- 1 -平成18年7月14日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成15年(ワ)第11466号損害賠償請求事件口頭弁論の終結の日平成18年5月17日判決大阪市a区bc丁目d-e原告A上記同所原告B原告ら訴訟代理人弁護士内藤早苗同中川澄大阪市f区gh丁目i-j被告C産婦人科ことD同訴訟代理人弁護士竹村仁主文 被告は,原告Aに対し,220万円及びこれに対する平成14年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,220万円及びこれに対する平成14年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを15分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。 事実及び理由 第1請求被告は,原告らそれぞれに対し,各3710万1302円及びこれに対する平成14年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要- 2 -本件は,原告らが,被告の経営する産婦人科医院において原告BがEを分娩するに当たり,被告による不必要な分娩誘発措置や不適切な分娩監視などの過失のため出生後7か月余でEが死亡するに至ったと主張し被告に対し不法行為使,,,(用者責任を含む)に基づき損害賠償(不法行為日の翌日以降の遅延損害金の支。 払を含む)を求める事案である。 。 第3争いのない事実等(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない)。 原告らは,平成14年7月18日に出生したEの父母である。 被告は,C産婦人科という名称で産婦人科医院(以下「被告医院」という)。 を経営する医師である。 原告Bは,平成13年11月26日,被告医院で ,平成14年7月18日に出生したEの父母である。 被告は,C産婦人科という名称で産婦人科医院(以下「被告医院」という)。 を経営する医師である。 原告Bは,平成13年11月26日,被告医院で受診して妊娠が確認され,以後,継続して被告医院で受診していた。 平成14年7月17日午後2時ころ,原告Bは陣痛開始前に自宅で破水し,同日午後2時59分ころ,被告医院に入院した。 原告Bは,平成14年7月18日午前3時32分ころ,男児(E)を分娩したが,Eは,出生時,仮死状態であった。 上記同日午前10時40分ころ,Eは救急車で大阪府立病院に転送され,同病院に入院した。同病院において,Eは,重症新生児仮死,低酸素性虚血性脳,(,),,障害と診断され治療を受けていたが甲A8 平成15年3月1日低酸素性虚血性脳症を原因とする症状のため死亡した(甲A10,12。 )第4 争点 原告Bに対する分娩誘発措置についての過失の有無 原告Bに対する分娩監視についての過失の有無 Eの救急搬送遅延についての過失の有無 上記各過失とEの死亡との間の相当因果関係の有無 原告らの損害の内容及び損害額第5争点に対する当事者の主張- 3 - 争点1(分娩誘発措置の適否)について(原告らの主張),(,(1)被告は原告Bが破水した約3時間後である平成14年7月17日以下同日及び翌18日については,年月の表記を省略することがある)午後5。 時50分「破水を止めて陣痛を促す」との説明のもと,原告Bにメトロイ,。 リンテルを挿入するメトロイリーゼを行った。メトロイリーゼは,分娩誘発法の一つであり,70~300mlのゴム袋を子宮頸部と子宮下部腔内に挿入して膨満させ,これを負荷牽引して陣痛を誘発するものである。しかし,分娩 するメトロイリーゼを行った。メトロイリーゼは,分娩誘発法の一つであり,70~300mlのゴム袋を子宮頸部と子宮下部腔内に挿入して膨満させ,これを負荷牽引して陣痛を誘発するものである。しかし,分娩誘発法にはさまざまな危険が指摘されており,メトロイリーゼは負荷牽引の力によって卵膜と胎児の頭部の間に隙間ができやすい状態となって臍帯脱出を起こしやすい状態となる可能性がある。このような分娩誘発法の危険を考慮し,医学的・産科的適応としては,母児が危険にさらされる前に妊娠を終了させる必要性がある状態が適応となる(甲B2。前期・早期破水の場)合,破水後,24時間の経過を確認し,それでも陣痛がこない場合にメトロイリーゼが行われるのが一般的である(甲B1。しかし,被告は,原告B)の破水のわずか約4時間後に異常分娩の危険性のある分娩促進法を選択し,必要性のないメトロイリーゼを行った。被告には,少なくとも24時間の経過を確認して処置を決めるべき義務があったにもかかわらず,十分な経過観察を行わず,破水後わずか4時間でメトロイリーゼを行った過失がある。 ,(2)仮に被告が使用した器具が被告の主張するネオメトロであったとしても乙B第1号証に「臍帯脱出等にはご注意下さい」との記載があることからも,。 明らかなようにネオメトロも臍帯脱出を招来する危険を有するものである妊娠第8月以後の前期破水は異常事態ではなく,その80%以上が24時間以内に自然陣痛の発来をみるので(甲B1),破水のわずか4時間後に上記のような危険性を有するネオメトロを使用する必要性はなかった。また,被告は,ネオメトロの使用を決定するに先立ち,子宮口が2㎝開大していること- 4 -を確かめたのみで(甲A2) 子宮口の硬度も児頭の位置も確認していない(甲,A3)。すなわち,被告は,ネオメト 被告は,ネオメトロの使用を決定するに先立ち,子宮口が2㎝開大していること- 4 -を確かめたのみで(甲A2) 子宮口の硬度も児頭の位置も確認していない(甲,A3)。すなわち,被告は,ネオメトロ使用の適応があるか否か十分に確認することなく,漫然とその使用を決定したのである。被告がかかる状況下でネオメトロを使用した点には過失が認められる。 (3)そもそも,分娩誘発実施に必要な条件(要約)は,①胎児が母体外で生存可能,②経膣分娩可能,③母体が分娩に耐えられること,④母体が分娩準備状態にあること,⑤十分な分娩監視が可能,⑥妊婦及び家族の強い希望と同意であるとされる(鑑定人H医師作成の鑑定書(以下「本件鑑定書」という)添付の鑑定資料(以下「鑑定資料」という)1・5頁)。 。 ところ,本件では少なくとも⑤及び⑥の条件が欠けており,被告がメトロイ,。 リーゼによる分娩誘発を行ったことはこの点においても過失が認められるこの点,上記鑑定人の鑑定の結果(以下「本件鑑定」という)において。 は,上記要約を挙げつつ「本件ではほぼ要約も満たされていると考える」,とするが,本件鑑定において上記⑥が満たされると考える理由は一切示されていない。また,上記⑤についても,人員に制限のある個人医院において経験豊富な医師や助産師による分娩監視や常時医療従事者が付き添いながらの分娩監視は無理とするのみで,十分な検討はされていない。よって,本件鑑定の結論には疑問がある。 さらに,本件鑑定においては,ネオメトロを羊水漏出防止に使用するため破水後4時間で使用する必要があったとの被告の主張は医学的に根拠がないこと及び臍帯脱出の危険性が低い陣痛促進剤使用の方がより好ましかったことが指摘されており,これと,上記分娩誘発の要約が満たされていないことを併せ考慮すれば があったとの被告の主張は医学的に根拠がないこと及び臍帯脱出の危険性が低い陣痛促進剤使用の方がより好ましかったことが指摘されており,これと,上記分娩誘発の要約が満たされていないことを併せ考慮すれば,被告の過失を認めるべきである。 (4)以上の被告の過失により,現実に臍帯脱出が生じたものである。 (被告の主張)(1)17日午後5時50分ころに原告Bの子宮腔内に挿入したのは,ソフトメ- 5 -ディカル株式会社製のネオメトロ100ml(ディスク型)であり,メトロイリンテルではない。 ネオメトロは,従来のメトロイリンテルと異なり,バルーンがディスク状に膨張するので児頭への圧迫が少なく,卵膜と児頭の間に隙間ができにくい構造となっている(乙B1。さらに,本件で使用したネオメトロの注入量)は100mlと少なく,従来のメトロイリンテル(~300ml)と比較して児頭の挙上や臍帯脱出を起こしにくい。したがって,本件で使用したネオメトロが,メイトロイリンテルと同様に臍帯脱出を起こしやすいとの指摘は当たらない。 (2)原告らは,破水後少なくとも24時間の経過を確認して処置を決めるべき義務があったにもかかわらず,十分な経過観察を行わず,破水後わずか4時間でメトロイリーゼを行った過失があると主張する。 しかし,破水後24時間経過観察をすべき特段の理由はない。 また,本件でネオメトロを使用した目的は,陣痛誘発だけではなく,前期破水に対し羊水漏出を防ぐことにもあるから,破水後4時間後に使用する必要が十分にあった。 したがって,本件でネオメトロを使用した点に過失はない。 (3)原告らは,被告がネオメトロ使用を決定するに先立ち,子宮口の硬度も児頭の位置も確認していない,すなわち,ネオメトロ使用の適応があるか否か十分に確認することなく,漫然とその使用を決定したと主張 (3)原告らは,被告がネオメトロ使用を決定するに先立ち,子宮口の硬度も児頭の位置も確認していない,すなわち,ネオメトロ使用の適応があるか否か十分に確認することなく,漫然とその使用を決定したと主張する。 しかし,被告は,ネオメトロの挿入決定に当たっては,必ず内診により子宮口の開大度,子宮口の硬度,児頭の位置等を十分に確認している。すなわち,17日午後5時50分ころ,内診により子宮口の開大度2㎝,子宮口の硬度がやや軟らかくなっていること,児頭の先進部の位置が-1であることを確認した上でネオメトロ使用を決定している。 争点2(分娩監視の適否)について- 6 -(原告らの主張)(1)臍帯脱出を起こしやすい状態の一つとして,早期破水が指摘されている(甲B3。そして,臍帯脱出を起こして臍帯が圧迫されて血行が停止する)と約8分で児は不可逆的な変化を起こして蘇生は困難になるとされている(甲B3。したがって,臍帯脱出の可能性が考えられる場合には,出産ま)で十分に胎児の状況を監視し,異常が認められた場合には迅速に措置をとらなければならない。本件において,被告は,前期破水した原告Bに対し,臍帯脱出を招来する危険を有するメトロイリーゼによる分娩誘発を行っていたのであるから,医師又は助産師による厳重な経過観察を行うべきであった。 また,原告Bの分娩監視記録(甲A6)における17日午後11時55分ころの徐脈は,変動一過性徐脈ないし遅発一過性徐脈であると考えられるところ,乙B第3号証54頁によれば,軽度の変動一過性徐脈も胎児仮死の警戒徴候であるとされているのであるから,仮に上記徐脈が軽度変動一過性徐脈であったとしても,少なくとも病院内で分娩監視をしていた者から被告に対し連絡を入れるべきであり,被告は直ちに内診をして以後厳重な経過観察を行うべきであっ であるから,仮に上記徐脈が軽度変動一過性徐脈であったとしても,少なくとも病院内で分娩監視をしていた者から被告に対し連絡を入れるべきであり,被告は直ちに内診をして以後厳重な経過観察を行うべきであった。 さらに,18日午前2時50分ころからの徐脈は,遷延一過性徐脈であると考えられるところ,遷延一過性徐脈の出現頻度の高い原因の一つに,児の娩出直前に臍帯が持続的に圧迫されるときが挙げられるのであるから,この午前2時50分ころには既に臍帯脱出が始まっていたことが強く疑われる。 以上の経過から,被告は,上記午前2時50分ころまでに急速遂娩の準備を整えておくべきであったのであり,午前2時50分過ぎには内診を行い,臍帯脱出が確認された場合は直ちに臍帯圧迫を解除した上,児頭の高さに応じて帝王切開又は吸引分娩を行うべきであったにもかかわらず,医師の不在もあり,原告Bが分娩室に入ったのは18日午前3時15分であったため,,,原告Bの臍帯脱出の発見及びこれに対する対処が遅れEに重篤な障害が生じ- 7 -この障害が原因で死に至ったものであるから,被告の分娩監視には過失がある。 (2)また,被告は,17日午後8時ころ以降,准看護師1名のみに原告Bの分,,,娩監視を行わせ医師である被告自身は帰宅してしまった上同准看護師は原告Bがトイレに行きたい旨のコールをしたとき(1回)及び原告Bがコールして吐き気を訴えたとき(2~3回)のみ訪室したものであり,原告Bのコールなく同准看護師が訪室したことはなかった。18日午前3時ころに同准看護師が訪室したのも,ネオメトロの体外への抜去を感じた原告Bに呼ばれたからであり,同准看護師が胎児心拍数の乱れに気付いた形跡すらない。 「准看護師」とは都道府県知事の免許を受けて,医師,歯科医師,看護師の指示を受けて,傷病者若しくは 外への抜去を感じた原告Bに呼ばれたからであり,同准看護師が胎児心拍数の乱れに気付いた形跡すらない。 「准看護師」とは都道府県知事の免許を受けて,医師,歯科医師,看護師の指示を受けて,傷病者若しくは褥婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいうと規定されており(保健師助産師看護師法5条6条医師の指示・監督なく単独で分娩監視を行い得る者ではない甲,),(B10。また,准看護師に対する産科看護学の教育内容に鑑みれば,准看)護師が分娩監視装置記録上の異常の有無を正確に判断して医師に報告する能力を有していることはまれである。そして,F准看護師についても,①看護学校で分娩監視記録の読み方を体系的に学習したことがないこと(F准看護師の証人調書17頁,②母体が動いているときの児心拍の乱れは母体)の体動による記録不備であると誤解していること(同19,20頁,③)児心拍に異常が現れている最中に分娩監視装置を脱着したこと等の事実に鑑みれば,同人に分娩監視装置記録上の異常の有無を正確に判断する能力がないことは明らかである。 本件は,前期破水した産婦に臍帯脱出の危険を伴うメトロイリーゼの処置をした事案であり,十分な分娩監視が要求されるのであるから(鑑定資料1・5頁,分娩監視装置記録上の異常の有無の判断能力を欠く准看護師に単)独で分娩監視を行わせたこと自体が分娩監視義務の懈怠に当たる。この点,- 8 -本件鑑定は「経験豊富な医師や助産師による分娩監視や,臍帯脱出が起こ,った場合に備えて常時医療従事者が付き添いながら分娩監視を行う方が望ましいが,大病院でさえそのような監視体制はとれず,ましてや,人員に制限のある個人医院にこのような体制を要求するのは無理がある」との理由の。 みで,F准看護師に単独で分娩監視を行わせた を行う方が望ましいが,大病院でさえそのような監視体制はとれず,ましてや,人員に制限のある個人医院にこのような体制を要求するのは無理がある」との理由の。 みで,F准看護師に単独で分娩監視を行わせたこと自体は分娩監視義務違反ではないとする。しかし,本件鑑定が追認しようとする産婦人科医院の実情が厚生労働省の指導(甲B10)に反することは明らかであり,医師の中にも「重要な分娩監視装置記録の観察・・・を能力のない准看護婦に任せたこ。」(,とは適切でないとの見解をとる者もあることに鑑みれば甲B11・45枚目,本件鑑定が指摘する個人医院の実情のみを根拠に被告を免責する)ことは相当でない。 したがって,本件において准看護師に単独で分娩監視を行わせていたこと自体,被告の分娩監視義務の懈怠にあたる。 (3)さらに,18日午前3時ころ以降のF准看護師の対応には複数の問題があり,被告は,その使用者責任を免れない。 すなわち,本件において,18日午前2時51分からと56分からの2度にわたり胎児に遷延一過性徐脈が生じており,少なくとも同日午前2時56分以降は胎児ジストレスと診断できる。そして,胎児ジストレスでは急速遂娩が必要であるから,被告は,同日午前2時56分以降,速やかに内診により児頭の下降度と子宮口の開大度を観察し,急速遂娩の方法を決定し準備に着手すべきであった。本件では,上記時刻に被告が医院内にいなかったのであるから,F准看護師は直ちに被告をコールすべきであった(本件鑑定。 )それにもかかわらず,F准看護師は,児心拍の異常に全く気付かず(F准看護師の証人調書19頁,胎児の状態を的確に把握するため必要な分娩監視)装置を取り外し,直ちに被告をコールすることもなかった。 上記の点についてF准看護師に過失があることは明らかであり,被告は,- 師の証人調書19頁,胎児の状態を的確に把握するため必要な分娩監視)装置を取り外し,直ちに被告をコールすることもなかった。 上記の点についてF准看護師に過失があることは明らかであり,被告は,- 9 -この点につき使用者責任を免れない。 (被告の主張)(1)被告は,原告Bに対し,ネオメトロ挿入後,17日午後6時より分娩監視装置を装着し,胎児心拍数及び子宮収縮につき連続的モニタリングを行っていた。 また,原告Bの17日午後11時55分ころ及び18日午前0時50分ころから午前1時ころまでの一過性徐脈は,いずれも軽度変動一過性徐脈であるから,胎児ジストレス(胎児仮死)あるいはその徴候を示すものではない。 さらに,18日午前2時50分ころからの波形(乙A5・18頁)は,母体の体動により正確な胎児心拍数を示していないと考えられ,この波形を遷延一過性徐脈と判定することはできず,これをもって胎児仮死の徴候を示しているとはいえない。 なお,乙A第5号証5枚目午後8時23分ころから午後8時50分ころまでの胎児心拍数の曲線が途切れているのは,原告Bの体動によりトランスジューサーの位置がずれたためと考えられる。 したがって,分娩監視記録上,被告が何らかの措置をすべきであったとする徴候は認められない。 (2)被告医院における分娩監視体制は,①院長の被告が在院時は,院長及び看護師,助産師により定期的(30分~1時間ごと)に病室を訪れ,患者の状態を診察又は観察するとともに,ドップラーによる胎児心拍モニタリングを実施する,あるいは,分娩監視装置を装着し,2階病室及び1階詰所のモニターにて,母児の連続的監視を行う,②院長である被告が退出後の深夜帯は,助産師あるいは看護師により訪室による定期的(30分~1時間ごと)な診察又は観察を行い,併せて分娩監視装置を装着し 詰所のモニターにて,母児の連続的監視を行う,②院長である被告が退出後の深夜帯は,助産師あるいは看護師により訪室による定期的(30分~1時間ごと)な診察又は観察を行い,併せて分娩監視装置を装着して,2階病室と1階詰所のモニターによる母児の連続的監視を行う,というものである。 本件においても,17日午後6時ころから午後8時ころまでは,被告及び- 10 -(),F准看護師が2階病室及び1階詰所分娩監視装置のモニター設置において,,分娩監視を行い同日午後8時ころから翌18日午前3時15分ころまではF准看護師が2階病室(30分から1時間おきに訪室)及び1階詰所にて,分娩監視を行っていた。そして,同日午前3時ころ,原告Bよりナースコールがあり,F准看護師が訪室したところ,ネオメトロが自然抜去していることが判明した。直ちに分娩監視装置を外し,ストレッチャーにて午前3時15分に病室から分娩室へ移室させたところ,臍帯脱出が認められたため,午前3時16分に被告に連絡し,午前3時21分に被告は分娩室へ入室した。 ,,上記F准看護師による分娩監視は被告の指示の下に行われたものであり准看護師が単独で行ったものでは決してない。また,F准看護師は産科の研修を積んだ20年以上の経験を有するベテランであり,分娩監視記録上の異,。 常所見につき正確に判断し異常があれば被告に報告する能力を有していた確かに,原告Bの分娩室入室時(午前3時)には被告は被告医院内にはいなかったが,道路をへだてた自宅で待機しており,午前3時16分に連絡を受け,午前3時21分には分娩室へ入室し,適切な処置を施したものである。 以上のとおりであって,被告の分娩監視体制に問題はなく,分娩監視義務違反はない。 争点3(救急搬送遅延の有無)について(原告らの主張)(1)新 分娩室へ入室し,適切な処置を施したものである。 以上のとおりであって,被告の分娩監視体制に問題はなく,分娩監視義務違反はない。 争点3(救急搬送遅延の有無)について(原告らの主張)(1)新生児仮死については,蘇生をしても,呼吸循環系の異常,中枢神経系の異常,電解質・水分の代謝異常等の合併症を発生する可能性がある(甲B4。したがって,自発呼吸を始めても,新生児を慎重に観察し,蘇生後に)引き続く合併症に対し適切な医療行為を行うことが必要になる。 ところが,被告がEを高度医療を備える大阪府立病院に搬送する手配を行ったのは,出生後約6時間以上,自発呼吸が開始してから約4時間半も経過した時点である。搬送時に作成された大阪府立病院の「入院計画書」には,- 11 -「(),,,,考えられる病名として呼吸不全肺出血気胸電解質異常けいれん無呼吸,消化管出血,DIC,感染症,心筋障害,心不全,腎不全,低酸素性虚血性脳障害,頭蓋内出血,脳浮腫」と記載されており,これからEの状況の重篤さは明らかである(甲A7。このような重篤な状態のEを保育器)に入れたまま,被告自身は,その後帰宅してしまい,午前10時にEを搬送するに際しても,原告Aに対して「土日で手薄になるので,大きな病院に搬送する」と説明しているのである。 。 大阪府内では,平成14年3月,新生児送院基準が確立され,出産時の蘇生後1時間を経ても呼吸障害,チアノーゼ等の症状があるもの及びそれまでに上記症状が予測されるものは,速やかに新生児診療施設に送院すべきとされており(甲B7,2病院が新生児搬送のための特別の救急車を備えて搬)送要請に応じている。新生児に自発呼吸がない場合でも,上記システムによ,。 り速やかな搬送が可能であり被告は早急にEの搬送を手配すべきであった 病院が新生児搬送のための特別の救急車を備えて搬)送要請に応じている。新生児に自発呼吸がない場合でも,上記システムによ,。 り速やかな搬送が可能であり被告は早急にEの搬送を手配すべきであった被告がこのような措置をとらず,さらに,Eが自発呼吸を始めてからもなお,救急搬送を手配せず,結局,Eが大阪府立病院に入院したのは出生後約7時間も経過した時点であり,かかる長時間の経過により,Eの合併症が悪化し,同人は,低酸素性虚血性脳症による窒息のために7か月余の後に死に至ったものである。 このように,被告には,迅速にEの救急搬送を行わなかった過失がある。 (2)被告は,新生児診療相互援助システムによる新生児送院基準が大阪府下の産婦人科医師に送付されたのが平成14年8月であったとして,上記基準が同年7月の医療水準を示すものではない旨主張する。 しかし,送院基準が作成されたこと自体が,当時の医療水準を示すものである。医師は,漫然と情報が手元に届くのを待ってそれに従っていればよいものではなく,日々研鑽を積み,水準を追跡すべきであるから,上記被告の主張は根拠を欠く。 - 12 -なお,被告は,Eの転送を決定したのは,18日午前10時過ぎに酸素飽和度が低下しチアノーゼが目立つようになったためである旨主張するが,原告Aも原告Bも,E転送に際しチアノーゼが現れている旨の説明は一切聞かされていなかった。また,Eには,出生直後からチアノーゼが現れていたのであり(甲A4,午前10時過ぎににわかにチアノーゼが目立つようになっ)たものではない。被告は救急車に同乗することなくEを搬送させており,Eが危機的状況にあることの認識が乏しかったものと考えられる。 (被告の主張)(1)原告らの主張する新生児診療相互援助システムによる新生児送院基準甲(B7)は「2002年 くEを搬送させており,Eが危機的状況にあることの認識が乏しかったものと考えられる。 (被告の主張)(1)原告らの主張する新生児診療相互援助システムによる新生児送院基準甲(B7)は「2002年3月」作成と記載されているが,大阪産婦人科医会,より大阪府下の産婦人科医師に送付されたのは平成14年8月であり,本件の分娩当時(同年7月,上記基準は少なくとも被告を含む大阪府下の一般)開業医には周知されていなかった。 したがって,上記基準は,平成14年7月当時の医療水準を示すものではないから,本件における過失主張の根拠とはなり得ない。 (2)本症例においては,出生後直ちに100%酸素を投与しつつ,マスクアンドバッグによる人工換気等による蘇生術を施行したところ,約2時間後の18日午前5時35分には自発呼吸が発来した。その後もマスクによる酸素投与を続行し,午前7時10分に児を保育器に収容(酸素3L/分)した。 保育器収容後も児の状態は安定(酸素飽和度80~98%)していたが,午前10時過ぎに酸素飽和度が低下し,チアノーゼも目立つようになったため,転送を決定したものであり,転送の遅れはない。 争点4(相当因果関係の有無)について(原告らの主張),,(1)被告の上記各過失がなければEが低酸素性虚血性脳症に陥ることはなく同症に基づく窒息を原因として死亡することもなかった。したがって,被告- 13 -の上記各過失とEの死亡との間には,相当因果関係がある。 (2)本件では,18日午前3時16分にF准看護師が被告に連絡したところ,午前3時21分に被告が分娩室に入室したのであるから,連絡を入れてから被告が到着するまでの所要時間は5分である。そして,午前3時ころ,F准看護師が児心拍の異常に気付き被告に連絡していたなら,被告は午前3時5分には医 告が分娩室に入室したのであるから,連絡を入れてから被告が到着するまでの所要時間は5分である。そして,午前3時ころ,F准看護師が児心拍の異常に気付き被告に連絡していたなら,被告は午前3時5分には医院に到着していた。また,F准看護師が被告に連絡後速やかに原告Aの協力を得て原告Bを分娩室に移送させていたなら,原告Bが午前3時5分に分娩室に入室していることは十分可能であった。よって,F准看護師が適切な判断をしていれば,被告は,午前3時5分に原告Bの内診をすることが可能であった。 午前3時21分の内診所見が子宮口全開大,station+2であったことに鑑みれば,その16分前の午前3時5分でも同様な内診所見であった可能性は高く,吸引分娩の要約を満たしていたと考えられる。そうすると,午前3時5分に未だ臍帯脱出が起こっていなければ,Eの低酸素性虚血性脳症が発生していたとしてもその程度は著しく軽かったと考えられる。臍帯が圧迫され血行が停止すると約8分で児は不可逆的な変化を起こし蘇生は困難になるといわれている(甲B3・181頁)にもかかわらず,午前3時15分過ぎに臍帯環納の試みが開始され,午前3時32分に娩出されたEが直ちに死亡せず,平成15年3月1日まで生存したことに鑑みれば,午前3時5分に未だ臍帯脱出が起こっていなかった可能性は高い。 また,仮に午前3時5分に既に臍帯脱出が起こっており,被告が臍帯環納を試みて失敗したとしても,午前3時16分には吸引分娩の方法によりEを分娩できたと考えられる。本件鑑定は,午前3時18分ないし26分にEを分娩できたとの前提で「頭位分娩における臍帯脱出の強度な臍帯圧迫を考,えると,数分早く分娩するだけでも胎児への侵襲は大きく異なったと想定され,Eの低酸素性虚血性脳症は防止できなくても軽減された可能性はある」。 - 頭位分娩における臍帯脱出の強度な臍帯圧迫を考,えると,数分早く分娩するだけでも胎児への侵襲は大きく異なったと想定され,Eの低酸素性虚血性脳症は防止できなくても軽減された可能性はある」。 - 14 -旨述べており,午前3時16分にEが分娩できたのであれば,Eの低酸素性虚血性脳症が軽減された可能性は上記の場合より一層高まる。 以上より,午前3時に原告Bの病室を訪れたF准看護師が直ちに被告に連絡をとり,被告が速やかに適切な処置をしていれば,Eの低酸素性虚血性脳症の程度が著しく軽減された高度の蓋然性,すなわち,Eが平成15年3月1日以降も生存していた高度の蓋然性が認められる。 よって,被告の分娩監視義務違反とEの死との間には因果関係が認められる。 (3)Eを早期に他病院に救急搬送していたとしても,Eの死亡が回避されたとはいえない旨の被告の主張は,否認ないし争う。 (被告の主張)(1)Eの死亡原因が低酸素性虚血性脳症によるものであるとの点については争わない。しかし,Eの低酸素性虚血性脳症は,分娩直前に急激に発症した臍帯脱出によるものであると考えられるところ,事前に臍帯脱出を予測させる事情はなく,また,臍帯脱出の予後は死亡率30%とされるなど極めて不良であるから,不幸にも本件で発症した臍帯脱出を原因とする低酸素性虚血性。 脳症及びそれに基づくEの死亡を回避することは困難であったと考えられるすなわち,本症例では分娩監視装置が装着されていた分娩直前の18日午前3時ころまでは,CTG所見上,胎児仮死あるいはその徴候はいずれもなく,臍帯脱出が発見された午前3時15分からわずか17分後に吸引分娩に,,より児を娩出しているにもかかわらず児に障害が残りその後死亡したのは急激に発症した予後不良の臍帯脱出によるものと考えられる。 この臍帯脱出は,仮に原 前3時15分からわずか17分後に吸引分娩に,,より児を娩出しているにもかかわらず児に障害が残りその後死亡したのは急激に発症した予後不良の臍帯脱出によるものと考えられる。 この臍帯脱出は,仮に原告らが主張するとおりの分娩監視措置を被告医院において執っていたとしても回避し得なかったものであるから,上記分娩監視義務違反とEの死亡との間に相当因果関係があるとはいえない。 (2)また,上記(1)のとおり,臍帯脱出の予後が死亡率30%とされるなど極- 15 -めて不良であることを考慮すれば,仮に,より早期にEを被告医院から他病院に転送していたとしても,Eの死亡が回避されたとはいえず,原告らの主張する救急搬送遅延とEの死亡との間の相当因果関係も認められない。 争点5(原告らの損害)について(原告らの主張)(1)Eに生じた損害6010万2605円①逸失利益2515万9005円Eは,満18歳から67歳までの49年間就労可能であり,平成14年度の男子労働者産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金は555万4600円であるから,生活費控除率40%として,ライプニッツ方式により計算すると,その逸失利益は2515万9005円となる。 (計算式)555万4600円×7.549×(1-0.4)≒2515万9005円②慰謝料3300万円Eは,出生直後から重度障害を持ち,7か月余りの間,退院することもなく,その短い生涯を終えた。Eは,これにより,計り知れない肉体的及,。 び精神的苦痛を受けたものでありその慰謝料は3300万円を下らない③入院雑費36万1600円日額1600円で平成14年7月19日から平成15年3月1日までの226日分(計算式)1600円×226日=36万1600円④入院付添費158万2000円日額700 雑費36万1600円日額1600円で平成14年7月19日から平成15年3月1日までの226日分(計算式)1600円×226日=36万1600円④入院付添費158万2000円日額7000円で226日分(計算式)7000円×226日=158万2000円⑤Eの上記損害について,同人の死亡により両親である原告らが2分の1ずつ相続した。原告らの各相続分は3005万1302円である。 - 16 -(2)原告らの損害各375万円①葬儀費用150万円(各75万円)②慰謝料各300万円Eは原告らにとって初めての子であり,原告らはEが低酸素性虚血性脳障害の重度障害を負ったことに大きな精神的打撃を受けながらも,少しでも回復するよう願い,毎日,看護に通った。しかしながら,低酸素性虚血性脳障害に起因する窒息によりEを失い,原告らは更に大きな精神的苦痛を被っている。その慰謝料は,各300万円を下らない。 (3)弁護士費用各330万円原告らは,本件訴訟遂行を原告ら訴訟代理人に委任したので,これに要する費用のうち各330万円は前記不法行為と相当因果関係を有する損害である。 (4)上記(1)から(3)までを合計すると,各原告につきそれぞれ3710万1302円となる。 (5)なお,仮に18日午前3時に原告Bの病室を訪れたF准看護師が直ちに被告に連絡をとり,被告が速やかに適切な処置をしていれば,Eが平成15年3月1日以降も生存していた高度の蓋然性が認められなくても,その相当程度の可能性は優に認められる。 しかるに,医師の過失ある医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されていないけれども,医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が認められるときは,医師は 患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されていないけれども,医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が認められるときは,医師は,患者に対し,不法行為による損害を賠償する責任を負うところ,本件において医療水準にかなった医療を受ける期待権を侵害されたEの苦痛を慰謝するのに相当な慰謝料の額は700万円を下らない。 よって,仮に被告の分娩監視義務違反とEの死との間には因果関係が認め- 17 -られなくても,Eの法定相続人である原告らは,被告に対し,各350万円の慰謝料請求権を有する。 (被告の主張)争う。 第6当裁判所の判断 上記第3の事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる。 (1)原告A(昭和44年11月10日生)と原告B(同年10月24日生)とは,平成9年12月1日に婚姻をした夫婦であるが,婚姻後も原告Bは妊娠することなく推移していたところ,平成13年11月26日,原告Bが被告医院で受診した際,初めて同原告が妊娠していることが判明した。出産予定日は,平成14年7月25日と診断された。 その後も,原告Bは,被告医院で出産することを前提に,同医院に通っていたが,平成14年3月2日の受診時に骨盤位であった胎児が,同月30日の受診時に頭位となったものの,次の受診時である同年4月12日以降骨盤位となり,同年7月1日に再び頭位となるまで骨盤位が継続したことや,同年3月ころに,胎盤の付着部位がやや下方であると認められたことを除き,妊娠経過に特段の問題は認められなかった。 (甲A1,11,14,乙A1,2,7)(2)平成14年7月17日(妊娠週数38週6日)午後2時ころ,原告Bは,自宅で破水したと思い被告医院に電話をしたところ,すぐに 段の問題は認められなかった。 (甲A1,11,14,乙A1,2,7)(2)平成14年7月17日(妊娠週数38週6日)午後2時ころ,原告Bは,自宅で破水したと思い被告医院に電話をしたところ,すぐに来院するよう指示されたことから,タクシーで同医院に向かった。 ,,,,同日午後3時前ころ原告Bは被告医院に到着しそのまま入院したがこの時点では,陣痛はまだ始まっていなかった。 原告Bの入院時,被告医院の唯一の医師である被告は,他の妊婦に対する帝王切開術を行っており,それが終わってから,原告Bを診察した。その結- 18 -果,被告は,破水を確認したが,羊水の混濁はなく,また,子宮頸管部が通常より堅めであると診断し,しばらく様子を見ることとした。 (甲A14,乙A2,7,原告B,被告)(3)17日午後5時50分ころ,被告は,再び原告Bを診察した。その結果,被告は,子宮口が約2㎝程度開大していると認めたものの,子宮頸管の伸展が乏しく分娩期間が遷延するおそれがあると考え,また,羊水の漏出を防ぐことにもなるとの認識の下,ネオメトロを挿入して陣痛を誘発することとして,このころ,原告Bにその旨説明した上,自らこれを原告Bの膣内に挿入した。なお,この時点における児頭先進部の位置は,-1であった。そして,ネオメトロを挿入後ほどなくして,F准看護師により原告Bに分娩監視装置が装着された。 原告Bに挿入されたネオメトロは,バルーンがディスク状に膨張する容量100mlのもので,被告は,被告医院で,長年にわたり,相当数の分娩に際,,してこれを使用していたが被告医院でのこのネオメトロの使用例においてこのときまでに臍帯脱出が生じたことはなかった。 また,原告Bに装着された分娩監視装置は,被告医院1階の看護師詰所で胎児心拍数,子宮収縮の程度及び胎児心音が 被告医院でのこのネオメトロの使用例においてこのときまでに臍帯脱出が生じたことはなかった。 また,原告Bに装着された分娩監視装置は,被告医院1階の看護師詰所で胎児心拍数,子宮収縮の程度及び胎児心音が確認でき,胎児心拍数に異常が生じた場合には,アラームが鳴るようになっている一方,原告Bが入院している2階の病室では,胎児心音を聴取することができるようになっているものであった。もっとも,病室での胎児心音の確認については,装置装着当初は可能であったが,その後,F准看護師が音量を下げたため,原告Bが確認することはできないようになった。 (甲A14,乙A2,3,6,7,B1,証人F,原告B,被告)(4)17日午後8時ころ,被告は,F准看護師に対し,原告Bのネオメトロが脱出するなど分娩経過に異常が認められたらすぐに連絡すべきである旨の指示を与えた上,道路を挟んで向かい側にある自宅に帰った。被告医院の同日- 19 -の当直者は,F准看護師のみであった。 この後,F准看護師は,原告Bの腹部に装着していた分娩監視装置のトランスジューサーの位置を補正するためや,同原告がトイレに行くため,あるいは,同原告が吐き気を訴えたり実際に嘔吐したりした際に,同原告の病室を訪れることがあった。これらの際,同准看護師は,同原告に少量の出血や少量の羊水流出があること,ネオメトロの脱出がないことなどを確認したが,18日午前3時ころに,ネオメトロが脱出したようだとして同原告からコールがあり病室を訪れるまで,その分娩経過に特段の異常が生じたとは認識していなかった。 (乙A3,6,証人F,被告)(5)18日午前3時ころ,原告Bのコールを受けてF准看護師がその病室を訪れると,ネオメトロが自然に抜去していた。この時点における同准看護師の目視では,臍帯脱出は認められなかったが,同准 ,被告)(5)18日午前3時ころ,原告Bのコールを受けてF准看護師がその病室を訪れると,ネオメトロが自然に抜去していた。この時点における同准看護師の目視では,臍帯脱出は認められなかったが,同准看護師は,同原告の分娩が進行しているものと考え,G助産師に連絡し,来院を依頼した。その上で,同准看護師は,同原告を1階にある分娩室に移動させるため,ストレッチャーを同原告の病室に運び込んだ。 F准看護師は,原告Bから分娩監視装置を外した上,同原告に付き添っていた原告Aにも協力してもらい,原告Bをストレッチャーに移した上,1階の分娩室に移動した。 18日午前3時15分ころ,原告Bは被告医院の分娩室の分娩台に上がった。このとき,既に来院していたG助産師ないしF准看護師は,原告Bが臍帯脱出を起こしていることに気付いた。そのため,同准看護師は,同日午前3時16分ころには被告に電話し,同原告が臍帯脱出していることを告げた。 これを受け,被告は,同日午前3時21分ころ,被告医院に到着し,同原告を内診したところ,子宮口はほぼ全開大で,児頭先進部の位置は+2であった。被告は,いったん臍帯還納を試みたものの奏効せず,同日午前3時30- 20 -分ころから吸引分娩を開始し,同日午前3時32分ころ,児を娩出するに至った。 (乙A2,3,6,7,証人F,被告)(6)娩出された児(E)は,体重(2840g)及び身長(49.8㎝)こそ異常はなかったが,全身チアノーゼで啼泣がなく,1分後及び5分後のアプガースコアがいずれも「心拍動100以下」の1点のみという重度の仮死状態であった。被告は,G助産師及びF准看護師の協力を得ながら,100%酸素を投与してバッグアンドマスクによる人工換気をするとともに,心臓マッサージを施すなどしたが,この時点では,高次医療機関に搬送しようと った。被告は,G助産師及びF准看護師の協力を得ながら,100%酸素を投与してバッグアンドマスクによる人工換気をするとともに,心臓マッサージを施すなどしたが,この時点では,高次医療機関に搬送しようとしなかった。 Eは,18日午前5時35分ころになって,ようやく自発呼吸をするようになり,同日午前7時10分ころには保育器に収容され,酸素飽和度が90%前後で推移していた。被告は,この時点でも,Eを高次医療機関に搬送しようとすることがなかったが,同日午前9時40分ころに再びEのチアノーゼの状態が悪化し,同日午前10時過ぎには酸素飽和度が80%未満となるなどしたことから,このころになって,被告は,高次医療機関への搬送を決断し,新生児診療相互援助システム(以下「本件システム」という)を利。 用して,Eを大阪府立病院に搬送することとした。 (乙A2,3,6,7,証人F,被告)(7)被告は,本件システム所定の新生児紹介用紙(乙A4)に必要事項を記入し,これをEに付き添わせることとした被告医院の看護師に預け,18日午前10時30分ころ,Eを救急車で大阪府立病院に搬送させた。 ,,。 ,Eは同日午前10時40分ころ大阪府立病院に到着した到着のころEは,全身蒼白,全身筋肉弛緩,陥没呼吸ありなどの所見が認められ,重症新生児仮死,低酸素性虚血性脳障害と診断されて同病院で治療が続けられたが,著明な改善を見ることなく,平成15年3月1日,同病院で死亡した。 - 21 -Eの正確な死因は必ずしも明らかではないが,いずれにしろ,上記障害に起因するものといえる。 (甲A12,乙A4,被告) 争点1(分娩誘発措置の適否)について(1)原告らは,分娩誘発法にはさまざまな危険が指摘されており,このような危険を考慮し,分娩誘発法の医学的・産科的適応としては,母 甲A12,乙A4,被告) 争点1(分娩誘発措置の適否)について(1)原告らは,分娩誘発法にはさまざまな危険が指摘されており,このような危険を考慮し,分娩誘発法の医学的・産科的適応としては,母児が危険にさらされる前に妊娠を終了させる必要性がある状態とされ(甲B2,前期)・早期破水の場合,破水後,24時間の経過を確認し,それでも陣痛がこない場合にメトロイリーゼが行われるのが一般的であり(甲B1,仮に被告)が使用した器具が被告の主張するネオメトロであったとしても,ネオメトロも臍帯脱出を招来する危険を有するものである上,妊娠第8月以後の前期破水は異常事態ではなく,その80%以上が24時間以内に自然陣痛の発来をみるのであるから(甲B1),破水のわずか4時間後に上記のような危険性を有するネオメトロを使用する必要性はなかったにもかかわらず,被告は,子宮口が2㎝開大していることを確かめたのみで(甲A2),子宮口の硬度も児頭の位置も確認しないまま(甲A3),漫然とその使用を決定した過失がある旨主張する。 (2)ア上記1(2)認定の事実によれば,原告Bは,前期破水(分娩開始前に起こる破水のこと。甲B1)であったと認められるところ,証拠(甲B1,2,本件鑑定)によれば,前期破水の場合は,分娩誘発の医学的適応があるとされていることが認められる。 ,,,,イ他方鑑定資料1には分娩誘発実施には上記適応があること以外に,,①胎児が母体外で生存可能であること②経膣分娩が可能であること③母体が分娩に耐えられること,④母体が分娩準備状態にあること,⑤十分な分娩監視が可能であること,⑥妊婦及び家族の強い希望と同意があることの要約が満たされなければならないとの記載がある(鑑定資- 22 -料1・5頁)ところ,本件において「妊婦 あること,⑤十分な分娩監視が可能であること,⑥妊婦及び家族の強い希望と同意があることの要約が満たされなければならないとの記載がある(鑑定資- 22 -料1・5頁)ところ,本件において「妊婦及び家族の強い希望」があっ,たことを窺わせる証拠はない。しかし「社会的・個人的な理由から妊婦,側の要請により誘発を行うときは要約が満たされていることが前提であり(鑑定資料1・8頁)などという鑑定資料1の他の部分の記載をも考」慮すれば,上記⑥の条件については,すべての事例において上記文言どおり満たされていなければならないものという趣旨であるとは認めることができず,また,他の5条件と同程度の重要性があるものと認めることもできない。そして,原告Bの分娩誘発には医学的適応があったことのほか,上記1(3)認定のとおり,被告は,ネオメトロ挿入に当たり,その趣旨を原告Bに説明していることをも考慮すれば,上記⑥の要約がないことを理由に原告Bに対する分娩誘発が違法であったと認めることはできない。 また,上記⑤の条件については,分娩監視装置により胎児心拍数等を連続的に監視することになっていた本件においては,現実に監視義務が尽くされたか否かはともかく(この点は,後記3において判断されるべき問題である,分娩誘発措置を執るに当たっての要約を満たしていなかった。)と認めることはできないというべきである。 ウさらに,原告Bに対するネオメトロ挿入時点の子宮口硬度及び児頭位置については,確かに,分娩経過表(パルトグラム。乙A2・3頁)その他の被告医院の診療録等に記載はない。しかし,被告医院の診療録等には,吸引分娩時の子宮口開大度や児頭位置の記載もないところ,吸引分娩施行に当たり,これらを確認しないことは考え難く,被告医院の診療録等に記載がないからといって,その所 。しかし,被告医院の診療録等には,吸引分娩時の子宮口開大度や児頭位置の記載もないところ,吸引分娩施行に当たり,これらを確認しないことは考え難く,被告医院の診療録等に記載がないからといって,その所見等が,当然に,確認されていなかったと認めることはできない。 そして,ネオメトロ挿入に当たり子宮口硬度や児頭位置を確認したとする被告の供述自体に,特段不自然な部分がないこと,本件鑑定によれば,分娩誘発に当たり児頭位置を全く確認しないことは,経膣分娩が禁忌であ- 23 -る可能性を見落とすことになりかねないと認められ,一般的に児頭位置を確認せずに分娩誘発を行うことは考え難いことをも考慮すれば,被告は,ネオメトロ挿入に当たり,子宮口硬度や児頭位置を確認したものと認めるのが相当である。 エ以上の点に加え,証拠(甲B1,2,本件鑑定)によれば,分娩誘発の具体的方法については複数のものがあり,これらのいずれの方法を選択するかや,前期破水後一定時間待機した後に分娩誘発を開始するか直ちに開始するかについては,基本的に医師の裁量にゆだねられていると認められることをも考慮すれば,被告の原告Bに対する分娩誘発に関し,被告に過失があったと認めることはできないというべきである。原告らは,分娩誘発の方法として陣痛促進剤の使用の方がより好ましかったとする本件鑑定書の記載をも指摘して,原告Bに対してネオメトロによる分娩誘発を行ったことには過失があった旨の主張もするが,上記証拠に照らし,原告らの上記指摘は,上記判断を覆すものではないというべきである。 (3)したがって,原告らの上記(1)の主張は,採用することができない。 争点2(分娩監視の適否)について(1)原告らは,臍帯脱出の可能性が考えられる場合には,出産まで十分に胎児の状況を監視し,異常が認められた場合に の上記(1)の主張は,採用することができない。 争点2(分娩監視の適否)について(1)原告らは,臍帯脱出の可能性が考えられる場合には,出産まで十分に胎児の状況を監視し,異常が認められた場合には迅速に措置をとらなければならないところ,本件において,被告は,前期破水した原告Bに対し,臍帯脱出を招来する危険を有するメトロイリーゼによる分娩誘発を行っていたのであるから,医師又は助産師による厳重な経過観察を行うべきであって,分娩監視装置記録上の異常の有無の判断能力を欠く准看護師に単独で分娩監視を行わせたこと自体が分娩監視義務の懈怠に当たり,また,厚生労働省の指導(甲B10)に反することが明らかであり,医師の中にも「重要な分娩監視装置記録の観察・・・を能力のない准看護婦に任せたことは適切でない」。 との見解をとる者もあることに鑑みれば(甲B11・4,5枚目,個人医)- 24 -院の実情のみを根拠に被告を免責することは相当でない旨主張する。 (2)しかし,上記1認定の事実によれば,17日午後8時ころ以降,医師である被告は,被告医院内には不在となったものの,被告医院と道路を挟んで向かい側という極めて近接した距離にある自宅にいたものであり,緊急の呼,。 ,出を受ければ数分内に駆けつけることが可能であったと認められる現に18日午前3時16分ころにF准看護師から原告Bの臍帯脱出の連絡を受けた被告は,約5分後には被告医院の分娩室を訪れているのである。また,被告は,帰宅に当たり,F准看護師に対し,原告Bの分娩経過に異常が認められたらすぐに連絡すべきである旨の指示をしており,同准看護師は,この指示も踏まえ,被告医院における当直業務に当たっていたものであって,少なくと,も原告Bからコールがあれば速やかに病室を訪れて必要な対応をしていた上原告Bに る旨の指示をしており,同准看護師は,この指示も踏まえ,被告医院における当直業務に当たっていたものであって,少なくと,も原告Bからコールがあれば速やかに病室を訪れて必要な対応をしていた上原告Bには,分娩監視装置が装着されていて,これによる胎児心拍数,子宮収縮の程度及び胎児心音の確認は,1階の看護師詰所で行うことができるようになっていたものである。 このような事実に加え,F准看護師の経歴(乙A6)及び本件鑑定の内容をも考慮すれば,被告医院における原告Bの分娩監視体制それ自体が,法的注意義務違反に当たるとまで認めることはできない。 原告らの指摘する甲B第10号証の確認事項は「分娩進行の状況把握及,び正常範囲からの逸脱の有無を判断すること」が保健師助産師看護師法3条所定の助産に当たるとするものであるが,准看護師が分娩監視装置の装着された妊婦を医師の指示の下に監視ないし観察することを禁ずる趣旨であるとは認められない。また,甲B第11号証の198頁には,原告らが上記(1)で指摘する記載があるが,同号証によれば,この記載は,医師である筆者により,明らかな遅発一過性徐脈等の異常所見を認識することができず「遅,発一過性徐脈等の知識がない」とさえ判断されている特定の准看護師に医師が分娩監視装置の記録観察をゆだねたことの適否を判断する中で述べられた- 25 -ものと認められ,他方,同号証同頁には「わが国の診療所は,人手不足の,うえに,人件費を節約するために准看護婦に助産行為類似の行為をさせざるをえないことは鑑定人も理解はしている」とも記載されているのであって,同号証の原告ら指摘の記載をもって,本件における分娩監視体制についての上記判断を左右するものということはできない。 したがって,原告らの上記(1)の主張は,採用することができない。 (3)次 って,同号証の原告ら指摘の記載をもって,本件における分娩監視体制についての上記判断を左右するものということはできない。 したがって,原告らの上記(1)の主張は,採用することができない。 (3)次に,原告らは,本件において,18日午前2時51分からと56分からの2度にわたり胎児に遷延一過性徐脈が生じており,少なくとも午前2時56分以降は胎児ジストレスと診断でき,胎児ジストレスでは急速遂娩が必要であるから,被告は,午前2時56分以降,速やかに内診により児頭の下降度と子宮口の開大度を観察し,急速遂娩の方法を決定し準備に着手すべきであったところ,本件では,上記時刻に被告が医院内にいなかったのであるから,F准看護師は直ちに被告をコールすべきであったにもかかわらず,F准看護師は,児心拍の異常に全く気付かず,胎児の状態を的確に把握するため必要な分娩監視装置を取り外し,直ちに被告をコールすることもなかったのであって,この点についてF准看護師に過失があることは明らかであると主張する。 (4)ア証拠(乙A5,本件鑑定)によれば,原告Bの分娩監視装置により記録された胎児心拍数陣痛図(以下「本件胎児心拍数陣痛図」という)上,。 18日午前2時50分ころまでは,胎児ジストレス(胎児仮死)と診断し得る所見はなく,直ちに医師をコールしたり,急速遂娩を行ったりする必要もなかったが,同日午前2時51分からの徐脈及び同日午前2時56分からの徐脈は,いずれも,心拍数の減少が15bpm以上で,開始から元に戻るまでの時間が2分以上10分未満の,遷延一過性徐脈であり,後者の徐脈を確認した時点で,胎児ジストレスと診断することができたと認められる。 - 26 -もっとも,同日午前2時56分からの徐脈については,本件胎児心拍数陣痛図によれば,同日午前2時57分から58分にかけ 確認した時点で,胎児ジストレスと診断することができたと認められる。 - 26 -もっとも,同日午前2時56分からの徐脈については,本件胎児心拍数陣痛図によれば,同日午前2時57分から58分にかけて一時的に胎児心拍が上昇したように記録された上,その後,再び徐脈の記録となり,これ,。 らを全体として評価した場合遷延一過性徐脈と判断し得るものといえるこのような事情を考慮すれば,同日午前2時56分から始まった徐脈を遷延一過性徐脈と判断し得たのは,同日午前3時ころであったと認めるのが相当である。 イ上記アの事実によれば,F准看護師は,18日午前3時ころの時点で,被告に対し,本件胎児心拍数陣痛図上,胎児ジストレスと思われる所見ないし遷延一過性徐脈と思われる所見が認められる旨の連絡をすべきであったと認められる。 ところが,F准看護師は,上記遷延一過性徐脈の所見を正しく認識することができず,同じく18日午前3時ころ,原告Bのコールを受けて訪室し,ネオメトロの自然抜去を認めて分娩が進行しているものと考えて,助産師にはその旨の連絡をしたものの,被告への連絡はこの段階では一切行っていなかったのであって,このF准看護師の対応は,原告Bの分娩監視における注意義務違反に当たると認めるのが相当である。 争点3(救急搬送遅延の有無)について(1)原告らは,被告には,迅速にEの救急搬送を行わなかった過失があると主張するところ,証拠(本件鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,上記1(6)認定のEの出生時の状態に照らし,E出生後,直ちに,Eに対する蘇生措置を行うのと並行して,本件システムを利用するなどしてEを高次医療機関に搬送するよう手配すべき義務があったと認められる。 (2)被告は,本件システムの新生児送院基準(甲B7)は,E出生時である平成14年7月 と並行して,本件システムを利用するなどしてEを高次医療機関に搬送するよう手配すべき義務があったと認められる。 (2)被告は,本件システムの新生児送院基準(甲B7)は,E出生時である平成14年7月には大阪府下の一般開業医には周知されておらず,同時点の医療水準を示すものではない旨主張する。しかし,仮に上記基準自体はE出生- 27 -時に周知されていなかったとしても,本件システム自体は,E出生の相当以前から存在し,被告もこれを認識していたのである(被告)ところ,Eが,出生時点から,高次医療機関による治療を必要としていたことは,上記基準の有無にかかわらず明らかであって(本件鑑定,E出生時に同基準自体が)周知されていたか否かは,上記(1)の判断を左右するものではない。 また,被告は,蘇生前の新生児の搬送依頼をすることはできない,深夜ないし通常診療時間外の時間帯に救急搬送を依頼しても受入先がなかなか見つからないなどと供述するが,本件システムがこのような不十分な態勢のものでしかないと認めるに足りる証拠はなく,被告の上記供述は,採用することができない。 (3)ところが,被告は,E出生時点はおろか,Eの自発呼吸が認められた18日午前5時35分ころの時点でもなお,高次医療機関への救急搬送につき,その依頼すら行わず,同日午前10時過ぎになり,Eの酸素飽和度の再悪化という事態を踏まえて,ようやく高次医療機関への搬送を決断したものであって,このような被告の対応は,上記(1)の義務に著しく違反したものというべきである。 争点4(相当因果関係の有無)について(1)上記3の認定判断のとおり,F准看護師は,18日午前3時ころ,被告の自宅に電話をし,原告Bにつき,胎児ジストレスと思われる所見ないし遷延一過性徐脈と思われる所見が認められる旨の連絡をすべき義務 1)上記3の認定判断のとおり,F准看護師は,18日午前3時ころ,被告の自宅に電話をし,原告Bにつき,胎児ジストレスと思われる所見ないし遷延一過性徐脈と思われる所見が認められる旨の連絡をすべき義務があったところ,仮にこの義務が尽くされ,同時刻ころに被告に上記趣旨の電話がされていた場合,被告医院と被告の自宅との距離,同日午前3時21分ころの子宮口開大度及び児頭先進部の位置,実際の吸引分娩開始から娩出までの所要時間等を考慮すれば,早ければ同日午前3時10分ころには吸引分娩により児を娩出させることができた可能性はあると認められる。 しかし,この場合であっても,原告Bの臍帯脱出前に娩出が可能であった- 28 -とまで認めることはできず,かえって,病室から分娩室への移動中に臍帯脱出が生じたと思われるという被告の供述をも考慮すれば,臍帯脱出自体は,避け得なかった可能性が高いといわざるを得ない。また,上記移動中のどの時点で臍帯脱出が生じたかは全く不明であるが,病室のベッドから移動用のストレッチャーに移った際の体動等により既に臍帯脱出が生じた可能性も否定し得ず,そうすると,仮に午前3時10分ころに児が娩出されていたとしても,臍帯脱出後,8分ないし9分程度の時間が経過したこととなる。原告らは,18日午前3時32分に娩出されたEが,その後,平成15年3月1日まで生存したことをもって,18日午前3時5分の段階では臍帯脱出は生じていなかった可能性が高い旨主張し,文献(甲B3)の中には,臍帯脱出を起こして,臍帯が圧迫され,血行が停止すると,約8分で児は不可逆的な変化を起こし,蘇生は困難になるといわれているとするものがあるが,本件鑑定においても,ネオメトロ脱出時に臍帯脱出が起こった可能性があることを前提とする記載がある(本件鑑定書7枚目2行目以下。ただし,本 化を起こし,蘇生は困難になるといわれているとするものがあるが,本件鑑定においても,ネオメトロ脱出時に臍帯脱出が起こった可能性があることを前提とする記載がある(本件鑑定書7枚目2行目以下。ただし,本件鑑定「」。),書ではメトロイリンテルの脱出と誤記されていることにも照らせば上記文献(甲B3)のみによって,本件の臍帯脱出は同日午前3時5分の段階では生じていなかったとまで認めることはできず,他に原告らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。 しかも,18日午前3時10分ころに児を娩出するためには,娩出までの段取りがすべて滞りなく順調に進み,かつ,被告の内診時に吸引分娩の要約が満たされていることが必要である上,実際には,臍帯還納が試みられた可能性もあり,また,吸引分娩の要約を満たしていなかった可能性や,吸引分娩に更に数分の時間を要した可能性もあることは否定し得ない。 このような事情に,胎児ジストレスの所見自体は既に18日午前2時51分ころ以降から見られていたことや本件鑑定の内容を併せ考慮すれば,仮にF准看護師が上記義務を尽くしていたとしても,これにより,Eの低酸素性虚- 29 -血性脳症の発生が防止され,又はその程度が軽減されたことを高度の蓋然性をもって認定することまではできないといわざるを得ない。したがって,F准看護師の上記義務違反とEの死亡との間に,相当因果関係があると認めることはできない。 (2)なお,上記4で認定判断したとおり,被告には,E出生後,直ちに,Eに対する蘇生措置を行うのと並行して,本件システムを利用するなどしてEを高次医療機関に搬送するよう手配すべき義務を怠った過失もあるところである。 しかし,本件鑑定によれば,仮にこの義務違反がなかったとしても,Eの低酸素性虚血性脳症が防止されたことも,その程度が軽減され 高次医療機関に搬送するよう手配すべき義務を怠った過失もあるところである。 しかし,本件鑑定によれば,仮にこの義務違反がなかったとしても,Eの低酸素性虚血性脳症が防止されたことも,その程度が軽減されたこともなかったと認めざるを得ず,上記義務違反とEの死亡との相当因果関係を認めることはできない。 争点5(損害)について(1)上記5の認定判断のとおり,被告及びF准看護師の過失とEの死亡との間に相当因果関係を認めることができないのであるから,Eの死亡によって生じた損害を被告が賠償すべきであるということはできない。 (2)しかし,上記5(1)の認定判断及び本件鑑定の内容を考慮すれば,仮にF准看護師の過失がなければ,Eの低酸素性虚血性脳症の程度が軽減されていた可能性は相当程度存在したと認められるのみならず,そもそも同症の発生自体防止し得た可能性もあったと認めることができる。 ,,もとよりこれらの可能性の程度を具体的に認定することは困難であるが上記5(1)の認定判断に照らし,仮にF准看護師の上記過失がなければ,実際の娩出時間である18日午前3時32分よりも10分以上早く児を娩出することができた可能性は非常に高いといえ,本件鑑定において「数分早く分,娩するだけでも胎児への侵襲は大きく異なったと想定され(る」とされて)いることをも考慮すれば,少なくともEの低酸素性虚血性脳症の程度を軽減- 30 -し得た可能性は,高度の蓋然性には達しないものの,比較的高い割合で存在したものと推認するのが相当である。 したがって,被告は,民法715条に基づき,上記可能性を侵害したことにつき,慰謝料を支払うべき義務を負うものといえる。 そして,上述したEの低酸素性虚血性脳症の程度を防止又は軽減し得た可,,,,能性の程度のほか被告には上記4で認定判 可能性を侵害したことにつき,慰謝料を支払うべき義務を負うものといえる。 そして,上述したEの低酸素性虚血性脳症の程度を防止又は軽減し得た可,,,,能性の程度のほか被告には上記4で認定判断した過失もあること他方Eの低酸素性虚血性脳症の程度を軽減し得たのみでは,Eに障害が残存した可能性があること,その残存したであろう障害の程度も,必ずしも軽度であったとは認め難いことといった事情のほか,上記1認定の事実を始め本件に現れた一切の事情を総合すれば,上記慰謝料額は400万円と認めるのが相当である。 (3)上記(2)の慰謝料請求権につき,原告らは,Eの法定相続人として,2分の1ずつの割合でこれを相続したものであり,また,上記3のF准看護師の過失と相当因果関係のある弁護士費用の額は,各原告につき20万円ずつと認めるのが相当である。 結論 以上によれば,原告らの請求は,それぞれ220万円及びこれに対する不法行為の後である平成14年7月19日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 よって,上記限度で原告らの請求を認容することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第19民事部角隆博裁判長裁判官- 31 -伊藤正晴裁判官岩田絵理子裁判官
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