- 1 -平成20年(わ)第1086号判決主文被告人を禁錮3年に処する。 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成19年8月19日午前11時8分ころ,普通乗用自動車を運転し,兵庫県南あわじ市a所在のb自動車道下り61.3キロポスト付近の片側2車線道路の走行車線を東から西に向かい時速約85㎞で進行するに当たり,自車が継続的に異常音及び振動を発し続け,これらの異常を認識したのであるから,直ちにブレーキを的確に操作して自車を走行車線左側の路肩に停止すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,急制動により滑走するなどと誤信して,直ちにブレーキを的確に操作せず,自車左後輪のタイヤが破裂した後も,ハンドル操作に気を取られ,ブレーキを的確に操作せず,自車を上記路肩に停止しないで,漫然上記速度ないし時速約80㎞で約100m進行した過失により,上記自動車道下り61.5キロポスト付近において,自車を右前方に逸走させ,自車を追越車線右側の中央分離帯のガードロープ等に衝突させて横転させ,自車同乗者A(当時54歳,同B(当時56歳)及び同)C(当時71歳)を車外に放出させて路上に転落させた上,上記Bを自車後方から進行してきたD運転の普通乗用自動車の車底部で轢過させ,よって,上記A,同B及び,,,同Cに別紙一覧表記載の各傷害をそれぞれ負わせそのころ同所付近路上において同表記載のとおり,これら3名をいずれも死亡させるとともに,同表記載のとおり,自車同乗者E(当時70歳,同F(当時59歳)及び同G(当時66歳)に左肩関)節の可動域制限等の後遺症を伴うなどの加療約249日間ないし約382日間以上を- 2 -要する左肩甲骨骨折等の各傷害をそれぞれ負わせたものである。 (証拠の標目)省略( 当時66歳)に左肩関)節の可動域制限等の後遺症を伴うなどの加療約249日間ないし約382日間以上を- 2 -要する左肩甲骨骨折等の各傷害をそれぞれ負わせたものである。 (証拠の標目)省略(補足説明)第1弁護人は,本件事故の原因は,被告人に予測できなかった左後輪タイヤのバーストによって運転操作が不能になったことにあり,被告人は事故回避のため最善の努力を尽くしたが及ばなかったもので,被告人に過失はなく,無罪であると主張するので,以下,有罪と認めた理由を補足して説明する。 第2前提となる事実関係 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 ( )本件事故の発生 平成19年8月19日午前11時8分ころ,被告人が,助手席に妻を,後部座席の前後列に各3名を乗せた普通乗用自動車(ステーションワゴン,以下「被告人車」と。),,いうを運転しb自動車道下り片側2車線道路の走行車線を西進していたところ61.5キロポスト付近において,同車が右前方に逸走して追越車線右側の中央分離帯のガードロープ等に衝突・横転し,後部座席の同乗者6名のうち3名が死亡し,3名が傷害を負う事故が発生した。 ( )本件事故現場の道路状況 本件事故現場の道路は,速度制限100㎞毎時,進行方向に向かって左方に緩やかに湾曲した片側2車線のアスファルト舗装された自動車専用道路であり,左側走行車線及び右側追越車線の各幅員はいずれも約3.6mで,左外側線の左方に幅員約2. 4mの路肩が隣接して設けられていた。本件事故当時,路面は乾燥しており,交通量は少なく,進行方向に障害物等はなかった。 ( )被告人車の状況 - 3 -被告人車は,車長4.58m,車幅1.69m,車高1.96m,乗車定員8人のABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が装着された普通乗用自動車 等はなかった。 ( )被告人車の状況 - 3 -被告人車は,車長4.58m,車幅1.69m,車高1.96m,乗車定員8人のABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が装着された普通乗用自動車であり,本件事故当時,制動装置に異常はなかった。なお,ABSとは,急ブレーキあるいは低摩擦路でのブレーキ操作においてタイヤがロックして横滑りするのを防止する装置であり,急ブレーキをかけつつ衝突を回避するためのハンドル操作ができ,通常の制動距離より短い制動距離で停止することを可能としたものである。 被告人車の左右前後輪タイヤは,いずれもラジアル構造のチューブレスタイヤであるが,本件事故後,そのうちの左後輪タイヤがバーストによるセパレーション現象を呈しており,トレッド面のゴムがスチールベルトを混在した状態で剥離し,その一部が断裂して脱落していた。これは,左後輪タイヤが低空気圧で走行したためにベルト端のゴムが硬化してトレッドブロック及びトレッド溝底にひび割れが生じ,さらに高速で走行したため,ベルト端のコード層が剥離現象を起こし,そこが膨らんで剥離が進行し,最終的に破裂したことによる。 ( )本件事故現場に残されたタイヤ痕の状況 本件事故後,現場付近道路には,被告人車の左後輪のタイヤ痕が,61.4キロポスト標示板の東方約19.4mの走行車線上から西方へ約108.6mの長さで印象された後,途切れることなく,追越車線右側の中央分離帯に向かって約40.2mの長さで印象されていた。そのうち,前者のタイヤ痕は,まず走行車線の中央やや左側(. )(. )左外側線の右方約13mの地点から左外側線寄りその右方約05mの地点に向かって約49.1mの長さで直線的に印象され,次いで走行車線の中央に向かって約32.6mの長さで直線的に印象された後,再び左外 線の右方約13mの地点から左外側線寄りその右方約05mの地点に向かって約49.1mの長さで直線的に印象され,次いで走行車線の中央に向かって約32.6mの長さで直線的に印象された後,再び左外側線寄り(その右方約0. 7mの地点)に向かって約26.9mの長さで直線的に印象されていた。これらのタイヤ痕は,左後輪タイヤの空気が完全に抜けた状態で,ホイールがタイヤのゴムを路面に押し付けたことにより印象されたものである。 - 4 - 被告人車の速度( )H作成の鑑定書(以下「H鑑定」という)によれば,被告人車が中央分離 。 帯のガードロープ等に衝突したときの速度は時速約33.3㎞,左後輪のタイヤ痕が中央分離帯に向かって印象を開始した時点の速度は時速約65.9㎞,左後輪タイヤがバーストした時点,すなわち,61.4キロポスト標示板の東方約19.4mの走行車線上から左後輪のタイヤ痕が印象を開始した時点の速度は時速約80.6㎞であったと認められる。 なお,I作成の鑑定書(弁3の1)及び同人の公判供述(以下,両者を併せて「I鑑定」という)によれば,上記後二者の速度間の減速度は,左後輪タイヤのバース。 トに伴う前後四輪の転がり抵抗値による制動力程度となっており,ブレーキはほとんど影響していないとされている。 ( )また,H鑑定によれば,車体全体の変形等を考慮すると,左後輪タイヤがバ ーストする直前の被告人車は,時速約80.6㎞を上回る速度で進行していたと推定されているところ,被告人は,捜査・公判段階を通じ,本件事故現場に差し掛かるまで時速約85㎞で進行していたと供述している。この点に関しては,被告人車の後続車の運転者であるDが,警察官調書中で,被告人車の後方に続いて安全な車間距離を保ちながら時速約90㎞で進行していた旨,被告人の供述とおおむね 行していたと供述している。この点に関しては,被告人車の後続車の運転者であるDが,警察官調書中で,被告人車の後方に続いて安全な車間距離を保ちながら時速約90㎞で進行していた旨,被告人の供述とおおむね一致する供述をしている上,被告人車の同乗者であるE,F,G及び被告人の妻も,被告人車の擬制車両を時速約85㎞で走行させて行われた実況見分に立ち会った際,速度の点について異論を唱えた事情はうかがわれない。 以上によれば,左後輪タイヤがバーストする直前の被告人車は,時速約85㎞で進行していたものと認められる。 そして,バースト発生前後の被告人車の減速度に照らすと,この間も,ほとんど制動措置は講じられておらず,主として左後輪タイヤの異常に伴う抵抗により減速した- 5 -ことが合理的に推認される(この点,H鑑定においても,被告人は,異常振動及びバースト後も大きく減速させずに走行を続けたものと認められるとされている。 。) 被告人が被告人車の異常を認識した地点及びその後の運転行為被告人は,当時の状況について,捜査・公判段階を通じ,要旨,次のように供述している。 「事故現場の近くに差し掛かったとき,突然,車の外から『バーンバタバタバンバタバタ』という音が連続して聞こえ,だんだんと大きくなっていき,同時に,ハンドルを持っている左右の手から軽い振動を感じた。この振動は,小刻みな振動だったが,車全体が揺れているため,ハンドルが振動しているという状態だった。最初は,一瞬,何が起こったのかわからなかったが,すぐに,車に何か異常が起きたことがわかった。次第に,直感で,タイヤがパンクしたのではないかと思い,事故につながる危険な状態になったのだということがわかったので,早く,ブレーキをかけて減速させ,車を安全な場所に停止させなければならないと思い,すぐにアクセ で,タイヤがパンクしたのではないかと思い,事故につながる危険な状態になったのだということがわかったので,早く,ブレーキをかけて減速させ,車を安全な場所に停止させなければならないと思い,すぐにアクセルペダルを踏んでいた右足を離し,ブレーキペダルの上に乗せた。そして,ブレーキを踏もう,,,としたがこういう場合に急ブレーキをかけるとタイヤがロックして滑走するなどかえって危険な状態になってしまうのではないかと思い,一気に力をいれないように注意してブレーキを踏んだ。バタバタという連続音は,その後さらに大きくなり,ブレーキを軽く踏んだ直後,ハンドルが左にとられ始めた。必死になってハンドル操作をしたことで,車は,進路が左右にぶれながらも,しばらくの間は左側車線を走っていたが,ハンドルや左右のぶれは一向に直らず,音も大きくなるばかりだと思った瞬間,ハンドルが,すごい力で右にとられ,車は,右側車線に入り込み,中央分離帯に勢いよく衝突した」。 そして,被告人立会いの下で行われた実況見分によれば,被告人が被告人車の異常音及び振動を最初に認識した地点は,中央分離帯のガードロープ等との衝突地点(以- 6 -「」。). (()下本件衝突地点というの手前約2642mの地点実況見分調書甲33。 ,,。),の①地点以下地点の表示はいずれも同実況見分調書に記載されたものを示す被告人車が左右に蛇行し始めた地点は本件衝突地点の手前約1385mの地点②,. (地点,ハンドルが右に大きくとられた地点は,本件衝突地点の手前約37.1mの)地点(③地点)であると指示説明されている。 この被告人の指示説明は,①地点の特定及び当時被告人が認識した被告人車の異常状態については,H鑑定や同乗者らの供述及び実況見分における指示説明等と,②,③の 点(③地点)であると指示説明されている。 この被告人の指示説明は,①地点の特定及び当時被告人が認識した被告人車の異常状態については,H鑑定や同乗者らの供述及び実況見分における指示説明等と,②,③の各地点の特定及びその際の被告人車の走行状態については,前記認定の本件事故現場に残された左後輪のタイヤ痕の状況等とよく整合しており,疑いを差し挟むべき事情は見当たらない。 第3検討以上の事実関係を前提に,被告人の運転行為が自動車運転過失致死傷罪にいう過失行為に当たるかどうかについて検討する。 自動車の運転者は,故障その他の理由により本線車道等において運転することができなくなったときは,速やかに当該自動車を本線車道等以外の場所に移動するため必要な措置を講じなければならないのであり,特に,本件のような自動車専用道路において,時速約85㎞の高速度で進行中,自車が継続的に異常音及び振動を発し続けていることを認識した際には,そのままの速度で進行し続ければ同乗者の死傷を伴う事故が惹起するかもしれないことは当然に予想されるのであるから,このような場合,上記異常を認識した時点で,直ちにブレーキを的確に操作して自車を走行車線左側の路肩に停止すべき自動車運転上の注意義務があるというべきである。 ところが,被告人が,本件衝突地点の手前約264.2mの地点で自車の異常を認識しながら,直ちにブレーキを的確に操作せず,本件衝突地点の手前約150mの地点で左後輪タイヤがバーストした後も,ハンドル操作に気を取られ,ブレーキを的確- 7 -に操作せず,自車を上記路肩に停止しないで,進行し続けたことは,前記認定のとおりであるから,被告人には,上記注意義務を怠った過失があることは明らかである。 ところで,本件事故現場の道路状況,被告人車がABS装着車両であったこと,被告人が自車の異 し続けたことは,前記認定のとおりであるから,被告人には,上記注意義務を怠った過失があることは明らかである。 ところで,本件事故現場の道路状況,被告人車がABS装着車両であったこと,被告人が自車の異常を認識してから本件衝突地点まで進行した距離や所要時間,被告人車の速度等にかんがみると,被告人において,自車の異常を認識した時点で,直ちにブレーキを的確に操作し,適切に減速していれば,本件事故を回避することが可能であったと考えられることは,H鑑定が指摘するとおりである。 そうすると,被告人は,上記注意義務を怠った結果,本件事故を惹起したとされてやむを得ないものというべきである。 これに対し,弁護人は,次のようなI鑑定に依拠し,被告人は事故回避のため最善の努力を尽くしたが及ばなかったものであると主張する。すなわち,I鑑定は「被,告人車の左後輪タイヤのバースト後,急ブレーキをかけると,ABS装置の有無にかかわらず,走行抵抗の急激な上昇により,ハンドル操作によって操舵の直線性を保つことが不可能となり,右にハンドルを取られる状態で右に逸走することになる。被告人は,左後輪タイヤに異常(バースト)が発生したのに気が付き,急ブレーキをかける事なく,ハンドル操作により車体進行の直線性を保つ努力をした事がうかがわれるから,被告人が採った措置は,適正なものである」というのである。 。 しかし,I鑑定は,左後輪タイヤがバーストした時点での被告人車の速度が時速約80.6㎞であることを前提とした上で,専らバースト後の急ブレーキの当否を問題,,,,,にしているが被告人がそれ以前の段階すなわち自車の異常を認識した時点で直ちにブレーキを的確に操作していれば,例えバースト発生までに自車を停止できなかった場合であっても,その時点では相当程度減速しているはずであるか それ以前の段階すなわち自車の異常を認識した時点で直ちにブレーキを的確に操作していれば,例えバースト発生までに自車を停止できなかった場合であっても,その時点では相当程度減速しているはずであるから,引き続きブレーキ及びハンドルを的確に操作することにより,中央分離帯との衝突という事態は避けられたものと考えられる。 - 8 -その他弁護人が主張する諸点を踏まえて慎重に検討しても,過失の存否に関する上記判断は左右されない。 第4 結論 以上によれば,被告人は,本件事故について,自動車運転過失致死傷罪の成立を免れない。 (法令の適用)省略(量刑の理由)本件は,判示のとおりの自動車運転過失致死傷の事案である。 被告人は,社交ダンス仲間と3台の自動車に分乗して奈良県内から香川県内に向かう旅行中,妻及び仲間6名を同乗させた車両を運転し,自動車専用道路を時速約85㎞で進行していたところ,同車が継続的に異常音及び振動を発し続け,これらの異常を認識したのに,直ちにブレーキを的確に操作せず,同車を路肩に停止しないで,なおも相当距離を進行したため,本件事故を起こしたものである。 確かに,好意で運転役を引き受け,仲間から提供された本件車両を運転していたところ,左後輪タイヤに予期せぬ異常が発生したことなどの事情はあるけれども,事故現場の道路状況,本件車両がABS装着車両であったこと,被告人が同車の異常を認識してから衝突地点まで進行した距離や所要時間,その際の速度等にかんがみると,被告人において,同車の異常を認識した時点で,直ちにブレーキを的確に操作し,適切に減速していれば,事故を回避することが可能であったと考えられることは「補,足説明」の項で説示したとおりであって,やはり被告人の過失は軽視できない。もとより,本件事故の結果が重大かつ悲惨であることはいうまで いれば,事故を回避することが可能であったと考えられることは「補,足説明」の項で説示したとおりであって,やはり被告人の過失は軽視できない。もとより,本件事故の結果が重大かつ悲惨であることはいうまでもない。被告人の不注意な運転によって,3名の同乗者は何物にも代え難い尊い生命を奪われたのであり,同人らの無念はもちろん,その遺族の心情も察するに余りある。また,ほかの3名の同- 9 -乗者も後遺症を伴うなどの加療約249日間ないし約382日間以上を要する重傷をそれぞれ負わされている。このように,被告人は,仲間を死傷させたという重大な結果について責任を負わなければならないから,真しな反省が求められているが,被告人の供述内容からは,その点が十分自覚されているのか必ずしも明瞭には看取されない。被告人は,厳しい非難を免れないというべきである。 しかし,他方,本件事故に至る経緯については,上記のとおり,仲間から提供された本件車両の左後輪タイヤに予期せぬ異常が発生したことなど,同情すべき点が少なくないこと,死亡被害者3名の遺族及び傷害被害者1名との間でそれぞれ示談が成立しており,残る傷害被害者2名との関係においても,未だ示談は成立していないものの,然るべき時期に相当額の賠償金が支払われることが見込まれること,死亡被害者1名の遺族及び傷害被害者2名が被告人に対する宥恕の意思を表明していること,被告人が,過失の存否を争いながらも,被害者らに対する謝罪の言葉を口にするなど,一定の反省の態度を示していること,前科がなく,これまでまじめに社会生活を送ってきたことなど,被告人にとって酌むべき事情もある。 以上の諸事情を総合考慮すると,被告人に対しては,その刑の執行を猶予し,この社会の中で贖罪を行わせるのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑・禁錮3年) 人にとって酌むべき事情もある。 以上の諸事情を総合考慮すると,被告人に対しては,その刑の執行を猶予し,この社会の中で贖罪を行わせるのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑・禁錮3年)平成21年3月25日神戸地方裁判所第1刑事部裁判官辛島靖崇
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