主文 原判決を破棄する。 被告人は無罪。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人山口卓作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるから,これを引用する。 論旨は,本件各公訴事実について,被告人は,Aと共謀しておらず,実行行為も行っていないのであり,被告人と共謀したとのAの供述は信用できず,被告人は無罪であるにもかかわらず,Aと共謀の上,注文書写しを偽造し,これを行使するなどして,ノートパソコンを詐取したとの原判示の有印私文書偽造,同行使,詐欺の各事実を認定し,被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。 そこで,記録を調査し,検討すると,原判示の有印私文書偽造,同行使,詐欺(以下「本件各詐欺等」という)の各事実を認定し,被告人がAと共謀して本件。 各詐欺等の犯行を行ったと認定した原判決の事実認定を是認することはできない。 その理由は,以下に認定,判断を示すとおりである。 なお,以下において,かっこ内の検甲を付した数字は,原審で取り調べられた検察官請求に係る証拠の請求番号であり,また,原審公判調書と一体となる証人尋問調書等の供述部分を表記するときは,その公判期日,供述者,該当箇所の順に表記している。 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1)Aは,平成12年ころ,コンピューターシステムの会社である有限会社Bに入社した。 (2)被告人は,平成16年ころから,マンション施工等を業とするCを経営するDから金を借りるようになっていた。 (3)平成18年夏ころ,有限会社Eが,Aを通じて有限会社Bに納入したパソコン等の代金未払が発覚し,Aがこれらのパソコン等を私的に流用していたことが判明した。Aは,有限会社Eの代表取締役であるFや有限会社Bの経営者であるGに対し,有限会社Bの名義を冒 社Bに納入したパソコン等の代金未払が発覚し,Aがこれらのパソコン等を私的に流用していたことが判明した。Aは,有限会社Eの代表取締役であるFや有限会社Bの経営者であるGに対し,有限会社Bの名義を冒用し,有限会社Eに有限会社Bと無関係の発注をしていたことを認めた。Gは,あくまでAが勝手にやったものであるとして,その未払代金を有限会社Bが支払うことはせず,Fは,以後,有限会社Bとの取引をやめ,Aから上記の未払代金を回収するため,Aと連絡を取っていた。なお,後に,Aが有限会社Bの資金を横領していることも判明した。 (4)被告人とAは,平成18年10月ころ,両名の共通の知人の紹介で知り合い,その際,それぞれ多額の借金を抱えていることなど,互いの身の上話をし,以後,被告人及びAは行動を共にするようになった。 被告人は,同年秋ころ,AをDの事務所に連れて行き,Dと引き合わせ,それ以降,AはDから金を借りるようになった。Aは,Dに金を返したその場で,に対し,返した金の一部を貸してくれるよう頼んだりしていた。 D(5)被告人は,同年11月ころ,従前から付き合いがあった有限会社H代表取締役Iのもとを訪れ,予備校の通信講義で使用するパソコンの購入を検討していたIに対し,安くていいノートパソコンを卸すところがあるという話をした。 被告人は,そのとき,知り合いから安く購入するということを言っており,ま た,代金は後払いという話も出たが,それ以上の具体的な話はなかった。 その後,Aは,Iがパソコン購入について任せていた者と,ノートパソコンのスペックや金額等の打合せをした。 Aは,同月中旬ころ,有限会社Aを訪れ,Fに対し,有限会社Hからパソコン納入の注文が取れたと伝えた。その際,Aは,有限会社Eの社屋前駐車場に停めた自動車内にいる人物が,今回の仕入担当である「J た。 Aは,同月中旬ころ,有限会社Aを訪れ,Fに対し,有限会社Hからパソコン納入の注文が取れたと伝えた。その際,Aは,有限会社Eの社屋前駐車場に停めた自動車内にいる人物が,今回の仕入担当である「J」なる者だとFに述べた。その数日前,Aは,Fに対し,10万円以内の安いノートパソコンが欲しい,予備校で使うので性能が良いものがいいというような話をしていた。 (6)Aは,同月17日,平成12年から取引をしているKで,東芝dynabookAX/940LSのノートパソコン3台を24万円で換金処分し,東芝の別機種のノートパソコン3台も13万5000円で換金処分した。 Aは,平成18年11月18日,Kで,富士通のパソコン10台を70万円で換金処分し,また,質屋である有限会社Lと初めて取引した。 (7)Aは,同月20日,以前有限会社Bで小口取引を担当したことがあり,顔見知りであったM株式会社取締役Nのもとを訪れ,ノートパソコン20台の注文が取れたので,注文書を作って欲しいと依頼した。Nは,Aの説明を受け,M株式会社宛ての注文書を作成したが,それとともに,買取の大口取引は代金引換か,代金先払いでなければできない,ノートパソコンの受渡しは,翌年1月になると伝えた。なお,Aは,以前自らパソコンを買い取る小口取引をM株式会社としていたが,代金未払となっていた。 被告人は,同日,Aとともに,Iのもとを訪れ,Nが作成したものと様式,。 。 内容が同一の注文書(以下「本件注文書」という)を見せ,サインを求めた Aは,初対面であるIに対するあいさつとして,有限会社Bに勤めており,大きい仕事もやっていると話し,被告人は,Aのことを,二,三年前からの知り合いで,大きな仕事をしていると説明した。その後,値段等注文書に関する具体的な話は,被告人が行った。Iは,納期を年末にす り,大きい仕事もやっていると話し,被告人は,Aのことを,二,三年前からの知り合いで,大きな仕事をしていると説明した。その後,値段等注文書に関する具体的な話は,被告人が行った。Iは,納期を年末にすることを求め,そのとおりにするという話になった。そして,Iは,ノートパソコン購入について任せていた前記の者とも相談し,ノートパソコンを購入することにし,その場で,有限会社H代表取締役名義の記名押印をした。 同日,有限会社Eに対し,本件注文書と同一様式で,有限会社H代表取締役I名義の記名押印がある,東芝dynabookAX/940LSのノートパソコン15台の有限会社E宛て注文書がファックスで届いた。Aは,その際のFとの電話で,今回の注文は自分が取り仕切る旨伝えた。 (8)被告人は,同月21日,有限会社Lと初めて取引し,東芝dynabookAX/940LSのノートパソコン5台を41万円で換金処分した。 Aは,同月22日,有限会社Lで,同機種のノートパソコン8台を65万6000円で換金処分するとともに,Kで,同機種のノートパソコン3台を23万4000円で換金処分した。 被告人は,同月24日,有限会社Lで,貴金属を換金処分した。 (9)Fは,同月27日,東芝dynabookAX/940LSのノートパソコン15台をAに渡した。 Aは,同日,有限会社Lで,東芝dynabookAX/940LSのノートパソコン10台を78万円で換金処分し,また,Kで,同機種のノートパソコン5台を39万円で換金処分するとともに,NECのパソコン3台を23万 円で換金処分した。 (10)Aは,同月28日,Fに電話し,また注文書が届くのでよろしくお願いする旨話した。これと前後して,有限会社Eに対し,本件注文書と同一様式で,有限会社H代表取締役I名義の記名押印がある,東芝dyna )Aは,同月28日,Fに電話し,また注文書が届くのでよろしくお願いする旨話した。これと前後して,有限会社Eに対し,本件注文書と同一様式で,有限会社H代表取締役I名義の記名押印がある,東芝dynabookAX/940LSのノートパソコン15台の有限会社E宛て注文書がファックスで届いた。 Fは,同月30日,東芝dynabookAX/940LSのノートパソコン8台を,同年12月1日,同機種のノートパソコン5台を,同月4日,同機種のノートパソコン2台を,それぞれAに渡した。 Aは,同年11月30日,Kで,東芝dynabookAX/940LSのノートパソコン8台を62万4000円で,同年12月1日,同機種のノートパソコン5台を39万円で,同月4日,同機種のノートパソコン2台を15万6000円でそれぞれ換金処分した。 なお,Aの預金口座には,同年11月30日に62万4000円,39万円,23万円及び18万円が入金されており,また,これ以外にも同月18日に26万円,同月21日に17万円,同月22日に50万円,同月23日に31万円,同月24日に25万円,同月27日に20万円及び11万円,同年12月4日に14万5000円,同月5日に16万円及び14万7000円,同月14日に95万円及び39万円,同月15日に44万円,同月18日に28万円及び10万円,同月19日に44万円,同月20日に27万円,19万8000円及び14万円など,十万単位での多額の現金の入金が繰り返されていた。 (11)被告人とAは,同年11月末ころ,Iのもとを訪れ,Oという会社の手 形を割り引いて欲しいと言った。その後,ほどなくしてOは倒産した。 (12)Aは,同年12月1日,更にノートパソコンの注文があるとFに伝えた。 Fは,東芝ではなく富士通のノートパソコンであれば準備できると伝え 引いて欲しいと言った。その後,ほどなくしてOは倒産した。 (12)Aは,同年12月1日,更にノートパソコンの注文があるとFに伝えた。 Fは,東芝ではなく富士通のノートパソコンであれば準備できると伝えたところ,Aは,富士通のノートパソコン15台を頼む,注文書はまた送られてくると言った。同月2日,有限会社Eに対し,本件注文書と同一様式で,有限会社H代表取締役I名義の記名押印がある,富士通NF40Tのノートパソコン15台の有限会社E宛て注文書がファックスで届いた。 Fは,同月6日,富士通NF40Tのノートパソコン14台を,同月7日に同機種のノートパソコン1台を,それぞれAに渡した。 Aは,同月6日,有限会社Lで,富士通NF40Tのノートパソコン14台を113万1000円で換金処分し,同月8日,Kで,同機種のパソコン1台を7万8000円で換金処分した。 (13)Fは,同月下旬,ノートパソコンの代金支払の件でIに連絡したところ,Iから有限会社Eに注文書は出していないと言われた。その際,Fが「J」,は有限会社Hの社員なのかと尋ねたのに対し,Iは違うと答えており,結局,この際のFとIの話は,IがFに協力できることは協力するということで終わった。 Aにだまされたのではないかと思ったFは,Aを呼び出し,話を聞いたところ,Aは詐欺をしたと認めた。Fは,注文書の偽造により,ノートパソコンがだまし取られた事実を明確に残しておくために,Aに,ノートパソコンをだまし取ったことを認める書面(以下「本件書面」という)を書かせた。本件書。 面には「私,AはPの注文書を疑造し(中略)詐欺致しました(原文のま,。」 ま)と記載されている。 Aは,原審公判廷において,被告人と共謀の上,自ら本件注文書に紙片の貼り付けなどを行い,有限会社E宛ての注文書写しを偽造し, 中略)詐欺致しました(原文のま,。」 ま)と記載されている。 Aは,原審公判廷において,被告人と共謀の上,自ら本件注文書に紙片の貼り付けなどを行い,有限会社E宛ての注文書写しを偽造し,これをファクシミリ送信し,さらに,前記1(7),(10),(12)のとおりFに告げるなどし,Fから渡された前記1(9),(10),(12)のノートパソコンをだまし取った旨供述しているところ,このAの原審公判供述は,前記1の各事実と概ね合致ないし符合しており,少なくとも,A自身に関する限り,本件各詐欺等の犯行を行い,Fから渡された前記1(9),(10),(12)のノートパソコンをだまし取ったことは疑いをいれない。 しかし,以下のとおり,本件各詐欺等の犯行を被告人と共謀して実行したとするAの原審公判供述は,その信用性に相当に疑問があり,Aの原審公判供述によって,Aと被告人との共謀を認定することは困難である。 (1)被告人と共謀したとするAの原審公判供述は,被告人が,Iに対し,自らノートパソコンの値段等の話をし,AがM株式会社から入手した注文書を元にしていると認められる本件注文書へのサインを求めていること(前記1(7))と符合しているものの,被告人から本件各詐欺等の犯行全般にわたり指示を受けていた,だまし取ったノートパソコンを換金処分して得た現金を被告人と分けた,平成18年12月6日にだまし取ったパソコン14台を換金処分した際には被告人と一緒だったなどの被告人との共謀を推認させる他の事実に関する部分については,確たる裏付け証拠があるわけではない。 原判決は,本件各詐欺等の犯行について被告人と共謀したとするAの原審公判供述について,一般論としては自己の責任を軽減させるため他の者を共犯に 引き込む虚偽の供述をする危険性を有しているとしつつ,有限会社E ,本件各詐欺等の犯行について被告人と共謀したとするAの原審公判供述について,一般論としては自己の責任を軽減させるため他の者を共犯に 引き込む虚偽の供述をする危険性を有しているとしつつ,有限会社E宛ての注文書を偽造するのに必要となるM株式会社宛ての注文書を,自ら1人で出向いて入手したこと,Iに対して自らの業績等について嘘の説明を行い,また,M株式会社が有限会社Eの親会社である旨の虚偽の説明を発案したこと,本件各詐欺等の犯行に係る実行行為を全て1人で行っており,特に偽造内容の詳細について被告人と相談することなく実行していること,本件各詐欺等の犯行によりだまし取ったノートパソコンを換金処分して得た現金の使途について,結局のところ自分の借金等の返済に充ててもらった部分が多いことなど,Aが,自己に不利益な事実を真摯に述べていることからすれば,被告人に不利益な虚偽の供述をし,自己の責任を軽減させようとする態度はうかがわれない旨,また,FやIとのやり取り(前記1(5),(7),(10),(12))について,両名の供述と符合しており,相互に信用性を高め合っている旨説示している。 しかし,前記1の各事実のうち,Aの原審公判供述に合致する部分は,そのほとんどが,当該事実に関する他の者の供述や,その事実を記録した書面等の証拠により,容易に認定可能であり,そのことは,Aにおいても,十分に認識しているか,認識し得たものということができ,そもそも,Aにとって虚偽を述べ難い事実であるといえる。Aが,自ら1人でM株式会社に出向いて注文書を入手したこと(前記1(7) ,Iに対し,自らの仕事ぶりについて嘘の説明)を行ったこと(前記1(7) ,その他のFやIとのやり取りなどはまさにその)ような事実に当たる。また,M株式会社が有限会社Eの親会社であるという虚偽の説明 対し,自らの仕事ぶりについて嘘の説明)を行ったこと(前記1(7) ,その他のFやIとのやり取りなどはまさにその)ような事実に当たる。また,M株式会社が有限会社Eの親会社であるという虚偽の説明を発案したのがA自身であるということも,両社ともに直接的には被告人ではなく,Aと関係がある会社であって(前記1(3),(7) ,被告人が) 発案したと供述したのでは,不自然ではないかと追及されかねない事柄であり(なお,当時,Iとの関係で有限会社Eにノートパソコンを発注するという話が出ていたわけではないのであるから,Iに対し,あえてこのような虚言を述べる必要性はなく,Iの供述からしても,せいぜいM株式会社がAの属する有限会社Bの親会社であるという話が出たのかもしれないとうかがわれるに過ぎない。検甲12,第5回I69項,A自身が,本件注文書に紙片の貼り付け)などを行って有限会社E宛ての注文書写しを偽造し,これをファクシミリ送信した,偽造等の詳細については被告人と相談しなかったということも,自らの罪責軽減のため,本件各詐欺等の犯行全般にわたり被告人の指示を受けて行動したものであるとの虚言を述べるのと引き換えの形(なお,Aは,被告人から,,,本件注文書を手直しして「ええがにファックスしとけ」という指示を受けて偽造や送信を行った,これらが終わるとすぐに被告人に連絡して合流したと供述している。第4回A154ないし161,174,290,291,378ないし381,392ないし396項)で,自らの供述の信用性を高めるためにあえて隠すことなく供述するということもあり得ないとはいえない。そして,だまし取ったノートパソコンを換金処分して得た現金の使途について,結局のところ自分の借金等の返済に充ててもらった部分が多いという供述も,有限会社Bでの横領分( こともあり得ないとはいえない。そして,だまし取ったノートパソコンを換金処分して得た現金の使途について,結局のところ自分の借金等の返済に充ててもらった部分が多いという供述も,有限会社Bでの横領分(前記1(3))に対する返済の事実等,やはり他の証拠により容易に確認できるため,虚偽を述べにくい事実を含んでおり,また,借金返済としてDへ行う支払は被告人も保証人になっているというのであり,Aが一方的に利益を得るという形になっていないのみならず,実際の支払は被告人に委ねたため,Dに対する被告人自身の返済分に回っているのか,A自身の返済分 に回っているのか分からないという内容であること(第4回A229,233ないし237,322,323,427項)からすると,この供述があるからといって,Aには被告人に不利益な虚偽供述をして自己の責任を軽減する態度がうかがわれないといえるものでもなく,直ちに被告人との共謀に関する供述の信用性が高められているともいい難い。さらに,本件各詐欺等の犯行でだまし取ったノートパソコンを換金処分して得た現金は,全てAが受領している(前記1(9),(10),(12))ところ,真実被告人にこの現金の一部が流れたのかについての確たる裏付けもない。 要するに,原判決が指摘する事情を踏まえても,Aにおいて,被告人に不利益な虚偽の供述をし,自己の責任を軽減させようとする態度がうかがわれないとまでいえるものではなく,本件各詐欺等の犯行における被告人との共謀に関するAの原審公判供述が,直ちに十分信用できるとまでいえるものでもない。 (2)一方,Aの原審公判供述には,以下のとおり,疑問を抱かせる点が多数ある。 アAの原審公判供述によると,Aは,本件各詐欺等の犯行全般にわたり,被告人の指示ないし示唆を受け,それに従って行動することで本件各詐 の原審公判供述には,以下のとおり,疑問を抱かせる点が多数ある。 アAの原審公判供述によると,Aは,本件各詐欺等の犯行全般にわたり,被告人の指示ないし示唆を受け,それに従って行動することで本件各詐欺等の犯行を実行し,本件各詐欺等の犯行の結果得られた現金の使途についても,被告人の指示を仰いで決めており,当時は自分の借金返済の件も被告人に管理されている状態であったとする。 しかし,本件各詐欺等の犯行が開始されるまでのせいぜい2か月ほどの間に,前記1(4)のような経緯で知り合い,行動を共にするようになったに過ぎない両名間において,そのように被告人がAをいわば支配するような関係 が形成されたということ自体不自然な感を否めない。しかも,このような支配関係が形成されていたというにもかかわらず,所論指摘のとおり,Aの原審公判供述を前提にしても,本件各詐欺等の犯行の結果得られた現金354万9000円のうち,被告人が確実に自らの利得としたのはその10分の1以下の額ということになってしまう上,この額についてすら,真実被告人の方に渡ったのかについての確たる裏付けがない。 それ以上に看過できないのは,前記1(3)のとおり,Aが,被告人と知り合う数か月前ころまでに,本件各詐欺等の犯行と類似する行為を,同じ有限会社E相手に行っていることである。本件注文書の元となったと認められる注文書(前記1(7))を取得した相手も,Aが従前取引したことのあるM株式会社であったこと(同社相手の取引でも,Aは自ら買い取ったパソコンの代金を支払っていない)をも併せ考えると,本件各詐欺等の犯行を,被告。 人から逐一指示ないし示唆されて行ったとするAの原審公判供述には少なからぬ疑問を抱かざるを得ない。さらに,Aは,被告人と一緒になって犯罪行為をしたのは本件各詐欺等の犯行だけであると 犯行を,被告。 人から逐一指示ないし示唆されて行ったとするAの原審公判供述には少なからぬ疑問を抱かざるを得ない。さらに,Aは,被告人と一緒になって犯罪行為をしたのは本件各詐欺等の犯行だけであると供述しているところ(第4回A471項,前記1(6),(8)及び(9)に認定したとおり,Aは,本件各)詐欺等の犯行と時期を同じくして,本件各詐欺等の犯行で入手したものとは明らかに異なるパソコンを何度も換金処分しており,その数30台,換金額219万5000円に及んでいるのであり,本件各詐欺等の犯行と同時期ころ,本件各詐欺等の犯行以外に,パソコンをだまし取って換金するという本件各詐欺等の犯行と同様の行為に及んでいたのではないかと疑われる。 なお,Aは,本件各詐欺等の犯行でだまし取ったノートパソコンの換金処 分先として,被告人から有限会社Lを紹介してもらった,被告人は有限会社Lで貴金属を換金したと言っていたなどと供述する(第4回A100,101,504,505項。しかし,前記1(6)及び(8)のとおり,有限会社)Lの利用を始めたのはAの方が早く,被告人が有限会社Lで貴金属を換金処分したのはその後であり,有限会社Lの担当者が,Aの顔は明確に記憶しているのに,被告人の顔は覚えていない旨供述していること(検甲13,検甲19)などからすると,この供述自体信用し難い。しかも,本件各詐欺等の犯行における他の換金処分先であるKにおいては,前記1(6)のとおり,従前からAが本件各詐欺等の犯行で入手したものではないパソコンの換金処分先として利用していた先であり,このKを被告人が利用した形跡はうかがわれない。 原判決は,その説示によれば,Aが,被告人について自分と同じ境遇にあると共感し,さらに,被告人の仲介や信用を利用して借金するなどするうちに被告人を頼るよう を被告人が利用した形跡はうかがわれない。 原判決は,その説示によれば,Aが,被告人について自分と同じ境遇にあると共感し,さらに,被告人の仲介や信用を利用して借金するなどするうちに被告人を頼るようになったと供述していることから,被告人とAとの間に前記の支配関係が形成され,本件各詐欺等の犯行が行われたことは十分考えられるとするものと解される。しかし,既に述べたように,両名が知り合い,行動を共にするようになった経緯にかんがみても,前記の支配関係が形成されたということについては不自然な感を否めないところ,Aの供述内容は,後記のDの関係以外,明確な具体的根拠を挙げることもなく,同じような境遇であることから来る単なる共感にとどまらず,被告人を全面的に信頼し,尊敬して,その指示に従ったというもの(第4回A9,32,37,38,475項)であって,このような供述から,前記の支配関係の形成が十分考 えられるとすること自体説得力に欠ける。のみならず,Aの原審公判供述を前提にしても,当時,被告人から,姉の保証人となったりしたために金に困った大変な状況にあり,借金が4500万円くらいあると聞いていた(第4回A15,16,462,463項)というのであるから,そのような被告人に自らの借金返済の件まで委ね,本件各詐欺等の犯行の結果得られた現金の使途も含めて,その指示に従ったなどというのは,むしろ相当に不自然というべきである。しかも,Aは,被告人を信頼し,尊敬するに至った明確な具体的根拠としてDの関係しか挙げておらず,金を貸してくれる人として被告人からDを紹介されたのであるが,被告人を介することでしかDから金を借りることができなかった,被告人から直接Dとやり取りするなと言われていた,当時Dと会ったこともなかったなどと供述している(第4回A22ないし30, たのであるが,被告人を介することでしかDから金を借りることができなかった,被告人から直接Dとやり取りするなと言われていた,当時Dと会ったこともなかったなどと供述している(第4回A22ないし30,480ないし482,493項)ところ,前記1(4)のとおり,AはDに直接会ってやり取りし,金を借りるなどしているのであって,その供述は虚偽といわざるを得ない。被告人を信頼し,尊敬するに至った唯一の明確な具体的根拠として挙げているDの関係について,このような虚偽を述べていることも,所論の指摘するとおり,被告人との共謀に関するAの原審公判供述の信用性に疑いを差し挟む事情である。 イ前記1(13)のとおり,本件についてFに呼び出されたAは,詐欺をしたことを認めて,本件書面を書いているところ,そこに犯人として出てくるのはA自身の名前だけである。 この点,Aは,Fに対し,被告人の名前を出して,一緒に詐欺を行った旨説明したと供述している(第4回A511,512項)ところ,これが真実 であれば,本件書面に被告人の名前が出てこないことは不可解である。すなわち,Fは,詐欺にあったことを明確に記録することで,犯人に対する代金請求や刑事告訴等の責任追及に用いるべく,本件書面を作成させたと見るのが相当であるところ,以前にAがFに対し有限会社Hの仕入担当であると説明しており(前記1(5) ,Fが,Aを呼び出す前に,Iに有限会社Hの社)員なのかを確認している(前記1(13))者である「J,すなわち,被告」人も詐欺の共犯であるとAが述べたのであれば,被告人に対しても前記の責任追及を行うべく,当然その名前も書かせるはずであり,本件書面を作成させながらこれを失念するなどとは考えられない。さらに,Fからすれば,数か月前ころにも同じような事態を引き起こしているAから,直 責任追及を行うべく,当然その名前も書かせるはずであり,本件書面を作成させながらこれを失念するなどとは考えられない。さらに,Fからすれば,数か月前ころにも同じような事態を引き起こしているAから,直ちに本件の代金支払を受けられるなどと思っているはずもなく,あえて被告人の名前を書かせないなどということもおよそ考え難い。 そして,Aは,詐欺の共犯として被告人の名前を出したのに,本件書面には出てこない理由を問われ,自分(A)が全部Fのところからノートパソコンを持ち出していた,被告人を尊敬していた,自分(A)が幾らか支払っていかないといけなかった,Fがかなり怒っており,Fから言われるとおりに書いた,Fは被告人と電話でしか面識がなかった,自分(A)が本件を取り仕切るとFに言っていたなどと供述しており(第4回A513ないし518項,原判決も,相当怒っているFに言われるがまま書いたとするAの供述)は十分信用できると説示しているが,これらのAの供述は,本件各詐欺等の共犯者として被告人の名前をAが出したのに,それをFが本件書面に書かせようとはしなかった,という不可解な出来事が現実にあったのではないかと 多少なりとも思わせるような説明にすらなっていない。 これらの事情に照らせば,所論の指摘するとおり,本件書面の作成時,Aは,Fに対して「J,すなわち,被告人の名前を出すことなく,本件書面,」を作成したものと見る以外にない。このことは,本件書面の作成時に被告人の名前を出したという虚言を弄しているとして,被告人との共謀に関するAの原審公判供述の信用性を減殺するにとどまらず,当時のA自身が本件各詐欺等の犯行が被告人との共犯であるとは認識していなかったのではないかという疑問まで抱かせるものである。 ウAは,平成18年11月30日にFからだまし取ったパソコ にとどまらず,当時のA自身が本件各詐欺等の犯行が被告人との共犯であるとは認識していなかったのではないかという疑問まで抱かせるものである。 ウAは,平成18年11月30日にFからだまし取ったパソコン8台を換金処分し,現金62万4000円を受領し,即日これを自分の口座に入金して),いるものと認められる(前記1(10)なお,第4回A319項。しかし本件各詐欺等の犯行の結果得られた現金の使途についても,被告人の指示を仰いで決めていたというのであれば,換金処分により得られた60万円を超える現金がこのように直ちに全額Aの預金口座に入金されるということ自体不自然に思われる。のみならず,このころには,Aの預金口座に十万単位での現金の入金が繰り返されており(前記1(10) ,本件各詐欺等の犯行の)結果得られた他の現金も入金されているのではないかと疑われること,さらには,前記のとおり,本件各詐欺等の犯行で入手したものとは明らかに異なる多数のパソコンを換金処分していることを併せ考えると,Aにおいて,本件各詐欺等の犯行以外に,本件各詐欺等の犯行と同様の行為に及んでいるのではないかという疑いも強く抱かざるを得ない。 (3)前記のとおり,被告人と共謀して本件各詐欺等の犯行を実行したとするA の原審公判供述は,被告人が,Iに対し,自ら主要な話を行って,本件注文書へのサインを求めていることと符合する。被告人は,Iとパソコン購入の話をした際に示した注文書は,本件注文書の体裁と異なる旨供述しているが,にわかに信用し難い。加えて,パソコンの注文書を出してくれる人がいれば,有限会社Eからパソコンを引っ張る,パソコンを質屋に入れて金にして有限会社Bなどへの支払にしたい,余ったら半分を渡すというAの言葉を受け,IをAに紹介したが,Aが詐欺をするとは思わなかった いれば,有限会社Eからパソコンを引っ張る,パソコンを質屋に入れて金にして有限会社Bなどへの支払にしたい,余ったら半分を渡すというAの言葉を受け,IをAに紹介したが,Aが詐欺をするとは思わなかったという被告人の供述は,それ自体,本件各詐欺等の犯行についてAと共謀したのではないかと疑わせるものである。 しかしながら,被告人と共謀したとするAの原審公判供述は,必ずしも確たる裏付けがあるわけではなく,自己の罪責軽減のために被告人を共犯として引き込む虚偽供述のおそれがうかがわれないでもないところ,これらの符合や被告人の供述(その内容は,被告人の方から本件各詐欺等の犯行を指示ないし示唆してきたというAの供述と相反する)により,被告人と共謀したとするA。 の原審公判供述に対する前記疑問が解消されるものではない。すなわち,被告人と共謀して本件各詐欺等の犯行を実行したとするAの原審公判供述は,犯行における被告人との関係において相当に不自然な内容である上,その関係が形成される根拠となるべき事情,換金処分先の選定,Fに対して本件各詐欺等の犯行を認めた際の言動等の重要部分に関して虚偽ないし虚偽の疑いがある供述が含まれており,その信用性はかなり低いものといわざるを得ない。しかも,Aは,被告人と知り合う以前,本件各詐欺等の犯行の数か月前ころまでに,本件各詐欺等の犯行の相手である有限会社Eに対し,本件各詐欺等の犯行と類似 の行為に及んでおり,また,本件各詐欺等の犯行と同時期ころに,パソコンをだまし取って換金するという本件各詐欺等の犯行と同様の行為に被告人の関与なく何度も及んでいるものと疑われること,Fに対し,本件各詐欺等の犯行を自認して本件書面を作成した際,共犯者として被告人の名前を述べてはいないものと見る以外にないこと,本件各詐欺等の犯行は,本件注文書を 何度も及んでいるものと疑われること,Fに対し,本件各詐欺等の犯行を自認して本件書面を作成した際,共犯者として被告人の名前を述べてはいないものと見る以外にないこと,本件各詐欺等の犯行は,本件注文書を利用して立て続けに行われた一連の行為と見るのが相当であり,換金処分に至るまでの行為は全てAが行っていること,本件各詐欺等の犯行により得られた現金をAが費消しているのは明白である一方,これらの現金が被告人に交付されたことを裏付ける確たる証拠はないことからすると,本件各詐欺等の犯行は被告人の関与なく,Aが実行したものではないかと疑わざるを得ず,Aの原審公判供述により,本件各詐欺等の犯行について,被告人がAと共謀したものと認めることはできないというべきである。 前記のとおり,被告人は,自らが主要な話をしてIに本件注文書へのサインを求めているところ,Iにサインを求めた注文書は,本件注文書と異なるという直ちには信用できない内容を述べており,その一方で,有限会社Eからパソコンを引っ張る,パソコンを質に入れるなどというAの話を受けてIを紹介し,注文書にサインを求めるに至ったが,Aが詐欺をするとは思わなかったなどと供述していること,本件各詐欺等の犯行により入手されたものとは異なるパソコンを,Aの依頼で換金処分したことがある旨自認していること(前記1(8))などからすると,本件各詐欺等の犯行についてAと共謀していたのではないかとも疑われる(なお,Oの手形の件〔前記1(11)〕は,被告人及びAの話に対する対応やその後の経緯に関するIの供述が検察官調書〔検甲12〕 と公判とでかなり食い違っており,事情が判然とせず,そもそも,本件各詐欺等の犯行における被告人とAの共謀をうかがわせる事情たり得ない)が,A。 が被告人の関与なく本件各詐欺等の犯行を実行したのではな と公判とでかなり食い違っており,事情が判然とせず,そもそも,本件各詐欺等の犯行における被告人とAの共謀をうかがわせる事情たり得ない)が,A。 が被告人の関与なく本件各詐欺等の犯行を実行したのではないかとの前記の疑いを払拭し去るものではない。 以上に認定,判断したとおりであり,被告人が,Aと共謀の上,本件各詐欺等の犯行を行ったと認定した原判決には,事実の誤認があり,その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。 論旨は理由がある。 よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により更に判決する。 本件各公訴事実の要旨は,被告人は,いずれもAと共謀の上,平成18年11月20日ころ,行使の目的で,有限会社H代表取締役I作成名義の有限会社E宛てのノートパソコン15台の注文書写し1通を偽造し,これを有限会社Eにファクシミリ送信するなどして行使し,Fに電話するなどし,同月27日ころ,有限会社Eにおいて,Fからノートパソコン15台(販売価格合計173万2500円相当)の交付を受け(平成20年12月24日付け起訴状の公訴事実第1,さらに,平成)18年11月28日ころ及び同年12月1日ころ,それぞれ,同様の注文書写しを偽造してこれを行使し,Fに電話をするなどし,有限会社Eにおいて,Fから,同年11月30日ころから同年12月4日ころまでの間,前後3回にわたり,ノートパソコン15台(販売価格合計173万2500円)の交付を受け(同起訴状の公訴事実第2,同月6日ころから同月7日ころまでの間,前後2回にわたり,ノー)トパソコン15台(販売価格173万2500円)の交付を受け(平成21年2月 25日付け起訴状の公訴事実,もって,人を欺いて財物を交付させた,というの)であるところ,前記に説示したとおり,本件各公訴事実につ 台(販売価格173万2500円)の交付を受け(平成21年2月 25日付け起訴状の公訴事実,もって,人を欺いて財物を交付させた,というの)であるところ,前記に説示したとおり,本件各公訴事実については,被告人がAと共謀したとは認められず,犯罪の証明がないので,刑訴法336条により,無罪の言渡しをすることとし,主文のとおり判決する。 平成22年3月23日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官竹田隆裁判官野原利幸裁判官結城剛行
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