平成28(行コ)91 遺族補償給付不支給処分取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年4月11日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 平成23(行ウ)104
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判決文本文31,588 文字)

- 1 -平成30年4月11日判決言渡し同日原本交付裁判所書記官平成28年(行コ)第91号遺族補償給付不支給処分取消請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成23年(行ウ)第104号)口頭弁論終結日平成30年1月26日 主文 1 原判決を取り消す。 2 名古屋東労働基準監督署長が,控訴人に対して,平成20年5月21日付けでした労働者災害補償保険法による遺族補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,学校法人a(以下「a」という。)に勤務していたb(以下「被災者」という。)が肺がん及び胸膜中皮腫(以下,これらを併せて「本件疾病」という。)により死亡したことについて,被災者の妻である控訴人が,名古屋東労働基準監督署長に対し,被災者の本件疾病の発症は,aにおいてアスベスト(以下「石綿」ということもある。)にばく露したためであり,業務に起因するとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付の支給を請求したところ,同署長から,平成20年5月21日付けで,被災者の本件疾病の発症は業務に起因するものとは認められないとして,遺族補償給付を支給しない旨の処分(以下「本件不支給処分」という。)を受けたため,控訴人が,被控訴人に対し,本件不支給処分の取消しを求める事案である。 原審は,被災者がa に勤務していた間にアスベストを直接取り扱う- 2 -作業に従事していたとは認められず,また,その間に被災者がアスベストにばく露した可能性があるのは中学校舎の である。 原審は,被災者がa に勤務していた間にアスベストを直接取り扱う- 2 -作業に従事していたとは認められず,また,その間に被災者がアスベストにばく露した可能性があるのは中学校舎の新築工事が行われていた昭和38年4月から11月までの8か月間程度にとどまり,かつ,そのばく露の程度も明らかではない, a のアスベスト調査・含有分析の結果,クリソタイルとクロシドライトの含有は認められるがアクチノライトが含まれていた可能性はないとの回答がされているのに,被災者の肺内からクリソタイルのほかにアクチノライトが検出されていることからすると,被災者がa とは別の場所でアスベスト(アクチノライト)にばく露した可能性があることを否定できない, ,によれば,a においては被災者の在勤中に複数の工事や建物においてアスベストを含む吹付材や石綿含有建材が使用されてきたこと,被災者がこの工事の際や設備を利用する際に,さらには長期間にわたってa で勤務してきた過程においてこのアスベストに何らかの形態や程度でばく露した可能性があることを最大限に斟酌したとしても,被災者に発症した中皮腫について,国の労災認定基準(原判決別紙28の厚生労働省の行政通達)第2の3の「石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること」という認定要件に該当するものとは認め難く,上記の諸事情等に加え,控訴人提出の証拠等の存在及び内容を合わせ考慮しても,本件疾病の原因は不明で,本件疾病の発症が被災者のa 勤務中のアスベストばく露に起因するものであると認めることはできないとして,控訴人の請求を棄却し,これを不服とする控訴人が,本件控訴を提起した。 2 前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記3として当審における当事者の主張を付加するほか,原判決「事 請求を棄却し,これを不服とする控訴人が,本件控訴を提起した。 2 前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記3として当審における当事者の主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正)- 3 -原判決23頁23行目の「記念会堂にアスベストが使用されていた事実は認める。」を「記念会堂にアスベストが使用されていた事実は否認する。」に改める(被控訴人は,当審における平成30年1月23日付け第2準備書面7頁において,「記念会堂については,再度図面を精査したところ,図面上石綿を使用している事実が認められなかった」,「被控訴人は,原審において記念会堂における石綿使用を認めていたが,これは錯誤に基づき認めたものであるため,撤回する。」として,記念会堂における石綿使用の自白を撤回した。これに対し控訴人は,明示的な異議は述べていない。)。 3 当審における当事者の主張控訴人の主張ア被災者は,a における建築工事のうち,少なくとも中学校舎新築工事,中高管理棟増築工事,中学体育館工事及び中央棟工事がされていた期間のうち約21か月間は,石綿含有建材が使用されていた工事現場から飛散した石綿粉塵にばく露する場所で就労しており,これは,中皮腫に関する国の労災認定基準(本認定基準)第2の3の「石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること」という認定要件(以下「1年要件」ともいう。)を充足する。 a では,上記の他にも,その工事時期等からして石綿含有建材の使用が推測される増改築・新築工事が多数行われている。しかし,aも,工事を設計・施工した竹中工務店も,工事がされた校舎等の設計図書や竣工図のうちごく一部しか提出しなかったため,多くの建物に 建材の使用が推測される増改築・新築工事が多数行われている。しかし,aも,工事を設計・施工した竹中工務店も,工事がされた校舎等の設計図書や竣工図のうちごく一部しか提出しなかったため,多くの建物において,石綿含有建材の使用事実の有無を客観的に確認することができなかった。実際には,それらの工事現場からも石綿粉塵の飛散があったと考えられることからすれば,被災者は,上記の約21か月間をさらに超える長期間にわたって石綿粉塵にばく露してい- 4 -たことになる。 被災者の肺内から,a で使用されていることが確認できていないアクチノライトが検出された一方,a で使用されていたクロシドライトが検出されなかったことは,被災者のa における石綿ばく露を否定する方向に働く事実ではないし,被災者の肺の手術ブロックを用いて行われた肺内石綿濃度分析結果(乾燥肺1g当たり石綿小体94本,石綿繊維20万本)も,a における職業性石綿ばく露と矛盾するものではない。他方,被災者はa 以外の場所において石綿粉塵の職業性ばく露,近隣ばく露,家庭内ばく露を受けたことはなかった。 したがって,被災者の悪性胸膜中皮腫は,a における石綿粉塵ばく露を相対的に有力な原因として発症したものであって,業務に起因するものであり,これを認めなかった原判決は誤っている。 イそもそも,中皮腫は,石綿に起因する特異的疾患であり,中皮腫の発症に閾値(これ以下のばく露であれば中皮腫を発症しないという下限値)はない(甲152)。石綿関連疾患の診断及び原因判定の診断基準について,1997年1月にヘルシンキで開催された国際会議の成果としてのコンセンサス・レポート(甲49の1・2。以下「ヘルシンキ・クライテリア」という。)は,現在も国際的に尊重されており,その後の国際的な医学的知見を踏まえて ルシンキで開催された国際会議の成果としてのコンセンサス・レポート(甲49の1・2。以下「ヘルシンキ・クライテリア」という。)は,現在も国際的に尊重されており,その後の国際的な医学的知見を踏まえて検討が加えられてきたが,2014年版(甲151,188)でも,中皮腫に関する基本的な事項については一切変更なく踏襲されている。ヘルシンキ・クライテリアは,中皮腫の職業起因性の評価に当たって,具体的なばく露期間を設けることなく,「短期間又は低レベル」の職業性ばく露であっても,中皮腫の職業起因性を認めるのに十分であるとしている。また,欧州諸国の中皮腫の職業病認定のためのアスベ- 5 -スト粉塵ばく露基準は,最低ばく露期間の要件が設けられていないか,設けられていても,せいぜい「数週間」程度である(甲184の2の1・2,187)。このように,中皮腫の場合には,就労場所で石綿粉塵被害を受けたかどうかが最も重要であって,累積ばく露量やばく露期間は必ずしも問題ではない。本認定基準における中皮腫の労災認定要件としての1年要件は,医学的根拠の裏付けに乏しく,国際的な中皮腫の職業病認定のためのアスベスト粉塵ばく露基準と著しく乖離しており,必要以上に厳格な要件を課す不合理で不当な基準である。 被控訴人の主張ア本認定基準の中皮腫の労災認定要件としての1年要件(石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること)は,1年以上の石綿ばく露期間が中皮腫発症の重要な要因の一つといえることから,1年要件に該当する場合には業務起因性を認めることとし,1年要件を満たさないものについては,厚生労働省本省との協議により,関係資料を踏まえ組織病理学的証拠や作業環境等の個別具体的事情を総合して業務上外を判断することとするための基準であって,これに該当しないものの業務起 いものについては,厚生労働省本省との協議により,関係資料を踏まえ組織病理学的証拠や作業環境等の個別具体的事情を総合して業務上外を判断することとするための基準であって,これに該当しないものの業務起因性を一律に否定するものではない。しかし,累積ばく露量やばく露期間を問題にせずに業務起因性が肯定されるわけではない。 わが国では,戦後,石綿輸入量が年々増加し,石綿は生活のあらゆるところで使用されており,一般人が日常生活において石綿にばく露する機会を有していたのであるから,仮に就労場所における石綿粉塵ばく露が証明されたとしても,それが業務に内在する危険の現実化(業務外の要因に対して相対的に有力な原因になった)と認められなければ,業務起因性を認めることはできない。 - 6 -ヘルシンキ・クライテリアの「短期間又は低度ばく露の職業歴は,中皮腫を職業性と定義づけるのに十分なものと考えられる。」との記載は,「バックグラウンドレベル」のばく露(一般住民の環境性ばく露のレベル)を超えた「有意な職業性ばく露」がある場合に,それが短時間あるいは低レベルのばく露であっても,中皮腫が職業性と認められるという趣旨の記載であって,バックグラウンドレベルのばく露についてまで中皮腫を職業性であると認める趣旨の記載ではないし,肺内の石綿繊維濃度等から職業性ばく露の有無を推測することを否定するものではない。 欧州諸国の中皮腫の労災認定基準は,本認定基準の作成に当たって,参考にされていない。労災認定の基準や手順は各国が独自の判断でそれぞれの実情に応じた制度設計との関連で定めるものであり,それらの相違を無視してばく露期間の要件のみを取り出して比較するのは相当でない。 イ本件の被災者については,a で石綿にばく露した事実自体が認められない。昭和38年に行われた中 めるものであり,それらの相違を無視してばく露期間の要件のみを取り出して比較するのは相当でない。 イ本件の被災者については,a で石綿にばく露した事実自体が認められない。昭和38年に行われた中学校舎新築工事時に,被災者が,工事場所と同一建物内に滞在した可能性はあるが,フロアが異なる上,被災者がアスタイル切断作業時にその建物内にいたという証拠はない。また,中学校舎新築工事以外の工事は全て,被災者の滞在場所とは別の建物又は戸外の工事であり,そこで石綿の吹付けや石綿含有建材を使用した工事が行われたからといって,工事現場で発生した石綿粉塵が風に乗って飛散し,被災者がその石綿粉塵にばく露したという控訴人の主張は単なる憶測にすぎず,別の建物内にいる被災者が石綿粉塵のばく露を受けた高度の蓋然性は立証できておらず,被災者がa 以外の場所で石綿粉塵にばく露した可能性も否定できない。 - 7 -また,a 内施設ではクロシドライト,クリソタイル及びアモサイトが使用されているのに対し,被災者の肺内からは,クリソタイルのほかに,a で使用されていないアクチノライトが検出されており,a で使用されているクロシドライトが検出されていない。この不一致は不自然であり,a 内における石綿ばく露が認められない証である。また,被災者の肺内の石綿小体数や石綿繊維濃度は,一般人レベルを超えるものではないことは明らかである。そうである以上,被災者の中皮腫が石綿と関連しているかは不明といわざるを得ず,被災者に発症した中皮腫に業務起因性は認められない。 このように業務起因性が不明の場合があることを考慮し,わが国では,石綿健康被害救済制度を設けているのであるから,本件は,同制度による救済を受けるべき事案である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被災者の死因とな 不明の場合があることを考慮し,わが国では,石綿健康被害救済制度を設けているのであるから,本件は,同制度による救済を受けるべき事案である。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被災者の死因となった胸膜中皮腫は,被災者がa における業務を行う際に石綿粉塵にばく露したことによって発症したものであり,被災者の業務に内在する危険が現実化したものとして,業務起因性が認められるから,本件不支給処分の取消しを求める控訴人の請求には理由があると判断する。その理由は,以下のとおりである。 2 中皮腫の労災認定基準について中皮腫の原因について被災者の死因となった本件疾病(肺がん及び胸膜中皮腫)のうち,「中皮腫」とは,中皮(人の胸部や腹部の中にある肺,心臓,胃や腸などの内臓の表面と体壁の内側を覆い,これらの臓器がスムーズに動くのを助けている透明な膜。漿膜とも呼ばれる。)の表層にある中皮細胞にできるがん(悪性腫瘍)である(甲35:67~68頁)。 中皮腫の発症は,そのほとんどが石綿粉塵にばく露したことによる- 8 -石綿繊維の吸引,沈着にかかわるものであり,中皮腫は,石綿に起因する特異的疾患である。中皮腫には閾値がなく,医学及び環境学の専門家による「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」が平成18年2月に取りまとめた「「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書」(乙3)(以下「平成18年報告書」ともいう。)においても,中皮腫の診断の確からしさが担保されれば,当該中皮腫は,石綿ばく露を原因とするものと考えて差し支えないものとされている(甲181:113頁,甲182:106~107頁,乙3:6~7,9頁)。 中皮腫の労災認定基準に関する国際的な状況ア国際的な認定基準としてのヘルシンキ・クライテリア のとされている(甲181:113頁,甲182:106~107頁,乙3:6~7,9頁)。 中皮腫の労災認定基準に関する国際的な状況ア国際的な認定基準としてのヘルシンキ・クライテリア1997年1月にヘルシンキで開催された国際会議(日本からも,石綿関連疾患に造詣の深い医学者が参加し,決定に関与してきた。)の成果であるヘルシンキ・クライテリアは,現在も,石綿関連疾患の診断及び原因判定の診断基準として国際的に尊重されており,2014年版ヘルシンキ・クライテリアにおいても,中皮腫に関する基本的な事項については,変更なく踏襲されている(甲49の1・2,151,188,191)。少なくとも中皮腫に関し,ヘルシンキ・クライテリアが,現在もなお国際的に尊重されている基準であることは,当事者間に争いがない。 ヘルシンキ・クライテリアは,中皮腫の職業起因性の評価に当たって,具体的なばく露期間の要件を定めておらず,「非常に低いレベルのバックグラウンドの環境ばく露は極めて低いリスクをもたらすにすぎないが,短期間又は低レベルの石綿ばく露であっても,中皮腫について職業関連と診断するのに十分である。」としており,これは,一般住民の環境性ばく露のレベル(バックグラウンドレベルの- 9 -ばく露)を超えた職業性ばく露がある場合には,それが短時間あるいは低レベルのばく露であっても,中皮腫が職業性と認められるという趣旨であると解される。 イ欧州諸国の中皮腫の職業病認定基準平成18年(2006年)の労災職業病保険欧州フォーラムで報告された欧州12か国における中皮腫の職業病認定のためのアスベスト粉塵ばく露基準(甲184の1:47頁,184の2:42頁)をみると,このうち10か国では,最低ばく露期間の要件が設けられていない(ドイツ,ベルギー, 国における中皮腫の職業病認定のためのアスベスト粉塵ばく露基準(甲184の1:47頁,184の2:42頁)をみると,このうち10か国では,最低ばく露期間の要件が設けられていない(ドイツ,ベルギー,デンマーク,スペイン,イタリア,ノルウェー,スウェーデン及びスイスの8か国では「わずかなばく露でも可」,フランスでは「最低限期間なしで日常的ばく露(業務の例示的リスト)」,ポルトガルでは「(業務の例示的リスト)」とされている。)。また,2か国(オーストリア及びフィンランド)では,最低ばく露期間を設定しているが,それは,「fewweeks」(「数週間」)というものである。 また,イギリスの労災補償制度においては,中皮腫の場合,特定の職業を明示することなく(他の疾患の場合には,より具体的な職業が例示されている。),「環境一般において通常認められるレベル以上の石綿,石綿粉塵,又はあらゆる石綿混合物への曝露」により中皮腫に罹患した場合,給付対象となる。」とされ,一般環境中の石綿濃度のレベル以上の石綿粉塵にばく露したことを要件としているのみであり,石綿粉塵ばく露期間の要件は設けられていない(甲187:141頁)。 上記,の欧州諸国の状況(中皮腫の労災認定基準において,ばく露期間の要件を設けないか,ばく露期間の要件を設けてもせいぜい「数週間」程度という状況)は,国際的に尊重されている- 10 -ヘルシンキ・クライテリアの「非常に低いレベルのバックグラウンドの環境ばく露は極めて低いリスクをもたらすにすぎないが,短期間又は低レベルの石綿ばく露であっても,中皮腫について職業関連と診断するのに十分である。」とする見解に符合している。 ウ以上のことからすると,中皮腫は,一般住民の環境性ばく露のレベルではほとんど発症しないばかりか,肺が っても,中皮腫について職業関連と診断するのに十分である。」とする見解に符合している。 ウ以上のことからすると,中皮腫は,一般住民の環境性ばく露のレベルではほとんど発症しないばかりか,肺がん等の石綿ばく露によって発症する他の疾患と異なり,上記レベルを超える石綿ばく露以外の発症原因がほとんど考えられない点に大きな特徴のある疾患であると認められる。 そうすると,ヘルシンキ・クライテリアの趣旨のとおり,中皮腫を発症した者に一般住民の環境性ばく露のレベル(バックグラウンドレベル)を超える職業性ばく露があった場合には,それが短期間又は低レベルのものであっても,他に中皮腫の発症原因が見当たらない限り,当該中皮腫の業務起因性を認めるのが相当である。 本認定基準の「1年要件」についてア厚生労働省労働基準局長が平成24年3月29日付けで発した「石綿による疾病の認定基準について」(基発0329第2号)(本認定基準)は,被災者の死因となった胸膜中皮腫(石綿肺の所見がないもの)について,「石綿ばく露作業の従事期間が1年以上ある場合」(最初の石綿ばく露作業開始から10年未満で発症したものを除く。)に業務起因性を認めるという考え方に立っている(本認定基準第2の3)(1年要件)。 被控訴人は,この1年要件は,石綿ばく露期間が中皮腫発症の重要な要因の一つといえることから,1年要件に該当する場合には業務起因性を認めることとしたものであり,これに該当しないものについては,関係資料を踏まえて,厚生労働省本省との協議により,- 11 -当該事案における個別具体的事情を総合して業務上外を判断する(本認定基準第3の5ウ)ための基準であって,ばく露期間が1年に満たないものについても,例えば,作業環境管理が十分行われていなかった時代に,吹 案における個別具体的事情を総合して業務上外を判断する(本認定基準第3の5ウ)ための基準であって,ばく露期間が1年に満たないものについても,例えば,作業環境管理が十分行われていなかった時代に,吹き付け作業,原料投入作業等の石綿飛散が著しい作業に従事した場合については労災認定されることもあるから,不合理なものではないと主張する。 イしかし,本認定基準が中皮腫の労災認定について本省協議とするかどうかを区切る基準として「石綿ばく露期間1年」を採用した医学的根拠は,明確とはいえない。本認定基準の策定経過において参照されたという諸外国の状況や医学的知見のうち,平成15年8月26日「石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会報告書」(乙28)(平成18年報告書(乙3)の引用文献では「(2004)」として掲げられている(乙29)。)(以下「平成15年報告書」ともいう。)に記載されている平成11年から13年までの3年間において石綿による中皮腫として労災認定された国内の93事例に関する報告(乙28:12頁)は,それ以前のわが国の中皮腫の労災認定基準で石綿ばく露作業の従事期間を「5年以上」としていた時期の統計であって,参考にならないし,諸外国の状況や医学的知見として参考にされたというドイツの状況は,対象期間のほとんどがヘルシンキ・クライテリア(1997年)公表前の期間にかかるもので,最小ばく露期間のデータがないし,ノルウェーの事例は対象期間の全てがヘルシンキ・クライテリアの公表前の期間にかかるものであり,スウェーデン,デンマーク,フィンランドに関する報告はいずれもばく露期間に関するものではないから,いずれも,「1年以上」のばく露期間を設定する根拠となり得るものではなく,Bianchi らの報告(乙30の1・2。平成1 フィンランドに関する報告はいずれもばく露期間に関するものではないから,いずれも,「1年以上」のばく露期間を設定する根拠となり得るものではなく,Bianchi らの報告(乙30の1・2。平成18- 12 -年報告書(乙3)の引用文献)は,「造船業を主とする石綿ばく露作業歴を有する胸膜中皮腫症例では,石綿ばく露作業従事年数が明らかな男性325例のうち323例は1年以上のばく露歴が認められたこと」を報告するものであるが,325例中の2例については1年未満のばく露歴しかなく,また,1年未満のばく露歴しかなく,中皮腫を発症しない者が他にどの程度存在するのかも明らかでないから,「1年以上」のばく露期間を設定する根拠となり得るものではない。そして,平成18年報告書(乙3)9頁に記載されている「職業ばく露とみなすために必要なばく露期間」に関する記述は,上記平成15年報告書(乙28)をなぞるものにすぎず,ばく露期間1年未満の場合についての中皮腫発症の危険性についての検討が十分になされたものとは認められない(甲191:3頁)。 ウ以上からすると,わが国における中皮腫の労災認定において,本認定基準が,厚生労働省本省との協議とするか否かを区切る基準として,「石綿ばく露期間1年以上」を設定したことは,十分な医学的根拠に基づくものということはできず,ばく露期間1年未満の中皮腫を一律に本省との協議とすることに合理性は認められない。 労災認定の基準や手順及び補償の程度は,各国が独自の判断で,それぞれの国の実情に応じて定めるものではあるが,業務起因性の判断自体は科学的知見に基づく合理的なものでなければならず,その意味では合理的な国際的基準がある以上,それを尊重すべきものである。そして,中皮腫は,一般住民の環境性ばく露のレベル(バックグラウンドレ 断自体は科学的知見に基づく合理的なものでなければならず,その意味では合理的な国際的基準がある以上,それを尊重すべきものである。そして,中皮腫は,一般住民の環境性ばく露のレベル(バックグラウンドレベルのばく露)を超えた職業性ばく露がある場合には,それが短時間あるいは低レベルのばく露であっても,それだけで発症する危険があるのであり,国際的に尊重された診断基準であるヘルシンキ・クライテリアが,この医学的知見に基づいて,「短- 13 -期間又は低レベルの石綿ばく露であっても,中皮腫について職業関連と診断するのに十分であると考えるべきである。」としていること,欧州諸国における労災認定基準が,13か国中11か国は,中皮腫の労災認定基準において最低ばく露期間の要件を設定しておらず,最低ばく露期間を定めている2か国も,「fewweeks」(「数週間」)としていること(上記のイ,)に照らせば,わが国の中皮腫の労災認定基準において,仮に,厚生労働省本省との協議とするか否かを区切る基準としてばく露期間の要件を設定する必要があるとしても,それはせいぜい2,3か月程度を限度とすべきであると考えられるし,設定されたばく露期間の要件を満たさないものについても,就労場所におけるばく露状況等を検討することによって,中皮腫の発症に業務起因性を肯定すべきものが存在するというべきである。 3 石綿の種類及び特性等石綿(アスベスト)とは,多様な物理化学的性質を持つ天然の繊維状ケイ酸塩鉱物の総称であり,「繊維状を呈している」6種類の鉱物(アクチノライト,アモサイト(茶石綿),アンソフィライト,クリソタイル(白石綿),クロシドライト(青石綿)及びトレモライト)をいう。 石綿は,蛇紋石族石綿と,角閃石族石綿に大別され,このうち蛇紋石族石綿は,クリソタイ サイト(茶石綿),アンソフィライト,クリソタイル(白石綿),クロシドライト(青石綿)及びトレモライト)をいう。 石綿は,蛇紋石族石綿と,角閃石族石綿に大別され,このうち蛇紋石族石綿は,クリソタイル1種類のみであり,これまで世界で使われた石綿の9割以上が,このクリソタイルであり,日本においても使用されてきた石綿の9割以上がクリソタイル(白石綿)である。 角閃石族石綿5種類(アモサイト(茶石綿),クロシドライト(青石綿),アンソフィライト,トレモライト及びアクチノライト)のうちアモサイトとクロシドライトは断熱材などに大量に使用されてきた。その余の3種類はあまり使用されていなかったが,トレモライト(アク- 14 -チノライトを含む。)は,床タイル製品,塗料,壁材,防火,耐火,断熱,電気絶縁材など,建築材料の原料として使用されていた。アクチノライトとトレモライトは同じ結晶構造を持ち,鉄分の多少で区別されており,一括して記述されることが多い。いずれも蛇紋岩中に存在することが多く,クリソタイル等の鉱物に不純物として含まれる場合があるので,このことに注意が必要である。 (甲9,167,181:17~19頁)繊維状鉱物である石綿は,ほぐすと綿のようになる性質を持ち,縦に裂ける傾向があり,次々と細かい繊維になっていき,細いものになると0.02~0.03ミクロン程度の太さしかない。人の呼吸器官には異物排除機能が備わっているが,石綿繊維は直径が極めて細いため,人が呼吸をする際に鼻や気管・気管支を通り抜けて呼吸細気管支・肺胞にまで到達する。そのうち,比較的長い石綿繊維は,マクロファージ等の貪食・運搬作用がうまく機能せず,そのまま長時間肺内に滞留し,そのうちの一部は,多数のマクロファージの作用で,石綿繊維の表面に鉄蛋白が付着して鉄亜鈴のような 比較的長い石綿繊維は,マクロファージ等の貪食・運搬作用がうまく機能せず,そのまま長時間肺内に滞留し,そのうちの一部は,多数のマクロファージの作用で,石綿繊維の表面に鉄蛋白が付着して鉄亜鈴のような形をした石綿小体を形成する。肺内に石綿小体があれば,石綿小体を形成していない通常の石綿繊維もその何倍か存在している(乙3)。 クリソタイルは角閃石族石綿に比べて体内で消失しやすいこともあって,クリソタイルを核とする石綿小体は,その使用量に比して,稀にしか確認されない(甲181:76頁)。 石綿含有建材成型品には,波形石綿スレート,石綿セメント板,住宅屋根用石綿スレート,石綿セメントサイディング,石綿けい酸カルシウム板(ケイカル板),パルプセメント板,耐火被覆材,押出成形セメント板などがあり,石綿含有建材を加工する際には,石綿粉塵が飛散する(甲46)。 - 15 -また,アスベストを含む吹付材(吹付アスベスト)は,吹き付ける際に,アスベストが飛散するほか,吹付材が経年劣化したり,吹付材に人為的な力が加わったりすると,吹付材が剥離し,アスベストが飛散する(甲26,45,46)。 一旦発生して飛散した石綿粉塵は周囲に拡散して浮遊し,空気の流れによって移動したり,人の衣類や靴等に付着したりして移動・浮遊し,床に落ちた後も清掃等により再び飛散するなどして拡散を繰り返すが,石綿粉塵は目に見えず,臭いもしないため,石綿粉塵ばく露を受けた者は石綿粉塵を吸入したことに気付かないことが多い イギリス海軍の石綿粉塵の再現実験によれば,船内の最下層階で行われた吹付石綿の除去作業により発生した311f/㎖の石綿粉塵は4階シャワー室の通路でも25f/㎖と広範囲に拡散することが確認されている。大気環境中の石綿粉塵の飛散距離について,フィンランドの 行われた吹付石綿の除去作業により発生した311f/㎖の石綿粉塵は4階シャワー室の通路でも25f/㎖と広範囲に拡散することが確認されている。大気環境中の石綿粉塵の飛散距離について,フィンランドの石綿鉱山に源を持つ石綿繊維が27㎞飛散したことが記録されている。アメリカでも,太さ0.1ミクロン・長さ10ミクロンの石綿繊維が,毎分ほぼ4.5mの風に乗って1120㎞,太さ1ミクロン・長さ50ミクロンの石綿繊維が,毎分ほぼ4.5mの風に乗って13. 3㎞移動したという報告がある。また,東京都文京区の保育園における吹付石綿の除去作業現場の再現実験では,除去作業の翌日に床をほうきで15分清掃した直後には20000f/Lの高濃度となり,その4時間後は7000f/L,8時間後は3000f/L,12時間後でも1000f/Lと,長時間にわたって高濃度の石綿粉塵が空気中に浮遊していることが確認され,一旦粉塵が収まった後に測定関係者が実験室内を歩いたところ,床に落ちていた石綿が再飛散し,その濃度が3000f/Lに達したことが確認されている。また,石綿含有建材の切断・加工時の石綿粉塵の飛散状況の調査結果によれば,飛- 16 -散しやすいケイ酸カルシウム板の切断作業により発生する石綿粉塵濃度は3000本/Lを超え,隣地との境界における石綿粉塵濃度が170本/Lとなったというデータもある。(甲24~26,154)。 環境省などが行った石綿粉塵の飛散等に関する風洞実験(気流実験)(容積150㎥(幅3m×高さ2.5m×長さ20m)の密閉した実験室内において,一方の端から平均風速0.3m/sの気流を発生させ,比較的発塵性の高い石綿ケイ酸カルシウム板などの石綿含有建材(レベル2)をその一端で破砕し,0m,5m,10m,15mの位置で石綿粉塵濃度を測定した実験と から平均風速0.3m/sの気流を発生させ,比較的発塵性の高い石綿ケイ酸カルシウム板などの石綿含有建材(レベル2)をその一端で破砕し,0m,5m,10m,15mの位置で石綿粉塵濃度を測定した実験と,同じ大きさの実験室内において,比較的発塵性の低いFBボードなどの石綿含有建材(レベル3)をその一端で切断し,0m,5m,10m,15mの位置で石綿粉塵濃度を測定した実験)によれば,比較的発塵性の高いレベル2の石綿ケイ酸カルシウム板の破砕では,0m地点が580f/L,5m地点が680f/L,10m地点が640f/L,15m地点が500f/Lであり,比較的発塵性の低いレベル3のFBボードの切断でも,5m地点が700f/L,10m地点が1200f/L,15m地点が630f/Lであり(0m地点はデータなし。),いずれも,500f/L以上の大量の石綿粉塵が発生しており,発生した石綿粉塵は,風洞内の空気の流れに乗って移動し,地面に落下・堆積することなく,石綿粉塵濃度もほとんど低下することなく飛散するという実験結果が得られている(甲155・石綿含有建材の飛散状況調査結果)。 4 被災者のa における石綿粉塵ばく露の状況について前提事実,甲2,6~15,20~32,35~68,71~93,95~103,105~147,151~157,160~183,189~195,乙6,8~35,38~41(枝番のあるものは,特記しない限り,枝番を含む。以下同じ。),原審証人c 及び弁論の全趣旨を- 17 -総合すれば,以下の事実が認められる。 被災者のa での勤務経過等被災者b(昭和12年2月●日生)は,大学を卒業した昭和36年の4月1日に,a(学校法人a)に国語科の教師として採用され,a 敷地内の独身寮に居住しつつ,原判決別紙1「被災者の a での勤務経過等被災者b(昭和12年2月●日生)は,大学を卒業した昭和36年の4月1日に,a(学校法人a)に国語科の教師として採用され,a 敷地内の独身寮に居住しつつ,原判決別紙1「被災者の経歴及び担当業務」記載のとおり,昭和41年3月まで5年間a で勤務し,一旦退職して6年間静岡県立高校で勤務した後,昭和47年4月から再びa で勤務するようになり,平成13年2月に休職するまで,a で教師として勤務した。被災者は,平成11年9月に肺がんの手術を受け,その手術中に,悪性胸膜中皮腫であることが判明した。被災者は,平成13年2月●日からa を休職し,同年11月●日に64歳で死亡した。被災者の直接死因は,「肺がん及び胸膜中皮腫」,その原因は「不詳」,発症から死亡までの期間は「約2年1か月」とされている(甲2,11)。 a の建物建築・改築等工事の経過ア昭和34年3月31日,a は,名古屋市α区βから,同区γの現在のa 中学・高校の所在地(以下「δキャンパス」という。)に移転した。昭和33年度に,高校体育館,管理棟(A 校舎),高校本館,理科家庭科校舎(C校舎),中学木造校舎,芸術校舎(E校舎),家庭寮(g寮),職員寮及び記念館が,昭和35年度に,短大校舎,h棟が完成した。 これらは,いずれも同一の建築会社によって施工されたものである。 イ被災者がa での勤務を開始した昭和36年4月1日以降の被災者がa で勤務していた期間中にa で行われた工事は,原判決「事実及び理由」第3の1のウないしソ記載のとおりであるから,これを引用する。 - 18 - アスベストが使用されていたことが判明している箇所控訴人のa 勤務中に存在したδキャンパスの建物のうち,アスベストを含む吹付材又は石綿含有建材が使用されてい 引用する。 - 18 - アスベストが使用されていたことが判明している箇所控訴人のa 勤務中に存在したδキャンパスの建物のうち,アスベストを含む吹付材又は石綿含有建材が使用されていたことの客観的資料が得られている箇所は,以下のとおりである。 これら以外の建物のうち,平成17年時点で存在していたものについては,その時点の調査で上記吹付材等は発見されなかったが,その時点で現存しなかった高校体育館等については,設計図書や竣工図等の客観的資料が現存していないため,アスベストが使用されたとは断定できないが,当時一般的に学校建築には広くアスベストが使用されていたことは公知の事実であり,現に同一の建築会社によって施工された一連の建物の多くにアスベストが使用されていた以上,現存しない建物にもアスベストが使用されていた可能性はあると認められる。 中学校舎昭和37年7月から昭和38年11月まで施工された中学校舎新築工事においては,床の一部に,石綿含有建材であるアスタイル(石綿の種類は不明)が使用されており(甲110の1~4),また,中学テレビスタジオ部分の天井には,吹付材(クリソタイルとクロシドライト)が使用されている(甲110の5)。 昭和54年の中学校舎改築工事の際に,印刷室,ロッカー室,副校長室,面談室,中学会議室,用務員室の床に,石綿含有建材であるアスタイルが使用されており,また,副校長室,面談室,中学会議室の天井には石綿含有建材であるジプトーンが使用されている(甲55の2の4,甲114の1・2)。 短大本館4階体育館,i 館3階昭和50年12月から昭和52年5月まで施工された短大本館及びi 館新築工事においては,短大本館4階体育館天井と,i 館3階(屋- 19 -外廊下,多目的室,学生ラウンジ,自動販売機 館3階昭和50年12月から昭和52年5月まで施工された短大本館及びi 館新築工事においては,短大本館4階体育館天井と,i 館3階(屋- 19 -外廊下,多目的室,学生ラウンジ,自動販売機コーナー,MWC,ロッカー,印刷室,階段室)に,にアスベストを含有する吹付材が使用されていた。石綿の種類は,クリソタイルである(甲61の1~8,102,103)。 中高管理棟昭和52年7月から昭和53年6月まで施工された中高管理棟工事においては,石綿含有建材が使用されたことが証拠上明らかになっている箇所は次のとおりである。石綿の種類は,クリソタイル及びアモサイト(茶石綿)である(甲59,113,171,172の2,173の1~3)。 不燃ジプトーン:玄関ホール,通用玄関,A 階段,階段室Aアスベール,アスベストボード:湯沸室,便所アスベストスラブ,アスベストラックス:陸橋Aアスベストスラブ:陸橋Bアスベール,不燃ジプトーン:ラウンジ有孔プラスターボード:フルラボラトリー,センターオフィス,録音室,リスニングラボラトリーアスベストボード:脱靴部分,階段室A 踊場裏中学体育館昭和59年3月から同年12月までの間に施工された中学体育館工事においては,軒裏に石綿含有建材である石綿太平板が,渡り廊下に石綿含有建材である石綿セメント板が,それぞれ使用されていた(甲115,120)。石綿の種類は不明である。 高校トイレ棟平成元年に施工された高校トイレ棟工事においては,高校トイレ棟の1階床下デッキ裏に,アスベストを含有する吹付材が使用され- 20 -ていた。石綿の種類は,クリソタイルである。 中央棟平成元年10月から平成3年3月まで施工された中央棟工事は,その場所にもとあった昭 ,アスベストを含有する吹付材が使用され- 20 -ていた。石綿の種類は,クリソタイルである。 中央棟平成元年10月から平成3年3月まで施工された中央棟工事は,その場所にもとあった昭和33年築の高校体育館を解体して,新たに中央棟を建築したものである。 中央棟新築工事においては,次の箇所にアスベスト(クリソタイル)を含有する吹付材や石綿含有建材が使用されていたことが証拠上明らかとなっている。 地下1階駐車場・地下倉庫中央棟地下1階駐車場の天井に,1.3%のクリソタイルを含有する吹付材が露出した状態で施工されており,また,地下倉庫にも同様に石綿含有吹付材が使用されていた(甲60の6・18)。 中央棟3階器具庫中央棟3階器具庫の天井面と階段裏に,石綿含有岩綿が吹き付けられていた(甲61の2)。 中央棟音響調整室中央棟音響調整室のロープシャフト上部の天井鉄骨梁に,石綿含有岩綿が吹き付けられていた(甲61の2)。 中央棟エレベーター機械室,同階段室3号館(中央棟のうち短大部分)エレベーター機械室,同階段室の天井に,石綿含有岩綿が吹き付けられていた(甲60の21,162)。 その他の耐火被覆工事等(甲60の5・6,甲162,163)a 柱(5,6階)に,石綿含有岩綿が吹き付けられ,石綿含有建材であるケイ酸カルシウム板(下地用・化粧用)が施工されていた。 - 21 -b 梁(4,5,6階)に,石綿含有岩綿が吹き付けられていた。 c 外壁(3,4階)に,石綿含有建材であるアスロックが施工されていた。 d 天井(5,6階印刷室,書庫,ロッカー室,廊下,職員用・学生用便所)に,石綿含有建材であるケイ酸カルシウム板が施工されていた。 中学校舎新築工事における石綿含有建材 工されていた。 d 天井(5,6階印刷室,書庫,ロッカー室,廊下,職員用・学生用便所)に,石綿含有建材であるケイ酸カルシウム板が施工されていた。 中学校舎新築工事における石綿含有建材の切断・加工作業により発生した石綿粉塵曝露についてア上記のとおり,中学校舎新築工事においては,床の一部に,石綿含有建材であるアスタイルが使用されていた(石綿の種類は不明)。昭和37年7月から始まった中学校舎新築工事は,昭和38年4月には4階建ての校舎の躯体が完成するとともに1階及び2階は使用が開始され,以後,順次,3階及び4階の内装工事が行われる段階に入っていたと考えられる。 昭和38年度の被災者の担任クラスである中学校2年5組の教室は,この中学校舎の2階に配置されており,職員室や調整室もその1階に配置されていることからすれば(原判決別紙4)(甲118の5・6),被災者は,同年4月から施工が完了した同年11月までの約8か月間の勤務時間の多くをこの中学校舎の1階及び2階で過ごしたと認められる。そして,この頃には,上記のとおり中学校舎の3階及び4階で内装工事が行われていたものと認められる。 中学校舎の内装工事では,床に使用するアスタイル等の石綿含有建材の切断・加工作業が行われ,作業場所では高濃度の石綿粉塵が発生していたと推認されるところ(甲110),それらは同一建物内の他の階層にも飛散する上,一旦発生した石綿粉塵は,長時間にわたって高濃度で空気中に浮遊し,一旦床に落ちた後も再飛散すると- 22 -いう性質を有していることからすれば(上記3),中学校舎の3階や4階で行われていた内装工事等の際に発生した石綿粉塵が,同じ建物の1階や2階に滞在していた被災者ら学校関係者の勤務する場所にも飛散し,被災者が一般住民の環境性ばく露レベルを ),中学校舎の3階や4階で行われていた内装工事等の際に発生した石綿粉塵が,同じ建物の1階や2階に滞在していた被災者ら学校関係者の勤務する場所にも飛散し,被災者が一般住民の環境性ばく露レベルを超える濃度の石綿粉塵にばく露した可能性は十分にある。 イこれに対し,被控訴人は,石綿含有建材を破砕・切断することによって発生した石綿粉塵が風洞内の空気の流れに乗って建物内を移動していくという,環境省などが行った石綿粉塵の飛散等に関する風洞実験(気流実験)の結果(甲155・石綿含有建材の飛散状況調査結果)は,密閉された実験室内で一方の端から平均風速0.3m/sの気流を発生させた状態で行われた測定であって本件には当てはまらず,常識的に考えても,フロアが違えば著しく石綿濃度が低下することは明らかであるし,アスタイルの切断作業の分量や作業時間,新品のアスタイルの切断作業時に飛散するアスベストの量はさほど多いものではなく,アスタイルの切断作業時に被災者が工事場所と同一建物内に滞在した可能性はあるものの,フロアが異なり,中学校舎の1階や2階で石綿濃度が上昇していたとする根拠が認められない上,アスタイルの切断作業時に被災者が中学校舎にいたという証拠はなく,多数の教員や生徒がいる学校内での建設作業現場であれば,安全対策のための間仕切りをしていたはずであり,石綿粉塵が間仕切りの外にまで飛散して被災者がそれにばく露したことの確証はないから,被災者が石綿ばく露を受けたと認める根拠はない等と主張する。 しかし,中学校舎は4階建ての大規模な建物であって,教室等の部屋も多数あり,床に施工されるアスタイル等を切断する作業は相当の期間にわたってかなりの頻度で行われていたと考えられるし- 23 -(甲8),被控訴人が主張する安全対策のための間仕切りがなされて 屋も多数あり,床に施工されるアスタイル等を切断する作業は相当の期間にわたってかなりの頻度で行われていたと考えられるし- 23 -(甲8),被控訴人が主張する安全対策のための間仕切りがなされていたと認めるに足りる証拠はなく,仮にされていたとしても,石綿の危険性が知られていなかった中学校舎新築工事当時において,それが石綿粉塵が飛散しないよう完全な養生がされた間仕切りであったとは考えられない。また,作業開始前後はもとより作業中においても,作業員や資材を運搬する者らが建物内の階段を用いて1階及び2階を通過して3階又は4階に出入りすることも少なくなかったと考えられるところ,石綿含有建材の切断加工の際に一旦発生・飛散した高濃度の石綿粉塵(石綿繊維)は,その後も,空気の流れや人(工事作業員を含む。)の衣類や靴等に付着したりして中学校舎内を移動・浮遊し,床に落ちた後も,清掃等により再飛散するなどして拡散したものと考えられる。以上からすると,被災者は,昭和38年4月から同年11月までの8か月間,主な勤務場所であった中学校舎において,同一建物内でなされていたアスタイル切断作業時に発生・飛散した石綿粉塵(石綿繊維)にばく露していたものであり,そのレベルは,一般住民の環境性ばく露のレベル(バックグラウンドレベルのばく露)を超える職業性のばく露であったと認められる。 中学テレビスタジオについて上記のとおり,中学校舎のテレビスタジオの天井部分には,クリソタイルとクロシドライトの2種類のアスベストが吹き付けられていた。 ア工事期間中アスベストの吹付作業においては,アスベスト建材の切断作業以上に石綿粉塵が飛散するものと考えられる。しかし,テレビスタジオは中学校舎の1階にあり(甲8の1の2),被災者が中学校舎の1- 24 -階の職員室 吹付作業においては,アスベスト建材の切断作業以上に石綿粉塵が飛散するものと考えられる。しかし,テレビスタジオは中学校舎の1階にあり(甲8の1の2),被災者が中学校舎の1- 24 -階の職員室や2階の担任クラス(中学校2年5組)の教室等で勤務するようになった昭和38年4月の時点では,既に同校舎1階及び2階の内装工事は完了し,テレビスタジオ天井部分のアスベスト吹付工事の施工も終了していた可能性が高く,被災者がこの吹付作業時にアスベストにばく露した可能性は低い。被災者の手術肺のブロックを用いた検査でも,被災者の肺組織からクリソタイルは検出されているが,クロシドライトは検出されていない。 イ工事完成後控訴人は,被災者が,昭和38年11月に中学校舎新築工事が完成した後の約2年5か月間,窓のないテレビスタジオに頻繁に立ち入っていたから(甲6:110頁,甲22:4~5頁及び原審証人c(6~9頁)によると,被災者は,昭和40年3月までの約1年5か月間,喫煙がひどかった職員室のタバコのにおいや煙を避けて,中学テレビスタジオの隣にあった放送室(調整室)を利用しており,校務分掌の生活指導の際にも中学テレビスタジオや放送室を利用しており,昭和40年から昭和41年3月までの約1年間は,校務分掌として視聴覚室を担当し,生徒の掃除を手伝っていたことも考えられ,じゅうたんが敷かれていた放送室(調整室)の床は石綿対応ではない掃除機で掃除されていたから,その際に堆積した石綿が再飛散していたと考えられ,また,当時のa で冷房が入っている部屋は放送室(調整室)しかなかったため,夏場は被災者を含めた教員のたまり場になっていたし,被災者は,学園祭の行事の準備等でもテレビスタジオや調整室を利用していたと認められる。),この間,被災者は,中学テレビスタジオの天井 なかったため,夏場は被災者を含めた教員のたまり場になっていたし,被災者は,学園祭の行事の準備等でもテレビスタジオや調整室を利用していたと認められる。),この間,被災者は,中学テレビスタジオの天井部分の二層吹きの吹付材の表面(上層)のクリソタイル層から飛散した石綿粉塵にばく露していたと認められる。もっとも,被災者がテレビスタジオ等に出入りし- 25 -ていた頻度は必ずしも明らかではないし,上記の出入りの理由等からしても,そこで石綿粉塵にばく露した時間は,主たる勤務場所においてばく露する場合に比べてかなり少なく,上記約2年5か月間におけるばく露の量は,主たる勤務場所においてばく露した場合に換算すると,せいぜい2,3か月分程度にとどまると認めるのが相当である。 これに対し,被控訴人は,a の校長であるd の陳述(聴取書の8項)(甲6:159頁)に基づき,当時テレビスタジオはほとんど使用されていなかったと主張する。 しかし,同陳述は,テレビスタジオが本来の用途としてはほとんど使用されていなかったというにとどまり,他の用途に使用されていなかったことを具体的に陳述するものではないから,上記被災者の出入状況を否定するものではないし,他に上記認定を左右するに足りる証拠はないから,上記主張は採用できない。 また,被控訴人は,テレビスタジオにはクリソタイルのみならずクロシドライトも使用されていたのに,被災者の体内からは前者のみが検出され後者は検出されなかったから,テレビスタジオでのばく露は考え難いと主張する。 しかし,当時,一般に吸音等の目的でクロシドライトで厚みを出した上で表面をクリソタイルで仕上げる工法が好んで用いられていたから,中学テレビスタジオの天井部分の吹付けアスベストにおいても,下層をクロシドライト,表面(上層)をクリソタイ ロシドライトで厚みを出した上で表面をクリソタイルで仕上げる工法が好んで用いられていたから,中学テレビスタジオの天井部分の吹付けアスベストにおいても,下層をクロシドライト,表面(上層)をクリソタイルとする二層吹きであった可能性が高い(甲45・1~4頁,129・2頁)。 このような工法が用いられていた場合,二層吹きの吹付材の表面(上層)のクリソタイル層のみから石綿粉塵が飛散し,クロシドライトが飛散しないという状態の時期が一定期間継続することも十分にあ- 26 -り得るところであるから,被災者の体内からクロシドライトが検出されなかったことのみをもってテレビスタジオでのばく露を否定することはできず,被控訴人の上記主張も採用できない。 以下のアないしオの工事についても,被災者が石綿粉塵にばく露した可能性を否定できない。もっとも,これらの工事の行われた場所が被災者の主たる勤務場所とは別個の建物であったことからすると,被災者の主な勤務場所と同一建物で工事が行われた上記の場合に比べると,そのばく露量はかなり少なかったといわざるを得ない。 ア中高管理棟工事について上記のとおり,昭和52年7月から昭和53年6月までの約1年間にわたり施工された中高管理棟工事においては,多数の箇所に,クリソタイル及びアモサイト(茶石綿)を含有する多数の石綿含有建材が使用されている。 被災者は,中高管理棟工事期間中の昭和52年度は高校2年生の副担任で,高校の授業を週18時間担当しており,昭和53年度は高校3年生の副担任で,高校の授業を週17時間担当しており,被災者の主な勤務場所は,いずれも工事場所とは別棟の建物である高校本館内の担当授業教室と,管理棟内の職員室であったと認められる(甲6:110頁)。工事中の中高管理棟と高校本館との最短距離は1 り,被災者の主な勤務場所は,いずれも工事場所とは別棟の建物である高校本館内の担当授業教室と,管理棟内の職員室であったと認められる(甲6:110頁)。工事中の中高管理棟と高校本館との最短距離は10m程度,中高管理棟と職員室のあった管理棟との最短距離は39m程度であり,また,同工事では,中高管理棟と高校本館との間にアスベストスラブを使用した渡り廊下(陸橋B)が作られており,この陸橋Bと高校本館とは上記のとおり接続されていた。 控訴人は,石綿含有建材が使用された建物の建築時に発生して飛散した石綿粉塵は,風の流れに乗って拡散しながら移動し,相- 27 -当離れた地点にまで飛散していくから,中高管理棟工事によって発生した石綿粉塵は10m離れた高校本館内へ飛散し,さらには生徒や教員による移動や校内掃除による再飛散を繰り返す結果,教室,廊下,階段等の校舎内のいたるところに石綿粉塵が拡散し,高校本館内の担当授業教室で相当長時間勤務していた被災者が,同工事の内装工事期間である4~6か月間,これら石綿粉塵に相当長時間ばく露していたのは確実であり,また,被災者は,同工事期間中,高校本館図書館北側建物沿いにある通路(高校本館よりも工事現場に近い場所)も頻繁に通行しており,この通行の際にも石綿粉塵にばく露していた等と主張する。建物建築時に発生・飛散した石綿粉塵は,風の流れによって拡散しながら移動していくと考えられるところ,中高管理棟は,被災者の勤務していた高校本館等とは別棟の戸外の建物ではあるが,高校本館は,中高管理棟工事によって中高管理棟と渡り廊下(陸橋B)で繋がれており,多数の石綿含有建材が使用された中高管理棟工事によって発生・飛散した石綿粉塵が,風向きによっては,風に乗って,高校本館等の被災者の勤務していた場所に向かって流れ,被災者 (陸橋B)で繋がれており,多数の石綿含有建材が使用された中高管理棟工事によって発生・飛散した石綿粉塵が,風向きによっては,風に乗って,高校本館等の被災者の勤務していた場所に向かって流れ,被災者がこの石綿粉塵にばく露した可能性を否定することはできない。 イ中学体育館工事について 上記のとおり,昭和59年3月から同年12月にかけて行われた中学体育館工事においては,石綿含有建材として,軒裏に石綿太平板が,渡り廊下に石綿セメント板が使用されている。石綿の種類は不明である。 被災者は,昭和59年度は中学2年生の副担任で,中学の授業を週11時間,高校の授業を週5時間程度担当していたから(甲6:110頁),同工事期間中の被災者の主な勤務場所は中学校舎- 28 -であり,高校本館にも上記授業時間を中心にある程度勤務したと認められる。 工事中の中学体育館と中学校舎の最短距離は8m程度であり,高校本館は中学校舎よりもさらに離れた位置にある。同工事においては,中学体育館と中学校舎との間に,石綿含有建材が使用された渡り廊下が設置されており,この渡り廊下と中学校舎は接続されていた。 控訴人は,中学体育館工事によって発生した石綿粉塵が中学校舎内へ飛散し,さらには生徒や教員による移動や校内掃除による再飛散を繰り返す結果,教室,職員室,廊下,階段等の校舎内の至るところに石綿粉塵が拡散し,中学校舎内の担当授業教室及び職員室で相当長時間勤務していた被災者が,同工事の内装工事期間である3~5か月間,同工事によって発生した石綿粉塵に相当長時間ばく露していたのは確実である等と主張する。建物建築時に発生・飛散した石綿粉塵は,風の流れによって拡散しながら移動していくと考えられるところ,中学体育館は,被災者の勤務していた中学校舎等 当長時間ばく露していたのは確実である等と主張する。建物建築時に発生・飛散した石綿粉塵は,風の流れによって拡散しながら移動していくと考えられるところ,中学体育館は,被災者の勤務していた中学校舎等とは別棟の戸外の建物ではあるが,中学体育館は,中学校舎と渡り廊下で繋がれており,石綿含有建材が使用された中学体育館工事によって発生・飛散した石綿粉塵が,風向きによっては,風に乗って,中学校舎等の被災者の勤務していた場所に向かって流れ,被災者がこの石綿粉塵にばく露した可能性を否定することはできない。 ウ中央棟工事について平成元年10月から平成3年3月まで行われた中央棟工事は,その場所にもとあった高校体育館を解体した上で,新たに中央棟を建築したものであり,その建築に先立って,高校体育館を解体する工- 29 -事が行われている(甲160)。 被災者は,中央棟工事期間中の平成元年度は中学2年生の副担任で,中学の授業を担当し,校務分掌として図書を,クラブ顧問として放送部を担当していたから,被災者は,中学校舎で主として勤務していたものの,図書館のある高校本館にも頻繁に出入りしていたと認められる。また,翌平成2年度は高校3年生を担任し,授業も高校のみであるが,校務分掌は生徒会,クラブ顧問はギター・マンドリン部を担当しており,被災者は,主として高校本館で勤務していたが,職員室のある中高管理棟にも立ち入っていたと認められる。 (甲6:123~125頁,甲160)高校体育館解体工事解体された高校体育館は,解体工事期間中に被災者が頻繁に出入りしていた高校本館の西隣の建物であり,高校本館と解体工事が行われた高校体育館との最短距離は25mであった。 解体された高校体育館に石綿含有建材が使用されていたことを認めるに足りる客観的な証拠はないが,昭 た高校本館の西隣の建物であり,高校本館と解体工事が行われた高校体育館との最短距離は25mであった。 解体された高校体育館に石綿含有建材が使用されていたことを認めるに足りる客観的な証拠はないが,昭和33年に建築された高校体育館に石綿含有建材が含まれていた可能性は否定できず,その解体の際に石綿含有建材が粉砕・破砕されたとすれば,それに伴って石綿粉塵が発生・飛散し,被災者がその石綿粉塵にばく露した可能性を否定することはできない。 中央棟新築工事上記のとおり,中央棟新築工事においては,多数の箇所に,アスベスト(クリソタイル)を含有する吹付材や石綿含有建材が使用されている。 新築された中央棟の工事現場は,高校体育館より東側で,高校本館からの最短距離は17.5mである。高校本館は,中央棟の工事- 30 -完成時に中央棟と渡り廊下で接続された(甲160)。 控訴人は,中央棟新築工事の際にアスベスト(クリソタイル)を含有する吹付材や石綿含有建材が使用されたことにより発生し飛散した石綿粉塵が高校本館内に飛散し,さらには生徒や教員による移動や校内掃除による再飛散を繰り返す結果,教室や廊下,階段等の至る所に石綿粉塵が拡散し,その結果,高校本館内の図書館,担当授業教室などに勤務していた被災者が,中央棟の内装工事期間中である6~9か月の間,同工事により発生・飛散した石綿粉塵にばく露したことは確実であると主張する。 また,甲21,22,61の7,96,100,108によると,中央棟新築工事の施工完了後,その地下駐車場は,雨の日にはソフトボール部やハンドボール部のクラブ活動に使用され,また,生徒たちがボール遊びをしていたので,天井にボールが当たって吹付材の一部が剥がれることもあり,地下駐車場内には石綿粉塵が発生・飛散していた フトボール部やハンドボール部のクラブ活動に使用され,また,生徒たちがボール遊びをしていたので,天井にボールが当たって吹付材の一部が剥がれることもあり,地下駐車場内には石綿粉塵が発生・飛散していたところ,自動車通勤をしていた被災者は日常的に地下駐車場を利用していたし,平成4年度から11年度まで演劇部のクラブ顧問をしていた関係上,演劇部の大道具づくりの際などにも地下駐車場に出入りし,大道具を保管していた地下倉庫にも手入りしていたこと,吹付材が施工されていた3階器具庫の階段裏は手が届く高さである上,舞台の入り口の高さは2mで横幅も狭く,大きな道具を出し入れするときには吹付材に接触した可能性もあるところ,3階器具庫には,体育系の運動に利用する器具のほか,演劇に使用する舞台装置を一時的に保管することがあり,被災者は演劇部の顧問として3階器具庫に出入りすることがあったこと,音響調整室の天井鉄骨梁にはアスベスト含有岩綿が吹き付けられていたが,被災者は演劇部の顧問として- 31 -音響調整室に出入りしていたことが認められる。控訴人は,被災者が,上記吹付材の劣化・剥離に伴って発生した石綿粉塵にばく露した可能性も否定できないとも主張する。 建物建築時に発生・飛散した石綿粉塵は,風の流れによって拡散しながら移動していくと考えられるところ,中央棟の内装工事期間中と思われる平成2年度の被災者の主な勤務場所はいずれも中央棟とは別棟の戸外の建物ではあるが,工事完成時には中央棟と高校本館とは渡り廊下で繋がれており,中央棟新築工事中にアスベスト(クリソタイル)を含有する吹付材や石綿含有建材が多数使用されたことにより発生し飛散した石綿粉塵が,風向きによっては,風に乗って,高校本館等の被災者の勤務していた場所に向かって流れ,被災者がその石綿粉塵にばく露した 含有する吹付材や石綿含有建材が多数使用されたことにより発生し飛散した石綿粉塵が,風向きによっては,風に乗って,高校本館等の被災者の勤務していた場所に向かって流れ,被災者がその石綿粉塵にばく露した可能性を否定することはできないし,また,工事完成後においても,アスベスト吹付材が露出した状態で施工されていた地下駐車場,地下倉庫,石綿含有岩綿が天井面と階段裏に吹き付けられていた3階器具庫,ロープシャフト上部の天井鉄骨梁に石綿含有岩綿が吹き付けられていた音響調整室に出入りしていた被災者が,これらの吹付材の劣化・剥離に伴って発生した石綿粉塵にばく露した可能性を否定することもできない。 エ高校トイレ棟工事について上記のとおり,平成元年に施工された高校トイレ棟工事において,高校トイレ棟の1階床下デッキ裏に,アスベスト(クリソタイル)を含有する吹付材が使用されている。 高校トイレ棟工事が行われた時期の被災者の主な勤務場所である中学校舎は,高校トイレ棟とは別棟の戸外の建物であり,その最短距離は35mであるが,建物建築時に発生・飛散した石綿粉塵は,風の流れによって拡散しながら相当の距離を移動していくから,高- 32 -校トイレ棟工事中にアスベスト(クリソタイル)を含有する吹付材が使用されたことにより発生・飛散した石綿粉塵が被災者の勤務していた場所に向かって流れ,被災者がこの石綿粉塵にばく露した可能性を否定することはできない。 オ短大本館及びi 館新築工事について上記のとおり,昭和50年12月から昭和52年5月まで施工された短大本館及びi 館新築工事において,短大本館4階体育館天井と,i 館3階(屋外廊下,多目的室,学生ラウンジ,自動販売機コーナー,MWC,ロッカー,印刷室,階段室)に,アスベスト(クリソタイル)を含 大本館及びi 館新築工事において,短大本館4階体育館天井と,i 館3階(屋外廊下,多目的室,学生ラウンジ,自動販売機コーナー,MWC,ロッカー,印刷室,階段室)に,アスベスト(クリソタイル)を含有する吹付材が使用されている。 工事が行われていた短大本館及びi 館と,この時期の被災者の主な勤務場所である高校本館とは,道を隔ててかなり離れているが(原判決別紙14)(甲118の25),建物建築時に発生・飛散した石綿粉塵は,風の流れによって拡散しながら相当の距離を移動していくから,短大本館及びi 館新築工事中にアスベスト(クリソタイル)を含有する吹付材が使用されたことにより発生・飛散した石綿粉塵が被災者の被災者の勤務していた場所に向かって流れ,被災者がこの石綿粉塵にばく露した可能性を否定することはできない。 アスベスト使用の有無が客観的資料で確認できないものについて控訴人は,上記の他にも,被災者が頻繁に出入りしていた高校体育館,高校本館図書館,旧給品部及びその周辺の階段について,その建築時期や外観(甲95:3頁,甲108:4頁)からすれば,アスベストが使用されていたことが強く推認され,また,被災者がaに勤務中に建築工事が行われた短大校舎4階増築工事,短大研究棟工事,学生寮及び合宿所(g寮,j館)工事等について(短大本館新築工事,i 館新築工事のうち上記の使用が判明した部分以外に- 33 -ついても),設計図書等の客観的資料は得られていないが,アスベストが使用されていたことが強く推認されると主張し,被控訴人が当審においてアスベストが使用されていたことについての自白を撤回した記念会堂についても,設計図書や竣工図が開示されていないが,ほぼ同時期に建築された中学校体育館では軒裏の軒天(軒部分の天井)に石綿太平版が,渡り廊下のあげ裏 用されていたことについての自白を撤回した記念会堂についても,設計図書や竣工図が開示されていないが,ほぼ同時期に建築された中学校体育館では軒裏の軒天(軒部分の天井)に石綿太平版が,渡り廊下のあげ裏(下から見上げることのできる裏の部分)に石綿セメント板がそれぞれ使用されていることからすれば(甲115),記念会堂においても,床,壁,天井などの建材に石綿含有建材が使用されていた可能性は極めて高いと主張する。 これらの建物については,いずれも設計図書の不存在等により,アスベストが使用されていたと認めるに足りる客観的資料が存在しない反面,使用されていなかったと認めるに足りる資料も存在しないのであって,前記のとおり,当時の学校建築一般の状況に加えて,同一の建築会社がa 内で施工した現存する多くの建物にアスベストが広く用いられていることからすると,これらの建物にもアスベストが使用されていた可能性はあると認められる。取り分け,高校体育館については,その後に建築された同種の建物である中学校及び短大の体育館にいずれもアスベストが使用されていることに加え,甲96,108,161によると,ボールが壁や天井に当たった際にきらきらと光る粉やほこりが目撃され,舞台裏階段横の鉄骨にはグレー系統の色の綿状のものが付着していたことが目撃されており,これらはいずれもアスベストが使用されていたことをうかがわせる現象や外観であるところ,これらの現象や外観がアスベスト以外の建築材料が用いられていても認められるとの主張立証はないから,アスベストが使用されていたと認めるのが相当である。 そして,甲6によると,被災者は,バスケットボール部の顧問と- 34 -して2年間,生徒会の顧問等として2年間,バレーボール部の顧問として1年間,それぞれ高校体育館に相当回数出入りしてい る。 そして,甲6によると,被災者は,バスケットボール部の顧問と- 34 -して2年間,生徒会の顧問等として2年間,バレーボール部の顧問として1年間,それぞれ高校体育館に相当回数出入りしていたことが認められ,その間に石綿粉塵にばく露したものと認められる。もっとも,主たる勤務場所の建物でアスベストを用いた工事が行われた場合に比べると,その程度は相当低かったと認められる。 高校体育館以外の建物についても,アスベストが使用されていた可能性は否定できないところ,これらにつきアスベストが使用されていた場合には,その建築工事におけるアスベストの使用に伴い発生した石綿粉塵が被災者の勤務していた場所に向かって流れ,被災者がこれに間接的にばく露したり,吹付材・石綿含有建材の劣化・剥離に伴って発生した石綿粉塵に被災者がばく露した可能性を否定することはできない。もっとも,主たる勤務場所の建物でアスベストを用いた工事が行われた場合に比べると,その程度は相当低かったと認められることは,高校体育館の場合と同様である。 5 業務起因性について上記4からすると,a では,被災者がa に勤務した延べ33年の期間中に多数の建物にアスベスト(クリソタイル,クロシドライト,アモサイトのほか,種類が不明なアスベスト)を含む吹付材や石綿含有建材が使用されており,これらを用いた建築工事も頻繁に行われていたのであって,被災者が,これらの工事においてアスベストを含む吹付材や石綿含有建材が使用された際に発生,飛散した石綿粉塵に間接的にばく露したり,施工後の吹付材・石綿含有建材の劣化・剥離に伴って発生した石綿粉塵にばく露したことが認められるところ,特に,中学校舎新築工事の内装工事が行われた昭和38年4月から同年11月までの8か月間においては,被災者は,アスベストを含む の劣化・剥離に伴って発生した石綿粉塵にばく露したことが認められるところ,特に,中学校舎新築工事の内装工事が行われた昭和38年4月から同年11月までの8か月間においては,被災者は,アスベストを含む石綿含有建材の切断・加工を伴う工事が行われた建物と同一の建物で仕事をして- 35 -いたものであり,この間に被災者がばく露した石綿粉塵濃度は,一般環境レベルを超えるものであった。そのほかにも,ばく露の程度は上記工事中に劣るものの,中学テレビスタジオ及び高校体育館における勤務中にも,一般環境レベルを超える濃度の石綿粉塵に相当期間ばく露したことが認められる。これらのばく露を合わせると,被災者は,その罹患した中皮腫につき,他に発症原因が見当たらない限り,業務に起因するものと認めるべき程度に石綿粉塵にばく露していたと認められる。 そして,被災者が一時期勤務していたe 高校及びf 高校による調査表によると,これらの高校では吹付アスベストが使用されている建物はなかったこと(甲69,70),被災者がこれまでの住居においてアスベストにばく露した事実も認められず(甲6:148頁,甲94,186),被災者に他に石綿粉塵のばく露歴があるとも,他に中皮腫を発症する事由があったとも認められない。 以上からすれば,被災者の死因である胸膜中皮腫は,被災者がa における業務を行う際に被った石綿粉塵ばく露によって発症した疾病であり,被災者の業務に内在する危険が現実化したものであるといえる。 これに対し,被控訴人は,被災者の肺組織の標本から検出されたアスベストの種類は,クリソタイルとアクチノライトであり,a で使用されていたとは認められないアクチノライトが検出され,使用されていたクロシドライトが検出されていないことは,被災者がa で石綿粉塵にばく露した事 類は,クリソタイルとアクチノライトであり,a で使用されていたとは認められないアクチノライトが検出され,使用されていたクロシドライトが検出されていないことは,被災者がa で石綿粉塵にばく露した事実と矛盾し,被災者がa とは別の場所でアスベストにばく露した可能性を否定できない,光学顕微鏡(40×10倍)により観察された被災者の肺組織の標本の石綿小体数の算定結果が,乾燥肺1g当たり94本であり,電子顕微鏡により観察された被災者の肺内アスベスト濃度が,乾燥肺1グラム当たり0.20×106本で- 36 -あったことからすると,被災者の肺内石綿繊維濃度は一般人レベルを超えるものではなく,被災者がばく露した石綿粉塵濃度が一般環境レベルを超えるものではなかったことを示していると主張する。 しかし,上記については,a における工事での使用が判明しているアスベストの種類としては,クリソタイル,クロシドライト,アモサイトのほか,種類が不明なアスベストもある。前提事実(原判決3頁23行目から4頁3行目まで)の東海技術センターが石綿含有率を分析した対象は天井や鉄骨に使用されていた吹付材のみであって,a内の建物にアクチノライトが一切使用されていなかったことを示すものとは認められず,a における工事において,アクチノライトを含有するアスベストが使用された可能性は否定できないし,上記分析調査時に現存しなかった建物にもアスベストが使用されていたか,その可能性のあることは前記認定のとおりであって,それらにアクチノライトが含まれていた可能性もあるから,被災者の手術肺の標本からアクチノライトが検出されたことは,被災者がa 外で石綿にばく露したことを疑わせるものではない。a での使用が判明している石綿の種類は,その大部分がクリソタイルであるところ,ア 者の手術肺の標本からアクチノライトが検出されたことは,被災者がa 外で石綿にばく露したことを疑わせるものではない。a での使用が判明している石綿の種類は,その大部分がクリソタイルであるところ,アクチノライトは蛇紋岩中に存在することが多く,クリソタイル等の鉱物に不純物として含まれる場合があるから,このことに注意する必要があるとされていること(前記3)からすれば,被災者の手術肺の標本からクリソタイルとアクチノライトが検出されたことは,被災者のa での石綿ばく露と矛盾する事実ではない。また,被災者の手術肺の標本からクロシドライトが検出されなかったことも,前記4イで説示した通り,被災者のa での石綿ばく露と矛盾する事実とはいえない。 上記について,人の肺内に石綿小体や石綿繊維が存在することは同人の石綿ばく露を示すところ,肺内の石綿小体数や石綿繊維数が多- 37 -いことは,石綿の累積ばく露量が多いことの一つの指標となり得る。 すなわち,被控訴人が指摘する乾燥肺1g当たり1000本以上の石綿小体が認められる場合には職業性ばく露の蓋然性が高いとの指摘は,このような方向において理解すべきものである。しかし,肺内の石綿小体数や石綿繊維数は,必ずしも正確な累積ばく露量を示すものとはいえず,肺内の石綿小体数や石綿繊維数が少ないことをもって石綿の累積ばく露量が少ないということはできない。石綿繊維には人によって感受性の違いがあり,肺内に石綿繊維が残留しやすい者もあれば消失しやすい者もあり,同程度の石綿ばく露を受けた者の間でも,人によって肺内の石綿繊維数や石綿小体数には差異が出てくる(甲191・3頁)。また,肺の各葉において石綿繊維や石綿小体の分布が異なる可能性のあることが指摘されており,検査をした肺組織の部位によって石綿繊維数や石綿小体数が 数や石綿小体数には差異が出てくる(甲191・3頁)。また,肺の各葉において石綿繊維や石綿小体の分布が異なる可能性のあることが指摘されており,検査をした肺組織の部位によって石綿繊維数や石綿小体数が少なくなる可能性も十分にある(乙3・4頁)。特に,蛇紋石族石綿であるクリソタイルは,他の種類のアスベスト(いずれも角閃石族石綿)に比べて体内で消失しやすいこともあって,クリソタイルを核とする石綿小体は,その使用量に比して,稀にしか確認されないとされている(前記3)。このような事情から,実際の石綿の累積ばく露量が多いにもかかわらず,分析した肺内の石綿小体数や石綿繊維数が少ないことはある。 そして,被控訴人が一般人レベルの肺内石綿小体濃度を示すものとする資料(乙35,36)は,その調査対象が全て一般環境レベルのばく露しか受けていない一般人であるか否かが不明確であって,信用性に疑問がある。他方,職業性ばく露,石綿工場周辺ばく露,家族ばく露の可能性のあるものを厳格に除外した一般人の肺内石綿小体数は乾燥肺1g当たり35本±44本であることからすると,被災者の肺内石綿小体濃度は決して少ないものではなく,石綿小体数が乾燥肺1- 38 -g当たり100本未満でも労災が認定されているケースがあることからしても,被災者の手術肺のブロックの標本を用いて測定された肺内石綿濃度(光学顕微鏡(40×10倍)による石綿小体数の算定結果が乾燥肺1g当たり94本,電子顕微鏡による石綿繊維の算定結果が乾燥肺1g当たり0.20×106本)は,被災者がばく露した石綿粉塵濃度が一般環境レベルを超えるものであったことを否定する事実とはいえない(甲189~191)。 したがって,被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。 6 結論よって,本件不支給処分の取消しを求める 般環境レベルを超えるものであったことを否定する事実とはいえない(甲189~191)。 したがって,被控訴人の上記主張はいずれも採用できない。 6 結論よって,本件不支給処分の取消しを求める控訴人の請求には理由があるから認容すべきところ,これと異なる原判決は失当であって,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消して控訴人の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官水谷美穂子 裁判官朝日貴浩

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