平成24(ワ)4184

裁判年月日・裁判所
平成26年12月3日 大阪地方裁判所
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判決文本文28,562 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,原告1を除く原告らに対し,同原告らを被告の業務のために線路内又は線路に近接した範囲に立ち入らせるときには,先方見張員(作業現場から最も遠くかつ最も接近列車に近い位置に配置される列車見張員)に携帯用防護無線機を配備して使用させよ。 2 被告は,原告らに対し,それぞれ220万円及びこれに対する平成24年4月28日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,旅客鉄道輸送を業とする被告に雇用され,施設管理係又は電気管理係として線路内又は線路に近接した区域で行う業務に従事してきた原告らが,被告に対し,労働契約上の安全配慮義務履行請求権に基づき,本訴提起後に退職した原告1を除く原告らのために携帯用防護無線機(後記1(5))を先方見張員に配備して使用させることを求める(以下「本件作為請求」という。)とともに,債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為に基づき,携帯用防護無線機を配備されないまま,生命及び身体等の危険を感じながら上記業務を行うことを余儀なくされたことによる慰謝料及び弁護士費用相当額の損害金(遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日)の支払を求める(以下「本件損害賠償請求」という。)事案である。 1 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲括弧内の証拠等により容易に認めることができる。 (1) 当事者等ア被告(争いがない。) 被告は,日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)が昭和62年4月に分割・民営化されたことに伴い,その西日本地域における旅客鉄道輸送業務を承継する会社として設立 ア被告(争いがない。) 被告は,日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)が昭和62年4月に分割・民営化されたことに伴い,その西日本地域における旅客鉄道輸送業務を承継する会社として設立された株式会社である。 なお,国鉄の分割・民営化に伴いその旅客鉄道輸送を承継するものとして発足した各社を総称して「甲各社」という。 イ原告ら(弁論の全趣旨)原告らは,いずれも,国鉄に就職後,施設管理係又は電気管理係等の業務に従事し,被告設立後は被告との間で労働契約を締結して,引き続き同様の業務に従事してきたものである。各原告の直近の所属等は次のとおりである(年月は当該所属等に異動した時期を示す。)。 (ア) 原告1平成16年4月 a保線区保線系統施設管理係(平成25年1月31日退職)(イ) 原告2平成20年10月 b保線区保線系統施設管理係(ウ) 原告3平成18年10月 a信号通信区信号系統電気管理係(エ) 原告4平成12年4月 c電気区電気管理係平成23年6月 d信号通信区b管理室信号系統電気管理係(オ) 原告5平成12年4月 e電気区電力系統電気管理係(カ) 原告6平成21年6月 f電気区電気管理係平成23年6月 g電気区電力系統電気管理係(2) 原告らの業務の内容(争いがない。)原告らの業務の内容は,以下のとおりであるが,いずれも線路内及び線 路に近接した区域に立ち入る必要がある。 ア保線区に所属する者の主な業務は,被告の定める軌道構造整備準則(甲1)に則り,レール及びこれを支える枕木やバラスト(砕石)等を検査・調査することである。 イ 立ち入る必要がある。 ア保線区に所属する者の主な業務は,被告の定める軌道構造整備準則(甲1)に則り,レール及びこれを支える枕木やバラスト(砕石)等を検査・調査することである。 イ信号通信区信号系統に所属する者の主な業務は,被告の定める電気設備保全準則(甲3)に則り,線路内や線路に近接して設置されている信号機,転てつ機,踏切設備,ATS(自動列車停止装置)等の信号設備の管理・保守・点検・修繕等を行うことである。 ウ電気区電力系統に所属する者の主な業務は,前記電気設備保全準則に則り,電気を電車動力用電源,信号設備電源及び駅の照明等に供給する電気設備の管理・保守・点検・修繕等を行うことであるが,上記イと同内容の業務を行うこともある。 (3) 触車事故防止体制(甲4,乙1ないし5,弁論の全趣旨)ア被告は,線路内又は線路に近接して作業に従事する従業員と列車が接触して発生する事故(以下「触車事故」という。)を防止するための対策として,Ⅰ当該作業区間に列車を進入させない方法によるものと,Ⅱ当該作業を行う工務関係従業員が列車進来の都度待避する方法によるものとを設けている。 Ⅱの方法として,本社において,作業に従事する従業員が行う列車進来の見張り,警報,待避等の要領を内容とする「工務関係触車事故防止準則(在来線)」(平成25年3月まで「工務関係触車事故防止要領(在来線)」と称していたが,内容は現在のものと同一である。以下「本社触防」という。甲4)を定め,さらに,各支社において,その管内の個別事情を考慮した工務関係触車事故防止要領(以下「支社触防」という。乙1,3)を定めている。 以下,上記準則及び要領による触車事故防止体制を総称して「本件触車事故防止体制」という。 イ本件触車事故防 係触車事故防止要領(以下「支社触防」という。乙1,3)を定めている。 以下,上記準則及び要領による触車事故防止体制を総称して「本件触車事故防止体制」という。 イ本件触車事故防止体制の内容(ア) 触車事故防止の仕組みの骨子a 線路内及び線路に近接する一定の範囲で作業や巡回等を行うときは,次のとおり,列車の接近を確実に把握して,他の列車見張員又は作業責任者(当日の作業等の指揮監督者)に伝達する業務のみに従事する列車見張員を配置する。 まず,作業現場には,必ず「現場見張員」と呼ばれる列車見張員を配置し,作業内容や見通しの善し悪しなどに応じ,作業現場から最も遠くかつ最も接近列車に近い位置に「先方見張員」と呼ばれる列車見張員や,現場見張員と先方見張員との間に一人又は複数の「中継見張員」と呼ばれる列車見張員を配置する。 b 先方見張員は,列車の接近を確認したとき,中継見張員(中継見張員が配置されていない場合は現場見張員)に対し,白色旗を使用して列車接近を伝達する。この列車接近合図は,白色旗を使用することが原則とされ,これを補完する手段として携帯式無線機又は携帯電話が使用される。 先方見張員又は中継見張員から列車接近合図を受けた現場見張員は,作業責任者に対し,笛又は携帯式マイクのサイレン等で合図を行う。これを受けた作業責任者は,作業員を線路外に待避させ,全員の待避を確認した後,現場見張員に待避完了合図を行う。 現場見張員は,(中継見張員が配置されている場合は同員を介して,)先方見張員に対し,白色旗,携帯式無線機又は携帯電話機(公衆回線を使用する一般のもの。以下同じ。)を使用して待避完了合図を伝達する。列車見張員らは,列車運転士に対し,各々白色旗を大きく振って,待避完了合図を伝達する。 c 作業 無線機又は携帯電話機(公衆回線を使用する一般のもの。以下同じ。)を使用して待避完了合図を伝達する。列車見張員らは,列車運転士に対し,各々白色旗を大きく振って,待避完了合図を伝達する。 c 作業責任者から列車停止手配の指示を受けた現場見張員は,直ちに列車停止手配を採る。また,その他の各列車見張員は,合図を送 った相手から応答が得られないとき,直ちに列車停止手配を講じる。 列車停止手配の方法は,赤色旗等を激しく振るか,又は軌道短絡器もしくは信号炎管を使用する。 (イ) 列車見張員の配置方法a 列車見張員を配置する目安として,別紙図面のとおり,以下の3種類の距離が用いられる。 Ⅰ 列車見通し距離これは,作業現場から,進来する列車を直接的又は間接的に確認することが必要な距離をいう。 Ⅱ 待避完了距離これは,待避が完了した時点において必要な作業現場から列車までの距離をいう。 Ⅲ 待避余裕距離これは,携帯式無線機及び踏切警報装置(始動点を列車が通過すると,その情報が踏切警報装置に伝達され,踏切警報機の鳴動音と警報灯の点滅により列車接近を知らせる装置)等を利用する場合において,それらの装置に故障等の不測の事態が発生した場合においても触車を免れるために必要な,作業現場からの必要最低限の見通し距離をいう。 これらの距離の最低値は,当該線区又は区間における最高速度に応じ,本社触防の定める標準に従い,各支社において線区・区間ごとに定められており,その内容は,概ね次のとおりである。 最高速度列車見通し距離待避完了距離待避余裕距離130km/h 1200m 600m 400m(ただし,h線及びi線(j内上り線の 車見通し距離待避完了距離待避余裕距離130km/h 1200m 600m 400m(ただし,h線及びi線(j内上り線のみ)については,列車見通し距離は1300m,待避完了距離は750m)120km/h 1100m 600m 350m 105~110km/h 1000m 600m 350m95~100km/h 900m 500m 300m90km/h 800m 400m 250m80~85km/h 700m 400m 250m70~75km/h 600m 300m 250m60~65km/h 500m 200m 200m55km/h 400m 200m 200m列車見通し距離は,列車見通し不良区間(列車見通し距離を確保できない区間として指定されるもの)及び大集団作業等で列車見張員を増員した場合には列車見張員間の列車接近合図に要する時間等を勘案して,1線以上隔てて待避する場合には待避に要する時 車見通し距離を確保できない区間として指定されるもの)及び大集団作業等で列車見張員を増員した場合には列車見張員間の列車接近合図に要する時間等を勘案して,1線以上隔てて待避する場合には待避に要する時間を勘案してそれぞれ延伸され,はしごを使用する場合は,最高速度に応じ100m 又は200m 延伸することとされている。 また,待避余裕距離は,待避禁止区間及び待避困難場所(トンネル,橋梁等)で作業等を行う場合や,はしごを使用するなど待避に時間を要する作業等を行う場合には,必要に応じ延伸される。 b 本件触車事故防止体制においては,作業現場において行う業務を作業等と巡回検査等の二つに分けた上で,列車見張員の配置方法が定められている。 (a) 作業等これは,線路内及び線路に近接して行う工事・保守作業,検査及び調査等である。具体的には,枕木交換,道床修繕,総つき固め,はしごを使用して行う作業・検査等である。 作業等を行う際の列車見張員の基本的な配置方法は,次のとおりである。すなわち,列車見通し距離が確保できる場合は,現場見張員を配置して列車見張りに当たらせる。現場見張員から列車見通し距離が見通せない場合(見通し不良区間や,気象状況が急 変して列車見通し距離の確保が困難になった場合)は,作業現場から基本的には所定の列車見通し距離を確保して先方見張員を配置した上,列車見張員間で相互に視認できる位置に中継見張員を配置するが,このとき,合図に要する時間を勘案し,列車見通し距離を延伸する。携帯式無線機(いわゆるトランシーバ)を使用する場合に,作業現場から先方見張員まで,列車見通し距離に携帯式無線機による呼出しに要する時間を加えた距離を確保できる場合は,中継見張員の配置を省略することができる。しかし,待避余裕距離を確保するため 場合に,作業現場から先方見張員まで,列車見通し距離に携帯式無線機による呼出しに要する時間を加えた距離を確保できる場合は,中継見張員の配置を省略することができる。しかし,待避余裕距離を確保するための中継見張員は配置を省略することができず,また,待避余裕距離を確保するための中継見張員相互間及び現場見張員との間の伝達は,携帯式無線機を使用することはできず,白色旗を使用する。 (b) 巡回検査等これは,2ないし5名の少人数で行う巡回検査,簡易な検査及び調査等(検査や調査のうち,実施内容や環境を考慮して,線路内に留まる時間を短時間とすることができ,かつ,即座に待避できるもの)である。具体的には,徒歩巡回検査,軌道狂い検査,材料目視検査(レール,枕木等),現地調査・写真撮影等である。 巡回検査等を行う際の列車見張員の基本的な配置方法は,次のとおりである。すなわち,列車見通し距離が確保できる場合は,現場見張員を配置して列車見張りに当たらせる。現場見張員から列車見通し距離が見通せない場合は,作業責任者は,作業員らを線路に立ち入らせるに当たり,現場見張員に列車進来の有無を確認させるか,1列車を通過させて次列車の進来がないことを確認するとともに,次の措置を講ずる。 Ⅰ 概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯においては, 線路内に留まる時間を短時間にして待避させるか,携帯式無線機を所持させた先方見張員を上記(a)と同様の距離を確保して配置するとともに,作業現場から待避余裕距離を見通せない場合,先方見張員から現場見張員への通信を一定時間間隔で継続して行う(以下「一定通話」という。)。 Ⅱ Ⅰ以外の線区・時間帯においては,列車ダイヤ等により次列車の通過予定時刻を現場見張員と確認し,待避時刻を列車見張員及び社員に周知して,次列車 間隔で継続して行う(以下「一定通話」という。)。 Ⅱ Ⅰ以外の線区・時間帯においては,列車ダイヤ等により次列車の通過予定時刻を現場見張員と確認し,待避時刻を列車見張員及び社員に周知して,次列車の運転に支障がないよう待避させる。 c 被告は,平成24年6月,「触車事故防止上の列車停止手配等の細部の取扱いについて」(以下「列車停止手配等細部取扱い」という。乙5)を定め,この中で,先方見張員が現場見張員に対して情報を伝達する際に時間的余裕を確保するため,先方見張員から現場見張員に列車接近連絡をして応答を得るのに必要な時間を距離に換算したものを「線区別・区間別視認距離」として確保するものとし,線区最高速度に10秒を乗じた距離をその標準と定めた。この定めは,平成24年7月1日以降,準備が整い次第実施するとされている。 (ウ) 携帯式無線機取扱要領(乙2及び4)a 被告のk統括本部及びl支社においては,携帯式無線機を利用して作業等及び巡回検査等を実施する場合,それぞれ定めた携帯式無線機取扱要領によるものとされている。その主な内容は,以下のとおりである。 (a) 通話相手を呼び出す時間を考慮して,列車見通し距離を,列車速度が95km/h 以上の線区又は区間においては200m,90km/h以下の線区又は区間においては100m 延伸する。 (b) 作業開始前に,施行基面(線路の下)において,通話テ ストを行う。 (c) 先方見張員は,列車の進来を認めたときは,各見張員に列車接近を連絡し,これを受けた現場見張員は,作業責任者にその旨を連絡し,待避完了合図を確認した後,各見張員に待避完了を通報する。 (d) 先方見張員は,現場見張員から列車接近了解の応答がないときは列車停止手配を行う。現場見張員は,先方見張員 責任者にその旨を連絡し,待避完了合図を確認した後,各見張員に待避完了を通報する。 (d) 先方見張員は,現場見張員から列車接近了解の応答がないときは列車停止手配を行う。現場見張員は,先方見張員から列車接近の連絡なしに列車進来を認めたときは列車停止手配を行う。 b さらに,以下のとおり地域毎に具体的な取扱方法が定められている。 (a) k統括本部・dエリア現場見張員は各見張員に対し,列車の現場通過予定時刻の3分前から交信確認を実施し,その後も随時交信を実施する。現場見張員は,交信不良となったときには,直ちに作業責任者に連絡し,これを受けた作業責任者は,直ちに作業を中止して作業員を待避させる。 概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯においては,現場から待避余裕距離が見通せない場所で巡回検査等を行う場合,先方見張員から現場見張員への交信を約5秒間隔で継続して行う(一定通話)。先方見張員は,「○○(先方見張員の姓)異常なし」と交信した後,5秒間プレーストークボタンを離し,再び同様の交信を行い,その後同様に繰り返す。現場見張員は,先方見張員からの上記の交信が10ないし15秒途絶えた場合,携帯式無線機が故障したか先方見張員に不測の事態が発生したと判断し,作業責任者に交信不良の連絡をし,これを受けた作業責任者は,直ちに作業員らを待避させる。 (b) k統括本部・mエリア 現場見張員は,各見張員に対し,列車の現場通過予定時刻前又は定めた時分間隔で交信確認を行う。 交信不良となったときの措置,概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯において現場から待避余裕距離が見通せない場所で巡回検査等を行う場合の一定通話の交信方法や,交信が途絶した場合の措置もdエリアと同様であるが,具体的 置,概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯において現場から待避余裕距離が見通せない場所で巡回検査等を行う場合の一定通話の交信方法や,交信が途絶した場合の措置もdエリアと同様であるが,具体的に何秒の交信途絶で交信不良と判断すべきかについては定めていない。 (c) k統括本部・nエリアo・p本線においては,列車の間合いが5分以上ある場合は,概ね5分間隔で現場見張員から接近列車寄り(以下「外方」という。)の見張員へ交信する。q線,b線及びr線では,進来列車の5分前に1回,現場見張員から外方の見張員へ交信する。外方の見張員は,無線機が未通信の場合,当該見張員から約100m手前で進来してきた列車を抑止する手配をする。 概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯に現場から待避余裕距離が見通せない場所で巡回検査等を行う場合については,交信不良の判断の点を含め,dエリアと同様である。 (d) l支社現場見張員は,各見張員に対し,列車が現場を通過する時刻の5分前,3分前及び1分前を基本に通報し,交信確認を行う。 交信不能及び感度不良となったときは,直ちに作業責任者に連絡し,これを受けた作業責任者は,直ちに作業員を待避させる。 c 上記のとおり,一定通話は,現場から待避余裕距離が見通せない場所で巡回検査等を行う場合に用いられる方法であるが,Ⅰ線路内に立ち入らない場合,Ⅱ概ね5分に1本以上列車進来がない線区・時間帯で線路内に立ち入る場合,Ⅲ概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯に線路内に立ち入る場合で,列車見通しが良好な 場合,Ⅳ概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯でも,線路内に留まる時間を短時間にして待避させる場合には行われない。 (4) 触車事故防止のための新装置の導入ア GPS式 場合,Ⅳ概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯でも,線路内に留まる時間を短時間にして待避させる場合には行われない。 (4) 触車事故防止のための新装置の導入ア GPS式列車接近警報装置これは,現場見張員に携行させたGPS測位端末及び列車情報伝達装置により収集した位置情報から,列車の作業現場への接近・通過を判定し,その判定結果を現場見張員の上記端末に伝送することにより,作業現場に列車の接近を知らせるという装置である。被告は,平成19年以降,同装置の開発を行い,平成20年1月から使用を開始し,順次配備を進めており,その整備範囲は平成24年度末までに約1800km 拡大された。(乙6の1・2,弁論の全趣旨)イ列車見張員支援装置これは,作業現場に配布した列車見張員装置から発報すると,地上の列車運転司令員と列車乗務員との間で通話をするための列車無線を通じ,列車の運転席で音声が鳴り,運転士に停止を指示する装置である。被告は,平成26年5月20日以降,管内の全線に同装置を配備し,運用を開始した。同装置により停止手配の対象となる列車の範囲は,後記(5)の携帯用防護無線機と同じである。しかし,同装置の使用する無線は,携帯用防護無線機と異なり,列車無線が使用中のときには,列車の運転席に電波が届かないことがある。そのため,被告は,同装置を,本件触車事故防止体制を補充するものと位置付けて配備・運用している。 (乙9,弁論の全趣旨)(5) 携帯用防護無線機による列車停止手配のシステムアこれは,列車を脱線・転覆等の危険から防護する(列車防護)方法の一つであり,列車停止の必要が生じたときに携帯用防護無線機から警報を発報すると,列車同士の交信に使用される甲各社共通の無線システムである直接防 列車を脱線・転覆等の危険から防護する(列車防護)方法の一つであり,列車停止の必要が生じたときに携帯用防護無線機から警報を発報すると,列車同士の交信に使用される甲各社共通の無線システムである直接防護無線を通じ,半径約1km 以内にある列車の運転席で警 報音が鳴り,これが鳴ったときは運転士は列車を停止させるというルールに基づき,同範囲内の列車が全て停止するというものである。被告は,h線及びi線のj内において作業をする場合,作業現場につき1台の携帯用防護無線機を使用させることとしている。(甲7,弁論の全趣旨)イ平成8年4月,甲東日本管内において,携帯用防護無線機4台が盗まれ,これにより発信された防護無線により,同管内の列車の進行が止められる事態が相次いで発生した。(乙15,16,弁論の全趣旨)(6) 過去の問題事例(甲14の1ないし13,甲15の1ないし3,弁論の全趣旨)ア作業員に危険が生じた事例前記のとおり,現場見張員又は先方見張員は,携帯式無線機や携帯電話が通信不能になったことに気付き,あるいは合図を送った相手方見張員からの応答がなかった場合,直ちに列車を停止させることと定められているところ,このように適切に対応した事例が,平成22年11月9日から平成24年7月3日までの間に13件あったが,その一方で,適切に対応されず,作業員の生命及び身体等に危険が生じた場合として,以下の6件がある。 (危険事象)(ア) 平成21年9月4日,o本線s駅・d駅間において,作業員が現場見張員を伴って徒歩で巡回をしていたところ,先方見張員が列車の接近を認め,現場見張員にその旨を携帯電話で伝達した。待避完了の連絡が来るべき時点で携帯電話がつながらなくなり,待避完了の連絡が得られなかった先方見張員は,列車運転士に対し赤色 ,先方見張員が列車の接近を認め,現場見張員にその旨を携帯電話で伝達した。待避完了の連絡が来るべき時点で携帯電話がつながらなくなり,待避完了の連絡が得られなかった先方見張員は,列車運転士に対し赤色旗により列車停止手配を行ったが,列車運転士は,逆光のため赤色旗を認識することができず,停止することなく,そのまま作業現場を通過した。作業現場での待避は完了していたので,事故には至らなかった。 (イ) 平成22年4月23日,p本線t駅・u駅間線路内において, 作業員ら約15名が道床部分修繕作業に従事していたところ,先方見張員が列車の接近を認め,現場見張員に対し,携帯式無線機による列車接近合図を行ったが,現場見張員からの応答がなかったため,上記列車に対し,信号炎管による列車停止手配を行った。列車運転士は,列車に向かって走行してくる作業員らしき人と赤と白の光を認めたが,それが信号炎管による停止信号だとは認識せず,そのまま運転を継続した。作業現場では,現場見張員と先方見張員との無線交信が通じなかったために線路外に待避しており,事故には至らなかった。 (ウ) 平成23年8月24日,h線v駅・w駅間において,レール探傷検査を終了した作業員らが線路内にいたところ,先方見張員が列車接近を認め,現場見張員に対し,携帯電話機でその旨連絡したが,現場見張員の携帯電話機のイヤホンジャックが外れていて通話ができず,先方見張員は,現場見張員から接近了解応答が得られなかったため,赤色旗により列車停止手配を行った。列車運転士は,赤色旗に気付かず,所定速度での走行を継続した。現場では,作業員の待避が完了しており,事故には至らなかった。 (待避不良事象)(エ) 平成21年9月9日,x線外回りy駅・z駅間において,作業員らが徒歩で巡回検査を行 速度での走行を継続した。現場では,作業員の待避が完了しており,事故には至らなかった。 (待避不良事象)(エ) 平成21年9月9日,x線外回りy駅・z駅間において,作業員らが徒歩で巡回検査を行っていたが,先方見張員が列車接近合図を失念し,作業員らが線路内にいるところに列車が進来した。当該現場の待避余裕距離は300m以上であったが,作業現場からの見通しが170mしかなかったため,先方見張員が配置されていたものであるところ,作業員らは,列車の接近に気付き,自ら待避した。待避が完了した時点では,列車と作業員らの距離は約100mであり,最後に待避した作業責任者が待避を完了した時点では,列車との間の距離は推定約30mであった。 (オ) 平成21年12月6日,A線下り駅B駅近辺において,作業 員が徒歩で巡回検査を行っていた際,先方見張員が配置換えのため列車接近を見落とした。作業員らは,目視で列車接近を認めた現場見張員の指示により待避したが,列車は作業現場から約150mの地点に至っていた。 (カ) 平成24年4月12日,p本線C駅構内において,作業員らがケーブル管路現場調査を行っていた際,無線機の故障により先方見張員の列車接近合図が作業現場に伝わらなかった。作業員らは,目視で列車接近を認めた現場見張員の指示により待避したが,これは,列車乗務員が線路内に作業員らを認めて汽笛を吹鳴するのと同時であった。 イ作業員が死傷した事例(ア) 平成18年1月24日,D線E駅・F駅間(単線区間)において,作業員らが,G16号(上り)の通過を確認した後,次の電車は午後1時47分E駅通過の上り列車だと思い込み,線路内で作業を開始したが,G16号(上り)より先に通過していたはずのH9号(下り)が定刻を15分遅れて現場に接近して )の通過を確認した後,次の電車は午後1時47分E駅通過の上り列車だと思い込み,線路内で作業を開始したが,G16号(上り)より先に通過していたはずのH9号(下り)が定刻を15分遅れて現場に接近してきた。見張員らは,列車の遅れによる行き違い駅の変更を知らず,上り列車の接近を見張っていた。H9号(下り)の運転士は,約300m前方の線路内に作業員を発見し,汽笛を鳴らして非常停止手配を採ったが間に合わず,作業員に接触し,作業員3名が死亡し,1名が負傷した。 (イ) 平成23年1月24日,p本線I駅・J駅間において,作業員らが枕木交換箇所の現場調査を行っていたところ,後方から接近してきた列車が同作業員に接触し,同作業員は死亡した。 (ウ) 平成21年2月20日,p本線I駅・K駅間において,作業員らが上り線の保守用車を使用したコンクリート枕木運搬作業に従事中,下り列車が接近したため,作業を一時中断して待避していたが,列車運転士が,隣接する線路に保守用車が停車しているのを認め,その横 を通過する直前に,保守用車の陰から当該下り電車線に立ち入る作業員を認め,非常ブレーキを使用したが間に合わずに接触し,同作業員は死亡した。 2 当事者の主張(1) 本件作為請求について(原告らの主張)ア安全配慮義務に基づく作為請求の可否被告は,労働契約法5条により,被用者である原告らが労務を提供するに当たり,生命及び身体等の危険が生じないよう配慮する義務(安全配慮義務)を負うところ,同義務は,給付義務としての性質を有するから,これに対応する履行請求権が認められる。 そして,同等に危険を回避し得る手段・方法が複数存在する場合,そのいずれを選択するかは使用者の裁量に属するといえるが,複数の手段・方法に違いがあり,一 ら,これに対応する履行請求権が認められる。 そして,同等に危険を回避し得る手段・方法が複数存在する場合,そのいずれを選択するかは使用者の裁量に属するといえるが,複数の手段・方法に違いがあり,一方を採ることによっては回避し得ない危険が他方を採ることによって回避し得るという場合,使用者の裁量は問題とならず,その内容が特定される限り,使用者は,あらかじめより有効な他方の手段・方法を採ることが義務付けられるというべきである。 イ被告が触車事故対策として設けているシステムは,次のとおり安全上の問題点があり,安全配慮義務の履行として不十分である。 (ア) 本件触車事故防止体制についてa 通信機器の交信不良による問題点現場見張員が列車見通し距離を確保できないにもかかわらず,中継見張員が省略され,先方見張員と現場見張員との連絡が携帯式無線機や携帯電話でされる場合,両見張員間の連絡はこれらの機器のみに頼ることとなるが,前提事実(6)アのとおり,通信不良が頻発している。このような場合,現場見張員,作業責任者及び作業員らが交信不良に気付かず作業を継続する事態があり得る。 b 巡回検査等において一定通話が行われない場合の問題点前提事実(3)イ(イ)b(b)のとおり,巡回検査等を作業現場から待避余裕距離を見通せない場所で行う場合の列車見張りの方法である一定通話は,常に行われるわけではなく,Ⅰ概ね5分に1本以上列車進来がない線区・時間帯で線路内に立ち入る場合,Ⅱ概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯で線路内に立ち入る場合で,列車見通しが良好な場合,Ⅲ概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯でも,線路内に留まる時間を短時間にして待避させる場合には行われない。このような場合 ある線区・時間帯で線路内に立ち入る場合で,列車見通しが良好な場合,Ⅲ概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯でも,線路内に留まる時間を短時間にして待避させる場合には行われない。このような場合,現場見張員,作業責任者及び作業員らが交信不良に気付かず作業を継続する事態があり得る。 このうち,Ⅰの場合,ダイヤ等により次列車の予定時刻を確認して線路内に立ち入ることになっているとしても,列車ダイヤが乱れている場合は,列車接近合図は随時交信に頼らざるを得ないし,ダイヤの乱れを理由に中止した作業を再開することも禁じられていないから,安全対策として十分ではない。Ⅱの場合も,ヒューマンエラーの危険がある。Ⅲの場合は,「短時間」がいかなる時間を指すかは明確でなく,安全確保に十分とはいえない。 c 携帯式無線機取扱要領の問題点(a) 一定通話における通信不良の判断基準につき,dエリア及びnエリアでは10~15秒の途絶とされているが,mエリアでは通信不良の判断基準は定められていない。 (b) 5秒間隔の一定通話を行わずに,列車通過予定時刻の一定時間前に交信を確認し,その後は随時交信をするとされている場合でも,dエリアでは随時交信の間隔は定められていないし,mエリアでは何分前から随時交信をするかも定められておらず,現場から外方の見張員に話しかけて応答がなかったときに初めて交 信不良に気付く場合が多い。 d ヒューマンエラーによる問題点(a) 先方見張員は必ずしも列車を十分に視認できる位置にいるとは限らないため,列車が先方見張員の位置を通過するまでの間に,先方見張員が赤色旗や信号炎管による停止手配を採り得ない危険性がある。 (b) 前提事実(6)ア(ア)ないし(ウ)の事例が示すように,赤色旗や信 ため,列車が先方見張員の位置を通過するまでの間に,先方見張員が赤色旗や信号炎管による停止手配を採り得ない危険性がある。 (b) 前提事実(6)ア(ア)ないし(ウ)の事例が示すように,赤色旗や信号炎管による列車停止手配方法は,気象条件や地理的条件により,列車運転士における合図の見逃しや誤認といったヒューマンエラーを誘発するものであり,これにより列車が停止せず進行するという危険な事態を容易に発生させ得るものである。 (c) 一定通話は,先方見張員の一方的な発信を現場見張員が聞き続けることにより,通信不良に気付き,作業員を待避させる判断をするというものであり,ヒューマンエラーが発生する危険が高く,不十分である。 (d) 急カーブなどのために作業現場から待避余裕距離の見通しが確保できない場合,中継見張員が配置され,列車接近合図は白色旗によることになるところ,伝達はすべて中継見張員らの視覚が頼りであり,伝達の都度,前の見張員の合図を見てから次の見張員に合図をするためのタイムラグが発生するし,見落としというヒューマンエラーの危険が介在するのであり,万全ということはできない。 e 列車停止手配等細部取扱いの問題点列車停止手配等細部取扱いは,被告本社から支社に宛てて発された文書であり,一定の視認距離を確保した配置ができない場合の取扱いについても明確にするものとされていて,例外を認めるものとなっている上,実施時期は平成24年7月1日以降準備が整い次第 とされているのみである。 実際,各支社においては,確保すべき視認距離やそのために必要となる見張員の人数についての詳細が決まっていないこと,先方見張員の視認距離を確保することになると,先方見張員を現場からより遠くに配置することになり,そのため携帯式無線機を使用できなくなるとい 要となる見張員の人数についての詳細が決まっていないこと,先方見張員の視認距離を確保することになると,先方見張員を現場からより遠くに配置することになり,そのため携帯式無線機を使用できなくなるというデメリットがあることから,現場では未だ実施されるに至っていない。 (イ) GPS式列車接近警報装置についてaGPS式列車接近警報装置の配備の状況は,平成25年3月末の時点で被告の営業線区の29%,整備中の線区を含めても57%にとどまっている上,そもそも配備時期の決まっていない線区や,配備自体が不可能な線区も相当の距離にわたって存在する。 なお,GPS式列車接近警報装置が配備されている線区でも,全ての作業員に配備されているわけではなく,被告及び被告のグループ会社の作業員に対してのみであり,被告のグループ会社でない会社の作業員には配備されていない。 b 列車見張員の位置情報は,GPS衛星が取得するものであるが,この位置測定の場面と,サーバから列車見張員の端末に情報が送信される場面のいずれかにおいて,電波の状態が不良であれば,列車が接近しても警報が鳴らない。実際にも電波が途切れることによるエラーが発生することも多いし,GPS式列車接近警報装置を使用することができない「使用制限区間」や,他の手段と併用するのでなければ同装置を使用することができない「単独使用禁止区間」と定められているところもある。 c 列車の位置情報は,CTC(列車中央制御装置)により取得されるが,このシステムの故障により不具合が生じたり,先発列車と後発列車の間隔が短いとシステムが追従することができなかったりし て,警報が鳴らないことがある。GPS式列車接近警報装置は導入されて日が浅く,今後いかなる不具合が発生するかも分からない。 発列車の間隔が短いとシステムが追従することができなかったりし て,警報が鳴らないことがある。GPS式列車接近警報装置は導入されて日が浅く,今後いかなる不具合が発生するかも分からない。 dGPS式列車接近警報装置は,列車が頻繁に通過する線区では警報が鳴りっぱなしの状態になる。また,列車が作業現場を通過した後も一定時間鳴り続けるので,現在鳴っている警報がどの電車のものか分からないこともある。このような状態では,作業員は作業に集中できないか,作業に集中していると警報を聞き漏らしかねない。 (ウ) 列車見張員支援装置についてa 列車見張員支援装置の欠陥(a) 列車見張員支援装置は,通話に使用するための無線電話回線を使用するため,通話時には電波は届かない。 (b) ダイヤが乱れている時は多数の無線通信があり,列車見張員支援装置を使っても列車乗務員に届かない。また,輸送指令が無線機をつないだまま待機しているときには使えない。 (c) 列車に搭載している無線機のほうが出力が大きいため,乗務員が無線機のプレストークボタンを押しているときは,電波は届かない。 (d) 列車無線の基地局からの電波のほうが,列車見張員支援装置からの電波よりも強いときは,電波は届かない。また,山間部やトンネル内では,中継する設備がないことから,電波が確実に届くとはいえない。 先方見張員の横を列車が通過するときには電波が届くとしても,作業現場に到達するまでに列車が停止できない可能性がある(作業現場までの距離が列車の制動距離に満たない場合)以上,装置の欠陥であることに変わりはない。 (e) 無線エリアの切替区間通過時に電波が入らない。 b 具体例 現場までの距離が列車の制動距離に満たない場合)以上,装置の欠陥であることに変わりはない。 (e) 無線エリアの切替区間通過時に電波が入らない。 b 具体例 (a) 平成26年5月20日,p本線L駅構内において誤発報があったが,付近の列車運転士は,その警報音が何のことか分からなかったと述べている。 (b) 同月23日,i線M駅において誤発報があったが,付近を運行中の列車運転士は,警報音が雑音にしか聞こえなかったため,停車せずにそのまま通過した。 (c) 同年6月10日午後11時20分頃,i線N駅付近で発生した誤発報に対し,これを傍受した運転士は,「ブツブツ…とは聞こえたが,『緊急停止』とは聞こえなかった」と述べているとおり,「緊急停止」の音声を認識することができず,所定の運転を継続した。 (d) 同月18日午後零時17分頃,i線M駅付近で発信された緊急停止信号を傍受した運転士は,「『緊急停止』のボイスが小さく早口なので判断しづらかった。停車後に指令に確認し,列車見張員支援装置による緊急停止信号であることを確認した」と述べている。 (e) 列車乗務員から,Ⅰ無線機の音量が小さくあまり聞こえない,Ⅱトンネルの中であまり聞こえない,ⅢGPSトレインナビの,次駅が通過駅か停車駅かを知らせる音声と聞き間違える,Ⅳ従前から無線は他の電波と混信して雑音が入ることが多い,Ⅴ運転に集中するため走行中は無線機に応答してはいけないことになっているので,通常の無線機から流れる「緊急停止」の音声は聞き逃すかもしれないなどといった声が聞かれる。 ウ本件作為請求の当否(ア) 携帯用防護無線機は,先方見張員が列車停止手配を採れない場合や で,通常の無線機から流れる「緊急停止」の音声は聞き逃すかもしれないなどといった声が聞かれる。 ウ本件作為請求の当否(ア) 携帯用防護無線機は,先方見張員が列車停止手配を採れない場合や,先方見張員が行った列車停止手配を列車の運転士が看過してしまった場合に,列車運転士の視覚に頼ることなく,進行してくる列車 をより確実に止めることができるという点で,触車事故防止に有効である。 (イ) このように,よりよい手段・方法が明らかに存在し,これにより初めて防ぎ得る危険・損害があり,さらに,携帯用防護無線機は既に被告の一部区間において導入済みのもので,その配備は容易なのであるから,被告はこのよりよい手段としての携帯用防護無線機の配備を義務付けられているというべきであり,これを行わないことが被告の裁量に属するものではない。 (ウ) したがって,被告は,遅くとも前提事実(6)アの事例が発生した平成21年9月4日以降,原告らに対する安全配慮義務を怠っており,原告1を除く原告らのために携帯用防護無線機を配備する義務を負う。 (エ) なお,被告は,携帯用防護無線機が列車防護のためのシステムとして位置付けられているとして,安全配慮義務としての同無線機の配備義務を否定するが,運転台に設置されている防護無線機が,運転士がトラブル発生時の設備確認で線路内に降りるときに使用し,付近の列車を停止させて運転士の安全を確保している現実の運用に見られるとおり,携帯用防護無線機は,作業員の安全を確保するために極めて有用である。それにもかかわらず,社内規定上,携帯用防護無線機を列車防護目的に限定し,作業員らの安全確保のために配備しないのは,安全対策として問題がある。 (被告の主張)ア安全配慮義務に基づく作為請求の可否 らず,社内規定上,携帯用防護無線機を列車防護目的に限定し,作業員らの安全確保のために配備しないのは,安全対策として問題がある。 (被告の主張)ア安全配慮義務に基づく作為請求の可否安全配慮義務は,使用者が労働契約上の付随義務として労働者に対し信義則上負う義務であり,給付義務とは別の義務として把握されていることから,安全配慮義務に対応する履行請求権はないというべきである。 また,使用者は,労働契約上,多数の労働者の提供する労務を受領し てこれを組織的に配備し,その過程で労働者に対し,広範な裁量のもとに労務指揮権を行使して企業目的を達成するのであるから,安全配慮義務の履行として具体的にいかなる手段・方法を採用するかについても,使用者の広範な裁量に委ねられているというべきである。 イ被告は,以下のとおり,触車事故防止のために十分な施策を講じており,安全配慮義務に違反していない。 (ア) 本件触車事故防止体制について本件触車事故防止体制は,以下のとおり,これに従って行動する限り,触車事故は発生し得ない仕組みになっており,原告らの主張は,失当である。 a 通信機器の交信不良による問題点平成23年度において携帯式無線機等を使用した作業は13万回に及び,各作業において列車接近ごとに通信するから,実際の通信回数はその数倍から数十倍になると考えられるところ,同年度に発生した交信不良の回数は8回にすぎず,交信不良が頻発しているとはいえない。 b 巡回検査等において一定通話が行われない場合の問題点一定通話が行われない巡回検査等のうち,概ね5分に1本以上列車進来がない区間においては,ダイヤによる次列車通過予定時刻を確認した上で立ち入ることにより,安全が確保されているし, 問題点一定通話が行われない巡回検査等のうち,概ね5分に1本以上列車進来がない区間においては,ダイヤによる次列車通過予定時刻を確認した上で立ち入ることにより,安全が確保されているし,概ね5分に1本以上列車進来のある区間で,列車見通しが良好な場合は,現場見張員が列車の接近を把握できる。 また,概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯でも,線路内に留まる時間を短時間にして待避させる場合は,列車進来の有無の確認又は1列車を通過させる等の措置を講じて,次列車の進来がないことを確認しているし,「短時間」を具体的に規定に定めることはかえって現実的ではなく,作業の安全性に知識経験を有する 作業責任者の裁量的判断に委ねて差し支えない。 c 携帯式無線機取扱要領の問題点mエリアにおいて通信不良の判断基準が定められていないとしても,5秒間隔で行っている一定通話が「途絶える」とは,常識的には2ないし3回すなわち10ないし15秒間の途絶を意味するのであり,規定の不備とはいえない。 d ヒューマンエラーによる問題点(a) 列車乗務員が列車停止手配を看過する危険性を否定するものではないが,携帯式無線機等が交信不良になった場合の取扱いは明確に定められているし,その他定められたルールを遵守していれば安全上の問題は発生しない。 (b) 携帯式無線機や携帯電話を使用する場合には,イヤホンジャックの外れ等を含め,通話が途切れた場合,現場の作業員は直ちに待避することとしているので,通常の注意力をもってすれば,現場見張員は通話が途切れたことに当然気付くはずである。 (c) 前提事実(6)ア(エ)の事例は,先方見張員が列車接近連絡そのものを失念した上,無線機とは別に作業現場に列車接近を知らせる固定式列車接近警報装置が点滅して たことに当然気付くはずである。 (c) 前提事実(6)ア(エ)の事例は,先方見張員が列車接近連絡そのものを失念した上,無線機とは別に作業現場に列車接近を知らせる固定式列車接近警報装置が点滅していたのに待避しなかったことが原因であり,幾重にもルール違反が重なって生じたものである。 同(オ)の事例も,先方見張員が配置換えの際,作業員は,先方見張員が所定の位置についてから1列車の通過を確認した後に現場に入るべきところ,先方見張員からの連絡がないのに,進来した列車を1列車の通過と錯誤したことが原因である。 また,同(カ)の事例は,線路内に立ち入らない調査であったため,直接触車事故につながるものではなく,また,先方見張員 も置かれていなかった例であり,いずれも携帯用防護無線機の携帯とは全く関係がない。 (d) 待避余裕距離が確保できず中継見張員が増員されるときでも, 中継見張員は相互に視認可能であるから,白色旗による合図は瞬時に認識でき,伝達ロスは極めて些少な時間であるから,結果的に,現場見張員は,待避余裕距離に接近した列車をほぼ瞬時に認識できる。 また,待避余裕距離は,線区ごとに定められている列車の最高速度に応じて設定されているが,曲線部の最高速度は,曲線の半径に応じ,当該線区の制限速度よりも低く定められており,待避余裕距離を確保するために中継見張員を増員するほどの急曲線では,列車の走行速度がかなり低く設定されるから,実質的には,設定以上の時間的余裕が確保されることになる。 したがって,急曲線において中継見張員を増員した場合でも,待避余裕距離は確保されている。 e 列車停止手配等細部取扱いの問題点列車停止手配等細部取扱いは,列車停止手配を確実に行うため,先方見張員を配置する場合,一定の視認距離を確保して配置す でも,待避余裕距離は確保されている。 e 列車停止手配等細部取扱いの問題点列車停止手配等細部取扱いは,列車停止手配を確実に行うため,先方見張員を配置する場合,一定の視認距離を確保して配置するためのルールである。視認を確保すべき距離は,線区最高速度に10秒を乗じた距離を標準として各支社が定めることとしており,何ら不統一ないし曖昧なものではなく,また,視認距離を確保することを理由として列車見張員が増員されることはない。また,この措置により,携帯式無線機の使用が不可能となるケースが実際にどの程度あるのか,原告らの主張からは不明である。 (イ) GPS式列車接近警報装置についてaGPS列車接近警報装置には,電波不良により通信が途絶えた場合には,これを検知して異常警報を鳴動させる仕組みが備えられ ており,この場合には作業員らは一旦退避することになる。 また,装置の性能上,異常警報を鳴動させる場合や,正しく接近警報を鳴動できない場合があるが,このような場合に備え,使用を制限する区間をあらかじめ定めている。 b 被告は,GPS式列車警報装置の導入初期にみられる故障に対し,原因を究明して対処している。 また,同装置は,触車事故防止体制の補助装置であり,上記の故障が直ちに事故の危険を発生させるものではない。 cx線等,列車運行本数が多い線区では,警報の鳴動時間の短縮やシステム上の列車見通し距離の短縮等の対策を行い,警報の鳴動は,列車見張体制による列車接近把握のタイミングと同程度に至っている。 また,端末を携行する現場見張員は,作業に携わることは禁止されているから,警報に気を取られて作業に支障が生じるとか,警報を聞き漏らすなどということはあり得ない。 (ウ) 列車見張員支援装置につ ,端末を携行する現場見張員は,作業に携わることは禁止されているから,警報に気を取られて作業に支障が生じるとか,警報を聞き漏らすなどということはあり得ない。 (ウ) 列車見張員支援装置について被告は,機能の点で携帯用防護無線機と遜色のない列車見張員支援装置を導入し,本件触車事故防止体制の安全性を更に高めた。 a 列車運転士は,列車の進行中は,指令らとの間で列車無線や乗務員無線を使用することが禁じられており,運転士が列車無線を使用するのは停止中に限られるから,進行中の列車に対して停止合図が発された場合は,運転士は,同装置の電波による「緊急停止」の音声を必ず聞くことができる。 b 列車に搭載している無線機と,列車見張員支援装置の無線機の出力は同じ1Wである。 また,運転士がプレストークボタンを押すのは停止中に限られるから,上記aのとおり,停止合図が進行中の列車に届かないという ことはない。 c 列車無線の基地局からの電波が,列車見張員支援装置の電波より強いときは,同装置の電波が列車に届かないことは事実であるが,列車見張員らが停止合図をするとともに,列車見張員支援装置から電波を発報している間には,必ず列車がその見張員の横を通過していくことになり,このときは同装置からの電波が強くなるから,同装置からの電波が届かないという事態は想定し難い。 d 山間部やトンネル内でも,列車が列車見張員支援装置から電波を発報している列車見張員の横を通過する際には,確実に電波が届く。 e 列車見張員支援装置について生じた原告らの挙げる具体例は,同装置の発する音声に対する運転士の認識の問題であり,教育訓練によって解決・解消できるものであって,現に被告は前提事実(6)イ(イ)の事象を受け 見張員支援装置について生じた原告らの挙げる具体例は,同装置の発する音声に対する運転士の認識の問題であり,教育訓練によって解決・解消できるものであって,現に被告は前提事実(6)イ(イ)の事象を受けて教育訓練を実施している。 また,誤発報についても,被告が防止対策を実施した後は,誤発報事象の報告はない。 ウ本件作為請求の当否(ア) 被告が講じた触車事故防止対策について,裁量の逸脱はない。 (イ) 携帯用防護無線機は,列車停止手配と異なり,脱線や転覆等により他の関係列車に事故が発生することを防止するための列車防護のシステムである。 また,携帯用防護無線機は,甲各社共通のシステムである防護無線を利用したものであることから,被告において広範に導入すると,紛失・盗難の危険が増し,その不正使用によるリスクが甲各社において高まるという弊害がある。このように甲各社共通システムを利用する装置の導入には,他の甲各社と協議して合意に至ることが必要であるが,そのような合意が得られる見通しはない。 さらに,携帯用防護無線機も,見張員が発報しなければ機能しない のであるから,ヒューマンエラーを完全になくすものではない。 (2) 本件損害賠償請求について(原告らの主張)ア前記(1)の原告らの主張で述べたとおり,被告は,原告らに対し,平成21年9月4日以降,携帯用防護無線機を配備する義務を怠り,その点について過失がある。 イ前提事実(6)のとおり,線路内又は線路に近接する区域において事故の危険や死傷事故が相次いで発生しており,原告らは,いつ作業中に列車にひかれるか分からないという危険を感じながら作業を行ってきた。 このような原告らの恐怖心を金銭に換算すれば,それぞれ200万円を下らない。 また,本件訴訟を提起する り,原告らは,いつ作業中に列車にひかれるか分からないという危険を感じながら作業を行ってきた。 このような原告らの恐怖心を金銭に換算すれば,それぞれ200万円を下らない。 また,本件訴訟を提起するために弁護士費用として各自20万円を要した。 (被告の主張)ア被告は,前記(1)の被告の主張で述べたとおり,触車事故防止のために適切な措置を講じており,各作業者がこれに従って行動する限り触車事故は発生しない。 したがって,被告に安全配慮義務違反はない。 イ損害の発生は否認する。 原告らの漠然とした主観的不安感をもって,精神的損害が発生したということはできない。 また,原告らは,死亡事故に一切関わっていない上,前提事実(6)イの死傷事故は,原告らが問題としている事項と関連性がなく,原告らに耐え難い不安を与えているとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 本件作為請求について(1) 安全配慮義務に基づく作為請求の可否 労働契約は,労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが,通常の場合,労働者は,使用者の指定した場所に配置され,使用者の供給する設備,器具等を用いて労務の提供を行うのであるから,使用者は,上記の報酬支払義務にとどまらず,労働者が労務提供のため設置する場所,設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において,労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っているものと解するのが相当である。 もとより使用者の上記安全配慮義務の具体的内容は,労働者の職種,労務内容,労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであることはいうまでもない。 (以上,最高裁昭和59年4月 者の上記安全配慮義務の具体的内容は,労働者の職種,労務内容,労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであることはいうまでもない。 (以上,最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決・民集38巻6号557頁参照。)そして,本件のように,鉄道事業を営む使用者において,列車の運行を日々行いながら,同時に各種設備の管理・保守・点検・修繕を行うに当たり,それらの業務を行う従業員の生命や身体等を危険から保護するためにいかなる措置を講じるか,具体的にはどのような触車事故防止対策を採るかについては,上記作業内容や当該作業区間の状況等(単線・複線等の別,最高速度,列車の運行密度,見通しや通信状況,待避の容易性等)を踏まえた専門的,技術的事項に関わる種々の方策を比較検討した上で判断されなければならない以上,第一次的には上記義務を負っている使用者の合理的な裁量によって決定されるべきであると解される。 したがって,労働者が使用者に対し,事前に安全配慮義務の履行として特定の危険防止措置を採ることを請求するためには,まず,その前提として,前記具体的状況等により労働者の生命や身体等に対する具体的な危険が発生しているにもかかわらず,使用者において,その危険を放置したり,それを除去するための十分な安全措置を講じないなど,上記具体的な危険 に対する使用者の措置がその合理的な裁量を逸脱し,安全配慮義務に違反していると認められる場合でなければならない。 そこで,本件作為請求の当否を判断する前提として,原告らに現在の労働環境等において生命や身体等に対する具体的な危険が発生しているか,上記危険が発生していると評価される場合に,被告がそれを放置したり,それを除去するための十分な安全措置を講じないなど,被告の措置がその合理的 おいて生命や身体等に対する具体的な危険が発生しているか,上記危険が発生していると評価される場合に,被告がそれを放置したり,それを除去するための十分な安全措置を講じないなど,被告の措置がその合理的な裁量を逸脱し,安全配慮義務に違反していると評価できるか否かについて検討する。 (2) 現在の触車事故防止体制の評価ア前提事実(3)ないし(5)のとおり,原告らが従事する施設管理係及び電気管理係の業務は,列車の運行を行いながら実施される場合においては触車事故が発生する危険を伴うため,被告においては,触車事故防止対策として,本件触車事故防止体制が敷かれるとともに,その補助装置として,GPS式列車接近警報装置及び列車見張員支援装置が導入されている。 イ本件触車事故防止体制は,現場見張員が,列車見通し距離を見通せる位置で見張りを行い,列車の進来を確認した場合は作業責任者に知らせ,作業員らがその指示の下に待避することを基本形とし,特に作業等を行う際に列車見通し距離を見通せない場合は,列車見通し距離を確保できるまで見張員(先方見張員,中継見張員)を増員して,先方見張員から現場見張員まで順次,列車の進来を白色旗や携帯式無線機・携帯電話(以下「携帯式無線機等」という。)により伝達して,作業現場において作業員らを待避させるという仕組みである。この先方見張員からの列車接近の伝達は,白色旗又は携帯式無線機等を使用すると定められているが,現場見張員以外の見張員は,合図を送った相手の見張員から応答がない場合や,携帯式無線機等の交信が不良であると判断される場合は,列車停止手配を講じるものとされている。また,携帯式無線機等や踏切 警報装置等を使用する場合には,現場見張員から待避余裕距離を確保するものとし,そのために必要な見張員は,伝達に る場合は,列車停止手配を講じるものとされている。また,携帯式無線機等や踏切 警報装置等を使用する場合には,現場見張員から待避余裕距離を確保するものとし,そのために必要な見張員は,伝達に携帯式無線機等ではなく白色旗を使用するものと定められている。 このような本件触車事故防止体制の仕組みが定められたとおり運用されている限り,現場見張員は,少なくとも列車が待避余裕距離に進来した時点でこれを把握することができるから,作業現場の作業員らは,列車が作業現場に到達するまでに待避することができ,また,外方の見張員が,現場見張員が列車接近の合図を確認したかどうかが不明である場合も,列車停止手配が講じられるから,触車事故の発生を防止することができる。 ウ GPS式列車接近警報装置は,現場見張員による列車接近情報の取得をより確実にするものといえる。 また,列車見張員支援装置は,現場見張員から列車の運転席に警報を発して,列車運転士に列車を停止させる装置であるが,半径約1km の範囲内にある列車に警報を発して列車運転士に列車を停止させる点では,携帯用防護無線機と同じであり,触車事故防止に役立つものといえる。 (3) 原告らの主張の検討原告らは,本件触車事故防止体制やこれを補完する装置等について,種々の欠陥があると主張するので検討する。 ア本件触車事故防止体制について(ア) 通信機器の交信不良による問題点原告らは,携帯式無線機等の交信不良により作業現場に列車接近が伝わらない可能性があると主張するが,前提事実(3)イ(ウ)a(d)のとおり,交信が不良になれば外方の見張員において列車停止手配を講じることと定められているから,触車事故の発生を防止することができる。 (イ) 巡回検査等において一定通話が行われない場合 d)のとおり,交信が不良になれば外方の見張員において列車停止手配を講じることと定められているから,触車事故の発生を防止することができる。 (イ) 巡回検査等において一定通話が行われない場合の問題点 a 概ね5分に1本以上列車進来のない線区・時間帯に,線路に立ち入って巡回検査等を行う場合,列車のダイヤをもとに待避することと定められており(弁論の全趣旨),列車のダイヤが乱れた場合には作業が中止され,その後の作業の再開は,関係各所との間で連絡を取り,状況を確認した上で判断されるから(乙1,弁論の全趣旨),規定上その後の作業の再開が禁じられていないとしても,必ずしも危険であるということはできない。 b 概ね5分に1本以上列車進来のある線区・時間帯でも,線路内に留まる時間を短時間にして待避させる場合には,列車見張員に列車進来の有無の確認又は1列車を通過させる(これにより,次列車が進来するまでの時間は安全が確保されていると考えることができる。)などの措置を講じて,次列車の進来がないことを確認することと定められている(甲4・No.42(3)柱書及びa,弁論の全趣旨)。これによれば,「短時間」とは,その長さについて具体的な定めはないものの,少なくとも1列車の通過により確保できるのと同等の安全が確保できる時間を意味するものと解することができ,規定上これを明確に定めていないとしても,必ずしも安全確保に十分でないということはできない。 (ウ) 携帯式無線機取扱要領の問題点原告らは,mエリアにおいて,一定通話における交信不良の判断基準が定められていないとか,一定通話を行わない場合の随時交信に関し,dエリアではその間隔が,mエリアでは列車通過の何分前から随時交信を開始するかが定められていないと主張する。 しかしながら, 断基準が定められていないとか,一定通話を行わない場合の随時交信に関し,dエリアではその間隔が,mエリアでは列車通過の何分前から随時交信を開始するかが定められていないと主張する。 しかしながら,それらの事項の定めがないことによって具体的危険が生じたことを認めるに足りる的確な証拠はない。一定通話が義務付けられていない場合とは,携帯式無線機等の交信不良が生じた場合でも作業員の安全を確保できる場合であると認められるし,mエリアに おいて,上記判断基準が定められていないといっても,一定通話の頻度が5秒に1回と定められていることに照らせば,一定回数交信が途絶した場合には現場見張員において自ずと交信不良と判断できると解される。そして,前提事実(6)アの柱書のとおり,携帯式無線機等の交信不良が生じた場合,実際に列車停止手配が採られていることからしても,原告らの指摘する事情が安全確保の妨げになっているものではないといえる。 (エ) ヒューマンエラーによる問題点原告らは,一定通話における交信途絶に気が付かない,白色旗による合図を見落とす,列車乗務員が列車停止手配を看過する,作業現場において列車の接近に気が付かないなどのヒューマンエラーの危険性を指摘する。 しかしながら,そもそも,一定通話において義務付けられている上記頻度等に照らせば,交信途絶に気が付かないとはいえない。また,合図を見落とすという点についても,本件触車事故防止体制においては,見張員は見張りに専念するものとされていることからすれば,見落としの頻度が多いとはいえないし,外方の見張員が送った列車接近合図を作業現場寄り(以下「内方」という。)の見張員が見落とし,これを了解した旨の応答をしなかったとしても,その場合には外方の見張員は直ちに列車停止手配を採ることを義務付けられ 張員が送った列車接近合図を作業現場寄り(以下「内方」という。)の見張員が見落とし,これを了解した旨の応答をしなかったとしても,その場合には外方の見張員は直ちに列車停止手配を採ることを義務付けられていることからすれば,見張員側の合図の看過等のヒューマンエラーによって触車事故が発生する蓋然性は低いといえる。 また,列車運転士が列車停止手配を看過する危険性も否定できないとしても,前記(2)イのとおり,本件触車事故防止体制に基づいて列車見張員を配置している限り,現場見張員は,中継見張員を介するなどして,少なくとも列車が待避余裕距離に進来した時点でこれを把握することが可能であるから,列車停止手配の看過によって触車事故 が発生する蓋然性は低いといえる。実際,前提事実(6)アの各事例は,本件触車事故防止体制により危険が回避された事例であるといえる。 さらに,原告らは,先方見張員が列車を十分に視認できる位置にいるとは限らないと主張するが,本件触車事故防止体制によれば,先方見張員は,必要に応じて中継見張員を介し,作業現場からの列車見通し距離を確認できる位置に配置することを定められているのであるから,原告らの主張は当たらない。 (オ) 列車停止手配等細部取扱いの問題点列車停止手配等細部取扱いは,本件触車事故防止体制をより高めるために,先方見張員の視認距離を十二分に確保することを目的として作成されたものであり,原告らが主張する問題点(前記第2の2(1)の原告らの主張イ(ア)e)があるとしても,直ちに現在の本件触車事故防止体制自体に欠陥があるとまではいえない。 イ GPS式列車接近警報装置及び列車見張員支援装置について原告らは,GPS式列車接近警報装置及び列車見張員支援装置について縷々問題点があると主張する(前記第2の2(1)の るとまではいえない。 イ GPS式列車接近警報装置及び列車見張員支援装置について原告らは,GPS式列車接近警報装置及び列車見張員支援装置について縷々問題点があると主張する(前記第2の2(1)の原告らの主張イ(イ),(ウ))。 しかしながら,上記各装置はあくまでも本件触車事故防止体制の補助装置として導入されたものであり,上記各装置のみによって作業員らの安全を確保するものではないことや,今後装置の改善や運転士の教育訓練により改善が見込まれるものであることに鑑みると,原告ら主張の問題点があるとしても,直ちに現在の本件触車事故防止体制自体に欠陥があるとまではいえない。 なお,GPS式列車接近警報装置の端末を取り扱うのは,作業には携わらない現場見張員であるから,同装置の警報により作業に集中できないという事態は生じ得ない。 (4) 安全配慮義務違反の有無ア以上のとおり,現在の本件触車事故防止体制は,触車事故防止に有効な措置であり,被告が従業員に対し同体制を厳格に運用するように指揮監督している限り,触車事故発生の蓋然性は低いといえるところ,本件全証拠を検討してみても,被告が上記指揮監督を怠っていることをうかがわせるような証拠は見いだせない。そして,被告は,さらに本件触車事故防止体制の下で触車事故の防止を一層確実なものとするための補助装置の整備を進めているところである。 そうすると,被告は,原告らに対し,その合理的な裁量により,触車事故防止のために有効な措置を講じていると評価でき,原告らの労働環境等に発生している生命や身体等に対する具体的な危険を放置したり,それを除去するために十分な安全措置を講じていないとはいえない。 イなお,原告らが配備を求めている携帯用防護無線機によっても,先方見張員が列車停止手配を失念するこ する具体的な危険を放置したり,それを除去するために十分な安全措置を講じていないとはいえない。 イなお,原告らが配備を求めている携帯用防護無線機によっても,先方見張員が列車停止手配を失念することにより触車事故が発生する危険を完全に除去することができるものではない。特に前提事実(6)ア(エ),(オ)の事例はそのような例である。また,前提事実(6)イの死傷事例についても,携帯用防護無線機が配備されていれば防止し得たと認めるに足りる的確な証拠もない。 そうすると,仮に携帯用防護無線機を先方見張員に配備したとしても,GPS式列車接近警報装置や列車見張員支援装置と同様,本件触車事故防止体制を補完するものに止まるというべきであるから,被告が触車事故防止のために携帯用防護無線機を配備しないとしても,安全配慮義務の履行として危険防止措置の具体的内容を決定するに当たっての被告の合理的な裁量の範囲を逸脱するものとはいえない。 ウよって,被告の本件触車事故防止体制が原告らに対して負っている安全配慮義務に違反するものとは認めるに足りないから,被告の安全配慮義務違反を前提とする本件作為請求は理由がないといわなければならな い。 2 本件損害賠償請求について原告らは,前提事実(6)の各事例のとおり,線路内又は線路に近接する区域において事故の危険や死傷事故が相次いで発生しており,原告らは,携帯用防護無線機を配備されないまま,列車に接触する危険を感じながら作業を行うことを余儀なくされ,精神的損害を被ったと主張する。 しかしながら,原告らは,いずれも前提事実(6)の各事例に関与しておらず,また,過去においてそれらに類する事象に遭遇したことを認めるに足りる的確な証拠もない。そして,前記1の判示のとおり,被告は,現在,触車事故防止に有効な措置を 前提事実(6)の各事例に関与しておらず,また,過去においてそれらに類する事象に遭遇したことを認めるに足りる的確な証拠もない。そして,前記1の判示のとおり,被告は,現在,触車事故防止に有効な措置を講じており,原告らの生命や身体等に具体的な危険が発生しているということもできない。結局,原告らが主張する損害は,携帯用防護無線機を使用しないことによる漠然とした不安感や危惧感にすぎないから,債務不履行又は不法行為上の損害には当たらないというべきである。 よって,原告らの債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求は,その余の点を検討するまでもなく,理由がない。 3 結論以上によれば,原告らの請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官中垣内健治 裁判官菊井一夫 裁判官笹井三佳

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