平成11(ワ)3488 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年2月26日 名古屋地方裁判所
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判決文本文7,890 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告らは,原告に対し,各自4500万円及びこれに対する平成2年9月5日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁主文同旨第2 事案の概要本件は,原告が,県営の土地改良事業の著しい進行遅延は,憲法29条が保障する原告の財産権を侵害するとして,被告ら各自に対し,国家賠償法1条,4条,民法719条に基づき,損害賠償を求めた事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがない事実と後記各証拠により認める。)(1) 被告愛知県(以下「被告県」という。)は,昭和39年から,愛知県葉栗郡a町で,県営圃場整備事業(土地改良事業)a地区を開始し,同年3月24日にa土地改良区(合計12工区,以下「本件改良区」という。)が設立された。 被告県は昭和42年4月,後記のとおり原告が所有する土地を含む第7工区で土地改良事業に着手した(以下「本件土地改良事業」という。)。 (2) 原告の父Aは,一宮市b町字cdーe番田110平方メートル及び同所fーg番田122平方メートル(以下「本件従前地」という。)を所有していたところ,本件従前地は,昭和43年に愛知県の県営事業である本件改良区に組み込まれた。 愛知県知事は,昭和43年11月29日付で,Aに対し,本件従前地の一時利用地をhーi番田209平方メートルに指定する旨通知をした。 (3) Aは,昭和55年2月5日死亡したので,息子の原告が本件従前地の所有権を相続した。 (4) 愛知県知事は,平成元年8月3日付で,原告に対し,一時利用地指定変更通知書により する旨通知をした。 (3) Aは,昭和55年2月5日死亡したので,息子の原告が本件従前地の所有権を相続した。 (4) 愛知県知事は,平成元年8月3日付で,原告に対し,一時利用地指定変更通知書により,変更後は,従前の土地「字cd番田300平方メートル」(以下「d番地」という。)の一時利用地として「第7工区hーi田306平方メートル」へ変更する旨通知した。 2 争点(原告の請求原因)(1) 被告県は,県営事業として,本件土地改良事業を開始した。 (2) 被告a町(以下「被告町」という。)は,地元自治体として,被告県から,本件土地改良事業の施行につき,事務委託を受けた。 (3) 土地改良事業の遅延と財産権の侵害ア本件従前地は,昭和43年の一時利用地の指定以来,31年を経過するも,未だに換地処分が完了せず,一時利用地の指定を受けたままの状態で放置されている。その結果,原告が本件従前地を換価処分しようにも,全く不能な事態が今日まで続いてきた。また原告は,平成元年8月3日,愛知県知事から,一時利用地を「第7工区hーi田306平方メートル」に変更する通知を受けた際,被告町の助役や土地改良担当課長から,本件従前地・一時利用地を1,2年処分しないでおいて欲しいと頼まれた。 イその結果,原告は,従前地を宅地に転用する等して高価に換価処分する自由を,異常な長期間にわたって阻害され,憲法29条が保障する私有財産権を侵害された。 (4) 被告らの責任ア被告県の担当者の督励義務違反県営の土地改良事業は,国家賠償法1条にいう「公権力の行使」に該当するところ,第7工区における換地遅滞の一番の原因は,換地計画に対する異議の多発であるが,異議多発の原因は,換地計画の不公平さや,改良区役員と組合員の間の信頼関係の希薄さに由来する。 被告県が,改良区に対し,換地計画の公平 ける換地遅滞の一番の原因は,換地計画に対する異議の多発であるが,異議多発の原因は,換地計画の不公平さや,改良区役員と組合員の間の信頼関係の希薄さに由来する。 被告県が,改良区に対し,換地計画の公平性や,役員人事の適正化について,行政指導の手法を用いて,事実上の指導力を発揮することは十分可能だったはずであり,被告県の担当者が,その職務を行うにつき故意又は過失により本件改良区に対し督励義務違反を行ったことが,第7工区の換地遅滞の一因である。 換地処分確定前の一時利用地のままでの換価はきわめて困難であり,換地の遅滞と原告が所有地を換価できないことの間には因果関係が存し,その結果,原告は違法に損害を被った。 したがって,被告県は,原告に対し,国家賠償法1条に基づき,原告が被った損害を賠償する責任がある。 イ被告町は,被告県から事務委託を受けて,本件土地改良事業を施行監理していたから,前記事業の著しい進行遅延につき,被告県と,民法719条の共同不法行為責任を負う。 (5) 損害ア本件土地の換価不能による財産的損害 4500万円原告は,本件土地改良事業の遅延により,坪当たり50万円で土地90坪を合計4500万円で売れた可能性を奪われ,同額の損害を被った。 イ慰謝料500万円原告は,本件換地処分の著しい遅延により,債務整理の計画に狂いが生じるなど大きな精神的苦痛を受けたもので,慰謝料として500万円が相当である。 (6) よって,原告は,被告ら各自に対し,国家賠償法1条,4条,民法719条に基づき,前記損害の内金4500万円,及びこれに対する通常であれば本換地が結了したであろう時期である平成2年9月5日から完済に至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (請求原因に対する認否,及び被告らの主張)( びこれに対する通常であれば本換地が結了したであろう時期である平成2年9月5日から完済に至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (請求原因に対する認否,及び被告らの主張)(1) 原告の請求原因(1)は認め,その余の請求原因はいずれも否認する。 被告町が,地元自治体として,被告県から,本件土地改良事業の施行につき事務委託を受けた事実はなく,被告町は,本件土地改良事業と法律上関係がない。 (2) 被告県は,毎年,a土地改良区総代会に出席して換地処分未了工区について早期促進方を依頼しているし,被告県の一宮農地開発事務所は,昭和63年以降,毎年,a土地改良区に対し進行管理の聞き取りを行い,遅延している第7工区について事業の督励を行っている。 (3) 一時利用地の指定(土地改良法89条の2第6項,土地改良区の場合は同法53条の5)は,従前地の譲渡,担保権の設定等の処分をなんら制限するものではないから,換地の遅滞と,原告が土地を換価できないこととの間に因果関係はない。 (4) 第7工区の換地処分が終了していない理由は,昭和45年の都市計画法の施行にともない,第7工区の一部が市街化区域となり,所有権移転,農地転用が多数なされたことや,地元の土地改良区の役員や組合員等に換地処分促進の意欲が十分でないこと,工区界境の土地所有者間で境界紛争があるため,工区界が一部未定となっていることや,一時利用地の指定に対し異議申立てがかなり出され,調整に時間を要することなどである。 第3当裁判所の判断(被告県に対する請求) 1 原告は,被告県の担当者が,その職務を行うにつき故意又は過失により本件改良区に対し督励義務違反を行ったことが,第7工区の換地遅滞の原因であるから,被告県は原告に対し国家賠償法1条の損害賠償責任があると主張する。 よって検討するに, 務を行うにつき故意又は過失により本件改良区に対し督励義務違反を行ったことが,第7工区の換地遅滞の原因であるから,被告県は原告に対し国家賠償法1条の損害賠償責任があると主張する。 よって検討するに,憲法29条が私有財産権を保障している以上,公共の福祉を理由とする場合であっても,私有財産の制限は,合理的かつ必要最小限の範囲のものでなければならないのは当然であり,土地改良事業は,公共の福祉に貢献するものであるが,私有財産権の保障の見地からすれば,それによる土地所有権に対する制限も,合理的かつ必要最小限の範囲に限られるべきである。 これを本件についてみるに,当事者間に争いがない事実と,甲1ないし4,10,11号証,乙31号証,証人Bの証言,原告本人尋問の結果,及び後記各証拠,並びに弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 (1) 被告県は,昭和23年11月16日愛知県規則92号により,一宮農地開発事務所を,管内6市5町の農用地の改良,開発,保全,集団化及び調査に関する事務事業を職務として設置し,昭和51年4月には,換地課を県営事業等の換地業務促進のため設置した。 被告県は,換地処分の促進については,昭和57年11月30日付け57耕第289号農地林務部長通知に基づき指導してきたが,さらに促進するため,昭和63年度から「換地業務遅延地区等の進行管理要領」に基づき換地業務実施主体に対し,遅延の原因及び解決方法を究明し,地元の推進体制・合意形成と各地権者の意識を高めるため,進行管理の聞き取りを行っている。 (2) a地区の土地改良事業は,別図Aのとおり12の工区があり,被告県は一斉に換地処分することができず順次に行ってきているところ,昭和年代に,第1工区から第4工区までと,第8工区から第12工区までの合計9の工区において換地処分を了した。そして,平成 区があり,被告県は一斉に換地処分することができず順次に行ってきているところ,昭和年代に,第1工区から第4工区までと,第8工区から第12工区までの合計9の工区において換地処分を了した。そして,平成に入っては,平成2年に第6工区において換地処分を了した。被告県は,つづいて第5工区の換地処分の促進に重点をおき,平成11年12月18日に換地処分を了した(乙6ないし17,32号証)。 被告県は,現在,残る第7工区について換地処分に向けて努力をしていく方針である。 被告県が行う換地処分の終了までに要する期間は,近年の事業実施地区においては,工事完了後1,2年のうちに換地処分が終了するのが一般的であるが,種々の要因からa地区のように30年以上要する地区もある。 (3) 原告は,本件従前地が,昭和43年に一時利用地の指定以来,31年を経過した平成11年になっても,未だに換地処分が完了せず,一時利用地の指定を受けたままの状態で放置されていることに強い不満を有している。そのため,原告は,再三,a町役場に出向いて,再三,土地改良事業の早期の終結・完了を申し入れているが,未だに換地処分が終了しないので,さらに不満を強めている(甲10号証)。 (4) 第7工区の換地処分が終了していない理由は,次のとおりである。 ア昭和45年の都市計画法の施行にともなう都市計画区域の線引により,第7工区の一部が市街化区域となったため,所有権移転,農地転用が多数なされて権利者数が増大し,その把握と事務処理に多大な時間と労力を要した。 イ換地処分の促進に当っては,地元の土地改良区の役員・組合員・権利者等の熱意,協力が不可欠であるが,第7工区では地元の土地改良区の役員の高齢化・交替により,事務処理の遅れが生じた。また,一時利用地が指定されて,現地の特定ができていて,しかも第7工区では 員・権利者等の熱意,協力が不可欠であるが,第7工区では地元の土地改良区の役員の高齢化・交替により,事務処理の遅れが生じた。また,一時利用地が指定されて,現地の特定ができていて,しかも第7工区では農用地区域外の土地が多いこともあり,所有権移転も農地転用も現況において可能であるので,組合員・権利者の中には,換地処分促進の意欲・関心が余りない者もいた。 ウ第7工区の工区界境の土地所有者とその隣接地の土地所有者との間の境界紛争があり,そのため,工区界が一部未定となっていて,調整が難航している。 エ昭和43年に一時利用地の指定をしたところ,昭和44年から平成10年まで,16人の者から一時利用地の位置が納得できないとか,減歩率が大きい等の異議申立てや苦情申出があって,その調整に時間を要した。現在でもそのうち6人につき調整未了で係争中である。 (5) そのため,被告県は,毎年3月に開催されるa土地改良区総代会に,担当者を出席させて,換地処分未了工区について早期促進方を依頼している。 被告県の一宮農地開発事務所は昭和63年以降,毎年4月から6月にかけてa土地改良区に対し進行管理の聞き取りを行い,そのなかで遅延している第7工区について,事業の督励を継続して行っている(乙1ないし4号証)。 平成7年4月から平成12年3月まで一宮農地開発事務所の換地課長であったBは,a地区の土地改良事業が,30年以上を経ても完結しないため,前記のとおり,本件改良区に対して種々の督励を行った。 2 以上の事実によると,第7工区についての換地処分が昭和43年の一時利用地の指定以来,著しく遅延していることは明かであり,それに対し,原告は,土地所有権に対する一定の制限が継続しているとして強い不満を有している。しかし,第7工区では,都市計画区域の線引の変更や,原告の一時利用地以外 著しく遅延していることは明かであり,それに対し,原告は,土地所有権に対する一定の制限が継続しているとして強い不満を有している。しかし,第7工区では,都市計画区域の線引の変更や,原告の一時利用地以外のところで境界が未確定であるなど,被告県とは直接関係のない,やむを得ない事情で,換地処分が遅れているものである。そして,被告県は,第7工区の換地処分が著しく遅延していることにつき,被告県の担当者をして,継続して監督,督励の措置を講じているのであり,その措置が現在まで必ずしも十分な効果を発揮しているとは認め難いが,これらの被告県の処置が,著しく不当で原告の土地所有権を違法に侵害しているとまでの事実を認めることはできない。 これに対し,原告は,①第7工区の土地改良事業が,30年以上を経ても完結しない原因・理由が,公共の福祉に基づく私権の制限として容認されることが許されるだけの,真にやむえない正当なものであったとは認められない,②被告県が一時利用地の指定以来,31年間も換地処分を完了せずに一時利用地のまま放置し続け,本件従前地及び一時利用地を「死に地」と化して財産価値を無に帰せしめているのは,行政庁として,著しい怠慢であり,公共の福祉に基づく私権の制限として容認されるものではなく,憲法29条が規定する私有財産権の保障を侵害するなどと主張するが,前記1(4)で認定した事情によると,いずれも採用できない。 なお,原告は,平成元年8月愛知県知事から一時利用地の変更通知を受けた際,被告町の助役や土地改良担当課長から,本件従前地・一時利用地の処分を1,2年しないでおいて欲しいと頼まれたと主張するが,仮にその事実が認められたとしても,前記判断は左右されない。 3 さらに原告は,換地処分の一時利用地のため,宅地に地目変更できないので,従前地を処分できず,原告の土地所 欲しいと頼まれたと主張するが,仮にその事実が認められたとしても,前記判断は左右されない。 3 さらに原告は,換地処分の一時利用地のため,宅地に地目変更できないので,従前地を処分できず,原告の土地所有権が違法に侵害されているから,被告らに損害賠償責任があると主張する。 よって検討するに,甲5号証の1,2,原告本人尋問の結果によると,原告は,平成5年7月ころ,本件従前地の変更後の一時利用地306平方メートルを,3.3平方メートル単価55万円の価格5090万円で売りに出したが,売却できなかった事実が認められる。 しかし,一時利用地の指定(土地改良法89条の2第6項,土地改良区の場合は同法53条の5)は,法律上,従前地の譲渡,担保権の設定等の処分を制限するものではないと解される。また,乙18ないし31号証(枝番を含む),証人Bの証言によると,別紙「売買例」のとおり,第7工区のなかで,原告の一時利用地(変更後の第7工区hーi田306平方メートル)の近隣で,一時利用地の指定を受けたままの状態で,平成になってから,親族以外の第三者と売買が行われている事例が認められる。これら売買事例の一時利用地の位置関係は別図Bのとおりである。 これらの事実と,甲5号証の1,並びに弁論の全趣旨によると,原告が本件従前地・一時利用地を売却できないのは,同土地が都市計画法上の市街化調整区域に指定されていることや,原告の設定する売り出し価格が,実勢価格より高額であるからと推認でき,換地処分の未了が原因であるとは認められない。 そうすると,換地処分の遅滞と,原告が一時利用地を売却できないこととの間に法律上の因果関係を認めることはできないから,原告の前記主張は理由がない。 4 以上によると,請求原因(3)の事実は認められず,第7工区について換地処分が遅延していることにつき,被告県の担 ととの間に法律上の因果関係を認めることはできないから,原告の前記主張は理由がない。 4 以上によると,請求原因(3)の事実は認められず,第7工区について換地処分が遅延していることにつき,被告県の担当者が,その職務を行うにつき故意又は過失により本件改良区に対し督励義務違反を行った事実を認めることはできない。したがって,請求原因(4)アのとおり,被告県は原告に対し,国家賠償法1条に基づく損害賠償責任があると認めることはできない。 (被告町に対する請求) 5 乙31号証,証人Bの証言によると,被告県は,本件改良区に本件土地改良事業の事務委託を行っている事実が認められるが,本件全証拠によっても,請求原因(2)のとおり,被告町が,地元自治体として,被告県から,本件土地改良事業の施行につき事務委託を受けた事実を認めることはできない。 甲9号証の1,原告本人尋問の結果,並びに弁論の全趣旨によると,原告の本件土地改良事業の遅れについてのクレームを,被告町のa町役場のC課長が応対していた事実,及び被告町の建設部長であるDが,a土地改良区の事務局長を兼務している事実が認められるが,そのことによっても前記認定は左右されない。 したがって,請求原因(4)イのとおり,被告町は原告に対し,国家賠償法1条,4条,民法719条に基づく損害賠償責任があると認めることはできない。 (結論) 6 よって,原告の被告らに対する本訴請求は,請求原因(5)の損害につき判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。そして以上の次第であるので,原告の被告県に対する文書提出命令の申立(平成12年(モ)第1372号)は,その必要性が認められないから却下することとする。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判官水谷 以上の次第であるので,原告の被告県に対する文書提出命令の申立(平成12年(モ)第1372号)は,その必要性が認められないから却下することとする。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判官水谷正俊

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