平成21(行コ)168 労働者災害補償保険遺族補償給付不支給処分取消等請求控訴事件(通称 中央労基署長遺族補償等不支給処分取消)

裁判年月日・裁判所
平成22年10月13日 東京高等裁判所
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判決文本文40,528 文字)

- 1 -主文 原判決を取り消す。 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,第1,第2審とも,被控訴人らの負担とする。 事実 及び理由 第1 控訴の趣旨主文と同旨第2 事案の概要 1 本件は,株式会社P1(以下「P1」という。)に勤務していたP2(以下「亡P2」という。)が,くも膜下出血を発症して死亡したことについて,業務に起因するものであるとして,亡P2の父母である訴訟承継前第1審原告P3及び被控訴人P4が,中央労働基準監督署長に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)による遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ,中央労働基準監督署長から平成12年3月31日付けで労災保険法による遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分(以下「本件不支給処分」という。)を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 原審は,亡P2のくも膜下出血の発症についての業務起因性を肯定し,本件不支給処分は違法であると判断して,同処分を取り消した。そこで,原審の認定判断を不服として,控訴人が控訴を提起した。 2 前提となる事実及び争点は,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。 争点に関する当事者双方の主張は,後記3及び4のとおりである。 なお,訴訟承継前第1審原告P3は原審口頭弁論終結後の平成▲年▲月▲日に死亡し,被控訴人P5が,相続により同人の権利義務を承継したことに伴い,当審において,同人の訴訟手続を承継した。 - 2 - 3 被控訴人らの主張(1) 労災保険法7条1項1号の「業務上の疾病」の意義ア労災保険法7条1項1号の の権利義務を承継したことに伴い,当審において,同人の訴訟手続を承継した。 - 2 - 3 被控訴人らの主張(1) 労災保険法7条1項1号の「業務上の疾病」の意義ア労災保険法7条1項1号の「業務上の疾病」とは,業務と疾病との間に合理的関連性があることで足りる。 仮に,業務と疾病との間に相当因果関係が必要であるとしても,業務が相対的に有力な原因であることは要せず,業務の遂行が基礎疾患等を誘発又は増悪させて発症の時期を早めるなど,業務が基礎疾患等と共働原因となって疾病の発症や死亡の結果を招いたと認められる場合には,当該疾病は「業務上の疾病」と解すべきである。すなわち,① 被災労働者の従事した業務が,同人の基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させる要因となり得る負荷(過重負荷)のある業務であったこと,② 被災労働者の基礎疾患がその自然経過により脳・心臓疾患を発症させる直前まで増悪していなかったことが認められる場合には,業務起因性が肯定される。そして,被災労働者は,通常の日常業務を支障なく遂行していたことを立証すれば,当該被災労働者の基礎疾患は確たる発症因子がなくてもその自然経過により脳・心臓疾患を発症する寸前にまで進行していたとは認められないとして,上記②の要件を充足するものと解すべきである。 イまた,上記①の過重負荷の判断は,基礎疾患等を有し又は基礎疾患等を発症した当該労働者を基準として業務の過重負荷の有無及び程度を判断すべきであり,仮に,当該労働者を基準としないとしても,使用者によって労務の提供が期待されている者の中で最も危険に対する抵抗力の弱い者を基準として,医学的経験則ではなく一般経験則に照らし,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて有意に増悪させ得ることが,客観的に認められる負荷といえるか 対する抵抗力の弱い者を基準として,医学的経験則ではなく一般経験則に照らし,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて有意に増悪させ得ることが,客観的に認められる負荷といえるか否かによって判断するのが相当である。 - 3 -ウ新認定基準は,行政の適正,迅速処理などの運用のための内部通達として定められたものであり,業務起因性の判断について,裁判所を拘束するものではない。 (2) 亡P2の業務の量的過重性についてア発症前6か月間の時間外労働時間タイムカードその他の証拠により,最低限認められる亡P2の発症前6か月間の労働時間は,原判決別表1のとおりである。すなわち,各月の時間外労働時間は,発症前1か月目(平成8年7月26日から同年8月24日まで)は42時間33分,発症前2か月目(同年6月26日から同年7月25日まで)は80時間32分,発症前3か月目(同年5月27日から同年6月25日まで)は99時間23分,発症前4か月目(同年4月27日から同年5月26日まで)は33時間16分,発症前5か月目(同年3月28日から同年4月26日まで)は75時間17分,発症前6か月目(同年2月27日から同年3月27日まで)は52時間00分であった。 また,亡P2は,くも膜下出血発症以前の平成8年の夏休みころから,頭痛等の自覚症状を周囲に訴えており,くも膜下出血の前駆症状として頭痛等が発症していた。そうすると,亡P2の労働の過重性を適切に評価するためには,前駆症状が発症した夏休みの初日である同年8月9日を起算日としてさかのぼって算出すべきである。その場合には,時間外労働時間が80時間を超える月が発症前2か月目,3か月目,6か月目であり,70時間から80時間の間が1か月目であり,40時間を下回る月が4か月目と5か月目となる。 べきである。その場合には,時間外労働時間が80時間を超える月が発症前2か月目,3か月目,6か月目であり,70時間から80時間の間が1か月目であり,40時間を下回る月が4か月目と5か月目となる。 イ上記時間外労働時間の算出方法(ア) 休憩時間について,P1では従業員に残業時間の抑制を指示し,亡P2は,タイムカード上,労働時間を過少申告していた。亡P2が正午前後に出勤していた日について,まとまった昼食休憩を想定すれば,亡- 4 -P2の休憩時間は1日平均1時間とすべきである。 (イ) 休日の労働時間は,一律8時間とした。 (ウ) 平成8年2月及び3月の労働時間については,亡P2は,裁量労働制適用対象者としてタイムカードがなく,出勤表により深夜,休日労働のみを申告していた。しかし,当時の出勤表の記載については,P1が所在したビルの警備日誌(乙30の7ないし12)や深夜業務交通費伝票(乙31の1ないし5)などの他の資料によると,正しい労働実態を反映したものではないことが明らかであるから,他の資料から労働実態が判明しない日についてのみ,出勤表の記載によるべきである。 ウ夜間勤務亡P2は,長時間労働に従事し,しかも,その労働時間帯も深夜労働が極めて多く,特に,P6グループ在籍中は,デジタルP7の更新作業のため,水曜日の夜に,翌日の早朝まで働くことが常態化していた。 エ亡P2の業務が量的に過重であったこと亡P2の労働実態は,上記アからウのとおり,極めて過酷かつ不規則であり,亡P2の業務が量的に過重であったことは明らかである。 (3) 亡P2の業務の質的過重性についてア編集業務の特徴からみた過重性編集業務は,常に幅広い情報の収集,記事企画を構想するための情報分析ないし発想作業を必要とし,労働時間だけでは評価しき (3) 亡P2の業務の質的過重性についてア編集業務の特徴からみた過重性編集業務は,常に幅広い情報の収集,記事企画を構想するための情報分析ないし発想作業を必要とし,労働時間だけでは評価しきれない過重性がある。他方,担当記事の編集を仕上げるためには,誤字脱字のチェックやレイアウト,色等の細部にわたる点検が不可欠であり,精神的な集中力を要求される。さらに,編集業務においては,神経を使う取材の関連資料の収集と検討,記事に必要なデータ等の収集,関係先との連絡調整,記事完成後の関係先へのフォローなどが不可避であり,広告主への配慮や営業担当社員とのやり取りなどの負担が増加していた。したが- 5 -って,亡P2が担当していた編集業務は,それ自体が相当に過重な業務であった。 イ P1の人事制度とその重圧P1は,利益至上主義に基づき,能力主義・業績主義による人事として,極めて短期に従業員の人事考課を繰り返し,その結果を,賞与の額,昇給・昇格の有無,人事異動等に反映させる仕組みを採用していた。かかる労働環境下において,亡P2は,評価が低下すれば,自らが希望する職種でのキャリアアップの機会を奪われるという重圧を常に受けていた。 ウ P7編集課における業務の過重性(ア) 亡P2は,平成4年7月にP7編集課に配属されて以来,記事の担当以外に「表紙」及び「進行管理」などの課内業務を並行して担当していた。これらの業務は,重要な業務であり,相当の時間を要する業務であった。 (イ) 亡P2は,編集課内で能力を評価されるに従い,リニューアル号の第1特集(甲11)など重要な記事を任されるようになり,失敗できないという重圧を受けていた。 (ウ) P7編集課においては,「情報誌編集者におくる編集ガイドブック」が存在したり,各編集記事について,読者 集(甲11)など重要な記事を任されるようになり,失敗できないという重圧を受けていた。 (ウ) P7編集課においては,「情報誌編集者におくる編集ガイドブック」が存在したり,各編集記事について,読者によるアンケートの集計結果(支持率)が各編集者に配布されるなど,各編集者に高度のレベルの編集業務を行わせるべく働きかけが行われていた。 エデジタルP7における業務の過重性(ア) デジタルP7の重要性P1は,新事業に対して短期間での黒字化を求める利益至上主義を採用していた。デジタルP7は,インターネット時代到来を見据えて,他社に先駆けて商品として確立され,有利な競争地位を築くため,P- 6 -1にとって重要な媒体であり,高い数値目標とともに早期の成果が求められた。 (イ) 実績不振の克服の要求デジタルP7は,創刊2か月後には,実績不振が問題とされ,その克服を求めて編集企画の充実を初めとする具体的な対策が決定されていた。亡P2は,デジタルP7に係る実績不振の克服の要求の下で,相次ぐ編集企画の立案と実行を中心とした業務を行っていた。 (ウ) 唯一の編集担当者としての業務負担P6グループの人員体制は極めて不十分であり,亡P2以外に編集担当者が配属されていなかった。グループマネージャーのP8ですら商品媒体の編集経験がなく,亡P2が唯一の経験者であった。また,P8,技術担当のP9,企画担当のP10は他の部署を兼務しており,亡P2が担当していた業務は,多数の専門スタッフが分業体制で分担する業務に匹敵するものであった。さらに,亡P2は,子会社社員らが担当するデジタルP7の画面デザインや更新に加え,P7では別人が分担していたデザイン等の作業の多くも担当していた。 (エ) 業務遂行における困難性亡P2は,インターネット媒 は,子会社社員らが担当するデジタルP7の画面デザインや更新に加え,P7では別人が分担していたデザイン等の作業の多くも担当していた。 (エ) 業務遂行における困難性亡P2は,インターネット媒体の業務は未経験であり,新規性の高い業務に従事し,人員不足の状況下で,社外のP11からインターネット媒体の業務に必要な技術的知識習得や情報収集をしていた。そして,編集長の編集経験不足から,デジタルP7の編集企画は,実質的に唯一の専属担当者であった亡P2の責任で立案,実行しなければならない状況であった。また,当時の通信環境やソフトウェアの未熟さからも業務遂行における困難性があった。 (オ) 編集長の長期休暇による業務負担増本件発症直前の平成8年7月に,P8がステップ休暇として長期休- 7 -暇を取得したことに伴い,キャリアカウンセリング関連業務の負担が増加し,また,業務遂行が亡P2の判断と実質的責任の下で行われるようになり,更に亡P2の業務負担が過重になった。 (カ) その他の業務負荷その他,デジタルP7の業務遂行において,インターネット媒体では紙媒体では生じないようなトラブルが起こり得る相当の負荷があったのみならず,特集記事(P31の記事)について,取材の日から記事原稿作成及び記事掲載が後ろにずれ込んでおり,本件疾病発症前ころ経費精算作業が遅れがちであったため,デジタルP7の業務遂行において相当の負荷があった。 オ発症直前期の状況(ア) 亡P2は,くも膜下出血の発症に至った平成8年8月には初旬から相当に体調が悪化している様子を示し,夏休みに入った直後には,くも膜下出血の前駆症状としての頭痛や吐き気を継続して訴えていた。 亡P2は,夏季休暇を取得しても,蓄積疲労の回復ないし血管病変の十分な修復ができないまま,くも膜下出血 示し,夏休みに入った直後には,くも膜下出血の前駆症状としての頭痛や吐き気を継続して訴えていた。 亡P2は,夏季休暇を取得しても,蓄積疲労の回復ないし血管病変の十分な修復ができないまま,くも膜下出血がいつ発症してもおかしくない状態にあった。 (イ) 亡P2は,夏休み後,十分な人員配置がされていなかったことや社内サポートの体制も極めて不十分であったことから,徹夜勤務を含む過重な業務に従事しなければならなかった。 カこのように,発症直前期における亡P2の身体状況の悪化とそれ以前の労働の過重性,前駆症状を発症していた状態で過重労働に従事しなければならなかったことに着目すれば,亡P2の従事した業務は,同人の基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させる要因となり得る負荷(過重負荷)のある業務であったことは明らかである。 (4) 亡P2の基礎疾患が,その自然経過により,脳・心臓疾患を発症させる- 8 -直前にまでは増悪していなかったことア亡P2が多発性囊胞腎の既往症を有するとしても,くも膜下出血の発症は過重な業務が原因であり,業務起因性が認められる。 (ア) 亡P2の血圧は,高血圧症として治療を要する程度には悪化しておらず,かかる程度に至ったのは,P1入社後に増悪した結果である。 また,脂質(総コレステロール,HDLコレステロール,中性脂肪)については,要生活注意(C)又は要再検査(D)と指摘されていたが,治療を要する程度には至っていなかった。 (イ) 亡P2の多発性囊胞腎は,腎機能にほとんど異常が認められない軽度のものであった。すなわち,平成8年3月28日の受診の際には,肉眼的血尿が消失しており,CTスキャンによっても,肝臓,すい臓,脾臓に囊胞は認められず,胆囊も正常で,血液検査,生化学検査等にほとんど異常がなかった。同年4月25日受 年3月28日の受診の際には,肉眼的血尿が消失しており,CTスキャンによっても,肝臓,すい臓,脾臓に囊胞は認められず,胆囊も正常で,血液検査,生化学検査等にほとんど異常がなかった。同年4月25日受診の際には,治療を要せず,3か月に一度の経過観察でよいと指示されている。 (ウ) 多発性嚢胞腎での脳動脈瘤の合併頻度は,一般より高いとの報告もあるが,それらの報告は脳動脈瘤の検出方法や多発性囊胞腎患者群の母集団の特性の差異に基づき内容が大きく異なるものであり,合併頻度が高くないとの報告もある。また,多発性嚢胞腎に合併した脳動脈瘤が存在しても,必ずしも破裂に至るものではない。 多発性嚢胞腎が,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の危険因子であることは否定できないが,他の危険因子(喫煙,高血圧,アルコール等)と同様,脳動脈瘤を必ず増悪させ,破裂によるくも膜下出血を発症させるとは限らない。特に,亡P2のような29歳という年齢では,脳動脈瘤によるくも膜下出血を発症する者は少ない。亡P2の高血圧及び多発性嚢胞腎の症状は,前記(ア)及び(イ)のとおりであり,亡P2はくも膜下出血発症まで,通常の日常業務を支障なく遂行していたのであるから,- 9 -亡P2の基礎疾患たる脳動脈瘤が,その自然経過により破裂してくも膜下出血を発症する直前にまで進行していたということはできない。 イ亡P2は,過重業務により脳動脈解離が進行し,くも膜下出血を発症したものであり,業務起因性が認められる(予備的主張)。 (ア) 吐き気,おう吐を伴わない頭痛が先行して,最終的に致死的なくも膜下出血発症に至るという経過は,脳動脈解離によるくも膜下出血に特徴的な病態である。亡P2には,吐き気,おう吐を伴わない頭痛が先行してみられ,その後,発症約10日前の平成8年8月16日から吐き気を訴 下出血発症に至るという経過は,脳動脈解離によるくも膜下出血に特徴的な病態である。亡P2には,吐き気,おう吐を伴わない頭痛が先行してみられ,その後,発症約10日前の平成8年8月16日から吐き気を訴えるようになり,くも膜下出血の発症当日の同月25日には,めまい,頭痛,おう吐がみられたというのが,発症に至る自覚症状の経過であり,脳動脈解離によるくも膜下出血の場合との共通性を有する。 (イ) 脳動脈解離発症の病理,病態に対する知見は乏しく,脳動脈解離の発生に対する危険因子も未知であり,遺伝的素因との関連性についても明らかになっていない。したがって,亡P2のくも膜下出血の原因が脳動脈解離である場合に,多発性囊胞腎を発症のリスクファクターとして捉えることについての十分な根拠が明らかになっていない。 (ウ) 脳動脈解離でも一方的に進行するのではなく修復過程が存在し,その修復過程では,十分な生理的睡眠をとることにより定期的な血行力学的負荷を軽減することが重要である。過重労働やそれによるストレス等は,血行力学的因子を増大させ,また,血行力学的負荷の軽減による修復過程を阻害し,脳動脈解離の発症に重大な影響を及ぼす。 (5) 以上のとおり,亡P2は,P1の編集者として過重な業務に従事したことから,回復できない疲労を蓄積し,その過重業務を原因としてくも膜下出血を発症し,死亡するに至ったものであり,亡P2の本件疾病がP1の過重な業務に起因することは明らかである。したがって,本件不支給処分- 10 -は違法であり,取消しを免れない。 4 控訴人の主張(1) 労災保険法7条1項1号の「業務上の疾病」の意義ア労災保険法上の保険給付は,労働者の業務上の死亡等について給付されるところ(労災保険法7条1項1号),当該労働者の死亡等を業務上のものという ) 労災保険法7条1項1号の「業務上の疾病」の意義ア労災保険法上の保険給付は,労働者の業務上の死亡等について給付されるところ(労災保険法7条1項1号),当該労働者の死亡等を業務上のものというためには,当該労働者が業務に従事しなければ結果(死亡等)は生じなかったという条件関係が認められるだけでは足りず,両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)があることを要する。 イそして,労災保険は労働基準法の定める使用者の災害補償責任を担保するための制度であるところ,災害補償制度は,労働者が使用者の支配管理下で労務を提供する過程において,業務に内在する危険が現実化して傷病が引き起こされた場合には,使用者は,当該傷病の発症について過失がなくても,その危険を負担し,労働者の損失填補に当たるべきであるとする危険責任の考え方に基づくものであるから,労災保険において相当因果関係が肯定されるためには,死亡等の結果が業務に内在する危険の現実化と認められること,すなわち,① 業務に危険が内在していると認められること(危険性の要件),② 傷病が業務に内在する危険の現実化として発症したと認められること(現実化の要件)が必要である。 ウ脳・心臓疾患については,上記①の業務の危険性の要件については,当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し,基礎疾患を有していても通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者(平均的労働者)を基準として,業務による負荷が,医学的経験則に照らし,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷といえるか否かによっ- 11 -て決するのが相当である。また,上記②の危険の現実化の要件については,当該発症に対し,業務による危険性 然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷といえるか否かによっ- 11 -て決するのが相当である。また,上記②の危険の現実化の要件については,当該発症に対し,業務による危険性(業務の過重性)が,その他の業務外の要因(当該労働者の私的リスクファクター等)に比して相対的に有力な原因となったと認められることが必要である。 エ専門検討会報告書は,その時々の最新の医学的知見に基づき,どのような場合に,脳・心臓疾患の発症が「業務に内在する危険の現実化」と認められるかについての評価要因を検討したものであり,医学的に極めて信頼性の高い資料であるから,業務起因性の有無は,同報告書に示された最新の医学的知見及びこれを踏まえた新認定基準に基づいて判断されるべきである。 (2) 亡P2の業務の量的過重性についてア亡P2の発症前6か月間の時間外労働時間亡P2の発症前6か月間の労働時間は,原判決別表2のとおりである。 すなわち,各月の時間外労働時間は,発症前1か月目(平成8年7月26日から同年8月24日まで)は32時間40分,発症前2か月目(同年6月26日から同年7月25日まで)は51時間13分,発症前3か月目(同年5月27日から同年6月25日まで)は68時間32分,発症前4か月目(同年4月27日から同年5月26日まで)は20時間30分,発症前5か月目(同年3月28日から同年4月26日まで)は66時間00分,発症前6か月目(同年2月27日から同年3月27日まで)は47時間30分であった。 なお,発症から時期がさかのぼるほど業務の影響は相対的に低下するので,発症より6か月以上前の業務の過重性を検討する必要はない。 イ上記時間外労働時間の算出方法(ア) 休憩時間については,基本的に,原判決別表2の「1日の拘束時間数」から は相対的に低下するので,発症より6か月以上前の業務の過重性を検討する必要はない。 イ上記時間外労働時間の算出方法(ア) 休憩時間については,基本的に,原判決別表2の「1日の拘束時間数」から亡P2が申告した「1日の労働時間数」を減じた数値とす- 12 -べきである。P1には,労働時間を過少申告するような実態はない上,編集業務は仕事と私生活の区別が付けにくい特殊な業務であり,その中でも亡P2は仕事と私生活を厳密に分ける仕事のやり方をしていなかった。このような事情の下では,拘束時間から実労働時間を推量することはできない。実労働時間を最も的確に判断できるのは本人だけであり,まじめな性格であった亡P2が申告した実労働時間は,基本的に信用できる。ただし,他の証拠等から不合理と思われるものについては,個別に修正すれば足りる。 (イ) 平成8年2月及び3月の労働時間については,この時期のタイムカードが存在しないため,出勤表(乙28の6及び7)等の証拠から合理的に推測できる労働時間とすべきである。 (ウ) 平成8年3月から8月までの労働時間については,タイムカード上の記載は警備日誌の退館時刻ともほぼ一致し,基本的に信用できる。 直行・直帰の場合は,従業員の自己申告であり,この亡P2の自己申告が信用できることは,前記のとおりである。 ウ夜間勤務亡P2の勤務体制は,平成8年3月までは裁量労働制,同年4月からはフレックスタイム制(コアタイムなし)であり,どの時間帯に仕事をするかは本人の裁量によっていた。また,亡P2は,日中稼働することができるにもかかわらず,自らの自由意思によって深夜労働を選択し,翌日の定時出勤が義務付けられていなかった。したがって,亡P2は,自ら望んで深夜の時間帯を選択し,結果として自ら拘束時間を長くするような働き方 もかかわらず,自らの自由意思によって深夜労働を選択し,翌日の定時出勤が義務付けられていなかった。したがって,亡P2は,自ら望んで深夜の時間帯を選択し,結果として自ら拘束時間を長くするような働き方をしていたものであり,毎朝の定時出勤が要求される中で仕事に追われて日々深夜まで残業していたのではないから,夜間勤務は,亡P2に過重な負荷を与えていない。 エ亡P2の業務が量的に過重でないこと- 13 -亡P2の発症前6か月の時間外労働時間数は,業務と発症との関連性が強いとされる月80時間を大きく下回っている。また,平成8年8月9日から同月18日までは10日間連続の休暇を取得し,同年4月27日から同年5月6日にも連続して休暇を取得し,同月11日以降の週末は,同年6月8日を除いてすべて2日間の休日が確保され,唯一週休2日が確保されなかった同月8日の週末も翌9日は休んでいる。 (3) 亡P2の業務の質的過重性についてア編集業務の特徴からみた過重性編集業務は,すべての編集者に共通するものであり,亡P2のみに特別に過重な業務が課されたものではない。かえって,編集業務は,その性質上,必然的に裁量性が高く,どこまでを他人に任せ,どこまでを自分で行い,自分で行う作業にどれだけの時間をかけるかについては,担当編集者自身の裁量によるところが大きい。しかも,P1においては,編集業務の節目では必ず上司が確認をしており,最終責任もすべて上司が負う体制であって,担当編集者が1人で全責任を負わなければならないような状況にはなかった。広告主への配慮や営業担当社員との連絡などの負担についても,亡P2は,編集業務に専念できる立場にあり,取材において営業部門の者と連絡を取ることはあってもまれであった。 イ P1の人事制度とその重圧企業に勤務する以上, 員との連絡などの負担についても,亡P2は,編集業務に専念できる立場にあり,取材において営業部門の者と連絡を取ることはあってもまれであった。 イ P1の人事制度とその重圧企業に勤務する以上,人事評価のプレッシャーはついてまわるものであり,P1の人事評価制度等は,P1全社員に適用されていたものであって,亡P2のみに適用されていたわけではない。また,亡P2は,希望していた編集者に採用されて,だれもが認める優秀な編集者に成長していたものであり,人事評価の重圧を受けていたとは考えられない。 ウ P7編集課における業務(ア) 亡P2は,新人時代に進行管理業務を担当したが,平成8年- 14 -以降は担当していない。また,進行管理業務とは,週刊P7の編集全体の進行管理を行うものであり,全体のスケジュールを理解させるため,新人が担当していた。 (イ) 亡P2が担当していた時期には週刊P7のページ数が減り,亡P2自身の編集記事も質,量ともに小さいものであったから,進行管理が大きな負担になっていたとはいえない。編集者ごとの記事の割当ては,副編集長が編集長と協議の上決めており,編集者間に不公正,不平等にならないよう配慮されていた。亡P2は,立ち上がりの早い編集者と評価され,業務が過重であったとはいえない。 (ウ) 亡P2は,P7編集課在籍中,同じく競馬を趣味とする数人の仲間と会を作り,その事務処理作業を引き受け,これを職場でも行っていた。このことは,P7編集課における業務が,亡P2にとって過重なものでなかったことを端的に示している。 エデジタルP7における業務(ア) デジタルP7は,平成8年4月に配信を開始したばかりの小規模な媒体であり,亡P2の業務は,多様であったが,一つ一つの業務の絶対量はごく少ないものであった。そして,亡P2は P7における業務(ア) デジタルP7は,平成8年4月に配信を開始したばかりの小規模な媒体であり,亡P2の業務は,多様であったが,一つ一つの業務の絶対量はごく少ないものであった。そして,亡P2は,デジタルP7の4人の担当者の中で最も席次が下であり,デジタルP7の業績を上げる責任を負わされてはいなかった。なお,デジタルP7の平成8年4月以降の担当者は,P8ほか3名であり,責任者であるP8はデジタルP7を主に担当し,P10は平成8年6月からはデジタルP7を主に行うようになり,P9はデジタルP7の業務を主に行っていた。 (イ) デジタルP7は,P1にとって,絶対に失敗を許さない大事業であったのではなく,ある意味で試験的,実験的なものであり,業績を上げることを求められていなかった。 (ウ) 亡P2は,積極的に新しい編集企画を次々と提案し,必ずしも公- 15 -私の区別のはっきりしない友人・知人との交際や食事にも時間をかけていた。亡P2は,業務と全く無関係な競馬予想プログラムを特集するムック「P12」の制作にも協力していた。したがって,亡P2のデジタルP7における業務は,余裕のあるものであり,過重なものではなかった。 (4) 亡P2のくも膜下出血の発症は,その血管病変が自然経過を超えて進行し,増悪した結果でないことア亡P2のくも膜下出血は,脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血であるところ,亡P2は脳動脈瘤を形成する遺伝性疾患である常染色体性優性多発性嚢胞腎を既往症として有していたものであり,その発症は,既往症である多発性嚢胞腎に起因して形成された脳動脈瘤が破裂したものである。すなわち,嚢状脳動脈瘤は,脳動脈中膜平滑筋層の部分的欠損という先天的因子に,動脈硬化,血圧,血行力学的因子等の後天的因子が関与して発生するものと考えられている された脳動脈瘤が破裂したものである。すなわち,嚢状脳動脈瘤は,脳動脈中膜平滑筋層の部分的欠損という先天的因子に,動脈硬化,血圧,血行力学的因子等の後天的因子が関与して発生するものと考えられているところ,多発性嚢胞腎にり患していることは,それ自体,血管の脆弱性が存在することを示すものであり,多発性嚢胞腎患者には,高い割合で脳動脈瘤が合併する。そして,多発性嚢胞腎患者の場合,先天的な血管壁の脆弱性のために,多発性嚢胞腎に起因する脳動脈瘤は破裂のリスクが格段に高くかつ若年で破裂することがあり,脳動脈瘤が大きくなくても,血圧が高くなくても,破裂を来すリスクが相当程度ある。したがって,多発性嚢胞腎患者の脳動脈瘤破裂については,多発性嚢胞腎の進行により脳動脈瘤が増悪して(大きくなって)破裂するというような関係にはなく,多発性嚢胞腎という疾患がある場合とそれがない場合とでは,脳動脈破裂の機序を同列に考えることはできない。 イ亡P2は,多発性嚢胞腎にり患しており,父も腎嚢胞性疾患であり,その母(亡P2の祖母)も38歳で脳溢血で死亡している。また,亡P- 16 -2は,腎機能の低下が始まりつつあり,それに先行して多発性嚢胞腎に起因する高血圧が生じていた。上記のように,亡P2は,高い割合で脳動脈瘤を合併し,高い割合かつ若年でそれが破裂するとされる多発性嚢胞腎にり患し,29歳という一般の脳動脈瘤では考えられない若さで脳動脈瘤破裂により死亡しているのであるから,亡P2の脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は,多発性嚢胞腎により発症し,破裂したものと考えるのが合理的である。 ウしたがって,亡P2のくも膜下出血は,その血管病変が自然経過を超えて進行し,増悪した結果であるとは認められない。 (5) 以上のとおり,亡P2の本件疾病の発症が業務に起因するもの 理的である。 ウしたがって,亡P2のくも膜下出血は,その血管病変が自然経過を超えて進行し,増悪した結果であるとは認められない。 (5) 以上のとおり,亡P2の本件疾病の発症が業務に起因するものということはできないから,本件不支給処分は適法である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実について認定事実((1) 亡P2について,(2) P1の業務概要等,(3) 亡P2の業務,(4) 発症日以前6か月間の亡P2の状況,(5) 亡P2のくも膜下出血の発症前の状況,(6) 発症当日の経緯)は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の1の(1)から(6)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決42頁4行目の「平成4年3月」の次に「(当時24歳)」を加える。 (2) 原判決44頁16行目冒頭から17行目末尾を削り,24行目の「昭和▲年▲月▲日生」の次に「,平成▲年▲月▲日死亡」を加える。 (3) 原判決45頁6行目の「常染色体優性多発性嚢胞腎」を「常染色体性優性多発性嚢胞腎」に改め,15行目の「CTフィルム」から16行目末尾までを削る。 (4) 原判決52頁10行目の「4月」を「4月4日」に改める。 - 17 -(5) 原判決53頁20行目の「行っていた。」の次に「P7編集部では,編集会議を通さなければテーマを決めることも許されなかったが,デジタルP7では,P8と亡P2との二人だけで編集方針や記事のテーマを決めることができた上,亡P2の編集上の裁量の幅も広く,かなり自由に記事を編集することができた。また,インターネット媒体の作業についても,楽しんで行っていた(乙34)。」を加える。 (6) 原判決59頁14行目冒頭から60頁7行目末尾までを削る。 (7) 原判決60頁8 することができた。また,インターネット媒体の作業についても,楽しんで行っていた(乙34)。」を加える。 (6) 原判決59頁14行目冒頭から60頁7行目末尾までを削る。 (7) 原判決60頁8行目の「イ」を「ア」に改め,25行目冒頭から61頁8行目末尾までを次のとおりに改める。 「イ亡P2の勤務体制は,平成8年3月までのP7編集課では,裁量労働制の適用を受け,タイムカードによる勤務時間管理はされていなかったが,同年4月のP6グループへの異動後は,コアタイムなしのフレックスタイム制の適用を受け,タイムカードによる勤務時間管理がされ,どの時間帯に勤務するかは本人の裁量によっていた。亡P2は,業務の性質によって深夜労働が必要であったわけではないが,夜間の労働を選択し(乙4,6,24,34),昼ころに出社し,深夜近くまで業務を行い,まれには早朝に会社を退社することもあった(乙24)。亡P2は,自らの意思によって夜型の勤務スタイルを選択し,「昼型に変えたらどうか」との職場の上司であるP8のアドバイスに対しても,朝型では調子が出ないなどと述べていた。 亡P2が担当していた編集業務は,一般に,労働密度の濃い業務ではなく,人とのコミュニケーションや思索を通じてアイデアを得るなど,創造性を発揮することが求められ,在社時間からその実労働時間を推量することが難しい業務である。亡P2についても,公私の明確でない長電話をしたり,知人や友人と長時間にわたって飲食に出かけるなど,仕事と私生活の区別が明確でない勤務振りであったため,在- 18 -社時間が長くなる傾向にあった(乙34)。また,亡P2は,仕事に対する完成度,出来映えに対するこだわりが強く,納得のいくまで仕事に打ち込むため,在社時間が長くなる傾向にあった(乙6,34)。 ウ亡P2の平成 なる傾向にあった(乙34)。また,亡P2は,仕事に対する完成度,出来映えに対するこだわりが強く,納得のいくまで仕事に打ち込むため,在社時間が長くなる傾向にあった(乙6,34)。 ウ亡P2の平成8年8月25日の本件疾病の発症時から過去にさかのぼっての労働時間は,同年2月27日から同年3月27日までは原判決別表2の「総労働時間数」及び「時間外労働時間数」欄記載のとおりである。発症前1か月目(同年7月26日から同年8月24日まで)の在社時間(社内滞在時間)は185時間33分(1日平均12時間22分。以下,括弧内の時間は,1日当たりの平均時間である。),時間外労働時間は32時間40分(約2時間10分),発症前2か月目(同年6月26日から同年7月25日まで)の在社時間数は277時間12分(約12時間36分),時間外労働時間は51時間13分(約2時間19分),発症前3か月目(同年5月27日から同年6月25日まで)の在社時間数は297時間55分(約12時間57分),時間外労働時間は68時間32分(約2時間58分),発症前4か月目(同年4月27日から同年5月26日まで)の在社時間数は175時間01分(約11時間40分),時間外労働時間は20時間30分(約1時間22分),発症前5か月目(同年3月28日から同年4月26日まで)の在社時間数は279時間57分(約11時間11分),時間外労働時間は66時間(約2時間38分)である。 また,亡P2が裁量労働時間制の適用を受けていた発症前6か月目(同年2月27日から同年3月27日まで)の在社時間数,総労働時間,時間外労働時間は不明というほかないが,その勤務状況は,タイムカードによる勤務時間管理を受けていた同年4月1日以降とほぼ同様であった。発症前6か月目の時間外労働時間も,その時間数を特定することま 時間外労働時間は不明というほかないが,その勤務状況は,タイムカードによる勤務時間管理を受けていた同年4月1日以降とほぼ同様であった。発症前6か月目の時間外労働時間も,その時間数を特定することまではできないが,この期間の勤務日数は20日間であるから,発症前5- 19 -か月目と同様の労働時間をこなしていたとすれば,おおむね50時間前後と推認される。 なお,亡P2が発症前の6か月の間で,土曜日又は日曜日に出勤したのは平成8年3月2日,同月30日,同年4月6日,同月7日,同年6月8日の5日間であり,ゴールデンウイーク期間中(10日)には,同年4月29日に出勤しているが,その前後の9日間を休んでいる。亡P2のくも膜下出血が発症した同年8月25日は日曜日で,前日は土曜日で休みであり,亡P2は,発症直前の同月9日から同月18日までの10日間の休暇(夏季休暇と有給休暇)を取得している。」 2 本件疾病等に関する医学的知見等について(1) 亡P2の疾病亡P2は,脳動脈瘤を形成する疾病である常染色体性優性多発性嚢胞腎(ADPKD。以下「多発性嚢胞腎」という。)を既往症として有していたものであるが,平成8年8月25日午前10時ころ,自宅でめまい,吐き気等の症状が現れたため,自ら救急車の出動を要請し,P13病院に救急搬送され,CTスキャンでくも膜下出血が認められ,脳血管造影が施行される予定であったが,その前に再度くも膜下出血を起こして心肺停止となり,同月▲日午前2時ころに死亡した。亡P2のくも膜下出血は,上記病院において,脳動脈瘤の破裂によるものと診断された。なお,被控訴人らは,亡P2は,過重業務により脳動脈解離が進行し,くも膜下出血を発症したと主張している。 (2) くも膜下出血(乙8,42~45,47)くも膜下出血とは, るものと診断された。なお,被控訴人らは,亡P2は,過重業務により脳動脈解離が進行し,くも膜下出血を発症したと主張している。 (2) くも膜下出血(乙8,42~45,47)くも膜下出血とは,頭蓋内血管の破たんにより,脳や脊髄のくも膜下腔内の脳槽に出血し,意識障害や運動機能障害が起こる疾患群であり,脳卒中の一病型である。くも膜下出血の出血血管は,くも膜下腔において脳の- 20 -表面を走行する血管である。出血の原因は,血管に動脈瘤が発生し,それが破裂することで生じることがほとんどであり,これらの血管が機械的な外力以外による損傷を引き起こす外傷以外の原因で破たんするのは,何らかの血管病変が存在し,血管壁に局所的な脆弱部位が存在するときに限られる。脳動脈瘤以外のくも膜下出血を起こす原因として,脳血管の奇形などのほか,主幹動脈(内頸動脈系,椎骨脳底動脈系)に解離(血管が裂けた状態)が発生したことにより起こる脳動脈解離がある。 (3) 脳動脈瘤(乙8,32,42~44,46,56)ア脳動脈瘤は,脳動脈が嚢状あるいは紡錘状に拡大したものであり,このうち嚢状脳動脈瘤の破裂は,非外傷性くも膜下出血の原因の70%以上を占める。嚢状動脈瘤によるくも膜下出血の好発年齢は,40歳~60歳代である。脳動脈瘤の成因について,現在では,先天性素因の上に後天的因子が加わって発生するものと考えられている。脳動脈瘤のほとんどを占める嚢状動脈瘤の原因は不明であるが,嚢状脳動脈瘤の発生機序は,動脈瘤の好発部位であるウィリス動脈輪(太い血管の分岐部,すなわち血流が激しく衝突する動脈壁)に先天性中膜部の欠損と内弾性板の断裂が生じ,血圧と血流の負荷が加わって嚢状に膨らんでできるとされている。 脳動脈瘤の破裂の原因としては,血行力学的因子,加齢等による動脈瘤壁 く衝突する動脈壁)に先天性中膜部の欠損と内弾性板の断裂が生じ,血圧と血流の負荷が加わって嚢状に膨らんでできるとされている。 脳動脈瘤の破裂の原因としては,血行力学的因子,加齢等による動脈瘤壁の脆弱化がある。精神的・肉体的ストレスは,血圧を上昇させ,血圧変動を起こりやすくさせる。脳動脈瘤は長年の間に徐々に成長,増大するものであり,脳動脈瘤の多くは最大外径5㎜前後で,この大きさまで増大した動脈瘤は極めて破裂しやすい。また,高血圧と診断されてから治療せず自然経過に任せた場合,脳卒中(脳出血,脳梗塞,くも膜下出血)が生じるのは20年ないし30年後であるとされている。 イ脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の発症前の症状としては,頭痛が最- 21 -も重要であり,発症の4日ないし20日前において高頻度で認められる。 頭痛以外の視覚障害,吐き気・おう吐等の警告サインを含めると,脳動脈瘤の破裂による出血に前駆する種々の警告サインが約50~70%の高頻度で出現する。 (4) 脳動脈解離(甲195,乙8,61,62)ア脳動脈解離は,脳血管動脈瘤のようなこぶの形をとったり,血管自体が大きく膨らんだり,細くなったりと様々な血管の状態になることが特徴であり,発生原因は,現在のところ解明されていない。発生機序としては,まず,動脈の内弾性板の断裂と血管内皮の損傷により脆弱化した血管壁に血液が流入し,血管壁の解離が進行し,偽血管腔が内膜と中膜との間に形成された場合には脳虚血が起こり,中膜と外膜との間に形成された場合には,外膜の破裂によりくも膜下出血として発症するとされている。動脈解離発症の平均年齢は40歳代を中心とし,脳動脈解離は50歳以下の若年脳卒中の原因として重要であるとされている。 イ脳動脈解離は,原因(外傷性・非外傷性),部位(頸動脈系・椎骨 とされている。動脈解離発症の平均年齢は40歳代を中心とし,脳動脈解離は50歳以下の若年脳卒中の原因として重要であるとされている。 イ脳動脈解離は,原因(外傷性・非外傷性),部位(頸動脈系・椎骨脳底動脈系,また頭蓋内・頭蓋外)などによって分類されているが,頭蓋外解離の多くが脳梗塞を生じ,くも膜下出血はまれであるとされている一方,頭蓋内解離は脳梗塞とともにくも膜下出血を起こしやすいとされている。また,頭蓋内椎骨脳底動脈は,外弾性板を欠き,外膜膠原線維層も薄いため,解離により容易に動脈の拡張を来し,その破たんによりくも膜下出血を起こすことが指摘されている。 (5) 多発性嚢胞腎(乙10,14,32,39~41,41~43,49~58)ア多発性嚢胞腎の意義(ア) 多発性嚢胞腎は,PKD遺伝子変異により両側腎臓に多数の嚢胞が進行性に発生・増大し,通常は経年的に嚢胞の拡張及び嚢胞数の増- 22 -加により腎機能が低下し,腎臓以外の種々の臓器にも障害が生じる遺伝性疾患である(遺伝形式は常染色体性優性遺伝型であるが,突然変異による家族歴のない症例もある。)。多発性嚢胞腎患者は,腎機能障害が次第に進行して腎不全に陥り,60歳までに約半数が腎不全から透析療法が必要となる。嚢胞の増大に伴い血圧を上げるホルモンが増加するため,腎機能低下以前から高血圧の合併が非常に高い(腎機能が正常でも20歳代で65%の人に高血圧がみられる。)。病因遺伝子として,第16染色体短腕のPKD1及び第4染色体長腕のPKD2が同定されており,約85%の患者にPKD1遺伝子異常が,15%の患者にPKD2遺伝子の異常が認められる。なお,PKD3遺伝子の存在も予測されているが,同定されていない。 (イ) 多発性嚢胞腎は,厚生労働省において特定疾患として指定されている 異常が,15%の患者にPKD2遺伝子の異常が認められる。なお,PKD3遺伝子の存在も予測されているが,同定されていない。 (イ) 多発性嚢胞腎は,厚生労働省において特定疾患として指定されている難治性疾患克服研究事業(特定疾患調査研究分野)130疾患のうちの一つであり,いわゆる難病である。厚生労働省特定疾患対策研究事業・進行性腎障害調査研究班がまとめた常染色体性優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(乙50。以下「本件ガイドライン」という。)によれば,多発性嚢胞腎の重症度分類では,血清クレアチニン値によって,1度(2mg/dl未満),2度(2mg/dl以上~5mg/dl未満),3度(5mg/dl以上~8mg/dl未満),4度(非透析で,8mg/dl以上),5度(透析を導入,又は腎移植を受けているもの)に分類され,頭蓋内出血の既往があるもの,頭蓋内動脈瘤があるもの,頭蓋内動脈瘤の手術を受けたもの等の場合,重症度を1度進めるものとされている。 (ウ) 亡P2の場合,血清クレアチニン値が2mg/dlを下回るが,動脈瘤が存在するから,重症度分類では2度である。ただし,発症前の平成8年7月19日に実施された健康診断において,血清クレアチニン- 23 -値が同年3月21日の1.0から1.4へと上昇し(腎機能30%の低下を示すもの),また,血中尿素窒素(クレアチニンと同様,腎機能が悪化すれば上昇する。)も12.0が16.5と上昇傾向を示しており,血尿も出現していたため,亡P2の腎機能は,低下していたことがうかがわれ,正常といえるほどのものではなかった(補正の上で引用した原判決の「第3 当裁判所の判断」の1(1)イ(エ)参照)。 イ多発性嚢胞腎と脳動脈瘤の発生及び破裂の機序(ア) 多発性嚢胞腎は,遺伝子の異常により発症する遺伝性腎疾患であり 正の上で引用した原判決の「第3 当裁判所の判断」の1(1)イ(エ)参照)。 イ多発性嚢胞腎と脳動脈瘤の発生及び破裂の機序(ア) 多発性嚢胞腎は,遺伝子の異常により発症する遺伝性腎疾患であり,PKD1及びPKD2遺伝子機能が欠損している。遺伝子異常により血管内皮細胞や平滑筋細胞(体中にある血管や筋肉の細胞)に認められるpolycystin(ポリシスチン)-1及びpolycystin-2(いずれも血管の弾力性を保持する働きを持つタンパク質)が存在しないか,存在していても機能が低下しているなどの状態にある。したがって,多発性嚢胞腎患者の血管障害は,二次的に発生するのではなく,PKIDタンパクの変異そのものによって引き起こされる一次的障害である。また,コラーゲンやエラスチンなどのタンパク質は,血管の弾力性を保持する働きを持つが,polycystin-1がないと正常な構造を保つことができない。 そして,血管の弾力性がないことは,血管が脆弱であることを意味し,血管は血流量に応じた柔軟な収縮ができず,血管内の圧力が高まり,その結果,血管壁に動脈瘤が発生し,また,破裂しやすくなる。 このように,多発性嚢胞腎患者の動脈瘤発生の要因は,PKD1やPKD2など疾患責任遺伝子の機能不全とコラーゲンやエラスチンなど血管内皮で機能するタンパク質の異常により血管壁が脆弱となり,これに高血圧が加わることで,微小動脈瘤や脂肪硝子様変性(細胞が堅くなること)が生じて発生するものであり,多発性嚢胞腎にり患し- 24 -ていることは,それ自体が当該患者に血管の脆弱性が存在することを示している。以上のとおり,多発性嚢胞腎という疾患自体が,血管内皮の異常に伴う血管病であるといえる。 (イ) 多発性嚢胞腎患者は,頭蓋内動脈瘤が発見される頻度が一般人における頻 性が存在することを示している。以上のとおり,多発性嚢胞腎という疾患自体が,血管内皮の異常に伴う血管病であるといえる。 (イ) 多発性嚢胞腎患者は,頭蓋内動脈瘤が発見される頻度が一般人における頻度より高い。本件ガイドライン(乙50)によると,「多数の前向きのMRアンギオグラフィーを用いた調査では,多発性嚢胞腎患者においては,頭蓋内動脈瘤が4~11.7%見いだされるのに対し,一般人口では1~7%の罹患患率である。」,「動脈瘤破裂以外で死亡した89人の多発性嚢胞腎患者の解剖で,22.5%に頭蓋内動脈瘤を認めたが,頭蓋内動脈瘤破裂以外で死亡した一般患者で頭蓋内動脈瘤は4.2%を認めたにすぎなかった。」とされる。また,一般人の頭蓋内出血を既往に持つ頻度は60~69歳で3.4%であり,同年齢層の多発性嚢胞腎患者では10.6%であるので,約3倍ほど有意に高い頻度である。したがって,多発性嚢胞腎患者は,頭蓋内動脈瘤及び頭蓋内出血の発生頻度が一般人よりも高いといえる。 (ウ) 遺伝性疾患である多発性嚢胞腎患者には,血管がもともと脆弱であるという素因があるため,本件ガイドラインにおいて,多発性嚢胞腎患者におけるくも膜下出血の特徴として,① 脳動脈瘤は一般よりも若年者に起こる,② 頭蓋内動脈瘤が破裂する患者は家系内集積する傾向にある,③ 脳動脈瘤のサイズは出血のリスクと相関する(5㎜未満の動脈瘤の42%が破裂したのに対し,5mm上の動脈瘤の69%が破裂した。),⑤ 動脈瘤破裂によるくも膜下出血と腎機能とは相関がない,⑥ 高血圧は,頭蓋内動脈瘤の成因として,一般においても,多発性嚢胞腎患者においても,動脈瘤育成の最も重要な一時的成因と考えられていない,⑦ 破裂する危険性が高い,とされている。 ウ多発性嚢胞腎と高血圧との関係- 25 -(ア) 一般においても,多発性嚢胞腎患者においても,動脈瘤育成の最も重要な一時的成因と考えられていない,⑦ 破裂する危険性が高い,とされている。 ウ多発性嚢胞腎と高血圧との関係- 25 -(ア) 多発性嚢胞腎患者の高血圧の原因としては,腎機能の低下による体内への過剰なナトリウム貯留及び血圧を上げるホルモン(レニン-アンギオテンシン系)が関与していると考えられている。 (イ) 多発性嚢胞腎患者には高頻度(約60%)で高血圧がみられるが,腎機能の良好なグループでは高血圧の頻度は低い。ただし,腎機能が正常でも高血圧のことがある。一般に脳動脈瘤は高血圧であればあるほど,破裂リスクは高くなる。しかし,多発性嚢胞腎患者の場合には,正常又は低血圧でも破裂することがある。 (ウ) 日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインにおける正常血圧は,収縮期で130以下,拡張期で85以上であるが,亡P2の血圧は,大学を卒業してP1に入社した平成4年7月16日の時点で,既に収縮期148,拡張期100であり,中等度高血圧の範疇に入っていた。 その後も,亡P2の血圧は,収縮期は高値正常域血圧,拡張期は境界域血圧を示している。したがって,亡P2の血圧が年齢に比して高いのは,P1の業務の影響によるものではなく,多発性嚢胞腎に伴うものと考えられ,亡P2が多発性嚢胞腎患者であることを考慮すると,収縮期が高値正常域血圧,拡張期が境界域血圧であっても,脳動脈瘤の破裂のリスクは高いといえる。 (6) 亡P2の本件疾病等の発症に関する控訴人提出の医学的意見ア P14大学医学部泌尿器科准教授P15医師の意見(乙39,54)亡P2は,多発性嚢胞腎を合併していたことから,同人の脳動脈瘤は多発性嚢胞腎に伴うものである可能性が極めて高く,同疾患自体が,血管内皮の異常に伴う血管病と考 教授P15医師の意見(乙39,54)亡P2は,多発性嚢胞腎を合併していたことから,同人の脳動脈瘤は多発性嚢胞腎に伴うものである可能性が極めて高く,同疾患自体が,血管内皮の異常に伴う血管病と考えられている。継続的な高血圧や一過性の血圧上昇が本件の脳動脈瘤破裂に関与していた可能性はゼロではないが,多発性嚢胞腎では通常の日常生活をしていても,脳動脈瘤が自然破裂することも多く,労働負荷が脳動脈瘤の破裂に関与した可能性が高い- 26 -とする根拠はない。多発性嚢胞腎に伴う脳動脈瘤は,疾患責任遺伝子の欠損による分子生物学的メカニズムによる血管の脆弱性に起因して,一般の脳動脈瘤よりも破裂に至る頻度が高くかつ若年者で破裂しやすく,亡P2の場合も,多発性嚢胞腎に伴う脳動脈瘤が自然経過の中で破裂したと考えるのが合理的である。 イ P16大学第四内科准教授P17医師の意見(乙51)亡P2については,① 多発性嚢胞腎にり患していたことは明らかであること,② 既に高血圧の状態が続いており,脳動脈瘤破裂の高いリスクにさらされ続けていたこと,③ 更に家族にも若年時の脳血管疾患発症例があることなどから,亡P2の脳動脈瘤はいつ発症してもおかしくない状態にあった。したがって,亡P2の脳動脈瘤破裂は,多発性嚢胞腎患者特有の血管の脆弱性によって発生した典型例と考えるのが妥当であって,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血はその自然経過として発生したと考えるほかなく,労働負荷や,血圧の一過性の変動が主因となったと推論することには,相当な無理がある。 ウ P18大学名誉教授(脳神経外科)P19医師の意見(乙52)(ア) 多発性嚢胞腎患者に合併する脳動脈瘤は,多発性嚢胞腎患者でない人における脳動脈瘤発生率より発生率が高く,より若くして発症する。多発性嚢胞腎患者のくも 脳神経外科)P19医師の意見(乙52)(ア) 多発性嚢胞腎患者に合併する脳動脈瘤は,多発性嚢胞腎患者でない人における脳動脈瘤発生率より発生率が高く,より若くして発症する。多発性嚢胞腎患者のくも膜下出血の危険は通常の脳動脈瘤患者の4倍であり,多発性嚢胞腎患者に合併したくも膜下出血による死亡率は55%と報告されている。多発性嚢胞腎患者のくも膜下出血を含めた頭蓋内出血の合併は一般の約3倍であり,有意に高い頻度である。 (イ) 多発性嚢胞腎患者の脳動脈瘤の大きさは平均4.7㎜±2.0㎜で,ほとんど10㎜以下で,5㎜未満と5~9㎜がそれぞれ半数である。 一般の脳動脈瘤の大きさの平均7.5㎜と比較して,多発性嚢胞腎患者の脳動脈瘤は小さい。脳動脈瘤が小さくても破裂しているので,血行- 27 -力学的圧力などの物理学的な考察からしても,多発性嚢胞腎患者の脳動脈瘤の血管壁の脆弱性ははるかに進んでいると考えられる。 (ウ) 高血圧は一般に脳動脈瘤の後天的発生因子の一つとして作用し,動脈瘤の脆弱な壁に高血圧が作用し破たんして出血する。しかし,脳動脈瘤壁の脆弱化及び脳動脈瘤の発生には,通常,20年ないし30年間の高血圧の継続が必要である。しかも,ヒトの脳動脈壁は1500㎜Hgに耐え,高血圧のみでは破たんしない。多発性嚢胞腎患者に限定しない通常の未破裂動脈瘤の41%は正常血圧であり,脳動脈瘤の発生,増大及び破裂に高血圧は大きく関与していない。多発性嚢胞腎患者の70%が高血圧を合併しているが,正常血圧でも脳動脈瘤を合併する症例があり,高血圧の関与は限定的である。正常の腎機能でも,脳動脈瘤を合併する症例はある。本件については,遺伝子の異常に伴う血管形成の障害が原因である多発性嚢胞腎の自然経過中に脳動脈瘤を併発し,その脳動脈瘤が破裂して,くも膜下出血を発症 正常の腎機能でも,脳動脈瘤を合併する症例はある。本件については,遺伝子の異常に伴う血管形成の障害が原因である多発性嚢胞腎の自然経過中に脳動脈瘤を併発し,その脳動脈瘤が破裂して,くも膜下出血を発症したと考えるのが合理的である。 エ P20病院脳神経外科部長P21医師の意見(乙55)多発性嚢胞腎患者の脳動脈瘤は,動脈壁の先天的脆弱性に加え,多発性嚢胞腎に合併しやすい高血圧が若年より存在し,より若年で破裂を起こすものと考えられる。本件の脳動脈瘤破裂の原因は,多発性嚢胞腎に合併した脳動脈瘤の存在そのものであるが,高血圧も病状経過不良に多少影響したことも否定できない。本件においても,くも膜下出血を来す前に脳動脈瘤が発見されて治療が施されることが理想であったが,現実問題としてはやむを得ない結果であった。 (7) 亡P2の本件疾病等の発症に関する被控訴人ら提出の医学的意見ア財団法人P22病院脳神経外科科長P23医師の意見(甲135~140,193)- 28 -(ア) 原審における意見多発性嚢胞腎に脳動脈瘤が合併しやすいことは事実であるが,脳動脈瘤が自然経過の中で必ずしも破裂するものではない。脳動脈瘤の破裂には,脳動脈瘤壁の脆弱化の進行と修復機序の不全が重要な役割を担っており,これらの機序に対する血行力学的因子の中で最も大きな影響を有する血圧の変化が重要である。亡P2の深夜帯を含む長時間労働は極めて不規則に行われ,良質かつ十分な睡眠を得ることができないという生活上の影響と相まって,血圧の日内変動に変調をもたらし,夜間の血圧の上昇を惹起し,脳動脈瘤壁の脆弱化を促進させると同時に,修復機序の抑制を通じて一段と障害的に作用したと考えられ,また,デジタルP7の更新という業務が毎週定時に遅延することなく行われなければならないという 惹起し,脳動脈瘤壁の脆弱化を促進させると同時に,修復機序の抑制を通じて一段と障害的に作用したと考えられ,また,デジタルP7の更新という業務が毎週定時に遅延することなく行われなければならないという精神的緊張が血行力学的負荷を更に増大せしめたものと考えられる。したがって,亡P2の脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血と業務との関わりは明らかである。 (イ) 当審における意見P23医師は,原審において上記の意見を述べていたが,当審において,これを変更し,以下のとおり,亡P2のくも膜下出血発症以前の健康状態と亡P2の自覚症状に関する証拠を検討した結果,亡P2に発症したくも膜下出血の原因として,嚢状動脈瘤の破裂よりは,脳幹部近傍に位置する椎骨脳底動脈系の動脈解離(解離性脳動脈瘤の破たん)である蓋然性が高いとの意見を述べる。 すなわち,亡P2が発症2週間前から自覚していた頭痛は,脳動脈解離が進行する過程で発生したものと考えられ,おう吐,吐き気を伴わない頭痛が先行し,発症当日にはめまいがあり,最終的に致死的なくも膜下出血に至る亡P2の発症経過は,脳動脈解離によるくも膜下出血に特徴的な病態である。めまいは,主として脳幹部や小脳に対す- 29 -る刺激によって誘発される症状であり,亡P2が発症時にめまいを自覚していた事実もまた重要である。 脳動脈解離発症の病理,病態に対する知見は,依然として乏しいのが現状であるが,脳動脈では,主としてコラーゲンがその構造的強度を維持する主要な役割を果たしていることから,良質な睡眠による十分な血圧の低下が得られない場合,血管壁の強度を保つコラーゲンが機能を失って,修復過程が阻害され,この修復過程の機能不全により動脈の内弾性板の広範かつ重篤な断裂が惹起されることによって,脳動脈解離が発生すると考えられる。亡P 合,血管壁の強度を保つコラーゲンが機能を失って,修復過程が阻害され,この修復過程の機能不全により動脈の内弾性板の広範かつ重篤な断裂が惹起されることによって,脳動脈解離が発生すると考えられる。亡P2の脳動脈解離についても,深夜に及ぶ不規則な業務の連続による血圧の上昇,休息や睡眠による夜間血圧の低下の減弱という脳血管壁に対する傷害因子の増大,血管壁の強度を維持する上で極めて重要な役割を有するコラーゲンの特殊構造の再構築,すなわち修復機序の不全の中で,発生したものと考えられる。 イ P24大学腎臓内科教授P25医師の意見(甲142,187)一般に,動脈瘤の形成自体が血管の脆弱性によるものであって,多発性嚢胞腎にり患していることは,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の危険因子の一つであることは否定できないが,危険因子を有するからといって,脳動脈瘤を増悪させ,くも膜下出血を必ず発症するものではない。 多発性嚢胞腎患者においても,非多発性嚢胞腎患者と同様に,過重な労働によるストレスや過労による負荷が,継続的又は一時的に血圧を上昇させ,その結果,合併する脳動脈瘤の破裂に関与し,より破裂が起こりやすくなる。 亡P2がくも膜下出血を発症したのは29歳時であり,多発性嚢胞腎患者の中でも脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症した年齢としてはより若年である。動脈瘤のある患者の動脈瘤が破裂する危険因子の中で- 30 -も最も重要な危険因子が高血圧である。ここに指摘される高血圧は,高血圧値が長期間継続する高血圧症とともに,一過性の血圧上昇をも含むものと理解できる。長時間労働などの過重な労働が認められれば,ストレス,睡眠不足や蓄積した疲労などの負荷により,継続的な高血圧や一時的な血圧上昇を介して,多発性嚢胞腎患者の脳動脈瘤破裂に関与していた可能性は非常に高 長時間労働などの過重な労働が認められれば,ストレス,睡眠不足や蓄積した疲労などの負荷により,継続的な高血圧や一時的な血圧上昇を介して,多発性嚢胞腎患者の脳動脈瘤破裂に関与していた可能性は非常に高い。 3 判断(1) 業務起因性の判断基準ア労災保険法上の保険給付は,労働者の業務上の疾病等について行われるところ(労災保険法7条1項1号),当該労働者の疾病等を業務上のものというためには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果が発症しなかったという条件関係が認められるだけでは足りず,当該業務と当該疾病等の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係,すなわち相当因果関係が存在することを要する(公務起因性について,最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁,最高裁平成6年5月16日第二小法廷判決・裁判集民事172号509頁,最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,業務起因性について,最高裁平成9年4月25日第三小法廷判決・裁判集民事183号293頁参照)。すなわち,労災保険制度が使用者の無過失責任を前提として使用者により拠出された保険料を財源として保険金を給付するものとされているのは,労働者が従属的労働契約に基づいて使用者の支配管理下にあることから,労務を提供する過程において,業務に内在する危険が現実化して疾病等が引き起こされた場合には,使用者は,当該疾病等の発症について過失がなくても,その危険を負担し,労働者の損失填補に当たるべきであるとする危険責任の考え方に基づくものであることに照らせば,当該疾病等が業務上のものと- 31 -いえるためには,業務と当該疾病等との間に条件関係が認められるだけでは足りず,当該業務と当該疾病等との間に相当因果関係が必要となる。 のであることに照らせば,当該疾病等が業務上のものと- 31 -いえるためには,業務と当該疾病等との間に条件関係が認められるだけでは足りず,当該業務と当該疾病等との間に相当因果関係が必要となる。 そして,上記のとおり,使用者の労災補償責任の性質が危険責任を根拠とすることからすれば,業務と疾病等の発症との間の相当因果関係の存否は,当該疾病が業務に内在する危険の現実化として発症したと認められるかどうかによって判断すべきである(前掲最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)から,相当因果関係があるというためには,① 当該業務に危険が内在していると認められること(危険性の要件),② 当該疾病が,当該業務に内在する危険の現実化として発症したと認められること(現実化の要件)を要するものというべきである。 イまた,脳・心臓疾患は,その発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変等が加齢や一般生活等における種々の要因によって長い年月の間に徐々に進行し,増悪して発症に至るのがほとんどであり,業務に特有の疾病ではなく,業務により発症するという事態が頻発するものではないことからすれば,複数の原因が競合している場合において,当該業務が単に疾病の誘因にとどまるときには相当因果関係を認めることができない。脳・心臓疾患が,業務に内在する危険の現実化として発症した認められるためには,① 当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し,基礎疾患を有していても通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者(以下「平均的労働者」という。)を基準として,業務による負荷が,医学的経験則に照らし,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認めら にある者(以下「平均的労働者」という。)を基準として,業務による負荷が,医学的経験則に照らし,脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷といえること,② 当該発症に対して,業務による危険性(業務の過重性)が,その他の業務外の要因(当該労働者の私的リスクファクター等)に比して相対的に有力な原因になっているという- 32 -関係が認められることを要するものというべきである(最高裁平成12年7月17日第一小法廷判決・裁判集民事198号461頁参照)。 そして,この業務起因性の立証責任は,労働者の側にあるから,被控訴人らの側において,これらの要件を立証すべきである。 ウ補正の上で引用した原判決の「第2 事案の概要」の1(3)イの新認定基準は,行政機関が,迅速に統一的・画一的処理を行うための行政機関内部の準則という性質を有するものにすぎないから,裁判所を拘束するものではないが,最新の医学的知見と業務起因性に関する上記見解に基づき評価要因を検討し,策定されたものであり,判断基準としての合理性を有するものであるから,これに従うのが相当である。 したがって,亡P2のくも膜下出血の業務起因性については,亡P2の血管病変の内容及び性質,この点についての医学的知見,労働時間,勤務形態,作業環境,精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把握,検討し,業務による明らかな過重負荷が加わることによって,血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し,発症に至ったかどうかによって判断すべきである。 エ被控訴人らは,業務の過重性については,当該労働者を基準として危険の有無を判断すべきであり,仮に,当該労働者を基準としない場合には,使用者によって労務の提供が期待されている者の中で最も危険に エ被控訴人らは,業務の過重性については,当該労働者を基準として危険の有無を判断すべきであり,仮に,当該労働者を基準としない場合には,使用者によって労務の提供が期待されている者の中で最も危険に対する抵抗力の弱い者を基準として業務の過重性の有無及び程度を判断するべきであると主張するが,業務起因性の存否については客観的に判断すべきであること,労災補償制度の責任の法的根拠が危険責任の法理にあることに照らせば,業務の過重性は,日常業務を支障なく遂行できる平均的な労働者を基準にして客観的に判断されるべきであるから,被控訴人らの上記主張は採用できない。ただし,平均的な労働者といっても抽象的な存在ではなく,被災者と同種の労働者すなわち同種の職種,職- 33 -場における立場や経験等が類似する者を基準にして,その置かれた立場や状況を十分にしんしゃくして,客観的に業務の過重性を評価すべきである。 (2) 亡P2の業務の過重性についてア業務の量的過重性(ア) 時間外労働時間新認定基準によれば,発症との関連性において,業務の過重性を評価するに当たっては,発症前6か月の就労実態等を考察し,発症時における疲労の蓄積がどの程度であったかという観点から判断すべきところ,発症前6か月のうち,タイムカードによる勤務管理がされていた平成8年4月1日以降についてみると,亡P2の1日当たりの平均在社時間は,11時間から13時間(昼食休憩及び夕食休憩時間を含む。)の間にあり,また,P7編集課在籍中も,ほぼ同様の勤務をしていたものと推認することができるから,亡P2の1日当たりの平均在社時間は,相当に長時間であったことが認められる。 しかしながら,編集業務は,一般的に,在社時間中,常に事務処理に専念するというものではなく,人とのコミュニケーションや思 P2の1日当たりの平均在社時間は,相当に長時間であったことが認められる。 しかしながら,編集業務は,一般的に,在社時間中,常に事務処理に専念するというものではなく,人とのコミュニケーションや思索を通じてアイデアを得るなどして,高度の創造性を発揮することを求められるものであるから,在社時間から実労働時間を推量することが難しい業務である。もっとも,このことも一概にいえることではなく,編集者の仕事のスタイルはそれぞれ様々であると考えられるが,亡P2の場合は,在社時間中,友人等と雑談や夕食のための外出をしたり,公私の明確でない長電話をしたりすることがあり,公私の区別が明確でない仕事振りであったこと,亡P2は,夕方にならなければ仕事の能率が上がらない仕事の仕方をする傾向にあったことなどから,亡P2の在社時間が長時間であることだけをとらえて,亡P2の業務が過- 34 -重であったと認めることはできない。 また,亡P2の時間外労働時間についてみると,新認定基準において,業務と発症との関連性が強いと評価されている発症前1か月におおむね100時間又は発症前2か月ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間の時間外労働時間数を下回っているが,業務と発症との関連性が徐々に強まると評価されているおおむね1か月当たり45時間を上回っている月(発症日からさかのぼって2か月目,3か月目,5か月目であり,6か月目もこれを上回っていた可能性が高い。)も存在する。他方,亡P2は,休日をとらない連続勤務をしていたわけではなく,ほとんどの土曜日と日曜日は休みをとり,平成8年のゴールデンウイーク期間中も9日間の休みをとっており,発症直前にも10日間の夏季休暇を取得しており,疲労回復を図るための休日は確保されていたと認められる。 (イ) 夜間勤務 とり,平成8年のゴールデンウイーク期間中も9日間の休みをとっており,発症直前にも10日間の夏季休暇を取得しており,疲労回復を図るための休日は確保されていたと認められる。 (イ) 夜間勤務亡P2は,昼ころに出社し,昼食及び夕食休憩を含めて深夜近くまで仕事をし,夜間勤務に継続して従事していた。 しかしながら,亡P2の業務量については,深夜まで勤務しなければ担当業務に支障を生じるようなものではなく,昼ころに出社して深夜まで勤務していたのは亡P2の仕事のスタイルに起因するものと認められる。しかも,亡P2は,平成8年3月31日までは裁量労働制の,同年4月1日からはフレックスタイム制の適用を受けていたが,朝型では調子が出ないとして,自ら希望して夜間の時間帯を選択し,自身の望むスタイルを貫いて仕事に打ち込んでいたのであって,日々の仕事に追われて夜間まで残業を余儀なくされ,毎朝の定時出勤が要求されていた場合と比べれば,夜間勤務の精神的,肉体的負荷がそれほど強かったとは認められない。 - 35 -(ウ) 業務の量的過重性の評価社内に滞在する時間が長くなることは,一般的には一定の業務上の負荷を与えるものであり,亡P2の時間外労働時間についても,業務と発症との関連性が徐々に強まるとされる45時間を超える月もあったこと,実労働時間は,亡P2の自己申告によるものであることを考慮すれば,亡P2の業務全体の負荷がどの程度のものであったかについては,証拠上認定できる時間外労働時間にのみ拘泥することなく,業務内容,勤務形態,作業環境,精神的緊張の状態等からの亡P2の業務の質的な過重性の程度を踏まえ,亡P2の疾病の内容及び本質に照らし,業務起因性が認められるかどうかを検討する必要がある。 (エ) 労働時間の事実認定についての補足説明① 実労 からの亡P2の業務の質的な過重性の程度を踏まえ,亡P2の疾病の内容及び本質に照らし,業務起因性が認められるかどうかを検討する必要がある。 (エ) 労働時間の事実認定についての補足説明① 実労働時間の過少申告の実態についてP1では実労働時間は自己申告と上司の確認行為によって管理されていたところ,被控訴人らは,P1には実労働時間を過少に申告する実態があったと主張し,P26(甲46)及び証人P27は,実労働時間の申告状況について,タイムカードに印字されている月間上限労働時間を超えないように意識して記載していた旨上記主張に沿う陳述及び供述をする。 しかしながら,P26自身も,実労働時間の過少申告を強制されていたわけではなく,面倒なことを避けたいという理由からの自らの判断であった旨陳述しているにすぎず,実労働時間を過少に申告するかどうかは,それぞれ個人の考え方や同じ社内であっても職場によるのであって,P26やP27の陳述や供述があるからといって,P1の全社員間に,実労働時間を過少に申告する風潮や実態があったことにはならない。そして,亡P2の職場の上司であるP8(乙34),同僚であるP10(乙6)及び週刊P7企画担当であ- 36 -ったP28(乙37)が,実労働時間を過少に申告する実態があったことを否定していることに照らすと,被控訴人らの上記主張は,採用することはできない。 ② デジタルP7における勤務被控訴人らは,亡P2が,長時間労働の申告を嫌い,時間外労働を実際より少なく,休憩時間を多く申告していたから,実労働時間の算定に当たって,休憩時間を1時間とすべきであると主張する。 しかしながら,亡P2が,時間外労働を実際より少なく,休憩時間を多く申告していたことを認めるに足りる証拠はない。編集業務が在社時間から実労働 当たって,休憩時間を1時間とすべきであると主張する。 しかしながら,亡P2が,時間外労働を実際より少なく,休憩時間を多く申告していたことを認めるに足りる証拠はない。編集業務が在社時間から実労働時間を推量することが難しい業務である上,亡P2の仕事の仕方は,公私の区別が明確でない仕事のスタイルであり,深夜時の亡P2の勤務状況も不明であるというほかなく,このような編集業務の性質と亡P2の実際の勤務状況に照らせば,亡P2が在社時間のうち,どれだけの時間を業務に費やしたかを判断できるのは,結局のところ,亡P2本人をおいてほかになく,実労働時間をどのように推量してみたところで,証拠上の根拠がなく,正確性を欠いたものとなる。そうすると,亡P2の実労働時間については,平成8年4月1日以降,勤務時間はタイムカードにより,実労働時間は自己申告と上司の確認行為によって管理されていたことにかんがみれば,基本的にはタイムカードの記載と亡P2の自己申告に基づいて,把握するよりほかないから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。 ③ P7編集課在籍中の平成8年2月及び3月の勤務亡P2は,平成8年2月及び3月のP7編集課在籍中は,編集職にあって,裁量労働制の適用を受け,タイムカードによる勤務時間管理はされていなかったため,亡P2の在社時間,実労働時間は不- 37 -明というほかない。ただし,亡P2は,タイムカードによる勤務時間管理の適用を受けることになった以後も,昼ころに出勤して,深夜近くに退社するという勤務を維持し,仕事の仕方も同様であったこと,平成8年4月中は週間P7の仕事をしていたことに照らし,P7編集課在籍中の在社時間及び時間外労働時間は,平成8年4月1日以降とほぼ同様であったと推認することができる。そうすると,発症前6か月目( ,平成8年4月中は週間P7の仕事をしていたことに照らし,P7編集課在籍中の在社時間及び時間外労働時間は,平成8年4月1日以降とほぼ同様であったと推認することができる。そうすると,発症前6か月目(出勤日数20日)の時間外労働時間数は,前記認定のとおり,50時間前後と推認するのが相当である。 ④ 控訴人は,平成8年8月の夏季休暇以前から亡P2はくも膜下出血の前駆症状を発症していたとして,亡P2の従事していた労働の過重性を適切にみるためには,夏季休暇初日である同月9日を起算点として,そこからさかのぼった労働時間を検討することが必要であると主張する。 しかしながら,平成8年8月9日の時点において亡P2がくも膜下出血の前駆症状を発症していたと認めるに足りる証拠はないし,新認定基準によれば,当該疾病自体の発症時から過去6か月間の労働を業務の過重性の評価期間するのが相当であるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。 イ業務の質的過重性(ア) 編集業務の特徴被控訴人らは,編集業務の特徴からして,亡P2が担当していた編集業務は,それ自体が相当に過重な業務であった旨主張するが,その主張するところは,いずれも編集業務の一般的な性質としてすべての編集者に共通する通常のものであり,亡P2のみに特別に課されたものではないこと,編集業務の節目では必ず上司が確認をしており,最終責任もすべて上司が負う体制となっており,担当編集者が1人で全- 38 -責任を負わなければならないような状況にはなかったことなどに照らし,亡P2の業務が過重であったと認めることはできない。 (イ) P1の人事制度とその重圧被控訴人らは,P1では,利益至上主義に基づき,能力主義・業績主義による人事として,極めて短期に従業員の人事評価を繰り返し,その結 たと認めることはできない。 (イ) P1の人事制度とその重圧被控訴人らは,P1では,利益至上主義に基づき,能力主義・業績主義による人事として,極めて短期に従業員の人事評価を繰り返し,その結果を賞与の額,昇給・昇格の有無,人事異動等に反映させる仕組みを採用していたため,亡P2は,評価が低下すれば,自らが希望する職種でのキャリアアップの機会を奪われるという重圧を常に受けていたと主張する。 しかしながら,人事評価に基づき,賞与額,昇給・昇格の有無,人事異動等に反映させる制度は,P1に限らず,他の企業も同様であり,しかも,人事評価制度等は,P1全社員に適用されていたものであって,亡P2のみに適用されていたわけではない。また,亡P2は,編集者に採用され,優秀な編集者として評価されていたものであり,亡P2が会社の人事評価を気にしながら業務に従事していたことをうかがわせる事実もないから,亡P2がこの点で重圧を感じていたと認めることはできない。 なお,人事評価制度との関連で,被控訴人らは,「情報誌編集者におくる編集ガイドブック」の存在や読者アンケートの集計結果などから,亡P2に高いレベルの編集業務が要求され,重圧を与えていた旨主張する。しかしながら,「情報誌編集者におくる編集ガイドブック」(甲145)は,P1社内に蓄積されていた編集業務のノウハウの共有及び活用という趣旨で作成されたものであり(証人P27),具体的な業務指示に該当するようなものではない。また,読者アンケートの集計結果(読者支持率)についても,読者支持率の数値のみから直ちに編集者としての評価が下されるわけではない上(証人P2- 39 -7),編集者によって支持率の受け止め方も様々であり,亡P2自身が上記集計結果を気に留めていたことを認めるに足りる証拠はない。 かえっ 集者としての評価が下されるわけではない上(証人P2- 39 -7),編集者によって支持率の受け止め方も様々であり,亡P2自身が上記集計結果を気に留めていたことを認めるに足りる証拠はない。 かえって,亡P2が読者アンケートの集計結果の低い支持率に悩んでいたというならば格別,高い支持率を得ていたのであるから,読者アンケートの集計結果が亡P2に精神的負荷を与えていたとまで認めることはできない。 (ウ) P7編集課における業務被控訴人らは,① 亡P2がP7編集課に配属されて以来担当していた記事以外の課内業務(進行管理ないし週間P7の表紙に関する業務)は,相当の時間を要する業務であった,② 亡P2が編集者として経験を積み,能力を評価されるに伴って,リニューアル号の第1特集など重要な記事を任されるようになり,失敗できないという重圧を受けることになったと主張する。 しかしながら,上記①の課内業務については,亡P2は,進行管理業務を平成6年3月まで,週間P7の表紙業務を同年7月から平成7年9月までしか担当しておらず,発症直前に従事していた業務ではないから,これらの業務は,くも膜下出血の発症と関連性のある業務とは認められない。また,上記②の亡P2に重要な記事が任されたことが重圧となったとの主張についても,編集者ごとの記事の割当ては,編集者の能力と経験をも勘案して編集者間に不公平,不平等にならないよう配慮されており,しかも,与えられていた業務が亡P2の能力を超えるものであったならば格別,亡P2は,当該業務を意欲的にこなし,高い評価を得ていたのであるから(乙33),亡P2の能力が評価されるのに伴い記事の割当てが増えたからといって,亡P2に過重な負荷を与えたと評価することはできない。また,リニューアル号の第1特集を任されたことは,亡P2にそ るから(乙33),亡P2の能力が評価されるのに伴い記事の割当てが増えたからといって,亡P2に過重な負荷を与えたと評価することはできない。また,リニューアル号の第1特集を任されたことは,亡P2にそれなりの精神的緊張感を与- 40 -えたといえるとしても,一時的な業務である上,亡P2は,自ら希望して編集者という職業に就き,仕事に打ち込み,編集者としての能力を高く評価されていたものであり,第1特集を任されたことにやりがいを感じこそすれ,過重な負荷となるような重圧を感じていたとまでは認められない。したがって,亡P2に対する業務の割当てが他の編集者と比べて過重であったと認めることはできないから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。 (エ) デジタルP7における業務a 被控訴人らは,① デジタルP7はP1にとって重要な商品であり,高い数値目標とともに早期の成果が求められ,その重圧が亡P2にかかっていた,② 人員配置の不十分性により亡P2に業務負担が集中し,あるいは業務遂行が困難となっていた旨主張する。 しかしながら,上記①についていえば,デジタルP7は試験的かつ実験的な新規事業であり(乙6,34,36),その責任者として上司であるP8が存在し,亡P2は,編集者の一員にすぎず,その事業の立ち上げにも参加しておらず,責任を負うべき立場にないことに照らせば,デジタルP7の業務が,亡P2に対して重圧を与えていたと認めることはできない。また,上記②についても,デジタルP7は創刊間もない小規模媒体であり,業務の絶対量が少なかったこと(乙36),企画はP8及びP10が,編集はP8及び亡P2がそれぞれ担当し,P9はエンジニアリングとしてインターネットサーバーの技術関係,毎週の募集広告のアップロード(更新),画面の修正作業等を行ってい 6),企画はP8及びP10が,編集はP8及び亡P2がそれぞれ担当し,P9はエンジニアリングとしてインターネットサーバーの技術関係,毎週の募集広告のアップロード(更新),画面の修正作業等を行っていたほか,企画業務に参加するなど,それぞれが作業を分担する体制にあったこと,亡P2は,編集業務の経験者であり,希望していた業務に専念できる立場にあったこと,亡P2は,セブントピックス,ウィークリーコラムなどの新企画や- 41 -特集記事のテーマを積極的に提案したり,業務外でも有志が集まって企画したムックの編集業務にも中心的に関与したりするなどし,およそ業務に余裕のない者の勤務態度ではないこと,週刊P7のP29編集長(乙33)は,デジタルP7での編集業務は,亡P2にとって,物足りなさを感じたのではないかと陳述し,職場の上司であるP8(乙34)は,編集方針もP8と亡P2の2人だけで決定でき,自分のペースで仕事が進められる点でP7編集課よりきつくなかった旨,同僚のP10(乙6)も,精神的に追い詰められたり,重圧を感じているような様子はなく,むしろ楽しそうに仕事をしていた旨の各陳述をしていることに照らせば,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。 b 被控訴人らは,① 亡P2が,デジタルP7の画面デザインや更新の担当部分のほか,P7では別人に分担していたデザイン等の作業の多くも担当していたこと,② 社外のP11を頼って未経験であったインターネット媒体の業務に必要な技術的知識習得や情報収集をしていたこと,③ その他当時の通信環境やソフトウェアの未熟さなどから,亡P2に業務負担が集中し,あるいは業務遂行が困難となっていた旨主張する。 しかし,亡P2は,自らの記事の出来映えにこだわりを持ち,業務として要求された水準以上のものを追求してい 熟さなどから,亡P2に業務負担が集中し,あるいは業務遂行が困難となっていた旨主張する。 しかし,亡P2は,自らの記事の出来映えにこだわりを持ち,業務として要求された水準以上のものを追求していたが(乙34),このこと自体が,亡P2には,担当する業務に余裕があったことをうかがわせるものである。また,亡P2は,社外のP11からインターネット媒体の業務に必要な技術的知識習得や情報収集をしていたが,そのことは,亡P2がコンピューターの技術面で困難に直面していたことを示すものということはできない。かえって,亡P2のデジタルP7での編集業務に関するインターネット更新作業は,- 42 -ワープロソフトを操作できれば足りる初級者レベルのものであって,P1が用意したサポト体制で十分であったこと,デジタルP7で用いるHTMLの修得は容易なものであったこと,コンピュターやHTMLの取扱いは,前任者のP30からレクチャーを受けていること,亡P2は,レイアウトにこだわり,P11から修得した高度な表現技術をこれに生かしていたことなどが認められるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。 c 被控訴人らは,平成8年7月にP8がステップ休暇として長期休暇を取得したことから,業務遂行が亡P2の判断と実質的責任の下で行われていたほか,キャリアカウンセリング関連業務の負担が増えるなど,亡P2の業務が更に過重になった旨主張するが,P8の休暇取得によって,亡P2の業務が,通常の職場における業務の範囲を超えて過重になったことを認めるに足りる証拠はない。また,キャリアカウンセリングについても,編集者が,利用者からのメールをP1人材センターに転送し,同社が作成した回答を利用者に転送するだけの業務であり,その業務は過重といえるものではない。 d その他,被 ャリアカウンセリングについても,編集者が,利用者からのメールをP1人材センターに転送し,同社が作成した回答を利用者に転送するだけの業務であり,その業務は過重といえるものではない。 d その他,被控訴人らは,デジタルP7の業務遂行において,インターネット媒体では紙媒体では生じないようなトラブルが起こり得る相当の負荷があったのみならず,特集記事(P31の記事)について,取材の日から記事原稿作成及び記事掲載が後ろにずれ込んでおり,本件疾病発症前ころ経費精算作業が遅れがちであった旨主張するが,これらの主張は,事実上の根拠を欠いたものであるか,亡P2の業務の過重性を裏付けるものでなく,いずれも採用できない。 ウ業務の過重性についてのまとめ以上によれば,亡P2の業務の実態は,社内に滞在する時間は長く,時間外勤務もあったといえるが,編集業務の特質や亡P2の実際の勤務- 43 -状況,作業環境,業務量,業務の責任等の業務の質を考慮すると,業務全体としてみれば,亡P2の業務が量的かつ質的に特に過重なものであったと認めることはできない。 (3) 亡P2の本件疾病の発症は,その血管病変が自然経過を超えて進行し,増悪した結果であるかについてア前記1に認定の事実及び2の医学的知見等によれば,亡P2は,遺伝性疾患である多発性嚢胞腎にり患し,家族にも若年時の脳血管疾患発症例があること,多発性嚢胞腎患者には血管壁が脆弱であるという素因があること,多発性嚢胞腎患者に合併する脳動脈瘤は,多発性嚢胞腎患者でない人における脳動脈瘤発生率より発生率が高く,一般より若年者に発症するところ,亡P2の発症は29歳であること,亡P2は,平成8年7月の健康診断の時点で,急激な腎機能の低下がうかがわれること,亡P2の血圧は,P1就職時から収縮期血圧は正常域又は正常域 若年者に発症するところ,亡P2の発症は29歳であること,亡P2は,平成8年7月の健康診断の時点で,急激な腎機能の低下がうかがわれること,亡P2の血圧は,P1就職時から収縮期血圧は正常域又は正常域をわずかに超え,拡張期血圧は境界域にあったが,血圧が年齢に比して高いのは,多発性嚢胞腎に起因するものと考えられること,亡P2の上記程度の血圧でも,血管壁の脆弱性という素因を持つ多発性嚢胞腎患者にとっては,動脈瘤がある場合の破裂する危険は高いこと,高血圧と診断されてから治療せず自然経過に任せた場合には,通常,脳卒中(脳出血,脳梗塞,くも膜下出血)が生じるのは,20年ないし30年の経過を要し,亡P2のように約4年間高血圧が続いた程度では脳動脈瘤の発生及び破裂がないことなどに照らせば,亡P2のくも膜下出血は,自然経過において,多発性嚢胞腎に合併して脳動脈瘤が発生し,この動脈瘤が破裂したことによるものと認めるのが相当である。 イそして,前記のとおり,亡P2の業務の量及び質が特に過重なものであったと認めることができないことに加えて,亡P2のり患していた多発性嚢胞腎は遺伝性の全身疾患であり,極めて重大な疾患であること,- 44 -多発性嚢胞腎に合併する脳動脈瘤の発生及び破裂は,多発性嚢胞腎という疾患自体が持つ遺伝子異常による先天的な血管壁の脆弱性が重大な要因となるものであり,日常生活の中でも起こり得ること,多発性嚢胞腎は,一般の高血圧などの私的危険因子と同列に論じることのできない危険因子であること,亡P2は29歳で発症していること,通常,約4年間程度の正常域をやや超える程度の高血圧が続いた程度では動脈瘤の発生及び破裂は起こらないことなどに照らせば,亡P2のくも膜下出血は,多発性嚢胞腎が原因となって発症したものであり,その血管病変が業務の過重性 正常域をやや超える程度の高血圧が続いた程度では動脈瘤の発生及び破裂は起こらないことなどに照らせば,亡P2のくも膜下出血は,多発性嚢胞腎が原因となって発症したものであり,その血管病変が業務の過重性のために自然経過を超えて進行し,増悪した結果であると認めることはできない。 ウ被控訴人らは,当審において,P23医師の新たな意見に基づき,くも膜下出血の原因は脳動脈解離であると主張する。P23医師の意見(甲193)は,おう吐,吐き気を伴わない頭痛が先行してくも膜下出血に至る発症経過は脳動脈解離によるくも膜下出血に特徴的な病態であるところ,亡P2は,くも膜下出血に先立って頭痛の訴えがあり,発症当日にめまいがあり,最終的に致死的なくも膜下出血に至っているから,亡P2のくも膜下出血の原因として,脳幹部近傍に位置する椎骨脳底動脈系の脳動脈解離である蓋然性が高いというものである。 しかしながら,前記アの各事情に加えて,亡P2のくも膜下出血の原因が椎骨脳底動脈系の脳動脈解離であるとするP23医師の上記意見は,同様の資料に基づきながら,解離性脳動脈瘤を否定し,嚢状動脈瘤である可能性が強いとした従前の見解(甲135,179,証人P23)を覆すものであること,くも膜下出血前のめまいの症状は,他の原因でも起こり得る症状であり,頭痛についても,くも膜下出血の一般的症状であり,動脈瘤の症状ではなく,頭痛が先行し,くも膜下出血時にめまいがあったということから,椎骨脳底動脈瘤であり,解離性動脈瘤と断定- 45 -するには無理があること(乙61),脳動脈解離がくも膜下出血の原因となる確率は嚢状動脈瘤の破裂に比べて極めて低いものであり,解離が生じてもその後修復があって解離が止まるので,くも膜下出血が発症しても時間の経過により再破裂率が減少すること(乙61),脳動 血の原因となる確率は嚢状動脈瘤の破裂に比べて極めて低いものであり,解離が生じてもその後修復があって解離が止まるので,くも膜下出血が発症しても時間の経過により再破裂率が減少すること(乙61),脳動脈解離であれば,頭痛が発生してから数日以内に発症することが大半であり,頭痛が発症まで2週間も続くものではないこと(乙62),脳動脈解離であれば,脳梗塞症状を呈することも珍しくないが,亡P2については脳梗塞症状は認められていないこと(乙15,18),亡P2の脳血管撮影がされていないので,解離性脳動脈瘤であるとの確定診断はできないことなどに照らし,採用することができない。のみならず,仮に解離性動脈瘤であると推論したとしても,亡P2の多発性脳胞腎と家族歴から,亡緯のくも膜下出血の発症には内因性因子である多発性嚢胞腎が関与していると考えられること(乙64)から,解離性脳動脈瘤であるというだけでは,直ちに業務起因性を肯定することにはならない。 なお,P23医師は,多発性嚢胞腎と脳動脈瘤の関係について,多発性嚢胞腎の血管壁の組織的な弱さが基盤にあって脳動脈瘤が発生するとしても,破裂については,多発性嚢胞腎の血管壁の脆弱性はそう大きく関与していないとの意見を述べているが(甲179),本件ガイドラインの内容(前記2(5)イ(ウ)参照)及び前記2(6)の各医学的意見などに照らし,上記意見は採用することができない。 エまた,被控訴人らは,嚢状動脈瘤の破裂と脳動脈解離のいずれであるとしても,過重労働やストレスが,後天的要因である血行力学的因子を増大させ,夜間の生理的睡眠時の十分な血圧低下状態における脳血管修復作用を阻害するなどして,自然経過を超えてくも膜下出血の発症に至らせる要因となった旨主張し,P23医師(甲193)及びP25医師(甲187)の各意見 理的睡眠時の十分な血圧低下状態における脳血管修復作用を阻害するなどして,自然経過を超えてくも膜下出血の発症に至らせる要因となった旨主張し,P23医師(甲193)及びP25医師(甲187)の各意見中には,これに沿う部分がある。確かに,脳動脈- 46 -瘤は,素因などの先天的因子に血行力学などの後天的因子が関与して発生するものであり,多発性嚢胞腎の場合にも,先天的な血管壁の脆弱性に,血行力学的因子が作用して発症するものであるから,過重な労働によるストレスや過労による負荷が,継続的ないしは一時的に血圧を上昇させ,その結果,合併する脳動脈瘤の破裂に関与し,より破裂が起こりやすくなることがないわけではない。しかしながら,前記イの判断に照らし,本件疾病の発症は,その血管病変が自然経過を超えて著しく進行し,増悪した結果であると認めることはできないから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。 さらに,被控訴人らは,亡P2が29歳であり,基礎疾患の自然経過によってくも膜下出血を発症させる直前にまで増悪していなかった旨主張するが,くも膜下出血の好発年齢ではない29歳での発症であるからこそ,血管の加齢と長期間の血流ストレスを前提とする通常のくも膜下出血の症例と同列に論じることができないこと,多発性嚢胞腎患者の脳動脈瘤は,一般のように脳動脈瘤が加齢あるいは高血圧の進行により徐々に大きくなり,一定程度の大きさ以上になった場合に初めて破裂する危険が高くなるものではないことなどに照らし,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。 オしたがって,亡P2の脳動脈瘤は,先天的な脳血管の脆弱性がなければ発生せず,破裂もしなかったと評価するほかなく,多発性嚢胞腎というくも膜下出血を発症するに足る有力な多発性嚢胞腎という危険因子を亡P2が有して ,亡P2の脳動脈瘤は,先天的な脳血管の脆弱性がなければ発生せず,破裂もしなかったと評価するほかなく,多発性嚢胞腎というくも膜下出血を発症するに足る有力な多発性嚢胞腎という危険因子を亡P2が有していたこと及び亡P2の従事していた業務の量と質等を総合的に考慮すれば,亡P2のくも膜下出血の発症は,その血管病変が亡P2の従事していた業務により自然経過を超えて著しく進行し,増悪した結果であると認めることはできない。すなわち,本件疾病は亡P2の業務に内在する危険の現実化として発症したものとは認められないから,- 47 -亡P2の業務と本件疾病の発症との間に相当因果関係があるということはできない。 4 結論以上によれば,亡P2の本件疾病に業務起因性は認められないから,本件不支給処分は適法というべきである。 よって,被控訴人らの請求は理由がないからいずれもこれを棄却すべきところ,いずれもこれを認容した原判決は相当でなく,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消した上,被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第15民事部 裁判長裁判官井上繁規 裁判官笠井勝彦 裁判官坂本宗一

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