主文 1 被告は,Aに対し163万1700円及びこれに対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,柏市の執行機関である被告が,別件の住民訴訟で被告とされた柏市の市議会議長及び市議会議員らに対し,その弁護士費用について補助金の支給決定をしたところ,柏市の住民である原告らが,前記補助金支給決定は地方自治法(以下「法」という。)232条の2等に違反し違法であり,柏市は市長個人に対し同人の不法行為により前記補助金支給決定による補助金支給額である163万1700円及びこれに対する補助金支給の日である平成13年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金相当の損害賠償請求権を有していると主張して,法242条の2第1項4号に基づいて,被告に対し,市長個人に対して前記損害賠償請求をするよう求めている事案である。 1 前提事実(末尾に証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いがないか,明らかに争わない事実である。)(1) 当事者原告らは,柏市の住民である。 被告は柏市の執行機関であり,Aは,平成13年7月9日当時,柏市長の職にあった者である(乙2(枝番を含む。))。 (2) 別件住民訴訟ア平成9年当時,柏市の市議会議員であったB,C,D,E及びF(以下,まとめて「Bら」という。)は,柏市,流山市,松戸市,野田市,我孫子市及び鎌ヶ谷市(以下,まとめて「六市」という。)の市議会議長及び副議長で構成される任意団体である東葛都市議会連絡協議会(以下「六市協議会」という。)が同年10月に主催した,六市の市議会議員の海外研修視察旅行(以下「本件視察旅行」という。)に参加した。 柏市は 議長で構成される任意団体である東葛都市議会連絡協議会(以下「六市協議会」という。)が同年10月に主催した,六市の市議会議員の海外研修視察旅行(以下「本件視察旅行」という。)に参加した。 柏市は,平成9年度一般会計予算の議会費の中から,Bらの本件視察旅行の参加負担金(その内訳は,往復の国際航空運賃その他の交通費,宿泊費,食費,視察費用等を含む研修費と研修雑費である。)を,六市協議会の当番である鎌ヶ谷市議会議長に支払ったほか,Bらに対し本件視察旅行の旅費(日当及び支度料)を支払った。 (甲4,7,弁論の全趣旨)イ原告らを含む柏市の住民は,柏市が本件視察旅行に参加したBら及び同市議会事務局職員の旅行費用を支出したことは違法な公金の支出である等と主張して,本件視察旅行が実施された当時の同市議会議長G及び同市議会事務局職員に対し,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法(以下「旧法」という。)242条の2第1項4号前段に基づく損害賠償を,本件視察旅行に参加したBらに対し,同号後段に基づく不当利得の返還をそれぞれ求める訴え(千葉地方裁判所平成10年(行ウ)第36号損害賠償等請求事件。以下「別件住民訴訟」という。)を平成10年に千葉地方裁判所に提起した。 G,Bら及び同事件の被告とされた同市議会事務局職員は,H弁護士に訴訟委任をして,同事件に応訴した。 (甲7)ウ千葉地方裁判所は,平成12年12月13日,別件住民訴訟のうちGに対する訴えについては,同人は旧法242条の2第1項4号前段の「当該職員」に該当せず,同人に対する訴えは住民訴訟の類型に該当しない訴えとして不適法なものであるとして,これを却下する旨,また,柏市議会事務局職員に対する損害賠償請求及びBらに対する不当利得返還請求については,同人らは同市市議会運営委員会の派遣決定及び 該当しない訴えとして不適法なものであるとして,これを却下する旨,また,柏市議会事務局職員に対する損害賠償請求及びBらに対する不当利得返還請求については,同人らは同市市議会運営委員会の派遣決定及び市議会議長の派遣承認を経て,本件視察旅行に参加したものであり,前記参加負担金の支出は市議会の承認を経ており,前記日当等の支出についても違法はないとして,これを棄却する旨の判決を言い渡し,同判決は同月28日に確定した(甲7,乙1(枝番を含む。))。 エ G及びBらは,H弁護士に対し,1人当たり,別件住民訴訟の着手金として10万5000円,成功報酬として16万6950円,合計27万1950円をそれぞれ支払った(甲3,弁論の全趣旨)。 (3) 本件補助金支給決定被告は,平成13年7月9日付けで,G及びBら各自に対し,法232条の2に基づき,別件住民訴訟に応訴した際の弁護士費用補助金として,1人当たり27万1950円(内訳は,着手金10万5000円,成功報酬16万6950円)を支給する旨の決定(以下,まとめて「本件補助金支給決定」という。)をし,同年10月1日,本件補助金支給決定に基づいて,前記各補助金がG及びBら各自に支給された(乙1及び2(枝番を含む。))。 (4) 監査請求等ア原告らは,平成14年6月12日,柏市監査委員に対し,本件補助金支給決定について監査請求をしたが,同監査委員は,同年8月7日付けでこれを棄却し,そのころ,原告らに対し,その旨通知した。 イ原告らは,同年9月6日,本件訴えを提起した。 2 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 旧法242条の2第1項4号の「当該職員」に該当しない別件住民訴訟の被告の弁護士費用につき,補助金を交付することについて,法232条の2所定の公益上の必要が認められるか。 ア原告らの主張(ア) 旧法242条の2第1項4号の「当該職員」に該当しない別件住民訴訟の被告の弁護士費用につき,補助金を交付することについて,法232条の2所定の公益上の必要が認められるか。 ア原告らの主張(ア) 旧法242条の2第1項4号に基づく訴訟(以下「4号訴訟」という。)の被告である当該職員の弁護士費用の公費負担については,従来からこれを否定する判例が定着していたが,当該職員が職務に関して被告とされたにもかかわらず,自己負担で応訴せねばならないことから公務員の士気の低下が問題とされ,平成6年6月の地方自治法の改正で旧法242条の2第8項が追加された。 以上の立法経過からすれば,旧法242条の2第8項は限定的な条文であって,厳格に適用すべきであり,「当該職員」について地方公共団体と個人とを厳密に峻別していることからすれば,「相手方」は間違いなく個人(私人)であって,その応訴費用につき地方公共団体が負担することは禁じられていると解釈されなければならない。 (イ) Bらは,同人らの私益,私権の擁護のために別件住民訴訟で弁護士を委任し,個人として応訴したものであって,判決の副次的効果として公金支出の合法性が間接的に証明されたとしても,そのことによって私益が公益に転じるわけではない。別件住民訴訟の判決は,本件視察旅行に参加したBらには旅費等の不当利得返還義務がなく,当該職員であることを否定されたGに損害賠償責任がないことを確定させたにすぎず,柏市及び柏市住民には何ら具体的利益をもたらしていない。 したがって,G及びBらの別件住民訴訟の弁護士費用を柏市が本件補助金として負担すべき公益上の必要(法232条の2)は全くない。 (ウ) 被告の主張は,4号訴訟の当該職員についての応訴費用の弁護士報酬の公費負担の問題を市議会議員に置き換えて主張するもので,被告独自の論 して負担すべき公益上の必要(法232条の2)は全くない。 (ウ) 被告の主張は,4号訴訟の当該職員についての応訴費用の弁護士報酬の公費負担の問題を市議会議員に置き換えて主張するもので,被告独自の論理の拡張又は論理のすり替えである。 もし,本件のような場合に法232条の2を適用できるとなると,住民訴訟において,当該職員が職務上行った行為の適法性が争われ,これについて十分な公益性が認められるが,その手続や結果に瑕疵があって敗訴した場合まで,法232条の2により弁護士費用の補償を行うことができることになり,旧法242条の2第8項の規定は形骸化してしまう。 (エ) 被告は,本件補助金支給決定については,市議会の議決を得ており,住民意思の合意がなされている旨主張するが,野党が少数である地方議会が多い我が国の現状では,議会で可決されたらなんでも正しいとされかねないことから,住民訴訟というものが保障されているのである。 (オ) 以上により,本件補助金の支給は,法232条の2及び柏市補助金等交付規則3条1項に違反し無効である。 イ被告の主張(ア) 旧法242条の2第8項の規定は,法232条の2に規定する公益上の必要性が確実に認められる要件を確認的に規定したものであり,同項に規定する要件に該当しない弁護士報酬の補助を一切禁止する趣旨ではない。「当該職員」以外の被告に対しては,公益上の必要性が認められる場合に限り,法232条の2の規定を適用して弁護士報酬を補助することは可能である。 (イ) 別件住民訴訟の実質的争点は,議員視察,すなわち,Bらの職務執行行為の当否であり,Bらの応訴活動により,その職務執行行為の正当性が認められ,そのための公金支出の正当性すなわち地方財務会計の管理運営に対する司法上の正当性が確定し,その結果,地方公共団体に財産上の不利益を 否であり,Bらの応訴活動により,その職務執行行為の正当性が認められ,そのための公金支出の正当性すなわち地方財務会計の管理運営に対する司法上の正当性が確定し,その結果,地方公共団体に財産上の不利益を与えなかったことが認められるという意味において,最終的な当該地方公共団体の利益が保全された。 別件住民訴訟のBらの応訴活動により,柏市職員(議員)の職務上適法な行為に対し,柏市住民が違法であるとの誤った認識を持つことを阻止して,市政に対する信頼を維持できたことは,柏市の事務事業が柏市職員を通じて行われる以上,柏市の事務事業の円滑な進行,ひいては,柏市住民全体の利益の早期実現に欠くことができないという視点からしても,本件補助は公益に合致する。 (ウ) 別件住民訴訟の中心的争点は,Bらの職務執行行為の当否であるが,これは「当該職員」の財務会計行為の原因行為の当否の判断と同一であり,Bらは,「当該職員」とともにその職務執行行為の適法性を確認させたといえるにもかかわらず,Bらは「当該職員」ではなく「相手方」であるため,旧法242条の2第8項の規定による弁護士報酬の公費負担は適用されず,最終的に自己負担を強いることは,公平の観点から,著しく妥当性を欠く。 (エ) Gは,別件住民訴訟で勝訴(「当該職員」に当たらないとして却下)した者であり,「当該職員」でないということのみにより別件住民訴訟の弁護士費用相当額について最終負担を余儀なくされるということは,公平性の観点から著しく妥当性を欠く。 (オ) 仮に,議員視察が公益上の必要性に基づくものであったにもかかわらず,住民訴訟が提起されたため最終的に弁護士費用の自己負担を余儀なくされたとすれば,柏市議会議員において,住民訴訟における弁護士費用の負担のリスクを冒してまで,議員視察への参加について積極的な決断は期待で 民訴訟が提起されたため最終的に弁護士費用の自己負担を余儀なくされたとすれば,柏市議会議員において,住民訴訟における弁護士費用の負担のリスクを冒してまで,議員視察への参加について積極的な決断は期待できず,適切な議員視察を円滑に実施していくためにも本件補助は必要であったといえ,公益上の必要性が認められる。 (カ) また,Gが弁護士費用相当額について最終的な自己負担まで余儀なくされたとすると,別件住民訴訟後の公益上必要な新たな議員視察について当該職員であると誤解されかねない柏市議会議長がその実施に関与することに関し消極的になってしまうという事態が生じることは予想に難くないのであり,このような事態になれば,公益性を有する合理的目的の範囲での議員視察の実施が困難となり,柏市の公益に反することは明白である。 (キ) 別件住民訴訟のように不適法であったり,理由のない訴訟提起に対して被告とされた者がその不当性を明らかにすることは,被告とされた者の私的利益を超えて,住民訴訟制度を適正に維持し,運営するために必要な活動であるといえ,別件住民訴訟における弁護士費用は,住民訴訟制度を維持し,運営するための経費,すなわち民主主義のコストとして,制度を享受する住民全体で負担することが適当であり,ここに補助を行う公益上の必要性が存する。 (ク) 旧法242条の2第1項4号は平成14年3月に改正されたが,これは,従来の4号訴訟において,当該職員のなした職務行為の当否そのものが事件の核心的争点でありながら,当該職員の個人責任を追及する在り方を問題にしたものであり,その意図するところは,別件住民訴訟のBらにもいえることであり,Bらの立場は当該職員と同様に理解されてしかるべきである。 (ケ) また,被告職員側への行政庁の訴訟参加の可否については見解が分かれていたが,当該職員 ころは,別件住民訴訟のBらにもいえることであり,Bらの立場は当該職員と同様に理解されてしかるべきである。 (ケ) また,被告職員側への行政庁の訴訟参加の可否については見解が分かれていたが,当該職員のなした職務行為の当否そのものが事件の核心的争点となっている場合には,被代位者たる地方公共団体が,原告たる住民とではなく被告職員と利害関係を等しくする場合の方がむしろ一般的であることから,被告職員側に補助参加をしている実情にあったといえ,このような実情が前記4号訴訟の改正の要因でもあった。 別件住民訴訟では,当該職員及びGの職務行為の正当性が核心的争点であり,Bらにおいてもその先行行為である海外研修視察の正当性が核心的争点であって,全く同一のものであったといえるのであるから,別異に解する余地はない。 (コ) しかも,本件補助金支給決定にあたっては市議会の議決を得ており,住民意思の合意がなされている。 (2) 本件補助金交付手続の適法性ア原告らの主張被告は,G及びBらが柏市補助金等交付規則2条1項に基づき同項1号ないし5号所定の必要書類を添付した補助金等交付申請書を提出するに際して,部下に命じて,その一切の書類を作成させ,日付けと住所氏名を記入して押印さえすれば補助金交付申請に必要な形式は全て整うところまで準備をする等の便宜を図ったうえで,補助金を交付しており,このような一連の行為は補助金交付の相手方が市議会議員であったが故に取り計らい行った便宜供与であり,憲法14条,15条,99条,国家公務員法96条,地方公務員法30条に違反して無効である。 イ被告の主張本件補助金交付に係る交付申請書及び実績報告書については,本件補助金交付が前例のないものであったことや申請内容(補助対象事業,補助金額等)が同一であったことなどの理由から,補助金交付 被告の主張本件補助金交付に係る交付申請書及び実績報告書については,本件補助金交付が前例のないものであったことや申請内容(補助対象事業,補助金額等)が同一であったことなどの理由から,補助金交付決定に係る審査を効率的に行うために,被告が様式及び記載例を作成し,それを申請者であるBらに示したにすぎないものである。 また,申請の内容,件数その他の事情により,様式及び記載例を作成し提示することは,市民からの申請においても通常行うことであり,本件補助金交付に限ったことではない。 したがって,本件補助金交付が憲法14条,15条,99条,国家公務員法96条,地方公務員法30条に違反して無効であるとの原告らの主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 旧法242条の2第8項が新設された経緯旧法242条の2第8項は,平成6年6月法律第48号による地方自治法の改正(以下「平成6年改正」という。)により新設された規定であるところ,証拠(甲12,13,乙5ないし14(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,その改正前後の経緯について,以下の事実が認められる。 ア 4号訴訟の被告の応訴費用につき,平成6年改正前の行政実例は,当該職員の応訴費用を公費で負担することはできないとする立場をとっていた(昭和42年11月21日自治行第102号・広島県総務部長宛・行政課長回答等)。 下級審裁判例には,町長を被告とする法242条の2第1項2号に基づく行政処分の取消請求と町長個人を被告とする旧法242条の2第1項4号に基づく不当利得返還請求の双方の応訴費用を報償金として町の予算から支出した場合について,町長個人の応訴費用を町が支出することは違法であるとして,町長個人に対する不当利得返還請求を一部認容したもの(名古屋高裁金沢支部昭和44年1 の応訴費用を報償金として町の予算から支出した場合について,町長個人の応訴費用を町が支出することは違法であるとして,町長個人に対する不当利得返還請求を一部認容したもの(名古屋高裁金沢支部昭和44年12月22日判決・行裁集20巻12号1740頁)があった。 また,学説上は,4号訴訟の応訴費用を地方公共団体が負担することは許されないとする説,被告が訴訟で勝訴した場合ないし正当な職務執行の範囲内と認められる場合には公費負担が許されるとする説,訴訟の主要な争点が職務執行行為の当否であり,同訴訟で被告勝訴の判決が確定した場合には,補助金支出の手続を適法に履践すれば,応訴費用を法232条の2に基づく補助金として支出することが許されるとする説等,見解が分かれていた。 イ一方,地方公共団体においては,4号訴訟の被告となった当該職員の応訴費用を当該職員の個人負担とする取り扱いは,地方公共団体の職員を萎縮させ,職務遂行の意欲,能率性を阻害する等として,応訴費用の公費負担ができるよう法改正を望むところが従前から多く,4号訴訟の件数の増加に伴い,全国市長会,全国町村会から旧自治省に対し,法改正の要望が引き続いて出されるようになった。 平成6年6月,このような要望等を踏まえ,内閣提出の地方自治法の一部を改正する法律案において,旧法242条の2第8項の規定の新設が提案され,第129回国会において平成6年改正がなされ,同規定が新設された。 ウなお,第129回国会参議院地方行政委員会では,職員が勝訴した場合に限定せず,職員の故意又は重過失でない場合等にも旧法242条の2第8項の規定による応訴費用の公費負担を認めるべきではないかとの質問に対し,政府委員である自治省行政局長は,同規定は,最も職員の意欲を阻害するのではないかと考えられるケースについて手当てをしたものであ 項の規定による応訴費用の公費負担を認めるべきではないかとの質問に対し,政府委員である自治省行政局長は,同規定は,最も職員の意欲を阻害するのではないかと考えられるケースについて手当てをしたものであり,それ以外の,外形上機関としての職務行為とみなし得る場合等にまで応訴費用の公費負担を拡大するかについては,今後の住民訴訟全体の見直しの中で幅広く検討されるものと考える旨答弁している。 また,平成6年改正に関する元自治省職員による解説書(乙5)では,参政権の一種という住民訴訟の位置付け等からすれば,4号訴訟の発生に伴う応訴費用は民主主義のコストであると考えられるから,特定の職員個人に負わせるのではなく,地方公共団体が負うべきものであり,旧法242条の2第8項の規定は,このような費用を地方公共団体において負担することには公益上の必要性があり,勝訴した当該職員に補助することができる(法232条の2)ことを確認的に規定したものであると説明した上,あらゆる場合,費用について地方公共団体がこれを補助することは法232条の2の趣旨にかなうものではないことから,旧法242条の2第8項の規定は一定の要件を設け,確実に合法となる手続を法定化したものであり,同要件を満たさない場合に補助が可能かどうかは,個々の事例について公益性の判断をすることとなる等と説明している。また,同解説書中の4号訴訟の訴訟費用,弁護士費用の負担に関する説明図では,当該職員だけでなく相手方として被告となった者に対しても,法232条の2の規定により応訴費用を補助できる場合があるものとされている。 エその後の平成14年法律第4号による地方自治法の改正(以下「平成14年改正」という。)により,法242条の2第1項4号の訴訟類型が再構成された結果,当該職員個人又は当該行為若しくは怠る事実に係る相 その後の平成14年法律第4号による地方自治法の改正(以下「平成14年改正」という。)により,法242条の2第1項4号の訴訟類型が再構成された結果,当該職員個人又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が,第一次的に住民訴訟の被告とされる事態は生じなくなり,その応訴費用の負担の問題も解消された。 (2) 旧法242条の2第8項の規定と法232条の2の規定との関係原告らは,旧法242条の2第8項の規定は,4号訴訟の被告の応訴費用を地方公共団体が負担することができる場合を限定的に定めたものであり,同項所定の場合以外は地方公共団体が4号訴訟の被告の応訴費用を負担することを禁じたものであるから,地方公共団体が,当該職員ではなく当該行為若しくは怠る事実の相手方として4号訴訟の被告とされた者の応訴費用を,法232条の2の補助金の支給により負担することは,旧法242条の2第8項により許されないと主張する。 しかしながら,前記(1)のとおりの地方自治法の改正の経緯経過(とりわけ,第129回国会参議院地方行政委員会における前記(1)ウのとおりの政府委員の答弁内容,平成14年改正によって,4号訴訟において当該職員及び当該行為若しくは怠る事実の相手方が第一次的に住民訴訟の被告とされることはなくなったこと,その結果,4号訴訟において,これらの者が地方公共団体の機関よりも先に財務会計行為の適法性を主張立証しなければならず,その応訴費用を個人負担しなければならないという問題は,立法的に解消されたこと等)に鑑みれば,旧法242条の2第8項は,4号訴訟のうち,当該職員とされた個人が勝訴した場合をもって,地方公共団体の職員の職務遂行意欲の阻害防止という観点から最も応訴費用の公費負担の必要性が高く,かつ,応訴費用を公費で負担することが公益に適うことが定型的に明らかな場 た個人が勝訴した場合をもって,地方公共団体の職員の職務遂行意欲の阻害防止という観点から最も応訴費用の公費負担の必要性が高く,かつ,応訴費用を公費で負担することが公益に適うことが定型的に明らかな場合であると捉え,その応訴費用を地方公共団体が一定の範囲で負担することができることを規定したものであって,同項所定の要件を満たさない4号訴訟の被告の応訴費用について,地方公共団体が,個別事情に応じて,法232条の2に基づき補助金としてこれを負担することを排除する趣旨のものとは解されず,原告ら主張の前記解釈は,これを採用しない。 (3) 本件補助金支給決定の経緯等前記第2の1の事実,証拠(甲3ないし5,7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,同認定を左右する証拠はない。 ア別件住民訴訟の原告らは,別件住民訴訟において,Gは市議会議長として本件視察旅行の諸経費を予算化し,本件視察旅行の当番市が提案した実施要領を承認・決定し,その旨を市議会の常任委員会等に報告して承認を得,本件視察旅行の諸経費を負担金として送金させる等,本件視察の実施や諸経費の支出事務に大きな役割を果たしたから,旧法242条の2第1項4号前段にいう当該職員に当たると主張したが,別件住民訴訟の判決では,Gは,旧法242条の2第1項4号前段にいう当該職員に該当せず,同人に対する訴えは住民訴訟の類型に該当しない不適法な訴えであるとして,却下された。 また,別件住民訴訟の原告らは,Bらに対する不当利得返還請求及び柏市議会事務局職員に対する損害賠償請求については,本件視察旅行は公式行事が全体の3割未満であるのに対し観光が7割以上を占め,全体としてみれば実質的に慰安・観光旅行であるから,このような本件視察旅行に負担金及び旅費を支出することは違法であり,その支出手続にも違法な点があ 全体の3割未満であるのに対し観光が7割以上を占め,全体としてみれば実質的に慰安・観光旅行であるから,このような本件視察旅行に負担金及び旅費を支出することは違法であり,その支出手続にも違法な点がある等と主張したが,別件住民訴訟の判決は,普通地方公共団体の議会は,その議決機関としての機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し,合理的な必要性があるときはその裁量により議員を海外に派遣することができるところ,本件視察旅行は,福祉行政及び環境行政に関する先進的施策又は施設を研修視察することを一応の目的としており,一概にその目的が不合理,不必要であるとはいえず,本件視察旅行の内容も,観光地と目される場所をも視察する等,実質的には遊興目的であるとの疑念を生じさせかねない等の点で,相当性に欠ける側面があったことは否定できないものの,全体として合理的必要性がないとまではいい切れず,柏市議会に裁量の濫用又は逸脱があったとまではいえないとし,また,Bら及び同市議会事務職員の参加負担金及び旅費の支出手続にも違法性はないとして,同請求を棄却した。 イ柏市議会は,別件住民訴訟が提起された平成10年以降は,六市協議会が主催する市議会議員の海外研修視察旅行に柏市議会の議員を派遣していない。 ウ被告は,平成13年6月に行われた柏市議会第2回定例会において,住民訴訟の被告とされた当該職員個人が勝訴した事案における弁護士報酬の負担に関する議案3件とともに,G及びBらの別件住民訴訟による弁護士報酬についての補助金支給の議案を提出した。 被告,柏市財政部長及び柏市総務部長は,同定例会本会議の一般質問及び議案質疑に対する答弁において,G及びBらに対する弁護士報酬の補助に公益上の必要があるとする根拠として,①別件住民訴訟において被告ら側の勝訴判決が確定したことによ 長は,同定例会本会議の一般質問及び議案質疑に対する答弁において,G及びBらに対する弁護士報酬の補助に公益上の必要があるとする根拠として,①別件住民訴訟において被告ら側の勝訴判決が確定したことにより,本件視察旅行が公務であり,その費用を公費で支弁したことの適法性が認められたこと,従って,別件訴訟の被告らが専門家である弁護士を委任し,柏市の事業として行われた本件視察旅行への参加が公務であり,その費用の支弁が適法なものであることを主張立証したことには公益性があると考えられること,②他の住民訴訟において勝訴した当該職員個人に対し弁護士費用を公費負担することとの公平性及び均衡性,③政府の審議会で検討中の地方自治法の改正案(平成14年改正案)においては,4号訴訟についても,当初から個人を被告とする住民訴訟を提起することはできなくなり,地方公共団体が全面的に住民訴訟に対応するものとされていること等を挙げた。 エ G及びBらに対する補助金支給の議案については,前記定例会本会議において,別件住民訴訟の判決で本件視察旅行の内容に相当性に欠ける側面があった旨の判示がされたこと等を理由に,G及びBらに対し弁護士費用を補助することに公益上の必要がない旨の指摘をする議員,G及びBらからの補助金支給申請の前に被告において補助金支給の議案を作成したことについての疑問を提起する議員もあったが,同議案は,その後,市議会総務委員会において原案どおり可決すべきものとされ,本会議において原案どおり可決された。 (4) 本件補助金支給の公益上の必要の有無についてア法232条の2にいう公益上の必要性は,本来,地方公共団体の議会や長が政策的に決定することであり,実質的にも,地方公共団体は,地方自治の本旨に基づき,住民の福祉の増進を図り,地域における行政を自主的かつ総合的に実施する 公益上の必要性は,本来,地方公共団体の議会や長が政策的に決定することであり,実質的にも,地方公共団体は,地方自治の本旨に基づき,住民の福祉の増進を図り,地域における行政を自主的かつ総合的に実施する(法1条の2第1項)ため,地域住民の行政に対する様々な政策要求に対し,その優先関係を政治的に決定して行政目的を達成すべき役割を担っているのであるから,公益上の必要性の有無の判断は,第一次的には,これをよく判断し得る当該地方公共団体の議会及び長の裁量に委ねられていると解すべきである。したがって,補助金の支給は,当該地方公共団体の議会又は長の公益上の必要性があるとの判断に裁量権の逸脱又は濫用があると認められる場合に,法232条の2に違反し違法となるものと解すべきであり,裁量権の逸脱又は濫用の有無は,当該補助金の支給の趣旨目的,補助金の支給の対象となった行為,活動の性質など諸般の事情を考慮し,また,他の諸規範との総合的な評価をして決するのが相当というべきである。 イ前記(3)で認定した事実によれば,本件補助金支給決定は,①別件住民訴訟におけるG及びBらの応訴活動により,Bらの本件視察旅行への参加が公務であり,その参加負担金及び旅費を柏市が支出したことが適法であったことが認められたこと,②4号訴訟についても,まず,地方公共団体を被告とすべきものとし,住民が直接,個人を被告とする訴えの類型をなくす平成14年改正の改正案が政府において検討されている状況下において,旧法242条の2第1項4号前段の「当該職員」として訴えられたが「当該職員」ではないとして却下判決を受けたG,及び,旧法242条の2第1項4号後段の「相手方」として訴えられて棄却判決を受けたBらの弁護士報酬を個人負担とし,公費から支弁しないとすることは,住民訴訟で勝訴判決を受けた当該職員個人の弁 けたG,及び,旧法242条の2第1項4号後段の「相手方」として訴えられて棄却判決を受けたBらの弁護士報酬を個人負担とし,公費から支弁しないとすることは,住民訴訟で勝訴判決を受けた当該職員個人の弁護士報酬を旧法242条の2第8項により公費で支弁することとの公平,均衡を欠くことを理由とするものであることが認められる。 そして,前記(1)のとおりの平成6年改正の経緯,平成6年改正に関する元自治省職員による解説における旧242条の2第8項の立法趣旨等の説明に加え,本件補助金支給決定がされた平成13年7月9日当時には既に,4号訴訟の類型を,住民が当該職員個人又は相手方を直接訴える形態から,第一次的には住民が当該地方公共団体の執行機関又は当該職員を訴える形態に構成し直すこと等を内容とする平成14年改正の改正案が,政府において検討されていたこと等に鑑みると,別件住民訴訟で相手方として訴えられ勝訴したBら及び当該職員でないのに誤って当該職員として訴えられたGの弁護士報酬の負担について,当該職員個人として訴えられて勝訴した者の弁護士報酬が公費負担されることとの均衡を図るべきであるという被告の考え自体は,あながち不合理なものともいえない。 ウしかしながら,他方で,法232条の2の公益上の必要があるというためには,当該補助又はその補助の対象となる活動が何らかの形で住民全体の福祉に寄与貢献するといえる場合でなければならないと解されるところ,本件補助金の支給の対象となったG及びBらの行為は,別件住民訴訟における応訴活動であり,前記第2の1の事実,前記(1)で認定した事実及び証拠(甲3,7)によれば,別件住民訴訟の主要な争点は,本件視察旅行に関する公金支出すなわちBらの参加負担金及び旅費の支出の適法性,具体的には,本件視察旅行が,実質的に慰安・観光旅行であ た事実及び証拠(甲3,7)によれば,別件住民訴訟の主要な争点は,本件視察旅行に関する公金支出すなわちBらの参加負担金及び旅費の支出の適法性,具体的には,本件視察旅行が,実質的に慰安・観光旅行であって目的及び内容において合理性を欠くものかどうかという点であったこと,本件視察旅行は,柏市において検討されていた特定の政策等について議員の知識を補充するため等の具体的な必要に基づくものではなく,諸外国の歴史,文化,市民生活等を見聞し,幅広い見識と国際的な視野を養うという一般的な目的のために行われたものであって,これに参加した議員の見識が高められ,ひいては立法政策に反映され,住民全体に還元されるという効果は期待できるにせよ,その市政への影響,住民全体の福祉に対する寄与貢献の度合いは,間接的,抽象的なものにとどまること,一方,本件視察旅行に参加した議員個々人は,公務としてこれに参加したものではあるが,同時に,本件視察旅行に参加したことによる反射的利益として,国際的な視野を養う経験をする等,個人的にも利益を享受していること,本件視察旅行に議員を派遣するかどうかの判断は,市議会の自律的判断に基づくものであり,また,本件視察旅行への派遣が決定された議員の中にも参加を辞退した者がある等,本件視察旅行への参加は,最終的には派遣が決定された議員個々人の自由意思に委ねられていたこと,柏市の市議会は,別件住民訴訟の提訴以降,六市協議会が主催する市議会議員の海外視察旅行に議員を派遣することを取りやめており,市がG及びBらに対し別件住民訴訟の弁護士費用を補助金を支給するか否かにより,議員を海外視察旅行に派遣するかどうかについてのその後の市議会の判断に萎縮的な効果が及ぶ等のおそれはなかったことが認められる。 以上のとおり,別件住民訴訟におけるBらの応訴活動は,結果的に により,議員を海外視察旅行に派遣するかどうかについてのその後の市議会の判断に萎縮的な効果が及ぶ等のおそれはなかったことが認められる。 以上のとおり,別件住民訴訟におけるBらの応訴活動は,結果的には,本件視察旅行の参加負担金及び旅費の支出という財務会計行為の適法性を明らかにすることに寄与したものの,そもそも本件視察旅行の住民全体の福祉の増進に対する寄与貢献は間接的,抽象的であり,したがって,Bらによる別件住民訴訟の応訴活動の住民全体の福祉の増進に対する寄与貢献の度合いは,これにもまして間接的,抽象的なものといわざるを得ず,むしろ,Bらの応訴活動による直接的な効果は,同人らが市に対し不当利得返還債務を負っていないことが判決により認められたことにあり,また,Gの応訴活動の直接的な効果も,自らが当該職員に当たらないことを明らかにしたことにあることに鑑みれば,本件補助金の支給については,これを行うべき公益上の必要性があったとは認め難い。 なお,被告は,本件補助金の支給につき公益上の必要があることの根拠として,Bらの応訴活動により,本件視察旅行の参加負担金及び旅費の支出という財務会計行為の適法性が明らかになり,ひいては,Bらの本件視察旅行への参加という適法な職務執行行為について,住民が違法なものという誤った認識を持つことを阻止し,市政に対する信頼を維持できたことを挙げるが,このような効果が住民全体の福祉の増進にとって間接的抽象的なものにすぎないことは前記判示のとおりであって,被告の前記主張は,前記判断を左右するに足りない。 また,被告は,4号訴訟の被告とされ勝訴した当該職員個人の弁護士費用を公費で負担することとの公平,均衡をも,公益上の必要があることの根拠に挙げるところ,前記イのとおり,平成6年以降の地方自治法の改正経過に照らすと,被告がそ 告とされ勝訴した当該職員個人の弁護士費用を公費で負担することとの公平,均衡をも,公益上の必要があることの根拠に挙げるところ,前記イのとおり,平成6年以降の地方自治法の改正経過に照らすと,被告がそのような較量をしたこと自体はあながち不合理とはいえないが,平成6年改正後,平成14年改正前の状況下においては,4号訴訟の当該職員として訴えられ勝訴した者の弁護士費用を旧法242条の2第8項により公費で負担することと,4号訴訟の相手方として訴えられ勝訴した者の弁護士費用の負担との均衡の問題は,それだけで,後者の弁護士費用を補助すべき公益上の必要性があると一般的にいえるほどのものではなく,当該住民訴訟の事案の内容,争点,旧法242条の2第1項4号後段の相手方として被告となった者の応訴活動,判決の結論及び理由等の個別事情と併せて,公益上の必要性の有無を判断する一要素にとどまるものというべきである。 そして,前記のとおりの別件住民訴訟の事案の内容,争点,G及びBらの応訴活動,別件住民訴訟の判決の結論及び理由を勘案すると,被告主張の弁護士費用の負担の公平,均衡の問題を考慮に入れても,本件補助金の支給に公益上の必要性があるとは認められず,本件補助金を支給すべきものとした被告の判断及びこれを承認した柏市の市議会の判断には,裁量の逸脱があったものといわざるを得ない。 第4 結論以上によれば,その余の主張について判断するまでもなく,原告らの本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言については,相当でないから付さないこととする。 千葉地方裁判所民事第3部裁判長裁判官山口博裁判官武田美和子裁判官島根里織 千葉地方裁判所民事第3部裁判長裁判官山口博裁判官武田美和子裁判官島根里織
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