平成22(わ)2135 覚せい剤取締法違反,関税法違反

裁判年月日・裁判所
平成23年5月27日 名古屋地方裁判所
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判決文本文5,977 文字)

平成22年(わ)第2135号覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件判決 主文 被告人を懲役9年及び罰金400万円に処する。 未決勾留日数中110日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 押収してある覚せい剤2袋(平成23年押第23号の4,5)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,A及び氏名不詳者らと共謀の上,営利の目的で,みだりに,平成22年10月4日(現地時間),ボリビア多民族国ビルビル国際空港において,B航空34便に搭乗する際,覚せい剤約2703.81グラム(平成23年押第23号の4,5はその鑑定残量)を隠し入れた黒色パソコンケースを黒色ソフトスーツケースに収納し,愛知県所在の中部国際空港までの機内預託手荷物として預けて同航空機に積み込ませ,同日(現地時間),ベネズエラボリバル共和国シモンボリーバル国際空港において,C航空535便に乗り継ぐ際,同空港関係作業員に前記黒色ソフトスーツケースを同航空機に積み替えさせ,同月5日(現地時間),ドイツ連邦共和国フランクフルトマイン国際空港において,C航空736便(D6010便と共同運航)に乗り継ぐ際,同空港関係作業員に前記黒色ソフトスーツケースを同航空機に積み替えさせ,同月6日,前記中部国際空港内の駐機場において,同空港関係作業員に,前記黒色ソフトスーツケースを同空港に到着した同航空機から機外に 搬出させるなどし,もって覚せい剤取締法が禁止する覚せい剤の本邦への輸入を行うとともに,同日,同空港内 て,同空港関係作業員に,前記黒色ソフトスーツケースを同空港に到着した同航空機から機外に 搬出させるなどし,もって覚せい剤取締法が禁止する覚せい剤の本邦への輸入を行うとともに,同日,同空港内の名古屋税関中部空港税関支署旅具検査場において,同支署税関職員の検査を受けた際,関税法が輸入してはならない貨物とする前記覚せい剤を前記黒色ソフトスーツケース内に隠し入れているにもかかわらず,その事実を申告しないまま同検査場を通過して輸入しようとしたが,同支署職員に前記覚せい剤を発見されたため,その目的を遂げなかったものである。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断)第1 本件では,被告人がボリビアから日本に入国する際の機内預託手荷物である黒色ソフトスーツケース(以下「スーツケース」という。)に収納した黒色パソコンケース(以下「パソコンケース」という。)内に覚せい剤2包(以下,これらを併せて「本件覚せい剤」という。)が入っており,これが税関で発見されたことには争いがない。本件の争点は,被告人が,パソコンケース内に違法薬物が隠されていたことの認識があったかどうか,そして,本件犯行につき,A及び氏名不詳者らと共謀があったかどうか,である。当裁判所は,被告人は,パソコンケース内に違法薬物が隠されていたことを知っており,本件犯行につき,A及び氏名不詳者らと共謀があったと認めたので,以下,その理由を示す。 第2 違法薬物が隠されていたことの認識について 1 パソコンケースの重さ等及び日本への入国経緯等この事実を裏付ける最大の事情は,パソコンケースの重さ等が明らかに不自然であり,しかも,被告人が受けたという依頼の内容とあわせると,その不自然さに当然気付くはずである,という点である。 本件覚せい剤が隠されたパソコンケースは,同ケースに収 ースの重さ等が明らかに不自然であり,しかも,被告人が受けたという依頼の内容とあわせると,その不自然さに当然気付くはずである,という点である。 本件覚せい剤が隠されたパソコンケースは,同ケースに収納されていたノートパソコン及びアダプターを入れた状態で,約5.9キログラムの重さがある のに対し,収納物をすべて取り出した状態でも,約4.6キログラムの重さがある。中身が入っていないパソコンケースとしては不自然に重い。加えて,本件覚せい剤が隠されていたパソコンケースの仕切りと側面は,それぞれ約5センチメートルの厚さがある。 この重さ等の異常さは,直接持ったり触ったりすれば分かる程度のものである。被告人は,パソコンケースをHという人物からボリビアで日本へ運ぶよう頼まれて受け取った際に,同ケースを開けて中身を確かめ,スーツケースに自分で入れた。その際に何か別のものが入っているということは普通であれば気付くと思われる。 もっとも,被告人は,Hから預かった際に,親しくしているFという人物から,パソコンを保護するクッションだと説明を受けたため,Fを信じたとも述べており,もしそうであるなら,多少重くても預かった荷物の中身まで疑うことはしないという可能性もないではない。しかし,被告人がHから受けた依頼の内容は,被告人が別の用で日本に行くついでに,パソコンケースを運ぶなどというものではなく,自分では往復の渡航費用を負担せずに,パソコンケースをボリビアから地球の裏側にある遠い日本まで運び,Gという面識のない男性に渡すというものである。ボリビアと日本間の往復の渡航費用は20万円を超える高額である。このような依頼の内容自体が,不自然であることを考えると,被告人は,パソコンケースを受け取り,同ケースを開けて中身を確かめるなどした時点で,パソコンケースには 渡航費用は20万円を超える高額である。このような依頼の内容自体が,不自然であることを考えると,被告人は,パソコンケースを受け取り,同ケースを開けて中身を確かめるなどした時点で,パソコンケースには何らかの物品が隠されているかもしれないと疑って当然である。それなのに,被告人の述べるところによっても,被告人はその点につきFに詳しい説明を求めていないというのである。 さらに,その物品がパソコンケースの仕切りや側面の内部に隠されていたこと,その物品がパソコンケースの仕切りや側面に平たくした状態で入る程度の大きさ,形をしたものであり,多額の渡航費用をかけて運んできても割に合うほど高価なものであると考えられることからして,わいせつ物や動物などであ るとは考えにくいこと,南米から日本に運搬してきていることなどに加えて,被告人自身がマリファナ,コカイン,「パコ」という薬物があることを知っており,マリファナやコカインを実際に見たこともあると述べていて,一定の薬物に対する知識があることや,自分の運んできたものが,宝石や偽札など他の違法な物品であると思っていたなどという弁解を一切していないことを考えると,被告人は,少なくとも,パソコンケースに隠された物品が違法薬物であるかもしれない,という程度の認識をしていたものと考えられる。 2 その他の事情(1) 被告人の入国時の所持金品と入国目的被告人が,日本に入国した際,ドル等の外国通貨しか所持せず,その所持金額も日本円で約1万6000円に相当する金額に過ぎなかったこと,クレジットカードやキャッシュカードを所持していなかったことからすると,被告人の所持金は,日本に滞在するための費用としては,少な過ぎる。また,被告人は,日本のガイドブックや地図等を所持していなかった。 被告人は,入国審査の際,入 ドを所持していなかったことからすると,被告人の所持金は,日本に滞在するための費用としては,少な過ぎる。また,被告人は,日本のガイドブックや地図等を所持していなかった。 被告人は,入国審査の際,入国の目的を,観光又は日本にいるHに会うためとも述べたが,他方で,当時,Hが日本にいないことを知っていた。 そうすると,被告人が日本に入国した主たる目的は,観光等にあるのではなく,パソコンケースを運ぶことにあったと考えることができる。 (2) 被告人の入国時の言動①被告人が,入国審査の際,自分の手荷物の所在を気にしたり,そわそわして落ち着きのない様子であったこと,②被告人が,税関検査の際,所持品に関する確認票に,荷物はすべて自分のものであり,他人から頼まれて持ってきたものはない旨記載したが,エックス線検査でパソコンケース内に異影が認められた後には,パソコンケースはHのものであると述べたこと,③被告人が,税関検査の際,確認票を書く手が震えたり,顔が赤くなったりするなど,緊張した様子であったこと,④被告人が,スペイン語の通訳を介し て,パソコンケース内から発見された白い粉末が薬物検査で覚せい剤反応を示した旨を告げられた際,「Si」(スペイン語で「はい」の意味)と述べただけであったことが認められる。 これらの言動は,①通常の場合でも,確認票にはとりあえず無難な記載をしておくことはあること,②見知らぬ国に来て,入国手続がスムーズにいかず,係員から分からない言語で質問されれば,緊張するであろうこと,③覚せい剤がいきなり発見されれば,呆然として何もできなくなってしまう可能性があること等の事態を考えれば,それだけですぐに異常とまではいうことができない。しかし,先に述べたパソコンケースの重さ等の点からすると,被告人がケースの中身を知っていたこ できなくなってしまう可能性があること等の事態を考えれば,それだけですぐに異常とまではいうことができない。しかし,先に述べたパソコンケースの重さ等の点からすると,被告人がケースの中身を知っていたことのあらわれと考えるのが自然である。 また,被告人の言う,パソコンケース内から白い粉末が発見された際に,「頭を抱えた」という点についても,むしろ,被告人が中身を知っており,それが発覚しそうになって動揺したことのあらわれと考えることもできる。 (3) 被告人の供述態度被告人は,Hと知り合った経緯について,捜査段階では,3年半くらいまえに,Hが被告人の営む自動車修理店の客となったことから知り合ったと供述していたが,当公判廷では,被告人が平成22年9月10日にボリビアに入国した後に知り合った旨供述を変更した。 また,被告人は,パソコンケースを渡す人物について,捜査段階では,日本にいるHに渡すつもりであったなどと供述していたが,当公判廷では,Hとは別人のGという人物に渡すつもりであった旨供述を変更した。 被告人の供述が大きく変わった理由は,保身のための嘘か,被告人の混乱によるものかは明らかではない。しかし,少なくとも,被告人には話を作り出してその場を取り繕おうとする態度が窺え,その供述内容は信用できない。 3 小括以上からすると,少なくとも,被告人は,Hからパソコンケースを受け取った時点で,違法な薬物が隠されているかもしれないと認識していたと認めることができる。 第3 共謀の有無についてそして,被告人は,その上で何も異議を言わず,依頼を断ることもなく,あらかじめ準備されていた航空券等を持って,パソコンケースを受け取ってから1日ないし2日後にボリビアを出発しているのである。そうすると,少なくとも,パソコンケースを受 言わず,依頼を断ることもなく,あらかじめ準備されていた航空券等を持って,パソコンケースを受け取ってから1日ないし2日後にボリビアを出発しているのである。そうすると,少なくとも,パソコンケースを受け取った時点で,Hとの間で,違法な薬物を日本に運び,Gに渡すことを暗黙のうちに合意していたものと考えられる。 一方,G(A)は,平成22年10月5日ころ,Iという人物から,中部国際空港に到着する被告人を出迎えて,違法薬物を受け取るよう依頼を受け,これを承諾した。 したがって,被告人とAは,H(I)を介して,違法薬物を日本に輸入するという意思を通じ合っていたといえる。 以上によれば,被告人は,本件犯行につき,A及び氏名不詳者らと共謀していたと認めることができる。 (法令の適用)省略(量刑の理由) 1 本件は,被告人が,共犯者と共謀の上,営利の目的で,覚せい剤を日本国内に輸入したものの,税関職員に発見されたため,検査場を通過することができなかった覚せい剤取締法違反及び関税法違反の事案である。 2 量刑上考慮した事情(1) 覚せい剤の密輸という行為自体,重大であるが,とりわけ,本件犯行において最も重要な事情は,日本国内に持ち込まれようとした覚せい剤が約2703. 81グラムと多量であることである。本件覚せい剤がもし国内に流通した場合には,9万回もの使用が可能であり,多くの被害者を出す可能性もあった。 (2) 運び屋という被告人の役割は大きく,被告人が本件覚せい剤を運んだからこそ,本件犯行が可能になったといえる。受取役のAの役割と比べても,被告人の果たした役割を過小評価することはできない。他方,被告人は,本件の首謀者ではなく,被告人に対し,覚せい剤を日本に運ぶよう指示をしたH等に比べれば,低い地位にあったといえる。 割と比べても,被告人の果たした役割を過小評価することはできない。他方,被告人は,本件の首謀者ではなく,被告人に対し,覚せい剤を日本に運ぶよう指示をしたH等に比べれば,低い地位にあったといえる。 (3) 幸いにも,本件覚せい剤は税関職員の検査により発見されたため,日本国内に流通していない。しかし,これは,日本国内に持ち込まれた場合との比較でいえることである。また,覚せい剤が日本国内に流通しなかったことに,被告人が寄与していない。 (4) 被告人が,本件犯行を否認し,供述内容も変遷していることからすると,反省しているのか疑問が残る。しかし,長期間の身体拘束を受け,本件犯行を後悔している様子も見受けられる。また,被告人は,アルゼンチンで自動車整備工として働いており,子供に養育費を支払っていた。 3 そこで,上記の諸事情を総合的に考慮して,被告人に対する量刑を検討するに,本件犯行において持ち込まれた覚せい剤の量,被告人の地位などに照らせば,被告人の犯した罪は重く,それに見合った刑を科すべきであり,反省の有無などその他の事情は量刑の上でさほど重視することはできない。以上の点からすれば,被告人に対しては主文程度の刑が相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役12年及び罰金500万円,主文掲記の没収)(検察官清水真一郎,同笠松治城,国選弁護人亀村恭平(主任),同榎本修各出席)平成23年5月27日名古屋地方裁判所刑事第6部 裁判長裁判官田 邊 三保子 裁判長 裁判官田邊三保子 裁判官渡部五郎 裁判官阿久津見房

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