- 1 -主文 原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。 差戻しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 差戻しに係る部分の訴訟の総費用は,被控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 控訴人主文第1項及び第2項と同旨 被控訴人ら本件控訴を棄却する。 第2事案の概要 本件は,福井県(以下「県」という。)の住民である被控訴人らが,県の平成6年4月から平成9年12月までの旅費の支出について,公務出張の事実がないのにされた違法なものがあり,これにより県が損害を被っているとして,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの,以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,当時,上記旅費の支出に係る支出負担行為及び支出命令につき法令上本来的な権限を有する県知事の職にあった控訴人に対し,16億9806万7220円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日の平成10年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 差戻し前の第1審は,本件訴えの前提となる住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)がその対象とする支出負担行為及び支出命令の特定を欠くこと並びに監査請求期間を徒過していることを理由に,訴えを却下し,差戻し前の控訴審も同様の理由により控訴を棄却したが,上告審は,本件監査請求は請求の対象の特定に欠けるところはないとして,監査請求期間経過前の支出負担- 2 -行為及び支出命令に関する部分,すなわち平成9年8月17日以降にされた旅費の支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する部分を原審に差し戻した。 差戻し後の第1審である原審が,控訴人は,受任者又は専決者が公務出張の事実がないのに上記旅費の支出に係る支出負担行為及 支出負担行為及び支出命令についての損害賠償請求に関する部分を原審に差し戻した。 差戻し後の第1審である原審が,控訴人は,受任者又は専決者が公務出張の事実がないのに上記旅費の支出に係る支出負担行為及び支出命令を行うことを阻止すべき指揮監督上の義務に違反したとして,控訴人に対して,被控訴人らが監査請求期間経過前の支出負担行為又は支出命令に係る旅費の支出部分であるとして賠償を請求する2億2046万4000円のうち,1億0983万0907円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日の平成10年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じ,その余の請求を棄却した。これに対し,控訴人が,上記認容部分を不服として,本件控訴を提起した。 なお,被控訴人らは,当審において,原審において認容された損害賠償請求中,企業庁を含むその他の委員会等の旅費支出分689万8100円に関する部分について訴えを取り下げ,請求金額を2億1356万5900円に減縮した。 略語は,特に断らない限り,原判決に準ずるものとする。 前提事実次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正)(1)原判決4頁4行目「総務部長及び」を「,総務部長A(以下「A」という。)を責任者とし,」と改める。 (2)原判決4頁9行目「甲3の1,4」の次に「乙18,28,証人A」を加える。 (3)原判決4頁14行目「(以下「旅費報告書」という。」の次に「甲3の- 3 -1」を加える。 (4)原判決4頁23行目「2億2046万4000円」の次に「(うち企業庁を含むその他の委員会等の支出689万8100円)」を加える。 (5)原判決5頁5行目「とされ」の次に「,そのうち公務遂行上の経費に充 決4頁23行目「2億2046万4000円」の次に「(うち企業庁を含むその他の委員会等の支出689万8100円)」を加える。 (5)原判決5頁5行目「とされ」の次に「,そのうち公務遂行上の経費に充てられたものは614万1000円とされ」を加える。 (6)原判決5頁11行目「・2,4」の次に「,乙28,証人A」を加える。 (7)原判決5頁25行目「福井県一般職の職員等の旅費に関する条例には,」を「福井県一般職の職員等の旅費に関する条例4条1項は,」と改める。 争点及び当事者の主張次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正)(1)原判決6頁26行目「知事部局等」の次に「(ただし,企業庁を含むその他の委員会を除く。)」を加える。 (2)原判決9頁16行目末尾に以下のとおり加える。 「さらに,個々の支出は,内容,金額はもとより,部局も,専決者又は受任者もそれぞれ異なっているのであるから,被控訴人らにおいて,個々の請求を特定しなければならない。」(3)原判決12頁9行目末尾に以下のとおり加える。 「なお,控訴人が,補助職員は,上記のような報道に接すれば,自分が具体的な指導監督をしなくても,自ら架空の旅費支出の取扱いを改善するはずであると考えていたとすれば,重大な義務違反である。」(4)原判決13頁10行目ないし13行目を以下のとおり改める。 「(オ)以上によれば,控訴人としては,前記の新聞報道や自治事務次官通- 4 -知に接し,遅くとも平成8年度中には,補助職員が違法なことをするはずがないという信頼に根拠がなく,他の自治体でのカラ出張報道が県においても起こり得るものであり,県において,専決者又は受任者の判断に任せておけない長期かつ大規模,組織的なカラ出 が違法なことをするはずがないという信頼に根拠がなく,他の自治体でのカラ出張報道が県においても起こり得るものであり,県において,専決者又は受任者の判断に任せておけない長期かつ大規模,組織的なカラ出張が蔓延していたことを予見していたか又は具体的に予見することが可能であったというべきである。」(5)原判決15頁15行目末尾に以下のとおり加える。 「したがって,長の帰責事由が認められるためには,補助職員が違法な財務会計上の行為を行うことにつき,長に具体的な予見ないし予見可能性がなければならない。そして,この具体的な予見ないし予見可能性は,当該違法な財務会計上の行為の時点において存在しなければならない。 地方公共団体の長は,当該地方公共団体の多種,大量の事務を補助職員に分掌させ,これら補助職員を指揮,監督してその事務を管理,執行すべきものとされており(法148条,154条,161条ないし163条),補助職員を信頼して事務の効率的,円滑な処理を図るものとされている。したがって,長に上記具体的な予見ないし予見可能性が認められるのは,専決者又は受任者の判断がもはや明らかに信頼できないと考えるだけの状況が当該地方公共団体において存在し,この状況を長において具体的に認識し又は認識し得る場合に限られる。」(6)原判決16頁9行目末尾に以下のとおり加える。 「カラ出張は本来的にあり得ないものであり,実態に即した予算執行を困難にする構造的組織的問題があったとしても,そのことが直ちにカラ出張に結びつくものではなく,本件訴訟で問題となっている架空の旅費支出(カラ出張)がなされていることの具体的な予見可能性があったとは到底いえない。」(7)原判決16頁19行目末尾に以下のとおり加える。 - 5 -「被控訴人らは,平成6年度から平成8年度までの旅費の総支出 張)がなされていることの具体的な予見可能性があったとは到底いえない。」(7)原判決16頁19行目末尾に以下のとおり加える。 - 5 -「被控訴人らは,平成6年度から平成8年度までの旅費の総支出額の約24%に相当する18億9341万7000円が架空支出であったことを問題とするが,架空支出とはいえ,正規の旅費予算の中から支出がなされていて,旅費としての支出見込額の範囲内に止まっていたのであるから,控訴人が疑念を抱かなければならない事情など全くなかった。」(8)原判決16頁23行目「すぎないし,」を以下のとおり改める。 「すぎず,県については,補助職員から控訴人に対し,他の地方公共団体と同様の問題の可能性がある旨の報告がされたことはなかった。さらに,」(9)原判決17頁4行目末尾に以下のとおり加える。 「地方自治法は,違法な財務会計行為が行われる事態を想定し,財務会計職員が財務会計法規に従って適正に財務会計行為を行ったかどうかにつき,普通地方公共団体内部において,監査委員が監査する仕組みを整備し,もって違法な財務会計行為が行われた場合には,長がこれに対して必要な措置を執ることを可能とする仕組みを整備しているのであって,知事たる控訴人がかかる仕組みを信頼することは当然である。」(10)原判決17頁11行目と12行目の間に以下のとおり加える。 「そして,その後も,補助職員から控訴人に対して,県において旅費の架空支出の可能性がある旨の報告がされたことはなく,県の監査委員や県議会からもその旨の指摘はなかった。」(11)原判決17頁13行目と14行目の間に以下のとおり加える。 「また,架空の旅費支出が許されないことは,法令上明らかであり,従前,専決者又は受任者が架空の旅費支出を行っていたとしても,各地方公共団体におけるカラ出張に関する 4行目の間に以下のとおり加える。 「また,架空の旅費支出が許されないことは,法令上明らかであり,従前,専決者又は受任者が架空の旅費支出を行っていたとしても,各地方公共団体におけるカラ出張に関する新聞報道に接すれば,従前の取扱いを改めるのが通常であるから,このような報道が平成5年から平成8年12月中旬に掛けて行われたことは,本件訴訟で問題となっている平成9年8月17日ないし同年12月当時,架空の旅費支出がなされていることの予見- 6 -ないし予見可能性を否定する事情である。」(12)原判決17頁18行目末尾に以下のとおり加える。 「当時,その旨報道されていたし,控訴人は,総務部長Aからその旨報告を受けていた。控訴人は,市民オンブズマン全国連絡会議の上記報道がされたころ,庁議において,県では旅費の架空支出の心配はないか質問したが,出席部長からは,県では他の地方公共団体のようなことはなく,心配はない旨の回答がされた。そもそも市民オンブズマン全国連絡会議が県に対して行ったのは,質問書の送付であって調査の申入れでないし,同連絡会議は,その後,県の監査委員の出張13件がカラ出張の疑いが強い旨の申入れを県にしたり,住民監査請求を提起したこともなかった。また,平成7年ないし平成8年当時,県の知事部局の食料費支出について,県民からカラ飲食であるなどとして住民監査請求がなされたが,県監査委員の監査の結果,カラ飲食であることが否定されていた。」(13)原判決18頁2行目「勧告であるから,」を以下のとおり改める。 「勧告であり,しかも,人事課長までの供覧によって処理されており,知事たる控訴人に報告されていないから,」(14)原判決19頁23行目「存在しなかった。」の次に以下のとおり加える。 「また,控訴人が昭和62年に知事に就任して以来,県では, って処理されており,知事たる控訴人に報告されていないから,」(14)原判決19頁23行目「存在しなかった。」の次に以下のとおり加える。 「また,控訴人が昭和62年に知事に就任して以来,県では,多数の所属にまたがる予算の不適正な執行は全くなく,補助職員たる専決者又は受任者の判断が明らかに信頼できないと考えるだけの状況は存在しなかった。」(15)原判決20頁3行目と4行目の間に以下のとおり加える。 「監査委員事務局は,中日新聞からの取材を契機に,秋田県出張旅費について対象職員を調査し,平成9年12月3日,秋田県には出張していない旨記者発表をした。控訴人は,これを受けて,直ちに部局長会議を開催して対応を協議し,約半数の部長が全庁調査の必要はないとの意見であった- 7 -にもかかわらず,一件とはいえ県の機関で旅費の架空支出が明らかになった以上,県のすべての部局において旅費の執行について調査し,その状況を県民に説明する義務があるとの判断から,同月4日,カラ出張の有無について,直ちに全庁調査を行うことを決定した。」(16)原判決20頁5行目と6行目の間に以下のとおり加える。 「ウ仮に各地方公共団体におけるカラ出張に関する新聞報道により,控訴人が県においても同様の架空支出がなされている可能性を認識できたとしても,その認識は,せいぜい県においても同様の架空支出がなされていることは否定できないとの一般的・抽象的な認識ないしその可能性にとどまるものである。長の帰責事由が認められるためには,前記のとおり,具体的な予見ないし予見可能性がなければならないから,一般的・抽象的な認識ないしその可能性のみでは,控訴人に帰責事由があるとはいえない。 そもそも県の旅費支出の専決権者は各課の総括課長補佐であるところ,旅費調査委員会の調査結果によれば,旅費の から,一般的・抽象的な認識ないしその可能性のみでは,控訴人に帰責事由があるとはいえない。 そもそも県の旅費支出の専決権者は各課の総括課長補佐であるところ,旅費調査委員会の調査結果によれば,旅費の架空支出により捻出した裏金を管理していたのは,主として総務係長であり,専決権者たる総括課長補佐でも,旅費の架空支出を知らなかった者もいたのであるから,知事たる控訴人が旅費の架空支出がなされたことについて知りようがなかった。」(17)原判決20頁11行目「2億2046万4000円とされたが,」の次に「企業庁を含むその他の委員会等の支出分を除くと2億1356万5900円となり,」を加える。 (18)原判決20頁12行目「2億2046万4000円」を「2億1356万5900円」と改める。 (19)原判決21頁8行目「主張するが,」の次に以下のとおり加える。 「そもそも本件は,カラ出張により支出された旅費がいったん裏金としてプ- 8 -ールされ,その後,何らかの費用に充てられた事案であり,仮に裏金が公務遂行上の経費に充てられたとしても,損害と利益の間に相当因果関係が存在しない。 また,」(20)原判決22頁13行目と14行目の間に以下のとおり加える。 「(ウ)損害賠償を請求する者が損害について立証責任を負うことはあっても,損害の減額事由や損益相殺の対象となる利益についてまで立証責任を負うことはない。」(21)原判決22頁17行目「2億2046万4000円」を「2億1356万5900円」と改める。 (22)原判決24頁18行目と19行目の間に以下のとおり加える。 「そして,損害は,加害原因事実がなかった場合に想定される仮定的利益状態と加害原因によって現実的に発生した利益状態との差であるから,損害賠償を請求する者は,損害の発生及び数額の 下のとおり加える。 「そして,損害は,加害原因事実がなかった場合に想定される仮定的利益状態と加害原因によって現実的に発生した利益状態との差であるから,損害賠償を請求する者は,損害の発生及び数額の立証として,見掛けの損害の発生及び数額のみならず,これから控除すべき利益の発生及び損害,すなわち,損益相殺の立証も要するのであり,被控訴人らは,損益相殺について立証責任を負う。 エ仮に本件旅費が公務遂行上の経費に充てられたことが損益相殺の対象とならなかったとしても,これらの経費は,いずれも地方公共団体が行政裁量により特別の支出措置を講じることが許される費用であるから,これらの経費に充てられた架空支出に係る旅費相当額は,損害を構成しない。」第3当裁判所の判断 争点(1)(請求の特定の有無)について次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 - 9 -(原判決の補正)(1)原判決25頁11行目「知事部局等」の次に「(ただし,企業庁を含むその他の委員会等を除く。)」を加える。 (2)原判決26頁9行目「部署」を「部局」に改める。 (3)原判決26頁11行目から12行目に掛けての「個々の支出負担行為及び支出命令ごとに」の次に「その内容,金額,部局及び受任者又は専決者を異にしても」を加える。 (4)原判決26頁19行目「2億2046万4000円」の次に以下のとおり加える。 「中企業庁を含むその他の委員会等分689万8100円を除く2億1356万5900円」 争点(2)(控訴人の指揮監督義務違反の成否)について(1)前提事実によれば,県においては,福井県事務決裁規程,福井県財務規則及び福井県出先機関事務決裁規程により,本庁における旅費に係る支出負担行為及び支出命令に関す 揮監督義務違反の成否)について(1)前提事実によれば,県においては,福井県事務決裁規程,福井県財務規則及び福井県出先機関事務決裁規程により,本庁における旅費に係る支出負担行為及び支出命令に関する事務は課(室)長補佐が専決により,出先機関における旅費に係る支出負担行為及び支出命令に関する事務は,出先機関の長に委任された上で出先機関の庶務担当課長等が専決により行うものとされているところ,本件旅費に係る支出負担行為及び支出命令は,いずれも公務出張の事実がないのにされたものであるから,違法である。 財務会計上の行為を行う権限を委任又は専決させた場合において,受任者又は専決者が財務会計上の違法行為を行ったときは,長は,受任者又は専決者が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により受任者又は専決者が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして,普通地方公共団体に対し,上記違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である。そし- 10 -て,この長の賠償責任は,長が自ら当該財務会計上の非違行為を行ったのと同視し得る程度の指揮監督の懈怠がある場合に限り,認められるものと解するのが相当である(最高裁平成2年(行ツ)第137号同3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1455頁参照,最高裁昭和62年(行ツ)第148号平成5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻3号1687頁参照)。 (2)そこで,当時の県知事であった控訴人が,故意又は過失により,上記(1)の受任者又は専決権者の違法な支出負担行為及び支出命令を阻止すべき指揮監督上の義務に違反していたといえるか否かについて検討する。 ア前提事実,以下 事であった控訴人が,故意又は過失により,上記(1)の受任者又は専決権者の違法な支出負担行為及び支出命令を阻止すべき指揮監督上の義務に違反していたといえるか否かについて検討する。 ア前提事実,以下の各項に括弧書きした各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア)各新聞は,平成5年ころから,多くの普通地方公共団体において,架空の出張旅費の支出等不適正な公金の支出があるという記事を掲載し,それは平成9年11月末ころまでには,宮城県,北海道,秋田県,徳島県,鹿児島県,愛知県,三重県,福岡県,群馬県,東京都,新潟県,福岡県,岡山県,高知県,福島県,青森県,山形県,埼玉県,長野県,石川県,大阪府,和歌山県,佐賀県,富山県,福岡市,大分県,山梨県などに及んでおり,部局ぐるみで旅費の不正支出が常態化していたという記事や不正をチェックすべき監査委員が架空の旅費支出等の不正な公金の支出をしていたという記事も相当数あった(甲11の1ないし49,甲12の1ないし100)。 北海道については,平成7年12月28日には不正をチェックすべき監査委員事務局においてもカラ出張が行われていたことが(甲12の12),平成8年2月7日には内部調査の結果,不正な公金の支出が総額約19億0800万円に上ることが判明したことが(甲11の14),同月24日には北海道監査委員が「不正が常態化していた状況に照らせ- 11 -ば,知事と出納長には指揮監督上の過失責任があると考えることができる」と指摘したことが(甲11の15),それぞれ報道された。 三重県については,平成8年5月19日には阪神淡路大震災のあった平成7年1月17日に監査委員が神戸を経由して新幹線で佐賀に出張したことなどについて架空の旅費支出の疑いがあるとして三重市民オンブズマンが知事と監査委員に公開質 5月19日には阪神淡路大震災のあった平成7年1月17日に監査委員が神戸を経由して新幹線で佐賀に出張したことなどについて架空の旅費支出の疑いがあるとして三重市民オンブズマンが知事と監査委員に公開質問状を提出することに対して,監査委員事務局長が「単なる記載ミス」にすぎないと発言したことが(甲12の27),平成8年5月30日には出張先の佐賀県に対する調査で架空の旅費支出であることが濃厚になったとの指摘に対し,監査委員事務局長が不正がないものと信じている旨発言したことが(甲12の29),同年9月には三重県知事が命じた全庁的な調査の結果,三重県職員の旅費の不正支出等により捻出された裏金の総額が約11億6600万円に上り,裏金作りが全庁的に組織ぐるみで行われていた事実を三重県知事が認めたことが(甲11の33,34),それぞれ報道された。 群馬県については,平成8年11月12日,同年7月に市民オンブズマン全国連絡会議から全庁的な調査を行うよう申入れがあったのを機に,関係課長らで構成する専門の検討委員会を設置し,平成6年度に執行された約60万件,総額約32億円の旅費について旅行命令と復命書,会議資料等を照合して調査したところ,3億6700万円の旅費の不正支出が判明した旨報道された(甲11の37)。 また,平成8年4月17日には,内閣総理大臣の諮問機関である地方制度調査会の専門小委員会が,同月16日,地方自治体への「外部監査制度」の導入などの提言を盛り込んだ報告書を同調査会総会に提出したこと,その報告書は,架空の出張旅費の支出等自治体の公費の不正支出への批判を背景に,「身内に甘い」と指摘される現行監査制度の改善と外部監査の導入で行政チェック機能の強化を求めていることが,新聞で- 12 -報道された(甲11の20)。 (イ)県監査委員は,平成7年 判を背景に,「身内に甘い」と指摘される現行監査制度の改善と外部監査の導入で行政チェック機能の強化を求めていることが,新聞で- 12 -報道された(甲11の20)。 (イ)県監査委員は,平成7年3月23日,「空港対策費食料費の支出は,真実の支払先と異なる支払がされている疑いが強いなど違法である」とする住民監査請求に対して,調査の結果,いずれも正当な債権者に支払われたものであり違法とは認められず,理由がないとし,平成8年3月29日,同年6月21日,同年8月16日及び平成9年1月7日にも,同様に,空港対策費食料費等の支出を違法とする住民監査請求に対して,調査の結果,いずれも理由がないとした(乙21の1ないし5)。 (ウ)市民オンブズマン全国連絡会議は,平成8年7月18日付けで,県監査委員に対して,県監査委員の出張13件について,出張の形跡を明確に確認できないとして,用務先,日程,用件,用務先で会った人の氏名,宿泊先を尋ねる質問書を送付し(乙20),同月27日には,全国37都道府県の監査委員や監査委員事務局職員らによる平成6年の管外出張を総点検したところ,27都道府県において,カラ出張や旅費の水増請求が318件あり,県についても,カラ出張の疑いが極めて強いケースが13件,合計120万円に上った旨発表し,同月28日付け福井新聞にその旨掲載された(甲11の28)。 これに対して,監査委員事務局長は,市民オンブズマン全国連絡会議が一方的に決めたことであり,どのケースの何が疑わしいのか一切説明もない,監査委員事務局としては,出張用件を記載した復命書など正式な書類も公表しており,問題はないと考えていると述べ,平成8年7月28日付け福井新聞にその旨掲載された(甲11の28)。 控訴人は,上記報道の後,各部の部長が集まった会議で,出席した部長から ど正式な書類も公表しており,問題はないと考えていると述べ,平成8年7月28日付け福井新聞にその旨掲載された(甲11の28)。 控訴人は,上記報道の後,各部の部長が集まった会議で,出席した部長から,県においては,旅費の架空支出の心配はなく,予算執行上の問題は特にない旨の報告を受けた(証人A(同人の陳述書(乙28)を含- 13 -む。以下同じ。))。また,市民オンブズマン全国連絡会議は,結局,上記出張につき,住民監査請求を提起をしなかった(弁論の全趣旨)。 (エ)自治事務次官は,各都道府県知事及び各政令指定都市市長に対し,平成8年12月19日付けで,「最近,地方公共団体の一部において,旅費,食糧費等の不適正な執行が問題となっていることについては,国民の間に地方公務員への不信感を惹起させ,ひいては行政に対する信頼を損ないかねないものであるので,各地方公共団体においては,公務員倫理の確立と厳正なる予算の執行を図られるよう特に留意されたい」旨通知を行った(甲13)。 (オ)県の総務部長は,福井県財務規則16条に基づく控訴人からの命を受け,各職員に対して,次のとおり,定期的に予算の適正な執行を図るよう通知していた。 すなわち,平成6年度から平成9年度まで毎年4月1日付けで,各部(局)長に対し,各年度の予算の執行方針として,歳出予算の執行に当たっては,年度間の事業計画を立て,当該計画に従い事業を推進するとともに,厳正かつ的確で効率的な執行に努め,旅費,需用費等一般事務費については,年度間計画を立て,極力節減に努めるよう留意を促していた(乙8の1ないし4)。 また,各部局長に対し,平成7年8月22日付けの「行政運営および予算執行の適正化について」と題する通知により,食糧費等の支出について,公文書公開条例による公開請求が行われるなど行政運営及び し4)。 また,各部局長に対し,平成7年8月22日付けの「行政運営および予算執行の適正化について」と題する通知により,食糧費等の支出について,公文書公開条例による公開請求が行われるなど行政運営及び予算執行の適正化について,県民の意識,関心が高まってきている現状にかんがみて,同年度予算執行方針に加えてより一層に,適正かつ効率的な行政運営及び予算執行に努めるように,職員への周知徹底を図るよう求め(乙9),各所属長に対し,平成8年11月27日付けの「職員の服務規律の確保等について」と題する通知により,全国における一部の自- 14 -治体等において,綱紀の保持を疑わしめる不祥事が相次ぎ,住民の厳しい批判を受け,行政に対する信頼を著しく損なっている状況を踏まえて,県政運営が県民の負担に基づいていることを十分に認識し,公私を厳しく峻別し,社会的批判を招くことのないよう法規に則った適正な予算執行に努めるように,所属職員への周知徹底を図るよう求めた(乙10の1)。 さらに,各所属長に対し,平成9年11月13日付けの「職員の服務規律の確保について」と題する通知により,全国的に綱紀の保持を疑わしめる事態が相次ぎ,公務員全体に対する住民からの厳しい批判がある中,一部の職員の不祥事により,県民の県政への信頼を著しく損なうこととなった状況を踏まえて,これまでも公正かつ適正な予算執行の徹底を指示してきたところであるが,いま一度,チェック体制の強化,執行手続等の点検を行い,より適正な運営に努めるように,所属職員への周知徹底を図るよう求めた(乙11)。 (カ)控訴人は,平成9年12月3日,平成7年2月の監査委員事務局職員の秋田県への出張に係る旅費(秋田県出張旅費)の支出が公務出張の事実がないのにされたカラ出張の疑いが濃い旨の報道がされたことを受けて,副知事 は,平成9年12月3日,平成7年2月の監査委員事務局職員の秋田県への出張に係る旅費(秋田県出張旅費)の支出が公務出張の事実がないのにされたカラ出張の疑いが濃い旨の報道がされたことを受けて,副知事,各部の部長,委員会の局長らを招集し,今後の対応を協議した。各部の部長ら出席者の約半数は,協議の際,本件は監査委員会事務局の問題であり,監査委員事務局の調査結果を踏まえた上で,各部の対応を検討するという案を提案したが,控訴人は,直ちに県のすべての部局における旅費の調査を実施するよう指示し,この指示を受けて,すべての県職員の旅費の支出について調査が実施されることになり,旅費調査委員会等が設置された。(前提事実,乙18,証人A)なお,それ以前に,県の監査委員の定例監査や県議会において,旅費の支出について違法又は不適正であるという指摘はなく,控訴人は,上- 15 -記調査を命じるまで,架空の旅費支出がなされているかについて調査を命じたことはなかった(弁論の全趣旨)。 (キ)旅費調査委員会等の調査の結果,対象とされたすべての部局において事務処理上不適切な支出が行われていたこと,平成6年度から平成8年度までの間の旅費の調査結果では,総支出額78億0835万5000円の約24%に相当する18億9341万7062円が事務処理上不適切な支出であったこと,平成9年4月から同年12月までの間の旅費の調査結果では,総支出額15億2603万円の約17%に相当する2億5836万5093円が事務処理上不適切な支出であったことが判明した(前提事実)。 旅費調査委員会は,旅費報告書の「原因と改善方策」において,旅費の不適切な事務処理の原因や背景として,予算は公金であり,その取扱いは厳正でなければならないという,公務員として最も必要な基本的な認識が欠如していた点を指摘 報告書の「原因と改善方策」において,旅費の不適切な事務処理の原因や背景として,予算は公金であり,その取扱いは厳正でなければならないという,公務員として最も必要な基本的な認識が欠如していた点を指摘し,予算の組立てやその運用及び旅費制度が長い間抜本的に見直しがされないまま硬直化し,その結果,社会経済情勢の変化に対応できず,実態に即した予算執行を困難にしていたことも大きな要因であり,そうした不合理な状況を打開するため,思い切った改革に向けての全庁的な取組に至らなかったことが今日の事態を招いたとし,会計事務のチェック機関である出納事務局の審査や監査委員による監査も,書類を基にした形式的な面が中心となっているため,チェック機能を十分発揮できなかったことも要因であったと指摘した(甲3の1)。 そして,今回の調査で明らかになったような事務処理が全庁的に長い間行われてきたことについて,管理監督者をはじめとする組織全体に公金に対する基本的な認識と責任感が欠けていたものであり,職員個々の意識の問題だけでなく,これを容認してきた組織全体の問題であると指- 16 -摘した(甲3の1)。 イ上記アの認定事実によれば,①平成5年ころから,多くの普通地方公共団体において,架空の旅費支出等不正な公金の支出があるとの新聞報道がなされ,平成8年2月には,北海道において,内部調査の結果,不正な公金の支出が約19億円余りに上り,北海道監査委員が「不正が常態化していた」旨指摘したこと,同年9月には,三重県において,監査委員事務局長が架空の旅費支出の事実を否定していたにもかかわらず,全庁調査の結果,旅費の不正支出等により捻出された総額が約11億6600万円に上ったことが判明し,同県知事が裏金作りが全庁的に組織ぐるみで行われたことを認めたこと,同年11月には,群馬県に わらず,全庁調査の結果,旅費の不正支出等により捻出された総額が約11億6600万円に上ったことが判明し,同県知事が裏金作りが全庁的に組織ぐるみで行われたことを認めたこと,同年11月には,群馬県において,調査の結果,3億6700万円の旅費の不正支出が判明したことがそれぞれ新聞報道されたこと,②県においても,市民オンブズマン全国連絡会議が,平成8年7月に,県につき,カラ出張の疑いが極めて強いケースが13件,合計120万円に上ったと発表した旨新聞報道されたこと,③自治事務次官は,このような状況の下,各都道府県知事等に対して,平成8年12月19日付けで,「最近,地方公共団体の一部において,旅費,食料費等の不適正な執行が問題となっている」ので,「公務員倫理の確立と厳正なる予算の執行を図る」よう通知していたこと,以上の事実が認められるのであり,これら①ないし③の事実関係からすれば,控訴人には,平成9年12月3日の県監査委員事務局職員のカラ出張報道以前においても,少なくとも,県においても架空の旅費支出がなされているかも知れないとの疑いを抱く一般的・抽象的な予見可能性はあったものと認めるのが相当である。 しかしながら,他方,前記アの事実関係によれば,④市民オンブズマン全国連絡会議が県の監査委員に対して行ったのは,県監査委員の出張13件につき,出張の形跡を明確に確認できないとして,用務先,日程,用件等を尋ねる質問書の送付にすぎないし,これに対して,県監査委員事務- 17 -局長は,出張用件を記載した復命書など正式な書類も公表しており問題はないと考えている旨述べており,控訴人も,各部の部長が集まった会議において,県では旅費の架空支出の心配はない旨報告を受け,その後,結局,市民オンブズマン全国連絡会議から上記出張について住民監査請求の提起もさ ている旨述べており,控訴人も,各部の部長が集まった会議において,県では旅費の架空支出の心配はない旨報告を受け,その後,結局,市民オンブズマン全国連絡会議から上記出張について住民監査請求の提起もされなかったこと,⑤県においては,平成7年3月から平成9年1月の間に,合計5回にわたり,空港対策費食料費等の支出が違法であるとの監査請求につき,いずれも理由がないとの結論が出されており,また,県の監査委員の定例監査や県議会において,旅費の支出について違法又は不適正である旨の指摘がされたことはなかったこと,⑥前記自治事務次官通知は,各都道府県知事及び各政令指定都市市長に対してなされた一般的な助言,勧告の性質を持つにすぎないものであり(法245条1項参照),特に県において,架空の旅費支出の疑いがある旨指摘するものではなかったこと,⑦県においても,総務部長が,控訴人からの命を受けて,各部(局)長に対して,各年度の4月に発していた通知において,旅費等を極力節減するよう留意を促したり,平成8年11月27日及び平成9年11月13日には,全国の自治体で不祥事が相次いでいることを受け,適正な予算の執行に務めるよう通知していること,以上の事実が認められるのであり,これら④ないし⑦の事実関係に照らすと,地方公共団体の長である控訴人には,平成9年12月3日に県監査委員事務局職員のカラ出張の報道がされるまでは,県において架空の旅費支出がなされていることにつき,前記の一般的・抽象的な予見可能性は認められるものの,これを超えて,上記⑦の旅費節減や予算の適正執行の指示通知にとどまらず,架空の旅費支出の有無・状況についての調査やこれを予防・阻止するための具体的な指揮監督上の措置を必要とするような具体的な予見可能性があったものとは認められないというべきである。そして, とどまらず,架空の旅費支出の有無・状況についての調査やこれを予防・阻止するための具体的な指揮監督上の措置を必要とするような具体的な予見可能性があったものとは認められないというべきである。そして,長が,財務会計上の行為を行う権限を委任又は専決させた場合において賠償責任を負う- 18 -のは,前記判示のとおり,自ら当該財務会計上の非違行為を行ったのと同視し得る程度の指揮監督の懈怠が認められる場合に限られるのであるから,本件事案においては,県における架空の旅費支出の有無・状況の調査やこれを予防・阻止するための具体的指揮監督措置を必要とするような具体的な予見可能性があった場合にはじめて,控訴人に上記指揮監督の懈怠が認められるというべきであり,したがって,前記カラ出張の報道がなされるまでの間は,控訴人には,上記指揮監督の懈怠は認められないといわなければならない。また,控訴人は,上記報道後には,県のすべての部局における旅費の調査を実施するよう直ちに指示しているから,やはり上記指揮監督の懈怠は認められないというべきである。 ウこれに対して,被控訴人らは,県には,長期間にわたって,全庁的,組織的にカラ出張が行われてきた実態が存在する旨主張し,前記認定のとおり,旅費調査委員会もその旨指摘している。しかしながら,前記認定のとおり,このような実態は,旅費調査委員会による全庁調査の結果判明したものであり,平成9年12月3日に県監査委員事務局職員のカラ出張の報道がなされるまでの間にそのような実態をうかがわせる徴表的事実が存在したものと認めるに足りる証拠はなく,控訴人がそのような実態を認識し得たことを認めるに足りる証拠も存在しない。また,本件カラ出張の背景として,旅費調査委員会が指摘しているような,予算の組立てや運用及び旅費制度が硬直化し,実態に即した 控訴人がそのような実態を認識し得たことを認めるに足りる証拠も存在しない。また,本件カラ出張の背景として,旅費調査委員会が指摘しているような,予算の組立てや運用及び旅費制度が硬直化し,実態に即した予算執行が困難になっていたという状況があったとしても,そのような状況が直ちにカラ出張等の違法な公金支出を誘発するものではないというべきである。 したがって,旅費調査委員会の上記各指摘は,なんら前記イの認定判断を左右するものではない。 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,差戻しに係る被控訴人らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却すべきである。 - 19 -よって,これと結論を異にする原判決を取り消して,被控訴人らの上記請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所金沢支部第1部裁判長裁判官渡辺修明裁判官沖中康人裁判官桃崎剛
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