平成30(行ウ)14 被爆者健康手帳交付等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年9月9日 長崎地方裁判所
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判決文本文127,890 文字)

令和6年9月9日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成30年(行ウ)第14号、令和2年(行ウ)第10号被爆者健康手帳交付等請求事件(以下、順次「①事件」「②事件」という。)口頭弁論終結日令和6年2月19日判決 当事者の表示別紙1当事者目録記載のとおり 主文 1 別紙2被相続人目録記載の各被相続人の訴訟提起に係る各訴訟のうち、長崎市長又は長崎県知事がした第一種健康診断受診者証交付申請却下処分の取消しを求める訴訟及び同受診者証の交付の義務付 けを求める訴訟は、同目録記載の各被相続人がそれぞれ同目録「死亡日」欄記載の日に死亡したことによりいずれも終了した。 2⑴ 長崎市長が、原告番号2、7、8、12、15、17、18、21、23、24、38、42及び44の各原告並びに別紙2被相続人目録記載の被相続人番号22の被相続人に対してした、別 紙3被爆者健康手帳交付申請却下処分目録記載の各被爆者健康手帳交付申請却下処分をいずれも取り消す。 ⑵ 長崎市長は、上記⑴の各原告及び被相続人に対し、被爆者健康手帳をそれぞれ交付せよ。 3⑴ 長崎県知事が、別紙2被相続人目録記載の被相続人番号27の 被相続人に対してした、別紙3被爆者健康手帳交付申請却下処分目録記載の被爆者健康手帳交付申請却下処分をいずれも取り消す。 ⑵ 長崎県知事は、上記⑴の被相続人に対し、被爆者健康手帳を交付せよ。 4⑴ 原告番号28の原告の請求に係る訴えのうち、長崎県知事に対 し、被爆者健康手帳を交付することの義務付けを求める訴えをいずれも却下する。 ⑵ 前記⑴の原告のその余の請求をいずれも棄却する。 5⑴ 原告番号5の原告の請求に係る訴えのうち、長崎市長に対し、被爆者健康 健康手帳を交付することの義務付けを求める訴えをいずれも却下する。 ⑵ 前記⑴の原告のその余の請求をいずれも棄却する。 5⑴ 原告番号5の原告の請求に係る訴えのうち、長崎市長に対し、被爆者健康手帳を交付することの義務付けを求める訴えをいずれ も却下する。 ⑵ 前記⑴の原告のその余の請求をいずれも棄却する。 6⑴ 原告番号25、26、29ないし37の各原告の請求に係る訴えのうち、長崎県知事に対し、被爆者健康手帳及び第一種健康診断受診者証を交付することの義務付けを求める訴えをいずれも却 下する。 ⑵ 前記⑴の各原告のその余の請求をいずれも棄却する。 7⑴ その余の各原告の請求に係る訴えのうち、長崎市長に対し、被爆者健康手帳及び第一種健康診断受診者証を交付することの義務付けを求める訴えをいずれも却下する。 ⑵ 前記⑴の各原告のその余の請求をいずれも棄却する。 8 訴訟費用は、①原告番号1、3ないし6、9ないし11、13、14、16、19、20、39、40、41及び43の各原告に生じた費用、被告長崎市に生じた費用の31分の17、訴訟参加人に生じた費用の44分の17を上記各原告の負担とし、②原告番号2 5、26、28ないし37の各原告に生じた費用、被告長崎県に生じた費用の13分の12、訴訟参加人に生じた費用の44分の12を上記各原告の負担とし、③原告番号2、7、8、12、15、17、18、21ないし24、38、42及び44の各原告に生じた費用の2分の1、被告長崎市に生じたその余の費用を被告長崎市の 負担とし、④原告番号27の原告に生じた費用の2分の1と被告長 崎県に生じたその余の費用を被告長崎県の負担とし、⑤その余の費用を訴訟参加人の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 とし、④原告番号27の原告に生じた費用の2分の1と被告長 崎県に生じたその余の費用を被告長崎県の負担とし、⑤その余の費用を訴訟参加人の負担とする。 事実 及び理由第1 請求1⑴ 長崎市長が、原告番号1ないし4、6ないし21、23、24、38ない し44の各原告並びに別紙2被相続人目録の被相続人番号5及び22の各被相続人に対してした、別紙3「被爆者健康手帳交付申請却下処分目録」記載の各被爆者健康手帳交付申請却下処分をいずれも取り消す。 ⑵ 長崎市長は、原告番号1ないし4、6ないし21、23、24、38ないし44の各原告並びに別紙2被相続人目録の被相続人番号5及び22の各被 相続人に対し、被爆者健康手帳をそれぞれ交付せよ。 2⑴ 長崎市長が、原告番号1ないし4、6ないし21、23、24、38ないし44の各原告並びに別紙2被相続人目録の被相続人番号5及び22の各被相続人に対してした、別紙4「第一種健康診断受診者証交付申請却下処分目録」記載の各第一種健康診断受診者証交付申請却下処分を取り消す。 ⑵ 長崎市長は、原告番号1ないし4、6ないし21、23、24、38ないし44の各原告並びに別紙2被相続人目録の被相続人番号5及び22の各被相続人に対し、第一種健康診断受診者証を交付せよ。 3⑴ 長崎県知事が、原告番号25、26、29ないし37の各原告並びに別紙2被相続人目録の被相続人番号27及び28の各被相続人に対してした、別 紙3「被爆者健康手帳交付申請却下処分」目録記載の各被爆者健康手帳交付申請却下処分を取り消す。 ⑵ 長崎県知事は、原告番号25、26、29ないし37の各原告並びに別紙2被相続人目録の被相続人番号27及び28の各被相続人に対し、被爆者健康手帳を交付せよ。 4⑴ 長崎県知事が 消す。 ⑵ 長崎県知事は、原告番号25、26、29ないし37の各原告並びに別紙2被相続人目録の被相続人番号27及び28の各被相続人に対し、被爆者健康手帳を交付せよ。 4⑴ 長崎県知事が、原告番号25、26、29ないし37の各原告並びに別紙 2被相続人目録の被相続人番号27及び28の各被相続人に対してした、別紙4「第一種健康診断受診者証交付申請却下処分目録」記載の各第一種健康診断受診者証交付申請却下処分を取り消す。 ⑵ 長崎県知事は、原告番号25、26、29ないし37の各原告並びに別紙2被相続人目録の被相続人番号27及び28の各被相続人に対し、第一種健 康診断受診者証の交付をせよ。 第2 事案の概要 1 本件は、長崎市又はその近隣にある長崎県内の市に居住する原告ら(ただし、訴訟承継人である原告ら(以下「相続人原告ら」という。)の請求については別紙2被相続人目録の各被相続人ら(以下「本件被相続人ら」という。))が、昭 和20年8月9日、長崎市に原子爆弾(以下「原爆」という。)が投下された当時、爆心地から半径12km以内に居住等していたとして、長崎市に居住する原告らが長崎市長に対し、長崎市以外に居住する原告らが長崎県知事に対し、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)2条1項に基づく被爆者健康手帳の交付申請(以下「本件手帳交付申請」という。) 及び同法施行規則附則2条2項に基づく第一種健康診断受診者証の交付申請(以下「本件受診者証交付申請」という。)をそれぞれ行ったところ、いずれも却下処分(以下「本件各処分」という。)を受けたことから、主位的に、被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当する旨主張して、本件手帳交付申請の却下処 下処分(以下「本件各処分」という。)を受けたことから、主位的に、被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当する旨主張して、本件手帳交付申請の却下処分の取消し及び 被爆者健康手帳交付の義務付けを求め、予備的に、被爆者援護法施行令別表第三の第一種健康診断受診者証交付対象区域の定めが被爆者援護法附則17条の委任の趣旨を逸脱又は濫用したもので違法・無効である旨主張して、本件受診者証交付申請の却下処分の取消し及び第一種健康診断受診者証交付の義務付けを求める事案である。 2 前提事実 ⑴ 原爆の投下等アアメリカ合衆国軍は、昭和20年8月6日、広島市に原爆(以下「広島原爆」という。)を投下し、同月9日、長崎市に原爆(以下「長崎原爆」という。)を投下した。広島原爆が、ウラン235(235U)の核分裂現象を利用したウラン原爆であるのに対し、長崎原爆は、プルトニウム239(2 39Pu)の核分裂現象を使用したプルトニウム原爆である。 長崎原爆の爆心地は、別紙5の地図中爆心地と表示された地点であり、長崎原爆は、昭和20年8月9日午前11時2分、爆心地上空約500mで炸裂した。 イ原告ら(ただし、相続人原告らの請求については本件被相続人ら)は、 長崎原爆投下当時、別紙6の表中「陳述書において原爆投下当時に所在していたとされる地域及び当該地域と爆心地との位置関係」欄記載の各地点(以下「被爆地点」という。なお、各被爆地点を地図上に図示したものが別紙8である。)にそれぞれ所在していた。 被爆地点は、いずれも爆心地を基点とする半径12km圏内に含まれる が、被爆者援護法1条1号及び同条2号の各区域(以下、一括して「被爆地域」という。)外にある。また、被爆地点は、 ていた。 被爆地点は、いずれも爆心地を基点とする半径12km圏内に含まれる が、被爆者援護法1条1号及び同条2号の各区域(以下、一括して「被爆地域」という。)外にある。また、被爆地点は、同法附則17条、同法施行令附則2条、別表第三に掲げる区域(以下「第一種健康診断特例区域」という。)外にあるが、別表第四に掲げる区域(以下「第二種健康診断特例区域」という。)内にある。 なお、被爆地域、第一種健康診断特例区域及び第二種健康診断特例区域の位置関係は、別紙5のとおりである。 (以上、甲A18、19、83、甲B31、32)⑵ 被爆者援護法制定の経緯の概要昭和32年3月31日に原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(以下「原 爆医療法」という。)が成立し、同年4月1日から施行された。その後、昭和 43年5月20日には原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律(以下「原爆特措法」という。)が成立し、同年9月1日から施行された。 被爆者援護法は、原爆医療法及び原爆特措法(以下、併せて「原爆二法」ということがある。)を統合して引き継ぐとともに、援護内容を更に充実発展させるものとして平成6年12月16日に成立し、平成7年7月1日から施 行された。 ⑶ 被爆者援護法の定めア目的被爆者援護法が制定されるに至った経緯及び同法制定の趣旨として、同法の前文には次のとおり規定されている。 「昭和20年8月、広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は、幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず、たとい一命をとりとめた被爆者にも、生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し、不安の中での生活をもたらした。 このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健 康の保持及 たとい一命をとりとめた被爆者にも、生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し、不安の中での生活をもたらした。 このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健 康の保持及び増進並びに福祉を図るため、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し、医療の給付、医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。 また、我らは、再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下、世界唯一の原子爆弾の被爆国として、核兵器の究極的廃絶 と世界の恒久平和の確立を全世界に訴え続けてきた。 ここに、被爆後50年のときを迎えるに当たり、我らは、核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし、原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう、恒久の平和を念願するとともに、国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害と は異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者 に対する保護、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ、あわせて、国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため、この法律を制定する。」イ被爆者の定義被爆者とは、被爆者援護法1条各号のいずれかに該当する者であって、 被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(被爆者援護法1条)。 被爆者援護法1条各号の定めは、次のとおりである。 (ア) 1号「原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者」上記「政令で定めるこれらに隣接する区域」につき、長崎原爆に関し ては、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(平成7年2月17日政令第26号。以下「被 に隣接する区域内に在った者」上記「政令で定めるこれらに隣接する区域」につき、長崎原爆に関し ては、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(平成7年2月17日政令第26号。以下「被爆者援護法施行令」という。)1条1項、同別表第一により、「長崎県西彼杵郡福田村のうち、大浦郷、小浦郷、本村郷、小江郷及び小江原郷(5号)、長崎県西彼杵郡長与村のうち、高田郷及び吉無田郷(6号)」と定められた。 (イ) 2号「原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内に在った者」上記「政令で定める期間」につき、被爆者援護法施行令1条2項は、長崎原爆に関しては、昭和20年8月23日までとする旨定めている。 また、上記「政令で定める区域」につき、長崎原爆に関しては、被爆 者援護法施行令1条3項及び同施行令別表第二により、「長崎市のうち、西北郷、東北郷、家野郷、西郷、家野町、大橋町、岡町、橋口町、山里町、坂本町、本尾町、上野町、江平町、高尾町、本原町、松山町、駒場町、城山町、浜口町、竹ノ久保町、稲佐町二丁目、稲佐町三丁目、旭町一丁目、岩川町、目覚町、浦上町、茂里町、銭座町、井樋ノ口町、船蔵 町、宝町、寿町、幸町、福富町、玉浪町、梁瀬町、高砂町、御船蔵町、 御船町、八千代町、瀬崎町及び浜平町」と定められた。 (ウ) 3号「前2号に掲げる者のほか、原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」なお、長崎市は、上記3号該当者の審査基準(以下「本件審査基準」 という。)として、「原子爆弾が投下された後、被爆者援護法施行令1条2項に定める期間内に同施行令別表第二に掲げる入市区域の範囲外において、多数の被 記3号該当者の審査基準(以下「本件審査基準」 という。)として、「原子爆弾が投下された後、被爆者援護法施行令1条2項に定める期間内に同施行令別表第二に掲げる入市区域の範囲外において、多数の被爆者と接触する次の作業に従事した者(当該従事者に背負われた子等を含む。)とする。」旨定めている(乙A36)。 a 10人以上の被爆者の輸送・救護 b 10人以上の被爆者の死体処理c 被爆者が収容された施設等において10人以上の被爆者の看護d 刊行された被災記録により救護活動の状況が確認できる救護所で従事した者e 組織された救護(看護)で多数(10人以上)の者を収容、処理し た者(エ) 4号「前3号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であった者」ウ被爆者健康手帳の交付被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は、その居住地の都道府県知 事に申請しなければならない(被爆者援護法2条)。 なお、被爆者援護法によれば、同法の規定中、「都道府県知事」又は「都道府県」とあるのは、広島市又は長崎市については、「市長」又は「市」と読み替えるものとされている(ただし、同法6条、51条及び51条の2を除く。)(被爆者援護法49条)。 エ被爆者に対する援護 被爆者援護法に基づく援護内容は、次のとおりである。 (ア) 健康管理a 健康診断都道府県知事等は、被爆者に対し、毎年、厚生労働省令で定めるところにより、健康診断を行うものとする(被爆者援護法7条)。 なお、被爆者援護法施行規則によれば、被爆者援護法7条に規定する健康診断は、年2回、一般検査及び精密検査によって行うものとされている。精密検査は、一般検査の結果更に精密な検査を必要とする者について行うものである 護法施行規則によれば、被爆者援護法7条に規定する健康診断は、年2回、一般検査及び精密検査によって行うものとされている。精密検査は、一般検査の結果更に精密な検査を必要とする者について行うものである(被爆者援護法施行規則9条)。 一般検査及び精密検査の内容は、次のとおりである。 (a) 一般検査視診、問診、聴診、打診及び触診による検査、CRP検査、血球数計算、血色素検査、尿検査、血圧測定、AST検査法、ALT検査法及びγ―GTP検査法による肝臓機能検査、ヘモグロビンA1c検査、胃がん検診のための問診並びに胃部エックス線検査及び胃 内視鏡検査、肺がん検診のための問診、胸部エックス線検査及び喀痰細胞診、乳がん検診のための問診、視診、触診及び乳房エックス線検査、子宮がん検診のための問診、視診、内診、子宮頸部及び子宮体部の細胞診並びにコルポスコープ検査、大腸がん検診のための問診及び便潜血検査、多発性骨髄腫検診のための問診及び血清蛋白 分画検査(b) 精密検査骨髄造血像検査等の血液の検査、肝臓機能検査等の内臓の検査、関節機能検査等の運動器の検査、眼底検査等の視器の検査、胸部エックス線撮影検査等のエックス線検査、その他必要な検査 b 指導 都道府県知事等は、被爆者援護法7条の規定による健康診断の結果必要があると認めるときは、当該健康診断を受けた者に対し、必要な指導を行うものとする(被爆者援護法9条)。 (イ) 医療の給付等厚生労働大臣は、原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し、又は疾病に かかり、現に医療を要する状態にある被爆者に対し、必要な医療の給付を行う(被爆者援護法10条1項)。 なお、医療の給付を受けようとする者は、あらかじめ、当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因 かかり、現に医療を要する状態にある被爆者に対し、必要な医療の給付を行う(被爆者援護法10条1項)。 なお、医療の給付を受けようとする者は、あらかじめ、当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定を受けなければならない(被爆者援護法11条1項)ところ、厚生労働大臣は、 同認定を行うに当たっては、疾病・障害認定審査会の意見を聴かなければならない(同条2項)。 (ウ) 医療特別手当の支給都道府県知事等は、被爆者援護法11条1項の認定を受けた者であって、当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し、医療特別手 当を支給する(被爆者援護法24条1項)。 (エ) 特別手当の支給都道府県知事は、被爆者援護法11条第1項の認定を受けた者に対し、特別手当を支給する。ただし、その者が医療特別手当の支給を受けている場合は、この限りでない(被爆者援護法25条1項)。 (オ) 一般疾病医療費の支給厚生労働大臣は、被爆者が、負傷又は疾病(被爆者援護法10条1項に規定する医療の給付を受けることができる負傷又は疾病、遺伝性疾病、先天性疾病及び厚生労働大臣の定めるその他の負傷又は疾病を除く。)により医療を受けたときは、その者に対し、当該医療に要した費用の額を 限度として、一般疾病医療費を支給することができる(被爆者援護法1 8条1項)。 (カ) 原子爆弾小頭症手当の支給都道府県知事等は、被爆者であって、原子爆弾の放射能の影響による小頭症の患者であるもの(小頭症による厚生労働省令で定める範囲の精神上又は身体上の障害がない者を除く。)に対し、原子爆弾小頭症手当を 支給する(被爆者援護法26条)。 なお、原子爆弾小頭症手当の支給を受けようとするときは、同項に規定する要件に該当 囲の精神上又は身体上の障害がない者を除く。)に対し、原子爆弾小頭症手当を 支給する(被爆者援護法26条)。 なお、原子爆弾小頭症手当の支給を受けようとするときは、同項に規定する要件に該当することについて、都道府県知事等の認定を受けなければならない(同条2項)。 (キ) 健康管理手当の支給 都道府県知事等は、被爆者であって、造血機能障害、肝臓機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し、健康管理手当を支給する(被爆者援護法27条1項)。 なお、健康管理手当の支給を受けようとするときは、都道府県知事等 の認定を受けなければならず(同条2項)、都道府県知事等は、当該認定を行う場合には、併せて当該疾病が継続すると認められる期間を定めるものとする(同条3項)。 (ク) 保険手当の支給都道府県知事等は、被爆者のうち、原子爆弾が投下された際爆心地か ら2キロメートルの区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者に対し、保健手当を支給する(被爆者援護法28条1項)。 なお、保健手当の支給を受けようとするときは、同項に規定する要件に該当することについて、都道府県知事等の認定を受けなければならない(同条2項)。 (ケ) 介護手当の支給 都道府県知事等は、被爆者であって、厚生労働省令で定める範囲の精神上又は身体上の障害(原子爆弾の傷害作用の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)により介護を要する状態にあり、かつ、介護を受けているものに対し、その介護を受けている期間について、政令で定めるところにより、介護手当を支給する(被爆者援護法31条)。 (コ) 葬祭料の支給 により介護を要する状態にあり、かつ、介護を受けているものに対し、その介護を受けている期間について、政令で定めるところにより、介護手当を支給する(被爆者援護法31条)。 (コ) 葬祭料の支給都道府県知事は、被爆者が死亡したときは、葬祭を行う者に対し、政令で定めるところにより、葬祭料を支給する。ただし、その死亡が原子爆弾の傷害作用の影響によるものでないことが明らかである場合は、この限りでない(被爆者援護法32条)。 (サ) 特別葬祭給付金の支給被爆者であって、昭和44年3月31日以前に死亡した被爆者援護法1条各号に掲げる者等の遺族であるものには、特別葬祭給付金を支給する(被爆者援護法33条)。 オ健康診断特例区域 (ア) 被爆者援護法附則17条の定め被爆者援護法附則17条によれば、原子爆弾が投下された際、同法1条1号に規定する区域に隣接する政令で定める区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者は、当分の間、同法7条の規定の適用については被爆者とみなす、とされている。 そして、同法施行令附則2条によれば、上記政令で定める区域は、同附則の別表第三に掲げる区域(第一種健康診断特例区域)又は別表第四に掲げる区域(同表に掲げる区域にあっては、原子爆弾が投下された際の爆心地から12キロメートルの区域内に限る。)(第二種健康診断特例区域)とされている。 これらの区域は、次のとおりである。 a 別表第三(第一種健康診断特例区域)一広島県山県郡安野村のうち、島木及び段原二広島県佐伯郡水内村のうち、津伏、小原、井手ケ原、矢流、草谷、古持、森、下井谷、門出口、木藤及び恵下三広島県佐伯郡河内村のうち、魚切、中郷、下城、上小深川及び下 小深川四広島県佐伯 広島県佐伯郡水内村のうち、津伏、小原、井手ケ原、矢流、草谷、古持、森、下井谷、門出口、木藤及び恵下三広島県佐伯郡河内村のうち、魚切、中郷、下城、上小深川及び下 小深川四広島県佐伯郡石内村五広島県佐伯郡八幡村のうち、利松、口和田及び高井六広島県安佐郡久地村のうち、宇賀、高山、本郷下、本郷中、三国、魚切、本郷上、小野原中、名原、小野原上、境原及び幸ノ神 七広島県安佐郡日浦村のうち、毛木二八広島県安佐郡戸山村九広島県安佐郡安村のうち、長楽寺及び高取十広島県安佐郡伴村十一長崎県西彼杵郡福田村のうち、柿泊郷、中浦郷、手熊郷及び上 浦郷十二長崎県西彼杵郡式見村のうち、向郷、木場郷及び牧野郷十三長崎県西彼杵郡三重村のうち、詰ノ内、白髪及び遠木場十四長崎県西彼杵郡時津村十五長崎県西彼杵郡長与村(高田郷及び吉無田郷を除く。) 十六長崎県西彼杵郡矢上村のうち、現川名、田川内、薩摩城、中尾及び矢筈十七長崎県西彼杵郡日見村のうち、河内名十八長崎県西彼杵郡茂木町のうち、田手原名、木場名及び田上名b 別表第四(第二種健康診断特例区域) 一長崎県西彼杵郡深堀村 二長崎県西彼杵郡香焼村三長崎県西彼杵郡伊王島村四長崎県西彼杵郡式見村(向郷、木場郷及び牧野郷を除く。)五長崎県西彼杵郡三重村(詰ノ内、白髪及び遠木場を除く。)六長崎県西彼杵郡村松村 七長崎県西彼杵郡伊木力村八長崎県西彼杵郡大草村九長崎県西彼杵郡喜々津村十長崎県西彼杵郡矢上村(現川名、田川内、薩摩城、中尾及び矢筈を除く。) 十一長崎県西彼杵郡日見村(河内名を除く。)十二長崎県西彼杵郡茂木町(田手原名、木場名及び田上名を除く 村十長崎県西彼杵郡矢上村(現川名、田川内、薩摩城、中尾及び矢筈を除く。) 十一長崎県西彼杵郡日見村(河内名を除く。)十二長崎県西彼杵郡茂木町(田手原名、木場名及び田上名を除く。)十三長崎県北高来郡古賀村十四長崎県北高来郡戸石村十五長崎県北高来郡田結村 (イ) 健康診断の内容等被爆者援護法施行規則附則1条の2は、原子爆弾が投下された際に健康診断特例区域に在った者に対する健康診断の内容として、次のとおり定めている。 a 第一種健康診断特例区域 年2回、一般検査及び精密検査により行う。精密検査は、一般検査の結果更に精密な検査を必要とする者について行う。 b 第二種健康診断特例区域年1回、一般検査により行う。 (ウ) 「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する 特別措置に関する法律の一部を改正する法律等の施行について」と題す る通達(昭和49年7月22日付け衛発第402号各都道府県知事・広島・長崎市市長宛て厚生省公衆衛生局長通達。以下「402号通達」という。)第一種健康診断特例区域は、昭和49年の原爆医療法及び同法施行令の一部改正により創設された健康診断特例区域を被爆者援護法附則17 条において引き継いだものである。ところで、昭和49年の上記改正に併せて発出された402号通達によれば、原爆が投下された際に健康診断特例区域(現在の第一種健康診断特例区域)に在った者で、健康診断の結果、次に掲げる障害があると診断された者については、原爆医療法2条3号に該当する者として、被爆者健康手帳の交付を受けることがで きるとされていた。 この運用は、被爆者援護法の下でも継続されている(乙A46)。 402号通達が掲げる障害は、次の10種で 3号に該当する者として、被爆者健康手帳の交付を受けることがで きるとされていた。 この運用は、被爆者援護法の下でも継続されている(乙A46)。 402号通達が掲げる障害は、次の10種である(後に11種に拡大された。)。 a 造血機能障害 b 肝臓機能障害c 細胞増殖機能障害d 内分泌腺機能障害e 脳血管障害f 循環器機能障害 g 腎臓機能障害h 水晶体混濁による視機能障害i 呼吸器機能障害j 運動器機能障害(以上、乙A39) ⑷ 本件各却下処分等 ア原告らは、長崎市長又は長崎県知事に対し、別紙3「被爆者健康手帳交付申請却下処分目録」の「申請日」欄記載の年月日付けで、被爆者援護法2条1項に基づく被爆者健康手帳の交付申請を行ったところ、長崎市長又は長崎県知事は、同目録の「却下日」欄記載の各年月日付けで被爆者健康手帳交付申請却下処分をした。 イ原告らは、長崎市長又は長崎県知事に対し、別紙4「第1種健康診断受診者証交付申請却下処分目録」の「申請日」欄記載の年月日付けで、被爆者援護法施行規則附則2条2項に基づく被爆者健康手帳の交付申請を行ったところ、長崎市長又は長崎県知事は、同目録の「却下日」欄記載の各年月日付けで被爆者健康手帳交付申請却下処分をした。 (以上、ア及びイにつき、甲B1ないし28、35、36)⑸ 本件被相続人らの死亡等ア本件被相続人らは、別紙2被相続人目録の各「死亡日」欄記載の日に死亡した。本件被相続人らとその相続人である相続人原告らとの関係は、別紙2被相続人目録の各「相続した原告の原告番号及び続柄」欄記載のとお りである。 イ被爆者健康手帳交付申請の却下処分の取消しを求める訴訟及び同取消しに加えて被爆者健康手帳の との関係は、別紙2被相続人目録の各「相続した原告の原告番号及び続柄」欄記載のとお りである。 イ被爆者健康手帳交付申請の却下処分の取消しを求める訴訟及び同取消しに加えて被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める訴訟について、訴訟の係属中に申請者が死亡した場合には、当該訴訟は当該申請者の死亡により当然に終了するものではなく、その相続人がこれを承継するものと解する のが相当である(最高裁平成29年12月18日第一小法廷判決・民集71巻10号2364頁参照)。したがって、主位的請求に係る訴訟は、本件相続人らが承継するものというべきである(これに対し、予備的請求に係る訴訟の承継については争いがある。)。 ウただし、本件被相続人らの配偶者である相続人原告らを除き、本件被相 続人らの子らは、いずれもその訴えを取り下げた。 ⑹ 先行訴訟の存在ア当庁平成19年(行ウ)第15号、平成20年(行ウ)第2号、同第7号、同第10号、同第11号、同第13号、同第14号被爆者健康手帳交付等請求事件(以下、同事件に係る訴訟を「第一次被爆体験者訴訟」という。) 第一次被爆体験者訴訟は、本件訴訟における原告らの一部が、被爆者援護法1条3号の「原子爆弾が投下された際又はその後において身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するなどと主張して、被爆者健康手帳の交付申請の却下処分の取消し及び同手帳交付の義務付けを求めるとともに、被爆者援護法施行令において原告らの被 爆地点が被曝地域に指定されないことが違法であるとして、政令制定義務が存在することの確認等を求めた訴訟である。 審理の結果、平成24年6月25日、当庁において、訴えの一部につき却下、その余につき請求棄却の一審判決が言い渡され、これ 違法であるとして、政令制定義務が存在することの確認等を求めた訴訟である。 審理の結果、平成24年6月25日、当庁において、訴えの一部につき却下、その余につき請求棄却の一審判決が言い渡され、これを不服とする控訴があったが、平成28年5月23日、福岡高等裁判所は、訴えの一部 につき訴訟終了宣言をし、その余につき控訴棄却等の判決を言い渡した。 その後、上告があったが、平成29年12月18日、最高裁判所は、原判決を一部破棄した上で控訴棄却し、その余につき上告棄却等の判決を言い渡した。 (以上、乙A48、50、51) イ当庁平成23年(行ウ)第4号、同第5号、同第8号、同第9号、平成24年(行ウ)第6号、平成26年(行ウ)第1号被爆者健康手帳交付等請求事件(以下、同事件に係る訴訟を「第二次被爆体験者訴訟」という。)第二次被爆体験者訴訟は、本件訴訟における原告らの一部が、被爆者援護法1条3号の「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原 子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するな どと主張して、被爆者健康手帳の交付申請の却下処分の取消し及び同手帳交付の義務付け、健康管理手当支給申請却下処分の取消し及び同手当支払等を求めた訴訟である。 審理の結果、平成28年2月22日、当庁において、訴えの一部につき訴訟終了宣言、一部につき訴え却下、一部につき請求認容(一部原告に対 する被爆者健康手帳の交付申請の却下処分の取消し及び同原告らに対する同手帳交付の義務付け)、その余につき請求棄却の一審判決が言い渡され、これを不服とする控訴があったところ、平成30年12月10日、福岡高等裁判所は、一審判決中の請求認容部分につき、これを取り消して請求棄却(被爆者健康手帳の交付申請の却下処分の取消 判決が言い渡され、これを不服とする控訴があったところ、平成30年12月10日、福岡高等裁判所は、一審判決中の請求認容部分につき、これを取り消して請求棄却(被爆者健康手帳の交付申請の却下処分の取消部分)及び訴え却下(同 手帳交付の義務付け部分)する等の判決を言い渡した。その後、上告及び上告受理の申立てがあったが、令和元年11月21日、最高裁判所は、上告棄却等の判決を言い渡した。 (以上、乙A52、264)⑺ 広島地方裁判所平成27年(行ウ)第37号、平成29年(行ウ)第18 号、平成30年(行ウ)第29号「黒い雨」被爆者健康手帳交付請求等事件(以下、同事件に係る訴訟を「「黒い雨」先行訴訟」という。)ア事案の概要「黒い雨」先行訴訟は、広島原爆投下後に「黒い雨」と呼ばれる降雨に遭った者ら(承継人らを含む)が、被爆者援護法1条3号の「原子爆弾が 投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するなどと主張して、被爆者健康手帳の交付申請の却下処分の取消し及び同手帳交付の義務付け並びに第一種健康診断受診者証の交付申請の却下処分の取消し及び同受診者証交付の義務付けを求めた訴訟である。 (以上、甲A40) イ訴訟に至る経緯(ア) 文部省は、広島・長崎に投下された原爆被害を調査研究するために、昭和20年9月14日、学術研究会議に「原子爆弾災害調査研究特別委員会」を設置し、学術分野ごとに9分科会を設け、翌年3月までに現地調査を実施するなどした。広島においては、広島原爆が爆発した20~ 30分後から「黒い雨」が降ったことが知られており、気象技師の宇田道隆は、調査・報告を行うことを命じられ、広島管区気象台の気象技師らと共に広島市内外各所で聞 おいては、広島原爆が爆発した20~ 30分後から「黒い雨」が降ったことが知られており、気象技師の宇田道隆は、調査・報告を行うことを命じられ、広島管区気象台の気象技師らと共に広島市内外各所で聞き取り調査を行い、その資料の解析結果が「気象関係の広島原子爆弾被害調査報告」として編纂され、昭和28年5月に報告された。そこでは、1時間ないしそれ以上の激しい降雨のあ った区域が長径19km、短径11kmの楕円ないし長卵型の区域(以下「宇田強雨域」という。)で、少しでも降雨のあった区域が長径29km、短径15kmの長卵型の区域(以下「宇田小雨域」といい、宇田強雨域と併せて「宇田雨域」という。)であったとされた。 その後、昭和62年には、気象研究所に勤務して数値予報の研究に携 わってきた増田善信が前記宇田の調査データに加えて再度アンケート調査を実施し、宇田雨域の約4倍の範囲に及ぶ新たな雨域を公表したところ、これが増田雨域と呼ばれるようになった。 さらに、広島県と広島市の調査結果を解析した現・広島大学名誉教授の大瀧慈(以下「大瀧教授」という。)が、宇田雨域の約6倍に及ぶ新し い降雨図を発表したところ、これが大瀧雨域と呼ばれるようになった。 (イ) ところで、広島においては、高須・己斐地区に「黒い雨」が降ったことが当初から知られていたところ、原爆医療法は、当時の広島市内全域を被爆地域に指定していたことから、高須・己斐地区は、同法制定当時から被爆地域に含まれていた。しかし、宇田雨域の大部分は、被爆地域 に含まれていなかった。 そのため、広島においては、宇田雨域に含まれる地域の全域を被爆地域に加えるよう各種陳情等が行われて来たところ、昭和51年9月に原爆医療法施行令が改正され、宇田雨域のうち宇田強雨域のみが健 そのため、広島においては、宇田雨域に含まれる地域の全域を被爆地域に加えるよう各種陳情等が行われて来たところ、昭和51年9月に原爆医療法施行令が改正され、宇田雨域のうち宇田強雨域のみが健康診断特例区域(現在は第一種健康診断特例区域)に指定された。 (以上、乙A88、361) ウ第1審判決広島地方裁判所は、令和2年7月29日、被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」ことの意義につき、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったことをいうものと解すべきである旨判示した上、「黒い雨」先行訴訟 における原告らは、同条同号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するとして、被爆者健康手帳の交付申請の却下処分を取り消し、同手帳の交付を命じる判決(以下「広島地裁令和2年判決」という。)を言い渡した。 (以上、甲A40)エ控訴審判決広島地裁令和2年判決につき、これを不服として控訴があったが、広島高等裁判所は、令和3年7月14日、被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義につき、 「原爆の放射能により健康被害が生ずる可能性がある事情の下に置かれていた者」と解するのが相当であり、ここでいう「可能性がある」という趣旨をより明確にして換言すれば、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下に置かれていた者」と解される旨判示した。そして、同裁判所は、これに該当すると認められるためには、そ の者が特定の放射線の曝露態様の下にあったこと、そして当該曝露態様が 「原爆の放射能に 置かれていた者」と解される旨判示した。そして、同裁判所は、これに該当すると認められるためには、そ の者が特定の放射線の曝露態様の下にあったこと、そして当該曝露態様が 「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができないものであったこと」が立証されることで足りると解されるところ、「黒い雨」先行訴訟の原告らは、いずれも、少なくとも広島原爆投下後、「黒い雨」降雨域(宇田雨域、増田雨域又は大瀧雨域のいずれかに属する地域)の各地に、雨が降り始めてから降り止むまでのいずれかの時点で所在していたと 認められることから「黒い雨」に遭った者ということができ、被爆者援護法1条3号の「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当する旨判示して、控訴棄却の判決(以下「広島高裁令和3年判決」という。)を言い渡した。 なお、広島地裁令和2年判決及び広島高裁令和3年判決においては、広島原爆が投下された後に発生した雨を、色が黒くなかったものも含めて「黒い雨」というとされている。 (以上、甲A79)オ内閣総理大臣談話の発表 その後、広島高裁令和3年判決には上告がなく、同判決は確定したが、令和3年7月27日付けで、次のとおりの内閣総理大臣談話(以下「令和3年内閣総理大臣談話」という。)が発表された。 「本年7月14日の広島高等裁判所における「黒い雨」被爆者健康手帳交付請求等訴訟判決について、どう対応すべきか、私自身、熟慮に熟慮を重 ねてきました。 その結果、今回の訴訟における原告の皆様については、原子爆弾による健康被害の特殊性にかんがみ、国の責任において援護するとの被爆者援護法の理念に立ち返って、その救済を図るべきであると考えるに至り その結果、今回の訴訟における原告の皆様については、原子爆弾による健康被害の特殊性にかんがみ、国の責任において援護するとの被爆者援護法の理念に立ち返って、その救済を図るべきであると考えるに至り、上告を行わないこととしました。 皆様、相当な高齢であられ、様々な病気も抱えておられます。そうした 中で、一審、二審を通じた事実認定を踏まえれば、一定の合理的根拠に基づいて、被爆者と認定することは可能であると判断いたしました。 今回の判決には、原子爆弾の健康影響に関する過去の裁判例と整合しない点があるなど、重大な法律上の問題点があり、政府としては本来であれば受け入れ難いものです。とりわけ、「黒い雨」や飲食物の摂取による内部 被曝の健康影響を、科学的な線量推計によらず、広く認めるべきとした点については、これまでの被爆者援護制度の考え方と相容れないものであり、政府としては容認できるものではありません。 以上の考えの下、政府としては、本談話をもってこの判決の問題点についての立場を明らかにした上で、上告は行わないこととし、84名の原告 の皆様に被爆者健康手帳を速やかに発行することといたします。また、84名の原告の皆様と同じような事情にあった方々については、訴訟への参加・不参加にかかわらず、認定し救済できるよう、早急に対応を検討します。」(以上、乙A376) カ令和4年3月18日付け健発第8号各都道府県知事、広島・長崎市長宛て「「黒い雨」被爆者健康手帳交付請求等訴訟の「原告」と同じような事情にあったと認められる者に係る取扱いについて」厚生労働省健康局長は、令和3年内閣総理大臣談話を受け、地方自治法245条の9の規定に基づく法定受託事務に係る処理基準として、「「黒い 雨」先行訴訟における原告と 者に係る取扱いについて」厚生労働省健康局長は、令和3年内閣総理大臣談話を受け、地方自治法245条の9の規定に基づく法定受託事務に係る処理基準として、「「黒い 雨」先行訴訟における原告と同じような事情にあったと認められる者」に係る被爆者援護法1条3号の解釈及び運用に関する処理基準(以下「令和4年基準」という。)を、次のとおり定めた。 (ア) 「黒い雨」先行訴訟における原告と同じような事情の者の取扱い次のa及びbのいずれにも該当する者は、被爆者援護法1条3号に該 当すると認めることとする。 a 以下の要件のいずれにも該当する者(a) 黒い雨を浴びた、黒い雨で服が濡れたなど、黒い雨に遭ったことが確認できること(※1)。 (※1)申請者の個々の状況を踏まえ、黒い雨に遭ったことが否定できない場合は、黒い雨に遭ったものとみなして取り扱うこと。 (b) 黒い雨に遭った場所・時間帯、降雨状況、生活状況等が、「「黒い雨」先行訴訟の原告」と同じような事情にあったことが確認できること。 b 次に掲げる障害のいずれかを伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっている者 造血機能障害、肝臓機能障害、細胞増殖機能障害、内分泌腺機能障害、脳血管障害、循環器機能障害、腎臓機能障害、水晶体混濁による視機能障害、呼吸器機能障害、運動器機能障害、潰瘍による消化器機能障害(イ) 確認方法 a 上記a(a)について「被爆者健康手帳の交付事務について」(昭和51年3月18日衛企第5号厚生省公衆衛生局企画課長通知)に留意のうえ、(a) 「黒い雨」先行訴訟の第一審判決及び第二審判決において「黒い雨」が降っていたことについて事実認定に用いられた資料(「(「黒い 18日衛企第5号厚生省公衆衛生局企画課長通知)に留意のうえ、(a) 「黒い雨」先行訴訟の第一審判決及び第二審判決において「黒い雨」が降っていたことについて事実認定に用いられた資料(「(「黒い 雨」先行訴訟の)原告」が「黒い雨」に遭ったことを事実認定する前提として同訴訟の第一審判決及び第二審判決で用いられた部分に限る。)(b) 「黒い雨」に遭った当時の居住地や通学先、勤務先の分かる書類等 を基に、個々の事情を踏まえて確認すること。 b 上記a(b)について(以下略)(以上、乙A377)⑻ 放射線等に関する一般的知見ア放射線及び放射能の定義 放射線とは、概していえば、物質に照射されたときに、その物質を構成する分子や原子に電離(原子の軌道電子を励起させ、又は外へ弾き飛ばす現象)を引き起こす能力をもったものである。 放射能とは、放射性物質が放射線を出す能力をいう。ただし、我が国では、慣用として、本来は「放射線」というべきところを「放射能」という ことがある(通達等や文献上においてもそのような表記がされることがある)ことに留意が必要である。 イ放射線の種類放射線には、粒子線と電磁波があり、アルファ線、ベータ線、中性子線などが粒子線であり、エックス線、ガンマ線などが電磁波である。 また、放射線は、電荷を持つものと電荷を持たないものに大別される。 アルファ線、ベータ線などが電荷を持つ放射線であり、ガンマ線、中性子線などが電荷を持たない放射線である。 一般に、電荷を持つ放射線は、物質透過中に急速にエネルギーを失うことから、物質を透過する力が小さい(遮蔽されやすい)。例えば、アルファ 線は、空気中で数cm程度しか進むことができず、紙1枚さえ透過することがで 放射線は、物質透過中に急速にエネルギーを失うことから、物質を透過する力が小さい(遮蔽されやすい)。例えば、アルファ 線は、空気中で数cm程度しか進むことができず、紙1枚さえ透過することができない。ベータ線は、空気中で数十cmないし数mの距離を進むことができるが、厚さ数mmないし1cm程度の厚さのアルミニウム板やプラスチック板を透過することができない。 これに対し、電荷を持たない放射線は、物質中を透過する際にエネルギ ーを失う割合が小さいので、透過性が大きい(遮蔽されにくい)。 ウ放射線と放射能の単位(ア) 放射能の単位ある放射線物質中にある全ての原子に含まれる原子核のうち、1秒間当たり平均1個の原子核が崩壊を起こす場合の放射能の強さを表す単位を1Bq(ベクレル)という。 (イ) 放射線量の単位a 照射線量照射線量とは、空気1kg中に1クローンのイオンを作るガンマ線(エックス線)の量をいい、単位はC/kgであるが、歴史的には、レントゲン(R)という単位が用いられてきた。 b 吸収線量吸収線量とは、放射線を受けた単位質量当たりの物質が吸収するエネルギーをいう。吸収線量の単位はグレイ(Gy)であり、1グレイは、物質1kg中に1ジュール(J)のエネルギー吸収があるときの吸収線量である(Gy=J/Kg)。 なお、吸収線量の単位としてラド(rad)が用いられることもある(1Gy=100rad)。 c 等価線量放射線の種類により人体への影響が異なるので、吸収線量に放射線の種類を考慮するための放射線加重係数(WR)を乗じて導き出される のが等価線量であり、単位はシーベルト(Sv)である。 放射線加重係数は、人体への影響が大きい放射線ほど大きな値になり、ベー 種類を考慮するための放射線加重係数(WR)を乗じて導き出される のが等価線量であり、単位はシーベルト(Sv)である。 放射線加重係数は、人体への影響が大きい放射線ほど大きな値になり、ベータ線とガンマ線がそれぞれ1であるのに対し、アルファ線は20である。 d 実効線量 単位線量を全身被曝に焼き直した線量が実効線量であり、臓器の感 受性の違いを考慮するための組織加重係数(WT)が定められている。 例えば、骨髄、結腸、肺、胃などの係数が0.12であり、皮膚の係数が0.1などである。実効線量の単位もシーベルト(Sv)である。 エ放射線が生物に与える影響及び放射線被曝の態様放射線に人が被曝する態様としては、大別して次の2つがある。 (ア) 外部被曝外部被曝とは、身体の外に存在する放射性物質からの被曝をいう。 (イ) 内部被曝内部被曝とは、体内に取り込まれた線源による被曝をいう。 その態様としては、①吸入摂取、②経口接種、③経皮吸収、④創傷侵 入、⑤放射性医薬品の血管内への投与等が考えられる。 放射性物質が体内に入ると、放射性物質が体外に排出され、又は時間の経過により放射能が弱まるまでの間、人体は放射線を受け続けることになる。 オ確定的影響と確率的影響 放射線被曝により人に障害(健康被害)が起こる機構としては、確定的影響と確率的影響とがある。 前者は、臓器や組織を構成する細胞が多数死んだり、変性したりすることで起こる症状で、これにはしきい値がある。 後者は、がんや遺伝性影響といった細胞の遺伝子が変異することで起こ る影響であるが、これにしきい値があるかどうかが争われている。 カ自然・人工放射線からの被曝線量公益財団法人原子力安全協会は、2020年11 響といった細胞の遺伝子が変異することで起こ る影響であるが、これにしきい値があるかどうかが争われている。 カ自然・人工放射線からの被曝線量公益財団法人原子力安全協会は、2020年11月に「生活環境放射線(国民線量の算定)第3版」を刊行し、日本人の国民線量を発表した。 これによれば、日本人が1年間に受ける平均被曝線量は、4.7mSv である。そのうち2.1mSvが自然放射線(その内訳は、宇宙から0. 3mSv、空気中のラドン・トロンから0.47mSv、大地から0.33mSv、食物から0.99mSvである。)による被曝であり、その余が医療被曝である(例えば、CT検査(1回)の被曝線量は、2.4mSv~12.9mSvであり、胸部X線検査(1回)の被曝線量は、0.06mSvである。)。 なお、シーベルト(Sv)の1000分の1がミリシーベルト(mSv)である。 (以上、アないしカにつき、甲A38、乙A90、147、148、149、265) 3 争点 ⑴ 予備的請求に係る訴訟承継の成否(争点⑴)⑵ 被爆者健康手帳交付申請却下処分の適法性及び被爆者健康手帳交付処分義務付けの可否ア被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義(争点⑵) イ長崎原爆由来の放射性降下物の降下の有無及び降下範囲(争点⑶)ウ原告ら(相続人原告らの請求については本件被相続人ら)が被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するか(争点⑷)⑶ 第一種健康診断受診者証交付申請却下処分の適法性及び第一種健康診断受 診者証交付処分義務付けの可否(争点⑸) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴(予備的 」に該当するか(争点⑷)⑶ 第一種健康診断受診者証交付申請却下処分の適法性及び第一種健康診断受 診者証交付処分義務付けの可否(争点⑸) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴(予備的請求に係る訴訟承継の成否)(相続人原告らの主張)402号通達により、第一種健康診断受診者証を有する者は、健康管理手 当の支給対象となる11種類の障害を伴う疾病を有するに至ったときは被爆 者援護法1条3号の被爆者と認定され、被爆者健康手帳の交付を受け得る地位に立つ。 そうであれば、第一種健康診断受診者証の交付申請者は、第一種健康診断受診者証交付申請却下処分の取消し判決を受けて第一種健康診断受診証の交付を受けた場合は、交付申請時に遡り、健康管理手当の支給対象となる11 種類の障害を伴う疾病を有するに至った時点において一般疾病医療費を受給することができる法的地位、及びその葬祭を行った者が葬祭料を受給することができる法的地位を有していたものと解される。 そして、上記各法的地位は、相続の対象となるから、第一種健康診断受診証の交付申請の却下処分の取消しを求める訴訟、及びその交付義務付けを求 める訴訟について、訴訟の係属中に当該交付申請者が死亡した場合には、当該訴訟は、当該交付申請者の死亡により当然に終了するものではなく、その相続人がこれを承継する。 なお、本件被相続人らは、生前中、いずれも健康管理手当の対象となる11種類の疾病を有していた(甲B29-2、同22、同27、同28)。 (被告ら及び参加人(以下「被告ら」という。)の主張)ア行政事件訴訟において、処分の取消し訴訟の係属中に原告が死亡した場合には、処分の取消しを求める法律上の利益(すなわち、行政事件訴訟法9条の原告適格を基礎付ける法律上の利益)を実 う。)の主張)ア行政事件訴訟において、処分の取消し訴訟の係属中に原告が死亡した場合には、処分の取消しを求める法律上の利益(すなわち、行政事件訴訟法9条の原告適格を基礎付ける法律上の利益)を実体法上承継する者があるときに、当該者が訴訟を承継することとなる。このような訴訟承継の成否 については、法律上の利益ないし行政実体法上の地位の承継の可否が法律上明文で規定されている場合はその規定によることとなるが、このような法律上の利益ないし地位の承継について明文の規定がない場合には、当該利益ないし地位の根拠となる行政法規がどのような立法政策を採るものであるかを探求して、承継がされるか否かを具体的に検討する必要がある。 イ被爆者援護法は、原爆放射線による特異な健康被害という「特別の犠牲」 を被った者に対し、適切な健康診断及び指導並びに治療等を行うために制定されたものであり、同法1条各号の被爆者に対する各種援護施策を定めている。 これに対し、原爆が投下された際に第一種健康診断特例区域に在った者に対する健康診断は、被爆者援護法上「被爆者」に該当しない者を対象と するものである。それは、当該者の放射線被曝による健康不安を一掃するという見地から、上記援護施策とは異なる別個の政策判断に基づく援護施策として、同法附則17条を根拠に実施されるものに過ぎない。そして、第一種健康診断受診証の交付を受けることの効果は、被爆者援護法7条(健康診断)の適用上、被爆者とみなされることにとどまる。 したがって、第一種健康診断受診者証の交付申請の却下処分の取消しを求める法律上の利益は、健康診断の規定の適用に限り被爆者とみなされることにより生じるものに過ぎないというべきである。健康診断が、その診断を受ける者の健康状態を把握するための 申請の却下処分の取消しを求める法律上の利益は、健康診断の規定の適用に限り被爆者とみなされることにより生じるものに過ぎないというべきである。健康診断が、その診断を受ける者の健康状態を把握するためのものである以上、その適用を受ける者の健康診断を受けるという法的利益は、第一種健康診断特例区域に 在った者のみに認められる一身専属的な利益と解するほかない。 ウこれに対し、原告らは、11種類の疾病を有する第一種健康診断受診者証申請者は、402号通達により被爆者健康手帳が交付されることになるから、被爆者援護法上の被爆者としての地位が訴訟承継されると主張する。 しかし、11種類の疾病があって第一種健康診断受診者証の交付を受け た者は、被爆者援護法ではなく、402号通達に基づいて「被爆者」としての地位を取得するにすぎない。しかも、その地位すら、第一種健康診断受診者証の取得によって直ちに取得するものではなく、同受診者証の交付を受けた後に健康診断を受け、その結果、11種類の疾病があると診断された場合に被爆者健康手帳への切替えを申請し、都道府県知事の審査の結 果、11種類の疾病があると確認されてはじめて有するに過ぎない。 そうすると、本件被相続人らにおいては、第一種健康診断受診者証が交付され、その後の健康診断において11種類の疾病があると診断され、被爆者健康手帳への切替えを申請し、都道府県知事の審査により11種類の疾病があると確認された場合に、402号通達に基づき被爆者健康手帳が交付されて被爆者としての地位を取得するであろうとの事実上の利益が あったに過ぎないというべきである。したがって、本件被相続人らにつき、一身専属的なものでない承継の対象となる法律上の利益が認められるということはできない。 ⑵ 被爆者援護法1条 実上の利益が あったに過ぎないというべきである。したがって、本件被相続人らにつき、一身専属的なものでない承継の対象となる法律上の利益が認められるということはできない。 ⑵ 被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義(争点⑵) (原告らの主張)ア被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」という条文は、同法の前身である原爆医療法2条3号と同一の規定ぶりであるから、原爆医療法の同条同号の意義をそのまま引き継いだものである。 原爆医療法は、度重なる請願・陳情や関係機関の熱心な働きかけ、世論の高まりの結果、原爆の被害について他の戦争被害とは異なる特別なものであることが認められ、人道上の見地から、いまだ健康被害が生じていない被爆者に対する健康管理と、既に健康被害が生じている被爆者に対する治療を遺漏なきようにするために、政治的な観点から制定されることとな った法律であり、もっぱら科学的知見のみに依って制定された法律でなかったことは明らかである。 イすなわち、原爆の放射能の身体への影響は、当時の科学的知見において詳らかになっていなかったところ、このことは、原爆医療法の制定時、当然の前提とされていた。 例えば、厚生省公衆衛生局作成の「原子爆弾被爆者の医療等に関する法 律予想質問事項」においては、「問5 原爆症とは何か」との想定問に対し、「現在の医学においては未だ証明されていないものが被爆者に加わっていることも想像される」との回答案がある。 また、厚生省公衆衛生局長通達「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律により行う健康診断の実施要領について」(昭和33年8月13日衛発第 727号)においても とも想像される」との回答案がある。 また、厚生省公衆衛生局長通達「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律により行う健康診断の実施要領について」(昭和33年8月13日衛発第 727号)においても、「昭和20年広島及び長崎の両市に投下された原子爆弾は、もとより、世界最初の例であり、従って核爆発の結果生じた放射能の人体に及ぼす影響に関しても基礎的研究に乏しく明らかでない点がきわめて多い。」との見解が示されている。 ウさらに、国会審議における政府答弁を参照しても、原爆の放射能の身体 への影響が詳らかになっていないことを前提にして、一見健康と見える人に対しても幅広く適切な健康診断及び指導を実施するものであることが明らかにされた。 例えば、昭和32年2月22日開催の衆議院社会労働委員会(第26回国会)においては、厚生大臣が、原爆医療法の提案理由について、「・・・ 被爆者は、十余年を経過した今日、なお多数の要医療者を数えるほか、一見健康と見える人におきましても突然発病し死亡する等、これら被爆者の健康状態は、今日においてもなお医師の綿密な観察指導を必要とする現状であります。」と説明している。同年3月25日開催の衆議院社会労働委員会(第26回国会)においては、厚生省公衆衛生局長が、放射能の影響が 核実験によるものでなく、広島原爆又は長崎原爆によるものであることの証明の必要性につき、「科学的に証明しろというふうなことになりますと、これこそよけいにむずかしくなるのではないかというふうに考えるわけでございます。ただいまほとんど不可能に近いのじゃないかというお話でございましたが、私もごもっともだと存じます。・・・むしろかえって科学 的にやって参りますと、現在のその後の実験によって放射能物質が世界に 広がってその影響を いのじゃないかというお話でございましたが、私もごもっともだと存じます。・・・むしろかえって科学 的にやって参りますと、現在のその後の実験によって放射能物質が世界に 広がってその影響を受けておる人たちとの区別ができない・・・科学的にやってはかえって区別できないという建前で、先ほどのような証明方法をとったわけでございます。」と答弁するなどしており、被爆者認定において科学的な証明を求めることが相当でないことが明らかにされた。 エ立法過程をみても、被爆者援護法1条3号の法文につき、途中整理案の 段階では、「前二号に掲げる者のほか、これに準ずる状態にあった者であって、原子爆弾による放射線の影響を受けたおそれがあるとして政令で定めるもの」とされていたのに対し、法律案では、「前二号に掲げる者のほか、原子爆弾の障害作用の影響を受けたおそれがあると考えられる状態にあった者」と、「これに準ずる状態にあった者」との限定が外されるに至り、 もって、法文の抽象化が図られて被爆者の範囲が広げられた。 オ厚生省が原爆医療法の施行に当たり発出した各種通達を参照しても、被爆者の認定に当たっては、弾力性のある処理をすることで申請者の立証責任を軽減する方針が示されてきた(厚生事務次官通達「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律の施行について」昭和32年5月14日発衛第267 号参照)。 また、原爆医療法により行う健康診断は、原爆の放射能の身体への影響が実際にあったことやその程度までを問うことなく、上記影響のために疾病が発生する不安に脅えている者に対して幅広く実施することにより、その不安の一掃を図ることを目的とするものであることが明らかにされて いた(厚生省公衆衛生局長通達「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律により行う健康診断の実 に対して幅広く実施することにより、その不安の一掃を図ることを目的とするものであることが明らかにされて いた(厚生省公衆衛生局長通達「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律により行う健康診断の実施要領について」昭和33年8月13日衛発第727号参照)。 カ以上によれば、被爆者援護法1条3号における「身体に原子爆弾の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義は、広島高裁令和3年判決が 判示するとおり、「原爆の放射能により健康被害が生ずる可能性がある事 情の下に置かれていた者」と解するのが相当である。ここでいう「可能性がある」という趣旨をより明確にして換言すれば、広島高裁令和3年判決が判示するとおり、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下に置かれていた者」で足りると解するのが相当である。 「黒い雨」先行訴訟において、広島県、広島市及び訴訟参加人の厚生労働大臣は、上告を断念して広島高裁令和3年判決を受け入れたのであるから、被告らが上記解釈を否定することは許されない。 キそして、上記に該当すると認められるためには、その者が「特定の放射能の曝露状況の下にあったこと」、また、当該曝露態様が「原爆の放射能に より健康被害が生ずることを否定することができないものであったこと」を立証することで足りるというべきである。 なお、「黒い雨」先行訴訟においては、「「黒い雨」に遭ったこと」が「特定の放射能曝露状況」であった。しかし、長崎では、「黒い雨」に限らず、その降雨地域外であっても広く放射性降下物が降下している。このことは、 広島・長崎マンハッタン管区原子爆弾調査団(以下「マンハッタン調査団」という。)の最終報告書(以下「マンハッタン報告書」という。)からも明らかである。 降下物が降下している。このことは、 広島・長崎マンハッタン管区原子爆弾調査団(以下「マンハッタン調査団」という。)の最終報告書(以下「マンハッタン報告書」という。)からも明らかである。 したがって、本件において原告らが被爆者援護法1条3号の被爆者であるというためには、①原告が長崎原爆由来の放射性降下物に遭ったこと、 ②当該曝露態様が原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定できないものであること、以上2点の立証で足りるというべきである。 よって、被告らが指摘する「線量の多寡」は、そもそも問題とならないし、問題にすべきでない。 (被告らの主張) ア被爆者援護法は、多かれ少なかれ戦争被害を被った全ての一般国民と区 別して、「特殊な被害」を被った特定の者に対して特別に援護施策を実施するものである。このような被爆者援護法の趣旨からすると、同法は、その「特殊の被害」である原爆放射線由来の健康被害につき、一般の国民と区別して特別に救済する事情があるほどの健康被害の内実があるがゆえに、それを考慮して救済するものであるといえる。したがって、同法の救済対 象とすべきか否かについては、健康被害の内容が問題となるというべきである。 そうすると、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない」という意味における「可能性」がありさえすれば、被爆者援護法が、その想定される健康被害を救済の対象として、あまねく広く何ら かの援護施策を実施するというものでないことは明らかである。被爆者援護法1条3号が救済の対象として想定する健康被害は、一般の国民と区別して、特別に救済する事情があるほどの健康被害の内実を伴うものでなければならないとするのが被爆者援護法の趣旨である。 イ被爆者援護法1条各号は 救済の対象として想定する健康被害は、一般の国民と区別して、特別に救済する事情があるほどの健康被害の内実を伴うものでなければならないとするのが被爆者援護法の趣旨である。 イ被爆者援護法1条各号は、原爆医療法2条各号を同一の文言のまま引き 継いだものであるところ、同条1号は、原爆の放射能の威力の作用が大体半径4kmまでの地域に及んでいたとする当時の科学的知見を基に、爆心地から大体5km程度の区域を基本にすることが相当である旨の専門家の意見を参考に、同区域内で直接被爆した者を対象としたものである。 同条2号も、専門家の意見を参考に、直接被爆はなくとも、当時の残留 放射線等に係る科学的知見に照らし、原爆投下から2週間以内に爆心地から2km程度の範囲に入った者については、原子爆弾の放射能の影響を受けていると考えられるとして、これを対象としたものである。 さらに、同条3号は、被爆者の死体処理をした等、同条1号又は2号に該当しない者であっても、いわゆる原子病を発病するという現実の健康被 害が認められる事例があったことを踏まえ、「前二号に掲げる者のほか」 「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」を対象としたものである。 このような原爆医療法2条3号の制定経緯に照らせば、同号及びこれを受け継いだ被爆者援護法1条3号は、基本的に、1号及び2号という一定の時間的・場所的に類型化された要件によって救済されるべき者を網羅的 に救済しつつ、1号及び2号では包摂されない特殊な曝露態様によって現実に原爆の放射線による健康被害が生じているといった「身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情の下」にあって現実に救済の対象とされるべき者が救済漏れとなることがないよう、個別具体的な事情を踏まえて被爆者とする 線による健康被害が生じているといった「身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情の下」にあって現実に救済の対象とされるべき者が救済漏れとなることがないよう、個別具体的な事情を踏まえて被爆者とする余地を残した規定であるといえる。 ウこのことは、被爆者援護法の制定経緯等をみても明らかである。 すなわち、被爆者援護法は、原爆被爆者対策基本問題懇談会(以下「基本問題懇談会」という。)の「原爆被爆者対策の基本理念及び基本的在り方について」と題する報告書(乙A30。以下「懇談会報告書」という。)、及び平成2年度に実施された長崎原爆残留放射能プルトニウム調査(以下 「原爆残留放射能プルトニウム調査」という。)に係る長崎原爆残留放射能プルトニウム調査報告書(乙A60。以下「岡島報告書」という。)を踏まえて制定されたものである。 ここで、懇談会報告書は、「被爆地域の指定は、本来原爆投下による直接放射線量、残留放射能の調査結果など、十分な科学的根拠に基づいて行わ れるべきものである。」「被爆地域の指定は、科学的・合理的な根拠のある場合に限定して行うべきである。」とするものである。 また、岡島報告書においては、長崎における被爆未指定地域につき、長崎原爆の放射性降下物による被曝自体はあり得る地点があるものの、そのような地点においても、被曝線量が健康被害を及ぼす程度のものではなか った旨の報告がされている。 エ以上によれば、被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」というためには、健康被害の危険性があることが客観的な根拠に基づいて認められることを要すると解すべきである。かかる意味で、同号にいう「身体に原子爆弾の影響を受けるような事情の下にあった者」とは、「原爆の放射線 は、健康被害の危険性があることが客観的な根拠に基づいて認められることを要すると解すべきである。かかる意味で、同号にいう「身体に原子爆弾の影響を受けるような事情の下にあった者」とは、「原爆の放射線による健康被害の蓋然性が ある事情の下にあった者」をいうものと解すべきである。 ⑶ 長崎原爆由来の放射性降下物の降下の有無及び降下範囲(争点⑶)(原告らの主張)ア原爆が爆発すると、核分裂連鎖反応による超高温のために全ての固体が瞬時にして気体となり、火球を形成する。火球は、熱によって膨張し、周 りの物質を吸い込み気化しながら高温気塊となって上昇を始める。 このようにして形成される原子雲は、きのこ雲の軸を中心として、逆転層(風向きが異なる地表面と高層風の境目の層)において、同心円状に広がるという特徴を持ち、実際に広島及び長崎で明瞭に確認されている。 長崎では、原子雲が爆心地を中心に半径19kmの範囲で薄く広がり、 半径12kmの範囲で厚く円形に広がったと考えられる。そして、広がった後の水平原子雲は、西風にのって東方向へ流れていった。 イ原子雲には、核分裂生成物、未核分裂核物質、誘導放射性物質(中性子線により放射化したもの)、水滴や地表の土地、塵埃や煤などが含まれていたところ、放射性降下物の地表への降下を決める主要な要因は、粒子の大 きさと気象条件であるといえる。 放射性粒子との混ざり合いによって放射性を帯びた土、塵埃や煤のような比較的大きな粒子は、いわゆる「死の灰」となって地表に落下した。多くの住民が「あたりは夜のように暗くなり、太陽は肉眼で赤黒く染まって見えた」と証言していることは、当時、大気中に粒子が浮遊、充満してい たことを示している。 空気中の水滴がそれらを吸着して集まると、いわ のように暗くなり、太陽は肉眼で赤黒く染まって見えた」と証言していることは、当時、大気中に粒子が浮遊、充満してい たことを示している。 空気中の水滴がそれらを吸着して集まると、いわゆる「黒い雨」となって地表に降り注ぐところ、広島においては、「黒い雨」が広範囲で降ったのに対し、長崎においては、「黒い雨」は局所的にしか降らなかった。この違いは、原爆投下当時の湿度の差から生じたものと考えられるが、放射性降下物の降下態様としては、決して降雨に限られるものではない。 ウ長崎原爆投下後、原告ら(ただし、相続人原告らの請求については本件被相続人ら)がいた被爆地点に放射性降下物が降下したことを示す客観的資料として、最も重要なものがマンハッタン報告書である。 マンハッタン報告書によれば、爆心地から半径12kmの範囲内はもとより、12km超の大村や島原においても長崎原爆由来の残留放射能が検 出されているところ、最も重要なことは、爆心地から半径12km圏内においては、自然放射線を差し引いた放射線率の値が各測定地点でゼロを超えている、つまり長崎原爆由来の放射性降下物が検出されているということである。 すなわち、原告らの被爆地点である旧伊木力村(原告番号10、29、 30、31、33、36、25、26)、旧大草村(原告番号32、35、37、39)、旧三重村(原告番号34、41)、旧戸石村(原告番号2、21、23、24、38、44)、旧深掘村(原告番号1、5、6、9、11、13、14、40、19、20)、旧古賀村(原告番号17、18、42)、旧日見村(原告番号43、16)、旧香焼村(原告番号3)、旧喜々津 村(原告番号4、28)、旧矢上村(原告番号7、8、12、15、22、27)は、いずれも爆心地から半径12k 、18、42)、旧日見村(原告番号43、16)、旧香焼村(原告番号3)、旧喜々津 村(原告番号4、28)、旧矢上村(原告番号7、8、12、15、22、27)は、いずれも爆心地から半径12kmの範囲内に含まれており、かつ、長崎原爆由来の残留放射能が検出されている地域である(甲A83)。 被告らは、マンハッタン調査団によるバックグラウンド値の設定に問題があるかのような主張をするが、マンハッタン調査団がバックグラウンド 値として設定した0.01mR/h=0.087μGy/hは、長崎にお ける自然放射線と比較してかなり高めの設定である。長崎県が公開している2022年7月1日時点における県内28か所のモニタリングポストの空間線量率のうち、最も高い値は、松浦市福島測定局の0.047μSv/h(μSvはμGyにほぼ等しい。)であり、長崎水準局(長崎市滑石)は、0.037μSv/hであった。環境省のホームページに掲載されて いる日本の「大地の放射線」を参照しても、長崎県の自然放射線は全国的にみて低いエリアに属しており、長崎県下の自然放射線は、0.0178~0.036μGy/hであって高くない。 エまた、広島大学名誉教授の大瀧教授は、財団法人日本公衆衛生協会による「昭和51年度広島、長崎の残留放射能調査報告書」(乙A42)におけ る長崎の土壌のセシウム137の測定結果と、国土数値情報システムから公表されている1953年~1976年の24年間平均の年間降水量データを結合させ、放射能(137Cs)の汚染発生源寄与測定のためのデータを作成して共分散分析による多変量解析を行い、原爆由来の放射能汚染地域の探索を試みた。 その結果、長崎においては、爆心地を中心に約12km圏内において広く原爆由来の放射能汚染が認めら ータを作成して共分散分析による多変量解析を行い、原爆由来の放射能汚染地域の探索を試みた。 その結果、長崎においては、爆心地を中心に約12km圏内において広く原爆由来の放射能汚染が認められるばかりか、爆心地から20km前後の遠距離であっても高い汚染地点が点在することが判明した(甲A36、110)。 この分析結果は、マンハッタン報告書の内容とも整合するから、原爆投 下地点から半径12km圏内に広く長崎原爆由来の放射性降下物が降下したことを示すものといえる。 オ長崎原爆由来の放射性降下物が広く降下したことは、原告らの証言及び原告らに実際に発生している健康被害からも裏付けられる。 すなわち、原告らは、被爆当時の上空の様子について、「夜のように真っ 暗になった」「太陽が赤く丸く見えた」などと証言しているが、これは、上 空に放射性微粒子が充満していたことを示している。 また、原告らの多くは、被爆後ほどなくして脱毛や歯茎からの出血などの急性症状を発症している上、晩発性の疾病として、原爆放射線との関連が想定される障害を伴う疾病(健康管理手当の支給要件である11疾病)、すなわち癌や甲状腺機能低下症といった被爆者に多い疾病等、多数の疾病 を患っている(甲B29-1~44、同30-1~28、同31-1~44、同32-26、同33-29~44、同34、同37、同38)。 具体的には、別紙6の表中「原告らが急性症状として主張するもの」「原告らが晩発性の疾病として主張するもののうち、「診断書(健康管理手当用)」(甲B29)に記載のあるもの」欄記載のとおりである。 カ平成11年から12年にかけて、長崎市、長崎県、長崎県原子爆弾被爆地域是正連絡協議会及び長崎原子爆弾被爆者援護強化対策協議会は、爆心地から同 )に記載のあるもの」欄記載のとおりである。 カ平成11年から12年にかけて、長崎市、長崎県、長崎県原子爆弾被爆地域是正連絡協議会及び長崎原子爆弾被爆者援護強化対策協議会は、爆心地から同心円状の半径12km以内の被爆未指定地域に居住していた人で、現在も同じ行政区域内に居住している人を対象に、現在の健康状態や原爆投下直後から6か月の間にあらわれた症状等の証言調査(以下「平成 11年度証言調査」という。)を実施したところ、調査対象者からは、原告らが訴えるのと同様の証言が寄せられた上、回答者のうち41.3%の者が、長崎原爆直後に何らかの急性期症状があらわれたと回答している(甲A58)。 平成11年度証言調査によれば、爆心地からみて風下にあたる旧矢上村、 旧戸石村、旧日見村、旧古賀村などにおいては、降雨・降灰等の証言が数多くみられるところ、同地区は、マンハッタン報告書において放射線量が高い値を示している地域である。上記各証言は、マンハッタン報告書が長崎原爆由来の放射性降下物による残留放射能の分布状況を正確に表していることを裏付けるものといえる。 キ広島高裁令和3年判決後、広島においては、「黒い雨」先行訴訟の原告と 同じような事情にあった者が被爆者認定されるようになったのに対し、長崎においては、この取扱いの対象外とされた。この国の対応を受け、長崎県が設置した「長崎の黒い雨等に関する専門家会議」は、平成11年度証言調査に係る平成11年度原子爆弾被爆未指定地域証言調査証言集(甲A108号証の1ないし4。以下「平成11年度証言集」という。)を分析・ 検証し、令和4年7月、「長崎の黒い雨等に関する専門家会議報告書」(甲A107。以下「黒い雨専門家会議報告書」という。)を取りまとめたところ、黒い雨専門家会 11年度証言集」という。)を分析・ 検証し、令和4年7月、「長崎の黒い雨等に関する専門家会議報告書」(甲A107。以下「黒い雨専門家会議報告書」という。)を取りまとめたところ、黒い雨専門家会議報告書によれば、平成11年度証言集には証拠能力があり、被爆未指定地域に降雨があったと認定できるとされている。 黒い雨専門家会議報告書には、証言調査の結果が地図上に図示されてい るところ(甲A107。別紙7参照)、これによると、爆心地の東側地域において降雨・降灰の証言が非常に多い。他方、風上側である爆心地からみて西の方にも降灰及び降雨の証言が存在することが分かる。 ク長崎民医連(長崎県民主医療連合会)は、長崎被爆地域拡大協議会(被拡協)との共催で、平成23年1月から平成24年10月にかけて、「被爆 地域拡大証言調査」を実施した。この調査は、爆心地より半径12km圏内の被爆未指定地域で被爆した「被爆体験者」を対象とし、被爆時やその後の健康状態などを非被爆者と比較することを目的としたものである。 その調査結果によれば、被爆後の急性症状については被爆体験者が明らかに有意に非被爆者より高い回答を示していることが明らかになった。 また、雨、煤等をかぶったグループとかぶっていないグループとで急性症状の発症状況の比較もなされているところ、かぶったグループでは急性症状が多い傾向にある旨の指摘もされている。 さらに、降雨、降灰等の点についても、原告らの主張が裏付けられる内容のものである。 ケこれまでの被爆地域の拡大に向けた取組によっても、原告らが放射性降 下物に遭ったことが裏付けられるところ、その概要は、次のとおりである。 (ア) 昭和49年、長崎市は、日見、東長崎、福田、式見、三重、深掘、茂木の各地区につき 組によっても、原告らが放射性降 下物に遭ったことが裏付けられるところ、その概要は、次のとおりである。 (ア) 昭和49年、長崎市は、日見、東長崎、福田、式見、三重、深掘、茂木の各地区につき、被爆地域拡大の要望書を提出した(甲A41)。 (イ) 昭和50年、長崎県及び長崎市は、日見、東長崎、福田の一部、式見、三重、深掘及び茂木、旧村松村、旧伊王島村、旧伊木力村、旧大草村、 旧喜々津村、旧香焼村及び旧田結村池下部落につき、被爆地域拡大の要望書を提出した(甲A42)。 その際、被爆隣接地域拡大要望地区住民1万0630人を対象に、原爆投下による被災状況、健康診断(一般検査)受診状況、精密検査受診状況、有疾病者数の障害別状況等につき、既指定特例区域と同様の健康 調査が実施された結果、高い有病率が示された。 (ウ) 昭和61年、長崎市は、日見、東長崎、式見、三重、深掘及び茂木の各地区につき、被爆地域拡大の要望書を提出した(甲A43)。 なお、この際、拡大要望地区住民1万2309人を対象に健康診断受診状況等につき現行被爆地域との比較が行われたところ、現行被爆地域 等と同等の高い有病率が示された。 同要望書においては、昭和58年度及び59年度に行った健康調査の結果、原爆の放射能による影響について現行被爆地域と同一条件下にあるとの結論に達している。 (エ) 昭和62年5月から6月にかけて、県内最大の被爆者団体である県被 爆者手帳友の会が、被爆地域拡大を要望していた矢上、古賀、飯盛の3地区において、健康実態と死没者の調査を実施した(甲A59)。 被爆時の様子についての調査では、矢上、古賀、飯盛の3地区で被爆したとする人たちの86.1%が「死の灰をかぶった」と答え、57. 9%が「「黒い雨」にぬれた」と答えている を実施した(甲A59)。 被爆時の様子についての調査では、矢上、古賀、飯盛の3地区で被爆したとする人たちの86.1%が「死の灰をかぶった」と答え、57. 9%が「「黒い雨」にぬれた」と答えている。 また、死没者調査によれば、死亡した197名中、70名(35.6%) が細胞増殖機能障害すなわち癌による死亡であり、うち9名が白血病であった。 (被告らの主張)ア長崎の被爆未指定地域においても、長崎原爆の放射性降下物による被曝自体があり得る地点はあるものの、そういった地点においても、放射線量 が健康被害を及ぼす程度のものであるとはいえない。 平成2年度に実施された原爆残留放射能プルトニウム調査によって、西山地区及び爆心地から概ね12kmの範囲にある地区合計70地点の未耕地の表層土中のプルトニウムが調査・測定されたところ、岡島報告書によれば、西山地区の6地点(被爆地域)及び爆心地からみて東方の地区9地 点(被爆未指定地域)において、有意なプルトニウムの存在が認められるものの、このうち被爆未指定地域の生涯最大被曝線量は、最高2.5センチグレイ(25ミリグレイ)という健康被害を及ぼす程度ではない数値を示すにとどまるものとされた。また、岡島報告書によれば、これら9地点以外では、有意なプルトニウムの存在自体が認められないものとされた。 このように、岡島報告書では、上記9地点を除いた各地点(地域)で放射性降下物の降下が認められないことを含め、被爆未指定地域において、その全域において健康被害を及ぼす程度の放射性降下物の降下がなかったことが示されているところ、この岡島報告書の結論は、事後的に専門家による科学的評価を行って作成された「長崎原爆残留放射能プルトニウム調 査報告書」検討報告書(乙A61)にお 物の降下がなかったことが示されているところ、この岡島報告書の結論は、事後的に専門家による科学的評価を行って作成された「長崎原爆残留放射能プルトニウム調 査報告書」検討報告書(乙A61)においても支持されている。 イ長崎原発由来のいわゆる原子雲について、爆心地上空を中心として数kmの範囲で広がったこと自体は否定されないが、原告ら主張の規模で原子雲が広がったことは否認する。 原告らは、石田泰治「雲仙より見たる原子爆弾投下によって発生した雲 について」と題する論文(以下「石田論文」という。)中における第2図及 び第3図のスケッチ(以下「本件スケッチ」という。)を根拠に、上記のとおり主張するようである。しかし、本件スケッチが、いつ、誰の、どのような観察条件下における観察結果を描いたものなのか等につき判然としない上、観測地点との位置関係からすれば、東西方向の雲の広がりまでは視認できないはずである。また、長崎原爆が投下された当時、米軍の記録 によれば、長崎市の市街は雲に覆われていたところ(乙A84、164頁)、本件スケッチを描くなどした観察者が、原爆投下前から存在した雲と原子雲とを明確に区別できたかについても疑問である。 ウマンハッタン報告書の問題点等について(ア) 測定精度について マンハッタン調査団の放射線測定値は、次のとおり、統計的な信頼性が確保されておらず、測定精度が低い。 a すなわち、放射性降下物による線量率を測定する場合、測定条件のわずかな変化が計測値に影響を与えるため、信頼できる測定結果を得るためには、何回か繰り返し測定を行う必要があるとされている(乙 A279、47頁)。 しかし、マンハッタン調査団は、各測定地点において、それぞれ1か所での測定しか行っていない。また、そ るためには、何回か繰り返し測定を行う必要があるとされている(乙 A279、47頁)。 しかし、マンハッタン調査団は、各測定地点において、それぞれ1か所での測定しか行っていない。また、その測定にせよ、複数回の測定を行って平均値を出すなどの対応が行われた形跡はない。 b 測定方法についても、マンハッタン調査団は、放射能の強さが弱い 場合には、指示計の値ではなく、イヤホーンとストップウォッチを使って1分間当たりのクリック音を計測しているところ、このような測定方法では正確性に疑義がある。 (イ) 測定値が過大評価である可能性があることa バックグラウンド値について マンハッタン調査団は、海岸近くの自然放射線レベルをバックグラ ウンド値としている。しかし、海岸部では、主に宇宙線を測定することになるのに対し、内陸部では、宇宙線に加えて大地からの自然放射線が存在することから、海岸部(宇宙線)と比べて、自然放射線が2倍ないし3倍高くなる傾向がある。 したがって、バックグラウンド値として海岸近くの自然放射線レベ ルを採用すればバックグランド値が低すぎることとなるから、マンハッタン調査団の放射線測定値は過大であり、マンハッタン報告書に記載された線量率は長崎原爆由来のものとはいえない。 b 測定高についてマンハッタン調査団は、地上5cmの高さで放射線の線量率を測定 しているところ、住民の被曝線量を算定する場合に一般的に採用される測定高は1mである。放射線には、距離の2乗に反比例して線量が低下する性質があるから、地表近くで測定すると、その直下の線源の寄与が大きくなり、線量が高くなる(乙A58の1、11頁)。地上高5cmの高さでの測定値は、地上高1mでの測定値より2倍高いとの 測定結果がある るから、地表近くで測定すると、その直下の線源の寄与が大きくなり、線量が高くなる(乙A58の1、11頁)。地上高5cmの高さでの測定値は、地上高1mでの測定値より2倍高いとの 測定結果があることをも踏まえると、マンハッタン調査団の測定結果をもって線量評価を行えば、過大評価をもたらすこととなる(乙A59、19頁)。 (ウ) マンハッタン報告書における測定結果を採用しても原告らに健康障害を発症し得る程度の線量率ではないことについて 仮に、マンハッタン報告書に記載された線量率が正しく算出されたものであることを前提としても、そこで挙げられている線量率(括弧内は年間換算量を表す)は、最低0.061μGy/時間(0.54mGy/年)~最高0.392μGy/時間(3.44mGy/年)である。 これらの値は、自然放射線による被曝の程度(世界平均約2.4mSv /年)にも満たないか、又はこれと同程度の線量率である(UNSCE AR2008年報告(乙A70)においては、大気中の吸収線量(nGy/h)を実効線量に換算する際の係数は0.7Sv/Gyであるとされており(同230及び239頁)、世界平均である約2.4mSyをmGyに換算すると、3.492mGyとなる。)。 したがって、原告らが健康障害を発症し得る相当程度の放射線に被曝 したとはいえない。 ⑷ 原告ら(相続人原告らとの関係では本件被相続人ら)が被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するか(争点⑷)(原告らの主張) ア放射線の人体への影響について放射線は、極度に高いエネルギーを持つ粒子又は電磁波であり、放射線が当たった組織内の原子内電子を吹き飛ばす電離作用を有するところ、電離は、原子と原 ) ア放射線の人体への影響について放射線は、極度に高いエネルギーを持つ粒子又は電磁波であり、放射線が当たった組織内の原子内電子を吹き飛ばす電離作用を有するところ、電離は、原子と原子の結びつき構造を破壊し、物体にミクロ的組織分断をもたらす。 放射線がもたらす健康被害の構造・機構としては、①電離作用そのものによる分子切断という人体障害と、②切断された分子がつなぎ直される(生体による修復作用)ときに生じるつなぎ間違えによる障害がある。後者については、特に、切断されたDNAの修復失敗のときに生じる発がんや遺伝のリスクが知られている。 放射線の健康危害の原因は、この電離作用にある。たった1本の放射線に被曝すること、あるいはたった1個の放射線微粒子を体内に取り込むことで、人体は、放射線の電離作用による影響を受けるのであるから、原告らが「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下にあったこと」の立証としては、被爆地点に放射性降下物が降 下した事実を立証することで足りるというべきである。 イ低線量被曝について(ア) 国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)は、放射線防護の基本的な枠組みと防護基準を勧告する機関であるところ、100ミリシーベルト(100mSv)以下の確率的影響のリスクについて、がん等の発生率は、臓器や組織の等価線量の増加に比例して増加するという考 え方(直線的しきい値なしモデル。以下「LNTモデル」という。)を採用している。これによれば、被爆地域に放射性降下物が降下した事実をもって直ちに、原告らが「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下にあった」ものと認められる。 被告らは、CT検査を含めた医療被曝の 域に放射性降下物が降下した事実をもって直ちに、原告らが「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下にあった」ものと認められる。 被告らは、CT検査を含めた医療被曝の実態等をるる主張するが、医 療被曝が許容されるのは、リスクがないからではなく、リスクよりも便益が上回るからに過ぎない。 (イ) 長崎市が主催している原子爆弾放射線影響研究会において、「職業放射線被ばくの癌リスクフランス、英国、米国の3カ国原子力施設労働者の後方視的国際研究(INWORKS)」が報告された(甲A32。以 下、この論文を「INWORKS論文」という。)。同研究は、国際コンソーシアムであり、主要各国政府や主要な放射線防護規制当局も参加して実施されたものである。 この研究から、被曝線量が0~100mGyの場合にも、被曝量と固形がん死亡率との間の関連が認められることが指摘された。 大瀧教授が、INWORKS論文のデータを用いて、各線量カテゴリー別の死亡率の99%信頼限界値を求めた上で、5mGy未満の線量カテゴリーを基準群として、各線量カテゴリー別の罹患率の統計的有意性を評価したところ、5~10mGy以上の全ての被曝群について、基準群5mGy以下の被曝群と比較して、固形がんによる死亡リスクが有意 に上昇していることが判明した(甲A33)。このことは、少なくとも5 mGy程度の被曝をすれば、健康被害の可能性があることが統計学的有意差をもって裏付けられたことを意味する。 INWORKS論文に対しては、「喫煙の交絡因子の影響が調整されていない」という意見がある。しかし、INWORKSのデータを解析した大瀧教授が、日本の原子力発電施設就労者4万5382人の喫煙率と 累積被曝線量データから喫煙の 喫煙の交絡因子の影響が調整されていない」という意見がある。しかし、INWORKSのデータを解析した大瀧教授が、日本の原子力発電施設就労者4万5382人の喫煙率と 累積被曝線量データから喫煙の交絡因子の影響を検討した結果、5~10mGy以上の全ての被曝群において、固形がんによる死亡リスクの有意の上昇が喫煙率の違いでは説明できないことが統計学的に証明されている。 ウ内部被曝について (ア) 人体内に取り込まれた微小な放射性物質は、全身のすみずみまで運ばれて移動し、全ての組織、臓器、器官などの構成細胞に付着する。こうして、放射線を射出しながら体内のすみずみに分布する。 放射線の飛程距離は、放射線1本ごとが標的分子を電離することによって全エネルギーを失うという放射線寿命原理の現実的現れである。す なわち、アルファ線の消失は、4/100mm範囲内の局所的分子切断に全エネルギーを消尽しつくしたこと、ベータ線の消滅は、10cmの範囲内の分子切断に全エネルギーを消失しつくしたこと、即ち局所における分子切断を実行したことの証明にほかならない。 (イ) 上記で述べた放射能の傷害作用は、外部被曝より内部被曝においてこ そ、より強度に現象するメカニズムがある。 すなわち、外部被曝では、放射線が入力方向から出力方向へ一直線的に透過していくだけの瞬時のヒットでしかなく、その過程で、まばらにしか電離が実行されない。他方、内部被曝では、放射線は、放射線微粒子ごとに体内の1点ないし局所から全方位的に、かつ継続的に射出され ることから、高い密度で電離を実行するところ、その後、分子切断の修 復が生命活動として展開される過程において、異常修復あるいは細胞分裂を通しての異常細胞の複製化事象を発生させ、晩期における健康障害の ら、高い密度で電離を実行するところ、その後、分子切断の修 復が生命活動として展開される過程において、異常修復あるいは細胞分裂を通しての異常細胞の複製化事象を発生させ、晩期における健康障害の多発原因となる。 (ウ) また、内部被曝の場合は、放射線種としても、外部被曝の場合に問題となるガンマ線より強いエネルギーを持ち、局所的に高線量となって大 きい加害性を持ち得るアルファ線及びベータ線が主力となる。 したがって、内部被曝は、外部被曝のガンマ線被曝モデルではとらえきれない別事象であるといえ、ベータ線による内部被曝には、線源近傍ではガンマ線被曝の場合より加害性がより強いメカニズムがある。 よって、放射線量だけを評価尺度とする方法は、外部被曝モデルでは 一定の妥当性を持ち得るとしても、アルファ線及びベータ線の寄与が主力である内部被曝の場合には、科学的妥当性を失うというべきである。 特に、非不溶性放射性微粒子が絡む内部被曝の場合に対して外部ガンマ線被曝モデルによる評価を行うと、リスクの過小評価につながる危険をもたらすことに留意が必要である。 そして、真の加害性評価の尺度は、細胞分子の電離・切断密度であるが、これを計量的に評価する方法が開発されていない以上、総合的に、定性的に評価するほかない。内部被曝の場合に、被曝線量が高線量か低線量かをメルクマールにするのは不合理であり、細胞分子の分離を行う電離の密度をもって危険度の尺度とすべきである。 (エ) 被告らは、原爆による健康影響を検討するに当たり、被曝線量にこだわるばかりに内部被曝の影響を直視していない。 内部被曝の危険性について、原爆線量再評価(DS86、DS02)で導き出される被曝線量の理論値が同じでも、屋内で被爆した被爆者の方が、屋外で被爆した被爆 ばかりに内部被曝の影響を直視していない。 内部被曝の危険性について、原爆線量再評価(DS86、DS02)で導き出される被曝線量の理論値が同じでも、屋内で被爆した被爆者の方が、屋外で被爆した被爆者よりも染色体の異常率が高いという調査結 果がある。 ここで、原爆線量再評価による被曝線量の理論値とは、①爆心地からの距離(距離が近いほど被曝線量が高くなる。)、②遮蔽効果(屋内で被爆した場合には、中性子線、ガンマ線といった初期放射線は遮蔽効果によって弱められる。)により求められるものである。 他方、被爆者の染色体異常が被曝線量と相関するということがよく知 られており、被爆者の細胞の染色体異常の比率を知ることで、どれくらい被曝したかを計算することができる(生物学的被曝線量)。 そうすると、DS86による線量が同じ値であっても、屋内で被爆した被爆者の方が、屋外で被爆した被爆者よりも染色体の異常率が高い、すなわち生物学的被曝線量が多いことが分かる。 なぜ、上記のような差が生じるのかについては、放射性微粒子の関与が疑われる。原爆の中性子線が照射されると、アルミニウム、マンガン、ナトリウム等の物質が放射性を帯びるようになるところ(誘導放射線)、原爆投下後、上記の誘導放射線の放射能を持った微粒子が爆心地を中心として数多く発生した。そして、これら核種が粉塵に付着し、上空に巻 き上げられ、風に流されながら大気中に拡散して次第に地表に降下したものと考えられる。 原爆投下から比較的短い時間においては、セシウム137(半減期30年)以外にも、セシウム137の100万倍、1000万倍もの短半減期核種が大気中に浮遊していた。したがって、内部被曝を考える上で は、セシウム137だけでなく、このような短半減期の核種 期30年)以外にも、セシウム137の100万倍、1000万倍もの短半減期核種が大気中に浮遊していた。したがって、内部被曝を考える上で は、セシウム137だけでなく、このような短半減期の核種の存在も考慮に入れなければならない。 (オ) 内部被曝の危険性については、以下のような知見がある。 a 矢ケ﨑克馬「放射線被曝の隠蔽と科学」(甲A48、175頁以下)ここでは、内部被曝が、外部被曝に比べて次のような特徴を持つこ とから、より危険性が高いことが指摘されている。 (a) 内部被曝では、外部被曝ではほとんど無視できるアルファ線及びベータ線による被曝が生じる。アルファ線やベータ線は、全てのエネルギーを生体組織の電離等に費やし、特に体内に定着した放射性微粒子の周囲には継続的被曝が蓄積するから、深刻なリスクがもたらされる。この被曝は、局所的に高電離密度の被曝をもたらすから、 線量評価をもって外部被曝と同等ということはできない。 (b) 1μmの放射性微粒子から放出される放射線の飛程は、ガンマ線が数十cmであるのに対し、アルファ線は40μm、ベータ線は2mmである。ガンマ線と比較すると、アルファ線及びベータ線は、局所的な被曝であるために分子切断の被害範囲が狭く、電離が局所 的に集中するから、放射線到達範囲内の被曝線量が非常に大きくなる。 (c) 放射性微粒子が極めて小さい場合、その放射性物質は、呼吸により気管支や肺に達し、飲食を通じて腸から吸収されたり、血液やリンパ液に取り込まれたりして身体のいたるところに循環し、親和性 のある組織に入り込み、停留したり沈着する。 (d) 放射性微粒子が身体の中のある場所に定在すると、その周囲に集中被曝の場所を作る。バイスタンダー効果等を考慮すると、DNAに変成 、親和性 のある組織に入り込み、停留したり沈着する。 (d) 放射性微粒子が身体の中のある場所に定在すると、その周囲に集中被曝の場所を作る。バイスタンダー効果等を考慮すると、DNAに変成を繰り返させ、癌に成長させる危険を与える。 (e) 内部被曝の場合、放射性物質が対外に排出されるか、又は減衰し 切るまで、継続的に被曝を与え続ける。 (f) 内部被曝の場合には、平均的には低線量であっても、局所的に桁違いの大きな被曝を与える。 b 高辻俊宏「Takatsujietal(1999) GeneralizedconceptoftheLET-RBErelationshipofradiation-inducedchromosomeaberration andcelldeath」(甲A50)、放射線科学「ポアソン照射の問題点と、 単一粒子照射への期待」(甲A51)、「InductionofMicronucleiinGerminatingOnionSeedRootTipCellsIrradiatedwithHighEnergyHeavyIons.」(甲A52)長崎大学名誉教授の高辻俊宏(以下「高辻教授」という。)らの上記研究は、荷電粒子1個が発生させる染色体異常が、LET(1マイク ロメータの長さを飛ぶ間に通過場所に与える放射線のエネルギー)の2乗に比例することを明らかにしている。 すなわち、細胞核に直接かつ集中的にエネルギーを受けるとエネルギーの二乗に相当する大きな影響を受けるということである。 このことは、同じく細胞核に直接かつエネルギーを受ける内部被曝 の場合にも同様にいえることであり、内部被曝がいかに大きな影響を身体に与えるかが分かる。 きな影響を受けるということである。 このことは、同じく細胞核に直接かつエネルギーを受ける内部被曝 の場合にも同様にいえることであり、内部被曝がいかに大きな影響を身体に与えるかが分かる。 c 七條和子・高辻俊宏「ラット肺における中性子放射化二酸化マンガン粉末による局所的高線量放射線の影響:内部被ばくに起因する長期の病理学的損傷」(甲A53) 内部被曝した動物は、外部被曝した動物及び対照群と比較して、出血、気腫及び炎症のレベルが高かった。 このことは、局所的高線量を受けると、細胞核が大きなエネルギーを集中的に受けるので、均一被曝より大きな障害を受けること(ホットパーティクル理論)の実例を示している。 d 鎌田七男ら「広島フォールアウト地域4重がん症例の肺がん組織で証明された内部被ばく」(甲A54)原爆の初期放射線が届かない広島原爆の爆心地から4.1km地点で被爆した被爆者の症例である。肺がん部組織の中にアルファ線飛跡がみられるため、フォールアウトにより内部被曝(アルファ線被曝) をしていることが分かる。この症例は、アルファ線被曝の現れとして、 多重がんという重大な健康被害が生じうることを示している。 e 肥田舜太郎ら「内部被曝の脅威」(甲A55)低線量の放射線を長時間浴びると、高線量を短時間照射したときよりも合計の放射線量がはるかに小さい放射線で、細胞膜が壊れるペトカウ効果は、放射線によってフリーラジカル(放射線の電離作用によ って生じた電気を帯びた活性酸素)という物質が体内に作られることが原因である。ペトカウ効果は、低線量被曝による人体への影響につき、次の点を明らかにした。 (a) 低線量の放射線は、体内に活性酸素(フリーラジカル)を発生させる。それが細胞膜の脂質と反応し ことが原因である。ペトカウ効果は、低線量被曝による人体への影響につき、次の点を明らかにした。 (a) 低線量の放射線は、体内に活性酸素(フリーラジカル)を発生させる。それが細胞膜の脂質と反応して細胞膜を傷つける。 (b) ペトカウ効果により免疫システムが阻害され、感染症の危険が増加する。 (c) 低線量の放射線は、放射線による直接の被曝からは予想もつかない様々な病気を引き起こす。 (d) また、最近の研究では、放射線によるDNAの損傷につき、低線 量かつ長時間の被曝は、高線量かつ短時間の被曝より多くの突然変異を生み出すという逆線量率効果も認められている。 f 西尾正道「がんセンター院長が語る放射線健康障害の真実」(甲A56)人体が放射線を受けたときの影響は、放射線感受性に関する Bergonie-Tribondeau の法則として知られている。すなわち、細胞分裂の盛んな細胞、未分化の細胞及び細胞再生系臓器ほど放射線の影響を受けやすく、一般的には、大人よりも成長期にある子どもの方が、放射線による影響を受けやすい。 単なる一過性の外部被曝(照射)と放射性物質からの被曝とでは影 響が異なると考えられ、内部被曝の問題を無視することができない。 人体に取り込まれた放射性物質から放出されたアルファ線やベータ線は、飛程はごく短いが周囲の細胞に影響を与える。そのため、こうした内部被曝では、核種により生物学的半減期は異なるが、長期にわたる継続的・連続的な被曝となることから、人体への影響はより強力になると考えられる。したがって、被曝当初の放射線量は同じでも、人 体への影響は異なるものと考えるべきである。 低線量の放射線でも細胞に長時間当てると大きな障害が起こることは、「ペトカウ効果」として有名 られる。したがって、被曝当初の放射線量は同じでも、人 体への影響は異なるものと考えるべきである。 低線量の放射線でも細胞に長時間当てると大きな障害が起こることは、「ペトカウ効果」として有名であるが、最近の研究においては、低線量内部被曝の影響も明らかにされつつある。主要なものとしては、①バイスタンダー効果(放射線を照射された細胞だけでなく周辺の細 胞も損傷される)、②ゲノムの不安定性(細胞及びその子孫内の継続的、長期的突然変異の増加)、③ミニサテライト突然変異(遺伝で受け継いだ生殖細胞系のDNAの変化)がある。 g 大瀧教授ら「広島原爆被爆者における健康障害の主要因は放射性微粒子被曝である」(甲A125) この論文は、初期放射線の影響だけでは広島における原爆被爆者の急性症状の発生状況や固形がん死亡の超過危険度を説明できず、これには残留放射能を含む放射性微粒子への曝露が大きく関与していることを示す。 この論文は、まず第1節において、被爆者調査をめぐる状況を概観 する。ここでは、原爆被爆者の健康障害に関して、放射線影響研究所、広島大学、長崎大学による3個の大規模なコホート研究が独立して行われており、原爆被爆者における後障害による死亡危険度と被曝線量との線量反応関係が検討されてきたこと、これらの研究で使用された被曝線量の推定には、初期放射線のみに基づいた線量評価システム(後 述のDS86、DS02)が用いられてきており、残留放射線や放射 性降下物への曝露による影響が無視されてきたことが指摘される。その一方で、原爆被爆者における急性放射線障害の発症や固形がん罹患(死亡)危険度が初期放射線量だけでは説明できないことが指摘され、昭和58年には、広島において爆心地の西側で死亡危険度が高くなっている の一方で、原爆被爆者における急性放射線障害の発症や固形がん罹患(死亡)危険度が初期放射線量だけでは説明できないことが指摘され、昭和58年には、広島において爆心地の西側で死亡危険度が高くなっていることが判明したことが指摘されている。 次いで、第2節においては、被爆直後にみられた急性症状発症と被爆状況の関連性について、於保論文(甲A128。「原爆残留放射能障碍の統計的観察」)による実態調査のデータを基に、最新の統計解析法の適用によって調査データを再解析した結果が述べられている。 第3節では、広島大学の被爆者コホートデータに基づいた最近の研 究結果として、広島原爆の被爆者で爆心地から2.0km以内で被爆した直接被爆者を対象にした被爆後の後障害である固形がん死亡の超過危険度の被爆地点依存性の特徴が、初期線量だけでは説明できないことが説明されている。 そして、第4節では、広島原爆投下当日の8月6日における広島市 内への入市状況と、その後の急性症状発症の関係につき、NHKの協力を得て行われた兵士集団を対象としたアンケート調査の結果に基づき、放射性粉塵の吸引による内部被曝が急性症状発症や後障害発症の主因である可能性につき説明されている。 第5節では、結語として、広島における被爆者の急性症状の発症状 況や固形がん死亡の超過危険度は、初期放射線だけでは説明できず、残留放射能を含む放射線微粒子への曝露が大きく関与していると考えらえることが指摘されている。 エ放射性降下物からの内部被曝による健康被害の実態は、長崎民医連による聞き取り調査(甲A57)、原子爆弾被爆未指定地域証言調査報告書(甲 A58)、昭和50年、同61年の原子爆弾被爆地域拡大に関する要望書 (甲A42及び43)、「間の瀬地区の健康実態 る聞き取り調査(甲A57)、原子爆弾被爆未指定地域証言調査報告書(甲 A58)、昭和50年、同61年の原子爆弾被爆地域拡大に関する要望書 (甲A42及び43)、「間の瀬地区の健康実態調査ならびに死没者調査」(甲A59)などからも明らかである。 オ以上によれば、本件各処分は取り消されるべきものであることに加え、原告らが被爆者援護法1条3号に該当し、被爆者健康手帳の交付を受けられることは明らかである。したがって、本件手帳交付申請に対し、被告ら が同交付処分をすべきことが法令の規定から明らかであり、又は裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となることは明らかであるといえる。 (被告らの主張)ア被爆者援護法1条3号が想定する原爆の放射能による健康被害の蓋然性があることが客観的根拠に基づいて認められるためには、「原爆が投下され た際、又はその後において当該原告が置かれた具体的な事情」を前提とした場合に、原爆放射線が「当該原告における特定の健康被害の発生」を招来するという関係を是認し得る高度の蓋然性が証明されることが必要である。そして、その判断においては、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものでなければならない。このような関係性の判断 は、その基礎となるべき科学的経験則の存在が大前提となるところ、ここで、原爆由来のものも含め放射性物質の放射能による健康被害等を研究した様々な文献等に基づく科学的知見の集積から科学的経験則を導き出す場合には、それが科学的経験則として用いるに値するものであるか否かが厳密に検討される必要がある。 例えば、ある研究において、それまで得られなかった新たな知見が得られたとしても、それが直ちに経験則となり得るものではない。これが経験則として法則性を獲得するた 密に検討される必要がある。 例えば、ある研究において、それまで得られなかった新たな知見が得られたとしても、それが直ちに経験則となり得るものではない。これが経験則として法則性を獲得するためには、その科学的合理性について様々な角度から厳密に検証されることが必要となる。また、ある知見甲が現在において確立された科学的経験則であると評価されている場合に、かかる科学 的経験則甲と整合しない知見Aを経験則として用いるためには、知見Aが 科学的知見(科学的経験則)甲を覆すに足りるだけの合理性を有していなければならない。さらに、ある科学的な研究結果に基づく科学的知見Aについて研究者間においてコンセンサスが得られていない場合であって、少なくともこれと矛盾する知見Bが成り立ち得るときは、当該知見Aを科学的経験則として用いるためには、知見Aについて、少なくとも対立する知 見Bを上回る合理性が認められなければならない。 イ放射線の被曝は、科学的には健康に影響を与える要因となり得るものであって、放射線被曝を原因として「被照射体」内部において電離により分子を構成している化学結合の解離が生じ得る。この解離は、細胞や、生体を構成している全ての生体構成成分で起き得るが、それがDNA分子に起 きた場合には、DNA損傷が生じることとなる。しかし、このDNA分子の電離による化学結合の解離は、放射線被曝に特異な現象というわけではなく、むしろ、我々の生活の営みの中で普遍的に起きている現象にすぎない。細胞には、DNA損傷を修復する機能があり、DNAが損傷を受けると、修復酵素によりその損傷が修復されるからである。また、仮に修復が 完全ではなく、DNA分子の損傷を修復できなかったことに備え、多くの細胞が自ら死ぬことで、損傷を持つ細胞の排除を 傷を受けると、修復酵素によりその損傷が修復されるからである。また、仮に修復が 完全ではなく、DNA分子の損傷を修復できなかったことに備え、多くの細胞が自ら死ぬことで、損傷を持つ細胞の排除を行うことによる生命維持の仕組み(アポトーシス)も人体には備わっている。 ウ低線量被曝について現在の科学的知見として、100mSvを超える放射線に被曝をするこ とで、がんを発症することがあることについては、科学者の間でコンセンサスが得られているが、100mSvを下回るような放射線に被曝した場合については、それによって健康被害が発症し得るか否かも定かでなく、そもそも人体に何らの健康影響を与えない可能性も十分あり得ると考えられている。実際、例えば日本人の場合は、年間約2.1mSvの自然放 射線に被曝し、また、CT検査を1回受けると約10mSvの放射線に被 曝するなど日常的に低線量の放射線被曝をしているが、これらによって健康被害が生じるとは考えられていない。 エ内部被曝について(ア) 被曝線量の検討が不可欠であること国際的に確立された科学的知見によれば、放射線被曝による健康被害 を生ずる可能性の有無を検討するに当たっては、被曝線量が重要であって、被曝の形態(内部被曝か外部被曝か)を殊更に取り上げることに意味はない。等価線量及び実効線量は、被曝線量(Sv)が同じであれば、内部被曝であっても、外部被曝による健康影響と同等と取り扱えるように設計されている。シーベルト(Sv)の設計に基づけば、内部被曝に よる健康影響は、同じ線量で比較した場合、外部被曝よる健康影響と同等か、ないしはそれ以下である。内部被曝による健康影響の方がより危険であるとする根拠はない。そして、このことは、福島第一原子力発電所の事故を受けて 、同じ線量で比較した場合、外部被曝よる健康影響と同等か、ないしはそれ以下である。内部被曝による健康影響の方がより危険であるとする根拠はない。そして、このことは、福島第一原子力発電所の事故を受けて国際放射線防護委員会(ICRP)の国内メンバーが執筆した「放射線物質による内部被ばくについて」(乙A160)におい ても、アルファ線、ベータ線、ガンマ線それぞれについての内部被曝のメカニズムを踏まえた上で、「これまで見てきたほぼ全てのケースにおいて、内部被ばくの健康影響は、外部被ばくと比較して、線量が同じであれば同等かあるいは低いことが示されており、内部被ばくをより危険とする根拠はない。」と結論付けられているところである。 放射線影響研究所も、「目的とする臓器での蓄積線量が同じであれば、「内部被曝」も「外部被曝」もリスクの大きさに違いはないということです。」(乙A161、5頁)、「被曝線量を考慮せず、「内部被曝の方が外部被曝より危険だ」という単純な主張には全く根拠がない」(同6頁)としており、これらが現在において確立した科学的知見であるといえる。 上記と同旨の見解は、放射線学の専門家等による検討会(原爆症認定 の在り方に関する検討会)の平成19年12月17日付け報告書にも明記されている上、鳥居寛之ほか「放射線を科学的に理解する―基礎からわかる東大教養の講義」(乙A163)にも記載されている。 そして、被曝線量が同じ場合(ここでいう被曝線量とは、等価線量、さらには実効線量のことである。)、外部被曝と内部被曝の健康影響は同 等である。原告らは、細胞1個レベルの現象に着目するが、そもそもヒトの健康影響を検討するに当たっては、臓器レベルに着目する必要があるから、その意味でも、組織・臓器への放射線の影響がどれ 響は同 等である。原告らは、細胞1個レベルの現象に着目するが、そもそもヒトの健康影響を検討するに当たっては、臓器レベルに着目する必要があるから、その意味でも、組織・臓器への放射線の影響がどれくらいあるかを表す等価線量や実効線量を検討することが不可欠である。 (イ) 日常生活によって日常的に内部被曝していること 我々は、日常的に放射線が飛び交う中で日常生活を送っており、呼吸や食品摂取により日常的に内部被曝をしている。すなわち、自然放射線による被曝は、日本平均では年2.1mSvであり、その内訳は、呼吸による内部被曝が0.48mSv、食品からの内部被曝が0.99mSv、宇宙からの外部被曝が0.30mSv、大地からの外部被曝が0. 33mSvである(乙A265、65及び66頁)。 また、医療の現場では、核医学検査等で、放射性物質を人体に投与する医療行為が実施されている。 (ウ) 内部被曝の場合には外部被曝と比べて健康影響の度合いがより低くなることがあり得ること さらに、以下に述べるとおり、放射線の放射態様の違いから、被曝線量が同じ場合でも、内部被曝による健康影響は、外部被曝よりも低い場合があり得ることが指摘されている。 すなわち、内部被曝においては、放射線が放射性物質の塊から常時放射されているものではない。放射線が放射されるタイミングは、ランダ ムである上、放射方向も一定方向に定まっておらず四方八方に放射され るものである。このため、内部被曝の場合、体の一定の部位が常時放射線に被曝しているものではないこととなり、体の一定の部位に対する線量率(単位時間当たりの被曝線量)が低いため、被曝の都度、修復作用が間に合うものと考えられている。 また、放射線が一定の方向に集中した場合の内部被曝を仮 はないこととなり、体の一定の部位に対する線量率(単位時間当たりの被曝線量)が低いため、被曝の都度、修復作用が間に合うものと考えられている。 また、放射線が一定の方向に集中した場合の内部被曝を仮定するとし ても、放射性物質が沈着した細胞は、相当の被曝により死滅するから、細胞ががん化することはないと考えられる(なお、死滅した細胞は、人体の生理作用として常に生じているのと同じように、別の細胞に置き換わることになる。)。そうすると、この場合には、外部被曝の場合と比較して、がんの芽となる細胞の数が少なくなるため、発がんリスクは外部 被曝と同じか、それより減少するものと考えられる。 ⑸ 第一種健康診断受診者証交付申請却下処分の適法性及び第一種健康診断受診者証交付処分義務付けの可否(争点⑸)(原告らの主張)原告らの被爆地点に長崎原爆由来の放射線降下物が降り注いだことの科学 的根拠がある上、有病率が高いにもかかわらず、原告らの被爆地点が第一種健康診断特例区域に指定されていない。被爆地点においても、爆心地からの距離が第一種健康診断特例区域と変わらない上、住民の有病率の高さ等が第一種健康診断特例区域と同様の状況であること等に照らせば、第一種健康診断特例区域を規定する被爆者援護法施行令附則2条別表第三は、被爆者援護 法附則17条の委任の趣旨を逸脱・濫用した違法・無効な定めというべきである。 そして、本件受診者証交付申請につき、①これを却下した処分が違法であり、②「法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると 認められる」場合に該当するから、その交付処分が義務付けられるべきであ る。 (被告らの主張)法律の委任を受けて は裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると 認められる」場合に該当するから、その交付処分が義務付けられるべきであ る。 (被告らの主張)法律の委任を受けて規定された政令等が当該法律による委任の範囲内であるか否かは、①授権規定の文理、②授権規定が下位法令に委任した趣旨、③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性並びに④委任命令によって制限さ れる権利ないし利益の性質等の考慮要素を総合して判断すべきところ、授権法である被爆者援護法附則17条の前身たる原爆医療法附則3項は、原爆医療法2条1号に規定する区域に隣接する政令で定める区域(健康診断特例区域)につき、当分の間、原爆投下時に当該区域に在った者について健康診断を公費で行うものとしたものであった。これは、その当時の科学的知見に照 らせば、原爆投下当時、当該区域に在った者に原爆放射線による健康被害が生じたことについて必ずしも十分な科学的・合理的根拠までは認められず、当該区域を「被爆地域」として指定することはできないものの、その当時の科学的知見の内容や当該区域の健康調査結果等を踏まえ、暫定的措置として健康診断特例区域を定めたものである。 このように、第一種健康診断特例区域は、「被爆者」援護施策とは異なる別個の政策判断としての援護施策として制度設計されたものである。このような、被爆者援護法上の「被爆者」には当たり得ない者に対して、国費による負担の下で、いかなる援護施策を、原爆投下当時どの範囲に所在していた者にまで実施するか、さらには、その範囲設定の指標としていかなる指標を用 いるか(例えば、行政区画を用いるか否か)といった事項は、援護施策の対象とならない他の一般国民や戦争被害者との均衡や、既存の被爆地域や健康診断特例区域との均 設定の指標としていかなる指標を用 いるか(例えば、行政区画を用いるか否か)といった事項は、援護施策の対象とならない他の一般国民や戦争被害者との均衡や、既存の被爆地域や健康診断特例区域との均衡等をも勘案した、その時々の政策的判断を伴うものである。そして、その判断は、被爆地域との隣接の程度や地理的関係、地方公共団体等からの拡大要望の実情や地域住民の健康状況の訴え、政令政策当時 における放射線被曝の健康影響に係る科学的知見の集積状況等、様々な考慮 要素を総合勘案した上で、行政機関において行われるべき高度の政策的かつ専門技術的判断であるから、被爆者援護法附則17条は、具体的な健康診断特例区域の指定が高度の政策的かつ専門技術的判断を要する事項であるとして、その判断能力を有する行政機関に広範な裁量を認め、当該区域の指定を政令に委任したものと解される。 以上のとおり、健康診断特例区域の指定に関して、行政機関に広範な裁量が与えられているところ、第一種健康診断特例区域が定められた前記趣旨等からすれば、被爆者援護法施行令附則2条及び別表第3は、被爆者援護法附則17条の委任の趣旨に反するものとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(前提事実に後記各掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。)⑴ 長崎原爆の投下等アメリカ合衆国軍は、昭和20年8月9日、長崎市に、プルトニウム239(239Pu)の核分裂現象を利用したプルトニウム原爆である長崎原爆 を投下した。爆心地は、別紙5の地図中爆心地と表示された地点であり、爆心地上空約500mで長崎原爆が炸裂した。 原爆などの核爆発により発生した放射性降下物は、爆発のあった近傍に降下するもの(ローカルフォールアウト)と、全世界的に拡散 心地と表示された地点であり、爆心地上空約500mで長崎原爆が炸裂した。 原爆などの核爆発により発生した放射性降下物は、爆発のあった近傍に降下するもの(ローカルフォールアウト)と、全世界的に拡散し降下するもの(グローバルフォールアウト)とに大別され、その比率は、その爆発が地表 でのものか、大気中でのものかで大きく異なるところ、長崎原爆は、爆心地上空約500mで爆発したことから、ローカルフォールアウトよりグローバルフォールアウトの方が比率は大きいと考えられている。 (以上、乙A152)⑵ 原爆医療法制定に至る経緯 広島原爆及び長崎原爆の投下は、多数の死傷者を発生させ、街を廃墟と化 すなど想像を絶する惨禍をもたらしたが、被爆者に対する医療の充実等の被爆者救済問題は、昭和27年にサンフランシスコ講和条約が発効するまで容易に政治問題化せず、世論喚起もされなかった。 昭和28年に入り、広島及び長崎において原爆障害者治療対策協議会(原対協)が設立され、ようやく被爆者の治療及び救済問題が推進されるように なったが、被爆生存者の治療には巨額の費用を要することから、それらに要する財源が不足することが明らかな状況にあった。 そのため、長崎及び広島両市長並びに両市議会議長は、昭和28年7月、国家的施策により障害者の治療や健康管理がされることが喫緊の問題であるとして、「原子爆弾による障害者に対する治療費援助に関する請願」を行った ところ、同年8月、これが国会で採択された。 昭和31年11月には、広島及び長崎両市並びに両市の市議会において「原爆障害者援護法案要綱」を盛り込んだ「原爆障害者援護法制定に関する陳述書」が策定されたところ、これは、被爆生存者の治療ないし健康管理に今後多額の経費を要することから、「被爆 市の市議会において「原爆障害者援護法案要綱」を盛り込んだ「原爆障害者援護法制定に関する陳述書」が策定されたところ、これは、被爆生存者の治療ないし健康管理に今後多額の経費を要することから、「被爆後11年の今日に至っても発病して重態 に陥り不足のうちに死亡するものがあり、放射能の恐るべき影響は一般被爆者に大きな不安を与えております。」などと被爆者の実態を訴え、医療費の負担を国に求めるものであった。 (以上、乙A4、5、361)⑶ 原爆医療法制定当時における原爆の災害威力に関する科学的知見 日本学術会議は、昭和26年に「原子爆弾災害調査報告書」(以下「原爆災害調査報告書」という。)を編纂した。この原爆災害調査報告書においては、原爆の災害威力が、①熱及び光の威力、②機械的威力、及び③放射能威力の3つに区分されているところ、「第3節放射能威力とその障害作用」において、概要、次のとおり報告されている。 ア爆心直下から半径1kmの地域内では想像を絶する多量の放射能が到達 し、殊に、戸外で作業中であった人々には全ての放射能威力が障害を与えた。 イ放射能の威力の作用は、大体半径4kmまでの地域に及んでおり、戸外にいた者の方が障害を受けた程度が強かった。 ウ放射線の人体影響については、調査の成績から考えると、①大体爆心直 下から半径1kmの地域圏内にいたものは高度の障害(大部分の者は数日の間に死亡し、一部の者は2週間以内に死亡する。)を受けており、②1~2kmの地域内に在ったものは中度の障害(2~6週間くらいの間に重篤な症状を発し、多くの死者が出る。)を受けており、③2~4kmの地域内のものが軽度の障害(死を免れ得るが、数か月にわたって色々な故障が起 こりやすい。)を受けたものと思われる。 の間に重篤な症状を発し、多くの死者が出る。)を受けており、③2~4kmの地域内のものが軽度の障害(死を免れ得るが、数か月にわたって色々な故障が起 こりやすい。)を受けたものと思われる。 (以上、乙A6)⑷ 原爆医療法の立案過程ア厚生省の当初案厚生省は、昭和32年2月7日付けで「原子爆弾被爆者の医療等に関す る法律案」を作成したところ、この段階の法律案では、被爆者の定義が次のとおりとされていた。 「この法律において「被爆者」とは、次の各号の一に該当する者であって、被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう。 一原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は 政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者二原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内に在った者三前二号に掲げる者のほか、これらに準ずる状態にあった者であって、原子爆弾の傷害作用の影響を受けたおそれがあると考えられる状態にあ ったもの 四前各号に掲げる者が当該各号に該当した当時その者の胎児であった者」イ内閣法制局による予備審査を踏まえた修正案その後、内閣法制局による予備審査における指摘を踏まえ、上記3号は、「前二号に掲げる者のほか、原子爆弾が投下された際又はその後において、 身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に修正された。 (以上、ア及びイにつき、乙A8)⑸ 国会審議の内容等ア昭和32年2月22日衆議院社会労働委員会における法案の趣旨説明 厚生大臣は、次のとおり法案の提案理由を説明した。 「昭和20年8月、戦争末期に投ぜられました原子爆弾による被爆者は、十余年を経過した今日、なお多数の要 労働委員会における法案の趣旨説明 厚生大臣は、次のとおり法案の提案理由を説明した。 「昭和20年8月、戦争末期に投ぜられました原子爆弾による被爆者は、十余年を経過した今日、なお多数の要医療者を数えるほか、一見健康と見える人におきましても突然発病し死亡する等、これら被爆者の健康状態は、今日においてもなお医師の綿密な観察指導を必要とする現状であります。 しかも、これが当時予測もできなかった原子爆弾に基づくものであることを考えますとき、国としてもこれらの被爆者に対し適切な健康診断及び指導を行い、また、不幸発病されました方々に対しましては、国において医療を行い、その健康の保持向上をはかることが、緊急必要事であると考えるのであります。これらにつきましては、政府といたしましても昭和29 年度以降若干の予算を計上して、広島長崎両県に居住する一部の人に対し逐次精密検査及び研究治療を行って参ったのでありますが、被爆者の現状にかんがみますれば、今後全国的にこれが必要な健康管理と医療とを行い、もってその福祉に資することといたしたいと考え、ここに原子爆弾被爆者の医療等に関する法律案を提出した次第であります。」 (以上、乙A9) イ昭和32年3月25日衆議院社会労働委員会における政府答弁政府委員は、被爆者の定義に関する委員の質疑に対し、次のとおり答弁した。 「この法律を適用されます被爆者と申しますのが、一、二、三、四に該当するものでございまして、第一は、投下されたときに、広島市、長崎市ま たは政令で定める区域―これは爆心地から大体5キロくらいの区域を考えておるわけでございます。 それから第二は、その爆弾が投下されたときには、この広島市、長崎市にはおりませんでしたけれども、今、二週間と申し上げましたが、 れは爆心地から大体5キロくらいの区域を考えておるわけでございます。 それから第二は、その爆弾が投下されたときには、この広島市、長崎市にはおりませんでしたけれども、今、二週間と申し上げましたが、二週間の期間の間に入ってきて、そうして遺骨を掘り出したとか、あるいは見舞 にあっちこっち探して回ったとかいうような人を考えております。その際には、爆心地から2キロくらいというふうに考えております。これも専門家の意見を聞いて、大体そういうふうに考えておるわけでございます。 第三は、その一にも二にも入りませんが、たとえば投下されたときに、爆心地から5キロ以上離れた海上で、やはり輻射を受けたというような人 も、あとでいわゆる原子病を起こしてきております。そういう人を救わなければならないということ、それからずっと離れたところで死体の処理に当った看護婦あるいは作業員が、その後においていろいろ仕事をして、つまり二の方は2キロ以内でございますが、それよりもっと離れたところで死体の処理をして、原子病を起こしてきたというような人がありますので、 それを救うという意味で三を入れたわけでございます。」(以上、乙A10)⑹ 原爆医療法の概要原爆医療法は、前記のとおりの国会審議等を踏まえ、昭和32年3月31日に成立し、同年4月1日から施行された。 原爆医療法の概要は、次のとおりである。 ア目的この法律は、広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者が今なお置かれている健康上の特別の状態にかんがみ、国が被爆者に対し健康診断及び医療を行うことにより、その健康の保持及び向上をはかることを目的とする(原爆医療法1条)。 イ被爆者の定義被爆者とは、原爆医療法2条各号のいずれかに該当する者であって、被爆者 診断及び医療を行うことにより、その健康の保持及び向上をはかることを目的とする(原爆医療法1条)。 イ被爆者の定義被爆者とは、原爆医療法2条各号のいずれかに該当する者であって、被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(原爆医療法2条)。 原爆医療法2条各号の定めは、次のとおりである。 (ア) 1号「原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内 又は政令で定めるこれらに隣接する区域内にあった者」上記「政令で定めるこれらに隣接する区域」につき、長崎原爆関連では、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律施行令(昭和32年政令第75号。以下「原爆医療法施行令」という。)1条1項、同別表第一により、「長崎県西彼杵郡福田村のうち、大浦郷、小浦郷、本村郷、小江郷及び 小江原郷」及び「長崎県西彼杵郡長与村のうち、高田郷及び吉無田郷」と定められた。 (イ) 2号「原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内にあった者」上記「政令で定める期間」につき、被爆者援護法施行令1条2項は、 長崎市に投下された原子爆弾に関しては、昭和20年8月23日までとすると定めている。 また、上記「政令で定める区域」につき、長崎原爆関連では、被爆者援護法施行令1条3項及び同施行令別表第二により、「長崎市のうち、西北郷、東北郷、家野郷、西郷、家野町、大橋町、岡町、橋口町、山里町、 坂本町、本尾町、上野町、江平町、高尾町、本原町、松山町、駒場町、 城山町、浜口町、竹ノ久保町、稲佐町二丁目、稲佐町三丁目、旭町一丁目、岩川町、目覚町、浦上町、茂里町、銭座町、井樋ノ口町、船蔵町、宝町、寿町、幸町、福富町、玉浪町、梁瀬町、高砂町、御船蔵町、御船町、八千代町、瀬崎町及び 保町、稲佐町二丁目、稲佐町三丁目、旭町一丁目、岩川町、目覚町、浦上町、茂里町、銭座町、井樋ノ口町、船蔵町、宝町、寿町、幸町、福富町、玉浪町、梁瀬町、高砂町、御船蔵町、御船町、八千代町、瀬崎町及び浜平町」と定められた。 (ウ) 3号「前2号に掲げる者のほか、原子爆弾が投下された際又はその後 において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」(エ) 4号「前3号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であった者」ウ被爆者健康手帳 被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は、その居住地の都道府県知事(その居住地が広島市又は長崎市であるときは、当該市の長とする。)に申請しなければならない(原爆医療法3条1項)。 都道府県知事等は、上記申請に基づき審査し、被爆者に該当すると認めるときは、その者に被爆者健康手帳を交付する(同条2項)。 エ健康診断都道府県知事は、被爆者に対し、毎年、厚生省令で定めるところにより、健康診断を行うものとする(原爆医療法4条)。 なお、原爆医療法施行規則によれば、同法4条に規定する健康診断は、年2回、一般検査及び精密検査によって行うものとし、精密検査は、一般 検査の結果更に精密な検査を必要とする者について行うものとされている(原爆医療法施行規則6条)。 オ医療の給付厚生大臣は、原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し、又は疾病にかかり、現に医療を要する状態にある被爆者に対し、必要な医療の給付を行う。た だし、当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは、 その者の治ゆ能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る(原爆医療法7条)。 原爆に起因する負傷又は疾病 原子爆弾の放射能に起因するものでないときは、 その者の治ゆ能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る(原爆医療法7条)。 原爆に起因する負傷又は疾病であるかどうかは、あらかじめ厚生大臣の認定を受けなければならず、厚生大臣は、この認定を行うに当たっては、原子爆弾被爆者医療審議会の意見を聞かなければならない(原爆医療法8 条)。 (なお、上記のような原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し、又は疾病にかかって現に医療を要する状態が「原爆症」といわれる。また、これについての厚生大臣の認定を「原爆症認定」といい、当該認定を受けた被爆者を「認定被爆者」という。) (以上、アないしオにつき、乙A3、14、16)⑺ 原爆医療法につき発出された通達・通知昭和33年8月13日衛発第727号厚生省公衆衛生局長通達「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律により行う健康診断の実施要領について」は、原爆医療法に基づき被爆者に対し実施される健康診断の実施要領であり、次 のことを定めている。 「昭和20年広島及び長崎の両市に投下された原子爆弾は、もとより、世界最初の例であり、従って核爆発の結果生じた放射能の人体に及ぼす影響に関しても基礎的研究に乏しく明らかでない点がきわめて多い。 しかしながら被爆者のうちには、原子爆弾による熱線又は爆風により熱傷 又は外傷を受けた者及び放射能の影響により急性又は悪急性の造血機能障害等を出現した者の外に、被爆後10年以上を経過した今日、いまだに原子爆弾後障害症というべき症状を呈する者がある状態である。 特に、この種疾病には被爆時の影響が慢性化して引き続き身体に異常を認めるものと、一見良好な健康状態にあるかにみえながら、被爆による影響が 潜在し、突 うべき症状を呈する者がある状態である。 特に、この種疾病には被爆時の影響が慢性化して引き続き身体に異常を認めるものと、一見良好な健康状態にあるかにみえながら、被爆による影響が 潜在し、突然造血機能障害等の疾病を出現するものとがあり、被爆者の一部 には絶えず疾病発生の不安におびえるものもみられる。 従って、被爆者について適正な健康診断を行うことによりその不安を一掃する一方、障害を有するものについてはすみやかに適当な治療を行い、その健康回復につとめることがきわめて必要であることは論をまたない。 しかしながら、いうまでもなく放射能による障害の有無を決定することは、 はなはだ困難であるため、ただ単に医学的検査の結果のみならず被爆距離、被爆当時の状況、被爆後の行動等をできるだけ精細には握して、当時受けた放射能の多寡を推定するとともに、被爆後における急性症状の有無及びその程度等から間接的に当該疾病又は症状が原子爆弾に基くか否かを決定せざるを得ない場合が少なくない。 従って、健康診断に際してはこの基準を参考として影響の有無を多面的に検討し、慎重に診断を下すことが望ましい。」(以上、乙A17)⑻ 特別被爆者制度の新設ア原爆医療法の昭和35年改正に至る経緯 原爆医療法に対しては、①医療手当など被爆者の生活援護的な要素が盛り込まれていないこと、②医療給付の範囲が狭いことなどが根本的な問題点として各方面から指摘され、各団体による陳情等が相次いだ。 そこで、昭和35年3月、原爆医療法の改正法案が国会に上程された。 第34回国会衆議院社会労働委員会における法案の趣旨説明は、次のとお りである。 「昭和20年8月広島市及び長崎市に投下されました原子爆弾の被爆者につきましては、原子爆弾被爆者の医療等 た。 第34回国会衆議院社会労働委員会における法案の趣旨説明は、次のとお りである。 「昭和20年8月広島市及び長崎市に投下されました原子爆弾の被爆者につきましては、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律によりまして、被爆者に対し健康診断を行い、また、いわゆる原爆症の患者に対しては医療の給付を行って、その健康の保持及び向上をはかって参ったところであり ます。 しかしながら、原子爆弾の放射線を多量に浴びた被爆者にありましては、放射能の影響により、一般的に負傷または疾病にかかりやすいこと、負傷または疾病が治癒しにくいこと等の事情にあるのみならず、それらの疾病にかかったことによって原爆症を誘発するおそれもあるのであります。従って今回これらの被爆者に対しましては、原爆症以外の負傷または疾病に ついても国が必要な医療の給付を行うことによって、その健康の保持、向上をはかろうとするものであります。 また、いわゆる原爆症患者につきましては、現行法によって、国が必要な医療の給付を行っているのでありますが、今回、さらに一定の所得以下の者については、その医療を受けている期間中毎月2000円を限度とし て医療手当を支給することとし、これらの被爆者が安んじて医療を受けるようにしようとするものであります。」(以上、乙A21)イ昭和35年改正法の内容昭和35年8月1日、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律の一部を改 正する法律(昭和35年法律第136号)及び原子爆弾被爆者の医療等に関する法律施行令の一部を改正する政令(昭和35年政令第224号)等が施行されたところ、これらによる主要な改正点は、次の2点であった。 (ア) 特別被爆者の新設原爆医療法において、同法14条の2以下の一般疾病医療費の支給に 和35年政令第224号)等が施行されたところ、これらによる主要な改正点は、次の2点であった。 (ア) 特別被爆者の新設原爆医療法において、同法14条の2以下の一般疾病医療費の支給に 関する規定が新設され、原爆の放射線を多量に浴びた被爆者で政令で定めるものが「特別被爆者」とされた。 この一般疾病医療費の支給制度は、特別被爆者については、原爆症認定を受けた疾病以外の一般疾病で医療を受ける場合にも、医療費の自己負担分(一般疾病医療費)が国費から支給されるというものである(原 爆医療法14条の2第1項)。 原爆医療法施行令6条によれば、特別被爆者は、次の各号の一に該当する者とすると定められた。 a 1号原子爆弾が投下された際爆心地から2キロメートルの区域内にあった者及びその当時その者の胎児であった者 b 2号法8条1項の規定による厚生大臣の認定を受けた者c 3号法2条1号及び2号に該当する者であって、法4条の規定による健康診断の結果、造血機能障害、肝臓機能障害その他厚生大臣が定める 障害(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかである障害を除く。)があると認められたもの(イ) 医療手当の新設都道府県知事は、被爆者に対し、政令の定めるところにより、その者が原爆医療法7条1項の規定による医療の給付を受けている期間、月額 2000円を限度として医療手当を支給することができる(原爆医療法14条の8)。 ただし、医療手当の支給には所得制限が設けられた(原爆医療法施行令7条)。 (以上、乙A18、19) ⑼ 特別被爆者の範囲拡大その後も、特別被爆者の認定要件につき、その緩和を求める陳情運動が相次いだことから、次のとおり特別被爆者の範囲が拡大さ 令7条)。 (以上、乙A18、19) ⑼ 特別被爆者の範囲拡大その後も、特別被爆者の認定要件につき、その緩和を求める陳情運動が相次いだことから、次のとおり特別被爆者の範囲が拡大された。 ア昭和37年3月31日に原爆医療法施行令が改正され、同施行令6条1号について、「2キロメートル」とされていたのが、「3キロメートル以内」 にされるとともに、同条3号については、「及び」とされていたのが「又は」 とされ、いずれも要件が緩和された。 イ昭和39年3月30日に原爆医療法施行令が改正され、同施行令6条3号のうち、「原爆医療法2条1号又は2号に該当する者」という要件が撤廃されて緩和された。 ウ昭和40年9月25日に原爆医療法施行令が改正され、同施行令6条に おいて次の各号が加えられた(すなわち、新たに次の4号及び5号が追加された。)。 (ア) 4号原子爆弾が投下された時から、広島市に投下された原子爆弾に関しては昭和20年8月9日まで、長崎市に投下された原子爆弾に関しては同 年同月12日までの期間内に、原子爆弾が投下された当時の別表第二に掲げる区域内にあった者及びその者がこれらの期間内に当該区域内にあった当時その者の胎児であった者(イ) 5号原子爆弾が投下された際当時の別表第三に掲げる区域(第1号に規定 する区域を除く。)内にあった者及びその当時その者の胎児であった者なお、上記別表第三により、長崎市については、夫婦川町ほか51か町が加えられた。 また、広島においても被爆地域の拡大が行われたところ、「黒い雨」が降った残留放射能濃厚地区として上記別表第三に掲げられた区域は、次 のとおりである。 「広島市のうち、新庄町、三滝町、山手町、己斐町、古田町、庚牛町及 域の拡大が行われたところ、「黒い雨」が降った残留放射能濃厚地区として上記別表第三に掲げられた区域は、次 のとおりである。 「広島市のうち、新庄町、三滝町、山手町、己斐町、古田町、庚牛町及び三篠本町四丁目。 広島県安佐郡祇園町のうち、長束、西原及び西山本」(以上、乙A22~24) ⑽ 原爆特措法の立法経緯、概要等 ア原爆特措法が制定されるに至った経緯原爆医療法の成立によって、認定被爆者の医療費等の全額国費負担が実現したが、その後の改正においても、被爆者の生活援護に関する措置は設けられなかった。 そのため、原爆医療法の改正とは別に、被爆者の生活援護等を求める陳 情活動等が継続していたところ、昭和42年11月には、被爆地である広島及び長崎が共同して原爆被爆者の援護対策の強化促進を図ることを目的に「広島・長崎原爆被爆者援護対策促進協議会」(略称:八者協)が設置され、被爆者の援護対策の強化について各種陳情活動等が行われた。 (以上、乙A4) イ国会審議昭和43年4月2日第58回国会衆議院本会議における厚生大臣による法案の趣旨説明は、次のとおりである。 「昭和20年8月、広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者につきましては、昭和32年に制定された原子爆弾被爆者の医療等に関する法 律により、医療の給付、健康診断等を行い、その健康の保持及び向上をはかってまいったのでありますが、原子爆弾の傷害作用の影響を受けた者の中には、身体的、精神的、経済的あるいは社会的に生活能力が劣っている者や、現に疾病に罹患しているため、他の一般国民には見られない特別の支出を余儀なくされている者等、特別の状態に置かれている者が数多く見 られるところであります。したがって、これら特別の状態に置かれ 、現に疾病に罹患しているため、他の一般国民には見られない特別の支出を余儀なくされている者等、特別の状態に置かれている者が数多く見 られるところであります。したがって、これら特別の状態に置かれている被爆者に対する施策としては、医療の給付等の健康面に着目した対策のみでは十分ではなく、これらの被爆者に対して、その特別の需要を満たし、生活の安定をはかることが必要であると存じます。」(以上、乙A26) ウ原爆特措法の概要 原爆特措法は、昭和43年5月17日に成立し、同年9月1日から施行された。 原爆特措法の概要は、次のとおりである。 (ア) 目的この法律は、広島市及び長崎市に投下された原子爆弾の被爆者であっ て、原子爆弾の傷害作用の影響を受け、今なお特別の状態にあるものに対し、特別手当の支給等の措置を講ずることにより、その福祉を図ることを目的とする(原爆特措法1条)。 (イ) 医療特別手当の新設都道府県知事は、原爆医療法8条1項の認定を受けた者であって、同 項の認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し、医療特別手当を支給する(原爆特措法2条1項)。 前項に規定する者は、医療特別手当の支給を受けようとするときは、同項に規定する要件に該当することについて、都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。 (ウ) 健康管理手当の新設都道府県知事は、特別被爆者であって、造血機能障害、肝臓機能障害その他厚生省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかなものを除く。)にかかっているものに対し、健康管理手当を支給する(原爆特措法5条1項)。 前項に規定する者は、健康管理手当の支給を受けようとするときは、同項に規定する要件に該当 が明らかなものを除く。)にかかっているものに対し、健康管理手当を支給する(原爆特措法5条1項)。 前項に規定する者は、健康管理手当の支給を受けようとするときは、同項に規定する要件に該当することについて、都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。 (エ) 医療手当の増額原爆医療法上の認定被爆者に対する医療手当(同法14条の8)の規 定に代わり、原爆特措法7条において同様の規定が設けられると同時に、 医療手当が増額された。 (以上、乙A25)⑾ 広島における被爆地域の拡大広島市及び広島県は、昭和46年6月、国に対し、宇田強雨域に含まれる地域を被爆地域及び特別被爆地域に指定するよう要望した。 この要望を踏まえ、昭和47年5月1日から原爆医療法施行令の一部改正が施行され、広島県安佐郡祇園町のうち、従前から被爆地域及び特別被爆地域として指定されていた長束、西原及び西山本以外の区域が、「黒い雨」が降った残留放射能濃厚地区として、被爆地域及び特別被爆地域に指定されるなどした。 (以上、乙A366、367)⑿ 特別被爆者制度の廃止並びに健康診断特例区域の新設及び拡大ア特別被爆者制度の廃止昭和49年6月17日、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を改正する法律(昭和4 9年法律第86号)が制定され、同年10月1日から施行された。 これによって特別被爆者制度が廃止され、全ての被爆者が一般疾病医療費の支給を受けられるようになった。 (以上、乙A28)イ健康診断特例区域の新設 (ア) 経緯長崎県、長崎市、長崎県西彼杵郡長与村及び同時津村は、昭和46年から同48年にかけて、国に対し複数回、被爆当時の った。 (以上、乙A28)イ健康診断特例区域の新設 (ア) 経緯長崎県、長崎市、長崎県西彼杵郡長与村及び同時津村は、昭和46年から同48年にかけて、国に対し複数回、被爆当時の両村の地理的状況や風向き、原爆投下後の被爆者の収容状況(長与村及び時津村には、長崎原爆投下当日の午後から怪我等をした被爆者が続々と護送されて来た ことから、長与、時津の両国民学校の講堂等が仮収容施設となり、多数 の村民が昼夜の別なく看護に従事したとされている。)、住民の健康調査結果などを根拠に、同地区の全域を被爆地域として指定するよう要望した。 (イ) 健康診断特例区域の範囲等上記要望等を受け、前記アによる原爆医療法の改正の際、同法附則3 項として、次のとおり定められた。 「3 原子爆弾が投下された際2条1号に規定する区域に隣接する政令で定める区域内にあった者又はその当時その者の胎児であった者は、当分の間、4条の規定の適用については、被爆者とみなす。」これにより、上記被爆地に隣接する政令で定める区域(以下「健康診 断特例区域」という。)内に在った者についても、原爆医療法の健康診断の規定の適用があることとなった。そして、上記「隣接する政令で定める区域」については、改正後の原爆医療法施行令附則2項において、「長崎市に原子爆弾が投下された当時の長崎県西彼杵郡時津村及び同郡長与村(高田郷及び吉無田郷を除く。)の区域とする。」と定められた。 (ウ) 402号通達による行政実務昭和49年7月22日、「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を改正する法律等の施行について」と題する厚生省公衆衛生局長通達(402号通達)が発出されたところ、その内容は、次のとお 爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律の一部を改正する法律等の施行について」と題する厚生省公衆衛生局長通達(402号通達)が発出されたところ、その内容は、次のとおりである。 「健康診断の結果、次に掲げる障害があると診断された者については、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律2条3号に該当する者として、被爆者健康手帳の交付を受けることができるものであるので、その旨教示されたいこと。 1 造血機能障害、2 肝臓機能障害、3 細胞増殖機能障害、4 内 分泌腺機能障害、5 脳血管障害、6 循環器機能障害、7 腎臓機能 障害、8 水晶体混濁による視機能障害、9 呼吸器機能障害、10 運動器機能障害」この結果、健康診断特例措置の対象となった者が上記の疾病を発症した場合には、行政実務上、原爆医療法2条3号の被爆者として取り扱われ、被爆者健康手帳の交付を受けることが可能となった。 (以上、甲A8、乙A1、37~39、41、171)ウ健康診断特例区域の拡大昭和51年9月18日、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律施行令の一部を改正する政令(昭和51年政令第243号)が施行され、次の区域が新たに健康診断特例区域として指定された(なお、同改正により、健康 診断特例区域が原爆医療法施行令別表第三として記載されることとなった。)。この改正により、広島においては、宇田強雨域に含まれる地域が、新たに健康診断特例区域として指定された。 「別表第三一広島県山県郡安野村のうち、島木及び段原 二広島県佐伯郡水内村のうち、津伏、小原、井手ケ原、矢流、草谷、古持、森、下井谷、門出口、木藤及び恵下三広島県佐伯郡河内村のうち、魚切、中郷、下城、上小深川及び下小深川四広島 二広島県佐伯郡水内村のうち、津伏、小原、井手ケ原、矢流、草谷、古持、森、下井谷、門出口、木藤及び恵下三広島県佐伯郡河内村のうち、魚切、中郷、下城、上小深川及び下小深川四広島県佐伯郡石内村 五広島県佐伯郡八幡村のうち、利松、口和田及び高井六広島県安佐郡久地村のうち、宇賀、高山、本郷下、本郷中、三国、魚切、本郷上、小野原中、名原、小野原上、境原及び幸ノ神七広島県安佐郡日浦村のうち、毛木二八広島県安佐郡戸山村 九広島県安佐郡安村のうち、長楽寺及び高取 十広島県安佐郡伴村十一長崎県西彼杵郡福田村のうち、柿泊郷、中浦郷、手熊郷及び上浦郷十二長崎県西彼杵郡式見村のうち、向郷、木場郷及び牧野郷十三長崎県西彼杵郡三重村のうち、詰ノ内、白髪及び遠木場 十四長崎県西彼杵郡時津村十五長崎県西彼杵郡長与村(高田郷及び吉無田郷を除く。)十六長崎県西彼杵郡矢上村のうち、現川名、田川内、薩摩城、中尾及び矢筈十七長崎県西彼杵郡日見村のうち、河内名 十八長崎県西彼杵郡茂木町のうち、田手原名、木場名及び田上名」(以上、乙A2、40)⒀ 昭和51年実施に係る広島、長崎の残留放射能調査(以下「昭和51年度残留放射能調査」という。)ア調査主体、目的、調査方法等 原爆由来の放射性降下物の調査のため、厚生省が財団法人日本公衆衛生協会に委託して実施されたものである。 原爆投下後31年が経過していることから、調査の対象には半減期の長いセシウム137が選ばれた。 土壌試料採取地点の選定に当たっては、爆心地を基点に30kmの範囲 内を調査の対象とし、爆心から2kmごとに同心円を描き、その同心円上に6点をとることを基準として、採取地点は が選ばれた。 土壌試料採取地点の選定に当たっては、爆心地を基点に30kmの範囲 内を調査の対象とし、爆心から2kmごとに同心円を描き、その同心円上に6点をとることを基準として、採取地点は、できるだけ均等に分散された。 ただし、原爆災害調査報告書において指摘されていた広島の「黒い雨」降雨域及び長崎の西山地区においては、特別の採取地点が設けられた。 イ結論 (ア) 爆心を中心に放射線状に30km程度まで拡げた帯状地域について、セシウム137の地表面放射能密度を比較したが、西山地区を除いては有意差が認められなかった。 (イ) 爆心から8km以内、10~18km及び20km以上の3つの同心円状の地域についても、セシウム137の地表面放射能密度には有意差 が認められなかった。 (ウ) 「黒い雨」降雨域についても、他の地域でのセシウム137の地表面放射能密度との間に有意差がなかった。しかし、長崎では西山地区のセシウム137の地表面放射能密度が他の地域に比べて有意に高い値を示した。 (エ) 土壌採取地点でのセシウム137の地表面放射能密度の間に有意に大きな値があるかどうかを調査したところ、広島においては2地点、長崎においては西山地区以外にも3地点、それぞれ有意に大きな値を持つ計5地点があった。 しかし、直ちに原爆による残留放射能によるものと結論付けられない ので、今後、更に検討する必要がある。 (以上、ア及びイにつき、乙A42)⒁ 昭和53年実施に係る広島、長崎の残留放射能調査(以下「昭和53年度残留放射能調査」という。)ア調査主体、目的等 昭和51年度残留放射能調査において残留放射能が有意に高いと思われる5地点があったことにかんがみ、厚生省が財団法人日本公衆衛生協会 年度残留放射能調査」という。)ア調査主体、目的等 昭和51年度残留放射能調査において残留放射能が有意に高いと思われる5地点があったことにかんがみ、厚生省が財団法人日本公衆衛生協会に委託して実施された。 イ結論広島・長崎ともに上記5地点の検討地区に原爆からの核分裂生成物が残 留しているとはいえない。 (以上、ア及びイにつき、乙A43)⒂ 基本問題懇談会ア設置経緯等被爆者の援護については、それまで原爆二法により行われてきたが、援護対策の拡充を求める要望が、様々な形で行われてきた。 そのような中、政府は、原爆被爆に関する諸問題の基本的な在り方の指針を得るために、昭和54年6月、厚生大臣の私的諮問機関として「原爆被爆者対策基本問題懇談会」(基本問題懇談会)を設置した。 基本問題懇談会は、被爆者対策の基本理念及び基本的在り方につき、被爆者団体や関係自治体の代表その他学識経験者からの意見聴取等を踏ま え、合計14回にわたって検討を行い、昭和55年12月、「原爆被爆者対策の基本理念及び基本的在り方について」と題する報告書(懇談会報告書)(乙A30)を取りまとめた。 (以上、甲A86~98、乙A12、13、30、31、32)イ懇談会報告書の概要 (ア) 被爆者対策の基本理念懇談会報告書は、原爆被害について、「今次の戦争による国民の犠牲はきわめて広範多岐にわたり、すべての国民がその生命・身体・財産等について多かれ少なかれ、何らかの犠牲を余儀なくされたといっても言い過ぎではない。しかし、これらの犠牲の中で、広島及び長崎における原 爆投下による被爆者の犠牲がきわめて特殊性の強いものであることは、何人も否定しがたいところである。」述べ、当該犠牲の特殊性として ぎではない。しかし、これらの犠牲の中で、広島及び長崎における原 爆投下による被爆者の犠牲がきわめて特殊性の強いものであることは、何人も否定しがたいところである。」述べ、当該犠牲の特殊性として、「この惨禍で危うく死を免れた者の中にも原爆に起因する放射線の作用により、35年を経た今日なお、晩発障害に悩まされている者が少なくない。 原爆放射線による健康上の障害には、被爆直後の急性原爆症に加えて、 白血病、甲状腺がん等の晩発障害があり、これらは、被爆後数年ないし 10年以上経過してから発生するという特異性をもつものである」ことを指摘する。 そして、被爆者対策の基本理念としては、最高裁昭和53年3月30日第一小法廷判決(民集32巻2号435頁)に言及しつつ、「従来国のとってきた原爆被爆者対策は、原爆被害という特殊性の強い戦争損害に 着目した一種の戦争損害救済制度と解すべきであり、これを単なる社会保障制度と考えるのは適当でない。また、原爆被爆者の犠牲は、その本質及び程度において他の一般の戦争被害とは一線を画すべき特殊性を有する「特別の犠牲」であることを考えれば、国は原爆被爆者に対し、広い意味における国家補償の見地に立って被害の実態に即応する適切妥当 な措置対策を講ずべきものと考える。」といい、その具体的意味に関して、次のとおりの分析を加える。 すなわち、「第1に、国家補償の見地に立って考えるというのは、今次の戦争の開始及び遂行に関して国の不法行為責任を肯認するとか、原爆被爆者が違法な原爆投下をしたアメリカ合衆国に対して有する損害賠償 請求権の講和条約による放棄に対する代償請求権を肯認するという意味ではなく、今次戦争の過程において原爆被爆者が受けた放射線による健康障害すなわち「特別の犠牲」について、その て有する損害賠償 請求権の講和条約による放棄に対する代償請求権を肯認するという意味ではなく、今次戦争の過程において原爆被爆者が受けた放射線による健康障害すなわち「特別の犠牲」について、その原因行為の違法性、故意、過失の有無等にかかわりなく、結果責任として、戦争被害に相応する「相当な補償」を認めるべきだという趣旨である。それは国の完全な賠償責 任を認める趣旨でないことを注意する必要がある。」「第2に、原爆被爆者に対する対策は、結局は、国民の租税負担によって賄われることになるのであるが、殆どすべての国民が何らかの戦争被害を受け、戦争の惨禍に苦しめられてきたという実情のもとにおいては、原爆被爆者の受けた放射線による健康障害が特異のものであり、「特別の 犠牲」というべきものであるからといって、他の戦争被害者に対する対 策に比し著しい不均衡が生ずるようであっては、その対策は、容易に国民的合意を得がたく、かつまた、それは社会的公正を確保するゆえんでもない。この意味において、原爆被爆者対策も、国民的合意を得ることのできる公正妥当な範囲に止まらなければならないであろう。」「第3に、原爆被爆者対策は、国家補償の見地に立って基本的には、国 の責任において行うべきであるとしても、その具体的内容は、結局は被爆者の福祉の増進を図ることを狙いとするものでありそのためには各地域の実情に即した対策が望ましく、このような地域福祉の見地からいえば地方公共団体の被爆者対策への協力が強く要請されるものと言わなければならない。」とする。 (イ) 被爆者対策の基本的在り方懇談会報告書は、前記の基本理念を踏まえた被爆者対策の基本的在り方の要点を摘記するところ、次のとおりである。 「これまでの被爆者対策の発展の跡をたどると、・ (イ) 被爆者対策の基本的在り方懇談会報告書は、前記の基本理念を踏まえた被爆者対策の基本的在り方の要点を摘記するところ、次のとおりである。 「これまでの被爆者対策の発展の跡をたどると、・・・対象たる者が逐次拡大され、その給付の内容も、当初の現物給付(健康診断、医療給付) から次第に金銭給付(健康管理手当・・・等)にその重点が移ってきているのみならず、健康管理手当の支給要件の緩和の経過等にみられるように、全体的に一律平等総花主義になってきているように思われる。しかし、ただ徒らにこういう傾向を推し進めることは、一方において、援護対策の必要度の高い被爆者に対する適切妥当な対策の実施を困難にす るとともに、他方において、一般戦争被害者に対する対策との間に不均衡をきたし、社会的公正を確保するゆえんではない。」「被爆者対策に関し、被爆地域拡大の要求が関係者の間に強い。ところで、被爆地域の指定は、本来原爆投下による直接放射線量、残留放射能の調査結果など、十分な科学的根拠に基づいて行われるべきものである。 ところで、これまでの被爆地域の指定は、従来の行政区域を基礎として 行われたために、爆心地からの距離が比較的遠い場合でも被爆地域の指定を受けている地域があることは事実であるが・・・ただこれまでの被爆地域との均衡を保つためという理由で被爆地域を拡大することは、関係者の間に新たに不公平感を生み出す原因となり、ただ徒に地域の拡大を続ける結果を招来するおそれがある。被爆地域の指定は、科学的・合 理的な根拠のある場合に限定して行うべきである。」(ウ) 提言内容上記を踏まえ、懇談会報告書は、原爆被爆者対策の内容の改善を提言するところ、次のとおりである。 「原爆放射線の身体的影響については、多くの事実が明らかに て行うべきである。」(ウ) 提言内容上記を踏まえ、懇談会報告書は、原爆被爆者対策の内容の改善を提言するところ、次のとおりである。 「原爆放射線の身体的影響については、多くの事実が明らかにされてい るが、なお解明されていない分野がある。また、原爆放射線の遺伝的影響についても、現在までのところ有意な影響は認められていないものの、さらに研究を重ねる必要がある。このため、研究体制の整備充実を図ることにより周到な研究を進め、問題を逐次解明することが、被爆者に対する国の重大な責務であると同時に、世界における唯一の被爆国である わが国が国際社会の平和的発展に貢献する道といえるであろう。」(以上、乙A30)⒃ 懇談会報告書を踏まえた被爆地域の指定についての政府の姿勢昭和57年3月1日に開催された衆議院予算委員会第三分科会(第96回国会)において、厚生大臣は、被爆地域の不均衡問題に関する質疑に対し、 次のとおり答弁した。 「被爆地域の指定については、従来の行政区画に配慮した面もございますが、基本的には原爆の放射能の大きさを基準として定めておるというようなこともございます。したがって、今後におきましても、原爆基本問題懇談会が指摘しているとおり、被爆地域の指定については「科学的・合理的な根拠のあ る場合に限定して行うべきである。」非常に回りくどい言葉でございますけれ ども、そう簡単に変えられないということでございます。」(以上、乙A7)⒄ 広島及び長崎における原爆放射線量の日米共同再評価ア日米原爆線量再評価委員会は、昭和61年、1986年式線量推定方式(以下「DS86」という。)を発表した。 DS86は、それまで、原爆被爆者における放射線障害の調査にはT65D(1965年式暫定線量推 再評価委員会は、昭和61年、1986年式線量推定方式(以下「DS86」という。)を発表した。 DS86は、それまで、原爆被爆者における放射線障害の調査にはT65D(1965年式暫定線量推定方式)が用いられてきたものの、現実の被害と理論上計算された線量との食い違いを受け、放射線量を計算する様々な因子を日米合同で見直したものである。それ以降、被曝線量の評価にはDS86が用いられるようになった(ただし、平成15年以降は、D S86に代わる線量推定方式として2002年線量推定方式(以下「DS02」という。)が用いられるようになった(乙A96及び97)。)。 イ放射線影響研究所・日米共同研究機関は、DS86の発表に併せて、「広島および長崎における原子爆弾放射線量の日米共同再評価」と題する解説書(以下「DS86解説書」という。)を刊行した。 ところで、DS86解説書においては、要旨「広島および長崎の被爆者が受けた放射線量の大部分は、核兵器により発生した直接放射線によるものであった。・・・しかし、これ以外にも、爆心地近くの物質の中性子放射化により発生した残留放射能(residualradioactivity)と爆発により形成された雲からもたらされた放射化された放射性降下物(radioactive fallout)、および核分裂生成物(fissionproducts)があった。これら2つの線源からの放射線は、被爆者の受けた線量についての以前の主要な査定では考慮されていなかった。・・・(このことが)報道機関や科学文献で若干の批評を生じることとなった。」として、「第6章残留放射能の放射線量(RADIATIONDOSESFROMRESIDUALRADIO-ACTIVITY)」の章が設けら れ、広島及 若干の批評を生じることとなった。」として、「第6章残留放射能の放射線量(RADIATIONDOSESFROMRESIDUALRADIO-ACTIVITY)」の章が設けら れ、広島及び長崎について、2つの放射線源からの線量について妥当な上 限値を設定しようと試みられている。 ウすなわち、日米原爆線量再評価委員会は、西山地区等における累積的被曝(cumulativeexposures)を推定したところ、その手法は、次のとおりである。 まず、爆発後の最初の3か月間に行われたいくつかの被曝測定における 測定時における純測定被曝率(netmeasuredexposurerate)を、次の式により、爆発後1時間目における被曝率に換算する。 Xt=X1t-1.2ここで、Xt は測定被曝率であり、X1 は爆発後1時間目における計算被曝率であり、t は1 時間単位の爆発後の時間であり、-1.2は崩壊べき 指数である(なお、-1.2の崩壊べき指数は、西山地区から採取された土壌サンプルの実験系における測定データにより求められた数値であり、ネバダ砂漠で行われた核実験の放射性降下物の減衰も-1.2に近い。他方、ニューメキシコの核実験で地面に広がった核分裂生成物では-1.5であった(甲A2)。)。 次に、1時間から無限までの累積的被曝を、次の式により算出する。 ∫𝑋𝑡∞ 𝑑𝑡= 𝑋1 ∫𝑡−1.2∞ 𝑑𝑡= 5𝑋1エ 「第6章残留放射能の放射線量(RADIATIONDOSESFROMRESIDUALRADIO-ACTIVITY)」の「総括」は、次のとおりである。 「長崎の西山で数ヘクタールの最も高度に汚染された放射性降下物地域 における放射線被曝は、-1.2の崩壊べき指 SIDUALRADIO-ACTIVITY)」の「総括」は、次のとおりである。 「長崎の西山で数ヘクタールの最も高度に汚染された放射性降下物地域 における放射線被曝は、-1.2の崩壊べき指数を用いて1時間目から無限大へと積分した場合に、20ないし40Rと推定される(以下「DS86による西山地区住民の累積被曝線量の推定」という。)。広島の己斐―高須地区については、対応する被曝は、1ないし3Rと推定される。長崎では距離にともなう減少は急ではなく、最大値の1/5の被曝が、恐らく1 000ヘクタールの地域にわたって拡がる。」(以上、アないしエにつき、乙A89)⒅ 原爆残留放射能プルトニウム調査ア調査に至る経緯等前記のとおり、懇談会報告書が「被爆地域の指定は、科学的・合理的な 根拠のある場合に限定して行うべきである。」とし、政府答弁等においても、これが政府方針として示されたことから、長崎県及び長崎市は、被爆地域拡大要望に係る科学的根拠を示すため、昭和63年6月20日、長崎大学の岡島俊三名誉教授を座長とする「長崎原爆被爆地域問題検討会」を設置した。 そして、同検討会は、平成元年12月20日、長崎県及び長崎市に対し、「長崎原爆被爆地域以外への放射線の影響に関する調査方法について」と題する報告書を提出し、放射能の影響に関して科学的に解明し得る有効な手法として、プルトニウムの調査測定を提言した。 そこで、長崎県及び長崎市は、平成2年度、原爆残留放射能プルトニウ ム調査を実施し、平成3年6月、厚生省に対し、「長崎原爆残留放射能プルトニウム調査報告書」(岡島報告書)を提出した。 イ原爆残留放射能プルトニウム調査及び岡島報告書の概要(ア) 調査内容長崎原爆被爆地域の拡大是正に関し、爆 に対し、「長崎原爆残留放射能プルトニウム調査報告書」(岡島報告書)を提出した。 イ原爆残留放射能プルトニウム調査及び岡島報告書の概要(ア) 調査内容長崎原爆被爆地域の拡大是正に関し、爆心地から概ね12kmの範囲 にある未指定地域における原爆被爆の影響についての確認を行うため、西山地区、及び爆心地から概ね12kmの範囲にある未耕地の表層土(0~10cm)の中のプルトニウムの放射能を調査測定し、乾燥細土単位重量当たりの放射能を算出して統計的に処理し、この結果から調査地区住民の被曝線量の推定を行うものである。 (イ) 土壌採取地点の選定 別紙9のとおり爆心地を基点に概ね半径12kmの範囲内の被爆未指定地域を調査するため、土壌採取地点としては、別紙10記載の採取地点番号記載の各地点が選定された。 a 西山6地区西山地区に関しては、DS86による西山地区住民の累積被曝線量 の推定があることから、線量推定の比較基準の地区として選定された。 b 爆心地を基点とする北東から南東に至る方位90度の範囲48地区長崎原爆投下時、秒速3mの南西風が吹いていたとの長崎海洋気象台の記録がある。原子雲が東方の島原半島方面に流れたとの観測報告もあることから、放射性降下物の落下した確率が最も高いと考えられ る地域として選定された。 c 爆心地を基点とする南東から北東に至る方位270度の範囲16地区原爆投下時の風向きからみて、一応、放射性降下物の落下確率が低いと考えられる地域であることから選定された。 (ウ) 測定結果爆心地からみて風上に当たる各採取地点(別紙10の採取地点番号59、60~64、67~70の各地点)の各測定値の平均値をバックグラウンド値として、各採取地点の測定値からこれを (ウ) 測定結果爆心地からみて風上に当たる各採取地点(別紙10の採取地点番号59、60~64、67~70の各地点)の各測定値の平均値をバックグラウンド値として、各採取地点の測定値からこれを差し引いた結果、別紙10の採取地点番号1~6、9、10、13、16、19、20、3 2、46、52の各地点において、長崎原爆由来のプルトニウム放射能が検出された。 (エ) 放射性降下物による住民の被曝線量の推定表層土中のプルトニウムの放射能分布が、原爆直後の放射性降下物の分布に比例していると仮定された。 放射性降下物による住民の被曝線量に関しては、DS86による西山 地区住民の累積被曝線量の推定がある。すなわち、西山地区のうち最も汚染の著しい区域の爆発後1時間から無限時間までの地上1mの位置のガンマ線の積算線量が20~40レントゲンと推定されていることから、人体組織の無限時間までの積算線量は、12~24センチグレイとなり、さらに住民の実際の行動の実態を考慮した場合の最大被曝線量は、上記 の値の3分の2の値である8~16センチグレイと推定されている。 これを基に、原爆残留放射能プルトニウム調査において長崎原爆由来のプルトニウム放射能が検出された各地点における住民の最大被曝線量を推定すると、別紙10の採取地点番号13の地点において1.5センチグレイ、同16の地点において1.4センチグレイ、同19の地点に おいて2.5センチグレイ、同20の地点において2.3センチグレイ、同32の地点において1.1センチグレイ、同46の地点において0. 9センチグレイ、同52の地点において1.1センチグレイとなる。 (オ) 残留放射能による被曝の影響についての考察a 今回、プルトニウムの放射能分布の実測から住民の被曝線量 46の地点において0. 9センチグレイ、同52の地点において1.1センチグレイとなる。 (オ) 残留放射能による被曝の影響についての考察a 今回、プルトニウムの放射能分布の実測から住民の被曝線量の推定 を行ったが、線量に寄与するのは原爆直後の短寿命の放射線核種である。現在実測されるプルトニウムそのものは微量であって、人体への影響は無視できる。 b フォールアウトによる住民の被曝には、外部被曝と内部被曝とがあるところ、今回の報告で推定する線量は、外部被曝による線量である。 他方、内部被曝については、吸入及び食物摂取によるものが考えられるが、原爆当時、内部被曝に役立つような測定は全く行われていない。昭和44年、岡島教授らがホールボディカウンタによりセシウム137を測定した結果、西山住民のセシウム137の昭和20年から昭和60年の間の内部被曝線量は、男性で0.01センチグレイ、女 性で0.008センチグレイとなる旨報告されている。しかし、これ だけから短半減期核種によるものを含めた正確な内部被曝線量を推定することは困難である。 c 内部被曝の中で、吸入による寄与は、通常、数パーセントであまり重要ではない。摂取には、ミルク、乳製品、根菜類、穀類、果物、魚肉類及び飲料水などがあるが、一般に問題になるのは、ミルクと乳製 品及び根菜類である。しかし、長崎の場合、汚染されたミルク、乳製品の摂取がほとんど考えられないことなどを考慮すれば、残留放射能の被曝において内部被曝の寄与はそれ程大きくはなく、大半は外部被曝によるものと推定される。 d 外部被曝の推定線量値は、被爆地拡大要望地域において、最高2. 5センチグレイを示している。この程度の線量の人体リスクに関しては、直接人についての調査結果がないことから のと推定される。 d 外部被曝の推定線量値は、被爆地拡大要望地域において、最高2. 5センチグレイを示している。この程度の線量の人体リスクに関しては、直接人についての調査結果がないことから、あえてリスク評価を試みるならば、高線量での結果から推定する他はない。例えば昭和63年の国連科学委員会の報告によれば、原爆被爆者では、1グレイ当たりの発ガン推定リスクは、過剰相対リスクとして白血病で5.21、 白血病以外の全ガンで0.41と報告されている。線量とリスクとの関係が直線的であると仮定すれば、2.5センチグレイの被曝で過剰相対リスクは白血病で0.13、白血病以外の全ガンで0.01となる。 (以上、ア及びイにつき、乙A60) ウ国による岡島報告書の検証結果長崎県及び長崎市が提出した岡島報告書につき、国は、その調査結果を詳細に検討して科学的評価を行うことを目的として、平成4年4月、放射線に関する専門家で構成する「長崎原爆残留放射能プルトニウム調査報告書・検討班」を設置した。 そして、同検討班が平成6年12月に取りまとめた報告書の概要は、次 のとおりである。 (ア) 考察a 原爆残留放射能プルトニウム調査(岡島報告書)におけるサンプリングの方法は、サンプリング区域の選定、採取地点の選定、土壌のサンプリング、土壌の処理いずれも総合的に考えると妥当である。 b 岡島報告書における住民の生涯最大被曝量推定について、原爆投下後早い時期より西山地区を中心に放射性降下物による被曝線量が調査されていることから、DS86による西山地区住民の累積被曝線量の推定に係るデータは、信頼度が高いものと考えられる。 c 西山地区を標準評価地点とし、プルトニウム測定値を指標とした今 回の調査は、原爆投下後4 ら、DS86による西山地区住民の累積被曝線量の推定に係るデータは、信頼度が高いものと考えられる。 c 西山地区を標準評価地点とし、プルトニウム測定値を指標とした今 回の調査は、原爆投下後40年を経過した現在、長崎における残留放射線の広域な地域分布を決定する上で有効な方法であると考えられる。 長崎原爆に由来する放射性降下物では、核分裂性物質プルトニウムと核分裂生成物セシウムの放射能は同じ割合であったと考えられることから、核分裂性物質プルトニウムの放射能でその地域の長崎原爆に よる残留放射能を代表させることができるという仮説も妥当である。 d 岡島報告書では、最も残留放射能が高い西山地区におけるプルトニウム測定値と生涯最大被曝推定線量との関係から、西山地区以外の住民の生涯最大被曝線量を推定しているところ、この方法も妥当であると考えられる。指定拡大要望地域のほとんどの調査地点において、住 民の生涯最大被曝線量は1センチグレイ未満であり、風下の最も高い測定値が得られた調査地点でも、住民の生涯最大被曝線量は2.5センチグレイと推定されている。 e 岡島報告書においては、2.5センチグレイの被曝による過剰相対リスクは白血病で0.13、白血病以外の全ガンで0.01となると 報告されている。しかし、これらのリスク値は、高線量被曝の場合の 発がんリスク値を直線的に外挿して計算されたものである。実際の低線量被曝の場合の発がんリスクは、高線量被曝の場合の発がんリスク値を外挿した値をかなり下回ることから、岡島報告書が示す過剰相対リスク値は、実際のリスクに対して過大な値を示しているといえる。 自然放射線による被曝が生涯被曝線量で100mSvを上回ること、 X線検査等の医療放射線による生涯被曝線量で100mSvを上回る リスク値は、実際のリスクに対して過大な値を示しているといえる。 自然放射線による被曝が生涯被曝線量で100mSvを上回ること、 X線検査等の医療放射線による生涯被曝線量で100mSvを上回ることから考えても、残留放射線による2.5センチグレイ(25mSvの実効線量当量に相当する)の生涯被曝線量による実際の過剰がん発生率は、無視できるほど小さいと考えられる。また、指定拡大要望地域では、2.5センチグレイを最大値として、それより低い被曝線 量の分布となるので、指定拡大要望地域の住民の実際の過剰がん発生は、ないに等しいと考えるのが妥当である。 (イ) 結論指定拡大要望地域住民の生涯最大被曝線量は、最も高い測定値が得られた調査地点においても2.5センチグレイであり、ほとんどの地域で は1センチグレイ未満であることが推定された。被曝線量と健康影響については、岡島報告書において2.5センチグレイの被曝による過剰相対リスクが計算されているが、この被曝線量による健康影響は、実際的に無視できるほど小さい。指定拡大要望地域住民の生涯最大被曝推定線量は、2.5センチグレイを下回っているので、指定要望地域において は、長崎原爆由来の放射性降下物の残留放射能による健康影響はないと結論づけることができる。 (以上、乙A61)⒆ 被爆者援護法制定に至る経緯ア平成5年8月、細川連立内閣が誕生すると、「原爆被爆者援護法に関する プロジェクトチーム」が設置された。 その後、平成6年に村山内閣が誕生すると、同年8月2日、「戦後50年問題プロジェクトチーム」が設置され、「国家補償」の文言等についての検討、調整、協議等が重ねられた結果、同年11月22日、被爆者援護法案が国会に提出された。 (以上、乙A4) 戦後50年問題プロジェクトチーム」が設置され、「国家補償」の文言等についての検討、調整、協議等が重ねられた結果、同年11月22日、被爆者援護法案が国会に提出された。 (以上、乙A4) イ平成6年11月25日第131回国会衆議院本会議における法案の趣旨説明厚生大臣は、被爆者援護法の趣旨につき、次のとおり説明した。 「被爆者の方々に対しましては、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律に基づき、医療の給付、 手当等の支給を初めとする各般の施策を講じ、被爆者の健康の保持増進と福祉を図ってきたところでありますが、高齢化の進行など被爆者を取り巻く環境の変化を踏まえ、現行の施策を充実発展させた総合的な対策を講ずることが強く求められてきております。 こうした状況を踏まえ、被爆後50年のときを迎えるに当たり、恒久の 平和を念願するとともに、国の責任において被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ、あわせて、国として原爆死没者のとうとい犠牲を銘記するため、この法律案を提出することとした次第であります。」(以上、乙A33) ウ平成6年12月1日衆議院厚生委員会(第131回国会)における政府答弁厚生省保健医療局長は、長崎から被爆地域拡大の要望が出ているにもかかわらず、基本問題懇談会後、被爆地域の拡大がされていない理由等を問う質疑に対し、「被爆地域の指定の問題、あるいは拡大をするかしないかと いう問題は、今先生お触れになりました基本懇の報告にもございます、科 学的、合理的な根拠のある場合に行うべきであるというのが私どもが従来からとってきた立場でございます。長崎のことについてお触れになりましたけれども、長崎につきましては、具体的な ございます、科 学的、合理的な根拠のある場合に行うべきであるというのが私どもが従来からとってきた立場でございます。長崎のことについてお触れになりましたけれども、長崎につきましては、具体的なデータについて厚生省に設けました研究班において今議論をいたしております。近く結論がまとめられるのではないかと思いますが、いずれにいたしましても、科学的あるいは 合理的ということを念頭に置きつつ、この問題については私どもは対応していきたいと思っております。」旨答弁した。 (以上、乙A34)エ平成6年12月1日衆議院厚生委員会(第131回国会)における附帯決議 被爆者援護法の法案審議において、平成6年12月1日衆議院厚生委員会においては、附帯決議を付すべきとの動議が提出され、法案に対し、全会一致で次のとおりの附帯決議が付された。 「政府は、保健、医療及び福祉にわたる総合的な被爆者援護対策を講じるとの本法案の趣旨を踏まえ、次の諸点についてその実現に努めるべきであ る。 一ないし三 (略)四被爆地域の指定の在り方について、原爆放射線による健康影響に関する研究の進展を勘案し、科学性、合理性に配慮しつつ検討を行うこと。 五ないし八 (略)」 (以上、乙A34)⒇ 被爆者援護法の成立及び概要ア上記の経緯をたどり、平成6年12月9日、被爆者援護法が成立し、平成7年7月1日から施行された。 イ被爆者援護法の概要は、前提事実のとおりである。 ウなお、被爆者援護法の制定に伴い、健康診断特例区域については、従前 の原爆医療法附則3項が被爆者援護法附則17条に、原爆医療法施行令附則2項及び別表第三が被爆者援護法施行令附則2条及び別表第三にそれぞれ引き継がれ、健康診断特例区域の範囲は、原爆医療法 従前 の原爆医療法附則3項が被爆者援護法附則17条に、原爆医療法施行令附則2項及び別表第三が被爆者援護法施行令附則2条及び別表第三にそれぞれ引き継がれ、健康診断特例区域の範囲は、原爆医療法下の範囲が維持された。 (21) 第二種健康診断特例区域が新設されるに至った経緯 ア被爆地域拡大是正を求める決議長崎市では、被爆50周年の節目である平成7年9月、定例長崎市議会において「被爆地域の拡大是正を求める決議」が行われ、長崎県等の各議会においても同様の決議が行われた。 これらは、被爆地域の不均衡問題を是正するために爆心地から半径12 kmの範囲にある未指定地域を健康診断特例区域に指定することを要望するものであり、長崎県議会の平成7年10月6日付け意見書に至っては、「なお、本件議会は、被爆50年の節目の年に当たり、この問題の解決が最終段階に来ていることに鑑み、要望実現の暁には、さらなる地域拡大の要求をしない決意」旨の付言すら付されていた。 しかし、長崎県及び長崎市の上記要望が実現することはなかった。 イ原子爆弾被爆未指定地域証言調査(平成11年度証言調査)の実施(ア) 調査の目的長崎市及び関係6町は、被爆未指定地域の原爆による被害の実態を明らかにし、被爆地域・健康診断特例区域の拡大・是正を要望していくこ とを目的として、平成11年度証言調査を実施した。 (イ) 調査方法等平成11年度証言調査は、調査の対象者を、長崎原爆投下当時、爆心地から同心円状の半径12km以内の未指定地域に居住していた者のうち、平成11年当時も同じ行政区域内に居住している者とするものであ った。平成11年度証言調査は、調査対象者に対し、現在の健康状態、 既往歴、被爆地点、「被爆当時に光、爆風又は た者のうち、平成11年当時も同じ行政区域内に居住している者とするものであ った。平成11年度証言調査は、調査対象者に対し、現在の健康状態、 既往歴、被爆地点、「被爆当時に光、爆風又は熱線を感じたか」、原爆投下後6か月間に発生した症状(やけど、けが、発熱、歯ぐきからの出血、皮膚のはんてん、脱毛、下痢等)の有無などを問う質問項目と共に、「原爆が投下された時の様子をくわしく教えてください」とする自由記載欄を設けた「証言調査票」を郵送し、返送されてきた有効回答の記載内容 をもとに、統計分析するものである。 さらに、有効回答者の証言内容から判断して、原爆投下にまつわる心的外傷を受けた可能性が高いと推察された住民の中から無作為に879人が選ばれ、その中でも①原爆投下当時の年齢が11歳以上であること、②面接調査時の年齢が80歳未満であること、以上の2つの要件を満た す409人(更に絞り込みが行われた結果、最終の面接対象者は312人となった。)に対する面接調査が実施された。 (ウ) 調査結果等a 平成11年度証言調査の結果は、平成12年3月、「聞いて下さい! 私たちの心のいたで原子爆弾被爆未指定地域証言調査報告書」(以下 「被爆未指定地域証言調査報告書」という。)として編纂された。 そして、被爆未指定地域証言調査報告書では、「今回の調査は、⑴対象者全体の面接が行われていないこと、⑵最終的な面接者が312人が選ばれる過程に多少の偏りが存在していることなどの欠点を有していることは事実である(が)、・・・日本の一般住民や被爆者健康手帳 を持っている被爆者を対象とするPTSDに関する調査結果がない現状にあっては、今回のPTSD生涯有病率に関する明確な結論付けは不可能だが、PTSD生涯有病率が6.4%、PTS 被爆者健康手帳 を持っている被爆者を対象とするPTSDに関する調査結果がない現状にあっては、今回のPTSD生涯有病率に関する明確な結論付けは不可能だが、PTSD生涯有病率が6.4%、PTSD不全型の生涯有病率が18.3%に認められたことから考えると、原子爆弾被爆未指定地域にも原子爆弾体験による心的外傷を受けた住民が少なからず 存在していたことは明らかであろう。」と結論付けられた。 b なお、平成11年度証言調査において用いられた証言調査票における自由記載欄の回答の全ては、平成11年度証言集として編纂された。 ウ被爆未指定地域証言調査報告書に関する検討会(ア) 設置経緯、目的等国は、被爆未指定地域証言調査報告書について科学的観点からの精査・ 研究を行うため、平成12年10月、厚生省保健医療局長の私的検討会として「原子爆弾被爆未指定地域証言調査報告書に関する検討会」(以下「証言調査報告書検討会」という。)を設置した。 (イ) 検討結果証言調査報告書検討会は、平成13年8月1日、報告書をとりまとめ た。その概要は、次のとおりである。 a 総合評価(a) 身体的にも、体験群では同地域の非体験群に比べて疾患の既往が多く、現在も自覚症状の頻度が高く、自覚的健康状態が悪いことが判明した。 しかしながら、先行研究を踏まえると、それらの原因が原爆に由来する放射線被曝によるものであるとする考え方には、次の理由により否定的である。 ① 原爆由来の直接の放射線による被曝線量は、爆心地からの距離と共に急速に減少することから、当該地域における調査対象者の 直接の放射線による被曝線量は、実質上ゼロと見なしうる。 ② 誘導放射線、すなわち原爆からの直接放射線(中性子線)が土壌や建造物に当た に急速に減少することから、当該地域における調査対象者の 直接の放射線による被曝線量は、実質上ゼロと見なしうる。 ② 誘導放射線、すなわち原爆からの直接放射線(中性子線)が土壌や建造物に当たって誘導される放射性物質からの放射線による被曝線量も、爆心地からの距離及び原爆投下後の経過時間と共に急速に減少する。計算上、何れをもってしても、当該地域内の対 象者が受けた誘導放射線による被曝線量は、実質上ゼロと考えら れる。 ③ 核分裂生成物や、分裂しなかったプルトニウムなどの放射性降下物による残留放射線の影響についても考察したが、残留放射線による健康影響は考えられない。 (b) 他方、今回の実地調査において、原爆被爆体験が特に大きな不安 を人々に与えたであろうことが、次の事実によって明白となった。 ① 種々の自覚症状、自覚上の健康状態、並びにSF36によって評価された自己申告に基づく健康水準調査結果では、体験群が最も悪く、次に認定群、対照群の順になっている。したがって、原爆被爆体験に由来する不安による影響が大きく関与しているもの と考えらえる。 ② GHQ及びIES-Rによる精神上の健康度調査においても、原爆被害により有害な放射線を浴びたかもしれないという心理的不安の強度との間に有意の相関が得られた。 b 研究班の結論 当該地域住民のうち、体験群では、原爆体験がトラウマとなり今も不安が続き、精神上の健康に悪影響を与えている可能性が示唆され、また身体的健康度の低下にも繋がっている可能性が示唆された。 このような健康水準の低下は、原爆投下時に発生した放射線による直接的な影響ではなく、もっぱら被爆体験に起因する不安による可能 性が高いものと判断された。 (以上、アないしウにつき、甲A44、乙 のような健康水準の低下は、原爆投下時に発生した放射線による直接的な影響ではなく、もっぱら被爆体験に起因する不安による可能 性が高いものと判断された。 (以上、アないしウにつき、甲A44、乙A62)(22) 第二種健康診断特例区域の新設ア厚生労働省は、証言調査報告書検討会の結論を受け、長崎県及び長崎市による要望地域(爆心地から12km以内の区域内にあって、被爆者援護 法に基づく被爆地域及び健康診断特例区域以外の区域)を被爆者援護法上 の「健康診断特例区域」とし、健康診断を実施することとした。そして、要望地域の住民に対しては、原爆の放射線による健康被害は認められないものの、「被爆体験」による精神的要因に基づく健康影響が認められることにかんがみ、関連する疾病・疾患につき、別途、医療費の支給を行う旨の方針を固めた。 イそこで、平成14年4月1日、被爆者援護法施行令附則2条が次のとおり改正されて別表第四が設けられた。これが第二種健康診断特例区域であるところ、その新設に伴い、従前の健康診断特例区域(別表第三)は、「第一種健康診断特例区域」とされた。 「法附則17条の政令で定める区域は、同条の規定する者に対し行う厚生 労働省令で定める健康診断の区分に応じ、広島市又は長崎市に原子爆弾が投下された当時の別表第三又は別表第四に掲げる区域(同表に掲げる区域にあっては、原子爆弾が投下された際の爆心地から12kmの区域内に限る。)とする。」なお、別表第四の区域は、前提事実のとおりである。 (以上、ア及びイにつき、乙A45)(23) 被爆体験者精神影響等調査研究事業の実施ア厚生労働省は、平成14年4月、被爆体験者精神影響等調査研究事業(以下「被爆体験者精神影響調査事業」という。)を、被爆者援 につき、乙A45)(23) 被爆体験者精神影響等調査研究事業の実施ア厚生労働省は、平成14年4月、被爆体験者精神影響等調査研究事業(以下「被爆体験者精神影響調査事業」という。)を、被爆者援護法外の予算事業として開始した。 これは、「「被爆体験」による精神的要因に基づく健康影響が認められる者に対し、関連する疾患・症状について医療費の支給等を行うことにより、その健康の保持と向上に資する」ことを目的とする事業である。 イ開始当初の要綱上の取扱い開始当初の旧要綱によると、第二種健康診断受診者証を取得している者 (原爆の投下時胎児であった者を除く。)で、かつ、現在も爆心地から12 kmの区域内に居している者が、居住地である長崎県若しくは長崎市に「被爆体験者医療受給証」の交付申請をし、審査の結果、被爆体験及び精神症状並びに要医療性がいずれも「有」と診断されると、「被爆体験者医療受給者証」が支給される。 そして「被爆体験者医療受給者証」の交付を受けた者が、同証書を提示 して医療機関において対象合併症に関する医療の給付を受ける場合は、医療費の自己負担分につき補助が受けられることとなった。 (以上、ア及びイにつき、甲A22、23、乙A363)(24) 被爆体験者精神影響調査事業の制度改正ア精神科医師による診断頻度の緩和等 被爆体験者精神影響調査事業は、被爆体験による精神的要因に基づく健康影響に関連する特定の精神疾患を有する者に対し、当該精神疾患(これに合併する身体化症状、心身症等がある場合は、当該身体化症状、心身症等を含む。)の治療等に係る医療費の支給を行うこと等により、その症状の改善、寛解及び治癒を図ることを目的とするものである。したがって、定 期的な精神科医師の関与が必要とさ 該身体化症状、心身症等を含む。)の治療等に係る医療費の支給を行うこと等により、その症状の改善、寛解及び治癒を図ることを目的とするものである。したがって、定 期的な精神科医師の関与が必要とされているが、平成21年3月に行われた実施要綱の一部改正により、従前の被爆体験者精神医療受給者証の更新時における精神科医師による診断が3年に1回と緩和された。 イ対象合併症の拡充対象合併症の範囲は、当初、狭心症、心筋梗塞、不整脈、本態性高血圧、 ぜん息、慢性胃炎、関節炎、慢性関節リウマチ、糖尿病、甲状腺機能亢進症、アレルギー性鼻炎、更年期障害に限られていた。 しかし、平成28年度から認知症が追加され、平成29年度から脳血管障害が追加され、平成30年度から糖尿病の合併症(腎症、網膜症等)が追加され、令和元年度から脂質異常症が追加され、令和5年度からは、次 の公費負担医療の対象とならない疾病を除く、被爆体験による精神的要因 に基づく健康影響に関連する全ての精神疾患及び関連する身体化症状・心身症が公費負担医療の対象とされた。 (公費負担医療の対象とならない疾病)(ア) がん(胃がん、肝がん、膵がん、大腸がん、胆のうがん、乳がん、子宮体がんを除く。これらは公費負担医療の対象である。) (イ) 感染症(ウ) 外傷(エ) 遺伝性疾患(オ) 先天性疾患(カ) 被爆体験以前にかかった精神疾患 (キ) むし歯のうち軽いむし歯(C1、C2、Ce)ウ事業対象者の拡充従前、事業対象者は長崎県内に居住する者に限定されていたが、令和5年度以降、長崎県外に居住する者も対象とされた。 (以上、アないしウにつき、甲A22、23、乙A364、365) 2 争点⑴(予備的請求に係る訴訟承継の成否) 者に限定されていたが、令和5年度以降、長崎県外に居住する者も対象とされた。 (以上、アないしウにつき、甲A22、23、乙A364、365) 2 争点⑴(予備的請求に係る訴訟承継の成否)⑴ 原告らは、第一種健康診断受診者証を有する者は、402号通達により、健康管理手当の支給対象となる11種類の障害を伴う疾病を有するに至ったときに被爆者援護法1条3号の被爆者と認定され、被爆者健康手帳の交付を受けられるのであるから、第一種健康診断受診者証の交付申請者は、健康管 理手当の支給対象となる11種類の障害を伴う疾病を有するに至ったときに一般疾病医療費を受給することができる法的地位、及びその葬祭を行った者が葬祭料を受給することができる法的地位を有していたものと解すべきであると主張する。 そして、原告らは、それらの法的地位は、相続の対象となるから、第一種 健康診断受診証の交付申請の却下処分の取消しを求める訴訟、及びその交付 義務付けを求める訴訟の係属中に当該交付申請者が死亡した場合には、当該訴訟は当然には終了せず、その相続人がこれを承継する旨主張する。 ⑵ そこで検討すると、前記のとおり、昭和49年の健康診断特例区域(現在の第一種健康診断特例区域)の創設と同時に402号通達が発出されたところ、402号通達によれば、第一種健康診断受診者証の交付を受けた者が、 健康診断の結果、11種類の障害があると診断された場合に被爆者健康手帳への切替えを申請し、都道府県知事の審査の結果、当該疾病があると確認されたときは、被爆者援護法1条3号の被爆者として取り扱われることとなる。 この点、被告らは、第一種健康診断特例区域の設定並びに同区域に在った者に対する第一種健康診断受診者証の交付及び同所持者に対する健康診断の 実施は 3号の被爆者として取り扱われることとなる。 この点、被告らは、第一種健康診断特例区域の設定並びに同区域に在った者に対する第一種健康診断受診者証の交付及び同所持者に対する健康診断の 実施は、いずれも当該者の放射線被曝による健康不安を一掃するという見地から出たものに過ぎず、被爆者援護法上の援護施策とは異なる別個の政策判断に基づく施策である旨主張する。 しかし、同所持者に対する健康診断の実施が同見地から出たものであるとしても、前記のとおりの402号通達の内容によれば、被告らの上記主張及 び説明にかかわらず、その運用を客観的にみれば、原爆投下の際に健康診断特例区域(現在は第一種健康診断特例区域)に在ったことが、その後の所定障害の発生と併せて、原爆医療法又は被爆者援護法上の効力と結び付けられているものというべきである。402号通達に基づく行政運用が被爆者援護法と別個の領域のものとはいえない。第一種健康診断受診者証の交付を受け ることの法的効果が、同所持者が健康診断を受診できることのみにとどまるものとは解されない。 被告らは、402号通達による上記効果は、飽くまで通達上の効果に過ぎないことも指摘する。しかし、402号通達に基づく行政運用を併せ、第一種健康診断受診者証の所持者に対する援護措置を全体としてみた場合、被告 らは、第一種健康診断受診者証の所持者について、被爆者援護法1条3号に 基づく被爆者認定を、①第一種健康診断受診者証の所持者であること、②その者の健康診断の結果、所定の障害があると診断されたことを要件として行っているものである。 そうすると、第一種健康診断受診者証の交付を受けることの法的効果は、被爆者認定における要件充足性にもあるというべきである。 ⑶ もっとも、402号通達に基づく して行っているものである。 そうすると、第一種健康診断受診者証の交付を受けることの法的効果は、被爆者認定における要件充足性にもあるというべきである。 ⑶ もっとも、402号通達に基づく行政運用を併せ考慮するとしても、第一種健康診断受診者証の所持者であることをもって直ちに被爆者認定がされるわけではない。第一種健康診断受診者証の交付を受けた者が、被爆者援護法1条3号の被爆者と認定されるためには、健康診断を受診するなどし、その結果、11種類の障害があると診断された場合に被爆者健康手帳への切替え を申請し、都道府県知事等による審査の結果、当該障害があると確認される必要があるのである。このような制度の建付けを踏まえれば、第一種健康診断受診者証の所持者においては、健康診断を受診できることの法的地位を有すること以外には、将来、都道府県知事等により所定の障害があると確認された場合には、被爆者としての地位を取得するであろうとの事実上の利益が あるに過ぎないものと解すべきである。そのような利益は、およそ相続の対象となる法的地位又は利益とはいえない。また、健康診断を受診することができる法的地位に関しても、健康診断の受診に代替性がないことは明らかであるから、相続の対象となるものではない。 ⑷ 以上によれば、第一種健康診断受診者証の所持者が有する法的地位は、一 身専属的なものと解するのが相当である。 したがって、第一種健康診断受診者証交付申請却下の処分取消し及び同受診者証交付の義務付けを求める訴訟については、本件被相続人らの死亡により終了したというべきである。 3 争点⑵(被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受ける ような事情の下にあった者」の意義) ⑴ 原告らは、被爆者援護法1条各号の文 り終了したというべきである。 3 争点⑵(被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受ける ような事情の下にあった者」の意義) ⑴ 原告らは、被爆者援護法1条各号の文言が、同法の前身である原爆医療法2条各号の規定と同一であることからしても、被爆者援護法が原爆医療法の趣旨を引き継いだものであることは明らかであるところ、原爆医療法は、人道上の見地から、いまだ健康被害が生じていない被爆者に対する健康管理、及び既に健康被害が生じている被爆者に対する治療を遺漏なきようにするた め、政治的観点から制定されることとなった法律であって、もっぱら科学的見地のみに依って制定された法律ではなかったと主張する。 そして、原告らは、原爆の放射能の身体への影響は、当時の科学的知見において詳らかになっておらず、このことは、原爆医療法の制定当時、当然の前提であったことなどからすると、被爆者援護法1条3号における「身体に 原子爆弾の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義としては、「原爆の放射能により健康被害が生ずる可能性がある事情の下に置かれていた者」と解するのが相当であり、ここでいう「可能性がある」という趣旨をより明確にして換言すれば、広島高裁令和3年判決が判示するとおり、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下に置かれ ていた者」で足りると解すべきである旨主張する。 そこで検討すると、次のとおりである。 ⑵ 被爆者援護法1条3号の意義ア被爆者援護法が、いわゆる被爆二法(原爆医療法及び原爆特措法)を引き継いだものであることは、その前文や同法が規定する援護施策の内容等 からしても明らかである。被爆者援護法1条各号の文言も、原爆医療法2条各号と同一である。 したが 法及び原爆特措法)を引き継いだものであることは、その前文や同法が規定する援護施策の内容等 からしても明らかである。被爆者援護法1条各号の文言も、原爆医療法2条各号と同一である。 したがって、被爆者援護法1条3号の意義を検討する上では、原爆医療法2条3号の意義を検討することが不可欠となる。 イそこで、原爆医療法をみると、同法は、被爆者に対する健康診断及び医 療の給付を援護内容とするものであるが、その立法趣旨は、原爆投下後十 余年を経過しても、なお多数の要医療者を数えるほか、一見健康に見える人でも突然発病して死亡する等、被爆者の健康状態が医師の綿密な観察指導を必要とする現状にあることから、国が適切な健康診断及び指導を行うことであった。このことは、前記のとおりの昭和32年2月22日衆議院社会労働委員会における厚生大臣による法案の趣旨説明等からも明らかで ある。 ウところで、証拠(乙A47)及び弁論の全趣旨によれば、①原爆医療法2条1号は、原爆の放射能の威力の作用が大体半径4kmまでの地域に及んでいたとする当時の科学的知見(昭和26年の原子爆弾災害調査報告書)を基礎に、爆心地から大体5km程度の区域を基本にすることが相当であ る旨の専門家の意見を参考に、同区域内で直接被爆した者を対象としたものであったこと、②同条2号も、専門家の意見を参考に、直接被爆はなくても、当時の残留放射線に関する科学的知見に照らし、原爆投下から2週間以内に爆心地から2km程度の区域内に入った者につき、原爆の放射能の影響が考えられることから、これを対象としたものであったことがそれ ぞれ認められる。すなわち、原爆医療法2条1号及び2号は、原爆投下時に爆心地から一定の距離の範囲に在った者や、原爆投下後一定の期間内に爆心地に近 から、これを対象としたものであったことがそれ ぞれ認められる。すなわち、原爆医療法2条1号及び2号は、原爆投下時に爆心地から一定の距離の範囲に在った者や、原爆投下後一定の期間内に爆心地に近い場所に入市した者につき、類型的に、原爆放射線の影響を受けて健康被害を生じる蓋然性が高い者とみて、被爆者としたものであったということができる。 そして、前記のとおりの昭和32年3月25日衆議院社会労働委員会における政府答弁の内容(「第三は、その一にも二にも入りませんが、たとえば投下されたときに、爆心地から5キロ以上離れた海上で、やはり輻射を受けたというような人も、あとでいわゆる原子病を起こしてきております。 そういう人を救わなければならないということ、それからずっと離れたと ころで死体の処理に当った看護婦あるいは作業員が、その後においていろ いろ仕事をして、つまり二の方は2キロ以内でございますが、それよりもっと離れたところで死体の処理をして、原子病を起こしてきたというような人がありますので、それを救うという意味で三を入れたわけでございます。」)からすれば、原爆医療法2条3号は、同条1号及び2号に該当しない場合でも、爆心地から2km以上離れた場所で死体の処理に当たった看 護婦や作業員が、後にいわゆる原子病を発症した事例があることなどから、そうした者を救済する趣旨の規定であって、同条1号及び2号に該当しない者であっても、原爆の放射線による健康被害の可能性がある者を個別具体的に被爆者と認定して救済を図ろうとするのが立法者意思であったと認められる。 エ以上によれば、原爆医療法2条3号の規定を引き継ぐ被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義としては、「原爆の放射線に ったと認められる。 エ以上によれば、原爆医療法2条3号の規定を引き継ぐ被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の影響を受けるような事情の下にあった者」の意義としては、「原爆の放射線による健康被害の可能性がある事情の下にあった者」をいうものと解するのが相当である。 なお、ここで「原爆の放射線による健康被害の可能性がある事情の下に あった」との事実の存否は、上記事実の存在することが真実といえるかという問題であるから、その存否については、最新の科学的知見に基づいて判断するのが相当である。 ⑶ 被爆者援護法1条3号についての立証の程度ア原告らは、ここでいう「可能性がある」という趣旨をより明確にして換 言すれば、広島高裁令和3年判決が判示するとおり、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下に置かれていた者」と解すべきである旨主張する。 イそこで検討すると、被爆者援護法1条3号の被爆者に該当すると主張して被爆者手帳交付申請の却下処分の取消し等を求める訴訟において、その 訴訟の原告としては、「原爆の放射線による健康被害の可能性がある事情の 下にあった」ことを立証する必要があるところ、その要証事実は、「(原爆の放射線による)健康被害の可能性がある事情の下にあった」ことであり、「(原爆の放射線により)健康被害が生じた」ことではない。 しかし、当該要証事実自体につき証明度の軽減を図る趣旨と考えられる規定、条文構造は見当たらない。国会審議の内容を含み原爆医療法の制定 経緯をみても、被爆者援護法の前身たる原爆医療法2条3号の解釈として、証明度の軽減を図るとか、あるいは立証責任を転換するなどの議論が交わされていた形跡も見当たらない(この点、昭和32年3月25日開催の衆 をみても、被爆者援護法の前身たる原爆医療法2条3号の解釈として、証明度の軽減を図るとか、あるいは立証責任を転換するなどの議論が交わされていた形跡も見当たらない(この点、昭和32年3月25日開催の衆議院社会労働委員会(第26回国会)における政府委員の答弁中には、「科学的に証明しろというふうなことになりますと、これこそよけいむずかし くなるのではないかというふうに考えるわけでございます」旨の答弁が存在することが認められるが(乙A10)、当該答弁は、その文脈からして、原爆医療法2条3号の解釈として証明度の軽減を図るとか、立証責任を転換するなどという趣旨で行われたものとはいえない。)。 上記のとおり被爆者援護法1条3号の要証事実が「身体に原子爆弾の影 響を受けるような事情の下にあった」ことであることも、前記のとおり、放射線被曝により人に障害が起きる機構として確定的影響と確率的影響があることに加え、放射線による健康影響の内容として晩発障害があること(乙A378)を踏まえたものとみるのが相当である。 原告らは、法案段階における原爆医療法2条3号の条文の変遷、すなわ ち、「前二号に掲げる者のほか、これらに準ずる状態にあった者であって、原子爆弾の傷害作用の影響を受けたおそれがあると考えられる状態にあったもの」との厚生省案が、内閣法制局による予備審査の結果、「前二号に掲げる者のほか、原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に修正されたこ と等を、原告らの上記主張の根拠として指摘する。しかし、法案段階の同 号の変遷が上記解釈を示すことをうかがう証拠は存在しない。 かえって、前記のとおり、原爆医療法2条1号及び2号は、同法制定当時の科学的知見を踏まえ 拠として指摘する。しかし、法案段階の同 号の変遷が上記解釈を示すことをうかがう証拠は存在しない。 かえって、前記のとおり、原爆医療法2条1号及び2号は、同法制定当時の科学的知見を踏まえて制定されたものであったところ、同条3号がこれと別異の解釈に出たものであったことをうかがう事情は見当たらないから、同条3号の被爆者認定も科学的知見を踏まえ行われることが予定され ていたとみるのが自然である。しかし、このことは、原告らが主張する解釈論とは整合しない。 ウまた、被爆者援護法が、確かに原爆二法を引き継いだものであるとしても、被爆者援護法1条3号の解釈に当たっては、原爆医療法制定後の種々の法改正、新規立法等による援護施策の拡充等の変遷についても考慮に入 れる必要があるというべきである。 すなわち、前記のとおり、昭和32年の原爆医療法制定当時、同法に基づく援護施策の柱は、被爆者に対する健康診断の実施、及び認定被爆者に対する医療の給付であった。 しかし、これに対しては、被爆者の生活援護的な要素が盛り込まれてい ないことや、医療給付の範囲が狭いことなどが各方面から指摘され、昭和35年に原爆医療法が改正されるに至った。同改正により、新たに特別被爆者制度が創設され、特別被爆者に対する一般疾病医療費の支給が開始された。また、認定被爆者で医療の給付を受けている者に対する医療手当の支給も開始された。 しかし、これに対しても、更なる生活援護等を求める陳情活動が相次いだことから、昭和43年に原爆特措法が制定され、認定被爆者で同認定に係る負傷又は疾病の状態にある者に対する医療特別手当の支給が開始された。また、被爆者であって所定の障害を伴う疾病にかかっている者に対する健康管理手当の支給も開始された。 さらに 同認定に係る負傷又は疾病の状態にある者に対する医療特別手当の支給が開始された。また、被爆者であって所定の障害を伴う疾病にかかっている者に対する健康管理手当の支給も開始された。 さらに、昭和49年に原爆医療法及び原爆特措法が改正された。これに より特別被爆者制度が廃止され、全被爆者に対する一般疾病医療費の支給が開始された。また、このとき健康診断特例区域が新設され、原爆投下当時、健康診断特例区域に在った者に対する健康診断が開始されるとともに、併せて402号通達による行政運用が行われるようになった。 以上のとおり、被爆者援護法が制定された時点においては、原爆医療法 制定当時と比べ、被爆者に対する援護施策の内容には大きな変遷がみられるところである。すなわち、当初の、健康診断の実施及び認定被爆者に対する医療の給付から、全被爆者に対する一般疾病医療費の支給や各種手当の支給にまで援護内容が拡充される一方で、被爆地域の外側においても、新たに健康診断特例区域が新設されて、健康不安を一掃するという見地か らの健康診断は、被爆者認定とは切り離しても実施されるようになったことが指摘できる(更に、平成14年4月以降は、新たに第二種健康診断特例区域が設けられ、長崎原爆の爆心地から12km以内の区域内にあって被爆者援護法に基づく被爆地域及び健康診断特例区域以外の区域が第二種健康診断特例区域に指定され、原爆投下の際に同区域内に在った者に対し ても健康診断が実施されるようになっている。)。 エそして、被爆者援護法は、基本問題懇談会の懇談会報告書を踏まえて立法されたものであったことが明らかであるところ、懇談会報告書は、上記のような援護施策の拡充経緯を踏まえ、被爆者対策の基本的在り方の要点を次のとおり摘記する。 す 懇談会報告書を踏まえて立法されたものであったことが明らかであるところ、懇談会報告書は、上記のような援護施策の拡充経緯を踏まえ、被爆者対策の基本的在り方の要点を次のとおり摘記する。 すなわち、「これまでの被爆者対策の発展の跡をたどると、・・・対象たる者が逐次拡大され、その給付の内容も、当初の現物給付(健康診断、医療給付)から次第に金銭給付(健康管理手当・・・等)にその重点が移ってきているのみならず、健康管理手当の支給要件の緩和の経過等にみられるように、全体的に一律平等総花主義になってきているように思われる。 しかし、ただ徒らにこういう傾向を推し進めることは、一方において、援 護対策の必要度の高い被爆者に対する適切妥当な対策の実施を困難にするとともに、他方において、一般戦争被害者に対する対策との間に不均衡をきたし、社会的公正を確保するゆえんではない。」「被爆者対策に関し、被爆地域拡大の要求が関係者の間に強い。ところで、被爆地域の指定は、本来原爆投下による直接放射線量、残留放射能の調査結果など、十分な科学 的根拠に基づいて行われるべきものである。ところで、これまでの被爆地域の指定は、従来の行政区域を基礎として行われたために、爆心地からの距離が比較的遠い場合でも被爆地域の指定を受けている地域があることは事実であるが・・・ただこれまでの被爆地域との均衡を保つためという理由で被爆地域を拡大することは、関係者の間に新たに不公平感を生み出す 原因となり、ただ徒に地域の拡大を続ける結果を招来するおそれがある。 被爆地域の指定は、科学的・合理的な根拠のある場合に限定して行うべきである。」というのである。 加えて、被爆者援護法制定時の国会審議の過程では、平成6年12月1日衆議院厚生委員会において、同法に係る法律案に 定は、科学的・合理的な根拠のある場合に限定して行うべきである。」というのである。 加えて、被爆者援護法制定時の国会審議の過程では、平成6年12月1日衆議院厚生委員会において、同法に係る法律案に対し、「被爆地域の指定 の在り方について、原爆放射線による健康影響に関する研究の進展を勘案し、科学性、合理性に配慮しつつ検討を行うこと。」という附帯決議まで付されていることも、前記のとおりである。 これらによれば、少なくとも被爆者援護法1条1号に基づく被爆地域の指定は、科学的、合理的根拠に基づき行われるべきことが立法者意思であ ったことは明らかであるところ、仮に、同条3号の意義を「原爆の放射能により健康被害が生ずることが否定できない事情の下に置かれていた者」と解する場合には、同条同号をもって、同条1号の被爆地域が実質、科学的、合理的根拠に基づく範囲を超えて拡大することにもなりかねない(例えば、証拠(乙A152)及び弁論の全趣旨によれば、長崎原爆由来の放 射性降下物は、グローバルフォールアウトの形で、北極圏を含む全世界中 に降下していると考えられていることが認められる。)。 しかし、そのような解釈は、被爆者援護法1条全体の条文構造に反するというべきである。 オさらに、被爆者援護法は、その前文によれば、「国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害 とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保護、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ・・・る」ことを目的として制定されたものである。ここで、被爆者援護法が、その前文で「特殊の被害」に言及する趣旨は、先般の戦争による当時の国民の犠牲が極めて多岐にわたり、全ての国民が、その生命・身 ・・・る」ことを目的として制定されたものである。ここで、被爆者援護法が、その前文で「特殊の被害」に言及する趣旨は、先般の戦争による当時の国民の犠牲が極めて多岐にわたり、全ての国民が、その生命・身体・財産等につ いて多かれ少なかれ、何らかの犠牲を余儀なくされており、そうした犠牲については、一般的に、戦争犠牲ないし戦争災害として等しく受忍しなければならないとされる中で、原爆の放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、被爆者援護法が、戦争により何らかの犠牲を余儀なくされた全ての一般国民とは区別して、被爆 者に対する援護施策を実施することを明らかにしたことにあるものと解するのが相当である。 そうすると、被爆者援護法1条3号の被爆者認定においては、原爆の放射能(放射線)に起因する健康被害が特殊の被害であることの積極的根拠が必要となるというべきである。したがって、同起因性の要件につき、そ れが否定できないという消極的要件の充足で足りると解することは困難というほかない。 カ以上によれば、原告らは、被爆者援護法1条3号に該当する事実(「原爆の放射線による健康被害の可能性がある事情の下にあった」との事実)が存在することにつき証明責任を負うと解すべきところ、行政事件を含む民 事事件において、権利関係の存否について判断するために証明を要する事 実の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが、経験則に照らして全証拠を総合検討し、上記証明を要する事実が存在する高度の蓋然性を証明することであり、この点は、被爆者援護法1条3号に該当する事実に関する立証の場合においても変わりがないというべきである。したがって、その判断においては、合理的根拠のみならず一定の科学的根拠 明することであり、この点は、被爆者援護法1条3号に該当する事実に関する立証の場合においても変わりがないというべきである。したがって、その判断においては、合理的根拠のみならず一定の科学的根拠 を踏まえる必要があるというべきである。 よって、この点に関する原告らの主張は、採用できない。 4 争点⑶(長崎原爆由来の放射性降下物の降下の有無及び降下範囲)⑴ 原子雲についてア原告らは、長崎原爆由来の原子雲は、爆心地を中心に半径19kmの範 囲で薄く、かつ、半径12kmの範囲で厚く広がり、その後、西風にのって東方向へ流れたと主張する。そして、原告らは、この原子雲こそが原爆由来の放射性物質の還流源であり、そこには、核分裂生成物、未核分裂核物質、誘導放射性物質などが含まれていたところ、これらが広く放射性降下物として降下した(一部は「黒い雨」として降下した)旨主張する(原 告ら最終準備書面23頁。ただし、原告らは、令和元年11月19日付け第5準備書面(「第6準備書面」との表題を後日訂正したもの)4頁では、長崎原爆が生成した水平原子雲は、中心部の厚い部分が半径15km、周縁の薄い部分が半径30kmに及んだ旨主張していたから、原子雲の広がりに関する原告らの主張には変遷がある。)。 イそこで検討すると、証拠(乙A81)及び弁論の全趣旨によれば、原子雲中には、その発生機序に照らし、放射性を持つ金属酸化物の粒を含んでいたこと、また、原子雲の生成過程では上昇気流が発生することから、爆発の高度に応じて、原爆の中性子によって放射化された物質などを巻き上げることがそれぞれ認められる。 ウ原告らは、このような原子雲が、爆心地を中心に半径19kmの範囲で 薄く広がり、半径12kmの範囲で厚く広がった旨主張する。そし 物質などを巻き上げることがそれぞれ認められる。 ウ原告らは、このような原子雲が、爆心地を中心に半径19kmの範囲で 薄く広がり、半径12kmの範囲で厚く広がった旨主張する。そして、その後、西風にのって東方向へ流れていったと主張し、石田論文における本件スケッチを有力な証拠として指摘する。 しかし、証拠(乙A84、乙A85)及び弁論の全趣旨によれば、長崎原爆が投下された当時、長崎市の上空は雲に覆われており、雲の切れ間か ら市街地の一部がわずかに見える程度で、原爆投下直後の写真を見ても、その雲量は相当量あったことが認められる。本件スケッチが作成された地点が、長崎市内の爆心地から東方30キロメートル超の地点にある温泉岳測候所であること(乙A83、86)をも踏まえれば、観察者において、原爆投下前から存在した雲と、原爆投下後に生成された原子雲とを明確に 区別できたかについては相当疑問である。 エ以上によれば、本件スケッチをもって原子雲が広がった範囲を認定することはできず、他に長崎原爆由来の原子雲が広がった範囲を確定するに足りる的確な証拠は存在しない。 ⑵ マンハッタン報告書について 原告らは、長崎原爆が投下された際、又はその後において原告らの被爆地点に放射性降下物が降下したことを示す客観的資料として最も重要なものがマンハッタン報告書である旨主張するので、以下検討する。 アマンハッタン調査団及びマンハッタン報告書の概要証拠(甲A2、49、101、104)及び弁論の全趣旨によれば、マ ンハッタン調査団及びマンハッタン報告書の概要として、次のとおり認められる。 (ア) マンハッタン調査団は、米国が広島原爆及び長崎原爆の影響を調査するために、原爆投下後はじめて日本に派遣した調査団である。 調査団及びマンハッタン報告書の概要として、次のとおり認められる。 (ア) マンハッタン調査団は、米国が広島原爆及び長崎原爆の影響を調査するために、原爆投下後はじめて日本に派遣した調査団である。 マンハッタン調査団は、2隊編成され、第1隊が昭和20年9月20 日から同年10月6日まで長崎に、第2隊が同年10月3日から同月7 日まで広島にそれぞれ派遣された。 (イ) マンハッタン調査団は、ヴィクトリーン社製のGM管(VictoreenModel 236)を用い、旧長崎市内109地点(うち西山地区15地点)及び旧長崎市以外175地点の合計284地点においてガンマ線を測定し、一部の地点ではベータ線も測定した。測定高は、いずれも地上5cmで あった。 測定方法は、放射線が強い場合には指示計の値が採用されたが、この方法により計測された地点はごく少数であり、ほとんどの地点においては、放射線が弱かったため、マンハッタン調査団は、イヤホーンとストップウォッチを使って1分間当たりのクリック音の数をカウントし、そ のカウント数につき校正曲線をもって線量率に換算したものである。 測定器の校正は、ガンマ線については0.5mm厚のプラチナの容器に入ったラジウム線源(24.35mg)が使用されて毎日行われたが、ベータ線については校正自体が行われなかった。 (ウ) マンハッタン調査団は、昭和20年9月21日、「魚雷工場」から続く 「ロード9」が「海に到達した最北端の地点」(以下「バックグラウンド値測定地点」という。)の測定値(毎分25カウント=0.01mR/h相当。以下「本件バックグラウンド値」という。)をバックグラウンド値とした。 なお、上記「魚雷工場」は、現在の長崎大学文教キャンパスであるが、 戦時中は魚 分25カウント=0.01mR/h相当。以下「本件バックグラウンド値」という。)をバックグラウンド値とした。 なお、上記「魚雷工場」は、現在の長崎大学文教キャンパスであるが、 戦時中は魚雷工場があった。 (エ) マンハッタン調査団の調査結果は、昭和21年4月にマンハッタン報告書として編纂されたところ、マンハッタン報告書は、「セクションA. 医学的調査」「セクションB.放射線」「セクションC.物理的損害」から成っている。 マンハッタン報告書のセクションBの付録Bにおいて、上記284地 点の測定日、測定地点情報、線量率等が記載されているところ、本田孝也医師が、セクションB本体の「長崎南部における放射線の等線量分布図」(図2)の写しに、セクションBの付録B記載の各測定地点の線量率を記入し、かつ、これに原告らの被爆地点を付記したものが、別紙8原爆被爆地域図である。 なお、セクションBの付録Bには、本件バックグランド値である毎分25カウント分を減算した校正曲線も掲載されている。 (オ) セクションB本体の「第Ⅳ章結論」において、次のとおり総括されている。 「長崎で最も強いガンマ線が測定された場所は、原爆雲からの放射性降 下物が落下した、市街から約1.6km北東に位置する西山水源地付近であった。この地点から50km東の方向の島原湾まで放射性降下物が残留していた。原爆から6週間後、水源地での最も強いガンマ線の線量率は1.8ミリレントゲン/時であった。これは27から110レントゲンの積算線量に相当する。爆心地での放射能は西山水源地付近の約1 /10であった。」イマンハッタン報告書の信用性について(ア) 前記によれば、マンハッタン報告書のセクションBの付録B記載の各測定地点の線量率(すな での放射能は西山水源地付近の約1 /10であった。」イマンハッタン報告書の信用性について(ア) 前記によれば、マンハッタン報告書のセクションBの付録B記載の各測定地点の線量率(すなわち、別紙8記載の線量率。以下「別紙8記載の線量率」という。)は、実際の測定値から本件バックグラウンド値を減 算した後の線量率であると認められる。原告らは、このことから、原告らの被爆地点に長崎原爆由来の放射性降下物が降下したことは明らかである旨主張するので、以下検討する。 (イ) 測定値の精度等についてa 前記によれば、マンハッタン調査団は、測定対象の放射線が弱かっ たために、バックグラウンド値測定地点を含め、ほとんどの測定地点 においてイヤホーンとストップウォッチを使って1分間当たりのクリック音をカウントし、かつ、そのカウント数を校正曲線をもって線量率に換算したものである。 b また、放射性物質は、風雨の影響等により移動し、集中してホットスポットを形成することがあり得るところ(甲A132、弁論の全趣 旨)、各測定地点において場所を変えて測定することがされていないことからすると、マンハッタン調査団がホットスポットに留意した形跡は見当たらない。 c さらに、放射性物質から放射線が放出されるタイミングは、ランダムであることが認められ、放射線率を正確に測定しようとすれば、計 数率の不確かさを統計学的に解消するために、各測定地点において測定を複数回行って平均値を出すなどの処理が必要となるはずである(乙A279及び280)。しかし、マンハッタン調査団が、そのような処理を行った形跡は、何ら見当たらない。 d 以上によれば、マンハッタン調査団の測定手法は、精度が劣るもの であり、かつ、その測定値は、誤差を含む )。しかし、マンハッタン調査団が、そのような処理を行った形跡は、何ら見当たらない。 d 以上によれば、マンハッタン調査団の測定手法は、精度が劣るもの であり、かつ、その測定値は、誤差を含むものといわざるを得ない。 (ウ) バックグラウンド値についてa 加えて、バックグラウンド測定地点が「ロード9」が「海に到達した最北端の地点」であることは前記のとおりであるところ、証拠(乙A55の1(24頁)、266)及び弁論の全趣旨によれば、海岸部で 問題となる放射線が専ら宇宙線であるのに対し、内陸部で問題となるのが宇宙線に加えて大地からの放射線であることから、海岸部においては、内陸部と比べて自然放射線が低くなる傾向があることが認められる。 これによれば、マンハッタン調査団が設定した本件バックグラウン ド値の適正にも疑問を拭い去ることができない。 そして、カットオフ値となる本件バックグラウンド値の適正に疑問が生じる以上、マンハッタン調査団の測定値のみから、各測定地点における長崎原爆由来の放射性降下物の降下の有無を判定することは、特に線量率の値が低い地域においては困難というべきである。 b これに対し、原告らは、バックグラウンド値測定地点は、必ずしも 海沿いではなかった旨主張し、高辻教授は、「ロード9」を北上して突き当った伊木力地区のT字路がバックグラウンド値測定地点であって、海までは水田を介して300m以上離れている場所であった旨指摘する。 しかし、証拠(乙A328)及び弁論の全趣旨によれば、当時から 当該T字路を左折すれば道路は更に北上していたこと、当該T字路から海までは300m以上離れていたことがそれぞれ認められる。これらのことからすると、高辻教授が指摘する伊木力地区のT字路を「海に到達 当該T字路を左折すれば道路は更に北上していたこと、当該T字路から海までは300m以上離れていたことがそれぞれ認められる。これらのことからすると、高辻教授が指摘する伊木力地区のT字路を「海に到達した最北端の地点」と呼ぶことは不自然である。 また、そもそも内陸部では、当時、長崎原爆由来の放射性降下物が 降下している可能性を否定できなかったことからしても、原告らの主張は、にわかに採用できない。 c 原告らは、長崎地区では海岸部の線量率が内陸部よりも低くなるような傾向が認められないと主張し、同旨の高辻教授の意見書(甲A111)を提出する。 しかし、高辻教授の意見書記載の測定地点のみの結果をもって直ちに一概にそのようにいうことはできない上、高辻教授自身、一般論としては、内陸部の方が海岸部より自然放射線の影響が強いことを認める旨の証言をするから、原告らの上記主張は採用できない。 d 原告らは、本件バックグラウンド値である0.01mR/h=0. 087μGy/h(なお、この照射線量から吸収線量への換算は、D S86解説書で採用されている換算方式である(甲A2の22頁参照)。)は、長崎地区の現時点における自然放射線の値である0.0178~0.036μGy/hと比較した場合、かなり高めの設定である旨主張する。 しかし、校正の正確性を含め、マンハッタン調査団が使用した測定 器の精度を確定するだけの証拠は存在しない。したがって、当該測定器の精度等を度外視して、現時点における長崎地区の自然放射線の値との比較をもって本件バックグラウンド値の適正を吟味することは、そもそも不可能というべきである。 ウ小括 以上によれば、別紙8記載の線量率をもって長崎原爆由来の残留放射線の線量率であるとは認められない 件バックグラウンド値の適正を吟味することは、そもそも不可能というべきである。 ウ小括 以上によれば、別紙8記載の線量率をもって長崎原爆由来の残留放射線の線量率であるとは認められない。 ⑶ 長崎原爆投下後の降雨の有無及びそれらの範囲についてここで、後記⑷の前提問題として、長崎原爆投下後の降雨の有無等について検討しておくと、次のとおりである。 なお、以下では、「黒い雨」先行訴訟と同様に、長崎原爆が投下された後に発生した雨を、色が黒くなかったものも含めて「黒い雨」ということとする。 ア前提事実に証拠(甲A107、108)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。 (ア) 「黒い雨」に関する広島・長崎の問題意識の差異について a 前提事実のとおり、広島においては、広島原爆が爆発した20~30分後から「黒い雨」が降ったことがよく知られており、宇田道隆が昭和28年に「宇田雨域」を公表した後、昭和62年に増田善信が宇田雨域の約4倍の範囲に及ぶ「増田雨域」を公表し、その後、大瀧教授が宇田雨域の約6倍に及ぶ「大瀧雨域」を公表するなど「黒い雨」 の降雨域が長年にわたる調査・研究の対象となっており、被爆地域拡 大運動の理由にもされてきた。 b これに対し、長崎においても、被爆地域に含まれる西山地区において「黒い雨」が降った事実は、当時からよく知られていた。 しかし、原爆医療法において被爆地域が当時の行政区域を基に指定されたために、南北方向には長いが東西方向には狭いという旧長崎市 の地理的特性上、長崎においては、爆心地を基点に、南北方向と東西方向とでは被爆地域の指定に不均衡が生じているところ、当該不均衡の是正が地域における長年にわたる重要な課題とされてきたこと等の事情から、これま 特性上、長崎においては、爆心地を基点に、南北方向と東西方向とでは被爆地域の指定に不均衡が生じているところ、当該不均衡の是正が地域における長年にわたる重要な課題とされてきたこと等の事情から、これまで「黒い雨」に関する調査・研究が乏しい実情にあったことは否めない。 (イ) 平成11年度証言調査の結果等a 長崎においては、被爆地域又は健康診断特例区域(現在の第一種健康診断特例区域)の拡大・是正を要望するため、平成11年度証言調査が実施された。 しかし、平成11年度証言調査における問題意識は、専ら被爆体験 に起因する心理的影響等の有無にあり、「黒い雨」の降雨域にはなかったことから、このとき用いられた証言調査票には、降雨に関する質問項目自体が存在しなかった。 b 平成12年3月、被爆未指定地域証言調査報告書が編纂された。これは、平成11年度証言調査の約7000件の回答の中から、ある一 定の問題意識(PTSDの有無)に基づき選択された85件の証言を掲載・分析したものである。したがって、被爆未指定地域証言調査報告書中、降雨に関する記述は限定的であった。そして、これが証拠提出された第二次被爆体験者訴訟における控訴審判決では、「本件証拠上、原爆投下後、爆心地の周辺地域のうち、西山地区以外で降雨があった との客観的な記録はない。」と判示された。 c しかし、平成11年度証言集(これは、平成11年度証言調査の証言調査票における自由記載欄の全回答を掲載したものである。)には、降雨に関する記載が相当数みられるところ、回答(証言)の総数計7025件のうち、129件(1.8%)に降雨体験に関する記載があった。その地理的分布を地図上に表すと、別紙7のとおりとなる。こ れによると、西山地区より東ないし北東の方に 回答(証言)の総数計7025件のうち、129件(1.8%)に降雨体験に関する記載があった。その地理的分布を地図上に表すと、別紙7のとおりとなる。こ れによると、西山地区より東ないし北東の方に位置する地域のうち、特に、旧矢上村及び旧古賀村において降雨体験の記述が比較的多くみられる(別紙7参照)。字名単位で降雨体験割合を調査すると、西山地区より北東の方に位置する旧矢上村の間の瀬地区において最も高い降雨体験割合が観察された。間の瀬地区より東の方に位置する旧古賀村 の一部地域においても比較的高い割合で降雨体験の記述がみられる。 イ検討(ア) そこで検討すると、旧矢上村及び旧古賀村においては、降雨体験に関する記述が高い割合でみられるところ、そのこと自体からして、旧矢上村及び旧古賀村における降雨体験に関する各記述は、相互に補強しあう 関係にあるといえ、互いに信用性を高めている。 加えて、旧矢上村及び旧古賀村に加え旧戸石村は、爆心地からみて、原爆投下後に「黒い雨」が降ったことが当初からよく知られている西山地区に近接する同地区より東ないし北東の方に位置するものである。証拠(甲A7)及び弁論の全趣旨によれば、長崎原爆投下当時、秒速約3 mの南西風が吹いていたことが認められるところ、西山地区の風下に位置していた旧矢上村、旧古賀村及び旧戸石村において降雨があっても全く不自然とはいえない。 さらに、後述のとおり、後述の東長崎地区においては長崎原爆由来の放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性が認められる。証拠(乙A1 61)及び弁論の全趣旨によれば、降雨には、大気中に拡散し浮遊する 放射性微粒子の降下を促進させる作用があるものと認められる。 これらのことを総合すれば、旧矢上村、旧古賀村及び旧戸石村におけ )及び弁論の全趣旨によれば、降雨には、大気中に拡散し浮遊する 放射性微粒子の降下を促進させる作用があるものと認められる。 これらのことを総合すれば、旧矢上村、旧古賀村及び旧戸石村における降雨体験の各記述には裏付けがあるというべきであるから、いずれも採用することができる。 (イ) 以上によれば、長崎原爆投下後、旧矢上村、旧古賀村及び旧戸石村の 一部において「黒い雨」が降った事実が認められる。 ⑷ 長崎原爆由来の放射性降下物の降下又はその蓋然性の有無及び降下範囲について以上の検討結果を前提に、長崎原爆由来の放射性降下物の降下又はその蓋然性の有無及び降下範囲につき検討すると、次のとおりである。 ア前記のとおり、別紙8記載の線量率については、これをもって長崎原爆由来の残留放射線の線量率とはいえない。 また、本件バックグラウンド値の適正に疑問があること等からすれば、マンハッタン調査団の測定結果のみから各測定地点における長崎原爆由来の放射性降下物の降下の有無を判定することは、特に線量率の値が低い地 域において困難であることも前記のとおりである。 イもっとも、放射線の等線量分布図は、最大値を示す西山地区より東方に帯状に広がって描かれている(別紙8参照)。マンハッタン報告書が内包する前記のような問題点を踏まえても、線量率そのものではなく、概括的に等線量の分布を把握する限度でマンハッタン調査団の調査結果を参照する ことについて格別の支障は見当たらない。 ウここで、被爆地域に指定されている西山地区についてみるに、前記のとおり長崎原爆投下後に「黒い雨」が降ったことで知られている西山地区において高い累積的被曝線量(生涯積算線量)が推定されていることからすると、長崎原爆由来の放射性微粒子、すなわち、燃え残 に、前記のとおり長崎原爆投下後に「黒い雨」が降ったことで知られている西山地区において高い累積的被曝線量(生涯積算線量)が推定されていることからすると、長崎原爆由来の放射性微粒子、すなわち、燃え残りの核爆弾原料物 質や核爆発で二次的に発生し、爆発に伴う高温で一旦気化した後、再冷却 の過程で微粒子となって大気中に拡散、浮遊した放射性微粒子(乙A161)が、西山地区に降下したことは明らかである。西山地区には降雨とともに放射性降下物が集中して降下したことが推認されるところ、別紙8記載の線量率の各値も、爆心地の東方3kmの西山地区で最大値を示している。 エ他方、長崎原爆由来の放射性微粒子が西山地区において降下し尽くしたことをうかがう証拠は存在しない。 かえって、国が設置し、放射線に関する専門家で構成された「長崎原爆残留放射能プルトニウム調査報告書・検討班」による検証によっても、その土壌採取地点の選定、土壌のサンプリング及び処理等いずれも妥当であ ると結論付けられている原爆残留放射能プルトニウム調査の結果によれば、爆心地からみて西山地区より東の方に位置する採取地点、すなわち別紙10記載の採取地点番号1~6、9、10、13、16、19、20、32、46及び52の各地点から原爆由来のプルトニウムが検出されている。前記のとおり、長崎原爆投下当時、秒速3mの南西風が吹いていたことから すると、原爆由来のプルトニウムが検出された上記各地点は、いずれも爆心地及び西山地区からみて風下に位置するものである。 これらのことからすれば、長崎原爆由来の放射性微粒子が西山地区のみならず、更にその風下地域に降下したことが明らかである。 オこれらのことを踏まえて検討するに、別紙9によれば、旧矢上村、旧戸 石村及び旧古賀 すれば、長崎原爆由来の放射性微粒子が西山地区のみならず、更にその風下地域に降下したことが明らかである。 オこれらのことを踏まえて検討するに、別紙9によれば、旧矢上村、旧戸 石村及び旧古賀村は、爆心地からみて、西山地区より東ないし北東の方の風下に位置する地域であるところ、別紙8のとおり、その大部分が他と比較して高い等線量分布図の範囲内に含まれている。 この点、確かに等線量分布図といっても、マンハッタン調査団がくまなく測定しているものではなく、前記認定のとおりの各測定地点の測定値を もとに描かれているものに過ぎない。 しかし、これらの地域は、長崎原爆由来の放射性降下物が集中して降下したことが明らかな西山地区の直の風下に位置するところ、長崎原爆由来の放射性降下物が西山地区において降下し尽くしておらず、更にその風下地域に降下したことが明らかであることは、前記のとおりである。 そして、原爆残留放射能プルトニウム調査の結果、これらの地域の一部 から原爆由来のプルトニウムが検出されている上、旧矢上村及び旧古賀村を中心に「黒い雨」の降雨が認められることも前述のとおりである。 カさらに、DS86解説書においては、「長崎の西山で数ヘクタールの最も高度に汚染された放射性降下物地域における放射線被曝は、-1.2の崩壊べき指数を用いて1時間目から無限大へと積分した場合に、20ないし 40Rと推定される。・・・長崎では距離にともなう減少は急ではなく、最大値の1/5の被曝が、恐らく1000ヘクタールの地域にわたって拡がる。」旨の記載があるところ、当該地域に旧矢上村、旧戸石村及び旧古賀村を含むと解しても矛盾がないことが認められる(甲A2)。 キ以上によれば、原爆残留放射能プルトニウム調査の結果、原爆由来のプ 旨の記載があるところ、当該地域に旧矢上村、旧戸石村及び旧古賀村を含むと解しても矛盾がないことが認められる(甲A2)。 キ以上によれば、原爆残留放射能プルトニウム調査の結果、原爆由来のプ ルトニウムが検出された測定地点のみならず、旧矢上村、旧戸石村及び旧古賀村のうち、少なくとも爆心地を基点とした半径12kmの範囲に含まれる区域(以下「東長崎地区」という。)に関しては、長崎原爆由来の放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性を認めることができる(なお、原爆残留放射能プルトニウム調査の結果、旧日見村の一部(別紙10記載の採 取地点番号20)からも原爆由来プルトニウムが検出されているが、限りなく旧矢上村に近い地点であるから、本件における判断の限りでは結論を左右しない。)。 ところで、これらの地域については、原爆残留放射能プルトニウム調査によっても原爆由来のプルトニウムが検出されていない地点も存在する。 しかし、証拠(乙A161)及び弁論の全趣旨によれば、放射性微粒子は、 地表到達後の風や地表水による移動の結果、地理的分布が複雑になることが認められる。このことを踏まえれば、長崎原爆投下後40年以上経過した後に実施された原爆残留放射能プルトニウム調査において原爆由来のプルトニウムが検出されなかったからといって、原爆由来の放射性降下物が降下しなかったと断定することはできないというべきである。 ク他方、マンハッタン報告書をもって、東長崎地区以外の被爆地点又はその周辺に長崎原爆由来の放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性は認められず、他にこれを認めるに足りる証拠は存在しない。 降雨体験に関する証言等があっても、東長崎地区とは異なり裏付けがあるとまではいえない。 なお、長崎原爆由来の放射性降下物につい 認められず、他にこれを認めるに足りる証拠は存在しない。 降雨体験に関する証言等があっても、東長崎地区とは異なり裏付けがあるとまではいえない。 なお、長崎原爆由来の放射性降下物についても、北極圏を含む全世界的にグローバルフォールアウトしていると考えられていることは、前記のとおりである。しかし、グローバルフォールアウトとローカルフォールアウトとは質的に別次元の問題であるというべきであるから、結論を左右しない。 ⑸ 小括アしたがって、原告ら(ただし、相続人原告らの請求については本件被相続人ら)のうち、次のもの(以下「被爆地点が東長崎地区である原告ら」という。)については、長崎原爆投下後、長崎原爆由来の放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性が認められる東長崎地区内に在ったものと認めら れる。 (ア) 旧矢上村原告番号7、8、12及び15、被相続人番号22及び27(イ) 旧戸石村原告番号2、21、23、24、38及び44 (ウ) 旧古賀村 原告番号17、18及び42イこれに対し、東長崎地区以外については、長崎原爆由来の放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性は認められない。 したがって、被爆地点が東長崎地区である原告ら以外の原告ら(ただし、相続人原告らとの関係では本件被相続人ら。以下「被爆地点が東長崎地区 以外の原告ら」という。)の被爆地点に、長崎原爆由来の放射性降下物が降下した事実は認められず、その相当程度の蓋然性を認めることもできない。 ⑹ 降灰体験に関する証言等についてアところで、証拠(甲A107、108)及び弁論の全趣旨によれば、平成11年度証言集には、降灰に関する記載も相当数みられるところ、回答 (証言)の総数計7025件のうち、1874 についてアところで、証拠(甲A107、108)及び弁論の全趣旨によれば、平成11年度証言集には、降灰に関する記載も相当数みられるところ、回答 (証言)の総数計7025件のうち、1874件(26.7%)に降灰体験に関する記載があることが認められる。その地理的分布を地図上に表すと、別紙7のとおりであり、特に東長崎地区やそれに隣接する旧日見村において降灰体験の記述が多くみられる(別紙7参照)。 イまた、原告らのうち、東長崎地区やそれに隣接する旧日見村で被爆した 原告らの陳述内容(ただし一部)は、次のとおりであるところ、専ら降灰体験に関する陳述である。 (ア) 原告番号2「白い灰等がどんどん飛んできた」(甲B31-2)(イ) 原告番号7 「黒い雲の中から紙や灰がチラチラ降って来(た)」(甲B31-7)(ウ) 原告番号8「家の周りには紙の燃えカスや灰が一杯積もっていました。野菜やネギの葉にも灰が積んでいました。」(甲B31-8)(エ) 原告番号12 「空から土雨の様な物・お金(札)・新聞紙・書類・洋服類の燃え屑が飛 んで来た」(甲B31-12)(オ) 原告番号15「空が真赤く、真っ黒になりしばらくして空からひらひらと何か落ちてくるのが見え・・・沢山沢山の燃えかす、灰が降ってきていた」(甲B31-15) (カ) 原告番号16「家の中はサラサラした砂や、土・灰で埃っぽくなっていました。」(甲B31-16)(キ) 原告番号17「黒い灰、大橋兵器工場の書類の焼け残り等が空一面から降って来(た)」 (甲B31-17)(ク) 原告番号18「太陽も、夕日の様な状態からドンドン暗くなり、降灰は全ての物にザクザク降り続け、兵器工場の書類や大学のカルテだったらしい 面から降って来(た)」 (甲B31-17)(ク) 原告番号18「太陽も、夕日の様な状態からドンドン暗くなり、降灰は全ての物にザクザク降り続け、兵器工場の書類や大学のカルテだったらしい物の燃え残りが、大雪の様に降り続(いた。)」(甲B31-18) (ケ) 原告番号21「空が真っ黒になって空気が生温かくなり、灰や焦げた服の切れ端などが降ってきました」(甲B31-12)(コ) 被相続人番号22「紙屑や灰が飛んでくる」(甲B31-22) (サ) 原告番号23「白い灰等が飛んで来て、紙屑なども飛んできたそう」(甲B31-23)(シ) 原告番号24「黒い灰が飛んでくる」(甲B31-24)ウそこで検討すると、次のとおりである。 (ア) 別紙7のとおり、平成11年度証言調査の結果、東長崎地区や隣接す る旧日見村において降灰体験に関する証言が集中しているところ、上記地区における降灰体験に関する証言及び原告らの陳述は、相互に信用性を補強しあう関係にあるといえるから、長崎原爆投下後、上記地区等において降灰があった事実自体は認められる。 (イ) ただし、当該降灰に係る灰そのものが、放射能を有する放射性物質で あったか否かは定かでなく、これを認めるに足りる的確な証拠も存在しない。原告らの陳述の中には、当該灰が爆心地付近にあった「大橋兵器工場の書類の焼け残り」等の陳述もみられるが、裏付けはない上、そのように確定できる根拠も定かとはいえないから、直ちには採用できない。 (ウ) なお、証拠(甲A79、107)及び弁論の全趣旨によれば、昭和5 3年4月13日開催の衆議院社会労働委員会(第84回国会)において、広島の「黒い雨」地域の一部が健康診断特例区域に指定された根拠に関する質疑に 79、107)及び弁論の全趣旨によれば、昭和5 3年4月13日開催の衆議院社会労働委員会(第84回国会)において、広島の「黒い雨」地域の一部が健康診断特例区域に指定された根拠に関する質疑に対し、厚生省公衆衛生局長が、要旨「黒い雨地域は放射能を含んだ灰が入っているということで、これが人体に影響を及ぼすのではないかということで地域に指定したわけでございます。」旨答弁したこと が認められる。 しかし、前記答弁中の「灰」が、「黒い雨」の黒い色の本体である煤を指すものか、あるいは大気中に拡散、浮遊した原爆由来の放射性微粒子を指すものかは判然としない上、広島原爆に関する上記答弁をもって直ちに前記灰が放射性物質であったと推認できるものでもない。 エよって、長崎原爆投下後に東長崎地区等に降った灰が長崎原爆由来の放射線により放射化された放射性物質であったとまでは認められない。 5 争点⑷(原告ら(相続人原告らとの関係では本件被相続人ら)が被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当するか) ⑴ 判断枠組み ア前記のとおり、被爆者援護法1条1号及び2号が、原爆の放射線の影響を受けると考えられる一定の時間的・場所的範囲に在った者を類型的に被爆者とするものであるのに対し、同条3号は、同条1号及び2号に該当しない者であっても、身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者を、個別具体的に被爆者と認定して救済しようとするものである。 前提事実によれば、例えば、長崎市においては、被爆者援護法1条3号該当性に関する本件審査基準(原爆が投下された後、一定の期間内に10人以上の被爆者の輸送・救護、死体処理等の作業に従事した者)が設けられている。ただし、身体 、長崎市においては、被爆者援護法1条3号該当性に関する本件審査基準(原爆が投下された後、一定の期間内に10人以上の被爆者の輸送・救護、死体処理等の作業に従事した者)が設けられている。ただし、身体に原爆の放射能の影響を受けるような事情がこれらの事情に限られることの科学的根拠は見当たらない。前記のとおりの国会 審議の内容等を踏まえても、被爆者援護法1条3号に該当する者を本件審査基準の該当者に限定する趣旨が全くうかがわれないばかりか、かえって、昭和32年3月25日衆議院社会労働委員会における政府答弁中には他の事由もみられることからすれば、本件審査基準に列挙されている該当事由は、飽くまでも例示的な列挙に過ぎないと解するのが相当である。 そうすると、被爆者援護法1条3号の「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあったもの」に該当すると主張して、本件手帳交付申請の却下処分の取消し等を求める訴訟において、裁判所は、経験則に照らして全証拠を総合検討し、その訴訟の原告につき、被爆者援護法1条3号の該当事実が認められるかどうかを検討して判断すべきである(判 断代置型審査)。 イ他方で、被爆者援護法1条3号の被爆者認定の領域では、402号通達及び令和4年基準の行政規則等が発出されており、処分権者がこれに準拠した判断を行っているところ、上記の法的性質が問題となる。 そこで検討すると、次のとおりである。 (ア) 402号通達及び令和4年基準に関する国の認識について a 402号通達(a) 402号通達は、原爆投下の際に第一種健康診断特例区域に在った者が、その後に造血機能障害等の所定の障害を伴う疾病に罹患したときに、当該者を被爆者援護法1条3号の被爆者として取り扱うこととするものである。国は、 は、原爆投下の際に第一種健康診断特例区域に在った者が、その後に造血機能障害等の所定の障害を伴う疾病に罹患したときに、当該者を被爆者援護法1条3号の被爆者として取り扱うこととするものである。国は、このような取扱いが合理的であると の認識の下、402号通達を発出したものと考えられる。 (b) ただし、参加人の本件訴訟における主張内容等を踏まえれば、402号通達に基づく取扱いについて、国は、現時点においても、確立した科学的知見の裏付けがあるものとまでは認識していないことが推認される。 b 令和4年基準(a) 令和4年基準は、「黒い雨」先行訴訟の原告と同じような事情にあったと認められる者が、その後に造血機能障害等の所定の障害を伴う疾病に罹患したときに、当該者を被爆者援護法1条3号の被爆者として取り扱うこととするものである。 (b) 令和3年内閣総理大臣談話によれば、国は、このような取扱いが合理的であるとの認識の下、令和4年基準を発出したものと認められる。他方、科学的根拠があるとまでは表明されていない。 (c) ここで、令和4年基準の合理性を基礎付ける事情につき検討しておくと、広島高裁令和3年判決においては、広島原爆投下後に発生 した雨を、色が黒くなかったものを含め「黒い雨」という旨定義されている。そうすると、「黒い雨」が黒い色の本体である煤等を含むことが上記事情とはいえない。令和4年基準の合理性を基礎付ける事情としては、大気中に拡散、浮遊した放射性微粒子の降下を降雨が促進させるという降雨自体の作用にあることが推認される(乙A 161)。 (イ) 裁量の有無等についてa 以上によれば、国は、402号通達及び令和4年基準に基づく取扱いにつき、いずれも科学的根拠に基づくものとまではみていな される(乙A 161)。 (イ) 裁量の有無等についてa 以上によれば、国は、402号通達及び令和4年基準に基づく取扱いにつき、いずれも科学的根拠に基づくものとまではみていないことが明らかである。他方、被爆者援護法1条3号の被爆者認定が、合理的根拠のみならず一定の科学的根拠までを踏まえて行われるべきこと は前記のとおりである。被告らにおいても、ほぼ同旨の主張をすることから、同条同号の被爆者認定において処分権者に裁量があるかが問題となる。 b そこで検討すると、被爆者援護法1条3号の被爆者認定は、放射線による健康被害の蓋然性という高度に専門的かつ科学的判断を伴うも のである。この判断の際には、放射線学に加え、実験医学、病理等の基礎医学、臨床医学、疫学等の各分野の知見を総合する必要があるところ、そこでは、放射線被曝の健康影響に係る科学的知見の集積状況等、様々な考慮要素を総合勘案することが要求されることから、事柄の性質上、処分権者には一定の裁量が不可欠であると解される。 c また、前記のとおり、被爆者援護法1条3号は、本来、同条1号及び2条の類型から外れるような被爆者を個別具体的に救済する趣旨の規定であるが、402号通達及び令和4年基準は、時間的・場所的範囲に加え、所定障害の発生という新たな指標をもって、被爆者援護法1条3号に基づき、類型的に被爆者認定を行おうとするものというべ きである。そうすると、この類型化という観点からも、処分権者には一定の裁量が不可欠であると解される。 d さらに、被爆者援護法1条3号の被爆者認定が、合理的根拠のみならず科学的根拠を踏まえて行われるべきものとしても、原爆放射線の身体的影響につき、なお解明されていない分野があることは、懇談会 報告書自体が認め 援護法1条3号の被爆者認定が、合理的根拠のみならず科学的根拠を踏まえて行われるべきものとしても、原爆放射線の身体的影響につき、なお解明されていない分野があることは、懇談会 報告書自体が認めるところである。また、後述のとおり、放射線によ る健康影響については、特に低線量域における人体への影響等、いまだ科学的知見として確立しているとまではいえない重要な論点が存在する上、後記エのとおり科学的検討を行ううえでの様々な原爆特有のあい路も存在する。 e ここで、被爆者援護法の前身である原爆医療法の立法趣旨が、一見 健康に見える人でも突然発病し死亡する等、被爆者の健康状態が医師の綿密な観察指導を必要とする現状であることにかんがみ、国が被爆者に対し健康診断及び医療を行うことによって健康の保持及び向上を図ることにあったことを踏まえれば、少なくとも被爆者健康手帳交付の段階では、科学性を追求することにも慎重であるべきという考えも 十分あり得ることに加え、何より402号通達及び令和4年基準は、被爆者救済の方向に出たものであることが明らかである。その内容自体、被爆者援護法やその前身たる原爆医療法の立法趣旨に沿うものであって、処分権者がそのような方向で要件解釈を行うことを妨げる理由は一切うかがわれない。 f そして、この場面において処分権者の裁量を肯認したとしても、402号通達及び令和4年基準による類型化から外れた者が被爆者認定される余地が無くなるものではない。特定個人が被爆者援護法1条3号の該当事実があるとして被爆者健康手帳の交付申請を行うことは、何ら妨げられない上、仮に却下処分を受けて取消訴訟が提起された場 合には、裁判所としては、経験則に照らして全証拠を総合検討し、その者につき、被爆者援護法1条3号の該当事実 付申請を行うことは、何ら妨げられない上、仮に却下処分を受けて取消訴訟が提起された場 合には、裁判所としては、経験則に照らして全証拠を総合検討し、その者につき、被爆者援護法1条3号の該当事実が認められるかどうかを個別に検討して判断すべきこととなること(判断代置型審査)からすれば、402号通達及び令和4年基準につき、裁量基準としての性質を有すると解して何ら差し支えないというべきである。 g しかし、そのように解したとしても、裁量基準に基づく類型化やこ れに基づく処分が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合には、その処分は、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるべきものと解するのが相当である。 ウ以上によれば、本件においては、①経験則に照らして全証拠を総合検討し、原告らに被爆者援護法1条3号の事実が認められるか(判断代置型審 査)、②402号通達及び令和4年基準に基づく類型化及びこれに基づく処分に裁量権の逸脱又は濫用があるか(裁量審査)という両面から検討すべきである。 エなお、被爆者援護法1条3号の認定につき科学的根拠を踏まえて行う上でのあい路は、次のとおりである。 (ア) 原爆放射線の被曝は、原爆炸裂時に放出された初期放射線によるもの(これについては、DS86、DS02等の線量推定方式により被曝線量が一応推定されているが、その限界にも留意する必要がある。)以外にも、残留放射線によるものがある。後者としては、大気中に拡散した放射性微粒子からの放射線被曝が問題となるところ(乙A161)、その被 曝による健康被害の有無、程度等を科学的に判定するうえでは、原爆由来の放射性降下物の有無、降下範囲、程度等を正確に把握した上で、経過時間ごとの被爆者の正確な滞在場所及び滞在時間に関するデ 被 曝による健康被害の有無、程度等を科学的に判定するうえでは、原爆由来の放射性降下物の有無、降下範囲、程度等を正確に把握した上で、経過時間ごとの被爆者の正確な滞在場所及び滞在時間に関するデータが必要となる。 しかし、各種調査が行われるまでの間に、半減期が短い多くの放射性 核種の放射能は減衰した上、証拠(乙A42)及び弁論の全趣旨によれば、調査時点において検出可能な核種についても、原爆投下後に行われた核実験によるグローバルフォールアウトの影響を受け、もはや検出される放射性物質が原爆由来のものか核実験由来のものかを判別することが著しく困難となっていることが認められる。 また、前記のとおり、放射性微粒子の場合には、その地理的分布は一 様でなく、地表到達後の風雨等による移動の結果、分布がさらに複雑になることから(乙A161)、経過時間別の地理分布の把握も、著しく困難といえる。 したがって、原爆由来の放射性降下物による被曝の有無並びにそれによる健康被害の有無及び程度を科学的に判定しようとしても、原爆投下 後一定時間が経過した後からは、そのための基礎資料を獲得することが著しく困難であるという事情が存在する。 (イ) また、内部被曝の影響についていえば、証拠(乙A378)及び弁論の全趣旨によれば、放射性物質が体のどの部分に蓄積するのかは放射性物質ごとに異なることが認められる。呼吸により呼吸器経由で放射性物 質が体内に入った場合と、飲食物と一緒に消化管経由で体内に入った場合とでは、同じ放射性物質であっても体の中での代謝や蓄積といった挙動が異なることから、内部被曝の場合の実効線量を求めるうえでは、こうした条件の違いごとに数理モデル計算が行われているところであって、核種・化学形・摂取経路(経口あるい 体の中での代謝や蓄積といった挙動が異なることから、内部被曝の場合の実効線量を求めるうえでは、こうした条件の違いごとに数理モデル計算が行われているところであって、核種・化学形・摂取経路(経口あるいは吸入)・摂取年齢ごとに線量係数 が求められており、摂取量に当該係数を乗じて預託実効線量を算出することが認められる。 しかし、原爆由来の放射性降下物による内部被曝の場合には、吸入摂取か経口摂取かの別、摂取された時期、摂取されたものの性状などを把握することが著しく困難である上、それらは時間が経つにつれ不確かさ が増すことから、原爆投下後一定時間が経過した後からは、信頼性の高い線量の評価を行おうとしても、そもそも不可能であるか、又は著しく困難といえる。 ⑵ 被爆地点が東長崎地区である原告らについてア前記のとおり、被爆地点が東長崎地区である原告らは、長崎原爆投下後 に、長崎原爆由来の放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性が認められ る東長崎地区内に在ったものである。 加えて、証拠(甲B29の2、同7、同8、同12、同15、同17、同18、同21~24、同27、同38、同42、同44)及び弁論の全趣旨によれば、被爆地点が東長崎地区である原告らは、いずれも令和4年基準がいう造血機能障害、肝臓機能障害、細胞増殖機能障害等の11種類 の障害を伴う疾病のいずれかの疾病を発症したものとも認められる。 イところで、令和3年7月14日に広島高裁令和3年判決が言い渡された後、内閣総理大臣は、「今回の判決には、原子爆弾の健康影響に関する過去の裁判例と整合しない点があるなど、重大な法律上の問題点があり、政府としては本来であれば受け入れ難いものです。」との留保を付す一方で、 「皆様、相当な高齢であられ、様々な病気も抱え 関する過去の裁判例と整合しない点があるなど、重大な法律上の問題点があり、政府としては本来であれば受け入れ難いものです。」との留保を付す一方で、 「皆様、相当な高齢であられ、様々な病気も抱えておられます。そうした中で、一審、二審を通じた事実認定を踏まえれば、一定の合理的根拠に基づいて、被爆者と認定することは可能であると判断いたしました」旨、上告を断念することを表明するとともに、「84名の原告の皆様と同じような事情にあった方々については、訴訟への参加・不参加にかかわらず、認 定し救済できるよう、早急に対応を検討します。」との方針が表明され、その後、厚生労働省健康局長から令和4年基準が発出されたことは、前記のとおりである。 そして、令和4年基準は、①黒い雨に遭ったことが確認できること(黒い雨に遭ったことが否定できない場合は、黒い雨に遭ったものとみなして 取り扱うこと。)、②造血機能障害、肝臓機能障害、細胞増殖機能障害等の11種類の障害を伴う疾病にかかっている者という2つの要件を満たす者について、被爆者援護法1条3号の被爆者として取り扱うものであるが、令和4年基準発出以降、広島原爆に被爆した者については、令和4年基準に従った審査(運用)がされているのに対し、長崎原爆に被爆した者は、 令和4年基準の対象外であることが認められる(弁論の全趣旨)。 ウこの点、確かに被爆地域の拡大問題に限定してみても、前記のとおり「黒い雨」の調査・検討が重ねられ、その降雨域を被爆地域等に含めることを長年求めてきた広島と、被爆地域の不均衡問題の是正を求めてきた長崎とでは、援護拡充運動の歴史的経緯等に相違があったといわざるを得ない。 また、長崎においては、広島と比べ「黒い雨」の降雨自体が限定的であ ったことが明らかであ 不均衡問題の是正を求めてきた長崎とでは、援護拡充運動の歴史的経緯等に相違があったといわざるを得ない。 また、長崎においては、広島と比べ「黒い雨」の降雨自体が限定的であ ったことが明らかである上、その調査・研究が乏しいという実態があることが否定できず、したがって、「黒い雨」の降雨域等を容易には一義的に確定し難いという事情があることも否めない。 さらに、懇談会報告書において次のような指摘がされていること、すなわち、①原爆被爆者対策の具体的内容は、結局は被爆者の福祉の増進を図 ることを狙いとするものであり、そのためには各地の実情に即した対策が望ましい旨の指摘、あるいは、②ただこれまでの被爆地域との均衡を保つためという理由で被爆地域を拡大することは、関係者の間に新たに不公平感を生み出す原因となり、ただ徒に地域の拡大を続ける結果を招来するおそれがある旨の指摘があることも事実である。 エしかし、長崎においても、東長崎地区の一部に「黒い雨」の降雨事実が認められることは前判示のとおりである上、東長崎地区のうち「黒い雨」の降雨体験に関する証言がないその余の地域においても、放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性が認められることは前判示のとおりである。前記のとおり、令和4年基準の合理性を基礎付ける事情としては、降雨によ って、大気中に浮遊した原爆由来の放射性微粒子の降下が促進されることがあるものと推認される。このことからすれば、「黒い雨」の降雨と、放射性降下物の降下とを区別する合理的理由も見いだし難いというべきである。 オかえって、昭和51年度残留放射能調査においては、爆心地から広島で は西に向けて、長崎では東に向けて、放射性降下物の影響によるものと推 認される線量の高い地域が見付かっている(すなわち、 えって、昭和51年度残留放射能調査においては、爆心地から広島で は西に向けて、長崎では東に向けて、放射性降下物の影響によるものと推 認される線量の高い地域が見付かっている(すなわち、広島は己斐・高須地区、長崎は西山地区であるが、いずれも「黒い雨」が降ったことで知られている地区である。)ところ(乙A152参照)、長崎においては、原爆残留放射能プルトニウム調査の結果、被爆地域に含まれる前記西山地区以外にも、東長崎地区において、長崎原爆由来のプルトニウムの存在が把握 されていることは、前記のとおりである。 これに対し、広島における「黒い雨」降雨域については、既に被爆地域に含まれる高須・己斐地区を除き、各種調査によっても広島原爆由来の放射性物質が客観的に把握されるまでには至っていない。 すなわち、証拠(乙A152(6頁)及び362)及び弁論の全趣旨に よれば、昭和51年度残留放射能調査においては、広島原爆の爆心地を基点に北14km、北北西22kmの地点において周囲と比べ有意に放射線量が高い地区が見付かったが、昭和53年度残留放射能調査によっても、対照地区と有意差が見いだせず、広島原爆からの核分裂生成物が残留しているとはいえないものとされ、また、平成3年には、ウラン同位体を用い た測定や、土壌以外の物質からの検出が試みられたが、いずれも広島原爆由来の放射性物質を特定するには至らず、さらに、平成22年には、原爆投下後1~3年後に建築された建物の床下からセシウム137の検出が試みられたが、床下で検出されたセシウム137が広島原爆由来のものかどうかは決着が付かなかったことが認められる。 そうすると、広島の「黒い雨」降雨域、及び長崎の東長崎地区いずれも原爆由来の放射性降下物が降下した蓋然性が認められるこ が広島原爆由来のものかどうかは決着が付かなかったことが認められる。 そうすると、広島の「黒い雨」降雨域、及び長崎の東長崎地区いずれも原爆由来の放射性降下物が降下した蓋然性が認められることに違いはないばかりか、長崎の東長崎地区については、高い累積的被曝線量が推定されている西山地区からみて直の風下に位置する地域である上、その一部において長崎原爆由来のプルトニウムの存在が客観的に把握されているこ となどから、長崎原爆由来の放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性が 認められるのである。 加えて、いずれも被爆地域に含まれているものの、「黒い雨」の降雨が認められる己斐・高須地区(広島)と西山地区(長崎)とを比較した場合、そのフォールアウトによる集積線量の推定は、初期調査の線量率測定データからの推定が、前者が1~3Rであるのに対し、後者が20~40Rで あり(DS86)、西山地区(長崎)の方が高須・己斐地区(広島)よりも一桁高い数値となっている。 カ以上によれば、長崎における東長崎地区は、控え目にみたとしても、令和4年基準の内容の合理性を基礎付ける根拠事情の枠内において、広島の「黒い雨」降雨域と同一条件・同一事情下にあることが明らかである。被 爆者援護法1条3号の被爆者認定において、処分権者が、広島原爆に被爆した者との関係では、「黒い雨」の降雨事実を考慮すべき事情とするのに対し、長崎原爆に被爆した者との関係では、「黒い雨」の降雨事実を考慮せず、あるいは東長崎地区に放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性を考慮しないことにつき、合理的な理由は見いだし難いというべきである。この 差異は、法において被爆地域が当時の行政区画を基本に指定されたために生じた、やむを得ない不均衡などとは質的に異なるものというべ ないことにつき、合理的な理由は見いだし難いというべきである。この 差異は、法において被爆地域が当時の行政区画を基本に指定されたために生じた、やむを得ない不均衡などとは質的に異なるものというべきである。 また、第一次被爆体験者訴訟及び第二次被爆体験者訴訟の確定判決の存在が、長崎において広島同様の運用を行うことを妨げる理由になるものとは解されない。 キここで、被爆者援護法の法的性格をみるに、被爆者援護法は、被爆者の健康面に着目して公費により必要な医療の給付をすることを中心とするものであって、その点からみると、いわゆる社会保障法としての他の公的医療給付立法と同様の性格を持つものであるということができるものの、他方で、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他 の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみて制定されたもの であることからすれば、被爆者援護法は、このような特殊の戦争被害について戦争遂行主体であった国が自らの責任によりその救済を図るという一面をも有するものであり、その点では実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあることは否定することができない(最高裁判所平成29年12月18日第一小法廷判決・民集71巻10号2364頁参照)。 クこのように、被爆者援護法に国家補償的性格があることに加え、前記のとおり、被爆者援護法1条3号が、本来、同条1号及び2号の類型化から外れた者を個別具体的に救済する趣旨の規定であることからすれば、処分権者としては、令和4年基準の適用に当たっても、その内容の合理性を基礎付ける根拠事情の枠内において、他に考慮すべき事項があれば、考慮し なければならないものと解するのが相当である。 ケそうすると、処分権者が前記事情を考慮しようとした場合に前記ウの 理性を基礎付ける根拠事情の枠内において、他に考慮すべき事項があれば、考慮し なければならないものと解するのが相当である。 ケそうすると、処分権者が前記事情を考慮しようとした場合に前記ウのとおりのあい路があることを踏まえても、被爆地点が東長崎地区である原告らが行った本件手帳交付申請に対する却下処分は、社会通念に照らし著しく合理性を欠くものというべきである。これまで判示してきたところによ れば、広島における「黒い雨」降雨域に在った者のみならず、被爆地点が東長崎地区である原告らについても、「黒い雨」先行訴訟における原告らと本質的に同じような事情にあったものというべきであり、令和4年基準と同様の取扱いがされるべきであるから、上記却下処分は、裁量権の逸脱又は濫用があったものとして、これを取り消すべきである。 コなお、「黒い雨」の降雨に、大気中に浮遊した原爆由来の放射性微粒子の降下を促進させる作用があることを前提としても、後記(4)で判示するところも踏まえれば、当裁判所としては、令和4年基準の取扱いが科学的根拠に基づくものとまでは判断できない。 しかし、前記のとおりの被爆者援護法1条3号の認定につき科学的根拠 を踏まえて行ううえでの原爆特有のあい路に加え、後述のとおりの放射線 被曝の健康影響に関する知見の集積状況、原爆放射線の身体的影響につき未解明の部分があること(懇談会報告書参照)等からすると、令和4年基準に基づく取扱いは、極めて合理的なものというべきである。そして、その合理性の程度に加え、被爆者援護法に国家補償的性格があることも併せ考えると、上記結論が左右されるものとはいえない。 サまた、本件各処分当時は、広島高裁令和3年判決は言い渡されておらず、国が令和3年総理大臣談話を発表して同判決 家補償的性格があることも併せ考えると、上記結論が左右されるものとはいえない。 サまた、本件各処分当時は、広島高裁令和3年判決は言い渡されておらず、国が令和3年総理大臣談話を発表して同判決を受け入れたのは上記処分後の事情に該当するので、違法判断の基準時が問題となり得る。 しかし、前記のとおり、被爆者援護法1条3号の被爆者認定の判断は、最新の科学的知見に基づき行われるべきものであるから、仮に、本件各処 分が処分後に確立した科学的知見に反するものとなれば、本件各処分は取り消されるべき筋合いのものといえるから、そもそも当該処分に関する司法審査においては、処分後の事情を考慮することが想定されているものである。 加えて、国が令和3年内閣総理大臣談話を発表して広島高裁令和3年判 決を受け入れたことを処分後の事情として考慮せず、原告らに再申請を強いることは迂遠である上、何より本件被相続人らは死亡しており再申請を行うことができない。 さらに、国が広島高裁令和3年判決を受け入れたのは処分後の事情であるとはいえ、令和4年基準の合理性を基礎付ける事情は、広島高裁令和3 年判決の言渡しや令和3年内閣総理大臣談話により生じたものではなく、本件各処分当時から生じていたものといい得ることなどからすれば、上記結論を左右しないというべきである。 シ被爆地点が東長崎地区である原告らは、前判示のとおり、令和3年内閣総理大臣談話及び令和4年基準がいう「黒い雨」先行訴訟における原告と 同じような事情にあったものと認められる。加えて、前記のとおり、いず れも令和4年通知所定の造血機能障害等11種類の障害を伴う疾病を発症したものと認められることからすれば、被爆地点が東長崎地区である原告らは、令和4年基準同様の取扱いがなされて とおり、いず れも令和4年通知所定の造血機能障害等11種類の障害を伴う疾病を発症したものと認められることからすれば、被爆地点が東長崎地区である原告らは、令和4年基準同様の取扱いがなされて被爆者健康手帳を交付されるべきことは明らかと認められる。 したがって、本件各処分のうち、被爆地点が東長崎地区である原告らの 本件手帳交付申請を却下した部分については、これを取り消すのが相当であることに加え、当該処分が処分行政庁の裁量権の範囲を超え若しくはその濫用にあたるというべきことから、行政事件訴訟法37条の3第5項に基づき、被爆地点が東長崎地区である原告らに対し、被爆者健康手帳の交付をすべき旨を命ずるのが相当である。 ⑶ 被爆地点が東長崎地区以外の原告らについてア原告らは、東長崎地区以外の被爆地点にも長崎原爆由来の放射性降下物が降下したことは明らかである旨主張する。 しかし、前記のとおりのマンハッタン調査団の測定手法の精度の低さ、本件バックグラウンド値の適正等の問題に照らせば、マンハッタン報告書 をもって直ちに、被爆地点が東長崎地区以外の原告らの被爆地点に長崎原爆由来の放射性降下物が降下した事実あるいは相当程度の蓋然性を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠は存在しない。 イ原告らは、被爆地点が東長崎地区以外の原告らも、長崎原爆投下後に放射線による急性症状を発症している上、晩発性疾病にも罹患している旨主 張する(別紙6参照)。 そこで検討すると、被爆地点が東長崎地区以外の原告らが「急性症状」として主張する症状は、脱毛、歯茎からの出血、倦怠感、下痢、発疹、腹痛、風邪、吐き気、腹痛、嘔吐等である。 また、被爆地点が東長崎地区以外の原告らが「晩発性の疾病」として主 張する疾病 」として主張する症状は、脱毛、歯茎からの出血、倦怠感、下痢、発疹、腹痛、風邪、吐き気、腹痛、嘔吐等である。 また、被爆地点が東長崎地区以外の原告らが「晩発性の疾病」として主 張する疾病は、変形性脊椎症、糖尿病、高脂血症、慢性肝炎、高血圧、慢 性胃炎、不眠症、狭心症、骨粗しょう症、子宮癌、消化性潰瘍、胃潰瘍、肺気腫、喘息、高血圧性心疾患、慢性心房細動、慢性虚血性心疾患、坐骨神経痛、両変形性膝関節症、不整脈等である。 しかし、証拠(乙A118~126、286~327)及び弁論の全趣旨によれば、上記各症状及び各疾病は、放射線以外の様々な原因でも十分 起こり得るものと認められる。 そうすると、仮に、被爆地点が東長崎地区以外の原告らが上記症状を発症し、あるいは上記疾病に罹患したことが認められたとしても、このことから直ちに、被爆地点が東長崎地区以外の原告らが長崎原爆由来の放射性降下物により被曝したものとは認められない。 ウ原告らは、内部被曝の危険性について、原爆線量再評価(DS86、DS02)で導き出される被曝線量の理論値が同じでも、屋内で被爆した被爆者の方が、屋外で被爆した被爆者よりも染色体の異常率が高いという調査結果があるところ、これには放射性微粒子の関与が疑われるところであることに加え、原爆投下から比較的短い時間においては、セシウム137 (短半減期30年)以外にも、その何万倍もの短半減期核種が大気中に浮遊していたことから、内部被曝を考える上では、このような短半減期の核種の存在も考慮に入れなければならない旨主張する。 しかし、証拠(乙A98)及び弁論の全趣旨によれば、誘導放射化に寄与し得る中性子自体は、被爆地点が東長崎地区以外の原告らの被爆地点ま では届いていないことが認められる。 ない旨主張する。 しかし、証拠(乙A98)及び弁論の全趣旨によれば、誘導放射化に寄与し得る中性子自体は、被爆地点が東長崎地区以外の原告らの被爆地点ま では届いていないことが認められる。 また、そもそもマンハッタン報告書をもって直ちに、被爆地点が東長崎地区以外の原告らの被爆地点に長崎原爆由来の放射性降下物が降下した事実あるいは相当程度の蓋然性を認めることができないことは前記のとおりであり、他にこれを認めるに足りる的確な証拠は存在しないことも前記の とおりである。 エ以上によれば、被爆地点が東長崎地区以外の原告らについて、被爆者援護法1条3号の事実は認められない。同原告らが「黒い雨」先行訴訟における原告らと同じような事情にあったものともいえないから、令和4年基準において被爆地点が東長崎地区以外の原告らを対象としていないことが、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとはいえない。 また、被爆地点が東長崎地区以外の原告らの被爆地点に長崎原爆由来の放射性降下物が降下した相当程度の蓋然性が認められないことからすると、仮に、被爆地点が東長崎地区以外の原告らの被爆地点について、健康診断特例区域(現在の第一種健康診断特例区域)と比較した場合に、事実関係上の諸条件等のうち差異がない点が一部存在したとしても、このことを理 由に、被爆地点が東長崎地区以外の原告らが402号通達の対象とされていないことが社会通念に照らし著しく妥当性を欠くともいえない。 ⑷ その余の原告らの主張についてア原告らは、放射線の健康危害の原因は、放射線の電離作用にあるところ、たった1本の放射線に被曝することで人体は放射線による影響を受ける のであるから、原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下に 因は、放射線の電離作用にあるところ、たった1本の放射線に被曝することで人体は放射線による影響を受ける のであるから、原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができない事情の下にあったといえる旨主張する。 しかし、被爆者援護法1条3号の意義としては、「原爆の放射線による健康被害の可能性がある事情の下にあった者」と解すべきことは前判示のとおりである上、その立証の程度としても、経験則に照らして全証拠を総合 検討し、上記要証事実が存在する高度の蓋然性を証明することが必要であることは前判示のとおりであるから、そもそも原告らの主張は失当である。 また、この点を措くとしても、証拠(甲A38、乙A55、115、116、117、151、152)及び弁論の全趣旨によれば、確かに、放射線には電離作用があるから、例えば、特にアルファ線など線エネルギー 付与(LET)が大きい高LET放射線に被曝した場合には、細胞内のD NAの二重らせん構造が破壊されたり、低LET放射線の場合であっても、放射線の影響によって細胞内に生じたラジカルによる影響を受けてDNAが損傷したりすることが認められる。 しかし、他方で、人体には、有害なラジカルを除去する作用が備わっている上、DNAが損傷を受けても、細胞内の修復機構が働いて、長くとも 1~2日のうちに修復されるほか、修復が困難なDNA損傷が生じた場合には、プログラム細胞死(アポトーシス)が誘導されたり、細胞分裂を完遂することができず細胞死が誘導されたりすることが認められる。 加えて、前提事実のとおり、我々が日常的に放射線被曝していること(日本人が1年間に受ける平均被曝線量は4.7mSvである。)からしても、 上記のような定性的な議論のみをもって、被爆者援護法1条3号該 、前提事実のとおり、我々が日常的に放射線被曝していること(日本人が1年間に受ける平均被曝線量は4.7mSvである。)からしても、 上記のような定性的な議論のみをもって、被爆者援護法1条3号該当性の判断を行うことは相当でないというべきである。 よって、原告らの上記主張は理由がない。 イ原告らは、国際放射線防護委員会(ICRP)が低線量域での被曝につきLNTモデル(LNT : LinearNon-Threshold)を採用していることを指 摘する。 そこで検討すると、前提事実のとおり、放射線の人体に対する影響の種類としては、確定的影響と確率的影響とがあるところ、確率的影響にしきい値線量があるかどうかについては争いがあり、国連科学委員会(UNSCRAR)及び国際放射線防護委員会(ICRP)は、被曝線量が小さく なると放射線リスクは線量に比例して小さくなるが、ゼロにはならないとする、いわゆる線形しきい値なし(LNT)モデルを採用していることが認められる(甲A141)。そして、ICRPは、放射線防護に関する世界的な科学者・専門家から構成される独立した民間の国際学術組織であり、その勧告は、放射性防護に関する国際基準として広く認められているとこ ろ、各国政府は、ICRPの勧告において示される基本的な考え方や国際 原子力機関(IAEA)が作成する放射線防護の指針などを基に、具体的な放射線防護措置を実施しており、それは、ICRP勧告の内容の適切さが大いに尊重されているからにほかならないことも認められる(乙A152)。 しかし、証拠(乙A53、乙A56(22頁)、152)及び弁論の全趣 旨によれば、これまでに得られている疫学・生物学的知見を総合しても、100mSv以下の低線量の被曝で癌が誘発されるかど 。 しかし、証拠(乙A53、乙A56(22頁)、152)及び弁論の全趣 旨によれば、これまでに得られている疫学・生物学的知見を総合しても、100mSv以下の低線量の被曝で癌が誘発されるかどうかは、いまだ解明されていないことが認められる。その大きな理由は、他の交絡因子にまぎれて疫学調査からは統計学的に判別が付かないことであることが認められ、いまだ解明されていないにとどまらず、そもそもそのような事態か らしてリスクがあるとはいえないという見解があり得ることも認められる(乙A152)。ICRPは、放射線防護の目的からLNTモデルを、より慎重な立場に立った考え方として仮説として採用して勧告しているに過ぎないものといえ、放射線防護としての考え方とリスク評価としての考え方が異なるのは当然であるといえる。最新の統計学的手法を用いた寿命 調査研究における線量反応曲線は、LNTモデルを下回るとの報告もあることも認められ(乙A152)、この問題については、専門家が指摘するとおり、科学的に決着が付いていない問題であるということができる(甲A171)。 これに対し、原告らは、INWORKS論文を取り上げ、INWORK Sの研究から、被曝線量が0~100mGyの場合にも、被曝量と固形がん死亡率との間の関連が認められることが指摘されている旨主張する。 しかし、証拠(甲A32、乙A250)及び弁論の全趣旨によれば、INWORKS論文自体、0~100mGyまでの低線量被曝の過剰相対リスクの精度が低いことを自認するものであることに加え、INWORKS 論文では、喫煙による交絡を間接的に評価するため、全固形がんの過剰相 対リスクと肺がんを除く固形がんの過剰相対リスクを比較し同程度であるとし、潜在的交絡因子である喫煙の影響 ORKS 論文では、喫煙による交絡を間接的に評価するため、全固形がんの過剰相 対リスクと肺がんを除く固形がんの過剰相対リスクを比較し同程度であるとし、潜在的交絡因子である喫煙の影響を考慮していない。INWORKS論文自体からも、固形がんの分類から口腔及び咽頭、食道、胃、大腸、直腸、肝臓、胆嚢、脾臓、鼻腔、喉頭、肺、子宮頸部、卵巣、膀胱、腎臓及び尿管のがん(これらには喫煙関連がんが含まれている)を除くと、過 剰相対リスクは大きく低下することが示されている。これによれば、むしろ、潜在的交絡因子である喫煙が交絡因子となって結果に大きく影響していることが示唆されるところであることに加え、職場における有害物質への曝露の情報や、診断や治療で受ける医療被曝の情報が収集されていない点などの限界があることが指摘されていること(乙A256)も踏まえれ ば、INWORKS論文をもって直ちに低線量域での人体への影響が解明されているとはいえない。 ウ原告らは、内部被曝の場合は、放射線核種としても、外部被曝の場合に問題となるガンマ線より強いエネルギーを持ち、局所的に大きい加害性を持ち得るアルファ線及びベータ線が主力となるから、外部被曝より内部被 曝においてこそ放射線の傷害作用がより強度に現象するメカニズムがある旨主張する。 そこで検討すると、証拠(乙A161)及び弁論の全趣旨によれば、放射線の種類によって透過力が異なるため、外部被曝と内部被曝とでは、問題となる放射線の種類が異なること、すなわち、外部被曝の場合に主とし て問題となるのがガンマ線である(その理由は、アルファ線は透過力が弱く皮膚さえ通過することができず、ベータ線は皮膚を通過することができるから熱傷を引き起こすが、体の奥深くまでは届かないことである。)のに 題となるのがガンマ線である(その理由は、アルファ線は透過力が弱く皮膚さえ通過することができず、ベータ線は皮膚を通過することができるから熱傷を引き起こすが、体の奥深くまでは届かないことである。)のに対し、内部被曝の場合には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線を放出する全ての放射性物質が体内の細胞に影響を及ぼす可能性があり、特にアルフ ァ線の場合は、高LET放射線であるから、組織内で高密度の電離を起こ し、集中的にエネルギーを与える場合があることが認められる。 しかし、証拠(乙A113)及び弁論の全趣旨によれば、我々は、食物摂取等を通じて日常的に内部被曝を受けており、例えば、体重60kgの日本人の場合には、体内にカリウム30が4000ベクレル存在することから、1秒当たり4000回、1日に換算すると約3.5億回のベータ崩 壊による内部被曝を受けていることが認められる。 また、局所的に線量が高いことと発がんリスクが高まることとは別問題であり、証拠(乙A161)及び弁論の全趣旨によれば、発がんに関係する幹細胞は普遍的に存在している細胞ではないので、放射線粒子のごく近傍に幹細胞が存在していなければ、放出された放射線は、細胞がん化に関 与しないで終わるし、局所の放射線量が極めて高い場合には、細胞自体が生きられず、がん化のリスクはかえって低下するとの知見や、局所集中型の内部被曝の場合、電離は同時多発的に起きているのではなく、空間的な密度が高くとも時間的な密度が高いわけではなく、電離と電離との間に修復が働くと考えられ、そのために発がんリスクは小さくなると考えられる とともに、仮に、電離や飛跡が高密度となり細胞障害が大きくなれば、その細胞は細胞死を起こして消滅するため、がんのもとになる細胞にならず、外部被曝よりむしろが んリスクは小さくなると考えられる とともに、仮に、電離や飛跡が高密度となり細胞障害が大きくなれば、その細胞は細胞死を起こして消滅するため、がんのもとになる細胞にならず、外部被曝よりむしろがんの芽となる細胞数(標的細胞数)は少なくなるので、発がんリスクは外部被曝と同じかそれより減少することとなるとの知見があることが認められる。 原告らは、高辻俊宏「Takatsujietal(1999) GeneralizedconceptoftheLET-RBErelationshipofradiation-inducedchromosomeaberrationandcelldeath」(甲A50)、放射線科学「ポアソン照射の問題点と、単一粒子照射への期待」(甲A51)、「InductionofMicronucleiinGerminatingOnionSeedRootTipCellsIrradiatedwithHighEnergy HeavyIons.」(甲A52)を取り上げ、高辻教授らの上記研究が、荷電粒 子1個が発生させる染色体異常はLET(1マイクロメータの長さを飛ぶ間に通過場所に与える放射線のエネルギー)の2乗に比例することを明らかにしている旨主張するが、内部被曝により局所的に高い線量が加わることで発がんリスクが高まることが確立した科学的知見であるとまではいうことができない。 エ原告らは、七條和子・高辻俊宏「ラット肺における中性子放射化二酸化マンガン粉末による局所的高線量放射線の影響:内部被ばくに起因する長期の病理学的損傷」(甲A53)を取り上げ、内部被ばくした動物は、外部被ばくした動物及び対照群と比較して、出血、気腫及び炎症のレベルが高く、このこ る局所的高線量放射線の影響:内部被ばくに起因する長期の病理学的損傷」(甲A53)を取り上げ、内部被ばくした動物は、外部被ばくした動物及び対照群と比較して、出血、気腫及び炎症のレベルが高く、このことは、ホットパーティクルにより局所的高線量を受けると、細 胞核に大きなエネルギーを集中的に受けるので、均一被曝より大きな障害を受けることの実例を示していると主張する。 しかし、証拠(乙A53、乙A152)及び弁論の全趣旨によれば、ホットパーティクル理論を確立した科学的知見ということはできない。上記論文については、調査対象のラット数が各群で3ないし6匹と少なく、結 果を一般化するには足らないと考えらえる上、ラットを検体とした結果をもって人体やヒトにも当てはまると容易に結論付けることもできないというべきである。 オ原告らは、鎌田七男ら「広島フォールアウト地域4重がん症例の肺がん組織で証明された内部被ばく」(甲A54)を取り上げ、原爆の初期放射線 の届かない4.1km地点で被曝した被曝者の症例につき、肺がん部組織の中にアルファ線飛跡がみられるため、フォールアウトによる内部被ばく(アルファ線被曝)をしていることが分かるところ、内部被曝により体内の細胞がアルファ線粒子に当たると、細胞核には非常に大きなエネルギーが与えられ、上記症例は、アルファ線に被曝すると多重がんという重大な 健康被害が生じうることを示している旨主張する。 しかし、上記論文については、当該アルファ線が原爆由来の放射性物質によるものであることを断定する根拠が乏しいと考えられる上、そもそもアルファ線によって上記症例が発症したことの根拠も乏しいというべきである。 6 争点⑸(第一種健康診断受診者証交付申請却下処分の適法性及び第一種健康 診断 根拠が乏しいと考えられる上、そもそもアルファ線によって上記症例が発症したことの根拠も乏しいというべきである。 6 争点⑸(第一種健康診断受診者証交付申請却下処分の適法性及び第一種健康 診断受診者証交付処分義務付けの可否)⑴ 原告らは、被爆地点に長崎原爆由来の放射性降下物が降り注いだことの科学的根拠がある上、有病率が高いにもかかわらず、被爆地点が第一種健康診断特例区域に指定されていないところ、爆心地からの距離が変わらず、住民の健康調査の結果、住民の有病率の高さ等が第一種健康診断特例区域と同様 の状況であることに照らせば、第一種健康診断特例区域を規定する被爆者援護法施行令附則2条別表第三は、被爆者援護法附則17条の委任の趣旨を逸脱・濫用した違法・無効な定めというべきである旨主張する。 ⑵ そこで検討するに、法律の委任を受けて規定された政令等が当該法律による委任の範囲内であるか否かは、①授権規定の文理、②授権規定が下位法令 に委任した趣旨、③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性並びに④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等の考慮要素を総合して判断すべきであるところ、被爆者援護法附則17条は、原子爆弾が投下された際、同法1条1号に規定する区域に隣接する政令で定める区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者につき、当分の間、同法7条の規定の適用 については被爆者とみなす旨規定するものである。これは、被爆者援護法の前身たる原爆医療法の附則3項を引き継いだものであるところ、同法附則3項が定める健康診断特例区域(現在の第一種健康診断特例区域)は、昭和49年の原爆医療法の改正により新設されたものであった。その後、昭和51年の原爆医療法施行令の改正等により健康診断特例区域が拡大したことは、 前記認 域(現在の第一種健康診断特例区域)は、昭和49年の原爆医療法の改正により新設されたものであった。その後、昭和51年の原爆医療法施行令の改正等により健康診断特例区域が拡大したことは、 前記認定のとおりであるところ、現時点においては、別紙5のとおり、被爆 地域以外で爆心地から概ね7.5km圏内に行政区画が収まる地区が、第一種健康診断特例区域に指定されている。 そして、弁論の全趣旨によれば、国は、健康診断特例区域が創設された当時の科学的知見に照らし、原爆投下当時、当該区域に在った者に原爆放射線による健康被害が生じたことについて必ずしも十分な科学的・合理的根拠ま では認められず、当該区域を「被爆地域」として指定することはできないという認識の下、その当時の科学的知見の内容や当該区域の健康調査結果等を踏まえ、暫定的措置として健康診断特例区域を設定したこと、その後の地域拡大についても、先行して健康診断特例区域に指定された地区との均衡や、住民の有病率の高さ等が考慮されて行われたものであったことが認められる (被告ら第1準備書面40頁以下参照)。 ⑶ ところで、被告らは、健康診断特例区域は、「被爆者」援護施策とは異なる別個の政策施策として制度設計されたものである旨主張するが、402号通達の存在を併せ考えると、上記説明にかかわらず、その運用を客観的にみた場合には、原爆投下の際に健康診断特例区域(現在は第一種健康診断特例区 域)に在ったことが、その後の所定障害の発生と併せて、原爆医療法又は被爆者援護法上の効力と結び付けられているといえることは、前判示のとおりである。 とはいえ、被爆者援護法の前身たる原爆医療法を含み、授権規定上、健康診断特例区域(現在の第一種健康診断特例区域)は、法の本則ではなく附則 において といえることは、前判示のとおりである。 とはいえ、被爆者援護法の前身たる原爆医療法を含み、授権規定上、健康診断特例区域(現在の第一種健康診断特例区域)は、法の本則ではなく附則 において定められており、本則部分における援護体系とは別建てとなっている。これは、原爆放射線の人体影響については、なお未解明の部分もあることから、健康診断については、その実施の前提として必ずしも確立した科学的根拠までをも要求することなく実施するのが相当という認識から出たものと解するのが相当である。また、法が健康診断特例区域の指定を政令に委任 した趣旨は、具体的な区域の設定は、放射線被曝の健康影響に係る科学的知 見の集積状況や、それに限ることなく地域住民の要望や地理的均衡等の様々な考慮要素を総合勘案した上で機動的に行われるべきことにあったと解するのが相当である。 ⑷ そして、昭和49年、「長崎市に原子爆弾が投下された当時の長崎県西彼杵郡時津村及び同郡長与村(高田郷及び吉無田郷を除く。)」の区域が健康診断 特例区域に指定されたことについては、別紙5のとおりの同区域の地理的条件や、前記のとおり、長崎原爆投下後、旧長与村及び旧時津村には多数の被爆者が護送され、長与、時津の両国民学校の講堂等が仮収容施設となって多数の村民が看護に従事したとされており、住民が被爆者との接触の過程で被曝する可能性が高ったことからすると、合理的である。 また、昭和51年に別紙5の「健康診断特例区域(昭和51年指定)」が健康診断特例区域に追加指定されたことについても、先行する上記指定区域との地理的均衡等を踏まえれば、合理的といえる。 ⑸ この点、被爆地点が東長崎地区以外の原告らの被爆地点が第一種健康診断特例区域に指定されていないことにつき国に裁量権の逸脱又 、先行する上記指定区域との地理的均衡等を踏まえれば、合理的といえる。 ⑸ この点、被爆地点が東長崎地区以外の原告らの被爆地点が第一種健康診断特例区域に指定されていないことにつき国に裁量権の逸脱又は濫用があった かどうかについて検討するに、前記のとおり、被爆地点が東長崎地区以外の原告らが長崎原爆由来の放射性降下物により被曝したものとは認められず、同原告らの被爆地点又はその周辺に長崎原爆由来の放射性降下物が降下したことの相当程度の蓋然性も認められないことからすると、被爆者援護法施行令附則2条、別表第三が、被爆者援護法附則17条の委任の趣旨を逸脱・濫 用したものとはいえない。 ⑹ よって、原告らの上記主張は理由がない。 第4 結論以上の次第で、本件訴えのうち、①本件被相続人らの第一種健康診断受診者証交付申請却下処分の取消しを求める訴訟、及びその交付の義務付けを求める 訴訟は、いずれも本件被相続人らが死亡したことにより終了したから、訴訟終 了宣言をすることとし(主文第1項)、②原告番号1、3、4、6、9ないし11、13、14、16、19、20、25、26、29ないし37、39ないし41及び43の各原告並びに被相続人番号5及び28の各被相続人の被爆者健康手帳を交付することの義務付けを求める訴え、原告ら(相続人原告らを除く)の第一種健康診断受診者証を交付することの義務付けを求める訴えはいず れも不適法であるから却下し(主文第4項⑴、第5項⑴、第6項⑴、第7項⑴)、③原告番号2、7、8、12、15、17、18、21、23、24、38、42及び44の各原告並びに被相続人番号22及び27の被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消しを求める請求及び被爆者健康手帳交付の義務付けを求める請求はいずれも理由があるから認容し 23、24、38、42及び44の各原告並びに被相続人番号22及び27の被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消しを求める請求及び被爆者健康手帳交付の義務付けを求める請求はいずれも理由があるから認容し(主文第2項、第3項)、④原告らのそ の余の請求はいずれも理由がないから棄却する(主文第4項⑵、第5項⑵、第6項⑵、第7項⑵)こととして、主文のとおり判決する。 長崎地方裁判所民事部 裁判長裁判官松永晋介 裁判官松本武人及び笠松咲穂は、転補につき、署名押印することができない。 裁判長裁判官松永晋介 ※別紙1から別紙4まで及び別紙6について省略。

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