令和4(わ)198 殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年7月5日 京都地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-92386.txt

判決文本文7,186 文字)

主文 被告人を懲役18年に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、かねて、自らの子供を妊娠していた婚約者であるAからうそをつくなどの被告人の不誠実な行動をとがめられ、Aと口論に至ることもあるなど、同人との関係に悩んでいた中、平成28年10月22日未明に、被告人のうそに怒りを募らせるなどしたAから激しく詰問されて衝動的に同人を殺害しようと決意し、同日午前1時30分頃から同日午前2時18分頃までの間に、京都府綴喜郡a町内に停車中の自動車内において、助手席に座っていたA(当時19歳)に対し、その首を両手で絞め付け、よってその頃、同所において、同人を窒息させるなどして殺害した。 (事実認定の補足説明)第1 本件の争点等について本件の争点は被告人がAを殺害したか否かである。弁護人は、被告人はAを殺害しておらず、同人は被告人がそばにいない間に自殺したと主張するが、当裁判所は、検察官が主張するとおり、被告人がAを殺害したことは間違いないと判断したので、以下、その理由を説明する。 第2 当裁判所の判断 1 被告人の自白について被告人は、令和4年2月15日及び同月16日、検察官に対して、Aの首を両手で絞めて殺害した旨の供述をしている(以下「本件自白」という。)。 ⑴ 本件自白の任意性について弁護人は、本件自白に先立ち令和4年2月15日にポリグラフ検査が行われたことやその実施方法が黙秘権の告知がなされないなど不適切なものであったこと、同日行われたB警察官の取調べの際、黙秘権告知等がなかったこと、同日の取調べ等 が長時間であったことから、同警察官の取調べでなされた被告人の供述は任意性に疑いがあり、それ以降になされた本件自白も任意にされたもので 取調べの際、黙秘権告知等がなかったこと、同日の取調べ等 が長時間であったことから、同警察官の取調べでなされた被告人の供述は任意性に疑いがあり、それ以降になされた本件自白も任意にされたものでない疑いがある旨主張する。 しかし、ポリグラフ検査は心理検査であり、これを実施することで直ちに黙秘権が侵害されるものではなく、実施に先立ち黙秘権の告知をしていなかったからといって本件のポリグラフ検査が違法・不当となるものではない。また、B警察官は、被告人に対してポリグラフ検査の結果を具体的には告げておらず、同結果を取調べに利用していない。弁護人は、B警察官が作成した取調べメモに黙秘権告知の記載がないことを指摘するが、取調べの全ての過程が同メモに記載されるとは限らず、黙秘権は告知したがそれは取調べの際には通常行われる基本的事項であるからメモに記載しなかった旨の同警察官の供述は信用でき、同警察官の取調べの際に黙秘権告知はあったと認められる。B警察官や検察官の取調べ等も、殺人という事案の重大性に鑑みれば特段長時間であったともいえない。その他弁護人の主張を踏まえて検討しても、本件自白の任意性に疑いを生じさせる事情は見当たらない。 したがって、本件自白が任意にされたものでない疑いはないと認められる。 ⑵ 本件自白の信用性についてア被告人がAの遺体を遺棄したことについて被告人は、Aの死亡後の平成28年10月22日(以下「本件当日」といい、時刻のみの記載は同日のものをいう。)未明、同人が被告人の子供を妊娠していた婚約者で、幼なじみでもあるにもかかわらず、110番や119番通報をしたり、Aを病院に連れて行ったり、同人の家族に連絡をしたりするなど全くせずに、自動車で同人の遺体を奈良県内のb山に向かう道路脇の山林に運搬し遺棄した。このような被告人の 、110番や119番通報をしたり、Aを病院に連れて行ったり、同人の家族に連絡をしたりするなど全くせずに、自動車で同人の遺体を奈良県内のb山に向かう道路脇の山林に運搬し遺棄した。このような被告人の行動は、被告人がAを殺害していなければ通常とらないようなものであり、被告人がAを殺害したことを強くうかがわせる事情といえる。 イ A死亡後のその他の被告人の行動について被告人は、Aの死亡後に同人の遺体を乗せた自動車を走らせていた際に、同人 の携帯電話の画面が光るなどして着信があり、これを操作して、午前2時18分頃送られた、同人との共通の友人であるCのLINEメッセージを既読にし、午前2時22分頃、Aの母に対し、LINEでスタンプを送信した。 この点、被告人は、公判廷においてAの携帯電話を操作したことはない旨供述するが、被告人は、捜査段階である令和4年3月4日、A死亡後に自動車を走らせている際、同人の携帯電話を操作してCのLINEメッセージを既読にし、Aの携帯電話から誰かにLINEメッセージを送信した旨供述している。被告人は、捜査段階で上記供述をした時点で既に自白から否認に転じており、弁解も可能であった状況であえて自己に不利益な虚偽の供述をするとは考え難く、被告人の捜査段階の上記供述は信用できる。これに反する被告人の公判供述は信用できず、上記事実が認定できる。 また、被告人は、Aの遺体を遺棄した後の本件当日午後、同人の携帯電話に同人の行方不明を装う旨のiMessageを送り、同日以降、同人の両親に対し、本件当日未明、Aと仲直りして同人を家の前まで送った旨のうその説明をし、同人の両親や友人と共にAを探すふりをしていた。 被告人がAを探すふりを続けていたこと等は、同人の遺体を遺棄したことを前提にしても、その遺棄行為のみを周囲に隠して の前まで送った旨のうその説明をし、同人の両親や友人と共にAを探すふりをしていた。 被告人がAを探すふりを続けていたこと等は、同人の遺体を遺棄したことを前提にしても、その遺棄行為のみを周囲に隠して同人の行方不明を装うためであっても考えられる行動であり、被告人がAを殺害したことに直ちにつながる事情とはいい難い。もっとも、被告人がAの携帯電話を操作したことは、同人の殺害後、同人の遺体を遺棄するまでに同人の死亡時刻をずらす偽装工作と考えることができ、被告人がAを殺害したことをうかがわせる事情といえる。 ウ Aが自殺した可能性について自殺の理由・兆候の有無についてAは、平成28年9月頃、被告人の子供を妊娠し、両親から被告人との結婚と子供の出産を認めてもらい、出産を楽しみにしていた上、美容師の国家試験に向けて専門学校に通い、卒業後の美容師の就職先も決まっていた。 Aは、本件当時、周囲に相談できる家族や友人がいて将来を悲観するような状況にはなく、自殺する理由や兆候はなかった。また、Aは、午前1時30分頃から午前1時50分頃までの間に自動車内で被告人に対して激しく怒鳴るなどしていたが、被告人に失望したならば被告人と別れることもできたのであるし、その直前頃には専門学校の友人との電話で被告人との関係についてまた学校で話すなどとも述べていたものであり、Aが衝動的に怒りにまかせて自ら死ぬことも考え難い。 自殺の客観的可能性等について後述のとおり、被告人は、Aが自動車内で充電コードを首に巻き付ける方法により自殺した旨述べるものの、法医学が専門でD大学医学研究科特任教授である証人Eの供述によれば、自動車内ではヘッドレストや座席の状況等から前頸部に体重をかけることができず縊死することはできないし、意識喪失後に自ら頸部を締め続けるこ が専門でD大学医学研究科特任教授である証人Eの供述によれば、自動車内ではヘッドレストや座席の状況等から前頸部に体重をかけることができず縊死することはできないし、意識喪失後に自ら頸部を締め続けることができず自絞死することも困難であると認められる。そして、E特任教授の供述によれば、自絞死の場合、意識喪失後も索状物が緩まない状態にすれば、死ぬことが可能であると認められるが、自絞死の例が少ないことからも、Aが、本件当日、充電コード等の索状物が緩まない状態であれば自絞死が可能であることを知っていたとは考えられず、突然自殺を図るとしても、自動車内で充電コード等を首に巻き付けるだけでなくこれを緩まない状態にして死ぬという手の込んだ方法による自殺をするとは考え難い。 エ被告人がAを殺害する動機について被告人は、Aから、かねて場当たり的にうそをついていたことをとがめられて口論をすることがあった。Aは、本件前日の平成28年10月21日、被告人が姉を送る予定があるとうそをつき、産婦人科に行くことができなかったこと等から、被告人に対しての怒りをあらわにしていた。また、Aは、午前1時30分頃から午前1時50分頃までの間に、A方の近くに停車した自動車内で、被告人に対して「うそをつくな」と激しく怒鳴るなどしていた。 これらは、被告人がAとの関係に窮して衝動的に同人を殺害する動機となり得 る事情といえる。 オ供述経過及び内容について被告人は、本件自白に先立つB警察官の取調べの際、誘導等されることなく、Aの首を絞めて殺害した旨供述して泣き出し、その後の検察官の取調べの際も、自らの言葉で、両手を前に出して首を絞めるような動作も交えて、Aのことでしんどい気持ちがあり、気付いたらAの首を両手で絞めていた旨の本件自白をしており、その内容は具体的かつ自 検察官の取調べの際も、自らの言葉で、両手を前に出して首を絞めるような動作も交えて、Aのことでしんどい気持ちがあり、気付いたらAの首を両手で絞めていた旨の本件自白をしており、その内容は具体的かつ自然である。 カ小括以上のとおり、本件自白は、被告人が、Aが死亡した後、被告人がAを殺害したことをうかがわせるような同人の遺体の遺棄及び偽装工作といった行動をとっていることや、本件当時同人が自殺する理由や兆候が見られず、自殺する客観的可能性も低いこととよく整合する上、被告人がAを殺害する動機となり得る事情があること、供述経過や供述内容も自然であることも踏まえると、十分信用できる。 なお、Aの殺害方法について、客観的な証拠はないが、被告人は前記のとおり動作も交えてAの首を絞めた旨供述し、B警察官や検察官の取調べで自白をした日の翌日の検察官の弁解録取においても殺意を否認するという弁解をした上でAの首を絞めた旨の供述はなお維持しており、被告人がAの首を両手で絞めた旨の本件自白は、殺害方法も含め、信用できる。 2 被告人の公判供述について⑴ 被告人は、本件当日未明、Aと二人で乗っていた自動車を約15分ないし30分離れた間に、Aが同車内の助手席で首に携帯電話の充電コードを何周か巻き付けるなどして自殺していた旨供述している。 しかしながら、本件当時、Aに自殺の理由・兆候がなかったことや同人が自殺する客観的可能性が低いことは前述のとおりである(なお、被告人がAのそばを離れたのは短時間であり、同人の死亡の直前直後に行動を共にしているなどの本件の状況からすれば、被告人以外の第三者がAの死亡に関与した形跡はなく、弁護人も、 被告人以外の第三者がAを殺害した可能性は主張していない。)。そして、仮に、Aが首に充電コードを巻き付けて自絞死する場合には ば、被告人以外の第三者がAの死亡に関与した形跡はなく、弁護人も、 被告人以外の第三者がAを殺害した可能性は主張していない。)。そして、仮に、Aが首に充電コードを巻き付けて自絞死する場合には、意識喪失後も充電コードが頸動脈等を圧迫して緩まないほど固く締まっている必要があるが、被告人は、充電コードをほどくのに多少時間はかかったが、それほど固く締まっていなかったと思う旨を供述しており、被告人の供述する方法でAが自殺することは困難である。 ⑵ 被告人は、Aの自殺が知られるとかわいそうなので行方不明になったことにしようと思って同人の遺体を遺棄したと供述する。しかしながら、被告人は、被告人が本件当時20歳だったことを踏まえても通常考えられるはずの救護措置等をとらず、遺体を埋葬することもなくb山に向かう途中の道路脇の山林に落とすように遺棄し、その後も遺棄現場でAを弔うなどの行動もしていないのであって、かわいそうであると思っていた幼なじみの婚約者であるAに対する行動としては相当不自然である。 ⑶ したがって、Aが自殺していた旨の被告人の公判供述は信用できない。 3 結論⑴ 以上のとおり、信用できる被告人の本件自白によれば、本件当日、被告人がAの首を両手で絞め付けて同人を殺害したと認められる。 ⑵ 次に、Aの首を絞めたことによる同人の死亡原因は、E特任教授の供述によれば、窒息死のほか、Aの遺体の解剖が行われていない以上、それ以外の死因も考えられることから、窒息等と認められる。 ⑶ また、E特任教授の供述によれば、首を絞めて人を死亡させる場合、3分ないし5分は首を絞め続ける必要があるところ、被告人は、少なくとも3分程度は、Aの首を両手で絞め続けたと認められ、その行為態様自体から被告人に殺意があったことは明らかである。そして、被告人が従前 分ないし5分は首を絞め続ける必要があるところ、被告人は、少なくとも3分程度は、Aの首を両手で絞め続けたと認められ、その行為態様自体から被告人に殺意があったことは明らかである。そして、被告人が従前から自らのうそについてAにとがめられていたこと、本件直前も被告人のうそに怒りを募らせたAから激しく詰問されていたことや、被告人自身、捜査段階において、Aとの関係で悩んでいた旨供述していることからすれば、被告人は衝動的にAを殺害しようと決意し、本件犯行に及 んだと認められ、同人の首を絞め始めた時点から被告人には殺意があり、その後もAに抵抗されながらも絞め続けており、強固な殺意があったと認められる。 ⑷ Aの妹及び母は、午前1時30分頃から午前1時50分頃までの間、Aが被告人に対して激しく怒鳴るなどしているところを目撃等しており、Aは少なくとも午前1時30分頃の時点では生存していたと認められる。また、前記のとおり、被告人は、Aの死亡後である午前2時18分頃にAの携帯電話を操作してCのLINEメッセージを既読にしており、Aは遅くとも午前2時18分頃の時点では死亡していたと認められる。 したがって、本件犯行時刻は、午前1時30分頃から午前2時18分頃までの間と認められる。 ⑸ よって、被告人は、平成28年10月22日午前1時30分頃から同日午前2時18分頃までの間に、殺意をもって、Aの首を両手で絞め付けて殺害したと認められ、判示のとおり認定することができる。 (法令の適用) 1 構成要件及び法定刑を示す規定被告人の判示所為は刑法199条に該当する。 2 刑種の選択有期懲役刑を選択する。 3 宣告刑の決定以上の所定刑期の範囲内で被告人を懲役18年に処する。 4 未決勾留日数の算入刑法21条を適用して未決勾留日数中30 する。 2 刑種の選択有期懲役刑を選択する。 3 宣告刑の決定以上の所定刑期の範囲内で被告人を懲役18年に処する。 4 未決勾留日数の算入刑法21条を適用して未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 5 訴訟費用の不負担訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。 (量刑の理由)被告人は、判示のとおり、被害者との関係に悩んでいた中、被害者から激しく詰 問されて衝動的に本件犯行に及んでいる。しかし、被害者からの詰問は、被告人が被害者に対し、従前から本件に至るまで場当たり的にうそをついていたことに起因しており、被害者に落ち度はない。本件犯行は、あらかじめ計画されたものではないものの、被告人は被害者に抵抗されながらも被害者の首を絞め続けており、強固な殺意に基づくものである。被害者は当時19歳で、被告人との結婚と子供の出産を控え、美容師になるべく努力を重ねており、希望や未来ある被害者の死亡の結果が重大であることはいうまでもない。被告人が自らの子供を妊娠中であることを知りながら被害者を殺害した点も見過ごすことはできない。このような犯行内容からすれば、犯行後被害者の遺体を遺棄し、その後も被害者遺族らを欺き続け、被害者を探すふりをし、5年余りの間、遺族らの近隣で平然と生活をしていたなどの被告人の行動も相まって、遺族らの処罰感情が厳しいことも当然である。 以上によれば、本件は、同種事案(殺人、単独犯、凶器等なし、処断罪と同一又は同種の罪の件数1件、被告人から見た被害者の立場は知人・友人・勤務先関係、処断罪名と異なる主要な罪なし、示談等なし、減軽事由等なし、量刑上考慮すべき前科なし)の中でやや重い部類に位置付けられる。 そこで、被告人が事件当時20歳であったこと、一度は事実を ・勤務先関係、処断罪名と異なる主要な罪なし、示談等なし、減軽事由等なし、量刑上考慮すべき前科なし)の中でやや重い部類に位置付けられる。 そこで、被告人が事件当時20歳であったこと、一度は事実を認め、被害者の遺体遺棄現場まで案内して本件犯行が発覚したものの、その後不合理な弁解に終始しており、自らの罪と真摯に向き合って反省する様子が見られないこと、遺族らに対する明確な謝罪等はないこと等の諸事情も併せて考慮して、被告人を主文の刑に処することとした。 (求刑・懲役18年)令和5年7月10日京都地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官増田啓祐裁判官國分進裁判官尾 﨑 晴菜

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る