平成30(ワ)2220 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年5月20日 京都地方裁判所
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判決文本文36,866 文字)

- 1 - 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して2億6324万7628円及びこれに対する平成27年7月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して1100万円及びこれに対する平成27年7月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,被告京都大学の大学院生であった原告Aが,大学院の正課授業として野生ボノボの研究のためにコンゴ民主共和国におけるフィールドワーク実習に参加した際,被告京都大学の教授であって原告Aの指導教員であった被告Cが,原告Aに対する指導等を行う義務を怠ったこと及び被告京都大学が原告A に対する安全配慮義務を怠ったことなどによって,フィールドワーク実習中の落木事故(以下「本件事故」という。)により負傷して損害を被ったと主張して,①被告京都大学に対しては,債務不履行(安全配慮義務違反),使用者責任又は国家賠償法1条1項による損害賠償請求権に基づき,②被告Cに対しては,不法行為又は使用者責任による損害賠償請求権に基づき,2億6324万762 8円及びこれに対する平成27年7月21日(本件事故発生の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を請求するとともに,原告Aの配偶者である原告Bが,①被告京都大学に対しては,使用者責任又は国家賠償法1条1項による損害賠償請求権に基づき,②被告Cに対しては,不法行為又は使 用者責任による損害賠償請求権に基づき,1100万円及びこれに対する平成 京都大学に対しては,使用者責任又は国家賠償法1条1項による損害賠償請求権に基づき,②被告Cに対しては,不法行為又は使 用者責任による損害賠償請求権に基づき,1100万円及びこれに対する平成 - 2 - 27年7月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を請求する事案である。 2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)⑴ 当事者等 ア原告A(平成▲年▲月▲日生)は,平成27年4月から京都大学大学院理学研究科修士課程1回生として,京都大学霊長類研究所(以下「本件研究所」という。)を研究の拠点として学んでいた者である。原告Aは,平成26年5月30日に原告Bと婚姻した。 イ被告京都大学は,京都大学理学研究科を管理運営している国立大学法人 である。 被告Cは,被告京都大学に雇用されている本件研究所の教授であり,平成27年度の原告Aの指導教員であった者である。被告Cは,コンゴ民主共和国(以下「コンゴ」ともいう。)でのフィールドワークを中心に,ボノボの性と生活史の研究を長年行っており,ボノボの生息するコンゴの森の 状況及びボノボの行動について,世界的に最も熟知していた人物の一人であった。 Dは,平成27年度の本件研究所の長期野外研究プロジェクトの研究員であった者である(甲5)。 ⑵ 原告Aが海外研究を行うまでの経緯 ア原告Aは,平成27年3月,京都大学農学部を卒業し,同年4月から京都大学大学院理学研究科修士課程に入学し,本件研究所に所属することとなった。原告Aは,京都大学の霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院(PWS)にも所属していた(甲18(枝 月から京都大学大学院理学研究科修士課程に入学し,本件研究所に所属することとなった。原告Aは,京都大学の霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院(PWS)にも所属していた(甲18(枝番号を含む。 以下同じ。),乙1)。原告Aの本件研究所における研究テーマは,「野生ボ ノボの雄の発達に伴う社会関係の変化」であった(甲18,67)。 - 3 - イ原告Aは,平成26年5月(大学4回生時),被告Cの大学1回生向けのゼミに参加して,宮城県の金華山島において野生のニホンザル見学をしたことがあり,同年12月及び平成27年2月には,NPO法人主催の登山道や道路から双眼鏡でニホンザルの数を数える個体調査に参加したことがあった。 また,原告Aは,霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院が必須科目として指定するニホンザルの観察実習として,平成27年4月に宮崎県の幸島での観察実習,同年5月には,鹿児島県の屋久島での観察実習に参加した。 (以上につき甲67,丙23,原告A本人(2,3頁)) ウ原告Aは,本件研究所における研究の一環である予備調査として,次のような内容の海外研究調査(以下「本件海外研究調査」という。大学院の正課の授業である。)を行うことになった。予備調査とは,調査方法の習得や研究テーマの確定を目的とした調査である(原告A本人(1頁),被告C本人(2,3頁))。 宿泊地コンゴ民主共和国赤道州a村の基地(以下「本件基地」という。)日程平成27年7月3日から同年9月24日まで(ただし,原告Aは本件事故により同年7月21日に中断した。)原告Aの調査実施日同年7月3~6日,8~13日,15~18日,20日,21日(甲7) 参加者原告A,被 年9月24日まで(ただし,原告Aは本件事故により同年7月21日に中断した。)原告Aの調査実施日同年7月3~6日,8~13日,15~18日,20日,21日(甲7) 参加者原告A,被告C,修士課程2回生のF,同修士課程1回生のG,学外から同行したビデオカメラマンのHエ本件海外研究調査に先立ち,被告Cは,平成27年4月2日,原告A及びGに対し,リンガラ語の学習に関する資料及びリンガラ語の基礎テキストが掲載されているウェブサイトのURLが記載されたメールを送信し た(甲67,丙25)。Dは,同年6月19日,同人が作成した「aのリン - 4 - ガラ語用例集(2015年6月,D)」(甲63,丙22)を使用して,原告A及びGに対し,リンガラ語の講習を行った(甲67,丙24)。 オ平成27年6月15日,イギリスのセントアンドリュー大学の学生であるIが,前記a村付近の森(以下「本件森」という。)においてボノボを観察していた際に,7~8mほどの高さの樹上からボノボが落した枯れ枝(長 さ30~40㎝,直径5~6㎝)が右目に当たり怪我をする事故(以下「本件英国学生事故」という。)が発生した(甲21,丙3,4)。 原告Aは,本件英国学生事故後に被告Cから伊達眼鏡を買っていった方がよいとの助言をされたことから,花粉症対策で販売されている伊達眼鏡を購入して本件海外研究調査の際に持参した(甲67)。 ⑶ フィールドワーク実習の概要等ア研究対象本件海外研究調査の目的はボノボの観察であり,「E1集団」と名付けられたボノボの集団及び「Pe集団」と名付けられたボノボの集団が観察対象であった。被告Cは,H及びFと共にE1集団の観察を行い,原告A及 びGはPe集団を観察することになったも 集団」と名付けられたボノボの集団及び「Pe集団」と名付けられたボノボの集団が観察対象であった。被告Cは,H及びFと共にE1集団の観察を行い,原告A及 びGはPe集団を観察することになったものの,原告Aは,平成27年7月9日,13日及び20日の3日間は被告Cらと共に同じボノボの集団(E1集団)を観察した。 ボノボの集団には「Pw集団」と名付けられた集団もあり,平成27年7月当時の本件森のボノボは,大体が集団の全個体が毎日確認される大き な遊動パーティーを作っており,Pe集団とPw集団の出会いも頻繁であった。 (以上につき,甲7,甲67,丙23)。 イフィールドワークの方法ボノボの観察は,1集団につき最大3名までの調査者という規則で行わ れていた。本件海外研究調査におけるフィールドワークは,「トラッカー」 - 5 - と呼ばれる者を伴って行われていた。トラッカーは,a村の中でも特に本件森に詳しいとされる者8~10名で構成されていた。トラッカーは,本件森を熟知し,その危険性を理解し,危険を回避する術をわきまえており,その視力や聴力は,日本人とは比較にならないほど優れていた。そのため,研究者の安全管理のために,現地調査ではトラッカーを原則2名,最低で も1名同行させるルールになっていた。トラッカーは,研究者のフィールドワークに同行する場合は,研究者の安全確保を第一の職務としており,研究者が本件基地に不在の場合でも,午前と午後の2交代制でボノボの各集団の観察を行い,ボノボの行動を記録することで,研究者の調査を補助していた。トラッカーは,リンガラ語を使用していた。 (以上につき,甲20,丙23)ウ本件森の様子本件森は,SouDacryodesedulis 究者の調査を補助していた。トラッカーは,リンガラ語を使用していた。 (以上につき,甲20,丙23)ウ本件森の様子本件森は,SouDacryodesedulis(通称ソウの樹(以下「ソウの樹」という。)),BotunaCynometrahankei(通称ボツナの樹(以下「ボツナの樹」という。))と呼ばれる樹木等が自生するジャングルであるが,木や藪 を切り人間が歩きやすいように手入れされた観察路が複数開設されていた(甲60,丙19)。そのうちの「Lokuli6」(以下「ロクリ6」という。)は,本件事故現場に最も近い観察路であり,本件事故現場から最短距離で約20m,本件事故当日,原告Aらがロクリ6から本件事故現場まで歩いた経路は約50mであった。 ⑷ 本件事故発生の状況等(甲7,20)ア本件事故当日の調査活動原告Aは,平成27年7月21日午前4時40分頃(コンゴ民主共和国赤道州a村の現地時間。以下同じ。),トラッカー2名(J,K)と共にPe集団の観察のために本件基地を出発した。なお,Gは,同日,体調を崩 していたため,調査には同行しなかった。 - 6 - 原告Aは,同日午前6時10分頃,Pe集団のもとに到着し,ボノボの行動観察を開始した。 同日午前11時42分頃,トラッカーのL及びMが原告Aに合流したことでJが仕事を終了し,原告A及び3名のトラッカー(L,M,K)がボノボの観察を継続した。 イ本件事故の発生(甲7)本件事故の発生 日時平成27年7月21日午後2時56分 場所コンゴ民主共和国赤道州a村付近の森(本件森) 態様本件森で原告Aがボノボの行動観察を行っていたところ,同日 日時平成27年7月21日午後2時56分 場所コンゴ民主共和国赤道州a村付近の森(本件森) 態様本件森で原告Aがボノボの行動観察を行っていたところ,同日 午後2時53分頃からソウの樹の上でボノボの攻撃交渉が発生し,一部のボノボがソウの樹から南側のボツナの樹に飛び移った際に枯れ枝が落下し,途中で低木に当たって4片に割れて,そのうちの一つ(長さ約90㎝,直径約16㎝,外周約45㎝,重さ約10.8㎏)が原告Aを直撃した。 ⑸ 原告Aの傷害(甲9~14)原告Aは,本件事故により,胸髄損傷,胸椎骨折,頸椎多発骨折,右鎖骨骨幹部骨折,左肩甲骨骨折,急性硬膜外血腫,両側気胸,右顔面神経麻痺,多発頭部外傷,膀胱直腸障害等傷害を負い,平成28年5月11日に症状固定した。 原告Aは,胸髄損傷(第4胸椎以下完全麻痺),膀胱直腸障害の後遺障害により,神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を必要とするもの又は両下肢の用を全廃したものと認定された。 ⑹ 本件事故後の検証作業ア Dは,平成27年8月3日,本件事故の状況について本件事故現場にお いてトラッカー(L,M,K)に事情聴取(以下「本件現場検証」という。) - 7 - を行い,それをもとに「20150721事故の検証メモ(D,2015年8月3日)」(甲7。以下「本件検証メモ」という。)を作成した。本件事故現場には,上記トラッカーのほかにトラッカーのN,シェフデローカリテ(以下「ローカリテ」という。)とその息子及びOが同行し,Oは,Dがトラッカー及びローカリテに事情聴取を行っている様子を一部撮影した (丙7,9,11~14,証人D(1,2頁))。 イ本件事故当時,本件研究所社会生態分 の息子及びOが同行し,Oは,Dがトラッカー及びローカリテに事情聴取を行っている様子を一部撮影した (丙7,9,11~14,証人D(1,2頁))。 イ本件事故当時,本件研究所社会生態分科・社会進化分野の大学院生であったQは,被告Cに依頼され,平成31年4月4日,Lとともに本件事故現場に赴き,Lの説明を受けながら本件事故当時の原告A,トラッカー,ソウ及びボツナの樹冠の位置関係,落木が低木に当たった場所や落木の落 下地点を記載した見取図(丙15。以下「本件現場見取図」という。)を作成し,本件事故現場の写真を撮影した(甲4,5,丙17の1~3)。 3 争点及びこれに関する当事者の主張⑴ 被告京都大学の安全配慮義務違反の有無(原告らの主張) ア被告Cを履行補助者とする安全配慮義務違反 トラッカーは被告Cの履行補助者に当たること被告Cは,被告京都大学の安全配慮義務の履行補助者であり,本件海外研究調査において,自らは原告Aに同行せず,現地のトラッカーを自らが負う学生の安全衛生管理,事故防止責任の履行のために使用してい るから,トラッカーは,被告Cの原告Aに対する安全配慮義務の履行補助者に該当する。 トラッカーの原告Aに対する危険回避指示義務違反トラッカーは,研究者に対し,ボノボの攻撃交渉が勃発した時点で,速やかに観察場所からより安全な場所に退避するよう指示する義務があ ったにもかかわらず,本件事故の際,ボノボの攻撃交渉が発生した時点 - 8 - で,原告Aに対して何ら退避指示等を行わなかった。より安全な場所とは,具体的には①トラッカーのすぐ傍,②頭上に樹冠がかかっていない落木発生の少ない場所,又は,③ボノボが攻撃交渉で駆け回る可能 で,原告Aに対して何ら退避指示等を行わなかった。より安全な場所とは,具体的には①トラッカーのすぐ傍,②頭上に樹冠がかかっていない落木発生の少ない場所,又は,③ボノボが攻撃交渉で駆け回る可能性のある範囲外の場所である。 具体的には,平成27年7月21日午後2時53分頃から55分頃に かけてボノボの攻撃交渉が立て続けに起こった際,原告Aの安全管理の責任者であったLは,倒木から立ち上がり,すぐ傍に原告Aを引き寄せておくなど,落木が発生した時には咄嗟に原告Aを危険から守ることのできる位置に移動させる必要があったにもかかわらず,これを怠った。 また,同日午後2時56分頃にボノボらがソウの樹からボツナの樹に飛 び移り始めた時点で,Lは,直ちに原告AをLのすぐ傍などのより安全な場所に移動させる必要があったにもかかわらず,これを怠った。 イガイドライン等の制定義務違反野外活動は,屋内とは異なり生命身体に関わる重大な事故が発生する恐れがある。被告京都大学は,そのような事故を防止するため,野外活動を 指導教員任せにせず,組織的に関与して安全を管理する旨の規程やガイドラインを制定する義務を負う。そうであるにもかかわらず,被告京都大学は,上記規程やガイドラインを制定せず,野外活動を指導教員任せにしており,上記義務違反がある。 ウガイダンス等の実施義務違反 被告京都大学は,学生が海外での野外活動を行う際には,事前に予想される具体的危険を指導教員作成の安全衛生管理計画書等に記載させ,提出させるなどして把握し,危険の内容や事故防止策を学生に告知するための事前ガイダンス等を被告京都大学が行うか又は指導教員に行わせる義務を負う。そうであるにもかかわらず,被告京都大学は,事前ガイダンス等 を実施せず,指導教員にも実施さ 止策を学生に告知するための事前ガイダンス等を被告京都大学が行うか又は指導教員に行わせる義務を負う。そうであるにもかかわらず,被告京都大学は,事前ガイダンス等 を実施せず,指導教員にも実施させていない義務違反がある。 - 9 - (被告京都大学の主張)ア被告Cを履行補助者とする安全配慮義務違反 トラッカーは被告Cの履行補助者に当たらないことトラッカーは,世界中のあらゆる研究者にも勝って本件森を知り尽くした熟練者であり,被告Cさえトラッカーの指示に従って自身の安全を 確保するしかないのであるから,被告Cがトラッカーを使用・指揮しているとはいえず,トラッカーは,被告Cの履行補助者には当たらない。 また,被告Cにはトラッカーの選任・監督の過失もない。 トラッカーの原告Aに対する危険回避指示義務トラッカーには,原告が主張するような原告Aに対してより安全な場 所に退避するよう指示する義務はない。 a トラッカーのすぐ傍に退避させることについて⒜ ボノボの攻撃交渉が発生したソウの樹は原告Aから約13m離れており,本件事故当時,原告Aは安全に観察できる位置にいた。そして,原告Aと2.5mという近距離でLが原告Aの観察をサポー トしており,M,Kは少し離れた距離で別々の角度から観察しており,それぞれ適切な位置取りであった。また,明白に危険が差し迫っていない限り,観察に支障を生じさせたり,観察を放棄したりするような行動を取らずに観察を継続することに問題はないところ,トラッカーが原告Aの隣に立つくらいに近寄るとボノボの観察に支 障が生じる。 ⒝ 落木発生から原告Aに落木の破片が当たるまでの経路は極めて特異であり,本件森に詳しいトラッカーであっても事 ,トラッカーが原告Aの隣に立つくらいに近寄るとボノボの観察に支 障が生じる。 ⒝ 落木発生から原告Aに落木の破片が当たるまでの経路は極めて特異であり,本件森に詳しいトラッカーであっても事前に想定することはできない。トラッカーが原告Aに落木の破片が当たる可能性があると想定することができたのは,落木が低木に当たり方向を変え た時点であると考えられ,その時点から原告Aに落木の破片が当た - 10 - るまでは数秒よりもさらに短い時間であったはずであり,そのような短時間のうちにLが原告Aを引っ張って元の位置に戻ることは不可能であるから,本件事故には結果回避可能性がない。したがって,トラッカーは原告が主張する義務を負わない。 b 頭上に樹冠がかかっていない落木発生の少ない場所に退避させるこ とについて原告Aの観察場所はボノボが飛び移ってきたり,落木が発生するような危険のある場所ではなかったから,トラッカーには原告Aを樹冠がかかっていない落木発生の危険の少ない場所に移動させる義務はなかった上,ボノボは原告Aの真上を飛び移ったわけではないから,原 告Aが観察場所から移動しなかったことと本件事故の発生との間に相当因果関係は存在しない。 c ボノボが攻撃交渉で駆け回る可能性のある範囲外の場所に退避させることについて本件事故発生現場から観察路のロクリ6までは最短距離で約20m, 本件事故発生時の観察経路に沿うと約50m離れている。ロクリ6まで走って移動するには,整備されていない木や藪,茂みに覆われた本件森の中をボノボから目を離して足元を見ながら移動することになるが,ボノボが攻撃交渉を始めた場合,ボノボが思わぬ方向に駆け抜けてきて落木を含めた落下物が生じる可能性があるため,ボノボから目 を離 の中をボノボから目を離して足元を見ながら移動することになるが,ボノボが攻撃交渉を始めた場合,ボノボが思わぬ方向に駆け抜けてきて落木を含めた落下物が生じる可能性があるため,ボノボから目 を離さないようにして状況に応じた危険回避に備える必要があり,短時間のうちに約50m離れた場所に退避すべきという原告らの主張は,本件森の状況を踏まえないものである上,観察者を危険にさらす結果になる。また,攻撃交渉もボノボの社会活動の一つであり,それ自体が観察対象として重要であって,本件事故が発生した時期には,1時 間に1回程度の頻度で攻撃交渉がみられ,それが始まった途端に毎回 - 11 - 約50mも離れた場所に退避することは観察をやめることと同義であり,フィールドワークによってボノボの行動のデータを収集して研究するという目的を達成することが不可能になる。したがって,トラッカーには原告Aをボノボが攻撃交渉で駆け回る可能性のある範囲外の場所に移動させる義務はない。 d 本件において,3名のトラッカーは,原告Aの安全確保のために適切に行動したといえ,トラッカーには原告Aに対する危険回避指示義務違反はない。 イガイドライン等の制定義務違反及びガイダンス等の実施義務違反野外活動には様々な場所,目的,危険性があるところ,被告京都大学 は,一律にガイドライン等を定める義務を負うものではないし,野外活動を行う学生ごとに逐一個別の事前ガイダンス等を実施する義務を負うものでもない。野外活動に臨む学生に対してガイドライン等を制定するかどうか,ガイダンス等を実施するかどうかについては,被告京都大学の裁量に委ねられている。 被告京都大学は,本件海外研究調査での調査を想定したガイドライン等の制定や個別のガイダンス るかどうか,ガイダンス等を実施するかどうかについては,被告京都大学の裁量に委ねられている。 被告京都大学は,本件海外研究調査での調査を想定したガイドライン等の制定や個別のガイダンス等を実施していないものの,原告Aに対し,平成27年4月,本件研究所野外研究委員会による安全管理のための一般的なガイダンスを実施し,フィールドワークにおける安全管理について一般的な指導を行った。また,被告京都大学理学研究科が提供し,霊 長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院(PWS)が必修科目として指定する平成27年4月の幸島実習及び同年5月の屋久島実習を実施することで,原告Aに対し,野外研究の基礎を学ぶ経験を積ませている。原告Aは,幸島実習では自ら研究テーマを設定してデータを取得し,その成果を研究発表するという本件海外研究調査で行う研 究調査と同様の体験をすることができ,屋久島実習では急峻な地形であ - 12 - りながら,aと同様に樹が生い茂る森の中で樹上を移動して木の実や小枝といった落下物を発生させることもあるニホンザルを観察することにより,樹上に注意を払う状況での観察を経験した。被告京都大学は,このようにガイダンス及び実習の提供を行っており,安全配慮としてはこれで足りるというべきである。 本件事故は,折れた枝が落下する最中に別の低木に当たって分裂し,その破片の一つが落下方向を変えたために原告Aに当たったという特異な経路を辿った事故であるから,被告京都大学がガイドライン等を制定したりガイダンス等を実施したりしたとしても,その結果を回避できるものではなく,原告の主張する注意義務違反との関係では,結果回避可 能性及び因果関係がない。 ⑵ 被告Cの注意義務違反の有無(原告ら 実施したりしたとしても,その結果を回避できるものではなく,原告の主張する注意義務違反との関係では,結果回避可 能性及び因果関係がない。 ⑵ 被告Cの注意義務違反の有無(原告らの主張)アトラッカーに対する落木事故防止措置義務違反被告Cは,トラッカーに対し,少なくとも次の内容の指示,指導等を 行う義務があったにもかかわらず,これを怠った。 ① トラッカーに対し,被告Cが原告Aに対して責任を負っており,被告Cに代わってトラッカーが原告Aの安全を守る立場にあるという情報の提供,指導を行うこと。 ② トラッカーに対し,原告Aが学生であることに加え,始めてボノボ の調査を行う者であるという情報の提供を行うこと。 ③ トラッカーに対し,落木の危険があるところに学生が立たないように指示することや,ボノボの攻撃交渉時には,ボノボの突発的な移動等も考慮し,より安全な場所に移動することをトラッカーに徹底させること。 ④ トラッカーに対し,ボノボの調査,データ収集よりも学生の安全を - 13 - 守ることを優先するよう指示すること。 ⑤ トラッカーが上記①ないし④の職務を実行しているかを把握し,監督すること。 ⑥ トラッカーに対し,体調不良や疲労がたまっているときには本件森に入らないことを徹底させ,トラッカーが観察中の集中力が保てない ような状況を作らないようにすること。 被Cっていれば,ボノボの攻撃交渉が始まった時に,トラッカーが原告Aの安全を最優先に考え,原告Aを傍に連れてきたり,樹冠のかからない場所に誘導したりして原告Aをより安全な場所に退避させることで,本件事故を防ぐことが可能で あった。したがって,被告Cのトラッカーに対する義務違反と本件事 Aを傍に連れてきたり,樹冠のかからない場所に誘導したりして原告Aをより安全な場所に退避させることで,本件事故を防ぐことが可能で あった。したがって,被告Cのトラッカーに対する義務違反と本件事故との間には相当因果関係がある。 イ被告Cの原告Aに対する指導義務違反 被告Cは,原告Aに対し,事前に調査における危険要素,特に落木の危険を説明し,ボノボを安全に観察するために,ボノボが樹上にいると きには観察者は樹の真下に入らないよう指導する義務及び樹上でボノボの攻撃交渉が発生した場合には,攻撃交渉が行われている場所から一定の範囲の樹下に近づかず,その範囲外に退避するよう指導する義務があったにもかかわらず,これらの指導を怠った。また,安全管理の方法がトラッカーの後についてその指示に従って行動することであるならば, 原告Aが適時適切にトラッカーの指示を把握し,指示に従うことが可能となるためにリンガラ語の習得は必須であるところ,被告Cには,原告Aを含む学生に対してリンガラ語の習得を指示し,指導する義務があったにもかかわらず,被告Cは,原告Aに対し,現地でトラッカーが指示することが想定される具体的な危険の対象について何ら指導しなかった 上,原告Aのリンガラ語の習得度の確認をせず,上記義務を怠った。 - 14 - 被告Cが上記指示及び指導する義務を尽くしていれば,原告Aはボノボの攻撃交渉が発生した時点で,自分の観察位置の頭上は危険がないかを確認したり,トラッカーとコミュニケーションを取ってトラッカーの傍に移動するなど,より安全な場所に退避したりすることができた。したがって,被告Cの原告Aに対する上記指示及び指導義務違反と本件事 故との間には相当因果関係がある。 ウ安全装備着 カーの傍に移動するなど,より安全な場所に退避したりすることができた。したがって,被告Cの原告Aに対する上記指示及び指導義務違反と本件事 故との間には相当因果関係がある。 ウ安全装備着用指示義務違反本件海外研究調査の18日前に本件事故現場の近隣において,頭上にいたボノボが落とした枯れ枝がボノボの調査を行っていた英国の学生に当たり,同人が目を負傷するという事故(本件英国学生事故)が発生 したことにより,被告Cはボノボの観察者にとって落木が最大の危険要因であることを改めて認識した。学生は教授の指揮監督の下で調査を行う従属的な地位にあり,危険を回避する方法に習熟していないため,被告Cには学生に対し落木事故からの安全確保のためヘルメットを着用させる義務があったにもかかわらず,被告Cは,原告Aにヘルメットを 用意し,又は自ら用意するよう原告Aに指導しなかった。 被告Cが上記義務を尽くしていれば,原告Aは少なくとも頭部を骨折する重傷を負うことはなかったため,被告Cの上記義務違反と原告Aの損害との間には相当因果関係がある。 エ被告Cの本件事故の予見可能性 被告Cは,本件海外研究調査に当たって,落木事故の危険について次の事実を認識していたことからすると,落木により学生の生命・身体を害する重大な事故の危険が生じ得ること,及びトラッカーを学生に同行させるだけではその危険を回避しきれないことを予見することが可能であった。 ① 村人が落木の下敷きになって死亡しているのが発見されたり,チンパ ンジーが落した木に当たって足に打撲傷を負ったりすることがあり,本 - 15 - 件海外研究調査において落木は最大の危険であること。 ② 落木事故の危険回避のために,ボノボが樹上にいる時は樹冠の下 した木に当たって足に打撲傷を負ったりすることがあり,本 - 15 - 件海外研究調査において落木は最大の危険であること。 ② 落木事故の危険回避のために,ボノボが樹上にいる時は樹冠の下に入ってはならないこと。 ③ ボノボの攻撃交渉が起こった際には,ボノボがどの方向へ飛び出すか分からないことを考慮して,より安全な場所へ離れていくことが重要で あること。 ④ 本件海外研究調査の約1か月前の平成27年6月15日,本件英国学生事故が発生したこと。 (被告Cの主張)アトラッカーに対する落木事故防止措置義務違反 被告Cは,トラッカーに対し,上方に枯れ枝やツルに引っかかっている枝がないかを確認して落木の危険があるところに研究者が立たないように指示する業務,ボノボの観察時にはボノボの突発的な移動等も考慮し,研究者にボノボと一定の距離を開けるよう指示する業務等の研究者の安全管理の業務を適切に遂行することを指示していた。また,Dも, フィールドマネージャーとして,トラッカーに対して同様の指示を行っており,トラッカーの責務は,一に安全管理,二にボノボの追跡,三にデータ収集であることを伝えていた。したがって,被告Cにトラッカーに対する落木事故防止措置義務違反はない。 予見可能性,結果回避可能性がないこと 本件森に精通したトラッカーですら本件事故の特異な経過を予測することができなかったのであるから,被告Cにおいてこれを事前に防止するような具体的な注意・指導をトラッカーに対して行うことは事実上不可能であった。被告Cは,自己が想定し得る落木事故を防止するための注意・指導を日頃からトラッカーに対して行っていたにもかかわらず, 本件事故が発生したのであり,本件事故の発生を回避することは不可能 - Cは,自己が想定し得る落木事故を防止するための注意・指導を日頃からトラッカーに対して行っていたにもかかわらず, 本件事故が発生したのであり,本件事故の発生を回避することは不可能 - 16 - であった。 イ原告Aに対する指導義務違反被告Cは,落木事故防止のために様々な安全管理策を講じており,これにより原告Aに対して負う注意義務を履行していた。 ① 被告Cは,日頃から原告Aを含む学生に対し,ボノボの観察中は落 木の危険を避けるためにボノボがいる樹の真下に入らないよう指導し,本件英国学生事故が発生した際にも,原告Aに対し,落木の危険性と共に,ボノボが樹上にいる時は樹の真下に入らないよう改めて指導した。原告Aは,実際に,本件事故当時,トラッカーのLに付き従ってボノボを観察しており,ボノボがいる樹の真下には入らなかった。ま た,原告Aは,本件事故以前にボノボが樹上から木の実を落とした状況を経験し,ボノボが真上に来ないように気を付けていたことから,被告Cの指導の有無にかかわらず,落木の危険を回避するためにボノボがいる樹の下に入ってはならないことを理解していた。 ② 被告Cは,原告Aに対し,本件森においては,本件森に精通したト ラッカーの後ろを歩くように日頃から説明・指導していた。原告Aは,出張申請書(甲18の1)で「森を歩く際は,必ず森に詳しい現地住民と共に移動をする。」と記載しており,このことは被告Cが原告Aに対し,トラッカーに付いて歩くよう明確に説明・指導していたことを示している。 ③ 本件森における安全管理の方法としては,本件森を熟知したトラッカーの指示に従うことが最も適切であり,被告Cは,本件森における調査では,研究者は,原則2名最低でも1名のトラッカーを同行するというルールを 森における安全管理の方法としては,本件森を熟知したトラッカーの指示に従うことが最も適切であり,被告Cは,本件森における調査では,研究者は,原則2名最低でも1名のトラッカーを同行するというルールを制定していた。そして,このルールは本件事故当時も実践されており,原告Aは,トラッカーの安全管理の下でボノボの観 察を行っていた。 - 17 - 本件森での調査における安全確保,危険回避の方法は,現場の状況により様々であるからこそ,研究者は,本件森に精通したトラッカーに付き従って歩き,トラッカーと一緒に観察場所を決め,トラッカーの安全管理の下でボノボの観察を行っているのであり,樹上でボノボの攻撃交渉等が発生したら,直ちに退避しなければならないという定式的な指導 は不可能である上,現場の状況を見誤る可能性もあるため,かえって危険である。また,研究者にとって攻撃交渉等のボノボの社会行動はそれ自体が研究対象であるから,ボノボの攻撃交渉等が発生したら直ちに退避せよとの指導は,ボノボの観察を不可能にする点で研究活動と相容れないものである。本件事故が発生した頃は,ボノボの攻撃交渉が1時間 に1回程度の頻度で行われていたため,その度に退避行動を取ることになると,ボノボの研究・観察が成り立たない。原告らの主張は,被告Cに恣意的な義務を設定し,その違反を論ずるものであり,これを認めれば大学教育全体への萎縮効果は計り知れない。 被告Cは,原告Aに対し,現地でトラッカーの指示を理解するため, リンガラ語を学習しておくことを指示し,リンガラ語のテキストと音声データを案内した。同テキストは,初心者向けの平易なテキストであり,トラッカーに付き従って安全に本件森を歩くために必要な文法・単語を理解するという観点からは,少なくとも3 リンガラ語のテキストと音声データを案内した。同テキストは,初心者向けの平易なテキストであり,トラッカーに付き従って安全に本件森を歩くために必要な文法・単語を理解するという観点からは,少なくとも3日程度で学習が可能であり,同テキストには「戻れ」等の危険回避に関する単語も含まれていた。ま た,Dは,本件海外研究調査の前に,原告AとGに対して,用例集(甲63,丙22)を用いて約1時間程度の講習を行い,同講習の最後には,用例集には「気を付けろ」「戻れ」などの危険を知らせる単語が掲載されているため本件海外研究調査の前に必ず学習しておくよう指導した。したがって,被告Cは,原告Aに対し,リンガラ語を学んでおくよう指導 し,リンガラ語を学習する機会を十分に与えていた。 - 18 - 結果回避可能性がないこと原告Aとボノボがいる樹との距離が約13mという適当な距離であり,原告Aはボノボが飛び移る可能性のある樹冠がかからない場所に位置していたという本件事故当時の状況からすると,ボノボの攻撃交渉の発生時において原告Aの観察場所が安全な場所であったことに変わりはなく, かかる状況下においては,被告Cが原告Aに対し,原告らが主張する説明,指導を行っても,原告Aがトラッカーの指示なく単独で更なる退避行動を取ったとは考えられず,本件事故は避けることができなった。 ウ安全装置着用義務違反本件事故当時,被告Cの知る限り,研究者にヘルメットの着用を義務 付ける霊長類の調査チームは世界に存在せず,本件事故後ですら,被告Cが関係する調査チーム以外に研究者にヘルメットの着用を義務付ける調査チームは存在しない。本件事故当時の世界的な水準を超えて,被告Cにのみ研究者にヘルメットを着用させる義務を課すことはできない。 因果関 する調査チーム以外に研究者にヘルメットの着用を義務付ける調査チームは存在しない。本件事故当時の世界的な水準を超えて,被告Cにのみ研究者にヘルメットを着用させる義務を課すことはできない。 因果関係がないこと 本件事故は,原告Aの右肩部を中心として落木が衝突した事故である。 原告らの主張する損害は,原告Aの後遺障害を理由とするものであって,その後遺障害の原因は胸髄損傷という胸部への傷害であるところ,仮にヘルメットを着用していたとしても,これにより緩和できるのはせいぜい頭頂部や側頭部への外力であり,原告Aの後遺障害の原因である胸髄 損傷を防ぐことはできなかった。 エ被告Cの予見可能性被告Cに前記の各注意義務を課する前提として,結果発生に対する抽象的な危険又は不安感ではなく,具体的な危険についての予見可能性が必要とされる。 この点,本件事故が起こるまでの60年以上にわたる日本の霊長類調査 - 19 - の歴史の中で,落木により研究者が大怪我を負った事故例は報告されておらず,被告CやDもそのような危険に遭遇したことはなかった。原告らが主張する本件英国学生事故は,長さ30cmから40㎝,直径5㎝から6㎝程度の,水分を含んだ柔らかい木片が落下し,学生に当たって壊れたというものであって,生命・身体に重大な危険を及ぼすような事故ではなか った。 このように,被告Cにおいて,過去,長期にわたり重大な落木事故の経験がないことに鑑みると,本件事故については,その具体的危険の予見可能性がなく,原告らが主張する注意義務の前提を欠くというべきである。 ⑶ 被告C及び被告京都大学の使用者責任の有無 (原告らの主張)ア被告C及び被告京都大学とトラッカーの間の使用関係次の事実からすると,被告Cが の前提を欠くというべきである。 ⑶ 被告C及び被告京都大学の使用者責任の有無 (原告らの主張)ア被告C及び被告京都大学とトラッカーの間の使用関係次の事実からすると,被告Cがトラッカーを雇用し,その業務を直接指揮,監督しており,被告京都大学が実質的にトラッカーの雇用者であったというべきである。 ① トラッカーの直接の雇用者は,aボノボ研究委員会の代表者である被告C及びDであったこと。 ② トラッカーは,被告京都大学の施設である本件基地に属する使用人であるところ,1日の労働時間が8時間,日曜祝日を休日とし,1日当たりの賃金が3ドルから4ドルの労働条件で雇われている労働者であった こと。 ③ トラッカーの給与は,本件研究所の研究費と本件基地に滞在する研究者が支払う基地滞在費から支払われていたこと。 ④ トラッカーの作成したボノボ観察記録は,被告京都大学及び被告Cが保有していたこと。 ⑤ 被告らは,トラッカーは形式的にはコンゴ民主共和国高等教育大学科 - 20 - 学研究省生態森林研究所(CREF。以下「クレフ」という。)に雇われていたと主張するものの,これはコンゴ税務当局からaボノボ研究委員会にされたトラッカーの源泉徴収税の支払請求を免れるために考えられたものであり,クレフからはトラッカーがクレフの使用人であることを示す書類は一切発行されていないこと。 イトラッカーの原告Aに対する危険回避指示義務違反前記⑴の(原告らの主張)のア ウ因果関係の存在Lが,ボノボの観察時のルールに従い,平成27年7月21日午後2時53分頃にボノボの攻撃交渉が発生した時点で速やかに倒木から立ち上 がり,原告AをLのすぐ傍などのより安全な場所に移動させていれば,原告Aを落 察時のルールに従い,平成27年7月21日午後2時53分頃にボノボの攻撃交渉が発生した時点で速やかに倒木から立ち上 がり,原告AをLのすぐ傍などのより安全な場所に移動させていれば,原告Aを落木の危険に晒すことはなかった。また,どんなに遅くとも,同日午後2時56分頃にボノボがボツナの樹に飛び移り始めた時点で,Lが原告Aを速やかに自らの傍に引き寄せていれば,落木発生の際,原告Aを引っ張る,あるいは突き飛ばすことで原告Aを落木から守ることができたの であり,Lの原告Aに対する上記義務違反により本件事故が発生したというべきである。 落木は途中で大きく方向を変えていないことa 落木発生時,原告Aは,Lから北東へ2.5m離れた地点,Mは,Lから更に北東へ3.4m離れた地点,Kは,原告Aから南東へ5m 離れた地点におり,ソウの樹にいるボノボの行動観察をしていた(ソウの樹から近い順にM,L,原告A,K)。原告Aの左後ろの位置にボツナの樹があり,原告Aの上方にはソウ及びボツナの樹の樹冠又はボノボが飛び移ることができる程度の高木の樹冠があった。 ソウの樹でボノボの攻撃交渉が発生してから約3分後にソウの樹 からボツナの樹にボノボが飛び移った際に上方で枝が折れ,それが約 - 21 - 20mの高さから落下し,原告Aの頭から背中を直撃した。落木がツルに当たった場所と長さ約90㎝の落木が原告Aに当たった場所は1m程度の距離しかなく,落木が落下途中に大きく方向を変えたことはない。 b 本件現場見取図(丙15)によると,落木はボツナの樹冠で発生し た後,まずKのすぐ近くまで北東方向に飛び,Kから1~2m離れた場所にある低木に当たってから約90度左に向きを変えて本件事故の発生地点まで飛んだとされている。しかし,ボ はボツナの樹冠で発生し た後,まずKのすぐ近くまで北東方向に飛び,Kから1~2m離れた場所にある低木に当たってから約90度左に向きを変えて本件事故の発生地点まで飛んだとされている。しかし,ボノボが枝を蹴って落木が発生する状況を目視していたMが危ないと警告した相手はLであり,Kではなかったことからすると,落木はLの方向,すなわち, 本件事故の発生地点に向かって落下したといえる。実際に,Kは,本件現場検証の際,Dに対して,落木が自分の方に向かって飛んできたという証言や,危険だったので逃げたという証言をしておらず,本件現場検証を録画した動画によると,トラッカーは落木が落下の途中で大きく方向を変えたとの説明をしていない上,Dは上記動画撮影時以 外でそのような説明をトラッカーから聞いた旨を本件検証メモに記載していない。 本件現場見取図には,落木が原告Aから5m離れた低木に当たったとの記載がある。しかし,本件検証メモでは,落木が低木(本件検証メモでは「ツル」と記載されている。)に当たった場所は,破線で「落 木がツルに当たりはねた辺り」とおおよその範囲が表示されているのみで,Dは,その理由として落木が当たった場所を点で把握することが困難であったからおおよその範囲を表示したと述べている。このように,本件現場検証で落木が当たった低木の場所が特定できなかったにもかかわらず,本件事故から4年後のQによる検証でその低木を特 定できるとは考え難く,本件現場見取図の記載は信用し難い。 - 22 - また,Dは,本件現場検証では,関係者間の距離や樹と樹の間などの距離を巻き尺を使って計測し,本件検証メモに表示しているにもかかわらず,落木が当たったとされる低木の場所と本件事故の発生地点との間の距離を計測していないが, 証では,関係者間の距離や樹と樹の間などの距離を巻き尺を使って計測し,本件検証メモに表示しているにもかかわらず,落木が当たったとされる低木の場所と本件事故の発生地点との間の距離を計測していないが,落木が原告Aを追いかけるように飛んだことが事実であれば,その重要性からして,Dが低木と本件事 故の発生地点の間の距離を測らないことは考えられない。 c 落木が低木に当たった場所は,本件現場検証を撮影した動画(甲59の2)において,Lとローカリテが,もしそこにツル(低木)がなかったら,原告Aはここで死んでいたであろう旨を述べて上を指していることからすると,本件事故の発生地点のほぼ真上(本件事故の発 生地点から1m程度の距離)であったというべきである原告Aの観察位置の危険性本件事故当時,原告Aがボノボを観察していた位置は,落木発生時から落木が当たり得る場所であったから,落木が落下方向を変えたことで被告らの責任がなくなることはない。 本件事故の際,ボノボがソウの樹から飛び移った場所は,原告Aの3~4m右後ろのボツナの樹冠であり,落木は長さ4m37㎝もあったことからすると,そのボツナの樹冠の下にある中木層や低木層に落木が当たって落下位置が変わることは当然あり得ることである。落木が発生した直後,それに気付いたMがLと原告Aに大声で叫んで危険を伝えてい るのは,原告Aの観察位置が,もともと落木が当たる危険性のある場所であったからであり,原告Aの観察位置は,落木が低木に当たって方向を変えたか否かに関わらず,もともと落木が当たる危険がある場所であった。 そして,Lが落下してきた落木を見て原告Aが危険な場所にいると判 断して退避指示を出したことからすると,その時点で原告Aの観察位置 - 23 - は, 危険がある場所であった。 そして,Lが落下してきた落木を見て原告Aが危険な場所にいると判 断して退避指示を出したことからすると,その時点で原告Aの観察位置 - 23 - は,その落木が当たる危険がある場所であったのであり,原告Aがそこからわずか1m逃げたところで落木に当たったことからすると,本件事故は,原告Aに退避時間がほとんどなかったために起きたものであって,Lの退避指示の遅れが本件事故の原因である。 (被告Cの主張) ア被告Cとトラッカーの間の使用関係トラッカーは,世界中のあらゆる研究者よりも本件森を知り尽くした熟練者である。被告Cさえトラッカーの指示に従って自身の安全を確保するしかないのであるから,被告Cがトラッカーを指揮監督する関係にはない。また,トラッカーは,被告Cやaボノボ研究委員会ではなく, クレフに雇用されており,トラッカーの解雇や労働条件の決定について,被告CやDが事実上関与することはあっても,正式な決定又は実行はクレフが行うことからも,被告Cがトラッカーを指揮監督する関係にないことは明らかである。 トラッカーに付き従うことは,本件森でボノボの観察が開始されて以 来踏襲されてきた安全対策であり,これまで60年以上,安全管理不足により重大な事故が発生したことはなかった。原告Aに付いていたトラッカーも,実務経験豊富な職歴の長い者ばかりであり(L16年,M8年,K3年),これまで落木等の事故に遭遇したことはなかった。したがって,被告Cにはトラッカーの選任・監督についての過失もない。 イトラッカーの原告Aに対する危険回避指示義務違反トラッカーには原告が主張する原告Aに対しより安全な場所に退避するよう指示する義務はなかった。 トラッカーのすぐ傍に退避 い。 イトラッカーの原告Aに対する危険回避指示義務違反トラッカーには原告が主張する原告Aに対しより安全な場所に退避するよう指示する義務はなかった。 トラッカーのすぐ傍に退避することについてボノボの攻撃交渉が発生するたびに研究者とトラッカーが至近距離に いなければならないとすると,観察に支障をきたすことが明らかである。 - 24 - ボノボの攻撃交渉それ自体が観察対象であるから,ボノボから適切な距離を取り,安全な場所でボノボの動きを注視しながら観察するのであれば,観察を継続することには何ら問題はない。したがって,トラッカーには,ボノボの攻撃交渉が発生するたびに研究者をトラッカーのすぐ傍に移動するよう指示する注意義務はない。 頭上に樹冠がかかっていない落木発生の少ない場所に退避することについて本件事故当時の原告Aの観察場所は,頭上に樹冠がかかっておらず,ボノボが頭上で落木を発生させる危険のない場所であった。 ボノボが攻撃交渉で駆け回る可能性のある範囲外の場所に退避する ことについて攻撃交渉でボノボが駆け回る可能性のある範囲は,少なくとも攻撃交渉の発生場所から半径50m程度であり,ボノボが樹上を移動する速度は,1秒間で約5mに及ぶことに加え,本件森では,低木が生い茂っており,人間は藪を掻き分けながら移動しなければならず,直線的に走る ことができないことからすると,原告が主張する退避行動をとることは物理的に不可能である。また,本件事故現場に最も近い観察路であるロクリ6でも,本件事故当日の観察経路によると,本件事故現場から約50m離れている上,ロクリ6は走って逃げることができるような観察路ではない。また,ロクリ6は,地図上の最短距離では本件事故現場から 約20 本件事故当日の観察経路によると,本件事故現場から約50m離れている上,ロクリ6は走って逃げることができるような観察路ではない。また,ロクリ6は,地図上の最短距離では本件事故現場から 約20m離れており,そこまで離れるとボノボの観察自体が困難となる。 仮にボノボから約50m離れた場所に移動することができるとしても,本件森には中低木が生い茂り,それらの枝や葉が視界を遮るから,50m先のボノボが観察できる場所を探すことは困難であることに加え,本件事故当時は,ボノボの攻撃交渉が1時間に1回程度の頻度で発生して いたため,そのたびに退避行動をとることになると,ボノボの研究・観 - 25 - 察が成り立たない。 また,原告が主張する退避行動をとると,必然的に大木の樹冠の下などの落木の危険のある場所を通ることになり危険である上,ボノボの攻撃交渉が発生した際,より安全な場所を探しながら移動するためにボノボから目を離すことにもつながり,ボノボの行方を見失うことで更なる 危険を招来する恐れがある。したがって,ボノボの攻撃交渉の際は,やみくもにその場から動かず,トラッカーからの指示に従うことが最良の安全策である。 トラッカーに注意義務違反がないことトラッカーは,本件事故当時,樹上で攻撃交渉が起こった時には,ボ ノボがどの方向へ駆け出すか分からないことを考慮し,上方に枯れ木やツルに引っかかっている枝がないかを確認し,ボノボから約12~15mの距離をとって,ソウ及びボツナの樹冠がかからない場所で原告Aに観察を続けさせていた。また,トラッカーは,本件事故当時,樹上で枝が折れた音がした時には,直ちに危険を察知し,リンガラ語で原告Aに 対し大声で退避を指示し,原告Aはこれを聞いて直ちに退避行動をとることがで ていた。また,トラッカーは,本件事故当時,樹上で枝が折れた音がした時には,直ちに危険を察知し,リンガラ語で原告Aに 対し大声で退避を指示し,原告Aはこれを聞いて直ちに退避行動をとることができていた。これらの事実からすると,トラッカーに職務上の義務違反はない。 予見可能性,結果回避可能性がないことa 本件事故の状況は,次のとおりである。 平成27年7月21日午後2時15分頃,L,M,K,原告Aは,本件検証メモ(甲7(5頁))記載のとおりの位置関係でソウの樹上にいるボノボの観察を開始した。具体的には,原告Aは,ソウの樹から約13m離れた地点に立ち,ソウの樹から約7m離れた場所にMが位置しており,原告Aの観察位置は,ソウの樹冠及びボツナの樹冠から 外れており,上方から落木が発生する場所ではなかった。同日午後2 - 26 - 時53分頃,ボノボがソウの樹で攻撃交渉を始め,同日午後2時56分頃,攻撃交渉に負けたボノボが原告AとKの間のややK寄りの樹上を駆け抜けるようにして通り抜け,原告Aの背後約6mにあるボツナの樹に移動した際,原告Aから見て南の位置にあるボツナの樹の高さ約20mのところで落木が発生し,落木の危険を察知したMが,原告 AとLに大声で叫び,退避指示を出した。Lも原告Aに退避指示を出し,原告Aは,直ちに自己の前方にいたLに付き従って,ボツナの樹から離れる方向に駆け出したが,落木は,斜めに落下して途中約10mの高さで原告Aから見て東に位置する低木に当たって4片に割れ,そのうち1片が方向を変えて原告Aを追いかけるように約5m跳ね飛 ばされ,原告Aを直撃した。 b このように,本件事故は,安全な場所で観察していた原告Aにトラッカーが退避を指示し,原告Aがその指示を受けて退避 を変えて原告Aを追いかけるように約5m跳ね飛 ばされ,原告Aを直撃した。 b このように,本件事故は,安全な場所で観察していた原告Aにトラッカーが退避を指示し,原告Aがその指示を受けて退避行動をとっていたにもかかわらず,落木が落下途中に大きく方向を変え,退避していた原告Aを追いかけるようにして当たったという予期できない特異 な経過を辿った事故であり,その発生を予見することや回避することは不可能であった。 (被告京都大学の主張)ア被告京都大学とトラッカーの間の使用関係トラッカーは,世界中のあらゆる研究者よりも本件森を知り尽くした熟 練者である。被告Cさえトラッカーの指示に従って自身の安全を確保するしかないのであるから,被告Cがトラッカーを指揮監督する関係にはない。 被告Cには,トラッカーの選任・監督についての過失もない。また,被告京都大学とトラッカーとの間には,雇用契約やその他の契約関係はない。 したがって,被告京都大学は,トラッカーに対する使用者としての義務を 負わない。 - 27 - イトラッカーの原告Aに対する危険回避指示義務違反前記⑴の(被告京都大学の主張)のア ⑷ 原告Aの損害(原告らの主張)原告Aは,本件事故により,次のとおり損害を被った。 ア治療費等 93万2771円① 京都大学医学部附属病院入院費 21万8401円通院費 2910円② 兵庫県立リハビリテーション中央病院 入院費 67万2550円通院費 3万2970円③ Rクリニック診断書料 3240円④ Sクリニック 診 入院費 67万2550円通院費 3万2970円③ Rクリニック診断書料 3240円④ Sクリニック 診断書料 2700円イ兵庫県立総合リハビリテーションセンター障害者支援施設の費用 6万2052円第4胸椎以下完全麻痺の重度の後遺症を負った原告Aが日常生活動作訓練のために入所した施設であり,訓練の必要性が認められ,本件事故と相 当因果関係のある費用である。原告Aの自己負担額から食費(8万2500円)を控除した金額が損害額である。 ウ入院付添費 145万7500円① フランス HIAPERCY病院における付添費 45万円原告B及び原告Aの母が平成27年7月25日から同年8月8日まで の15日間付き添った。現地での滞在費を要することなどを考慮すると, - 28 - 同期間の付添費は1人当たり日額1万5000円が相当である。 1万5000円×2人×15日=45万円② 京都大学医学部附属病院における付添費 37万7000円原告Bが40日間,原告Aの母が18日間付き添った。同期間の付添費は1人当たり日額6500円が相当である。 6500円×40日+6500円×18日=37万7000円③ 兵庫県立リハビリテーション中央病院における付添費 63万0500円原告Bが95日間,原告Aの母が2日間付き添った。同期間の付添費は1人当たり日額6500円が相当である。 6500円×95日+6500円×2日=63万0500円エ入院雑費 67万0500円1500円× 同期間の付添費は1人当たり日額6500円が相当である。 6500円×95日+6500円×2日=63万0500円エ入院雑費 67万0500円1500円×(入院日数294日+障害者支援施設入所日数153日)=67万0500円オ傷害慰謝料 500万円 原告Aは,本件事故により本件傷害を負った後,24時間以上もの間何の治療も受けられず,命の危機にさらされ,同月29日,ようやく胸椎後方固定術を受けることができた。原告Aの治療には合計4回の手術を要し,症状固定まで294日もの入院治療を要した。以上を考慮すると,相当な傷害慰謝料は500万円を下らない。 カ後遺障害慰謝料 4000万円原告Aの後遺障害は,自動車損害賠償法施行令の別表1第1級2号に相当する。 キ逸失利益 1億0589万2982円607万7700円(平成29年男女・大学院卒・全年齢平均)×1× 17.4232(42年のライプニッツ係数)=1億0589万2982 - 29 - 円(小数点以下切り捨て。以下同じ。)ク将来介護費 6437万5780円原告Aは,第4胸椎以下完全麻痺,膀胱直腸障害の後遺障害が残存し,日常生活を行うため将来にわたり介護を要する状態である。現在は原告Bが原告Aの介護を行っているが,原告Bが67歳になって以降は職業付添 人による介護が必要である。したがって,原告Aが自宅に戻った平成28年10月11日から原告Bが67歳になるまでの39年間は日額8000円,それ以降,原告Aが平均余命87歳となるまでの23年間は日額2万円が必要となる。 8000円×365日×17.0170+2万円×365日×(19. 歳になるまでの39年間は日額8000円,それ以降,原告Aが平均余命87歳となるまでの23年間は日額2万円が必要となる。 8000円×365日×17.0170+2万円×365日×(19. 0288-17.0170)=6437万5780円ケ将来の医療費 146万7862円(泌尿器科への通院1回当たり1万2572円×年6回+整形外科への通院1年に1回1707円)×原告Aの平均余命までの62年のライプニッツ係数19.0288=146万7862円 コ将来の通院交通費合計10万4029円原告Aが平成31年2月に転居予定の京都市左京区の自宅からの通院費は以下のとおりである。 ① Sクリニックガソリン代15円/㎞×往復28㎞+駐車場代500円=920円 ② Rクリニックガソリン代15円/㎞×往復24㎞+駐車場代500円=860円③ 年間通院費920円×年6回+860円(年1回)=6380円④ 平成31年から原告Aの平均余命までの59年間の通院交通費 6380円×(19.0288-2.7232)=10万4029円 - 30 - サ自動車購入費等 1239万6766円① 自動車購入費 1179万1966円原告Aは,本件事故の後遺症により外出が困難となったため,平成28年11月,普通乗用自動車を購入し,原告Aが運転できるように改造した。 自動車本体234万2506円+改造費77万5000円=311万7506円車両は,今後,原告Aの平均余命までの62年間,耐用年数6年ごとに買い替える必要がある。 311万7506円×(1+0.7462+0.5568+0.41 506円車両は,今後,原告Aの平均余命までの62年間,耐用年数6年ごとに買い替える必要がある。 311万7506円×(1+0.7462+0.5568+0.41 55+0.3100+0.2313+0.1726+0.1288+0. 0961+0.0717+0.0535)=1179万1966円② 駐車場代 60万4800円2万1600円×28か月(原告Aが平成30年2月に転居するまでの期間)=60万4800円 シ手動運転装置教習代 9万6000円原告Aは,足を使わず,手のみで運転する上記自動車の運転教習代として9万6000円を支出した。 ス車椅子購入費 839万7622円原告Aは,後遺障害のため,日常生活には車椅子が不可欠であり,平均 余命までの62年間,耐用年数5年ごとにこれを買い替える必要がある。 車椅子は,屋内用手動車椅子(43万5141円)1台,屋外用電動車椅子(102万7400円)1台,屋外用手動車椅子(43万5141円)1台の合計3台が必要となる。 (43万5141円+102万7400円+43万5141円)×(1 +0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.29 - 31 - 53+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0. 0872+0.0683+0.0535)=839万7622円セ介護用ベッド購入費 45万5501円原告Aは,後遺障害のため介護用ベッド(15万4000円)が必要であり,平均余命までの62年間,耐用年数8年ごとにこれを買い替える必 要がある。 15万4000円×(1+0.6768+0.4581+0. ため介護用ベッド(15万4000円)が必要であり,平均余命までの62年間,耐用年数8年ごとにこれを買い替える必 要がある。 15万4000円×(1+0.6768+0.4581+0.3100+0.2098+0.1420+0.0961+0.0650)=45万5501円ソ体位変換器購入費 4万0171円 原告Aは,介助者が原告Aの体位を変えるのを補助する体位変換器(9078円)が必要であり,平均余命までの62年間,耐用年数5年ごとにこれを買い替える必要がある。 9078円×(1+0.7835+0.6139+0.4810+0. 3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+ 0.1112+0.0872+0.0683+0.0535)=4万0171円タ将来の防水シーツ等購入費 115万5371円① 防水シーツ年間1780円② 吸水ナプキン年間4万3654円 ③ 大人用おむつ年間3397円④ 尿取りパッド年間2250円⑤ ビニール手袋年間9636円⑥ ①ないし⑤の原告Aの平均余命62年間の費用の合計6万0717円×19.0288=115万5371円 チその他器具備品購入費 1万6615円 - 32 - ① 補高便座 1万0577円② 縁台 3845円③ 風呂マット 2193円ツ損益相殺(保険金,障害年金) 320万3894円① 保険金 44万3041円 ② 障害年金 276万0853円テ弁護士費用 2393万円トアないしテの合計額 2億6324万7628 894円① 保険金 44万3041円 ② 障害年金 276万0853円テ弁護士費用 2393万円トアないしテの合計額 2億6324万7628円(被告京都大学の主張)不知又は否認する。 (被告Cの主張)否認又は争う。 ⑸ 原告Bの損害(原告らの主張)ア慰謝料 1000万円 原告Bは,本件事故により原告Aが後遺症を負ったことにより,原告Aと趣味の登山をすることができなくなった上,原告Aには出産時に高血圧により脳出血を起こす危険があり,出産したとしても親子で遊びに出掛けることはできなくなった。また,原告Bが生涯にわたり原告Aの介護を行わなければならず,自己の仕事上のキャリアアップ等が困難になったこと, 周囲から心無い言葉を聞かされることで多大な苦痛を受けている。これらの事情を考慮すると,原告Bの慰謝料は1000万円を下らない。 イ弁護士費用 100万円ウ上記ア及びイの合計額 1100万円(被告京都大学の主張) 不知又は否認する。 - 33 - (被告Cの主張)否認又は争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実本件においては,被告京都大学の安全配慮義務違反の有無及び被告らの不法 行為又は使用者責任の有無が争われているところ,その前提として,本件事故についての予見可能性,結果回避可能性が争われていることから,本件事案に鑑み,まず,その点について判断する。 前記前提となる事実,証拠(甲7,59の2,丙14,16)及び弁論の全趣旨によると次の事実が認められる。 ⑴ 原告A(平成▲年▲月▲日生)は,平成27年 まず,その点について判断する。 前記前提となる事実,証拠(甲7,59の2,丙14,16)及び弁論の全趣旨によると次の事実が認められる。 ⑴ 原告A(平成▲年▲月▲日生)は,平成27年4月から京都大学大学院理学研究科修士課程1回生として,本件研究所を研究の拠点として学んでいた者である。 原告Aは,平成26年5月30日に原告B(昭和▲年▲月▲日生)と婚姻した。 ⑵ 被告京都大学は,京都大学理学研究科を管理運営している国立大学法人である。 被告Cは,被告京都大学に雇用されている本件研究所の教授であり,平成27年度の原告Aの指導教員であった者である。被告Cは,コンゴ民主共和国でのフィールドワークを中心に,ボノボの性と生活史の研究を長年 行っており,ボノボの生息するコンゴの森の状況及びボノボの行動について,世界的に最も熟知していた人物の一人であった。 Dは,平成27年度の本件研究所の長期野外研究プロジェクトの研究員であった者である。 ⑶ 原告Aが海外研究を行うまでの経緯 ア原告Aは,平成27年3月,京都大学を卒業し,同年4月から京都大学 - 34 - 大学院理学研究科修士課程に入学し,本件研究所に所属することとなった。 原告Aは,京都大学の霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院(PWS)にも所属していた。原告Aの本件研究所における研究テーマは,「野生ボノボの雄の発達に伴う社会関係の変化」であった。 イ原告Aは,平成26年5月(大学4回生時),被告Cの大学1回生向けの ゼミに参加して,宮城県の金華山島において野生のニホンザル見学をしたことがあり,同年12月及び平成27年2月には,NPO法人主催の登山道や道路から双眼鏡でニホンザルの数を数える個体調査 向けの ゼミに参加して,宮城県の金華山島において野生のニホンザル見学をしたことがあり,同年12月及び平成27年2月には,NPO法人主催の登山道や道路から双眼鏡でニホンザルの数を数える個体調査に参加したことがあった。また,原告Aは,霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院が必須科目として指定するニホンザルの観察実習として, 平成27年4月に宮崎県の幸島での観察実習,同年5月には,鹿児島県の屋久島での観察実習に参加した。 ウ原告Aは,本件研究所における研究の一環である予備調査として,本件海外研究調査を行うことになった。予備調査とは,調査方法の習得や研究テーマの確定を目的とした調査である。 宿泊地コンゴ民主共和国赤道州a村の基地(本件基地)日程平成27年7月3日から同年9月24日まで(ただし,原告Aは本件事故により同年7月21日に中断した。)原告Aの調査実施日同年7月3~6日,8~13日,15~18日,20日,21日 参加者原告A,被告C,社会進化研究室修士課程2回生のF,同修士課程1回生のG,学外から同行したビデオカメラマンのHエ本件海外研究調査に先立ち,被告Cは,平成27年4月2日,原告A及びGに対し,リンガラ語の学習に関する資料及びリンガラ語の基礎テキストが掲載されているウェブサイトのURLが記載されたメールを送信し た。Dは,同年6月19日,同人が作成した「aのリンガラ語用例集(2 - 35 - 015年6月,D)」を使用して,原告A及びGに対し,リンガラ語の講習を行った。 オ平成27年6月15日,イギリスのセントアンドリュー大学の学生であるIが,前記a村付近の森(本件森)においてボノボを観察していた際に,7~8mほどの高さの樹 対し,リンガラ語の講習を行った。 オ平成27年6月15日,イギリスのセントアンドリュー大学の学生であるIが,前記a村付近の森(本件森)においてボノボを観察していた際に,7~8mほどの高さの樹上からボノボが落した枯れ枝(長さ30~40㎝, 直径5~6㎝)が右目に当たり怪我をする事故(本件英国学生事故)が発生した。 原告Aは,本件英国学生事故後に被告Cから伊達眼鏡を買っていった方がよいとの助言をされたことから,花粉症対策で販売されている伊達眼鏡を購入して本件海外研究調査の際に持参した。 ⑷ フィールドワーク実習の概要等ア研究対象本件海外研究調査の目的はボノボの観察であり,「E1集団」と名付けられたボノボの集団及び「Pe集団」と名付けられたボノボの集団が観察対象であった。被告Cは,H及びFと共にE1集団の観察を行い,原告A及 びGはPe集団を観察することになったものの,原告Aは,平成27年7月9日,13日及び20日の3日間は被告Cらと共に同じボノボの集団(E1集団)を観察した。 ボノボの集団には「Pw集団」と名付けられた集団もあり,平成27年7月当時の本件森のボノボは,大体が集団の全個体が毎日確認される大き な遊動パーティーを作っており,Pe集団とPw集団の出会いも頻繁であった。 イフィールドワークの方法ボノボの観察は,1集団につき最大3名までの調査者という規則で行われていた。本件海外研究調査におけるフィールドワークは,「トラッカー」 と呼ばれる者を伴って行われていた。トラッカーは,a村の中でも特に本 - 36 - 件森に詳しいとされる者8~10名で構成されていた。トラッカーは,本件森を熟知し,その危険性を理解し,危険を回避する術をわきまえており,そ ラッカーは,a村の中でも特に本 - 36 - 件森に詳しいとされる者8~10名で構成されていた。トラッカーは,本件森を熟知し,その危険性を理解し,危険を回避する術をわきまえており,その視力や聴力は,日本人とは比較にならないほど優れていた。そのため,研究者の安全管理のために,現地調査ではトラッカーを原則2名,最低でも1名同行させるルールになっていた。トラッカーは,研究者のフィール ドワークに同行する場合は,研究者の安全確保を第一の職務としており,研究者が本件基地に不在の場合でも,午前と午後の2交代制でボノボの各集団の観察を行い,ボノボの行動を記録することで,研究者の調査を補助していた。トラッカーは,リンガラ語を使用していた。 ウ本件森の様子 本件森は,ソウの樹,ボツナの樹と呼ばれる樹木等が自生するジャングルであるが,木や藪を切り人間が歩きやすいように手入れされた観察路が複数開設されていた。そのうちのロクリ6は,本件事故現場に最も近い観察路であり,本件事故現場から最短距離で約20m,本件事故当日,原告Aらがロクリ6から本件事故現場まで歩いた経路は約50mであった。 ⑸ 本件事故発生の状況等ア本件事故当日の調査活動原告Aは,平成27年7月21日午前4時40分頃,トラッカー2名(J,K)と共にPe集団の観察のために本件基地を出発した。なお,Gは,同日,体調を崩していたため,調査には同行しなかった。 原告Aは,同日午前6時10分頃,Pe集団のもとに到着し,ボノボの行動観察を開始した。 同日午前11時42分頃,トラッカーのL及びMが原告Aに合流したことでJが仕事を終了し,原告A及び3名のトラッカー(L,M,K)がボノボの観察を継続した。 イ本件事故 観察を開始した。 同日午前11時42分頃,トラッカーのL及びMが原告Aに合流したことでJが仕事を終了し,原告A及び3名のトラッカー(L,M,K)がボノボの観察を継続した。 イ本件事故の発生 - 37 - 平成27年7月21日午後2時51分頃,ボノボらは地面を移動してきてソウの樹に登って果実を採食し始めたが,同日午後2時53分頃から立て続けに攻撃交渉が発生した。すなわち,同日午後2時53分頃,Turkey(Pe集団の雄)がJane(Pw集団の雌)と交尾した後,Baba(Pw集団の雄)がJane に交尾を求めると,Turkey がBaba を威嚇, 攻撃した。同日午後2時54分頃,Turkey ,Kabo(Pe集団の雌),Deko(Pw集団の雌),Bokuta(Pe集団の雌),Pao(Pe集団の雌)が1頭の雄のボノボを威嚇,攻撃した。それに続いて,Malusu(Pe集団の雄)がIkura(Pe集団の雄)を威嚇,攻撃した。同日午後2時56分頃,Hide(Pe集団の雌),Saku(Pe集団の雌),Marie(Pe集団の 雌),Pao,Deko,Kabo 及び1頭の雌のボノボが,Terry(Pw集団の雄)と思われるボノボを威嚇,攻撃した。これらのボノボが地上から約20mの高さで,ソウの樹から南側のボツナの樹に飛び移った際,ボツナの樹で落木が発生した。 (以上につき,甲7) 落木発生当時,原告Aは,ソウの樹の幹から南西方向へ約13mの位置におり,Lは,原告Aから北東へ約2.5m離れた地点,Mは,Lから更に北東へ約3.4m離れた地点,Kは,原告Aから南東へ約5m離れた地点におり,原告A,L及びMは,ソウの樹の幹からほぼ直線に並んでいた(ソウの樹から近い順にM,L,原告A)。原告Aか Mは,Lから更に北東へ約3.4m離れた地点,Kは,原告Aから南東へ約5m離れた地点におり,原告A,L及びMは,ソウの樹の幹からほぼ直線に並んでいた(ソウの樹から近い順にM,L,原告A)。原告Aから南西約6 mの位置にボツナの樹の幹があった。Lは,倒木に座っていた。 (以上につき,甲7) ボツナの樹の上で枝が折れたことに気付いたMが,「L,気をつけろ,枝が落ちてくるぞ。」とLに向かって言ったが,その時点で,落木は途中まで落ちてきていたため,Lが原告Aの元へ行き,原告Aを引っ張って Lが元いた場所へ戻ることはできなかった。原告Aは,Lがいる方向へ - 38 - 逃げてきたため,Lは,原告Aに対して「逃げろ,逃げろ,戻れ」と言った。 (以上につき,甲7,59の2,丙14,16) 落木は,発生地点から東の方向に斜めに落下し,地上から約10mの高さで原告Aの東側に位置する低木に当たって4片に割れ,そのうちの 一つ(長さ約90㎝,直径約16㎝,外周約45㎝,重さ約10.8㎏)が方向を変えて落下し,Lがいる方向へ逃げる途中であった原告Aを直撃した。 ⑹ 本件事故後の検証作業アDは,平成27年8月3日,本件事故の状況について本件事故現場に おいてトラッカー(L,M,K)に事情聴取(本件現場検証)を行い,それをもとに「20150721事故の検証メモ(D,2015年8月3日)」(本件検証メモ)を作成した。検証作業には,上記トラッカーらのほかにトラッカーのN,ヤイェンゲ集落のローカリテとその息子及びOが同行した。Oは,Dがトラッカーらに事情聴取を行っている様子の 一部をビデオ撮影した。 Dが本件事故現場を現場検証した際,ボツナの樹は,地面からは葉に隠れて,特に上の方の 息子及びOが同行した。Oは,Dがトラッカーらに事情聴取を行っている様子の 一部をビデオ撮影した。 Dが本件事故現場を現場検証した際,ボツナの樹は,地面からは葉に隠れて,特に上の方の枝は見えにくく,比較的水平に伸びる枝に比して,上方へ伸びる枝の中に枯れた枝や幹があったかどうか,目視ですぐに確認するのは難しい状態であった。 Dは,本件現場検証において,本件事故発生当時の原告A及びトラッカーらの位置について,各自の位置取りは観察時の典型的な形であり,トラッカーが原告Aの安全と観察を適切に支持していた,原告Aが最初に立っていた場所から動かなかったら,落木の直撃は免れたかもしれない,枯れ枝が高いところから不意に落ち,しかも途中で方向が変わった ので,落下場所を察知する余裕はなく,経験豊富で森に慣れた調査者で - 39 - あっても,同じ状況であれば同様に負傷していた可能性が高いと考えた。 (以上につき,甲7)イ本件事故後,Qは,被告Cに依頼され,平成31年4月4日,Lとともに本件事故現場に赴き,Lの説明を受けながら本件事故当時の原告A,トラッカーら,ソウの樹及びボツナの樹の樹冠の位置関係,落木が低木に当 たった場所や落木の落下地点を記載した見取図(本件現場見取図)を作成し,本件事故現場の写真を撮影した。 2 本件事故の予見可能性,結果回避可能性について⑴ 前記1認定の事実関係によると,本件事故は,ボノボの樹上での移動に伴い,原告Aの背後にあったボツナの樹の地上約20mの高さにおいて発生し た落木が,発生地点から東方向に斜めに落下し,さらに,地上約10mの高さで原告Aの東側の低木に当たって4片に割れ,そのうちの一つ(長さ約90㎝,直径約16㎝,外周約45㎝,重さ約10.8㎏)が た落木が,発生地点から東方向に斜めに落下し,さらに,地上約10mの高さで原告Aの東側の低木に当たって4片に割れ,そのうちの一つ(長さ約90㎝,直径約16㎝,外周約45㎝,重さ約10.8㎏)が方向を変えて落下し,Lの方向へ逃げる途中であった原告Aを直撃したことが認められる。 本件森は,高木,中木,低木の木々が生い茂っているジャングルであり(丙 7,9,11~14,17),地上約20mの高さの落木発生地点や落木の落下軌道を正確に把握することは困難であったと認められる上,本件事故においては落木が斜めに落下し,さらに地上に到達するまでの間に低木に当たって落下の方向を変えたこと,落木が発生してから低木に当たるまで,及び低木に当たってから原告Aを直撃するまでの時間はごく短時間であったと認め られることからすると,トラッカーが事前に落木の落下地点を予測し,かつ,本件事故を回避するための措置をとることは不可能であったと言わざるを得ず,本件事故の発生について予見可能性や結果回避可能性があったと認めるに足りる証拠はない。 ⑵ 原告らは,原告Aはもともと落木が当たる危険性のある場所にいたため, 落木が落下方向を変えたことで被告らの責任がなくなることはない旨主張す - 40 - る。 しかしながら,原告Aの観察位置の上方にソウの樹及びボツナの樹の樹冠等のボノボが飛び移ることのできる植物があったなど,原告Aの観察場所がもともと落木の当たる危険性のある場所であったことを認めるに足りる証拠はなく,むしろ,本件事故現場を現場検証したDは,本件事故発生当時の原 告A及びトラッカーらの位置について,各自の位置取りは観察時の典型的な形であり,トラッカーが原告Aの安全と観察を適切に支持していた,原告Aが最初に立っていた場所から動 は,本件事故発生当時の原 告A及びトラッカーらの位置について,各自の位置取りは観察時の典型的な形であり,トラッカーが原告Aの安全と観察を適切に支持していた,原告Aが最初に立っていた場所から動かなかったら,落木の直撃は免れたかもしれないとしていることを考慮すると,原告Aの観察場所がもともと落木の当たる危険性のある場所であったということはできない。したがって,原告らの 上記主張は採用することができない。 ⑶ 原告らは,本件事故において落木が落下途中に方向を変えたことはない旨主張し,その根拠として,①ボノボが枝を蹴って落木が発生する状況を目視していたMが危ないと警告した相手はLであり,Kではなかったことからすると,落木はLの方向,すなわち,本件事故の発生地点に向かって落下した といえること,②本件現場検証を撮影した動画によると,トラッカーは落木が落下の途中で大きく方向を変えたとの説明をしていないこと,③Dは,上記動画撮影時以外に落木が落下の途中で大きく方向を変えたとの説明をトラッカーから聞いた旨を本件検証メモに記載していないこと,④本件現場見取図には,落木が原告Aから5m離れた低木に当たったとの記載があるが,本 件現場検証で落木が当たった低木の場所が特定できなかったにもかかわらず,本件事故から4年後のQによる検証でその低木を特定できるとは考え難く,本件現場見取図の記載は信用し難いこと,⑤Dは,本件現場検証では,関係者間の距離や樹と樹の間などの距離を巻き尺を使って計測し,本件検証メモに表示しているにもかかわらず,落木が当たったとされる低木の場所と本件 事故の発生地点との間の距離を計測していないが,落木が原告Aを追いかけ - 41 - るように飛んだことが事実であれば,その重要性からして,Dが低木と本 たとされる低木の場所と本件 事故の発生地点との間の距離を計測していないが,落木が原告Aを追いかけ - 41 - るように飛んだことが事実であれば,その重要性からして,Dが低木と本件事故の発生地点の間の距離を測らないことは考えられないこと,⑥本件現場検証を撮影した動画(甲59の2)において,Lとローカリテが,もしそこにツル(低木)がなかったら原告Aはここで死んでいたであろう旨を述べて上を指していることからすると,落木が低木に当たった場所は,本件事故の 発生地点のほぼ真上(本件事故の発生地点から1m程度の距離)であったことを指摘する。 ⑷ア前記⑶①についてMがLに落木への注意を促した際,Mが落木の落下地点を予測していたかは明らかではない上,原告Aの最も近くにいたLに対し,原告Aの安全 確保を促す意図で落木の危険を知らせたものとみることが可能であることからすると,落木に気付いたMがLに向かって落木への注意を促したことをもって落木が当初から本件事故の発生地点に向かって落下していたと認めることはできない。 イ前記⑶②について 確かに,本件現場検証を録画した動画(丙7,9,11~14,16)において,トラッカーは,落木が落下の途中で大きく方向を変えた旨の説明をしていないことが認められる。しかしながら,Dは,上記動画は約50分間の本件現場検証の一部を撮影したものにすぎず,本件現場検証の初めに時間をかけて落木が落下途中に方向を変えた旨の説明をトラッカー から聞いていた旨証言するところ(証人D(18頁)),上記動画は最長で約1分30秒であり,その撮影時間からしても本件現場検証の一部のみを撮影したものであると認められる上,本件検証メモの内容に照らしても,Dはトラッカーから落木が落下途中で大 8頁)),上記動画は最長で約1分30秒であり,その撮影時間からしても本件現場検証の一部のみを撮影したものであると認められる上,本件検証メモの内容に照らしても,Dはトラッカーから落木が落下途中で大きく方向を変えたとの説明を受けていたと認められることからすると,トラッカーが本件現場検証を撮影 した動画において落木が落下途中で大きく方向を変えたとの説明をして - 42 - いないことをもって,落木が当初から本件事故の発生地点に向かって落下していたと認めることはできない。 ウ前記⑶③について確かに,Dは,本件現場検証の動画撮影時以外に落木が落下途中で大きく方向を変えたとの説明をトラッカーから聞いた旨を本件検証メモに記 載していない。しかしながら,本件検証メモは,Dがトラッカーから本件事故の状況の説明を受けて作成したものであると認められるところ(甲7,証人D),同メモには,「枯れ枝は,落ち始めてからツルに当たって落下するまでに,4片に割れたようだ。4片の落木の内の一つが,少し角度をつけてAの右側から落下し,頭から背中にかけて,体の右側から後ろ側に直 撃したと思われる。」(3頁),「ボノボが樹上で激しく駆け回るときに落木が起きやすいことは事実としても,枯れ枝が高いところから不意に落ち,しかも途中で方向が変わったので,落ちる場所を察知する余裕はなかったと思われる。」(4頁)などと,落木が低木(本件検証メモでは「ツル」と表現されている。)に当たって落下方向を変えた旨の記載があることが認 められる。これらの事実によると,Dは,本件現場検証の動画が撮影されていないところで,トラッカーから落木が低木に当たって落下方向を変えた旨の説明を聞いていたことが認められるのであり,その旨を直接本件検証メモに記載していなかっ と,Dは,本件現場検証の動画が撮影されていないところで,トラッカーから落木が低木に当たって落下方向を変えた旨の説明を聞いていたことが認められるのであり,その旨を直接本件検証メモに記載していなかったとしても,問題はないものというべきである。 エ前記⑶④について 原告らが主張するように,Qが作成した本件現場見取図は,本件事故発生から約4年後に作成されたものであることを考慮すると,それに記載された人物の位置関係については,その正確性に疑義がないではない。しかしながら,仮に本件現場見取図の記載の正確性に疑義があったとしても,本件事故の発生状況は,本件検証メモや証人Dの証言により認めることが できるから,本件現場見取図の記載の正確性は問題にならないというべき - 43 - である。 オ前記⑶⑤についてDは,本件検証メモに落木がツル(低木)に当たった地点をおおよその位置として記載した理由について,落木が当たった低木が斜めに生えていたため,落木が当たった地点としてトラッカーが指し示す地点には幅があ り,本件検証メモにはその幅を含めて落木が低木に当たった地点を破線で囲んだ一定の範囲として示した旨証言する(証人D(14,49,50頁))ところ,落木が当たった低木が斜めに生えている状況(丙17の3)からすると,Dの上記証言には合理性があり,落木が当たった低木の箇所を一点に特定することができなかったことから,Dは原告Aの位置と落木が当 たった低木の間の距離を計測しなかったものと解される。したがって,Dが低木と本件事故の発生地点の間の距離を計測しなかったことをもって,落木が当初から本件事故の発生地点に向かって落下していたと認めることはできない。 カ前記⑶⑥について 動画(甲59の2)によると,L 故の発生地点の間の距離を計測しなかったことをもって,落木が当初から本件事故の発生地点に向かって落下していたと認めることはできない。 カ前記⑶⑥について 動画(甲59の2)によると,Lとローカリテが原告Aに落木が当たった地点の辺りに立ち,上空に向かって指をさしながら,もしそこにツル(低木)がなかったら原告Aはここで死んでいたであろう旨を述べていることが認められる。しかしながら,両名が上空のどの場所を指示しているかは上記動画からは明らかではない上,Lはローカリテが指をさしたことにつ られるようにしてローカリテが指をさしたのと同じ方向を指さしているところ(甲59の2,丙14),ローカリテ自身は本件事故を経験していないことからすると,両名が指をさした時には,落木が当たった低木の位置を正確に指示していなかった可能性が大きく,両名が上記動画上で原告Aに落木が当たった地点の辺りから上空を指さしていることをもって,落木 が低木に当たった場所が本件事故の発生地点のほぼ真上(本件事故の発生 - 44 - 地点から1m程度の距離)であると認めることはできない。 ⑸ 以上によると,本件事故は,ボノボの樹上での移動に伴い,ボツナの樹の地上約20mの高さにおいて発生した落木が,発生地点から東方向に斜めに落下し,地上約10mの高さで原告Aの東側の低木に当たって4片に割れ,そのうちの一つが方向を変えて落下し,逃げる途中であった原告Aを直撃し たものであり,落木の落下の経路が特異な経過を辿っている上,落木発生からそれが低木に当たるまで,また,低木に当たってから原告Aを直撃するまでの時間は,ごく短時間であったと認められ,このような事実からすると,トラッカーが事前に落木の落下地点を予測し,かつ,本件事故を回避するための措置をと で,また,低木に当たってから原告Aを直撃するまでの時間は,ごく短時間であったと認められ,このような事実からすると,トラッカーが事前に落木の落下地点を予測し,かつ,本件事故を回避するための措置をとることは不可能であったと言わざるを得えず,本件事故につい ては,予測可能性及び結果回避可能性はなかったというべきである。 そうすると,本件事故においては,被告京都大学の安全配慮義務違反及び被告らの不法行為又は使用者責任の前提を欠くというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,被告らにこれらの責任を認めることはできない。 3 原告らは,被告Cに対し,安全装備着用指示義務違反として,落木事故からの安全確保のためヘルメットを用意し又は自ら用意するよう原告Aに指導しなかった旨主張する。しかしながら,本件事故当時,本件森の調査者が落木事故からの安全確保のため,ヘルメットを着用すべきとされていたことを認めるに足りる証拠はないから,原告らの上記主張は採用することができない。 第4 結論以上によると,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないからこれらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第1民事部 - 45 - 裁判長裁判官井上一成 裁判官鵜飼奈美 裁判官中嶌諏訪は,てん補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官井上一成 裁判長 裁判官井上一成

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