平成15(受)1284 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成17年7月14日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所 平成13(ネ)4516
ファイル
hanrei-pdf-52383.txt

判決文本文9,874 文字)

主文 原判決のうち上告人敗訴部分を破棄する。 前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人木村康則,同本橋一樹,同森裕子の上告受理申立て理由第1点から第5点までについて 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1) 上告人は,平成13年10月1日,原審脱退被控訴人D株式会社(同日までの商号D證券株式会社。以下「D證券」という。)から証券業等に関する営業を承継して,本件訴訟を引き受けた証券会社である。 (2) 被上告人は,広島市E市場の水産物卸売業者として,卸売市場法所定の農林水産大臣の許可を受けて,水産物及びその加工品の卸売業を営む会社である。被上告人は,広島市の中央市場整備計画に基づき,既存の卸売業者5社を統合する形で,昭和59年4月21日に設立されたものであり,資本金は1億2000万円,水産物卸売業に係る取引高は年間200~300億円であった。被上告人についての卸売市場法19条1項所定の農林水産大臣の定める卸売業者の純資産基準額は9000万円であり,これを下回ると,一部営業停止等の処分を受ける可能性があった。 (3) 被上告人は,その開業の際,経営安定資金として計26億円の公的低利融資(うち20億円は10年後一括返済,6億円は5年間の元利均等返済,いずれも年利2%)を受けたことから,当面使用する予定のない資金を証券取引で運用することとし,昭和59年9月,D證券に運用資金5億円を預託して,被上告人の計算においてする証券取引をD證券に委託する取引(以下「本件取引」という。)を開始した。なお,本件取引は,D證券のF支店で行われたものである。そのころ,被- 1 -上告人は,他の証券会社2社にも各1億円を預託し,同様に証券取引を委託することとした。 (4) 被 う。)を開始した。なお,本件取引は,D證券のF支店で行われたものである。そのころ,被- 1 -上告人は,他の証券会社2社にも各1億円を預託し,同様に証券取引を委託することとした。 (4) 被上告人において,本件取引に係る意思決定は,当初は代表取締役社長のG(以下「G」という。)が行っていたが,同人は多忙であったため,次第に,専務取締役であるH(以下「H」という。)が直接これに当たるようになった。 Gは,昭和50年にIを卒業し,K株式会社勤務を経て,父親が代表取締役を務める水産物卸売会社に入社し,営業等を担当していたところ,昭和58年に父親の死亡により同社の代表取締役に就任し,昭和59年に被上告人の設立に伴いその代表取締役に就任した。Gは,個人及び上記水産物卸売会社の代表者などとして,遅くとも昭和58年までには,株式の現物取引,信用取引,先物取引,ワラント取引等を経験し,自分なりの証券取引の知識と判断基準を身につけていた。 Hは,昭和31年にJ大学商学部を卒業し,K株式会社に入社して経理畑を歩んだ後,被上告人の設立に際して出向を命じられ,被上告人の専務取締役に就任した者である。Hは,被上告人に出向するまで,資金運用業務を担当した経験はなかったが,本件取引を通じてGの指示を仰ぐなどしながら証券取引の経験を積むとともに,昭和61年には個人でも複数の証券会社に取引口座を開設しており,そのころまでには,一般的な証券取引の知識と経験を有するに至っていた。 (5) 本件取引は,約10年間にわたって行われ,その売買総額は累計で約1800億円に達する。その取引経過の概要は,次のとおりである。 ア被上告人は,昭和59年9月に本件取引を開始し,昭和60年3月までに,株式等現物及び中期国債ファンドの売買により約2100万円の実現益を上げた。 その後, の取引経過の概要は,次のとおりである。 ア被上告人は,昭和59年9月に本件取引を開始し,昭和60年3月までに,株式等現物及び中期国債ファンドの売買により約2100万円の実現益を上げた。 その後,被上告人は,取引商品の種類と金額を順次拡大し,平成元年7月までには,株式等の現物取引のほかに,信用取引,国債先物取引,外貨建てワラント取引,株式先物取引も行うようになり,本件取引に係る売買総額も年間200~400億- 2 -円に上った。この間,昭和61年度(被上告人の会計年度である当年4月から翌年3月までをいう。以下同じ。)には1億円を超える実現益を上げ,昭和62年度にはいわゆるブラックマンデーの影響により1億円を超える含み損が生ずるなどの経過があったが,昭和63年度には実現益約1億5880万円と本件取引期間中最高の利益を計上した。 イ平成元年6月12日,大阪証券取引所において,株価指数オプション取引の一つである日経平均株価オプション取引が開始された。D證券の当時の担当者L課長は,G及びHに対し,D證券発行の株価指数オプション取引の説明パンフレット及び大阪証券取引所発行の株価指数オプション取引説明書を交付して,オプション取引の概要,プット・オプション及びコール・オプションの意味などとともに,オプションの買い取引の場合は投資資金全額を失うことはあるが損がそれ以上に拡大することはないこと,オプションの売り取引の場合は損失が無限大に広がる可能性があることなどを説明した。被上告人は,これを受けて,日経平均株価オプション取引を始めることとし,上記説明書の内容を確認したとの趣旨の確認書をD證券に差し入れた。 ウ被上告人は,平成元年8月2日,初めてのオプション取引として,日経平均株価のコール・オプション10単位を約234万円で買い付けたが,約107 容を確認したとの趣旨の確認書をD證券に差し入れた。 ウ被上告人は,平成元年8月2日,初めてのオプション取引として,日経平均株価のコール・オプション10単位を約234万円で買い付けたが,約107万円の損失を出したため,オプション取引から手を引くこととした(以下,このときのオプション取引を「1回目のオプション取引」という。)。その後,D證券の担当者がM次長に替わったこともあり,同人の勧誘により,被上告人は,平成2年4月から5月にかけて,再び日経平均株価のコール・オプションを10回にわたって買い付ける取引をした(計65単位,買付総額約3400万円)。被上告人は,これにより690万円余りの利益を上げたが,同年5月にHが急性胃潰瘍で入院したため,いったん取引は中断された(以下,このときのオプション取引を「2回目のオ- 3 -プション取引」という。)。 エ日経平均株価は,平成元年12月29日に最高値をつけたが,その後下落に転じた。被上告人は,実現損を生ずる保有株式の売却を避けるなどの方針で対応したが,平成2年度末の保有証券等の含み損は10億円を超えた。このような中で運用益を上げるため,Hは,平成3年1月ころ,D證券の担当者となったN課長(以下「N」という。)に対し,株価指数オプション取引で利益の確定できる取引はないかと尋ね,Nはそのような取引はないが一定の資金の範囲内でやってはどうかと勧めた。これを受けて,被上告人は,平成3年2月から日経平均株価オプション取引を再開した(このときから平成4年4月までの間のオプション取引を,以下「3回目のオプション取引」という。)。Gは,3回目のオプション取引を始めるに当たって,Nに対し,オプション取引の損失が1000万円以上になったらこれをやめると告げた。3回目のオプション取引は,新規取引の回数で計68 ン取引」という。)。Gは,3回目のオプション取引を始めるに当たって,Nに対し,オプション取引の損失が1000万円以上になったらこれをやめると告げた。3回目のオプション取引は,新規取引の回数で計68回にわたって行われたが,新たな現金が不要であるとの理由から,オプションの売り取引が多く選択された。平成4年3月26日,Hが,オプション料収入を被上告人の平成3年度中の利益に計上することを意図した決算対策として,コール・オプションとプット・オプションを各20単位ずつ売り建てるという取引をしたところ,同年4月1日の決済により差引き1500万円を超える損失が生じた。被上告人は,この結果を受けて3回目のオプション取引を終了させたが,この間のオプション取引の通算損益は,約2090万円の損失となった。 オ平成4年11月にD證券の担当者がO次長(以下「O」という。)に交替となったのを機に,G及びHは,今後の運用方針についてOと4,5回にわたって話し合った。その結果,日経平均株価オプション取引による運用を再開することとし,被上告人は,平成4年12月から平成5年11月にかけて,オプションの売り取引を中心に新規取引の回数で計199回のオプション取引を行った(以下,このと- 4 -きのオプション取引を「4回目のオプション取引」という。)。この間の平成5年4月上旬には,約1億円の損失が発生したが,そのうちの約6400万円は,Hが前年と同様の決算対策として行ったオプションの売り取引に係る損失であった。さらに,平成5年10月末から11月初旬にかけて日経平均株価が急落した際,被上告人はプット・オプションを売り建てていたため,約1億1500万円の損失が生じた。被上告人は,これを最後にオプション取引を終了させた。4回目のオプション取引の通算損益は,約2億0721万円の損 被上告人はプット・オプションを売り建てていたため,約1億1500万円の損失が生じた。被上告人は,これを最後にオプション取引を終了させた。4回目のオプション取引の通算損益は,約2億0721万円の損失であった。なお,Oは,この間,1日に2,3回は被上告人に電話をかけ,週に1,2回は被上告人を訪れ,G及びHと会うなどして,相場の見通しを話し合ったり決済の指示を受けるなどしていた。 カ被上告人は,前記のとおり,純資産基準額を維持する必要があったが,被上告人の投資意向は,手堅い商品に投資を限定しようとするものではなく,多少のリスクがあってもできるだけ利益を上げたいというものであった。また,被上告人は,本件取引の運用資金が借入金であることはD證券の担当者に説明していたが,上記純資産基準額を維持する必要があるという説明まではしていなかった。 2 本件は,被上告人が,D證券の担当者の行為につき,オプション取引に係る適合性原則違反,顧客にできる限り損失を被らせないようにすべき義務違反,説明義務違反等があったと主張し,上告人に対し,不法行為による損害賠償を求める事案である。 3 原審は,オプション取引に係る適合性原則違反に関し,次のとおり判断して上告人の不法行為責任を肯定した上,過失相殺(5割)をするなどして,被上告人の請求を1億2546万1981円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容した。 (1) オプションの買い取引に関しては,ある程度の証券取引の経験と判断力を有する者であれば,いわゆる一般投資家であっても,証券会社の担当者がこれを勧- 5 -めることが直ちに適合性の原則に違反することになるとはいえない。しかし,オプションの売り取引に関しては,それがコール・オプションであれ,プット・オプションであれ,利益がオプション価格の範囲 5 -めることが直ちに適合性の原則に違反することになるとはいえない。しかし,オプションの売り取引に関しては,それがコール・オプションであれ,プット・オプションであれ,利益がオプション価格の範囲に限定されているにもかかわらず,無限大又はそれに近い大きな損失を被るリスクを負担するものであるから,そのようなリスクを限定し,又は回避するための知識,経験,能力を有しない顧客にこれを勧めて行わせることは,特段の事情のない限り,適合性の原則に違反する違法な行為となるというべきである。 (2) 本件で,G及びHの経歴等を考慮すると,この両名は通常の証券取引を行うことに関しては十分な知識と能力を有していたと認められるものの,オプションの売り取引のリスクを限定し,又は回避するための知識,経験,能力を有していたとは到底認めることができない。そして,被上告人にオプションの売り取引を勧めることが適合性の原則に違反しないこととなる特段の事情もうかがえないから,D證券の担当者であったN及びOが,被上告人にオプションの売り取引を勧誘して3回目及び4回目のオプション取引を行わせたことは,適合性の原則に違反する違法な行為であり,上告人は,不法行為に基づく損害賠償責任を免れない。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 平成10年法律第107号による改正前の証券取引法54条1項1号,2号及び証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号)8条5号は,業務停止命令等の行政処分の前提要件としてではあるが,証券会社が,顧客の知識,経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとならないように業務を営まなければならないとの趣旨を規定し,もって適合性の原則を定める ,証券会社が,顧客の知識,経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとならないように業務を営まなければならないとの趣旨を規定し,もって適合性の原則を定める(現行法の43条1号参照)。また,平成4年法律第73号による改正前の証券取引法の施行されていた当時にあっては,適合性- 6 -の原則を定める明文の規定はなかったものの,大蔵省証券局長通達や証券業協会の公正慣習規則等において,これと同趣旨の原則が要請されていたところである。これらは,直接には,公法上の業務規制,行政指導又は自主規制機関の定める自主規制という位置付けのものではあるが,【要旨1】証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。 そして,証券会社の担当者によるオプションの売り取引の勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していることを理由とする不法行為の成否に関し,顧客の適合性を判断するに当たっては,単にオプションの売り取引という取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく,当該オプションの基礎商品が何か,当該オプションは上場商品とされているかどうかなどの具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである。 (2) これを本件についてみるに,確かに,オプション取引は抽象的な権利の売買であって,現物取引の経験がある者であっても,その仕組みを理解することは必ずしも容易とはいえない上,とりわけオプションの売り取引は,利益がオプション価格の範囲に限 オプション取引は抽象的な権利の売買であって,現物取引の経験がある者であっても,その仕組みを理解することは必ずしも容易とはいえない上,とりわけオプションの売り取引は,利益がオプション価格の範囲に限定される一方,損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性があるものであって,各種の証券取引の中でも極めてリスクの高い取引類型であることは否定できず,その取引適合性の程度も相当に高度なものが要求されると解される。 しかしながら,本件で問題となっている日経平均株価オプション取引は,証券取引法2条22項に規定する有価証券オプション取引に当たるものであって,いわゆるデリバティブ取引の中でも,より専門性の高い有価証券店頭オプション取引などとは異なり,証券取引所の上場商品として,広く投資者が取引に参加することを予定- 7 -するものである。すなわち,日経平均株価オプション取引は,その上場に当たり,大蔵大臣の承認(平成9年法律第102号による改正前の証券取引法110条)を通じて,投資者保護等の観点からの商品性についての審査を経たものであり,また,基礎商品となる日経平均株価やオプション料の値動き等は,経済紙はもとより一般の日刊紙にも掲載され,一般投資家にも情報提供されているなど,投資者の保護のための一定の制度的保障と情報環境が整備されているところである。さらに,平成10年法律第107号による改正前の証券取引法47条の2(現行法の40条1項参照)は,有価証券オプション取引など,一般投資家の保護の観点から特に当該取引のリスクについて注意を喚起することが相当と考えられる類型の取引に関し,証券会社は,いわゆる機関投資家等を除く顧客に対し,契約締結前に損失の危険に関する事項等を記載した説明書をあらかじめ交付しなければならない旨を定めるが,この規定は,専門的な知識及び経 の取引に関し,証券会社は,いわゆる機関投資家等を除く顧客に対し,契約締結前に損失の危険に関する事項等を記載した説明書をあらかじめ交付しなければならない旨を定めるが,この規定は,専門的な知識及び経験を有するとはいえない一般投資家であっても,有価証券オプション取引等の適合性がないものとして一律に取引市場から排除するのではなく,当該取引の危険性等について十分な説明を要請することで,自己責任を問い得る条件を付与して取引市場に参入させようとする考え方に基づくものと解される。そうすると,日経平均株価オプションの売り取引は,単にオプションの売り取引という類型としてみれば,一般的抽象的には高いリスクを伴うものであるが,そのことのみから,当然に一般投資家の適合性を否定すべきものであるとはいえないというべきである。 (3) 【要旨2】日経平均株価オプション取引の以上のような商品特性を踏まえつつ,被上告人の側の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等をみるに,原審の確定した前記の事実関係によれば,被上告人は,返済を要するものとはいえ,20億円以上の資金を有し,その相当部分を積極的に投資運用する方針を有していたこと,このため,代表取締役社長自ら資金運用に関与するほか,資金運用を- 8 -担当する専務取締役において資金運用業務を管理する態勢を備えていたこと,同専務取締役は,それ以前において資金運用又は証券取引の経験はなかったものの,昭和59年9月に本件取引に係る証券取引を開始してから,初めてオプション取引を行った平成元年8月までの5年間に,株式の現物取引,信用取引,国債先物取引,外貨建てワラント取引,株券先物取引等を,毎年数百億円規模で行い,証券取引に関する経験と知識を蓄積していたこと,オプション取引を行うようになってからも,1回目及び2回目のオプ 用取引,国債先物取引,外貨建てワラント取引,株券先物取引等を,毎年数百億円規模で行い,証券取引に関する経験と知識を蓄積していたこと,オプション取引を行うようになってからも,1回目及び2回目のオプション取引では,専らコール・オプションの買い取引のみを,数量的にも限定的に行い,その結果としての利益の計上と損失の負担を実際に経験していること,こうした経験も踏まえ,平成3年2月に初めてオプションの売り取引(3回目のオプション取引)を始めたが,その際,オプション取引の損失が1000万円を超えたらこれをやめるという方針を自ら立て,実際,損失が1000万円を超えた平成4年4月には,自らの判断によりこれを終了させるなどして,自律的なリスク管理を行っていること,その後,平成4年12月に再び売り取引を中心とするオプション取引(4回目のオプション取引)を始めたが,大きな損失の原因となった期末にオプションを大量に売り建てるという手法は,決算対策を意図する被上告人の側の事情により行われたものであること等が明らかである。これらの事情を総合すれば,被上告人が,およそオプションの売り取引を自己責任で行う適性を欠き,取引市場から排除されるべき者であったとはいえないというべきである。そうすると,D證券の担当者(N及びO)において,被上告人にオプションの売り取引を勧誘して3回目及び4回目のオプション取引を行わせた行為が,適合性の原則から著しく逸脱するものであったということはできず,この点について上告人の不法行為責任を認めることはできない。これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,被上- 9 -告人の主張するその余の責任原因について更に審理を尽くさせ 及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。 5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,被上- 9 -告人の主張するその余の責任原因について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官才口千晴の補足意見がある。 裁判官才口千晴の補足意見は,次のとおりである。 私は,法廷意見に賛成するものであるが,本件事案の特殊性にかんがみ,差戻審の審理について,次のとおり補足して意見を述べておくこととしたい。 オプション取引は,抽象的な権利の売買であって,その仕組みを理解することは容易ではなく,特にオプションの売り取引は,利益がオプション価格の範囲に限定される一方,損失が無限あるいは莫大になる危険性をはらむものであり,各種の証券取引の中で,最もリスクの高い取引の一つであるということができる。証券会社が顧客に対してこのようなオプションの売り取引を勧誘してこれを継続させるに当たっては,格別の配慮を要することは当然である。証券会社に求められる適合性の原則の要求水準も相当に高いものと解さなければならないが,本件においては,被上告人が一般投資家の通常行う程度の取引とは比較にならないほどの回数及び金額の証券取引を経験し,その経験に裏付けられた知識を蓄えていたことから,結論的に適合性の原則の違反は否定されるべきものである。しかしながら,本件取引の適合性が認められる被上告人についても,証券会社がオプションの売り取引を勧誘してこれを継続させるに当たっては格別の配慮が必要であるという基本的な原則が妥当することはいうまでもない。 このような観点から,本件においては,証券会社の指導助言義務について改めて検討する必要がある。すなわち,被上告人のような経 格別の配慮が必要であるという基本的な原則が妥当することはいうまでもない。 このような観点から,本件においては,証券会社の指導助言義務について改めて検討する必要がある。すなわち,被上告人のような経験を積んだ投資家であっても,オプションの売り取引のリスクを的確にコントロールすることは困難であるから,これを勧誘して取引し,手数料を取得することを業とする証券会社は,顧客の取- 10 -引内容が極端にオプションの売り取引に偏り,リスクをコントロールすることができなくなるおそれが認められる場合には,これを改善,是正させるため積極的な指導,助言を行うなどの信義則上の義務を負うものと解するのが相当であるからである。 本件においては,被上告人が主張する「顧客にできる限り損失を被らせることのないようにすべき義務違反」の趣旨は必ずしも明確でなく,この点についての主張,立証も尽くされているとはいえないが,本件の異常ともいうべきほどオプションの売り取引に偏った取引状況を見ると,D證券がこのような義務を果たしていたといえるか疑問の余地があり,差戻審においては,このような点についても十分な検討がなされるべきである。 (裁判長裁判官才口千晴裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官島田仁郎)- 11 -

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る