平成15年(行ケ)第409号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成16年3月15日判決原告 A同訴訟代理人弁理士八木田茂同浜野孝雄同森田哲二同平井輝一被告特許庁長官今井康夫同指定代理人柿沢恵子同河野直樹同一色由美子同涌井幸一 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が不服2000―12620号事件について平成15年7月29日にした審決を取り消す。 第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯原告は,特許庁に対し,平成9年11月11日,発明の名称を「焼酎蒸留残渣から飲料を製造する方法及び焼酎蒸留残渣から製造された飲料」とする発明につき特許出願(平成9年特許願第308401号。以下「本件出願」という。)を行ったところ,特許庁は,平成12年6月29日に 残渣から飲料を製造する方法及び焼酎蒸留残渣から製造された飲料」とする発明につき特許出願(平成9年特許願第308401号。以下「本件出願」という。)を行ったところ,特許庁は,平成12年6月29日に拒絶査定をした。 そこで,原告は,平成12年8月10日,拒絶査定不服審判の請求をした(不服2000―12620号)ところ,特許庁は,平成15年7月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を行い,その謄本は,同年8月13日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲本件出願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。 【請求項1】いも類又は穀類を原料として使用し,上記原料の糖化及びアルコール発酵を行った後,発酵製品(もろみ)の蒸留を行いついで主としてアルコール分を留出させることにより乙類焼酎を製造した後に残留する蒸留残渣に甘味料を添加した後,磨砕することを特徴とする,焼酎蒸留廃液からの飲料の製造方法。(以下,この発明を「本願発明1」という。)【請求項2】いも類又は穀類を原料として使用し,上記原料の糖化及びアルコール発酵を行った後,発酵製品(もろみ)の蒸留を行いついで主としてアルコール分を留出させることにより乙類焼酎を製造した後に残留する蒸留残渣に甘味料を添加した後,磨砕することにより焼酎蒸留廃液から製造された飲料。(以下,この発明を「本願発明2」という。) 3 本件審決の理由の要旨本件審決は,次のとおり,本願発明1,2は,焼酎についての周知事項を勘案すると,特開昭50-49469号公報(甲2。以下「引用例1」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29 ,2は,焼酎についての周知事項を勘案すると,特開昭50-49469号公報(甲2。以下「引用例1」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 (1) 本願発明1についてア発明の目的について本願発明1と引用例1に記載された発明は,同じ課題認識の下に略同じ目的を達成するものである。 イ発明の特定事項について(ア) 本願発明1と引用例1に記載された発明を対比すると,両者は,「焼酎を製造した後に残留する蒸留残渣に,糖類を添加する焼酎蒸留廃液からの飲料の製造方法」である点で一致しており,下記の点で相違していると認める。 1)焼酎が,本願発明1では,いも類又は穀類を原料として使用し,該原料の糖化及びアルコール発酵を行った後,発酵製品(もろみ)の蒸留を行いついで主としてアルコール分を留出させることにより製造した乙類焼酎であるのに対して,引用例1に記載された発明では,単に焼酎としか記載されていない点(相違点1)。 2)糖類を添加した後に,本願発明1では,磨砕しているのに対して,引用例1に記載された発明では,そのような記載がない点(相違点2)。 (イ) 上記相違点1について検討する。 まず,乙類焼酎を使用する点について検討すると,原告も認めるように,従来から,焼酎には,連続式蒸留機で蒸留して得られた純エチルアルコールを水で薄めたもので新式焼酎又はホワイト・リカーとも呼ばれる「甲類焼酎」と,蒸留を構造の簡単な単式蒸留機を使用して行うことにより,アルコールのほかに多種類の微量香気成分を含有している「 ルアルコールを水で薄めたもので新式焼酎又はホワイト・リカーとも呼ばれる「甲類焼酎」と,蒸留を構造の簡単な単式蒸留機を使用して行うことにより,アルコールのほかに多種類の微量香気成分を含有している「乙類焼酎」があることは,周知の事実であるから,引用例1の焼酎として2種のうちの1つである乙類焼酎を選択する程度のことは,格別な創意工夫なくして当業者が容易になし得ることにすぎず,しかも,乙類焼酎を選択したことによる格別な効果は認められない。 次に,「いも類又は穀類を原料として使用し,該原料の糖化及びアルコール発酵を行った後,発酵製品(もろみ)の蒸留を行いついで主としてアルコール分を留出させることにより製造した」点について検討すると,焼酎の製造においては,甲類焼酎も乙類焼酎も,共に「いも類や穀類を原料とし,該原料の糖化及びアルコール発酵を行った後,発酵製品(もろみ)の蒸留を行いついで主としてアルコール分を留出させることにより焼酎を製造すること」は周知の事実であるため,引用例1に記載された発明においても,当然行われていると認められるから,本願発明1において乙類焼酎をこのように製造する点に実質的な相違ないしは特徴があるとは認めない。 なお,原告は,本願発明1では,乙類焼酎の製造においては,麹菌として河内菌白麹,泡盛黒麹菌のごときクエン酸生成能の大きい麹菌を使用している点を,特許請求の範囲に追記したい旨主張しているが,従来から乙類焼酎の製造においては,粗白米等の粗原料を用い,九州のような暖地で製造されるので,もろみを生酸菌による汚染からまもり,安全醸造を行うためにはクエン酸を蓄積し,かつ耐酸性糖化酵素を生産する黒麹菌系統の麹菌が適しているが,黒麹菌は着衣や器具を汚すので,次第に黒麹菌の変異株である白麹菌の を生酸菌による汚染からまもり,安全醸造を行うためにはクエン酸を蓄積し,かつ耐酸性糖化酵素を生産する黒麹菌系統の麹菌が適しているが,黒麹菌は着衣や器具を汚すので,次第に黒麹菌の変異株である白麹菌の使用が増加していることは周知の事実であるから,麹菌として河内菌白麹や泡盛黒麹菌を用いる点に何ら特徴を見出すことはできない点に留意すべきである。 (ウ) 上記相違点2について検討する。 引用例1の実施例3では,焼酎の蒸留残液を濾過したものを使用しているが,蒸留残液はそのまゝ用いることもできると明記されている。 そして,乙類焼酎のうちでも甘藷(サツマイモ)焼酎の蒸留残液は,BOD(ppm)が41200と高くても,有害物を含まないうえに,炭水化物,タンパク質,無機物に富んでいることは周知の事実であるから,該蒸留残液をそのまゝ用いた場合には,原料のいも類(外皮を含む)や穀類中に含まれている繊維質物質等々が固形物質(いわゆる酒粕に相当するもの)として残存してくるため,口当たりをよくするために磨砕する程度のことは,適宜行いうるごくありふれた処理操作にすぎず,この点に格別な困難性を見出せない。 ウ発明の効果について本願発明1では,美味なかつ極めて食感の優れた飲料を得ることができるという効果を奏するとしている{[0017]の記載参照}が,引用例1に記載された発明においても,焼酎の蒸留残液から,独特のフレーバー(醸造臭)を有し,かつ微量のアミノ酸およびビタミンなどを含み,しかもアルコールを含有しないきわめて特徴のある香味をもった新規な飲料を得ていること,そして,乙類焼酎の甘藷(サツマイモ)焼酎の蒸留残液には,水分中に澱粉質(酵素により糖化できなかったデキストリン等) もアルコールを含有しないきわめて特徴のある香味をもった新規な飲料を得ていること,そして,乙類焼酎の甘藷(サツマイモ)焼酎の蒸留残液には,水分中に澱粉質(酵素により糖化できなかったデキストリン等),蛋白質,脂肪,繊維,灰分等々を含んでいて,BOD負荷が高いことは,周知の事実であるから,引用例1において焼酎の蒸留残液をそのまゝ用いて得られた新規な飲料は,いも類(外皮を含む)や穀類中に含まれている繊維質物質の他,添加した酵母や菌体のかす等々を含むため,体に良い健康食品となるという程度のことは,当業者であれば,引用例1から充分予測し得る程度のことにすぎないので,本願発明1で奏される効果は,何ら格別な効果と認めることはできない。 エ結論したがって,本願発明1は,焼酎についての周知事項を勘案すると,引用例2~4の記載内容を考慮するまでもなく,引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであると認める。 (2) 本願発明2についてまた,本願発明2は,本願発明1に係わる製造方法により製造された飲料に係わる物の発明であるから,本願発明1の特定事項を特定事項の全てとしているため,本願発明1で上記したと同じ理由により,引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであると認める。 第3 原告主張に係る本件審決の取消事由の要点本件審決は,本願発明1と引用例1に記載された発明との一致点を誤認したことにより相違点を看過し(取消事由1),また,相違点2についての判断を誤った(取消事由2)結果,本願発明1についての進歩性の判断を誤り,また,同様の理由により,本願発明2についての進歩性の判断を誤ったものであり,その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らか を誤った(取消事由2)結果,本願発明1についての進歩性の判断を誤り,また,同様の理由により,本願発明2についての進歩性の判断を誤ったものであり,その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過)(1) 本件審決は,本願発明1と引用例1に記載された発明との一致点を,「焼酎を製造した後に残留する蒸留残渣に,糖類を添加する焼酎蒸留廃液からの飲料の製造方法」と認定した。引用例1の蒸留残液が,本願発明1の蒸留残渣に相当するものであることは認めるが,乙類焼酎の製造から生じた蒸留残液を利用する場合,本願発明1は,「蒸留残液そのままのもの」を使用するのに対して,引用例1に記載された発明は,事実上,「蒸留残液をろ過したろ液」を使用することに限られる点で,両者は相違するものであるから,本件審決が,この相違点を看過して,上記の点を一致点として認定したのは誤りである。 すなわち,引用例1の特許請求の範囲において定義された発明には,乙類焼酎製造時に生ずる最初の蒸留残液そのままのものに,糖類,有機酸等を加えることによる新規な飲料の製造方法も文言上は包含されるが,乙類焼酎蒸留残液の有効利用に関しては,実施例3において焼酎の蒸留残液をろ過して繊維質物質などの固形物質が除去されたろ液を用いて飲料を製造した例が記載されているのみであり,繊維質物質を含有する蒸留残液そのままのものを使用した場合の実施例は開示されていない。乙類焼酎製造から生じた蒸留残液そのままのものを使用し,引用例1の特許請求の範囲の記載に従って得られる製品は,残存する繊維質物質が粗い粒子でざらざらの食感を与えて,飲用に耐えられず,美味な飲料を製造するという引用例1に記載された発明の目的を を使用し,引用例1の特許請求の範囲の記載に従って得られる製品は,残存する繊維質物質が粗い粒子でざらざらの食感を与えて,飲用に耐えられず,美味な飲料を製造するという引用例1に記載された発明の目的を達成できない。したがって,乙類焼酎蒸留残液の利用に関する限り,引用例1に記載されているのは,蒸留残液をろ過したろ液を使用する発明のみであり,蒸留残液そのままのものを使用する発明は記載されていない。 (2) なお,引用例1には,焼酎の蒸留残液そのままのものを使用する発明が記載されていない以上,本件審決が,引用例1にそのような発明が記載されていることを前提として,「引用例1において焼酎の蒸留残液をそのまゝ用いて得られた新規な飲料は,…体に良い健康食品となるという程度のことは,当業者であれば,引用例1から充分予測し得る程度のことにすぎないので,本願発明1で奏される効果は,何ら格別な効果と認めることはできない。」(5頁23~28行)と判断したことも誤りである。 2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)本件審決は,相違点2(糖類を添加した後に,本願発明1では,磨砕しているのに対して,引用例1に記載された発明では,そのような記載がない点)について,「口当たりをよくするために磨砕する程度のことは,適宜行いうるごくありふれた処理操作にすぎず,この点に格別な困難性を見出せない。」(5頁13~14行)とするが,誤りである。 本願発明1においては,甘味料(糖類)の添加の後に,磨砕することによって,甘味料が磨砕された混合物の全体に行き渡り,かつ,繊維質物質などの固形物質が微細化されるという作用が行われ,そのことによって,美味かつ食感良好な飲料を得るという効果を奏する。これに対して,引用例1には,乙類焼酎蒸留残渣そのままのものを使用 かつ,繊維質物質などの固形物質が微細化されるという作用が行われ,そのことによって,美味かつ食感良好な飲料を得るという効果を奏する。これに対して,引用例1には,乙類焼酎蒸留残渣そのままのものを使用する実例も,磨砕することも全く記載されていないから,甘味料の添加の後に磨砕を行うこと及びそれによる効果は,引用例1に記載された事項から全く予測できないことである。 第4 被告の反論の要点本件審決の判断に誤りはないから,原告の主張する本件審決の取消事由には理由がない。 1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過)について(1) 引用例1には,特許請求の範囲に,「…最初の蒸留残液またはそのろ液に…」と,最初の蒸留残液をそのまま用いる場合についても,文言上明確に記載されており,また,最初の蒸留残液またはそのろ液を飲料の原材料として同様に用い得ることについて,発明の詳細な説明の多数箇所に記載され,しかも,蒸留残液をそのまま用いる実施例としてブランデーの蒸留残液を用いる例が具体的に記載されている。焼酎の場合には,実施例としては,焼酎の蒸留残液をろ過したものを用いて最終的な飲料を得ている場合が記載されているのみであるが,実施の態様としてより好ましい結果が得られる場合を具体的に実施例として記載しただけのことであるから,引用例1に記載された発明を,実施例として記載がある焼酎の蒸留残液をろ過したものを用いる場合のみに限定して解釈すべき合理的根拠はない。そして,引用例1の蒸留残液は,本願発明1の蒸留残渣に相当するものであるから,本件審決の一致点の認定に誤りはない。 (2) なお,引用例1においても,焼酎蒸留残液をそのまま用いた場合にあっては,粗蛋白質,粗脂肪,可溶無窒素物,粗繊維,粗灰分等々もそのまま含まれるため,それを飲料とした場合に 誤りはない。 (2) なお,引用例1においても,焼酎蒸留残液をそのまま用いた場合にあっては,粗蛋白質,粗脂肪,可溶無窒素物,粗繊維,粗灰分等々もそのまま含まれるため,それを飲料とした場合には,粗蛋白質,粗脂肪,可溶無窒素物等を含むため栄養豊富であり,かつ,繊維,灰分を含むため体に良い飲料,すなわち,健康飲料になるということは,当業者が容易に予想し得る程度のことにすぎない。 2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について従来から,飲料の代表格ともいえる果実飲料(果汁)等において,美味であることは当然のこととして,容易に分離・沈殿を生じない,舌ざわりの滑らかな丸みのある味の,すなわち,食感に優れた果汁とすることにより,商品価値の向上を図っていることからも明らかなように,舌ざわりが滑らかであることは飲料における自明な課題である。そして,当該課題解決の手段として,高速度ミキサー等を含む均質機を使用して,果汁に混在するパルプ質(繊維質)などの固形物を微細化し一様な懸濁状態を形成することは,周知である(乙1)。日常生活においても,繊維質を含む果実や野菜と共に水,糖類を加えてミキサーにより微細化すなわち磨砕して,美味かつ食感に優れた果実ジュースや野菜ジュースを製造することはごく普通に行われている(乙2)。ところで,従来から,焼酎蒸留廃液には,繊維や灰分などの固形物が存在することは周知であり(乙3,4),焼酎蒸留廃液をそのまま用いたのでは食感としてザラついたものとなり製品価値のないものとなってしまうことは明らかであるから,飲料の自明な課題である舌ざわりの滑らかなものとすることのために,高速度ミキサー等を用いて微細化・均質化を行って一様な懸濁状態とすることは,当業者が容易に行い得ることである。 しかも,微細化すなわ 明な課題である舌ざわりの滑らかなものとすることのために,高速度ミキサー等を用いて微細化・均質化を行って一様な懸濁状態とすることは,当業者が容易に行い得ることである。 しかも,微細化すなわち磨砕することにより,焼酎蒸留廃液中の繊維等の固形分の粒子は,微細化・均質化され一様な懸濁状態となるため,得られた飲料は舌ざわりの滑らかな丸みのある味の優れた飲料になることは,上記のとおり周知であるから,磨砕による本願発明の効果は自明の効果にすぎない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過)について(1) 原告は,「乙類焼酎の製造から生じた蒸留残液を利用する場合,本願発明1は,蒸留残液そのままのものを使用するのに対して,引用例1に記載された発明は,事実上,蒸留残液をろ過したろ液を使用することに限られる点で,両者は相違するものであるから,本件審決が,この相違点を看過して,「焼酎を製造した後に残留する蒸留残渣に,糖類を添加する焼酎蒸留廃液からの飲料の製造方法」を両者の一致点として認定したのは誤りである。」旨主張する。 ア引用例1には,「蒸留酒製造時に得られる最初の蒸留残液またはそのろ液に,糖類,有機酸等を加えるか,またはこれらとともに水を加えることを特徴とし,必要に応じてさらにこれに炭酸ガスを添加することよりなる新規な飲料の製造方法。」(特許請求の範囲),「本発明で使用する蒸留残液はウイスキー,ブランデー,焼酎,ラム等のような蒸留酒の製造時に得られる最初の蒸留残液,すなわち蒸留酒製造時の蒸留工程において最初(第1回目)の釜残として得られる蒸留残液がよい。蒸留残液はそのまま用いることもできるが,これをろ過して得たろ液を用いるのが好ましい。」(2頁左上欄9~15行)と記載されており,実施例2,4には 初(第1回目)の釜残として得られる蒸留残液がよい。蒸留残液はそのまま用いることもできるが,これをろ過して得たろ液を用いるのが好ましい。」(2頁左上欄9~15行)と記載されており,実施例2,4には,蒸留残液をそのまま用いる例として,ブランデーの蒸留残液を使用する例が記載され,実施例1,3,5には,蒸留残液のろ液を用いる例として,それぞれ,ウイスキーの蒸留残液をろ過したもの,焼酎の蒸留残液をろ過したもの,ラムの蒸留残液をろ過したものを使用する例が記載されている。これらの記載を総合すると,引用例1には,蒸留酒の製造時に得られる蒸留残液そのものを使用する場合と,そのろ液を使用する場合の両方の発明が記載されていることは明らかであり,蒸留酒の一種である焼酎の蒸留残液についても,そのろ液を使用する発明のみならず,そのまま使用する発明も開示されていると解するのが相当である。そして,引用例1の蒸留残液が,本願発明1の蒸留残渣に相当するものであることは,当事者間に争いがない。したがって,本願発明1と引用例1に記載された発明とは,蒸留残渣そのものを使用する点で一致しているということができ,本件審決の上記一致点の認定は相当であるから,原告の上記主張は理由がない。 イこれに対し,原告は,引用例1に記載された発明が,事実上,蒸留残液をろ過したろ液を使用することに限られるとする理由として,①焼酎蒸留残液をろ過したものを使用する実施例しか記載されておらず,焼酎蒸留残液そのままのものを使用する実施例が記載されていないこと,及び②乙類焼酎の製造から生じた蒸留残液そのままのものを使用し,引用例1の特許請求の範囲の記載に従って得られる製品は,残存する繊維質物質が粗い粒子でざらざらの食感を与えて,飲用に耐えられず,美味な飲料を製造するという引用例1に記載された発 のままのものを使用し,引用例1の特許請求の範囲の記載に従って得られる製品は,残存する繊維質物質が粗い粒子でざらざらの食感を与えて,飲用に耐えられず,美味な飲料を製造するという引用例1に記載された発明の目的を達成できないことを挙げる。しかしながら,①については,特許に係る明細書に記載された実施例は,出願人が最良と考える発明の実施の形態を具体的に示したものであって,発明の全ての態様が実施例として示されるものではないから,引用例1に焼酎蒸留残液そのままのものを使用する実施例の記載がないことをもって,直ちに焼酎蒸留残液のろ液を使用する発明しか開示されていないと結論づけることはできない。また,②については,引用例1には,「蒸留酒製造時に得られる最初の蒸留残液(以下単に蒸留残液という)が独特のフレーバー(醸造臭)を有し,かつ微量のアミノ酸およびビタミンなどを含み,これに糖類,有機酸等を加えるか,またはこれらとともに水を加えることにより独特のフレーバー(醸造臭)を有し,しかもアルコールを含有しないきわめて特徴のある香味をもった新規な飲料(非炭酸飲料)を得ることができること…を見出した。」(1頁右下欄7~18行),「かくして本発明によれば,従来利用面の乏しかった蒸留残液より独特のフレーバー(醸造臭)をもち,しかもアルコールを含有しない,きわめて特徴のある香味をもった新規な飲料(非炭酸飲料,炭酸飲料あるいは低カロリー飲料)を容易に製造することができる」(2頁左下欄11~16行)と記載されているから,引用例1に記載された発明は,独特のフレーバー(醸造臭)をもち,アルコールを含有しない,きわめて特徴のある香味をもった新規な飲料を提供することを目的とするものであると認められるところ,繊維質物質が残存するからといって,独特のフレーバー(醸造臭)をもち,アルコ アルコールを含有しない,きわめて特徴のある香味をもった新規な飲料を提供することを目的とするものであると認められるところ,繊維質物質が残存するからといって,独特のフレーバー(醸造臭)をもち,アルコールを含有しない,きわめて特徴のある香味をもった新規な飲料を提供するという引用例1に記載された発明の目的が達成できなくなるとは認められない(なお,蒸留残渣をそのまま使用して飲料を製造する場合,残存する繊維質物質が食感を悪化させるという問題が生じ得るものの,後記2のとおり,この問題は周知技術の適用により容易に解決できるものであることは,引用例1に接した当業者が当然に理解することである。)。したがって,原告の上記主張は理由がない。 (2) なお,原告は,「引用例1には,焼酎の蒸留残液そのままのものを使用する発明が記載されていない以上,本件審決が,引用例1にそのような発明が記載されていることを前提として,「引用例1において焼酎の蒸留残液をそのまゝ用いて得られた新規な飲料は,…体に良い健康食品となるという程度のことは,当業者であれば,引用例1から充分予測し得る程度のことにすぎないので,本願発明1で奏される効果は,何ら格別な効果と認めることはできない。」と判断したことも誤りである。」旨主張する。 しかしながら,上記(1)認定のとおり,引用例1には,焼酎の蒸留残液そのままのものを使用する発明が記載されているから,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。 2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について(1) 原告は,「引用例1には,乙類焼酎蒸留残渣そのままのものを使用する実例も,磨砕することも全く記載されていないことが明らかであるから,甘味料の添加の後に磨砕を行うことは,引用例1に記載された事項から予測できない。 用例1には,乙類焼酎蒸留残渣そのままのものを使用する実例も,磨砕することも全く記載されていないことが明らかであるから,甘味料の添加の後に磨砕を行うことは,引用例1に記載された事項から予測できない。」旨主張する。 乙1(社団法人日本果汁協会監修「果汁・果実飲料事典」1978年9月30日初版第1刷,株式会社朝倉書店発行)には,「果実を飲料に利用する方法として,不溶性固形物を可及的に除いた果汁を用いる場合,果肉を破砕し不溶性固形物を含む状態で用いる場合,外皮を含む全果を破砕し種子など特に粗剛な固形物のみを除いて用いる場合および乾燥果実の果肉を破砕しもしくは抽出して用いる場合とがある。」(1頁),「2.均質機均質機(homogenizer)は元来液-液を完全に乳化混合し,容易に分離しない乳濁液(emulsion)を製造する機械で,乳化機(emulsifier)というのが本当であるが,懸濁する固形粒子を微細化し安定な懸濁液を造るいわゆるコロイドミル(colloidmill)も含めて均質機と総称され,厳密なよび名とはなっていない。…均質機使用の目的は,容易に分離・沈殿を生じない果汁を製造し,舌ざわりのなめらかな丸味のある味の果汁とするためで,その結果商品価値が著しく向上する。 2.1高圧式ホモジナイザー …果汁では果汁中に混在するパルプ質などの固形物を微細化し一様な懸濁状態を形成するため広く用いられている。」(20頁),「2.4その他のホモジナイザー湿式で使用されるハンマーミル形式のものにウルトラマイザーがあり,懸濁粒子の微細化を主目的に使用される。また高速ミキサーは回分式小規模の場合に利用される。」(22頁)との記載があるから,これらの記載によれば,果実を飲料に利用する方法として,果肉を破砕し不溶性固形物を含む状態で用いる方 に使用される。また高速ミキサーは回分式小規模の場合に利用される。」(22頁)との記載があるから,これらの記載によれば,果実を飲料に利用する方法として,果肉を破砕し不溶性固形物を含む状態で用いる方法があること,及び,容易に分離・沈殿を生じない,舌ざわりのなめらかな丸味のある味の果汁とすることを目的として,コロイドミル,高圧式ホモジナイザー,ウルトラマイザー及び高速ミキサー等の均質機が使用され,これらの装置が果汁中に混在するパルプ質等の固形物を微細化する作用を有することは,周知であったと認められる。 また,乙2(日本放送協会編「NHK「きょうの料理」ポケットシリーズ<カラー版>⑮ おやつと飲みもの」昭和55年2月10日第2刷,日本放送出版協会発行)には,パイナップルジュースの作り方として,「①よく熟した生のパイナップルは皮をむいて,果肉だけにし,適当に切る。②冷水カップ4,砂糖カップ11/3,レモン汁大サジ1~2を加えてミキサーにかけ,冷やしておいたグラスに入れる。」(124頁)と記載されていることから,果肉に糖類を添加したものをミキサーで磨砕してジュースにすることは周知であったと認められる。 さらに,乙3(特開昭64-76990号公報)には,「これらの穀類や果実を発酵させてアルコールを含有する原酒とし,さらにこれらの原酒を蒸留した上希釈してアルコール含有量が35~20%の製品焼酎とするのであるが,蒸留後に残った醸造廃液は約95%の水分中に粗蛋白質,粗脂肪,可溶無窒素物,粗せんい,粗灰分等のBOD負荷を30,000ppmも含んでいる…」(2頁右上欄12~18行)との記載があるから,焼酎蒸留残渣に繊維や灰分などの固形物が存在することも周知であったと認められる。 このような周知技術の存在を考慮すれば,引 も含んでいる…」(2頁右上欄12~18行)との記載があるから,焼酎蒸留残渣に繊維や灰分などの固形物が存在することも周知であったと認められる。 このような周知技術の存在を考慮すれば,引用例1に記載された焼酎蒸留残渣そのものに糖類を添加して飲料を製造する発明(このような発明が引用例1に記載されていることは,前記1認定のとおりである。)において,蒸留残渣に繊維や灰分等の固形物が存在しこれが食感を悪化させることは明らかであるから,この問題を解決するために,果実から飲料を製造する際に舌ざわりをなめらかにすること等の目的で用いられる装置と同様の装置を用いて,上記固形物を磨砕し,微細化すること,及びその際,添加された糖類が混合物の全体に行き渡るように,糖分を添加した後に磨砕することは,当業者が容易に想到することができることというべきである。したがって,「甘味料の添加の後に磨砕を行うことは,引用例1に記載された事項から予測できない。」ということはできず,原告の上記主張は理由がない。 (2) 原告は,「甘味料の添加の後に磨砕することによって,甘味料が磨砕された混合物の全体に行き渡り,かつ,繊維質物質などの固形物質が微細化される作用が行われ,そのことによって,美味かつ食感良好な飲料を得るという本願発明1の効果は,引用例1に記載された事項から予測できない。」旨主張する。 本願明細書には,「かかる本発明の方法によれば,食感の非常に良好なジュース状の飲料を得ることができる。」(3頁7~8行),「かくして,焼酎の蒸留残渣から,美味なかつ極めて食感の優れた飲料を得ることができる。」(4頁27~28行)との記載があるから,本願発明1は,美味な,かつ,食感の良好な飲料を得ることができるという効果を有するものと認められる。 極めて食感の優れた飲料を得ることができる。」(4頁27~28行)との記載があるから,本願発明1は,美味な,かつ,食感の良好な飲料を得ることができるという効果を有するものと認められる。 しかしながら,糖類を添加した後に磨砕すれば(乙2参照),材料が攪拌されるから添加された糖類が混合物の全体に行き渡り,かつ,繊維質物質などの固形物質が微細化・均質化されることは自明であるから,それにより,美味かつ食感の良好な飲料が得られることは,当業者にとって予測可能な効果にすぎない。したがって,原告の上記主張も理由がない。 3 結論以上のとおり,本願発明1についての原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,同様に,本願発明2についての本件審決の進歩性判断にも誤りはなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第3民事部裁判長裁判官北山元章裁判官青柳馨裁判官沖中康人
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