平成18(行ウ)14 輸送施設使用停止処分等取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年2月13日 大阪地方裁判所 公物・公企業など
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判決文本文22,805 文字)

主文 近畿運輸局長が,原告に対し,平成17年7月28日付けでした輸送施設使用停止命令処分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求主文同旨。 第2事案の概要等 事案の概要本件は,一般旅客自動車運送事業等を営む原告が,近畿運輸局長から道路運送法40条の規定に基づき輸送施設使用停止命令処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから,原告が,同法16条1項違反の事実の有無を争うほか,理由付記不備を主張して,同処分の取り消しを求めている抗告訴訟である。 法令等の定め(1)道路運送法は,一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は国土交通大臣の許可を受けなければならず(4条1項),この許可を受けようとする者は,国土交通省令で定める事項に関する事業計画を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならないこと(5条1項3号),一般旅客自動車運送事業者が事業計画の変更をしようとするときは原則として国土交通大臣の認可を受けなければならないこと(15条1項),天災その他やむを得ない事由がある場合のほか,一般旅客自動車運送事業者は事業計画に定めるところに従いその業務を行わなければならないことを定めている(16条1項)。そして,国土交通大臣は,一般旅客自動車運送事業者が,①道路運送法若しくは同法に基づく命令若しくはこれらに基づく処分又は許可若しくは認可に付した条件に違反したとき,②正当な理由がないのに許可又は認可を受けた事項を実施しないとき,③7条1号,3号又は4号に該当する こととなったときには,6月以内において期間を定めて自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用の停止若しくは事業の停止を命じ,又は許可を取り消すことができるものとされている(40条)。 (2)一般乗用旅客自動車事業 ,6月以内において期間を定めて自動車その他の輸送施設の当該事業のための使用の停止若しくは事業の停止を命じ,又は許可を取り消すことができるものとされている(40条)。 (2)一般乗用旅客自動車事業について,道路運送法40条に基づく処分を行う国土交通大臣の権限は,同法88条2項,道路運送法施行令1条2項により地方運輸局長(以下,国土交通大臣と合わせて「国土交通大臣等」という。)に,事業計画変更の認可をする国土交通大臣の権限は同法88条3項,同令1条3項1号(平成18年政令第239号による改正前のもの。現行令同条4項1号に相当する。)により運輸監理部長又は運輸支局長に委任されている。 (3)国土交通省令である道路運送法施行規則(以下「施行規則」という。)4条4項(平成18年国土交通省令78号による改正前のもの。現行規則同条8項に相当する。)は,道路運送法5条1項3号の事業計画のうち一般乗用旅客自動車運送事業に係るものには,①営業区域,②主たる事務所及び営業所の名称及び位置,③営業所ごとに配置する事業用自動車の数並びにその種別ごとの数等,④自動車車庫の位置及び収容能力を記載すべきことを定めている。 前提事実(争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,書証番号は特記しない限り枝番を含む。)(1)当事者ア原告は,一般乗用旅客自動車運送事業等を業とするタクシー会社であり,本社営業所のほか,堺市内に堺営業所を置いており,平成17年4月14日現在,堺営業所に事業用自動車66台を配置していた(争いがない)。 イ堺営業所における事業計画書は,平成17年5月16日時点において,下記のとおりであった(乙2)。 (ア)自動車車庫の位置及び収容能力 a堺市α-××-1無蓋791.34㎡66両b堺市β××無 おける事業計画書は,平成17年5月16日時点において,下記のとおりであった(乙2)。 (ア)自動車車庫の位置及び収容能力 a堺市α-××-1無蓋791.34㎡66両b堺市β××無蓋72.6㎡6両(イ)営業所別配置車両数堺営業所66両(2)監査等の実施ア近畿運輸局職員は,平成17年5月19日,堺営業所の監査を行い,原告堺営業所運行管理者(原告営業課長)Aに対し,以下の事項を指摘した(乙4)。 (ア)営業所に配置されている事業用自動車を自動車運転者に持ち帰らせていた。 (イ)乗務等の記録が確実になされていなかった。 (ウ)乗務員の健康状態の把握がなされていなかった。 (エ)乗務員台帳に記載もれがあった。 (オ)運転者に対して適切な指導監督を行っていなかった。 (カ)点検基準に基づく定期点検整備が実施されていなかった。 (キ)点検基準に基づく日常点検が確実に実施されていなかった。 (ク)点呼が確実に実施されていなかった。 (ケ)運行記録計による記録が確実に行われていなかった。 イ近畿運輸局長は,同年6月17日付け書面(近運監一第109号,近運技安第213号)をもって,原告に対し,行政手続法30条に基づき,下記のような内容の弁明の機会を付与するとの通知(以下「本件付与通知」という。)をした(乙7)。 記 予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項道路運送法第40条に基づく事業用自動車の使用停止処分 不利益処分の原因となる事実 平成17年5月19日に実施した堺営業所においての重点監査による。 (1)営業所に配置されている事業用自動車を自動車運転者に持ち帰らせていた。(運送法第16条第1項違反)(2)乗務員の健康状態の把握がされていなかった。(運輸規則第21条第3項違反)(3) (1)営業所に配置されている事業用自動車を自動車運転者に持ち帰らせていた。(運送法第16条第1項違反)(2)乗務員の健康状態の把握がされていなかった。(運輸規則第21条第3項違反)(3)点呼が確実に実施されていなかった。(運輸規則第24条第1項~2項違反)(4)乗務等の記録が確実になされていなかった。(運輸規則第25条第2項,第3項違反)(5)乗務員台帳に記載漏れがあった。(運輸規則第37条第1項違反)(6)運転者に対して,適切な指導監督を行っていなかった。(運輸規則第38条第1項違反)ウ原告は,平成17年6月30日,近畿運輸局長に対し,本件付与通知記載の不利益処分の原因となる各事実について個別に反論する内容の弁明書2通を提出した(乙5)。 (3)本件処分等ア近畿運輸局長は,平成17年7月28日,原告に対し,道路運送法40条の規定に基づき下記の内容の本件処分をし,「命令書」と題する書面(近運監一第163号,近運技安第324号。以下「本件命令書」という。 甲1)を交付した(甲1,弁論の全趣旨)。 記 使用を停止する輸送施設①自動車運送事業用の事業用自動車14両②自動車運送事業用の事業用自動車1両 使用を停止する期間 ①上記1①の車両について,同年8月15日から同月18日までの4日間。 ②上記1②の車両について,同月10日から同月18日までの9日間。 理由 道路運送法第16条第1項,旅客自動車運送事業運輸規則第21条第3項,同第24条第1項,第2項,同第25条第2項,第3項,同第37条第1項,同第38条1項違反イ近畿運輸局長は,同日,原告に対し,上記本件命令書の交付と同時に「一般乗用旅客自動車運送事業にかかる改善事項について」と題する書面(近運監一第163号の2,近運技安第324 ,同第38条1項違反イ近畿運輸局長は,同日,原告に対し,上記本件命令書の交付と同時に「一般乗用旅客自動車運送事業にかかる改善事項について」と題する書面(近運監一第163号の2,近運技安第324号の2。以下「本件改善事項書」という。)を交付した(甲2,弁論の全趣旨)。 本件改善事項書には,「貴社の経営する一般乗用旅客自動車運送事業について,平成17年5月19日堺営業所において重点監査を実施したところ,下記のとおり改善を要すべき事項が認められた。これは,道路運送法の目的とする道路運送事業の健全な発達を阻害し,ひいては公共の福祉に反するものであり,誠に遺憾である。よって,下記に指摘する事項について,すみやかに改善を図り,その結果を平成17年10月27日までに大阪運輸支局を経由して,当局へ文書をもって報告されたい。なお,これらの事項が適正に改善されない場合は,さらに必要な行政措置を講ずることを申し添える。」との文言の後に下記の記載がなされていた。 記 運転者に対して,適切な指導監督を行っていなかった。(旅客自動車運送事業運輸規則第38条第1項違反) 営業所に配置されている事業用自動車を自動車運転者に持ち帰らせていた。(道路運送法第16条第1項違反) 乗務員の健康状態の把握がなされていなかった。(旅客自動車運送事業運輸規則第21条第3項違反) 点呼が確実に実施されていなかった。(旅客自動車運送事業運輸規則第24条第1項,第2項違反) 乗務等の記録が確実になされていなかった。(旅客自動車運送事業運輸規則第25条第2項,第3項違反) 運行記録計による記録が確実に行われていなかった。(旅客自動車運送事業運輸規則第26条第2項違反) 乗務員台帳に記載漏れがあった。(旅客自動車運送事業運輸規則第37条第1項違反) 点検 運行記録計による記録が確実に行われていなかった。(旅客自動車運送事業運輸規則第26条第2項違反) 乗務員台帳に記載漏れがあった。(旅客自動車運送事業運輸規則第37条第1項違反) 点検基準に基づく日常点検が確実に実施されていなかった。(旅客自動車運送事業運輸規則第45条違反) 点検基準に基づく定期点検が確実に実施されていなかった。(旅客自動車運送事業運輸規則第45条第1号違反)ウ近畿運輸局長は,本件使用停止処分をする際,「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について」と題する公示(近運監一公示第6号,近運自二公示第51号,近運技安公示第8号。以下,「処分基準公示」という。乙1の3)及び「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する違反条項ごとの行政処分等の基準について」と題する公示(近運監一公示第7号,近運自二公示第52号,近運技安公示第9号。以下,「個別基準公示」という。乙1の4。以下,処分基準公示と個別基準公示をあわせたものを「本件各基準公示」という。)に基づいて,本件処分を行った(乙8)。 エ処分基準公示の主な定めは,以下のとおりである(乙1の3)。 (ア)違反及び同一違反事項の再違反(処分等〔行政処分並びに口頭注意,勧告及び警告をいう。以下同じ。〕を受けた者が当該処分等を受けた日 から3年以内に同一営業所においてさらに同一の事項に違反した場合をいう。)並びに再々違反以上の累違反については,原則として,個別違反基準公示により処分等を行うものとする(乙1の3の1(2))。 (イ)道路運送法40条等の規定による自動車等の使用停止を行うべき違反行為を行った一般乗用旅客自動車運送事業者には,自動車等の使用停止処分の日車数10日車までごとに1点の違反点数を付する(同2(1))。 (ウ)違反点数の累計期間 る自動車等の使用停止を行うべき違反行為を行った一般乗用旅客自動車運送事業者には,自動車等の使用停止処分の日車数10日車までごとに1点の違反点数を付する(同2(1))。 (ウ)違反点数の累計期間は3年間とし,行政処分を行った日から3年を経過する日をもって当該違反点数は消滅する(同2(4)柱書本文)。 (エ)複数の違反行為がある場合の自動車等の使用停止処分に係る処分日車数は,指導監督義務違反のうち,その最も重い違反の処分日車数にその他の違反の処分日車数の2分の1をそれぞれ加えた数と,指導監督義務違反以外の違反のうちその最も重い違反の処分日車数にその他の違反の処分日車数の2分の1をそれぞれ加えた数との合計とする(同3(3))。 (オ)上記(エ)の処分日車数における処分車両数及び処分期間の配分と決定は,原則として処分権者が別途定める基準によって行うものとされている(3(4))。そして,その基準である「『一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について』の解釈運用について」(以下「本件解釈運用基準」といい,処分基準公示と一体として運用されている。乙1の3。)3(3)によれば,処分対象車両数は,当該営業所の配置車両数の15%(処分日車数が51日車以上200日車未満の場合は20%,200日車以上の場合は25%)とし,処分期間は処分日車数を処分対象車両数で除した数(端数は切捨て)とし,処分日車数に余りが生じた場合は,対象車両1両について当該余りに相当する日車数の使用停止をさらに行うものとされている。 (カ)事業の停止処分は,a近畿運輸局管内の一の運輸支局等の管轄区域内において違反点数の累計が50点を超えた場合,b近畿運輸局の管轄区域内において違反点数の累計が100点を超え,かつ,当該超えた日以前3年間に近畿運輸局の管轄区域 輸局管内の一の運輸支局等の管轄区域内において違反点数の累計が50点を超えた場合,b近畿運輸局の管轄区域内において違反点数の累計が100点を超え,かつ,当該超えた日以前3年間に近畿運輸局の管轄区域においてaにより事業停止命令を受けていない場合,c事業者単位で違反点数の累計が200点を超え,かつ,当該超えた日以前3年間にa又はbにより事業停止命令を受けていない場合,d道路運送法第4条第1項の規定に違反して無許可経営をした場合に,原則として,当該違反行為に係る営業所に対して行うものとする(乙1の3の4(1))。 (キ)許可の取消処分は,a近畿運輸局管内の一の運輸支局等の管轄区域内のみにおいて営業区域を有する事業者について,違反点数の累計が80点を超えた場合,b近畿運輸局の管轄区域内のみにおいて営業区域を有する事業者(aに掲げるものを除く。)について,違反点数の累計が160点を超え,かつ,当該超えた日以前3年間に近畿運輸局の管轄区域内で同局管内の一の運輸支局等の管轄区域内における違反点数の累積により営業区域の廃止に係る事業計画の変更命令を受けている場合,ca,b以外の事業者について,違反点数の累計が320点を超え,かつ,当該超えた日以前3年間に近畿運輸局の管轄区域内における違反点数の累積により営業区域の廃止に係る事業計画の変更命令を受けている場合等,11の事由のいずれかに該当することとなったときに行うものとする(同6)。 オ個別基準公示の定めは,別紙のとおりである。 カ上記処分基準公示及び個別基準公示は,行政手続法12条に基づく処分基準として定められたものである(弁論の全趣旨)。 (4)原告は,平成17年9月28日,本件処分を不服として,国土交通大臣に対し,審査請求をしたが,同大臣は,同請求後3か月を経過しても裁決を しなかった て定められたものである(弁論の全趣旨)。 (4)原告は,平成17年9月28日,本件処分を不服として,国土交通大臣に対し,審査請求をしたが,同大臣は,同請求後3か月を経過しても裁決を しなかったことから(なお,同大臣は,平成18年5月8日付けで原告の上記審査請求を棄却する裁決をした。乙10),原告は,平成18年1月26日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 本案前の争点及び当事者の主張本案前の争点は,本件処分の取消を求める訴えの利益の存否である。 [被告の主張](1)取消訴訟は,違法な行政処分の法的効果により自己の権利利益を侵害されている者が,その法的効果を除去することによって,その法的利益を回復することを目的とする訴訟であるから,処分の効果が期間の経過等の理由により消滅した後は,処分自体の効力が失われてもその取消しを求めなければ回復できないような法律上の不利益が残存しているときであって初めて,訴えの利益(狭義)が認められる(行政事件訴訟法9条1項括弧書参照)。 原告は,使用停止期間(平成17年8月18日まで)が満了して本件処分の効果が消滅しても,本件各基準公示(乙1)において,本件処分を受けた事実が道路運送法40条等に基づく将来の処分の加重要件とされていることから,本件処分の取消を求めなければ回復できないような法律上の不利益が残存していると主張する。 しかし,上記の本件各基準公示は,通達(いわゆる行政規則)であり,内部的に下級行政機関を拘束する効果を有するにすぎず,国民の権利,利益に影響を及ぼす法規範としての「法令」と解することはできないから,本件処分によって原告が受けていると主張する不利益は事実上のものにすぎない。 したがって,原告の主張する上記不利益が存在していたとしても,本件処分の取消しを求めなければ回復できないような法 ないから,本件処分によって原告が受けていると主張する不利益は事実上のものにすぎない。 したがって,原告の主張する上記不利益が存在していたとしても,本件処分の取消しを求めなければ回復できないような法律上の不利益が残存しているということはできない。 (2)よって,本件訴えは,訴えの利益を欠き,不適法である。 [原告の主張] (1)本件処分は,平成17年8月18日の経過により効果が消滅している。 しかし,道路運送法40条に基づく処分の基準である本件各基準公示は,「法令違反による点数制度」を設け,「処分日車数10日車までごとに1点とする違反点数を付すもの」とし(乙1の3の2(1)),「違反点数の累計が50点を超えた場合」は「事業の停止処分」になり(同4(1)ア),「違反点数の累計が80点を超えた場合」は「事業免許の取消処分」に至る(同6(1))ものとしており,また,処分の日から3年を経過するまで違反点数は消滅しないとしている(同2(4))。原告は,本件処分により7点(4日×14台+9日×1台=65日車)の違反点数を付されたので,その違反点数が残存する限り,これを理由として,道路運送法上不利益に取り扱われるおそれがある。 したがって,本件処分の効果が期間の経過により消滅しても,上記違反点数が残存している限り,原告が,本件処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有することは明白である。 (2)この点,被告は,本件各基準公示は単なる事実上の基準であり,「法令」にあたらないという形式的理由に基づき,上記不利益が法律上の利益とはいえないとして,訴えの利益を否定している。 しかし,本件各処分基準公示は,法40条の規定を補充し,法と一体となって国民(事業者)を拘束するものであることは法の規定に照らして明らかであり,この限りでは,実質的に法規範性 の利益を否定している。 しかし,本件各処分基準公示は,法40条の規定を補充し,法と一体となって国民(事業者)を拘束するものであることは法の規定に照らして明らかであり,この限りでは,実質的に法規範性を有しているから,本件各基準公示に基づいて処分の加重事由として考慮されるという不利益は,行政事件訴訟法9条1項括弧書の「法律上の利益」に含まれる。 (3)よって,本件訴えは,本件処分の期間満了によっても訴えの利益が消滅しない。 本案の争点及び当事者の主張(1)本案の争点は以下の三点である。 ア本件処分は,理由提示義務違反により,行政手続法14条1項本文に違反するかどうか(本案の争点1)。 イ原告の自動車運転者が,事業用車両の屋上表示灯を取り外し前面表示器を消灯するなどした状態で同車両を通勤利用していることが,事業計画書記載の車庫位置に同車を駐車させていなかったことにあたり,法16条1項に違反するかどうか(本案の争点2)。 ウ本件処分は,適正・公正手続に違反するかどうか(本案の争点3)。 (2)理由提示義務違反の存否(本案の争点1)について[原告の主張]ア行政手続法14条は,不利益処分を書面で行う場合には,その理由を書面で示さなければならないと定めているところ,理由の提示としては該当法条を示すだけでは不十分であり,該当する事実関係を示さなければならない。 しかし,本件命令書(甲1)には,理由として,道路運送法16条1項及び施行規則等の条項を掲記し,これに違反している旨の指摘をするのみであり,いかなる事実をもって処分の対象とするのかの記載がなく,理由付記の不備により違法である。 イこの点,被告は,本件命令書と同時に交付された本件改善事項書(甲2)において,道路運送法16条1項等違反の具体的事実が明示されており,理由付記の の記載がなく,理由付記の不備により違法である。 イこの点,被告は,本件命令書と同時に交付された本件改善事項書(甲2)において,道路運送法16条1項等違反の具体的事実が明示されており,理由付記の不備はないと主張する。しかし,本件改善事項書は,その表題からすれば法16条2項に基づく改善命令書であり,本件処分とは別の法条を根拠としてなされた別個の行政処分であり,これらの処分はその目的を異にするものである以上,本件改善事項書から本件処分の理由が推知されるとしても理由付記がなされたとはいえない。 よって,本件処分は,理由付記の不備により違法である。 [被告の主張] 原告の主張は,争う。 ア理由提示の程度行政手続法14条が処分理由の提示を要求した趣旨は,①処分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,②処分の理由を相手方に知らせて不服の申し立てに便宜を与える点にあると解される。 そして,理由提示の内容及び程度としては,特段の理由のない限り,いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを,処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならず,単に根拠規定を示すだけでは,それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然に知りうるような場合を別として,法の要求する理由提示としては十分でないとされている。 もっとも,行政手続法14条の上記のような趣旨からすれば,相手方が処分理由を推知しうる場合には,上記②の観点を重視する必要はない。そして,上記①の観点からすれば,行政庁が真しな対応をしているかどうかが問題であるから,法律上の事由と事実上の事由の基本的部分を示せば足り,それ以上の具体的な理由提示は必要がないと解すべきである。 本件処分は,平成17年5月19日の原告堺営業所の重点監査の結果 どうかが問題であるから,法律上の事由と事実上の事由の基本的部分を示せば足り,それ以上の具体的な理由提示は必要がないと解すべきである。 本件処分は,平成17年5月19日の原告堺営業所の重点監査の結果を受けてのものであり,当該監査の際,本件処分の原因となる事実については,原告に対し具体的に示されており,原告も本件処分の原因となった事実関係そのものについては争っていない。また,原告は,理由付記の不備についても本件改善事項書(甲2)の趣旨を争うのみであり,原告が本件命令書及び本件改善事項書の理由の提示によりいかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して本件処分がなされたのかを了知し得なかったという事情は見受けられない。そうだとすれば,原告は,本件命令書及び本件改善事項書に提示された理由からいかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して本件処分がなされたのかをその記載自体から了知できたという べきであり,そうである以上,本件命令書及び本件改善事項書の理由は,理由提示として不十分であるとはいえない。 イ処分基準の提示について行政手続法12条は,行政庁に対して,不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めにしたがって判断するために必要とされる基準(処分基準)をできる限り具体的なものとして定め,これを公にしておくように努めることを義務づけている。同条の趣旨は,処分の相手方に対し,一定の予見可能性を与え,また,行政庁の判断過程の透明性を向上させようとした点にあると考えられていることからすれば,処分基準が公にされている場合には,適用した処分基準をも示すことが望ましいといえる。 もっとも,不利益処分の要件に関する法令の定めは,抽象的なものもあれば,一義的あるいは具体的なものもあり,公にされた処分基準の内容,性質 場合には,適用した処分基準をも示すことが望ましいといえる。 もっとも,不利益処分の要件に関する法令の定めは,抽象的なものもあれば,一義的あるいは具体的なものもあり,公にされた処分基準の内容,性質も個々の事例ごとに異なる。そして,法令の定めが抽象的であり,処分基準がそれを具体化している場合には,当該処分基準のいずれに該当するかが示されなければ,処分庁の判断の慎重・合理性の担保及び相手方の不服申立ての便宜にならない。他方,法令の定めが具体的である場合は,法令の定めに該当する基本的な事実関係が示されれば,処分理由の内容は了知できるし,当該法令の規定を更に具体化した処分基準が,単に,その基本的な事実関係を前提とした不利益処分の軽重の基準を示しているにすぎない場合には,上記の基本的事実関係の提示により,公表されている処分基準を当てはめた結果が自動的に明らかになる以上,処分基準のどれに該当するのかを説明しなくとも理由提示としては十分であるといえる。 ウ本件における検討本件処分の根拠となる道路運送法40条及び同法や旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運輸規則」という。)が定める違反行為の内容は,処分 の対象となる一般乗用旅客自動車運送業者にとっては,容易に理解し得る具体的なものである。 そして,公表されている本件各基準公示は,点数制を採用し,各法令違反行為や初犯・再違反の別,事業者の存する地域等に応じた点数を定め,当該点数(違反行為がいくつかある場合には,各点数等を処分基準の定める一定の方式に当てはめて算出した点数)を本件各基準公示の定める一定の方式に当てはめることによって,具体的な処分の内容が導かれるように定められている。。 そうすると,本件において,適用した処分基準が処分理由として明示されていなかったとしても,法令の定めに該当する基本的 式に当てはめることによって,具体的な処分の内容が導かれるように定められている。。 そうすると,本件において,適用した処分基準が処分理由として明示されていなかったとしても,法令の定めに該当する基本的な事実関係が提示されており,それを公表されている処分基準に当てはめることで自動的に処分の軽重も明らかになる場合である以上,理由の提示は適法になされているというべきである。 エよって,本件処分にあたり,原告に対して示された処分理由の内容は十分なものである以上,本件処分が理由付記の不備により違法であるとはいえない。 (3)道路運送法16条1項違反の存否(本案の争点2)[被告の主張]ア原告堺営業所に対する監査等の実施及びこれによる認定事実(ア)近畿運輸局職員は,平成17年4月14日午後2時ころ,原告堺営業所に対する現地調査を行った。 堺営業所では夜間勤務が多く,昼間は配置車両(当時66台)のほとんどが事業計画記載の自動車車庫に収容されているべきところ,実際には数台しか収容されていなかったこと,屋上表示灯を取り外し前面表示器を消灯するなどした状態(原告が主張する「通勤仕様」の状態)の車両が車庫に入り,その後,通常の仕様に戻された当該車両が出庫したこ とから,堺営業所では,配置された車両の一部を事業計画に定められた自動車車庫に収容せず,各自動車運転者が持ち帰っている事実がうかがわれた。 (イ)近畿運輸局職員は,同年5月18日,堺営業所営業課長に対して,翌日に監査を行うことを通知するとともに,堺営業所の現地調査を行った。 同調査では,上記(第2の5(3)ア(ア))の調査の際に認められたのと同様の事実が認められるとともに,同営業課長から,事業用自動車を運転者が持ち帰っている旨が聴取された。 (ウ)近畿運輸局職員は,同月19日,堺営業所に の5(3)ア(ア))の調査の際に認められたのと同様の事実が認められるとともに,同営業課長から,事業用自動車を運転者が持ち帰っている旨が聴取された。 (ウ)近畿運輸局職員は,同月19日,堺営業所につき監査を行った。 同監査では,営業所に実際に配置されている事業用自動車66台のうち,38台が事業計画に定める自動車車庫に収容されず,各自動車運転者が持ち帰っている事実のほか,本件改善事項書記載の運輸規則違反の各事実が認められた。 イ原告が道路運送法16条1項に違反していること上記アのとおり,堺営業所に対する監査等の結果から,原告が堺営業所に配置された事業用自動車66台のうち38台について,ほぼ毎日,事業計画に定められた車庫に収容せず,各自動車運転者の持ち帰りとすること,すなわち,各自動車運転者の車庫等に収容することを指示ないし容認し,そのような事態が常態化していたことが認められる。 このように,事業計画に定められた車庫に収容せず,別の車庫等に収容することが日常化していた以上,上記38台の車両との関係では,事業計画に定められた車庫が変更された状況になっていたといわざるを得ない。 ところで,道路運送法及び施行規則は,事業計画として「自動車車庫の位置及び収容能力」を記載すべきことを定めており(同法5条,施行規則4条4項),事業者は,事業計画に定めるところに従い業務を行う義務が ある(法16条1項)。そして,自動車車庫は一般に自動車を通常保管するための場所であるから,事業者は,事業計画に定めた自動車車庫に自動車を保管しなければならず,認可を得ることなしにこれを変更すれば,事業計画に定めるところに従い業務を行う義務に違反することになる。 「自動車車庫の位置及び収容能力」が事業計画の必要的記載事項とされているのは,自動車車庫が営業所との関係で適切な にこれを変更すれば,事業計画に定めるところに従い業務を行う義務に違反することになる。 「自動車車庫の位置及び収容能力」が事業計画の必要的記載事項とされているのは,自動車車庫が営業所との関係で適切な運行管理を行える位置にあるかどうか,また,配置した事業用自動車を適切に収容できるかどうかをチェックするため必要であるからであり,その重要性にかんがみれば,配置された半数以上の自動車との関係で自動車車庫を変更した事実は,事業計画に定めるところに従って業務を行う義務に著しく背くものであり,道路運送法16条1項に違反するというべきである。 [原告の主張]ア原告は,営業終了後,事業用自動車を「通勤仕様」に模様替えし,当該運転者が通勤のため使用することを許容してきた。 ここに「通勤仕様」とは,営業終了に伴う入庫後,屋上表示灯を取りはずして乗務員証と共に営業所に預けさせ,前面表示器を消灯し,外観上営業車でないことを一目瞭然にし,しかる後に運転者がこれを帰宅のために利用し,帰宅後は自宅車庫に保管し,翌出勤日に自宅から営業所への通勤にこれを利用し,出勤後は始業点検を終え,屋上表示灯を取り付け,乗務員証の交付を受けて,再び通常の仕様に戻して営業に供するというものである。 一人一車制をとる原告会社では,このように「通勤仕様」に仕立てた車両を,当該運転者が自宅・営業所間の通勤のため利用することを認めており,堺営業所では,平成17年5月19日の監査時点で,38台につきこれを許容していた。その趣旨は,通勤交通費の軽減と,通勤時間の短縮,ひいては休息時間をできる限り長く確保することにある。 イ事業用自動車の「通勤利用」は,道路運送法16条1項に違反しない。 道路運送法上の「事業計画」とは,タクシー事業に関する基本計画を指すが,「通勤利用」は,営業終了後の車両管 することにある。 イ事業用自動車の「通勤利用」は,道路運送法16条1項に違反しない。 道路運送法上の「事業計画」とは,タクシー事業に関する基本計画を指すが,「通勤利用」は,営業終了後の車両管理の問題に属する事柄であり,「事業計画」の範囲に属さない問題であることは明らかである。 すなわち,上記「通勤利用」は,営業終了から次の営業開始までの間,つまり営業時間外において,通勤に限って利用させるものである。このように営業時間外に限った「通勤利用」が,事業に関する重要な事項の基本的計画である「事業計画」の問題であるはずがなく,専ら原告が営業用車両をどのように管理するかの問題であるにすぎない。 ウ被告は,「通勤利用」が自動車車庫の変更に当たると主張しているが,これは誤りである。 そもそも,運転者の自宅車庫は,「事業計画上の車庫」とは別物であり,本件において「自動車車庫」の位置の変更はどこにもない。運転者の自宅車庫は,たとえ「通勤利用」によりその場所での保管が日常化されていたとしても,事業計画の中で審査の対象とされ認可の対象とされる「事業計画上の車庫」ではあり得ない。 車庫の位置は,被告主張のとおり,車庫が営業所との関係で適切な運行管理を行える位置にあるかどうかを検討するために事業計画の必要的記載事項となったものである。このように車庫の位置の適否は,「適切な運行管理」の成否の観点から検討されるべき問題であって,単なる営業時間外の車の保管場所の当否の問題ではない。したがって,車庫位置変更の有無の判断も,「運行管理」の可否,適否の観点から検討されるべき問題となる。しかるところ,運行管理自体の終了した営業時間外においては,もはや運行管理の適否は問題とならず,車両を会社の車庫に置こうが,あるいは自宅に置こうが,関係がないこととなる。したがって,営業 題となる。しかるところ,運行管理自体の終了した営業時間外においては,もはや運行管理の適否は問題とならず,車両を会社の車庫に置こうが,あるいは自宅に置こうが,関係がないこととなる。したがって,営業終了後に通勤帰路に使用して自宅車庫へ帰っても,自宅車庫は単なる保管場所であり, 事業計画上の車庫ではないから,それが車庫の変更になることもない。 エ個人タクシーは,営業車を十分に非営業車仕様にしなくてもその私的・家族的使用が認められている。タクシーの営業外利用が許されることは,道路運送法25条ただし書,道路交通法86条1項からも窺われる。これらのことからすれば,殊更法人タクシー乗務員を不利益に扱い,営業外車輌利用の一部にすぎない「通勤利用」を禁ずることに合理性がないことは明らかである。 (4)適正手続違反の存否〔本案の争点3〕[原告の主張]ア事業用自動車の「通勤利用」が,道路運送法16条1項に違反するという判断はこれまで前例がなく,初めてのケースであった。事実,近畿運輸局の担当者であるB自動車監査指導部長は,業界誌の取材に「法的に“持ち帰り”をしてはならないという規定はない。」と答えている。 このような場合,処分行政庁としては,まず,当該事業者に対して道路運送法の解釈を明確にして,当該ケースが同法に抵触する旨を警告指導すべきであり,それでも指導に従わないことがあった場合に,初めて行政処分が行われるべきものである。 本件におけるように,法の解釈と当てはめの適否が不明な初めてのケースである場合に,いきなり一方的専断的な法解釈を持ち出し行政処分に及ぶことは,行政の適正手続に違反し,許容限度を越えた恣意的違法行為であるといわねばならない。 しかも,「通勤利用」が車庫位置の変更になるとする近畿運輸局長の主張が正しいのであれば,無認可の車庫位 及ぶことは,行政の適正手続に違反し,許容限度を越えた恣意的違法行為であるといわねばならない。 しかも,「通勤利用」が車庫位置の変更になるとする近畿運輸局長の主張が正しいのであれば,無認可の車庫位置変更として,同法15条違反を問うべきであったのに,近畿運輸局長は,原告に対し,更に重い処分が予定されている同法16条2項の改善命令違反を問うため,あえてその前提である同条1項違反を問うこととしたというのであって,より一層恣意的 である。 イ被告は,本件処分に先立ち,近畿運輸局職員が「車両持ち帰り」は認められない旨繰り返し指導したと主張する。 しかし,被告主張のような指導はまったく存在しないし,被告がその根拠として援用する乙第9号証は,その重要な部分に虚偽記載があるから,信用できない。 [被告の主張]ア原告の道路運送法16条1項違反の事実は,同法40条の定める「この法律に…違反したとき」に該当し,本件命令書記載のその余の各違反事実も,「この法律に基づく命令…に違反したとき」との処分要件に該当する。 このように,原告が同法40条の定める要件を満たすことは明らかであり,また,原告の同法16条1項違反の態様は悪質であった上,運輸規則違反の事実も多く認められたことなどからすれば,本件停止処分をしたことが,同法の趣旨・目的に照らし,その裁量権の範囲を超え又はその濫用に当たると解することは到底できず,適正手続違反であるというべき事情も認められない。もとより,本件停止処分の内容は全国的に統一された基準(乙1)に即したものであり,原告のみが殊更不利益に扱われたという事情はない。 イ近畿運輸局では,原告本社営業所に対しても監査等を行っていたが,近畿運輸局職員は,原告に対し,機会があるたびに「車両の持ち帰り」は認められない旨,口頭で指導していた。 も たという事情はない。 イ近畿運輸局では,原告本社営業所に対しても監査等を行っていたが,近畿運輸局職員は,原告に対し,機会があるたびに「車両の持ち帰り」は認められない旨,口頭で指導していた。 もとより本件各処分をするに当たっては,弁明の機会の付与等,行政手続法の定める不利益処分をする場合の手続が適切に執られている。 ウしたがって,適正手続違反との原告の主張は,失当である。 第3当裁判所の判断 本案前の争点(訴えの利益の存否)について (1)原告は,本件使用停止処分は,平成17年8月18日の経過により,その効果は消滅しているものの,同処分の取消を求める訴えの利益があると主張するので,この点につき検討する。 行政処分の取消しの訴えは,違法な行政処分により個人の権利ないし法的に保護されている利益が侵害されている場合に,その被害者からの訴えに基づいて当該処分を取消し,その判決の効果によって当該権利ないし法的利益に対する侵害状態を解消させ,その権利利益の全部又は一部を回復させることにあり,行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益」も,このような権利利益をいうと解すべきである。 そうだとすれば,処分に定められた期間の経過等によって当該処分の本来的な効果が消滅したとしても,当該処分を受けた事実を将来の処分の加重事由としている場合など,当該処分がなされたことを理由に法的な不利益を受けるおそれがあると認められる場合には,取消判決により当該処分を除去しなければ回復できない法的利益があるといえ,当該処分を受けた者による取消しを求める訴えには,訴えの利益が存するというべきである(行政事件訴訟法9条1項括弧書参照)。他方,処分により受けた事実上の不利益の除去のみを目的とするような処分の取消しの訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものというべきである。 存するというべきである(行政事件訴訟法9条1項括弧書参照)。他方,処分により受けた事実上の不利益の除去のみを目的とするような処分の取消しの訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものというべきである。 (2)本件処分の内容は,前記(第2の3(3)ア)のとおりであり,原告車両の使用停止という本件処分の効果は,平成17年8月18日の経過により失われている。 しかし,処分基準公示(乙1の3)によれば,道路運送法40条による自動車等の使用停止を行うべき違反行為を行った一般乗用旅客自動車運送事業者には,自動車等の使用停止処分の日車数10日車までごとに1点の違反点数が付され(前記第2の3(3)エ(イ)),上記処分の日から3年を経過する日をもって当該違反点数は消滅するとされており(同(ウ)),処分歴との関 係において一定の違反点数が累積した場合には,事業の停止処分及び許可の取消処分を行うとされている(同(カ)(キ))。また,処分等を受けた者が,当該処分等を受けた日から3年以内に同一営業所においてさらに同一事項の違反をした場合には,再違反として,初犯の場合よりも加重された基準によって処分が決される(同(ア))。そして,本件処分の日から未だ3年を経過していないから,原告に付された違反点数は消滅しておらず,本件各基準公示に準拠する限り,本件処分が行われた事実は,それ自体が,違反点数の累積を通じて,将来,同種の処分を行う際の加重事由となっている。 そして,処分基準公示は,前記(第2の3(3)カ)のとおり,行政手続法12条に基づいて定められたものであり,同条の趣旨は,行政庁が不利益処分を行う際の処分基準を定め,公示する努力義務を課すことにより,不利益処分を受ける者に予測可能性を与えるとともに,行政庁の恣意を抑制し,不利益処分決定に関わる行政運営の公正の確保及 行政庁が不利益処分を行う際の処分基準を定め,公示する努力義務を課すことにより,不利益処分を受ける者に予測可能性を与えるとともに,行政庁の恣意を抑制し,不利益処分決定に関わる行政運営の公正の確保及びその手続き過程の透明性の向上を図ろうとした点にある。同条のこのような趣旨からすれば,行政庁が処分基準を定めている場合,特段の事情のない限り,当該処分基準に基づいて同基準どおりの処分がされることが予定されているというべきである。 このような処分基準公示の性質からすれば,本件処分は,期間の経過により車両使用停止という処分の効果は消滅したとはいえるものの,将来同種の処分を行う際の加重事由となるという不利益は本件処分時から3年間存続しているというべきである。 被告は,処分基準公示が通達でしかなく,「法令」に該当しないから,原告の主張する不利益は通達に基づく事実上のものであって,法的利益とはいえないと主張する。しかし,上記のとおり,処分基準公示が行政手続法12条の要請により道路運送法40条に基づく処分の基準として定められたことからすると,同条に基づく処分は,処分基準公示どおりに行われることとなるから,処分基準公示の適用上不利益に取り扱われるおそれがあるのであれ ば,それはすなわち同法40条に基づく処分において不利益に取り扱われるおそれにほかならないから,これをもって法的利益(不利益)というに何らの妨げもなく,被告の上記主張は採用できない。 したがって,本件処分の期間経過後であっても,本件処分を受けた事実が将来の同種処分の加重事由となる限り,原告には,当該期間経過後も本件処分を理由に道路運送法上の不利益を受けるおそれがあるといえ,本件処分の取消によって回復すべき「法律上の利益」があるというべきである。 (3)よって,本件処分の取消しを求める本件訴え 間経過後も本件処分を理由に道路運送法上の不利益を受けるおそれがあるといえ,本件処分の取消によって回復すべき「法律上の利益」があるというべきである。 (3)よって,本件処分の取消しを求める本件訴えには,訴えの利益がある。 理由提示義務違反(本案の争点1)について(1)本件処分は,前記(第2の3(3)ア)のとおり,処分行政庁である近畿運輸局長によって書面でされた不利益処分であるから,同局長は,原告に対し,本件処分の理由を書面により示さなければならない(行政手続法14条1項本文,3項)。 不利益処分をする場合に,どの程度の理由を提示しなければならないかは,その処分の性質やその根拠法規の趣旨・目的に照らして決められるべきものである。そして,行政手続法14条の理由提示義務の趣旨は,行政庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに,不利益処分の理由を名宛人に知らせることによって,その不服申立ての便宜を与えるという点にあると解すべきであるから,不利益処分を行う際に付すべき理由提示の程度は,いかなる事実関係に基づいていかなる法規を適用して当該処分を行ったかということを,処分の名宛人においてその記載自体から了知し得るものでなければならず,単に当該処分の根拠規定を示すだけでは,原則として,同法14条1項の理由提示の程度として不十分である。また,行政手続法12条が行政庁に処分基準を定め,かつ,これを公にしておくように努めることを求めている趣旨は,行政庁が処分基準を定め,これを公表することにより,行政庁の判断過程の透明化を図り,不利益処分に対する国民の予測可能 性を担保するとともに,行政庁の恣意的な判断を防止しようとした点にあると解される。したがって,本件のように行政手続法12条に基づいて規定された処分基準に準拠して不利益処分を する国民の予測可能 性を担保するとともに,行政庁の恣意的な判断を防止しようとした点にあると解される。したがって,本件のように行政手続法12条に基づいて規定された処分基準に準拠して不利益処分を行う場合(第2の3(3)ウエオ)には,当該不利益処分に伴う理由提示の程度としては,いかなる事実関係に基づき,いかなる処分基準を適用して当該処分を行ったかを,処分の名宛人においてその記載から了知し得る程度に記載することを要すると解すべきである。 そして,行政手続法14条1項本文の規定する理由提示義務の趣旨には,処分の相手方の不服申立てに便宜を与えることだけでなく,行政庁の処分自体の慎重と公正妥当を担保し,行政庁の判断の恣意を抑制するという公益的な要請も含まれていることからすれば,当該処分の理由は,理由書の記載自体において明らかにされていることを要し,処分の相手方が処分の理由となるべき事実を知っていたとしても,理由提示義務の程度が緩和されることにはならないというべきである(最判昭和49年4月25日第一小法廷・民集28巻3号405頁参照)。 (2)これを本件についてみると,本件処分の理由として本件命令書に記載されているのは,前記(第2の3(3)ア)のとおり,その根拠条文だけである。 そして,前記根拠条文のうち,道路運送法16条1項は,「一般旅客自動車運送事業者は,天災その他やむを得ない事由がある場合のほか,事業計画に定めるところに従い,その業務を行わなければならない」と規定するが,同条項違反という記載だけでは,同条項の適用の基礎となった事実,すなわち,原告が同人の事業計画のいかなる点に違反する業務を行っていたとして処分されたのかをその記載自体から了知することはできないことは明らかであり,理由提示として不十分である。 これに対して,運輸規則21条3項 が同人の事業計画のいかなる点に違反する業務を行っていたとして処分されたのかをその記載自体から了知することはできないことは明らかであり,理由提示として不十分である。 これに対して,運輸規則21条3項違反,同24条1項,2項違反,同25条2項,3項違反,同37条1項違反,同38条1項違反については,各規定の文言が,同法16条1項に比して具体的であるから,当該規定の適用 の基礎となった事実については,条文の列挙によって知り得るともいえなくはない。しかし,本件においては,処分基準が定められている以上,上記(第3の2(1))のとおり,理由提示として,いかなる処分基準を適用したかを示す必要があるが,本件命令書の「理由」欄には処分基準につき何らの記載もなく,上記各運輸規則違反の事実に基づき,いかなる処分基準を適用して,「事業用自動車14両」の「4日間」,「事業用自動車1両」の「9日間」の使用停止という内容の本件処分がなされたのかを本件命令書の記載自体から了知することは不可能であり,上記各運輸規則違反についても理由提示としては不十分である。 したがって,本件処分は,処分と同時にその名あて人に示すべきものとされている理由の提示を欠いたままされたものであって,行政手続法14条1項に違反する。 (3)被告は,本件改善事項書が「理由書」であることを前提にして,処分対象事実を名宛人が推知でき,処分基準も公にされ,法の定める違反事項を単純に処分基準に当てはめれば,自動的に処分の内容が導かれるような事案においては,理由提示の程度としては,違反事由と根拠条文を示せば足りると解し,本件もそのような事案に当たり,本件命令書及び本件改善事項書(以下,両者併せて「本件命令書等」という。)の記載により理由の提示は十分であると主張するので,以下検討する。 アまず,被告 りると解し,本件もそのような事案に当たり,本件命令書及び本件改善事項書(以下,両者併せて「本件命令書等」という。)の記載により理由の提示は十分であると主張するので,以下検討する。 アまず,被告は,本件改善事項書が本件処分の「理由書」であることを前提としているが,以下の理由により,かかる主張は採用できない。 すなわち,前記(第2の3(3)イ)のとおり,本件改善事項書の表題は,「改善事項について」とされており,その内容も原告に対し指摘事項の改善及び報告を求め,改善されない場合には行政措置を講ずると警告していることからすれば,本件改善事項書は,原告に対し当該記載事項の改善を促すいわゆる一種の行政指導として交付された書面であるとみるのが相当 である。このことに,本件改善事項書には,本件命令書の「理由」欄に摘示された条文以外の条文及び事実が改善事項として摘示されている(前記第2の3(3)アイのとおり,本件改善事項書の指摘事項の「6」「8」「9」番の各かっこ書き内に記載されている条文は,本件命令書の「理由」欄に記載されていない。)ことも併せて考えれば,本件命令書と本件改善事項書はその性質を異にする別個の書面というべきであり,本件命令書と本件改善事項書が,原告に同時に交付され,本件命令書が「近運監一第163号」「近運技安第324号」,本件改善事項書が「近運監一第163号の2」「近運技安ー第324号の2」と連番になっている事実を考慮したとしても,本件改善事項書を本件命令書の理由を補完する「理由書」と認めることはできず,他にこれを「理由書」と認めるに足りる証拠はない。 よって,被告の上記主張は,採用できない。 イまた,仮に,両書面を一体としてみたとしても,本件改善事項書に記載されているのは,原告の違反事項の指摘にとどまり,いかなる処分基準を りる証拠はない。 よって,被告の上記主張は,採用できない。 イまた,仮に,両書面を一体としてみたとしても,本件改善事項書に記載されているのは,原告の違反事項の指摘にとどまり,いかなる処分基準を適用して本件処分がされたのかをその記載自体から了知することはできず,理由提示として不十分である。 これに対し,被告は,本件各基準公示は公にされており,本件改善事項書に記載されている事実を同公示に単純に当てはめることにより,自動的に本件処分が導かれるので,理由として十分であると主張する。 しかし,本件各基準公示の規定からすれば,以下のとおり,本件改善事項書に記載されている事実を単純に当てはめて処分内容が自動的に導かれるとはいえず,被告の上記主張は採用できない。 (ア)本件命令書等には,「運輸規則21条3項違反」「乗務員の健康状態の把握がなされていなかった」という違反事由の記載があるので,それに対応する個別基準公示(乙1の4)の「基準(初犯)」欄を見ると, 「①把握不適切20%未満」の場合「警告」,「②把握不適切20%以上50%未満」の場合「10日車」,「③把握不適切50%以上」の場合「20日車」と違反の程度に応じて異なる処分基準が規定されている。 また,本件命令書等の「運輸規則24条1項,2項違反」「点呼が確実に実施されなかった」という違反事由に対応する個別基準公示の「基準(初犯)」欄を見ると,「①未実施率20%未満」の場合「警告」,「②未実施率20%以上50%未満」の場合「10日車」,「③未実施率50%以上」の場合「20日車」と違反の程度に応じて異なる処分基準が規定されている。そして,本件命令書等に記載された他の違反事由についても,それに対応する個別基準公示の「基準(初犯)」欄に記載された処分内容は,違反の程度に応じて異なるものが多い。 なる処分基準が規定されている。そして,本件命令書等に記載された他の違反事由についても,それに対応する個別基準公示の「基準(初犯)」欄に記載された処分内容は,違反の程度に応じて異なるものが多い。 さらに,個別基準公示において,運輸規則22条1項により最高乗務距離の限度を定める旨指定された地域内の事業者が運輸規則24条1項,2項違反及び同25条2項,3項違反をした場合には上記の基準より加重された基準が適用されるほか,全ての違反行為について「再違反」の場合には,より重い基準が適用される。 (イ)しかるに,前記(第2の3(3)アイ)のとおり,本件命令書等には,原告の各違反事由について,違反の程度を示す記載はなく,また,運輸規則24条1項,2項,25条2項,3項の各違反事由について,加重された処分基準が適用されるのか否か,全違反事由につき「初犯」と「再違反」のいずれの基準が適用されるのかについての記載もない。 そのため,本件命令書等の記載を個別基準公示に当てはめようとしても,違反の程度,加重事由の有無,初犯か再違反かを本件命令書等の記載から了知できず,原告にとって,いかなる処分基準が適用されて本件処分がされたのかを知ることはできない(それ故,処分基準の適用が正当であったか否かが判断できない。)。したがって,被告主張のように, 本件命令書等に記載された違反事由を個別基準公示に当てはめることにより自動的に処分内容が算出されるということはできず,本件命令書等を一体として見ても,理由提示は不十分である。 なお,仮に原告が,前記(第2の3(2)アイ)の監査の際の近畿運輸局職員からの指摘及び弁明の機会における本件付与通知等から,上記違反の程度,上記加重事由に該当するか否か,「初犯」か「再違反」かについての近畿運輸局長の認識を推知し得たとしても,求め の際の近畿運輸局職員からの指摘及び弁明の機会における本件付与通知等から,上記違反の程度,上記加重事由に該当するか否か,「初犯」か「再違反」かについての近畿運輸局長の認識を推知し得たとしても,求められる理由提示の程度に変わりがないことは前述した(第3の2(1)第3段落)とおりである。 (3)以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件処分は,行政手続法14条1項本文の規定する理由の提示を欠く違法な処分として取消しを免れない。 結論 以上のとおり,原告の本訴請求は理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部裁判長裁判官廣谷章雄裁判官森鍵一裁判官棚井啓

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