平成29(ワ)38149 損害賠償請求反訴事件

裁判年月日・裁判所
令和元年10月4日 東京地方裁判所
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判決文本文22,027 文字)

令和元年10月4日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成29年第38149号損害賠償請求反訴事件口頭弁論終結日令和元年7月4日判決 主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して110万円及びこれに対する平成26年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを6分し,その1を原告の負担とし,その余は被告らの連帯負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して660万円及びこれに対する平成26年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 被告らは,原告がブログに掲載した記事につき,原告に対し,不法行為(名誉毀損)に基づく損害賠償等損害賠償等請求事件。以下「前件訴訟」という。)を提起したが,請求棄却の判決がされ,控訴及び上告受理申立てを経て確定した。被告らは,その後,原告に対 し,前件訴訟に係る訴え及び上訴の提起による損害賠償債務が存在しないことの確認を求める訴え(同庁平成29年第30018号債務不存在確認請求事件,以下「本件本訴事件」という。)を提起した。 本件は,本件本訴事件に対する反訴事件であり,原告が,被告らによる前件訴訟の提起及びその訴えの変更申立てが,不当訴訟ないしスラップ訴訟として,原 告に対する不法行為を構成する旨主張して,被告らに対し,前件訴訟に応訴する ための弁護士費用500万円,慰謝料500万円及び本件提訴のための弁護士費用100万円からなる損害賠償金1100万円のうち660万円(一部請求)並びにこれに対する前件 ,前件訴訟に応訴する ための弁護士費用500万円,慰謝料500万円及び本件提訴のための弁護士費用100万円からなる損害賠償金1100万円のうち660万円(一部請求)並びにこれに対する前件訴訟における訴えの変更の日(不法行為日)である平成26年8月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 なお,本件本訴事件は,後記のとおり訴えの取下げにより終了した。 2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,特に証拠を引用した事実以外は,全て争いのない事実である。)原告は,東京弁護士会に所属する弁護士であり,「Aの憲法日記」と題するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)を運営している。 被告会社は,化粧品及び健康食品の製造販売等を目的とする資本金33億7729万円の会社である。 被告Bは,被告会社の代表取締役会長である。 平成26年3月27日発売の雑誌「週刊新潮」に,被告Bの独占手記の掲載を主な内容とする記事(乙1。以下「本件記事」という。)が掲載された。本件 記事は,被告Bによる手記(以下「本件手記」という。)に,編集部等による解説ないしコメントを付記する形式で記載されている。 原告は,平成26年3月31日,同年4月2日及び同月8日,本件サイトにブログ記事を掲載した(乙3の1ないし3。以下,日付順に「原告ブログ1」,「原告ブログ2」,「原告ブログ3」という。)。 被告らは,平成26年4月16日,原告ブログ1ないし3により被告らの名誉が毀損された旨等を主張して,原告に対し,被告ら各自に対する1000万円(合計2000万円)の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払に加え,記事の削除と謝罪広告の掲載 1ないし3により被告らの名誉が毀損された旨等を主張して,原告に対し,被告ら各自に対する1000万円(合計2000万円)の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払に加え,記事の削除と謝罪広告の掲載を請求する前件訴訟を提起した。(乙4)原告は,平成26年7月13日,同月14日,同月15日及び同年8月8日 に,それぞれ本件サイトにブログ記事を掲載した(以下,日付順に「原告ブロ グ4」,「原告ブログ5」,「原告ブログ6」,「原告ブログ7」という)。(乙5の1ないし3,乙7)被告らは,平成26年8月29日付け「訴えの追加的変更申立書」により,原告ブログ4及び7により被告らの名誉が毀損された旨等を主張して,これらの記事を削除及び謝罪広告の対象に加えるとともに,損害賠償に係る請求額を, 被告ら各自につき3000万円(合計6000万円)に拡張した。(乙8の1)被告らは,前件訴訟において,原告ブログ1ないし3,4及び7につき別紙2名誉毀損部分一覧表記載の各記述部分(以下「本件各記述」と総称し,個別に同表「番号」欄の番号を付して,「本件記述①」,「本件記述②」などという。)が,被告らの名誉及び被告Bの名誉感情を毀損したと主張した。 前件訴訟につき,平成27年9月2日,被告らの請求をいずれも棄却するとの判決が言い渡された。 これを不服とする被告らが控訴したが(東京高等裁判所平成27年第5147号損害賠償等請求控訴事件),平成28年1月28日,控訴をいずれも棄却するとの判決が言い渡された。 これを不服とする被告らが上告受理申立てをしたが(平成28年第834号),同年10月4日,上告不受理の決定がされた。 原告は,平成29年5月12日,被告らに対し,前件訴訟がいわゆるスラップ訴訟であり,被告 する被告らが上告受理申立てをしたが(平成28年第834号),同年10月4日,上告不受理の決定がされた。 原告は,平成29年5月12日,被告らに対し,前件訴訟がいわゆるスラップ訴訟であり,被告らによる不当提訴であると主張して,内容証明郵便をもって600万円の損害賠償を請求した。被告らは,原告に対して損害賠償債務を 負うものではない旨を回答した。(甲5,6の1・2)被告らは,平成29年9月4日,原告に対する前件訴訟の訴え提起,控訴及び上告受理申立てによる損害賠償債務が存在しないことの確認を求める本件本訴事件を提起した。 これに対し,原告は,同年11月10日,本件反訴事件を提起した。 本件本訴事件は,平成30年2月16日の本件口頭弁論期日において,取下 げにより終了した。(顕著な事実) 3 争点前件訴訟の提起及び訴えの変更申立ての違法性損害発生の有無及びその額 4 争点に関する当事者の主張 争点 (前件訴訟の提起及び訴えの変更申立ての違法性)について(原告の主張)ア原告ブログ1ないし3について被告らによる前件訴訟の訴訟提起及び訴えの変更(以下「前件訴訟提起等」という。)は,正当な論評の法理に照らして,事実的,法律的根拠を欠くも のである上,被告らはそのことを容易に知り得た。 原告ブログ1ないし3は,いずれも原告の意見を表明した論評であるが,意見表明による名誉毀損については,いわゆる公正な論評の法理により,違法性を欠くものとされることは我が国で確立した判例である。 原告が行った論評は,いずれも,規制の厳しい健康食品を製造・販売する 大企業の代表者が政治家に対して不明朗で多額な貸付をしたことについての違法性や,政治資金規正法の厳格化の必要性といった,いわゆる「 行った論評は,いずれも,規制の厳しい健康食品を製造・販売する 大企業の代表者が政治家に対して不明朗で多額な貸付をしたことについての違法性や,政治資金規正法の厳格化の必要性といった,いわゆる「政治とカネ」の問題に関係し,民主主義の根幹に関わる事項であり,公共性が高く,公益目的であることは明らかであった。 論評の前提となった事実は,被告Bが本件手記で告白した事実が主である ことは,一般の読者にとって容易に認識し得た。その余の事実も公刊された新聞紙に掲載された記事や,被告会社において過去にあった事実,又は公知の事実であったから,真実であることは検討するまでもないことであった。 以上のとおりであるから,原告ブログ1ないし3については公正な論評の法理により違法性を欠くことは明らかであった。 イ原告ブログ4及び7について 原告ブログ4は,被告らが前件訴訟を提起したことを前提とした論評であり,原告ブログ7は,上記訴訟提起の事実と,被告Bが本件手記で告白した事実を前提とした論評であることは,一般の読者にとって容易に認識し得た。 原告が行った論評は,「政治とカネ」の問題に加え,この問題に批判を加えることの重要性や,経済的弱者が批判を封じる目的でスラップ訴訟を提起 することは許されるべきではないといった,表現の自由と裁判制度のあり方の問題に関する事項であり,公共性が極めて高く,公益目的であることは明らかであった。論評の前提となった事実の真実性に疑いの余地はなかった。 原告ブログ4及び7についても公正な論評の法理により違法性を欠くことは明らかであった。 ウスラップ訴訟について前件訴訟提起等は,被告らが勝訴判決により権利を回復することを主たる目的とするものではなく,被告らに対して批判を加える者に訴訟 欠くことは明らかであった。 ウスラップ訴訟について前件訴訟提起等は,被告らが勝訴判決により権利を回復することを主たる目的とするものではなく,被告らに対して批判を加える者に訴訟係属を強いることにより言論を封殺することを意図して行ったものである。被告らは,原告が原告ブログ3を掲載してからわずか8日後に前件訴訟を提起しており, 原告が原告ブログ4及び7で前件訴訟の提起がスラップ訴訟であると批判すると,被告らは,原告ブログ7の掲載から21日後に,請求を拡張する訴えの変更を申し立てた。ブログの掲載から被告らが訴訟提起ないし請求の拡張の申立てをするまでに,極めて短い期間しか経過しておらず,その間に被告らが勝訴の見込みについて十分な検討をした形跡が見当たらない。しかも, 被告らが訴訟提起までに原告と事前交渉に及ぶことはなかった。加えて,被告らは,前件訴訟を提起した際に,これとほぼ同時期に,被告らに対する批判的言論をした者を被告とする9件にわたる名誉毀損訴訟を提起していた。 以上の事実は,被告らが前件訴訟を原告の言論封殺のために提起したことを示している。被告らによる前件訴訟の提起ないし請求の拡張の申立ては,裁 判制度の趣旨目的に反して著しく相当性を欠くものである。 エ以上のとおりであるから,被告らの前件訴訟の提起及び請求拡張の申立ては,前件訴訟において,提訴者である被告らの主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,被告らがそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴訟提起等をしたものであり,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法 なものというべきである。 オ仮に,言論封殺の目的が認められないとしても,高度に公共的な事項や いえるのにあえて訴訟提起等をしたものであり,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法 なものというべきである。 オ仮に,言論封殺の目的が認められないとしても,高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対しては,批判的な意見ないし論評が重要な対抗手段であるから,かかる意見ないし論評は,その対象となる者の裁判を受ける権利よりも優越的な位置付けとして保護されるべきである。高度に公共的な事項や 公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評は,前提事実に明らかな誤りがある場合でなければ,名誉毀損訴訟を提起することは条理に違反するものとして違法な行為というべきである。 カしたがって,被告らによる前件訴訟提起等は違法であり,原告に対する不法行為を構成するというべきである。 (被告らの主張)ア本件各記述は,断定的かつ強い表現で被告らを批判する部分を含んでおり,被告らの社会的評価を低下させる可能性があることを容易に否定することはできない。また,公正な論評の法理が確立した判例となっているとはいえ,本件各記述は,事実を摘示したものか,意見ないし論評を表明したものであ るか一義的に明らかではなく,仮に,意見ないし論評であるとしても,その前提となる事実が何であるかを確定し,その重要な部分が真実であるかといった違法性阻却事由の有無等を判断することは,必ずしも容易ではない。そうすると,前件訴訟提起等が事実的,法律的根拠を全く欠くにもかかわらず,不当な目的で提訴されたなど,裁判制度の趣旨目的に照らして許容すること ができないものであるとまでは断ずることができず,訴権を濫用した不適法 なものであるということはできない。その旨は,前件訴訟の第一審判決で認定判断されたところである。 イ本件各記述は,前件訴訟 ないものであるとまでは断ずることができず,訴権を濫用した不適法 なものであるということはできない。その旨は,前件訴訟の第一審判決で認定判断されたところである。 イ本件各記述は,前件訴訟において,違法性阻却事由がある旨認定判断されたが,他方で,記述の大半について,被告らの社会的評価を低下させるものであると認定判断されており,少なくとも被告らが主張した請求原因につい ては,そのほとんどが理由があるものと判断された。また,本件各記述については,被告らに対する攻撃的な表現,被告らを嘲笑して馬鹿にする記述,あるいは被告らに対する敵意や反感に満ちた表現と受け取られる部分が散見され,それらは公益目的を否定する方向に働くものであるが,前件訴訟でもその旨認定されていた。以上の点からしても,前件訴訟における被告らが主 張した権利等が事実的・法律的根拠を全く欠くなどといえないことは明らかである。 ウ原告は,被告らが事前交渉なく訴訟提起に及んだと指摘するが,事前交渉すべき法的義務を負うものではない。前件訴訟提起における請求額は,高額に過ぎるものではない。飽くまで,原告の表現が弁護士でありながら,品位 を欠き,被告らを罵倒するものであったからである。現在の裁判実務において,同等の額で請求する事案は少なくない。請求を拡張したのは,原告が前件訴訟の係属中に名誉毀損行為を更に行ったためである。被告らが原告以外の者にも訴訟提起したが,原告のようにあまりにひどい表現をした者に限定していた。 被告Bは,我が国をより良くしようとして,脱官僚を掲げる政治家を応援するために,大金を貸し付けたのであり,政治を金で買うなどという気持ちは微塵もなかった。そのことについて色々な意見が出るのはよいとしても,被告Bの純粋な思いを踏みにじるよう 官僚を掲げる政治家を応援するために,大金を貸し付けたのであり,政治を金で買うなどという気持ちは微塵もなかった。そのことについて色々な意見が出るのはよいとしても,被告Bの純粋な思いを踏みにじるような,事実無根の,かつ過激に罵倒する表現に対して,名誉毀損と主張して損害賠償請求訴訟を提起することは,違 法なはずがない。 原告は弁護士でありながら,被告らの名声や信用を一般読者に対して著しく低下させたことは事実である。このような事実無根の誹謗中傷をネットに書き散らす行為が許容されるとすれば,その事態は社会的に問題である。 争点 (損害発生の有無及びその額)について(原告の主張) ア被告らが前件訴訟を提起し,更に請求拡張の申立てをしたことにより,原告は,弁護士に訴訟追行を依頼せざるを得なくなり,計110名の弁護士が代理人に就任した。その費用として,被告らの請求額6000万円を基準とすると,(旧)日弁連報酬等基準規定によれば,標準的な弁護士費用は着手金249万円,被告らの請求を排斥したときには報酬金498万円(いずれ も消費税別)となるところであり,少なくとも500万円が被告らによる不法行為と相当因果関係のある損害である。 また,原告は,応訴による肉体的,時間的,精神的負担を余儀なくされた。 しかも,請求額が6000万円と高額であったから,原告の精神的負担は極めて重かった。原告の精神的苦痛を慰謝するには,500万円を下らない。 イさらに,原告は,被告らに対して不法行為による損害賠償請求をするために,本件反訴事件を提起せざるを得なかった。被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は100万円を下らない。 (被告らの主張)いずれも否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 本件反訴事件を提起せざるを得なかった。被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は100万円を下らない。 (被告らの主張)いずれも否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(前件訴訟の提起及び訴えの変更申立ての違法性)について訴えの提起は,提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,同人が,そのことを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したな ど,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り,相手方に 対する違法行為になるものというべきである(最高裁判第122号同63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁)。 検討する。 前記前提事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めら れ,同認定を覆すに足りる証拠はない。 ア被告会社は,化粧品及び健康食品の製造販売等を目的としており,その規模は国内有数であると知られている。(乙1)被告Bは,平成20年3月27日付け日本流通産業新聞への特別寄稿において,被告会社の創業以来成長の一途をたどってきた健康食品市場の停滞に つき指摘し,その主要な原因が厚労省による監視の強化にある旨を述べた上で,その解決のため,健康食品に関する議員立法を目指す国会議員の動きにつき「先生方には藁にもすがりたい思いである。」として,立法による解決に期待する旨の意見を表明していた。(甲A20)イ本件手記は,被告Bが,主に,当時C党の代表であり,国会議員であった D(以下「D議員」という。)に対し,合計8億円を貸し付けたことに関して,自らの認識を述べたものであり,その内容は,被告Bの認識に照らして真実である。(乙1 党の代表であり,国会議員であった D(以下「D議員」という。)に対し,合計8億円を貸し付けたことに関して,自らの認識を述べたものであり,その内容は,被告Bの認識に照らして真実である。(乙1,証人E〔以下「証人E」という。〕33頁,34頁)本件手記の概要は,以下のとおりである。 被告会社の主務官庁(厚労省)による規制は,他の省庁と比べても特別 煩わしいものであった。 経営に従事してきた立場から見れば,厚労省に限らず,官僚たちが手を出せば出すほど日本の産業はおかしくなっており,官僚機構の打破こそが,今の日本に求められる改革であり,それを託せる人こそが,私の求める政治家であると考えていたところ,平成21年頃,「脱官僚」を主張し,行 政改革に取り組むD議員と知り合って意気投合し,交流が始まった。 D議員のほか,C党の議員が本気で脱官僚,中央集権打破に向かって奮闘していたことから,支援を心に誓っていたところ,平成22年7月の国政選挙を控え,D議員から選挙のための資金3億円の融資の依頼があり,これに応じて3億円を送金して貸し付けた。また,平成24年3月頃,D議員から次期総選挙に関する融資の依頼があり,同年11月に,5億円を 送金した(以下,上記3億円の貸付と併せて「本件貸付」ということがある。)。 その後,D議員のF党への歩み寄りや,G議員らの離党などを契機としてD議員と決別した。「脱官僚」を掲げたD議員の志が現在ではすっかり失われてしまったが,その志を援助するために行った貸付の意義について, もう一度,彼自身に,そして世に問うてみたい。 ウ原告は,平成26年3月31日から,同年4月8日にかけて,本件サイトに原告ブログ1ないし3を順次掲載した。これに対し,被告らは,同月 もう一度,彼自身に,そして世に問うてみたい。 ウ原告は,平成26年3月31日から,同年4月8日にかけて,本件サイトに原告ブログ1ないし3を順次掲載した。これに対し,被告らは,同月16日,前件訴訟を提起した。(前提事実,乙4)また,被告らは,前件訴訟の提起と同時期に,被告らに対する批判的な 記事により名誉を毀損されたなどと主張して損害賠償等を求める訴訟を合計9件提起した。それらの訴訟事件において被告らが権利侵害されたと主張した記事には,いずれも本件手記を踏まえた内容が存在していた。また,いずれの訴訟事件においても,損害賠償に係る請求額は1000万円以上とされていた。(甲9の1,10の1,11の1,12の1,13の1, 14の1,15の1,乙A4)エ前件訴訟等の提起に至る経緯被告会社の総務部部長であるE(以下「E部長」という。)は,本件記事の掲載当時,その内容及び掲載予定につき認識していなかったが,掲載後,本件手記の内容が真実であることにつき被告Bに確認した上で,同部所属の 社員3名とともに,雑誌やインターネット上の書込み等に被告らに対する批 判的な記事がないかを観察し,記事の集積を開始した。 その後,E部長は,被告Bから,悪質な記事には訴訟提起をして損害賠償と記事の削除等を請求する旨の指示を受け,平成26年4月上旬から中旬にかけて,本件記事のほか,集積した記事数十件のうち十数件を被告訴訟代理人弁護士(被告会社の顧問弁護士)に送付し,同弁護士との1回の面談(約 二,三時間)及び電話での相談を経て,訴訟提起の対象となる記事を選定した。その後,被告Bへの報告を経て,被告Bの指示により,前件訴訟及び前記訴訟が提起された。 (証人E・1頁,11ないし13頁,18頁,33頁,34頁,甲 談を経て,訴訟提起の対象となる記事を選定した。その後,被告Bへの報告を経て,被告Bの指示により,前件訴訟及び前記訴訟が提起された。 (証人E・1頁,11ないし13頁,18頁,33頁,34頁,甲18)オところで,平成15年に,厚生労働省医薬食品局食品安全部新開発食品保 険対策室から,被告会社が販売した健康食品メリロートが原因と疑われる肝機能障害の事例が報告され(乙A3の3),平成16年には,独立行政法人国民生活センターから,メリロートを含む健康食品に,医薬品で定められている1日の服用量の2倍を超えるクマリンが含まれていることが報告された(乙A3の5)。また,平成21年には,公正取引委員会が被告会社に対し, シャンピニオンエキスと称する成分を含む食品について,口臭,体臭及び便臭を消す効果が得られるかのような表示をして販売をしていたが,表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出がなかったとして,排除命令を行った(乙A3の8の2)。 カ平成19年11月には,社団法人日本通信販売協会が,ヘルスケア産業の 規制改革要望を提出し,アメリカのように企業の責任で病名を含む効能効果の実現を可能とする表示制度の導入を求めており(乙A7),同年12月には,国会議員の超党派で健康食品のあり方に関する研究等を目的とする「健康食品問題研究会」が結成された(乙A8)。平成20年6月には,社団法人日本通信販売協会がガイドラインを策定しており,健康食品の機能性表示 の規制緩和の促進に向けた取組みが行われていた(乙A10)。被告Bは, 平成20年3月27日の日本流通産業新聞に特別寄稿をし,健康食品の機能性表示の規制緩和を求めていること,健康食品問題研究会が発足して,健康食品の立法化を目指していることを肯定的に捉えているこ 平成20年3月27日の日本流通産業新聞に特別寄稿をし,健康食品の機能性表示の規制緩和を求めていること,健康食品問題研究会が発足して,健康食品の立法化を目指していることを肯定的に捉えていることなどを表明していた(甲A20)。 キ平成26年4月2日に発行された朝日新聞には,アメリカでは20年前か らダイエタリーサプリメントの機能性表示が自由化されており,企業が製品に健康効果が科学的にあると判断して届出をすれば,機能性表示ができるものとされており,これを参考に我が国でも健康食品の機能性表示の解禁が検討されているとの記事(以下「本件朝日新聞記事」という。)が掲載されていた。(乙A6) ク被告らは,前件訴訟において,本件各記述について,別紙3主張対照表「原告ら」・「名誉毀損となる理由」・「摘示事実(又は意見論評)」・「社会的評価を低下させる理由」,及び「原告ら」・「反論」各欄記載のとおり主張した。これに対して,原告は,同表「被告」・「被告の認否・主張」・「公共性・公益目的」・「真実性・真実相当性,論評の域の逸脱の有無」各欄記 載のとおり主張した。(甲1,2)ケ前件訴訟の確定した判決における裁判所の判断は,要旨,次のとおりである。(甲1ないし3)原告ブログ1ないし3及び7は,一般の読者の普通の注意と読み方をもってすれば,本件手記ないし本件朝日新聞記事に記載されている事実を元 にした社会的な評価や推論であると理解可能な記述部分や,人の内心に係る一般的な行為の動機の問題である記述部分からなり,被告Bの本件貸付の動機についての事実の摘示を含むものと解することはできない。 また,原告ブログ4は,被告らが前件訴訟を提起したとの事実を元にした推論であると理解可能な記述部分や,人の内心に係る一般的な行為の の動機についての事実の摘示を含むものと解することはできない。 また,原告ブログ4は,被告らが前件訴訟を提起したとの事実を元にした推論であると理解可能な記述部分や,人の内心に係る一般的な行為の動 機の問題である記述部分からなり,被告Bの本件貸付の動機についての事 実の摘示を含むものと解することはできない。 原告ブログ1について本件記述①は,本件貸付について,被告Bが利潤を追求するために政治家に金を出し,政治を歪めるものであること,8億円を貸し付けたD議員が自分の意に沿った行動をしないため,被告Bが本件手記を雑誌に掲載し てD議員を切り捨てたことを指摘した上で,被告Bについて批判の対象とすべきであるとしているものであり,本件手記に記載された内容を前提として意見を述べたものである。本件記述②は,被告Bの本件貸付の動機は,D議員が規制緩和のために動いてくれるものと期待していたからであると解釈し,本件貸付は資産家である被告Bが,規制緩和により更に利潤を追 求するためのものであると指摘し,これを批判すべきとしたものであり,本件手記に記載された内容を前提として意見を述べたものである。本件記述⑩は,前半で,本件貸付を徳洲会・H問題と対比し,具体的な権限を有している東京都知事への金員の交付のあった徳洲会・H問題に比べると,本件貸付は,具体的な権限があるわけではないD議員に対するものであり, 贈収賄罪として立件される可能性は低いという法的意見を述べ,後半で,医療法人として病院を経営している徳洲会が社会へ貢献していることは否定し難いのに対し,被告会社は,専ら自己の利益を追求する存在であるので,批判することに遠慮はいらないと指摘しているのであり,本件貸付について,贈収賄罪での立件の可能性は低いのではないかという とは否定し難いのに対し,被告会社は,専ら自己の利益を追求する存在であるので,批判することに遠慮はいらないと指摘しているのであり,本件貸付について,贈収賄罪での立件の可能性は低いのではないかという論評と,本 件貸付について,被告会社に対する批判を遠慮する必要はないという意見を述べたものである。 以上のとおり,本件記述①,②及び⑩については,本件手記の内容を前提とした意見であり,原告らの社会的評価を低下させるものであるが,その前提としている事実の重要な部分は,①被告Bが被告会社の代表取締役 会長であり,被告会社が主に化粧品やサプリメントを扱う事業者である事 実(事実①),②被告Bが様々な規制を行う官僚機構の打破を求め,特に,被告会社の主務官庁である厚生労働省の規制について煩わしいと考えていた事実(事実②),③被告BがD議員に合計8億円を貸し付けた事実(事実③),④被告Bが雑誌に本件手記を掲載し,D議員との関係を絶った事実(事実④)であり,事実①は当事者間に争いがなく,事実②ないし事実 ④の各事実は本件手記に記載されていたから,真実であることの証明があったということができる。 他方,本件記述⑨については,被告Bについて言及したものと読むことはできないから,被告Bの社会的評価を低下させるものとはいえない。 原告ブログ2について 本件記述③は,本件朝日新聞記事と,被告会社がサプリメントの製造販売等を行っていることを組み合わせた推論を述べるものであり,本件貸付が,被告らにおいてサプリメントの販売についての規制緩和を目指して行ったものであったとすれば,納得がいくという論評を記載したものである。 本件記述④は,本件朝日新聞記事の内容を前提として,サプリメントの製 造販売を行っている被告会社の代 の規制緩和を目指して行ったものであったとすれば,納得がいくという論評を記載したものである。 本件記述④は,本件朝日新聞記事の内容を前提として,サプリメントの製 造販売を行っている被告会社の代表者である被告Bが,日本において,アメリカと同様に規制を緩めてサプリメントの市場を形成したいと考え,そのために「官僚と闘う」としているのではないかという意見ないし論評を述べたものである。本件記述⑤も同様に,本件朝日新聞記事の内容を前提として,被告Bが,サプリメントの規制緩和のため,D議員のような政治 家に金員を交付し,背後でC党を支配していたと,本件貸付の背景にある被告Bの意図を推論した意見ないし論評である。 本件記述③ないし⑤については,いずれも,本件朝日新聞記事の掲載を踏まえた意見であり,被告らの社会的評価を低下させるものであるが,その前提としている事実の重要な部分は,事実①ないし④の各事実に加え, ⑤日本において健康食品の機能性表示が解禁されようとしており,その参 考となったアメリカでは20年前からダイエタリーサプリメントの表示が自由化され,企業の判断で届出をすれば機能性表示ができるという事実(事実⑤)であり,同事実は本件朝日新聞記事に記載されていたから,真実であることの証明があったということができる。 また,本件記述⑥及び⑦は,スポンサーとしては,広告を利用して,消 費者に無用なあるいは安全性の不十分なサプリメントを買わせて利益を上げたいと考えており,そのために必要な規制の緩和をスポンサーから金員を受け取った政治家が行うというように,財界と政治家が,まるで「旦那と幇間」のように連携しているとの指摘であり,サプリメントに関するスポンサーと政治家の,規制緩和に関わる意図と役割分担について推論する った政治家が行うというように,財界と政治家が,まるで「旦那と幇間」のように連携しているとの指摘であり,サプリメントに関するスポンサーと政治家の,規制緩和に関わる意図と役割分担について推論する ものとして意見ないし論評である。 本件記述⑥及び⑦については,意見ないし論評であり,被告らの社会的評価を低下させるものであるが,その前提としている事実の重要な部分は,事実①ないし⑤の各事実に加え,⑥D議員が平成26年3月31日付けの自己のブログで「I会長からの借入金について」と題する記事を掲載し, その中で,被告BとD議員との関係について記載したという事実(事実⑥),⑦マスコミを使った大量の広告,宣伝により,サプリメントが販売されている事実(事実⑦),⑧サプリメント業界において規制緩和を求める動きが存在する事実(事実⑧),⑨被告会社において,過去に機能性の評価が不十分であったり,安全性に問題があったりするサプリメントが販売され ていた事実(事実⑨)である。事実⑥は上記ブログ記事により認められ,事実⑦は公知の事実である。事実⑨については,被告会社が,シャンピニオンエキスと称する成分を含む食品について,口臭,体臭及び便臭を消す効果が得られるかのような表示をして販売していたが,表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出できず,平成21年に公正取引委員会か ら排除命令をうけたこと,平成15年に被告会社のメリロートが原因と疑 われる肝機能障害の事例が報告されたことや,平成16年に被告会社のメリロートを含む健康食品に医薬品で定められている1日の服用量の2倍を超えるクマリンが含まれていたことから,事実⑨が真実であることの証明があったということができる。事実⑧については,日本経済団体連合会が平成19年11月にヘルス 品で定められている1日の服用量の2倍を超えるクマリンが含まれていたことから,事実⑨が真実であることの証明があったということができる。事実⑧については,日本経済団体連合会が平成19年11月にヘルスケア産業の規制改革要望を提出したことや,社 団法人日本通信販売協会が平成20年6月にガイドラインを策定して表示規制の緩和を進めようとしていたことから,事実⑧が真実であることの証明があったということができる。 原告ブログ3について本件記述⑧は,前半が,新聞各紙がC党を陰で操っていたスポンサーに 対する批判をしていないことを物足りないとした上で,金を持つ者がその資力を背景に自らの利益を図るように政治を誘導することを許してはいけないという意見を述べるものである。後半は,本件貸付について,被告Bが,官僚機構の打破にカモフラージュして,自らの利益を図るために邪魔な規制を撤廃させるように政治家を利用しようとしていたと指摘した上で, それは許されない行為であると批判するものであり,政治家と資金提供者の関係について論評したものである。被告らの社会的評価を低下させるものであるが,その前提としている事実の重要な部分は,事実①ないし④に加え,事実⑨及び⑩であり,これらが真実であることの証明があったということができる。 原告ブログ4について本件記述⑪は,前件訴訟は原告の口封じ目的の訴訟であって,許されない旨を述べるもの,本件記述⑫は,スラップ訴訟の定義や代表例を紹介して,前件訴訟がそれに当たると述べるもの,本件記述⑭は,被告らが,都合が悪いために批判を封じようとして,高額の損害賠償を求める前件訴訟 を提起したのではないかと述べるもの,本件記述⑮は,被告らの意図は批 判の言論を封殺することにあると述べるもので 合が悪いために批判を封じようとして,高額の損害賠償を求める前件訴訟 を提起したのではないかと述べるもの,本件記述⑮は,被告らの意図は批 判の言論を封殺することにあると述べるものであり,いずれも意見ないし論評である。本件記述⑬は,被告会社の代表者である被告Bが,D議員に8億円を交付したことを前提事実として,それが裏金に該当するとの評価を加えた意見ないし論評である。 いずれの記述も被告らの社会的評価を低下させるものであるが,そのう ち本件記述⑪,⑫,⑭及び⑮は,事実①ないし④に加え,被告らが前件訴訟を提起したこと及びその内容という裁判所に顕著な事実を,本件記述⑬は,事実①ないし④を,その前提としている事実の重要な部分としており,いずれの記述も真実であることの証明があったということができる。 原告ブログ7について 本件記述⑯は,本件貸付のあった事実を前提にし,本件貸付について,政治資金でありながら届出がない点で,裏金であるとする意見であり,被告らの社会的評価を低下させるものであるが,その前提としている事実の重要な部分は事実①ないし④であり,真実であることの証明があったということができる。 そして,本件各記述は,いずれも,公共の利害に関する事実に限り,その目的が専ら公益を図ることにあって,その前提事実と意見ないし論評との間には論理的関連性も認められ,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものということはできないから,違法性を欠くというべきである。 また,本件記述①,⑦及び⑧については,いずれも,社会通念上許される範囲を超えて被告Bの人格的価値を否定したものとは認められないから,社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるとはいえない。 以上の認定事実を基に び⑧については,いずれも,社会通念上許される範囲を超えて被告Bの人格的価値を否定したものとは認められないから,社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるとはいえない。 以上の認定事実を基に,被告らによる前件訴訟の提起等の違法性の有無を検討する。 ア被告らが権利侵害を主張した原告ブログ1ないし4及び7は,いずれも意 見ないし論評であり,その大部分が被告らの社会的評価を低下させるものとしても,その前提とする事実の重要な部分が真実であると認められ,公共の利害に関するものであり,その目的が専ら公益を図ることにあって,その前提事実と意見ないし論評との間には論理的関連性も認められ,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものということはできないから, 違法性を欠くと認定判断されたところである。また,人身攻撃に及ぶものではないことから,被告Bの名誉感情を侵害するものではないと認定判断されたものである。 イ以上に照らせば,前件訴訟における被告らの請求は,事実的,法律的根拠を欠くものというほかない。 以下においては,前記で述べた不当訴訟の判断枠組みに照らして,上記前件訴訟の提起等について,被告らにおいて,上記根拠の欠如について,これを知り,又は通常人であれば容易にこれを知り得たなど,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くといえるか否かにつき検討する。 ア原告ブログ1ないし3及び7は,本件手記ないし本件朝日新聞記事に記載 されている事実を前提に,他の情報を付加することなく,原告が考える政治と金銭との健全な関係の観点から,本件貸付について,被告Bの内心の推察を試みつつ批判を加えようとするものと読み取ることができる。そうすると,原告ブログ1ないし3及び7は,本件手記ないし本件朝日新 治と金銭との健全な関係の観点から,本件貸付について,被告Bの内心の推察を試みつつ批判を加えようとするものと読み取ることができる。そうすると,原告ブログ1ないし3及び7は,本件手記ないし本件朝日新聞記事に記載されている事実を元にした社会的な評価や推論であることが理解可能である記 述部分や,人の内心に係る一般的な行為の動機の問題である記述部分からなり,被告Bの本件貸付の動機についての事実の摘示を含むものと解することはできないのであり,このことは,一般の読者において同様の理解が容易というべきである。 また,原告ブログ4は,被告らが前件訴訟を提起したとの事実を前提に, これがスラップ訴訟であるとして,提訴した被告Bの内心の推察を試みつつ 批判を加えようとするものと読み取ることができる。原告ブログ4は,被告らが前件訴訟を提起したとの事実を元にした推論であることが理解可能である記述部分や,人の内心に係る一般的な行為の動機の問題である記述部分からなり,被告Bの本件貸付の動機についての事実の摘示を含むものと解することはできないのであり,これもまた一般の読者において容易に理解すると いうべきである。 以上によれば,被告らにおいて,原告ブログ1ないし3及び7が,意見又は論評であることについて,容易に理解することが可能であったものというべきである。 イ上記アのとおり,原告ブログ1ないし3及び7は,いずれも意見ないし論 評であるところ,その前提としている事実の重要な部分は,被告Bが被告会社の代表取締役会長であり,被告会社が主に化粧品やサプリメントを扱う事業者である事実(事実①),被告Bが様々な規制を行う官僚機構の打破を求め,特に,被告会社の主務官庁である厚生労働省の規制について煩わしいと考えていた事実(事実 会社が主に化粧品やサプリメントを扱う事業者である事実(事実①),被告Bが様々な規制を行う官僚機構の打破を求め,特に,被告会社の主務官庁である厚生労働省の規制について煩わしいと考えていた事実(事実②),被告BがD議員に合計8億円を貸し付けた事実 (事実③),被告Bが雑誌に本件手記を掲載し,D議員との関係を絶った事実(事実④)である。事実①は,当事者間に争いがなく,事実②ないし事実④の各事実は,本件手記に記載されていた内容であり,いずれも被告らにおいて真実として認識していたものであるイ参照)。 他に,上記の各原告ブログが前提としている事実の重要な部分には,D議 員が平成26年3月31日付けの自己のブログで「I会長からの借入金について」と題する記事を掲載し,その中で,被告BとD議員との関係について記載したという事実(事実⑥),マスコミを使った大量の広告,宣伝により,サプリメントが販売されている事実(事実⑦),サプリメント業界において規制緩和を求める動きが存在する事実(事実⑧),被告会社において,過去 に機能性の評価が不十分であったり,安全性に問題があったりするサプリメ ントが販売されていた事実(事実⑨)があるが,事実⑦ないし⑨は,公知の事実又は被告らにおいて当然に認識していた事実と認められ(前記オ及びカ参照),また,事実⑥は上記貸付の当事者であるD議員によるブログ記事であり,本件記事掲載後のインターネット上の反響等を観察していた被告らにおいて,容易に認識し得た事実と認められる。そうすると,以上の事実も また,被告らにとって,その真実性が明らかであったということができる。 ウ被告Bは,本件手記を通じて事実①ないし④を自ら公表したものであり,その内容は,健康食品の製造販売等を事業とする経営者で,かつ業界 被告らにとって,その真実性が明らかであったということができる。 ウ被告Bは,本件手記を通じて事実①ないし④を自ら公表したものであり,その内容は,健康食品の製造販売等を事業とする経営者で,かつ業界の規制緩和を主張する被告Bにおいて,官僚機構の打破を政治的信条とするD議員に対し,8億円という多額の政治活動資金を貸し付けたというものである。 一方で,いわゆる「政治とカネ」の問題に関して,企業ないしその経営者による政治家に対する多額の資金提供について,刑罰法規上の違法性の有無を問わず,当該企業に対する利益誘導の原因となり,又はその疑いを生じさせるものとして,厳しく批判する意見が広く存在することは,公知の事実というべきである。 これらの事情に照らして,原告ブログ1ないし3及び7に係る意見論評が,公共の利害に関し,専ら公益を目的とするものであることや,前提事実との関係で論理関係を有し,人格攻撃等に及ぶなどの逸脱がないことについては,被告らにおいても,容易に認識可能であったというべきである。 エまた,原告ブログ4は,意見ないし論評であり,その前提としている事実 の重要な部分は,事実①ないし④に加え,被告らが前件訴訟を提起したこと及びその内容という裁判所に顕著な事実であり,被告らにとって,真実性はもとより,公共の利害に関し,かつ専ら公益を図る目的でされたものであると容易に認識し得たというべきである。 ア以上の判示に関して,被告らは,本件各記述が被告Bの本件貸付の動機に ついての事実を摘示したものか,意見ないし論評を表明したものであるかが 一義的に明らかではないと主張する。被告らの上記主張は,本件貸付の動機や目的が,証拠上確定される事実として理解される余地がある旨をいうものと解される。 イしかしな たものであるかが 一義的に明らかではないと主張する。被告らの上記主張は,本件貸付の動機や目的が,証拠上確定される事実として理解される余地がある旨をいうものと解される。 イしかしながら,本件貸付の動機等については,当事者である被告B及びD議員以外の第三者が直接知り得る立場にはない上,本件貸付の事実について は,本件手記により,被告Bが初めて公開したものである(前記イ参照)。 この点で,当事者との接点がなく,報道機関と異なり独自の取材能力も持たない第三者(原告)において,本件記事以外の情報を調査した上で,証拠に基づき本件貸付の動機等を論じることは困難であり,被告らとしても,当該事情を認識することは容易であったというほかない。 ウ加えて,前記イのとおり,本件手記においては,①被告B自身が,被告会社に対する厚労省の規制の煩瑣を訴えた上で,②これを企業経営全般の問題として一般化した上で,官僚機構の打破を自らの信条とした旨を明らかにし,③その上で,当該信条の一致するD議員への支援として,本件貸付を行った旨を記載している。 このような本件手記の論理を前提とすると,上記①の記載自体から,被告Bにおいて,被告会社の経営上の観点から,厚労省による規制の緩和の必要性を主張していることは明らかである。さらに,上記②及び③の公益上の動機等(脱官僚ないし官僚機構の打破)は,規制緩和に係る主張を企業経営全般との関係で一般化したものというべきであり,原告が本件各記 述において主張した私益上の動機(被告会社の経営のための規制緩和)とは何ら相互に矛盾せず,むしろ,上記の論理を前提としても,一般的な制度改革としての「脱官僚」等により,被告会社の営業に関するものを含む個別的な規制緩和が実現する関係にあることは明らかであ 制緩和)とは何ら相互に矛盾せず,むしろ,上記の論理を前提としても,一般的な制度改革としての「脱官僚」等により,被告会社の営業に関するものを含む個別的な規制緩和が実現する関係にあることは明らかである。 以上に照らせば,上記の公益上の動機等と私益上の動機等を区別して論 ずることはおよそ困難なものというほかなく,これを証拠上確定すること が可能な事実ということはできない。 加え,前記ウで述べたとおり,企業経営者等による政治家に対する資金提供に対する批判が広範に存在することに照らせば,本件手記の内容のみに基づいて,本件貸付の動機を上記の私益上の動機として理解し,これを批判することは可能であり,かつ,そ のような批判の存在は,本件手記の真実性を自認する被告らにおいては,容易に認識可能であったものというほかない。 エそして,本件各記述のうち,本件貸付の動機等に関する部分については,最初に掲載された本件記述①及び②(原告ブログ1)は,本件記事のみに基づくものであることがその記載上明らかであり,その後の記述についても, 健康食品市場における最近の動向(米国の状況及び我が国における規制緩和の検討)に関して本件朝日新聞記事が引用されているに過ぎず,他の情報が付加された形跡はない。上記の部分全体が,本件手記自体を中核的な根拠とし,本件朝日新聞記事を,その補完的な材料として用いていることは明らかである。そうすると,被告らにおいて,上記の各部分について,本件手記自 体に基づいて,本件貸付等の動機につき評価又は推論を述べたものであることは,容易に認識可能であったものというほかない。 被告らは,前件訴訟の判決が,被告らの社会的評価を低下させる旨判示していることを指摘した上で,公正な論評の法理を前提としても,その前 ものであることは,容易に認識可能であったものというほかない。 被告らは,前件訴訟の判決が,被告らの社会的評価を低下させる旨判示していることを指摘した上で,公正な論評の法理を前提としても,その前提としている事実の重要な部分を確定することや,その真実性を判断することは必ずし も容易ではない旨を主張する。 しかしながら,前記で述べたところに照らせば,本件各記述は,本件手記の公表を受けた意見ないし論評であり,その前提としている事実の重要な部分が本件手記の内容となることは,一般の読み手にとって容易に理解できるし,被告らが容易に認識し得るものといえるから,被告らの上記主張も採用できな い。 また,本件各記述に攻撃的な表現が含まれているとしても,その内容は,前件訴訟における被告らの主張(別紙3主張対照表のうち,「原告ら」「反論」の欄を参照)を前提としても,「尻尾を振る」,「利益をむさぼる」,「汚い金」,「私欲のために金で政治を買おうとした主犯」といったものであり,これらはいずれも,本件貸付又はこれを通じた被告BとD議員との関係に関する 批判であることが,記載自体から明らかなものであるから,被告B個人の人格攻撃に及ぶものとはいえず,意見ないし論評としての域を逸脱するものとはいえないことは被告らが容易に認識し得るものといえる。 以上によれば,被告らが前件訴訟の提起等を行うに当たり,被告らにとっては,本件各記述が意見ないし論評であることについても,また,本件各記述が 公正な論評の法理により違法性を欠くことについても,容易に認識可能であったということができる。 したがって,被告らによる前件訴訟の提起等は,原告ブログ1ないし4及び7が意見ないし論評であり,その前提としている事実の重要な部分が真実であり, ,容易に認識可能であったということができる。 したがって,被告らによる前件訴訟の提起等は,原告ブログ1ないし4及び7が意見ないし論評であり,その前提としている事実の重要な部分が真実であり,違法性を欠くものであって,請求が認容される見込みがないことを通常人 であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したものとして,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものということができ,原告に対する違法行為と認められる。 以上の検討を総合すると,被告らによる前件訴訟の提起等は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものというべきであり,違法な訴え提起 であったと認められる。 (損害発生の有無及びその額)について 原告は,前件訴訟に係る弁護士費用500万円を損害として主張する。 しかしながら,原告は,前件訴訟及び本件訴訟を通じて,訴訟追行に関して原告自身が出捐した費用の総額が200万円である旨を供述している(原告本 人14頁,15頁)。 当該供述を前提とすると,上記出捐に係る費用には,前件訴訟に係る弁護士費用以外の費用が相当程度含まれるものと推認するほかなく,一方で,原告は,前件訴訟に係る弁護士費用のうち,自らが出捐した部分について,他の客観的証拠を提出していない。 以上によれば,前件訴訟の弁護士費用に係る損害の発生を認めるに足りる証 拠はないものというほかない。 また,被告らによる前件訴訟の提起等については,原告において,応訴の負担等があったものと認められる反面,以上述べたところに照らせば,敗訴の可能性(多額の損害賠償債務の負担)の観点から,原告の精神的な損害を過大に評価することは困難である。その他,本件に現れた一切の事情を総合すると, 原告の精 ,以上述べたところに照らせば,敗訴の可能性(多額の損害賠償債務の負担)の観点から,原告の精神的な損害を過大に評価することは困難である。その他,本件に現れた一切の事情を総合すると, 原告の精神的損害に対する慰謝料として100万円を認めるのが相当である。 そして,原告が本件を提起せざるを得なかったことについての弁護士費用としては,上記損害額合計100万円の1割に相当する10万円を認めるのが相当である。 第4 結論 よって,原告の請求は,110万円の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官前澤達朗 裁判官実本滋 裁判官神本博雅 (別紙1) 代理人目録 光前幸一,山本政明,佐藤むつみ,弓仲忠昭,神原元,中川素充,小園恵介,澤藤大 河,梓澤和幸,伊澤正之,石川順子,井上聡,茨木茂,大江京子,大江洋一,大久保賢一,岡崎敬,小倉京子,海部幸造,加藤文也,加藤芳文,川上耕,河西龍太郎,郷路征記,児玉勇二,小山達也,今瞭美,阪口徳雄,佐々木幸孝,佐々木良博,下林秀人,白井劍,杉浦ひとみ,杉山茂雅,髙橋利明,千葉肇,徳岡宏一朗,外塚功,穂積匡史,中村雅人,中本源太郎,中山武敏,野上恭道,萩原繁之,林真由美,原田敬三, 彦坂敏之,平松真二郎,船尾徹,松岡康毅,宮川泰彦,村山晃,安原幸彦,山口廣,D達生,木嶋日出夫,近江直人,金井知明,北澤貞男,坂井興一,南典男,山本紘太 恭道 萩原繁之 林真由美 原田敬三 彦坂敏之 平松真二郎 船尾徹 松岡康毅 宮川泰彦 村山晃 安原幸彦 山口廣 D達生 木嶋日出夫 近江直人 金井知明 北澤貞男 坂井興一 南典男 山本紘太郎 以上 【*別紙2】 【*別紙3】 【別紙4】 (別紙1)については記載を省略

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