平成30(わ)208 傷害致死

裁判年月日・裁判所
平成31年3月15日 名古屋地方裁判所 岡崎支部
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判決文本文3,799 文字)

平成30年(わ)第208号傷害致死被告事件 主文 被告人を懲役3年6月に処する。 未決勾留日数中140日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成29年1月23日に出産した三つ子の育児をする中で次第に負担感を募らせ,二男であるAの泣き声を特に苦痛に感じるようになっていたところ,平成30年1月11日午後6時半頃,激しく泣き始めたAが泣き止まず,これに加えて長女も泣き始めたこと等に強いいら立ちを感じ,その気持ちをAにぶつけようと考え,同日午後7時頃,愛知県豊田市a町b丁目c番地de号当時の被告人方南東和室において,A(当時11か月)に対し,その身体を両手で仰向けに持ち上げて畳の上に2回たたきつける暴行を加え,よって,同人に頭蓋冠骨折,びまん性脳損傷等の傷害を負わせ,同月26日午後8時13分頃,同市f町g丁目h番地所在のi病院において,同人を前記びまん性脳損傷により死亡させた。 (証拠の標目)省略(弁護人の主張に対する判断) 1 弁護人の主張等弁護人は,本件犯行当時,被告人は産後うつ病の影響により是非善悪を判断し,行動する能力が著しく低下した状態にあった(心神耗弱の状態にあった)旨主張するので,以下検討する。 2 被告人の精神障害及びその犯行への影響⑴ B鑑定ア捜査段階において被告人の精神鑑定を行ったB医師(以下,同人の鑑定意見を「B鑑定」という。)は,概要以下のとおり説明する。 被告人は,遅くとも平成29年11月頃から本件犯行までの間,抑うつ気分,被害者の泣き声を聞くことが堪えられなくなることに関連する焦燥感の増大,興味や関心の喪失,気力の減退等を症状とするうつ病の精神障害を有していた(なお,上記被告人の精神症状のうち,抑うつ気分及び焦燥感の 者の泣き声を聞くことが堪えられなくなることに関連する焦燥感の増大,興味や関心の喪失,気力の減退等を症状とするうつ病の精神障害を有していた(なお,上記被告人の精神症状のうち,抑うつ気分及び焦燥感の増大を併せて「本件症状」という。)。 本件症状は,被害者の泣き声に対する耐性を著しく低下させたという点で本件犯行に影響したといえるが,犯行動機の形成に当たっては,被告人の元来の性格傾向も影響したといえる。また,上記焦燥感の増大は,本件犯行の衝動的な側面に影響したといえるが,その程度は大きくない。かえって,犯行前後及び犯行時の被告人の言動からは,本件犯行に際し,被告人がその行動の意味を認識し,自身の行動を一定程度コントロールしていたことがうかがえる。以上を総合すると,本件症状が犯行に及ぼした影響は限定的である。 イ B鑑定は,精神科医としての専門的知見や豊富な鑑定経験に基づき,検察庁から交付を受けた資料一式,被告人との8回にわたる(合計約14時間)面接結果,被告人の夫及び両親との面接結果,心理検査等の諸検査の結果を総合的に判断するという精神鑑定において一般的な手法を用いて行ったもので,結論に至る説明についても合理的であることから,同鑑定の信用性は十分に高いといえる。 C鑑定他方で,起訴後弁護人から意見を求められたC医師は,本件犯行当時,被告人は産後重症うつ病の状態にあり,本件犯行は,その症状である本来の人格とは異なる攻撃衝動により行われたものであって,前記精神障害は本件犯行に著しい影響を与えた旨証言する(以下同証言における鑑定意見を「C鑑定」という。)。 しかしながら,C鑑定は,心理検査が実施されず,関係者への面接について も,その対象や回数,質問方法等で,不十分さがうかがわれるなど精神鑑定の手法にやや問題がある。また, 」という。)。 しかしながら,C鑑定は,心理検査が実施されず,関係者への面接について も,その対象や回数,質問方法等で,不十分さがうかがわれるなど精神鑑定の手法にやや問題がある。また,本件犯行に係る被告人の供述等を十分に検討・評価しておらず,鑑定の前提となる事実の取扱いにも問題がある。さらに,本件犯行が産後うつの症状である本来の人格とは異なる攻撃衝動により行われたと説明するが,C鑑定が前提とする被告人の本来の人格や攻撃衝動が産後うつによるものであることについての合理的な根拠を示していない上に,結局は被告人が産後重症うつ病であったことを根拠に結論を導き出すかのような論理しか示していない。したがって,C鑑定は採用できない。 3 被告人の善悪の判断能力及び行動をコントロールする能力の程度⑴ まず,判示のような犯行動機は一般人にとっても了解可能である上,その犯行態様も,当該犯行動機に沿った合理的かつ合目的的なものである。被告人は,泣き声を聞いてから約30分間,自分の太ももをたたくなどして被害者の泣き声に対するいら立ちを抑えようと試みていること,ベビーベッドで寝ていた被害者にそのまま危害を加えたりせずに,これを抱き上げて方向を変え,フローリング貼りの洋間から,数歩離れた和室に移動して畳の上で犯行に及んでいること,犯行後も被害者が泣き続けていたにもかかわらず,気が収まったことからそれ以上危害を加えていないことなどからすれば,被告人は,本件犯行当時,その場その場の状況を的確に把握した上で,被害者に過度な危害を与えないように自身の行動をコントロールしていたものと認められる。 さらに,被告人が,本件犯行の4日前に被害者に対して同様の行為を行った後,被害者の頭部に水腫のようなものが生じたことを受けて,「頭部外傷」,「乳児」,「虐待」,「 ロールしていたものと認められる。 さらに,被告人が,本件犯行の4日前に被害者に対して同様の行為を行った後,被害者の頭部に水腫のようなものが生じたことを受けて,「頭部外傷」,「乳児」,「虐待」,「懲役」等の用語に関係する記事を閲覧していること,本件犯行後,自ら119番通報し,臨場した救急隊員に対して事故で落とした旨の事実に反する説明をしていることなどからすれば,被告人は,本件犯行当時,自己の行為の意味や違法性を十分認識していたものと認められる。 以上の点に,前記2でみたとおり,被告人において,犯行当時,うつ病の状 態にあり,その症状は被害者の泣き声に対する耐性を著しく低下させたという点で本件犯行に影響したといえるが,犯行動機の形成に当たっては,被告人の元来の性格傾向も影響したといえること,焦燥感の増大が,本件犯行の衝動的な側面に影響したといえるが,その程度は大きくないこと,結局,うつ病が犯行全体に及ぼした影響は限定的であったといえることを併せ考えると,本件犯行当時,被告人の善悪の判断能力や,行動をコントロールする能力が著しく減退した精神状態にあったとは認められない(被告人には完全責任能力が認められる。)。 (法令の適用)省略(量刑の理由) 1 本件犯行の態様は,生後わずか11か月の乳児であった無抵抗・無防備の被害者を,1メートルを超える高さから,判示の傷害が生じる程度に強い力で畳の上に仰向けに2回たたきつけるというものであって,被害者の生命・身体に対する危険性が高く,悪質というほかない。突然に愛する我が子を失うこととなった被告人の夫が,意見陳述において悲痛な心情を吐露していることも当然のことと理解できる。また,自身のいら立ちを被害者にぶつけたという本件犯行の動機は誠に身勝手で,しかも過剰な反応といわざるを得ないが 被告人の夫が,意見陳述において悲痛な心情を吐露していることも当然のことと理解できる。また,自身のいら立ちを被害者にぶつけたという本件犯行の動機は誠に身勝手で,しかも過剰な反応といわざるを得ないが,動機形成の過程等において被告人のうつ病が影響していることは,一定程度酌む必要がある。そして,被告人において,うつ病にり患する中で負担の大きい三つ子の育児を懸命に行っていたと認められ,そのような本件犯行に至る経緯には,同情できる点も少なくない(なお,弁護人は,三つ子の育児への支援が不十分であった点を指摘し,これを被告人に有利な事情として主張するが,本件における行政や被告人の夫の対応において,量刑上非難の程度を軽減できるような事情があったとは認められない。)。 以上からすれば,本件は,同種事案(子を被害者とする傷害致死事件1件の事 案で,単独犯であるもの)の量刑傾向の中で重い部類に属する事案ということはできないが,執行猶予を付すことができるほど軽い事案と評価することはできない。 2 そこで,被告人に前科前歴がないこと,被告人が本件犯行後119番通報し,救命措置を講じるなどしていること,被告人が自らの行為によって被害者を死亡させたことを重く受け止め,反省の態度を示していること,被告人の父が出廷し,今後は家族と協力して被告人を監督する旨誓約していること等を併せて考慮し,被告人に対しては,主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑懲役6年,弁護人の科刑意見懲役2年6月・付執行猶予)平成31年3月15日名古屋地方裁判所岡崎支部刑事部 裁判長裁判官野村 充 裁判官池田幸子 裁判官西 臨太郎 部 裁判長裁判官 野村充 裁判官 池田幸子 裁判官 西臨太郎

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