主文 本件控訴を棄却する。理由 検察官山根静寿が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同検察官提出の控訴趣意書に記載のとおりであり、これに対する弁護人池田純亮の答弁の趣意は、同じく同弁護人の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。検察官の控訴趣意について。一、 原判決が、所論摘示のとおりの理由に基いて、本件刺身庖丁は、あいくちに類似する刃物と認められないとして、無罪の言渡をしたことは、原判決文により明らかである。二、 当裁判所において本件刺身庖丁を検証したところによると、(イ)その形状は、所論指摘のように、刃渡は、約一八・五センチメートル、刃幅は、刃長の中央附近で約二・五センチメートル、棟区の箇所で約二・八センチメートル、刃の厚みは、約二・五ミリメートルあり、刃先の尖つた、刃(片刃)の鋭利な刃物であり、社会通念上いわゆる刺身庖丁のやや小型のものに属するものであることが明らかであり、(ロ)附属品として、新聞紙約四分の一位の大きさと見受けられるものを折り重ね、のりづけしてこしらえた紙製のさやがあり、右刺身庖丁が、ちょうどこの紙製のさやに納まるようになつていることが認められる。そして、右刺身庖丁が、人を殺傷する用に供される危険性を有するものである点は、もちろん否定できないところである。三、 (1) 銃砲刀剣類等所持取締法(以下、単に法と略称する。)にいう、あいくちに類似する刃物とは、普通「その形状、性能または用法において、あいくちに類似し、携帯が容易で、かつ社会通念上人の殺傷の用に供せられる危険性を有するものと認められる刃物をいう」ことは、所論指摘のとおりである。(2) 法が、あいくちに類似する刃物を取り締るのは、所持ではなく、携帯であること並びに社会通念上、あいくちのもつ他 れる危険性を有するものと認められる刃物をいう」ことは、所論指摘のとおりである。(2) 法が、あいくちに類似する刃物を取り締るのは、所持ではなく、携帯であること並びに社会通念上、あいくちのもつ他の刀剣類とは異なる特質からいつて、次にいうあいくちに類似する刃物にあたるかどうかの判定に当つては、その刃物の形状・形態の外、携帯の容易なこと、言葉を換えていえば、さや・革その他のサツク(蓋・ケース等を含む。 れる危険性を有するものと認められる刃物をいう」ことは、所論指摘のとおりである。(2) 法が、あいくちに類似する刃物を取り締るのは、所持ではなく、携帯であること並びに社会通念上、あいくちのもつ他の刀剣類とは異なる特質からいつて、次にいうあいくちに類似する刃物にあたるかどうかの判定に当つては、その刃物の形状・形態の外、携帯の容易なこと、言葉を換えていえば、さや・革その他のサツク(蓋・ケース等を含む。)に納められているかどうかも、重要な目安になると解するのが相当である。(3) 所論は、「本件刺身庖丁は、携帯も容易で、多少の工夫により、容易に懐中あるいはポケツト等に隠し持つことができる。」という。なるほど、所論指摘の証拠によれば、被告人において、新聞紙を折り重ねて、のりづけし、ちようどさやのような形に作り、これに挿入して、始終身につけて隠し持つていた事実、及び被告人は、現実に発生した殺人事件の反対派から疑われる危険を感じていたので、これに備えて、護身用として、隠し携帯する便宜のため、右新聞紙製の紙さやをこしらえたものである事実がうかがわれる。四、 しかしながら、本件刺身庖丁は、普通に刺身庖丁と称せられるものであつて、そのものの本来の用途が、広く一般家庭に備えつけられて料理用に使われているものに属するものであることは、原判決の証拠によつて明らかであるとともに、右新聞紙製の紙さやは、右のようなものであることからいつても、また被告人が、原審公判廷で「本件刺身庖丁を持ち出した以後、紙さやは何度も作り直した」旨供述していることからいつても、耐久性のあるものとは全く認められず、一時の間に合わせのものに過ぎないというべきであり、従つて、原判示のように、「被告人が本件刃物を携帯する際、自傷を恐れ、刃に紙を巻いたと同様」のものであると評することがで るものとは全く認められず、一時の間に合わせのものに過ぎないというべきであり、従つて、原判示のように、「被告人が本件刃物を携帯する際、自傷を恐れ、刃に紙を巻いたと同様」のものであると評することができるのである。<要旨>このように見てくると、本件刃物はそれ自体何等加工されたものでない刺身庖丁であり、そのさやは前記のよ</要旨>うな新聞紙製のものであるから、これを携帯したとしても、該刃物は、いまだ法にいわゆる「あいくちに類似する刃物」には当らないものと解するのが相当である。 り、従つて、原判示のように、「被告人が本件刃物を携帯する際、自傷を恐れ、刃に紙を巻いたと同様」のものであると評することができるのである。<要旨>このように見てくると、本件刃物はそれ自体何等加工されたものでない刺身庖丁であり、そのさやは前記のよ</要旨>うな新聞紙製のものであるから、これを携帯したとしても、該刃物は、いまだ法にいわゆる「あいくちに類似する刃物」には当らないものと解するのが相当である。五、 所論指摘の刺身庖丁に関する裁判例は、本件とは異る事案に関するものであつて、適切なものとはいい得ないし、その他所論指摘の、そのような船員用ナイフとか登山用ナイフとか、切出小刀とか、ぬしや小刀とか、あるいは折込ナイフが、あいくちに類似する刃物として裁判例で認められているとしても、右の判断に何らていしよくするものではないと考える。なお、所論指摘のその他の事情は、右の判断に消長を来たすものではあり得ない。従つて、原判決が、本件刺身庖丁をもつて、法にいわゆるあいくちに類似する刃物と認められないとしたのは正当である。原判決には、所論にいうような事実誤認・法令の適用の誤りは存在しない。論旨は理由がない。答弁は理由がある。以上の理由により、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官藤井亮裁判官中村荘十郎裁判官横地正義)(参考)<記載内容は末尾1添付>
▼ クリックして全文を表示