主文 1 被告は,原告に対し,金20万円及びこれに対する平成14年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。 4 この判決の第1項は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 原告の請求 1 被告は,原告に対し,別紙物件目録1の土地上にある建物のうち,同目録2の建物部分を収去せよ。 2 被告は,原告に対し,金100万円及びこれに対する平成14年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告が民法234条に違反して境界から50センチメートル以上の距離を離さずに建物(倉庫ないし車庫)を建築したとして,原告が,被告に対し,同距離内の建物部分の収去と損害賠償を求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 原告は,別紙物件目録3の土地(以下「原告土地」という。)を所有し,同土地上に建物(以下「原告建物」という。)を所有している。 (2) 被告代表者A外2名は,原告土地の西側に隣接する別紙物件目録1の土地(所有者はB外3名。以下「B土地」という。)上に,共有建物を所有している。 (3) 原告土地及びB土地を含む周辺地域は,防火ないし準防火地域ではない。 (4) 被告は,平成14年1月10日ころ,原告土地とB土地との境界線(以下「本件境界線」という。)付近のB土地部分において,被告の車庫ないし倉庫(以下「本件被告建物」という。未登記)の新築工事を開始した。 (5) 原告は,平成14年3月19日到達の書面で,被告に対し,本件被告建物を本件土地境界線より50センチメート の車庫ないし倉庫(以下「本件被告建物」という。未登記)の新築工事を開始した。 (5) 原告は,平成14年3月19日到達の書面で,被告に対し,本件被告建物を本件土地境界線より50センチメートル以上離すことを求めるとともに,本件被告建物の建築廃止又は変更を申し入れた。 (6) 本件被告建物は,本件境界線から50センチメートル以上離れておらず,本件被告建物のうち別紙物件目録2の部分約4.4平方メートルは,本件境界線から50センチメートル未満の距離内のB土地上にある。 2 原告の主張(1) 原告は,被告に対し,被告が本件被告建物の新築工事を始めた直後から,本件境界線から50センチメートル以上離して建築するように口頭で求めたが,被告は,原告との交渉を一切拒否し,工事を強行した。そこで,原告は,前記争いのない事実(5)のとおり,平成14年3月19日到達の書面で,被告に対し,本件被告建物を本件土地境界線より50センチメートル以上離すことを求めるとともに,本件被告建物の建築廃止又は変更を申し入れた。 (2) ところが,被告は,原告の上記申し入れにもかかわらず,工事を続行し,民法234条に違反して,本件境界線から50センチメートル以上離さずに本件被告建物を建築した。 (3) 原告は,本件被告建物の建築により,隣接土地所有者として,良好な居住環境を形成し,平穏に生活する人格的利益を侵害されたものであり,原告の被った精神的苦痛に対する慰謝料は100万円を下らない。 (4) よって,原告は,被告に対し,民法234条に基づき,B土地上にある本件被告建物のうち,本件境界線から西方50センチメートル未満にある別紙物件目録2の建物部分約4.4平方メートルの収去を求めるとともに,慰謝料100万円及びこれに対する本件訴状送 き,B土地上にある本件被告建物のうち,本件境界線から西方50センチメートル未満にある別紙物件目録2の建物部分約4.4平方メートルの収去を求めるとともに,慰謝料100万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成14年4月19日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 3 被告の主張(1) 異なる慣習の存在原告土地及びB土地を含む周辺地域は,防火ないし準防火地域ではないが,兵庫県三木市の旧市内の交通量の最も多い幹線道路に面しており,一帯は,古くからそれぞれの建物がくっつくように建っている地域である。 したがって,本件被告建物の建築については,民法234条の適用はない。 (2) 建物の完成と建物収去請求の可否について仮に(1)の主張が認められないとしても,本件被告建物の建築にあたっては,被告の依頼した工事業者が何度も原告のもとに足を運び誠意をもって対応しており,原告との交渉を一切拒否し,工事を強行したようなことはない。そして,原告との交渉では,原告からのクレームのほとんどは本件境界線の位置に関するものであった。原告が,本件境界線から50センチメートル未満の距離内に本件建物を建築したことを持ち出したのは,被告が平成14年3月13日に本件被告建物の完成・引渡を受けた後のことである。したがって,原告は,民法234条2項但し書きにより,本件被告建物の収去を求めることはできない。 (3) 権利の濫用前記(2)のとおり,被告が本件被告建物を建築するにつき,原告が民法234条違反を理由に建築中止を申し入れてきたのは,本件被告建物が完成してからであり,それ以前にはそのような申し入れはなかった。また,本件被告建物は,本件被告建物を 建物を建築するにつき,原告が民法234条違反を理由に建築中止を申し入れてきたのは,本件被告建物が完成してからであり,それ以前にはそのような申し入れはなかった。また,本件被告建物は,本件被告建物を建築する直前までB土地に存在していた平成6年建築のプレハブ車庫及び平成6年以前に存在していた木造平家建建物と同じ位置に建設されたものである。 しかも,原告土地上にある原告建物は,壁面が本件境界線から50センチメートル以上離れていない部分があるだけでなく,1階及び2階の庇が本件境界線を越境している部分があることからすると,クリーンハンドの原則からしても,原告の本件請求は権利濫用であって許されない。 第3 当裁判所の判断 1 民法234条1項違反の事実の存在本件被告建物が本件境界線から50センチメートル以上離れておらず,本件被告建物のうち別紙物件目録2の部分約4.4平方メートルは,本件境界線から50センチメートル未満の距離内のB土地上にあることは,当事者間に争いがない(前記争いのない事実(6)参照)。 2 異なる慣習の存在について被告は,原告土地及びB土地を含む周辺地域一帯は古くからそれぞれの建物がくっつくように建っている地域であるとして,民法234条の不適用を主張するが(前記被告の主張(1)参照),これを認めるに足りる証拠はなく,この点の被告の主張は理由がない。 3 建物の完成と建物収去請求の可否について(1) 前記争いのない事実,証拠(甲5,6,7の1・2,15,16,乙6,9,10,証人C,証人D,原告本人,被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 ア被告は,平成14年1月10日ころから,本件被告建物新築工事を始めたが,同年2月5日,原告から, 証人D,原告本人,被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 ア被告は,平成14年1月10日ころから,本件被告建物新築工事を始めたが,同年2月5日,原告から,本件被告建物新築工事を担当していた旭化成ホームズ株式会社の担当従業員Dに対し,事前の十分な説明もないまま,原告土地に無断で入って工事がなされている等の異議申し入れがあった。 原告の側では,上記のほか,本件境界線の位置についても争い,また,民法234条によって,50センチメートル離す必要があることについてもこれを問題とした。これに対し,Dは,事前の説明を十分しなかったこと及び原告土地に無断で入って工事をしていることを謝罪するとともに,境界の位置について説明し,また,境界から50センチメートル離す必要性に関しては,本件被告建物は,従前のプレハブ車庫及びそれ以前にあった木造平家建建物と同じ位置に建築するもので,従前と条件は変わらず,建築確認も得られていること,境界から建物を50センチメートル離すことはお互いさまのところ,原告建物も50センチメートル離れておらず,庇はむしろ越境している等と説明し,その理解を求めた。 イ原告は,同月15日,同月26日にも同様の異議を申し入れ,これに対し,Dは前記同様の説明をして原告に理解を求めた。 ウ原告から異議申し入れのあった後も工事は進められ,同年3月10日ころには,本件被告建物はほぼ完成し,被告は,同月13日,旭化成ホームズ株式会社から本件被告建物の引渡を受けた。 エ原告は,同月19日到達の書面で,被告に対し,本件被告建物を本件境界線より50センチメートル以上離すことを求めるとともに,本件被告建物の建築廃止又は変更を申し入れた。 (2) 以上の事実に 原告は,同月19日到達の書面で,被告に対し,本件被告建物を本件境界線より50センチメートル以上離すことを求めるとともに,本件被告建物の建築廃止又は変更を申し入れた。 (2) 以上の事実に基づき検討するに,確かに原告は,平成14年2月5日以降,本件被告建物新築工事に異議を申し入れていたものであり,かつ,その理由の一つに民法234条違反を挙げていたにもかかわらず,被告は,その後も工事を進め,同年3月13日に完成させたものである。しかし,被告は,原告が主張するように,原告との交渉を一切拒否して工事を強行したわけではなく,原告からの異議申し入れに対しては,工事業者の担当者Dがこれに対応して,事前の十分な説明を行わなかったこと等に関しては謝罪もし,また,境界線から建物を50センチメートル以上離すことの必要性に関しては,前記認定のような説明を行ったうえで,その工事を進めたものであること,被告が工事を直ちに中止しなかったことについては,被告が平成6年にプレハブ車庫を建築した際には,原告から何らの異議申し入れはなかったうえ,同プレハブ車庫は,それ以前に存在した木造平家建建物とほぼ同じ位置に建築されたものであり,かつ,本件被告建物も同プレハブ車庫とほぼ同じ位置にこれを建設予定であったこと(乙5の4・6,6,9,10,証人D,被告代表者)からすれば,これを一概に責めることはできないと思われること,原告は,Dとの交渉の中で,同様の異議申し入れを何度か口頭で行ってはいるものの,被告に対し,民法234条違反を理由にして,本件被告建物建築工事の廃止ないし変更を明確,かつ,断定的に求めたのは,平成14年3月19日到達の書面によってであるところ,その時点では既に本件被告建物は完成済みであったことに照らすと,民法234条2項但し書きにより,原告は,被告に 明確,かつ,断定的に求めたのは,平成14年3月19日到達の書面によってであるところ,その時点では既に本件被告建物は完成済みであったことに照らすと,民法234条2項但し書きにより,原告は,被告に対し,損害賠償は求め得るとしても,本件被告建物の収去を求めることはできないと認めるのが相当である。 したがって,被告の主張(2)は理由がある。 4 損害賠償請求について(1) 原告が,被告の建築した民法234条1項違反の本件被告建物の存在を受忍しなければならなくなったことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料は,本件被告建物が,平家建てではあるものの,従前存在したプレハブ車庫に比較し,相当賢固な基礎の建物であること(甲16,乙5の4・6)等,本件に現れた一切の事情を総合すると,20万円を認めるのが相当である。 (2) 権利の濫用についてなお,被告は,損害賠償請求を原告が行うことも権利の濫用として許されない旨を主張するが(被告の主張(3)参照),以下で検討するとおり,原告の損害賠償請求が権利の濫用として許されないものとは認めることができない。 すなわち,本件被告建物建築工事の廃止又は変更を求める意思表示が原告によって明確になされたと認められるのが本件被告建物完成後であったため,本件被告建物の収去請求が認められないことは前記認定のとおりとしても,そのことによって,原告が,被告に対し,損害賠償請求を行うことは,何ら妨げられるものではない。また,既に認定のとおり,本件被告建物は,本件被告建物を建築する直前までB土地に存在していた平成6年建築のプレハブ車庫及び平成6年以前に存在していた木造平家建建物とほぼ同じ位置に建設されたものであるが,民法234条1項違反の建物建築であることに変わりはな する直前までB土地に存在していた平成6年建築のプレハブ車庫及び平成6年以前に存在していた木造平家建建物とほぼ同じ位置に建設されたものであるが,民法234条1項違反の建物建築であることに変わりはないのであるから,既存の民法234条違反の状態を原告がむしろ積極的に容認し,同条による建築制限を求める権利を放棄したと認められるような特段の事情があると認められる場合は別として,新たな違反建築行為に対し,その廃止又は変更を求め,あるいは損害賠償を請求することは何ら妨げられないというべきである。そして,平成6年以前に存在した木造平家建建物が本件境界線から50センチメートル未満の距離内に存在したのは,もともと原告土地とB土地は一筆の土地であったところ,その地上に前記木造平家建建物や原告建物を含む複数の建物が建築されていたのが,その後の分筆によって,原告土地とB土地の二筆の土地となったために,結果的にそのような状態になっていたからであって,原告がこれを積極的に容認していたからではないこと(甲1ないし3,15,16,証人C,弁論の全趣旨),また,平成6年のプレハブ車庫建設時,原告は特段の異議は述べなかったものの,積極的にこれを容認していたわけではないこと(原告本人)等からすれば,本件において前記特段の事情があったとは認められない。また,証拠(甲5,13,14,乙8の1・2,11の1ないし6)によれば,原告建物の壁面や庇がB土地にかなり接近していることが認められる。しかし,仮に原告建物の壁面が本件境界線から50センチメートル未満の距離内に位置し,あるい庇が本件境界線を越えて存在しているとしても,それらは,前記認定したとおり,原告土地とB土地とはもともと一筆の土地であったのが,二筆に分筆されたため生じた結果であることからすれば,上記事実から,直ちに原告 境界線を越えて存在しているとしても,それらは,前記認定したとおり,原告土地とB土地とはもともと一筆の土地であったのが,二筆に分筆されたため生じた結果であることからすれば,上記事実から,直ちに原告が被告に民法234条違反による損害賠償を求めることが,権利の濫用になるとは認めがたいし,クリーンハンドの原則に違反するものとも認めがたい。 その他,本件において,原告の損害賠償請求が権利の濫用として許されない事情の存在は認められない。 5 結論以上の次第で,原告の請求は,損害賠償金(慰謝料)20万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成14年4月19日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので,その限度でこれを認容し,その余はこれを棄却すべきである。 よって,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部裁判官上田昭典
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