平成15(わ)1222 詐欺(被告人A),強盗殺人未遂(被告人AB),覚せい剤取締法違反(被告人B)各被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年11月29日 神戸地方裁判所
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判決文本文15,504 文字)

主文 被告人Aを懲役12年に,被告人Bを懲役9年に処する。 未決勾留日数中,被告人Aに対しては200日を,被告人Bに対しては210日を,それぞれその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人Aは,普通乗用自動車を運転していたもの,被告人Bは,同車の助手席に同乗していたものであるが,被告人Aは,同車を運転中そのガソリン残量が少なくなったことから,ガソリンスタンドからガソリンを詐取しようと企て,平成15年10月3日午後1時44分ころ,神戸市a区bc丁目d番e号所在のガソリンスタンドCにおいて,同店店員Dに対し,代金を支払う意思も能力もないのに,あるように装い,「ハイオク満タン。現金で。」などと申し向けて,同車へのガソリンの給油を申し込み,Dをして,給油後その代金の支払を受けられるものと誤信させ,よって,即時同所において,Dからハイオクガソリン約64.01リットル(消費税込み販売価格7124円)の給油を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた上,直ちに同店から同車を発進させて逃走を開始したところ,Dが上記ガソリン代金の支払を受けるため走行中の同車後部トランク上に飛び乗り,同車にしがみついてきたことから,被告人両名は,共謀の上,上記ガソリン代金の支払を免れるため,Dを同車から振り落として逃走しようと決意し,Dを走行中の同車から振り落として路上に落下させれば,Dが死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえて,被告人Aにおいて,同店付近路上から同区bc丁目f番g号先交差点までの約749メートルの路上において,D(当時37歳)に対し,急制動や蛇行運転を繰り返したり,最高で時速約50ないし60キロメートルにまで加速して走行 同店付近路上から同区bc丁目f番g号先交差点までの約749メートルの路上において,D(当時37歳)に対し,急制動や蛇行運転を繰り返したり,最高で時速約50ないし60キロメートルにまで加速して走行したりするなどした上,上記交差点付近路上において,Dを同車から振り落とし,路上に落下させてその頭部等を路面に打ちつけさせる暴行を加えたものの,Dに記銘力障害の後遺症を伴う加療約2か月間を要する頭蓋骨骨折,右急性硬膜外血腫,左側頭葉脳挫傷,左急性硬膜下血腫,外傷性クモ膜下出血等の傷害を負わせたにとどまり,Dを殺害するに至らなかった第2 被告人Bは,法定の除外事由がないのに,同月14日ころ,大阪市h区ij丁目k番l号所在のE株式会社F駅構内の女子便所において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する結晶粉末約0.05グラムを水に溶かして自己の身体に注射し,もって,覚せい剤を使用したものである。 (証拠の標目)―括弧内は証拠等関係カードの検察官請求証拠甲乙の番号省略(事実認定の補足説明) 1 判示第1の事実のうち,強盗殺人未遂の点について,被告人Aの弁護人は,被告人Aには,Dに対する殺意はなかったから,後述の法律上の主張(詐欺罪の先行している本件においては,いわゆる2項強盗による強盗殺人未遂罪あるいは強盗致傷罪が成立する余地はないというもの)を前提にして,傷害罪が成立するにすぎない旨主張し,また,被告人Bの弁護人も,被告人Bには,Dに対する殺意はなく,被告人Aと強盗殺人(未遂)の共謀もしていないから,傷害罪の幇助犯が成立するにとどまる旨主張し,被告人両名も公判廷においてはこれに沿う供述をするところ,当裁判所は,前示のとおり,被告人両名は,共謀の上,ガソリン代金の支払を免れるためには,Dが死亡するに至ってもやむなしと考えて判示 る旨主張し,被告人両名も公判廷においてはこれに沿う供述をするところ,当裁判所は,前示のとおり,被告人両名は,共謀の上,ガソリン代金の支払を免れるためには,Dが死亡するに至ってもやむなしと考えて判示の暴行に及んだものであって,被告人両名には強盗殺人未遂罪が成立すると判断したので,以下その理由について補足して説明する。 2 まず,関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告人両名は,平成15年8月ころから,互いの家を行き来しながら同棲する関係にあったが,同年10月3日午後1時ころ,被告人Aが普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)を運転し,被告人Bがその助手席に同乗して,神戸市m区にある被告人Bの自宅付近から,兵庫県尼崎市にある被告人Aの自宅に向けて出発した。 なお,本件車両は,同年9月初旬に兵庫県尼崎市内で盗難被害に遭ったものであり,被告人Bが同月中旬ころに父親の知人から借用し,さらに,同月下旬ころから,被告人Aにおいて,被告人Bと行動するなどの際に使用していた。 (2) 上記出発の時からすでに,本件車両のガソリン残量は少なくなっていて,被告人Aは,ガソリン給油の警告ランプ等の点灯を確認するなどして,また,被告人Bも,被告人Aからガソリン残量が少なくなった旨告げられるなどして,ともにそのことを認識していたが,被告人両名は2人合わせても1000円か2000円程度しか現金を持ち合わせていなかったため,被告人Aが,以前にも被告人Bと一緒に本件車両とは別の自動車に乗っていた際に,ガソリンスタンドで給油を受けた後,直ちに自動車を発進させて逃走し,ガソリン代金の支払を免れる,いわゆる「入れ逃げ」に成功したように,今度もガソリンを「入れ逃げ」しようと考え,その旨を被告人Bにも伝えた。 (3) 被告人Aは,ガソリンの「入れ逃げ」 させて逃走し,ガソリン代金の支払を免れる,いわゆる「入れ逃げ」に成功したように,今度もガソリンを「入れ逃げ」しようと考え,その旨を被告人Bにも伝えた。 (3) 被告人Aは,ガソリンの「入れ逃げ」をし易そうなガソリンスタンドを探しながら走行し,神戸市a区bc丁目d番e号所在のガソリンスタンドCを認めて,そこで「入れ逃げ」することに決め,被告人Bにその旨告げた上,同ガソリンスタンドに本件車両を停車させた。 (4) そして,被告人Aは,応対に当たった同店店員であるDに対し,代金を支払う意思も能力もないのに,あるように装い,「ハイオク満タン。現金で。」などと申し向けて,本件車両へのガソリンの給油を申し込み,Dをして,給油後その代金の支払を受けられるものと誤信させ,Dから本件車両にハイオクガソリン約64. 01リットル(消費税込み販売価格7124円)の給油を受けて,判示第1の詐欺の犯行に及んだ。 (5) 被告人Aは,Dからガソリンの給油を受けている間,本件車両の運転席側の窓を完全に閉めたりするなど,給油終了後直ちに逃走するための準備をした上,Dが給油作業を終えると,直ちに同店北側の東西方向に伸びる道路に向けて本件車両を発進させた。 (6) Dは,被告人Aからガソリン代金の支払を受けるため,本件車両を追いかけるとともに,「待ってください。」などと叫んだり,本件車両をたたいたりなどして,被告人Aに停止するよう求めたにもかかわらず,本件車両が左折して上記道路を西に向かって進行し始めたため,逃走を阻止しようとして,本件車両の後部トランク上に飛び乗り,その車体にしがみついた。 (7) 被告人Aは,Dが本件車両にしがみついていることに気づき,被告人Bに向かって,「人が乗ってる。」などと言い,「どないしよう。」などと相談をもちかけたところ,被告人Bもま 体にしがみついた。 (7) 被告人Aは,Dが本件車両にしがみついていることに気づき,被告人Bに向かって,「人が乗ってる。」などと言い,「どないしよう。」などと相談をもちかけたところ,被告人Bもまた,Dが本件車両にしがみついているのを見て,「逃げ。逃げ。」などと応じたことから,ガソリン代金の支払及び逮捕を免れるため,Dを本件車両から振り落としてでも逃走しようと決意し,急制動や蛇行運転を繰り返したり,最高で時速約50ないし60キロメートルにまで加速させたりして走行し,その間,同区bc丁目n番o号先交差点においても,一時停止することなく時速約30ないし40キロメートルで同交差点を右折し,その後,今度は東に向けて本件車両を走行させたが,Dがなおも本件車両の後部トランク上にしがみついていたことから,被告人Bは,「山行け。山行け。」,「まだ乗ってんで。」などと言ったものの,被告人Aに危ないから本件車両を停止させるように言うなどしたことはなかった。 (8) 被告人Aが同区bc丁目f番g号先交差点において,本件車両を左折させたところ,Dは,本件車両から振り落とされ,その際,頭部等を路上に強く打ちつけるなどしたため,記銘力障害の後遺症を伴う加療約2か月間を要する頭蓋骨骨折,右急性硬膜外血腫,左側頭葉脳挫傷,左急性硬膜下血腫,外傷性クモ膜下出血等の傷害を負った。 なお,Gの検察官調書(甲48)によれば,Dは,本件車両から振り落とされて路上に落下した後,いったん自力で立ち上がったものの,後ろ向きに倒れたことが認められるところ,仮にこのときの転倒と相まってDが前記の傷害を負ったものであったとしても,この転倒は,Dが本件車両から振り落とされ路上に落下した衝撃により,正常に立ったり歩いたりできない状態に陥っていたために生じたものと考えられ,上記( ってDが前記の傷害を負ったものであったとしても,この転倒は,Dが本件車両から振り落とされ路上に落下した衝撃により,正常に立ったり歩いたりできない状態に陥っていたために生じたものと考えられ,上記(7),(8)で認定したような被告人Aの行為とDの傷害との間の因果関係は優に認めることができるから,Dが前記の傷害を負ったことについて,被告人Aの刑責を問い得るのはもちろんのこと,被告人Bに関しても,被告人Aとの間に共謀の認められる限り,その刑責を問い得ることはいうまでもない。 3 被告人Aが本件車両を加速させた際の走行速度について,検察官は最高で時速約60キロメートルであった旨主張するのに対し,被告人Aの弁護人は,本件車両の走行状況を目撃した証人Hらの当公判廷における各供述や警察官がHら目撃者に対して実施した走行実験の結果はいずれも信用できないとした上,被告人Aが給油を受けた時刻や110番通報等がなされた時刻と走行距離から計算すると,本件車両の走行速度は,平均で時速約15ないし22.5キロメートルとなるのであり,被告人Aが当公判廷において供述するように,最高でも時速約40キロメートルにすぎなかった旨主張するところ,当裁判所は,前示のとおり,被告人Aが本件車両を加速させた際の走行速度は最高で時速約50ないし60キロメートルであると認定したので,その理由についても説明を加えることとする。 まず,証人Hの当公判廷における供述(以下「H証言」という。)は,本件車両が,トランクに人を乗せて東方向から神戸市a区bc丁目n番o号先交差点に向かいスピードを出して走行してきて,同交差点の手前で減速し,右,左に振れた後,時速30ないし40キロメートル程度の速度で同交差点を右折するのを見た,その後警察の人と本件車両のスピードの走行実験をしたところ,時速60キロ 走行してきて,同交差点の手前で減速し,右,左に振れた後,時速30ないし40キロメートル程度の速度で同交差点を右折するのを見た,その後警察の人と本件車両のスピードの走行実験をしたところ,時速60キロメートルであった旨いうものであるが,H証言は,本件車両がトランクに人を乗せたまま走行するという異常かつ印象的な出来事を目撃した際の本件車両の走行状況を詳細かつ具体的に説明するものである上,証人Iの当公判廷における供述が,本件車両は同交差点で少し左に行きかけたが,時速40ないし50キロメートル程度の速度で同交差点を右折した旨いうところとも概ね符合していること,また,H証言は,18歳の時(約30年前)に運転免許を取得していて,現在毎日自動車を運転しており,この目撃場所では時速30ないし40キロメートルで走行するのが普通であるが,本件車両の速度はそれよりも明らかに速かったというのであるから,前記の走行実験の結果も信頼できると思われることなどを考え併せると,前記のH証言は十分信用することができるというべきである。 また,証人Jの当公判廷における供述(以下「J証言」という。)は,H証言とは別の場所で本件車両がトランクに人を乗せて走行しているのを見たが,本件車両の走行速度は,後日走行実験したところ,時速60キロメートル程度であった旨いうものであるが,J証言及び実況見分調書(甲42―不同意部分を除く。)によれば,本件車両が時速60キロメートル程度で走行していたという地点の付近には,本件の当時自動車が3台ほど並んで駐車しており,また,同所付近の道路幅は5メートル程度であることが認められるものの,その道路状況からして,J証言のいう走行速度での走行が不可能とはいえないこと,まして,ガソリン代金の支払及び逮捕を免れるため,Dを本件車両から振り落としてでも逃 トル程度であることが認められるものの,その道路状況からして,J証言のいう走行速度での走行が不可能とはいえないこと,まして,ガソリン代金の支払及び逮捕を免れるため,Dを本件車両から振り落としてでも逃走を図ろうとしていたという被告人Aの心理状態に照らせば,上記のような道路状況において,被告人Aが駐車車両等との衝突の危険を顧みることなく,本件車両を相当の速度で進行させたとしても,何ら不自然ではないことからすると,J証言もまた信用に値するというべきである(なお,J証言の中には,走行実験において,警察官が自動車を1回しか走行させなかったとか,速度を変えて何回も走行することがなかったとか述べているように受け取ることができる部分も見受けられるけれども,J証言全体のいうところや,証人Kの当公判廷における供述等から認められる走行実験の方法に照らせば,J証言中の上記部分は,質問の意味を誤解したか,混乱して供述をするに至ったか,そのいずれかとみるのが相当であるから,この点を理由にJ証言の信用性を否定するには至らない。)。 そうすると,走行実験の方法が10キロメートル毎時ずつ速度を変えていくというものであることや,実際に本件車両の走行状況を目撃した際と走行実験の際の諸条件(走行車両の車種,走行車両に対する有意性の程度等)の相違等によって生じ得る誤差を考慮したとしても,10キロメートル毎時を超える誤差が生じるとは考え難いことからすると,被告人Aが本件車両を加速させて走行した際の速度は,最高で時速約50ないし60キロメートルに達していたと認めるのが相当である。 なお,被告人Aの弁護人は,被告人Aが給油を受けた時刻や110番通報等がなされた時刻と走行距離から計算すると,本件車両の平均速度は時速約15ないし22.5キロメートルとなる旨主張するけれども, なお,被告人Aの弁護人は,被告人Aが給油を受けた時刻や110番通報等がなされた時刻と走行距離から計算すると,本件車両の平均速度は時速約15ないし22.5キロメートルとなる旨主張するけれども,その主張は,110番通報者のGが同区bc丁目f番g号先交差点付近の中央分離帯の切れ目辺りに立っているDを目撃したのが,Dが本件車両から路上に落下した直後であったことを前提とするものであるところ,Gは,Dを目撃した際,前記交差点を北方に向けて進行する本件車両を目撃していない上,前示のとおり,Dはいったん立ち上がった後,後ろ向きに倒れていることからみても,本件車両から振り落とされて路面に打ちつけられた際に相当の衝撃を身体に受けていたことが明白であり,Dが本件車両から振り落とされてから自力で立ち上がるまでにはそれなりの時間が経過していたとみるのが自然であるから,Gが同交差点付近の中央分離帯の切れ目辺りに立っているDを目撃したのが,Dが本件車両から路上に落下した直後であったと推測することはできず,この点を前提とする被告人Aの弁護人の上記主張は失当というほかない。 4 以上認定のとおり,被告人Aは,急制動や蛇行運転を繰り返したり,最高で時速約50ないし60キロメートルにまで加速させたりして走行したものであって,Dを本件車両から振り落とそうと強く意図していたものと認められるところ,最高で時速約50ないし60キロメートルもの高速度で走行中の自動車から,Dを振り落とせば,Dが路面に頭部等を打ちつけるなどして,その部位や強さによっては,Dを死に至らしめる危険が極めて大きいことは多言を要しないから,上記2の(7),(8)で認定したような被告人Aの行為がDを死亡させる小さからぬ危険性を有していたことは明らかである。 そして,被告人Aは,本件車両の構造等から, いことは多言を要しないから,上記2の(7),(8)で認定したような被告人Aの行為がDを死亡させる小さからぬ危険性を有していたことは明らかである。 そして,被告人Aは,本件車両の構造等から,Dが上記2の(6)で認定したような不安定な状態で本件車両にしがみついていることをおおよそ認識した上で,Dを振り落とすために,上記2の(7),(8)で認定したような行為に及んでいることからすると,その行為の危険性を十分に認識した上で,あえてその行為に及んだというべきであるから,Dに対する未必的な殺意を有していたものと推認するのが相当である。 なお,被告人Aは,当公判廷において,時速40キロメートル程度しかスピードを出していないとか,Dが本件車両に飛び乗ってきた際,降りてもらおうと思って一時停止したなどと供述するけれども,走行速度の点は上記H証言やJ証言と相反していること,一時停止した旨いう点についても,Dが本件車両にしがみついた後,本件車両はそのまま走り去った旨いう証人Lの当公判廷における供述とも整合しないし,被告人Bも本件車両が止まったという記憶はないと述べていることなどを考え併せると,被告人Aの上記公判供述を信用することはできない(なお,仮に,被告人Aが供述するとおり,時速40キロメートル程度しか出していなかったとしても,その速度で走行中の自動車から振り落とした場合にも,やはりDを死亡させる危険性は小さくなかったということができるから,前記の結論に差異は生じない。)。 また,被告人Aの弁護人は,被告人AにはDに対する殺意を生じさせるような動機がない旨いうのであるが,被告人Aは,Dを積極的に殺害しようと意図していたわけではないものの,窃盗罪により懲役1年,3年間執行猶予の裁判を受けて,その執行猶予中であるにもかかわらず,またガ うな動機がない旨いうのであるが,被告人Aは,Dを積極的に殺害しようと意図していたわけではないものの,窃盗罪により懲役1年,3年間執行猶予の裁判を受けて,その執行猶予中であるにもかかわらず,またガソリンの「入れ逃げ」による詐欺の罪を犯したわけであるし,また,ガソリン代金の支払に充てるべき現金も所持していなかったのであるから,どうしても逃げたいと思ったとしても不思議はなく,そのためにDの生命を危険にさらす行為をあえて行うことも十分あり得ることであるから,Dに対する未必の殺意を生ぜしめるだけの動機はあったということができる。 上記のところからすれば,被告人Aに強盗殺人未遂罪が成立する(被告人Aの弁護人の法律上の主張についての判断は後述する。)ことが明らかである。 5 また,被告人Bは,上記2の(2)で認定したとおり,被告人Aから,ガソリンの「入れ逃げ」をする旨事前に告げられていたところ,Dが本件車両の後部トランク上に乗りしがみついてきたことへの対応に窮した被告人Aから,「どないしよう。」などと相談をもちかけられたのに対し,被告人Aから事情を聞くこともなく,また,ためらうことなく,「逃げ。逃げ。」などと答えて,被告人Aにそのまま本件車両を進行させて逃走するようけしかけた上,被告人Aがその直後に急制動や蛇行運転に及んだり,本件車両を加速させたりしても,これを制止することなく,むしろ,上記2の(7)で認定したような運転態様から,被告人AがDを本件車両から振り落とそうとしていることを明確に認識しながら,被告人Aに対し,「山行け。山行け。」,「まだ乗ってんで。」などと申し向けて,そのまま走行し続け,Dを振り落としてでも逃げるよう指示していることを考え併せると,被告人Bについても,ガソリン代金の支払及び逮捕を免れるため,被告人Aと意思を相通じ 乗ってんで。」などと申し向けて,そのまま走行し続け,Dを振り落としてでも逃げるよう指示していることを考え併せると,被告人Bについても,ガソリン代金の支払及び逮捕を免れるため,被告人Aと意思を相通じて,Dを本件車両から振り落とすことの危険性について十分に認識した上で,あえて被告人Aをしてその行為に及ばしめたものと推認するのが相当である。そして,上記2の(7),(8)で認定したように,被告人Aは,被告人Bの上記各発言に沿うように,Dを本件車両から振り落とすために,急制動や蛇行運転を繰り返したり,最高で時速約50ないし60キロメートルにまで加速させたりして走行していること,被告人Bは,盗難車である本件車両に同乗していたのであって,ガソリン代金の支払や逮捕を免れることについて,自らも相応の利害を有していたことをも考慮すれば,被告人Bの上記一連の言動は,被告人Aの実行行為としての本件運転行為を精神的に幇助したにとどまるとみることはできず,被告人両名には,ガソリン代金の支払を免れるため,Dが死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえてDを走行中の本件車両から振り落とすことについての共謀があったというべきであって,被告人Bについても,強盗殺人未遂罪の共同正犯が成立すると評価せざるを得ない。 なお,被告人Bは,当公判廷において,被告人Aから事前にガソリンを「入れ逃げ」する旨告げられてはいなかったとか,被告人Aには「逃げ。逃げ。」くらいしか言っていない旨供述するが,被告人Aは,当公判廷においても,本件ガソリンスタンドに入る前に,「ここで入れ逃げする。」と言ったと供述していること,被告人Bには,本件車両のガソリンがもう乏しくなっているのにガソリンを給油するだけの現金がないことが分かっていたこと,Dが本件車両にしがみついてきたことに気づい する。」と言ったと供述していること,被告人Bには,本件車両のガソリンがもう乏しくなっているのにガソリンを給油するだけの現金がないことが分かっていたこと,Dが本件車両にしがみついてきたことに気づいた際,被告人Aにその事情を尋ねることなく,「逃げ。逃げ。」などと申し向けていることからすると,被告人Bはガソリンを「入れ逃げ」するという被告人Aの意図を事前に知っていたものとみるのが相当であるし,また,被告人Bが被告人Aに向かって,「山行け。」とか「まだ乗ってんで。」などの言葉を発していたことは,被告人Aが公判廷においても明確に供述しているところであって,本件車両からDを振り落としてでも逃走しようとしている状況からしても,被告人Aのこの供述は自然なものであり,信用できると考えられるから,被告人Bの上記公判供述は信用することができない。 また,被告人Bの弁護人は,被告人BにはDを殺害する動機がない旨いうのであるが,先に被告人Aの弁護人の同旨の主張に対する判断のところで述べたとおり,被告人Bは,Dを積極的に殺害しようとしていたわけではないものの,盗難車とおぼしき本件車両に乗って,被告人Aにおいてはガソリンの「入れ逃げ」による詐欺の罪を犯し,また,ガソリン代金の支払に充てるべき現金も所持していなかったのであるから,なんとか逃げたいと思っても不思議ではなく,そのためにDの生命を危険にさらす行為をあえて行うことも十分あり得ることであるから,被告人BについてもまたDに対する未必の殺意を生ぜしめるだけの動機はあったというべきである。 被告人Bの弁護人は,最高裁判所大法廷昭和33年5月28日判決(刑集12巻8号1718頁)を引用して,被告人Bについて,被告人Aとの共同正犯は成立し得ない旨主張するけれども,上記2の(7)で認定したように,被告人B は,最高裁判所大法廷昭和33年5月28日判決(刑集12巻8号1718頁)を引用して,被告人Bについて,被告人Aとの共同正犯は成立し得ない旨主張するけれども,上記2の(7)で認定したように,被告人Bは,被告人Aから,Dが本件車両の後部トランク上にしがみついている状況を「どないしよう。」と相談されて,「逃げ。逃げ。」などと答えた上,被告人AがDを本件車両から振り落とそうとして,急制動や蛇行運転を繰り返したり,最高で時速約50ないし60キロメートルにまで加速して走行したりなどするのを制止することなく,かえって「山行け。山行け。」,「まだ乗ってんで。」などと申し向けていたものであって,被告人Bもまた被告人Aの行為を利用して自己の犯罪を実行しようとしていたことは明白であるから,上記判例をもってしても,被告人Aとの共同正犯の成立を認めることができる。被告人Bの弁護人の上記主張は採用できない。 6 そして,被告人両名の各検察官調書のうち,被告人両名が,Dを本件車両から振り落とすことを共謀の上で犯行に及んだことや,その際,Dに対する未必の殺意を有していたことを認める部分も,これまでみてきたところに照らして,信用できるというべきである。 7 以上のとおりであって,被告人両名は,共謀の上,ガソリン代金の支払を免れるため,未必的な殺意をもってDを本件車両から振り落とし,判示の傷害を負わせたものであるから,被告人両名には強盗殺人未遂罪が成立する。 (法令の適用)省略(被告人Aの弁護人の法律上の主張に対する判断)被告人Aの弁護人は,法は,窃盗犯人が,財物を窃取した後,暴行,脅迫行為に及んだ場合に,刑法238条所定の要件を充足するときのみ強盗をもって論ずるとしているのであって,同条所定の要件を充足しないときに,刑法236条2項を適用してこれを強盗として した後,暴行,脅迫行為に及んだ場合に,刑法238条所定の要件を充足するときのみ強盗をもって論ずるとしているのであって,同条所定の要件を充足しないときに,刑法236条2項を適用してこれを強盗として論ずることを否定していると解すべきところ,財物領得行為と暴行・脅迫行為との結び付きが窃盗罪に比して極めて稀薄である詐欺罪について,刑法238条を準用する規定が存しないのは,法が,詐欺罪を犯した者が財物の返還や対価相当額の金員の支払を免れるために暴行・脅迫行為に及んだとしても,これを強盗として論じることを否定する趣旨にほかならないから,被告人Aがガソリンを詐取した後,その代金の支払を免れるため,Dに対し,判示の暴行に及んだという本件において,被告人Aには,いわゆる2項強盗による強盗殺人未遂罪が成立する余地はない旨主張する。 しかしながら,刑法238条の事後強盗罪(以下「事後強盗罪」という。)は,刑法236条2項の強盗罪(以下「2項強盗罪」という。)の対象とはなり得ない,逮捕を免れる目的及び罪跡を隠滅する目的による暴行,脅迫行為,並びに,財物の返還請求権等を有しない第三者に対する暴行,脅迫行為をも処罰の対象とするものの,その成立範囲は,窃盗の現場ないしその継続的延長上における暴行,脅迫行為に限られるのに対し,2項強盗罪は,財産上の利益を客体とし,財物の返還請求権や対価相当額の支払請求権もこれに含まれるところ,財物の取得が犯罪行為によることを前提とするものではなく,財物を取得してから相当期間が経過した後に,暴行,脅迫行為に及んだ場合にも成立し得るものの,その成立範囲は,財物の返還請求権等を有する債権者に対する暴行,脅迫行為に限られるのであって,事後強盗罪と2項強盗罪の成立要件と範囲のこのような相違をみれば,事後強盗罪は,窃盗犯人による財物取得後の の成立範囲は,財物の返還請求権等を有する債権者に対する暴行,脅迫行為に限られるのであって,事後強盗罪と2項強盗罪の成立要件と範囲のこのような相違をみれば,事後強盗罪は,窃盗犯人による財物取得後の暴行,脅迫行為の危険性や実質的違法性が刑法236条1項の強盗罪(以下「1項強盗罪」という。)に匹敵するとの観点から,1項強盗罪を補完する目的で規定されたものであり,他方,2項強盗罪は,客体の点で1項強盗罪を補完する目的で規定されたものであって,それぞれ異なる目的から規定されたものと理解するのが相当であるから,事後強盗罪と2項強盗罪の成立範囲に,たまたま重なり合う部分があり得るとしても,窃盗犯人による財物取得後の暴行,脅迫行為について,刑法238条の存在により,刑法236条2項の適用が一切排除されるという関係にはないと理解するのが相当である。被告人Aの弁護人の上記主張は,まずこの点において,前提となる法律の解釈を誤ったものといわざるを得ない。 しかも,本件においては,被告人Aは,詐欺行為によりガソリンを詐取した後,その代金の支払を免れるため判示の暴行に及んだものであって,刑法238条により事後強盗罪が成立する余地はないのであるから,同条の存在が刑法236条2項の適用を排除する関係にもないことが明らかである。 そして,本件において,詐欺罪の対象となる財物はガソリンであり,強盗(殺人未遂)罪の対象となる財産上不法の利益はその代金請求権であって,両者は別個に被害の客体となり得るものというべきところ,被告人Aは,新たな不法行為によりガソリン代金の支払を免れたのであるから,詐取したガソリンとは別個の財産的法益を侵害したものとして,これが強盗(殺人未遂)罪に該当すると解しても,同一の財産的被害を二重に評価したことにもならないというべきである。 以上のと のであるから,詐取したガソリンとは別個の財産的法益を侵害したものとして,これが強盗(殺人未遂)罪に該当すると解しても,同一の財産的被害を二重に評価したことにもならないというべきである。 以上のとおりであって,被告人Aの判示第1の行為については,刑法246条1項の詐欺罪と2項強盗による強盗殺人未遂罪が成立するというべきであり(最高裁判所第1小法廷昭和61年11月18日決定・刑集40巻7号523頁,東京高等裁判所昭和52年11月9日判決・刑裁月報9巻11=12号798頁等参照),被告人Aの弁護人の上記主張は採用できない。 なお,被告人Aには,前記のとおり,ガソリンに対する詐欺罪とその代金請求権に対する強盗殺人未遂罪が成立するところ,本件においては,詐欺と強盗殺人未遂の犯行は極めて近接した日時,場所において連続して敢行されたものであり,また,両罪によって侵害された財産的法益は,ガソリンとその代金請求権という,別個のものであるとはいえ,表裏の関係にあるものであるから,詐欺罪と強盗殺人未遂罪は,併合罪の関係ではなく,混合した包括一罪の関係にあって,重い強盗殺人未遂罪の刑により処断されると解するのが相当である。 (量刑の理由)本件は,被告人Aが,ガソリンスタンドの店員であるDを欺き,自己の運転していた自動車にガソリンを給油させて詐取した上,被告人両名が,共謀の上,ガソリン代金の支払を求めるために逃走を阻止しようとして走行中の同車の後部トランク上にしがみついていたDに対し,ガソリン代金の支払を免れるため,未必の殺意をもって,急制動や蛇行運転を繰り返したり,高速度で走行したりするなどしてDを同車から振り落とし,Dに傷害を負わせたものの,Dを殺害するに至らなかったという詐欺,強盗殺人未遂(判示第1,被告人Bについては強盗殺人未遂のみ)のほか,被 たり,高速度で走行したりするなどしてDを同車から振り落とし,Dに傷害を負わせたものの,Dを殺害するに至らなかったという詐欺,強盗殺人未遂(判示第1,被告人Bについては強盗殺人未遂のみ)のほか,被告人Bが覚せい剤を自己使用したという覚せい剤取締法違反(判示第2)の事案である。 まず,判示第1の犯行についてみるに,被告人両名は,前示のような経緯から,共謀の上,ガソリン代金の支払を免れるため,強盗殺人未遂の犯行に及んだものであって,そこに至る経緯や犯行の動機はあまりに自己中心的で酌むべき余地はないこと,強盗殺人未遂の犯行は,急制動や蛇行運転を繰り返したり,最高で時速約50ないし60キロメートルにまで加速したりして,約749メートルも走行した後に,Dを本件車両から振り落として路上に落下させたものであって,犯行の態様は非常に悪質なものであるとともに,Dの生命身体に対する危険性の高いものであること,被告人Aは,自らガソリンを詐取した上,自ら前記のような危険な行為をして,強盗殺人未遂の実行行為に及んでおり,また,被告人Bは,被告人Aとともにいて,被告人Aをして強盗殺人未遂の実行を決意させ,前記のような危険な行為に及ばせたものであって,被告人Aの果たした役割は重大であり,被告人Bの果たした役割も小さくないこと,Dは,格別責められるべき点はないところ,本件被害に遭ったことにより,判示のような後遺症を伴う重篤な傷害を負っており,現在に至るも職場復帰の目途も立っていない上,長期間の通院加療を強いられているのであって,その肉体的,精神的苦痛は大きいこと,Dの妻の被告人両名に対する処罰感情が厳しいのは当然であるところ,被告人両名は,Dに対し,これまで治療費や慰謝料の支払等をしておらず,Dに対し今後十分な損害賠償等のなされる見込みも乏しいこと,被告人両名の当 告人両名に対する処罰感情が厳しいのは当然であるところ,被告人両名は,Dに対し,これまで治療費や慰謝料の支払等をしておらず,Dに対し今後十分な損害賠償等のなされる見込みも乏しいこと,被告人両名の当公判廷における供述態度等からみて,被告人両名が判示第1の犯行に対して十分反省している様子は窺えないことなどを考え併せると,その犯情は悪く,被告人Aの刑事責任は非常に重く,被告人Bの刑事責任も相当に重いといわざるを得ない。 次に,判示第2の犯行についてみるに,被告人Bは,判示第1の犯行後自分も逮捕されるかもしれないという不安を紛らわせるために覚せい剤の使用に及んだというのであって,犯行の動機に酌むべき点はないこと,被告人Bには,少年時のものとはいえ,平成13年9月に覚せい剤取締法違反の非行により保護観察に付された処分歴があることをも考え併せると,被告人Bの覚せい剤に対する親和性には看過できないものがあるから,その犯情はよくなく,判示第2の犯行における被告人Bの刑事責任も決して軽くはないというべきである。 また,被告人Aは,平成15年5月に窃盗罪により懲役1年,3年間刑執行猶予の判決を受けており,本件はその執行猶予期間中の犯行であること,被告人Aは,上記判決後の平成15年9月にも住居侵入罪により罰金刑に処せられた前科があること,被告人Aには,覚せい剤取締法違反の非行により中等少年院送致となったものを含め,少年時に少なからぬ数の非行歴があることなども,量刑上看過するわけにはいかない。 してみると,判示第1の強盗殺人未遂の犯行は,Dが,ガソリン代金の支払を受けるためとはいえ,走行中の本件車両にしがみつくという予期し難い行動に出たことも一因となっているのであって,偶発的な犯行であるのに加え,殺意も未必的なものにとどまっていること,Dは,幸い一命を を受けるためとはいえ,走行中の本件車両にしがみつくという予期し難い行動に出たことも一因となっているのであって,偶発的な犯行であるのに加え,殺意も未必的なものにとどまっていること,Dは,幸い一命を取り留めており,前述のような重篤な傷害を負ったものの,本人の努力や家族の介護等もあって,その症状は次第に快方に向かってきていること,その治療費や給料等については,労災保険等から支払がされていて,損失がてん補されていること,判示第1の犯行による財産的損害(ガソリンないしガソリン代金)は比較的少額である上,本件後,被告人Aから被害店舗に現金7000円が支払われたことにより,その被害はほぼ回復していること,被告人両名は,判示第1の犯行のDに手紙を送るなどして,謝罪の意を表していること,被告人両名の父や母が社会復帰後の被告人両名をそれぞれ監督する旨述べていること,被告人両名ともいまだ若年であること,被告人両名は本件により1年余りの期間身柄拘束を受けていること,被告人Aについては,本件で服役することになると,上記の執行猶予が取り消されてその刑も併せて服役することになるであろうこと,被告人Bは,判示第2の犯行については,捜査段階から事実を認めて,覚せい剤には二度と手を出さない旨述べていること,被告人Bの成育環境には同情すべき点もあること,被告人Bにはこれまで前科はないことなどの,被告人両名のためにそれぞれ酌むべき事情を考慮しても,主文の刑はやむを得ないところである。 (検察官の科刑意見被告人Aにつき懲役15年,被告人Bにつき懲役13年)よって,主文のとおり判決する。 平成16年11月29日神戸地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官森岡安廣 決する。 平成16年11月29日 神戸地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官 森岡安廣 裁判官 川上宏 裁判官 酒井孝之

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