令和6年4月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和4年(ワ)第19222号特許権移転登録手続請求事件口頭弁論終結日令和6年2月9日判決 原告株式会社グレースラボテック 同訴訟代理人弁護士阿部有生也梶井啓順 被告株式会社アデランス 同訴訟代理人弁護士髙山和也 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、別紙特許権目録記載の特許権につき、特許法74条1項を原因とする移転登録手続をせよ。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨本件は、原告が、発明の名称を「ヘアーアイロン」とする特許第6527371号の特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(別紙特許権目録記載の特許権。以下「本件特許権」という。)について、原告は本件特許の特許 請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明」という。)につ いて特許を受ける権利を有する者であったにもかかわらず、原告の代表権限を有しないA(以下「A」という。)が、原告に無断でその権利をB(以下「B」という。)に譲渡してしまったため、本件発明について特許を受ける権利を有しないはずのBが本件特許権の設定登録を受けており、本件特許は特許法123条1項6号に規定する要件に該当すると主張して、本件特許権の特許権者と して登録されている被告に対し、同法74条1項に基づき、本件特許権の移転登録手続を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並 要件に該当すると主張して、本件特許権の特許権者と して登録されている被告に対し、同法74条1項に基づき、本件特許権の移転登録手続を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者 ア原告は、化粧品、美容器具、日用品雑貨の企画デザイン、輸入・製造及び販売等を目的とする株式会社である。 イ被告は、かつら、かつら用付属品、これらの材料、理容美容器具の製造・販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。 ⑵ 本件発明に係る特許出願(以下「本件出願」という。)及び本件訴訟に至 る経緯ア本件発明は、現在の原告代表取締役であるD(以下「D」という。)及びE(以下「E」という。)によって発明されたものであり、平成26年11月16日、本件発明について特許を受ける権利はD及びEから原告に譲渡され、原告は、平成27年4月6日、本件出願(特願2015-77 467号)を行った(甲3ないし5)。 イ Aは、平成27年7月22日付けで原告の代表取締役として登記されていたところ、同年8月18日、原告の代表取締役の名義で、本件発明について特許を受ける権利をBに譲渡する旨の譲渡証書(以下「本件譲渡証書」という。)を作成した(甲6、7。以下、本件譲渡証書に係る譲渡契約を 「本件譲渡契約①」という。)。 ウ本件出願に係る出願人名義は平成28年8月18日に原告からBに変更され、Bは、平成30年4月6日、本件出願についての審査請求をした(乙1)。 エ特許庁審査官は、平成31年2月14日、本件出願について特許をすべき旨の査定をし、Bは、令和元年5月17日、本件特許権の設定登録を受 けた(甲5、乙2)。 オ Bは、令和4年2月1日 。 エ特許庁審査官は、平成31年2月14日、本件出願について特許をすべき旨の査定をし、Bは、令和元年5月17日、本件特許権の設定登録を受 けた(甲5、乙2)。 オ Bは、令和4年2月1日、被告の完全子会社である株式会社ライツフォル(以下、「ライツフォル」といい、ライツフォルと被告を併せて「被告ら」という。)との間で、本件特許権をライツフォルに譲渡する旨の契約(以下「本件譲渡契約②」という。)を締結し、ライツフォルは、同年4 月8日、被告との間で、本件特許権を被告に譲渡する旨の契約(以下「本件譲渡契約③」という。)を締結した。そのため、現在、本件特許権の特許権者は被告となっている(甲4、乙5、10、弁論の全趣旨)。 カ原告は、令和4年7月30日、本件訴訟を提起した。 3 争点 ⑴ ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項を類推適用することの当否(争点1)⑵ 原告の特許法74条1項に基づく移転登録手続請求が権利濫用といえるか(争点2)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項を類推適用することの当否)について(被告の主張)以下のとおり、ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項が類推適用されることにより、原告は、被告に対し、自らが本件発明につい て特許を受ける権利を有していることを主張することができないから、原告の 請求は理由がない。 ⑴ 特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合においても民法94条2項類推適用により第三者が保護され得ること原告は、特許法74条及び79条の2第1項の趣旨からすれば、真の権利者が同法74条1項に基づく移転登録手続請求を行った場合にお においても民法94条2項類推適用により第三者が保護され得ること原告は、特許法74条及び79条の2第1項の趣旨からすれば、真の権利者が同法74条1項に基づく移転登録手続請求を行った場合においては、冒 認出願をした者(以下「冒認者」という。)からの譲受人等について、民法94条2項を類推適用する余地はないと主張する。 しかしながら、特許法79条の2第1項は通常実施権を設定する限度での保護を認めたものにすぎず、民法94条2項類推適用による保護とはその効果が異なる上、その要件としても、同項類推適用では真の権利者の帰責性が 要求される点が特許法79条の2第1項とは異なっている。そうだとすれば、特許法74条及び79条の2第1項の定めが民法94条2項類推適用を排除するものとはいえない。 そして、特許権の譲受人にとって、通常実施権の設定のみを得られる状況と特許権を保有している状況とでは大きく異なり、他方、冒認出願がされた 場合であっても、権利者が、そのことを認識したにもかかわらず、これを放置し、事実上承認していたと評価されるような場合においては、そのような権利者を保護する必要性は低い。 したがって、特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合においても、譲受人等の第三者は民法94条2項類推適用により保護され得る と解すべきである。 ⑵ 民法94条2項類推適用の要件を満たすことア原告には虚偽の外観作出について帰責性があることAは、平成27年6月11日に原告の代表取締役を辞任した後、再度、同年7月15日に原告の代表取締役に就任する旨の登記を行っており、 その就任に当たっては、自らが株主として臨時株主総会を招集している ところ、Aがこのような形で株主総会を開催できたのは、 年7月15日に原告の代表取締役に就任する旨の登記を行っており、 その就任に当たっては、自らが株主として臨時株主総会を招集している ところ、Aがこのような形で株主総会を開催できたのは、原告の株式がAを経由して株式会社トータルライフファクトリー(以下「トータルライフファクトリー」という。)に譲渡される形になっていたことが原因であり、この譲渡契約に係る契約書を作成していたのは、原告の真の代表者であるとされるDであった。 そうすると、そもそもAが、原告代表者として行動することになったのは、原告自身の行動に起因するものであったといえる。 また、Dは、遅くとも平成28年10月時点で、本件発明について特許を受ける権利が原告からBに譲渡されていることを認識していたが、その時点では、Bやその依頼を受けた代理人が所属する特許事務所の弁 理士などに連絡を取っておらず、本件出願における審査請求の状況すら確認していなかった。 そして、原告が、正当に手続を行えるようになったと主張する令和3年7月20日時点で、Dが本件発明について特許を受ける権利がBに譲渡されていることを認識してから約5年が経過しようとしていたが、そ の時点以降、原告は、Bに対する処分禁止の仮処分の申立てを含めて、何らの措置や手続も行わず、虚偽の外観を放置していた。 以上によれば、原告に虚偽の外観作出に係る帰責性が認められることは明らかである。 イ被告らは、Bが本件特許権を有していなかったことについて、善意無過 失であること原告は、被告らに平成27年8月18日の時点でAが原告の代表権限を有していたか否かを確認すべき義務があったと主張するが、そもそも特許権の譲渡において、それまでに発生したすべての譲渡契約の有効性を調査すべき義務 らに平成27年8月18日の時点でAが原告の代表権限を有していたか否かを確認すべき義務があったと主張するが、そもそも特許権の譲渡において、それまでに発生したすべての譲渡契約の有効性を調査すべき義務があるとはいえない。 また、原告は、被告らの過失を基礎付ける事情として①ないし⑤の不 審事由を主張するが(後記(原告の主張)⑵イ)、①出願人が個人名義であることや、出願人や特許権者と発明者とが一致していないことは、一般的にみられるものであり、②特許権者である個人とは別に特許権に係る発明を実施している法人が存在していることは、その個人が特許権の譲渡を受けていないという疑念を抱かせるものとはいえず、③法人の 代表者印として個人名義の印鑑が利用されることは、特段珍しいことではなく、④出願から4か月で法人から個人に対して特許を受ける権利が譲渡されることも、特段不自然なものとはいえず、そして、⑤Bがヘアーアイロンに関する事業を行っていないとしても、Bにおいて、本件発明について特許を受ける権利の譲渡を受ける必要性が否定されるわけで はない。 そうすると、原告の主張する不審事由は、いずれも被告らの過失を基礎付ける事情とはいい難い。 したがって、被告らは、Bから本件特許権の譲渡を受けた時点で、Bが本件特許権を有していなかったことについて善意無過失であったとい える。 ⑶ 小括以上によれば、民法94条2項が類推適用されることによって、原告は、被告に対し、自らが本件発明について特許を受ける権利を有していることを主張することができないから、原告の請求は理由がない。 (原告の主張)⑴ 特許法74条1項に基づく移転登録手続請求を行った場合においては、譲受人等との関係で民法94条2項類推適用を主張できない ることができないから、原告の請求は理由がない。 (原告の主張)⑴ 特許法74条1項に基づく移転登録手続請求を行った場合においては、譲受人等との関係で民法94条2項類推適用を主張できないことア特許法74条に関する法改正の際、冒認者からの譲受人をどのように扱うべきかについて議論されており、その中では、冒認出願を理由に特許が 無効にされる場合には、第三者が有する特許権が消滅することとのバラン スからすれば、冒認出願を理由に特許を受ける権利が真の権利者に移転される場合においても、基本的に第三者を保護する必要はないこと、冒認者は、本来、何らの権利も有しない者であり、そのような者による処分行為は原則として無効なものとするのが適切であること、仮に第三者を保護することにすると、冒認者が特許権の譲渡を行うことで真の権利者を容易に 害することができ、その結果、真の権利者の救済が図れなくなることから、冒認出願を理由に特許が無効にされ得る場合、譲受人は、冒認者から取得していた権利を失うこととするのが適当であると整理された。 他方、冒認出願を理由に特許が無効にされる場合には、譲受人が発明の実施を継続できることに照らすと、冒認出願を理由に特許権が移転される 場合においても、譲受人による実施が妨げられるべきではないこと、第三者が冒認出願に係る特許権であることを公開情報から把握することは一般的には困難であり、公示を信頼して特許権を取得した者を保護する必要があることから、同法79条の2第1項において、その特許権の移転の登録前に、特許が冒認出願等の要件に該当することを知らないで、日本国内に おいて当該に係る発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業 に、特許が冒認出願等の要件に該当することを知らないで、日本国内に おいて当該に係る発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有するものとされた。 仮に真の権利者が同法74条1項に基づく移転登録手続請求をした場合に、冒認者からの譲受人等との関係で民法94条2項類推適用の可能性が あるとすると、冒認者からの譲受人等が特許権を取得し、真の権利者が特許権を失うという結果が生じ得ることになるが、このような結果は、上記の特許法74条及び79条の2第1項の趣旨に反することとなる。 イそして、冒認出願には、①冒認者が特許出願した場合だけでなく、②真の権利者が出願した後で、出願名義の権限のない者が譲渡証書の偽造等に より出願人名義を自己の名義に変更した場合も含まれており、本件は上記 ②の場合に該当するところ、いずれの場合であっても、真の権利者には特許法74条1項による保護が認められており、真の権利者と冒認者からの譲受人等との間の利益状況は異なるところはない。 ウしたがって、真の権利者が特許法74条1項に基づく移転登録手続請求を行った場合においては、譲受人等との関係で民法94条2項類推適用を 主張できないと解するべきである。 ⑵ 民法94条2項類推適用の要件を満たさないことア原告に虚偽の外観作出についての帰責性はないこと原告は、平成27年7月頃から、A及びBに乗っ取られた状態になっており、その直後に行われた本件譲渡契約①について、真の原告代表者 であるDは全く関与していなかった。また、原告の実印等は、Dが管理しており、これをAに預けていたといった事情もない。そして、商業登記簿上、A に行われた本件譲渡契約①について、真の原告代表者 であるDは全く関与していなかった。また、原告の実印等は、Dが管理しており、これをAに預けていたといった事情もない。そして、商業登記簿上、A及びBが原告の取締役とされており、かつ、本件譲渡契約①に関する書類もAやBが所持していた状況が続いていたから、Dとしては、何らかの手続が取れる状況にはなかった。 なお、被告は、DがBやその依頼を受けた代理人が所属する特許事務所の弁理士などに連絡を取っていないことを原告の帰責性を基礎づける事実として主張する。しかしながら、Bは原告を不正に乗っ取った当事者であり、その代理人弁理士もBの意向に沿って行動することが想定され、Dに協力することはあり得ないことからすれば、仮にDがBやその 代理人弁理士に連絡を取ったとしても、何ら虚偽の外観を取り除くことにはつながらず、場合によっては逆効果となる可能性すらあるから、それをしなかったことをもって、原告に帰責性があると評価するのは現実的でない。 そのような中、原告がDを被告として提起した損害賠償請求訴訟にお いて、Aが平成27年7月15日及び同月30日に行った各臨時株主総 会決議(以下、それぞれ「本件株主総会決議①」及び「本件株主総会決議②」という。)等が不存在といえるかが実質的に争われ、東京地方裁判所は、令和元年10月11日、これらの決議が不存在であることを理由として、その訴えを却下する判決を言い渡し、これを不服として控訴が提起されたが、東京高等裁判所は、令和2年3月19日、同控訴を棄 却する旨の判決を言い渡した。 その後、Dは、原告の代表者代表清算人として前記の訴訟を遂行したF弁護士(以下「F弁護士」という。)に対し、原告に関する資料の引渡しを求めたが 、同控訴を棄 却する旨の判決を言い渡した。 その後、Dは、原告の代表者代表清算人として前記の訴訟を遂行したF弁護士(以下「F弁護士」という。)に対し、原告に関する資料の引渡しを求めたが、F弁護士がそれに応じなかった。そのため、Dは株主総会決議不存在確認の訴えを提起し、東京地方裁判所は、令和3年7 月20日、本件株主総会決議①及び②等が不存在であることを確認する旨の判決を言い渡し、同年10月中旬頃までに、同判決が確定して、その嘱託登記が完了した。 上記判決後、Dは、F弁護士に対し、改めて原告に関する資料の引渡しを求めたが、F弁護士はその要請を無視し続けた。 この点に関し、被告は、令和3年7月20日に勝訴判決を得た段階で、仮処分の申立て等を行うべきであったと主張するが、嘱託登記が完了したのは同年10月中旬頃であり、かつ、同判決の確定後にBが更に特許権を譲渡することは考え難かったことからすれば、上記のようにF弁護士に対して資料の引渡しを求めた原告の対応には、何ら問題はない。 以上のように、真の代表者であるDが何らかの法的手続をとれるようになったのは、令和3年10月中旬頃であり、Bからライツフォルに本件特許権が譲渡されたのは、そのわずか3か月半後のことであるから、原告が虚偽の外観を放置又は承諾していたとは評価できない。 したがって、原告に虚偽の外観作出についての帰責性があったとは認 められない。 イ被告らは、Bが本件特許権を有していなかったことについて悪意であったか、それを知らなかったことに過失があったこと被告らが原告の登記情報を取得したのは、被告から依頼を受けた特許事務所が本件特許に関するファイル記載事項の閲覧を行った令和3年9月8日以降と考えられる。そうであると かったことに過失があったこと被告らが原告の登記情報を取得したのは、被告から依頼を受けた特許事務所が本件特許に関するファイル記載事項の閲覧を行った令和3年9月8日以降と考えられる。そうであるとすれば、被告らは、取得した登 記情報により、本件譲渡契約①が締結された平成27年8月18日の時点においてAが原告代表者ではなかったことを確認することができたはずであるから、その事実を認識していたというべきである。 この点について、被告の担当者であるG(以下「G」という。)は、本件訴訟において、会社間の合意書に代表者の個人印が用いられること は中小企業であればままあることである旨陳述書に記載し、また、同旨の証言をしていることから、被告は、原告が中小企業であると認識していたといえるところ、原告が中小企業であるか否かを判断するためには、原告の商業登記簿を取得し、その資本金等を確認する必要がある。そうだとすれば、被告が上記のような認識をしていたという事実は、被告が、 本件譲渡契約②を締結するまでの間に、原告の商業登記簿を取得した上で、平成27年8月18日の時点でAが原告代表者ではなかったことを認識していたことを推認させるものである。 したがって、被告らは、本件譲渡契約①が権限のないAによって締結された無効なものであり、Bが本件特許権を有していなかったことを認 識していたといえ、虚偽の外観につき悪意であったと認められる。 仮に被告らが虚偽の外観について悪意ではなかったとしても、①本件特許のように、個人が出願人及び特許権者になる場合で、出願人及び特許権者と発明者とが一致しないケースは、極めて異例であること、②出願した特許に係る発明を実施している法人である原告が、その特許を受 ける権利を個人であるBに 特許権者になる場合で、出願人及び特許権者と発明者とが一致しないケースは、極めて異例であること、②出願した特許に係る発明を実施している法人である原告が、その特許を受 ける権利を個人であるBに譲渡することは、極めて不自然であること、 ③Aが、平成27年4月22日付けの「発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書」では、原告の名称及び役職(代表取締役)が入った印鑑を用いている一方、本件譲渡証書では、その印鑑とは異なるAの個人印を用いていること、④自ら実施している発明に関する特許を受ける権利を、その出願から僅か4か月後に、法人である原告が 個人であるBに譲渡することは、極めて不自然であること、⑤Bは、個人としても、Bが代表者を務めると思われる警備・メンテナンスを業とする法人としても、ヘアーアイロンに関する事業を行っておらず、原告からそのようなBに対し本件発明について特許を受ける権利が譲渡されることは不自然であることなどといった不審事由が存在する。 このような事情からすれば、被告らには、Aが平成27年8月18日時点で原告の代表権限を有していたか否かを確認すべき義務があったといえ、その確認のためには、原告の登記情報を取得するか又は原告に確認するだけで済む。それにもかかわらず、被告らは、原告の登記情報の取得及び原告への確認をしていないから、被告らには、少なくとも、B が本件特許権を有していなかったことを知らなかったことについて過失がある。 ⑶ 小括以上によれば、本件において民法94条2項を類推適用することはできないから、被告の主張は理由がない。 2 争点2(原告の特許法74条1項に基づく移転登録手続請求が権利濫用といえるか)について(被告の主張)仮に本件で民法9 推適用することはできないから、被告の主張は理由がない。 2 争点2(原告の特許法74条1項に基づく移転登録手続請求が権利濫用といえるか)について(被告の主張)仮に本件で民法94条2項が類推適用されないとしても、前記2(被告の主張)の事情からすれば、原告の特許法74条1項に基づく移転登録手続請求は、 同法の趣旨を逸脱する行為であり、権利の濫用に該当する。 したがって、原告の特許法74条1項に基づく移転登録手続請求は認められない。 (原告の主張)真の権利者による特許法74条1項に基づく移転登録手続請求には期間制限が設けられていない以上、真の権利者が冒認出願及び第三者の存在を認識した 後、いつでも権利行使することができ、本件における原告の移転登録手続請求も特許法が当然に予定している権利行使といえる。 また、第三者が冒認者から特許権を譲り受けた後も、その特許権が無効審判により無効とされる可能性がある以上、第三者の期待を保護する必要はなく、被告が被る損害は、特許法が当然に想定しているものといえる。 仮に特許法74条1項に基づく移転登録手続請求が権利の濫用になるような場合があるとしても、それは、原告において、被告が長年にわたって本件発明を実施して利益を上げていることを認識し、これを奇貨として実施料を得る目的で権利行使したような事情が存在する場合であるところ、本件において、そのような事情は存在しない。 したがって、原告の特許法74条1項に基づく移転登録手続請求が権利の濫用に当たらないことは明らかである。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項を類推適用することの当否)について ⑴ 特許法74条1項に基づく移転登 いことは明らかである。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項を類推適用することの当否)について ⑴ 特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合における民法94条2項類推適用の可否について被告は、ライツフォルによる本件特許権の取得について民法94条2項が類推適用されることにより、原告は本件発明について特許を受ける権利を有していることを主張することができないと主張する。 これに対し、原告は、特許法74条及び79条の2第1項の趣旨からすれ ば、特許を受ける権利を有する者が同法74条1項に基づく移転登録手続請求を行った場合において、冒認者からの譲受人等の関係で民法94条2項を類推適用することはできないと主張する。 この点について、特許法は、同法123条1項6号等の要件に該当するときには、特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、その特許 権者に対し、当該特許権の移転を請求することができると定めつつも(特許法74条1項)、その特許権の移転の登録前に、同号等に規定する要件に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権 を有するものと定めている(同法79条の2第1項)。 他方、民法94条2項の類推適用は、権利外観法理を根拠として、虚偽の外観が作出され、その作出について真の権利者の積極的な関与又は承認がある場合のほか、当該権利者にこれらと同視し得るほど重い帰責性が認められる場合に、当該権利者は、その外観が虚偽であることについて善意又は善意 無過失である第 真の権利者の積極的な関与又は承認がある場合のほか、当該権利者にこれらと同視し得るほど重い帰責性が認められる場合に、当該権利者は、その外観が虚偽であることについて善意又は善意 無過失である第三者に対し、当該第三者が権利を取得していないと主張することができないとする理論構成である。 このように、特許法74条1項及び79条の2第1項は、真の権利者の帰責性にかかわらず、一定の要件を満たす善意の第三者に通常実施権を認めるものであり、他方、民法94条2項の類推適用は、虚偽の外観作出に係る真 の権利者の帰責性と第三者の善意又は善意無過失とを要件として、当該権利者が権利を失ってもやむを得ないと判断できる場合に、当該権利者から当該第三者への権利主張を許さないとするものであって、両者の要件及び効果は異なっている。 そして、特許法79条の2第1項は、善意の第三者が通常実施権を有する と規定するのみであり、民法の第三者保護規定を上書きするような性格であ ることはうかがわれず、また、特許法全体をみても、同法79条の2第1項が民法の第三者保護規定に対して優先する関係に立つことを示す規定は見当たらない。 以上によれば、特許法74条1項に基づく移転登録手続請求がされた場合においても、冒認者からの譲受人等との関係で民法94条2項を類推適用す ることは可能であると解される。 ⑵ 本件における民法94条2項類推適用の要件充足性についてア虚偽の外観作出に係る原告の帰責性について後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 aDは、トータルライフファクトリーの従業員として、株式会社エタ ーナルとの間でヘアートリートメントアイロン「アフロート」の製造販売事業を企画しており、その企画に賛同した 実が認められる。 aDは、トータルライフファクトリーの従業員として、株式会社エタ ーナルとの間でヘアートリートメントアイロン「アフロート」の製造販売事業を企画しており、その企画に賛同したH(以下「H」という。)は、平成23年10月11日、上記事業のために原告を設立した(甲1、26)。 bAは、トータルライフファクトリーのアシスタントとして、Dから の指示を受け、同社の顧客対応や事務を行っていた(甲26、原告代表者)。 cHは、平成26年頃、自身が経営する株式会社グレースの事業に専念するため、原告代表者を辞任し、また、原告の株式をトータルライフファクトリーに譲渡することにした。 そこで、Dは、Aに対して原告代表者の就任を依頼し、Aは、同年6月頃、原告代表者に就任し、その旨の登記がされた。 また、原告の株式については、株式会社グレースの取引先であるトータルライフファクトリーに対してHから直接株式を譲渡することを避けるため、Aを経由して株式を譲渡することとし、同月11日、D が作成した契約書により、原告の株式をHからA及びAからトータル ライフファクトリーの順で譲渡する旨の契約が締結された。(甲26、原告代表者)dD及びEは、平成26年11月16日、本件発明について特許を受ける権利を原告に譲渡し、原告は、平成27年4月6日、本件出願を行った。なお、Aは、少なくとも同年6月11日頃までは原告代表者 としての地位を有していた。(甲3ないし5、7)eAは、平成27年7月15日、自らが原告の株主であるとして臨時株主総会を開催し、同株主総会では、Dを原告の取締役から解任する旨の決議並びにAを原告の取締役及び代表取締役に選任する旨の決議(本件株主総会決議①)がさ 7月15日、自らが原告の株主であるとして臨時株主総会を開催し、同株主総会では、Dを原告の取締役から解任する旨の決議並びにAを原告の取締役及び代表取締役に選任する旨の決議(本件株主総会決議①)がされ、同月22日、その旨の登記がされた。 また、Aは、同月30日、臨時株主総会を開催し、同株主総会では、Bを原告の取締役に選任する旨の決議(本件株主総会決議②)がされ、同月31日、その旨の登記がされた。(甲7、8)Dは、同月頃、上記の登記がされていることを認識した。なお、Dは、Bと面識がなかった(甲26、原告代表者)。 fAは、平成27年8月18日、Bとの間で本件譲渡契約①を締結し、原告の代表取締役の名義で、本件発明について特許を受ける権利をBに譲渡する旨の譲渡証書(本件譲渡証書)を作成した(甲6)。 gAは、平成28年3月1日、臨時株主総会を開催し、同株主総会では、原告を解散し、F弁護士を原告の代表清算人に選任する旨の決議 (以下、当該決議と本件株主総会決議①及び②とを併せて「本件各株主総会決議」という。)がされ、同月14日、その旨の登記がされた(甲7、8)。 hF弁護士は、平成28年4月19日、Dが原告の預金等を私的流用していたなどと主張して、原告の代表清算人として、Dに対し、損害 賠償金の支払を求める支払督促の申立てを行い、同申立ては通常訴訟 (以下「本件損害賠償訴訟」という。)に移行した。本件損害賠償訴訟においては、本件各株主総会決議の有効性が問題となった。(甲26)iDは、平成28年11月29日までに、本件発明について特許を受ける権利がBに譲渡されていることを認識し、本件特許について原告 の出願代理人を務めていた創光国際特許事務所のL弁理士(以下「L弁理士」という。)にその 月29日までに、本件発明について特許を受ける権利がBに譲渡されていることを認識し、本件特許について原告 の出願代理人を務めていた創光国際特許事務所のL弁理士(以下「L弁理士」という。)にその出願状況を確認したところ、L弁理士は、Dに対し、本件出願の出願人が原告からBに変更され、それに伴い、出願代理人が特許業務法人京都国際特許事務所に変更されたことを報告した(甲30、原告代表者)。 j 本件特許については、平成30年4月6日に審査請求がされ、平成31年2月14日に特許査定がされて、Bは、令和元年5月17日、本件特許権の設定登録を受けた(甲5、乙1、2)。 Dは、同月頃には、上記の経過を経てBが本件特許権の設定登録を受けたことを認識していた(原告代表者)。 k 本件損害賠償訴訟については、令和元年10月11日、東京地方裁判所により、訴えを却下する旨の判決が言い渡され、これを不服として控訴が提起されたが、東京高等裁判所は、令和2年3月19日、同控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、同判決は確定した(甲26、原告代表者)。 l その後、Dは、F弁護士に対し、原告に関する資料の引渡しを求めたが、F弁護士はそれに応じなかったため、令和3年になって、原告に対し、本件各株主総会決議不存在の確認を求める訴えを提起した。 同訴えにおいて、原告は、適式な呼出しを受けたにもかかわらず、口頭弁論期日に出頭せず、東京地方裁判所は、令和3年7月20日、D の請求を認める旨の判決を言い渡し、同判決は同年8月5日に確定し た。(甲7、8、26、原告代表者)m 前記lの判決確定を踏まえ、令和3年8月30日付けで、Dを原告の取締役から解任する旨の決議の不存在の判決が確定したこと及びDの取締役としての地位が回復 た。(甲7、8、26、原告代表者)m 前記lの判決確定を踏まえ、令和3年8月30日付けで、Dを原告の取締役から解任する旨の決議の不存在の判決が確定したこと及びDの取締役としての地位が回復したことなどに関する登記がされ、また、同年9月29日付けで、平成27年7月15日付けのDの退任登記が 職権抹消され、Dの代表取締役としての地位回復に関する登記がされた(甲7)。 n 令和4年2月1日、Bとライツフォルとの間で、本件譲渡契約②が締結され、同年4月8日、ライツフォルと被告との間で、本件譲渡契約③が締結された(甲4、乙5、10、弁論の全趣旨)。 前記bないしdのとおり、Aは、トータルライフファクトリーのアシスタントとして、Dからの指示を受け、同社の顧客対応や事務を行っていたところ、平成26年6月頃にDからの依頼を受けて代表取締役に就任し、少なくとも平成27年6月11日頃までは原告の代表取締役であったもので、しかも、原告の設立者であったHは、原告の株式を、い ったんAを経由させてからトータルライフファクトリーに譲渡することとし、平成26年6月11日には、Dが作成した契約書により、原告株式をHからA及びAからトータルライフファクトリーの順で譲渡する旨の契約が締結され、Aは、そのような契約関係も利用して、本件株主総会決議①によって原告の代表取締役に就任したものである。 そして、前記e及びfのとおり、Aは、平成27年7月15日に臨時株主総会を開催し、同株主総会では、自らを原告の代表取締役に選任する旨の本件株主総会決議①がされ、同年8月18日には、AとBとの間で、本件発明について特許を受ける権利をBに譲渡する旨の本件譲渡契約①が締結されたものである。 そうすると、Aによる本件譲渡契約① 会決議①がされ、同年8月18日には、AとBとの間で、本件発明について特許を受ける権利をBに譲渡する旨の本件譲渡契約①が締結されたものである。 そうすると、Aによる本件譲渡契約①の締結は、原告の株主であった Hや原告の真の代表者とされるDの行動に起因するものであって、Bが本件特許権を有しているとの虚偽の外観作出については、原告自身の内部的な事情や行為が大きく関わっていたものというべきである。 また、前記e及びhのとおり、Dは、平成27年7月頃には、同人を原告の取締役から解任し、Aを原告の取締役及び代表取締役に、Bを 原告の取締役に、それぞれ就任させる旨の登記がされていたことを認識しており、本件損害賠償請求訴訟においても、A及びBを取締役等に選任するなどした本件各株主総会決議の有効性が問題となっていたものである。 そして、前記e及びi並びに弁論の全趣旨によれば、Dは、遅くと も平成28年11月29日までに、本件発明について特許を受ける権利が、自己と面識はなく、Aと協力関係にあると考えられるBに譲渡されていたこと、本件出願の出願人が原告からBに変更され、それに伴い、出願代理人が特許業務法人京都国際特許事務所に変更されていたことを認識していたものと認められる。 さらに、前記jのとおり、本件特許については、平成30年4月6日に審査請求がされ、平成31年2月14日に特許査定がされて、Bは、令和元年5月17日に本件特許権の設定登録を受けていたが、Dは、その経過についても認識していたものである。 このように、原告の真の代表者とされるDは、平成27年7月頃には、 Aが自らを原告の代表取締役に選任させるなどの行動をとっていたことを認識しており、さらに、平成 ていたものである。 このように、原告の真の代表者とされるDは、平成27年7月頃には、 Aが自らを原告の代表取締役に選任させるなどの行動をとっていたことを認識しており、さらに、平成28年11月29日には、本件発明について特許を受ける権利が、Dと面識はなく、Aと協力関係にあると考えられるBに譲渡されていたことを認識していたものである。 それにもかかわらず、Dは、前記k及びlのとおり、令和2年3月 19日に本件損害賠償請求訴訟の控訴が棄却された後も、令和3年に至 るまで、本件各株主総会決議の不存在確認を求める訴えを提起しておらず、弁論の全趣旨によれば、その他の訴訟又は非訟の手続やBに対する働きかけといった措置もとっていないものと認められる。 さらに、原告は、前記lのとおり、令和3年7月20日に本件各株主総会決議不存在確認の訴えで勝訴判決を得て、同判決が同年8月5日 に確定した後も、本件特許権がBからライツフォルに譲渡される令和4年2月1日までの間に、Bに対する特許権移転登録手続請求や譲渡禁止の仮処分の申立てといった法的手段のみならず、原告に本件特許の登録を戻すことや他者にその登録を移転しないことを求める連絡等の措置もとらなかったものと認められる(原告代表者、弁論の全趣旨)。 以上のように、そもそも、Aが本件譲渡契約①を締結し、Bが本件特許に係る特許権者であるとの虚偽の外観を作出するに至ったのは、原告自身の内部事情や行為にその一因があるといえる上、原告の真の代表者とされるDが、遅くとも平成28年11月29日の段階で、上記の虚偽の外観が存在していることを認識していたにもかかわらず、令和3年ま での約4年間、本件各株主総会決議の不存在確認の訴え等を行っておらず、さらに、令和3年8月 年11月29日の段階で、上記の虚偽の外観が存在していることを認識していたにもかかわらず、令和3年ま での約4年間、本件各株主総会決議の不存在確認の訴え等を行っておらず、さらに、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存在を認める判決が確定してからも、Bからライツフォルに本件特許権が譲渡されるまでの約半年の間、Bに対して何らの措置もとっていないのである。 このような事情からすれば、原告には、虚偽の外観作出について、自 ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性が認められるというべきである。 これに対し、原告は、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存在を認める判決が確定してからの行動について、嘱託登記が完了したのが同年10月中旬頃であり、かつ、同判決の確定後、Bが更に本件特許 権を譲渡することは考え難かったことからすれば、F弁護士に対して資 料の引渡しを求めていた原告(D)の対応に何ら問題はないと主張する。 しかしながら、同年8月5日の段階で、本件譲渡契約①の締結から既に約6年が経過していたこと、Bは、Dと面識はなく、Aと協力関係にあったと考えられることからすれば、本件各株主総会決議の不存在を認める判決が確定した段階で、Bに対して特許権移転登録手続請求等の法 的な措置を速やかにとる必要性は高かったものといえる。 また、前記k及びlのとおり、F弁護士は、本件損害賠償請求訴訟において、その訴えを却下する判決が確定した後も、Dからの資料の引渡請求に応じなかったこと、本件各株主総会決議不存在確認の訴えにおいて、原告の代表清算人とされていたF弁護士は、適式な呼出しを受け たにもかかわらず、口頭弁論期日に出頭しなかっ からの資料の引渡請求に応じなかったこと、本件各株主総会決議不存在確認の訴えにおいて、原告の代表清算人とされていたF弁護士は、適式な呼出しを受け たにもかかわらず、口頭弁論期日に出頭しなかったことが認められ、このようなF弁護士の対応や訴訟態度を踏まえると、本件各株主総会決議の不存在を認める判決の確定後であっても、同弁護士がDの資料の引渡請求に応じることは望めない状況であったものと認められる。 以上の事情に加え、原告としては、F弁護士に対して資料の引渡しを 求めつつ、それと並行してBに対して特許権移転登録手続請求等を行うことも可能であったといえることからすると、令和3年8月5日に本件各株主総会決議の不存在を認める判決が確定してからの原告(D)の対応に何ら問題はなかったという原告の主張は採用できないというべきである。 さらに、原告は、Bは原告を不正に乗っ取った当事者であり、その代理人弁理士もBの意向に沿って行動することが想定され、Dに協力することはあり得ないから、仮にDがBやその代理人弁理士に働きかけたとしても、何ら虚偽の外観を取り除くことにはつながらず、場合によっては逆効果となる可能性すらあるとも主張する。 しかしながら、そもそも、B自身が原告を不正に乗っ取った当事者で あることを認めるに足りる証拠はない上、DがBに対して接触した事実がない以上、Dからの働きかけに対してBがどのような態度に出るのかについては、それを示す兆候もなく、虚偽の外観を取り除くことにつながらないとか、逆効果となるといった結末に至ると断定するのは無理がある。さらに、Bやその代理人弁理士がDからの働きかけに応じないと いうことであれば、それは本件特許権の帰属について、BとDとの間で争いがあ 、逆効果となるといった結末に至ると断定するのは無理がある。さらに、Bやその代理人弁理士がDからの働きかけに応じないと いうことであれば、それは本件特許権の帰属について、BとDとの間で争いがあることを意味するものにほかならず、そのような場合、Dとしては、速やかに本件各株主総会決議の不存在の確認の訴え等を行うべき状況にあったものといえる。 したがって、原告の上記主張は採用することができないというべきで ある。 イ被告らの善意無過失について後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 a 被告の担当者であったGは、令和3年5月頃、被告開発部からの調査依頼を受け、開発中のヘアーアイロンに関する特許調査を行ったと ころ、本件特許の存在を認識し、特許事務所に対し、侵害予防調査として上記のヘアーアイロンが本件発明の技術的範囲に属するか及び本件発明には無効理由が存在するかについての調査を依頼した(乙9、証人G)。 b 前記aの調査結果においては、被告が開発中のヘアーアイロンは本 件発明の技術的範囲に属するが、本件発明には無効理由が存在するとの意見が述べられていたため、被告らは、本件特許について無効審判請求をするとともに、Bとの間で、本件特許権の譲渡交渉を行うことにし、この交渉を弁理士に依頼した(乙6、9、証人G)。 c 前記bの依頼を受けた弁理士は、Bとの間で交渉を進め、令和4年 2月1日、Bが同弁理士の所属する特許事務所を訪問して、Bとライ ツフォルとの間で本件譲渡契約②が締結された(甲4、乙5、9、10、証人G、弁論の全趣旨)。 dGは、本件譲渡契約②の締結時において、前記bの依頼を受けた弁理士から、ライツフォルが同契約②を締結することについて、不審事由があると された(甲4、乙5、9、10、証人G、弁論の全趣旨)。 dGは、本件譲渡契約②の締結時において、前記bの依頼を受けた弁理士から、ライツフォルが同契約②を締結することについて、不審事由があるとの報告は受けていなかった(証人G)。 前記aないしdのとおり、Gは、特許事務所に属する弁理士に対して侵害予防調査やBとの本件特許権の譲渡交渉等を依頼し、同弁理士は、令和4年2月1日に本件譲渡契約②を成立させているが、Gは、この本件譲渡契約②を締結することについて、同弁理士から不審事由に関する報告は受けていない。 このような事情に加え、本件譲渡契約②が締結された令和4年2月1日時点で、本件譲渡契約①の締結から既に6年5か月以上が経過していたにもかかわらず、同時点で同契約の有効性が明示的に争われていたわけではなかったことも併せ考慮すると、被告らは、本件譲渡契約②の締結時点で、Bが本件発明について特許を受ける権利の譲渡を受けておら ず、本件特許権を有していなかったことについて、善意無過失であったと認めるのが相当である。 これに対し、原告は、被告らが、原告の商業登記簿を確認することにより、本件譲渡契約①が締結された平成27年8月18日の時点で、Aが原告代表者ではなかったことを認識していたはずであるから、Bが本 件特許権を有していなかったことについて悪意であったと主張する。 しかしながら、証拠(証人G)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、原告の商業登記簿を確認していなかったものと認められ、本件全証拠によっても、被告らが、平成27年8月18日の時点において、Aが原告代表者ではなかったことを認識していたという事実を認めることはでき ないから、原告の主張はその前提を欠くものであって採用できない。 ても、被告らが、平成27年8月18日の時点において、Aが原告代表者ではなかったことを認識していたという事実を認めることはでき ないから、原告の主張はその前提を欠くものであって採用できない。 したがって、被告らが、Bが本件特許権を有していなかったことについて、悪意であったとは認められない。 また、原告は、①本件特許のように、個人が出願人及び特許権者になる場合で、出願人及び特許権者と発明者とが一致しないケースは、極めて異例であること、②出願した特許に係る発明を実施している法人であ る原告が、その特許を受ける権利を個人であるBに譲渡することは、極めて不自然であること、③Aが、平成27年4月22日付けの「発明の新規性の喪失の規定の例外の適用を受けるための証明書」では、原告の名称及び役職(代表取締役)が入った印鑑を用いている一方、本件譲渡証書では、その印鑑とは異なるAの個人印を用いていること、④自ら実 施している発明に関する特許を受ける権利を、その出願から僅か4か月後に、法人である原告が個人であるBに譲渡することは、極めて不自然であること、⑤Bは、個人としても、Bが代表者を務めると思われる警備・メンテナンスを業とする法人としても、ヘアーアイロンに関する事業を行っておらず、原告からそのようなBに対し本件発明について特許 を受ける権利が譲渡されるのは不自然であることなどといった不審事由を指摘して、被告らには、Aが平成27年8月18日時点で原告の代表権限を有していたか否かを確認すべき義務があったと主張する。 しかしながら、本件特許において、出願人及び特許権者が発明者と異なる個人(B)であることや(上記①)、法人である原告が、本件発明 を実施しているにもかかわらず、本件発明に係る特許出願から4か しかしながら、本件特許において、出願人及び特許権者が発明者と異なる個人(B)であることや(上記①)、法人である原告が、本件発明 を実施しているにもかかわらず、本件発明に係る特許出願から4か月後に、その特許を受ける権利を個人であるBに譲渡していること(上記②及び④)が、不自然といえるか否かについては、原告の内部事情等を踏まえて判断されるべきものといえるところ、被告らは、前記アで説示した原告の内部事情等を認識し得ない状況にあり、そのような状況の中 で本件譲渡契約①の有効性及び同契約に基づく特許庁の登録という外観 を疑うことは、困難であったといえる。 そして、本件譲渡証書においてAの個人印が使用されていること(上記③)については、比較的小規模の企業において契約の際に代表者の個人印が使用されることもあり得るものといえ、直ちに、本件譲渡契約①の有効性及び同契約に基づく特許庁の登録という外観を疑うべきという ことにはつながらない。 また、Bが、ヘアーアイロンに関する事業を行っていないこと(上記⑤)も、それだけでBが原告から本件発明について特許を受ける権利の譲渡を受ける必要性を否定する事情とはいえない。 このような事情に加え、前記で説示したとおり、本件譲渡契約①の 有効性は、その締結から6年5か月以上の間、明示的に争われていなかった上、Bが特許権者であるとの外観が相当長期間維持されていたことも踏まえると、原告の指摘する不審事由は、それらを総合考慮したとしても、被告らにおいて、本件譲渡契約①の有効性及び同契約に基づく特許庁の登録を疑い、Aが平成27年8月18日時点で原告の代表権限を 有していたか否かを確認すべき義務を基礎付けるものということはできない。 したがって、原告の上記主 契約に基づく特許庁の登録を疑い、Aが平成27年8月18日時点で原告の代表権限を有していたか否かを確認すべき義務を基礎付けるものということはできない。したがって、原告の上記主張は採用できない。 小括以上によれば、本件においては、民法94条2項が類推適用され、それによって、原告は、原告が本件発明について特許を受ける権利を有していることを被告に主張することができないものと解するのが相当である。 結論よって、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 間明宏充 裁判官 木村洋一 (別紙)特許権目録 特許番号特許第6527371号 発明の名称 ヘアーアイロン 出願日 平成27年4月6日 出願番号 特願2015-77467号 登録日 令和元年5月17日
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