判決平成14年9月25日神戸地方裁判所平成14年(ワ)第140号取立金請求事件 主文 1 被告は,原告に対し,金350万円を支払え。 2 前項の支払は,供託の方法によってしなければならない。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決の第1,2項は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 原告の請求主文第1,2項と同旨第2 事案の概要 1 請求原因(1) 差押債権訴外Aは,Bゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフ倶楽部」という。)を経営する株式会社である被告との間で,本件ゴルフ倶楽部に入会する契約(以下「本件会員契約」という。)を締結し,本件会員契約を解約した場合に返還を受けるとの約定で預託金350万円を寄託しており,被告に対し,別紙差押債権目録記載の預託金返還請求権(以下「本件預託金返還請求権」という。)を有している。 (2) 原告の取立権原告は,訴外Aに対し,神戸地方裁判所平成11年(ワ)第1665号求償金請求事件の執行力ある判決正本に基づき,別紙請求債権目録記載のとおりの債権を有していることから,これに基づき,訴外Aが被告に対して有する本件預託金返還請求権につき神戸地方裁判所に債権差押命令を申し立てたところ(同裁判所平成13年(ル)第1145号),平成13年10月5日同裁判所から債権差押命令が発せられ,その差押命令正本は,被告に対しては同月10日に,訴外Aに対しては同月13日に各送達されたことから,訴外Aに対する送達の日から1週間が経過した同月21日,原告は,本件預託金返還請求権につき取立権を取得した。 (3) 取立権に基づく本件会員契約の解約 しては同月13日に各送達されたことから,訴外Aに対する送達の日から1週間が経過した同月21日,原告は,本件預託金返還請求権につき取立権を取得した。 (3) 取立権に基づく本件会員契約の解約原告は,平成14年1月31日送達の本件訴状によって,被告に対し,本件預託金返還請求権について取得した取立権に基づき,本件会員契約を解約する旨の意思表示をした。 (4) 債権者代位権に基づく本件会員契約の解約仮に,取立権に基づく解約権の行使が認められないとしても,原告は,訴外Aに対し別紙請求債権目録記載の債権を有しているところ,訴外Aは無資力であって本件預託金返還請求権以外にはめぼしい財産がない。 そこで,原告は,平成14年1月31日送達の本件訴状によって,被告に対し,訴外Aに代位して,本件会員契約を解約する旨の意思表示をした。 (5) 差押の競合神戸地方裁判所は,平成13年11月27日,訴外Cの申し立てにより(同裁判所平成13年(ル)第1467号),訴外Aが被告に対して有する本件預託金返還請求権を差し押さえる旨の債権差押命令を発した。 (6) よって,原告は,被告に対し,債権差押命令によって取得した取立権に基づき,預託金350万円の支払を求めるが,差押が競合することから,その支払を供託によってなすことを求める。 2 請求原因に対する認否及び被告の主張(請求原因に対する認否)(1) 請求原因(1),(2)の事実は認める。 (2) 同(3)の事実は認めるが,原告が取立権に基づき本件会員契約の解約権を行使できるかどうかについては疑問がある。 (3) 同(4)の事実のうち,前段の事実は知らないが,後段の事実は認める。 (4) 実は認めるが,原告が取立権に基づき本件会員契約の解約権を行使できるかどうかについては疑問がある。 (3) 同(4)の事実のうち,前段の事実は知らないが,後段の事実は認める。 (4) 同(5)の事実は認める。 (主張)同時履行の抗弁(1) 被告が預託金を会員に返還するにつき,本件ゴルフ倶楽部の「入会保証金返還手続要綱」は,会員から預託金証書の交付を受けるのと引き換えに預託金を返還する旨を明確に規定している。 (2) したがって,被告は,預託金証書の交付を受けるまで預託金の返還を拒絶する。 3 被告の主張に対する原告の反論仮に,被告主張の規定があるとしても,預託金証書は単なる証拠証券であって有価証券ではないから,預託金証書と引き換えでなければ預託金を返還しないとの被告の主張は,法的抗弁とはなり得ない。 第3 当裁判所の判断 1 請求原因について(1) 請求原因(1)ないし(3)及び同(5)の事実は,当事者間に争いがない。 (2) もっとも,同(3)については,原告が取立権に基づき本件会員契約を解約する旨の意思表示をした事実には争いがないものの,原告が取立権に基づき本件会員契約を解約できるかどうかにつき,被告は疑問を呈する。 そこで,この点につき検討するに,以下の理由により,差押債権者である原告は,その取得した取立権に基づき,債務者である訴外Aが,第三債務者である被告に対して有する本件会員契約の解約権を行使することができると解するのが相当である。 ア民事執行法155条により,金銭債権を差し押さえた債権者は自己の名で被差押債権を取り立てる権利が認められているところ,その取立権の内容として,差押債権者は,①一身専属的権利や,②取立ての目的 ア民事執行法155条により,金銭債権を差し押さえた債権者は自己の名で被差押債権を取り立てる権利が認められているところ,その取立権の内容として,差押債権者は,①一身専属的権利や,②取立ての目的範囲を超える権利でない限り,債務者の有する一切の権利を行使することができるものと解されている。 イゴルフ場会員契約の解約権は,身分上の権利でないことはもとより,個人的信頼関係に基づく権利でもないことから,その行使を会員契約者のみの意思に委ねるべき事情はなく,一身専属的権利とはいえない。 ウゴルフ場会員契約に基づく預託金返還請求権は,会員契約の解約を条件として現実化する権利である。とすれば,預託金返還請求権を差し押さえた債権者は,解約権を行使することによって,その預託金返還請求権の取立が可能となるのであるから,解約権の行使は取立の目的に合致するものといえる。 他方,差押債権者によるゴルフ場会員契約の解約権の行使を認めると,債務者はゴルフ場施設の利用ができなくなるという不利益を受けることとなるが,ゴルフは単なる娯楽に過ぎず,差押債権者の債権回収の利益に優先するものとは到底いえない。また,ゴルフ場会員権の取引相場価格が預託金額よりも高い場合には,差押債権者による解約権の行使を認めると,債務者はその差額について財産的不利益を受けることとなるが,本件では成立に争いのない甲3号証により,預託金額のほうが取引相場価格よりも明らかに高いことが認められるから,差押債権者による解約権の行使によって債務者に財産的不利益が生じるとは解されず,したがって,原告によるゴルフ場会員権契約の解約権の行使は,取立の目的範囲を超えるものとはいえない。 2 抗弁(同時履行の抗弁)について被告は,本件ゴルフ倶楽部の「入 解されず,したがって,原告によるゴルフ場会員権契約の解約権の行使は,取立の目的範囲を超えるものとはいえない。 2 抗弁(同時履行の抗弁)について被告は,本件ゴルフ倶楽部の「入会保証金返還手続要綱」が,会員から預託金証書の交付を受けるのと引き換えに預託金を返還する旨を明確に規定していることを理由に,同時履行の抗弁を主張する。 しかし,本来預託金証書は証拠証券に過ぎず,法的には預託金の返還と預託金証書の交付とは同時履行の関係に立つものではなく,被告は,預託金証書の交付がないことをもって,預託金の返還を拒絶することはできないものであることからすれば,上記「入会保証金返還手続要綱」の規定は,仮にこれが存するとしても,被告の事務手続上の便宜と預託金返還後もスムーズに預託金証書が返還されないことによって生じかねない無用のトラブルを防止するために設けられた任意規定と解するのが相当であって,預託金の返還を求める会員に対して法的に拘束力を有する規定であるとまでは解することができない。 したがって,本件ゴルフ倶楽部の「入会保証金返還手続要綱」の規定を根拠とする被告の同時履行の抗弁の主張はこれを認めることができない。 3 結論以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官上田昭典
▼ クリックして全文を表示