平成18年10月26日判決言渡平成16年(行ウ)第3号特別掛金賦課処分取消請求事件口頭弁論終結日平成18年6月22日主文 被告が平成15年9月2日付けで原告に対してした特別掛金9431万1431円の納入告知処分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求主文と同旨第2事案の概要本件は,厚生年金保険法(以下「法」という。)に基づく厚生年金基金である被告の1つの設立事業所の事業主である原告が,従業員44名のうち39名が原告代表者の経営する別会社に転籍したこと(以下「本件転籍行為」という。)により被告の加入員としての資格を喪失したことから,その旨を被告に届け出た(以下「本件届出行為」という。)ところ,被告が,これは事実上,設立事業所の任意脱退に該当するとして,法138条5項,被告規約(ただし,平成15年9月10日付け厚生労働大臣認可による変更前のもの。以下「規約」という。)附則20条ないし22条に基づき,特別掛金(一括拠出金)9431万1431円の納入告知処分をしたため,原告が,本件は設立事業所の任意脱退に当たらないなどと主張して,被告に対し,上記処分の取消しを求め た事案である。 前提事実(当事者間に争いがない事実のほかは,各項に掲記の証拠に弁論の全趣旨を総合して認める。)(1)法令等の定め設立事業所の脱退に係る特別掛金に関する法令等の定めは,別紙のとおりである(乙8の1)。 (2)当事者等ア被告は,昭和46年7月1日,岐阜県に所在する繊維工業を主たる業とする企業の事業所を設立事業所とし,同事業所に使用される厚生年金保険の被保険者である加入員の老齢・死亡等について給付を行い,もって加入員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上を図ることを目的として設立された厚生年金 を設立事業所とし,同事業所に使用される厚生年金保険の被保険者である加入員の老齢・死亡等について給付を行い,もって加入員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上を図ることを目的として設立された厚生年金基金(以下「基金」という。)である。 イ原告は,各種織物の製造販売及び委託加工等を目的とする株式会社である。原告は,被告の創立以来の設立事業所の1つ(以下「原告事業所」という。)の事業主である。平成15年3月31日現在における原告事業所の加入員は44名であり,掛金額は年間約922万3000円であった。 ウ六大有限会社(以下「六大」という。)は,平成15年7月1日に設立された,服地の製造販売等を目的とする有限会社である。六大の主たる営業所の所在地は原告と同一であり,六大と原告の代表取締役も同一であり,その他の役員の構成も原告とほぼ同一である。六大の事業は,原告の工場内で,原告の機械,設備を使用してなされている。(乙5)(3)特別掛金納入告知処分の経緯 ア原告の従業員44名のうち39名は,平成15年7月1日,原告を退社し,同日,六大に入社した。 原告は,被告に対し,上記従業員39名につき,退職を理由とする同日付けの加入員資格喪失届を郵送し,同資格喪失届は,同月7日,被告に到達した(本件届出行為)。 イ被告は,原告が加入員5名を除く他の加入員39名全員について加入員資格を喪失させると同時に六大へ転籍させたこと(本件転籍行為)は法138条5項に該当するとし,原告に対し,平成15年9月2日付けで,規約附則20条ないし22条に基づいて算出した特別掛金(一括拠出金)9431万1431円(以下「本件特別掛金」という。)を納入すべき旨を告知した(以下「本件処分」という。)。 本件特別掛金の額は,原告が同年6月30日に被告を脱退したものとして算定した 一括拠出金)9431万1431円(以下「本件特別掛金」という。)を納入すべき旨を告知した(以下「本件処分」という。)。 本件特別掛金の額は,原告が同年6月30日に被告を脱退したものとして算定したものであり,未償却過去勤務債務4659万8489円,資産計上した特例調整金1711万6121円,加入員脱退に伴う脱退差損1205万7537円及び資産額(財政運営上の評価額)を時価評価した場合に生じる不足金1853万9284円の合計額である。 原告は,現在に至るまで,本件特別掛金を納入していない。 (甲1の2)ウ原告は,平成15年9月30日付けで,社会保険審査会に対し,本件処分につき審査請求をした(甲5,6)。 エ原告は,平成16年3月9日,本件訴えを提起した。 オ社会保険審査会は,平成16年11月30日付けで,上記審査請求を棄 却する旨の裁決をした(乙15)。 争点及びこれに関する当事者の主張(1)本件届出行為について,法138条5項及び規約附則21条を適用ないし準用することは許されるか(本件処分の違法性)。 ア被告の主張(ア)設立事業所の脱退に係る特別掛金の徴収規定(法138条5項及び規約附則21条)が設けられた趣旨は,基金における各設立事業所の加入員又は元加入員に対する給付は,基本的には,当該事業所においてこれに対応する財源を負担すべき性質のものであり,設立事業所が基金から脱退する場合に,財源の不足を基金に残った他の設立事業所の事業主又は加入員に負担させることによって,脱退した設立事業所の加入員及び元加入員に係る年金等の給付を行うことが著しく不公平であるという見地から,脱退する事業所の事業主に対して,当該事業所の加入員及び元加入員に係る年金等の給付のための財源の不足の補填を求めることとしたものである。 (イ)そして,上 ことが著しく不公平であるという見地から,脱退する事業所の事業主に対して,当該事業所の加入員及び元加入員に係る年金等の給付のための財源の不足の補填を求めることとしたものである。 (イ)そして,上記のような財源の公平負担の趣旨は,加入員が減少する場合にも当てはまる。したがって,加入員の減少が,専ら事業所の脱退に係る特別掛金の負担を免れることを目的とし,法138条5項及び規約附則21条の適用を潜脱するためのものであり,その加入員の減少による影響が当該事業所の脱退に匹敵するような場合には,事業所の脱退に準ずるものとして,特別掛金の徴収が許容されるものと解すべきである。 (ウ)本件においては,①本件届出行為により原告事業所の44名中39名という約9割に相当する加入員が減少していること,②上記39名の従業員全員は,資格喪失当日に六大に転籍しているが,六大は,代表者を始めとする役員構成,本店及び事業所の所在地,事業目的等を原告とほぼ同じくし,従前の原告の業務と六大設立後の両事業所の業務の実態には相違がなく,実質的な転籍の事実が認められないこと,③原告は,本件転籍行為は経営の合理化又は再構築を達成するための分社化に伴うものである旨主張するが,原告の挙げる労務費の削減等の分社化の目的はいずれも企業の経営努力によって確保できるものであり,また確保されているものであって,そのための分社化の必要性は認められないこと,④本件届出行為は,掛金の支払に当てるべき資金に余裕がある状態で任意的に加入員を減少させるものであること,⑤原告は,本件転籍行為の直前に脱退に係る特別掛金の額を照会していたこと,以上の特殊事情が存在するのであって,これらの特殊事情にかんがみれば,本件転籍行為は,原告の経営上の実質的な必要に基づくものではなく,専ら特別掛金の負担を免れ に係る特別掛金の額を照会していたこと,以上の特殊事情が存在するのであって,これらの特殊事情にかんがみれば,本件転籍行為は,原告の経営上の実質的な必要に基づくものではなく,専ら特別掛金の負担を免れることを目的としたものであり,これに伴う本件届出行為は,法138条5項及び規約附則21条の適用を潜脱するためのものというべきである。 また,本件届出行為の結果,原告が納付する事務費を除く掛金は,約75万7000円から約12万5000円に減少し,被告は,原告からの毎年の掛金収入を約758万4000円ずつ失うことになったが,他方,被告は,本件届出行為後においても,原告事業所の加入員及び元加 入員に対して毎年約1550万円ないし約1750万円の年金等(国の代行部分を含む。)を支給している。本件届出行為を原因とする原告事業所の加入員又は元加入員に対する将来の年金等の給付に必要な被告の積立金等の不足額を規約の規定により算定すると合計9431万1431円となり,その額は,原告事業所の脱退に係る不足額の合計1億1347万0720円の約83パーセントに相当するのであって,本件届出行為が被告と他の事業所に及ぼす影響は当該事業所の脱退に匹敵するものであるといえる。 以上によれば,本件届出行為は設立事業所の脱退の申出に準ずるものといえ,法138条5項及び規約附則21条の適用又は準用により,本件処分は適法である。 イ原告の主張(ア)特別掛金を賦課する処分は,一方的に相手方に金銭の納付を命ずるという不利益処分であり,滞納処分の適用もあるという点で権力的な行為であるから,課税処分の場合と異ならず,租税法律主義(憲法84条)の趣旨が準用されるというべきであり,特別掛金の賦課は,賦課要件が明確に定められた法律上及び規約上の規定に基づいて行われなければならず,拡大 ら,課税処分の場合と異ならず,租税法律主義(憲法84条)の趣旨が準用されるというべきであり,特別掛金の賦課は,賦課要件が明確に定められた法律上及び規約上の規定に基づいて行われなければならず,拡大解釈は許されない。 この点,規約附則20条は「この基金の設立事業所でなくなる事業所」と規定し,規約附則21条は「設立事業所から脱退の申し出があったときは」と規定していることから,特別掛金を賦課するためには設立事業所が設立事業所でなくなったことが要件となる。 原告は,原告事業所の加入員のうち,分社に伴い原告を退職した従業員39名については資格喪失届を提出したが,5名は引き続き被告の加入者であり(加入者の存在),原告も設立事業所として残る意思であり,脱退の申出は行っていない。 以上によれば,本件は規約附則20条以下の設立事業所でなくなったときに当たらず,特別掛金の賦課の要件を欠いている。 (イ)被告は,設立事業所の任意脱退と同視できる場合あるいは任意脱退に準ずる場合には特別掛金を賦課することができる旨主張する。 しかし,任意脱退と同視できる,あるいは準ずる場合に特別掛金を賦課することができるとする規約上の根拠はない。 また,「任意脱退」に当たるかどうかの解釈論に争いがあるとしても,本件は加入者が44名から5名に減員になったというものであって,減員前の加入者に対し11パーセントの加入者が引き続き加入者として残っているケースであるから,減員の程度として加入者全員が資格喪失したケースと同視できるものではないし,原告は被告に脱退の意思表示をしたことはなく,設立事業所としての地位を引き続き有しており,被告も原告を引き続いて設立事業所として扱っている。以上からすれば,本件届出行為を任意脱退と同視,あるいは準ずるものと解釈することは,文言解釈論の限界を超え 事業所としての地位を引き続き有しており,被告も原告を引き続いて設立事業所として扱っている。以上からすれば,本件届出行為を任意脱退と同視,あるいは準ずるものと解釈することは,文言解釈論の限界を超えているというべきである。 (ウ)また,被告は,本件届出行為は規約附則20条以下の規定を潜脱するためのものであり,また,公平の見地からも特別掛金を課すべきである旨主張する。 しかし,未償却過去勤務債務が未償却になってしまう事態は,任意脱退の場合だけでなく,減員の場合全てに生じ,また,事業廃止による脱退の場合でも,事業は継続しながら基金から脱退する場合でも,未償却過去勤務債務が未回収になることは同様であるところ,被告は,このような未償却過去勤務債務が生じる多数のケースからごく一部の「任意脱退」のケースのみを選択して特別掛金を賦課すると規定したのであり,規約附則20条以下の規定は,包括的な未償却過去勤務債務の公平を確保するための規定,すなわち,未償却過去勤務債務の問題を完全に解決する趣旨で規定されたものではないというべきである。 また,規約の改正は容易に行うことができるのであるから,被告が本件のような場合にも特別掛金を賦課するのであれば,本件届出行為の前に改正を行うべきであったにもかかわらず,被告はそのような規約の改正を行っていない。本件処分は,実質的には,過去の行為について新たな規約を遡及的に適用するのと同様であって許されるものではない。 他方,原告は,経営合理化のために以前から分社化を計画し,実際に労働組合等と協議を行っている。また,六大を設立して原告から独立した事業・会計を行っており,原告から退職した者には現実に退職金も支給している。 被告は,六大が原告と同一の場所で同一の機械設備を使用し,同じ従業員が従事しているとして,実態が全く変わ 原告から独立した事業・会計を行っており,原告から退職した者には現実に退職金も支給している。 被告は,六大が原告と同一の場所で同一の機械設備を使用し,同じ従業員が従事しているとして,実態が全く変わっていないから分社化は行われていないと主張するが,分社とは,従来の一つの会社(事業)を分社することによってコストの削減や経営の自由度の拡大を図るものであ り,特定の工場や販売部門等のある部門をそのまま別法人にするものであるから,分社前と同じ場所で,同じ機械設備を使用し,同じ従業員が働くことは性質上当然のことである。 また,被告は,経営の合理化は,労働条件の変更等によっても達成できたことであり,分社の必要はなかった旨主張するが,労働条件の変更は容易にできるものではなく,分社という合理化策を提示し,危機感を共有してもらい,また,今後は分社した会社単位で事業が行われることとするからこそ合理化交渉ができるようになるのである。 そして,原告では,六大の分社により,再雇用後の給与等の労働コストの削減のほか,従業員の意識改革が達成でき,大きな成果を上げている。 以上によれば,本件届出行為が規約附則20条以下の規定を潜脱するためのものである旨の被告の主張は不当である。 (エ)以上のとおり,規約上の根拠なくして原告に特別掛金を課す本件処分は違法である。 (2)本件処分は,憲法14条違反若しくは平等原則違反,又は公序良俗違反,権利濫用若しくは信義則違反により,無効であるか,さらに,規約附則21条が空文化し,実質廃止されたことにより,無効になったか。 ア原告の主張(ア)年金の賦課金は租税に準ずるものであり,平等原則が適用されるところ,平成11年3月以降の5年間に,少なくとも11の事業所において加入員全員が資格を喪失し,被告を任意脱退(休廃業も含む。)して (ア)年金の賦課金は租税に準ずるものであり,平等原則が適用されるところ,平成11年3月以降の5年間に,少なくとも11の事業所において加入員全員が資格を喪失し,被告を任意脱退(休廃業も含む。)して いるにもかかわらず,被告は,上記全ての事業所から特別掛金を徴収しておらず,任意脱退をしていない原告に対してのみ特別掛金を課している。このような本件処分は,著しく平等原則に違反するものであって,憲法14条に違反し無効である。 (イ)仮に,本件処分に直接憲法14条が適用されないとしても,上記の平等原則違反は,公序良俗違反,権利濫用あるいは信義則違反に該当し,無効である。 (ウ)被告は,平成11年以降,任意脱退した全事業所から特別掛金を一切徴収せず,自ら規約附則21条を空文化し,実質廃止した。よって,規約附則21条は無効となった。 イ被告の主張平成14年4月の厚生年金保険法の改正以前は,特別掛金が徴収できるのは設立事業所の「任意脱退」の場合に限定されていた。ここにいう「任意脱退」とは,基金に継続して加入することが可能であるにもかかわらず自らの意思で設立事業所でなくなる場合,事業は継続しつつ被告を脱退する場合,及び事業主の自由意思による経営上の選択として被告を脱退する場合に限られ,加入を継続することが客観的にも不可能と考えられる事業所の休廃業による脱退の場合は「任意脱退」には当たらない。 原告が指摘する11事業所の脱退は,いずれも休廃業に該当する脱退であり,「任意脱退」に該当するものではなく,被告がこれらの事業所から特別掛金を徴収しなかったことに問題はない。ほかに,このような「任意脱退」に該当する脱退や「任意脱退」に匹敵する加入員減少の事例はなか った。 第3当裁判所の判断 争点(1)(法138条5項及び規約附則21条の適用又 に問題はない。ほかに,このような「任意脱退」に該当する脱退や「任意脱退」に匹敵する加入員減少の事例はなか った。 第3当裁判所の判断 争点(1)(法138条5項及び規約附則21条の適用又は準用の許否)について(1)特別掛金の賦課徴収について,法138条5項は,基金の設立事業所が減少する場合において,当該減少に伴い他の設立事業所に係る掛金が増加することとなるときは,当該減少に係る設立事業所の事業主から特別掛金を一括して徴収するものとする旨を規定し,これを受けて,規約附則21条は,この基金は,設立事業所から脱退の申出があったときは,当該事業所に対して,脱退事業所に係る特別掛金の納入の告知を行うものとする旨を規定している。 しかしながら,前記前提事実並びに証拠(甲3,17,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,従業員の一部の退社に伴い,それらの者についての加入員資格喪失届を被告に提出した(本件届出行為)だけで,原告事業所の脱退の申出はしていないこと,本件届出行為後も原告事業所には被告の加入員として5名が残っていること,被告は,本件処分の後も平成15年9月19日に,原告に対して普通掛金等の納入を告知し,原告からその納付を受けていることが認められる。 以上によれば,本件届出行為後においても,現実に原告事業所が被告の設立事業所として存続しており,被告自身も存続しているものとして扱っていたといえ,本件が,法138条5項の「設立事業所が減少する場合」及び規約附則21条の「設立事業所から脱退の申出があったとき」に文言上該当す るものではないことは明らかであるから,本件について上記各規定を直接適用することはできない。 (2)そこで,すすんで,本件のような加入員の減少にすぎない場合であっても法135条5項及び規約附則21条の規 ではないことは明らかであるから,本件について上記各規定を直接適用することはできない。 (2)そこで,すすんで,本件のような加入員の減少にすぎない場合であっても法135条5項及び規約附則21条の規定を類推適用ないし準用することにより,特別掛金を賦課することが許されるかについて,検討する。 ア憲法84条は,国の財政処理の基本原則である国会中心主義(憲法83条)の収入面における具体化としていわゆる租税法律主義を定めている。 この租税法律主義の趣旨は,本来,特別の給付に対する反対給付としてではなく,一方的・強制的に賦課徴収する租税について,行政権が法律に基づかずに賦課徴収することができないとすることにより,行政権による恣意的な課税から国民を保護することにある。租税法律主義は,具体的には,①課税要件及び賦課徴収の手続は法律によって規定されなければならないという原則(課税要件法定主義)と,②法律によって課税要件及び賦課徴収の手続に関する定めをする場合,その定めはできる限り一義的かつ明確でなければならないという原則(課税要件明確主義)を主たる内容とするものである。そして,租税法規の解釈については,租税法律主義の見地から,規定の文言を離れ,又は文言を置換し,付加することは許されないと解されている。 イ法138条5項の特別掛金は,基金が徴収する掛金の一種であり,原則として設立事業所の事業主が負担する(法139条3項)。基金は,加入員の老齢について給付を行い,もって加入員の生活の安定と福祉の向上を図ることを目的とする制度であり(法106条),この目的を達成するた め,加入員又は加入員であった者の老齢に関し,年金たる給付(老齢年金給付)の支給を行うものとされている(法130条1項)。この給付の特色は,厚生年金保険法上の保険給付のうち,老齢年金の報 るた め,加入員又は加入員であった者の老齢に関し,年金たる給付(老齢年金給付)の支給を行うものとされている(法130条1項)。この給付の特色は,厚生年金保険法上の保険給付のうち,老齢年金の報酬比例部分に相当する額についてこれを上回る給付を行う点にある(法132条)。また,給付の財源として,被保険者(加入員)と事業主が国へ拠出すべき保険料の一部を掛金として基金へ拠出して積み立て(免除保険料率に相応する部分。法81条,同条の3),その資金を基金が管理・運用する仕組みになっており,厚生年金保険事業の一部を基金が国に代わって行っている。 以上からすると,基金における設立事業所の事業主の特別掛金納付義務は,年金給付及び保険給付との対価関係に基づく費用負担としての性質を有するものといえるという点で,本来,特別の給付に対する反対給付としての性質を有しない租税とは異なることから,特別掛金について租税法律主義が直接に適用されることはないというべきである。 ウしかしながら,基金自体は適用事業所が任意に設立するものであるが(法110条),特別掛金を含む掛金は一方的に徴収され,納付しないときは,国税滞納処分の例によるとされ(法141条1項,86条5項),一方的・強制的に賦課徴収されるという点で租税と共通している。よって,一方的・強制的な金銭の賦課徴収について恣意的な運用から国民を保護するという租税法律主義の趣旨は特別掛金の賦課徴収についても妥当するといえるから,特別掛金の賦課徴収については租税法律主義の趣旨を踏まえて検討する必要があると解される。 そうだとすれば,租税法規の解釈の場合と同様に,特別掛金の賦課徴収 に関する規定の解釈においても,規定の文言を離れ,又は文言を置換し,付加することは許されないと解すべきである。 エそして,前記のとおり, れば,租税法規の解釈の場合と同様に,特別掛金の賦課徴収 に関する規定の解釈においても,規定の文言を離れ,又は文言を置換し,付加することは許されないと解すべきである。 エそして,前記のとおり,法138条5項は,基金の設立事業所が減少する場合において,当該減少に係る設立事業所の事業主から掛金として一括して徴収するものとする旨を規定し,これを受けた規約附則21条も,この基金は,設立事業所から脱退の申出があったときは,当該事業所に対して,脱退事業所に係る特別掛金として納入の告知を行うものとする旨を規定していることにかんがみれば,単なる加入員の減少の場合に特別掛金を賦課することは,上記各規定の文言から離れた類推解釈に当たるものであり,憲法84条の租税法律主義の趣旨に反し許されないというべきである。 (3)もっとも,被告は,加入員の減少が,専ら特別掛金の負担を免れることを目的とし,法138条5項及び規約附則21条の適用を潜脱するためのものであり,その加入員の減少による影響が当該事業所の脱退に匹敵するような場合には,事業所の脱退に準ずるものとして,特別掛金の徴収が許容されるものと解すべきであると主張するので,以下,さらに検討する。 ア乙第28号証及び弁論の全趣旨によれば,法138条5項及び規約附則21条によって,「設立事業所が減少する場合」ないし「設立事業所から脱退の申出があったとき」に特別掛金を賦課徴収することとしたのは,基金の設立事業所の脱退等に伴い,財源不足から,他の設立事業所に係る掛金が増加することとなるような場合に,基金から脱退した設立事業所の加入員及び元加入員において,財源の不足を基金に残った他の設立事業所の事業主又は加入員に負担させることによって,自らの年金等の給付を受け ることは不公平であるとの観点から,基金から脱退す 業所の加入員及び元加入員において,財源の不足を基金に残った他の設立事業所の事業主又は加入員に負担させることによって,自らの年金等の給付を受け ることは不公平であるとの観点から,基金から脱退する設立事業所の事業主に対し,同事業所の加入員及び元加入員に係る年金等の給付のための財源の不足の補填を求め,もって受給権を確保するという趣旨であることが認められる。 このような趣旨に照らせば,法138条5項及び規約附則21条は,加入員を減少させる際にそれほど期間を空けずに基金から脱退することを予定していたなど,加入員の減少に関し,専ら法138条5項及び規約附則21条の規定の適用を潜脱する目的で行われたと認められるような特段の事情がある場合についてまでも,加入員の減少にすぎないことをもって特別掛金の賦課徴収を否定するものではなく,上記のような特段の事情がある場合にはこれらの規定を準用して特別掛金を賦課徴収することも許されるものと解される。 イそこで,本件届出行為につき,専ら法138条5項及び規約附則21条の規定の適用を潜脱する目的で行われたと認められるような特段の事情があるかどうかを検討するに,前記前提事実並びに証拠(甲7の1~4,8の1~3,9の1・2,10,11,15~20,乙4の1・2,7の1~3,22の1~4,31,36,証人A,証人B,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,(ア)原告の決算報告書(損益計算書)上の売上高は,以下のとおり急激な減少傾向にあり,これに伴い,決算報告書上の当期利益も急激な減少傾向にあり,49期には損失(マイナス)に転じていること36期(平成元年7月1日から平成2年6月30日まで) 売上高32億9827万9800円当期利益1億4577万5317円41期(平成6年7月1日から平成7年6月30日ま )に転じていること36期(平成元年7月1日から平成2年6月30日まで) 売上高32億9827万9800円当期利益1億4577万5317円41期(平成6年7月1日から平成7年6月30日まで)売上高24億5840万7939円当期利益6740万9171円48期(平成13年7月1日から平成14年6月30日まで)売上高12億2866万0498円当期利益3498万5506円49期(平成14年7月1日から平成15年6月30日まで)売上高9億7944万6200円当期利益▲4065万0898円,(イ)平成14年ころから原告において分社化が検討されていること,(ウ)原告は,平成15年4月1日の時点で,同年7月の新会社(六大)発足を前提として,原告の労働組合である渡六毛織労働組合との間で,新会社への従業員の雇入れに関し,リストラはしないこと,賃金については平成16年3月分給与まで現状を維持することなどを内容とする協定を締結していること,(エ)被告は,平成15年5月21日,原告の従業員であるAから,原告の積立金不足分を早急に回答してもらいたい旨の依頼を受け,三井アセット信託銀行株式会社(以下「三井アセット」という。)に対し,原告が脱退した場合の特別掛金の額の試算を依頼し,同年6月27日付けで三井アセットから同年4月1日に原告が脱退した場合の特別掛金は1億 1347万0720円となる旨の試算の報告を受け,同年7月1日ころ,これをAに手渡していること,(オ)同日,六大が設立され,原告の従業員44名のうち39名が六大に転籍したこと,残った原告の従業員のほとんどは原告代表者の親族であること,(カ)原告は,同月15日に,原告から六大に転籍した従業員のうち29名について退職金として合計9764万7724円を現実に支出 したこと,残った原告の従業員のほとんどは原告代表者の親族であること,(カ)原告は,同月15日に,原告から六大に転籍した従業員のうち29名について退職金として合計9764万7724円を現実に支出していること,(キ)原告から六大に転籍した60歳以上の従業員について平成16年4月から給与の減額を実施するなどして1000万円程度の労務費削減が行われていること,(ク)六大設立後は,原告は経営方針決定,企画,営業の一部,財務処理を行い,六大に製造,営業を業務委託していること,(ケ)六大では原告から独立した会計が行われていること,(コ)原告には分社化の時点で約18億円程度の剰余金があったこと,以上の事実が認められる。 ウ上記認定事実によれば,原告が脱退した場合の特別掛金は,三井アセットの試算によれば,1億円程度になること,原告は,本件転籍行為の直前に,被告に対して積立金の不足分を照会し,早急に回答することを求めたため,被告がこのような照会を行ったことが認められるところ,原告が上記のように早急な回答を求めたことについて,原告代表者によっても証人Aによっても,合理的な理由の説明はなされていないことからすると,原 告が本件転籍行為を行うにあたり,特別掛金の負担について全く考慮していなかったということは考えがたい。 しかしながら,上記認定事実によれば,原告の業績が急激な悪化傾向にあったことは明らかであり,このような業績の状況にかんがみれば,たとえ原告には分社化当時まだ約18億円程度の剰余金があったとしても,原告において,業績悪化に対して分社化等の企業防衛の手段を考えることは不自然とはいえない。また,上記認定事実のとおり,六大に従業員を転籍させたことにより,労務費が削減されるなどの効果もそれなりに現れていること,指揮系統の明確化や従 化等の企業防衛の手段を考えることは不自然とはいえない。また,上記認定事実のとおり,六大に従業員を転籍させたことにより,労務費が削減されるなどの効果もそれなりに現れていること,指揮系統の明確化や従業員の意識改革等の見地から現業部門を分社化することも分社化の形態として格別不合理であるとまではいえないこと,会社の形態として同族会社というものも一般に存在していることなどに照らせば,原告の従業員44名のうち39名を転籍させ,原告に残った従業員のほとんどを原告代表者の親族とした本件分社化に必要性及び合理性がなかったとまではいえない。さらに,これに加えて,上記認定事実のとおり,分社化の検討及びその準備は被告に積立金不足額を照会する以前から行われており,実際にも計画どおりに平成15年7月に六大が設立されていること,従業員を転籍させるに際しては,労使交渉を経ており,退職金も実際に支払われていること,原告と六大ではそれぞれ独立して事業が行われており,会計もそれぞれ独立していることなどからすれば,分社自体が実質的に行われていたといえる。 エ以上を総合すれば,本件転籍行為は,「専ら」事業所の脱退に係る特別掛金の負担を免れることを目的として行われたものであるとはいえず,本 件全証拠を精査しても,ほかに,本件届出行為について専ら法138条5項及び規約附則21条の規定の適用を潜脱する目的で行われたと認められるような特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件において,原告に本件特別掛金を賦課することは許されず,被告の前記主張は採用することができない。 よって,その余の点について判断するまでもなく,法138条5項及び規約附則21条を適用ないし準用して特別掛金を賦課した本件処分は違法である。 第4 結論 以上によれば,原告の本件請求は理 きない。 よって,その余の点について判断するまでもなく,法138条5項及び規約附則21条を適用ないし準用して特別掛金を賦課した本件処分は違法である。 第4 結論 以上によれば,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第1部裁判長裁判官筏津順子裁判官岩井直幸裁判官島根里織 (別紙)第1法第138条(1~4は省略) 基金の設立事業所が減少する場合において,当該減少に伴い他の設立事業所に係る掛金が増加することとなるときは,当該基金は,当該増加する額に相当する額として厚生労働省令で定める計算方法のうち規約で定めるものにより算定した額を,当該減少に係る設立事業所の事業主から掛金として一括して徴収するものとする。 第2規約附則第20条第77条第4項に規定する基本特別掛金は,当該掛金率算定時における過去勤務債務の償却費用に充てるための掛金率であり,この基金の設立事業所でなくなる事業所(設立事業所でなくなる事業主の事業及び権利義務を継承する事業主が,引き続きこの基金の設立事業所の事業主として存続する場合を除く。以下「脱退事業所」という。)については,当該掛金率による収入現価相当額及び移行調整金残高を未償却過去勤務債務とする。 第21条この基金は,設立事業所から脱退の申出があったときは,当該脱退により生ずると見込まれる当該事業所に係る次の各号に掲げる債務及び不足金 を算出し,当該事業所に対して,脱退事業所に係る特別掛金として納入の告知を行うものとする。 (1)前条に定める未償却過去勤務債務(2)直前決算時における繰越不足金(3)資産計上した特例調整金(4)加入員脱退に伴う脱退差損(5)資産額(財政運営上の評価額)を時価評価し する。 (1)前条に定める未償却過去勤務債務(2)直前決算時における繰越不足金(3)資産計上した特例調整金(4)加入員脱退に伴う脱退差損(5)資産額(財政運営上の評価額)を時価評価した場合に生じる不足金 脱退事業所等の事業主は,前項の規定により納入告知された脱退事業所に係る特別掛金について,脱退日の属する月の翌月末日までに,この基金に納付しなければならない。 第22条前条各号に定める脱退事業所に係る特別掛金の額は,次の各号に掲げる額とする。 (1)前条第1項第1号に定める債務次のア及びイの合計額ア脱退日の属する月の前月の加入員の報酬標準給与の月額(中略)の12倍に1000分の27を乗じた額に,脱退日の属する月における残余償却年数に対応する別表第12の年金現価率を乗じて得た額イ脱退日の属する月の直前の決算時(脱退日の属する月が1月から9月までのときは前年3月末日,10月から12月までのときは当年3月末日。以下に同じ。)における移行調整金残高を直前の決算時から脱退日の属する月の前月末日まで予定利率で付利した額に,脱退日の属する月 の直前の決算時における,この基金の報酬標準給与の月額の総額に対する脱退事業所の加入員に係る報酬標準給与の月額の割合を乗じて得た額(2)前条第1項第2号に定める不足金(省略)(3)前条第1項第3号に定める額脱退日の直前の決算時における資産計上した特例調整金を直前の決算時から脱退日の属する月の前月末日まで予定利率で付利した額に,脱退日の属する月の直前の決算時における,この基金の報酬標準給与の月額の総額に対する脱退事業所の加入員に係る報酬標準給与の月額の割合を乗じて得た額(4)前条第1項第4号に定める差損事業所の脱退によって発生する退職一時金額,移換金額及び加入員期間 給与の月額の総額に対する脱退事業所の加入員に係る報酬標準給与の月額の割合を乗じて得た額(4)前条第1項第4号に定める差損事業所の脱退によって発生する退職一時金額,移換金額及び加入員期間10年以上又は55歳以上の者に係る第1種退職年金及び第2種退職年金の給付現価額から当該脱退によって資格を喪失する加入員に係る数理債務を控除した額。ただし,この額が負になるときは,これを0とする。 (5)前条第1項第5号に定める不足金脱退日の属する月の直前の決算時における資産評価調整加算額を直前の決算時から脱退日の属する月の前月末日まで予定利率で付利した額に,脱退日の属する月直前の決算時における,この基金の報酬標準給与の月額の総額に対する脱退事業所の加入員に係る報酬標準給与の月額の割合を乗じて得た額
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