- 1 -主文 本件抗告を棄却する。 抗告費用は抗告人の負担とする。 理由 第1本件抗告の趣旨及び理由本件抗告の趣旨は「1原決定を取り消す。2東京都公安委員会が平成,19年5月18日付けで抗告人に対してした運転免許取消処分の効力は,東京地方裁判所平成19年(行ウ)第709号運転免許取消処分取消請求事件の判決が確定するまで,これを停止する」との裁判を求めるものであり,抗告の。 理由は,抗告人提出に係る即時抗告状の「第3抗告の理由」及び「即時抗告理由書」と題する書面に記載のとおりであるが,要するに,原決定は行政事件訴訟法第25条2項本文の「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」の要件を過度に厳格に解するものであり,また,抗告人は運転免許取消処分により単に収入が減少し,生活が困窮するという損害及び健康を害するという損害を受ける高度の危険が切迫しており,原状回復や金銭賠償により損害を回復することは容易ではないし,また,そうした手段を選択するのは相当ではないから「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当しないとして,申立てを却下した原決定は違法であり,取り消されるべきであるというものである。 第2当裁判所の判断 当裁判所も,本件執行停止申立ては理由がないから却下するのが相当であると判断する。その理由は,原決定5頁7行目冒頭から同6頁16行目末尾までを次のとおり改めるほかは,原決定の事実及び理由欄の「第3当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これをここに引用する。 「( )この点について,疎明資料によれば,抗告人は,昭和▲年▲月▲日 生まれの,本件取消処分当時64歳の1人暮らしの独身男性で,タクシ- 2 -ー運転手として約15年間稼働した経歴を有するものであるところ,平成18年1月ころ よれば,抗告人は,昭和▲年▲月▲日 生まれの,本件取消処分当時64歳の1人暮らしの独身男性で,タクシ- 2 -ー運転手として約15年間稼働した経歴を有するものであるところ,平成18年1月ころからは,有限会社A(以下「A」という)において。 運転手として勤務し,月に22万円ないし42万円程度(平成18年は年額407万3351円,月平均約34万円。甲12の1)の収入を得,他に収入はなく,特段の預貯金もない(甲15の1~3)こと,○,○及び○のため通院をしており,○に関しては平成19年3月19日○検査を行い,○術の必要が指摘された(甲13)が,費用がないため手術に至っていないこと,本件取消処分によりAを平成19年5月19日に解雇されたこと(甲11,同年8月からB社において警備員のアルバ)イトとして主に夜間の勤務を開始したものの,同年10月2日勤務中めまいにより緊急搬送されたこと(甲8)などから,同社に勤務条件の改善を求めたが受け入れられなかったため,Cに転職しアルバイトの警備員として勤務していること,収入は不安定で月額7万円に満たないこともあること(甲3の1・2,16の1~5)が認められる(全体につき甲7,14。 )これらの事実によれば,本件取消処分時の抗告人は,タクシーの運転手としての収入のみで生活し,特段の蓄えもなく,タクシー運転手としての収入があって初めて生活を営むことができる状況であったというべきところ,抗告人は,本件取消処分により運転免許が取り消されたため,タクシー運転手として勤務することができず,65歳と高齢で○などの持病があるため警備員のアルバイトの職を得ても,収入が著しく減少したものであって,抗告人は,本件取消処分によって,生活の維持に困難を帰すべき状況に陥ったと認められ,抗告人については処分により生じる『重 があるため警備員のアルバイトの職を得ても,収入が著しく減少したものであって,抗告人は,本件取消処分によって,生活の維持に困難を帰すべき状況に陥ったと認められ,抗告人については処分により生じる『重大な損害を避けるため緊急の必要がある』と認めるべき事情があるというべきである。 これに対し,相手方は,抗告人がタクシー運転手以外でも生活を維持- 3 -することが可能な職業を探すことは可能である旨を主張するが,抗告人の年齢,経験並びに○などの持病を有していることなどの事情を踏まえると,かかる就職は困難というべきであるから,相手方の主張は理由がない。 次に,本件が『本案について理由がないとみえるとき(行政事件訴訟』法25条4項)に該当するか否かについて判断する。 ( )本件においては,抗告人が,①平成▲年▲月▲日の安全運転義務 違反(点数4)に当たる行為をしたか,及び,②同月▲日の横断歩行者等妨害等(点数5)に当たる行為をしたかが争点となっており,相手方は本件取消処分は上記各違反行為に基づきされたものであるから『本案について理由がないとみえるとき(行政事件訴訟法25条4項)に』該当する旨主張し,抗告人はいずれも違反行為に該当しないと主張している。 ( )このうち,安全運転義務違反については,相手方は,抗告人は平成 ▲年▲月▲日午後▲時▲分ころ,事業用普通乗用自動車(登録番号○○××号。以下「本件車両」という)を運転し,信号機によって交通整。 理が行われている東京都江戸川区α×番先の交差点(以下「本件交差点1」という)を左折進行する際,右方(以下,本件車両の進行方向を。 基準として左右の表記をする)の安全確認を怠り,対面する歩行者用。 信号機の青色の灯火信号に従って本件交差点1の出口に設置されている横断歩道(以下「本件横断 際,右方(以下,本件車両の進行方向を。 基準として左右の表記をする)の安全確認を怠り,対面する歩行者用。 信号機の青色の灯火信号に従って本件交差点1の出口に設置されている横断歩道(以下「本件横断歩道1」という)を右方から左方へ横断し。 てきた自転車(以下「本件自転車」という)に本件車両の右前部を衝。 突させ,本件自転車の運転者に加療約2週間を要する○,○,○,○及び○の傷害を負わせた交通事故(以下「本件交通事故1」という)を。 発生させ,もって道路交通法70条の規定に違反したと主張し,これに対し抗告人は,①抗告人は,本件車両のハンドル,ブレーキを確実に- 4 -操作しており,この点について義務違反はない,②本件車両は,時速8㎞程度で進行していたのであり,他人に危害を及ぼさないような速度で運転していた,③本件交通事故1において,本件自転車の運転者は,夜間であるにもかかわらず,無灯火で,暗色の服装を着用し,しかも,自転車横断帯ではない箇所を走行していたのであるから,抗告人が本件自転車の運転者をより早期に発見できなかったことはやむを得ないことであり,安全運転義務違反はないと主張する。 しかしながら,そもそも抗告人は,本件交通事故1発生日翌日の取調べにおいて,本件自転車を発見できる状況にはなかったといった弁解は一切せずに,概ね『本件交差点1を直進しようか左折しようか迷いながら進行し,別紙図面1の①の地点で左折しようと思い,左折の合図を出して減速し,②の地点からハンドルを左に切り,③の地点で左前歩道上を確認しながら,④の地点で左折する遠方を見ながら進行した。最初に本件自転車を発見した時,抗告人は⑤の地点,本件自転車は<ア>の地点におり,相互の距離は約4m,そのときの本件車両の速度は時速約10㎞から15㎞,本件自転車の運転者は横断歩 見ながら進行した。最初に本件自転車を発見した時,抗告人は⑤の地点,本件自転車は<ア>の地点におり,相互の距離は約4m,そのときの本件車両の速度は時速約10㎞から15㎞,本件自転車の運転者は横断歩道を本件自転車を無灯火で右方から左方に横断中であり,抗告人は『危ない』と思って急ブレーキをかけ,ぶつかったのは<×>の地点で,本件車両の右前バンパーが本件自転車の左前車輪にぶつかり,本件自転車の運転者は<ウ>の地点,本件自転車は<エ>の地点に転倒し,抗告人は⑦に停止した。この事故を起こした原因は,抗告人が,青信号で交差点を左折する時,交差点出口に設置されている横断歩道右方の安全確認が不十分であったためである。左折か直進かまよった後,左折にしたが,横断歩道右に注意していなかったことが不注意な運転をした理由であった』などとして,同事故の発。 生原因は,自身の安全確認が不十分であったことにある旨供述していること(乙22の10頁。なお,抗告人は,転倒した高校生が可哀想とい- 5 -う気持ちを安全確認が不十分であったと述べる形で表現したにすぎず,自らに行政処分を受けるような原因があることを認める趣旨ではないと主張するが(第1準備書面5頁,その時点で何らの弁解も行っていな)いのであり,かかる主張は採用できない,警察官作成の平成▲年▲。)月▲日付け現場見取図(見分日時は同日午後▲時▲分から▲時▲分までである)に,本件交差点1付近の『見とおし』は『よし『明暗』は。 』,『明るい』と記載されていること(乙20)からすると,抗告人は本件交差点1を左折進行する際,本件横断歩道1の右方の安全確認を怠ったため『ゆっくり』とした速度で横断歩道を南から北へ進行する本件自,転車を見落して本件車両を本件自転車に衝突させたというべきであるから,抗告人は,他人 する際,本件横断歩道1の右方の安全確認を怠ったため『ゆっくり』とした速度で横断歩道を南から北へ進行する本件自,転車を見落して本件車両を本件自転車に衝突させたというべきであるから,抗告人は,他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転をする義務(道路交通法70条)に違反したことになる。 なお,本件自転車の運転者は,夜間,無灯火で,目立ちにくい色の服を着用し,自転車に乗車したまま横断歩道を進行していたが,このようなことは日常しばしば見られるのであって,かかる事情から抗告人に安全運転義務違反がないとはいえず,抗告人の主張は理由がない。 ( )次に,横断歩行者等妨害等について,相手方は,抗告人は,平成▲ 年▲月▲日午後▲時ころ,本件車両を運転し,信号機によって交通整理が行われている東京都江東区β×番先の交差点(以下「本件交差点2」という)を左折進行する際,対面する歩行者用信号機の青色の灯火信。 号に従って本件交差点2の出口に設置されている横断歩道(以下「本件横断歩道2」という)を左方から右方へ横断してきた歩行者(以下。 「本件歩行者」という)に気付かないまま,本件横断歩道2の直前で。 一時停止せずに漫然と左折進行し,本件歩行者に本件車両の前部を衝突させ,本件歩行者に加療約1週間を要する○の傷害を負わせる交通事故(以下「本件交通事故2」という)を発生させ,もって道路交通法3。 - 6 -8条1項の規定に違反したと主張し,これに対し抗告人は,①本件車両は時速6㎞程度で進行していたのであって,本件横断歩道2の直前で停止することができるような速度で進行していたことは明らかであり,②抗告人が本件横断歩道2の直前にさしかかったとき,本件歩行者を含む数人の小学生は,同横断歩道の脇の歩道において談笑中で本件横断歩道2を横断しようとする素振りは で進行していたことは明らかであり,②抗告人が本件横断歩道2の直前にさしかかったとき,本件歩行者を含む数人の小学生は,同横断歩道の脇の歩道において談笑中で本件横断歩道2を横断しようとする素振りは全くなかったのであり,抗告人の進路の前方を横断しようとする歩行者や自転車はなかったから,そもそも,抗告人は本件横断歩道2の直前で一時停止する必要はなかった,③抗告人が本件歩行者が飛び出してくるのを発見したとき,本件歩行者は,歩道から車道へ飛び出した直後の状況であったので,抗告人が実際に発見するよりも早く,本件歩行者の飛び出しを発見することは不可能であったと主張する。 これにつき,抗告人は,本件交通事故2発生当日の取調べにおいて,本件歩行者を発見できる状況にはなかったといった弁解は一切せずに,概ね『横断歩道上を左から右に横断する人に気が付かなかった。左方の安全を確かめれば良かった。ぶつかる直前,本件歩行者は走っていたが,。 。 あっと思った時にはぶつかっていた』旨を供述していること(乙27なお,抗告人は,小学生が可哀想であるという気持ちを表現するため,もっと注意をしていれば良かったと述べたまでであると主張するが,この時点で何らの弁解も行っていないのであるから,やはり抗告人の主張は採用できない,警察官作成の平成▲年▲月▲日付け現場見取図。)(別紙図面2)によれば,抗告人が本件歩行者を発見した地点(同図面の③)と衝突した地点(同図面の③)が同じであるとされていることなどに照らすと,抗告人は本件交差点2を左折進行する際,既に本件横断歩道2を横断して<ア>の地点に至っていた本件歩行者に気付くと同時にこれに本件車両を衝突させていることを認めることができるから,②の- 7 -地点付近で本件歩行者の動静に留意していれば,横断歩道により本件車両の <ア>の地点に至っていた本件歩行者に気付くと同時にこれに本件車両を衝突させていることを認めることができるから,②の- 7 -地点付近で本件歩行者の動静に留意していれば,横断歩道により本件車両の前方を横断し,又は,横断しようとする歩行者があることを確認することができたものと認めるのが相当であり,抗告人はその確認を怠り,横断歩道の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げない措置を採らなかったものということができるのであり,このような抗告人の行為は,道路交通法38条1項後段に該当する。 ( )以上のとおり抗告人の各行為は,それぞれ安全運転義務違反(道路 交通法70条)及び横断歩行者等妨害等(道路交通法38条1項後段)に該当するものであって,これに基づき本件取消処分は適法に行われたといえ,抗告人の主張は失当であるから,本件申立ては『本案について理由がないとみえるとき』に該当するというべきである」。 よって,本件執行停止申立てを却下した原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから棄却することとして,主文のとおり決定する。 平成21年1月8日東京高等裁判所第20民事部裁判長裁判官山本博裁判官森邦明裁判官藤岡淳
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