令和3年8月18日宣告過失運転致死被告事件 主文 被告人を禁錮2年6月に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成31年1月20日午前1時52分頃,コンテナ積載のコンテナシャーシを連結した大型貨物自動車(トラクタ)を運転し,福岡市a 区bc 丁目e 番f号岸壁に係留中の貨物船ロールオン・ロールオフ船「X」Bデッキ内において,船首方向から船尾方向に向かい後退進行するに当たり,後方は前記コンテナに遮られて見通しが効かず安全確認ができない上,右後方には笛による合図で自車を誘導するY(当時20歳)がいたのであるから,右後方を目視するなどして同人の動静に注意し,その安全を確認しつつ後退進行するとともに,同人の笛による停止の合図に従って停止すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,自車右側のコンテナシャーシ上のコンテナ先端と自車に連結されたコンテナシャーシ上のコンテナ先端をそろえることに気を取られ,同人の動静に注意せず,その安全を確認しないまま後退進行し,かつ,自車に連結されたコンテナシャーシの後方には一定の間隔が残るものと軽信して,同人の笛による停止の合図に従うことなく漫然時速約3㎞で後退進行を続けた過失により,同コンテナシャーシの後方に移動した同人に気付かないまま同人を同コンテナシャーシとその後方のコンテナシャーシとの間に挟んで強圧するなどし,よって,同人に胸部挟撃外傷等の傷害を負わせ,同日午前4時15分頃,同市a 区fg 丁目h 番i 号の甲病院救命救急センターにおいて,同人を前記傷害に基づく出血性ショックにより死亡させた。 (有罪認定の理由) 以下,コンテナ積載のコ 前4時15分頃,同市a 区fg 丁目h 番i 号の甲病院救命救急センターにおいて,同人を前記傷害に基づく出血性ショックにより死亡させた。 (有罪認定の理由) 以下,コンテナ積載のコンテナシャーシを連結した大型貨物自動車を「大型トレーラー」と,被告人が本件事故時に運転していた大型トレーラーを「本件トレーラー」と,判示の貨物船「X」を「本件貨物船」といい,本件貨物船に大型トレーラーでコンテナシャーシを積み込む作業を「荷積み作業」という。 本件事故は,被告人が,荷積み作業として,本件トレーラーを運転し,判示の岸壁から本件貨物船の船内に進入して,誘導員であるY(以下「被害者」という。)の指示に従い,本件トレーラーを後退進行させていた際に発生した。被告人は,公判において,本件トレーラーを後退進行するに当たり,コンテナ先端をそろえようとしたことはないし,被害者の停止の笛の合図に従って停止したと供述する。 しかし,現場に居合わせた作業員Z1の供述によれば,被告人が停止の笛の合図に従わずに後退を続けたことが認められる。Z1が停止の笛の合図を聞き間違えることは考えられないし,その供述内容は,迫真的であって,本件トレーラーの速度チャート等の客観証拠とも矛盾せず,被害者がコンテナシャーシに挟まれた原因を合理的に説明するものであるから,信用することができる。 次に,被告人は,捜査段階で検察官に対して判示事実に沿う自白をしており,この自白は,Z1供述と合致するだけでなく,事故当日の実況見分における被告人の指示説明内容と整合しており,被告人が不注意で後退を続けた理由を自然に説明するものであるから,信用することができる。 さらに,弁護人は,被告人が本件事故を予見することは不可能であり,被告人は判示の注意義務を負うものではないと主張するが,現場 後退を続けた理由を自然に説明するものであるから,信用することができる。 さらに,弁護人は,被告人が本件事故を予見することは不可能であり,被告人は判示の注意義務を負うものではないと主張するが,現場の状況等に照らせば,被告人が本件事故を予見することは可能であり,被告人は判示の注意義務を負うものであることが認められる。そして,被告人が,その注意義務を尽くして本件トレーラーを運転していれば,被害者を死亡させる本件事故を惹起することはなかったのであるから,判示事実について被告人は有罪である。 以下,補足して説明する。 第1 前提事実 1 被告人及び被害者について本件事故当時,被告人は,株式会社乙で運転手として稼働し,本件トレーラーを運転して,荷積み作業に従事していたものであり,被害者は,丙株式会社で荷役作業員として稼働し,本件貨物船内で本件トレーラーを誘導する作業に従事していたものである。 2 本件事故現場について本件事故現場は,本件貨物船のBデッキである。 本件貨物船は,船首及び船尾に搬入口があり,事故当時,大型トレーラーが岸壁から船内に出入りできる状態であった。本件貨物船のデッキは,最上層の甲板を含めて5階層で,甲板から順にAデッキからEデッキまで名称が振られ,大型トレーラーは,前記搬入口からCデッキを経由してBデッキに進入することができる。 Bデッキは,全長132m,横幅24.5mで,鉄板の床面上にコンテナシャーシを縦列で並べるための白線が船首から船尾方向に幅2.8mの間隔で引かれ,その白線によって8列の車列が区分されていた。そして,本件事故現場は,8列の車列のうち最も左舷側の車列上の船尾寄りの場所である。 3 荷積み作業の一般的な手順について⑴ 運転手の作業運転手は,大型トレー が区分されていた。そして,本件事故現場は,8列の車列のうち最も左舷側の車列上の船尾寄りの場所である。 3 荷積み作業の一般的な手順について⑴ 運転手の作業運転手は,大型トレーラーを運転して船内に入り,所定の車列付近において,誘導員の誘導を受けながら後退進行し,所定の位置にコンテナシャーシを移動するが,その際,運転手から見て,大型トレーラーの後方は,積載したコンテナに遮られて見通しが効かない。そのこともあって,被告人を含めて乙で稼働する運転手は,荷積み作業を行う際には誘導員の指示に従うように厳しく指導されていた。 ⑵ 誘導員の作業誘導員は,後退進行する大型トレーラーを誘導する際,運転手の目印とし て,運転席側最後部の停止予定位置付近の床上に誘導灯を置き,その近くの運転手から見える位置で笛の合図により誘導を行い,大型トレーラー後部が誘導灯に接近すると床上に置いた誘導灯を手に取り,笛の合図に加えて誘導灯を用いて誘導を行う。 誘導員は,大型トレーラーを普通に後退させるときには「ピー,ピー」というやや長い連続した吹き方の笛の合図をし,停止位置が近づいてきたらゆっくり後退という意味の「ピピッ,ピピッ」という吹き方の笛の合図に変え,停止させるときには「ピーー」と長く笛を吹いて停止の合図をする。 誘導員は,大型トレーラーが完全に停止した後,コンテナシャーシを固定するため,コンテナシャーシの後輪にタイヤ止めを入れる作業(歯止め)を行う。助手席側後輪に歯止めをする場合,大型トレーラーの運転席側後方にいた誘導員は,コンテナシャーシの後方を回り込んで助手席側に移動することになるが,被害者を含めて丙で稼働する誘導員は,荷積み作業を行う際には大型トレーラーが完全に停止するまでその後ろに回り込んで にいた誘導員は,コンテナシャーシの後方を回り込んで助手席側に移動することになるが,被害者を含めて丙で稼働する誘導員は,荷積み作業を行う際には大型トレーラーが完全に停止するまでその後ろに回り込んではならないと厳しく指導されていた。なお,本件事故後,誘導員は歯止め作業をしないことになった。 ⑶ その後の作業大型トレーラーが完全に停止した後,付近で待機していた誘導員とは別の作業員が,コンテナシャーシに設置されているハンドルバーを回して,コンテナシャーシの中間部にある足を出し,コンテナシャーシを固定する作業(足巻き作業)を行う。 他方,誘導員は,歯止め作業後,足まき作業が完了したことを確認し,大型トレーラーのトラクタとコンテナシャーシの連結を解く。その後,誘導員は,運転席付近に行って運転手に発車を指示する。 4 本件事故前の状況平成31年1月20日午前1時30分頃から,本件貨物船のBデッキで荷積 み作業が開始された。誘導員は被害者,足巻き作業員は丙で被害者の後輩に当たるZ1,大型トレーラーの運転手は,いずれも乙の従業員である被告人,Z2及びZ3であった。 本件事故前,被告人,Z2及びZ3は,被害者の誘導の下,Bデッキにそれぞれ2本ずつ,コンテナ積載のコンテナシャーシを積み込んだ。その際,被告人,Z2及びZ3は,被害者の停止の笛の合図に従い大型トレーラーを停止させていた。また,Z2及びZ3が見る限り,大型トレーラーが停止する前に被害者の姿が見えなくなったり,被害者が大型トレーラーの後方に立ち入ったりすることもなかった。 5 本件事故状況その後,被告人が本件トレーラーを運転してBデッキに進入した。本件トレーラーは,コンテナシャーシ部分(以下「本件コンテナシャーシ」という。)を たりすることもなかった。 5 本件事故状況その後,被告人が本件トレーラーを運転してBデッキに進入した。本件トレーラーは,コンテナシャーシ部分(以下「本件コンテナシャーシ」という。)を含めて全長16.5m,横幅2.5mであった。 本件コンテナシャーシの荷積み予定位置は,Bデッキで最も左舷に近い車列上の船尾寄りの場所で,後方は大分2890のコンテナシャーシ(以下「後方コンテナシャーシ」という。),右舷側はRF-172のコンテナシャーシ(以下「右方コンテナシャーシ」という。),左舷側は船壁で囲まれており,右方コンテナシャーシと左舷側船壁との間の距離は,一番短いところで3.7mであった。 被告人は,同日午前1時52分頃,被害者の誘導の下,本件コンテナシャーシの荷積み予定位置に向かって本件トレーラーを後退進行させていたところ,本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシの間に被害者を挟んで強圧する本件事故を起こし,その後,被害者は病院に搬送されたが,死亡した。 なお,本件事故直後,本件トレーラーは,後方コンテナシャーシに接触することなく停止した。また,Z1は,本件トレーラーが後退進行する間,足巻き作業に備えて,本件トレーラーと左舷側船壁の間に立って待機していた。 第2 被告人が被害者の停止の笛の合図に従わずに後退を続けたことについて本件事故現場に居合わせたZ1は,本件事故状況について,「被害者は,後退する本件トレーラーの運転席側最後部の停止予定位置付近に立ち,笛を吹いて誘導していた。途中で積荷のコンテナにさえぎられて被害者が見えなくなったが,笛の合図は聞こえていた。ゆっくり後退という意味の「ピピッ,ピピッ」という吹き方の合図の後に,「ピーー」と長く笛を吹いて停止の合図があったが,本件トレーラーは えぎられて被害者が見えなくなったが,笛の合図は聞こえていた。ゆっくり後退という意味の「ピピッ,ピピッ」という吹き方の合図の後に,「ピーー」と長く笛を吹いて停止の合図があったが,本件トレーラーはゆっくり後退を続けていたので,なぜ止まらないんだろうと思った。その後,被害者があらかじめ決められていた合図と異なる「ピピピピッ」という笛を鳴らしたところ,本件トレーラーは停止した。「ピーー」という停止の笛の音がしてから「ピピピピッ」という笛の音がするまでの時間は1~2秒で,この間に本件トレーラーが後退した距離は30~50cmだと思う。 本件トレーラーが停止した後,通常どおり足巻き作業を行ったが,作業を終えても被害者が歯止めの作業をしに来なかったので,本件コンテナシャーシの後方を確認しに行き,うつ伏せで倒れている被害者を発見した。本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシの間隔は,人が横になってぎりぎり通れるくらいで,約30cmだったと思う。」などと述べて,被告人が被害者の停止の笛の合図に従わずに後退を続けたと供述する。 他方,被告人は,公判において,「本件トレーラーを後退進行するに当たり,被害者の笛の合図は通常どおりであり,ゆっくり後退の合図の後,停止の合図が聞こえてすぐに停止した。」などと供述する。 そこで,Z1供述の信用性について検討する。 1 Z1は,本件までに,少なくとも8か月程度,1週間に1~2回の割合で,誘導員とペアを組んで足巻き作業に従事しており,日頃から誘導員の笛の合図を聞いていた。誘導員の笛の吹き方は,普通に後退させるとき,ゆっくり後退させるとき,停止させるときで,それぞれ特徴的な違いがある上,足巻き作業は大型トレーラーが完全に停止した直後に行われることからすると,Z1は, 誘導員の笛の合図の中でも停 とき,ゆっくり後退させるとき,停止させるときで,それぞれ特徴的な違いがある上,足巻き作業は大型トレーラーが完全に停止した直後に行われることからすると,Z1は, 誘導員の笛の合図の中でも停止の合図には特に意識が向いていたと考えられる。 当時,Z1も被告人も被害者の笛の音は聞こえていたと述べており,笛の音が聞こえにくかったという状況はうかがえない。したがって,Z1が停止の合図以外の笛の音を停止の合図と聞き間違えたということは考えられない。 2 また,停止の合図があったのに本件トレーラーが後退を続けたのでなぜ止まらないんだろうと思ったら,1~2秒後に聞きなれない笛の音が聞こえて本件トレーラーが停止したというZ1の供述は,通常の業務に従事中に通常とは異なる印象的な体験をしたことを,当時の心境を交えて供述するものであって,実際にそのような出来事があったことを十分に感じさせる内容である。被害者の笛の合図が通常どおりであったにもかかわらず,Z1がこのような供述をすることは考えられない。 この点について,弁護人は,動いている本件トレーラーの後ろに入るという被害者の行動の異常性を希薄化させるために,同じ会社で被害者の後輩であるZ1が虚偽の供述をした可能性があると主張する。しかし,Z1が虚偽の供述をした形跡はないし,Z1が虚偽の供述をしても,大型トレーラーが完全に停止するまでその後ろに回り込んではならないと厳しく指導されていたはずの被害者がこれに違反したという事実は変わらないから,弁護人の主張は失当である。 3 さらに,速度チャートによれば,本件トレーラーは,時速約3km(秒速約83cm)で後退していたこと,完全停止の約2秒前に一瞬強くブレーキが踏まれて速度が低下し,そこから約2秒後に完全に停止したことが認められるところ,停止の合図から聞き ーラーは,時速約3km(秒速約83cm)で後退していたこと,完全停止の約2秒前に一瞬強くブレーキが踏まれて速度が低下し,そこから約2秒後に完全に停止したことが認められるところ,停止の合図から聞きなれない笛の音が聞こえて本件トレーラーが停止するまでの時間は1~2秒で,この間に本件トレーラーが後退した距離は30~50cmだと思うというZ1の供述は,それが感覚的な供述にすぎないことを考慮すると,速度チャートの記録内容と矛盾するものとはいえないし,この日に被害者が誘導して荷積みした右方コンテナシャーシとその後方のコンテナシ ャーシの間隔が130cmであったことも併せて考えると,Z1の供述する停止の合図が本来の停止位置からすると早すぎるのではないかという疑問も生じない。 弁護人は,停止後の本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシの間隔が約30cmであったというZ1の供述について,Z1の捜査段階における再現内容等に照らして,正確性に疑問があると主張するが,そもそもこの点に関するZ1の供述が不正確であるとしても,そのことから直ちに,被告人が被害者の停止の笛の合図に従わずに後退を続けたというZ1の供述の信用性に疑問が生じることにはならない。また,弁護人が問題視する再現は,Z1が,本件事故時と同じ位置に立ち,後退する大型トレーラーのコンテナシャーシ側面を確認しながら,本件事故時に被告人が本件トレーラーを停止させた位置に差し掛かった時に笛で停止の合図をして大型トレーラーを停止させることを3回行い,停止した大型トレーラーのコンテナシャーシと後方コンテナシャーシを想定したコーンバーの間隔を測定したところ,それぞれ67cm,49cm,50cmであったというものであって,本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシの間隔を直接再現したものではない上 ナシャーシを想定したコーンバーの間隔を測定したところ,それぞれ67cm,49cm,50cmであったというものであって,本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシの間隔を直接再現したものではない上,Z1自身,公判廷において,前記再現をした時から実際の間隔はもう少し狭かったのではないかと思っていたと述べている。そして,Z1が,本件事故の10日後の警察官による取調べの際に,感覚的に30~40cm前後と述べていること,本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシの間隔を直接再現した際には,約39cmという結果であったことからすると,Z1の記憶する間隔は概ね30~40cmであると認められ,この点に関するZ1の記憶が不正確であるという批判は当たらない。 4 そして,Z1の供述は,被害者が本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシの間に挟まれた原因を合理的に説明するものである。すなわち,Z1の供述によれば,被害者は,停止の笛を吹いて停止すると思った本件トレーラーが後退を続けて,想定外に後方コンテナシャーシに接近したために,あわてて合 図以外の笛を吹いたものの,挟まれてしまったと考えられる。 なお,弁護人は,Z1が,聞きなれない笛の音を聞き,被害者が挟まれたかもしれないと思って確認しに行ったにもかかわらず,倒れている被害者を見て,最初は冗談かなと思ったことが不自然であると主張するが,大型トレーラーが完全に停止するまでその後ろに回り込んではならないと厳しく指導されていたはずの誘導員が本件トレーラーの後方で挟まれて倒れたことがにわかに信じられなくて,冗談かなと思ったとしても不自然ではない。 そのほか,弁護人が主張する事情は,Z1供述の信用性に疑いを生じさせるものではない。 5 被告人は,公判において,被害者の笛の合図は通常どおりであり,ゆっく 談かなと思ったとしても不自然ではない。 そのほか,弁護人が主張する事情は,Z1供述の信用性に疑いを生じさせるものではない。 5 被告人は,公判において,被害者の笛の合図は通常どおりであり,ゆっくり後退の合図の後,停止の合図が聞こえてすぐに停止したなどと供述し,弁護人は,被害者が比較的早い段階から本件トレーラー後方に立ち入り,後方コンテナシャーシを背にして,本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシの間隔を確認しないまま誘導を行った可能性を指摘する。たしかに,被害者は,後退中の本件トレーラーの後方に入るという危険な行動を取っているが,それにしても,後方コンテナシャーシを背にして,目前に本件コンテナシャーシが迫ってきているのに,間隔を確認しないまま,挟まれるほど接近した時点で通常どおりの停止の合図を出すことは考え難い。なお,被害者が自殺するつもりで故意に挟まれるのであれば,そもそも停止の笛の合図を出す必要がない。もとより,被害者が自殺したことをうかがわせる事情も見当たらない。また,次にみるとおり,被告人は,事故当日の実況見分や,その後の取調べにおいて,警察官や検察官に対して,笛の合図に従わずに後退を続けたと述べているのであるから,笛の合図に従って停止したという被告人の供述は一貫性を欠いている。 6 以上によれば,被告人の公判供述を踏まえても,Z1の供述は信用できる。 よって,被告人が被害者の停止の笛の合図に従わずに後退を続けたことが認められる。 第3 被告人の自白の信用性について 1 被告人は,令和元年9月24日,検察官に対して,「本件事故前に被害者の位置を最後に確認したのは,後退を開始した後,本件コンテナシャーシの運転席側車輪がすべて枠線に入ったが,トレーラーヘッド(トラクタ)がまっすぐになっていないときであり,こ て,「本件事故前に被害者の位置を最後に確認したのは,後退を開始した後,本件コンテナシャーシの運転席側車輪がすべて枠線に入ったが,トレーラーヘッド(トラクタ)がまっすぐになっていないときであり,このとき以降,被害者の姿を確認しないで,車両が地面の線に沿っているかなどを確認しながら後退した。トレーラーヘッドがまっすぐになり,あとはまっすぐ後退させるだけの状態になったときも,被害者の位置を確認していない。その後,被害者の「ピーー」という停止の笛の合図を聞いたが,本件トレーラーのコンテナの先端が,右隣(右方コンテナシャーシ)のコンテナの先端よりも若干前に出ており,先端を合わせようと思って,停止の合図に従わないで,右隣のコンテナの方を見ながらゆっくり後退を続けた。停止の合図を聞いてから一呼吸置くくらいの時間(1秒とか2秒といった時間)後退すると,「ピーー」ととても強い笛の音が聞こえ,すぐに本件トレーラーを停止させた。停止の合図に従わないで後退を続けた時にも被害者の姿は確認しておらず,右隣のコンテナの方を確認していた。右隣のコンテナに合わせれば,本件トレーラーの後方の間隔も右隣と同程度になるだろうと安易に考えてしまった。」などと供述して,判示事実に沿う自白をした。 この自白は,前記のとおり信用できるZ1の供述から認められる客観的事実と合致しているだけでなく(なお,最後に聞いた笛の音について,Z1と被告人は異なる表現をしているが,通常の停止の笛の合図の後に笛の音がしたという点では一致しており,両名が同じ笛の音を聞いた上で,それぞれの印象に従って異なる表現をしたものと考えられる。),事故当日に事故現場で被告人立会により実施された実況見分の結果を記載した実況見分調書における被告人の指示説明内容とも整合している上,被告人が不注意で後退を続けた理由 る表現をしたものと考えられる。),事故当日に事故現場で被告人立会により実施された実況見分の結果を記載した実況見分調書における被告人の指示説明内容とも整合している上,被告人が不注意で後退を続けた理由を自然に説明するものであるから,信用することができる。 2 これに対して,弁護人は,前記実況見分調書の記載内容について,見分官で あるZ4警察官が被告人の供述内容を取り違えた可能性や,誘導して思うがままの供述を被告人にさせた可能性があるから信用できないし,被告人は,検察官に対して自白する前に,Z5警察官から威迫や誘導を受けて虚偽の自白をしたものであって,被告人の検察官に対する自白はZ5警察官の取調べの影響を遮断できていないから信用することができないと主張する。 そこで,まず,前記実況見分調書についてみると,同実況見分調書には,被告人が笛の停止合図を聞いた地点(現場見取図④)と,本件トレーラーを停止させた地点(同⑤)が区別されて記載されているところ,Z4警察官は,「停止の笛の音が聞こえた時,右方コンテナシャーシの前面が本件コンテナシャーシの前面よりもだいぶ後方に見えたと被告人が説明したのでその位置を被告人の指示で特定し,そこで停止せずコンテナシャーシの前面を合わせるために後退を続けたと被告人が説明したので,最後に停止した位置を被告人の指示で特定し,そのとおりに実況見分調書を作成した」旨供述する。 この供述は,実況見分時に④,⑤の各地点において,本件コンテナシャーシの前面と右方コンテナシャーシの前面の前後位置の差が計測され,それらの状況が写真撮影されていることと整合しており,具体的である。 これに対して,被告人は,④の地点について,いつでもブレーキが踏めるようにブレーキペダルに足をかけて身構えた位置を説明したと供述するが,停止 が写真撮影されていることと整合しており,具体的である。 これに対して,被告人は,④の地点について,いつでもブレーキが踏めるようにブレーキペダルに足をかけて身構えた位置を説明したと供述するが,停止の笛の音が聞こえたという説明とは全く異なる内容であって,見分官がこれらを取り違えることは考え難いし,事故直後に現場に臨場した見分官が,特定の事故状況を想定して被告人を誘導することも考え難い。また,被告人は,実況見分と同じ日に福岡県東警察署でZ6警察官から取調べを受け,供述調書を作成されたが,その調書には停止の合図に従って停止した旨の記載があることからすると,この日被告人が警察官に対して自分の言いたいことを言えない状態ではなかったと考えられる。なお,弁護人は,前記実況見分調書が実況見分の実施から2か月以上後に作成されたことや,被告人がその 記載内容を確認していないことを問題にするが,前者について,Z4警察官は,見分官として実況見分調書を作成するのは今回が初めてで,写真の精査や文言の吟味に時間がかかったと述べており,後者について,後に述べるように,被告人は,検察官から同実況見分調書添付の現場見取図を見せられて取調べを受けたにもかかわらず,その記載内容が自分の認識と異なる旨述べた形跡はないのであるから,いずれも実況見分調書の作成の真正を疑わせる事情とはいえない。 以上によれば,前記実況見分調書の記載内容が信用できないという弁護人の主張には理由がない。そして,同実況見分調書及びZ4警察官の供述によれば,被告人は,事故当日の実況見分の際に見分官に対して,停止の笛の合図に従わずに後退を続けた旨指示説明したことが認められる。 次に,Z5警察官による取調べの状況についてみると,同警察官は,平成31年3月18日,19日,20日,26日,27日, して,停止の笛の合図に従わずに後退を続けた旨指示説明したことが認められる。 次に,Z5警察官による取調べの状況についてみると,同警察官は,平成31年3月18日,19日,20日,26日,27日,令和元年5月9日,5月17日にいずれも在宅の被告人を福岡県東警察署に呼び出して取り調べ,3月20日に3通,3月27日に5通,5月9日に1通,5月17日に1通の供述調書を作成した。この間の取調べ状況について,被告人は,「当初,停止の合図に従って停止したと述べていたが,Z5警察官から,それなら事故が起きるはずがないとか,「足巻き」(Z1)と言ってることが違うとか,強い口調で何度も問いただされた上に,何回も取調べに呼ぶ,職場にも行くなどと言われ,自分の話を信じてもらえないと思い,取調べに耐えきれない気持ちや被害者に申し訳ない気持ちになり,弁護士や周囲の人に相談することも考えられず,記憶に反して,停止の合図を無視したと供述した。」などと述べる。 Z5警察官も前記のような取調べ状況の外形についてはおおむね認めている上,前記のとおり,被告人が事故当日Z6警察官に対しては停止の合図に従って停止した旨述べていたことや,Z5警察官の取調べを受ける前に丙や 労働基準監督署が実施した調査の際にも停止の合図に従って停止した旨述べていたことからすると,被告人がZ5警察官に対してすすんで停止の合図を無視したという供述をしたとは認められない。 しかし,停止の合図に従って停止したという被告人の供述は,客観的には事実と異なるのであるから,同様の認識の下でZ5警察官が被告人を追及することが直ちに不当とはいえないし,被告人が述べるような心理的圧迫が,在宅の被告人の供述の任意性に疑いを生じさせるものであるということもできない。 そして,Z5警察官が作成した被告人の 人を追及することが直ちに不当とはいえないし,被告人が述べるような心理的圧迫が,在宅の被告人の供述の任意性に疑いを生じさせるものであるということもできない。 そして,Z5警察官が作成した被告人の供述調書に記載された事故状況は,前記検察官に対する自白と大筋で一致するものである。弁護人は,停止の笛の合図を無視してまで後退する動機が被告人には存在しないし,被告人が事故後すぐに被害者の安否を確認していないのは停止の笛の合図に従ったことを前提とする行動であるから,供述調書の内容は信用できないと主張するが,前者についていえば,注意が散漫になっていたために,コンテナの先端をそろえる必要がないのにそろえようとして,そのことに気を取られ,停止の笛の合図を聞き流して漫然と後退を続けてしまったと考えることができるし,後者についていえば,すぐに被害者の安否を確認しなかった理由が停止の合図に従ったからであるとは限らず,停止の笛の合図に遅れて停止した認識があっても,まさか被害者を挟んだとは思わなかったからすぐに被害者の安否を確認しなかったということも考えられる。 したがって,被告人が警察官から威迫や誘導を受けて虚偽の自白をしたという弁護人の主張には理由がない。 さらに,検察官による取調べについて,被告人は,検察官に対して,停止の合図に従って停止したという話をすると,またZ5警察官の取調べが続くのではないかと不安な気持ちになったので,停止の合図に従わないで後退を続けたという話をした旨供述する。 しかし,検察官による取調べは,Z5警察官による最後の取調べ(5月17日)から4か月以上が経過した令和元年9月24日に行われており,この間,被告人は,身柄を拘束されることもなく,求めれば弁護士等の専門家に助言を受ける機会もあった。しかも,被告人は,検察官 (5月17日)から4か月以上が経過した令和元年9月24日に行われており,この間,被告人は,身柄を拘束されることもなく,求めれば弁護士等の専門家に助言を受ける機会もあった。しかも,被告人は,検察官から,違うことがあれば訂正してもいいという趣旨の説明を受け,前記実況見分調書添付の現場見取図を見せられたのであるから,同見取図④が停止の合図を聞いた地点ではなくいつでもブレーキが踏めるようにブレーキペダルに足をかけて身構えた位置であるというのなら,検察官に対してそのことを説明できたはずであるのに,被告人がそのような説明をした形跡はない。また,被告人が否認から自白に転じた理由について,Z5警察官が作成した調書では,「本当のことを話せば自分が悪者になるから嘘を言ったが,取調べを受けていろいろ考えるうちに被害者に申し訳ない気持ちが大きくなり,しっかり責任を取らなくてはいけないと考えた。」と述べられているのに対して,検察官調書では,「自分が停止の合図に従わずに後退したことに自信がなかったから停止の合図に従って止まったと話していたが,走行記録を見せてもらったりそのときの状況を思い返したりすると停止の合図に従わないで後退を続けたことに間違いないと思った。」と述べられており(なお,弁護人は,走行記録だけでは後退中に停止の笛が聞こえたことは分らないから,この理由は検察官によるこじつけであると主張するが,前記のとおり走行記録を見たことだけが理由として記載されているのではない。),必ずしも警察官調書の内容がそのまま検察官調書に引き継がれているわけではなく,どちらも被告人が否認から自白に転じた理由として納得できる内容である。 これらの事情に照らすと,検察官に対する自白は警察官の取調べの影響を遮断できていないから信用できないという弁護人の主張は失当である。 告人が否認から自白に転じた理由として納得できる内容である。 これらの事情に照らすと,検察官に対する自白は警察官の取調べの影響を遮断できていないから信用できないという弁護人の主張は失当である。 第4 被告人に本件事故の予見可能性が認められることについて以上のとおり信用できるZ1の供述及び被告人の自白をはじめとする関係証 拠によれば,被告人は,本件トレーラーを運転して後退進行するに当たり,右方コンテナシャーシ上のコンテナ先端と本件トレーラー上のコンテナ先端をそろえることに気を取られ,被害者の動静に注意せず,その安全を確認しないまま後退進行し,かつ,本件コンテナシャーシの後方に一定の間隔が残るものと軽信して,同人の笛による停止の合図に従うことなく漫然時速約3㎞で後退進行を続けた結果,本件コンテナシャーシの後方に移動した同人に気付かないまま同人を本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシとの間に挟んで強圧するなどし,同人を死亡させる本件事故を起こしたことが認められる。 弁護人は,被告人が本件事故を予見することはおよそ不可能であると主張し,その理由として,①本件事故現場(貨物船内)に立ち入るのは荷役作業員に限定されること,②荷役作業員にとって後退する大型トレーラー後方に立ち入らないことは基本事項であること,③誘導員が後退中の大型トレーラー後方へ立ち入ることは予定されていないこと,④大型トレーラーの運転手としては誘導員が安全な位置から誘導していると考えるのが通常であること,⑤被告人が被害者の姿を見失ったとしても不自然ではないことを指摘する。 まず,①~③についていえば,貨物船内は不特定多数の者が立ち入ることのできる場所ではなく,当時,本件トレーラー付近にいたのは誘導員である被害者と足巻き作業のため待機していたZ1 の二 指摘する。 まず,①~③についていえば,貨物船内は不特定多数の者が立ち入ることのできる場所ではなく,当時,本件トレーラー付近にいたのは誘導員である被害者と足巻き作業のため待機していたZ1 の二人だけであり,二人の勤務先である丙では,誘導員らに対して大型トレーラーが完全に停止するまでその後ろに回り込んではならないと厳しく指導していたことは事実である。 しかし,本件事故現場は,三方向をコンテナシャーシや船壁に囲まれた横幅3.7mの空間であり,横幅2.5mの本件トレーラーが後退進行するに当たりその両側に十分な余裕があるとはいえず,そのような場所において,作業員がすぐ近くにいる状況で,全長16.5mで重量も重く,まっすぐ後退させることが難しい本件トレーラーを後退進行させること自体,作業員の生命に対する危険を伴う行為である。しかも,誘導員は,後退する大型トレーラーを誘導 する際,停止位置付近の床上に誘導灯を置き,その近くの運転手から見える位置で笛の合図により誘導を行い,大型トレーラーが誘導灯に接近すると誘導灯を手に取り,笛の合図に加えて誘導灯を用いて誘導を行うのであるから,後退中の大型トレーラーのすぐ近くにいて,その後方に接近することが予定されており,その過程で誘導灯を落としたり,転倒したりして,後退中の大型トレーラーの後方に入ってしまうことが考えられる。また,誘導員は,大型トレーラーが完全に停止した直後には,歯止めをするために大型トレーラーの後ろに回り込んで助手席側に移動することがあり,その際,歯止めの作業を急ぐあまり,勤務先の指導に反して,大型トレーラーが完全に停止する前に後ろに回り込んでしまうことも考えられる。 次に,④,⑤についていえば,被告人は,被害者の姿を確認しないまま,本件トレーラーを後退し続けており,被害者が誘 反して,大型トレーラーが完全に停止する前に後ろに回り込んでしまうことも考えられる。 次に,④,⑤についていえば,被告人は,被害者の姿を確認しないまま,本件トレーラーを後退し続けており,被害者が誘導灯を手に取るところも確認していないというのであるが,本来,後退中に運転手から見える位置で誘導を行っているはずの誘導員の姿を見失うこと自体が異常であるから,むしろ,被告人が被害者の姿を見失ったという事情は本件事故の予見可能性を高めるものであり,笛の合図が続いていたとしても,本件事故の予見可能性が失われるものではない。 なお,本件当時,被告人と同様に大型トレーラーを運転して荷積み作業をしていたZ3は,「現場は常に変わるので,例えば歯止めが転がったりしていれば,誘導員が後退している大型トレーラーの後ろに行ってしまう可能性はあると思う。誘導員の姿が見えなくなった場合,笛が聞こえていれば停止はしないが,速度を落として後退する。」旨述べており,この供述からも,大型トレーラーの運転手が,後退進行中に誘導員が後方に立ち入る可能性を想定して運転をしていることがうかがえる。 以上によれば,被告人は,本件事故を予見することが可能であり,かつ,これを予見すべきであったと認められる。 第5 被告人に判示の注意義務違反(過失)が認められることについて前記のとおり,被告人は,本件事故を予見することが可能であった。したがって,被告人としては,本件事故を回避するために,①右後方を目視するなどして被害者の動静に注意し,その安全を確認しつつ後退進行するとともに,②同人の笛による停止の合図に従って停止すべきであったと認められる。 これに対して,弁護人は,注意義務①について,被告人としては,本件トレーラーの後方の安全については被害者に委ね,とりわけ同人の身 ②同人の笛による停止の合図に従って停止すべきであったと認められる。 これに対して,弁護人は,注意義務①について,被告人としては,本件トレーラーの後方の安全については被害者に委ね,とりわけ同人の身の安全については同人自ら守り,自ら危険に身をさらす行動はとらないものと期待するのが通常である上,被害者の動静だけを注視して後退することはおよそ不可能であること,注意義務②について,被害者の笛の合図は,本件トレーラーが後方コンテナシャーシ等に接触することによる物的損害の発生を防止することに向けられたものであることから,被告人はこれらの注意義務を負うものではないと主張する。 しかし,注意義務①についていえば,周囲にいる人の安全を確認しながら運転すべきことは,自動車の運転者にとって基本的な義務である。本件貨物船内における荷積み作業では,大型トレーラーが後退進行する際,誘導員は大型トレーラーの運転席側後方の運転手から見える位置に立って,笛の合図や誘導灯を用いて誘導することになっており,被告人は,本件トレーラーを後退進行するに当たり,右後方の被告人から見える位置に被害者が立っているのを確認したのであるから,引き続き右後方を目視するなどして被害者の動静に注意し,その安全を確認しつつ後退進行するべきであった。たしかに,誘導員の被害者も,運転手の被告人と協力して事故を防止すべきであり,後退する本件トレーラーの後方に回り込まないようにするなどして,自らの安全を確保するべきであるが,本件トレーラーの進行を実際に制御できるのは運転手の被告人だけであり,誘導員の被害者が近くにいることが分かっているのに,同人の安全を確認しながら運転するという自動車の運転者にとって基本的な義務が免除される ことはない。 また,注意義務①は,被害者の動静だけを注視して後退 近くにいることが分かっているのに,同人の安全を確認しながら運転するという自動車の運転者にとって基本的な義務が免除される ことはない。 また,注意義務①は,被害者の動静だけを注視して後退することを求めるものではなく,係留された貨物船の船内において,被告人が,本件トレーラーを所定の停止位置に向かって後退進行するに当たり,周囲のコンテナシャーシや白線の位置等の周囲の状況にも注意しつつ,可能な範囲で被害者の動静に注意することを求めるものである。この点について,Z3は,大型トレーラーを後退する際に,誘導員だけを見続けているわけではなく,隣のコンテナの位置や床面の白線を確認しつつ,誘導員の動静を笛の音や目視,誘導灯などで確認する旨述べており,被告人にこのような注意義務を課すことは不可能を強いるものではない。 次に,注意義務②についていえば,後退進行する際,大型トレーラーの運転手から見て,その後方は積載したコンテナに遮られて見通しが効かない上に,被告人を含めて乙で稼働する運転手は,荷積み作業に関し,誘導員の指示に従うように厳しく指導されていたのであるから,被告人は被害者の笛による停止の合図に従って停止すべきであった。停止の笛の合図は,第一次的には,大型トレーラーが後方のコンテナシャーシ等に接触することなく,所定の位置で停止するためのものであるが,大型トレーラーが停止の笛の合図に従わずに後退を続ければ,後方のコンテナシャーシ等に衝突し,近くにいる誘導員の生命身体に危険が及ぶ可能性があるから,運転手は,誘導員の安全確保の観点からも,誘導員の笛による停止の合図に従う義務を負うというべきである。 以上のとおり,被告人の運転行為は,自動車運転者としての注意義務①及び②に違反するものであるところ,被告人が右後方を目視するなどして被害者の動静に よる停止の合図に従う義務を負うというべきである。 以上のとおり,被告人の運転行為は,自動車運転者としての注意義務①及び②に違反するものであるところ,被告人が右後方を目視するなどして被害者の動静に注意し,その姿を見失ったのであれば,笛の合図が続いていても,更に速度を落としたり,一旦停止したりして,その安全を確認しつつ後退進行するとともに,同人の笛による停止の合図に従って停止することは可能であり,そのようにしていれば,被害者が本件コンテナシャーシと後方コンテナシャーシ との間に挟まれて死亡することはなかったのであるから,被告人には判示のとおり,自動車運転上の注意義務違反(過失)が認められる。 (法令の適用)罰条自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条本文刑種の選択禁錮刑を選択刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)被告人は,職業運転手として,普通の自動車やトラックよりもはるかに大きく,長く,重量のある大型トレーラーを運転して後退進行するに当たり,すぐ近くにいた誘導員の安全を確認するとともに誘導員の指示に従うという基本的な注意義務に違反した。しかも,被告人は,運転前に飲酒しており,事故当時,基準値を上回るアルコールを身体に保有していた。貨物船内における事故であり,道路交通法の適用がないとはいえ,道義的には厳しい非難を免れないし,そもそも被告人の安全運転に対する意識は非常に低いといわざるを得ない。 被害者は,20歳という前途のある身で,突然命を奪われた。その無念は察するに余りある。遺族の悲しみは計り知れず,その処罰感情は峻烈である。 他方,被害者は,誘導員として日頃から厳しく指導を受けていたにもかかわらず という前途のある身で,突然命を奪われた。その無念は察するに余りある。遺族の悲しみは計り知れず,その処罰感情は峻烈である。 他方,被害者は,誘導員として日頃から厳しく指導を受けていたにもかかわらず,何らかの理由で後退中の車両の後ろに入っており,そのような被害者の行為が重なった結果本件事故が発生したことは,量刑上考慮する必要がある。 以上によれば,被告人を直ちに実刑に処すべきであるとまではいえない。 加えて,被告人に前科がないことや,任意保険による損害の填補が見込まれることなどの事情が認められる一方で,被告人が法廷で被害者を死亡させたことについて謝罪と反省の態度を見せながらも,停止の合図に従って停止したなどと不合理な弁解に終始したことを考慮すると,被告人に対しては,求刑どおりの禁錮刑を科し て,その刑事責任を明らかにした上で,その刑の執行を猶予し,猶予期間を最長の5年間とするのが相当である。 (求刑禁錮2年6月の実刑)令和3年8月18日福岡地方裁判所第1刑事部 裁判長裁判官柴田寿宏 裁判官武富一晃 裁判官髙橋侑子
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