平成21年1月16日判決言渡平成20年第879号損害賠償請求事件( )ワ判決主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告らは,原告に対し,連帯して551万2000円及びこれに対する平成17年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 事案の要旨本件は,原告が,被告連合会が開設,運営する被告病院において,腹式子宮筋腫核出術を受けたところ,1 被告病院の担当医師であった被告A医師は,電( )気メスの使用方法を誤り,原告の臀部に熱傷を生じさせ,そのために瘢痕,疼痛等の後遺症が残った,2 被告A医師を含む被告病院の医師らは,原告に対し,( )手術前に電気メスによる皮膚障害が発生する可能性について説明すべき義務があるのにこれを怠ったとして,被告らに対し,不法行為(民法709条,715条)に基づき551万2000円及びこれに対する不法行為日である平成17年1月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 前提となる事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない)。 当事者( )ア原告は,昭和35年2月22日生まれの女性である(甲A1,乙A1, 2。 )イ被告連合会は,東京都港区において,被告病院を開設,運営する法人である。 被告A医師は,平成17年1月当時,被告病院産婦人科に勤務していた医師である(乙A3。 ) 診療の経過等( )ア原告は,平成16年3月26日,排尿困難などを主訴として,被告病院の産婦人科外来を受診し,被告A医師の診察を受けたところ,多発子宮筋腫が確認され,その後,平成17年1月17日,被告病院において,被告A医師の執刀による 月26日,排尿困難などを主訴として,被告病院の産婦人科外来を受診し,被告A医師の診察を受けたところ,多発子宮筋腫が確認され,その後,平成17年1月17日,被告病院において,被告A医師の執刀による腹式子宮筋腫核出術(以下「本件手術」という)を。 受けた(乙A1ないし3。 )イ本件手術の翌日である同月18日の早朝,原告の左臀部に5cm×5cm程度の赤紫色の皮膚障害が確認された。その後,原告は,被告病院等で上記臀部皮膚障害の治療を受けたが,平成19年12月14日,埼玉県深谷市所在のB病院のC医師から,臀部熱傷瘢痕,臀部に4cm×3cm,深さ数ミリの凹み及び自覚症状として圧迫時及び臥床時の痛みがあり,症状は固定しているとの診断を受けた(甲A3,5,乙A1ないし3。 ) 争点 電気メス及び対極板を適正に使用すべき注意義務違反の有無( ) 電気メス使用の際の皮膚障害の発生についての説明義務違反の有無( ) 損害額( ) 争点についての当事者の主張 争点1 (電気メス及び対極板を適正に使用すべき注意義務違反の有無)に( )( )ついて(原告の主張)ア対極板装着部位での熱傷 電気メスによる熱傷は,昭和50年代前半から報告されており,対極板の装着位置に対極板と皮膚との電気的接触不良によって生じる場合と,対極板の装着位置とは別の部位に高周波電流の漏れ(分流)によって生じる場合とがあることが指摘されている。 本件で原告に生じた臀部皮膚障害は長方形の形状であり,本件手術で用いられた対極板の形とよく符合しており,被告病院のD医師も原告の患部を診察して電気メスによる熱傷と診断し,被告病院では原告の臀部皮膚障害を熱傷として治療を行い,原告に対し,終始熱傷であると説明している。 そして,原告が受診した被告病院以外の医師も原告の も原告の患部を診察して電気メスによる熱傷と診断し,被告病院では原告の臀部皮膚障害を熱傷として治療を行い,原告に対し,終始熱傷であると説明している。 そして,原告が受診した被告病院以外の医師も原告の臀部に残った瘢痕につき熱傷による瘢痕と診断しているように,皮膚科医を含めた多数の医師が電気メスによる熱傷と診断しているのであるから,原告の臀部皮膚障害は,対極板が装着された部位に生じた熱傷と考えるべきである。なお,被告は,原告の臀部皮膚障害は褥瘡ないしは褥瘡類似病変と考えるのが合理的と主張するが,褥瘡は皮膚に加わる圧力やずれなどによって生じるといわれているところ,原告の臀部皮膚障害のような長方形の形をした皮膚障害が褥瘡によって起こることは考え難いし,同障害の部位が,体重が集中する仙骨部ではないのも褥瘡として不自然である。 また,被告らは,本件手術の際,対極板は左大腿部に装着したと主張し,その根拠として手術記録中の看護師による記載(乙A2の41頁)及び被告A医師の供述などを挙げるが,被告A医師の供述は,具体的な記憶に基づくものではなく,一般的にそうしているからというにとどまる。また,対極板を大腿部に装着するとするという文献の記載(乙B3の243頁)も一般論である。 イ対極板の位置以外での熱傷仮に,対極板の装着位置が臀部ではなく大腿部であったとした場合でも,電気メスによる高周波分流により臀部に熱傷は生じる可能性がある。電気 メスの高周波分流による熱傷は,①対極板の不接続,接触不良,コードの断線,コードの過長などの対極板回路の抵抗の増大,②手術台と患者との接近,手術台上の生理食塩水や血液の貯留など分流経路の抵抗の消失などの要因で生じる可能性があるとされている。本件において,これらの要因のうち,どれが作用して高周波分流が起こり熱傷に至ったのか 者との接近,手術台上の生理食塩水や血液の貯留など分流経路の抵抗の消失などの要因で生じる可能性があるとされている。本件において,これらの要因のうち,どれが作用して高周波分流が起こり熱傷に至ったのか,原告には特定困難である。しかし,文献上,このような高周波分流で熱傷が生じたのは,その使用方法などに問題があったと指摘されており,本件でもこれらの要因のうちいずれかによって高周波分流が発生したと推測される。 なお,被告は,文献(乙B2)を根拠にして,電気メスによる高周波分流(漏れ電流)では,直径3cm以上の熱傷は起こらないと主張するが,これが確立された医学的知見であるという裏付けはなく,高周波分流で3cm×10cmの皮膚障害が生じたとする症例報告(甲B13)もあることからしても根拠がない。 ウ過失があったこと過去の電気メスによる熱傷に関する文献では,使用に際しての問題点が指摘されている。そこから考えれば,既に指摘されているような電気メス使用に関する安全防止対策を忠実に守っている限り,熱傷事故が起きることはないはずであり,それでもなお事故の報告が見られるのは,手順を守ったつもりであっても,実は初歩的なミスを含む人為的な過失によって思わぬ結果が発生しているからと考えられる。医師が電気メスを使用して手術を実施するに際しては,熱傷事故が起こることのないよう,電気メス及び対極板を適正に使用して熱傷の発生を回避すべき注意義務がある。原告の臀部に皮膚障害(深度Ⅱの熱傷)が生じたのは,原告の臀部に装着された対極板の面積が不十分であったか,あるいは,対極板と皮膚との密着が不完全であったかのいずれかの理由によると考えられるところ,これは手術を施行する被告A医師の注意義務違反である。また,仮に,対極板が臀 部ではなく,左大腿部に装着されていたとしても,原告 の密着が不完全であったかのいずれかの理由によると考えられるところ,これは手術を施行する被告A医師の注意義務違反である。また,仮に,対極板が臀 部ではなく,左大腿部に装着されていたとしても,原告の臀部の熱傷は,電気メスの使用方法に問題があったからこそ起きた事故と考えられるから,やはり被告A医師に注意義務違反が認められるべきである。 (被告らの主張)ア原告は,本件手術後に原告に生じた術後臀部皮膚障害について,熱傷と主張するが,同障害の発生した原因は,今もって不明といわざるを得ない。 もっとも,電気メスによる高周波分流では直径3cm以上の熱傷は起こり難いとされていること(乙B2の595頁右列,本件においては,診療)録(乙A2の41頁)に,対極板を左大腿部に装着した旨の明確な記載があることなどから,原告に生じた術後臀部皮膚障害が電気メスによる熱傷(対極板の接触不良及び高周波分流による熱傷)である可能性は否定することができる。そして,本例と同様に術後1日目に臀部に発赤・水疱を生じた例においても,褥瘡と判断された症例報告(乙B1)が知られており,両症例の類似性から,原告の術後臀部皮膚障害は臀部の持続的な圧迫による皮膚障害(褥瘡)と判断するのが最も合理的である。なお,原告は四角い褥瘡はあり得ない旨主張するが,四角い褥瘡の報告例(乙B2の593頁図3の各写真)もあり,そのように帰結することはできない。 イ上記のとおり,術後臀部皮膚障害の原因を不明とする以上,それを回避するための措置を講じることはできないため,当然被告A医師に過失を認めることはできない。 仮に,原告の臀部皮膚障害が電気メスによる熱傷であるとしても,原告の主張のうち対極板装着部位での熱傷であるとの主張は,対極板が臀部に装着されたことを前提としているところ,本件においては,診療録 い。 仮に,原告の臀部皮膚障害が電気メスによる熱傷であるとしても,原告の主張のうち対極板装着部位での熱傷であるとの主張は,対極板が臀部に装着されたことを前提としているところ,本件においては,診療録に,対極板を左大腿部に装着した旨の明確な記載があり,対極板は「左大腿」に装着されていたことが明らかであるから,その前提を欠くというべきである。そして,左大腿に装着された対極板は通常使用するもので「面積が不 十分」などということはなく「皮膚との密着が不完全」などということ,もない。原告の臀部皮膚障害が褥瘡であっても,電気メスによる熱傷であっても,いずれにしても,手術に伴う合併症であって,被告A医師に過失は認められない。 争点2 (電気メス使用の際の皮膚障害の発生についての説明義務違反の有( )( )無)について(原告の主張)A医師は,本件手術前に電気メス使用の際に皮膚障害が起こりうることを十分認識していたと考えられるところ,皮膚障害による瘢痕や疼痛といった後遺障害は,患者である原告にとって受け入れ難いものであるから,被告A医師を含む被告病院の医師らは,本件手術前にこうした皮膚障害による後遺障害が発生しうることを原告に説明すべきである。 しかし,被告A医師を含む被告病院の医師らは,原告に対し,術後に臀部皮膚障害が生じることについて,何ら説明をしていない。なお,被告病院の配布する手術後に起こりうる合併症に関する説明文書には,臀部皮膚障害に関する記載はなく,褥瘡に関する記載はあるが,その表現から見て,長期臥床で発症する褥瘡を想定したものであり,原告の臀部皮膚障害のような手術直後の発症を説明したとはいえない。 したがって,被告病院には,本件手術前に行うべき,電気メス使用の際の皮膚障害の発生について事前の説明義務を怠った過失がある。 (被 ,原告の臀部皮膚障害のような手術直後の発症を説明したとはいえない。 したがって,被告病院には,本件手術前に行うべき,電気メス使用の際の皮膚障害の発生について事前の説明義務を怠った過失がある。 (被告らの主張)術後臀部皮膚障害については,その発生原因・発生機序が未だに不明な状態であり,その発生頻度や症状についても,確立した医学的知見は存在しないのであるから,原告の主張するような説明義務が医療水準として求められているとは考えられない。 また,術後臀部皮膚障害が発生する原因については,電気メス説,硬膜 外麻酔説など諸説あるが,原因不明の術後臀部皮膚障害が発生し,ひきつれなどを残す場合もあるとの説明を受けたところで,電気メスの安全性・有益性は広く認められており,仮に電気メスを使用しなくても臀部皮膚障害が発生する可能性がある以上,患者に何か他に選択肢が生まれたりするわけではなく,実際,上記説明によって,患者の意思決定に何か影響するものとはまったく考えられない。 したがって,被告らには説明義務違反はなく,説明と結果の間の因果関係も否定される。 争点3 (損害額)について( )( )(原告の主張)ア入通院日数( )ア本件事故に対する診断・治療の目的で原告が医療機関を受診した日数は,入院が20日間,通院が7日である。 入院雑費( )イ入院雑費を入院1日あたり1500円として計算すると,入院雑費の合計額は以下のとおり3万円となる。 (計算式)1500円(1日分)×20日=3万円休業損害( )ウ原告は主婦であるが,前記入院・外来治療の際には,主婦としての家事を行うことができなかった。それによる休業損害は次のとおり22万1000円である。なお,年収は,平成17年の賃金センサス中の女性労働者学歴計全年齢平均の金額により,1回 療の際には,主婦としての家事を行うことができなかった。それによる休業損害は次のとおり22万1000円である。なお,年収は,平成17年の賃金センサス中の女性労働者学歴計全年齢平均の金額により,1回の通院は0.5日とした。 (計算式)343万4400円÷365×(20+3.5)=22万1000円(千円未満切り捨て) 逸失利益( )エ原告の労働能力は,熱傷により生じた瘢痕と加圧による痛みにより,少なくとも5%程度低下したと考えられる。そこで,将来の逸失利益は,次のとおり,226万円である(事故後半年の時点から22年分のライプニッツ係数は13.163。 )(計算式)343万4400円×0.05×13.163=226万円(千円未満切り捨て)入通院慰謝料( )オ入通院慰謝料としては,少なくとも50万円が相当である。 後遺症慰謝料( )カ熱傷によって生じた臀部の永続的な瘢痕は,それ自体が女性の外貌に醜状を残すものであるだけでなく,瘢痕部に圧がかかると痛みが生じることから,仰臥位をとることができず,瘢痕部への圧迫を避けるために常に気を遣わなければならないなど,日常生活に少なからぬ影響を及ぼしている。すなわち,熱傷による後遺症は単なる醜状に留まらず,疼痛障害を伴うものである。 したがって,これに対する慰謝料としては,少なくとも200万円が相当である。 小計( )キ以上の小計は,501万1000円である。 イ弁護士費用被告らが損害賠償責任を認めないため,原告は,原告代理人に委任をして本訴を提起せざるを得なかった。したがって,弁護士費用相当額(上記小計の10%,50万1000円)も,被告らの前記不法行為と相当因果関係に立つ損害であり,被告らが賠償すべきである。 ウ合計被告らの賠償すべき損害は,前記小計と弁護士費用の 士費用相当額(上記小計の10%,50万1000円)も,被告らの前記不法行為と相当因果関係に立つ損害であり,被告らが賠償すべきである。 ウ合計被告らの賠償すべき損害は,前記小計と弁護士費用の合計額,551万2000円である。 (被告らの主張)いずれも争う。 入院雑費は,交通事故の被害者が突然に入院を余儀なくされたために認められるに至ったものであるから,原告のように元々入院用具等の用意のある者にまで認める必要はない。 また,臀部の瘢痕等が労働能力を奪うとは考えられない。 さらに,損害賠償法上,外貌とは首から上の日常露出している部分を指すから,原告が外貌醜状であるとは認められない。 第3当裁判所の判断 事実認定証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 手術に至る経過( )ア原告は,平成16年3月26日,排尿困難などを主訴として,被告病院の産婦人科外来を受診し,被告A医師の診察を受けた。被告A医師が,原告の持参したMRI画像を確認したところ,多発子宮筋腫が確認された。 そして,同年4月23日の診察の際に子宮筋腫の増大が認められたことから,原告は手術を希望し,入院の上,手術が行われることとなった。しかし,同年5月24日,原告から,手術予定であった7月は都合が悪いことから,手術はキャンセルしたいと連絡があり,手術は中止となった(乙。 A1,3)イその後,原告は,同年11月17日,被告病院の産婦人科外来を受診し,再度,子宮筋腫の核出手術を受けたいとの希望を伝え,手術を行うことが決定された(乙A1)。 ウ平成17年1月13日,原告は,腹式子宮筋腫核出術(本件手術)のため被告病院に入院した。翌14日,原告は,被告A医師から,今回受ける予定の手術の内容,手術の危険性,手術後の一般的な経過等の説明を受け,「産 年1月13日,原告は,腹式子宮筋腫核出術(本件手術)のため被告病院に入院した。翌14日,原告は,被告A医師から,今回受ける予定の手術の内容,手術の危険性,手術後の一般的な経過等の説明を受け,「産婦人科手術の説明と同意書」と題する書類を受領した。同書類の「はじめに」との部分には「このパンフレットでは,産婦人科で行われる手,術の概略に関して説明してあります。担当医からの説明と併せて,ご自分の該当するところをよく読み,手術に関する同意書に署名・捺印しご提出下さい」との記載「手術の)治療効果は大きいのですが,副作用(合。 ,(併症もこれに含まれる)がないわけではありません。もちろん手術を受けたほとんどの人に副作用が起こるわけではありません。副作用には,比較的起こりやすいものから,極めてまれなものまでがあります。極めてまれなものまで全てに関して説明するのは不可能ですから,説明を申し上げる副作用は比較的起こりやすいものだけに限られていたり,あるいは例を挙げて説明してあります。記載された以外に副作用も起こり得ることをご理解下さい」との記載があり「術後の一般的な合併症」との部分には,。 ,「褥瘡」の項目があり「同じ体位で長く臥床を続けていると,背中や臀,部など長時間圧迫されている部位に治りにくい潰瘍ができます。これを褥瘡(いわゆる床ずれ)といい,術後早期に離床する,常に体位を変える,清潔を保つことなどでその発生を予防することが最も大切です」との記。 載はあるが,術後臀部皮膚障害,電気メスによる熱傷についての具体的,個別的説明はない。なお,診療録に綴られている「産婦人科手術の説明と同意書」目次部分には「はじめに「子宮筋腫核出術「手術後の一般,」,」,的な合併症「麻酔について「輸血について「質問の多い事項に関し」,」,」 綴られている「産婦人科手術の説明と同意書」目次部分には「はじめに「子宮筋腫核出術「手術後の一般,」,」,的な合併症「麻酔について「輸血について「質問の多い事項に関し」,」,」,てご説明します」との項目に○が記されている(乙A2,3,原告本。 人)エ同月17日,原告は「手術・検査・治療法等診療行為説明内容の確認, と同意書」と題する書面に署名し,これを被告病院に提出した後,午後1時15分ころ手術室に入室し,被告A医師の執刀により,本件手術を受けた。本件手術では,硬膜外麻酔と全身麻酔が併用され,手術時間は3時間25分,出血量は596mlであり,合計19個(総重量890g)の筋腫が摘出された。本件手術終了直後,手術室において,看護師が原告の臀部を確認したところ,発赤等の異常は認められず,さらに,病室に戻った後の午後7時ころ,再度臀部の確認がされたが,やはり発赤等の異常は認められなかった。なお,本件手術の際には,バリーラブ社製の電気メス及び対極板が用いられ,対極板は原告の左大腿部に装着されていた(原告は,対極板は臀部に装着されていたと主張するが,被告病院看護部編集の「手術室看護手順」には,外回り看護婦業務の術前介助として「電気メスの,対極板を左大腿外部に装着する」と記載されており,被告病院では電気メスの対極板は患者の左大腿部に装着することとされていたこと,本件手術申込書下部の「電気メス」との記載の横には「左大腿バリーラブ」と記載されていることが認められ,これらのことからすると,本件手術の際の対極板は臀部ではなく,左大腿部に装着されていたと認めるのが相当である(乙A1ないし3,乙B3,被告A医師)。)。 手術後の経過( )ア本件手術の翌日である平成17年1月18日の早朝,原告は臀部に痛みを感じ 左大腿部に装着されていたと認めるのが相当である(乙A1ないし3,乙B3,被告A医師)。)。 手術後の経過( )ア本件手術の翌日である平成17年1月18日の早朝,原告は臀部に痛みを感じたことから,看護師に臀部を確認してもらったところ,左臀部に5cm×5cm大の発赤が認められた。同日夜,被告病院のE医師,F医師が,原告の臀部を診察したところ,臀部の発赤と痛みのほか,皮膚の肥厚,水疱が確認され,両医師は,これらの症状について,熱傷か褥瘡であろうと診断した。両医師は,被告病院皮膚科に,原告の臀部の状態等について相談しようとしたが,夜間であり診察は翌日となったため,同日は,リンデロンVG軟膏(副腎皮質ステロイド外用薬)を塗布し,患部をアダプテ 。 ,ィックガーゼで保護することにより創部処置を施した(甲A5,乙A23,原告本人,被告A医師)イ同月19日,原告は,被告病院皮膚科のD医師の診察を受けた。D医師は,左臀部に手拳大の境界明瞭な紅斑と水疱を認め,原告の臀部発赤等について,電気メスによる熱傷と診断し,水泡穿刺を行った上,リンデロンVG軟膏,アダプティックガーゼによる処置を行った。そして,被告A医師らに対し,今後の治療として,リンデロンVG軟膏の塗布,アダプティ。 ,ックガーゼによる患部の保護等の処置を継続するよう指示した(甲A5乙A1ないし3)ウ同月25日,原告は,再度D医師の診察を受けた。D医師は,水疱は乾燥傾向にあり,発赤も治まってきていることを確認し,リンデロンVG軟膏,アダプティックガーゼによる処置を行った。そして,同年2月1日のD医師の診察時には,水疱はほとんど乾燥しており,発赤も軽快傾向にあることが確認され,同日から,創部にはデュオアクティブET(皮膚欠損用創傷被覆材)を貼付することとされた。その際 て,同年2月1日のD医師の診察時には,水疱はほとんど乾燥しており,発赤も軽快傾向にあることが確認され,同日から,創部にはデュオアクティブET(皮膚欠損用創傷被覆材)を貼付することとされた。その際,D医師は,臀部の赤みや,表皮の感覚が鈍いことについては,2,3か月程度で軽快する旨説明した。また,同日,原告と原告の夫であるGから,原告の臀部皮膚障害は医療事故によるものではないかとの申入れがあったことから,被告A医師及びF医師が対応した。その際,被告A医師は,原告に対し,術後の臀部の熱傷はまれに起こる合併症であり,同症の発生を防ぐように最大限努めているが,残念ながら,まれに起こることがあり,完全に防ぐことは難しい旨説明した(乙A1,3)。 エ同年2月2日,原告は,被告病院を退院した(乙A2,3。 ) 退院後の経過( )原告は,被告病院を退院後も臀部皮膚障害の治療のため,平成17年7月5日まで,被告病院皮膚科に通院し,その後も他院で治療を受けるなどした が,平成19年12月3日,埼玉県深谷市所在のH病院皮膚科のI医師から,熱傷後の肥厚性瘢痕が左臀部3か所(径約1cmの斑状痕が2か所と長さ約2cmの線状痕が1か所)に認められ,仰臥位で同部が床に触れると疼痛が生じることがあり,今後自然軽快する可能性は低いと思われるとの診断を受け,同月14日にも,B病院形成外科のC医師から,臀部熱傷瘢痕(1.5cm×1.2cm,1cm×0.7cmの2か所の硬結を伴う瘢痕,臀部,)の4cm×3cm,深さ数ミリの凹み及び自覚症状として,圧迫時及び臥床。 ,時の痛みがあり,症状は固定しているとの診断を受けた(甲A2,3,5乙A1) 医学的知見 電気メスによる熱傷( )ア電気メス電気メスは,高出力(通常は最大50W以上)の高周波電流( ,時の痛みがあり,症状は固定しているとの診断を受けた(甲A2,3,5乙A1) 医学的知見 電気メスによる熱傷( )ア電気メス電気メスは,高出力(通常は最大50W以上)の高周波電流(360KHz~5MHz)を生体組織に通電し,メス先に生じる電気エネルギーによって組織の切開,凝固などを行う医療機器であり,本体,メス先電極,対極板(メス先電極から流入し,電気メス作用を行って,身体に拡がって流れた高周波電流を,拡がったまま安全に回収する大きな面積の電極)で構成される(甲B1,2)。 イ電気メスによる熱傷の原因電気メスによる熱傷の主因は,対極板の接触不良(対極板装着部位の熱傷)と高周波分流(対極板装着部位以外での熱傷)である。 対極板装着部位の熱傷(対極板の接触不良による熱傷)( )ア対極板は,メス先電極から発する高アンペアの電流を低い電流密度で受け止めるため,十分な大きさのものを皮膚に密着させて使用する必要があり,凹凸ができた対極板を使用した場合,対極板がずれている場合,小さな対極板を使用した場合,導電ゼリーやペーストが不均一な場合な ど,対極板の面積が不十分な場合には局所的な電流密度が増大し熱傷をきたす恐れがある。そのための対策は,大きな対極板を血行の良い筋肉質でフラットな部分に適切に貼る,密着性の良いディスポーザブル対極板を使うなどである。対極板の位置はできるだけ術野に近いところが良いが,凹凸した部分や組織の薄い部分に付けると,電流集中のため熱傷事故を起こす場合があるので,むしろ多少術野と距離が離れても筋肉組織の多い部分を選ぶべきであるとされている。 なお,ほとんどの電気メスでは,安全装置が付いており,対極板の接触面積が減少した場合には警告音が鳴る仕組みとなっている(甲B1。 ないし3,20ないし23)対 い部分を選ぶべきであるとされている。 なお,ほとんどの電気メスでは,安全装置が付いており,対極板の接触面積が減少した場合には警告音が鳴る仕組みとなっている(甲B1。 ないし3,20ないし23)対極板装着部位以外での熱傷(高周波分流による熱傷)( )イ電気メスによる熱傷は,対極板装着部位だけでなく,それ以外の部位でも生じうる。対極板装着部位以外での熱傷は,対極板の不接続もしくは接続不全,対極板コードの断線,対極板コードの過長,金属ベッドと患者の身体の接近,マット上の生理食塩水その他の電解質,液体の貯留等により,高周波分流(メス先で作用を終えた電流が対極板以外の意図しない場所へ流れてしまったもの)が生じ,これが原因となって熱傷が生じる。そのための対策は,対極板の確実な装着,コードの確実な接続,フローティング形電気メスの使用などである。 なお,JIS規格に合致した電気メス(最大漏れ電流150mA以内)においては,高周波分流による直径3cm(面積7cm)を超え る熱傷は起こり難いとの実験結果の報告があるが,他方で,電気メスの高周波分流により,3cm×10cmの三日月状の水痘及び皮膚表面の黒化(熱傷)をきたしたと考えられるとする報告もある(甲B13,。 20ないし22,乙A3,乙B2) 褥瘡( ) 褥瘡とは,一般に,外力によって皮膚や軟部組織に生じる阻血性の組織障害や壊死であるとされる。 褥瘡は,発生した直後から約1ないし3週間の時期の「急性期」と,それ以降の「慢性期」に区別される。褥瘡が発生した直後には,急性炎症反応が強く,紅斑(発赤,紫斑,浮腫,硬結(浸潤,水疱,びらん・浅い潰瘍な))ど極めて多彩な局所症状が次々出現する。慢性期には,褥瘡の病態は比較的安定するが,この時期においても,紅斑(発赤,水疱,表皮剥離,びらん 発赤,紫斑,浮腫,硬結(浸潤,水疱,びらん・浅い潰瘍な))ど極めて多彩な局所症状が次々出現する。慢性期には,褥瘡の病態は比較的安定するが,この時期においても,紅斑(発赤,水疱,表皮剥離,びらん)といった状態に留まり,損傷が真皮までに留まるものを「浅い褥瘡」といい,真皮を越える深さにまで損傷が及んでいると考えられるものを「深い褥瘡」という「深い褥瘡」では,壊死組織が除去された後の組織欠損は肉芽組織。 によって充填され,創周囲が上皮再生によって,瘢痕治癒することになり,治療までに長期間を要する(甲B4,乙B2,4)。 術後臀部皮膚障害( )術後臀部皮膚障害とは,術後1ないし2日以内に臀部を中心に発生する特異な形状の有痛性紅斑である。報告上,発生率は全手術室手術の0.1%ないし0.3%程度であり,短時間手術や術後すぐに体動可能な患者でも発生する。 術後臀部皮膚障害の原因については,医学上,褥瘡(類似病変)とする見解,電気メスの高周波分流による熱傷とする見解,麻酔剤のアレルギーとする見解,消毒薬による接触性皮膚炎とする見解等様々であり,いまだ確定はされていない。また,文献中には「術後臀部皮膚障害には術後褥瘡と考えられるものも少なからず存在するが,紅斑,潰瘍の臨床像,その経過により褥瘡のみと診断するには躊躇する症例も数多く存在することもまた事実である」とし「その特徴として,①仙骨部よりむしろ尾骨部に生じる。②形状,は類円形ではなく不整形の紅斑性局面ないし潰瘍で周囲に毛羽だったような線状の紅斑を伴い時に水疱形成に到ることもある。③一般的に電気メスが原 因の一つとして挙げられることが多いが,それ以外の要因の関与も十分に考えられる」とするものもある(甲B11,12,乙A3,乙B2,被告A。 。 医師) 争点1 (電気メス及 に電気メスが原 因の一つとして挙げられることが多いが,それ以外の要因の関与も十分に考えられる」とするものもある(甲B11,12,乙A3,乙B2,被告A。 。 医師) 争点1 (電気メス及び対極板を適正に使用し熱傷を回避すべき注意義務違反( )の有無)について 対極板部位で熱傷が生じたことを前提とする主張について( )ア原告は,対極板が臀部(原告の臀部に皮膚障害が生じた部位)に装着されたことを前提として,被告A医師が本件手術で原告の臀部に装着した対極板の面積が不十分であったか,又は対極板と皮膚との密着が不完全であったため,原告の臀部に皮膚障害(深度Ⅱの熱傷)が生じたと主張する。 イしかしながら,本件手術における電気メスの対極板の装着部位については,前記11 エで認定したとおり,臀部ではなく左大腿部に装着されてい( )たものと認めるのが相当である。 したがって,上記原告の主張は,その前提を欠くものというべきである。 なお,原告は,対極板が臀部に装着されていたことの根拠として,本件臀部皮膚障害が長方形と言える形状であり,対極板の形と良く符合していることを挙げるが,乙B第2号証では,四角形に近い形状の皮膚障害が周手術期褥瘡の臨床像として紹介されていることからすると,原告の臀部皮膚障害の形状から,本件手術において対極板が臀部に装着されたと推認することはできない。また,原告の臀部皮膚障害は,臀裂部を横断する形で生じている(甲4の1ないし14)が,仮に臀部に対極板を装着することとされたとしても,前記21 イのとおり,対極板は熱傷を防止するため( )( )ア皮膚に密着させて使用する必要があり,フラットな部分に適切に貼る必要があるとされているのであるから,何ら特別な事情もないのに,臀裂部のように皮膚と対極板の接触が不十分に するため( )( )ア皮膚に密着させて使用する必要があり,フラットな部分に適切に貼る必要があるとされているのであるから,何ら特別な事情もないのに,臀裂部のように皮膚と対極板の接触が不十分になることが明らかな部位に対極板が装着されたとは考え難く,この点からも臀部皮膚障害の生じた部位に対極 板が装着されていたとは認めることができない。 ウまた,前記11 エのとおり,本件手術で使用されたバリーラブ社製の電( )気メスは,安全装置が付いており,対極板の電流が流れる面積が少なくなると,アラームが鳴り,機械が停止する仕組みになっていたところ(被告A医師,本件手術において,アラームが鳴り,機械が停止したという事)情はないから,対極板による接触不良が起こったものとは認め難いというべきである。そうすると,仮に本件手術において対極板が原告の臀部に装着されていたとしても,原告の臀部皮膚障害が電気メスの対極板の接触不良により生じた対極板装着部位の熱傷であると認めることはできない。 エ以上のとおり,本件手術において,電気メスの対極板は左大腿部に装着されていたと認められるから,原告の上記主張はその前提を欠くものというべきであり,仮に対極板が原告の臀部に装着されていたとしても,原告の主張するように,臀部に装着された対極板の面積が不十分であり,あるいは対極板と皮膚との密着が不完全であったため原告の臀部に皮膚障害が生じたとは認められない。したがって,被告A医師に,電気メス及び対極板を適正に使用すべき注意義務違反があったとは認めることができないから,原告の上記主張には理由がない。 対極板部位以外で熱傷が生じたことを前提とする主張について( )ア原告は,対極板が左大腿部に装着されていたとしても,電気メスを使用した本件手術の場合には,対極板以外の 記主張には理由がない。 対極板部位以外で熱傷が生じたことを前提とする主張について( )ア原告は,対極板が左大腿部に装着されていたとしても,電気メスを使用した本件手術の場合には,対極板以外の部位においても熱傷が生じる可能性があり,原告の臀部の熱傷は電気メスの使用方法に問題があったからこそ起きたものであるから,被告A医師には過失が認められるべきであると主張し,原告の臀部皮膚障害が熱傷であることの根拠として,原告の臀部皮膚障害が仙骨部以外の部位に生じていること,被告病院の医師をはじめ,他の多くの医師が原告の臀部皮膚障害を熱傷と診断していることを挙げる。 イしかし,前記12 及び同23 のとおり,原告の臀部皮膚障害は術後臀部( )( ) 皮膚障害に該当すると認められるところ,術後臀部皮膚障害の発生原因・発生機序については,医学上,電気メスの高周波分流による熱傷との見解もあるが,その他にも褥瘡(類似病変)とする見解や麻酔剤のアレルギーとする見解など,様々な見解があって,いまだその原因が確定されておらず,医学上,その原因は不明というべき情況である。 加えて,乙B第2号証の文献では,仙骨部とは異なる部位に生じた皮膚障害が周手術期褥瘡の症例として紹介されていることからすると,原告の主張するように,原告の臀部皮膚傷害が仙骨部以外の部位に生じていることをもって,原告の臀部皮膚障害が熱傷であると断言することはできないことは明らかである。 また,原告が主張するように,原告の臀部皮膚障害が熱傷であるとの上記各医師の診断があるとはいえ,術後臀部皮膚障害の原因については,前記のとおり様々な見解があり,診断基準等について確立した見解があるわけではなく,前記22 記載の紅斑(発赤,浮腫,水疱といった褥瘡の症( ))状は熱傷の場合と異なるところがな 原因については,前記のとおり様々な見解があり,診断基準等について確立した見解があるわけではなく,前記22 記載の紅斑(発赤,浮腫,水疱といった褥瘡の症( ))状は熱傷の場合と異なるところがないこと,本件と同様,子宮筋腫核出術の翌朝より臀部に強い疼痛を伴う発赤等を認めた2症例について,術後の下肢の運動障害による臀部への持続的な圧迫,虚血が皮膚障害の原因と推察されたとの報告(乙B2)があることも認められるところである。 さらに,本件では,手術直後に看護師によって,原告の臀部に発赤等の異常がないことが確認されていること(前記11 エ)からすると,原告の( )臀部皮膚障害が電気メスによる熱傷であるとすることには疑問の余地があること,電気メスの高周波分流により,3cm×10cmの熱傷をきたしたと考えられるとする症例報告はあるものの,JIS規格に合致した電気メス(最大漏れ電流150mA以内)においては,高周波分流による直径3㎝(面積7c㎡)を超える熱傷は起こり難いとの実験結果の報告があるところ,原告の臀部皮膚障害は5cm×5cmほどの大きさであったこと (前記1⑵ア)などの事情もあり,これらに鑑みると,被告病院の医師や他の医師による上記各診断をもって,原告の臀部皮膚障害が電気メスの高周波分流による熱傷であると断定することはできず,他に原告の臀部皮膚障害が電気メスの高周波分流による熱傷であると認めるに足りる証拠はない。 イまた,原告は,原告の臀部の熱傷は電気メスの使用方法に問題があったからこそ起きたものであるから,被告A医師に過失を認めるべきであるとも主張するが,仮に原告の臀部皮膚障害が電気メスの高周波分流による熱傷であるとしても,同熱傷が生じた全ての場合に,医師に何らかの過失があるといえないことは明らかであるし,原告の臀部皮膚障害 であるとも主張するが,仮に原告の臀部皮膚障害が電気メスの高周波分流による熱傷であるとしても,同熱傷が生じた全ての場合に,医師に何らかの過失があるといえないことは明らかであるし,原告の臀部皮膚障害について被告A医師に何らかの過失があると認めるに足りる具体的な証拠もないから,原告の上記主張は採用することはできない。 ウ以上のとおり,原告の臀部皮膚障害が電気メスによる熱傷であるとは認めることはできず,また,それが被告A医師の過失によるものであるとも認められないから,対極板部位以外で熱傷が生じたことを前提とする原告の前記主張も理由がないというべきである。 争点2 (電気メスによる皮膚障害の発生についての説明義務違反の有無)に( )ついて 原告は,被告病院の医師らは原告に対し,本件手術前に,電気メスによる( )臀部皮膚障害(熱傷)が生じ,瘢痕や瘢痕部の疼痛等の後遺障害が生じ得ることを説明すべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったと主張する。 しかしながら,前記23 のとおり,術後臀部皮膚障害の発生率は,症例報( )( )告上,0.1%ないし0.3%程度とされており(被告A医師の陳述書である乙A第5号証では,手術後の手術分野以外での皮膚障害(発赤,水疱,潰瘍)の発生頻度は,日本では約1%,アメリカでは約10ないし20%であり,被告病院産婦人科における発生頻度は0.3%であったとされてい る,極めて低率といえる。そして,術後臀部皮膚障害の発生原因・発生機。)序等については,医学上,電気メスの高周波分流による熱傷との見解もあるが,その他にも褥瘡(類似病変)とする見解や麻酔剤のアレルギーとする見解など,様々な見解(術後臀部皮膚障害は電気メスを使用しないで手術をした場合でも生じ得るとする見解もある)があって,いまだその原 が,その他にも褥瘡(類似病変)とする見解や麻酔剤のアレルギーとする見解など,様々な見解(術後臀部皮膚障害は電気メスを使用しないで手術をした場合でも生じ得るとする見解もある)があって,いまだその原因が確定。 されておらず,医学上,その原因は不明というべき情況であること,術後臀部皮膚障害の後遺症等についても確立した見解はなく,術後臀部皮膚障害が生じた場合に,相当程度の割合で後遺傷害として疼痛等の神経症状が残存することがあると認めるに足りる客観的な証拠はなく,通常の場合,臀部皮膚障害が発生した場合に患者が被る不利益はさして大きなものとはいえないことなども認められるところである。 これらのことを考慮すると,患者が身体への医学的侵襲行為である手術を受けることを正確な情報に基づいて同意する前提として,あるいは患者の自己決定権を実質的に保障するためには,医師には患者に対し,術後に生ずる可能性がある合併症等について説明すべき義務があると解するのが相当であるが,そうであるとしても,本件において,被告病院の医師らが患者である原告に対し,術後臀部皮膚障害について行うべき説明義務の内容は,手術後に合併症として臀部皮膚障害(紅斑(発赤,水疱,疼痛等)が生ずる可能)性があることを説明することで足りるものというべきである。 そして,本件においては,前記11 ウ及びエのとおり,被告A医師は,原( )( )告に対し,本件手術前に,今回受ける予定の手術の内容,手術の危険性,手術後の一般的な経過等を説明し「産婦人科手術の説明と同意書」と題する,書類を交付したこと,同書類の「手術後の一般的な合併症」との部分には,「褥瘡」の項目があり「同じ体位で長く臥床を続けていると,背中や臀部,など長時間圧迫されている部位に治りにくい潰瘍ができます。これを褥瘡(いわゆる床 書類の「手術後の一般的な合併症」との部分には,「褥瘡」の項目があり「同じ体位で長く臥床を続けていると,背中や臀部,など長時間圧迫されている部位に治りにくい潰瘍ができます。これを褥瘡(いわゆる床ずれ)といい,術後早期に離床する,常に体位を変える,清潔 を保つことなどでその発生を予防することが最も大切です」と記載されて。 いたこと,原告は,同書類を受け取った3日後である本件手術当日の手術前に「手術・検査・治療法等診療行為説明内容の確認と同意書」と題する書,面に署名して,これを被告病院に提出したことが認められ,これらの事実からすれば,被告A医師は「産婦人科手術の説明と同意書」と題する書類を,交付することによって,本件手術後に背中や臀部などの部位に治りにくい潰瘍(病変)である褥瘡が生じる可能性について説明し,原告も同書類によりこれを理解していたものと認められる。 また,術後臀部皮膚障害の発生原因について褥瘡(類似病変)とする見解があること,褥瘡の症状は,術後臀部皮膚障害の症状と何ら異なることはないことは前記22 及び3 記載のとおりであるから,術後臀部皮膚障害を褥瘡( )( )として説明することが不合理とは言い難く,このような説明を受けた患者は手術後に生ずることのある合併症等について十分に理解できるのであるから,患者に何らかの不都合が生じるものとも認められない。 したがって,被告A医師が原告に対し,本件手術後に背中や臀部などの部位に治りにくい潰瘍(病変)である褥瘡が生じる可能性について説明し,原告もこれを理解していたものと認められる以上,被告A医師は,術後臀部皮膚障害についての説明義務を尽くしたものというべきである。 以上のとおり,被告A医師に,本件手術後に臀部皮膚障害が生ずる可能性( )があることについての説明義務違反が ,被告A医師は,術後臀部皮膚障害についての説明義務を尽くしたものというべきである。 以上のとおり,被告A医師に,本件手術後に臀部皮膚障害が生ずる可能性( )があることについての説明義務違反があるとは認められないから,原告の前記主張も理由がないというべきである。 なお,原告は,本件では,手術後に起こり得る合併症に関する説明文書に褥瘡に関する記載はあるが,その表現から見て,長期臥床で発症する褥瘡を想定したものであり,原告の臀部皮膚障害のような手術直後の発症を説明したとはいえないと主張する。しかし「産婦人科手術の説明と同意書」の褥,瘡に関する前記説明では「長く」や「長時間」といった用語が用いられて, いるものの,これらは一義的なものではなく,術後1ないし2日後に生じ得る褥瘡(類似病変)を明示的に除外するものと解すべき理由はないから,前記説明が術後1ないし2日後に生じる褥瘡(類似病変)を明示的に除外したものとは認められない。よって,原告の上記主張は採用することができない。 また,被告病院では,原告と同様に手術後に臀部皮膚障害を来した患者について,平成17年3月に調査委員会が開催され,結論的には医学的には合併症として補償は行わないこととされたものの「今後は電気メスを使用す,る手術における皮膚トラブルの発生頻度を追加で記載し,十分説明した上で同意の署名を得て下さい」との勧告が行われたこと(乙A5)が認められ。 るが,上記認定判断に照らすと,このような勧告がなされたことをもって,被告病院がそれまでの臀部皮膚障害に関する事前の説明が法的な意味でも不十分であったことを自認するものといえないことは明らかである。 結論 以上のとおりであり,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却することとし,主文のと 結論 以上のとおりであり、原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官村田渉裁判官松本展幸 裁判官小野本敦
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