令和6(行ケ)1 人口比例選挙請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年2月19日 名古屋高等裁判所 棄却
ファイル
hanrei-pdf-93924.txt

判決文本文12,442 文字)

- 1 -令和6年(行ケ)第1号人口比例選挙請求事件令和7年2月19日名古屋高等裁判所民事第1部判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 請求の趣旨令和6年10月27日に行われた衆議院議員総選挙の小選挙区選出議員選挙において、愛知県第1区から第16区まで、岐阜県第1区から第5区まで、三重県第1区から第4区までにおける選挙をいずれも無効とする。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、令和6年10月27日に行われた衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)について、愛知県第1区から第16区まで、岐阜県第1区から第5区まで、三重県第1区から第4区まで(以下併せて「本件各選挙区」という。)の選挙人である原告らが、衆議院小選挙区選出議員の選挙(小選挙 区選挙)の選挙区割りを定める公職選挙法の規定は、憲法等に違反し無効であるから、これに基づき施行された本件選挙の本件各選挙区における選挙も無効である旨主張して、公職選挙法204条に基づき提起した選挙無効訴訟である。 2 前提事実(争いのない事実、掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によって認められる事実) ⑴ 当事者ア原告らは、それぞれ本件各選挙区のうち別紙当事者目録記載の選挙区の選挙人である。 - 2 -イ被告らは、いずれも、本件各選挙区について、当該選挙区における本件選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会である。 ⑵ 衆議院議員選挙制度の概要公職選挙法は、衆議院議員の選挙制度につき、小選挙区比例代表並立制を採用しており、衆議院議員の定数は465人とされ、そのうち289人が小 選挙区選 。 ⑵ 衆議院議員選挙制度の概要公職選挙法は、衆議院議員の選挙制度につき、小選挙区比例代表並立制を採用しており、衆議院議員の定数は465人とされ、そのうち289人が小 選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員とされている(4条1項)。 小選挙区選挙については、全国に289の選挙区を設け、各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項、別表第一。以下、後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて「区割規定」という。)、比例代表選出議員の選挙(比例代表選挙)については、全国に11の選挙区を 設け、各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている(同法13条2項、別表第二)。また、選挙区の改定については、衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下、後記の改正の前後を通じて「区画審設置法」という。)により、衆議院議員選挙区画定審議会(以下「区画審」という。)が改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)。 ⑶ 法改正の経緯等ア平成24年改正前平成24年法律第95号(以下「平成24年改正法」といい、同法による改正を「平成24年改正」という。)による改正前の区画審設置法(以下「旧区画審設置法」という。)3条は、改定案の作成の基準(以 下、後記の改正の前後を通じて「区割基準」という。)について、〈1〉1項において、改定案の作成に当たっては、各選挙区の人口の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければなら ないと定めるとともに、〈2〉2項において、改定案の作成に当たって - 3 -は、各都道 うにすることを基本とし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければなら ないと定めるとともに、〈2〉2項において、改定案の作成に当たって - 3 -は、各都道府県の区域内の選挙区の数は、各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(いわゆる1人別枠方式)、この1に、小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた(以下「旧区割基準」という。)。平成21年8月30日に施行された衆議院議員総 選挙(以下「平成21年選挙」という。)は、平成24年改正前の区割規定(以下「旧区割規定」という。)の定める選挙区割りの下で行われたものであるところ、最高裁判所は、平成21年選挙に関する選挙無効訴訟において、旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び同基準に従って改定された旧区割規定の定める選挙区割りは、憲法の投票価値の 平等の要求に反する状態に至っていたと判示したが、この状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、旧区割基準を定めた規定及び旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で、事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に、できるだけ速やかに旧区割基準 中の1人別枠方式を廃止するなど、投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した(最高裁平成23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成23年大法廷判決」という。))。(乙5)イ平成24年改正後、平成27年大法廷判決まで 平成23年大法廷判決を受けて、平成24年改正法が成立したが、平成24年12月16日施行の衆議院議員 いう。))。(乙5)イ平成24年改正後、平成27年大法廷判決まで 平成23年大法廷判決を受けて、平成24年改正法が成立したが、平成24年12月16日施行の衆議院議員総選挙(以下「平成24年選挙」という。)は平成21年選挙と同じく旧区割規定の定める選挙区割りの下で行われた。平成24年選挙に関する選挙無効訴訟において、最高裁判所は、平成24年選挙時において旧区割規定の定める選挙区割りは平 成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあ - 4 -ったが、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない旨判示した(最高裁平成25年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判決」という。))。また、平成25年法律第68号(以下「平成25年改正法」 といい、同法による改正を「平成25年改正」という。)による改正後の平成24年改正法により改定された選挙区割りの下で平成26年12月14日に施行された衆議院議員総選挙(以下「平成26年選挙」という。)に関する選挙無効訴訟において、最高裁判所は、上記選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものであると しつつ、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえないと判示した(最高裁平成27年11月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下「平成27年大法廷判決」という。))。 ウ平成28年改正及び新区割制度の内容衆議院議長の諮問機関として設置された「衆議院選挙制度に関する調査 会」による答申を受けて、平成28年法律第49号(以下「平成28年改正法」といい、同 ウ平成28年改正及び新区割制度の内容衆議院議長の諮問機関として設置された「衆議院選挙制度に関する調査 会」による答申を受けて、平成28年法律第49号(以下「平成28年改正法」といい、同法による改正を「平成28年改正」という。)が成立した。平成28年改正後の区画審設置法(以下「新区画審設置法」という。)4条は、区画審による改定案の勧告について、〈1〉1項において、平成32年(令和2年)以降、統計法5条2項本文の規定により 10年ごとに行われる国勢調査(以下「大規模国勢調査」という。)の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものと定めるとともに、〈2〉2項において、1項の規定にかかわらず、統計法5条2項ただし書の規定により大規模国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる国勢調査(以下「簡易国勢調査」という。)の 結果による各選挙区の日本国民の人口のうち、その最も多いものを最も - 5 -少ないもので除して得た数が2以上となったときは、当該国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に、これを行うものと定める。そして、新区画審設置法3条は、区割基準について、〈1〉1項において、改定案の作成に当たっては、各選挙区の人口(同条においては最近の国勢調査の結果による日本国民の人口をいう。)の 均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないと定めるとともに、〈2〉2項において、同法4条1項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては、各都道府県の区域内の選挙区の数 は、各都道府県の人口を小選挙区基準除数(その除数で各 らないと定めるとともに、〈2〉2項において、同法4条1項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては、各都道府県の区域内の選挙区の数 は、各都道府県の人口を小選挙区基準除数(その除数で各都道府県の人口を除して得た数(1未満の端数が生じたときは、これを1に切り上げるものとする。)の合計数が衆議院小選挙区選出議員の定数に相当する数と合致することとなる除数をいう。)で除して得た数(1未満の端数が生じたときは、これを1に切り上げるものとする。)とするとし(い わゆるアダムズ方式)、〈3〉3項において、同法4条2項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては、各都道府県の区域内の衆議院小選挙区選出議員の選挙区の数は変更しないものと定めている(以下、この区割基準を含む上記各規定による選挙区の改定の仕組みを「新区割制度」という。)。また、平成28年改正法は、アダムズ方式による各 都道府県の選挙区数の変更が行われるまでの投票価値の較差是正のための措置として、附則2条1項において、小選挙区選出議員の定数を6削減することを前提に、新区画審設置法4条の規定にかかわらず、区画審において平成27年に行われた簡易国勢調査(以下「平成27年国勢調査」という。)の結果に基づく改定案の作成及び勧告を行うこととした。 そして、同附則2条2項及び3項は、上記改定案の作成について、新区 - 6 -画審設置法3条の規定にかかわらず、各都道府県の選挙区数につき、選挙区数の変更の影響を受ける都道府県を極力減らすことによって選挙制度の安定性を確保する観点から、いわゆる0増6減の措置を講じた上で、平成27年国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにし、かつ、次回の大規模国勢調査が実施される平成32年 (令和2年)の見 観点から、いわゆる0増6減の措置を講じた上で、平成27年国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにし、かつ、次回の大規模国勢調査が実施される平成32年 (令和2年)の見込人口に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満であることを基本とするとともに、各選挙区の平成27年国勢調査の結果による人口及び平成32年(令和2年)の見込人口の均衡を図り、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行うこととした。 (乙11、15) エ平成29年改正、平成29年選挙及び平成30年大法廷判決平成28年改正後、平成27年国勢調査の結果に基づいて、区画審による審議が行われ、区画審は、内閣総理大臣に対し改定案の勧告を行った。 これを受けて、平成29年法律第58号(以下「平成29年改正法」といい、同法による改正を「平成29年改正」という。)が成立し、平成 29年改正後の平成28年改正法によって区割規定が改正された。上記区割規定の定める選挙区割りに基づいて、平成29年10月22日、衆議院議員総選挙(以下「平成29年選挙」という。)が行われた。平成29年選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は、選挙人数の最も少ない選挙区(鳥取県第1区)と最も多い選挙区(東京都第13区)と の間で1対1.979であり、選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は存在しなかった。平成29年選挙について提起された選挙無効訴訟において、最高裁判所は、平成28年改正法及び平成29年改正法による選挙区割りの改定等は、国会の裁量権の行使として合理性を有するというべきであり、平成27年大法廷判決 が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の - 7 -平等の要求に反する状態 等は、国会の裁量権の行使として合理性を有するというべきであり、平成27年大法廷判決 が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の - 7 -平等の要求に反する状態は、平成29年改正法による改正後の平成28年改正法によって解消されたものと評価できるとし、平成29年当時の選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえないと判示した(最高裁平成30年12月19日大法廷判決・民集72巻6号1240頁(以下「平成30年大法廷判決」という。))。 (乙4の4、乙16、17、20、21)オ令和3年選挙及び令和5年大法廷判決平成29年選挙時と同じ平成29年改正後の選挙区割りの下で、令和3年10月31日、衆議院議員総選挙(以下「令和3年選挙」という。)が施行された。平成29年改正以降、区割規定に関する法改正はされて おらず、令和3年選挙時の区割規定は、平成29年選挙時の区割規定と同一のものであった。令和3年選挙当日における選挙区間の最大較差(選挙人)は、鳥取県第1区と東京都第13区との間の1対2.079であり、鳥取県第1区と比べて較差(選挙人)が2倍以上となっている選挙区は29選挙区であった。令和3年選挙について提起された選挙無 効訴訟において、最高裁判所は、令和3年選挙時における選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえないと判示した(最高裁令和5年1月25日大法廷判決・民集77巻1号1頁(以下「令和5年大法廷判決」という。))。(乙4の5)カ令和4年改正法 令和3年選挙の施行に先立つ令和3年6月25日、令和2年実施の大規模国勢調査の結果(速報値)が官報で公示されたことを受け、区画審は、改定案に係る調査、審議を開始し、令和4 令和4年改正法 令和3年選挙の施行に先立つ令和3年6月25日、令和2年実施の大規模国勢調査の結果(速報値)が官報で公示されたことを受け、区画審は、改定案に係る調査、審議を開始し、令和4年6月16日、内閣総理大臣に対し区割改定案(以下「本件区割改定案」という。)を勧告した(以下「本件勧告」という。)。本件区割改定案は、平成28年改正法によ って導入されたアダムズ方式を初めて適用して選挙区割りの見直しを行 - 8 -ったもので、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県及び愛知県で定数を合計10増加させ、宮城県、福島県、新潟県、滋賀県、和歌山県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県及び長崎県で定数を合計10減少させるとともに、上記の都県を含む25都道府県の合計140の選挙区において区割りを改め、令和3年選挙における当日有権者数を基準としても、較差が 2倍未満となるように作成されたものであった。本件勧告に基づき、本件区割改定案のとおり公職選挙法の一部を改正する令和4年法律第89号(以下「令和4年改正法」といい、令和4年改正法による改正を「令和4年改正」という。)が成立した。令和4年改正により、令和2年10月1日を調査時とする大規模国勢調査による日本国民の人口を基準と した議員1人当たり人口の最大較差は1.697倍となり、また、選挙区間の最大較差(人口)は、令和4年改正による区割り改定の前後で、2.096倍から1.999倍に縮小し、較差(人口)が2倍以上の選挙区数は23区から0区に減少した。もっとも、住民基本台帳人口(令和5年1月1日現在)に基づく試算結果によれば、選挙区間の最大較差 (選挙人)は、1対2.054となっていた。(甲7、9、乙1、2、29、30)⑷ 本件選挙の施行本件選挙は、令和6年10月27 月1日現在)に基づく試算結果によれば、選挙区間の最大較差 (選挙人)は、1対2.054となっていた。(甲7、9、乙1、2、29、30)⑷ 本件選挙の施行本件選挙は、令和6年10月27日、令和4年改正法による区割規定(以下「本件区割規定」という。)の定める選挙区割り(以下「本件選挙区割 り」という。)に基づいて行われた。本件選挙当日における選挙区間の最大較差(選挙人)は、鳥取県第1区と北海道第3区との間の1対2.059であり、鳥取県第1区と比べて較差(選挙人)が2倍以上となっている選挙区は、10選挙区であった。原告らに係る本件各選挙区の較差は、1.180~1.978である。(乙3) 3 主たる争点 - 9 -本件選挙時において、本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったか否か。 4 当事者の主張の要旨⑴ 原告らの主張ア新区画審設置法3条1項は、改定案の作成は、各選挙区の人口のうち、 その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを定めているところ、区画審が令和4年6月16日に内閣総理大臣に勧告した本件区割改定案は、同日時点で2倍以上(令和5年1月1日現在の住民基本台帳による最大格差は2.054倍)に達しており、令和6年10月15日付け法務省発表によれば、同月14日付け選挙人登 録者数に基づく最大有権者数較差は2.06倍である。したがって、本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りは新区画審設置法3条1項に違反し無効であり、これらに基づく本件選挙も同法に違反し無効である。 また、新区画審設置法3条1項及び4条2項は、令和2年大規模国勢調査の結果による人口の各選挙区間の最大人口較差が2倍以上にならな 効であり、これらに基づく本件選挙も同法に違反し無効である。 また、新区画審設置法3条1項及び4条2項は、令和2年大規模国勢調査の結果による人口の各選挙区間の最大人口較差が2倍以上にならな いように、かつ令和7年までの5年間を通じて、同年「見込人口」の各選挙区間の最大人口較差が2倍以上にならないように、選挙区割りの改定案を作成しなければならない旨定めている(平成28年改正法附則2条3項1号ロ)が、本件選挙区割りはこれに違反している。 イ平成23年大法廷判決、平成25年大法廷判決、平成27年大法廷判決、 平成30年大法廷判決、令和5年大法廷判決の判断基準に照らして、本件選挙は違憲状態であり、いわゆる合理的期間を徒過しているので、違憲無効である。 ウ本件選挙は、選挙区間の最大人口較差が2.054倍であり、①憲法56条2項、②憲法1条及び前文第1項第1文後段、③憲法前文第1項第1 文前段、④憲法43条1項が要求する「できる限りの一人一票等価値(で - 10 -きる限りの人口比例選挙)の要求」に違反する。よって、本件選挙は、憲法に違反し無効である。 ⑵ 被告らの主張新区割制度は、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において、投票価値の平等の要請を調和的に実現するとともに、 これを安定的に継続することのできる制度として合理性を有するものといえ、このことは、平成30年大法廷判決及び令和5年大法廷判決も肯定している。 本件選挙区割りについては、本件選挙時には、選挙人を基準とした最大較差が2.059倍となっていたという事情はあるものの、自然的な人口異動のほかに較差拡大の要因は見当たらず、最大較差も2倍をわずかに超える程度 であることなどを考慮すると、本件選挙区割りが憲法の投票価 .059倍となっていたという事情はあるものの、自然的な人口異動のほかに較差拡大の要因は見当たらず、最大較差も2倍をわずかに超える程度 であることなどを考慮すると、本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたとはいえない。仮に違憲状態にあったとの評価をするにしても、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえないから、本件区割規定及び本件選挙区割りは合憲である。したがって、本件選挙の本件各選挙区における選挙は有効である。 第3 当裁判所の判断 1 憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ、国会の両議院の 議員の選挙については、憲法上、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項、47条)、選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。 衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には、選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに 際して、憲法上、議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保 - 11 -たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって、具体的な選挙区を定めるに当たっては、都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として、地域の面積、人口密度、住民構成、交通 考慮することが許容されているものと解されるのであって、具体的な選挙区を定めるに当たっては、都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として、地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素 を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって、このような選挙制度の合憲性は、これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり、国会がこのような選挙制度の 仕組みについて具体的に定めたところが、上記のような憲法上の要請に反するため、上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである(最高裁昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁ほか)。 2 上記の見地から、前記第2、2の事実に基づいて、本件選挙当時の本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りの合憲性について検討する。 ⑴ 本件選挙は、令和4年改正法による本件区割規定の定める本件選挙区割りに基づいて施行されたものであり、令和4年改正法は、新区割制度に基づいて区画審が勧告した本件区割改定案のとおりに小選挙区の区割り改定を行う ことを内容とするものである。新区割制度は、区画審による改定案の勧告につき、各都道府県への定数配分を人口比例方式の一つであるアダムズ方式によって行い、かつ、選挙区間の人口の最大較差を2倍未満とすることを求める一方、頻繁な選挙区改定による有権者の混乱を防止して選挙制度の安定を図る観点から、勧告は10年ごとの大規模国勢調 アダムズ方式によって行い、かつ、選挙区間の人口の最大較差を2倍未満とすることを求める一方、頻繁な選挙区改定による有権者の混乱を防止して選挙制度の安定を図る観点から、勧告は10年ごとの大規模国勢調査の際などに行うこととす るとともに、政治や行政において実際に重要な役割を果たしている都道府県 - 12 -にまず定数を配分することとし、都道府県内の選挙区割りについては、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行うことを求めている。このような新区割制度は、投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつ、国会が正当に考慮することのできる他の諸要素をも考慮して選挙区割りを定める合理的な仕組みであるということができる。 ⑵ 令和4年改正法により、令和2年10月1日を調査時とする大規模国勢調査による日本国民の人口を基準とした各都道府県間の議員1人当たり人口の最大較差は1.697倍となり、選挙区間の最大較差(人口)は、令和4年改正による区割りの改定の前後で、2.096倍から1.999倍に縮小し、較差(人口)が2倍以上の選挙区数は23区から0区に減少している。もっ とも、本件選挙当日の選挙区間の選挙人の最大較差は1対2.059となっており、較差(選挙人)が2倍以上となっている選挙区も10選挙区存在している。しかし、前記⑴のとおり、新区割制度は、選挙区の改定をしてもその後の人口異動により選挙区間の投票価値の較差が拡大し得ることを当然の前提としつつ、選挙制度の安定性も考慮して、10年ごとに各都道府県への 定数配分をアダムズ方式によって行うことなどによりこれを是正することとしている。上記のとおり、本件選挙当日の最大較差は2倍を超えているものの、本件選挙当時における選挙区間の投票価値の較差は、自然な人口異動以外 ダムズ方式によって行うことなどによりこれを是正することとしている。上記のとおり、本件選挙当日の最大較差は2倍を超えているものの、本件選挙当時における選挙区間の投票価値の較差は、自然な人口異動以外の要因によって拡大したものというべき事情はうかがわれないし、その程度も著しいものとはいえない。また、新区割制度の下では、令和7年の簡易 国勢調査の結果を踏まえて2倍未満となるよう是正されることが予定されている。したがって、本件選挙当日の最大較差が2倍を超えていることをもって、本件選挙区割りが本件選挙当時において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたということはできない。 ⑶ 以上によれば、令和4年改正は、選挙区間の人口等の最大較差を縮小させ たものであって、投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ、選挙制 - 13 -度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ったものと評価することができ、本件選挙当時において、本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず、本件区割規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。 3 原告らの主張について ⑴ 原告らは、本件選挙は、選挙区間の最大人口較差が2.054倍に及んでいるから、憲法が要求する「できる限りの一人一票等価値(できる限りの人口比例選挙)」に違反し無効である旨主張する。しかし、前記1のとおり、憲法は投票価値の平等を要求しているものと解されるが、他方で、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく、選挙制度の仕 組みの決定については国会に広範な裁量が認められており、投票価値の平等以外の要素も、合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているもの を決定する絶対の基準ではなく、選挙制度の仕 組みの決定については国会に広範な裁量が認められており、投票価値の平等以外の要素も、合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解される。したがって、憲法が「できる限りの人口比例選挙」を要求しているとする原告らの主張は採用できない。 ⑵ 原告らは、新区画審設置法3条1項は、最大較差が2倍以上とならないよ うにすることを定めているところ、本件選挙当日の最大較差は2倍を超えているから、本件区割規定は同法3条1項に違反しており、本件選挙区割り及び本件選挙も、同法3条1項に違反し無効である旨主張する。しかし、前記2のとおり、新区画審設置法は、選挙区間の人口の最大較差を2倍未満とすることを求める一方で、その後の人口異動により最大較差が2倍以上となる ことも想定し、所定の時期にこれを是正することを予定している。したがって、本件選挙当日の最大較差が2倍を超えていることをもって直ちに、新区画審設置法に違反するとはいえず、原告らの上記主張は採用できない。 ⑶ 原告らは、新区画審設置法3条1項及び4条2項は、令和7年の簡易国勢調査までの期間を通じて、選挙区間の人口の最大較差が2倍未満となるよう に求めている旨主張する。しかし、上記規定(附則を含む)は、いずれも大 - 14 -規模国勢調査から将来の簡易国勢調査までの間の人口動態を考慮して選挙区割りを定めなければならないことを規定したものとは解されない。したがって、原告らの上記主張は採用できない。 ⑷ 原告らのその他の主張も、前記2の認定判断を左右しない。 4 以上によれば、本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りは、本件選挙 時において、投票価値の平等を要求する憲法に違反する状態に至っていたとは認 他の主張も、前記2の認定判断を左右しない。 4 以上によれば、本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りは、本件選挙時において、投票価値の平等を要求する憲法に違反する状態に至っていたとは認められず、新区画審設置法に違反するとも認められないから、本件選挙における本件各選挙区の選挙が違憲又は違法であるとは認められない。 第4 結論よって、原告らの請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法65条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第1部 裁判長裁判官 吉田彩 裁判官 加藤員祥 裁判官 石川真紀子

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る