平成11(行コ)7 所得税更正処分取消請求控訴事件(原審・盛岡地方裁判所平成8年(行ウ)第4号)

裁判年月日・裁判所
平成11年10月27日 仙台高等裁判所 租税
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判決文本文7,389 文字)

主文 一原判決を取り消す。 二被控訴人の請求を棄却する。 三訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 事実 第一当事者の求めた裁判一控訴の趣旨主文と同旨二控訴の趣旨に対する答弁 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 第二事案の概要一本件は、平成三年分、同四年分及び同五年分の各総所得に関する被控訴人の所得税の再修正申告に対して、控訴人が右各所得のうち、被控訴人が給与所得であるとして申告した花泉中央リンゴ生産組合一関グループからの収入につき、これが給与所得ではなく事業所得に係る収入であると認定して、平成七年二月二二日付け右各年度分の所得税の各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分をしたので、被控訴人が右所得は給与所得と解すべきであるとして右処分の取消しを求める訴えを提起したところ、原審が被控訴人の主張を認めて、控訴人の右各処分を取り消したので、控訴人が控訴した事案である。 二当事者の主張当事者の主張は、原判決六頁三行目の末尾に続けて「なお、被控訴人の本件収入が事業所得であるとした場合、平成三年分ないし同五年分の被控訴人の所得税に関しては、総所得及び過少申告加算税の各金額が控訴人主張の金額であることは認める。」を、同一一頁末行の「民法上の組合であること」の次に「及び被控訴人が本件組合の組合員であること」をそれぞれ加え、同一六頁二行目の次に次のとおり加える他は、原判決の「事実」欄の「第二当事者の主張」(原判決三頁七行目から同一六頁二行目まで)と同一であるから、これを引用する。 「五当事者の当審における主張 1 控訴人の主張(一) 民法上の組合に対する課税の構造について組合は法人格を有しないので、組合財産は組合自体に法的に帰属させることができず、総組合員に共有 る。 「五当事者の当審における主張 1 控訴人の主張(一) 民法上の組合に対する課税の構造について組合は法人格を有しないので、組合財産は組合自体に法的に帰属させることができず、総組合員に共有的に帰属し(民法六六八条)、債権債務関係も総組合員の共有(準共有)に属することとなる(民法六七七条)。このような法人格を有しない組合の事業活動の成果は、組合組織を通り抜け(パス・スルーし)、直接組合員に帰属するものとして所得税の課税対象となり、組合事業から生じた収入に対する課税については、収入が発生した段階において、各組合員に所得が発生したものとして課税を検討すべきものである。 (二) 事業所得と給与所得本件組合は、りんご生産を共同で行うことを目的としており、りんご生産という事業によって得た所得は、農業から生ずる事業所得(所得税法二七条一項)として、収入が発生した時点で各組合員に所得が発生し、各組合員が納税主体となるのである。また、事業所得は、事業に供した資産とその資産を利用した役務活動が融合して獲得された所得であり、事業所得は性質上本質的に役務活動の対価としての性質も有しているのであり、組合員が労務を提供して収入を得たとしても、それは組合の事業活動から生じた事業所得にほかならないのである。披控訴人は、組合員として組合事業のために労務を提供したのであるから、本件における被控訴人の労務提供契約は労務出資契約であり、これに対して支払われた金銭は賃金ではなく、労務出資に対する組合利益の分配と解すべきである。 (三) 雇用契約の成否組合は法人格を有しないのであるから、組合員が組合と雇用契約を締結しようとすると、雇用契約の一方の当事者は組合を構成する総組合員とならざるを得ない。 また、組合においては、業務執行権は原則として各組合員が有するとされてい いのであるから、組合員が組合と雇用契約を締結しようとすると、雇用契約の一方の当事者は組合を構成する総組合員とならざるを得ない。 また、組合においては、業務執行権は原則として各組合員が有するとされているから、このような組合員としての地位と雇用者から支配される関係に立つ被用者としての地位とは矛盾する関係に立つこととなり、組合員たる地位を維持しつつ自己が属する組合との間で雇用契約を締結することは組合の法的性質と相容れないというべきである。したがって、被控訴人が得た労務に対する対価は賃金ではなく、労務出資に対する組合利益の分配と解すべきである。 2 被控訴人の主張事業所得と給与所得との区分についての判断を示した最高裁判所昭和五六年四月二四日判決が、給与所得を「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労働の対価としての使用者から受ける給付」と判示しているところによれば、被控訴人の本件所得は給与所得であることが明らかである。」 理由 一請求原因1ないし3の事実及び同4の(一)の事実並びに「被控訴人の本件収入が事業所得であるとした場合には、平成三年分ないし同五年分の被控訴人の所得税に関しては、総所得及び過少申告加算税の各金額が控訴人主張の金額となること」についてはいずれも当事者間に争いがないから、本件においては、被控訴人の本件収入が所得税法二七条一項の事業所得にあたるのか、それとも同法二八条一項の給与所得にあたるのかが争点となる。 二前提 事実 右争点についての判断をするにあたり前提となる事実(本件組合の法的性質、事業形態、被控訴人の法的地位、労務提供の内容、報酬等に関する事実)については、次のとおり付加・訂正する他は、原判決「理由」欄の「一」記載の認定(原判決一六頁六行目の「請求原因」から同二六 的性質、事業形態、被控訴人の法的地位、労務提供の内容、報酬等に関する事実)については、次のとおり付加・訂正する他は、原判決「理由」欄の「一」記載の認定(原判決一六頁六行目の「請求原因」から同二六頁一行目まで)と同一であるから、これを引用する。 1 原判決一六頁六行目の「請求原因」から同九行目の「いうべきところ、」までを「前記当事者間に争いのない事実並びに」と改める。 2 原判決一九頁五行目の「一日当たり」の次に「四五〇〇円ないし」を加え、同七行目の「形態となった」を「形態となり、出役義務制を改めた」と、同九行目の「一般労務者として」を「一般作業員と同様に」とそれぞれ改め、同二〇頁四行目の末尾に続けて、「なお、管理者はりんご園地の経営上の基本方針を立案し、作業の計画・手順を決定し、専従者はこれに従い日々の労務に従事するが、一般作業員と比べると経験を必要とする薬剤防除等の仕事は専従者が主として担当していた。」を加え、同二一頁七行目の「七六五・九一アール」を「七町五反」と改め、同二五頁六行目の「に一関税務署」から同八行目の「同年」までを削る。 三争点についての判断右前提事実をもとにして、被控訴人の本件収入を事業所得とみるべきか、それとも給与所得とみるべきかについて検討する。 1 本件組合は、民法上の組合であり、各組合員が出資して共同の事業を営むことを合意して成立する組合員の結合体であり(民法六六七条一項)、組合の事業により獲得された利益や損失は、理念的には組合財産を構成するものの、組合には法人格が存しないことから、組合財産は組合自体には帰属せず、総組合員の共有(合有)となり(民法六六八条)、債権債務も総組合員の共有(準共有)になるもの(民法六七七条)と解される。したがって、このような組合の法的構造に照らせば、組合の事業活動の成果たる所得 総組合員の共有(合有)となり(民法六六八条)、債権債務も総組合員の共有(準共有)になるもの(民法六七七条)と解される。したがって、このような組合の法的構造に照らせば、組合の事業活動の成果たる所得に対する課税は、法人税の対象として組合に課せられるものではなく、組合員の出資等に応じて各組合員の所得に分解されて帰属し所得税の課税対象になるものと解するのが相当である。そして、組合員が組合から組合員の立場で受け取る収入は、給与、賞与などの名目で受け取るものであっても、これらの所得は当該組合の事業から生じた事業所得であるという性質が変わるものではないから、これを給与所得と解すべきではなく、組合の事業から生じた所得全体を各組合員の出資等に応じて配分した各組合員個人の事業所得と解すべきものである。 この点に関して、旧所得税基本通達一六三が、「任意組合の組合員の所得に対する課税については、給料、賞与その他組合から受ける名義のいかんにかかわらず、当該組合の事業の内容に応じ、事業所得又はその他の所得として課税するものとし、各組合員の所得又は損失の金額は、その年中における組合の利益又は損失の金額を、利益又は損失の分配の割合の定にしたがい、各人にあん分した金額とする。」と規定していたのも、同様の趣旨と理解すべきものである(なお、右旧通達は昭和四五年の現行所得税基本通達に伴って廃止され、現行の所得税基本通達三六・三七共-二〇では旧通達の前段部分が記載されていないが、この部分は法律上当然のこととして記載されなかったものであり、通達の見解が変更されたものと解することはできない)。 以上を本件について検討してみると、本件組合の活動内容はりんご生産たる農業であるから、本件組合の事業活動により得た収入は所得税法二七条一項の農業から生ずる所得として事業所得になるものと きない)。 以上を本件について検討してみると、本件組合の活動内容はりんご生産たる農業であるから、本件組合の事業活動により得た収入は所得税法二七条一項の農業から生ずる所得として事業所得になるものと解され、本件組合がりんご生産という事業活動から収入を得た場合には、その時点で各組合員に事業所得が発生しているものというべきである。ところで、本件においては、被控訴人は、平成元年以降、組合から専従者として選出され、リンゴ生産に関する組合の労務に従事し、その労務提供に対する対価として日給六〇〇〇円の給与を支給されてきたものであるが、被控訴人に支給された右給与は名目上は給与の形式をとっており、その労務内容も管理者Aの指揮命令に服するものであり、格別高度の技術的労務であるとは認められないが、被控訴人が組合員である以上は、その労務の提供も組合の事業活動と無関係なものではありえず、組合の事業活動に参画するという面を捨象することはできないものというべきであり、被控訴人が労務提供の対価として受け取った給与なるものも、その実質は本件組合に発生した事業所得を、組合員である被控訴人に分配するものであると解するのが相当である。そして、被控訴人が具体的に受け取った本件収入(被控訴人の申告に係る本件組合からの平成三年ないし同五年の給与支給額)は、組合総会の決議に基づき承認された日給六〇〇〇円の給与算定基準に基づき算出されたものであるから、組合員の総意に基づき定められた組合所得に関する損益分配の合意に従った組合の事業所得の分配と解すべきものである。そうすると、被控訴人の本件収入は所得税法二七条一項の「事業所得」にあたるものというべきである。 2 これに対して、被控訴人は、組合において労務出資を認めるためには、当該労務出資又はその評価の標準を合意しなければならないところ、本 所得税法二七条一項の「事業所得」にあたるものというべきである。 2 これに対して、被控訴人は、組合において労務出資を認めるためには、当該労務出資又はその評価の標準を合意しなければならないところ、本件組合においてはそのような合意が存在しないから、被控訴人の労務提供を労務の出資とみることはできない旨主張する。しかしながら、前判示のとおり、本件組合では、平成元年二月二一日の組合総会の決議に基づき、被控訴人の労務提供に対する対価について日給を六〇〇〇円とすることが承認されているのであり、右承認をもって被控訴人の労務出資に対する損益分配の割合についての合意と評価できるから、被控訴人のこの点に関する主張は採用できない。 次に、被控訴人は、被控訴人が専従者として組合に労務を提供して給与を得ている事実を捉え、これが雇用契約に基づくものであるから被控訴人の取得している給与は給与所得であると主張するが、本件組合は民法上の組合であり法人格を有しないのであるから、組合員たる被控訴人が組合との間に雇用契約を締結しようとすれば、被控訴人は、一方で雇用契約の被用者としての立場で、他方では総組合員の一人として雇用者の立場で雇用契約を締結するということになり、このような矛盾した法律関係の成立を認めることには疑問があるから、雇用契約が成立しているとする被控訴人の右主張はにわかには採用することができない。また、実質的にみても、被控訴人の労務提供は、前記認定のとおり、労務の出資をして組合の事業活動に参画するものと評価するのが相当というべきである。 さらに、被控訴人の本件収入を給与所得であると解すると、仮に組合員全員が労務を提供しているような場合には、組合に発生した事業所得を給与として各組合員に支払うことになるから、これにより組合の事業所得が極端に圧縮されてしまうという結 所得であると解すると、仮に組合員全員が労務を提供しているような場合には、組合に発生した事業所得を給与として各組合員に支払うことになるから、これにより組合の事業所得が極端に圧縮されてしまうという結果を生ずる反面、組合員の給与所得については給与所得控除を通じて給与所得の金額が圧縮される結果となるばかりでなく、給与の支給により組合に対する出資に係る事業所得がマイナスになれば、事業所得と給与所得との損益通算によりさらに給与所得の金額が圧縮されることとなり、組合員の労務提供に対する対価を給与所得と認めることにより、著しい課税の不公平を招来し、所得税法が事業所得と給与所得を分けて課税の公平を期した趣旨を没却することになりかねず、被控訴人の右主張はこの観点からも採用することができない。 3 ところで、この点に関して、最高裁判所昭和五三年(行ツ)第九〇号、同五六年四月二四日第二小法廷判決・判例時報一〇〇一号三四頁は、弁護士の顧問料が事業所得か給与所得かが争われた事案において、所得税法上の事業所得(同法二七条一項)と給与所得(同法二八条一項)の区分に関して、「およそ業務の遂行ないし労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得と給与所得のいずれに該当するかを判断するにあたっては、租税負担の公平を図るため、所得を事業所得、給与所得に分類し、その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならない。」としたうえ、「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者か 継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」と判示しており、給与所得に関するこの基準に従えば、被控訴人の本件組合に対する労務の提供は、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」として給与所得であると解する余地がないわけではなく、被控訴人もその旨主張する。 しかしながら、右判決は弁護士が顧問会社との顧問契約に基づいて受領した、弁護士の労務提供の対価としての顧問料そのものの所得区分について判断したものであるところ、本件においては、顧問会社と弁護士という二者の関係ではなく、組合の事業活動として組合員の労務提供により得られた成果が、組合は納税義務者とならないために、課税上組合を通り抜けて直接に組合を構成する各組合員に所得として帰属するという関係に立っている場合であるから、これを組合員の労務に対する対価としての観点からのみ捉えて、前記給与所得の概念に従って被控訴人の収入を給与所得と評価することは相当ではないというべきである。 むしろ、本件においては、組合員の労務提供により獲得された所得は組合事業と有機的に結合している点に着目すべきであり、右所得は組合の事業所得と捉えるのが相当であるというべきであるから、右最高裁判所の判例に従って被控訴人の本件収入を給与所得と解すべきであるという被控訴人の主張は採用で 合している点に着目すべきであり、右所得は組合の事業所得と捉えるのが相当であるというべきであるから、右最高裁判所の判例に従って被控訴人の本件収入を給与所得と解すべきであるという被控訴人の主張は採用できない。 四そうすると、本件収入が給与所得であるのに、これを事業所得であるとしてなした控訴人の本件各処分は違法であり、取り消されるべきものであるとする被控訴人の主張は失当であるから、その余の点につき争いのない本件においては被控訴人の請求は理由がないものというべきである。 五結論以上によれば、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は理由がなく、右と異なる原判決は相当でないから、これを取り消したうえ、被控訴人の請求を棄却することとする。 よって、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第三民事部裁判長裁判官喜多村治雄裁判官小林崇裁判官大沼洋一

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