判決平成13年11月30日神戸地方裁判所平成13年(わ)第33号業務上過失傷害被告事件 主文 被告人を禁錮8か月に処する。 この裁判確定の日から3年間刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人に負担させる。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成11年10月28日午前9時5分ころ,業務として普通乗用自動車(タクシー)を運転し,神戸市A区Ba丁目b番c号先の信号機により交通整理の行われている交差点に向けて東進し,同交差点を直進しようとしていた。このような場合,被告人には,対面信号機の表示に注意し,これに従わなければならない業務上の注意義務があった。 ところが,被告人は,同交差点の対面信号機が赤色の表示を示していたのに,これを看過もしくは無視したまま,時速約50キロメートルの速度で同交差点に進入するという過失を犯した。その結果,折から対面赤色右折可の矢印信号に従い対向右折してきたV(当時30歳)運転の原動機付自転車を右前方約22.6メートルの地点に初めて発見し,急ブレーキをかけたが及ばず,被告人運転車両の左前部がV運転の原動機付自転車に衝突し,Vがその原動機付自転車もろとも道路に転倒し,約3か月間の治療を必要とする左大腿骨骨折等の傷害を負った。 (証拠)省略(争点に対する判断) 1 本件の争点は,被告人運転車両が本件交差点に進入した時,被告人の対面信号機の表示が赤色であったかどうか,という点である。 2 まず,本件事故を目撃した証人Cの証言によると,① 本件当日,Cは,トラックを運転して,東から西に向けて,3車線のうちの中央の第2車線を時速約40キロメートルで進行し,本件交差点を直進しようとして本件交差点にさしかかった。Cは,本 によると,① 本件当日,Cは,トラックを運転して,東から西に向けて,3車線のうちの中央の第2車線を時速約40キロメートルで進行し,本件交差点を直進しようとして本件交差点にさしかかった。Cは,本件交差点の約20メートル手前に来た時,Cの対面信号機が黄色に変わった。それで,C運転車両は,本件交差点の停止線の手前で最先頭車両として停止した。 ② Cは,信号で停止して1呼吸おいた時,Cの右側車線を,被害者V運転の原動機付自転車が,かなりエンジンの高い音をたててスピードを出し,車体を右に傾斜させて本件交差点を右折して行った。Cは,V運転の原動機付自転車が通過する後ろ姿を見て,危ないなと感じ,視線を本件交差点の対面信号機に移した時,同信号機は,赤色信号で右折の青矢印信号を表示していた。それで,Cは,V運転の原動機付自転車は青信号だから行ったんだなと思った。 ③ そして,Cは,V運転の原動機付自転車から目を離していたが,V運転の原動機付自転車が衝突する音を聞いた。 ④ その後,Cは,対面信号機が青色信号に変わったので,トラックを発進させ,ゆっくり進行しながら,原動機付自転車ごと横倒しになったVが起き上がろうとしたり,タクシーの運転手がタクシーから下りてくるのを見た。 ⑤ それで,Cは,負傷者が出ていると考え,次の交差点を越えたところでトラックを道路左端に止め,携帯電話で救急車を呼んだ。 以上の事実が認められる。 C証人は,本件交差点で信号停止中に,たまたま本件事故を目撃したものであり,被害者V及び被告人の双方とこれまで一面識もないこと,C証言は,具体的で明確であり,迫真性に富んでいる上,内容も自然であることに照らすと,前記C証言は,その信用性が高いというべきである。 もっとも,C証人は,V運転の原動機付自転車が本件交差点を右折した時の 具体的で明確であり,迫真性に富んでいる上,内容も自然であることに照らすと,前記C証言は,その信用性が高いというべきである。 もっとも,C証人は,V運転の原動機付自転車が本件交差点を右折した時の対面信号機の表示について,平成12年11月15日付け検察官調書(弁1号証)では,「私は,対面信号機が黄色で停止した後は,信号を見ていない。」と述べていたところ,その後の平成13年7月27日の第3回公判における前記証言や平成13年1月22日付け検察官調書(弁2号証)で,対面信号は赤色で右折の青矢印信号が出ていたと供述するようになったので,前記C証言の信用性が,多少疑問に思われるのである。しかし,Cは,前記平成12年11月15日付け検察官調書(弁1号証)で,前記の「信号は見ていない。」という供述に引き続いて,「事故の時は,確かに,黄色か赤で,青ではありませんでした。」と供述しているところ,Cは,前記証言で,後になって前記のような明確な証言や平成13年1月22日付け検察官調書(弁2号証)の供述をした理由について,Vの右折時における対面信号の記憶がはっきりと断定できる状態でなかったので,検察官の平成12年11月15日の取調べの際には供述せず,その後,本件交差点の対面信号の表示が変わる順番や表示の長さ等を確認して,自分の記憶に確信が持てたため,前記のように明確な証言をした旨述べているのであって,黄色か赤色か曖昧であった本件信号の色が,本件交差点の信号の変わり具合等を確認しているうちに確信に至ったという経過に格別不自然な点は見出し難いことに照らすと,前記平成12年11月15日付け検察官調書(弁1号証)に前記のような供述があっても,前記C証言の信用性が左右されることにはならない。 3 しかるところ,本件の被害者であるVの証言によると,① 本件当日,Vは 2年11月15日付け検察官調書(弁1号証)に前記のような供述があっても,前記C証言の信用性が左右されることにはならない。 3 しかるところ,本件の被害者であるVの証言によると,① 本件当日,Vは,原動機付自転車を運転して,東から西に向け,3車線のうちの右端の車線を進行して本件交差点にさしかかり,時速30から40キロメートルで本件交差点を北に向けて右折しようとしていた。 ② Vは,本件交差点の停止線の手前約20メートルの地点で,対面信号機の表示が黄色になったことから,信号が右折の青信号に変わると考え,そのままの速度で進行した。 ③ Vは,本件交差点に進入する時,停止線の手前の位置で,対面信号機の表示が,赤色で,右折のための青色矢印信号が出ているのを確認した上で,本件交差点に進入した。この時,対面信号機の表示が赤色だったので,西行き3車線のうちの左端の車線に自動車が1台停車していた。 ④ ところで,Vは,本件交差点の停止線よりやや東寄り(手前)の位置に来た時,被告人運転車両が,東行き車線の中央の車線を本件交差点に向けて進行してくるのを発見した。Vは,停止線の位置に来た時,被告人運転車両が,本件交差点の停止線よりも西側(手前)の地点を進行してきているのを見た。被告人運転車両は,いったんは停止線で止まりかけたが,再び加速して本件交差点内に進入してきた。 ⑤ そして,Vは,被告人運転車両が止まると思って右折を開始したところ,衝突の危険を感じ,急ブレーキをかける暇もなく,本件交差点のほぼ中央の位置で,被告人運転車両と衝突し,東北の方向に跳ばされてあお向けに路上に倒れ込んだ。 被告人運転車両は,本件交差点の東北角付近の路側帯で停止した。降車した被告人が,路上に倒れているVのところに来て,Vに対し,「こんな所で寝とったらひかれるで。」と言い,Vを 向けに路上に倒れ込んだ。 被告人運転車両は,本件交差点の東北角付近の路側帯で停止した。降車した被告人が,路上に倒れているVのところに来て,Vに対し,「こんな所で寝とったらひかれるで。」と言い,Vを道路端まで引きずって行った。 以上の事実が認められる。 以上のV証言は,具体的で明確である上,前記2に認定したC証言に照らし,ことにVが本件交差点に進入した時における対面信号機の表示に関する証言は一致しているのであって,十分に信用することができる。 4 これに対し,被告人の供述をみると,被告人は,① まず,本件事故当日の平成11年10月28日付け警察官調書(検9号証)で,本件当日,西から東に向け,時速約50キロメートルで進行し,本件交差点の停止線の手前約24.5メートルの地点で(同警察官調書添付の交通事故現場見取図(原図)による。),対面信号の青色を確認して本件交差点を通過しようと判断して本件交差点に進入した,私は,青信号だったので,まさか対向の相手方が私の方をよく見ないで右折してくるとは思わなかったと供述し,② 次いで,平成12年1月21日付け警察官調書(検10号証)でも,前記平成11年10月28日付け警察官調書(検9号証)と同一の供述をし,③ 次いで,平成12年11月28日付け検察官調書(検11号証)では,本件当日,タクシーを運転して,時速約50キロメートルで東進し,本件交差点の停止線を越えた位置の手前約29.5メートルの地点に来た時,対面信号が青色であったので,そのまま速度をゆるめずに,本件交差点に進入した,と前記2通の警察官調書と同一の供述をした上,私が,本件交差点の停止線を越える前,左前方に見える東西の横断歩道用の信号が青点滅していた,と供述し,前記2通の警察官調書では全く供述していないことを付け加えて述べ,④ 次いで 一の供述をした上,私が,本件交差点の停止線を越える前,左前方に見える東西の横断歩道用の信号が青点滅していた,と供述し,前記2通の警察官調書では全く供述していないことを付け加えて述べ,④ 次いで,平成13年9月28日の第4回公判では,前記検察官調書と同一の供述をした上,本件衝突直後に対面信号が黄色だったのを見た,と供述し,捜査段階では全く供述していないことを付け加えて述べている。そして,前記検察官調書で新たに付け加えた事実は,警察官から聞かれなかったから警察官調書で述べなかったのであり,公判で新たに付け加えた事実は,捜査段階で取調官から聞かれなかったから捜査段階では述べなかったのである,と供述するのである。 以上のとおり,被告人は,次々と新たな事実を付け加えて供述を変遷させているところ,本件交差点に進入した時は自分の対面信号機が青色であったことを主張している被告人が,自分の主張を裏付ける重要な事実を小出しにするということ自体甚だ不自然,不合理であるだけでなく,その理由が,取調官から聞かれなかったから供述しなかったというのも,理解に苦しむところであること,しかも,被告人の供述する対面信号機の表示は,前記2に認定したC証言に全く反していること等に照らすと,以上のような被告人の捜査段階及び公判の供述は,到底信用することができない。 5 以上の次第であって,C証言及びV証言によれば,被告人運転車両が,本件交差点に進入した時,被告人の対面信号機の表示は赤色であったと認めることができる。 (法令の適用)罰条刑法211条前段刑種の選択禁錮刑刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の負担刑訴法181条1項本文平成13年11月30日神戸地方裁判所裁判官白神文弘 禁錮刑刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の負担刑訴法181条1項本文平成13年11月30日神戸地方裁判所裁判官白神文弘
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