令和3(受)2001 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年10月23日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 大阪高等裁判所 令和3(ネ)775
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判決文本文12,197 文字)

- 1 - 主文 原判決を破棄し、第1審判決中上告人らに関する部分を取り消す。 被上告人の上告人らに対する請求をいずれも棄却する。 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人佐々木信行、同山下侑士の上告受理申立て理由(ただし、排除された部分を除く。)について 1 本件は、株式会社マーベラスからマンションの建築工事を請け負った被上告人が、上告人エー・アール・センチュリー有限会社(以下「上告人会社」という。)においてマーベラスから上記マンションの敷地を譲り受けた行為(以下「本件行為」という。)が被上告人のマーベラスに対する請負代金債権及び上記マンションの所有権を違法に侵害する行為に当たると主張して、上告人会社に対しては、不法行為に基づき、その代表取締役である上告人Y1に対しては、主位的に不法行為、予備的に会社法429条1項に基づき、被上告人の損害の一部である1億円及び遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。 マーベラスは、松江市所在の4筆の土地(以下「本件敷地」という。)にマンションを建築して分譲販売することを計画し、平成26年、本件敷地を合計6100万円で購入した上、平成27年6月、被上告人との間で、マーベラスを注文者、被上告人を請負人として、本件敷地にマンション(以下「本件マンション」という。)を建築する旨の請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約における請負代金(以下「本件代金」といい、本件代金に係る債権を「本件債令和3年(受)第2001号損害賠償請求事件 請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約における請負代金(以下「本件代金」といい、本件代金に係る債権を「本件債令和3年(受)第2001号損害賠償請求事件令和5年10月23日第一小法廷判決- 2 -権」という。)は、10億1500万円とされ、その支払時期及び支払額は、契約後(同年7月末日)に5000万円、上棟時(平成28年6月末日)に1億5000万円、完了時(同年11月末日)に8億1500万円とされた。 被上告人は、マーベラスから、本件代金のうち、平成27年8月までに5000万円の支払を受けたが、上棟時に支払われるべき1億5000万円の支払を受けることができなかったため、平成28年7月、本件敷地について、極度額を6000万円、債権の範囲を請負取引、債務者をマーベラス、根抵当権者を被上告人とする根抵当権の設定を受け、その旨の登記がされた。なお、上記根抵当権は、本件敷地の交換価値の全部を把握するものであった。 被上告人は、マーベラスから、本件代金について、平成29年2月15日までに遅延損害金を除いて合計6017万円余の支払を受けるにとどまった。そこで、被上告人は、同日、本件契約に係る建築工事(以下「本件工事」という。)を中止し、また、同月17日、本件マンションを自己の占有下に置き、マーベラスの関係者が本件マンションに立ち入ることを禁じた上、マーベラスに対して単独で本件マンションを分譲販売することを止めるように申し入れ、自ら本件マンションを分譲販売する方法によって本件債権の回収を図ることとした。被上告人が本件工事を中止した時点における本件工事の出来高は、本件工事全体の99%を超えていた。 他方、マーベラスは、その頃、本件マンションを分譲販売するの によって本件債権の回収を図ることとした。被上告人が本件工事を中止した時点における本件工事の出来高は、本件工事全体の99%を超えていた。 他方、マーベラスは、その頃、本件マンションを分譲販売するのではなく、本件マンション1棟を販売することを計画し、上告人Y1から買主の紹介を受けるなどしていた。 被上告人の代理人であった弁護士らは、平成29年3月、本件マンションの販売状況等について確認するため、マーベラスの代表取締役らと面談したが、マーベラスの対応が信頼に足りるものではないと判断した。マーベラスは、被上告人に対し、本件マンションの引渡しを受けて引き続き分譲販売させてほしい旨要望したが、被上告人は、これに応じず、マーベラスについて破産手続開始の申立てをする- 3 -旨の方針を決めた。 上告人会社は、平成29年4月2日、マーベラスから本件敷地を譲り受けた(本件行為)。本件敷地について、マーベラスから上告人会社に対し、売買を原因とする所有権移転登記がされたが、上告人会社は、マーベラスに本件敷地の対価を支払っていない。 被上告人は、平成29年4月18日、マーベラスについて破産手続開始の申立てをし、同年6月2日、上記申立てに基づき、破産手続開始の決定がされた。 マーベラスの破産管財人は、平成29年9月、本件行為が破産法160条3項所定の行為に該当することを理由として、本件敷地について上告人会社に破産法による否認の登記手続を求める訴えを提起し、令和元年9月、上記破産管財人の請求を認容する旨の判決が確定した。 3 原審は、上記事実関係の下において、要旨次のとおり判断し、被上告人の上告人らに対する不法行為に基づく損害賠償請求を認容すべきものとした。 本件行為の当時、マーベラスには、本件マンションを販売することによって得られる金員をも いて、要旨次のとおり判断し、被上告人の上告人らに対する不法行為に基づく損害賠償請求を認容すべきものとした。 本件行為の当時、マーベラスには、本件マンションを販売することによって得られる金員をもって支払うほかに、本件代金を支払う手段はなかったのであり、被上告人は、自ら本件マンションを分譲販売する方法によって本件債権の回収を図ることとしていたのであるから、上記方法によって本件債権を回収するという被上告人の利益は、事実上の期待にとどまらず、不法行為法上の法的保護に値する利益となっていたというべきである。これに加えて、上告人らは、被上告人が本件債権の回収を円滑に進めるためには本件マンションを本件敷地と共に分譲販売するほかない状況にあることを知りながら、あえて経済的合理性のない本件行為を行って本件債権の回収を妨害したのであるから、本件行為は、被上告人の上記の債権回収の利益を侵害するものとして本件債権を違法に侵害する行為に当たる。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 前記事実関係によれば、本件行為の当時、被上告人は、自ら本件マンションを分- 4 -譲販売する方法によって本件債権の回収を図ることとしていたが、本件敷地についてはマーベラスが所有しており、また、被上告人において、将来、本件敷地の所有権その他の敷地利用権を取得する見込みがあったという事情もうかがわれないから、被上告人が自ら本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売するためには、マーベラスの協力を得る必要があった。しかるに、マーベラスは、被上告人の意向とは異なり、被上告人から本件マンションの引渡しを受けて自らこれを分譲販売することを要望していたというのであるから、被上告人においてマーベラスから上記の協力を得ることは困難な状況にあ 被上告人の意向とは異なり、被上告人から本件マンションの引渡しを受けて自らこれを分譲販売することを要望していたというのであるから、被上告人においてマーベラスから上記の協力を得ることは困難な状況にあったというべきである。これらの事情に照らすと、本件行為の当時、自ら本件マンションを分譲販売する方法によって本件債権を回収するという被上告人の利益は、単なる主観的な期待にすぎないものといわざるを得ず、法的保護に値するものとなっていたということはできない。 以上によれば、本件行為は、上記利益を侵害するものとして本件債権を違法に侵害する行為に当たるということはできない。 5 これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記事実関係及び上記4に説示したところに照らせば、本件行為は、被上告人の権利又は法律上保護される利益を侵害するものではなく、被上告人の上告人らに対する請求は、いずれも理由がないことが明らかであるから、第1審判決中上告人らに関する部分を取り消し、上記請求をいずれも棄却すべきである。 よって、裁判官岡正晶、同堺徹の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官岡正晶の反対意見は、次のとおりである。 1 私も、本件行為は本件債権を違法に侵害する行為に当たるとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決は破棄を免れないとの多数意見に賛同するものである。しかし、被上告人の上告人らに対する請求は、いずれも理由がないことが明らかであるとして、第1審判決中上告人らに関- 5 -する部分を取り消し、上記請求をいずれも棄却するとの多数意見には賛同することができない。 2 原審 に対する請求は、いずれも理由がないことが明らかであるとして、第1審判決中上告人らに関- 5 -する部分を取り消し、上記請求をいずれも棄却するとの多数意見には賛同することができない。 2 原審の確定した事実によれば、被上告人が本件行為までに本件マンションの所有権を取得していたと認められる蓋然性が高い。被上告人が本件マンションの所有権を取得していたとすれば、次のとおり、被上告人は、所有物である本件マンションを本件敷地に係る敷地利用権付き区分所有建物として分譲販売する利益を有しており、この利益は、民法709条にいう法律上保護される利益と評価することが相当と考える。 原審の確定した事実によれば、①本件マンションは、マーベラスが、敷地利用権付きで分譲販売する計画の下に、本件敷地の所有権を取得の上、被上告人との間で本件契約を締結して建築された、②マーベラスは、本件行為までに、本件マンションの10戸の居室について敷地利用権付きで第三者と売買契約を締結し、うち6戸については買主から売買代金の全額を受領した、③本件マンションは、敷地利用権付きでなければ、第三者に分譲販売することはできない、④マーベラスは、被上告人に対し、平成28年6月30日を期限とする約定の中間金1億5000万円を支払うことができず、同年7月27日、被上告人のために本件敷地に極度額を6000万円(本件敷地の交換価値の全部を把握するもの)とする根抵当権を設定し、その旨の登記がされた、⑤被上告人は、マーベラスの代金支払の遅滞が続いたこと等を受け、平成29年2月15日に本件工事を中止し、同月17日には本件マンションを自社管理物件とし、以後、本件マンションを敷地利用権付きで自ら分譲販売することとした、⑥マーベラスは、同年3月に本件マンションの引渡しを受けて自社で敷地利用権とともに一棟売 7日には本件マンションを自社管理物件とし、以後、本件マンションを敷地利用権付きで自ら分譲販売することとした、⑥マーベラスは、同年3月に本件マンションの引渡しを受けて自社で敷地利用権とともに一棟売りさせてほしい旨要望したが、被上告人は、これに応じず、遅くとも同月22日までにはマーベラスについて債権者破産を申し立てる方針を決めたというのであり、また、⑦被上告人は、マーベラスにつき破産手続を開始させた場合、その破産管財人との協議により、被上告人が本件敷地の譲渡を受けるなどして、本件マンションの敷地利用権付き分譲販売が可能になることが相当程- 6 -度見込まれたことがうかがわれる(その後、現実に、被上告人はマーベラスの破産管財人から本件敷地の譲渡を受けた。)。 これらの事実関係等を前提とすれば、本件敷地の所有者であり本件契約の相手方当事者でもあるマーベラスは、本件マンションの所有者である被上告人に対し、被上告人が本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売することに協力する義務、少なくとも本件敷地の所有権を正当な理由なく第三者に移転するなどして、その分譲販売を妨害しない義務を、信義則上の義務として負っていたと解することが相当である。なぜなら、現行法令上、建物とその敷地である土地は別個の不動産であり、各所有者は各不動産を自由に使用、収益及び処分する権利を有するのが原則であるが(なお、建物の区分所有権と敷地利用権については原則として分離して処分することができないと法律上定められている。建物の区分所有等に関する法律22条参照)、上記事実関係等の下では、被上告人において、本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売する方針を決め、これが可能となる相当程度の見込みがある状況にあり、マーベラスにおいては、本件代金の支払を遅延することで被上告人がこの方針を決 告人において、本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売する方針を決め、これが可能となる相当程度の見込みがある状況にあり、マーベラスにおいては、本件代金の支払を遅延することで被上告人がこの方針を決める原因を作出した上、被上告人の上記状況を認識していたとうかがわれるのであるから、本件行為の当時、信義則上、被上告人は、マーベラスとの関係において、本件マンションの所有権に基づき本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売する利益を有していたというべきであり(本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売することができなければ本件マンションの所有権に基づく利益に大きな制約が生ずる。)、他方、マーベラスが有する本件敷地についての所有権に基づく権利は、被上告人の上記利益との関係においては、一定の限度で制限を受けざるを得ないと解されるからである。 そうすると、本件行為の当時における、被上告人の本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売する利益は、単なる主観的な期待にすぎないというものではなく、民法709条にいう法律上保護される利益と評価することが相当なものというべきである。 - 7 - 3 原審の確定した事実によれば、①上告人らは、被上告人が本件債権の回収を円滑に進めるためには、本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売するしかない状況にあることを知りながら、あえて経済的合理性のない本件行為をマーベラスと共同で行ったものであり、②本件行為の目的は、専ら、被上告人による本件マンションの敷地利用権付き分譲販売等を困難にすることにより、事実上被上告人から譲歩を引き出すことにあったと認めるほかはなく、③上告人Y1は上告人会社の経営者(代表者)であり本件行為を主導したことが推認され、④本件行為によって、被上告人による本件マンションの敷地利用権付き分譲販売は、本件行為がマ あったと認めるほかはなく、③上告人Y1は上告人会社の経営者(代表者)であり本件行為を主導したことが推認され、④本件行為によって、被上告人による本件マンションの敷地利用権付き分譲販売は、本件行為がマーベラスの破産管財人の否認権行使によって覆滅されるまで、現実に、開始することができなかったというのである。 本件行為は、正に、被上告人の本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売するという利益を直接的かつ積極的に妨害する意図で、マーベラスと上告人らが共同して行ったものであり、その結果、被上告人は、本件行為がなかったとすれば、マーベラスの破産管財人との協議を経て本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売することができたと見込まれる時期から、本件行為が同破産管財人の否認権行使によって覆滅され、現実に本件マンションの敷地利用権付き分譲販売を開始するまでの間、分譲販売の時期を遅延させられた。そして、この間、被上告人は、本件マンションの占有、維持管理の費用負担を強いられ、また、本件マンションの価値が減少するという損害を受けたというのであるから、本件行為により、被上告人は、本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売する利益を侵害されたというべきである。 そうすると、被上告人の本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売する利益が民法709条にいう法律上保護される利益と評価できる場合には、マーベラスと上告人らが共同で行った本件行為は、故意に、被上告人の法律上保護される利益を侵害した民法719条の共同不法行為に当たるということができる。 4 以上のとおり、被上告人が本件行為までに本件マンションの所有権を取得していたことが認められれば、上告人らによる本件行為が、被上告人に対する共同不- 8 -法行為に当たる可能性が認められる。そして、本件行為が本件マンションの所有権 までに本件マンションの所有権を取得していたことが認められれば、上告人らによる本件行為が、被上告人に対する共同不- 8 -法行為に当たる可能性が認められる。そして、本件行為が本件マンションの所有権に対する侵害に当たるとの主張は被上告人によって第1審以来なされていたにもかかわらず、原審はこの点につき審理を尽くしていない。 よって、被上告人が本件行為までに本件マンションの所有権を取得していたか、その場合、上記2、3の事情を含む本件事実関係等の下において、上告人らによる本件行為が被上告人に対する共同不法行為に当たると評価し得るか、被上告人の本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売する利益について生じた損害のうち本件行為と相当因果関係のある損害は何か、損害額の認定につき民事訴訟法248条を適用せざるを得ないかなどの点につき、更に審理を尽くさせるため、本件は原審に差し戻すのが相当と考える。 裁判官堺徹の反対意見は、次のとおりである。 私は、多数意見とは異なり、上告人会社においてマーベラスから本件マンションの敷地(本件敷地)の所有権の移転を受け、「売買」を原因とする所有権移転登記手続をした行為(本件行為)が、被上告人の不法行為法上の法的保護に値する利益を違法に侵害する行為に当たるとして被上告人の請求を認容した原審の判断は、結論において正当であり、上告を棄却すべきものと考える。以下にその理由を述べる。 1 まず、不法行為による損害賠償責任成立の要件としての「権利又は法律上保護される利益」について述べることとする。 多数意見は、その4に記載のとおり、被上告人は、自ら本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売することによって本件契約における請負代金(本件代金)に係る債権(本件債権)を回収することとしていたが、そのためには、本件敷地を所有している 被上告人は、自ら本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売することによって本件契約における請負代金(本件代金)に係る債権(本件債権)を回収することとしていたが、そのためには、本件敷地を所有しているマーベラスから協力を得ることが必要であったにもかかわらず、それが困難な状況にあったから、自ら本件マンションを分譲販売する方法によって本件債権を回収するという被上告人の利益は、単なる主観的な期待にすぎないもので、法的保護に値するものではなかったとの判断を示して、本件行為は本件債権を違法- 9 -に侵害する行為には当たらないとした。 しかしながら、原審が適法に確定した事実関係によれば、平成29年3月にマーベラスについて破産手続開始の申立てをする旨の方針を決めた被上告人は、その方針どおりに裁判所に破産手続開始の申立てを行い、破産手続開始決定がされた後の同年9月、マーベラスの破産管財人は、上告人会社に対して本件敷地について破産法による否認の登記手続を求めて訴え(以下「別件否認訴訟」という。)を提起し、平成30年7月、被上告人は、同破産管財人との間で、別件否認訴訟の結果、マーベラスが本件敷地の所有権を回復したときは、マーベラスが被上告人に対し本件敷地等を6600万円で売却することなどを内容とする合意(以下「本件合意」という。)に至り、本件合意に関して破産裁判所の許可を得た上、令和元年9月、別件否認訴訟において同破産管財人の請求を認容する旨の判決が確定したことにより、マーベラスが本件敷地の所有権を回復したので、被上告人は、本件合意に基づき、マーベラスから本件敷地等を買い受けることができたというのである。 以上により、被上告人は、本件債権を回収するために本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売することができるようになったところ、それまでの経緯等に照ら 敷地等を買い受けることができたというのである。 以上により、被上告人は、本件債権を回収するために本件マンションを敷地利用権付きで分譲販売することができるようになったところ、それまでの経緯等に照らすと、被上告人が破産手続開始の申立てをする旨の方針を決めた際に考えていた本件債権の回収方法は、破産手続の過程でマーベラスの破産管財人との協議により、若干の金員を破産財団に組み入れるのと引き換えに本件敷地(交換価値の全部を把握する根抵当権が設定されていたため、財団財産としては無価値)を譲り受ける旨の合意を成立させ、その後に被上告人が本件マンションを分譲販売して本件債権を回収するというものであったと理解される。 もとより、本件行為が行われた時点においては、マーベラスについて破産手続開始の申立てはされておらず、かつ、破産手続開始決定後にマーベラスの破産管財人との協議により被上告人が企図していたような合意(本件合意と同様の内容のもの)が成立し、被上告人の考えていた本件債権を回収する方法の実現が確実であるとまでいうことはできなかった。 - 10 -もっとも、本件行為がなければ、被上告人がマーベラスについて破産手続開始の申立てをすることによって、マーベラスの破産管財人が本件敷地を管理することになり、被上告人は、本件マンションを分譲販売するために、別件否認訴訟の結果を待つ必要がないこと、現に本件合意が成立していること、本件行為が行われた以降に予想外の事態が発生したと認めるべき事情がうかがわれないこと等にも照らせば、破産手続を利用した債権者の債権回収方法としては通常と異なるといえるものの、被上告人が本件敷地の所有権を得て債権回収のために本件マンションを分譲販売する道筋を作ることは、「単なる主観的な期待」にはとどまらず、客観的にも期待できるものであり、以下 常と異なるといえるものの、被上告人が本件敷地の所有権を得て債権回収のために本件マンションを分譲販売する道筋を作ることは、「単なる主観的な期待」にはとどまらず、客観的にも期待できるものであり、以下のに述べるところも加味すれば、法的に保護するに値する利益であると考えられる。 いわゆる「契約締結上の過失」に関し、契約締結前であっても、状況に応じて、契約交渉の相手方を信頼した者に信義誠実の原則(民法1条2項)に照らして法的保護が与えられるべきとされている。他方、原審が適法に確定した事実関係によれば、本件においては、被上告人は、既にマーベラスと本件契約を締結し、本件契約に基づく自己の債務の履行として、また、約定金1億5000万円が支払われていなかったがマーベラスによる本件マンションの分譲販売が進んでいたため、建築請負人としての義務感から、本件マンションをほぼ完成させており、本件契約に基づく権利を有し義務を負っていたというのである。このようなマーベラスと被上告人の関係からは、被上告人がマーベラスとの間で本件債権の回収方法について格別の合意に至っていないとしても、信義誠実の原則に照らして、自ら本件マンションを分譲販売する方法によって本件債権を回収するという被上告人の利益について、契約締結上の過失における交渉の相手方に対する信頼以上の法的保護が与えられてしかるべきであり、上記利益が「権利又は法律上保護される利益」に当たらないとして被上告人に不法行為法上の法的保護が与えられないというのは、首肯し難い。 2 次に、本件行為の悪質性について述べることとする。 - 11 -原審が適法に確定した事実関係によれば、上告人らは、本件行為において、登記原因を「売買」としているものの、真実は売買契約はないのであって、虚偽の登記の申請をし、登記簿原本(登記記 。 - 11 -原審が適法に確定した事実関係によれば、上告人らは、本件行為において、登記原因を「売買」としているものの、真実は売買契約はないのであって、虚偽の登記の申請をし、登記簿原本(登記記録)に不実の記録をさせたというのであるから、刑罰法規に触れる可能性もある。しかも、本件行為は、マーベラスにとっても上告人らにとっても何ら正当な経済的合理性がないにもかかわらず、本件マンションの分譲販売を困難にすることにより、被上告人から譲歩を引き出すことを専らの目的として行った身勝手極まりないものである。 また、被上告人がマーベラスについて破産手続開始の申立てをするのは、法律で認められた正当な権限行使であるにもかかわらず、本件行為の時点において、未だ被上告人との契約の当事者であるマーベラスが、被上告人の本件債権の回収に協力しないだけでなく、上告人らと意を通じて、被上告人による破産手続開始申立て前にあえて本件行為に及ぶことは、およそ信義則上許されるべきものではない。 以上のとおりであるから、本件行為は、社会的妥当性を全く欠いた悪質な行為と評価せざるを得ない。 3 次に、上告人らの損害賠償責任について述べることとする。 本件行為により、マーベラスの破産管財人において別件否認訴訟を提起する必要が生じ、別件否認訴訟の判決が確定するまで約2年の期間を要したため、被上告人の考えていた本件債権の回収方法の実現が遅れたが、これは、本件債権の回収を妨害するという上告人らが意図した内容に合致する結果であり、マーベラスや上告人らが本件行為に及んだため、被上告人は、新築マンションの分譲販売にとって極めて重要な期間である、新築から間もない約2年もの間、本件マンションの分譲販売によって本件債権を回収するという期待の実現を阻害され、本件マンションの価値が大きく低下して ンションの分譲販売にとって極めて重要な期間である、新築から間もない約2年もの間、本件マンションの分譲販売によって本件債権を回収するという期待の実現を阻害され、本件マンションの価値が大きく低下してしまったといえる。 以上のとおりであるから、仮に、本件行為がなかったならば、被上告人は、本件マンションの分譲販売に向けて約2年早く動き出すことができ、本件マンションの価値の低下を免れるとともに、本件マンションの管理に係る余分な経費の支出を免- 12 -れたといえるのであるから、本件行為は、被上告人に損害を与えたというべきであり、上記2のとおり、本件行為の悪質性が高いのであるから、本件債権という被侵害利益が不法行為法上それほど強固なものでないと評価されるとしても、本件行為に違法性が認められ、上告人らは共同して不法行為責任を負うというべきである。 もとより、このように判断することによって、我が国において積み重ねられてきた不法行為法の法的安定性が揺らぐことになるとも思われないから、悪質性の高い本件行為に及んだ上告人らについて共同不法行為責任が認められるべきであると考えるのである。 4 次に、損害額について述べることとする。 原審は、「本件行為により余分に支出されたと認められる維持管理費用合計1340万円余は、本件行為により生じた損害と認めることができる。」とした上、「分譲販売が遅れたために本件マンションの価値が低下した損害もあるところ、マーベラスによる分譲販売と被上告人による分譲販売は、分譲条件が異なるものの、分譲条件の相違によりどの程度価値が低下したのかを認めるに足りる的確な証拠はないから、具体的な損害額を認定するのは困難であるので、民訴法248条を適用し、前記1340万円余に加え、分譲販売が遅れた期間、売り出し価格の値下げ額その他の口頭弁 のかを認めるに足りる的確な証拠はないから、具体的な損害額を認定するのは困難であるので、民訴法248条を適用し、前記1340万円余に加え、分譲販売が遅れた期間、売り出し価格の値下げ額その他の口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を踏まえ、本件行為による相当な損害額は全部で1億円を下ることはない。」旨判示した。 原審が適法に確定した事実関係によれば、被上告人は、令和元年11月、本件マンションの販売価格を合計1億7281万円余も下げて分譲販売を開始したにもかかわらず、原審口頭弁論終結時点(令和3年6月15日)においても、わずか5戸を売り上げたにとどまっているというのである。このように、大幅に値下げしても販売が困難な状況にあることに照らしても、本件行為による本件マンションの価格落ちは著しく、原審が判示するように、損害額の立証が極めて困難であることから、民訴法248条を適用して損害額を認定すべきであると考えられる。 そして、同条にいう「相当な損害額」の認定については、合理的な根拠をもって- 13 -実際に生じた損害額に最も近いと推測できる金額を相当とすべきと考えるところ、それでも本件における「相当な損害」の認定は容易ではないが、原審が認定した「損害額は1億円を下らない」との認定が明らかに誤っているとはいえないと考えるので、この点につき当審があえて原審の判断に介入すべきとは思われない。 5 以上のとおりであるから、上告を棄却すべきものと考える。 (裁判長裁判官深山卓也裁判官山口厚裁判官安浪亮介裁判官岡正晶裁判官堺徹)

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