平成29(行コ)113 相続税更正処分等取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成29年12月20日 東京高等裁判所 租税
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判決文本文8,008 文字)

- 1 -平成29年12月20日判決言渡し平成29年(行コ)第113号相続税更正処分等取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成25年(行ウ)第321号)主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 中野税務署長が控訴人に対し平成24年3月27日付けでした再更正処分(中資特第85号)のうち,修正申告額1億7480万6500円を超える部分並びに平成23年6月29日付け(中資特第132号)及び平成24年3月27日付け(中資特第85号)でそれぞれした過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。 第2 事案の概要(略称は,原判決のものを用いる。) 1 本件は,亡a(本件被相続人)の共同相続人のうちの一人である控訴人が,本件被相続人からの相続(本件相続)において,相続財産中の借地権が設定されている原判決別紙2記載の各土地(本件各土地)の評価額を,不動産鑑定士による鑑定評価により算定した額として相続税の申告及び修正申告をしたところ,中野税務署長が,本件各土地について,財産評価基本通達(評価通達)によらない特別な事情があるとは認められず,過少評価となっているとして,平成23年6月29日付けで,相続税の更正処分(本件更正処分)及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件第一次賦課決定処分)をし,更に,平成24年3月27日付けで,相続税の再更正処分(本件再更正処分)及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件第二次賦課決定処分)をしたことから,本件再更正処分には時価を超える評価をした違法があるなどと主張して,本件再更正処分,本件第一次賦課決定処分及び本件第二次賦課決定処分(本件各処分)の取消しを- 2 -求める事案である。 原審が控訴 更正処分には時価を超える評価をした違法があるなどと主張して,本件再更正処分,本件第一次賦課決定処分及び本件第二次賦課決定処分(本件各処分)の取消しを- 2 -求める事案である。 原審が控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人は,これを不服として本件控訴を提起した。 2 本件における関係法令等の定め,前提事実,主な争点及びこれに関する当事者双方の主張等は,当審における控訴人の補充的主張を後記3のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2ないし5(原判決2頁22行目から同19頁23行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 当審における控訴人の補充的主張(1) 次のとおり,評価通達25の定める借地権価額控除方式は,底地の客観的交換価値を算定する上で一般的な合理性を有しているということはできない。 ア不動産鑑定評価の通説・常識では,「更地価額=借地権価額+底地価額」という等式は成り立ち得ないとされており,底地の価額を当該土地の借地権価額との相関関係において捉える考え方に相応の合理性があるということはできない。 イ底地については,流動性が低く,更地や借地権とは異なり第三者であるエンドユーザーによる購入がほとんど見込めないことは確かであるが,一方で底地の買い取りを行う不動産業者は多数存在し,不動産業者との間での底地の取引は,実際にも多数行われており,底地についても第三者市場は存在するのであるから,底地の時価について,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を観念することができないということはない。そして,底地についての第三者市場においては,底地の価額は,借地権価額控除方式による評価額を大きく下回り,更地価額の10ないし15%程度となってし れる価額を観念することができないということはない。そして,底地についての第三者市場においては,底地の価額は,借地権価額控除方式による評価額を大きく下回り,更地価額の10ないし15%程度となってしまう。 ウ底地の客観的交換価値を把握するには,①当分の間地代収入が得られる- 3 -経済的利益と②将来借地契約の当事者間で売買が行われ完全所有権が復帰することになるであろう経済的利益の現在価値を共に考慮すべきであるが,②は極わずかであり,①を主なものとして構成せざるを得ず,その結果,底地価額が,更地価額から借地権価額を控除した金額になるということはない。 エなお,路線価が公示価格と同水準の価格の概ね80%程度に設定されているとしても,借地権割合が70%,底地割合が30%であれば,借地権価額控除方式による底地の評価額は,更地の公示価格の24%となり,底地の時価評価額である更地の公示価格の10ないし15%を大きく上回ることになる。 (2) 次のとおり,本件各土地については,借地権価額控除方式によっては適正な時価を適切に算定することができない特別の事情が存在する。 ア本件各土地が底地であること自体が,まず他の不動産資産とは異なる特殊性を有する事情であり,かかる特殊性ゆえに評価通達による時価の推認に著しい疑義が存在する以上,個々の事案において,個別鑑定による時価評価額が借地権価額控除方式により算定される評価額を下回る等の場合には,評価通達によらないことが相当と認められる特別な事情があるとすべきである。また,本件各土地は,借地契約の経緯や借地人の事情,完全所有権へ復帰するには測量や分筆手続が必要であるといった事情から,完全所有権への復帰が比較的困難な底地である。さらに,本件においては,合計14区画,評価通達による評価額が合計1億6 地人の事情,完全所有権へ復帰するには測量や分筆手続が必要であるといった事情から,完全所有権への復帰が比較的困難な底地である。さらに,本件においては,合計14区画,評価通達による評価額が合計1億6864万2879円という大規模かつ高額な底地が相続財産であるという特殊な事情も存する。 イ b鑑定の合理性b鑑定は,借地契約の期間満了時以降も賃貸借が継続するシナリオAと期間満了時に賃貸借契約終了の上第三者への売却をするシナリオBについて,8:2で加重平均を行っているところ,シナリオBは借地契約者間で- 4 -売買を行うことにより完全所有権が復帰する場合とほぼ同等の評価額になるものと考えられるから,シナリオAとシナリオB及び借地契約者間の売買も含めて完全所有権に復帰するシナリオの比率としても,8:2の比率を想定することは借地契約の実態にも適合している。 b鑑定は,収益価格の試算において割引率を9%,最終還元利回りを10%と査定しているところ,諸般の事情の考慮の下かかる査定を行っているもので,合理性を有する。 ウ c鑑定についてc鑑定は,借地権者による底地の買取価格(限定価格)を採用するからこそ,完全所有権に復帰することの増分価値を含む結果,借地権価額控除方式による底地価額(更地価額の30%)に近接した比準価格になるのであって,更地価格の27%であるから増分価値相当分を修正する必要がないとの判断は明らかに誤りである。 エ d鑑定についてd鑑定は,還元利回りを年2.4%と査定しているところ,その根拠はなく,むしろ,収益価格のみを基本的に採用する以上は,還元利回りの査定こそが最も重要になるから,より合理性が要求される。 オ e意見について比準価格を考慮しない手法も,底地の鑑定評価において ,むしろ,収益価格のみを基本的に採用する以上は,還元利回りの査定こそが最も重要になるから,より合理性が要求される。 オ e意見について比準価格を考慮しない手法も,底地の鑑定評価においては合理的な評価方法であり,本件各土地に関する事情の下では完全所有権に復帰する可能性をゼロに近いものとして評価することには合理性が認められる。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。 そのように判断する理由は,当審における控訴人の補充的主張に対する判断を後記2のとおり加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1ないし5(原判決19頁25行目から同37頁8行目まで)に- 5 -記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の補充的主張に対する判断(1)ア控訴人は,上記第2の3(1)アのとおり主張する。 しかし,上記引用に係る原判決が説示するとおり,借地権価額控除方式は,底地の価額をその地域の借地権取引の状況等を踏まえて定められた借地権割合を乗じて算定される当該土地の借地権価額との相関関係において捉え,自用地としての価額から借地権価額を控除して残余の土地の経済的価値を把握しようとするものであり,底地の客観的交換価値に接近する方法として相応の合理性を有すると考えられる方法の一つであるということができるというべきである。そして,かかる方法は,借地権の設定により相続税法が予定していない課税対象とならない部分の創出を排除することができるものとしても,合理性が認められるということができる。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 イ控訴人は,上記第2の3(1)イのとおり主張する。 しかし,上記引用に係る原判決が説示 性が認められるということができる。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 イ控訴人は,上記第2の3(1)イのとおり主張する。 しかし,上記引用に係る原判決が説示するとおり,底地は,第三者が取引を行うような一般的な市場及びそこにおける取引相場を想定することは困難であり,むしろ,取引があるとすれば将来的に借地契約の当事者間において売買が行われることが通常であるという特殊な財産であるというべきであり,このことは,控訴人が援用するb鑑定において,「対象不動産は借地権の負担を有する底地であるから,主たる需要者としては,賃料収入及び将来の売却益を目的とした投資家であると想定されるが,近隣地域及び周辺地域では,「借地人による底地買取」の取引は少なからず見受けられるものの,それ以外の目的での第三者間の取引は少ない状況である。」,「底地取引については,借地人による底地併合を目的とした取引が大半を占め,借地人以外の第三者との取引であれば,賃料(地代)収入と期間満了後の復帰価格を目的とした投資家等が主たる需要者となり,こ- 6 -の場合には,借地人との立退交渉のうえ更地化を図る底地買取業者に限定される傾向が強い。」,「顕在化した収益目的の底地取引(=第三者間取引)の事例が皆無であり,地元業者においても利回りを意識した第三者間の底地取引が行われるケースはほとんどないと聴取される」とされていること(「Ⅵ 評価結果の概要」の「試算価格の調整及び鑑定評価額の決定」欄及び「Ⅶ.近隣地域の概要」の「不動産市場の動向」欄の「(B)底地」)からも明らかである。そして,控訴人が主張するような底地を対象とした一般的な市場の存在及びそこでの取引価格の傾向をうかがわせるような的確な証拠は存しない。 よって,控訴人の上記主張は採 」)からも明らかである。そして,控訴人が主張するような底地を対象とした一般的な市場の存在及びそこでの取引価格の傾向をうかがわせるような的確な証拠は存しない。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ控訴人は,上記第2の3(1)ウのとおり主張する。 しかし,上記引用に係る原判決が説示するとおり,鑑定評価基準(乙23)は,「底地の価格は,借地権の付着している宅地について,借地権の価格との相互関連において賃貸人に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものである。賃貸人に帰属する経済的利益とは,当該宅地の実際支払賃料から諸経費等を控除した部分の賃貸借等の期間に対応する経済的利益及びその期間の満了等によって復帰する経済的利益の現在価値をいう。底地の鑑定評価額は,実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定するものとする。」(各論第1章第1節Ⅰ3.(2),409~410頁)としているのであり,将来的にも完全所有権の復帰がおよそ考え難いというような特殊な事情がある場合はともかくとして,少なくとも借地契約終了後に完全所有権が復帰することが一応予定されている通常の借地契約に係る底地の時価については,地代徴収権に代表される借地契約存続中の収益に対応する価値のみならず,借地契約の終了後に復帰することとなる借地権の負担のない所有権に対応する価値を含むものと捉えるべきであり,第三者に売却- 7 -する場合には低廉な地代を基準とした収益価格による算定が標準となるとする控訴人主張の方法は,底地の客観的交換価値の全てを適切に表すものとはいい難く,これを底地の時価とみるのは相当ではないというべきである。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 訴人主張の方法は,底地の客観的交換価値の全てを適切に表すものとはいい難く,これを底地の時価とみるのは相当ではないというべきである。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 エ控訴人は,上記第2の3(1)エのとおり主張する。 しかし,底地の時価評価額が更地の公示価格の10なしい15%であることをうかがわせるような的確な証拠はないのであり,d鑑定が正常価格の下限を示すものとする競売市場での売却事例を取引事例とした取引事例比較法による本件各土地の比準価格が,更地価格の約20ないし24%となっていることに照らしても,評価通達が定める借地権価額控除方式により算出される底地の価額は,評価の安全性を考慮したものであり,直ちに時価を超えることになるものではないというべきである。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 (2)ア控訴人は,上記第2の3(2)アのとおり主張する。 しかし,上記(1)で説示したところからすれば,底地の評価について評価通達が採用する借地権価額控除方式に著しい疑義が存在するとは認められない。しかも,評価通達は,借地権価額控除方式の前提である路線価について,「売買実例価額,公示価格(中略),不動産鑑定士等による鑑定評価額(中略)精通者意見価格等を基として国税局長がその路線ごとに評定した(中略)価額とする」(評価通達14の柱書)とし,その価額は,地価公示価格と同水準の価格の80%程度を目途に定められており(乙16),かかる総合勘案と評価の安全性によって,その合理性が確保されていると解するのが相当であるから(乙66・4頁ないし6頁参照),単に不動産鑑定士による個別鑑定評価が借地権価額控除方式による評価額を下回るからといって,評価通達によらないことが相当と認められる特別の事 ると解するのが相当であるから(乙66・4頁ないし6頁参照),単に不動産鑑定士による個別鑑定評価が借地権価額控除方式による評価額を下回るからといって,評価通達によらないことが相当と認められる特別の事- 8 -情があるということはできない。また,控訴人が主張する本件各土地についての事情や相続財産としての底地が多数かつ高額という事情は,通常の底地の相続に伴い得るものであり,必ずしも上記特別の事情に当たるということはできない。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 イ控訴人は,上記第2の3(2)イのとおり主張する。 しかし,期間満了時に賃貸借契約終了の上第三者への売却をする場合(シナリオB)に借地契約者間で売買を行うことにより完全所有権が復帰する場合を加えた場合,その実現可能性が高くなることは明らかであるから,シナリオBよりもシナリオAの実現可能性が高いとして,シナリオAによる資産価格とシナリオBによる資産価格を8:2で加重平均するb鑑定の根拠は失われるといわざるを得ない。また,b鑑定が収益価格の試算において採用する割引率年9%,最終還元利回り年10%については,上記引用に係る原判決が説示するとおり,控訴人自身が一般的な底地の還元利回りとして主張する年5%前後とは乖離が大きく,その合理性には疑問があるというべきである。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ控訴人は,上記第2の3(2)ウのとおり主張する。 しかし,c鑑定が算定した本件各土地の底地の比準価格が,本件各土地の更地価格の約27%にとどまっていることからすると,比準価格に増分価値が含まれているとすべき確たる根拠はないというべきであり,「採用した各事例について底地価格の更地価格に対する割合及び取引当事者等の属性を検証 27%にとどまっていることからすると,比準価格に増分価値が含まれているとすべき確たる根拠はないというべきであり,「採用した各事例について底地価格の更地価格に対する割合及び取引当事者等の属性を検証した結果,本件各取引事例について,増分価値が生じている可能性の程度等の修正を要する必要性は認められない」とのc鑑定の判断は,不動産鑑定士の専門的な知識,経験に基づくものとして,必ずしも不合理ということはできない。 - 9 -よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 エ控訴人は,上記第2の3(2)エのとおり主張する。 しかし,d鑑定は,平成20年当時の長期金利約1.4%に不動産の個別性を加味する方法が信頼性が高いとする一方,地価公示地の鑑定評価で採用される還元利回り(年4.5%程度)ついては,収益価格が取引価格(元本価値の上昇)に追いついておらず,「実際の還元利回り」は低下しているという見解(本件鑑定書27,28頁)に立っているのであり,一般的とされる還元利回りとの差がb鑑定よりも小さいことにも照らすと,還元利回りを年2.4%とする判断は,不動産鑑定士の専門的な知識,経験に基づくものとして,必ずしも不合理ということはできない。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 オ控訴人は,上記第2の3(2)オのとおり主張する。 しかし,上記引用に係る原判決が説示するとおり,比準価格を全く考慮しない手法は,鑑定評価基準に適合していない。また,本件では,本件M土地及び本件N土地については,本件相続後ではあるものの,控訴人又は控訴人の関係法人が借地上の建物を買い取ることにより借地権が消滅あるいは事実上消滅したことがうかがわれ(甲12f,乙34の2,55の1末尾から3枚目及び7枚目,72),本件M土地 ものの,控訴人又は控訴人の関係法人が借地上の建物を買い取ることにより借地権が消滅あるいは事実上消滅したことがうかがわれ(甲12f,乙34の2,55の1末尾から3枚目及び7枚目,72),本件M土地及び本件N土地とこれら以外の本件各土地との間で,特に事情が異なるとみるべき点も見当たらないことからすれば,その他の本件各土地についても,完全所有権となる可能性が潜在しているというべきであり,その可能性をゼロに近いものとするのは合理的とはいい難い。 よって,控訴人の上記主張は採用することができない。 3 以上によれば,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 - 10 -東京高等裁判所第9民事部 裁判長裁判官齊木敏文 裁判官增永謙一郎 裁判官萩本修は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官齊木敏文

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