主文 被告人を懲役2年4月に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,臍帯血の保管等を業とする株式会社アの代表取締役及び臍帯血販売等を業とする株式会社イの代表取締役(平成27年7月10日以前は実質経営者)として,両社の業務全般を統括管理しているものであるが,第1【平成29年10月5日付け起訴状公訴事実第1】平成26年12月27日,茨城県ab番地所在の当時の前記ア事務所において,長男の臍帯血の保管を前記アに委託していたA(当時38歳)に対し,真実は提供を受けた臍帯血は研究目的に使用せず,前記イにおいて中間業者を介して医療機関に高額で販売する意思であるのにその情を秘し,「臍帯血を研究に使わせていただきたい。」などとうそを言い,さらに,「提供した臍帯血は,再生医療の発展を目指した研究に使用される」旨記載した臍帯血提供同意書を交付して閲読させ,前記Aをしてその旨誤信させ,よって,同月29日,前記Aをして,署名押印した前記臍帯血提供同意書及び臍帯血保管委託基本契約解除通知書を前記ア宛てに郵送させ,その頃,同所に到達させて,その長男の臍帯血1個(販売価格80万円相当)の所有権を前記アに無償で譲渡させ,もって人を欺いて財産上不法の利益を得た第2【平成29年10月5日付け起訴状公訴事実第2】平成27年2月9日,長男及び二男の臍帯血の保管を前記アに委託していたB(当時56歳)が,前記ア事務所に電話をかけて保管委託契約の解約の申込みをした際,前記Bに対し,真実は提供を受けた臍帯血は研究目的に使用せず,前記イにおいて中間業者を介して医療機関に高額で販売する意思であるのにその情を秘し,電話で,「臍帯血を研究開発のために使わせてもらえませんか。 再生 は提供を受けた臍帯血は研究目的に使用せず,前記イにおいて中間業者を介して医療機関に高額で販売する意思であるのにその情を秘し,電話で,「臍帯血を研究開発のために使わせてもらえませんか。 再生医療の発展のために臍帯血を使わせてもらえませんか。」などとうそを言い,さらに,その頃,「提供した臍帯血は,再生医療の発展を目指した研究に使用される」旨記載した臍帯血提供同意書を前記B宛てに送付して閲読させ,前記Bをしてその旨誤信させ,よって,同月13日頃,前記Bをして,署名押印した前記臍帯血提供同意書及び臍帯血保管委託基本契約解除通知書を前記ア宛てに郵送させ,その頃,同所に到達させて,その長男及び二男の臍帯血合計2個(販売価格合計150万円相当)の所有権を前記アに無償で譲渡させ,もって人を欺いて財産上不法の利益を得た第3【平成29年9月15日付け起訴状公訴事実第1】C,D及びEと共謀の上,大阪市cd丁目e番f号所在の診療所であるウにおいて再生医療法に規定する第一種再生医療等に該当する他人間の臍帯血移植を実施するに当たり,前記ウの管理者であるCにおいて,第一種再生医療等提供計画を厚生労働大臣に提出することなく,別表1記載のとおり,平成28年2月13日から平成29年4月14日までの間,3回にわたり,前記ウにおいて,Fほか1名に対し,別表1記載の各目的で,分離調製済みの冷凍保存された他人の臍帯血を,解凍の上,投与し,もって第一種再生医療等提供計画を提出せずに第一種再生医療等を提供した第4【平成29年9月15日付け起訴状公訴事実第2】G,H及びIと共謀の上,東京都gh丁目i番j号k ビル1階所在の診療所であるエにおいて再生医療法に規定する第一種再生医療等に該当する他人間の臍帯血移植を実施するに当たり,前記エの管理者であるGにお G,H及びIと共謀の上,東京都gh丁目i番j号k ビル1階所在の診療所であるエにおいて再生医療法に規定する第一種再生医療等に該当する他人間の臍帯血移植を実施するに当たり,前記エの管理者であるGにおいて,第一種再生医療等提供計画を厚生労働大臣に提出することなく,別表2記載のとおり,平成28年7月28日から平成29年4月12日までの間,6回にわたり,前記エにおいて,Jほか3名に対し,別表2記載の各目的で,分離調製済みの冷凍保存された他人の臍帯血を,解凍の上,投与し,もって第一種再生医療等提供計画を提出せずに第一種再生医療等を提供した 第5【平成29年10月5日付け起訴状公訴事実第3】平成28年11月15日及び同月16日,愛媛県警察本部カ課司法警察員警部補Kにより臍帯血664個の差押えを受け,同日,同人からそのうち649個の仮還付を受けて保管を命ぜられ,これらを保管中,Eと共謀の上, 1 平成29年3月26日,前記保管を命ぜられていた臍帯血のうち,前記ア又は前記イ所有に係る臍帯血1個(検体番号q番)を,被告人において,ほしいままに,茨城県al番地m前記ア兼前記イ事務所から同市no丁目p番地キ株式会社オ駅まで持ち出し,同所において,一般社団法人ウ代表理事のDに譲り渡し, 2 同年4月13日,前記保管を命ぜられていた臍帯血のうち,前記ア又は前記イ所有に係る臍帯血1個(検体番号r番)を,被告人において,ほしいままに,前記ア兼前記イ事務所から前記オ駅まで持ち出し,同所において,前記ウ代表理事のDに譲り渡し,もって横領したものである。 (証拠の標目)省略AAウ(法令の適用)罰条判示第1,第2の各行為それぞれ刑法246条2項判示第3,第4の各行為それぞれ包括して刑法65条1 である。 (証拠の標目)省略AAウ(法令の適用)罰条判示第1,第2の各行為それぞれ刑法246条2項判示第3,第4の各行為それぞれ包括して刑法65条1項,60条,再生医療法60条1号,4条1項〔同種行為を反復継続する意思をもって事前の提出義務に違反し,各提供行為に及んでおり,それぞれ包括一罪になると解する。〕判示第5の各行為包括して刑法60条,252条1項 刑種の選択判示第3及び第4の罪について,それぞれ懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)刑の執行猶予刑法25条1項(量刑の理由) 1 本件は,民間の臍帯血バンクが経営破綻してその事業を引き継いだことを契機に,臍帯血の保管,販売業等を営んでいた被告人が,①被告人の会社に臍帯血の保管を委託していた各被害者に対し,研究に使用する目的であるなどと虚偽の説明をして,臍帯血を無償で譲渡させた詐欺2件(判示第1,第2),②診療所の管理者のほか,臍帯血の卸売業等を営む共犯者らと共謀の上,上記管理者において,第一種再生医療等提供計画を提出することなく,各患者に対し,それぞれ大腸がんの治療,脳性麻痺の治療,アンチエイジング,膵炎の再発防止等の目的で,細胞の分離,冷凍等の操作を加えた他人の臍帯血を解凍した上,静脈注射等をするという方法で臍帯血移植を行った再生医療法違反2件(判示第3,第4),③被告人の会社が所有し,捜査機関により差押えを受け,仮還付を受けて保管を命じられていた臍帯血を,臍帯血の卸売事業等を営む共犯者と共謀の上,判示第3の診療所の代表理事に譲り渡した横領(判示第5)の事案であり,これらは,被告人 査機関により差押えを受け,仮還付を受けて保管を命じられていた臍帯血を,臍帯血の卸売事業等を営む共犯者と共謀の上,判示第3の診療所の代表理事に譲り渡した横領(判示第5)の事案であり,これらは,被告人の会社が保管していた臍帯血に端を発する一連の事件である。 まず,再生医療法違反の各犯行(判示第3,第4)についてみると,再生医療法は,実施される再生医療等に想定されるリスクの程度等に応じた安全確保のための仕組みを設けており,臨床応用がほとんどなく,未知の領域が多く残された第一種再生医療等については,細胞の腫瘍化や予測不能かつ重篤な有害事象を発生させ,人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあることに鑑み,同法4条1項において,これを提供しようとする病院又は診療所の管理者に対し,厚生労働省令で定めるところにより,その提供計画の提出を義務付 けている。被告人らが再生医療法施行以前から実施してきた臍帯血移植は,アンチエイジング等の目的,あるいは移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律施行規則1条所定の27疾病(悪性リンパ腫,急性白血病等の疾病)以外の疾病に対する治療を目的として,免疫抑制等の処置をすることなく,細胞の分離,冷凍等の操作を加えただけの他人の臍帯血を静脈注射等によって患者に投与する方法(以下「本件臍帯血移植」という。)によるものであり,このような方法は,安全性,有効性が確立された医療技術ではなく,投与された細胞の性質が体内で変わり得る未知のリスクが含まれるものであって,移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律2条2項所定の有効性,安全性が確立された造血幹細胞移植には該当せず,また,本来の細胞と異なる構造・機能を発揮することを目的として細胞を使用するものであり,再生医療法2条4項所定の「細胞加工物 法律2条2項所定の有効性,安全性が確立された造血幹細胞移植には該当せず,また,本来の細胞と異なる構造・機能を発揮することを目的として細胞を使用するものであり,再生医療法2条4項所定の「細胞加工物」を用いた医療技術であると解されることなどから,同法4条1項の適用対象となる第一種再生医療等に該当するものであった。 被告人らは,平成27年11月に再生医療法の罰則適用の対象となり,平成28年1月には,厚生労働省から,本件臍帯血移植が再生医療法の対象となるため直ちに治療の提供を中止し,法に基づく手続を行うよう行政指導を受けたにもかかわらず,その後も平成29年4月までの間,医師であるCとGにおいて,被告人から臍帯血の卸売業者であるEやH,Iを経由して提供された臍帯血を用いて判示第3と第4の各犯行に及び,被告人を含む共犯者はいずれも多額の利益を得ていたのであり,その各犯行は,再生医療等提供計画の提出を義務付けることにより当該治療の安全性確保を図るという同法の趣旨を没却する悪質な犯行であったというべきである。加えて,判示第4の犯行については,Gにおいて,前記27疾病に該当する病名又はその疑いがあるなどと,事実とは異なる診断名をカルテに記載するなどして再生医療法の適用除外となる臍帯血移植であるかのように装いながら犯行に及んでいたというのであり,なお さら悪質であったといわざるを得ない。 また,本件臍帯血移植は,前記のとおり,安全性や有効性が科学的に証明されておらず,仮に,第一種再生医療等提供計画を提出しても,そのまま受理されることはないというものであり,人命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあったのであるから,唯一医業を行うことができる医師によってこのような行為が行われたことは,再生医療そのものに対する国民の信頼を著しく失墜させるものであ り,人命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあったのであるから,唯一医業を行うことができる医師によってこのような行為が行われたことは,再生医療そのものに対する国民の信頼を著しく失墜させるものであり,その社会的影響も看過することができない。 被告人は,EやHらを介してCやGに継続的に臍帯血を提供し,臍帯血移植の症例に係る照会に回答するなど,CとGが本件臍帯血移植を実施する上で重要な役割を果たし,判示第3及び第4の犯行に限っても,臍帯血の販売によって約970万円という多額の利益を得ている。また,臍帯血移植が違法であると確定的に認識しながら,保有していた臍帯血をできる限り販売して利益を得たいと考え,確たる根拠もないのに,共犯者らに対し,本件臍帯血移植が再生医療法の適用対象ではないなどと誤った説明を重ね,本件臍帯血移植の継続を助長したのであり,その身勝手な意思決定に対しては厳しい法的非難が向けられるべきである。 そうすると,被告人自身は,第一種再生医療等提供計画の提出義務を課されている管理者(医者)ではなく,個々の案件で臍帯血移植を実施するかどうかの判断はCやGに委ねられている点を前提としても,被告人の本件各犯行への関与の度合いはかなり大きく,共犯者との比較においても,犯情は重いというべきである。 3 次に,詐欺の各犯行(判示第1,第2)についてみると,被告人は,将来子供が病気になった場合に備えて有償で保管委託していた,臍帯血に思い入れのある各被害者に対し,臍帯血が再生医療発展のための研究に用いられるなどと申し向けてその旨信じ込ませ,臍帯血合計3個の所有権を放棄させたのであり,各被害者の善意等を利用し,言葉巧みに臍帯血をだまし取った手口は悪質というほかな い。もとより,転売目的でこのような犯行に及んだ動機等に酌むべき事情は見受け 計3個の所有権を放棄させたのであり,各被害者の善意等を利用し,言葉巧みに臍帯血をだまし取った手口は悪質というほかな い。もとより,転売目的でこのような犯行に及んだ動機等に酌むべき事情は見受けられず,実際,不正に入手した上記臍帯血のうちの2個を合計330万円もの高額で売却し,利益を得ていることからしても,その意思決定に対しては厳しい法的非難が向けられるべきである。 4 加えて,横領の犯行(判示第5)についても,自らが行ってきた臍帯血関連事業が捜査対象とされていたにもかかわらず,その事業を第三者に譲渡して利益を得ようと考え,買収話を仲介していたDが自らが経営する診療所に対する臍帯血の販売の継続を求めていたことから,Eの依頼に応じて,Dの便宜を図る目的で犯行に及んだというのであり,その利欲的な動機に酌むべき点がないことはもとより,犯行の発覚を免れるため,押収されている臍帯血の全体の個数が変わらないよう別の臍帯血を入れ替えて保管する偽装工作を施していることからしても,犯情が軽いとはいえない。 5 以上のとおり,被告人については,犯情の重い再生医療法違反(法定刑が1年以下の懲役等)の犯行が2件ある上に,より法定刑の重い詐欺や横領の犯行があり,これらの犯情も併せ考慮すると,その刑事責任は,共犯者と比較しても,全体として重いといわざるを得ない。 6 ただ,被告人にこれまで懲役前科がないこと,犯罪事実を認めて反省の態度を示し,経営する臍帯血販売会社を既に解散するなどして,今後は臍帯血移植等に関わらない旨約していること,詐欺の各被害者との間でそれぞれ示談が成立していること,出廷した妻が今後の監督を申し出ていることなどの事情を考慮すると,懲役2年4月の刑を科してその刑事責任を明確にした上,今回に限っては刑の執行を猶予し,社会内において自力更生の 談が成立していること,出廷した妻が今後の監督を申し出ていることなどの事情を考慮すると,懲役2年4月の刑を科してその刑事責任を明確にした上,今回に限っては刑の執行を猶予し,社会内において自力更生の機会を与えるのが相当であると判断した。 (求刑―懲役2年6月)(別表省略)平成29年12月14日 松山地方裁判所刑事部 裁判長裁判官末弘陽一 裁判官馬場義博 裁判官丸林裕矢
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