適用がある旨の誤った教示をされ,上記担当職員の指導に従って納税申告手続をした結果,所轄税務署長から本件特例の適用は認められないとして更正及び過少申告加算税の賦課決定を受けたなどと主張して,被上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償請求をする事案である。 都市計画法(以下「都計法」という。)によれば,都市計画施設の区域内において建築物の建築をしようとする者は,政令で定める軽易な行為等を除き,都道府県知事(地方自治法252条の19第1項の指定都市にあっては,その長。以下同じ。)の許可を受けなければならず(53条1項),都道府県知事は,上記許可の申請があった場合において,54条各号所定の要件に該当するときは,その許可をしなければならないが(54条),都市計画施設の区域内の土地でその指定したものの区域(以下「事業予定地」という。)内において行われる建築物の建築につ- 2 -いては,上記要件に該当するときであっても,これを許可しないことができ(55条1項本文),事業予定地内の土地の所有者から,55条1項本文の規定により建築物の建築が許可されないときはその土地の利用に著しい支障 上記要件に該当するときであっても,これを許可しないことができ(55条1項本文),事業予定地内の土地の所有者から,55条1項本文の規定により建築物の建築が許可されないときはその土地の利用に著しい支障を来すこととなることを理由として,当該土地を買い取るべき旨の申出があった場合においては,特別の事情がない限り,当該土地を時価で買い取るものとされている(56条1項)。 そして,措置法33条の4第1項1号,33条1項3号の3によれば,土地が都計法56条1項の規定により買い取られ,土地の所有者が対価を取得する場合,その長期譲渡所得については,特別控除額を5000万円(当該譲渡所得の金額が5000万円に満たない場合には,当該譲渡所得の金額)とする本件特例の適用がある。 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)被上告人は,都市計画施設である公園又は緑地の区域内の土地について,必要に応じて事業予定地に指定した上,事業予定地内の土地の所有者からの申出を受けてその買取りを行っていた。 (2)被上告人においては,都市計画施設の区域内の土地の買取りに当たり,当該土地の売却を希望する所有者が具体的に建築物を建築する意思を欠いている場合であっても,当該所有者に対し,①当該土地につき仮の土地買取申出書を提出させる,②被上告人が当該土地を購入する予算措置を講ずることができた時点で,当該土地を事業予定地に指定してその旨の公告をした上,形式的に建築許可の申請をさせる,③上記申請に係る申請書には,被上告人の担当職員があらかじめ用意していた建築図面の中から当該土地の面積等に応じて適宜選択したものを添付させる,④名古屋市長(以下「市長」という。)が都計法55条1項本文の規定によ- 3 -り上記申請に対して建築不許可の決定をした後,当該土地につき, 当該土地の面積等に応じて適宜選択したものを添付させる,④名古屋市長(以下「市長」という。)が都計法55条1項本文の規定によ- 3 -り上記申請に対して建築不許可の決定をした後,当該土地につき,都計法56条1項の規定による買取りの申出をさせるという手順を踏んで,当該土地の売買契約を締結する運用(以下「本件運用」という。)を,長年にわたり組織的に行ってきた。 (3)市長は,昭和47年12月6日,本件土地を含む近隣地域につき都市計画決定(名古屋都市計画緑地第7号猪高緑地)をした。 (4)被上告人の担当職員は,本件土地の売却を希望する本件共有者が具体的に建築物を建築する意思を欠いていることを認識しながら,本件共有者に対し,本件土地の売却に係る長期譲渡所得につき本件特例の適用がある旨の教示をするとともに,本件土地につき仮の土地買取申出書を提出させ,本件土地が事業予定地に指定された後の平成12年8月10日,本件共有者のうちの一人に対し,あらかじめ用意していた建築図面を交付し,これを申請書に添付して建築許可の申請をさせ,上記申請が不許可とされた後の同年9月1日,本件共有者に対し,本件土地につき都計法56条1項の規定による買取りの申出をさせた(以下,これらの被上告人の担当職員による本件運用にのっとった一連の行為を「本件行為」という。)。 (5)被上告人は,平成12年12月6日,上記の買取りの申出に応じて,本件共有者との間で,本件土地を代金9758万円で買い取る旨の売買契約を締結し,同月21日,本件共有者に対し,上記代金を支払った。なお,上告人が支払を受けたのは,上記代金のうち,本件土地の持分割合に相当する3903万2000円である。 (6)上告人は,本件土地の売却に係る長期譲渡所得につき本件特例の適用があることを前提として平成12年分の所得 けたのは,上記代金のうち,本件土地の持分割合に相当する3903万2000円である。 (6)上告人は,本件土地の売却に係る長期譲渡所得につき本件特例の適用があることを前提として平成12年分の所得税の確定申告(以下「本件申告」とい- 4 -う。)をしたが,所轄税務署長は,平成15年8月18日,本件特例の適用は認められないとして更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。上告人は,これを不服として異議申立て及び審査請求をしたが,いずれも棄却され,所得税,過少申告加算税,延滞税及び地方税として合計796万3000円を納付した。 (7)上告人は,本件訴訟において,合計959万0540円(上記納税額796万3000円,上記異議申立て及び審査請求の手続に係る費用26万7010円,本件訴訟の追行に係る弁護士費用86万0530円並びに慰謝料50万円)の支払を求めている。 原審は,上記事実関係等の下で,本件行為は国家賠償法1条1項の規定の適用上違法であるが,本件行為と本件土地の売却との間に因果関係は認められない上,上告人は適正な税額を納付したのであり,これをもって上告人に損害が発生したとはいえないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。 しかしながら,上告人には損害の発生がないとした原審の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 都計法56条1項の規定による土地の買取りの申出をするには,当該土地の所有者に具体的に建築物を建築する意思があったことを要し,当該土地の所有者が,具体的に建築物を建築する意思を欠き,単に本件特例の適用を受けられるようにするため形式的に都計法55条1項本文の規定による不許可の決定を受けることを企図して建築許可の申請をしたにすぎない場合には,たとい同申請に基づき不許可の決定がされ,外形的には都計法56条 れるようにするため形式的に都計法55条1項本文の規定による不許可の決定を受けることを企図して建築許可の申請をしたにすぎない場合には,たとい同申請に基づき不許可の決定がされ,外形的には都計法56条1項の規定による土地の買取りの形式が採られていたとしても,当該土地の売却に係る長期譲渡所得につき本件特例の適用はないものと解される(最高裁平成21年(行ヒ)第110号同22年4月13日第三小- 5 -法廷判決・裁判所時報1505号登載予定参照)。 しかるに,前記事実関係等によれば,被上告人は,的確な法的根拠もないまま,長年にわたり組織的かつ主導的に,都計法及び措置法の趣旨,目的に反する本件運用にのっとって都市計画施設の区域内の土地の買取りを進めていたのであって,上告人に対しても,本件土地の売却に係る長期譲渡所得につき本件特例の適用がある旨の教示をしただけでなく,本件特例の適用を受けられるようにするために,本件共有者の一人に建築図面の交付までして外形的に都計法56条1項の規定による土地の買取りであるかのような形式を整えさせ,本件申告をするように指導したというのである。 そして,本件土地の売却に係る長期譲渡所得については本件特例の適用はないのであるから,上告人が本件特例の適用がないことを前提とする税額を納付したからといって,直ちに上告人に上記本税の額に相当する損害が発生したとはいえないが,被上告人の担当職員の上記の教示や指導がなければ,上告人が本件特例の適用があることを前提として本件申告をすることはなかったというべきであるから,上告人にも安易に上記の教示や指導に従った点で過失があることは否めないとしても,違法な公権力の行使に当たる本件行為により,上告人に過少申告加算税相当額の損害が発生したことは明らかである。のみならず,事実関係のいかんによって や指導に従った点で過失があることは否めないとしても,違法な公権力の行使に当たる本件行為により,上告人に過少申告加算税相当額の損害が発生したことは明らかである。のみならず,事実関係のいかんによっては,延滞税の全部又は一部に相当する額を本件行為による損害とみる余地や,上告人が他の特例の適用を検討する機会を逸したことにより損害が発生したとみる余地のあることも否定できない。 したがって,前記事実関係等の下において,上告人に損害が発生したとはいえないとして上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を- 6 -及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件行為によって上告人に生じた損害の有無及び額並びに過失相殺の可否について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官近藤崇晴)

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