主文 一原判決を取り消す。 二控訴人が被控訴人に対し、雇用契約上の地位を有することを確認する。 三被控訴人は控訴人に対し、金一四〇万七〇〇〇円、及び平成四年一二月以降毎月二五日限り月額三九万八五〇〇円を支払え。 四訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。 五この判決は第三項に限り仮に執行することができる。 事実と争点第一控訴人の申立一 (主たる請求)主文と同旨二 (当審で追加した予備的請求)被控訴人は控訴人に対し、七一六万二七〇〇円、及びこれに対する平成四年九月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。 仮執行宣言第二争いのない事実等及び争点左記のほかは、原判決の「事実及び理由」中「第二事案の概要」摘示のとおりであるから、これを引用する。 一原判決四枚目裏一四行目「配達の場合、配達原票」を「集荷の場合、集荷原票」と改める。 二同五枚目裏九行目「A」から一三行目「理由書を、」までを「いずれも平成四年八月二八日付け『理由書』に、Bは前記三(1)ア、イ及び同(2)アの各事実を認める旨、A(以下「A」という。)は控訴人の指示で同(1)ア、イの不正をした旨及び同(2)ア、イの各事実を認める旨、C(以下「C」という。)は控訴人の指示により同(1)ア、イ及び同(2)アの各不正をした旨、D(以下「D」という。)はCと同旨又は同(2)アは控訴人の指示ではないとする点でこれと異なる内容(文言上はいずれとも確定できない。)をそれぞれ記載して被控訴人に提出した。」と改め、同六枚目表一行目「、それぞれ」を削る。 三同六枚目表八行目「決定をした」の次に「(乙一号証)」を加える。 四同六枚目表一二行目の後に改行して次を加え、一三行目「4」、同七枚目表二行目「5」、九行目「6」を順次「5」、「6」、 を削る。 三同六枚目表八行目「決定をした」の次に「(乙一号証)」を加える。 四同六枚目表一二行目の後に改行して次を加え、一三行目「4」、同七枚目表二行目「5」、九行目「6」を順次「5」、「6」、「7」と改める。 「4 被告の就業規則一四四条は、懲戒処分を受けたものは、懲戒決定の通知を受けた日から一四日以内に賞罰委員会に対して異議申立ができる旨定めている(乙四)。控訴人は、本件懲戒解雇の直後に賞罰委員会に対して異議申立をしたが、同委員会は、同月下旬ころ、これを事実上却下した(控訴人本人)。」五同七枚目表七行目「乙四号証、証人Eの証言」を「当事者間に争いがない」と改める。 六同八枚目裏八行目「合理性がない。」を「合理性がなく、解雇権の濫用である。」と改め、同九枚目表一一行目と一二行目との間に次を加え、一二行目「カ」を「ク」と改める。 カ控訴人は、本件不正受給のあったころ、上司から保険金詐欺行為を強要されて心身の過労の極限状態に追い込まれたが、このことが控訴人の監督上の過失を誘発した。 キ被控訴人は、平成四年五月、宇治店の監査を実行したが本件不正受給を発見していない。被控訴人が適正な監査をしていれば、本件不正受給の拡大を防止できたはずである。 七同九枚目表一五行目「著しく不合理であり、」の次に「解雇権の濫用であるから、」を加える。 八予備的請求についての控訴人の主張 1 懲戒解雇の場合、一律に退職金を全額不支給とすることは、たとえ就業規則にその旨の規定があっても、退職金の性格、労働基準法の諸規定や精神に照らして許されない。本件の場合、解雇権濫用を基礎付ける事情として前述したところに照らすと、仮に、本件懲戒解雇又は本件予備的懲戒解雇が有効であるとしても、控訴人は、右解雇による退職に伴い、具体的退職金請求権を取得した。 2 よって、懲 権濫用を基礎付ける事情として前述したところに照らすと、仮に、本件懲戒解雇又は本件予備的懲戒解雇が有効であるとしても、控訴人は、右解雇による退職に伴い、具体的退職金請求権を取得した。 2 よって、懲戒解雇が有効と判断される場合には、予備的に退職金七一六万二七〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。 九予備的請求についての被控訴人の主張懲戒解雇の場合、就業規則の定めによって、退職金を不支給とすることは当然許容される。仮に、労働者に重大な不信行為のあった場合でなければ退職金を不支給とすることができないとしても、本件の場合、控訴人に重大な不信行為が存在することは明白であるから、控訴人には退職金請求権がない。 理由 一懲戒解雇事由の存否 1 前記認定の本件始末書並びにA、C及びD各作成の理由書の記載内容に証拠(乙六、一一、一二、二一、二四号証、証人E)を総合すると、本件不正受給の手段のうち、物販チラシの配付枚数を配達枚数として計上した件、及び未収集金をした場合配達枚数にも加算した件は、控訴人がBらに指示してさせたものと認められ、また、商流荷物の集荷の際、集荷荷物の個数を集荷枚数として計上した件について、控訴人は、少なくともBらの全部又は一部がこのような不正申告をしていたことを知りながら是正させず放置したものと推認される(これらが原因で、重量点の計算対象重量が過当計上となったことは、前記認定の重量点の計算方法からして容易に推認できる。)。控訴人のこれら所為は、就業規則一四二条八号所定の不正な方法による賃金詐取の幇助に該当する。 控訴人は、控訴人の指示を認めた本件始末書の記載は事実と相違する旨主張するが採用できない。その理由は、原判決一一枚目表一行目から同枚目裏三行目までの説示と同一であるから、これをここに引用する( 。 控訴人は、控訴人の指示を認めた本件始末書の記載は事実と相違する旨主張するが採用できない。その理由は、原判決一一枚目表一行目から同枚目裏三行目までの説示と同一であるから、これをここに引用する(ただし、「甲九号証、一一号証の一、一三号証の一、一四号証は、これらが当審係属後に作成されたこと、被控訴人の本社担当者らの指示、示唆により、不正計上は控訴人の指示によるものとする旨決定されたといいながら、本件始末書及び前記各理由書において、すべてが控訴人の指示による不正計上とされずに控訴人の指示によるものとそうでないものとが区別されている理由について依然何ら説明がないことに照らして、採用できない。」を加える。)。 2 被控訴人は、本件不正受給のその他の手段(集荷原票枚数七一枚以上の場合の処理、空振の場合の処理及び複数運転手が作業した場合の重量点計算)についても、控訴人はこのような過誤計上を知悉しながら放置した旨主張する。そして、乙六号証及び証人Eの証言中には右主張に副う部分があり、その内容も全く首肯できないわけではないが、確たる具体的根拠があるわけではなく、なお推測の域を出ないから、にわかに採用できない。前記認定のとおり、本件始末書には右各過誤計上は控訴人の説明不足が原因でなされた旨の記載があるが、控訴人本人尋問の結果によれば、その趣旨は、控訴人が元々その過誤計上の事実を知っていたというのではなく、平成四年八月の被控訴人の調査結果から控訴人もかような過誤があったことを確認したため、始末書に右のような記載をしたものとも解されるから、本件始末書の右記載も被控訴人の右主張の裏付けとはならない。他に、右主張を認めるに足りる証拠はない。 もっとも、証拠(甲三号証、乙六号証、証人E、控訴人本人)によって認められる控訴人の経歴、宇治店の規模、業態、控訴人の 控訴人の右主張の裏付けとはならない。他に、右主張を認めるに足りる証拠はない。 もっとも、証拠(甲三号証、乙六号証、証人E、控訴人本人)によって認められる控訴人の経歴、宇治店の規模、業態、控訴人の業務内容に照らすと、控訴人は、右各過誤計上を容易に知り得たものと認められる。したがって、右過誤計上による賃金過払いについては、控訴人にも重大な過失があるというべきであり、この点で、控訴人には就業規則一四二条四号該当事由があるといえる(なお、乙六号証によれば、被控訴人は、後にBらから過払い賃金の一部返還を受けたことが認められるが、これは被控訴人における「損害の発生」を一部否定する理由にはならない。)。 以上によると、控訴人は就業規則一四二条四号、八号の懲戒解雇の基準に該当する。 二本件懲戒解雇及び本件予備的懲戒解雇の解雇権濫用性証拠(甲五、六号証、七号証の一ないし三、一三号証の一、乙四、六号証、証人E、控訴人本人)に弁論の全趣旨を総合すると、概ね控訴人の主張に副う事実、すなわち、Bらの手当不正受給により控訴人自身が経済的利得を得た形跡はないこと、本件不正受給により被控訴人が被った損害一六四万円余についてはBらから回収済みであること、Bらには本件不正受給を理由とする懲戒処分は何らなされていないこと、控訴人は、昭和三八年に被控訴人に入社して以来、懲戒処分を受けることもなく被控訴人のためそれなりに熱心に稼働してきたこと、控訴人は、宇治店店長当時、多様な業務を一手に処理し、また、被控訴人のため自らの判断で自費を投じたこともあったこと、控訴人は、本件不正受給のあったころ、上司から保険金請求に使用するための虚偽の貨物事故報告書の作成を要請されてこれを実行したこと(ただし、被控訴人が、実際に保険金を不正に受給したか否か等詳細は不明である。)、平成四年 給のあったころ、上司から保険金請求に使用するための虚偽の貨物事故報告書の作成を要請されてこれを実行したこと(ただし、被控訴人が、実際に保険金を不正に受給したか否か等詳細は不明である。)、平成四年五月、宇治店の監査がなされたが、不正や問題点の指摘はなかったこと、就業規則の定めにより、本件懲戒解雇が有効とされると、控訴人は退職金を請求できなくなること(前記のとおり、本件懲戒解雇時点で控訴人が自己都合で退職したとすると、約七一六万円の退職金を取得できた。)が認められる。 右のとおり、本件不正受給のうち、控訴人が指示及び放置した手段によるものは私利が目的でないことからすると、控訴人なりの労務対策と推測され、したがって、動機において汲むべき点がないではなく、損害の填補もなされ、主犯であるBらには懲戒解雇は勿論何の懲戒処分もされていないことの均衡をも考慮すべきほか、控訴人を懲戒解雇に処することは、退職金の受給資格を剥奪して控訴人の入社以来の功績を無にするに等しいといえる。 乙四号証と弁論の全趣旨によると、被控訴人の就業規則には、懲戒は譴責、減給、下車、出勤停止、降職、諭旨解雇、懲戒解雇の七種とし、諭旨解雇は説諭のうえ、解雇し、退職金は基準支給額(自己都合)の五〇パーセントにとどめ、懲戒解雇の際は退職金は不支給とするとし、懲戒解雇の基準に適合するときでも、その情状により諭旨解雇、降職にとどめることができ、また懲戒解雇、諭旨解雇の基準に該当するときでも通常解雇をすることができ、懲戒によって損害賠償義務が免除されるものではないと定めていることが認められる。 控訴人の行為は就業規則の懲戒解雇基準に該当するものではあるが、右の事情を考慮すると、控訴人を解雇するのが相当であるにしても、諭旨解雇、通常解雇の方法もあるのであって、右のとおりの種々の情状の存す 控訴人の行為は就業規則の懲戒解雇基準に該当するものではあるが、右の事情を考慮すると、控訴人を解雇するのが相当であるにしても、諭旨解雇、通常解雇の方法もあるのであって、右のとおりの種々の情状の存する控訴人に対し、七一六万円もの退職金を奪ってまで懲戒解雇するのは懲戒解雇権の濫用とする他はない。したがって、被控訴人が控訴人に対してした懲戒解雇、予備的懲戒解雇は無効である。 三懲戒解雇手続の違法性乙四号証によれば、被控訴人の就業規則一四〇条七号は、「懲戒解雇は原則として行政官庁の認定を受け、予告せず解雇し、退職金は不支給とする。」と定めていることが認められる。 この就業規則にいう「行政官庁の認定」とは、労働基準法二〇条三項、一九条二項の「行政官庁の認定」をいうものと解される。同法の行政庁の認定を受けるのは使用者の行政上の義務であって、これを欠いているだけでは解雇は私法上無効とはならない。しかしながら、本件のように就業規則でこれが解雇の前提として定められた場合は同様に解することはできない。労働基準法の右条項は使用者と国との関係を規制するものであるが、就業規則は使用者と労働者との私法関係を規制するのが本来の目的であるから、就業規則の定め、本件では解雇に先立ち行政官庁の認定を受けるべきことも、使用者(被控訴人)と労働者(控訴人)との私法関係を定めたものと解すべきであって、この認定を欠いた解雇は無効とするのが相当である。 この点に関する原判決の判断には賛成できない。 本件において、被控訴人がこの行政官庁の認定の申請を行わず、勿論その認定を受けていないことは弁論の全趣旨により明らかであり、行政官庁が不当にも事前に申請を拒否する意思を明らかにしたとかの例外的事情も認められないから、この点でも被控訴人の懲戒解雇は無効である。 四結論以上の次第で とは弁論の全趣旨により明らかであり、行政官庁が不当にも事前に申請を拒否する意思を明らかにしたとかの例外的事情も認められないから、この点でも被控訴人の懲戒解雇は無効である。 四結論以上の次第で、控訴人の雇用契約上の地位確認請求は理由がある。 控訴人が本件懲戒解雇直後に賞罰委員会に対して異議申立をしたこと及び雇用契約上の地位確認請求を含む本件訴訟の係属中に本件予備的懲戒解雇がなされたことからすれば、控訴人は被控訴人に対し、本件懲戒解雇及び本件予備的懲戒解雇の各直後に労働債務につき口頭の提供をしていると解するを妨げないところ、本件懲戒解雇以後被控訴人が控訴人の就労を拒否していることは弁論の全趣旨により明らかであるから、被控訴人は、控訴人に対し、民法五三六条二項により、平成四年一〇月分及び一一月分の給料合計七九万七〇〇〇円及び同年度下期の賞与六一万円(前記事実によれば、控訴人が就労していれば、少なくとも右金額が支給されたものと推定される。)の総合計一四〇万七〇〇〇円並びに同年一二月以降毎月二五日限り月額三九万八五〇〇円の給料支払義務があり、したがって、これらの支払を求める控訴人の本訴請求も理由がある。 よって、控訴人の主たる請求は認容すべきところ、これと結論を異にする原判決を取り消し、主文のとおり判決する。 (裁判官井関正裕河田貢佐藤明)
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