令和1(わ)524 傷害致死(変更後の訴因 傷害致死,保護責任者遺棄致死)被告事件

裁判年月日・裁判所
令和2年10月16日 札幌地方裁判所
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判決文本文22,627 文字)

- 1 -令和2年10月16日宣告令和元年(わ)第524号傷害致死(変更後の訴因傷害致死,保護責任者遺棄致死)被告事件判決 主文 被告人を懲役13年に処する。 未決勾留日数中280日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は第1 札幌市a区bc条de丁目f番g号Ah号室(以下「本件居室」という。)において,B(当時2歳)に対し,令和元年5月15日頃から同年6月5日頃までの間,頭部を多数回手拳又は手で殴打する暴行を加え,よって,同児に頭部全体にわたる皮下出血及び頭頂部の帽状腱膜下出血の傷害を負わせ,第2 本件居室においてB及びその実母であるCと同居し,同年5月15日頃から同月31日頃までの間にCと共に同児に必要な食事を与えず,かつ,自己の前記第1の暴行のうち同月31日までに加えた暴行により同児に頭部全体にわたる皮下出血及び頭頂部の帽状腱膜下出血の傷害の一部を負わせたことにより,同月31日頃には,同児の生存に必要な保護を与えるべき責任があったものであるが,Cと共謀の上,同月31日頃から同年6月4日午後5時頃までの間,本件居室において,同児に対し,必要な食事を与えず,かつ,前記暴行を受けて同児が頭部に傷害を負い,また,同年5月31日頃までに同児が被告人以外の者の暴行を受けて顔面皮下出血,顔面・胸部上方・左肩部の二度の熱傷の傷害を負っていたことを知り,医師による治療等の医療措置を受けさせる必要があったにもかかわらず,これを受けさせずに放置して,もって同児の生存に必要な保護を与えず,同児を多臓器不全を伴う低栄養状態に陥らせ,よって,同年6月5日午前5時40 治療等の医療措置を受けさせる必要があったにもかかわらず,これを受けさせずに放置して,もって同児の生存に必要な保護を与えず,同児を多臓器不全を伴う低栄養状態に陥らせ,よって,同年6月5日午前5時40 - 2 -分頃,同区ij条kl丁目m番n号D病院において,同児を衰弱により死亡させたものである。 (証拠の標目)(略)(補足説明)本件では,①公訴事実において,被告人がBに暴行を加えて傷害を負わせた点について,「令和元年5月上旬頃から同年6月5日頃までの間,札幌市a区bc条de丁目f番g号Ah号室被告人方において,B(当時2歳)に対し,頭部,顔面,胸部,背部,左右足背部及び腹部を多数回手拳等で殴打し,足で踏み付け,左膝及び腰部にたばこの火を押し付け,頭部に鈍体による強い打撃を加えるなどの暴行を加え,頭部全体にわたる皮下出血,頭頂部の帽状腱膜下出血,左右後頭部硬膜下血腫,顔面皮下出血,上口唇粘膜挫裂創,前胸部皮下出血,背部皮下出血,左右足背部皮下出血,腹部下方の腸間膜出血,左膝部・腰部熱傷,左頭頂骨及び後頭骨線状骨折・硬膜外血腫・右硬膜下血腫等の傷害を負わせ」たとされていたところ,Bに傷害を負わせる暴行を加えた者が被告人と認められるか,②遅くとも令和元年5月31日(以下,断らない限り,年は平成31年又は令和元年である。)頃までに,Bが,生存のために必要な食事を与えられ,生存のために必要な医師による治療等の医療措置を受ける,という特定の保護(以下「生存のために必要な特定の保護」ともいう。)を必要とする状況(以下「要保護状況」という。)にあった(にもかかわらず,その後これらの保護を受けられずに衰弱死した)と認められるか,③被告人において,遅くとも5月31日頃までに,Bに,生存のために必要な特定の保護を与えるべき立場にあり,Bが にあった(にもかかわらず,その後これらの保護を受けられずに衰弱死した)と認められるか,③被告人において,遅くとも5月31日頃までに,Bに,生存のために必要な特定の保護を与えるべき立場にあり,Bがそれらの保護を必要とする状況にあったことを認識しながら,Cと一緒になってその保護を与えなかったと認められるか,が中心的に争われたので,これらに即して,判示事実を認定した理由を補足して説明する。 1 被告人の公判供述を含む関係証拠によれば,以下の事実を認定することができる。 - 3 - Cは,平成28年12月3日,Bを出産し,以後,Bを育てていたところ,平成31年2月の頭頃,本件居室に転居し,同月14日から,自宅付近の24時間制の保育園と月契約を結び,自身がニュークラブに出勤する際には,Bを保育園に預けるようになった。 被告人は,2月20日頃にCとの交際を開始し,その頃から,CとBが同居する本件居室に行くようになり,本件居室で寝泊りすることもあった。 被告人は,遅くとも4月中旬以降は,自ら借りていた別のアパートには寝泊まりせず,本件居室に日常的に住むようになり,将来的にCと結婚してBを含む三人で生活することを考えていて,5月12日頃までは,Bを施設に預けることも考えていなかった。また,この間,被告人は,Cに頼まれた際には,Bの食事を用意したり,食事を食べさせたりしたほか,入浴の手伝いや入浴後のおむつ交換をするなどし,また,CがBを保育園に預けずに本件居室に残して出勤する際には,Bの世話をしていた。 ⑷ 被告人は,5月15日以降6月5日までの間,引き続き本件居室で日常的に寝泊りしてCと共に生活し,この間,Bを本件居室から外出させなかった。 ⑸ 6月5日午前4時59分,Cが119番通報し,午前5時7分に救急隊が到 日以降6月5日までの間,引き続き本件居室で日常的に寝泊りしてCと共に生活し,この間,Bを本件居室から外出させなかった。 ⑸ 6月5日午前4時59分,Cが119番通報し,午前5時7分に救急隊が到着した時点でBの呼吸等がないことが確認され,Bが救急車に収容された後,救急医による気管挿管とともに救急隊員による心臓マッサージ及び人工呼吸が行われ,さらに,D病院にBが搬送され,蘇生処置がされたものの蘇生困難と判断され,午前5時40分頃にその死亡が確認された。 2 Bに傷害を負わせる暴行を加えた者が被告人と認められるかについて⑴ Bの遺体に認められた外傷について,司法解剖を行ったE医師の意見は,次のとおりである。 ア左頭頂骨及び後頭骨の線状骨折・硬膜外血腫・右硬膜下血腫(以下「後頭骨等線状骨折等」という。)があり,これは死亡の2日程前から死亡の数時間前までの間に生じた比較的新しい重傷である。局所的な硬い物体による強い打撃により生じ - 4 -たものであり,自己転倒でこれほど頭を激しくぶつけるということや拳で殴ってできたとは考え難いことなどから,他人に勢いよく殴られたり突き飛ばされたりして生じたと考えられる。 イ頭部全体にわたり相当量の皮下出血があり,頭頂部の帽状腱膜下にも多量の出血があり,皮下出血は死亡の2週間前にできたものから死亡の数時間前にできたものまで新旧の出血が混在した中等症であり,帽状腱膜下出血も中等症である。皮下出血は,継続的に多数回,頭部のあらゆる個所に打撃又は圧迫を加えられたことによって生じたものであって,打撃又は圧迫を加えられた範囲の広さや期間の長さ等から自過失ではなく,暴行によるものと判断され,帽状腱膜下出血も皮下出血同様に暴行によるものと判断される。 ウ顔面全体に皮下出血があり,死亡の2週間前に 圧迫を加えられた範囲の広さや期間の長さ等から自過失ではなく,暴行によるものと判断され,帽状腱膜下出血も皮下出血同様に暴行によるものと判断される。 ウ顔面全体に皮下出血があり,死亡の2週間前にできたものから死亡の数時間前にできたものまで新旧の出血が混在した中等症であり,拳骨,平手等により殴打されたと考えて矛盾しないと判断される。 エ顔面,胸部上方,左肩部に二度の熱傷があり,死亡の一,二週間前にできた中等症であり,手や腕には熱傷がなく自過失によるとは考え難いため,他人が高温の液体等を浴びせた他為的なものと判断される。 オ以上のほか,死亡から2週間前頃までの間に生じた,上口唇粘膜挫裂創,左膝部及び腰部の円形熱傷,左右後頭部の少量の硬膜下血腫,左手背部及び右前腕から手背部にかけて生じた皮下出血,左右足背部の皮下出血,腹部下方の腸間膜の出血,背部及び前胸部の皮下出血と,死亡の三,四週間前頃に生じた,左右足底部の熱傷があり,いずれについても,自過失で生じたものとは想定し難く,他人の暴行によるものと判断される。 ⑵ 後に述べるとおりE医師の法医学者としての専門的知識・経験に問題はなく,本件の司法解剖を自ら担当していて意見形成の前提資料にも不足はないこと,前記⑴アからオの外傷(以下「本件傷害」という。)に関する意見に異論を差し挟む他の専門的知見も証拠上認められないことから,E医師の本件傷害に関する意見の信用 - 5 -性は高く,本件傷害はいずれも他人の暴行によるものと認められる。 また,5月15日に本件居室を訪ねてC及びBと面談したF警察官は,Bの身体を,着衣を脱がせたりまくらせたりした状態も交えて目で見て,誤ってやけどしたと説明された両足裏の絆創膏と遊具からの転落によると説明された左頬等の1センチメートルに満たない内出血のほか 官は,Bの身体を,着衣を脱がせたりまくらせたりした状態も交えて目で見て,誤ってやけどしたと説明された両足裏の絆創膏と遊具からの転落によると説明された左頬等の1センチメートルに満たない内出血のほかには外傷がなかったと確認しているから,本件傷害のうち,左右足底部の熱傷は5月15日より前に受傷したものであり,その余は5月15日以降に受傷したものと認められる。また,前記1の事実経過によれば,被告人は,5月15日以降6月5日までの間,本件居室でCと共に生活し,この間,Bを本件居室から外出させなかったのであるから,Bに対し,左右足底部の熱傷を除く本件傷害を負わせる暴行を加えた者は,被告人とC以外に想定できないことが認められる。 ⑶ そして,Cは,Bに本件傷害を負わせる暴行を自ら加えたことは一切なく,4月上旬に被告人がBの頭を叩き腕をつかんで洗面所へ閉じ込めようとした場面,6月2日に台所で洗い物中にBの痛いという声が聞こえて洋室を見ると自分で立っていたBの肩を被告人が押さえて拳を振り上げて殴った場面,6月5日にBが呼ばれて洋室からリビングのテーブルのそばに来て座った後,被告人がBの髪をいきなりわしづかみにして引っ張って立たせた場面を見た旨を証言するから,その信用性を検討する。ただし,Cは保護責任者遺棄致死罪により起訴されて裁判を待つ身であり,Bに本件傷害を負わせる暴行を加えたのが誰かについてする証言は,自己の裁判における刑事責任の有無・範囲に関わり得る事柄であるため,虚偽証言の危険があることは否めず,C証言の信用性は,他の証拠から認定できる事実関係との整合性を中心として,慎重に吟味することとする。 ア関係証拠によれば,①5月30日午後10時7分頃にCが本件居室を出掛ける段階でBの異変に気付くような事態はなかった上,その後から翌31日午前2時 整合性を中心として,慎重に吟味することとする。 ア関係証拠によれば,①5月30日午後10時7分頃にCが本件居室を出掛ける段階でBの異変に気付くような事態はなかった上,その後から翌31日午前2時30分頃まで,被告人とBのみが本件居室にいたところ,被告人は,この間にBの頭部がブヨブヨした状態にあったことに気が付いてCに連絡したこと,②被告人は, - 6 -Cの帰宅後の同日午前3時10分頃,病院に電話をかけて,被告人から「2歳の子供が頭をぶつけて,頭がブヨブヨになっている。どうしたらよいか。」などと対処法を問い合わせ,当直医から受診を促されると電話を切り,Bを受診させなかったことが認められる。また,E医師の意見によれば,③5月31日の時点で「頭がブヨブヨ」した状態と表現された症状は,本件傷害のうち頭部皮下出血と頭頂部の帽状腱膜下出血(以下「頭部皮下出血等」という。)に該当すると認められる。そして,前記①のとおり,Cが出掛ける段階ではBの異変に気付くような事態がなかったにもかかわらず,被告人とBのみが本件居室にいる間に被告人がBの頭部がブヨブヨした状態に気が付いたということからすれば,被告人とBが二人きりの間に,Bが受傷した考えるの合理的である。その上で,頭部皮下出血等は継続的に多数回他人から打撃又は圧迫を加えられるという暴行により生じたものと認められることからすれば,5月30日から同月31日にかけて被告人がBの頭部を手拳又は手で殴打したと考えられる。さらに,被告人が自ら電話した病院の医師から受診を勧められても受診させなかったことは,被告人自ら暴行を加えていながらその発覚を恐れたと考えても矛盾しない。そうすると,前記①から③の事実関係は,C証言を考慮しなくても,本件傷害のうち頭部皮下出血等の一部について,5月30日から31日にかけて ら暴行を加えていながらその発覚を恐れたと考えても矛盾しない。そうすると,前記①から③の事実関係は,C証言を考慮しなくても,本件傷害のうち頭部皮下出血等の一部について,5月30日から31日にかけて被告人がBの頭部を手拳又は手で殴打して生じさせたことを強く推認させるものといえる。 イまた,G証言によれば,Cは,被告人と共に住むようになった後,Gに対し,被告人の愚痴を言う中で,被告人がBの頭を吹っ飛ぶぐらい強く殴るから怖い旨を述べていたこと(以下「本件暴行告白」という。)が認められる。Cが被告人とともに住むようになった後にGに対し本件暴行告白をしたこと自体は,Cの証言とも符合して相互に補強し合っており,G証言は信用できる。 そして,GがCの勤務先のほぼ同年代の先輩ホステスであり,被告人とCとの交際が勤務先で隠されていた中でもそのことを知っており,被告人の愚痴を聞かされていたという関係やこの話をする時も他にはCの交際相手が被告人であると知られ - 7 -ないようにしていたという状況からすれば,Cがあえて事実でないのに,交際相手が自分の子供に暴力を加えるという話をGに愚痴として述べるとは考えられないから,Cによる本件暴行告白は,被告人が本件居室に住むようになった後,Bに対し頭部を殴ることがあったことを推認させる事情といえる。なお,H美容師の問いかけに対し,被告人の暴力をCが否定したという事情もあるが,H美容師がCとは年代が大きく異なる上,Gに比べてH美容師とCとの人間関係も希薄と考えられるのであって,CがH美容師には被告人の暴行を隠そうとしたと考えても矛盾しないから,この点は前記推認を妨げない。 ウさらに,I及びJの各証言によれば,Iは,Cが本件居室に転居する前の約2年間,当初は同居し,その後も月に4回程度,C及びBと会い,時にBを 考えても矛盾しないから,この点は前記推認を妨げない。 ウさらに,I及びJの各証言によれば,Iは,Cが本件居室に転居する前の約2年間,当初は同居し,その後も月に4回程度,C及びBと会い,時にBを預かることがあり,Cが本件居室に転居した後も3月9日から11日までBを預かったが,いずれにおいても,Bが虐待されていると感じるけがを見ることはなかったこと,2月14日から4月24日までの間30回にわたり保育園にBが預けられたが,この間もBの体にはJら保育士らにおいて暴行を疑うようなけががなかったことが認められる。他方,IがCに「叩いたりしたらダメだよ」などと暴行を直接戒めるメッセージを送った点については,Cによる暴行があったと考える余地を残すが,既に指摘しているとおり,IやJらという複数の者がBの体に暴行を疑うけがを見ていなかったことに加え,前記メッセージの内容やIが暴行を直接戒めるメッセージを送ったのは前記1回限りであることを踏まえると,Iが見た暴行があったとしても傷害を負わせない程度の暴行にとどまると考えるのが自然である。そうすると,①Bの出産後から4月24日までの2年以上にわたり,CがBに傷害を負わせる暴行を加えたことはなかったことが推認できる。そして,②Bに本件傷害が生じた時期は,被告人がCと共に住むようになった後であり,Bに本件傷害を負わせる暴行を加えたのは被告人とCのいずれかしか考えられないという限られた前提の下で,前記①の事情を考慮すれば,それまで傷害を負わせる暴行を加えていなかったCが急にそのような暴行を加えるとは考えづらく,本件傷害を負わせる強度の暴行を加 - 8 -えたのは被告人と考えるのが自然である。 エさらに,K証言によれば,本件居室の直上に居住しているKにおいて,2月以降5月末までの間に,上下いずれからか特定 を負わせる強度の暴行を加 - 8 -えたのは被告人と考えるのが自然である。 エさらに,K証言によれば,本件居室の直上に居住しているKにおいて,2月以降5月末までの間に,上下いずれからか特定できないものの男性の大声とドン,ガンという物音と子供の泣き声を一緒に聞くことが複数回あったことが認められ,本件居室で被告人がBに何らかの暴行を加えた際の音や声を聞いたものと考えても矛盾はしない。 オこれまでの検討によれば,本件傷害のうち頭部皮下出血等の一部について,5月30日から31日にかけて被告人がBの頭部を手拳又は手で殴打して生じさせたことを強く推認させる事実関係があり,これはCの自分は暴行を加えていないという証言のうち,頭部皮下出血等の一部を生じさせる暴行をCが加えていないという点を直接裏付ける。のみならず,頭部皮下出血等を負わせる暴行は継続的で多数回に及ぶものであるところ,被告人が本件居室に住むようになった後にBの頭部を殴ることがあったことを推認させる事実関係がある上,本件傷害を負わせる強度の暴行を加えたのは被告人と考える方が自然といえる事情もあること,さらに,5月末までに本件居室で被告人がBに何らかの暴行を加えた際の音や声と考えても矛盾はしない事情もあることを併せ考慮すれば,被告人がBの頭部に暴行を加えたのが5月30日から31日にかけての殴打にとどまらないといえるのであって,5月15日頃から6月5日までの間にBに頭部皮下出血等の全てを負わせる暴行,すなわち,継続的に多数回にわたり頭部を手拳又は手で殴打する暴行を加えたのがCでなく被告人であると推認できる。そうすると,前記推認に沿った限度では,自分はBに暴行を加えていない旨のCの証言部分の信用性は高い。 カところで,本件傷害のうち後頭骨等線状骨折等は死亡の2日程前から死亡の数時 あると推認できる。そうすると,前記推認に沿った限度では,自分はBに暴行を加えていない旨のCの証言部分の信用性は高い。 カところで,本件傷害のうち後頭骨等線状骨折等は死亡の2日程前から死亡の数時間前までの間に生じたものであって,6月上旬にこの傷害を負わせる暴行が加えられたと考えられるところ,C証言の中には,6月2日に被告人がBの頭部を拳骨で殴った場面など6月上旬に被告人がBの頭部に暴行を加えたのを見たという部分がある。しかし,暴行を加えた者が被告人であるという点と直接符合する裏付け - 9 -証拠はない。その上,Cの前記証言部分には,暴行を受けた当時のBの様子について,自分で立っていたなどと証言する部分があり,これらは,後記3で検討するとおり,信用性を認めたE医師の意見によって,Bが,5月31日の時点で衰弱が進んでかなり弱った状況になっており,死亡の数日前頃には意識障害も生じていたと認められることに,明らかに反する。そうすると,6月上旬に被告人がBの頭部に暴行を加えたのを見たという前記証言部分は,暴行の有無・態様に密接に関連する当時のBの様子・行動について他の証拠と矛盾することとなる。さらに,後頭骨等線状骨折等は勢いよく殴られるか突き飛ばされるなどして局所的に硬い物体による強い打撃により受傷すると考えられているところ,Cの体格が華奢であることを踏まえても,Cにできない暴行態様ともいえない。6月3日に被告人とCがけんかしたことは双方が証言等しており,これが事実であるとすれば,腹いせに前記暴行を加えるきっかけは被告人のみならずCにもあるといえる。したがって,6月上旬の被告人の暴行を見たというCの前記証言部分の信用性は大きく下がるといわざるを得ない。 そして,頭部皮下出血等以外の傷害については,頭部皮下出血等を負わせる暴行とは受傷部 る。したがって,6月上旬の被告人の暴行を見たというCの前記証言部分の信用性は大きく下がるといわざるを得ない。 そして,頭部皮下出血等以外の傷害については,頭部皮下出血等を負わせる暴行とは受傷部位や想定される暴行態様が異なり,左右足底部の熱傷については受傷時期が5月15日より前と考えられるため,これまでに指摘した諸事情が,暴行を加えたのが自分ではないとするC証言の信用性を裏付けるとはいえない。 さらに,検察官は,C証言の裏付けとして,①Bの顔面皮下出血の中心点間の距離と被告人らの基節関節の中心点間の距離の比較や被告人の右手人差し指第二関節の陳旧性瘢痕の存在から被告人の手拳によると考えて矛盾しない,②日常たばこを吸っていたのが被告人であり,Cはアイコスを吸っていたから,たばこの火による熱傷は被告人によると考えるのが自然である,と指摘する。しかし,①については,確立された捜査手法の実績があるとはいえず,また,実際に行われた皮下出血や被告人らの基節関節間の各測定の正確性や測定結果の比較に伴う推察の合理性に疑問がある。さらに,Cの手指の爪は全て長く伸ばされており拳を握り込んで殴れば爪 - 10 -が割れることも考えられるところ,その左手親指の爪にはCがネイルサロンに行って爪の手入れをしたという6月3日以降に割れが生じていたと認められ,Cにも同人が暴行を加えたと考えて矛盾しない事情があるといえることから,被告人の前記陳旧性瘢痕の存在がC証言を支えるとはいえない。②については,本件居室内にあった灰皿内のたばこの吸い殻のDNA鑑定の結果やCが過去にたばこを吸っていたことに照らすと,Cがたばこを吸わないとは断定できないから,前記熱傷が被告人によると考えるには疑問がある。したがって,①②の指摘をC証言の裏付けと認めることには無理がある。 キ ばこを吸っていたことに照らすと,Cがたばこを吸わないとは断定できないから,前記熱傷が被告人によると考えるには疑問がある。したがって,①②の指摘をC証言の裏付けと認めることには無理がある。 キ以上の検討から,C証言は,5月15日頃から6月5日までの間に,Bの頭部に対し,頭部皮下出血等を負わせる暴行,すなわち,頭部を継続的に多数回手拳又は手で殴る暴行を加えたのがCでなく被告人であるとの推認に沿った限度で信用できる。 ⑷ 弁護人の主張及び被告人供述の検討ア弁護人は,C証言につき,6月の被告人の暴行を目撃したとする部分につき,供述変遷があり,目撃した日の特定が不能であり,暴行を目撃したとすれば矛盾する行動をとっているとして,その信用性を論難する。しかし,前記⑶で証言の信用性を認めたのは,証言に整合する事実関係に裏付けられているといえるからであって,かつ,弁護人が指摘する被告人の暴行を目撃したとの証言部分の信用性を認めたものでもないから,弁護人の論難は理由がない。 イ弁護人は,5月12日から15日にかけてBの左右足底部の熱傷を負わせたのはCであり,6月上旬に後頭骨等線状骨折等を負わせたのもCであるとも主張するが,本件傷害のうち前記⑶の検討により認定した傷害部分以外の傷害に関する論難であるから,弁護人の指摘を踏まえても前記⑶の検討は揺らがない。 ウ被告人は,本件傷害を負わせる暴行を一切加えておらず,4月にCがBの頭を叩く場面を見たことがある,本件傷害の多くについて原因は分からず,5月30日から31日にかけてBの頭がブヨブヨした状態に気付いた理由も,洋室からリビ - 11 -ングへBが来て頭を痛がっていたからである旨供述する。しかし,CがBの頭を叩く場面を見たという点はC証言と異なり裏付けがない。被告人は,C及びBと共に住んで た理由も,洋室からリビ - 11 -ングへBが来て頭を痛がっていたからである旨供述する。しかし,CがBの頭を叩く場面を見たという点はC証言と異なり裏付けがない。被告人は,C及びBと共に住んでおり,本件傷害が体の多数の部位にわたっていることからすれば,その原因が分からないという内容自体が不自然である。また,被告人は,5月5日頃より後,洋室とリビングとの間の出入りをできないようにしており,Bが洋室にいたとすれば,被告人らがドアを開けない限り,Bが自分の意思でリビングへの行き来をできない状況にあったとも供述しており,それにもかかわらず洋室からBが出てきたということは考えられないから,供述内容が不合理である。したがって,被告人の供述は信用できない。 エその他弁護人の指摘を踏まえても,前記⑶の検討は揺らがない。 ⑸ 以上の次第であって,C証言は,本件傷害のうち,頭部皮下出血等の全てを負わせる暴行,すなわち,頭部を継続的に多数回手拳又は手で殴る暴行を加えたのが自分ではなく被告人であるという限度で信用でき,前記⑵のとおり,左右足底部の熱傷を除く本件傷害を負わせる暴行を加えた者が被告人とC以外に想定できないことを併せると,5月15日頃から6月5日までの間に,前記頭部皮下出血等の全てを負わせる暴行を加えたのが被告人であることは,常識に照らして間違いないと認定できるが,その余の傷害を負わせる暴行を加えたのが被告人であることは,常識に照らして間違いないと認定できない。 3 遅くとも5月31日頃までに,Bが要保護状況にあった(にもかかわらず,その後これらの保護を受けられずに衰弱死した)と認められるかについて Bの死因についてア E医師は,Bの死因について,低栄養による衰弱死であり,窒息死の可能性は否定されると説明する。その意見の要点は,次 保護を受けられずに衰弱死した)と認められるかについて Bの死因についてア E医師は,Bの死因について,低栄養による衰弱死であり,窒息死の可能性は否定されると説明する。その意見の要点は,次のとおりである。 Bは,体重を維持するために必要な食事がほとんどできなかったことにより,二,三週間程度で体重が急激に減少し,低栄養状態となって全身の様々な機能が低下していた。5月31日頃には,体重が7キロ前後にまで落ち,一見して痩せてお - 12 -り,頭部等にも多数の外傷を負って皮下出血もある状態で,体力が落ち,元気に歩き回ったり大声を上げることは困難な状態になっており,弱っていることが分かる状態となっていた。Bは,死亡の数日前頃には,かなり弱り,意識障害を生じてしっかりした意識があるような状態ではなかったと考えられ,さらに,死亡の数時間前には,高度の意識障害が生じ,死亡直前の数時間で体温が低下した状態になっていき,最終的に多臓器不全となって6月5日に衰弱死したと考えられる。 ところで,頭部等に後頭骨等線状骨折等という死亡の数時間前から2日以内に受傷したものと推定される重傷があるが,頭部に著明な脳浮腫や脳ヘルニア・脳内出血などが発生していないと認められるため直接の死因ではなく,脳機能や心機能を低下させて衰弱の程度を強め,死期を一日か二日早めたと判断される。 「死亡までの二,三週間程度の間,体重を維持するために必要な食事がほとんどできなかった」と判断する根拠は,①Bが,2月14日の計測時には,身長が72センチメートル,体重は8500グラムであったところ,死亡時には,身長が74センチメートルに伸びたのに対して体重が6740グラムと著しく少ない状態であったこと,②通常であれば数センチメートルの厚さはある腹部の皮下脂肪が,3ミリから5ミ あったところ,死亡時には,身長が74センチメートルに伸びたのに対して体重が6740グラムと著しく少ない状態であったこと,②通常であれば数センチメートルの厚さはある腹部の皮下脂肪が,3ミリから5ミリ程度にまで減少するなど大幅に失われていたこと,③短期間で急激に痩せた場合,皮下脂肪が失われる一方で皮膚自体がまだ残ってたるみが生じるところ,解剖時のBの臀部の皮膚はたるんで多数のしわが寄っていたから,Bは,徐々に痩せたのではなく,短期間で急激に痩せたと考えられることである。 また,食事をほとんど与えられなかった期間については,Bが5月15日時点ではさほど痩せていなかったことを警察官が確認していることのほか,幼児は一般に全く食事をしない場合には1日で体重が1パーセント(Bの場合には1日約80グラム)ほど減少するとされているところ,5月15日時点でBがさほど痩せていなかったというのであれば,Bの死亡時の体重は,5月15日から死亡時まで約20日間でBの体重が急激に減少した場合に想定されるBの体重と矛盾しないことから,死亡までの約二,三週間程度の間と判断できる。 - 13 -Bが吐物を誤嚥して窒息死した可能性を否定する根拠は,次のとおりである。 一般に生きた状態から誤嚥窒息により死亡した場合,食べ物が肺の奥まで入り込む生活反応があるから,元気な状態のBが小さな米粒や胃液等を含む胃の内容物を誤嚥したのであれば,これらが肺の奥まで入り込み,CT画像上は肺が白く映るのが通常であるのに,死亡して間もない時期に撮影されたBの肺のCT画像上は肺がほぼ黒く映っており,肺や細気管支に食物の誤嚥を疑う状況になかった。肉眼解剖所見や肺の組織を一部採取した病理組織検査においても,肺や気管支に死因となるような異常は認められなかった。気道閉塞による窒息死の場合には肺 おり,肺や細気管支に食物の誤嚥を疑う状況になかった。肉眼解剖所見や肺の組織を一部採取した病理組織検査においても,肺や気管支に死因となるような異常は認められなかった。気道閉塞による窒息死の場合には肺の表面に溢血点が生じることが多いところ,肉眼解剖所見では肺に溢血点は認められなかった。一方,Bの喉の奥や気管支に泥状の吐物が貯留していたが,心肺停止後の心肺蘇生術や体位変換によって胃の中の食べ物が口の方に上がることは,心肺蘇生術を受けた人の司法解剖でよく経験しており,前記吐物は心肺停止後に逆流してきたものであって死因には関与していないと考えられる。 イ E医師は,法医学を専門とし,その経験年数やこれまでの司法解剖実施経験件数のほか,虐待が疑われる乳幼児の生体鑑定・写真鑑定の件数に照らしても,その専門的な知見に基づく意見を述べる資質・能力に問題はなく,また,本件の司法解剖を自ら担当していて意見形成の前提資料にも不足はない。 Bが低栄養状態に陥って衰弱死したとの見解は,死亡から約3週間前にF警察官が確認した際にBが極端に痩せてなく,腕・足が少しぷくっとし腹も少しちょっと出た感じがあったという状況と整合し,Bの体重の推移,腹部の皮下脂肪の厚みの変化,臀部の皮膚がたるんで多数のしわが寄った状況等を総合的に考察したものであり,その判断根拠及び考察の過程はいずれも合理的である。また,後頭骨等線状骨折等がBの衰弱の程度を強め,死期を早めたという点も,受傷時期の推定,受傷部位や傷害の程度に基づく合理的な考察である。 E医師は,窒息死の可能性が否定される点についても,気道閉塞によって窒息死したのであれば通常生じると考えられる生活反応・肺の溢血点等の所見がCT画像 - 14 -の画像診断や肉眼解剖所見・病理組織所見において確認されなかったことなどを根 も,気道閉塞によって窒息死したのであれば通常生じると考えられる生活反応・肺の溢血点等の所見がCT画像 - 14 -の画像診断や肉眼解剖所見・病理組織所見において確認されなかったことなどを根拠としており,その判断根拠及び考察の過程は合理的である。豊富な経験を有するE医師が前記所見を全て見落としたとも考え難い。また,Bの喉の奥から気管支にかけて貯留していた泥状の吐物が,心肺停止後の心肺蘇生術等によって胃から逆流したものと考える点も,自身の司法解剖の経験に基づいた説明であって,疑念を入れる理由はない。 以上に照らせば,E医師の意見の信用性は高いというべきである。 ウこれに対し,L医師は,低栄養による衰弱死との前記意見に疑念を示し,窒息死と考えるのが自然という見解を示すので,これを踏まえてさらに検討する。 L医師は,①司法解剖の際の血液検査で検出された総たん白及びアルブミン(以下「総たん白等」という。)の数値を一般健常者の基準値と比較すると,Bが重度の低栄養状態に至ってなく,極度の衰弱状態であったとまではいえないこと,②Bの胃等の内容物に少しは咀嚼したと考えられる跡のある物も含まれており,Bが少しでも自分で食べたと考える方が自然であり,そうであれば,①の血液検査の数値も反映して,残された皮下脂肪をエネルギーに変えることができたと考えられること,③死亡時の身長・体重はそれだけで衰弱死に至るほどではないことを指摘する。その上で,Bが最後に食事をしてから数時間から約12時間後に低栄養により衰弱死したとは考え難く,衰弱死と断定するには疑問が残るという。 しかし,L医師の見解は,前記①②のいずれも司法解剖の際の血液検査の数値を根拠として大きく見たものであることはL医師も自認するところ,E医師は,総たん白等の値は,死後に血液内の細胞等が自己 いう。 しかし,L医師の見解は,前記①②のいずれも司法解剖の際の血液検査の数値を根拠として大きく見たものであることはL医師も自認するところ,E医師は,総たん白等の値は,死後に血液内の細胞等が自己融解して血液中にたん白やアルブミンの成分が溶け出すため死後に上昇することがあるから,死亡時の血液検査の総たん白等の数値を解剖の際の数値だけで見るのは誤りである旨の見解を示している。E医師は合理的な根拠をもってL医師の疑念に反論しており,そこに特段疑いを差し挟むべき事情は認められない。L医師は,総たん白等の値の死後変化に関する知識がなかったことを自認しており,その見解は死後変化を捨象したものといえ,また, - 15 -L医師は,死亡前のBの総たん白等の推計値について述べるも,結局,これを撤回している。また,L医師の見解の③について,E医師の意見は,そもそも身長・体重の変化のみに基づく判断ではなく,低栄養による衰弱死という見解を基本としつつ,衰弱の程度が頭部等の外傷により強められたというものであるから,L医師の論難は当を得ない。以上の検討によれば,衰弱死であると断定するには疑問が残る旨のL証言は信用できない。 なお,弁護人は,本件居室内にあった子供用のスプーンの柄や野菜ジュースのストローの吸い口からBのDNAが検出されたことを根拠に,Bが死亡前に自力で食事をしていた可能性があるともいう。しかし,E医師の意見によれば,高度の意識障害が生じたのは死亡の数時間前と推定され,死期を早めた後頭骨等線状骨折等の受傷時期も死亡の数時間前から2日以内と推定される一方,最後の食事から死亡するまでの時間が数時間から12時間前後と幅をもって特定されていることからすれば,後頭骨等骨折等を受傷する前で,かつ,高度意識障害に陥る前の段階で,Bが口中の物を飲み込むこと 方,最後の食事から死亡するまでの時間が数時間から12時間前後と幅をもって特定されていることからすれば,後頭骨等骨折等を受傷する前で,かつ,高度意識障害に陥る前の段階で,Bが口中の物を飲み込むことができる時機に被告人らがスプーンを持たせたり口内に飲食物を入れたりしたなど,Bが自力で食事をしたこと以外にも種々の想定が可能であるから,弁護人の指摘がE医師の意見に疑念を差し挟むとはいえない。 L医師は,窒息死と考えるのが自然といえる根拠について,①Bの咽頭口から気管支にかけて泥状の吐物が詰まっていることがCT画像上確認できること,②死亡直後に撮影された肺のCT画像や司法解剖時に撮影された肺や気管支のCTの画像上,肺や気管支に白い影を読み取ることができ,肺や気管支が部分的に閉塞したとみられること,③気管挿管の際,挿管チューブの高さ調節をした後に呼吸音が確認されたことからすると,高さ調節前の挿管チューブの先端部分が位置していた部分で気管が閉塞していたと考えられることなどを指摘する。 しかし,一般に心肺蘇生術によって胃の内容物が口中に逆流する可能性はL医師も認めるところであるから,L医師が指摘する泥状の吐物が直ちに窒息死の疑いを生じさせるとはいえない。また,CT画像上読み取り得る白い影が閉塞を示唆する - 16 -という点は,Bを実際に解剖したE医師による肉眼解剖所見や組織病理検査によっても肺や細気管支に異物が確認されなかったことに反している。E医師は,心肺蘇生術の過程で点滴等がされて肺から水分が染み出したり,死亡後に血が貯まって拡張した肺の血管から水分が染み出すことにより,これらの水分がCT画像上白い影として確認され得る旨納得できる根拠を持って説明しており,その可能性があること自体はL医師も否定していない。そうすると,L医師が指摘するC から水分が染み出すことにより,これらの水分がCT画像上白い影として確認され得る旨納得できる根拠を持って説明しており,その可能性があること自体はL医師も否定していない。そうすると,L医師が指摘するCT画像上の白い影が閉塞を示唆するものではないというE医師の見解が合理的である。さらに,L医師による気管挿管時に呼吸音が確認された状況からの推測も,挿管チューブの高さ調節の方法や高さ調節前に呼吸音が確認されなかった原因を仮定した上での見解にとどまる。したがって,窒息死したと考えるのが自然であるというL証言は信用できない。 エ以上の検討によれば,E医師の意見は,L医師の証言を踏まえても信用できるのであって,Bの死因は低栄養による衰弱死であり,窒息死の可能性はないと認められる。 Bが,遅くとも5月31日頃には,要保護状況にあった(にもかかわらず,その後保護を受けられずに衰弱死した)ことア前記⑴で検討したとおり信用できるE医師の意見によれば,5月31日頃のBは,一見して痩せており,頭部等にも多数の外傷を負って皮下出血もある状態で,体力が落ち,元気に歩き回ったり大声を上げることは困難な弱った状態になっており,そのまま放置を続ければ確実に死亡する危険があった。この点は,前記2⑶アで検討したとおり,5月31日午前3時10分頃,それまでにBの頭部に継続的に暴行を加えていた被告人が,自ら病院に電話をし,「子供が頭をぶつけてブヨブヨになっている」などと言って対処法を問い合わせており,この時点で,それだけ被告人が不安に思うほどBが衰弱した状態であったと考えるのが自然といえるところ,このような客観的事実とも整合する。加えて,前記Kは,2月頃から子供の泣き声が昼夜を問わず聞こえていたが,6月1日以降はその泣き声が全然聞こえなくなっ - 17 - えるのが自然といえるところ,このような客観的事実とも整合する。加えて,前記Kは,2月頃から子供の泣き声が昼夜を問わず聞こえていたが,6月1日以降はその泣き声が全然聞こえなくなっ - 17 -た旨も証言しているところ,同証言は,泣き声が聞こえなくなって数日してから,「ここ数日泣き声がしない」ということを同居者と話し合っていた旨具体的な根拠を備えているから,記憶違いをするとは考え難いのであって,E医師の前記意見は,この点とも符合する。また,E医師の意見により,頭部皮下出血等,顔面皮下出血,顔面,胸部上方,左肩部の二度の熱傷が5月31日頃にBが生存のために必要な保護を要する状況にあったことを基礎付けることも認められ,その傷害の程度はその頃のBが元気に歩き回ったり大声を上げることは困難な弱った状態にあったという見解とも整合する。 したがって,5月31日頃のBは,元気に歩き回ったり大声を上げることは困難な弱った状態にあり,そのまま放置を続ければ確実に死亡する危険があったといえ,要保護状況にあったといえる。 イそして,E医師は,Bの救命可能性について,「5月31日の時点では,低栄養状態及び外傷のいずれについても,点滴や輸血等の適切な医療措置を受けさせれば救命できた可能性は高く,また,家庭内で必要な量の食事を与えながら慎重に養育することによっても救命は可能であったと考えられる。死亡の半日前頃までには救命が困難な状態に至っていたと考えられる。」と述べているから,この意見に沿って,5月31日頃から6月4日午後5時頃までの間に必要な食事を与え,医療措置を講じれば救命可能であったと認められる。 ウ以上の検討によれば,Bが,遅くとも5月31日頃から6月4日午後5時頃までの間,要保護状況にあったにもかかわらず生存のために必要な特定の保護を受 置を講じれば救命可能であったと認められる。 ウ以上の検討によれば,Bが,遅くとも5月31日頃から6月4日午後5時頃までの間,要保護状況にあったにもかかわらず生存のために必要な特定の保護を受けられずに衰弱死したことは常識に照らして間違いないと認められる。 ⑶ ところで,E医師の意見により,後頭骨等線状骨折等がBの衰弱を強めて死期を早めたと認められるが,前記2で検討したとおり,被告人がBに加えた暴行は,頭部皮下出血等を負わせる暴行にとどまり,後頭骨等線状骨折等を負わせる暴行を加えたのが被告人であるとは認められないから,前記2で認定した被告人の暴行がBの死亡と因果関係を持つとは認められない。 - 18 -しかし,E医師の意見により,後頭骨等線状骨折等は直接の死因でなく衰弱を強めて死期を一日,二日早めたにとどまり,5月31日頃にBが要保護状況にあった時点では,このまま栄養を与えなければ確実に死んでしまう状態であったと認められることに照らせば,5月31日頃から6月4日午後5時頃までの間にBが生存のために必要な保護が受けられなかったことが衰弱死という結果に及ぼした影響が高く,後頭骨等線状骨折等を負わせる暴行が衰弱死という結果に及ぼした影響は低いといえるから,前記保護が受けられなかったことと衰弱死という結果との因果関係は認められる。 4 被告人において,遅くとも5月31日頃までに,Bに,生存のために必要な特定の保護を与えるべき立場にあり,Bがそれらの保護を必要とする状況にあったことを認識しながら,Cと一緒になってその保護を与えなかったと認められるかについて⑴ 前記1の認定事実によれば,被告人は,Cとの交際を開始した後,遅くとも4月中旬から,CとBが同居する本件居室に日常的に住み,この間,5月12日頃までは,将来的にCと結婚して られるかについて⑴ 前記1の認定事実によれば,被告人は,Cとの交際を開始した後,遅くとも4月中旬から,CとBが同居する本件居室に日常的に住み,この間,5月12日頃までは,将来的にCと結婚してBを含む三人で生活することを考え,Cに頼まれた際に,Bの食事を用意したり,食事を食べさせたりしたほか,入浴の手伝いや入浴後のおむつ交換をするなどし,また,CがBを保育園に預けず出勤する際にも,Bの世話をしていたことが認められる。これらの事実関係によれば,被告人が5月12日頃までBと同居しその保護をCと共に担っていたことは明らかである。そして,Bは2歳児であって,自ら必要な食事を用意して食事をとり,又は自ら医療措置を受けることは困難であったから,前記のようにCと共に保護を継続していた者には,他からの保護が期待されるような事情がないのであれば,引き続き保護を継続することが刑法上期待されるというべきである。 その上で,前記1の認定事実によれば,被告人は,その後もB及びCとの同居を6月5日まで続けており,その保護を継続することが容易にできる立場にあり,他にBに保護を与えられる者がいなかったにもかかわらず,Bを本件居室から外出さ - 19 -せず,他者がBを保護する機会を奪っていた。加えて,前記2の検討によれば,被告人は,Bに頭部皮下出血等という要保護状況を基礎付ける傷害の一部を負わせる暴行を自ら加えていたのであり要保護状況の形成に関与していたことが認められる。 これらの事情も併せて考慮すれば,被告人とBが親子関係にないことを踏まえても,被告人が,5月15日頃以降,Bに,生存のために必要な特定の保護を与えるべき立場にあったと認められる。 なお,被告人は,5月15日以降のBへの関与をできるだけ避けていた旨供述するが,仮にそのような行動をとっていても 日頃以降,Bに,生存のために必要な特定の保護を与えるべき立場にあったと認められる。 なお,被告人は,5月15日以降のBへの関与をできるだけ避けていた旨供述するが,仮にそのような行動をとっていても,前記判断が揺らぐものではない。 ⑵ア前記3で検討したとおり,E医師の意見により,Bは,死亡までの二,三週間程度の間,体重を維持するために必要な食事がほとんどできなかったと認められるから,司法解剖時の胃内容物の存在を踏まえても,Bと同居していた被告人とCのいずれも,Bに生存のために必要な食事を与えていなかったと認められる。また,Bは,5月15日頃以降本件居室から外出していなかったのであるから,被告人とCのいずれも,Bに生存のために必要な医療措置を受けさせなかったことも推認できる。 イそして,①E医師の意見によれば,5月31日頃には,Bが一見して痩せ,要保護状況を基礎付ける頭部等皮下出血,顔面皮下出血,顔面,胸部上方,左肩部の二度の熱傷もあり,元気に歩き回ったり大声を挙げることは困難で,弱っていることが分かる状態であったことが認められる。また,被告人は,5月15日頃から6月5日までの間,B及びCと本件居室に同居し,外出しても一日中本件居室を不在にするということはなく,5月30日から翌31日にかけてはCが不在の間にBと二人きりで過ごす時間もあった。そうすると,死亡までの二,三週間程度の間にBが前記の必要な食事がほとんどできず,5月31日頃にはBが前記のとおり弱っていたことについて,被告人が認識していたと考えるのが自然である。また,②前記頭部等皮下出血は被告人の暴行により生じたと認められ,前記顔面皮下出血,顔面,胸部上方,左肩部の二度の熱傷は,被告人の暴行によるとは認められないが, - 20 -着衣でほとんど隠れない部位の受傷であること 血は被告人の暴行により生じたと認められ,前記顔面皮下出血,顔面,胸部上方,左肩部の二度の熱傷は,被告人の暴行によるとは認められないが, - 20 -着衣でほとんど隠れない部位の受傷であること,被告人供述によっても本件居室内でBが服を着ないおむつ姿で過ごしていたことがあると認められることからすれば,いずれの要保護状況を基礎付ける傷害についても被告人が気付いていなかったとは考えられない。加えて,③被告人は5月31日にBの頭部の異変に気付いてCに連絡したり自ら病院に対処法を問い合わせたりしており,その機会にBの全身の様子に注意を払っていたと考えるのが自然である。前記アのとおり,Cも被告人もBに必要な食事を与えず,必要な医療措置を受けさせなかったことに加えて,このような①から③の事情があることに照らせば,被告人が,5月31日の時点でBが要保護状況にあることを認識していたにもかかわらず,Bの生存のために必要な保護をしないことについてCと意思を通じ一緒になって,このような保護を与えなかったと認められる。 ⑶ 弁護人の主張及び被告人供述の検討ア弁護人は,被告人が生来色弱であったから通常よりあざなどの受傷に気付きにくい旨もいう。しかし,被告人が色弱であったとしても,自ら加えた暴行に係る傷害の存在に気付かないとも,痩せ方などの見え方が色の見え方に影響されるとも考えられない。被告人自身,あざをあざとして認識できたことは自認している。弁護人の主張は理由がない。 イ被告人は,5月15日以降はBと関わらないようにしており,5月31日に病院に問い合わせた際の「頭がブヨブヨした状態」以外には,熱傷,顔面皮下出血を含めてBの受傷に気付いていなかった旨や,Bが6月5日まで歩き回るなどし,同日午前2時頃の食事の際もBがリビングに来て自分で飲食していたが た際の「頭がブヨブヨした状態」以外には,熱傷,顔面皮下出血を含めてBの受傷に気付いていなかった旨や,Bが6月5日まで歩き回るなどし,同日午前2時頃の食事の際もBがリビングに来て自分で飲食していたが,被告人らが入浴して上がった後,Bが喉辺りを押さえて苦しそうな声を出していたことに気付いた旨供述し,Cも一部これに沿うような証言をする部分がある。しかし,前記被告人供述等は,E医師の意見により認められるBの受傷状況や衰弱死に至る経過に明らかに反する。被告人供述は,Bがいる本件居室に一緒に住み,Cが不在の際にBとともに本件居室に残ることもありながら,多くの受傷の原因が分からないと - 21 -いう不自然な内容である。前記被告人供述等は,信用できない。 ⑷ 以上の検討によれば,被告人は,Bに生存のために必要な特定の保護を与えるべき立場にあり,Bがそれらの保護を必要とする状況にあったことを認識しながら,Cと一緒になってその保護を与えなかったことは,常識に照らして間違いないと認められる。 5 結論以上の次第であって,判示の傷害,保護責任者遺棄致死の事実の限度で認定し,公訴事実に沿った傷害致死の事実は認定できないと判断した。 (法令の適用)罰条判示第1の所為刑法204条判示第2の所為刑法60条,219条(218条),10条(同法218条所定の刑と同法205条所定の刑とを比較し,重い傷害致死罪の刑により処断)刑種の選択判示第1の罪懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第2の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 1 被告人は,(補足説明)の4項で説示したとおり,4 い判示第2の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 1 被告人は,(補足説明)の4項で説示したとおり,4月中旬頃から本件居室で被害児と同居しその保護をCと共に担っていた上,同児を本件居室から外出させずに他者が保護する機会を奪っていた。それにもかかわらず,被告人は,5月15日頃から同月31日頃までの間,被害児に対し,Cと共に同児に必要な食事を与えず体重を急激に減少させて低栄養により衰弱させ,かつ,判示の暴行により同児 - 22 -に頭部全体にわたる相当量の皮下出血及び帽状腱膜下出血の一部を負わせるという一連の虐待によって,同児を要保護状況に陥らせることに大きく関与した。また,当裁判所が認定した傷害罪について見ると,被告人は,2歳半と幼く言葉が十分発達しておらず相手を宥めたり他に助けを求めたりできない同児に対し,約2週間程の間に,継続的に多数回にわたりその頭部を手拳又は手で殴るという強度の暴行を加えており,生じた頭部皮下出血等も中等症と認められるものであるから,保護責任者遺棄致死罪の先行行為にとどまらない悪質さがある。 5月31日頃以降の不保護自体の態様等についてみると,5月31日未明に被告人が被害児の頭部の外傷について病院に電話をした際に医師から受診を勧められていた上,その頃の同児はすでに体重が急激に減少するなどして弱った状態であって,被告人において,同児が衰弱していることを十分認識できていた。また,被告人が加えた暴行によるとは認めたものではないが,(補足説明)の4項で説示したとおり,5月31日頃の時点で,要保護状況を形成する一因として生じていた顔面・胸部上方・左肩部の二度の熱傷及び顔面皮下出血の存在に被告人が気付いていなかったとも考え が,(補足説明)の4項で説示したとおり,5月31日頃の時点で,要保護状況を形成する一因として生じていた顔面・胸部上方・左肩部の二度の熱傷及び顔面皮下出血の存在に被告人が気付いていなかったとも考えられない。それにもかかわらず,被告人は,Cと共に被害児を受診させず食事もほとんど与えず,本件居室内の一室に扉を閉めた状態で同児を放置し,時に自らは同児を本件居室に残したまま外出もした。その理由は,前記虐待の発覚を恐れた保身や遊興を優先することにあったとしか考えられない。このように不保護の態様等は,自己の保身等の身勝手極まりない動機に基づき,被害児の生存の確保を蔑ろにするという誠にむごいものであって悪質である。なお,死亡の数時間ないし12時間前後前に被告人らが被害児に一定量の食事を与えていたとしても,同児はその頃には通常の食事を与えられるだけでは救命が困難な状態であって有意な保護とはおよそいえず,真に救命のために必要な医師による医療措置を受けさせなかったのは前記のとおり保身のためとしか考えられないから,不保護の悪質性の評価・非難の程度を低減させる事情とはいえない。 被害児が死亡したという本件結果は誠に重大である。被害児は,一連の虐待によ - 23 -ってかなり弱った状態となった後も,医療措置を受けることも必要な食事を与えられることもなく死亡した。幼い被害児が被った身体的苦痛は察するに余りあり,助けを求められないまま孤独の中で衰弱死した過程は憐れというほかない。 以上のとおり,本件各犯行に関する事情は極めて悪く,本件は同種事案((処断罪)保護責任者遺棄致死,(動機)児童虐待)の動きつつある現在の量刑傾向の中では,最も重い部類に位置付けるのが相当である。 2 その上で,被告人は本件各犯行を否認して不合理な弁解に終始し,何らの反省の態度もみら 遺棄致死,(動機)児童虐待)の動きつつある現在の量刑傾向の中では,最も重い部類に位置付けるのが相当である。 2 その上で,被告人は本件各犯行を否認して不合理な弁解に終始し,何らの反省の態度もみられないこと,本件の性質・内容等に照らすと被告人に見るべき前科がない点を有利に斟酌することはできないことなども踏まえて,主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (検察官岡田和人,同北野達哉,同堀華子,国選弁護人磯部真士(主任),同鳥井賢治各出席)(求刑懲役18年)令和2年10月16日札幌地方裁判所刑事第1部裁判長裁判官石田寿一 裁判官古川善敬 裁判官宮原翔子

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